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お嬢様デス(ワ)ゲームですわ!

#デビルキングワールド #戦後 #グリモアエフェクト #ネタ #お嬢様大迷宮

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●悪役令嬢の悩み
 デビルキングワールドのどこか。
 オブリビオンである『悪役令嬢・イレーヌ』は、うんうん唸っていた。
「最近のわたくし、こう、お嬢様力が足りてない気がしますわ……」
 物憂げに溜息をつき、紅茶で喉を潤す。
 お嬢様力を上げるためにはどうしたらいいのかと悩む彼女がSNSを見ていると、気になる文言がちらり。

 『やりこみ大迷宮で女子力アゲ~!』

「これですわっ!!!」
 善は――否、ワルは急げと。いそいそと悪役令嬢はやりこみ大迷宮に向かうのであった。

●お嬢様力って? ええ!
「ごきげんよう、皆さん! 来てくださってありがとうございます」
 グリモアベースに訪れた猟兵たちに深々と頭を下げたのはアミリア・ウィスタリア。なんだか目がうきうきわくわく、きらっきらに輝いている。
「皆さんはデビルキングワールドの『やりこみ大迷宮』をご存じでしょうか?」
 やりこみ大迷宮。デビルキングワールドのどこかにあるという、無限に続く迷宮。
 そこに潜む無数の罠とどこからともなく湧くモンスター、数々の試練を乗り越えなければならないという、謎の迷宮。
 だが、その迷宮に挑む者は後を絶たない。その理由は。
「深部へ進めば進むほど、絶大な力を得られるそうなのです」
 更なるワルを成す為に挑む悪魔達もいるらしい。大体は軽い気持ちで挑んだワルを目指す悪魔達は上層でぺいっと吐き出されて帰ってくるようで、大きな問題にはなっていない。
 だが、今回は。
「オブリビオンが、その大迷宮に入りました」
 説明しているアミリアは至ってにっこにこだが、言っていることはそこそこ重大な状況である。
「オブリビオンが進めば、住民の方々よりも容易く奥へ進めるでしょう」
 猟兵たちなら後はわかるだろう。
 強大な力を手に入れたオブリビオンが、次に何をしでかすかはわからない。
 『次』を待つより、まだ対処しやすい今、力を手に入れることを阻止した方が簡単だ。
「ということで。こちらもその迷宮に乗り込み、今のうちにオブリビオンを叩いてしまいましょう! お嬢様力を上げてお嬢様力で殴れる今がチャンスなのですから!」

 ――今なんて?

 猟兵の一人が聞いた質問に、それまでにっこにこだったアミリアは説明を忘れていたと手を叩いた。
「今回の大迷宮、お嬢様力を試されるようなのです」
 お嬢様力???
 猟兵たちの顔にいよいよ困惑が滲む。
「ええっと……こう、お嬢様言葉で喋ったりとか、お嬢様のような雰囲気のある振る舞いで試練を乗り越えなければならないようなのです」
 なにそれ???
 ますます困惑と一部「うへぇ」って顔した猟兵に慌てたようにアミリアが言葉を紡ぐ。
「簡単でいいのです。こう、お嬢様に少しでも近づければ判定はOKのようで……! ほ、ほら! 『ですわ』とか言えば多分セーフです、ええ!」
 本当かよ、と思う猟兵もいるだろうが本当なので安心して欲しい。デビキンのこの大迷宮、心(?)が広いようだ。
 『お嬢様』に少しでもなろうとする姿勢を見せつつ、試練を乗り越えれば奥へ進ませてくれる模様。
 どうしてもつらい時は普通に力技でも通れなくはないようだ。
「出てくるモンスターはどうやらギャルさんの見た目を模しているようですし」
 安心してください、当然ギャルお嬢様です! とアミリアが言うが何に安心しろというのか。
 出てくるモンスターは住人の見た目をしているが、今回は迷宮のモンスターによる再現。普段通り戦っても問題はないだろう。
「乗り越えた試練が多ければ多いほど、大迷宮から力を与えられるようです。頑張って乗り越えて、オブリビオン以上の力を得ましょう!」

 突如噴き出してくる魔法の罠。降り注ぐ鉄球。襲い来るモンスター。
 大迷宮はふざけた効力ではあるが、試練はしっかりと課してくるようだ。
 ――本物のお嬢様がそんな場所にいるわけなくない? なんてツッコミは、誰も聞いちゃくれない。
 試練を乗り越え、デビキンのトップオブお嬢様が誰かを知らしめろ、猟兵!


春海らんぷ
 春海ですわ。
 ずっとやりたかったネタですわ!
 ちなみにデスゲーム要素はほぼ無くってごめんあそばせ!
 多分オブリビお嬢様が勝手にデスゲームって思ってるくらいですわ!

●プレイングボーナス
 ・(めちゃくちゃボロボロでも構わないので)お嬢様言葉で喋る。
 ・(めちゃくちゃ雑でも構わないので)お嬢様ムーブをする。
 ・(超うっすらでも構わないので)お嬢様っぽい格好をする。
 お嬢様の試練ですわ! 一つでも当てはまればプレボ入るんでご安心くださいませですわ~!
「やってやる……ますわ~!」とか適当カーテシーもどきとか激安扇子バサバサとかでも普通に入るのでご安心くださいませ。
 試練を乗り越えたら絶大なパワーが与えられるということで、それがプレイングボーナスなのですわ。
 元々お嬢様の場合はお手本になる振る舞いをすればプレボですわ!

●お嬢様力アップのやりこみ大迷宮
 お嬢様力を試されるやりこみ大迷宮ですわ。
 いかなる時もお嬢様心を忘れない……そんな者に力を与えるという、幻(?)の迷宮ですわ。
 ちなみにお嬢様ムーブしなくても通過はできますわ。力こそパワーにしてお嬢様力なのですわ。
 トラップは魔法の属性攻撃の罠と鉄球が主ですが、他にもプレイングに書いてある罠がよさそうな場合は追加させていただきますわ。

●第一章
 『デビルギャルズ』さんを模したモンスターさんですわ。
 ギャルお嬢様ムーブで戦ってきますわ。エモワルいことがお好きなご様子。
 本物のデビルギャルズさん(住人の方)がうっかり紛れ込んでるとまずいのであんまり残虐なことはできませんのでご注意くださいませ!(その場合はマスタリングしますわ!)

●第二章
 『悪役令嬢・イレーヌ』様とのお嬢様デス(ワ)ゲームですわ!
 イレーヌ様は追いつかれてしまったら「ここでほかのお嬢様を倒せば必然的にわたくしが最強のお嬢様!」と思っているらしく、戦闘を仕掛けてきますわ。
 炎が舞う(かもしれない)、鉄球が襲い来る(かもしれない)、あとなんか罠がある(かもしれない)危険な空間でイレーヌ様を倒し、猟兵こそが最強のお嬢様ってこと、見せつけて差し上げましょう!

 ほな、よろしゅう頼みます。
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第1章 集団戦 『デビルギャルズ』

POW   :    見て見て! アタシのミミたん、ちょ~カワイクね?
【武器や防具を溶かす唾液】を籠めた【カバンミミックの舌】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【武器や防具】のみを攻撃する。
SPD   :    アハハ! アナタも悪い子にしてあげるね♪
対象の【手足】に【催眠攻撃が可能な多数の触手】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[手足]を自在に操作できる。
WIZ   :    ねぇ、アタシと悪いコトしない?
【制服】を脱ぎ、【あらゆる精神攻撃を無効化する悪い子モード】に変身する。武器「【快楽光線を放つスマートフォン】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵が足を踏み入れた迷宮は、じわりと熱い。
 デビルキングワールドに流れるマグマがこの迷宮にも巡っているのだろう。
 ――その対策なのか、薄らと涼しい風も吹いている。

 ぼちゃん、マグマが魚のように跳ねる。動きこそ鈍いが飛び交っている。罠なのだろうか。
 その近くには立て看板。
 『当たったら強制的に入口へ戻りますわよ! 無理をしないのもお嬢様のたしなみ!』

 ちょっと優しさのある迷宮の作りや気の抜けるような立て看板に、誰かが溜息を吐いた。
 その時。

「おっ、侵入者発見じゃぁ~~~ん、ですわ~!」
「ウケる、ちゃんと侵入者発見ですわって言わなきゃ駄目ですわだし~?」
「二人とも言葉遣いが乱れていてよ~~~?」
 楽しそうにきゃはははははと笑うのは、デビキンの住人であるデビルギャルズ――を模したモンスター達。
 大迷宮に作られたはずのモンスター達ですらこの程度のお嬢様言葉らしい。

 本当にこんな迷宮でお嬢様力とやらは上がるのだろうか。
 色々な感情を胸に抱きながら、猟兵は武器を構えるのであった。
カフェラテ・ホーランド
お嬢様と聴いてやって参りました…
わ・た・く・し・で・す・わ!

お嬢様らしく振る舞えば
早急にオブリビオンへの対処が叶うのでしょう?
わたくしが行かずに誰が行きますの!?

さて、デビルギャルズさん。ごきげんよう
触手がお嬢様らしくないとは申しませんが
もっと相応しいものがありましてよ
【兎耳授与】で教えて差し上げますわ!
ほら!こちらの方が!!可愛らしい!!!

なお、襲い掛かってくるなら
触手を利用してのおビンタや
敵頭部を操作、捻って対処しますわね

戦闘中も罠への警戒は怠りませんわ
お嬢様の嗜みたる『空中浮遊』で床の罠は避けられますけれど…
突如、出現するタイプの罠は
荷電粒子砲の『一斉発射』でブチ壊して差し上げますわね!



「――お嬢様と聴いてやって参りました……」
 ざっ。大迷宮の入口に、とても品のあるうさぎが現れた。
「わ・た・く・し・で・す・わ!」
 ばばーん!
 そのうさぎ――カフェラテ・ホーランド(賢い可愛いうさぎのプリンセス・f24520)は入口でその可愛らしい顔を自信で輝かせていた。
 見た目はふわふわかわいいたれ耳うさぎだが、カフェラテはプリンセス。お嬢様中のお嬢様だ。お嬢様力を求められたのなら自分の出番だと自信満々。
「お嬢様らしく振る舞えば早急にオブリビオンへの対処が叶うのでしょう? ――わたくしが行かずに誰が行きますの!?」
 ふわふわと耳を揺らしながら、ぴょんぴょこ迷宮を進んでいった。

「わ~、うさぎじゃん! ヤバくね? きゃわ~!」
「ちょっと、言葉が乱れていてよ?」
 デビルギャルズに囲まれたカフェラテはかわいいかわいいと撫でられまくっていた。
「それに気安く他人に触れるなんて、レディの嗜みが出来てないのではなくて?!」
「すっご、お嬢様力、もうあるじゃん……」
 身動きの取れない状況に少しだけぷんすこしつつも、お嬢様らしくお嬢様としての振る舞いをデビルギャルズに説いてやる。感心したようにデビルギャルズたちはカフェラテの言うことを聞き、大人しく距離を取った。
 ――す、とスマホを取り出してカフェラテを撮ろうとした者がいたがカフェラテはそれにすぐさま気づきぺちーんとスマホを叩き落とす。
 全く、油断も隙もあったものではない。迷宮で生まれたはずのお嬢様モンスターなのにお嬢様としての自覚が全く足りていない。ここは手本を見せなければ。
 こほん、カフェラテは咳払いしてから愛らしくデビルギャルズに微笑んだ。
「改めまして、デビルギャルズさん。ごきげんよう。わたくし、カフェラテ・ホーランドと申します。以後お見知りおきくださいませね」
「うさぎちゃんめっちゃお嬢様じゃん、ウチらより超お嬢様ですわって感じですわ~」
「……お嬢様は人の自己紹介を遮ったりしませんわよ」
「そうなん?」
 生粋のお嬢様としてはマナーの悪さに少しだけ呆れてしまう。とはいえ、広い心を持つのもまたお嬢様。カフェラテは一度深呼吸をしてからデビルギャルズの持つ鞄に目をやった。
「皆様がお持ちのそちらは?」
「お気づきになりまして? アタシたちのミミたん、超有能で~」
 がさごそと鞄の中を漁るようにすると、ぬらりと紫色の舌と触手が伸びてきた。
「カフェラテちゃんもワルいお嬢様になろうですわ~!」
 触手やミミックの舌がカフェラテに襲い掛かる。
 カフェラテはキッとそれを見据え、床を蹴った。
 ――ふわり。
 一瞬避ける為のジャンプではなく、カフェラテの身体は宙を浮く。
 カフェラテ曰く「空中浮遊はお嬢様の嗜み」。こうしてしまえば床から伸びる捕縛の罠もカフェラテには届きはしない。
 ふわふわと浮きながらミミックの触手には別の触手をぶつけて同士討ちおビンタで成敗、ついでに飛んできた強制送還マグマ弾もひらりと交わし、デビルギャルズたちを見下ろした。
「触手がお嬢様らしくないとは申しませんが、もっと相応しいものがありましてよ!」
 きゅっと小さな手を組んで祈れば、ミミックを放っていたデビルギャルズたちにぽぽんとうさみみが生える。
「ほら! こちらの方が!! 可愛らしい!!!」
 勝ち誇ったようなカフェラテの声。
 一瞬、空気が固まり――わぁっと歓声が上がった。
「えっやば、かわいい~!」
「アガる~! いいの?」
「本当のお嬢様は奪うのではなく与えるのですわ」
 カフェラテ、|兎耳《うさみみ》を授ける。
「ミミたんもいいけどうさみみかわいい~、お嬢様力アゲって感じ!」
「そうでしょう、そうでしょう」
 すっかり戦意をなくしたデビルギャルズたちはカフェラテと一緒に記念撮影。
 うさぎワールドと化したそこは迷宮の中でも平和な空間――だったが、ごとん、と大きな音がした。
 騒ぐデビルギャルズは誰も気づかず、しかし賢いうさぎのカフェラテはその音が罠の音だと気づき――
「皆様、その場で伏せてくださいませ!」
 本性はモンスターと言えど、うさみみを付ければうさぎワールドの住人でもある。罠で死なせたくはない。
 無理やりうさみみの効果で伏せさせ、最前線に向かいながら荷電粒子砲の『Apollo』を展開する。
 ごろごろと猛スピードでこちらに向かってくる巨大鉄球に粒子砲をぶちかませば、呆気なくそれは融け落ち、欠片はマグマの中に落ちていった。
「ご無事ですか?」
 振り返った瞬間、力を使っていないのにふわりと身体が持ち上がる感覚。
「カフェラテお嬢様、サイコーッ!」
「マジ崇めですわ~!」
 カフェラテのうさぎお嬢様力に魅了されたデビルギャルズたちに胴上げされていたのだ。
「も、もう。皆様、そんなに大騒ぎしてははしたなくてよ」
 そう言いながらも、カフェラテは照れたように笑んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アメリ・ハーベスティア
お嬢様ムーヴなのですか?
アース系世界で見た漫画にも色々な
タイプがありましたが、丁度和服(今年の浴衣)もありますし

