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平凡で何でもない、けれど大切な日常の一コマ

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折部・結衣




 平日は学校へ、放課後や休日は友人と遊んだり、はたまた自分の好きなように過ごしたりと、よくある日常の風景……ただそれは世界の裏側を知らなかった場合のこと。
 |能力《ちから》の覚醒と共にそれを知ってしまった折部・結衣(折り紙使い・f40163)は何気ない日常を過ごしながらオブリビオンとも戦うという二重の生活を送ることに。とはいえ、表と裏を同時に目に映せるはずもなく。
 とある休日、何気ない、けれどこんな日を迎えることこそ大事なのだと知った結衣は、訪れたモールで困りごとに直面してしまう。
 まあ、日常を脅かされるようだから赴いてやっつけてきてー、みたいな猟兵案件ではなく、親とはぐれた迷子って困りごとだけど。
 とにかく、こういった事にはおせっかいを掛けられずにはいられない性分であるから、一番身近で頼れる保護者が見えず、周りは見知らぬ人ばかりで不安そうにしている少年に声をかけたのだ。
「ねえ? 大丈夫? どうしたの?」
「……え? あ…その」
 けれど、どうしたらいいのかと悩んでいる状態で突然見知らぬ人から声を掛けられたことで、抱えていた不安はさらに大きくなったのか、少年からの返事はしどろもどろ。
 こうまであからさまではもはや迷子であるとのは間違いなく、さすがに精神的に不安定なんだろうな……と察した結衣は、彼を怖がらせたりしないよう、身をかがめて視線を同じくさせてもう一度どうしたのかと問いかける。
 上から覗いてくる威圧感を失くし、さらにはしっかりと話を聞いてあげるよ? そういった姿勢を空気を作り出したことで少年は幾分か安心したようで、ぽつりぽつりと今の状況を語りだしてくれたのだ。
 曰く、お休みだからとお買い物に付いてくる形で遊びに連れてきてもらったのはいいのだけど、いつのまにか見えなくなってしまったと。
 今の状況を人に話すしたことである程度整理できたのか、語っていくほどに不安よりも大人が迷子になるなんてどうしようもないなぁ、なんて態度になっていく少年。単純に自分がはぐれてしまったと認めたくない強がりなのか、歳が離れてるとはいえ結衣って女の人に良い恰好を付けたいのか……。
 ただ結衣はわざわざ強がりだなんて指摘なんてしない。したら却って意固地になってしまうかもしれないのだし。
「へえ、そうなんだー……仕方ないねー、なら探す? 私も一緒にしてもいいかな?」
 かわりに少年の言い分を前面的に認め、受け入れながらも、なら探してみようかと促してあげるのであった。

