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星船に蠢く影

#スペースシップワールド

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#スペースシップワールド


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 冷たく無機質な金属の壁が連なる、迷宮めいた人気のない街路。照度を落とした街灯の落とす微かな光と静寂を掻き乱すように連続した音が響き渡った。人の足音、それも全力で走る人のそれだ。
「はあ、はあ」
 音の主は二十歳ほどと見える一人の娘。時折背後を振り返りつつ蒼白な顔で駆け続けながら、娘は胸の辺りに手をやると自らを励ますように呟いた。
「そう、なんとかこの、情報を、猟兵さんのどなたか、に……」
 掠れた声が消えたあたりで目の前に出現した十字路にわずかに躊躇してから、娘は右の通路を選んで再び足を速めた。が。
「ひっ!」
 すぐ前の通りの角から出現した異形の姿を見て娘は息を呑んだ。己の身長を超える大きさの、どこか骸骨めいた印象の全身甲冑。全てが金属でできたそれの眼にあたる部分が、ギョロリと動いて彼女を見た。
「まず……」
 慌てて引き返そうとするが、振り返ったその先、十字路の向こう側からも幾つもの足音が響きわたり。
「きゃあっっ!」
 甲高い悲鳴が通路の静寂を裂いて響き渡り、唐突に消えた。

「……そんな光景が『視え』ました。高い確率で『帝国』のエージェントに捕らえられたものと思われます」
 現場の状況らしき金属通路が映し出されたスクリーンを背景にして、生真面目な顔で説明を続けていた小柄な少女は、新たに部屋に入ってきた者たちの姿を見て、ふと表情を和らげた。
「新顔さんですね、初めまして。私はセリィ・ポウ(ダンピールのサイキッカー・f03323)、見ての通りグリモア猟兵をやっております」
 軽く一礼すると、少女は奇妙な文様の形をとったエネルギーの塊を掌の上に呼び出し、躍らせてみせた。
「猟兵たる皆様に今回、お願いするのは協力者の救出です。赴いていただくのはいわゆるスペースシップワールド、星々の間を無数の星船が行き交う世界になります」
 人々が幾つもの巨大な宇宙船の中で暮らすその世界は、猟兵の宿敵・オブリビオンで構成された『銀河帝国』の脅威に晒されている。様々な手段で人類殲滅を狙うその組織が、とある宇宙船の中で陰謀を計画していることが判明したのだという。
「この世界は私たち猟兵に対して好意的です。実際に猟兵の存在を知る者のなかには、銀河帝国と闘うために自らに望んで協力者として活動する者も多いのですが、その一人が帝国の動向の調査中に敵の手に落ちてしまいました。皆様には彼女の救出と、それに続いて敵の計画の解明と阻止、殲滅までを合わせてお願いします」
 グリモア猟兵が持つ予知の力を使ってセリィが得た情報によると、敵は宇宙船の中の廃棄地区に身を潜めているらしい。かつて警察的な役割をしていた建物が現在の根城だ。問題は……。
「中の様子が今ひとつわからないことです。牢屋だった場所に監禁していることはほぼ間違いないと思いますが、警備状況の詳細はわかりませんでした」
 少女はわずかに顔を曇らせ、建物の内部構造をスクリーンに映しだした。入り口は表と裏があるが、地下の牢屋に至る階段は一つ。外から見える範囲では人間型の敵が4人以上、装甲兵かロボットか確実に戦闘力の高いであろう敵が1体確認できたという。他に隠れた戦力がいる可能性もある。救出するとなれば、それらの敵の目をかわすか叩き潰すかしなければならないが、甲冑型の敵は帝国の戦闘兵器と推測され、一般的な猟兵1人だと短時間で打ち破るのはかなり難しい。
「手段は皆様にお任せします。ただし彼女の命が最優先です。わざわざ生かして捕らえた以上は簡単に殺すとは思いませんが、無策の力押しで時間がかかってしまうとどうなるか分かりません。その点はくれぐれもご注意ください。なお残念ながら……」
 現地は猟兵に好意的とはいえ、すでに長年にわたる帝国との攻防により疲弊が激しい。猟兵が来るとなればむしろ全面的に頼りたいというのが本音だ。情報はともかく戦力面の助力は難しいだろう。
「つまり私たちがやるしかない、ということです。現地までの送迎は私が責任を持って行いますので、皆様は救出活動に全力を注いでください」
 少女は再び生真面目な表情に戻り、そして猟兵たちに向かって再び頭を下げた。
「どうか、ご武運を!」


九連夜
 初めましてもしくはこんにちは、九連夜と申します。これからしばしの間、様々な世界での冒険物語を皆様と共有していきたいと思います。初めての方もそうではない方も、どうかよろしくお願いします。
 猟兵の皆様にお願いするのは協力者の娘さんの救出活動、彼女の救出に成功すれば物語はさらに進んでいくことでしょう。一気に押しまくるもよし、慎重に情報を集めるもよし、計略謀略、あるいはその他奇想天外な手段でも何でもありで、考えつくあらゆる手段を駆使してこの状況を打破してください。
 それではご武運を!
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第1章 冒険 『協力員を救出せよ』

POW   :    正面から監禁場所を襲撃する

SPD   :    監禁場所に忍び込む

WIZ   :    場所の情報を得る、見張りを陽動で追い払う

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

デナイル・ヒステリカル
正直なところ腕っぷしには自信が無いんだ。
でも辛い目にあっているかもしれない人を見過ごすことは出来ない。そういうプロトコルが働いているから。

だから僕は僕に出来ることをしようと思うよ。

電脳ゴーグルを使って電脳世界を展開、建物内の情報を逐次処理して敵の潜んでいそうな場所に当りを付けられるはずだ。
それにエレクトロレギオンを囮にして見張りを誘導し時間稼ぎを。

もしそれでも手が足りないのなら……本当なら他の人に任せるべきなのだろうけど……迷彩処理を施して潜入すれば、突入時の安全性に一役買えると思うよ。

はず、や、思う、ばかりで申し訳無いな……。もしこの作戦が成功したら軍事ドクトリンを学ぼう……。


ルージュ・フェリスティ
まぁ、今月分の水道代の為だ。仕方ねぇ...。じゃあ、【WIZ】俺は見張りを誘導するぜ。ユーベルコードの「ブレイズフレイム」を使う。痛いのは苦手なんだけどな、手を少し切りそこから噴射される炎を届く範囲でありそうな物(明かりの灯っていない蝋燭、紙、見張りの服とかにな)そうして誘き寄せた見張りを炎で焦がす。...まぁ、俺と相手が死なない程度に?【SPD】【POW】で動く奴らには精々邪魔にならねぇように援護しねぇとな....?あと他にも【WIZ】がいれば全面協力しますぜ。俺の分も.....さぁ、早いところお嬢さんを見つけて皆でお家に帰りましょーう!!



巨大宇宙船の生活区画の外れ、廃棄地区のその片隅。
 ただ壊れず残っているだけという薄暗い照明の影の中、ルージュ・フェリスティ(ダンピールのブレイズキャリバー・f03096)は少し離れた建物の影から、目標の様子を窺っていた。
「まぁ、今月分の水道代の為だ。仕方ねぇ……」
 事実かあるいは一種の照れ隠しか、黒い長髪をがりがりと掻きつつ観察するその視線の先には、どこか髑髏めいた顔立ちに銃を構えた人型兵士。帝国製のドロイドだ。時折機械的に周囲を見回すその視線が自分の方に向きかかったのを見て、ルージュは素早く己の頭を引っ込めた。
「まずはあれをなんとかしないとな。おっ」
 呟き、何の気無しに顔を向けた先に別の人影が映った。彼と同様に建物の影に身を潜めてドロイドの守る入り口の様子を窺うその青年の姿は、人型でありながらどこか非現実的な雰囲気を醸し出していた。
「バーチャルキャラクターかよ。お仲間かい」
 口の中で呟くと、ルージュはドロイドの様子に気をつけながら懐から取り出したナイフで左の手の平を軽く切った。そこから一瞬、揺らめく炎が吹き出し、すぐに消える。
「ん?」
 デナイル・ヒステリカル(架空存在の電脳魔術士・f03357)は視界の端に妙な光が揺らめいたのに気づいて、電脳ゴーグルをかけ直しながら振り向いた。目的の建物を頂点として、ちょうど彼の位置とは二等辺三角形の底辺にあたる位置。そこにいた男が、まだ炎の残滓が残る左手を大きく振って合図をしてきた。
「おや、ご同業かな? ここは共同戦線が正解だろうね」
 正直なところ腕っぷしには自信が無いし、と溜息をつきつつ軽く右手を虚空のキーボード上に走らせると、足下にホログラムのように膝丈ほどの小型ロボットの姿が浮かび上がり、次いで急速に実体化した。
(「まず僕がこいつらを突撃させるから」)
 デナイルは呼び出した機械人形――エレクトロレギオンたちを指し、次いでドロイドの方を指して手真似でそう告げた。
(「了解。引きつけたら次は俺が注意を惹いておびき寄せる」)
 左手と自分自身を指す手真似でルージュが応える。目的は見張りの陽動、無理はしない。互いの表情からそれを読み取って二人は同時に頷き合った。ルージュが片手を広げた。カウントダウンだ。
 5。
(「見つかったら僕も危ないかな。でも辛い目にあっているかもしれない人を見過ごすことは出来ない」)
 内心で溜息をつき、デナイルは顔を上げた。
 4。
(「誘導が目的だし、まぁ、俺とドロイドと、あとはあいつが死なない程度だな」)
 ルージュは足音を忍ばせて移動を開始した。
 3。
 デナイルの前の虚空に再びキーボードが浮かび上がる。
 2、1。
 その足下でレギオンが整列し。
 シャン、と。
 デナイルが両手で叩いたキーボードがピアノの音階を一気に駆け上がるような音を発し、その響きを背後にレギオンが一斉に走り出した。角を曲がり、見張りのドロイドへと殺到する。
「ギ!」
 奇妙な声を立てたドロイドは銃を構え発射。1体のレギオンが直撃を受け消し飛ばされるが、あとは回避しドロイドに向かって直接攻撃を開始する。
「ギ、ギギ!」
 ドロイドは銃を棍棒のように振り回しつつ、警告音のような奇怪な音を発した。わずかな間を置き、扉が開いて中から2体の同型のドロイドが現れる。
「ギシャ、ギ!」
 1体は元の1体に助力してレギオンの撃退。そしてもう1体は、レギオンが現れた通路に向かって走り、角を曲がって……。
「こっちだよ」
 無愛想な声と共に炎が弾けた。通りを右に曲がろうとしたドロイドの背後からそれは襲いかかり、人への擬態のためか身につけていた制服の襟首を燃え上がらせた。
「ギシャ、シャシャ!!!!」
 慌てて服を脱ぎ捨てようとするところにさらに炎が間欠的に吹き付ける。威力よりも攪乱を目的として繰り返されるルージュの攻撃は、ドロイドが態勢を立て直す余裕を完全に奪っていた。悶える仲間の様子を見て、残る2体が慌てて救援に駆けつけるが。
「ギギガッ?!」
 通りを左に曲がってルージュのほうに向かおうとした瞬間、背後から新手のレギオンの体当たりを受けて2体は同時に足を取られた。さらに追いついてきた先鋒のレギオンたちがそこにのし掛かり、その場は3体のドロイドがのたうち回る修羅場と化した。
「真似事だったけど、うまくいったみたいだ」
 電脳ゴーグルを外し、リアルの敵の混乱ぶりを観察しながらデナイルは少し満足げに呟いた。もしこの作戦が成功したら軍事ドクトリンを学ぼうと、そんなことを考えていた彼だったが、どうやら現在の知識でも何とか己の役目は果たせたようだった。
「まぁ、しっかりやってくれや」
 さらに移動と炎の発射を繰り返しつつ、ルージュはふと足を止めて振り向き、誰もいない空間に向かって声をかけた。幾つかの影が通りの端から現れ、目的地に向かって走り込んだのを目撃したのだった。
「ここは俺たちが……」
「片付けておくからね!」
 ルージュとデナイル、救出に向かう仲間たちに二人がそれぞれに告げる言葉と共に、無機質な建物の合間に、再び炎と電子の光が躍った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴォルフ・クライト
周囲に十分に気をつけながら、気配を消して監禁場所へ接近して忍び込む。
忍び込む時も、周囲に警戒をとりながら戦闘を避けられない場合以外は敵との接触を避けて行動する。
協力員の状態を確認し、歩けるようなら協力員を守りつつ、一刻も早くに現場から脱出するべく行動する。
その際には常に周囲に警戒をとり、敵の接近には警戒する。
協力員の安全と脱出を第一に考えて動き、協力員の状態次第では無理をせずに脱出を優先する。