アメリもお嬢様っぽく『礼儀作法』しながら茶道をするのですわ

●WIZ
『第六感』で攻撃を『見切り』
回避、かわせないのは『オーラ防御&属性攻撃(鏡)』を付与したアメリの【地竜の翼】で『ジャストガード&受け流し』するのですわ

悪い事の誘いビームへの対処に足りない分は、スーパーよいことしての頑強な精神力でカバーですわ

ではアメリも茶道(物理)らしく
お茶と菓子を含め『高速詠唱&全力魔法』込めたUC(茸の山抹茶味)を【キノコミコン】から『範囲攻撃』でおもてなし遊ばせなのです

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎



「必要とされるのはお嬢様ムーブなのですか?」
 アメリ・ハーベスティア(キノコ好きの「よいこ」な地竜の末裔・f38550)は眼鏡の奥の大きな目をぱちぱちと瞬かせた。
 お嬢様――特に悪役令嬢というと、王道は高笑いしているような印象だが、アメリには他の知識もあった。
(アース系世界で見た漫画にも色々なタイプがありましたね……)
 求められているのがお嬢様というのであれば、別に高笑いをしなくても良い。ドレスを着こなす必要だってない。
 そう、例えば――
「アメリもお嬢様っぽく、礼儀作法をしながら茶道をするのですわ」
 落ち着いた東洋お嬢様だって正解だ。
 今年の秋に仕立てたばかりの浴衣に身を包んだアメリはしずしずと迷宮へ進む。
(確か生け花をしていたお嬢様って、こんな感じでした……!)
 モデルとした漫画の登場キャラクターを思い浮かべながら歩くその姿はなかなかさまになっていた。

「あっ、浴衣可愛い~、ですわ~!」
 ごきげんようの一言もなく、やはり馴れ馴れしく喋りかけてきたのはデビルギャルズを模したモンスター。
「お褒め頂きありがとうございます」
 アメリはにこりと微笑んだ。拘りのキノコ模様のフリル付き浴衣と羽織が褒められれば、嬉しいに決まっているのだ。とはいえ、油断をする心算はない。
「可愛い浴衣だけど~、でも、もーっと可愛くなりましょ?」
「ねぇ、アタシ達と悪いお嬢様になろ?」
 ゆっくりと見せつけるように制服を脱ぎ出すデビルギャルズ。『良い子』の精神を捨てた彼女達は、アメリを堕落に導かんとする。
「いいえ、アメリはこの浴衣が好きですから脱ぎませんわ」
 きっぱり断るとデビルギャルズはむすっと表情を変える。
「えー、つまんない! ねえ、悪いお嬢様になりましょうですわ~」
「そんな事言っても本当は気になってますわよね……? ほら、素直になっちゃお?」
 制服を脱いだ――といってもよく見なくてもリボン外しただけとかブレザー脱いだだけとか、ほぼ変化のないデビルギャルズ達。一人がアメリにスマホを向けた。
「そーれ、ビームですわ~! 悪いコトしちゃおうですわ~!」
 ぴかっ。やけに強い光が、迷宮の中を奔る。
 アメリはそれを軽々と避け、飛んできた罠のミニ鉄球をデビルギャルズに向けて蹴る。しかしデビルギャルズ達も簡単には引く気がない。
「む、早い……! もー、どんどんやっちゃいますわよ!」
 それそれとデビルギャルズ達がスマホから光線を放つ。
 いくらアメリとはいえ、マグマで通路が狭くなってる場所で無数の光線を避け切るのは難しい。
「くっ……!」
 咄嗟にオーラを纏い、自身の地竜の翼で身を庇う。
 岩石によく似た翼は物理と魔法に対する防御力が高い。そこに鏡の力も纏わせれば、ほとんどの光線をはじき返した。
 それでも一気に光線を受けたからか、じわじわとアメリの心に「悪いコト」をしたくなる気持ちを芽生えさせる。
 例えば――タケノコを普及させないようにちょっと買い占めておこうかなとか、そういう感じの、ちょっとだけ悪いコトが脳裏を過る。
(いえ)
 そんなことは断じてならぬ。スーパーよいことしてそんな卑怯な真似はしてはならぬ。
 アメリはぶんぶんと首を横に振りながら光線が終わるまで耐え続けた。
 光が止んで、そっと翼の守りを開くと、そこには反射された光線でダメージを受けてしまったのかデビルギャルズ達がごろんと寝転がっていた。
「あ~、マジ無理、もうお嬢様とかだっるいわ……」
「マジのワルってここでお嬢様力捨ててだらだらすることじゃね?」
 どうやら快楽光線はこの場では随分気の抜けた人物にしてしまう堕落の光線と化していたらしい。やる気が完全にゼロになったデビルギャルズがゴロゴロしていた。
「まあ……」
 意外な展開にアメリは驚きつつも、ここはチャンス。
「皆様、お疲れですか? それならばお茶の時間といたしましょう!」
 持ち込んだ茶道セットを広げ、しゃかしゃかと茶を点てる。
 その聞きなれない音にデビルギャルズ達が顔を上げた。
「え、何々、ティータイム?」
「ヌン茶?」
 興味津々といった様子でアメリの周りにわらわら集まってくる。
「ヌン茶ではなく、茶道ですわ」
 アメリがお上品にお茶を用意していればデビルギャルズも何かを感じたのか、すっとそこに正座した。
「お菓子も用意しますわね」
 すっと取り出したのはお菓子の箱――ではなく、茸図鑑型魔導書『キノコミコン』。ぱらりと開いてアメリが唱えればころころと緑色のキノコが転がり出てきた。
「えっ何これ、やば」
「緑色だけど~?」
「抹茶味のチョコレートキノコですわ」
 にこり、笑ってお茶と共に抹茶チョコキノコを差し出すアメリ。
 デビルギャルズ達がわーい! とそれに手を伸ばした、その瞬間。
 先程の光線乱舞に負けぬ光が空間を満たした。
 ――抹茶キノコの宿した大地の力の爆弾。それが炸裂したのだ。
 デビルギャルズは吹っ飛んでいき、その代わりと襲い来る炎のトゲの魔法も爆破の前になす術なく消えていった。
「これがアメリのお嬢様道――おもてなしですわ!」
 誇らしげにキノコを愛したよいこなお嬢様は消えたデビルギャルズに――否、迷宮に宣言した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

生浦・檀
まあっわたくし向きの依頼ですわね
お三方のご挨拶にはカーテシーで返礼を
本日は宜しくお願い致しますわ
遠慮は不要と伺って居りますの、とにこやかにURを握り直します
美しい所作には筋肉も必要ですわ
それでは参りましょうか

道すがらの鉄球は斧の柄で受け流し
落石は全て斧で粉砕いたします
溶岩に落ちた後のマグマの跳ね返りはオーラ防御で防ぎますわ
髪の一筋から足の先まで360度きちんと意識を行き渡らせる事が重要ですのよ
あら、分かれ道ですわね
ランブー、どちらに行けばよろしくて?
ファミリアのカンに任せるのも一興でございましょう

あらあら、おいたの過ぎる鞄ですわね
URに炎の魔法を纏わせて、持ち主諸共UCで仕留めてしまいましょう



「まあっ、わたくし向きの依頼ですわね」
 グリモアベースで任務内容を聞き、ぱぁっと表情を輝かせていたのは生浦・檀(フィジカル系ウィザード・f39698)。
 本物のお嬢様である彼女には付け焼刃のお嬢様ムーブなど不要。ただいつも通り過ごせば良いのだ。
「どんな迷宮か楽しみですわね」
 楽し気に握った武器はハルバードの『UR』。ぶんぶんと軽く素振りしてから迷宮の奥へ進んでいく。

 侵入者を試そうと鉄球が檀に襲い掛かる。巨大鉄球はぶつかれば痛いどころでは済まないだろう。
「まあ、危ない」
 おっとりと驚いた檀は優雅にそれを避ける――のではなく、ガンッと音を立ててハルバードの柄で受け流す。
 次いで襲い掛かってきた落石は目にも止まらぬ勢いでURを振るって粉砕した。砂塵を吸わないように口を押えるその仕草は実に嫋やか。
「つ、強……」
「あら」
 いつの間にか陰からこっそり見ていたらしいデビルギャルズと目が合った。
 姿勢を正し、美しいカーテシーで挨拶をする檀。
「ごきげんよう、デビルギャルズ様。本日は宜しくお願いいたしますわ」
「ごきげんよー……。お嬢様めっちゃ強くね?? それ重くないの?」
「それ? ……ああ、URですね!」
 くるり、バトンを回すかのような気軽さで一回転させ、とん、と床につける。
「美しい所作には筋肉も必要ですわ」
 これくらい重いに入りませんのよ、と笑むその表情は華のよう。
 圧倒的|お嬢様力《強者感》にデビルギャルズたちは「ひょえ……」と既に気圧されている。
「ちょ、ちょっとヤバい、マジのお嬢様マジ強いですわよ」
「いやでもほらワンチャン武器さえどうにかすればさ?」
 デビルギャルズ、思わずこそこそ作戦会議。檀は暫くそれを不思議そうに見守っていたが会議はなかなか終わりそうにない。
「――遠慮は不要と伺っておりますの」
 きゅっとURを握り直した音は、デビルギャルズを怯えさせるのに十分だった。
 ふわり、スカートを美しく揺らしデビルギャルズの一人に強打をお見舞いする。
「ぎゃん!」
 ぶん、とハルバードの勢いそのままに吹っ飛ばされるデビルギャルズの一人。野球だったらホームラン間違いなしの吹っ飛び方である。
「やだこのお嬢様めっちゃ見た目詐欺じゃん!!! ゆるふわかと思ってたのにさあ!!」
 お嬢様ムーブがすっかりなくなったデビルギャルズたちがぎゃあぎゃあ喚く。少しだけ困ったように檀は微笑んだ。
 ――見かけ詐欺。よく言われる言葉の一つである。
「意図してかような風貌に生まれたわけではありませんわ」
「それはそうかもしれないけどさあ!」
 せめてそのごつい武器捨てて! とイチャモンを付けながらデビルギャルズたちはカバンミミックを放つ。
「もっとおしとやかなお嬢様になぁれ、ですわよ!」
 一番の脅威であるのはハルバード。そう踏んだデビルギャルズたちはミミックをURに集中させた。
 ――それは誤りである。
「あらあら」
 檀は困りましたわねと呟きながらも全く動じない。襲い来るミミックの胴体――ただの鞄の部分めがけ、URを振るうと共に小さな声で素早く詠唱した。
 URに刻まれたルーン文字に微かに光が灯ったかと思えば、ごう、とマグマにも劣らぬ灼熱の炎が噴き出す。
 重い一撃と共に炎で焼かれたカバンミミックはあっさりと力尽き、ぼちゃんとマグマ溜まりに落ちた。その勢いで檀にマグマが跳ねたが、そのマグマは檀に触れることなく床に落ちた。まるで檀に触れてはならぬとマグマから身を引いたようにも見えた。
「待って今のどうやったん!?」
 カバンミミックの死に動揺しながらも、ミミックの最期の反撃すらもなかったことにされたデビルギャルズが興味深そうに聞いてきた。
「お嬢様の姿勢というのは髪の一筋から足の先まで360度きちんと意識を行き渡らせる事が重要ですのよ」
「それが出来ればつよつよお嬢様になれるって事?」
「ええ、きっと!」
 そう微笑んだ檀はノータイムで再びURに炎の魔法を纏わせる。
「次はより一層素晴らしいお嬢様になれると良いですわね」
 甘っちょろい容赦をしないのもまたお嬢様の姿勢の一つであると教えるように、檀は逃げ出そうとしたデビルギャルズを火の玉ホームランに変えた。

 周りが静かになってから服についた軽い汚れをぱんぱんと払って檀は迷宮の奥へ進んでいく。
 デビルキングワールドのある種素直な性質なのだろうか、迷宮を謳う割には案外真っ直ぐな道が多かった。
「……あら、分かれ道ですわね」
 漸く迷宮らしく分かれ道が。行先は放射状に五つに広がっていた。
 どこに進もうかどきどきワクワク。けれど五つもあれば迷ってしまうのも確かで――。
「ランブー」
 呼びかければひょこ、とハリネズミの『ランブー』が檀の懐から顔を出した。
「どちらに行けばよろしくて?」
 床に下ろされたランブーはちょこちょこと小さな足で道を確かめる。
 こっち! と言いたげにてちてちと速度を上げて歩き出したランブーに檀は「そちらですのね」と頷いた。
「ファミリアのカンに任せるのも一興でございましょう」
 次はどんな仕掛けがあるのかしら?
 まるでピクニックを楽しむかのように檀はゆったりと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神塚・深雪
お嬢様、ですか? お任せ下さいっ
私、コレでも所謂箱入りって言われる育ちみたいですし!
昔(演劇で)とった杵柄もありますからね!
(かなり本人ノリノリ)

