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夢人は花明かりへと熔けてゆく

#シルバーレイン #リビングデッド化オブリビオン #運命の糸症候群 #マイ宿敵

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「……皆様、お集まりいただきありがとうございます」
 珍しく開幕神妙な面持ちで虹目・カイ(虹に歪む自己・f36455)が集まった猟兵たちを見渡す。
「私事で恐縮なのですが、可及的速やかに解決していただきたい案件がございまして。早速、説明に移らせていただきます」
 そう、前置いてカイは。
「陸遜、という人物をご存知ですか」
 問いかける。
 彼女が口にした、その名前は。
「三国志、三国志演義……或いは、それらを題材にした創作作品に触れたことのある方にとっては、私が語るまでもないと思われますが。かつて中国で巻き起こった三国時代、その時代を生きた、知恵者です」
 呉の四姓。神君にして大都督。果ては丞相にまで昇り詰めた英雄。
 しかし、その最期は悲惨なものだった。讒言により冤罪に問われ失意の内に亡くなった彼は、次代へ降りかかる困難を憂いて逝ったことだろう。
「最期こそ散々な目に遭っていますが、かなり華々しい活躍をされていますよね。まぁ下積み時代の苦労もあったでしょうけれども……それは今回は置いておきまして。つまり、そういうことです」
 どういうことだ、と問いただしたいところではあるが。
 悲しいかな、猟兵たちは察してしまっただろう。そして、その察しの通りに。
「その陸遜を名乗る人物が……いえ、オブリビオンが現代に蘇りました。ああ勿論、封神武侠界に侵攻している猟書家とは別人です。あくまでこのシルバーレインに存在した……とされている、陸遜です」
 三国時代の英雄が、現代に蘇った。
 そのフレーズだけ聞けば浪漫かも知れないが、猟兵にとっては厄介なことになったものだ。
「厄介なことはまだございます。今回、この陸遜はリビングデッド化オブリビオンとして、とある女子高生の少女の中に受肉してしまいました。ただ、陸遜本人はこの状況を憂いており、少女を何とか解放出来ないかと思案している様子。ゆえに、皆様が猟兵であることを明かし、討つより他にないと告げれば彼は抵抗しないでしょう」
 ……ん?
 それは、寧ろ手間が省けるのでは。
「厄介なのは少女の方です。……いえ、厄介と言うには少々酷なのですが。彼女は……姫宮・ぼたん様は。幼少期にご両親を亡くし、親戚の家を転々としていた影響で人付き合いを苦手としており、その性質のために学校にも馴染めず、いじめを受けて引きこもりになられてしまったようで。一層趣味である読書にのめり込み……三国志演義を愛読書とするに至りました」
 どうやら軍師系推し、その中でも陸遜はいわゆる『最推し』のようですねと。
 そこだけは微笑ましげな表情を浮かべて、けれどすぐにカイは再び目を伏せる。何か、焦燥感に駆り立てられるのを、堪えているようにも見えた。
「最推しが、誰にも顧みられない自分の傍にいてくれる。心配さえしてくれる。……彼女にとっては皆様の方が、敵でしょうね。自ら、オブリビオンの……愛する陸遜の盾になろうとしてきます」
 それは……確かに厄介だ。
 今までの前例通り、受肉化したオブリビオンが身体の持ち主を盾に取ってくるなら兎も角、本人が望んでオブリビオンを庇おうとしてくる。物理的にと言うより、精神的にやりにくいものがある。
 加えてどうやら陸遜は、本気で少女の今後を心配してもいるらしい。何だかんだで根が善性なのだろう。
 そんな彼が、何故オブリビオンとして蘇るに至ったのかは、今は解らないが。
「皆様は、陸遜の討伐と、ぼたん様のアフターケアを。お願いいたします。場合によっては後者には、陸遜の協力を仰いでもいいかも知れませんね」
 それはどういう意味か。
「もし皆様が陸遜に『その場で討伐せず、ぼたん様から弾き出す程度の攻撃に留める』ようにすれば、彼は少しの間世界に留まり、ぼたん様の心が安定したと判断すれば、自ら消滅すると予知にはありました」
 だから、彼の力を借りるのもありかも知れない、と。
「丁度、現場から少し足を伸ばせば遅咲きの桜が咲いている河原がありますので。ぼたん様と……場合によっては陸遜とも、お花見を楽しんでくるといいでしょう。必要なら私や同僚がお弁当なども用意しますし」
 実際に陸遜を生かしておくか、カイらグリモア猟兵を呼ぶかはどうかの判断は、猟兵たちに委ねられることとなるが。
 それらを抜きにしても、ぼたんのことは救って欲しいと。そして、陸遜の消滅までを見届けて欲しいと。
「どうぞよろしくお願いいたします」
 カイの声音は、やはり真剣そのものだった。


『……姫宮殿』
「ん、ぅ……」
 締め切った部屋の中、少女はひとつ寝返りを打って、目を覚ます。
 頭の中には、高すぎず低すぎない、人を安心させるような青年の声が、柔らかく響いている。
『もう、朝ですから。眠り過ぎも体に毒ですよ。ほら、朝餉にしましょう。今なら、ご夫婦もいらっしゃらないようですし』
「う……はい」
 朝餉、と聞いてぼたんはびくりとしたが、親戚夫婦がいないと聞いて胸を撫で下ろす。
 腫れ物を扱うような育ての親からも、この身をストレス発散の捌け口にするクラスメイトからも、ずっと逃げ出してしまいたかった。
 逃げ出した先で――大切に思える人と出会えた。
 彼以外の人と関わる勇気はもう持てそうにないけれど、それでも今は、とっても幸せだ。


絵琥れあ
 お世話になっております、絵琥れあと申します。
 既に何度か現れているようですが、改めて私の方からも紹介させていただきたく。

 ☆Attention!!☆
 今回はサポートの方々にもご協力を仰いでの早期解決を目指します。
 また、参加人数によっては採用人数を絞っての運営となる可能性がございます。
 予めご了承いただけますと幸いです。戦闘のみ、日常のみの参加という形も歓迎させていただきます。

