月白・雪音
MS様の担当されている猟兵とのバトルシーンなどはいかがでしょうか。
まず前提として、雪音は魔力や呪力、霊力、闘気、その他使用した時点で結果が確定するUC(切断するとか破壊するとか)等のいわゆる異能の類を『一切』使えません。
戦闘スタイルは手甲や足甲を含めた武具を一切使わない無手の武術。
キャバリア等の乗機も使用しません。
修めた古い武術は現代のルールが明確化された格闘技の概念が生まれる前の時代に確立されたものであり、
気合いの声も音も無く、『敵を最高効率で破壊する』役割、要は殺す事に特化しています。
その武術をUCの域まで練り上げたものが雪音の唯一使える拳武(ヒトナルイクサ)というUCですが、
『武とは振るわず終わる事こそ真髄』、力に呑まれぬ精神こそが武の本質であると云うのが師の教えであり、雪音自身は積極的に力を振るおうとはせず、また破壊の技術は小手先のものに過ぎないとも捉えています。
しかし力を振るわねば通せぬものが在る時、また来るべき戦の為に立ち合いとしての鍛錬が必要となるのならば戦に武を用いることも厭いません。
またその際も常に自分を律し冷静さを保ち、敵であっても侮辱したり、相手を不必要に挑発したりといった事もしません。
戦闘においては怪力、グラップルによる無手の格闘により戦闘を展開し、残像の速度にて最速の一撃を放つ他に武術に由来する相手を幻惑する歩法や見切りの技術、
魔性染みた野生の勘を併せての攻撃感知からのカウンター攻撃及び回避、攻撃のいなしや逸らし、落ち着き技能の限界突破による無想の至りの中で極限まで業を練る事による必殺の一撃、
遠距離攻撃手段は無いものの地形破壊による礫片を相手に向けて飛ばす、アイテム『氷柱芯』を相手に飛ばしての引き寄せや三次元的な移動にて離れた相手や体格に差がある相手に対処するといった手段を取ります。
怪力に関しては雪音自身が腕力に秀でているわけではなく、武術に由来する身体操作により攻撃の威力を何倍にも高めているためのもの、と想定しています。
上述の無想の至りを精神を極限まで鎮め気配、音、存在を完全に殺すという方向で使用する事で「敵の眼前に居るまま姿を消す」という業を使用する事もあります。
また幻惑や幻覚、洗脳といった精神面に異常をきたす類の干渉も余程のものでない限り抵抗は可能かもしれません。
その他アイテム『薄氷帯』の効果で体を霊力保護することで斬撃や銃撃への抵抗力を上げる他、魔術などの非実体への干渉手段としても用います。
その際は真正面から受けるよりも武術の業による流しや逸らしによる対処、或いは真正面から武の業を以て消し飛ばす等の対処を行います。
また武器が使えないというわけではなく、修めた武術の中には武器を用いた型式も存在し、近代兵器を除いた武具は達人と呼んで差し支えない程度には扱えます。その上で最も自分に適していたのが武器を用いない無手の業であったため、その技術を極限まで磨き上げました。
次いで得意とするのは鉄線や鉤縄などの紐状暗器です。
戦うに至るまでの流れや勝敗は気兼ねなく自由に描いて頂いて構いません。鍛錬の上での戦闘という形でなくても好みのシチュエーションがあれば描写して頂いても構いませんし、入れたい演出などがあれば1対1の形でなくともOKです。
また世界に関してもクロムキャバリアでリクエストしておりますが厳密に拘らなくても構いません。
ご検討頂ければ幸いです。
●戦火散る
ひりつく、と思うのは仕方のないことであったのかもしれない。
これは手合わせ。
わかっている。
けれど、それでも肌の産毛をひりつかせるものがある。目の前に在る存在は生命の埒外。
己の瞳が見るのは白。
そして、赤。
雪のような白さを持つ髪が風に揺れ、脚を踏み出す。
特別な所作ではなかった。
けれど、ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)は、すでに己が手合わせする猟兵、白虎たる月白・雪音(月輪氷華・f29413)の間合いの内にあることを知っている。
この段に至って、己が未だ無事であるのは、これが手合わせであるが故。
「いえ、違いますね」
「ええ、そうです」
短くつぶやく雪音にナイアルテは踏み込む。
雪音にとって武とは振るわずに終わる事こそ真髄。振るう武は確かに力であったが、その力に呑まれぬ精神こそが本質であると悟る。
如何に手合わせとは言え、雪音から踏み込むことはない。