トラップは技能を利用し、踊るように回避をし

……それにしても。
|丁寧な《お嬢様的な》言葉遣いが雑なのは仕方ないとしても、その(ギャル的な)諸々は少々古う御座いませんか?!
私が子供の時なら正座でお説教されるかお仕置きを受けるところですわよ!
(とお仕置き代わりといわんばかりにUCを発動させ)

……年齢? 何のことでしょうか?
(年齢に触れられたら笑ってない笑顔でお嬢様ギリギリな圧をかけます)

最後に
……娘がこんな風に育ってもちょっと嫌ですわね(等とボソリと)



「お嬢様、ですか? お任せ下さいっ」
 どん、と胸を張ったのは神塚・深雪(光紡ぐ|麟姫《りんき》・f35268)。
 コレでも所謂箱入りと言われる育ちみたいですし、昔演劇で取った杵柄もありますからね! と超にっこり。
 本人に言えばそんなことはないと否定されるだろうが、かなりノリノリなのである。
 ――しかし深雪はまだ知らない。そこそこ心が抉られる未来がすぐそこにあることを。

 迫りくる鉄球を『麟楔刀』で受け流し、『麟翼』の名を持つ二つの刃で岩やマグマ弾を断つ。
 千早揺らし罠を躱すその姿は、神楽を舞うが如し。
 ノリノリの深雪は心の中でガッツポーズ。
(今、私ちゃんとお嬢様してますね……!)
 しかし、その心を読んだかの如くツッコミの声が聞こえた。
「……お嬢様では、なくね?」
「どっちかーってーと|巫女力《みこぢから》。お嬢様じゃなくて巫女ですわ~」
「アタシらのがまだお嬢様ですわって感じ」
 じゅぞぞーとタピオカミルクティーを飲みながら現れたのはデビルギャルズを模したモンスターたち。ミルクティー一つでお嬢様名乗ろうとしているらしい。
「なん、ですって……!」
 お嬢様出来ていないのはそちらでしょう!? と深雪は軽くショックを受けた。
「私、あなたたちよりかはお嬢様してますっ! 大体、|丁寧《お嬢様的な》言葉遣いが雑なのは仕方ないとしても、そのギャル的ムーブの諸々、少々古う御座いませんか?!」
 全く以てその通りである。確かにアース世界の現代のギャルとデビルギャルズたちは少々乖離している。深雪の縁深き世界である|銀の雨降る世《シルバーレイン》でもこの手のギャルは数を減らしている。
「は~? アタシらはアタシららしく生きたいだけですわよ~?」
「そんなこと言ったら巫女=お嬢様っていう発想も古う御座いませんかしら~?」
 けらけら笑うデビルギャルズたちは全然動じていない。
(くっ、どうして……!)
 ちょっとナメられている感に悔しさを感じながらも深雪は声を張る。
「全く、そんな態度にそんな服装。私が子供の時なら正座でお説教されるかお仕置きを受けるところですわよ!」
 当時の教育というものを教えて差し上げましょうと言わんばかりに、深雪は天井に向けて手を伸ばす。ふわりと銀色の光が空へ飛び、一帯を覆うように散る。
 銀色の光を纏い、舞い落ちるは羽根。戦場に降り注ぐそれは美しくも無慈悲な一面を持つ。大好きなエモさに釣られて手を伸ばしたデビルギャルズの手を撫でるように滑り落ちたそれは刃物のよう。
「ったぁあああい! なにこれ、ナイフですの!?」
「ああっ、ミミたんの自慢の触手がぁ~、ですわ!」
 デビルギャルズや彼女らの持つカバンミミックを切り裂いた羽根は、その光で深雪を癒す。――今回物理的にはノーダメージだが、銀色の光は精神を少しは落ち着かせてくれる。
 徐々に羽根の数は増え、デビルギャルズの戦力を奪っていく。ここまで弱らせればトドメを刺さずとも先へ進めるだろう。
 先へ進もうとした深雪を引き留めるかのように、デビルギャルズの一人が呟いた。
「ねえ、思ったんだけど。アタシたちの事『古い』っていったり『私が子供の時なら』とか言ったりさ……」
 ――もしかしておねーさん、まあまあ年上なんですの?
 ぴたり。深雪の足が止まった。
「あっ、わかるかも。確かになんかちょっとジェネレーションギャップ的な何か感じなくもないっていうかぁ~」
「頭固いと申しますかあ~」
「マジお母さんって感じですわね」
 ボロボロの癖にテンションだけはキャッキャしているデビルギャルズたちだったが、何か薄ら寒い物を感じ、笑うのをやめた。
 深雪が、笑っている。しかしながらさっきまでの僅かなあどけなさも含んだ愛らしい表情ではなく、あまりににこやか過ぎて――一言で言えば圧を感じる笑顔をデビルギャルズたちに向けていた。
「……年齢? 何のことでしょうか?」
 神塚・深雪、三十二歳。実は母親でもある。
 事実ではあるのだ。だからこうした若い子たちにはつい物申したくもなってしまうことも増えて来てはいる。だが、だが。
「――年齢をネタにしてはいけないとは、習いませんでしたの?」
 それを理由に嘲るような言い方をされる筋合いは一つもない。
 貼り付けたような笑み。柔らかな口調に反し、冷たい声。
 大変な地雷を踏んだことに気づいたデビルギャルズが謝罪と反省を述べるその前に、再び銀色の羽根の嵐が迷宮に吹き荒れた。

 銀色の嵐が収まり、マグマの流れる音だけが深雪の耳に届く。
 身に残っていた怒りを吐き出すようにふーっと深い深い溜息を吐き、深雪はふと娘の未来に思いを馳せる。
 ギャルという生き様全てを否定するつもりはない。けれど、欲を言うのなら。
「……娘があんな風に育つのは……ちょっと嫌ですわね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリスフィーナ・シェフィールド
厳しく礼儀作法とか躾はされてきましたけど成り上がり的な家系の方で
お嬢様かといわれると違う気もしますが。オブビリオンをパワーアップさせるわけには行きませんし参りましょう。

ただお嬢様っぽい衣装って今の手持ちでないのですよね……。
戦闘衣装とかスカート丈短いですし……メイド服(イラスト参照)で行きましょうか。
侍女とかも昔はお嬢様の奉公の一つだったと言われてますし問題ないでしょう。

ごきげんよう……随分と溌剌そうなお嬢様ですわね。
……というか何も考えてないっていいますか思うがままに囀ってるような。
ってなぜ脱ぎますのはしたないですわ、お仕置きが必要なようですわねっ。
ということで指導の雷を文字通り降らせます。



 イリスフィーナ・シェフィールド(女神様の巫女兼|スーパーヒロイン《承認欲求の塊》・f39772)は少しだけ悩んでいた。
 お嬢様とは。
 有名俳優の両親と兄のいるシェフィールド家。俳優ではないイリスフィーナも厳しく礼儀作法や躾はされてきた方。一般的な家庭よりかは『お嬢様』的な振る舞いはできる自信はなくもない。かといって血筋がお嬢様かと言われると成り上がり家系の方だから違う気もしてしまう。
「改めて考えると、お嬢様って何なのでしょう……」
 迷いは終わらないが、オブリビオンをパワーアップさせるわけにはいかない。ここはお嬢様力で|お嬢様《オブリビオン》を止めるしかないのだ。
 イリスフィーナは気持ちを切り替えようと自身の装備を確認する。そこではたと気づいた。
(今の服装、お嬢様っぽくはないかもしれませんわね……?)
 イリスフィーナの戦闘衣装は動きやすさ重視。スカート丈は短めだ。イリスフィーナの知るお嬢様はここまで短いスカートを穿いていた者はいなかった気がする。
 持ち込んでいた衣服をいくつか広げ、しばし考える。
 イリスフィーナが選んだのはメイド服。丈が長く、一番清楚な格好に見えるからだった。

 衣装からきっちりと悩んでお嬢様らしさを上げてきたイリスフィーナの目の前に現れたのはデビルギャルズたちだった。彼女たちはギャルである。そう、スカート丈が短い。
(あんまりこの迷宮、見た目を気にしていなかったのでは……?)
 少し肩透かしを食らった気持ちになるが、しっかり用意をしてきたイリスフィーナに迷宮が何の加護も与えないという訳もなく。
 まだ少ししか進んでいないにも関わらず、じわじわと力が満ちてくる感覚があった。
(もしかして比較して『よりお嬢様』な方に力を与えてくれる迷宮なのかもしれませんね)
 そうと分かれば自分なりにお嬢様を貫くまで。イリスフィーナは恭しくデビルギャルズたちにカーテシーをした。
「ごきげんよう、随分と溌剌そうなお嬢様方ですわね」
「ごきげんよー! ねえねえメイドちゃんってことはアレ? アタシたちに仕えてくれる的なノリ!!?」
「ヌン茶したぁーい!」
「おいしいマカロン食べたぁ~い、ですわ!」
 きゃいきゃいと要望を突き付けてくるデビルギャルズたちに、ほんの少しだけイリスフィーナは顔を顰めた。
(……溌剌そう、というよりも。何も考えていないって言いますか、思うがままに囀っているだけのような……)
 大体正解である。デビルギャルズを模したこの迷宮モンスターたち、お嬢様力があまりに低いのである。
 イリスフィーナはこほんと咳払いをした。
「お嬢様がた。メイド――侍女も昔はお嬢様の奉公の一つだったともいわれていますのよ?」
 イリスフィーナがメイド服を選んだのにはもう一つ理由があった。行儀見習。結婚前の令嬢たちが手伝いの傍ら、行儀作法や家事を学ぶ為に上級使用人として奉公に出る時代もあったのだ。
「え、マジ? メイドはメイドじゃないんですの?」
「すごお、メイドちゃんマジ博識ですわ~!」
 ぱちぱちと素直に拍手してくるデビルギャルズたち。褒められることに悪い気はしないが、この妙な空気感にイリスフィーナはどうすべきかと思案する。このまま丸め込めばすんなり通してくれそうな気も――。そう思ったところで、デビルギャルズが「でもお」と口を開いた。
「メイドちゃんって言えばさあ~、やっぱさあ~?」
「ご奉仕ってヤツが必要ですわよね~?」
「わかるー、ですわ~!」
 きゃぴきゃぴと盛り上がっているデビルギャルズたちが何故か服を脱ぎ出す。やはり中途半端に良い子なのか、リボンを外したりブレザーやセーターを脱いだりで止まっているが、それだけでも悪い子モードのスイッチが入るのかイリスフィーナを見る目が妖しく光る。
「メイドちゃんも悪いコトしよ?」
「これがお嬢様の命令ですわよ?」
 スマートフォンから光線が放たれる。イリスフィーナはそれを避けなかった。
「あはっ、避けないなんてえらーい、ですわ~!」
 これで意のままにメイドを操れる――そう思ったのかデビルギャルズの一人がはしゃぐが、光線が止んだ後もイリスフィーナの戦意は微塵も欠けていなかった。
「えっ?! ビームが効いてない……なんでですの!?」
 それに答えるかのように、イリスフィーナの身から光――『シャイニング・ウィル』が溢れ出す。敵にバレないように意図的に押さえ込まれていた光。光に光線を飲み込ませ、一切イリスフィーナ自身には届かせていなかったのだ。
「……何故脱ぎましたの? それに何故そんな危険な光線を人に向けましたの? はしたないですわ、お仕置きが必要なようですわねっ!」
 危険を冒したお嬢様を叱るのもメイドの役目です、とイリスフィーナは更に身に纏う光を強め、それを雷に変える。
「これは正しいお嬢様になるための指導ですわ。反省なさいませ!」
 ズドォン!
 イリスフィーナの怒りの雷が、デビルギャルズたちに真っ直ぐに落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斯波・嵩矩
【タイガー(f36566)】と参戦
アドリブ歓迎

この場ではタイガーお嬢様と呼びます
仁義なきおビンタ淑女バトルゲームで培った
わたくしのお嬢様力を見せてやりますわ~!
普段とキャラも口調も違いますけど
お気になさらないでノリ大事

「まあ
はしたなくてよ」(ゴシックブラックゴージャス扇子で口抑えながら)
一般人が混ざっている事を考慮
極力傷つけず気絶狙いで無力化します

「お下品な真似はおよしなさい」
タイガーお嬢様をアカBANから「かばう」
具体的には脱衣したギャルお嬢様をわたくしの恵体でカメラから隠します
抵抗激しいギャルお嬢様はモンスターですわね
攻撃が通りやすいようマメに位置替えしますわ

お疲れ様
赤スパチャしとくね😊


小松・久秀
【タカくん(f36437)】
アドリブ共闘OK

(UC展開)(クラシックBGM)
「御機嫌よう。タイガーチャンネルのタイガーですわ(適当カーテシー
今日はお優雅にお嬢様をブン殴って行こうと思います
待ってください誤解されますよ!?炎上するッ!」