 流れと詳細は以下の通りになります。

 第1章(ボス戦)『陸遜』
 第2章(日常)『穴場でお花見』

 第1章では、実体化した陸遜との対決になります。
 但し、彼自身は攻撃を行いません。代わりにぼたんが彼を庇おうとするので、物理なり説得なりで阻止する必要があります。
 なお、陸遜にとどめを刺さず、次章に同行させることも出来ます。詳細は後述。

 第2章ではぼたんが陸遜なしでも歩き出せるよう、彼女の背中を少しでも押してくだされば幸いです。
 丁度近くの河原で遅咲きの桜が咲いておりますので、お花見しつつお話をしたり交流したりしましょう。
 生存していれば陸遜、お声がけあれば拙宅グリモア猟兵が同席させていただきます。
 (※但し今回、『陸・慧(f37779)』のみ同行不可能です。体調不良のようです)

 ☆陸遜の日常章同行について☆
 第1章でプレイング冒頭に『🔥』の記載がある方は『戦闘によって無力化するが、この戦闘でとどめは刺さない』ものと見做します。
 第1章で採用された方の半数以上に🔥マークの記載があった場合、陸遜は戦闘能力を失った状態でぼたんから弾き出されつつも、第2章終了まで現世に留まります(終了時にちゃんと消滅します)。
 以降、会話やぼたんへのケア手伝い要請が可能になります。
 ※とどめを刺したい場合の別途記載は必要ございません。🔥マークがなければ通常通り撃破希望と見なします。
 ※🔥マークの有無による採用率の変化はございません。ご了承ください。

 第1章断章なし、第2章は断章公開直後に受付開始。
 それでは、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『陸遜』

POW   :    夷陵再燃
レベルm半径内を【夷陵の戦場を覆った炎の再現】で覆い、範囲内のあらゆる物質を【熱風】で加速、もしくは【炎の壁】で減速できる。
SPD   :    紅蓮秘纏
自身と武装を【不可視の炎】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[不可視の炎]を飛ばして遠距離攻撃も可能。
WIZ   :    流星火刃
【意志の強さに比例して燃え上がる炎の神気】を込めた武器で対象を貫く。対象が何らかの強化を得ていた場合、追加で【燃焼】の状態異常を与える。

イラスト:皿田

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠陸・慧です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『……!……』
「えっ、……伯言様!?」
 突如、実体を伴いぼたんの目の前に現れた、憧憬の君。
 初めて見る姿も知的で、凛として。ぼたんは心ときめかせるけれど。
「姫宮殿、少々お待ちいただけますか」
「あ……ま、待ってください!」
 言うや否や、玄関から出ていってしまった陸遜。
 それを追いかけてぼたんが見たのは、猟兵たちの姿。
「……貴方たちの目的は察しがついています。事を荒立てたくはありませんので、場所を変えませんか。私は、逃げも隠れも致しません」
 ここは住宅街。
 今の刻限、平日の午後は比較的閑散としている……とは言え、周囲に被害が及ばないに越したことはないだろう。
 猟兵たちは、歩き出した陸遜に続き河原へと向かう。
 ぼたんも、猟兵たちを警戒しながらついてきていた。
南本・魔姫奈
🔥
【心情】
オブリビオン、こうして話が分かるのもいるのね
理想かもしれないけど、戦い無しで解決できるのならそれが一番だわ

それにしても三国志の英雄
歴史に詳しいわけじゃないけど、自分の出自といい、本当にファンタジーね

【戦闘】
口下手だからうまくは言えないけど、状況は説明して少なくとも陸遜に敵意のなさを伝えないと

「行くわ、イグニッション!」

「リミッター解除」した「結界術」で流星火刃を防御
「高速詠唱」「多重詠唱」でUCを放ち、動きを封じる

「月の光、もしわたしにすごい力があるのなら、今は彼女を止めるために力を貸して!」

今までの戦いは生き残るために必死だったけど
今回はどこか自分に似ている姫宮さんを助けるために


荒珠・檬果
🔥
ぼたんさん、ある意味は同志ですよね。三国好きですから。
本当に…根が善良なんですね、陸遜殿。
だからこそ、私はここに来ました。

七色竜珠を合成し白日珠へ。そして…すみません、UCで束縛を与えるのは『ぼたん』さんです!
ごめんなさい、先に謝っておきます。
ダメージはなく…ただ…トラウマを引き起こしそうで申し訳なく…。

しかし、やらねばならないのです。陸遜殿に近づいたのならば、白日珠は剣へ。
そこからの一撃を与えましょう。もちろん、弾き出すくらいの攻撃ですよ。




(「オブリビオン、こうして話が分かるのもいるのね」)
 無防備に曝された陸遜の背中に視線を向けながら、南本・魔姫奈(まつろわぬ霊の巫女・f38646)は半ば感心するように思案した。
(「理想かもしれないけど、戦い無しで解決できるのならそれが一番だわ」)
 オブリビオンは、その存在そのものが世界の敵。
 ゆえに、世界を護る猟兵たちと、相容れることは決してない。だが、陸遜の言動を見ていれば、グリモア猟兵の言葉が気休めでなかったことは解る。
「それにしても、三国志の英雄……」
 ぽつり、我知らずながら陸遜には聞こえぬ程度の声音で魔姫奈は零す。
(「歴史に詳しいわけじゃないけど、自分の出自といい、本当にファンタジーね」)
 魔姫奈もまた、数奇な出自と運命の持ち主だから。しみじみとそう感じてしまう。
「そう、三国志」
 すると、ふと応じるように声がする。
 近くを歩いていた荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)の声だった。
(「ぼたんさん、ある意味は同志ですよね。三国好きですから」)
 三国志、三国時代、その歴史、その英雄。
 それら全てを愛する檬果にとっては、捨て置けない案件だった。
 今回の件を無事に終えられれば、彼女と語り合うことも出来るのだろうか。
 だが、今は陸遜の方だ。
(「本当に…根が善良なんですね、陸遜殿。だからこそ、私は……」)
 ここにいる彼を、その望まぬ事態を、終わらせるために。
 そのために、ここに来たのだ。