戦闘となった場合は、敵を早期に倒すことを最優先に考えて動く。
戦闘後は騒ぎになる前に現場より撤収する。


織譜・奏
へぇ、宇宙船の中にこんな場所があるんだね。
いや、観光してる場合じゃないか。やることはしっかりこなさないと。

レプリカクラフトを駆使して敵を罠にひっかけながら、監禁場所に忍び込むよ。
音を出されても困るから、睡眠ガスや痺れ罠で動きを止めて安全確保。鍵を頂いて監禁場所へ行こう。
もし他の猟兵が先に解放してくれていたら、私は女性の護衛にまわろうか。

ーーーキミのことは私が守る。安心して。


霧城・ちさ
そうですわね、まず入口の位置と正確な護衛の数は把握したいですの。身を潜めて中の様子が少しでもわかるといいですわねっ。
潜んで情報が得られなければあとは行動あるのみですわっ
人間型の隙をついて賢者の影を使い牢の場所と護衛の数、鍵の在り処を聞き出したいですわっ
甲冑型の敵は出来る限り距離を離して誘導していきますの。他の猟兵さまが仕掛けるようならタイミングを合わせて反撃に移りますわね。勝てないようなら救出まで時間稼ぎますの



出入り口付近を警戒中の人型ドロイドは表に1体、裏に1体。時折外部に出ていく個体がおり、微妙な差のあるそれらを観察する限り、常に中にいるのはおそらく3体。予知情報にあった甲冑型は姿を見せていない、1体あるいは2体ぐらい?
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)は目的地に到着するなり早速偵察を開始し、正面出口と裏口の様子を観察してそんな結論を出した。
「問題はどうやって忍び込むかですわね」
 扉に鍵がかかっているかどうかはわからない。うまく敵の出入りの隙をつくか、あるいは他の潜入手段は探すか。建物の様子を窺いながらそんなことを考えていると、正面玄関で戦闘が始まった。警備についていたドロイドが持ち場を離れて慌ただしく外に出て行く。
「陽動、ありがたく利用させていただきますわ」
 届きはせぬと知りつつも、にっこり笑って仲間に感謝の眼差しを送ると、ちさは物陰から躍り出て素早く開いたままの入り口に滑り込んだ。
「さて、と」
 目の前に現れたのは開かれた警察組織によくある正面受付、奥が事務所、左右に廊下が延びている。どこから探したものかと考えているうちに、背中に何かが軽くぶつかった。
「ありゃ、失礼」
 ちさに続いて入り口から突入した織譜・奏(冥界下り・f03769)は、軽い動作で飛び離れるとどこか歌うような口調で軽く詫びた。
「気になさらないでくださいませ。猟兵――シンフォニアの方、でしょうか?」
「もちろん! そちらはエルフ、だよね」
 奏は興味深げにちさの尖った耳を見ながら答え、次いで周囲をぐるりと見回した。
「しかし、宇宙船の中にこんな場所があるんだね。ホントの街みたい……あ、いや、観光してる場合じゃないか。やることはしっかりこなさないと」
 あくまでマイペースで奏がそんなことを口にしたとき。
「俺も手伝いましょうか」
 カタン、と何かの音が天井近くで響き、さらに何かが床に降り立つ音が響いた。2人が同時に振り向くと、長身の男が緑の瞳で彼女らを見つめていた。問いかけられるよりも早く男は名乗った。
「ヴォルフ・クライト(闇狼・f03355)です。人狼ですよ」
「換気口から? よく忍び込めたね」
「慣れてますからね」
 真意の読めない曖昧な微笑を奏に返すと、ヴォルフは表情を改めた。
「時間に余裕はないでしょう。手分けをして探しませんか?」
「承りましてよ。では私は囚われた娘さんの居場所の確認を」
「牢屋ならきっと鍵がかかっているよね、鍵は私が探すよ」
「それなら俺は敵をの様子を探りましょう。ただし……」
 あくまで第一目標がそれだというだけ、あくまで臨機応変で。一通り探索を終えるか助けが必要になった場合はの集合場所はここ。そう告げたヴォルフにちさも奏もうなずき返し、簡単にこれまでの調査結果を共有すると、3人は一斉に散った。

■ヴォルフの場合
「さて、ああは言ったものの」
 仲間たちから分かれて歩きながら、ヴォルフはわずかに考え込んだ。
 敵の大雑把な配置についてはちさが把握済みだ。自身でも潜入中に若干の情報は得ている。その上でこの場この状況で仲間のために自分が為すべきことは何か?
「……脱出路の確保でしょうか」
 表玄関は別の猟兵たちが戦闘中という話だ。3体の敵がおりかつ陽動が目的のために長引くかも知れず、その真ん中を突っ切るのは危険が伴う。協力員を連れた状態では自分のように換気口を使うわけにもいかない。そう考えたヴォルフが向かったのは裏口だった。
「いますね」
 再び換気通路に身を潜め、ヴォルフは建物裏手の業務用の出入り口を観察した。人型ドロイドが1体、銃らしきものを手に警戒を続けている。ここでやっておくか、とヴォルフの眼が危険な色に染まりかけ、ややあって収まった。
(「時間がかかりすぎてもまずいですしね。敵が警戒しているのはあくまで外からの侵入、協力者を連れた場合でも一瞬で背後から襲えば、混乱している間に余裕で抜けられるでしょう。いざとなれば俺が追撃を防げばいい」)
 避けられる危険は避けるに越したことはない。「勝てる方法」のみを算段し、ヴォルフは再び換気通路の中を進み始めた。

■奏の場合
 コンコン。扉をノックする音が響いた。
「ギ?」
 その部屋の中にいた人型ドロイドが振り向いた。警戒しながら扉に近づき、自動ドアを開けて一歩踏み出し――。
「やあ」
 呑気に手を挙げた奏の顔を目撃して、慌てたように銃を構えかけて、その瞬間に硬直した。全身を強烈な電流が走り抜けたのだ。
「見事に引っかかったね。ま、しばらくそこで痺れててもらえるかな」
 ユーベルコードの罠の直撃を受けて身動きも出来ぬドロイドの肩をポンと叩いて横を擦り抜け、奏は部屋に入り込むと早速あたりを物色し始め。
「やっぱりあった!」
 歓声と共に高々と上げたのは、古い鍵の形をした電子機器だ。鍵があるなら敵が守っているはず。逆に言えば敵がいる場所には鍵がある可能性が高い。そんな風にあたりをつけて片っ端から敵のいそうな部屋を探し回った彼女の努力は、この6番目の部屋で報われた。
「じゃあね」
 足取りも軽やかに、銀色の髪を揺らして上機嫌で部屋を出て行く彼女の背を、凍り付いたドロイドの視線だけが見送った。

■ちさの場合
「大当たり……というべきですかしらね」
 ちさは微妙な顔でそんなことを呟いた。角を曲がった通路の先に、どうやら独房とおぼしき部屋が並んでいる。その中の一室に救出対象の娘さんが囚われている可能性は非常に高いのだが、問題はその部屋の前に大型のドロイドが張り番をしていることだ。姿形といい番人役をしていることといい、情報にあった甲冑型に違いない。
「これでは情報をとるも何も……」
 ちさは小さな溜息を洩らす。捜索の中で敵を見つけた場合、己のユーベルコード「賢者の影」を利用し軽い拷問まがいの真似で情報を引き出せないか。そんなことを考えていた彼女だったが、経過をすっ飛ばしていきなり本命に出くわすというのは予想外だった。牢を造るのは普通は脱出が非常に難しい場所、例えばエルフならば孤立した木の上だ。宇宙船という閉鎖空間で作るならばむしろ地下にあたる場所という推定は正しかったが、敵がいるかも知れないという予想に関してはむしろ当たらないでほしかった。
(「ここは私だけでは流石に厳しいですわね」)
 敵の様子を再度確認し、心の中でそう結論づけると、ちせは再び足音を殺して通路を戻り始めた。

■合流
 3人の猟兵は再び合流した。それぞれが得た情報を交換し合い、作戦を練り、地下へと向かう。そして。
「つッ!」
 甲冑ドロイドが繰り出した豪腕を、ちさは首を振ってかろうじてかわした。耳の横の壁にひびが入るのを横目でちらっと眺めてから大きく飛び下がり、声をかける。
「このノロマ、その程度で私に勝てるとでもお思いですの?」
「ギグワァ!」
 甲冑型はちさの挑発に怒ったように奇怪な声を上げると、猛進を開始する。その巨体が大きくよろめいた。咆哮を上げたヴォルフが強烈な体当たりを繰り出したのだ。
「ふう」
 巻き込まれないように大きく飛び下がると、ちさは後に控える奏に視線を送った。了解、と眼で答えたちさが壁際で疾走を開始する。
 3人の作戦はある意味単純だった。目的地は牢屋区画なだけあって忍び込むのは非常に難しい。甲冑型の番人に気づかれずに接近することも困難。ならばヴォルフとちさが挑発と牽制で敵の注意を惹いている間に、鍵を持った奏が対象を救出する。
 だが身を低くした奏が敵の脇を擦り抜けようとした瞬間。
「う!」
 突如、機械の腕が伸びた。ヴォルフの攻撃とちさの援護をを無視して甲冑型が奏を狙ったのだ。あくまで第一目的は侵入者の阻止、そう行動するように出来ているらしかった。とっさに身を退いたが敵の一撃は奏の腕をかすめ、手にした鍵が床に落ちて滑っていく。
 大きく飛び下がって態勢を立て直し、腕の軽い傷の状態を確かめながら、奏はあくまで余裕を失わずに状況を評価した。
(「敵は強いけど、手に負えないほどじゃない。正面突破はやや難しいけど、必ず失敗するほどでもない。鍵も牢のすぐ近く、突破して拾えば問題はない」)
 もう一度突破を試みるか。それとも3人で甲冑型を倒しにかかるか。
(「さて、どうしましょうか」)
(「どうしたものですかしらね」)
 ちさとヴォルフも一瞬、視線を交わし合ったとき。
 背後から新たな足音が響いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

黒木・摩那
帝国に捕まった協力者の運命を考えると背筋が寒くなるわ。
辛い目に合う前に一刻も早く救出しなくては。

【WIZ】中の情報を得るために『影の追跡者の召喚』を使用します。
監禁場所と思われる場所に出入りする装甲兵を追跡させて、情報を得ようとします。

欲しい情報は協力者のいる位置、間取りと敵の兵力です。
それらが得られたら追跡を止めます。
センサー類には注意。探知されそうならば、追跡を諦めますが、
そんなに厳重ならば逆に居場所を特定できるかも。