 そういうことで急遽始まった少年の保護者探し……いやまあ、結衣にとっちゃこういう手助けをしちゃうのはよくあったりすることだけれども。
 ともかく探す場所は休日ということで沢山の人達が行き交うモールである。この中から特定の人を見つけるのはよく考えなくても至難の業であるのは間違いなく、そもそも、探すのを手伝うと申し出ても人相から服装と、詳しく知ってるのは少年だけで、特徴に当てはまったとしてもその人が保護者であるのかちゃんと見るまでは判るものではない。だからって手を貸すことは既に申し出ているのだから、出来ることをやるだけである。
 そんな使命感にも似た思いに突き動かされた結衣が取り出したのはまだ何の形にもなっていない折り紙の束。
「なに……それ?」
 いきなり何取り出してんの? 探すんじゃなかったの? なんとなくそう言ってそうなジト目を少年がしちゃうのは仕方ないだろう。なにせ結衣が手した折り紙は正真正銘、ただの紙なのだから。だがそれは一般的な人であったらの話、ある意味、逸般人となっている彼女であるなら、ただ何かしらの形に折る以外の使い道があるもの。
「まあまあ、ちょっと待ってね、そうすれば面白いの見せてあげられるから」
 少年に少し待つよう言いながら折り紙で折るものとして一般的であろう鶴を作り上げれば、出来た作品を掲げるように手の平に乗せて見せる……ここまでなら普通、ただ結衣はそこから一工程。
 命を吹き込むかのように息を掛ければ、無機物であった鶴の折り紙は鳥のように羽ばたき、宙に飛び立ったのだ。
「何それ! なにそれ!? どうなってんのっ!?」
「ちょっ!? 近い、近いからっ!」
 まずありえない光景に、少年は驚きと興奮をない交ぜにしてどうしてと連呼しながらちょっと処ではない距離にまで詰め寄ってしまい、結衣はそんなに詰めなくてもいいからと落ち着かせる羽目に。まあ……良い気晴らしにはなったみたいだから、良しとするべきだろう。
「……あ、ご、ごめんなさっ!」
 少年、ようやく結衣の顔に自分の顔を近づけすぎていたことに気づいて慌てて離れるのだが、若干朱が差しているの気のせい、とは言えないかも?
「ふぅ……とにかくね? あの折り鶴を飛ばしておけば、対象も見つけやすくなるよ!」
「あ、あぁ、そうなんだ……」
 その辺りの機微には結衣は気づかなかったらしく、どうして折り紙で鶴を折ったのか、その説明をしてあげるだけであったが。
 気付かれなかったことにホッとするやら、ちょっと残念やらな、なんだか複雑そうな顔を少年が浮かべていたけれど、超常な現象にまだ困惑している、みたいな風にも見えなくもないのだし。
 とりあえず、その辺りの事は置いておいて、飛ばした折り鶴との感覚を繋げた結衣は、鳥の形らしく空からの視点で少年から聞いた特徴を持った保護者を探し回る。
 人も多いしどれだけ時間かかるかなぁと、そこだけは悩みであったけれど、子がいなくなったことで慌てた様子の大人が見えたことで、この女性かもと当たりを付け、ついで特徴に当てはめていけば、それも合致。
「……見つけたかも? ちょっと確認しにいこう!」
「ほ、ほんと? う、うん、わかったよ」
 見つけたといった結衣の言葉には半信半疑といった少年であったが、手を握られてしまえば逆らうこともなく着いていく。
 まあ、結衣の一連の行動を振り返れば、折り紙で作った鶴を飛ばすなんて超常を見せられたと思えばここでジッとしたその後に「見つけた」なんだから、ありえないと、ありえそうの二つがせめぎ合ってる故もある。
 少年は結衣に手を手を引かれる状況のまま、実際に見つけたといった女の人の下に歩幅を合わせてもらいながらゆっくりと、けれどできるだけ急いで向かう。
 そして、その人の下に辿りつけたのなら……。
「あっ! あの人だよっ! 見つけたっ!」
「…っ! あぁ、もうどこ行ってたの!!」
 どうやら当たりであったらしい、少年とその母を、ようやくと再会させることができたのである。
 見つけた途端に母の方に飛び出していく様子は年相応な子と言った感じであった。
「もうっ、はぐれちゃダメじゃん!」
「何言ってるのっ! はぐれたのはそっちでしょ!」
 その流れで始まる、先にどっちがはぐれたのかの押し付け合い。
 まあ、実の親という安心できる存在と、姿が見えなくなった我が子と、やっとのこと見つかったことによる一安心からの茶番だ。
 結衣は目の前で繰り広げられていく寸劇を無粋な口出しをしないまま、微笑ましく見守るだけ。
「ぅ……と、そうだ、あのお姉さん、母さんのこと見つけてくれたんだからねっ!」
 その微笑ましい視線に気づいた少年はやたらと子供っぽい所を見せてしまった恥ずかしさから、誤魔化そうとする勢いでちょっと語尾を強めてしまいながらも結衣に手伝ってもらったと母に伝える。
「そうなの? ええと、助けてくれてありがとうね?」
「すごかったよー、折り紙の鶴が空飛んだりしてさっ!」
「……いや、あなた、何言ってるのよ?」
 どうやって見つけたのかを、だいぶ端折りながらの伝え方であったから、実際に目にした少年はともかく、母親には何の話なのかさっぱりすぎて要領の一つも得られず、であったけれど。
 とにかくも、迷子になっていた少年は親との再会を果たしたのは確かなこと。
「それじゃあ、私はもう行くね。それじゃあ」
「あ、待って! どうもありがとう!」
 もう自分の手助けは必要ないだろうと、結衣は小さく手を振りながらその場を後にしていき、対した少年はこれでもかと腕を大きく振り返して雑踏に消えていく姿を見続けていた。
 さて、これでおせっかいは終わり、なんだから、今度は自分に時間を使おう、そう思い直して、結衣はモールの中を歩いていく。ただ……少年の初めての恋心を奪ってしまったということに気づくこともなく。気づけって方が酷ではあるが。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年04月26日


挿絵イラスト