僅かに数瞬。
けれど、ナイアルテは畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
同じ年齢。
同じ徒手空拳。
ナイアルテが肉体としての完成を見た存在だとするのならば、雪音は精神としての完成を見せる存在であると評する他なかった。
肉体は鍛えることができる。
限界はあるのかもしれない。けれど、精神を練磨されし者は肉体の限界をこじ開ける。
それを証明するように雪音の瞳は揺れることはなかった。
迫る拳を見やる。
「己を律すること。それこそが闘争の極地。我が戦の粋なれば」
驚くほどに雪音の所作は緩やかであったし、穏やかだった。開かれた嫋やかな指。その掌がナイアルテの拳を受け止め、全身の強靭なる筋繊維の全てをたわませるようにして衝撃を大地に受け流す。
確かに彼女のキマイラの肉体は人間以上のものであっただろう。
しかし、彼女は知っている。
爪も牙も待たぬ人間が生かして霊長にさえ至ったのかを。
「これぞ武。ナイアルテ様、あなたも理解されていることと思います」
受け止めた掌がずれるようにしてナイアルテの手首をつかむ――より疾くナイアルテの体がその場で回転する。
背を眼前の敵に晒す。
金色の髪が雪音の視界を隠す。雪音は息を吐き出すことなく、回転したナイアルテの裏拳の一撃を産毛の先で感じながら躱す。
ひりつくものを感じる。
殺気、ではない。けれど、ただ分かる業がある。これはきっと目の前のナイアルテのものではない。
連綿と紡がれてきたもの。
その一端を雪音は感じる。理屈ではない。感情ですらない。魔性の如き直感だ。獣が言葉無くとも生命のやり取りをするように。
肌で感じる。
迫る裏拳の一撃を終えてなお、ナイアルテの腰が回る。しなやかな関節。女性ならではの柔らかさより放たれる後ろ回し蹴りの一撃を雪音は受け止めた。
「……――捉えた、と思いましたが」
しかし、その一撃は残像が受け止めただけでしかなかった。
圧倒的な俊敏性でもって雪音は残像を生み出していたのだ。恐るべき速度である。
怒涛の連続攻撃。拳と蹴撃による一連の連動。つなぎ目すら見せぬナイアルテの攻勢を受けてなお、雪音は息を切らすことはなかった。
落ち着いている。
「それもまた業である、ということでしょうか。私の知る武術とは異なる……発生する根源が違うのでしょうか?」
「私にはわかりかねます。私にとって『これ』は私に備わった機能とでも言うべきもの」
だから、とナイアルテは頭を振る。
きっと己が得たものは違うのだと。
雪音と同じように徒手空拳の猟兵なれど、習得したものではないのだと。そして、その差は如実に現れている。
雪音がこれまで培ってきた揺るがぬ精神。
その差が、僅かな数手。
それも雪音から攻勢を仕掛けることなく知らしめたのだ。
「武とは振るわぬことこそ真髄。その極地の一端を垣間見せて頂いていながら、不甲斐ないばかりです」
「……」
ナイアルテの言葉に雪音は瞳を開く。
視線がかち合う。
それは偽りであると雪音は悟っている。己の武が、ユーベルコードにまで昇華したというのならば、ナイアルテはユーベルコードを用いていない。
拳武(ヒトナルイクサ)。
それは人間業の究極。
ただ徒手空拳を極限まで練り上げた純粋武術。あらゆるものを取り込み、あらゆるものを、一切を捨てることなく余すこと無く凝縮させたもの。
「ナイアルテ様、『それ』は違います」
雪音は静かな瞳で見やる。
己を侮っているのではなく。また慮っているものでもない。故に、雪音は告げる。
その業は。
「その『名』は――」
雪音の言葉を待たず、ナイアルテは遮るように拳を振るう。
名を『決別拳』。
大地を割る拳。砕ける地面の破片を蹴って雪音は宙を飛ぶ。そこへ空間すら断ち切るような『瞬断脚』の衝撃波が襲い来る。
見えぬ斬撃のような蹴撃を雪音は、しかし大気の震えを感じ取って砕けた地面の破片を足場にして掠ることなく躱し切る。
飛び込んでくる徒手。
広げられた掌。ナイアルテの掌が目の前に迫っていた。拳ではない。
広げられた五指の意図を雪音は理解する。これは掴もうとしている、と。掴んでどうするかなど理解っている。
「投げ……」
『捨身投げ』。
あれに掴まれては雪音は最早逃れられない。
僅かな刹那の内に那由多(ナユタ)の如く迫る無数の攻撃の手。
それは雪音の脳内における戦いの想定すら越える速度で迫る無数の手。それがナイアルテのユーベルコードであると雪音は知るだろう。