しっかりとメモって、味方と情報共有したいです。


雨咲・ケイ
では私は【POW】で正面から襲撃して【SPD】で忍び込んだ方々の時間を稼ぐとしましょう。一応断っておきますが、私は脳筋ではありませんよ?たぶん……。
なるべく派手に立ち回って先方さん達の注意を引き付けましょうか。
同じように正面から襲撃した方々とうまく連携を取りながら、【ジャッジメント・クルセイド】で着実に攻撃していきましょう。
【気絶攻撃】で気絶した敵がいれば後回しにしましょう。
自身が窮地に陥った際や、窮地に陥った味方がいれば【目潰し】を活用して何とか切り抜けましょうか。


カイジ・レッドソウル
本機ハPOW二特化シテイル
正面襲撃ヲ選択

味方ノ陽動デ見張りガ減ッタ、モシクハ居なクナッタノヲ確認次第、襲撃ヲ開始スル


霧城・ちさ
新しくくる方が味方でしたら協力して敵を倒してから救出をしたほうがよさそうですわね。私は皆様の回復をしていきますの
向かってくる足音が敵であれば敵に挟まれないようにしたり同士討ちを狙ったりして時間を稼ぎますわね
無事救出が出来たら退却ですわね。敵地の中ですし倒した敵は牢の中に入れてしまえば動いたとしても足止めできますの。
あとは救出した方と消耗の激しい方を守りつつ最短距離で身を隠せるところまで走りぬけますわっ



見張りの人型ドロイドを相手に、猟兵仲間が陽動戦闘を続ける正面玄関を突破した。
 扉が開け放たれた一室で動きを止めたままのドロイドを、横目で見ながら走り過ぎた。
 迷わず向かったのは地下フロア、協力者が閉じ込められているという牢屋が存在するその区画だ。
「すでに戦闘が始まっているわね。急がないと。それに、これは……」
 先行させた己の分身たる『影の追跡者』からの情報を傍らを進む仲間たちに告げた黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は、わずかに身震いした。
「どうかしましたか」
 傍らを走りつつ丁寧に聞き返してきた少年――雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)の顔を一瞬見返し、摩那はすぐに破線を逸らして進行方向を見据えた。
「いえ――協力者が辛い目に合う前にと思ったけど、ちょっと遅かったようね。一刻も早く救出しなくては」
「救出ハ任セル。本機ハ正面襲撃ヲ選択スル」
 床を蹴るごとに通路に甲高い金属音を響かせながら、素っ気なく機械音声で答えたのはウォーマシンのカイジ・レッドソウル(プロトタイプ・f03376)。機械の眼を目指す敵の方向に向ける。
「では私は先方さんの注意を惹く方を担当しましょうか。一応、脳筋ではないつもりですのでね……」
 たぶん。
 軽口めいた言葉を返しつつ、ケイもさらに足を速めた。
 昇降機は使わず階段を一足飛びに駆け下りる。扉が開け放たれたままの監視所らしき部屋を目もくれずに通り過ぎた。見えた。甲冑めいた姿の大型のドロイドが、猟兵らしき3名と戦闘中だ。そのうちの一人、耳の尖った娘が振り向いた。
「猟兵の方ですわね? そいつの牽制をお願いしますわ、牢の鍵はあそこに……」
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)は摩那たちを見てとっさに声をかけ、独房の一つの前の床を指さした。古い鍵の形をした電子機器、独房の扉に当てて解錠するタイプだ。
「了解です。お願いします」
 答えた摩那の後半の台詞は、カイジとケイに向けられたものだ。ケイが元気に頷き返す。
「派手に立ち回って見せましょう!」
 足を止め、右手を掲げ、その指に天から呼び出した光を纏わせる。
「ジャッジメント・クルセイド!」
 まだ声変わり前の少年の声で叫ぶと同時に、振り下ろした指先から強烈な光が迸り、ドロイドの甲冑を装甲の半ばまで貫いた。
「襲撃ヲ開始スル」
 次いで機械音声が響いた。ケイの倍近い巨体に機械の身体を持つカイジは突進がそのまま攻撃となる。機械音の残響を曳いた強烈な体当たりを受けた甲冑ドロイドは受け止めきれずによろめいた。
「ヴォルフ様、奏様、援護をお願いしますわ!」
 その隙を突いてちさが突撃した。仲間たちが敵の動きを抑え込む脇をすり抜け、走りながら姿勢を低めて伸ばした腕で床の鍵を掬い取る。
「ギガ!」
 甲冑ドロイドが吠えた。猟兵の囲みを強引に突き破ってちさに迫る。多大な耐久性を誇るこの敵の目的は、あくまでも救出阻止らしかった。
「この!」
 ケイが続けざまに光線を放ち、カイジが敵に身体をぶつけ腕で打ち据え、金属同士が軋む耳障りな音を周囲に撒き散らす。だがドロイドは傷つきよろめきながらも、ちさを掴まえようと腕を伸ばした。
「お願いしますわ!」
 十分に敵を引きつけた、と見極めたちさは予想外の行動に出た。敵の腕に捕らえられる寸前、手にした鍵を投じたのだ。放物線を描いて飛んだその先には摩那がいた。
「任せて」
 味方の突発行動に対して摩那は冷静に片手でキャッチ、そのまま独房の扉に鍵を当てて解錠操作。軽い音を立てて扉が開く。即座に躍り込んだ摩那はわずかに顔をしかめた。独房のベッドの上に気を失った状態で横たわっていた娘の全身にはむごい傷跡があった。拷問か何かを受けたらしい。
「協力者は危険な状態よ。誰か治療できる人は――」
「私が!」
「ギグガガ!」
「行かせませんよ!」
 幾つもの声が続けざまに響き重なり、直後に凄まじい光が廊下全体を照らすように輝いた。ケイがドロイドに至近距離から打ち込んだ高圧電流の輝きだった。直後に独房に飛び込んできたちさは娘の惨状を見て一瞬息を呑むが、即座に両の手に癒やしの光を宿らせて応急処置をほどこす。こればしばらくは保つと見極めをつけた摩那は、己のサイキックの力も利用して娘を抱え上げ、部屋の出口に向かいながら声を張り上げた。
「撤収します!」
 その声に応えたのはカイジだった。
「状況了解。追撃ヲ妨害スル。全員、コノ場ヨリ退去セヨ」
 声と同時に全身が揺れた。機械の身体の数箇所にあるセンサー部分、特に眼の部分に異様な光が流れた。ユーベルコード「ベルセルクトリガー」、理性の喪失と引き替えに強大な攻撃力と耐久力を得るユーベルコードだ。独房の入り口を塞ごうとした甲冑ドロイドは横合いから漆黒の旋風をまとった豪腕を叩きつけられ、一瞬で床に崩れ落ちた。そのままのし掛かり、甲冑ドロイドの頭に馬乗りで機械の腕を打ち込み続けるカイジの姿を横目で見ながら、摩那とちさは独房を脱出した。
「先に行きます、後はお願いします!」
 置き土産とばかりに最後に光線をドロイドに打ち込んでからケイも踵を返し、残る仲間たちと共に出口を目指す。
「裏口へ! 敵がいますが外を警戒しているはず、突破あるのみですわ!」
 ちさが叫んで皆の先導を始めたとき、摩那の腕の中で傷ついた娘がうっすらと目を開けた。
「猟兵さま……? 本当に、来てくれた……」
 言いかけて咳き込む。吐き出したのは赤い血だ。
「しっかりして。安全な場所に着いたら、すぐに治療するから」
 摩那が冷静に告げると娘は安心したように微笑み、次いで真剣な表情になった。
「『帝国』の情報を掴みました。このままでは、大変なことが……」
 調査員の娘はそこまいで言うと力尽き、目を閉じて気を失った。
 ちせとカイは視線を合わせ、さらに足を速めて仲間たちと共に出口を目指す。この娘を救い、そして宇宙船に迫る真の危機へと立ち向かうために。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『船外活動で冒険』

POW   :    障害を破壊する、工作機械で一気に作業する

SPD   :    迅速に作業をこなす、宇宙船に忍び込む

WIZ   :    状況を正確に把握する、目的地を調べる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カイジ・レッドソウル
本機ハ戦ウノミ、【POW】ヲ選択。障害ヲ速やかに排除。
近接戦闘ヲ展開、横ヲ摺リ抜ケヨウとスル敵ニハ、サイコキネシスで攻撃開始。
他ノ仲間ノ為陽動ヲカネ破壊活動ダ

「mission start、ready Go!」


黒木・摩那
★帝国の企てを探る
【WIZ】
協力員を無事に救出できてよかったです。
帝国の拷問を受けた後で、
本来ならばしっかりとした治療と休息を施したいところですが、
帝国が行動を起こすのも時間の問題です。
時間がありません。

無理を承知で協力員に帝国の計画について尋ねます。
あとは、先の襲撃の際にも色々なデータや資料を回収していると思います。
それも合わせて照合します。

帝国のドロイドの投入具合を考えると大規模な破壊活動を企んでいそうです。


ベガ・メッザノッテ
女のコの回復は他の猟兵サンに任せるヨ!
【WIZ】宇宙に『銀河帝国』なんて、私の為の舞台ネ!機械だらけの船の中に、ホンモノの星の輝き見せてあげル!名に恥じない行動をするノ。
状況に応じつつリザレクト・オブリビオンで、もし敵が来ても大丈夫なように回復中の女のコと回復役のコを死霊騎士で守るヨ!自分の方にオブリビオンが来ちゃったら【フェイント】でかわしつつ、死霊蛇竜で反撃してやるワ。その際何か『帝国』に関するコト・モノがあればぶん取るヨ!
女のコが回復し終えたら『帝国』の情報を聞いてみて、お礼にキャンディを渡すノ。
●口調プレイングに合わせて下さい(基本語尾カタカナ)。他キャラとの絡み、アドリブ等OKです。



ガシャン、と何かが砕け散る金属音が周囲に響いた。カイジ・レッドソウル(プロトタイプ・f03376)は己の拳によって原形を留めぬまでにひしゃげ破壊された甲冑ドロイドを一瞥し、ゆらりと立ち上がった。先に協力者の娘を抱えて走り去った仲間たちを追って走り出し、幾つかの扉と通路を抜けると、ちょうど出口の扉を抜けて走り去る黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)たちの背中が見えた。その手前では誰かが番人らしき人型ドロイドと戦っている。カイジの頭部センサーの光が探るように揺らめいた。
「ベガ・メッザノッテ(残夢紅華・f00439)! 甘ァいお菓子と人形が好きなノ! よろしク!」
 部屋の隅で戦闘の様子を眺めていた猟兵の娘は赤い瞳をカイジに向けると、問われる前に元気に名乗った。その前では幽鬼のごとき騎士と、禍々しい蛇めいた魔物――おそらくは呼び出した死霊のたぐい――が人型ドロイドを挟み込むようにして激しく闘い続けている。
「手伝いに来たんだけどサ。敵の足止めが必要だったみたいだかラ、このコたちに働いてもらってるわケ!」
「……」
 カイジはどこか呑気な調子でそう告げた娘と、闘う2体の魔物を眺めた。戦力の値踏みをしているようだった。しばしの間を置き、機械音声で告げる。
「……建物ノ中ニ、マダ敵がイル。破壊活動にヨリ追撃を断ツ」
「協力しろってこト? いいヨ!」
 娘は人形たちの様子を見ながら元気に答えた。
「デハ」
 カイジの頭部センサーの色が変わった。戦闘色だ。
「mission start、ready Go!」