タカくん教材間違ってますよ、あ、ますわ
組員(視聴者公式総称)と僕を置いてかないでくださいませ
同行者のノリノリお嬢様ぶりに若干引いてます

落とし穴にはまり
振ってきた槍を黒刀で斬り捨て
鉄球から全力ダッシュで逃げて叫ぶ
動画投稿サイト『リコリス』での実況生放送は大好評

脱衣ギャルお嬢様を僕が殴る絵面キツいですって
能力もエロだやめろアカBANの危機!!!
速やかに緋刀で無力化狙う



 マグマの音と時折戦闘音、そして悲鳴の響く大迷宮に、突然の超優雅クラシックBGMが割り込んだ。音の出どころは動画撮影と配信を一気にこなすドローンであった。
「御機嫌よう。タイガーチャンネルのタイガーですわ」
 そう言ってバイザー越しににっこり笑って適当カーテシーをキメたのはドローンの持ち主――小松・久秀(烟る轍・f36566)、通称『タイガー』。
 動画投稿&掲示板サイト『リコリス』の配信者である彼は、いろいろ心身削ってでも動画を撮るためにここに来てしまったのかもしれない。もしくは。
「ごきげんよう、組員の皆様。タカですわ」
 今回のゲストの『タカ』――斯波・嵩矩(永劫回帰・f36437)の提案によるものか。
 何故か男性配信者と男性ブロガーがお嬢様に挑むことになっているのである。
「今日はお優雅にお嬢様をブン殴って行こうと思います」
 この時点でタイガーの動画視聴者、通称『組員』のコメントは期待に満ち満ちている。
『とか言っていつも通りの激熱ガチバトル路線ですよね』『超期待ですわよ~!』
 お嬢様ムーブもそこそこに、比較的いつも通りの挨拶をする久秀の横でこほんと嵩矩が咳払いした。
「タカくん?」
「甘いですわよタイガーお嬢様」
「タイガーお嬢様???」
「仁義なきおビンタ淑女バトルゲームで培ったわたくしのお嬢様力を見せてやりますわ~!」
「待ってください誤解されますよ??!」
 そういうゲームがあると知っている人なら「ああ」となるかもしれないが、知らない人には大困惑必至のタカの発言である。組員、どれほどそのゲームを知っているのだろう。
「普段とキャラも口調も違いますけど、お気になさらないで――ノリ大事」
 ぱちんとカメラに向かってばっちりウインクをキメた嵩矩。
「タカくん、大体それ教材として間違ってますよ」
「タイガーお嬢様、口調が乱れていてよ?」
「……ますわ」
 ――ノリノリだこの人。もう今回きっと僕が何言っても止まらなそうだなあ……。
 スキップでもしそうなところをお嬢様らしくおしとやかに進む嵩矩の後ろ姿は、花や音符が舞っているようにも見える。
 久秀は今日起こるカオスへの覚悟を決めながら同行者の後へ続く。その姿に組員は何を思ったのだろうか。投げ銭付きコメントがいくつか投じられた。

「……こんな落とし穴ありますか」
「フリルですわね~!」
 入って早々、久秀は床のスイッチを踏んで落とし穴に落ちてしまった。そこに敷き詰められていたのは白い布。落ちても大した痛みはなく、見渡す限り一面の白だった。上から覗き込む嵩矩曰く、フリルたっぷりの落とし穴なのだそう。
「罠もお嬢様力を含んでいるんでしょうか」
「タイガーお嬢様、また口調が乱れていてよ?」
「……『含んでいるのかしら』。いやノリノリすぎませんタカくん? 僕も組員もついて行けてないです。置いていかないでくださいませ」
 落とし穴から抜け出してからコメントをチェックすれば『タカ様ノリノリ過ぎましてよ~』『タカくん寝不足?』などと心配の声が上がっていた。それを嵩矩に見せる。
「あら、ご心配には及ばなくてよ。わたくしとっても楽しいだけですわ!」
 どこまでも徹底されたお嬢様ムーブ。見えないドレスをふわりと広げるようにくるりと回る。
 かちっ。
「あっ」
 今度は嵩矩が何かを踏んだ。きらり、天井が光った気がして二人が上を見上げれば――。
「ちょっ、槍!」
「迎撃ですわね!」
 慌てて黒の刀を抜き槍を次々に切り捨てる久秀、その欠片を『九節雷公鞭』で絡めとってマグマに落とす嵩矩。テンションは違えど連携は抜群だ。組員たちもその姿に大盛り上がり。
「ふう、やれやれ……」
「ん? 何か聞こえてきませんこと?」
「何か?」
 遠くで何かが聞こえ、嵩矩は顔を上げた。
「悲鳴のような……あと何かが転がってくるような」
「え……?」
 あちらかしらとこのタイミングでも完全なるお嬢様ムーブを崩さず、閉じた扇子で音を感じる方を指す。
 二人でじっと暗闇を睨んでいると――。
「わああああマジやべーし! マジやべーですし!」
「アタシたち侵入者じゃないのにい!」
「あっ侵入者いましたわよ! 巻き込みましょう!」
 巨大鉄球に追いかけられ逃げ回るデビルギャルズがこちらに向かって走ってくるではないか。
「あらまあ」
「ちょっ、こっち来るなよ!」
 思わず一瞬ブラックな口調になってしまう久秀。楽しそうに、しかし迎撃しようとしていた嵩矩をむんずと掴んで走らせる。
「こういう時は逃げたほうがいいんですよタカくん!!」
「逃げ場ありますの?」
「……わからないですけど……!」
 ぎゃあぎゃあ喚きながら逃げるデビルギャルズたちと共に迷宮を只管に走る、走る。
「ぎゃー!!!」
 デビルギャルズたちの断末魔が聞こえた。どうやら鉄球にぷちっとされたらしい。勢いがついたのか鉄球の速度は更に上がっていた。
「ああああああああああこのままじゃまずいまずいまずい!」
「流石にちょっとこれは……」
「! タカくん、こっちです!」
 細い曲道を見つけた久秀がくんっと嵩矩を引っ張る。嵩矩もそれに遅れることなく細道に飛び込んだ。
 二人が細道に入り込んだ数秒後、ゴロゴロと鉄球が通り過ぎていく。
「ふう……。感謝いたしますわ」
「よくってよ」
 どうにか無事鉄球を躱した二人だったが、ほぼ入口まで戻ってきてしまった形だ。もう一度元の道を辿ろうと改めて進むことにした。

「あっ、いた! イケメンお嬢様たち……!」
 デビルギャルズが鉄球に押しつぶされていた付近で、彼女らと再会した二人。
 魔界の悪魔は鉄球如きではへこたれない。その強さはモンスターにも踏襲されていたらしい。
 ボロボロになりながらもよろよろ起き上がり、不敵に笑んだ。
「いくらお嬢様ムーブをしていても、元々男ならさぁ……」
「アタシたちと悪いコト、したくなっちゃうよね……?」
 ボロボロになっていたからか既に僅かにはだけていた服をもう少しだけはだけさせたところで「まあ、いけませんわ」とおっとりと品のある声がそれを窘めた。
「はしたなくてよ」
 嵩矩がどこからともなく取り出したゴシックブラックゴージャス扇子で口元を隠しながら笑う。
「本当のお嬢様はそんなことをしませんわ」
「はぁー!? するかもじゃん!」
 イケメンイケオジの前で手段を選ばなくなるかもじゃん! と異議申し立てをするデビルギャルズだったが、突如ふっと力が抜け、床にころりと転がった。
 その上に舞い落ちるは桜の花弁。大迷宮に似付かわしくない春の象徴。――嵩矩のユーベルコードだ。その花弁は周囲に眠りを齎す。
 モンスターではない本物のデビルギャルズがいることも考慮した神将は眠らせることによって敵を無力化したのだ。
「お下品な真似はおよしなさい。そのまま続けられてはタイガーお嬢様のアカがBANされてしまいますのよ」
「それはそう。脱衣ギャルお嬢様を僕が殴る絵面もかなりキツいですって。組員も望んでませんよそんなの」
「の、ぞんでるかもしれないじゃん……!」
 眠気に抗いながら、残っていたデビルギャルズが更に服を脱ごうとする。
「アカとか気にしないでさあ……! 悪いコトしようよ、BANされたっていーじゃん、きっと良い思い出になりますわよ……!」
 男性相手だからだろうか。揺さぶりをかけようとデビルギャルズが更に服を脱ぐ。セーターが近くに脱ぎ捨てられ、シャツのボタンも外そうとする。
「脱ぐなそれ以上はやめろ能力もエロだしアカBANの危機!!!!!!!」
 久秀が心からの拒絶絶叫を上げる。慌てる彼に反して、コメント欄は草原と化していた。
「仕方ありませんわね……」
 ふうっ。溜息を吐いたのは嵩矩。ドローンとデビルギャルズの間に入るような形でドローンに背を向けた。
「皆様、暫くの間わたくしの背筋をご覧くださいませ。アカBANでタイガーお嬢様に会えなくなるのは、皆様お嫌でしょう?」
 そう笑ってやればコメントもそれに同意するものが続いた。和装越しでは見えぬはずなのに『Nice bulk.』などというちょっとふざけたコメントも飛んでいるが、アカBANに比べれば可愛らしいものである。
「ちょっと、そこに立ったらアタシが映んなくってよ!」
「映らせない為ですわよ?」
 しつこく映り込んでタイガーをアカBANへ導こうとするデビルギャルズは恐らく一般人ではないだろう。
「どうしても映りたいんでしたらわたくしをおビンタバトルで倒してからにすることですわね!」
 おほほほ! と高笑いムーブまでキメつつも、カメラを守ることに抜けはない。
 久秀が刀を握った気配を感じ取った嵩矩は、カメラにデビルギャルズを映さず、しかし久秀からは攻撃がしっかりと通るように位置を整えた。
(今だよ)
 視線だけで促せば、久秀が一気にデビルギャルズへ距離を詰める。
「人のアカウントを軽んじるのは――許されません、ですわよッ!!」
 緋刀で峰打ちをする。眠気と峰打ちのダメージに耐えられなくなったのか、デビルギャルズは声もなく地へ伏した。
 すやすや気絶中のデビルギャルズたちをマグマが当たらない場所にそっと運んであげた二人はドローンへ向き直り締めの挨拶。
「……さて、一旦ここで休憩としましょう。ご視聴ありがとうございました。チャンネル登録お願いします。チャイム通知ボタンもポチっと宜しくお願いしますね」
「ごきげんよう~!」
 いつもの挨拶で配信実況を終えた久秀が、少しばかり疲れたように息を吐いた。
 ぽん、と肩を軽く叩いて嵩矩は笑いかける。
「お疲れ様、反響はどう?」
「……コメント見た感じ、今回も大盛り上がりしてくれたようだから良かったです」
 楽し気な文字の悲鳴や応援コメントが並んでいるのを見た久秀がほっとしたように表情を緩めた。
 その最後には、タカ――嵩矩からの赤い投げ銭コメントが届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬袋・あすか
ここはお嬢様力のなんたるかを見せつけてやらにゃなあ

あー、んんっ。(ワントーン高い声に)

こう見えても実家は代々続く術師の名門、そこの次期当主でして

不本意ながらこの手の教育は幼い頃から受けておりますの

実家から引っ張り出してきた振り袖にたすき掛け姿でいざ出陣!ですわよ!

おマグマの罠は華麗にジャンプし回避いたしますわ

謎解き系の罠も落ち着いて冷静に解いていきましょう

文武両道こなしてこそ、真のお嬢様と言えるのではなくって!

……うげぇ……。やっぱキャラじゃないことはするもんじゃないな……
自分で自分がキショ過ぎて鳥肌立ってらァ……でございますわ……

アドリブ絡み歓迎



「お嬢様力、ねえ……」
 ふうむ、と考え込んだのは薬袋・あすか(地球人の鹵獲術士・f40910)。
「……本物のお嬢様力のなんたるかを見せつけてやらにゃなあ」
 その口調からは想像しづらいが、彼女は実は術師の名門の生まれ、そしてその次期当主という身。不本意ながらその手の教育は叩きこまれている。
 身に着けてきたのは実家から引っ張り出してきた振袖。たすき掛けをして動きやすさを確保し、気合を入れる。
「いざ、出陣! ですわよ!」
 敵と会う前から声のトーンをきっちりあげて、お嬢様としての意識を整える。
 本物のお嬢様がそういう口調で喋るとは限らないのになあ、と心の中であすかはぼやきつつも大迷宮を進んだ。