「名前に意味はない。ただ五体にて」
屠るのみ。
やはり、と思う。
共に振るう徒手空拳は発生を異なるものとしながら『敵を最高効率で破壊する』ことを役割としている。
『殺す』という点において、至る場所は同じ。
「……それは強きヒトが到達した極地」
雪音に振れる指先。ただ、指先が触れただけで雪音は感じ取る。
投げられる、と。
だが、と彼女の瞳が煌めく。ユーベルコードの輝き。
彼女の唯一にして絶対たるもの。
爪牙も武具も闘気すらも彼女には必要ない。ただ、彼女は己を練磨した武術によって業を知る。
「故に……弱きヒトが至りし闘争の極地こそ、我が戦の粋なれば」
それは単純なことだった。
ナイアルテは己を投げようとしている。掴まれているのだから当然だ。体重差は意味をなさない。膂力も意味を成さない。
ならば、どうする。
「……なんと」
ナイアルテは驚愕する。
雪音もまた女性の身。キマイラとフラスコチャイルドという違いあれど、筋力差はないだろう。
なのに。
彼女は雪音を前にして大樹を幻視する。
「大地を足で掴みますか」
裂帛の気合もなく。ただ、気が遠くなるほど反復。その練磨の果て。
人が有史以来、蓄積させ、連綿と紡いできた技がそこにはあった。業ではなく技にして術。
「ゆきます」
告げる言葉は静か。
月光照らす雪原の如く静まり返ったような瞬間ナイアルテへと放たれる拳。
彼女の所作は練り上げられていた。ナイアルテの拳も、蹴撃も、投げも。すべて彼女の体躯に蓄積された力が大地という味方によって増幅されて打ち出される。
無想の極地。
一であるがゆえに全。
此処に雪音の拳は知行合一。その全ての所作が、技術の継承という知を得ることによって成される技。
「例え、武の始まりが戈を持って|止《歩》むのだとしても。それでも」
突き抜けていく拳の衝撃。
うねるようにして体より発生した一撃。全ての筋肉が連動し、溜め込まれた運動エネルギーの全てを点にて放つこと。
拳とは即ち敵を穿つ戈。
脚とは即ち拳を撃ち出す土台。
そして、大地は雪音の膂力を増幅する。
「私の武は、私は、戈を止めるものでありたいと思います」
雪音の拳はナイアルテの胴を撃ち抜くこともできただろう。けれど、それは訪れなかった未来だった。
雪音の拳は僅かに隙間を作っていた。
寸止め。
雪音は息を吐き出す。呼吸を整えるように静かに残身を取って拳を引き戻す。
「……私もそう思います。そうありたいと思います。争いばかりの世界であるからこそ、戈持たぬ者たちのためにと」
ぶわり、と汗が噴き出す。
互いに数瞬の間に繰り広げられた応酬は、肉体に想像を絶する負荷を掛けていたのだ。
筋肉が弛緩する。
「素晴らしい練磨。やはり雪音さんの武は素晴らしい」
「いえ、まだ未熟であると思います。泰山のごとく揺るがぬにはまだ遠く」
「ご謙遜を」
ナイアルテはそう言って己の背を振り返る。
そこにあったのは、雪音の寸止めとは言え振るわれた雪音の拳が生み出した大地がえぐられた光景であった。
雪音の拳は、ナイアルテの体を透過するように背後の大地を引き裂いていたのだ。
恐るべき拳。
それでもなお、彼女はまだ、と告げる。
「なぜ、そこまで」
直向きなのだろうかと。ナイアルテは思う。なぜ、そこまで己の中にある闘争本能を。獣の本能とも言うべき殺戮衝動を律するのだと。
もしも、雪音が獣性ままに力を振るうのならば、今以上の力を振るうことができるはずだ。
なのに、それを彼女はしない。
武によって治めるている。
それは業でもなく、技でもなく強さというものでるとナイアルテは知るからこそ尋ねるのだ。
なぜ、と。
その問いかけに雪音は、その精神と同じように揺るがぬ表情を。
しかして僅かに緩め言うのだ。
そうするのが当然でるというように。己が身が如何なるものであれど。
『今』、此処に己在るのならば。
「……この身は、今と未来に生きるものなれば」
それこそが己が拳を振るう理由であると言う。
ナイアルテはその言葉に己の胸に抱いた敬意が過ちでもなければ、過剰な評価でもないこと確信する。
彼女の道行は誰かに照らされたものではなく。
雪音の中にある光でもって照らされているのだ。
そして、その光が落とす。
月影の獣の姿を静謐たる精神を――。
成功
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