 ――そして。裏口の番人ドロイドはベガの死霊とカイジの集中攻撃を受け、ほどなく有機物と金属がぐちゃぐちゃに入り交じった廃棄物と化した。
 資料室らしき場所で仲間の罠にかかって動けなくなっていた人型ドロイドは、ようやく抜け出したところをベガの死霊騎士に一刀両断された。
 さらに表玄関、陽動にあたっていた仲間たちと戦闘を続けていた3体の人型ドロイドはすでに残り1体にまで減らされていたが、振り向く間もなく入り口から走り出たカイジに後頭部を直撃されて、ただの機械の残骸と化した。
「お仕事完了! さあて、ついでに家捜ししておくかナ! 何か『帝国』に関するいいモノがあったらぶん取るヨ!」
 パンパン、と手をはたいたベガが、どこか楽しげに踵を返して建物の中に消えた。

 そして数時間後。グリモアベースに戻った猟兵たちは、再びセリィ・ポウ(ダンピールのサイキッカー・f03323)からのブリーフィングを受けていた。
「協力者の方は無事に病院に担ぎ込まれ、重傷ですが命に別状は無いとの連絡がありました。まずはここまでのご活躍、おめでとうございます。」
 セリィは軽く頭を下げると猟兵たちを見回した。
「ですが、急ぎの対応が必要なことが判明しました。……黒木さん、お願いできますか」
「はい」
 一歩下がったセリィに変わり、何枚かの紙を手にした摩那が進み出た。同時に、背後のスクリーンの一つに先ほど前に猟兵たちが出向いていた宇宙船の全体が映し出される。
「聞き取った情報を説明するわね。単純に言えば『帝国』の狙いはこの船を壊滅させること、ないしそれに準じる被害を与えることよ。すでにそのための大型兵器が運び込まれて稼働状態になっている――おそらくは交易に偽装して少しずつ部品を集めて、組み立ててね。場所はエンジン区画に近い船倉のひとつ」
 猟兵たちの反応を観察するように眼鏡をかけ直しながら、摩那は淡々と解説を続けた。
「何日かのうちに、この船は他の宇宙船との交易のために現在の惑星軌道を離れることになっているの。つまりエンジンに火が入る、その時を待っていたんでしょうね」
 スクリーンの宇宙船の船尾が輝き、ついで巨大な爆発が起こって画面全体を真っ白に埋め尽くした。その輝きが急速に小さくなり、画面の横から入り込んできた赤茶けた星に向かって流星のように落ちていく。
「稼働中のエンジンの一部が破壊されたら、最悪の場合は軌道が狂って惑星に墜落することになる。そうしたら誰一人助からない。本来なら、この宇宙船の上層部に掛け合って航行計画を取りやめさせたいところだけれど」
「情報漏れがあるみたいなんだよン!」
 脇からひょこっとベガが顔を出した。
「敵の根城をぶっ潰したときに、ついでに通信機器の類いをいくつか持って帰ったんだけどサ、盗聴したかなんからしいデータがあったんだよネ。本当なら専門家のヒトにゆっくり解析してもらっテ、仕掛けられた場所を探るとカ、『帝国』の偽装商人の正体を暴くとかをやりたいんだけどサ」
「今はその余裕がないということ」
 摩那は努めて冷静に告げた。
「航行計画を取りやめさせたら、そのことに気づいた『帝国』はやはり大型兵器を稼働させるでしょうね。墜落という最悪の事態は防げても、エンジン部分に大きな損害が出るのは避けられない」
 そこを『帝国』の宇宙船に襲われでもしたらひとたまりもない。そんな事態を防ぐのが次の仕事だと締めくくると、摩那はセリィに頷いてみせた。うなずき返したセリィが画面を切り替える。再度映し出された宇宙船のその表面には、なにやら数箇所の矢印がついていた。表情を変えぬままセリィはそのうちの一つを指し示した。
「問題の倉庫ですが、周囲には幾つもの警戒装置、あるいは罠が仕掛けられていると考えられます。不審な者が接近すれば大型兵器はただちに稼働状態に入るでしょう。特に猟兵だと知られれば確実にです。そこで一番気づかれる可能性が低いルートとして」
 タン、と指し棒が宇宙船の外側を指した。
「いったん船の外に出て宇宙空間を通って接近していただきます。外壁に貼り付く磁力ブーツ付の宇宙服は協力組織のほうですぐに用意してくれることになりましたし、自前の装備がある方はそれを使っていただいても構いません。幸い倉庫区画には非常用のエアロックがあるので、そこから敵のすぐ近く……具体的には隣の倉庫脇の通路まで入り込めます。解除キーも入手できました。ただし」
 死角とはいえ完全に無警戒とは限らない。エアロック周辺には何かがあるかもしれないので注意は怠らないようにと告げ、セリィはわずかに表情を緩めた。
「ただし皆さんが拠点を完全かつ速やかに壊滅させたことで、現時点では敵はこちらの動きに気づいていない可能性が大です。即座に行動を起こせば敵の不意を突けるかもしれません。それに加えて」
 宇宙空間から気づかれずに近づくという行動のほかに、「気づかれても怪しまれないようにする」「気づかれても対応する間を与えない」というオプションをとる余裕が生まれている。宇宙空間での行動にはその環境面からどうしてもいろいろと制約がつくが、宇宙船内部からの接近であれば作戦行動に幅が出る。あくまでも船外からの接近を推奨するが、よい作戦を思いついたらそれでも可と告げ、セリィは脇の立ったベガと摩那、それに他の猟兵たちの後方で黙然と佇むカイジに目を向けた。
「『帝国』はオブリビオンの中では非常に組織だったやっかいな敵ですが、それを超えるのが私たち個人の創意工夫だと思っています。猟兵としての力に加えて知恵と勇気でこの難局を乗り越えて、この星船に暮らす皆さんを救ってあげてください」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨咲・ケイ
彼女が命がけで持ち帰った情報を無駄にするわけにはいきませんね。
最善を尽くしましょう。
【POW】で行動します。
用意して頂いた宇宙服を着て外壁からエアロックを目指します。
味方との意思疎通は通信機器は使用せずハンドシグナルを用います。
敵の警戒装置等には細心の注意を払いつつ行動しますが、気づかれた場合は即座に【スナイパー】を活用して障害を破壊しましょう。
本格的に戦闘になった場合は味方と連携を取りつつ、サイキックブラストの【感電】と【気絶攻撃】を活用して速攻で敵を片付けます。


カイジ・レッドソウル
失敗スレバ大惨事ハ免レマイ

作戦ニハ従ウガ試シタイ事ガアル
「マダ作戦開始迄時間ハアルカ?」
有ルナラバ本機ノモツはっきんぐぷろぐらむ(ハッキングツール)ニヨル情報解析ヲシテ見タイト思ウ
ふぇいすかばーノ下カラ接続こーどヲダシ調ベタイ

ダガ、ソノ時間ガ惜シイナラバ即座ニ戦闘準備ニ以降
協力者達カラ装備ヲ借リ受ケ
船外ノ行動ヲ開始
気ヅカレテモ対応サレテモ



壁一面を覆うスクリーンを、様々な映像と数字と文字の羅列が流れて消えていった。それに重なるように呼び出されたコンソールウィンドウが知識のある者以外にはわからぬ情報を映しだしては唐突に消えていく。ある種の前衛映画のようにも見えるそんな光景はしばらく続き、やがて唐突に消えた。薄闇に覆われた室内の中に微かな金属音が響く。
「目的ノ情報ハ無シカ」
 機械で出てきた己の頭部に接続していた何本かのコードを引き抜き、フェイスカバーを元の位置に直しながら、カイジ・レッドソウル(プロトタイプ・f03376)は機械音声でそんなことを呟いた。先の作戦で敵の拠点から回収した情報機器の中から、己のハッキング技術を駆使してさらなる情報を引き出さんとした彼だったが、次の目標たる敵の大型兵器とその周囲の警戒状況に関する明確な情報はなかった。暗号化された特秘ファイル的なものも存在しないようだ。相応の秘密保持態勢は『帝国』にもあるようだった。
(「ダガ収穫ハアッタ」)
 一般的なデータの中に、大型兵器向けとおぼしき現地調達した部品や、宇宙船内で「人」として活動するための擬装用と思われる物資の購入リストがあった。そこから推測すると、敵の本拠にはまだ10体近い人型ドロイドに、甲冑ドロイドが1体以上存在している可能性が高い。
「えんじんニ被害ヲダサヌヨウニ、ソノ排除モ必要カ」
 敵は複数。さらに想定外の敵もいるかも知れない。戦場に臨んで戸惑わぬようにその情報の周知も必要だと考えたところで、背後の扉が開いた。センサーを光らせつつ振り向くと、逆光を背に小柄な少年のシルエットが浮かび上がった。
「解析は終わりましたか? 『外』に出るための機材の準備は完了しました、いつでも出発できます」
 柔らかながらもはっきりした声でカイジにそう告げたのは雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)だった。
「協力者の方が命がけで持ち帰った情報を無駄にするわけにはいきません、最善を尽くしましょう」

「うわぁ……」
 全身を覆う白い宇宙服に身を包み、宇宙空間へと身を躍らせたケイは思わず感嘆の声を発した。幾つかある幻想世界や地球出身の猟兵にとっては、活躍の舞台は基本的には地上だ。広大な宇宙空間に身一つで挑むということはかなり珍しい経験だ。遮るものなく全天に広がる星々の輝きと、全身が重力の軛から解き放たれた無重力特有の感覚に一瞬心を奪われてから、彼は任務を思い出して右足を伸ばし、つま先の裏の磁力面を宇宙船の外壁に密着させた。左足も伸ばして外壁上を「歩く」感覚を確かめ、背後に目を向ける。
「問題ナイ」
 エアロックから半身を乗り出したカイジの無愛想な機械音声が通信機を通して響いた。そもそもこの『スペースシップ・ワールド』の出身であり、人型戦闘機械たるカイジに宇宙空間への戸惑いはない。
「わかりました。ではここから先は無線封鎖で」
「了解シタ」
 やりとりはそこで途絶え、広大な星空の下、銀色に光る宇宙船の外壁を伝うようにして二人は静かに進み続けた。そして数キロを進んだところで外壁からのわずかな出っ張りが見えてきた。目的のエアロックだ。
(「……何か、ついていますね」)
 宇宙服のフェイスカバーの下、ケイの眼が鋭く細められる。何らかのセンサーのようだった。攻撃機能もあるのかも知れないと考えながら彼はカイジの方を振り向いた。手袋の指を3本立てる。
『3つのセンサー。潰します』
 手を銃の形に変える。パン、と撃つ手真似。
『直後に突撃です』
 両手でぐわっと押し寄せる仕草。
(「ワカッタ」)
 カイジが軽く頷く。そして二人は目的の方向に向き直り、屈んで外壁に身を寄せて目的地に忍び寄った。やがて足を止めたケイは外壁に片膝を突いた状態で、宇宙服に覆われた右腕を前に伸ばした。さらに人差し指と中指を銃身に変えて伸ばして狙いをつける。
「ふっ!」
 ヘルメットの中で吐き出された鋭い吐気とともに彼方で白光が煌めく。ユーベルコード『ジャッジメント・クルセイド』の威力は宇宙空間の不利もものともせずに感知器を打ち砕き、金属の破片を宇宙空間へとまき散らせた。間髪を入れずにカイジが動いた。外壁上を這うように高速で巨体を進め、エアロックに取り付く。一瞬で解錠操作を終えて船内へ。続いてケイが身を躍り込ませるタイミングを見計らってシャッターを締め、直後に内側のロックを解除。本来のエアロック開閉の手順を幾つかすっ飛ばした無茶な操作で開けた扉から走り出る。途端に身体にかかった1Gの重力に身体の関節部が悲鳴を上げるのを無視して敵地を目指した。
 走る。扉を開ける。また走る。扉を開け放つ。見えた。黒鉄の巨体。『帝国』の二足歩行戦車、それも武装が強化されたタイプだ。周囲にいた3体の人型ドロイドが驚いたように振り向く。
「雑魚は任せてください!」
 宇宙服を脱ぎ捨てたケイが勢いもそのままに突進した。慌てて銃を抜こうとするドロイドたちの真ん中に躍り込み、両掌を帯電させる。
「ハッ!」
 次いで周囲を覆うように煌めいた雷光の輝きに打たれて3体が同時に動きを止める。その状況を一瞥すると、ケイは躊躇わずに奥を目指した。
(「カイジさんの情報なら、まだ敵はいる」)
 奥の部屋の扉が開く。出てきたドロイド兵は状況を把握したらしくすでに銃を構えていた。ケイは即座に身を低め、船外でやったのと同様に片膝をついてのスナイピングスタイル。続けざまの白光の連射に2体のドロイドが急所を射貫かれて倒れ、3体が傷を負う。
「来ルゾ」
 そのてき背後からカイジの声が響いた。鋼の暴風と化して、ケイが動きを止めた3体のドロイドを葬り去ったカイジが背後を振り仰ぐ。耳障りな金属音を立てて鋼鉄の巨体が立ち上がろうとしていた。
「露払いはここまでですね。では本番と参りましょう」
 軽口めいた言葉を口にしながらケイは状況を見て取った。
 人型ドロイドはさらに奥から出てきた無傷が2体、手負いが3体。耐久力の高い甲冑ドロイドも1体姿を見せている。そして10メートルを超える巨体を立ち上がらせた二足歩行戦車。レーザーの砲塔が素早く動き狙いをつけようとしている。
「船ノえんじんニ近ヅケサセルナ。最悪、自爆モ警戒ダ」
 背中をケイに合わせる位置に立ち、歩行戦車が背負った多数のミサイルを見ながらカイジが告げた。壁の3つ先はエンジン区画だ。敵が猟兵の排除から目的を変え、壁をぶち抜いてそちらに向かうことも考えられる、エンジの破壊だけは防がなければならない。加えて人型どもの動向にも注意が必要だ。
「了解です。それでは……」
「始メルカ」
 その言葉を開始の合図に、二人は強大な敵に向かって同時に動き始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『二足歩行戦車』