 あすかが進んでいくと、不自然に迷宮が明滅しているように見えた。明るさが段違いであることから、それは大幅に動きがあるものと推測できる。
(動く床か……!)
 足元を引き裂くように動く床。細かく分かれた床は普通に立っていればバランスを崩してしまうだろう。バランスを崩せばマグマがそこに待ち構えている。
 舌打ちしたくなるのを堪え、草履できちんと床を踏みしめてからジャンプする。
「動きにくい……ですわ」
 いつものボーイッシュな服装に比べるとどうしても動きやすさに差が出てくる。それでもその身のこなしはキレがあり、デビキンの迷宮の罠など歯牙にもかけない。
 動く床を通り抜けると、大きな扉があった。
「何々……?」
 金庫の扉にも似たそれにはテンキーがつけられていた。その横には大きな張り紙。
 律義にも複数言語で書かれていたその中から、見慣れた文字を見つけたあすかは情報を整理するためにも声に出してみる。恐らく謎とき系の罠だ。冷静に解かねば厄介なものを起動しかねない。
「えーっと……『お嬢様が12人いました。ケーキは13個あります。ケーキを食べられないお嬢様は何人いますか?』 ……は?」
 思わず素の声が出てしまった。普通に考えたらケーキのほうが多いのだから分ければ全員食べられるし、なんなら一人はもう一つ多く食べられる。
 しかしここはデビルキングワールド、やりこみ大迷宮。もしかすればひっかけ問題なのかもしれない。たった一人の勝者のお嬢様のみがケーキを全て頂けるという計算なのかもしれない。
(答えはゼロ? そんな簡単な訳あるか……?)
 あまりに簡単すぎて、疑心暗鬼になってしまう。あすかの脳はフル回転するが、計算なら答えはゼロにしかなってくれないし、他の前提は一切読み取れない。何が正解なのだと迷って――。
「ここはもう、度胸ですわね!」
 覚悟を決めて、『0』の数字を押して確定キーを押す。
 ぴぴーっ!
 開錠の音だろうか、電子音が響き、かちゃりと音がした。
 扉についていたハンドルを回せば、重そうに見えた扉は案外軽くすんなりと開いた。
 その中にはデビルギャルズたちが座り込んでいた。
「……あ、あーーっ!!!」
「マジ助かったし! えっ開けてくれたの!? 感謝ですわよ~!」
 どうやらこの扉の中に閉じ込められていたらしい。
 ぱっと立ち上がりあすかの手を取りぶんぶん振る。
「これ間違えると閉じ込められちゃう罠で~!」
「アタシたち、『11』って入れたらバクッと閉じ込められちゃったんですの~!」
「は、はぁ……」
 どうやら奪い合い精神はお嬢様にはNGということらしい。深読みしすぎず良かったと内心安堵するあすかをよそに、デビルギャルズたちが鞄をごそごそと漁る。
「こういう時はお礼、お礼……」
「あら? お礼のスコーンがなくってよ……?」
「ミミたんが食べちゃったっぽいですわ~」
 どうやらカバンミミックの中に食糧を入れていたらしいがそれは消えていたようだ。あすかとしてもそんなところに保存されていたスコーンを貰う気はないが、デビルギャルズの気は済まないらしい。
「仕方ないからミミたんの可愛さで許して、ですわ~!」
 飛び掛かってくるカバンミミック。あすかの振袖めがけ舌を伸ばそうとしてくる――が、それは具現化した影に阻まれた。
 影の正体はブラックスライム『影の魚』。普段はあすかの影に潜んでいるそれがカバンミミックを迎撃したのだ。
「……お行きなさい、影の魚。全て喰らい尽くしなさい!」
 ついいつもの勢いで影の魚に命じかけたがぐっと耐えて言い換える。影の魚が一瞬不思議そうに動いた気がしないでもないが、それでもカバンミミック全てを喰らいつくした。
「ミミたんが瞬殺……?! ちょっと待って、なにそれチートじゃん、ですわ!」
「文武両道こなしてこそ、真のお嬢様と言えるのではなくって!」
 その声に合わせるかのように、影の魚はデビルギャルズを模したモンスターもばくりと喰らい――敵の痕跡さえも消した。

「うげぇ……」
 少しだけ気が緩んだ瞬間、あすかは気持ち悪さに襲われた。
「やっぱキャラじゃないことはするもんじゃないな……」
 見ればマグマのある空間なのに鳥肌まで立ってしまっている。
「自分で自分がキショ過ぎて……しんど……でございますわ……」
 ぞぞぞ、と未だ走る悪寒をごまかすかのように腕をさすりながら、あすかは大迷宮の深部へ歩を進めるのだった。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
お嬢様は女の子だけの専売特許じゃねぇぜ!
拙者が参加しちゃいかんのか?いいかお嬢様とは心意気、自身がお嬢様と思えばいくらでもお嬢様になれるんでござるますわ!!

このギャル達も速やかにお心意気を叩き込まねばなるまい!ギャルお嬢様もいいよね!

お嬢様と言えばおビンタバトルと決まっていますぞわよ
淑女たるもの華麗に戦わなければなるまい…野蛮な武器や体に傷をつけるのも言語道断!逆説的に頭部はいくらおビンタしてもよろしいでござるわよ
こらそこ!おミミックなんて使ってるんじゃあないでござるデスの事ヨ!
舌おビンタを華麗に回避しておミミックにおカウンターおビンタ!トドメの舌引っ掴んで連続おビンタ!
理解らせてやりますわ!



「お嬢様は女の子だけの専売特許じゃねぇぜ!」
 野郎だって負けてられんと意気揚々と乗り込んできたのはエドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)。
 性別? 外見? しゃらくさい、|心《ハート》が全てさ!
 そう、|魂《ソウル》が|お嬢様《レディ》ならここでは誰しもがお嬢様。
 エドゥアルトもまたお嬢様なのだ。

 落とし穴トラップを鼻歌を交じりで余裕で避け、雷撃魔法陣が発動するよりも早くライフルで撃ち抜く。
 ふざけているようでいて、エドゥアルトの戦闘能力は高い。簡単なトラップで足を止められるようなことはない。
「おっ、また男子お嬢様来ましたわよ~!」
「待って、お嬢様そんな武装ごつくなくね?」
 傭兵の余裕でスキップで迷宮を駆け抜けたエドゥアルトの前に立ち塞がるデビルギャルズ。
「拙者が参加しちゃいかんのか?」
「いや~? 男でも別にいいけどぉ、武装はちょっとごつすぎませんこと~?」
 嘲るように、否定するように笑うデビルギャルズにエドゥアルトは「ほう」と目を細めた。
「だったら! 本当のお嬢様はそんなギャルの格好をするんか、ですわ!」
「な……っ」
 ぴしゃあぁん。
 確かに自分たちはどちらかといえばギャルの要素が強めで、『お嬢様』に満たぬデビルギャルズかもしれない。心のどこかで抱いていた疑念を撃ち抜かれ、デビルギャルズはわなわなと震えた。
「だ、って! アタシたちだってお嬢様になろうとしてますわですし!」
「――そうですわ、その通りでござるですわよ」
「え?」
 エドゥアルトの深い頷き。否定されると思っていたデビルギャルズは目を見開いた。
「いいか、お嬢様とは心意気、自身がお嬢様と思えばいくらでもお嬢様になれるんでござるますわ!!」
「自身がお嬢様と思えば、いくらでも……」
 なんかめっちゃ深い事言ってるようでそこまで深くない事を言っているエドゥアルト。しかし勢いというものは大切。しかも相手は『エモさ』に脆いデビルギャルズの特性を反映したモンスターたちだ。
 ――つう。デビルギャルズの目から涙が零れる。
「アタシ、アタシ本当にお嬢様になれるかなぁ……」
「なれるますわよ!」
「アタシこのままギャルでもいたい。でも、お嬢様にもなりたい……どっちもなんて、我儘だよ、……ですわよね……」
「いいやッ! お嬢様は多少我儘でもいいッ、ギャルお嬢様もいいよね!!! でしてよ!!!!」
 如何なるお嬢様でも肯定するその姿勢に、デビルギャルズたちは自分たちの『お嬢様観』が古かったことを自覚し、恥じ、そして新たなるお嬢様を切り開くその姿勢を持つエドゥアルトに感動した。
 彼の言うことは『お嬢様界隈』に新たな風を運ぶどころか風穴ぶちあけて大嵐になってくれる――何となくそんな予感がした。ほんとかなぁ。
 完全に場の空気を掴んだエドゥアルトは更に演説を続ける。
「もう一度いいますぞですわ、ギャルお嬢様はいいですわよ!! でも、あなたたちには抜けてることがあるでござるますわよ!」
 ちょいちょい口調が危なっかしいが、今のデビルギャルズからしたら些事である。ごくり、彼の言葉を待つ。
「ズバリ、お嬢様のお心意気ッ!! 心から、『自身がお嬢様である』という誇りと姿勢ですぞですわ! この拙者が、お心意気を叩き込んで差し上げますわよ!」
 ――この『手』で!

 斯くして、エドゥアルトお嬢様のお嬢様レッスンが始まった。
「お嬢様と言えばおビンタバトルと決まっていますぞわよ」
「へぇ……」
「淑女たるもの華麗に戦わなければなるまい……野蛮な武器を使うこと、体に傷をつけるのも言語道断!」
「じゃあ武装してるのなんで?」
「これは護身用でござるですわ」
 よっこいせ、と武装を床に下ろすエドゥアルト。身軽になった身体を軽く伸ばしてから手をすっと綺麗に開き、お手本のエアーおビンタを見せる。
「逆説的に頭部はいくらおビンタしてもよろしいでござるわよ」
「ふんふん。じゃああつまり、こういうのもありってことですの?」
 デビルギャルズがカバンミミックをエドゥアルトに向けて放つ。にゅるりと伸びた舌はエドゥアルトを舌おビンタしようと伸びてきたが――エドゥアルトはそれを鋭いおビンタで払った。
 パァン!
 銃声とも錯覚しそうなほどのおビンタの炸裂。かなり痛かったのかカバンミミックから「きうう」と情けない声が上がった。それでも容赦なくガッとミミックの舌を引っ掴み、スパパパパパパァン! と連続おビンタを喰らわせた。あまりの速度に閃光が走っているようにも見える。
「こら! おミミックなんて野蛮な武器を使ってるんじゃあないでござるデスの事ヨ! 素手で戦うのがお嬢様の嗜み! よろしくって!?」
「でも手で殴ったら手が傷ついちゃうし……」
「笑止ッ! その傷を誇れぬ者がお嬢様になれるとお思いでござるかぁ、ですわよ!」
 お嬢様ムーブをしていてもエドゥアルトの傭兵魂もやはり消えてはおらず、スパルタなお嬢様指導は続く。
「さあお立ちなさい! 構えなさい! 本物のギャルお嬢様になれるよう、お嬢様のお心意気を――|理解《わか》らせてやりますわ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
正直どこからツッコんでいいのやら
オブビリオンといえど元がこの世界の住人だと
ゆるい感じになりやすいのかなぁ

お嬢様っぽい振舞いかぁ
たぶん邪神の分霊の言動を真似れば
それっぽくなるんだろうけど
しばらく揶揄われそうで気が重いよ

さて、喋り方を変えようか…

宵闇の衣装備で迷宮に入りますの
魔法の属性攻撃の罠と鉄球は
神気による防御で防ぎますの
これは私なりのオーラ防御ですの
お嬢様たるものいかなる時も
しとやかであるべきですの

モンスター達が現れたら
スカートを軽く持ち上げて挨拶して
邪神の慈悲を使いますの

命を奪う必要はありませんから
彫像に変えて自由を奪いますの
全て終わった後に戻せば良いですの

敵の光線は神気で防ぐつもりですの



「正直どこからツッコんでいいのやら」
 ツッコみどころしかないこの事件にはぁーと息を吐いたのは佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)。
 ひょんなことから邪神と融合してしまい、今は少女の姿となってしまっているが、元はごく普通の男性。感覚はそう変わっていない。故に、この事件には困惑の気持ちしかない。
「オブリビオンといえど、元がこの世界の住人だとゆるい感じになりやすいのかなぁ……」
 大迷宮だって情報によると超ゆるっゆるだ。何せ、完璧なマナー一つ要求されず、あくまでお嬢様『っぽい』で許されてしまうとのこと。
 それならば、晶は容易く出来る自信があった。
(邪神の分霊の言動を真似ればそれっぽくなるんだろうけど)
 ザ・お嬢様といえる口調のお手本はその身に宿っている。嫌というほど近くでその口調を見てもいる。
 故に、上手く真似る自信は大いにある。
 だが――
(暫く揶揄われそうで気が重いよ)
 少なくとも数日間はネタにされるのを覚悟して、晶は『お嬢様』になることを決意した。

 邪神の力で生成された漆黒のドレスを身に纏えば、可愛らしくもどこか妖艶なお嬢様の出来上がりだ。
 かつかつと音を立てて迷宮を進んでいけば、急激に温度が下がってきたように感じた。氷属性の魔法だろう。どこからか攻撃が来る。そう思いながらも晶は身構えもせず進む。
 ――ヒュン。
 微かに風を切る音がして鋭い氷柱の矢が晶に襲い来る。しかし、闇色の神気がそれをどろりと融かした。矢が次々に襲い来るが、どれもこれも同じこと。ただの一つ、晶を掠めることさえできやしない。
 魔法攻撃では効果がないと認識されたのか、次は巨大鉄球が猛スピードで突っ込んできた。晶は避けたい気持ちにはなったが、今は邪神の加護がある。そして薄らと「しゃんとなさい」という声が聞こえた気もして、避けず、鉄球へ向かっていく。
 触れた瞬間、まるでゴム毬が跳ねるように鉄球が弾み、壁を崩しながらマグマへ突っ込んでいく。
(……本当、神気って凄いな)
 わかってはいた心算だが、改めて見ると己に宿った邪神の力が強大なものと感じる。
 歩みを進めようとしたところで視線を感じ、振り返る。
 そこにはデビルギャルズが「すげー!」と声をあげながら晶をキラキラした目で見ていた。
「ねえねえ何今の、手品ですの!?」
「あれ鉄球ですわよね!?」
 どうやら神気による防御を見ていたらしい。凄い凄いと大騒ぎ。
「ごきげんよう、デビルギャルズ様」
 スカートを軽く持ち上げ、カーテシー。
「お嬢様たるものいかなる時もしとやかであるべき――私はそう思っておりますのよ。ですから、動かずとも身を守る術は身につけておりますの」
 美しく微笑んでやれば、デビルギャルズたちからは更なる歓声があがる。
「強いしお嬢様ムーブも完璧とかつよっつよじゃんね……! マジですげーですわ!」
「お褒め頂いて光栄ですわ」
 このお嬢様ムーブを褒められて悪い気がしないのは、邪神の影響を受けているからか。
 暫くやんややんやと褒めていたデビルギャルズだったが、一人が「でもぉ」と口を開いた。
「あんまりにも完璧すぎると、ちょおっと可愛げがないんじゃないですの~?」
「確かに~!」
「わかりみですわ~」
 そうと決まれば、とデビルギャルズたちは制服を脱ぎ始める。己に課せられた無自覚のリミッターを外し、快楽光線を放つスマートフォンをすっと構える。
「悪いコトしてるくらいが、可愛いお嬢様になりますわよ~!」
 ぴかり、光が晶に襲い掛かる。しかし、晶はふっと妖し気に口角を上げた。
「その程度の『悪いコト』、私の前ではままごとにもなりませんわ」
 ざわり。纏っていた『宵闇の衣』の裾が、微かに解けるように粒子を撒いた。放たれた光線よりも圧倒的に少ない粒子にも関わらず、じゅわりと光を融かすようにして打ち消す。
 更に衣より零れ落ちた真っ黒な粒子が空間に混じりだした時、全ての音が潰える。
 マグマも、起動しかけていたトラップも、デビルギャルズたちも、全てが停滞する。
「永遠を体験してごらんなさい?」
 ――【邪神の慈悲《マーシフル・サイレンス》】。それは、邪神の力の塊であるドレスから放たれる神気による、万物の停滞。晶の付近一帯は、無機物も有機物も何もかもが止まっている。
「今回は命を奪う必要はありませんわね」
 そこに固まったデビルギャルズたちに近づき、そっと指先で触れる。
 パキ、と音を立ててデビルギャルズの表面が白く変わっていく。
「ですが、抵抗されては困りますから」
 聞こえていないでしょうけれど、と囁いて。仕上げに神気を強めればデビルギャルズたちは彫像と成り果てた。
 トラップの位置を確認し、安全そうな場所へ彫像を動かす。
「全て終わった後に戻してあげますわね」
 慈悲深き邪神はそう微笑んで、迷宮の奥へ姿を消した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
あたしに足りないのはお嬢様力だったのね!(拳ぎゅ
いつだって優雅に振る舞い
ごきげんようって挨拶するの
そんなお嬢様にあたしはなりたい!
…ううん、わたくしはなりたいのですわ!