 ふと、風に攫われた桜の花弁がふわり舞う。
 目的の河原に着いたようだ。確かに、遅咲きの桜が咲いている。
 平日ということを抜きにしても人気がないのは、季節の割に川沿いゆえの肌寒さがあるせいか。
「さて、改めて用件を聞きましょうか」
「聞いて欲しいことがあるの。上手く言えないけど……」
 口下手である自覚を持ちながらも、魔姫奈は丁寧に事情を説明した。敵意、悪意ゆえのことではないと、陸遜とぼたんに少しでも伝わるように。
「……やはり。遅かれ早かれ、こうなるとは思っていました。そして他に手段がないことも、理解しています」
 当事者だからこそ、陸遜はよく理解してしまっているのだろう。
「姫宮殿のためにも、このままではいけない。それに私としても、こうなってしまっては目的を果たす以前の問題……甘んじて受け入れましょう」
「だめ」
「……姫宮殿?」
 武器を構えず、得手と言われる炎も纏わず、両手を広げた陸遜だが。
 その前に、震えるぼたんが立ちはだかった。
「私のため? 世界の危機? そんなこと、解らない。でも、伯言様がいなくなったら、私……耐えられない!」
「姫宮殿、」
「もう、私から何も奪わないで!!」
 顔面は蒼白。
 それでも、大切なものを守るために、ぼたんが世界の敵の前へと立ちはだかる!
「やはりこうなりましたか……」
「そうね。……行くわ、イグニッション!」
 予知がなくても、解ることだ。
 檬果が首を振る。その傍ら、魔姫奈はイグニッションカードを解放。臨戦態勢へと移行する。
 陸遜は抵抗しないと言われていたが、反射的にということもある。万一に備え結界を張り、幾重にも詠唱を重ねて。
 その一方、檬果は一歩前へと進み出て。
「すみません、ぼたんさん」
「え……」
 ひとつ、謝罪を。
 その真意は。
「ぼたんさん。『あなたの』動きを封じさせていただきます!」
「あなたの願いは聞けないの。月の光、もしわたしにすごい力があるのなら、今は彼女を止めるために力を貸して!」
 檬果の手に煌めく、七色竜珠が合成により変じた白日珠。それが更に、一本の筆へとその姿を変え。
 描き編まれ放たれる文の鎖がぼたんを縛り、魔姫奈の杖に宿り放たれる蒼き月の魔力がその靴を凍らせる。
「きゃっ!?」
「姫宮殿!」
「大丈夫、痛みはありません。ただ……」
 檬果はぼたんを戒める鎖と、足を縫い止める魔氷に視線を向けて。
「トラウマを引き起こしそうで申し訳なく……しかし」
 だとしても。
「やらねばならないのです」
 ぼたんがそれを望まないとしても。
 このままにしておけば、彼女が愛する物語のある世界すら、滅びてしまうから。
 白日珠は更にその姿を変える。陸遜の懐で、輝ける白き剣へ。
「陸遜殿、失礼致します」
「……!」
 白一閃。
 細く走り、赤を薙ぐ。
 ぼたんの表情が、喪失の恐怖に染まる。
 魔姫奈は声をかけようとして、ぐっと堪えた。
(「今までの戦いは生き残るために必死だったけど……」)
 今は、ぼたんを助けるために、戦うのだ。
 どこか自分と似ている、彼女を救いたい。そう願うゆえに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
🔥

敵意がないことを示すためイグニッションはせず普段の姿で。

はじめまして、銀誓館学園中学部理科教師にして猟兵の八坂・詩織といいます。
落ち着いて聞いてくださいね…陸遜さんは、骸の海というところに還らないといけません。
ですが、無理やり引き離そうとは思っていません。陸遜さんには、姫宮さんが前を向けるようにもう少しお手伝いしてほしいと思っています。
私は教師ですが、無理に学校に行けというつもりもありません。
ただ…三国志の英雄を、姫宮さん一人が独占していいわけではないですよね?

姫宮さんの言葉も否定はせずあなたはそう思うんですね、等落ち着いた物腰で話しやむを得ない場合のみ強制共生弾の【麻痺】で動きを止めます




 ぼたんは、平静を失っている。
 ならばここは、教職でもある自分の出番だ。八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は、普段の姿でぼたんの前へと進み出た。
 対話を試みようにも、武装していては心を開いてくれないかも知れない。ゆえに、そうした。既にかかっている拘束も、仲間に頼んで一度解いて貰う。
 すぐに陸遜の元に駆け寄ることも想定はしたが、武器を持っていないことが功を奏したか、ぼたんはその場に留まった。
「はじめまして、銀誓館学園中学部理科教師にして猟兵の八坂・詩織といいます」
「きょう、し」
 強張る表情。
 ああ、きっと。彼女の周りの大人は助けてくれなかったのだ。教師もその例に漏れず。
 けれど、いや、だからこそ、真心を尽くさなければならない。詩織はぼたんの肩に軽く手を添えて、話し始める。
 解らないと頭を振った、ぼたんに少しでも、解って貰えるように。
「落ち着いて聞いてくださいね……陸遜さんは、骸の海というところに還らないといけません」
「なんで、そんな」
「彼は、過去の人だからです。既に天寿を全うした人が、今を生きてしまえば、あなたの愛した歴史も世界と一緒に壊れてしまうから」
「……っ」
 ぼたんも、本当は心のどこかでこのままでは駄目だと理解はしている筈だ。
 ただ、幸せを手放すのが怖くて、冷静になれていないだけ。そう信じて。
「ですが、無理やり引き離そうとは思っていません。陸遜さんには、姫宮さんが前を向けるようにもう少しお手伝いしてほしいと思っています」
「え……?」
 そのための時間が、ぼたんには必要だ。
「私は教師ですが、無理に学校に行けというつもりもありません。ただ……三国志の英雄を、姫宮さん一人が独占していいわけではないですよね?」
「それ、は」
 陸遜には、妻もいる。子供もいる。その子孫も。
 そして何より、ぼたんと同じ、彼を慕う三国志を愛する人々がいる。ぼたんもそのひとりなら、解る筈だ。
 落ち着いて、諭すように。急かさずに、言葉を待つ。
「でも、伯言様、斬られて……っ。なのに、生きていられるんですか……!?」
「残念ですが、これからもずっと、というわけにはいきません。それでも、他ならぬ陸遜さんが、ぼたんさんを心配していますから」
 だから、必ず彼を生かして結ばれた糸だけを切る、と。
 約束するように、詩織はぼたんの手を取った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