POW   :    一斉砲撃
【機体各所に搭載した火器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    レジェンダリーソルジャー
【伝説的な戦車兵を再現したAI】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
WIZ   :    胴体下部可動式ビームキャノン
【砲門】を向けた対象に、【ビームの連射】でダメージを与える。命中率が高い。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


硬い物同士がぶつかり合い、砕ける音。強度限界を超えた金属が軋む音。それに合成
音の悲鳴と怒号が重なる。それら、猟兵にとってはある意味おなじみの戦場音楽の調べ
を聞きつつ船倉に駆け込んだ霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)は、敵の兵器――高
い天井に触れんばかりの巨体の歩行戦車――を振り仰いだ。分厚い装甲の二脚から各所
にセンサーを配置したドーム状の頭部まで、全身に兵器らしきものが装着されている。
「たくさん武器を積んでいて、これこそが兵器という見た目ですわね」
 ついそんな感想を洩らしたその前で、巨体は前面のセンサーを不気味に光らせた。複
数の筒のようなものが背面側で音を立てて立ちあがる。
「ミサイルとかいうやつですの? いえ……」
 そこから吐き出され、巨体越しに放物線を描いて落ちてくる幾つもの金属の塊を、ち
さは落ち着いて跳び下がって避けた。塊は床に落ちる直前に爆発してさらに無数の金属
片を撒き散らしたが、いずれもちさを傷つけるには至らない。グレネードランチャーと
いう武器の名前はちさは知るよしも無かったが、猟兵たるものオブリビオンが使用する
技はある程度本能的に察知できる。すでに敵の意図を読んでいたちさに隙は無かった。
「ワァ、凄くカッコイイけどオイシくなさそうな見た目ネ!」
 破片と共に倉庫内に吹き荒れる爆風を、文字通りにどこ吹く風とばかりにベガ・メッ
ザノッテ(残夢紅華・f00439)が突撃した。
「放たれる弾丸が全部キャンディだったら良いのニ!」
 軽口か本気からわからぬ発言と共に外套を翻すその手には鎌、背後に続くのは相棒の
傀儡・アルタイルだ。先行してドロイドたちと激闘を繰り広げていた雨咲・ケイ(人間
のクレリック・f00882)がその様子を見て振り返り声をかけた。
「ミッションコンプリートまであと一息ですね。もうひとがんばりです」
 それだけ言うとケイは眼を戻し、目前の闘いをこなしつつも仲間の戦力を前提とした
「敵の倒し方」を考える。今この状況で、自分がすべき最善の行動は?
「まずは、手負いの敵から片付けます」
 そう告げたケイは即座に突進した。ドロイドの配置は歩行戦車の護衛を想定してのも
のだろう。ならばそれを片付ければ敵の戦略が揺らぐ。
(「数が多い、攪乱が有効――」)
 手数を重視、あえてとどめに拘らず、敵の中を風のように駆け抜ける。奥から来た無
傷のドロイドに一撃を加えたのみるや即座に身体を返して甲冑ドロイドに一撃、背後か
ら迫った手負いのドロイドにカウンターで右掌の雷撃を叩き込む。
 そんな風に闘い続けるケイの背中を一瞥するとカイジ・レッドソウル(プロトタイプ
・f03376)は振り返り、己の長身よりもさらに高い歩行戦車を見上げた。
「相手ノ足ヲ破壊スレバ、戦況ヲ優位ニナルト判断スル」
 半ば機械、半ば獣の、異形めいた身体を今は後者のように背を曲げて低く構える。手
にしたものは獣の爪ならぬ禍々しい呪剣だ。それを取り巻くように湧き上がった漆黒の
旋風と共に突進。斬撃。
 予備動作も音もなき無言の攻撃は反応しきれぬ巨体の右足に深々と食い入り、動力系
に達したか亀裂から派手な火花を撒き散らした。
「おウ!」
 自身に向けられたグレネードの炸裂をアルタイルと共に踊るように避けていたベガが
参戦する。大きく跳んで刹那に間合いを詰め、片手を伸ばして振り抜いた一撃はカイジ
がつけた亀裂と交差し、敵脚部に十文字の傷を刻んだ。
「避けてくださいませ!」
 戦況の観察を続けていたちさの声が唐突に響いた。尾のように動く可動レーザー砲が
3門。至近距離戦でも死角のないそれが左右から挟み込むように二人を狙っていた。
「セリィの資料の通りだネ。撤収ゥ!」
「ム!」
 ベガはかわしたが、すでに次撃の態勢に入っていたカイジは止まれなかった。構わず
打ち込んだ一撃の代償に光線をまともに受け、肉と金属が灼かれる嫌な匂いが立ちのぼ
る。さらに続けざまにレーザーが迸り、そこに放物線を描くグレネードの攻撃が重なっ
た。
「気をつけてください、もともと宇宙船一隻のエンジンを潰せるだけの兵器です!」
 遠くからのケイの警告の声を聞きながら、ちさはわずかに目を細めて敵を見遣った。
「なるほど、これが全力の戦い方ですのね」
 10メートルを超える戦闘機械は現実的に人間のような回避行動は困難だ。その一方
で己の巨体と絶大な攻撃力を生かした「防戦一方にさせる」または「攻撃を狂わせる」
「回避の余地を与えない」戦術が可能となる。要は巨人とかゴーレムと似たようなもの
だろうと考え、ちさはレーザーの乱舞を回避しながら小さく笑った。
「だいたい読めましたわ。私のうさぎさん、一緒に戦ってほしいですの。みなさまをお
守りしますわっ!」
 ぽんっ、と彼女の前の空間に唐突にぬいぐるみのような何かが出現した。ちさのユー
ベルコードで召喚された「やさしくかわいい白うさぎさん」と「ワイルドでかっこいい
黒うさぎさん」は敵の攻撃をおびき寄せるように退いたちさと入れ替わるように揃って
突撃、可動レーザーの内側に入り込むと機械の足をぽこすかと殴り始める。見た目は可
愛らしいがその拳の威力は凄まじく、一撃ごとに金属の表面がひしゃげ、へこんでいく

「これで一気に……きゃあ!」
 ちさの言葉は途中で悲鳴に変わった。うさぎさんの猛攻に押されたかのようにグレネ
ードの雨が唐突に止んだ。だがその直後、鋼の巨体がレーザーを撃ちながら突進を開始
した。軌道を変えたレーザーは直撃ではなく逃げ道を阻むように照射される、巨体をそ
のまま兵器に変えた体当たりだ。唐突な敵の行動変化にちさの回避がわずかに遅れ、金
属の暴風をそのままくらった少女の身体が床に叩きつけられる。同時にうさぎさんたち
も消滅した。
「戦い方ヲ変エタカ」
 自身は衝突軌道を先読みして回避しつつ、カイジが己のセンサーを光らせる。ベガは
小さく笑った。
「AIを走らせてきたネ。それなラ……」
 巨体を向き直らせた歩行戦車に向かって、ベガはここが戦場であることを忘れ去った
かのように、唐突にふらっと普段の動きに戻った。星を仰ぐように上を向き、紅玉色の
眼を閉じる。歩行戦車は即座に腕部レーザー砲の照ろ準を定めた。発砲。
「相棒。任せたヨ」
 レーザーの赤光に灼かれる寸前、ベガは力を抜いた手を差し伸べた。その先には片膝
を突いた姿勢の傀儡・アルタイルがいた。ベガの喉頸を貫くかに見えた光はその直前で
霧散、名状しがたき力の波が騎士が姫君の手を取るようにかしずいた相棒の身体へと伝
わった。
 ジャッ、と。
 群青色の光が薄暗い空間を裂いて迸り、回避行動の余裕すら与えず歩行戦車の胴を一
文字に灼き切った。敵の力をそのまま向け変えて放った、アルタイルの紺碧の瞳のレー
ザーの威力だった。
「メカもカッコよくて好きだけド、お菓子の方が好きなノ! おやつの時間をアタシか
ら奪った罪は重いヨ?!」
 再び目を見開いて言い放つなりベガとアルタイルは瞬時に飛び離れ、これも即座に態
勢を立て直した歩行戦車の続けざまのレーザーをかわす。入れ替わりで突撃したのはカ
イジだ。
「片足ダケニ集中攻撃スル」
 仲間への伝達と共に、先ほど己が傷つけた左脚の側面に回り込む。攻撃の直前、ター
ゲットが急に動いた。回避行動ではない。カイジの視界が金属の輝きに覆い尽くされる

(「コノ身体デ蹴リカ!」)
 しかし己を兵器と規定する彼が取ったのは反撃だった。とっさに逆手に持ち替えた右
手の呪剣と左手のエナジーブレードを、獣が牙を突き立てるように真正面から蹴り足に
突き立てた。直後に全身に凄まじい衝撃を受けて跳ね飛ばされたが、何とか受け身をと
った着地したときには、敵の左脚はもはや巨体を支えきれずに膝をついていた。

 そうして。
 古代の戦士が巨獣を囲んで狩るような戦いがさらに続き、巨大兵器は徐々にその動き
を弱らせていった。ベガのさらなるカウンター・レーザーが炸裂したところへ、ちさの
復活したうさぎさんが巨体をよじ上って殴打を繰り返す。頭部の装甲が弾け、コアらし
き部分が露出する。
 ギギギギ、と妙な作動音が響いた。白と黒のうさぎさんが飛び離れた直後に、轟音と
共に一斉射撃。
「まずいですわ!」
「ドコ狙っテんのサ……あ!」
 ちさとベガが気づいて同時に声を上げた。狙ったのは彼女らではなく隔壁だ。破れた
金属の壁の向こうに次の部屋の向かいの壁が見えた。もはや移動も不可能と悟り、機能
が停止する前に戦略目標の達成――現在の場所、兵器でのエンジン区画の破壊――に切
り替えたらしい。グレネードの発射筒も動き、水平発射で壁の向こうに狙いをつける。
「させませんよ」
 カイジにちさ、ベガ、3人が行動を切り替える直前、一瞬降りた静寂のなかに若い男
性の声が響いた。タン、と軽く金属を蹴る音が3回。続いて周囲を圧するように雷光が
輝き、周囲を白く染め上げた。
「ふう」
 巨体が崩れ落ちる凄まじい金属音が響き渡り、その中に小さな吐息が混ざった。そし
て閃光が消えたときに猟兵たちが見たのは、完全に機能を失いスクラップと化した歩行
戦車と、その上に立ったケイの姿だった。ドロイドたちを片付けた彼は、カイジたちと
の戦いに集中した歩行戦車の資格から効果的な一撃を打ち込む隙を伺っていたのだった