アミリアみたいな可愛いドレスを着て行くわね
少し動きにくいけど我慢ですわ
鉄球の罠はスカートをひらりとはためかせて華麗に避けますわ
お嬢様は優雅さが大切
焦ってはいけませんの
童話の金の斧銀の斧みたいな試練があれば
正直に答えますわ
お嬢様とは清く正しいものですから

デビルギャルズは悪役令嬢的なものを狙ってますの?
SNSでバズるのと炎上は紙一重ですわ
ワルもほどほどにですわよ!
おいたが過ぎる子は眠ってもらいますわ

…これでお嬢様力アップしたかしら?



 エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は料理が好きだ。家庭的だと言われることもある。
 だが、いつだって優雅に振る舞い、ごきげんようと挨拶する文化がエリシャにはあるとは断言できなかった。
 この任務の話を聞いた時、彼女は一つの確信を抱いていた。
「――あたしに足りないのはお嬢様力だったのね!」
 そうかなあ。聖女力もあるし十分だと思うけど。料理も上手だし。きっと某グリモア猟兵がいればそう呟いただろう。
 しかし拳をぎゅっとしてやる気スイッチの入ったエリシャは止まらない。
「お嬢様力溢るるお嬢様に、あたしはなりたい! ……ううん、わたくしはなりたいのですわ!」
 一度決めたら引かないその姿勢は、きっとお嬢様力の基礎基盤となる。
 
 強い決意を胸に纏って来たのは着なれないドレス。
 思っていた以上に動きにくいけれどここは我慢。だってお洒落もお嬢様の嗜み!
 そんなエリシャを後悔させようとしてくるかのように、ぶおんと鉄球が迫ってくる。
(焦ってはいけませんの)
 動きは少し遅め。観察し、第六感も働かせればタイミングは自ずと見えてくる。
(今!)
 ひらり、スカートをはためかせキメるはまさかのスライディング。冷静に観察し自身にできる最善の選択をし、そこに優雅さを忘れなければそれはまさに完全なるお嬢様の戦い。
 美しい回避劇をこなしたエリシャは安堵でふうっと息を吐いた。
「なんとかなっ……なりましたわね」
 危うく外れかけたお嬢様言葉もしっかり再装備。今の回避のおかげでドレスでも多少の無茶が出来ることは確認できた。偏ってしまったスカートを直し、エリシャは迷宮を進む。
 強制送還マグマ弾は舞うように避け、魔法の弾丸は『BR-L300星の海』から生じる透明なヴェールで弾く。
 罠を回避していくごとに、着なれぬドレスによる動きにくさはすっかり感じなくなっていた。
 先を急ぐように小走りで進んでいくと、大きな石像が立っていた。奥には通路が見え、石像の左右も大きく開けている。石像に触れることなく先へ進めそうだが、エリシャの勘は告げていた。
(これはきっと、試練ですわね!)
 知恵を求められる物か、それとも戦いか。ごくりと唾を飲み込み石像を見上げれば、目を閉じていたはずの石像がゆっくりと目を開いた。
『汝、何を求めこの大迷宮へ訪れた』
「――いつだって優雅に振る舞い、ごきげんようと挨拶する……そして皆の役に立てる、そんなお嬢様ですわ!」
 お嬢様になったとしても、猟兵としての心構えまでブレることはない。エリシャは素直に自身の求めるお嬢様像を答えた。
『ならば汝、ねこみみお嬢様になる覚悟はあるか』
「え?」
 質問には素直に答えるべき――童話でよく見るパターンの試練は、エリシャも想定はしていたのだ。しかしこんな質問をされるのは想定外。思わず固まってしまったが、はっとしてきりりと表情を作り、力強く答える。
「勿論ありましてよ! わたくし、猫ちゃん好きですもの!」
 エリシャは猫が好きだ。ねこみみ装着経験だってある。ねこみみの試練というのなら、喜んで受ける。
 清く正しく正直に答えたエリシャの頭の上に光が集まり――ねこみみカチューシャが装着された。
 つけた途端、力が湧いてくる感覚がする。素直に答えたからだろうか、悪いものではないようだ。
 ただ、一つだけ気になることがある。
「これ、何の関係がありますの?」
『我、ねこすき』
 ――でも無理につけなくてもいい、一回つければパワー持続する。
 そう言って石像は目を閉じ地中へ潜っていった。

 石像があった場所から進んだエリアには、デビルギャルズたちが待ち構えていた。
「あっ、きたー! 迷子になってたんですの!?」
 石像の試練はそこそこ時間が掛かっていたらしい。ちょっと心配したような言い回しになってしまうのはデビキンソウル故か。
「なんかねこみみついてる! 超かわいい~、なでなでしたいですわ!」
 ギャルなのかお嬢様なのかはっきりしないその姿勢に、エリシャは抱いていた疑問をぶつけてみる。
「デビルギャルズの皆様は悪役令嬢的なものを狙ってますの?」
「んや~、その取り巻き的な? SNSでバズればなんでもいーっていうか~、ですわ~」
「つまり……こういうワルなお嬢様でも良いってことですわ~!」
 ブレザーを脱ぎ捨てさっとスマホを構えるデビルギャルズ。エリシャに向けて快楽光線を向けたその時、その光線をかき消す光が戦場に満ちた。
「SNSでバズるのと炎上は紙一重ですわ。おいたが過ぎる子には眠ってもらいますわ!」
 炎上してしまえばきっと後悔する――デビルギャルズの未来を案じるエリシャの心が、聖痕から放つ光を強めて。
「ワルもほどほどに、ですわよ」
 デビルギャルズが膝をつき、そのままごろんと寝転がる。光が収束する頃にはすやすやと穏やかな寝息を立てていた。
 エリシャはオブリビオンの居るであろうエリアへ向かいながら、迷宮の中で起きたことを思い返す。
 ドレスを着たアクションも習得した。お嬢様言葉だってできている。お嬢様らしくデビルギャルズにも優しく接した。ねこみみパワーも得ている。
「……これでお嬢様力、アップしたかしら?」
 多分、しているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『悪役令嬢・イレーヌ』

POW   :    やっておしまいなさい!
戦闘力のない、レベル×1体の【取り巻き】を召喚する。応援や助言、技能「【精神攻撃】【物を隠す】【略奪】」を使った支援をしてくれる。
SPD   :    自分がこの場にふさわしいと思っておいでかしら?
対象への質問と共に、【自分の背後】から【取り巻き】を召喚する。満足な答えを得るまで、取り巻きは対象を【あんまり痛くない攻撃か、冗談のような罵倒】で攻撃する。
WIZ   :    ちゃんと話を聞いていたかしら!?
【指さした指先】を向けた対象に、【眩しいけどあまり痛くない稲妻】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニャコ・ネネコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 お嬢様力を上げた猟兵が辿り着いた場所は、マグマに囲まれながらも品を感じる、ダンスホールに似た異質な空間だった。
 煌めく石と岩石で出来たシャンデリアのような物が空間を仄かに照らし、似たような素材で天井は飾られている。
 隠されもしない大砲に、機関銃。床のスイッチ。
 岩壁に書かれているのはルーン文字だろうか。
 行き止まりにも見えるが、数人の猟兵は岩戸の奥に道があることに気づくだろう。
 だが、それは今は動くことはなさそうだ。何より――
「っ、なんですの、あなたたち!?」
 猟兵よりも先にいたのは、けもみみを備えたお嬢様――オブリビオン、『悪役令嬢・イレーヌ』その人だった。
 動揺したような表情を浮かべていたが、取り繕うように高笑いをする。
「っ、お、おーっほっほっほっほ! 猟兵が来たんですのね!? しかしもう遅くってよ、わたくしは試練を乗り越え、お嬢様力を高めましたの……! ですから、このティアラを授かったんですのよ!」
 彼女の頭にちょこんと載っているのは銀色のティアラだった。綺麗だが、何となくチープな印象が否めないのは何故だろうか。
「このティアラはわたくしだけのもの……。たとえ奪われようが効力はもう誰にも移りませんわ。そう、わたくしこそが、最高のお嬢様! ひれ伏しなさい、あなたたち程度ではもうわたくしを止めることはできなくってよ!」
 イレーヌが手を掲げると、ガシャンッと大きな音を立てて、空間が柵に覆われる。
「わたくしは|お嬢様の女王《トップお嬢様》として、あなたたち半端なお嬢様を駆逐することを宣言しますわ! あなたたちはわたくしの輝かしいお嬢様道の礎となるの! 花くらいは供えて差し上げますわ、どうか安らかにお眠りなさい!」
 おーほっほっほっほっほっほ!
 最初の動揺はどこへやら、長台詞で調子がアガってきたらしいイレーヌは高らかに笑う。
 元より『悪役令嬢』だった彼女が迷宮によって力を与えられ、更にはこの部屋の罠を操る権限まで与えられているのであれば、猟兵であっても強敵に思えるかもしれない。
 だが、猟兵たちも黙ってここに来たわけではない。様々な試練を乗り越え、この場へ訪れたのだ。お嬢様力はイレーヌにも負けてはいないだろう。
「……ところで罠の使い方ってどうするのかしら」
 ……イレーヌはどうやらまだ完全には罠を使いこなせないようだ。

 さあ、この決闘の間でそれぞれのお嬢様力を示し、真のお嬢様は誰かを迷宮に――デビキンに知らしめて差し上げましょう。
 猟兵の皆様、覚悟はよろしくて?
イリスフィーナ・シェフィールド
変わらずメイド服。

相応しいか生粋のお嬢様でなしと真面目に考えてると
ボスが罠を動かそうとアレコレしてたらマジックハンドが虚空から伸びてきて腕足腰を捕まえて動けなく。
向こうは取り巻きを呼び出してあっさり捕まって無様ですわ淑女にあるまじき淫らな体型してますわ……羨ましくないですのよとか口撃。

頑張れば脱出できそうだけど分身にと呼び出すと分身もメイド服。
冷たい目で見られ捕まってるんじゃありませんわよとバッサリ。
敵集団にもなんですのお子様じみた嫌がらせとバッサリ。
悪役令嬢力が足りませんわと泣き出すまでどっちが悪役令嬢か分からないレベルでこき下ろし。
その後は本体を正義のヒロインとして不足だらけとこき下ろし。



