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とある幼馴染の悚然たる休日

#UDCアース #ノベル #一ノ瀬・帝 #知花・飛鳥 #夕狩こあら

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知花・飛鳥



一ノ瀬・帝




●A horror holiday spent with friends from infancy.――Mikado's Home/UDC-Earth

 颯爽とした長身に端整の顏を乗せた一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)は、涼やかな|眼眸《めつき》も相俟ってクールな印象を持たれがちだが、実際、彼が感情を搖らす事は餘程ない。
 また、恋めく春風に誘われるような男でも無かったが、麗らかな一脈の薫風に觸れるや、ついと鼻先を向けた。
「なぁミカ~。今週末、何か予定ある?」
 親しげに名を呼ぶ爽涼のテノール。佳聲の主は知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)。
 鴇色に艶めく花脣が緩やかに西の抑揚を滑らせば、帝は伏し目がちな佳瞳に交睫ひとつ、切れ長の眼眦に黑橡の彩を寄越して答えた。
「特に無いから、家で映画のDVDでも見ようかと考えている」
「へぇー、映画鑑賞会か! ええなぁ充実しとって。リア充や」
「……リア充では」
「立派な予定やで」
 とても良い休日の過ごし方だと、ふくふく|咲《え》む飛鳥。
 初夏の風に搖れる髪は淡い櫻色を煌かせ、サラと梳る前髪の奥、紫苑の玉瞳が優しげに緩む――昔から竟ぞ變わらぬ幼馴染の橫顏を瞶た帝は、次いで樂しげに零れる科白に幾許か目を瞠った。
「週末、ミカん家に行ってもええ? 俺も一緒に見たい!」
「――いいぞ」
 社交的な飛鳥がインドア趣味に附き合うのは少し意外に思われたが、即答する。これも昔から變わらぬ事。
 蓋し、この一瞬に抱いた「意外」が後の齟齬を生む事になるとは、帝も飛鳥もこの時点では気附く由も無かった。

  †

 ――そして、週末。
 約束通り飛鳥は帝の自宅へ、玄関に仲良く靴を竝べたのだが、帝がこの週末に消化する予定だというDVDの山へ手を伸ばした彼は、その赫黑く錆めいたジャケットに思わず|繊指《ゆび》を退けた。
「ちょちょちょ!! これホラーやん!? 井戸から黑髪が出てくるやつやん!?」
「それはジャパニーズホラーだ。俺が主に見るのはスプラッターという、血飛沫や内蔵がよく出てくるやつで」
 ジャンルの違いを示すように一本のDVDを取り、裏面の説明を見せようとすれば、血錆に塗れたチェーンソーの絵を兩手で遮った飛鳥は、雪嶺の鼻梁を餘所に向けて云った。
「細かく解説せんでええわ! あぁ嫌やー! 怖いの見とうないー!」
 ホラーもスプラッターも怖いのは同じ。
 堪忍やと肩を竦める飛鳥を眼鏡越しに瞶た帝は、噫、彼は仲の良い友人らに「ビビり」だと弄られる事もあったと、幼少期の気弱な面影を一瞬だけ重ねると、緩く首を振った。
「……仕方ない。今日はやめておくか」
「えっ」
「折角來てくれたのに、飛鳥が嫌がるものを見せるのは申し訳無い」
「それはなんか悪いような……行く言うたの俺やし……」
 飛鳥が無理に趣味に附き合う事は無いし、帝とて無理強いはしたくない。
 而して腐るものでも無いと、帝が靜かにDVDを戻せば、飛鳥は彈かれたように口を開いた。
「っ、ええい! 見る! 俺も見たるわ!」
「見られるのか」
「おっおう……スプラッターチャレンジや」
 佳聲が上擦り、紫瞳も泳いでいるが、帝が「面白い」と思う要素を己も感じられるかもしれないという期待もある。
 ぎゅうと拳を握りながら云ってみせる飛鳥を隣に、帝は淡然たる儘、銀盤をプレイヤーに吸い込ませるが、彼はメニュー画面で言語や字幕を選択する傍ら、幼馴染の弱々しい呟きを聢と拾っていた。
「……人気の新作とか、王道の名作とか……勝手に期待したんは俺やし……」
「生憎そういうのは無い」
「……ちゅーか、ホラー見るなら先に言うてくれやもうー!」
「聞かれなかったし」
 リモコンを手に云えば、背越しにボスンッとソファへ身を預ける音がする。
 花脣より零れる溜息ごと彈力に埋もれた飛鳥は、「慥かに聞かんかった……」と過去の自分を呪っているようだが、その囁きを耳に掠めた帝は、その呪詛は己が受け取るべきと胸裡に祕める。
(「――言ったら、来てくれなかったかもしれないし」)
 涼しげな麗顏に感情の色は浮かばぬが、其の實、帝は己の心の襞に息衝く想いをハッキリと自覺している。
 幼少期から變わらぬ感情の名は、“LOVE”――Level Of VEhemence.飛鳥と時を過ごす程に輪郭を露わにする愛しさは、然し彼を想うほど、彼がそうでは無い事を教えてくれた。
 帝はソファに橫伏った飛鳥の隣に座りざま、ほつりと科白を零し、
「|狡猾《ずる》かったら済まない」
「いや、ミカが嘘吐いた訳やないし」
 而して直ぐに返る佳聲の朗らかさに、長い睫をそと伏せるのだった。