「任務完了、カ」
 カイジの頭部センサーが瞬き、その身体を覆うように吹き荒れていた黒い旋風が静ま
っていく。
「主役を持って行かれてしまいましたね」
 巨体の上に立つケイに、ちさが苦笑を向けた。
「ずるイ! おいしいトコだけ持って行くなんて!」
 ベガがアルタイルと共に両手を振り上げて抗議する。
 そんな賑やかな仲間たちに、ケイは静かな敵の残骸の上から微笑で応じた。
「申し訳ありません。ですが、とにかくこれで……」

 ミッション、コンプリート。
雨咲・ケイ
「ミッションコンプリートまであと一息ですね。もうひとがんばりです」
敵の数が多いですし、攪乱するように動きましょう。
まずは、手負いの敵から片付けます。
その後は無傷の敵には【2回攻撃】を、甲冑ドロイドには【気絶攻撃】を活用して早めにやっつけちゃいましょう。
ボスに対しては、常に動向を観察しながら攻撃していきます。
ボスがAIを召喚したら、【スナイパー】での破壊を狙い、
エンジンや自爆を狙うようであれば、脚部を狙ってサイキックブラストを打ち込み【感電】してもらいましょう。
弱ってきたら味方に合わせて一気に畳み掛けます。



「あのときはコンプリートだと、思ったのですけどね……」
 軽く髪をかき上げながら、雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)は憮然とした表情で溜息をついた。
 巨大歩行戦車を見事に駆逐し、ついでにと全滅した敵の基地の中にあった諸々の資料を回収してグリモアベースに持ち込んだ結果、恐るべき事実が判明した。ベースの一室で向かいの席に座ったグリモア猟兵のセリィ・ポウ(ダンピールのサイキッカー・f03323)、普段はあまり表情を動かさない彼女も眉根を寄せて考え込んでいる。ふと、赤茶色の彼女の瞳が幾つかの資料を映したスクリーンから離れてケイに向けられた。
「かなり入り込まれている、と見ていいですね」
「やはりそう思いますか」
 ケイは溜息混じりに同意した。彼らがいるこの都市型宇宙船――現地の人々には星船と通称されている――には今回撲滅したものの他にもすでに一定の『帝国』のエージェントが入り込んで日常的に活動していることが、壊滅させた2つの基地から回収された情報から明らかになっていた。つまり「戦闘部隊」は潰したが、その他に「後方支援部隊」がいるということだ。拠点の確保や商取引を装っての兵器の搬入から、小型艇でのエアロック人のふりをしたドロイドを入り込ませることまで、現地で手引きをする者がいたほうが活動が容易になることは当然の話だ。
「商人に化けていることは確かなようです。ただしそれだけではなく、宇宙船の構造や航行計画に始まって、社会構造やら文化まで船のあらゆる情報を収集していますね。むしろ情報収集自体が主目的のような……」
 ケイは再び頭を掻いた。
「墜として全滅させるつもりだった船に、どうしてここまでの手間をかけるんでしょうね?」
「…………」
 セリィはしばらく考え込み、やがて暗い表情をケイに向けた。
「これは私の推測ですが――『帝国』は、偽装の標的にこの星船を選んだのでは無いでしょうか」
「……偽装の標的?」
「はい。すでに偽装商人が入り込んでいるわけですが、ソレはどうやって身分を偽ったのだと思いますか?」
「ええと、流れの貿易商人を装うとか。あるいは他の宇宙船の商人に成り済まして……あ」
 ケイの顔に理解の色が広がった。セリィが小さく頷いた。
「たぶん、墜とした船に成り済まして『帝国』の船や人員を活動させるのが目的です。実在の船が相手なら他の船の警戒も薄くなるでしょう。正体が割れるのにも時間がかかるはずです」
「……照会しようにも、本物はすでに存在しないのですからね。となると、最初に協力者の娘さんを殺さず、拷問にかけたのも」
「活動の実態をどこまで掴まれたか、聞き出す必要があったからでしょう。船の墜落作戦が失敗した場合は船内で活動を続ける必要があったでしょうから」
「了解です。根本を潰しておかないと、いずれまた今回のような事態が起きるということですか」
 ケイの眼が真剣味を帯びた。
「はい。そのときまた、これで予知して防げるかどうかは運次第です」
 セリィは呼び出したグリモアの紋章を手の平の上で遊ばせながら答えた。
「では早急に対応が必要ですね。今の状況で考えられる対応としては……」
 ケイはしばらく考えてから、幾つかの操作で画面に商人リストらしきものを映し出した。3つの赤いマークが点灯する。
「こちらの怪しい商人3名を直接締め上げるのはどうでしょうか。人に化けているとは言え、文字通りに一皮むけばドロイドの本性を現すでしょう。明らかに力任せの越権行為で、外れたときの迷惑は多大なものになりそうですが、逃げられる可能性は小さいはずです」
「良案だと思います。……私の案は、あえて現在の利を捨てる形になりますが」
 続いてセリィも画面を操作した。幾つかのマスメディアに関する情報が表示される。
「基地の壊滅と歩行戦車撃破の事実を大々的に宣伝してもらうのです。そうすれば慌てて敵が動き出すでしょうから」
「網を張っておいてそれを捕らえる、と」
「はい」
「うまくいくでしょうか? 相当に臨機応変の素早い対応が必要になりそうですが」
「皆さん次第です」
 当たり前と言えば当たり前の返答に、ケイは思わず苦笑を浮かべた。続けてセリィが端末を操作し、一人の女性の顔を浮かび上がらせた。『帝国』に囚われ拷問を受けていた娘だ。
「もう一つ。先に協力してくれたこの方はマリエさんというお名前ですが、船の評議会――規模は小さいですが、国会のようなものです――に伝手があるそうです。評議会の協力が得られればそちらに協力してもらって包囲網を敷くこともできるかもしれません」
「国を動かすというわけですか」
「はい。ただしこの世界は猟兵に協力的とはいえ無条件ではありません。証拠をだし、依頼事項を明確にしての説得は必須ですね」
「あとは戦闘になった場合はその対処も」
「はい」
「他にも手はあるかもしれませんが、叩き台としてはこのぐらいでしょうか。」
 ケイは手早く今の3つの案をまとめて画面に表示し、最後に「その他」と付け加えた。
「そうですね。いずれにしても急いで動く必要があります。敵に先手を打たれたらどうにもなりません」
 そう言うと、セリィは表情を改めてケイに向き直った。
「ここで完全に叩き潰しておかないと、今回の失敗で学習した『帝国』はより巧妙な、わかりにくい方法で仕掛けてくることになるでしょう」
 軽く頭を下げる。
「きっちり禍根を断ってこの船にしばしの平和をもたすためにも、すいませんが引き続き協力をよろしくお願いします」

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒木・摩那
★評議会にこれまでの活動を説明して協力を得る
【WIZ】

帝国戦車の撃退には間に合わなかったけど、
帝国の陰謀にはまだ続きがあったのね。

帝国にここまで深く浸透されていると、
今わかっている商人だけではない可能性もあるし。
ここは船を挙げて対応してもらった方がよさそうです。

マリエさんの評議会の伝手を頼ります。
本当はマリエさん自身に説明してもらえばいいんでしょうが、
本人がまだ治療中ですから、
説明役は任せてください。

これまでの猟兵の活動や帝国の動きをまとめて、
評議会に説明します(情報収集)。
必要ならば、話を盛って、危機感を煽ります(言いくるめ)。

帝国に気づかれぬよう秘密裏にかつ迅速に動けるよう協力を求めます。



「……なるほど。帝国戦車の撃退には間に合わなかったけど、帝国の陰謀にはまだ続きがあったのね」
 再び訪れたグリモアベースで、黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)は敵から入手した情報を映しだしたスクリーンを注視しながら小声でそんなことを呟いた。ここの管理人でもあるセリィ・ポウ(ダンピールのサイキッカー・f03323)が入れてくれたお茶を飲み干すと、視線を宙に向けて現状を頭の中で整理した。
「帝国にここまで深く浸透されていると、今わかっている商人だけではない可能性もあるし、ここは船を挙げて対応してもらった方がよさそうです」
 向き直ってそう告げるとセリィがいつもの茫洋とした表情のまま頷いた。
「わかりました。どう動かれますか?」
 摩那は迷わず答えた。
「マリエさんの評議会の伝手を頼ります。具体的には……」

 病院はまだ面会謝絶の状態だったが、自分が猟兵であり、船の緊急事態であることを告げると看護師たちは渋々ながらも通してくれた。白く清潔な病室に入ると記憶にある娘が寝台に横たわっているのが見えた。娘は摩那を見ると顔をほころばせて起き上がろうとし、直後に激痛に襲われたか、まだ医療用テープと包帯に覆われたままの全身を強ばらせる。
「無理をしないで。直る前に無茶をすると、一生傷が残ったりするから。……では改めて。私は黒木摩那、猟兵よ」
 きちんと寝ているように手の仕草で制しつつ、摩那は簡素に名乗った。
「マリエと申します。私を救い出してくださった方ですね、本当にありがとうございました」
 年上の娘から向けられる全面的な感謝と信頼の眼差しに少々こそばゆいものを感じながら、摩那は努めて冷静に告げた。
「マリエさんが私たちのために動いてくれた結果だもの、当然でしょう。それより、お願いしたいことがあるのだけれど」
 続いて摩那が語る『帝国』の船内への浸透の情報に、娘は真剣に耳を傾けた。敵を壊滅させるために評議会の協力が必要という言葉に力強く頷く。
「わかりました、すぐに連絡を取ります。評議会の建物に盗聴器がある可能性を考えると、どこか外で待ち合わせをしていただいた方が良さそうですね。本当なら私も同席したいのですが」
「さっきも言ったけど無理はしないで。説明役は私に任せてください」
 そこでふと気づいて摩那は問いかけた。
「ところでマリエさんの評議会への伝手というのは?」
「私のお父様は、評議会の副議長を拝命しております」