 半端なお嬢様。イレーヌの放ったその言葉がイリスフィーナ・シェフィールドの迷いを再び呼び起こした。
(やはりわたくしは生粋のお嬢様でないから……『お嬢様』に相応しいかは……)
 ここはノリで済ますべきなのだが、生真面目に考え込んでしまうのがイリスフィーナの良さでもある。
「どうなさったんですの? わたくしの圧倒的お嬢様力に怯えてしまいまして!? おーっほっほっほっほ! 今ならまだ見逃してあげますわよ~!」
 難しい顔をして固まってしまったイリスフィーナに既に勝った気でいるのかイレーヌが笑う。が、何かに気づいたように表情を変えた。
「それとも……もしかして、そのメイド服! わたくしに仕える為にわざわざここまできたメイド志願ですの!?」
 先程までの悪役令嬢感溢れるムーブはどこへいったのやら、イリスフィーナの手を取ろうとする。
「あの、イレーヌ様? わたくしも『お嬢様』としてここへ来たんですのよ?」
「へ?」
 やはりこの悪役令嬢もお嬢様が行儀見習していたことを知らないらしい。何とも言えぬ疲労感にイリスフィーナが小さく溜息を吐くと、イレーヌの顔が赤く染まる。
「メイド服で来たからちょっとそうかと思っただけですわ! 騙そうとしてくるだなんて卑怯ですわ! そんなワルなあなたには……罠でお仕置きですわよ!」
「騙そうとはしていませんが……」
 癇癪を起こしたように地団太を踏むイレーヌに先制攻撃を喰らわせようとイリスフィーナが一歩踏み込む。
「させませんわよっ、砲撃開始!」
「っ、――え?」
 砲撃と聞いて弾丸や砲弾を警戒していたイリスフィーナだったが、突如何かに掴まれた。
 目を向ければ、どこからともなくマジックハンドが伸びてきていた。振り払おうとするも、異様に固い。振りほどけないまま空中に持ちあげられてしまう。
「くっ……」
「お、おーっほっほっほ! 罠ですわ! どう起動したかよくわかりませんけど……あっさり捕まって無様ですわね~!」
 ざわり。イレーヌの影から無数の人影が湧きだす。イレーヌの取り巻きの再現なのだろうか。くすくすとイリスフィーナを嘲る。
『無様ですわ~』
『お嬢様なのにマジックハンドに捕らわれるなんてありえませんわ~』
『砲撃の心算でマジックハンドを出すなんて間抜けですわ~』
「しっ、お黙りっ!」
 どさくさに紛れてイリスフィーナだけでなくイレーヌまでディスった取り巻きに鋭い視線を飛ばしたイレーヌは捕らわれたイリスフィーナをまじまじと眺める。
「それにしても。淑女にあるまじき体型……ボンキュッボンですわ……くっ羨まし……くなんてないのですのよ……」
 言っていて悲しくなってきたのだろうか、イレーヌの目が僅かに潤んだような気がする。
 精神的に揺らいだ今が反撃のチャンス。だが、イリスフィーナは未だマジックハンドから逃れられない。
(脱出して早く反撃をしなくては……!)
 もう少し動けば壊せそうではあるが、いつ敵から攻撃が加えられるか分からない。悠長にしている暇はないだろう。こういう時は手数が欲しい。
「――【シンメトリカル・ブランチ】!」
 叫べば、彼女の下にもう一人のイリスフィーナが現れた。同じくメイド服の|イリスフィーナ《分身体》にイレーヌが目を瞬かせる。
「なんですの? まさかメイドを渡すから見逃せと?」
 悪くありませんわよ、と笑うイレーヌに吐き捨てるように言葉を発したのはイリスフィーナ――ではなく、分身体の方だった。
『そんな阿呆なことを考えるなんて、お嬢様のおつむは本当に足りてますの?』
「「えっ」」
 一言目とは思えぬ辛辣さに一同衝撃である。
『全く、簡単に捕まってるんじゃありませんわよ。そんなだからこうして格下に馬鹿にされるんですの』
「く……」
 反論しづらい。イリスフィーナは分身体から目を逸らす。
 不機嫌そうな分身体はそのままイレーヌと取り巻きの影に目をやった。自分たちも何を言われるのかと怯えたのか、イレーヌたちがきゅっと身を寄せ合った。
『全く、お嬢様を名乗るならもう少々堂々と言えばよろしいんじゃなくて? お子様じみた嫌がらせしかできないんですの? しかもマジックハンド? お嬢様力0点ですわ、もっとお洒落に敵を押さえ込む手段くらい覚えたらいかが? |嘲笑《わら》うことしか出来ないのなら、悪役令嬢以前の問題でお嬢様力が足りてませんのよ』
「う゛……っ、だってこれはたまたま出たんですのよ」
『たまたま? ティアラを授かっておいて罠を使いこなせないなんて……。お嬢様力不足の証でしてよ。そしてそんなお嬢様に付き従っているなんて、後ろのあなたたちも節穴のようですわね』
「う゛ぅ゛……っ!」
 容赦のない分身体の罵倒。しかも理不尽な暴言でもなく、ある程度筋が通っているものだから、イレーヌにも彼女の取り巻きにもグッサグッサとぶっ刺さる。
「も、もうそこらへんで……」
 吊るされたままのイリスフィーナがやんわりと止める。だが、分身体の暴走は止まらない。
『お黙りなさい本体。正義のヒロインとして不足だらけのあなたが口を開いて良いタイミングではなくてよ』
 呆れたように分身体は息を吐いて、イレーヌに氷の笑みを浮かべる。
『何が|お嬢様の女王《トップお嬢様》ですか。行儀見習も知らない、罠も使えない、取り巻きも節穴のお子様ばかり。きっと探せばもっと粗が見つかりますわね』
「う゛、う゛……うわーーーーーん!!!!」
 悪役令嬢の心をめった刺しにして、分身体は美しく笑む。イレーヌが泣き出すと共に罠が壊れ、抜け出せたイリスフィーナは切に思う。
(……分身体の方が、よっぽど悪役令嬢ですわ……)

大成功 🔵​🔵​🔵​

カフェラテ・ホーランド
※このうさぎは人の話をあまり聴いてないタイプです

まあ、素敵なティアラ!
貴女によくお似合いですわ!

ええ、奪ったりなどしませんとも
ですので…
わたくしの!生まれながらの!!お嬢様力で!!!
貴女と正々堂々、やり合って差し上げますわ!!!

稲妻?罠?それが何か!?
お嬢様かつうさぎの嗜み『野生の勘』と『見切り』を駆使して軌道を察知
縦横無尽に『空中浮遊』し回避を試みますわ!

そしてUC発動
わたくしの愛、わたくしの夢、わたくしの魂
――【無限の人参】を食らいなさい!

飛び交う数多の人参は稲妻を阻み
罠を、敵をも貫くことでしょう

お嬢様とは、心の在り方
攻撃にも己の全てを込めねばなりません
さあ!存分に!!味わいなさいな!!!



「泣いてらっしゃいますの?」
 柔らかな声にイレーヌは顔を上げた。心配そうに覗き込んでいるのは、喋るうさぎ。
「うさぎが、喋ってますの……?」
「む。わたくしにはきちんとカフェラテ・ホーランドという名がありましてよ」
 ぷく、と少しだけ頬を膨らませるが泣いているレディに強く当たる気はないのか、うさぎ――カフェラテ・ホーランドはすぐに優しく微笑んだ。
「うさ……カフェラテさんはここに迷い込んでしまいましたの?」
「あら! わたくしもれっきとした『お嬢様』ですのよ!」
 ころころと笑うカフェラテ。なんならプリンセスだが、ここは敢えてその肩書きを誇示しないのは彼女の無意識の心遣いだろう。
「何があったかは知りませんが、涙はお嬢様には似合わなくてよ? さあ、涙を拭いてくださいませ!」
 カフェラテが小さな手を伸ばして笑えばイレーヌもごしごしと涙を拭った。

「……ところで、あなた猟兵ですわよね?」
 泣き止んだイレーヌはカフェラテの正体に気づいた。醜態を晒した恥じらいからか、じとりとカフェラテを見ている。
「ええ、そうですとも! 貴女を止めに参りましたの!」
 どどんと隠すことなく敵対宣言をしたカフェラテ。さっぱりとした物言いは、イレーヌの心をもすっとさせるお嬢様力を感じさせる。
「とっても可愛らしいうさぎですけれど、お嬢様力も兼ね備えているなんて強敵ですわね……」
 きゅんきゅんしますの、と小さい声で呟いたイレーヌ。その言葉はうさぎの耳にはするりと入って。
「うふふ、ありがとうございます。貴女もティアラがとっても素敵。よくお似合いですわ!」
「お褒め頂いて光栄でしてよ。これは私がお嬢様中のお嬢様の証。けれどカフェラテさんにならちょっとだけならかぶせてあげても良くってよ……?」
 きっと可愛いから、とかそういう理由だろう。そわそわとイレーヌが申し出る。
「ええ、ええ、貴女にお似合いのそのティアラ。奪ったりなんてしませんとも。ご安心くださいませ」
 おっと若干話が噛み合わない。イレーヌは会話を頑張って軌道修正しようと試みる。
「えっ、差し上げるとは言ってませんけど、でも被りたいでしょう?」
「ですので……わたくしの! 生まれながらの!! お嬢様力で!!! 貴女と正々堂々、やり合って差し上げますわ!!!!」
 軌道修正は出来ないまま、会話のドッジボールが成立する。キャッチボールなんて無かった。
「ちょっと!? ちゃんと話を聞いてくださいませ!!?」
 折角のわたくしの心遣いをガン無視なんて良い度胸ですわ! とイレーヌが叫ぶ。
 さっと指させば稲妻がカフェラテ目掛けて奔るが、眩いばかりで大した威力もない。その眩しさにカフェラテは惑わされず、ぴょいんと稲妻を避けた。
「まあ、危ない。きちんとわたくし褒めたはずですのに……」
「褒めては貰いましたけどもその後の話を聞いてらっしゃらないのが気に食わないんですわ!」
 折角のデレを台無しにされたイレーヌはぷんすこ怒りながら次々に稲妻をカフェラテに飛ばす。
 それをカフェラテはふわりと空中浮遊で躱し、時折地へ脚を付けうさぎらしく野生的な回避も美しく熟した。
「ああもう、段々ムカついてきましたわ……! なんであなたのようなうさぎに一瞬でもティアラを貸そうと思ったのかしら?! ボッコボコのギッタギタにして差し上げますわ!」
「え、ティアラを貸してくださるんですの?」
 ここでカフェラテ、漸くイレーヌの先程の発言を聞き入れた。しかしイレーヌの照れギレは収まらない。
「もう貸してあげませんわよ~っだ! 泣いて悔しがると良いですわ! もうあなたには絶対絶対貸して差し上げませんの!」
「構いませんわ。先程もわたくしは言ったでしょう? 『貴女によくお似合い』って」
 天井から突如湧き出す岩雪崩もくるりと避けたカフェラテは穏やかに笑う。
「貴女には貴女の。わたくしにはわたくしの、似合う素敵なものがある。そうでしょう?」
 カフェラテのプリンセスとしての言葉は、品があり、どことなくイレーヌも反論しがたい。
「だからって人の好意を無下にするのは如何なものですの!?」
「……なるほど、貴女なりの『愛』でしたのね!?」
 ぽむり。カフェラテの小さなおててが納得! のポーズを取った。意外な言葉にイレーヌはきょとんとする。
「愛?」
「ええ。わたくしに一瞬でもティアラを貸そうとしてくださったその想いは愛とも言えましょう」
「そんなつもりはなくてよ!?」
 悪役令嬢がそんな愛なんて、と反論するがやっぱりこのうさぎのプリンセス、お話はまあまあ聞いていないのである。イレーヌの反論を無視して語り続ける。
「その愛に応えないのは確かにわたくしも軽率だったかもしれません……ならば、わたくしからも愛をお伝えしますわね!」
 ざぁっ。どこからともなく草の香りが漂い、このマグマに囲まれた空間には似付かわしくない『緑』がイレーヌの目に映った気がした。
「――身体はチモシーで出来ていますの。血潮は野菜で、心は果物ですわ!!!」
 その緑がイレーヌの視界から失せた時――無数の人参がカフェラテの周囲から弾丸の如く放たれる。ついでにいうとこの人参なんかめっちゃ固い。
 その弾丸の如き人参に怯えたイレーヌが稲妻と網トラップで対処しようとするが、弱い稲妻では人参の速度を落とすことすら叶わない。
 網トラップは最初こそうまく人参を集めていたが、すぐにそれはいっぱいになり、ぶちりと千切れて床に転がった。
「わたくしの愛、わたくしの夢。――わたくしの魂。お嬢様とは、心の在り方」
 カフェラテがすっと息を吸って、イレーヌをしっかりと見据えた。
「攻撃にも己の全てを込めねばなりません。愛を込めて、貴女を倒させていただきます。さあ! 存分に!! 味わいなさいな!!!」
 阻むものはもう何もなし。ロケットの如き勢いで飛び交う無数の人参がイレーヌの身を叩いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神塚・深雪
ティアラを得たからって、
至高のお嬢様とは限りませんわよ……!
たしかにティアラを冠する場合もございますけれど、
お嬢様たるを示すのはその在りようですわ!
お嬢様の在りかた、此処に示してみせましょうともっ
(ギャルたちに負わされたこころのきずは隠してお嬢様ムーヴを頑張り続け)

例えダンジョンを掌握してようとも、
発動するトラップに引っかからなければどうということは無いですしね
踊るように避けながら距離を詰めて、UCで攻撃を

(ふと)
……|お嬢様の女王《トップお嬢様》であるなら、お嬢様道の頂点であり、礎の必要は無いのでは?