酒井森・興和
🔥
ふむ
三国志は…題名は知ってる

仕事で言えば娘ごと倒すのみ…だが
人の情と縁は異なもの味なもの、だ
僕個人なら娘ごと討つが銀誓館に与す者としてはマズいか
まあ…その人の温情で我ら葛城蜘蛛族は生存を赦されたのだし

僕は人間の機微に疎い
この後の為に陸氏には残って頂きたい
ぼたん嬢へも害意は無い
でもお嬢さん
いつまでも他人に内まで依存するのはいけないよ
いくら善人でも好いた相手でも彼は死霊で他人
破綻は目に見えているし…
彼に縋るのは結果的に陸氏を苦しめると思うんだよ

UCで気絶か目まい程度に【急所突き】
逆鱗で麻痺増強【毒使い】
敵UCは致命傷を【第六感】回避
多少の怪我はぼたんの動揺誘うとみて受け隙に手刀なとで【追撃】




(「ふむ。三国志は……題名は知ってる」)
 詳しくはないが、愛読する者が多いことは酒井森・興和(朱纏・f37018)にも解る。
 とは言え、これは歴史でも物語でもない。過去の産物ではあるが、染み出したのは現実だ。
(「仕事で言えば娘ごと倒すのみ…だが」)
 人の情と縁は異なもの味なもの。
 その言葉が、興和の脳裏をよぎる。
(「正直なところ、僕個人なら娘ごと討つが銀誓館に与す者としては……」)
 強力なオブリビオンが野に放たれ、世界が危機に陥る未来。
 そのリスクを考えれば、少女一人の命を切り捨てることも、勘定の内に入ってしまうのだ。酷と言われるかも知れないが、懸念を確実に潰すのであれば、そうした選択が必要になる時もある。それは人間も、来訪者も変わりない。
 ただ、それでも今、興和はそうしなかった。
(「まあ……その人の温情で我ら葛城蜘蛛族は生存を赦されたのだし」)
 恩返し、と言うには細やかすぎるだろうが、それが一族を赦した者たちの意思であるならば、出来る限りはそれに沿おうと。そう思う。
「僕は人間の機微に疎い」
 仲間の言葉に続けるように、興和もまたぽつぽつと、言葉を重ねる。
「この後の為に陸氏には残って頂きたい。ぼたん嬢へも害意は無い」
 その全てに嘘はない。
「でもお嬢さん、いつまでも他人に内まで依存するのはいけないよ」
「う……」
 その自覚はぼたんにもあるのだろう。
 だが、激昂していた先程よりは幾分か落ち着いているように見える。
「いくら善人でも好いた相手でも彼は死霊で他人。破綻は目に見えているし……何より、彼に縋るのは結果的に陸氏を苦しめると思うんだよ」
 陸遜が、心からぼたんを心配すればこそ。
 その彼女が自分に依存し、ひとりで立ち上がり、歩けなくなってしまうことに、きっと心を痛めているだろう。
「陸氏も、構わないね」
「ええ。貴方たちがここに来た今、彼女をこれ以上、私に縛りつけておくつもりもありません」
「というわけだ。少し苦しいだろうが、我慢して貰うよ」
 告げると同時に放つのは、蜘蛛の幻糸。
 桜をも覆い隠す勢いで、喰らうように覆い被せれば。
「……う、っ」
 眉を顰めて瞼を落とす陸遜の、喉元へと逆鱗の毒を突きつけた。
「……本当に抵抗もしないのか」
「早い方がいいでしょうから」
 頭が痛むのか、俯きながらもそう続ける陸遜。
 人と長く接してきた今でもこうして時々、人間には驚かされる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽谷・倖
🔥

三国志、は分からないけど
陸遜さんは悪い人じゃないんだ
だったらなるべく良い形で終わらせたいな

まずは自己紹介をしよう
私は幽谷倖、猟兵だよ

ぼたんさんにとって陸遜さんが大切な人なのは分かるよ
けど、ずっと一緒にはいられない
陸遜さんは過去の人だから
いつかは還るべき場所に還らないといけないんだ

でも、お別れしたからって陸遜さんの存在も消える訳じゃない
なんていうか……心で繋がってるっていうか
離れていても、きっと陸遜さんはあなたを見守ってくれるよ

それに今の生活が辛いなら転校とか、難しいかな
うちの学校とか、寮あるし
親戚のことが苦手なら、いっそ我儘を言っちゃって環境を変えちゃう、とか
一緒に別の手段、考えてみない?