「……思った以上、というところですな」
「いやまったく。これは深刻だ」
 急遽借り出した船内の市民ホールの一室にて。
 摩那が纏めた情報が映し出されたスクリーンを睨んだ評議会の重鎮たちは、口々に唸り声を上げていた。
「私の仲間たちが止めましたが、一つ間違えば船のエンジン区画が壊滅させられていた可能性がありました」
 最後に倉庫内に散らばった歩行戦車の残骸の映像を見せながら、摩那は努めて冷静な口調で、しかし相手の危機感を煽るように説明を続けた。
「今、帝国を壊滅させておかないと、これからも同様の危険がこの船を襲うでしょう」
「お嬢さんの言う通りね」
 五十路と見える女性が溜息をついた。真剣な表情で摩那を見つめる。
「それで、具体的に私たちにやって欲しいことはあるかしら?」
「間もなく私の猟兵仲間が動き出します。活動は帝国に気づかれぬよう秘密裏にかつ迅速に行う必要がありますので、そちらへの全面的な協力を」
 摩那の即答に、どこかマリエに似た面立ちの壮年の男性が大きく頷いた。傍らの老人に目を向ける。
「疑いがあるだけで商人を襲撃するなど、もちろん法律違反ですが――議長」
「うむ。ここは超法規的措置を執らざるを得まいな。自治警察の上層部には私から話を通しておく。いざとなれば評議会議長の承認済みと言って貰って構わないと、お嬢さんの猟兵仲間に伝えておいていただけないか」
 老人は居住まいを正すと摩那に軽く頭を下げた。
「マスコミ対策は私のほうで」
 続いて先ほどの五十路の女性が身を乗り出した。そちらにも頷き返しながら、摩那はふとおかしくなった。大の大人たちが15歳の自分を一人前として扱うどころか、頭を下げて全面協力を申し出ているのだ。
(「私ではなく、私の背後の『猟兵』に対してね」)
 だが摩那は慢心はせず冷静に事実を見つめた。この信頼と丁重な態度は、この世界『スペースシップ・ワールド』でこれまで猟兵の先人が積み重ねてきた実績から生まれたものだ。そして自分はその流れを受け継ぐ者として今、この場にいる。
(「この人たちのためだけではなく、猟兵全体のためにも、最後まできっちりやり遂げないと」)
 マスコミ対応の具体策を相談しながら、摩那はふと、そんなことを思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨咲・ケイ
【影の追跡者の召喚】を活用して、
マークした怪しい商人達を追跡し監視しましょう。
その上で、セリィさんの案で『一連の事実を大々的に宣伝』してもらい、
味方と連携を取れる状況で網を張っておきます。
宣伝には敵が動揺するような虚偽の情報も混ぜてもらいましょう。
敵の通信にも警戒して、必要であれば妨害も行いましょうか 。
一人たりとも逃がすわけにはいきませんので、
船の構造や航行計画等の情報に詳しい方にも協力してもらいましょう。
混乱しないよう味方と協力者への作戦の周知徹底は忘れずに。
戦闘になった際は一般人を巻き込まないように注意し、
可能であれば場所を選び迅速に片づけましょう。



「……了解、本日正午にマスコミから緊急ニュースが流れるわけですね。疑わしい商人たちはすでに監視中ですが、異常があり次第即座に動く態勢を作っておきます。……はい、戦闘現場のほうはそのままで、今はセリィさんたちが留守番をしてくれています。マスコミへの顔出しはNGですが、もし必要ならコメントぐらいなら受けると伝えておいてください。ええ、それでは黒木さんのほうもお気をつけて。こちらからも何かあればすぐ連絡します。では」
 雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)はこの宇宙船内で標準的に使われている個人用の携帯連絡機器のスイッチを切ると、大きく息を吐き出した。
「ふう」
 公園のベンチに腰掛けて、宇宙船の作り物の空を見上げる。『帝国』の潜入勢力に関する評議会のへの根回しは問題なく行われ、マスコミ対応も自分の提案の基本線を丸ごと呑んで貰った上でスムーズに進めてもらえることになった。敵を追い詰める際に一般市民や警察と無用なトラブルを起こす可能性も減り、それ自体は非常に歓迎できることなのだが。
「肝心の敵に、未だ動きがありませんね」
 ベンチに腰を下ろし、眼を半分閉じて己が放った【影の追跡者】の五感に同調する。『帝国』のエージェントの疑いがある者は3人。何らかの口実を設けて一箇所に纏められればよかったのだがそうもいかず、仲間と現地協力者で分担してそれぞれの監視を行う形となった。彼の場合は自分ではなくユーベルコードで召喚した【影の追跡者】を一人の商人に張り付け、自身は万が一の敵の脱出に備えて宇宙港地区に近い公園で待機していた。
 人工の微風が吹き、公園の木々の葉が揺れる。どこか故郷の風景を思わせるそんな情景を眺めながら、ケイはしばし待ち続けた。やがて正午の時報が鳴る。同時に、携帯機器で予め指定しておいたチャンネルが開き「評議会からの重大発表」が流れ出す。そして数分。
「!!」
 ケイは眼を見開いた。歩行戦車の残骸を前にレポーターが興奮気味に喋り続ける画面を躊躇無く切り替え、仲間への通信回線を開く。
「カイジさん、霧城さん、こちらの監視対象が動きました! そちらは……はい、異常がないなら監視対象Cに向かってください。今、何か大きな荷物が載った小型コミューターに乗り込んだところで……ええ、武器かドロイドの可能性もあります。気をつけて!」
 続いて予想される敵の進路と、適当な迎撃ポイントを指定してから、ケイはいったん連絡を切った。再び感覚を【追跡者】と同調させながら、どこか面白がっているような表情を浮かべる。
「どこに行くつもりかな? ここまで追い込んだんだ、もう逃がさないよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイジ・レッドソウル
時間がナイノナラ商人3名ヲシメアゲヨウ
「本機ダケデ先二突入スル。失敗シタ場合ハ本機ダケニ責任ヲ負ワセロ」

商人二会イニ行キ
「・・・容疑者確認」
【先制攻撃】
逃ゲラナイヨウ3人まとめて【薙ぎ払う】、逃走阻止ノ為【生命吸収】デ死ナナイ程度二施シ
「少々、オ付キ合イ願オウ」
淡々ト機械的二行エバ、会話不能ト判断シ此方ヲ攻撃シテ来ルダロウ
戦闘トナレバ【黒風鎧装】デ強化
中ノでーた回収ノ為剣ト【サイコキネシス】デ応戦

ドロイドノでーたヲ取レソウナラ【ハッキング】デ解析ヲ開始
今後ノ対策トシテノでーたトシテは大事ダ
「基本トナルでーたガあれば、今後ノ対策トシテ非常二有意義ト判断スル」


霧城・ちさ
あと一押し、みなさまの援護をしていきますわね
私も攻撃をして動き回る敵を抑えていきますの
今度こそ機動力を削いで止めをさせるようにダメージを与えていきますわっ
負傷した方がいましたらお守りして怪我を回復するようにしていきますの



「監視対象Cニ動キアリトノ連絡ダ。本機ハソチラニ向カウ」
 カイジ・レッドソウル(プロトタイプ・f03376)は数名の協力者たちに向かってそう告げると、四足獣のように背中を丸めて巨体を屈め、後ろも見ずに凄まじい勢いで走り始めた。
 商人たちを直接締め上げることを提案したカイジだったが、被疑者3人をうまく集める案がまとまらず、試行錯誤をしていたところへ仲間が船の評議会の協力を得ることに成功した。
 現地協力者たちの助けも借りて対象3名全ての動きを監視。その後、怪しい動きをする者がいれば即座にこれを補足し尋問、敵であれば殲滅する。
 当初の計画はそのように形を変え、そしてカイジ自身が――というより、その長身はこの宇宙船内では目立ちすぎるために実質的には集められた現地協力者が――担当分の商人1名の監視を続けていた。
「ソチラノ動キハ?」
 赤と黒の颶風が奔るような疾走のなか、カイジは手にした携帯端末に向かって問いを発した。
『こちらは異常なし、ニュースにも反応なしのハズレのようですので、そちらに合流しますわ』
 返ってきたのはノイズまじりの少女の声、監視対象Aを担当していた霧城・ちさ(夢見るお嬢様・f05540)のものだった。
『でも距離的に少々時間がかかりそう。足止めをお願いできますかしら』
「了解シタ。本機ダケデ先二突入スル」
 そう答えるとカイジはさらに加速、歩行者を巻き込まぬように建物の上へと上がり、同じ速度で屋根の上から上へと飛び移る。見えた。送られてきた特徴通りのコミューター――UDCアースの自動車に相当する――が制限速度ギリギリの速さでどこかに向かっている。
「試シテミルカ」
 カイジは一言呟くとさらに跳躍、コミューターの予想進路上の道路中央に着地する。近づいてくるコミューターに向かってその進路を阻むように向き直り大きく両手を挙げた。
(「一般人ナラ止マルハズ。『帝国』ノえーじぇんとナラ……」)
 止まらないだろう。カイジの特徴ある姿は即座に猟兵と判断されるはず。そんな予想の通り、コミューターは停止するどころか制限速度を超えて加速する。轢き飛ばす気だ。運転席の男の能面のような表情さえ見えてくる。
「……容疑者確認」
 カイジはぎりぎりまで敵を引きつけるとユーベルコードを発動。黒い旋風が渦巻いたと見るや猛牛の突進をかわす闘牛士のように一瞬で脇に跳びのき、さらに真横を通過するコミューターを凄まじい勢いで蹴り飛ばした。一瞬宙に浮いたコミューターは下腹を見せて横転し、二回転半してようやく停止する。運転席から這い出してきた男の顔をカイジは注視した。人工表皮とその下の人工筋肉が半ば剥がれ、顔の右半分はドロイドの地肌がのぞいていた。
「少々、オ付キ合イ願オウ」
 抜いた剣を突きつけ、そう告げた瞬間。
「!!」
 後方に何かが立ち上がった気配を感じた直後、強烈な打撃が背中から襲った。思わず片膝をついて振り返ると、ひしゃげて外れたドアを手にした甲冑ドロイドが生気の無い眼を向けていた。
「××××××!」
 商人に化けていた人型ドロイドが得体の知れない言葉を発すると、甲冑ドロイドは再び容赦なく扉をカイジの顔面めがけて何度も叩きつける。機先を制され防戦一方となったカイジが反撃の糸口をつかめずにいると、最後に扉をカイジに投げつけた甲冑ドロイドは軽々とコミューター本体を持ち上げ、さらにカイジに――――。
「てえええぇぃっっ!」
 奇妙に甲高い声が響き渡り、直後に甲冑ドロイドがぶっ倒れた。自身が持ち上げたコミューターがその上に落下し、金属同士がぶつかる嫌な音を響かせる。
「……ちさカ」
「主役は最後に登場するものですもの」
 走りざまに全力の跳び蹴りをぶちかましたちさは、何とか立ち上がったカイジのフェイスカバーで覆われた顔に向かって、にっこり笑顔を浮かべて見せた。
「その分、仕事はさせていただきますわ。……さて」
 ぐるりと周囲を見回す。コミューターの下敷きとなった甲冑ドロイドは、力に任せてコミューターを横の撥ね除け、起き上がろうとしている。一方、人型ドロイドは形勢不利とみたか二人に背を向けて。
「……もらった資料にありましたわね。確かあちらにはエアロックが」
「船外ニ逃ゲル気カ」
 カイジの頭部センサーが光った。
「もちろん不許可ですわ。まとめて片付けますわよ!」
 ちさは勇ましくそして可愛く、手にした魔法のピコピコハンマーを振り上げ。

 そしてこの宇宙船の未来をかけた、最終決戦が始まる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雨咲・ケイ
年貢の納め時というやつですね。
観念してもらいましょう。
監視対象Bに動きがあればBを、なければCを追跡しましょうか。
逃走はなんとしても阻止せねばなりませんので、
エアロック等の脱出に使用されそうな場所は把握しておきましょう。
逃走経路を推測して、味方や協力者と連携しながら追い詰めていきます。
戦闘での撃破順は甲冑型より人型を優先しましょう。
【サイキックブラスト】の【感電】と【2回攻撃】を駆使して戦います。
可能であれば地の利を得られる場所で戦いましょうか。



