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錆びて、閉じて、消え去って

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東雲・黎




 これは、俺、東雲・黎(昧爽の青に染まる・f40127)の高校生の時の記憶で、街も人も歪んで見えてしまって、自分すらも化け物だと見えてしまった出来事。


 UDCアースのとある男子高校。ここにサキュバスである黎は、当時、人間として通っていた。

 最後のチャイムが鳴ってどれ程の時間が経っただろうか。近くのバス停を夕暮れが照らす頃。
部活もそろそろ終わる気配がする中、黎と同級生の男子が数人、教室に残っている。他には誰もいなくなった夕暮れ差し込む教室で、同級生たちは笑い、話す。一方の黎は、俯きがちでグッと唇を噛みしめて黙り込んでいる。
 黎を囲むように位置取った状態の彼らは、高校生としての成長期を迎えた男子生徒たち。それなりの身長で、体格……骨格、筋力ともにがっしりと、個人差はあれど、それは男性の体格そのものである。
 一方、囲まれる形の黎はというと、同年代の高校生に比べると小柄で、女子高生と、もしかすると同じくらいの身長だろうか。細身で、がっしりとした印象とは程遠い。青っぽい黒の髪は外ハネ癖で、やや長く。夜明け色の瞳は伏せがちにされている。そして親から譲り受けた顔は、中世的な顔立ち。女子と間違えてもおかしくないだろう。
「でっさー、俺の姉ちゃんの下着がさ……おい、黎、話し聞いてんのか?」
「……っ!!き、聞いて、る……。」
 男子生徒の一人が、仲間たちとの会話を聞いていなさそうに見えた黎に怒鳴るように声をかける。
 聞いているというより、聞こえている。聞かされている。
 それは、年ごろの男子ならば興味を持たないことはないだろう、少し大人な、率直な言い方をすれば性の話。姉の下着が見えただの、週刊誌の表紙の水着がどうだの。人間が持つ三大欲求が一つの話だ。
 サキュバスであってもなくても、黎にもないわけではない。寧ろ、その種族故に身近である。
「なあ、こいつに女子の制服とか似合うんじゃね?」
「うっわ、それわかるわー!マジでクラスの奴らより似合うんじゃね?」
「誰かもってねーの?」
 性という欲望。それは人間の愛情表現の一つで、快楽を得られる行為でもあり。サキュバスはその快楽の渇望から解放された淫魔の種族で。黎は、人間に対して欲情と同じく愛情も持っていて。愛情表現の一つだと認識していて……。
 黎が、己の内に抱く情を感じている間にも、話しは進む。
「え、ぁ、女子制服なんか……。」
 と、やっと聞こえ飲み込めた言葉に対して、否定する声はか細く小さくなる。今までこの生徒たちに逆らったら起きたことを思い出す。
「むしろさぁ……このままヤッた方が興奮しね?」
「お前、天才かよ!いいな、それ。誰もいねーし。」
「おい、そいつの腕掴んどけよ!」
「!?な、やめ……っ!」
 黎が話を飲み込み切れないでいる間に、2人の男子生徒に腕をがっちりと拘束される。
 やるって何を、誰に。そう疑問に思う間に、制服のベルトに手をかけられる。カチャリと金属の無機質な音が嫌に耳に響く。破くように引きはがされたワイシャツからボタンが幾つか飛ぶ。顕わになった黎の肌は、傷一つなく、誰の手にも汚されていない絹のようで。
「ひゅぅ。いーじゃん、これ。」
「……声、出すんじゃねーぞ。」
「やめろよ……やめっ……っ!」
 拒否する言葉を止めるように、口内に指を数本突っ込まれる。息が詰まって、唾液が飲み込めない。逃れようと暴れても、体格差で殆ど意味のない行動になる。そうこうしている内に乱暴に制服を脱がされる。
 真正面の男子生徒が、自身のベルトを解く音が、嫌に響いた……。



 日がとっぷりと暮れた教室に一人。
 乱れた衣服を手繰り寄せて、すすり泣く生徒が一人。夜明け色の瞳が映すのは、悔しさと絶望と。欲動に巣食った愚かさに踊らされ、人に情を抱くとはこういう事なのかと思い知らされた黎。
 愛情とは、こんなにも痛く、酷く苦しいものなのか。
「俺は……こんな衝動、向けたくない……。」
 誰もいなくなった教室で、ぽつりと呟く言葉は、自分に向けて。

 黎は、自身の奥の更に奥底にある、箱に物を入れて鍵をかけるように、“愛情”を自身の内に封じた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年04月25日


挿絵イラスト