(「三国志、は分からないけど」)
 ちらと、幽谷・倖(日華・f35273)はその視線を陸遜へと向けた。
(「陸遜さんは悪い人じゃないんだ。だったらなるべく良い形で終わらせたいな」)
 彼も、ぼたんも。
 悪気があるわけでは、ない。
 オブリビオンを放置するわけにはいかないが、少しでも二人にとって納得の行く終わりを与えることが出来るなら。
 倖は視線を、今度はぼたんへと向けて、彼女に歩み寄る。
「まずは自己紹介をしよう。私は幽谷倖、猟兵だよ」
「………………」
 ぼたんは、落ち着きを取り戻してきている。
 だがそれでも、未知への戸惑いと、慕う者を喪失する恐怖は拭い切れていない。
 だから自分も、言葉を尽くそう。彼女のために言えることは、まだある筈だから。
「ぼたんさんにとって陸遜さんが大切な人なのは分かるよ。けど、ずっと一緒にはいられない」
 彼は、どこまで行っても過去の人間だ。
 僅かな間、その魂に触れられただけで奇跡に等しい。
「いつかは還るべき場所に還らないといけないんだ」
「それは……解っているけど……」
 解っては、いる。頭では。
 けれど、心がついてこないのだ。だから、手を差し伸べて、迎えに行かなければ。
「でも、お別れしたからって陸遜さんの存在も消える訳じゃない」
「………………」
「なんていうか……心で繋がってるっていうか」
 歴史を思えば一瞬のような邂逅でも、共に在った事実がなくなるわけではない。
 確かに彼は、ぼたんと共に過ごし、傍にいたのだ。
 それを忘れなければ。
「離れていても、きっと陸遜さんはあなたを見守ってくれるよ」
 彼はあくまで、ぼたんのためを思ってくれていたのだから。
「……でも、伯言様がいなくなった後のことは」
 伯言――陸遜の、もうひとつの名前だろうか。
 字の概念は封神武侠界ではなかったから馴染みがないが、倖はそう解釈して納得しつつ。
「今の生活が辛いなら転校とか、難しいかな。うちの学校とか、寮あるし」
 逃げることは必ずしも悪手ではない。
 それで心が救われるなら、立派な手段のひとつだ。癖になってしまうとよくないけれど、いざという時にその択を取ることも勇気なのだ。
「親戚のことが苦手なら、いっそ我儘を言っちゃって環境を変えちゃう、とか。一緒に別の手段、考えてみない?」
 皆、相談に乗るからと。
 倖は仲間たちを見渡してから、再びぼたんを真っ直ぐに見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葛城・時人
🔥

どれ程心強くても
相手がリビングデッドなら最後は破滅しかない

昔そういう予知も沢山あったね
悲劇も
その上オブリビオン
能力者でも猟兵でも見逃せるものではないよ

でも
当事者の陸遜自身が彼女の破滅を願わず喰らわず
受肉を解いて欲しいと願うなら
俺の仕事は一つ

「陸遜…良いんだね?」
彼女に陸遜の意思を知らしめる為に
敢えて口にする

予知通りなら武人らしく潔い
そして彼女を慮る優しい言葉を聞く事が出来るだろう

「分かった。けど」
UC白燐剣光大神楽を詠唱し彼女の体を縫い留め
陸遜だけを削るようにククルカンに言ってから
「俺は止めは刺さない」

倒す方が楽だろうけど
ゴーストだけどオブリビオンって特性で
一瞬でも滞在が可能なら俺は時間を作りたい

「今までの君達って意志疎通が足りてない気がするよ」
最初で最後になるのは申し訳ないけど
「駄目な事、大切な事を…一度ちゃんと話してみたらどうかな」

中に居るままでは駄目なんだよと
顔を見てまっすぐ、しっかり話を
その時を得る為に
「さぁ…陸遜!外へ!」

ククルカンと杖先で過たず陸遜だけを押し出す為に貫こう




(「どれ程心強くても、相手がリビングデッドなら最後は破滅しかない……」)
 そういった予知を、そして引き起こされる悲劇を、葛城・時人(光望護花・f35294)は今まで何度伝え聞いたことだろう。
 猟兵として、だけではない。能力者として戦っていた時分にも。
(「その上オブリビオン。ともなれば、能力者でも猟兵でも見逃せるものではないよ」)
 明確な、世界の敵。
 当人が、望む望まざるとに拘らず、変わることのない世界の理だ。それを捻じ曲げることは、今を生きる生命として、出来ることではない。
(「でも、」)
 陸遜は、ぼたんの破滅を願ってはいない。
 そしてその存在を、生命を、喰らおうとも考えていない。
 当事者でありオブリビオンである筈の彼の望みは、どういうわけかぼたんの解放だ。
 ならば、時人のすべきことは、ただひとつ。
「陸遜……良いんだね?」
 口に出して敢えて問う。
 これは、陸遜の意思でもあるのだと、ぼたんの理解を得るために。
「ええ。姫宮殿を……無辜の民を巻き込むのは本意ではありません。それに彼女は未来ある若者、過去を生きた者が……いえ、何者も吹き消してよい灯火ではないでしょう」
 その潔い言葉に、時人は心密かに安堵する。
 予知に、そして己の見込みに間違いはなかったのだと。
「伯言様……」
「分かった。けど」
 時人が携えるは白き光剣。
 |白燐蟲《ククルカン》がその姿を変えた刃。
「俺は止めは刺さない」
「それは……、……っ」
 眩き輝きはぼたんの目を眩ませその動きを止めて。
 放たれた光の刃は着実に陸遜の身を刻むものの。
「倒す方が楽だろうけど、一瞬でも滞在が可能なら俺は時間を作りたい」
 ここで終わりにしてしまうのは簡単だ。
 だが、時人が、猟兵たちが、そして恐らくはぼたんが望むのは、この先。
 今までのゴーストであれば、なし得なかったこと。
 可能性が、僅かでもあるのなら、懸けてみたいと思うのだ。
「それに……今までの君達って、意志疎通が足りてない気がするよ」
「え……」
 お互いに、きっと話し合う勇気が必要だったのだ。
 その機会がこれきり、最初で最後になるのは申し訳ないけれど。
 何もないよりは、きっとずっといい筈だと信じて。
「駄目な事、大切な事を……一度ちゃんと話してみたらどうかな」
 時人は、猟兵たちは、そのための猶予を与えるだけ。
 あとは、二人次第だ。
(「中に居るままでは駄目なんだよ」)
 言葉だけでは、伝わり切らないことがある。
 だから顔を、瞳を、真っ直ぐに見て。
 そのために。
「さぁ……陸遜!」
 ククルカンと共に。
 その杖先で過たず、陸遜だけを。
「外へ!」
 押し出すようにして、貫く!