 ――逃走する『帝国』のドロイドたちと猟兵たちの激突、そこからわずかに時は遡る。
「これは……」
 仲間に敵の動きを告げ、自身も戦場へと向かおうとした雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)は、ふと何かに気づいたように足を止めて、視線を宙に彷徨わせた。放っていた【影の追跡者】からの情報だ。
 敵基地から得たデータを元に分析された、『帝国』とのつながりが窺われる商人は3人。仮にA、B、CとつけられたそれのうちCは帝国基地壊滅のニュースの発表同時に即座に逃走を開始していた。Aは動きがない。だがBは。
「……何か、匂いますね」
 Cと違っていきなり動き出したわけではない。しばらくニュースに見入り、それからしばし何かを考え込むようにして、やがて部屋を出てだけだ。だがその動きは、古武道を修めていたケイの勘にどこかひっかかるものがあった。普通だが普通ではない。強いて言えば、それなりに熟練した者が、わざと腕前を隠して不器用に振る舞っているのを見たときのような印象だ。
 ケイは少しうつむいて人差し指で眼鏡を押さえて考え込み、やがてやや伝法な口調で呟いた。
「ここは、俺の感覚を信じてみるか」
 その十数分後。
 やや早足で宇宙船内の商業区画の街路を歩む一人の長身の男の、その進路を塞ぐように立ったケイは穏やかな微笑を浮かべていた。
(「あれ、猟兵?」)
(「猟兵かな?」)
(「猟兵ね。私、初めて見た。可愛い!」)
 いわゆるスペースノイド標準の服装とは異なる彼の服を見て、周囲の人々が足を止めて囁き交わすなか、その男はわずかに顔色を変えて歩調を緩めた。少し置いて、再び足を速めて横を通り過ぎようとするその脇から、ケイは声をかけた。
「ご同道願えますか?」
 振り返った男の表情を見て、ケイは確信した。
(「間違いない。ドロイドではないようだけれど……人間の協力者か」)
 己の利益だけで動くものはどこにでもいる。そう考えたケイに向かって、男はいぶかしむような表情を作って問いかけた。
「何だ、君は」
「猟兵です。雨咲ケイと申します。先ほどの臨時ニュースを見られていたと思いますが、その件でお伺いしたいことがありまして」
 ケイがわざとのんびりと答えると、男は肩を竦めるような仕草をした。周囲の目があるこの場を、まずは穏便に切り抜けることを選択したようだった。
「何のことかな……と言いたいところだが、例の件だな。それならこちらからも最新情報がある、協力しよう」
「助かります。ではこちらへ」
 相手の演技に合わせるようにケイは軽く一礼した。先導するように歩き出し、徐々に人気のない道へと導いていく。わざと背中をさらしたまま3つ目の角を曲がろうとしたところで、いきなり攻撃が来た。右手に持った何か――脇下かベルトの背中側にでも隠していたらしい――が瞬間で伸び、ケイの首筋めがけて伸びてくる。
(「素人ではないな」)
 十分にそれを予期していたケイはそのまま身を沈めてかわし、振り向きながら一歩跳び下がって間合いを取った。即座に追撃をかけてきた男の右手の棒の先端にわずかに奇妙な力を感じる。
(「スタンガンのたぐいか。それなら」)
 遠慮はしない。
 ケイは両手を身体の前で構えると、今度は正面からのど元を狙う警棒の突きを手首の返しだけで払った。そのまま左腕を伸ばし、開いたままの手で相手の顔面を覆う。指を曲げた。
「っっ!!」
 男が警棒を取り落とし、両手で顔を覆ってよろめいた。目潰しは眼球を抉らずともその表面を傷つけるだけで簡単に大の大人の戦闘力を奪う。さらにケイは前屈みになった男の髪を掴んだ。一度大きく振り上げると、そのまま一歩前に出して立てた己の右膝に、容赦なく男の顔面を叩きつけた。
「!」
 骨にひびでも入ったか、嫌な異音と共に全身を痙攣させた男の首筋に、躊躇わずにとどめの手刀を振り下ろす。男はそのまま地に伏せて昏倒した。
「やれやれ。こちらの業を使うのは久しぶりでしたが」
 ついとった古武術の残心の態勢から、構えを解いたケイは苦笑した。個人の権利でも盾にとって逃げ切られたら面倒だったが、この行動は自分から罪を白状してくれたに等しかった。あとはここの自治警察に引き渡せば、然るべき調査をして全てを明るみに出してくれるはずだ。これでこの船における、銀河帝国の活動の根はほぼ断ったと考えていいだろう。100%といっていい戦果だ。
「後は奴らだけですね」
 ケイはそう独語すると、顔を上げて仲間がドロイドと死闘を繰り広げているであろう方向を見やった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイジ・レッドソウル
コレデ終ワリダ
黒風鎧装デ真ノ姿ヲ強化
黒剣、呪剣ニヨル[2回攻撃][串ざし]
ソシテ[天獄の雷]デ高圧電流ヲナガス
「逃ス気ハ無イ」
[なぎ払う]剣
敵ノ攻撃ハ、モウ片方ノ剣デ[武器受け]

コレデ戦闘ヲ終ワラセ
「任務完了」
ト言イタイナ

共闘、あどりぶ歓迎


雨咲・ケイ
では、私もドロイドの後始末に向かいましょうか。
敵の増援や伏兵、通信にも警戒しながら追跡と戦闘を行います。
移動と追跡は協力者の情報を得てスムーズに
行えるようにします。
逃げられては困りますので、撃破の優先順は
人型>甲冑型としましょう。
戦闘では【2回攻撃】を活かしながら、
【サイキックブラスト】の【感電】と【気絶攻撃】を駆使して、
敵の動きを止め、逃走は何としても阻止します。



 逃亡を図る『帝国』のドロイドとの闘いは想定を超えて長引いた。
 原因は場所の悪さだった。外れとはいえ市街地の一部に属する区画の、現在も使われている公道上だ。続く戦闘音……物音に何事かと思った近隣の住民が覗きに来るし、一部はさらに野次馬となって遠巻きに猟兵対『帝国』のリアルバトルの観戦を始める始末だ。人命が第一である猟兵としては、どうしてもそちらの警告と避難誘導、封鎖に一定の人手が割かれてしまう。だから人型と甲冑型、二体のドロイド相手の戦闘は、カイジ・レッドソウル(プロトタイプ・f03376)が実質的に一人で受け持つことになった。
「逃ス気ハ無イ」
 冷徹な宣言と共に黒い颶風を纏った巨体が獣のようにしなやかに動く。あくまでもその場から逃げだそうとする人型ドロイドの進路を塞ぎ、脇から襲いかかる甲冑型の突進を右手の呪剣で抑え、左の手から雷光を放つ。すでに戦い慣れ、ドロイドたちの動きをある程度読めるようになったカイジに隙はない。人型が隠し持っていた銃器での攻撃も、甲冑型が力任せに繰り出す体当たりや鋼の豪腕の一撃も、カイジは難なく剣で受けとめあるいは捌き、優勢に戦いを進めていた――が。
(「決メ手ニ欠ケルカ」)
 カイジの頭部センサーが考え込むように明滅した。1対2、それも逃亡を図る相手との戦いとなると、どうしてもその動きを封じることが優先される。いきおい全力の攻撃よりも牽制の技が多くなり、手傷は負わせられてもなかなか機能停止まで追い込めない。長期戦を覚悟し、周囲の状況が悪化を頭の片隅で懸念したそのときだった。見覚えのある小柄な人影がカイジの視界の隅に映った。
「……けいカ」
「お待たせしました!」
 基調の色は同じ黒でも荒れ狂う暴風を思わせるカイジに対し、黒い疾風のように一直線に闘いの場に飛び込んできたのは、敵方の協力者の始末をつけた雨咲・ケイ(人間のクレリック・f00882)。向き直りかけた甲冑ドロイドに速度をそのまま衝撃に変えた跳び蹴りを叩き込み、さらに空中で身体をひねって敵の頭部に後ろ回し蹴りを喰らわせてから膝を曲げて着地した。
「向こう側の協力者はこちらの協力者組織に任せました! 通信その他を確認してもらいましたが、他に動きはなさそうです!」
 まずは情報の共有と状況の確認。ケイの早口の伝達に、カイジは反撃を己に向けてきた甲冑ドロイドの重い蹴りを受け止めながら答えた。
「了解シタ。ツマリ……」
 こいつらの始末で猟兵の仕事は完了する。
 カイジは頭部のフェイスカバーごしに、ケイは眼鏡越しに互いの視線を見交わし、直後に期せずして背中合わせの態勢になった。ケイの前には人型。カイジの前には甲冑型。
 軽量のケイのほうがわずかに先に動いた。向けてきた銃口に対して防御態勢での突進と見せかけ、放たれる瞬間にさらに身体を沈めて地面すれすれの低い姿勢でさらに加速、右手を敵の膝に当てる。
「ギグワ!?」
 ケイの掌から迸った電撃に人型ドロイドは全身を痙攣させた。ケイは容赦なくその背後に回り込んだ。落ちかかる敵の膝の後ろに己の足裏を当て一気に踏みつぶし、強制的に膝をつかせる。目の前に来た敵の頭部に左腕を巻き付け、完全に動きを封じてから右手を敵の耳にに当てた。ユーベルコードを全力で解放した。
「!!」
 今度は言葉すらなかった。周囲の風景をしばし電撃の光が鮮やかに彩ったあと、ドロイドは耳と口に当たる部分から煙を吹き出した。ケイが腕を緩めるとそのまま前のめりに倒れ、もう動かなかった。
「ふう」
 止めを刺し終えた少年が軽く息をつき、振り返ると同時に凄まじい金属音が周囲に轟いた。凄絶な力を込めて袈裟懸けに振られたカイジの呪剣が、受け止めようとした甲冑ドロイドの両腕をまとめて斬り落としたところだった。
「ゴガア!」
 手負いの甲冑ドロイドは吠えた。両腕を失ってなお前に出た。そして思いも寄らぬ行動をとった。金属の牙で噛みついたのだ。
「……」
 カイジは呪剣を持った右腕に噛みついた敵の姿を見下ろした。頭部センサーが瞬いた。
「闘志ハ認メル。ダガ先ニ告ゲタトオリ」
 左手を背後に回した。黒い刀身の剣を抜く。
「逃ス気ハ無イ」
 宣告と同時にカイジの全身を覆う黒い気が一気に爆発した。同時に強力な蹴りが飛んだ。圧倒的な暴力でもぎ離されたドロイドは後方に吹き飛ばされ、しかし何とか転ばずに踏みとどまり。
 その直後に奔った二筋の剣の軌跡は、遠巻きに戦況を見守る人々の目には、黒い閃光にしか見えなかった。右袈裟と左袈裟、呪剣と黒剣、左右同時の斬撃は甲冑ドロイドの肩口から入って反対の腰の脇まで、斜めの十字に敵の身体に斬り込んで。
 さらに剣から発した強烈な雷光が、落雷そのものの輝きをもって再び周囲を彩った。やがてその光が消えたとき、ゆっくりと音を立てて地面に崩れ落ちた甲冑ドロイドは、金属と有機体の混ざったただのガラクタと化していた。
「任務完了」
 カイジが静かにそう告げた。
 やや間を置いて。
 止められても避難を促されてもなお遠くから戦闘の様子を窺っていた群衆が大歓声を上げた。協力者たちや現地警察、猟兵たちの制止も聞かずに次々に駆け寄ってくる。小柄なケイはそのまま抱え上げられて胴上げされ、巨体を誇るカイジはそうはいかなかったがもみくちゃにされた。
「…………」
 カイジは対処に困ったようにセンサーを瞬かせ、首を曲げてケイの方を見た。ケイは何度も宙に放り上げられながら苦笑で応じた。
「役得、と言うんでしたっけ。たまにはいいんじゃないでしょうか」
「……ソウダナ。コレが『勝利ノ美酒』トイウヤツカ」
 駆け寄ってきた己の身長の半分ほどしかない子供の頭に手を置き、軽く撫でてやりながらカイジが応じた。ケイの苦笑が素直な笑顔に変わった。
「はい。ともかくこれで、完全に……」

 ミッション・コンプリート。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月17日


挿絵イラスト