  †

 スプラッター映画は好きだ。飛鳥はそれ以上に好きだ。
 畢竟、大好きな飛鳥と一緒に惨憺の世界に没入する「映画鑑賞会」は、帝にとって「最高の休日」であったろうが、上映中に噎び泣いたのは飛鳥の方だった。
「ひゃあっ!! あかん、死んでまう!!」
 ソファに預けていた身が跳ね起きたのは間もなくの事。
 大きな聲を出すなりビクゥッ! と繊麗の躯を震わせた彼は、眞赫に染まりゆく画面とは逆に花顏を眞靑にすると、ゆったり背凭れに寄り掛かっていた帝に近付き、寄り添う。不安な時は誰かを頼りたくなるものだ。
 序盤のびっくりシーンで見事に絶叫した飛鳥は、それから帝にぴっとり肌膚を寄せて觀続けるが、生地越しに伝わる彼の体温が心地好いとは祕密の話。
「大丈夫か」
「嘘やろ……血だらけや……俺やったら気絶してまう」
「飛鳥」
「うわあぁーっ!! 逃げやーっ!!」
 時に、一際の聲量が帝の鼓膜を震わせるが、間近に迫る荒い息遣いは、生々しい臨場感として受け取る。
 日頃、映画を觀る時は洞察力を高める己に對し、表情豊かに感情移入していく飛鳥の方が、作品に對してより誠実なのではと感心した帝は、ぎゅうと縋み附く腕の強さを密かに嬉しく思った。
「ふゃっ……今、見えた……?」
「腸だな」
「あぁぁ言わんでもええ……っ」
 恐怖でいっぱいの飛鳥は、己がみっちりと帝にくっついている事にも無自覺であろう。何せもう半泣きだ。
 一番の親友に弱みを見せる事に躊躇いは無いと、飛鳥は昔から變わらぬ友情で帝を抱き締めている訳だが、どれだけ彼に觸れても、己に向けられる感情の正体には気附いていまい。
(「――それでいい」)
 表情や聲色をくるくると變える飛鳥を好いている帝は、スッと通った鼻梁を画面に結んだ儘、流眄に彼を瞥る。
「なんちゅうエグさや……」
 甘さを漂わせるタレ目気味の目元の怯えた樣子や、シャツに皺を作りそうなほど握る手の強さ。
 ゴクリと緊張を嚥下する咽喉も、恐々としながら登場人物の無事を祈る|星眸《まなざし》も――今は唯々、愛おしい。
「本当に無理だったら、止めるから」
 不覺えず抱き寄せたくなる華奢な肩を一瞥し、手はソファに置いた儘、心配だけを置く。
 こっくりと首肯だけ返す飛鳥の集中を見た帝は、またも上がる恐怖の悲鳴を靜かに聽くのだった。

  †

「あーーめちゃめちゃ疲れた……寿命50年くらい縮んだ……」
「あれだけ叫べばな。――とまれ、お疲れ樣」
 再びメニュー画面に戻るDVDを取り出さんと帝が動けば、空いたスペースに飛鳥がくったり沈み込む。
 見事にスプラッター映画を“完走”した彼は、少し枯れた聲で帝に問うた。
「なぁ俺、老いてへん?」
「大丈夫。うら若き高校二年生の儘だ」
「ほんまに?」
 恨めしそうに上目遣いで見てくる親友に、「ほんま」と関西弁を眞似て返すのは、ささやかな|諧謔《ユーモア》。
 そうして二、三言を交しつつ、帝が銀盤を仕舞おうとすれば、ケースの裏に描かれたグロテスクなシーンに目を留めた飛鳥がまた蒼褪めた。
「ここ、キツかったわ……」
 ゲッソリとした表情で言う幼馴染に、帝が或る提案をする。
 飛鳥をこの状態で返すには忍びないか、彼は壁の時計に視線を遣りながら云った。
「何か昼食でも食べに行くか」
「内臓が轉び出るのを見たこの流れで?」
「良い時間だと思うが」
「あんなん見た後に食欲なんて……」
 櫻脣をやや尖らせて云った矢先、ぐう、と腹の虫が鳴る。
 主人に代わって空腹を主張した腹を手に宥めた飛鳥は、花のおもてを持ち上げると、悔しそうに云った。
「……やっぱ行く」
 漸う身を起こす己を援けるべく、スッと差し伸べられる手を素直に取る。
 頼もしい手を握った飛鳥が帝の目線に近附けば、普段通りの無表情と笑顏が結ばれた。
「扨て、何處に行こうか」
「ミカは食べたいものある? 俺はさ……――」
 何気ない会話が跫音を運ぶ中、玄関では靴が二足、仲良く並んで二人を待っていた――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年04月26日


挿絵イラスト