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『穴場でお花見』

POW   :    元気よく転げ回って遊ぶ

SPD   :    見晴らしの良い特等席からの花見

WIZ   :    のんびりと心ゆくまで花を楽しむ

👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「……っ、」
「伯言様!!」
 陸遜が、崩れ落ちて地に膝を着く。
 だが、その姿が消えゆくことはなかった。ぼたんが、その肩口に触れると、まさに死人のように冷たかったが、それでも人の身体に触れた感覚があった。
「……本当に、繋がりだけが絶てるとは」
 それが可能になった理由が、果たしてどこにあるのか、陸遜にも、猟兵たちにも解らない。
 ただ、彼の上へと降る花が、その存在を猟兵たちにも確かに伝えていた。

 ――刻限は、既に夕。
 空は金赤に彩られ、花の色もまた照らされて、黄金へと染まりつつある。
 花明かりにはまだ早く、別れの時はまだ遠い。
 だから、今は花の下で語り合おう。時が許すまで。
 準備があれば、少し遅ばせの花見を楽しむことも出来るだろう。オブリビオンの脅威が失われた今、友を呼んでもいいだろう。新たに仲間に加わってもいいだろう。
 きっと、人々の前向きな気持ちに触れることが、今のぼたんには必要だろうから。
酒井森・興和
リビングデッドは慕う人の血肉を糧に現世にしがみつき、オブリビオンは今を疎うか憎むモノ
でも陸氏はぼたん嬢を餌にしなかった
それだけで陸氏はかなりツラかったのでは?
ぼたん嬢
あなたの環境は確かに厳しい
親戚は味方と言えずとも少なくとも敵では無い…のだろう
ならば学校も変えるなり通信制なりでこなせるのでは?
でも
今はそれより陸氏へ伝えたい事を語ると良い
彼は餌であるあなたを気遣い、いわば飲ます喰わずであなたの世話を焼いたのだよ
分離した以上もう朝起こして貰う事も無く彼は消滅を待つばかりだ
あなたがしっかりしなければお人好しの彼は心痛のまま消えねばならない
それは恥ずかしくないかい?
…見栄でも良いよ
彼に笑顔でお別れを




 黄昏の河原の寒風が肌に染みる。
 それでも、冴え渡る空と儚く散る花は、美しかった。
 酒井森・興和(朱纏・f37018)は、桜の木の下で座り込んでいるぼたんへと、声をかける。
 やるからには、最後まで。そう決めたから。
「リビングデッド、というものはね」
 肉体を持ちながらもゴーストであるその存在は、名前の通りの生きる屍。
 この陸遜は、少なくとも今は生前の姿を保てているが、時を経ればその身体は腐り落ちる。食い止めるには、自らを慕う人の血肉を糧とする他ない。
「それに、オブリビオンは今を疎うか憎むモノ。でも、陸氏はぼたん嬢を餌にしなかった」
 如何に理性ある人物であろうと、それらの衝動的な本能に抗うのは容易いことではあるまい。
 陸遜は、苦しんでいる筈だ。今もなお。
「ぼたん嬢、あなたの環境は確かに厳しい」
 頼れる友もない。愛してくれる家族もいない。
 だが、味方ではない者が、全て敵とは限らない。
「親戚は味方と言えずとも、少なくとも敵では無い……のだろう。ならば学校も変えるなり通信制なりでこなせるのでは?」
 何事も、相談してみなければ始まらない。
 怖いかも知れないが……これからは、向き合わなければならないのだ。
 けれど、だからこそ。
「今はそれより陸氏へ伝えたい事を語ると良い」
「え……?」
 諭されるばかりかと思っていたらしいぼたんが、初めて顔を上げて興和を見上げた。
「彼は餌であるあなたを気遣い、いわば飲ます喰わずであなたの世話を焼いたのだよ」
 きっと己が、朽ちることすら厭わずに。
 その理性が、残されている内はと。
「けれど分離した以上、もう朝起こして貰う事も無く……彼は消滅を待つばかりだ。あなたがしっかりしなければ、お人好しの彼は心痛のまま消えねばならない」
 ぼたんにとっても、それは本意ではない筈だ。
 彼女だって、世界の敵と知っても離れ難いほど、慕わしい相手の心残りになることなど、望んでいないと思いたい。
「……見栄でも良いよ。彼に笑顔でお別れを」
 それが、見送る者に出来ること。
 死出の旅へと赴く者が、残された思いに煩わされることのないように。
「………………」
 ぼたんは、再び俯いてしまったが。
 興和の言葉のひとつひとつを、ちゃんと考えているようだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八坂・詩織
温かいお茶など用意してお花見したいですね。

私、実は三国志は未履修なんです。教師の私よりはるかに詳しい姫宮さんは純粋にすごいと思います。
陸遜さんが憑くくらいの人なんですから、自信を持ってほしいです。
何かを好き、ってそれだけで才能なんですよ。

あなたはまだ大人の庇護の元で暮らすべき年頃ですから…急に環境を変えるのは難しいかもしれませんが、辛い時に逃げ込める第三の居場所があれば少しは気が休まるかと。
ネットなどで趣味を語り合える仲間を見つけるのもいいでしょうし、居場所がない子供のために活動している団体もあります。

ここにいる人は皆二人を助けるために来たんです。冷たい人間ばかりじゃないことをどうか忘れないで




「こちらをどうぞ」
 八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)は持参したカップに温かいお茶を注いで、陸遜とぼたんに差し出した。
 もう四月も終わり、桜も散る――それでも、夕暮れの河原はまだ冷えるから。
「あ、ありがとう……ございます」
「いただきましょう」
 気取ってはいないが洗練された所作でお茶を口に運ぶ陸遜に倣って、ぼたんもちびちびと口をつける。
 詩織は、ぼたんの隣に腰を下ろした。
 ちらと、ぼたんの視線が一瞬だけ詩織を見て、すぐに逸らされる。だが、拒絶はされなかった。
「三国志、お好きなんですね」
 そう切り出せば、ぼたんはこくんと一度だけ頷いた。
「私、実は三国志は未履修なんです」
「そう、なんですか?」
「強いて言うなら、学生時代に世界史の授業で数行触れたくらいでしょうか。後は日本史の邪馬台国関連で」
「あ……解ります」
 大抵の授業ではそうなってしまうことが多い。ぼたんも覚えがあると、もう一度頷いた。
「ですから、教師の私よりはるかに詳しい姫宮さんは純粋にすごいと思います」
「そう……でしょうか」
「ええ。陸遜さんが憑くくらいの人なんですから、自信を持ってほしいです」
 自らが生きた時代の知識がある。それがきっと、陸遜との縁となったのだろう。
 それも、少々齧っただけの知識では、こうはなからなかった筈だ。
「何かを好き、ってそれだけで才能なんですよ」
「………………」
 ぼたんは黙ってしまったが、緊張は少し和らいでいるようで。
 そんなぼたんと、語りかける詩織の様子を、陸遜は何も言わず、ただ見守っていた。
「あなたはまだ大人の庇護の元で暮らすべき年頃ですから……急に環境を変えるのは難しいかもしれませんが」
 人間は、考えることが出来る。
 よりよい方向に、向かえるように。
「辛い時に逃げ込める、第三の居場所があれば少しは気が休まるかと」
 例えば、ネットなどで趣味を語り合える仲間を見つけるのもいいだろう。居場所がない子供のために活動している団体に相談するのもいいだろう。
 幾つかの選択肢を提示したのは、不透明な手に色をつけるため。きっとぼたんには、そのままでは広く差し伸べられている手さえ、見えなかっただろうから。
「ここにいる人は皆、二人を助けるために来たんです。冷たい人間ばかりじゃないことをどうか忘れないで」
 そしてどうか、信じて、踏み出す勇気を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

幽谷・倖
さっきは必死で説得したけど……
いざ落ち着くと、何を言うべきか迷ってしまう
でも、動かないと

言いたいことはさっきと変わらない
今の学校や家族に固執しなくても、進める道はいっぱいあると思うから
親戚も悪い人ではないだろうし、自立するまで頼るのもいい、とは思う
勿論寮で暮らしたり、転校したり環境を変えるのも選択肢だし

でも、今すぐ結論は出さなくて良い
今は今しか出来ないことをやろう
せっかく陸遜さんもいるんだし……写真、撮らない?
カメラを片手に提案してみる
ほら、桜も綺麗だし

許可が取れたらぼたんさんと陸遜さんが一緒にいるところを写真に撮りたい
彼と一緒にいた時間を支えに出来るように
何か形に残せたら、と思うんだ




 ぼたんは、ぼんやりと座り込んだまま。
 陸遜は時折、散りゆく花を眺めながら、ぼたんの様子を窺っている。
「………………」
 幽谷・倖(日華・f35273)は、言葉に詰まってしまった。
(「さっきは必死で説得したけど……いざ落ち着くと、何を言うべきか迷ってしまう」)
 言いたいことは、変わらないのだ。
 けれど、先程とは状況が違う。勿論、まだぼたんは心の整理をつけられていなさそうだから、改めて言葉を尽くそう、とは思うのだ。
 それでも、どうしても、無我夢中だった時と違って、上手く言えるのか、ちゃんと伝わるかどうか、考えてしまって。
(「……でも、動かないと」)
 動かなければ、口にしなければ、何も始まらない。
 意を決して、倖はぼたんへと向き合った。
「さっきも言ったけど……今の学校や家族に固執しなくても、進める道はいっぱいあると思う、から」
 本当は解っている。上手く言う必要などないのだ。
 けれど、伝えたいと思うから、せめて、丁寧に。
「親戚も悪い人ではないだろうし、自立するまで頼るのもいい、とは思う。勿論寮で暮らしたり、転校したり環境を変えるのも選択肢だし」
「……はい」
 ぼたんは頷くが、その表情は未だ晴れない。
 今まで、依存ではなく頼ること、思い切った選択をすること、そんなことを、考えもしていなかっただろうから。
「でも、今すぐ結論は出さなくて良い」
「え」
 そう。
 だからこそ、急かすつもりはない。
 道は示すけれど、焦らなくたっていい。ぼたんの道は、時間は、ぼたんの自由なのだから。
「今は今しか出来ないことをやろう。たとえば……」
 倖が取り出したのは、愛用の一眼レフカメラ。
 兄から譲り受けた、大切なもの。
「せっかく陸遜さんもいるんだし……写真、撮らない?」
「え? えっと……」
「ほら、桜も綺麗だし」
 どうかな、と陸遜にも提案すれば、私は構いませんよと。
 それを聞いて、ぼたんは少し気恥しげにして。
「じ、じゃあ……伯言様がよければ、一緒に」
「決まりだね。桜の木の下に並んで撮ろう」
 二人並べて、笑って笑って、と声をかけて。
 穏やかな微笑みと、ぎこちなくも一生懸命な笑顔が、桜と共にシャッターの音に吸い込まれていく。
(「彼と一緒にいた時間を支えに出来るように、こうして形に残せたら」)
 この先また、辛いことがあっても。
 彼が確かに、ここにいた――その幸せな時間を思い出せればと、願って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南本・魔姫奈
【心情】
無事に止めることが出来たとは言え、全然ね
陸遜さんを止めるためとは言え、姫宮さんを必要以上の恐怖に晒してしまって

まずは丁寧に謝るところから
わたしの方が年下な訳だし

「その……改めて、先ほどはごめんなさい」

こういう時にうまい言葉が出ない、自分の口下手さが嫌になるけど

【行動】
イグニッションカードからお菓子の詰め合わせと飲み物を取り出す

「こういうの口に合うかしら?」

その上で、話しやすそうな話題を振りたいので、姫宮さんに陸遜について聞きます
史実としての彼がどのような人物で、どうして好きになったのか
そして、本物が姿を見せてどのように過ごしたのか


多分、この場にいる陸遜さんもそれが聞ければ嬉しいだろうし




「その……改めて、先ほどはごめんなさい」
 南本・魔姫奈(まつろわぬ霊の巫女・f38646)は、真っ先にぼたんへと丁寧に頭を下げた。
 陸遜を庇うぼたんに対し、物理的に阻止しても構わないとは言われていた。だが、結果としてぼたんを必要以上の恐怖に晒してしまった――魔姫奈は、そのことがずっと心に引っ掛かっていたのだ。
(「無事に止めることが出来たとは言え、全然ね」)
 その謝罪をせずして話は出来ない、と。
 加えて魔姫奈はまだ中学生で、ぼたんは高校生。自分の方が年下である以上、それなりの礼儀は通すべきだと考えていたから。
「……ええと」
「………………」
 ぼたんは何か言いかけたが、口籠ってしまった。魔姫奈も、話を切り替える取っ掛かりを失ってしまって。
(「こういう時にうまい言葉が出ない、自分の口下手さが嫌になるけど……」)
 切っ掛けを作らなければ。
 魔姫奈は徐に、しまっていたお菓子の詰め合わせと飲み物を取り出した。終われば花見が出来ると、そう聞いていたから。
「こういうの口に合うかしら?」
 ぼたんは、差し出されたそれらをしげしげと見つめていたが。
「じ、じゃあジュース、貰いますね」
 飲み物のひとつを受け取ってくれた。
 魔姫奈は胸中で安堵して、陸遜にもお茶を手渡して。自身も飲み物を選びつつ、お菓子を広げる。
「わたしは、姫宮さんに聞きたいことがあって」
「……私に?」
 未来の話は、仲間たちがしてくれている。だから魔姫奈は、強張ったままのぼたんの心を和らげたかった。
「聞きたいのは、陸遜さんのこと」
「伯……陸遜様、ですか?」
 ちらと申し訳なさそうに陸遜を見るぼたん。陸遜は、気にしていないといった風情で片手を横に振った。
「姫宮さんの呼び方でいいわ」
「じゃあ……伯言様のままで。それで……私に? 伯言様本人もいるのに」
「姫宮さんから見た、彼の話が聞きたくて。史実としての彼がどのような人物で、どうして好きになったのか、とか。そして、本物が姿を見せてどのように過ごしたのか」
 ぼたんが識って、感じたことを、知りたいのだと。
「えっと……伯言様は、三国時代の呉郡四姓の名門の生まれで……でも、実は一族を攻め滅ぼされていて……」
 語るぼたんの瞳に熱と輝きが戻る。
(「多分、この場にいる陸遜さんもそれが聞ければ嬉しいだろうし」)
 そう思って、ふと顔を上げれば。
 陸遜が、穏やかな微笑みを浮かべて、二人を見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

荒珠・檬果
すみません、遅れました。
花見といえば、お茶と団子もでしょう。UC使った買い物袋の中から、三色団子とペットボトルのお茶を人数分出しまして。

ゆっくりとでいいのです。食べて飲んで…生きるために逃げるのは、いいことですからね。
いえ、『逃げる』ではなく、『自分のいる場所に向かう』と考えてくださいな。

その先で陸遜殿に出会い、私たちに出会い…ここにいる、のですよね。
…陸遜殿に伝えたいことを伝えてください。もう今しか、ないんですよね。
こうして推しに出会えたってことも、奇跡ですからね。




 地平線の向こうに太陽が隠れ始める。
 同時に、夜の闇が姿を現しつつあった、ちょうどその時。
「すみません、遅れました」
 荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)が、ユーベルコード製の買い物袋を引っ提げて、戻ってきた。
 そのまま、檬果はぼたんや仲間たちの前で、ひょいひょいと慣れた手付きでペットボトルのお茶や三色団子を取り出して。
「花見といえば、お茶と団子もでしょう。はい、ぼたんさんも陸遜殿もどうぞ。皆さんも如何ですか?」
 ぼたんと陸遜だけでなく、仲間たちの分もちゃんと抜かりなく用意しました!
「い……いただきます」
 ぼたんはこれまでの仲間たちの言葉や誠意に触れて、まだぎこちなくはあるが、それでも幾分か、猟兵たちの言動を受け入れられるようになってきているようだ。
 そこからすぐに前向きに……というのは、積み重ねてきた年月もある。なかなか難しいだろうが、急かす必要はないと、檬果はちまちま団子を食べ進めるぼたんの姿に、そう思う。
「ゆっくりとでいいのです。食べて飲んで……生きるために逃げるのは、いいことですからね。……ああ、いえ」
 確かにそれは、逃げるということかも知れない。
 けれど、それが本人にとって必要なことなら、端的に逃げると言ってしまうのは、余りに酷ではないか。
「『逃げる』ではなく、『自分のいる場所に向かう』と考えてくださいな」
「自分の、いる場所に……」
 反芻するぼたんに、檬果は頷く。
「その先で陸遜殿に出会い、私たちに出会い…ここにいる、のですよね」
 ぼたんにとって、それは必要なことだったのだろう。ぼたんが自らを護り、心を癒し、そしていつか、ゆっくりでもまた歩き出すために。
「……陸遜殿に伝えたいことを伝えてください。もう今しか、ないんですよね」
「………………」
「こうして推しに出会えたってことも、奇跡ですからね」
 同じ歴史を、物語を、愛する者として。
 その言葉に、ぼたんは背を押されたように、陸遜へと、真っ直ぐに向き直り。
「……伯言、様」
「はい」
「伯言様は、不本意だったかも知れないけど……それでも、傍にいてくれて、一緒に過ごせて……私、幸せでした。ずっと、忘れません。忘れないで……」
 そうして見せた笑顔と共に、涙は零れるけれど。
「生きていきます」
 いずれは彼に、胸を張れるように。
「その言葉を、聞けてよかった」
 陸遜は、安堵したように微笑み返して。


 ――ぼう、と。
「!」
 その足元が、紅蓮の炎に包まれた。
「伯言様!」
「陸遜殿……限界が」
「そのようですね」
 陸遜の全身が、瞬く間に炎に呑み込まれてゆく。
 だが、身を灼かれながらも彼は。
「今を生きる生命を侵すつもりなど、なかったのです。ただ……私はひとつ、未練を抱いてしまった」
 ですから、と。
 彼は最期に、ぼたんを見つめて。
「どうか、悔いのない生を」
 そうして、炎は消えた。
 呑み込んだ何も、残さずに。
「……伯言様……」
 いつの間にか、桜は闇の中、月に照らされ。
 夢人は、花明かりへと熔けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月01日
宿敵 『陸遜』 を撃破!


挿絵イラスト