※なお、前章同様年齢に触れられたら圧が強めになります。年齢の話はお行儀悪いですからね。



「ティアラを得たからって、至高のお嬢様とは限りませんわよ……!」
 ざっ、と床を蹴り進み出たのは神塚・深雪。デビルギャルズに向けた圧の強い笑顔から元の表情へ戻りつつあるが、表情が戻ったからといってこころが元通りにならないのが悲しいところ。
「たしかにティアラを冠する場合もございますけれど、お嬢様たるを示すのはその在りようですわ!」
 そんな悲しみも見せないのもまたお嬢様の心と自身に言い聞かせ、毅然とした態度でぴしゃりとイレーヌに言い放った。
 本質を突いた深雪の指摘に一瞬だけ「ぐ」と顔を顰めたがすぐに立て直すようにイレーヌが吠える。
「ふんっ、なんなんですの? ティアラが欲しくて嫉妬ですの? いくら吠えられてもこのティアラは譲ってあげませんわ!」
「外見ばかり飾ってお嬢様に縋ろうとするその在り方……本当にお嬢様の女王の姿勢ですか?」
「う、う、五月蝿いですわよ! 見た目も心もお嬢様であれば問題ないはずでしょう!?」
 深雪の畳みかけるような言葉にイレーヌの顔が僅かに青ざめる。自身がお嬢様の心ではないのかもしれないと揺らいだのだろうか――目も泳いで、どことなく震えている。
「――良いでしょう、私がお嬢様の在り方、此処に示してみせましょうともっ!」
 こころのきずからそっと目を逸らし、深雪はお嬢様ムーブに専念した。そうでもなければ、きずが開いてしまうような、そんな気がしたのもある。

 ばしゅん、と音がしたかと思えば炎の縄が戦場に駆け巡る。魔法攻撃のようだ。精度こそ高くはないが、先程までのどこかゆるい罠に比べれば、本格的な罠と言えよう。
 深雪は咄嗟にしゃがんでその縄を避ける。銀誓館学園で戦い育った能力者であり、猟兵としての経験もそこそこ積んでいれば、こんな罠に引っかかることはない。
「油断しましたわね――本命はこちらですわよ!」
 イレーヌも猟兵相手にそこまで簡単な罠一つで攻撃が通るとは思っていなかったのだろう。深雪が完全にしゃがんだタイミングでかちりと音がした。天井から鎖で繋がった巨大鉄球が振り子のように深雪に迫った。
「巨大な鉄球ならば回避は難しいでしょう!? しかも体勢を崩れたところを狙えば――いくらあなたでも避けきれないはずですわよ!」
 イレーヌが高笑いするその目の前で、白が揺れた。
 ひらり、深雪が宙を舞う。
 巨大鉄球を背面跳びの要領で飛び越えたのだ。黒の鉄球を越える白の|巫女《お嬢様》の絵面は、罠を放った敵対者であるはずのイレーヌの脳に焼き付くほど美しいものだった。
「……美しい回避、やりますわね。でも! 質がダメなら量ですわ! さあ、この攻撃を避けられまして!?」
 おいでなさい! と手を鳴らせば取り巻きの影が現れる。
 取り巻きの手にはふわっふわの羽根が付いた扇子が握られている。
「皆様、制裁のお時間でしてよ!」
 イレーヌの合図と共に深雪に殺到する取り巻きたち。
 流石の深雪も巨大鉄球の回避直後すぐさま反撃も回避も出来るわけでもなく。取り囲まれてしまい、取り巻きたちに叩かれる。
 しかし。
(……痛くない……というかくすぐったいですねこれ!?)
 弱い。弱すぎる。この取り巻きたちの扇子攻撃、本当に弱すぎる。羽根がくすぐってくる方がまだ気になるくらいだ。
 ふわぺち叩いてくる取り巻きたちは『ざぁこざぁこですわ~!』『一対多ならわたくしたちでも勝てますわ~!』などとややズレた卑怯お嬢様ムーブをしながら攻撃してくるあたり、彼女たちからすれば『超強い扇子攻撃』なのだろう。
「……はぁ。さっきのギャルお嬢様たちにも少し思いましたが……態度がなっていなくってよ!」
 深雪自身から、仄かに銀色の光が零れる。舞うように取り囲む取り巻きの一人に掌底を喰らわせれば、銀色の羽根が深雪の傍を舞う。
 たった一撃で瓦解した包囲網を容易く抜け、イレーヌへ接近する。
「お覚悟なさいませ!」
「ひっ」
 銀の羽根と共に、深雪の脚が、平手打ちが、お仕置きの如き拳骨がイレーヌに叩き込まれる。
「ったぁぁぁぁい……!」
 思わず頭を抱えて座り込んでしまうイレーヌ。へにょりと耳が垂れた。
「思っていたのですけれど、|お嬢様の女王《トップお嬢様》であるなら、お嬢様道の頂点であり、礎の必要は無いのでは?」
 更なる攻撃を加える前に、ふと深雪は気になっていたことを問う。イレーヌははっとした顔をしてから痛そうに押さえていた頭を更に押さえ、暫く唸ってから話し出す。
「……じょ、城壁は基礎がなっていなくては瓦解するものでしょう? それに、わたくしはこれだけで満足しませんの。もっと高みに行くと決めていますの――あなたたちを倒してね!」
 多分、今考えたんだろうなあ。
 深雪も薄々そんな気配を感じ取りながらも、その場で仕上げた言い訳にしてはよく纏まっていると素直に感心した。
「本当にその向上心があるのなら大したものですわ」
「な、なんですのその言い方……! まるでいじわる家庭教師のおばさまのようですわ……!」
 おばさま。
 イレーヌは、ただ自分の知り合いのことを零しただけなのだ。
 ただ、零した言葉を聞き取った相手が最悪だった。
「おばさま……?」
 にっこり。
 深雪の表情が再び圧の強いものになる。一度抉られた直後にまた似たような言葉を(事故とはいえ)ぶつけられてはこうなってしまうのも仕方はない。
「デビルギャルズさんといい、イレーヌさんといい。お行儀の悪い子ばかり……。お嬢様を名乗る前に、最低限のマナーくらい学んできなさい!」
 ついにお嬢様言葉も舞う羽根と共に抜け落ちた深雪。
 すぱぁん!
 悪役令嬢が|お姉さま《アラサーお嬢様》に強めに引っ|叩《ぱた》かれる音は、やけに大きく響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アメリ・ハーベスティア
確か、悪役令状は実際は性質的に
『よいこ』寄りなのが多かった気がしますわ(UDCアースの漫画や小説)、これも破壊の因子の成せる業なのですの?

ですがアメリは駆逐されませんわっ!そして花を添える言葉はそのままお返し致します、と『礼儀作法』交え、お嬢様ムーヴしつつアメリはオーバーロードで真の姿に

ドラゴニアンの性質は地竜から闇の竜に

●WlZ
『激痛耐性』で備え

イレーヌさんの罠と攻撃に対し
『第六感』で『見切り』回避しながら
『オーラ防御』で覆った【地竜の翼】でイレーヌさんの方に『怪力&ジャストガード&受け流し』

針系の罠には『召喚術』でキノコを生やして生け花ならぬ生けキノコ、貴女もこうするのですわ、と次は華道ですの

稲妻には『高速詠唱』で『範囲攻撃』で展開した【トロンマッシュ】の『弾幕』を広域展開し『盾受け』しつつ下準備

『多重詠唱&早業』で術重ねトロンマッシュの電茸弾幕を経過させる様に【キノコミコン】から『全力魔法』でUC『弾幕』発射しイレーヌさんを剣山に見立てて御見舞いしますわ

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎



「くっ……このわたくしが、何でこんな目に……!」
 お嬢様の頂点に立ったはずなのにと、悔しさからか一筋の涙を流すイレーヌ。それを陰から見ていたアメリ・ハーベスティアは首を傾げながら思い返す。
(結構簡単に心が折れかけているように見えますけども。でも、確かに悪役令嬢は性質的には『よいこ』寄りの方が多かったような気がしますわ)
 UDCアースで読んできた漫画や小説に出てくる悪役令嬢たち。確かに所謂『主人公』サイドから物語を読めば、キツい性格だったり、過激な行動に出る女性たちが多かった。
 しかし『悪役令嬢モノ』と呼ばれる悪役令嬢側の視点で書かれた物語は、彼女たちが『そうなってしまうのも納得できる理由があった』ことが、アメリには深く印象に残っていた。
 よいこだからこそ、一途に誰かを愛し。しかしそれを容易く奪われて、深き悲しみと嘆きに包まれて『悪役令嬢』と変じてしまう――そんなイメージがアメリにはあったのだ。
(物事は表裏一体ともいいますし。もしかしたら、イレーヌさんも元々は本当はよいこだったのかもしれません)
 もしかしたら生前は悪役令嬢ですらなかったのかもしれない。骸の海へ墜ち、性質が変じて悪役となったのかもしれない。
(だとしたら……)
 ほんの一瞬だけ、よいこの気持ちを目覚めさせられないかと考える。
 けれど、アメリの考えはあくまで想像に過ぎない。この任務を遂行しなければと、アメリはぺちぺちと自分の頬をやわく叩く。
(よいことして悪役令嬢を倒す。それが今のアメリにできること、ですわ!)
 よいこのお嬢様は、悪役令嬢の前にゆっくりと歩み出た。

「っ、まだ来ますのね猟兵……! 本当にしつこいですわ!」
 余裕を失っているイレーヌが怒りを滲ませる。
「わたくしが一番のお嬢様! だから負ける道理はないはず! 今度こそ、あなたを……猟兵を駆逐して証明してみせますの!」
 イレーヌの怒りに呼応するように、ぶわりと風の刃がアメリに飛ぶ。
 アメリは咄嗟に翼で自身を守ろうとしたが、初撃は防ぎきれなかった。鎌鼬に切られた柔らかな身体が血を流す。
 だが、アメリは動じなかった。激高したイレーヌの攻撃は鋭くなると推測していたアメリは激痛に備えていたのだ。
「イレーヌさんの決意、聞きましたの。ですがアメリは駆逐されませんわっ! 花を供えられるのはイレーヌさんの方ですわ!」
 そっくりそのままお返しいたしますの、と翼越しにイレーヌを見据える。
 ――じわり。なにかが滲んだかのように、場の空気が変じた。異様な空気の流れにイレーヌの身体が無意識で震える。
(なんですの? この、『ワル』を越えた……『悪』? いいえ、違う――)
 アメリの目の光が、更に強まる。傷はしゅう、と融けるように消える。一番の変化は岩石のようだった翼が闇色に変じたことだろう。
 アメリの穏やかな気質はそのままに、しかしどことなく攻撃的な気配が彼女の身から感じる。まるで夜のように一帯を呑み込み、その|後《のち》、底なしに落ちて行かせるような――
(『闇』、といえばよろしいかしら?)
 イレーヌの直感は当たっていた。アメリは彼女の遠き先祖――始祖と謳われし闇の竜としての姿に変じたのだ。
「これがアメリの真の姿。イレーヌさんの決意に応える為に、アメリも本気で参りますわ」
「っ、うるさいっ、うるさいですわ! 真の姿かなんだか知りませんけど、わたくしが|お嬢様の女王《トップお嬢様》! 認めなさい、あなたじゃわたくしには勝てませんわよ!」
 イレーヌが指差し、放たれた稲妻。二度も喰らわぬと闇の竜と化したアメリは俊敏な動きで回避する。
 地竜の時に比べれば、闇の竜のアメリの機動力は格段に上がっており、感覚も鋭くなっている。攻撃を受け、跳ね返し戦うのが地竜としての戦いであれば、攻撃を避け、自身の威力で戦うのが闇の竜としての主な戦い方となる。故に、わざわざイレーヌの攻撃を受けてやる道理はない。
 速度、そして闇の竜の威圧感に恐怖したのだろう、一瞬躊躇ったようにしてから覚悟したようにイレーヌは叫んだ。
「――残酷だとは思いますけども、その翼、串刺しにしてあげますわ!」
 アメリの翼を貫かんと床から棘が生え、天井からは昆虫ピンに似た針が降ってくる。それを視認したアメリはぱらりと『キノコミコン』を捲る。闇竜の力により自動的に力が注がれた魔導書は主の意に従って、棘と針目掛けてキノコを放つ。
 ぽすん。棘や針に真っ直ぐに刺さったキノコはカラフルで可愛らしい。まるで生け花のような刺さり方をしている。
「はぁ!? なんですのそれぇ!!?」
 想定外の防がれ方に若干お嬢様らしくない声を上げたイレーヌに得意げにアメリは答える。
「生け花ならぬ生けキノコでしてよ。先程はデビルギャルズさんたちに茶道をしましたの。――貴女には華道ですの」
 貴女もこうするのですわ、と笑むその姿が愛らしくもどことなく恐ろしいのは闇の竜の力故か、それともキノコの毒性を脳裏に過らせたからか。
「~~ッ、こないで、こないでくださいましっ!!」
 必死にばしゅんばしゅんと稲妻を放つイレーヌだが、それはアメリの前に展開されたキノコ群に阻まれる。
 『活雷茸「トロンマッシュ」』。発電するキノコ型雷弾幕はイレーヌの稲妻を浴びてびりびりと元気にその身に宿る雷を高めていく。
 雷を纏うトロンマッシュに力を与えてはならないと、なるべくアメリの方へ稲妻を向けても闇の力を纏った翼は力任せに稲妻を弾き返す。
 属性魔法の罠を放っても、物理的な罠を放っても同じこと。アメリの動きを留めることすらできない。
 何か良い手はないかと必死に脳を回すイレーヌに不意にアメリが問いかけた。
「……そういえばイレーヌさんはトリュフはご存じですの?」
「なんですの、今それ関係あります!? 知ってますわよ、とーっても美味しい高級キノコでしょう!?」
 ツッコみつつも律義に返してくれるのはやはりよいこの性質がある気がしないでもない。アメリはイレーヌに微笑む。
「今ここにトリュフはありませんが……美味しいキノコを食べてみたいと思いませんこと?」
「へ?」
 アメリの突然の提案にイレーヌは目を瞬かせる。だが。
「……さっきからちょくちょく不穏ですのよ、あなた。『貴女もこうする』とか、そのキノコの弾幕とか……! 怪しいんですのよ!」
 毒キノコでも食べさせるおつもりでしょう!? とヒステリックに叫んだイレーヌは、抵抗するように再び稲妻を放つ。やはり稲妻はトロンマッシュと闇の竜の翼に阻まれてアメリには届かない。
「……残念ですわ。とっても美味しいですのに」
 お誘いの仕方が悪かったかもしれませんね、と少しだけアメリが寂し気に零せばイレーヌが「う」と唸った。けれど、そこで「じゃあ食べます」と答えないのが悪役令嬢なのである。
 何か言うべきかとイレーヌが口を開きかけた時、「やはり華道ですわね」とアメリが呟いた。
「え?」
 再びぱららと捲られたのは|茸図鑑型魔導書《キノコミコン》。イレーヌに聞き取れない速度で何かを読み上げるアメリ。
 何が起こるのかと身構えたイレーヌだったが、次の瞬間、どかっとその身体が弾き飛ばされた。
「きゃ……っ」
 倒れ込んだイレーヌにどかどかと打ち込まれるのは、キノコ型のエネルギー弾。その見た目はベニテングタケ。猛毒と知られるキノコだ。
「生けキノコのお時間です。イレーヌさんを剣山と見立てて、綺麗にベニテングタケを生けて差し上げますわね」
 一口くらい齧ってもよくてよ、と笑むアメリ。
「旨味と一体の猛毒――本当の意味での冥土の土産、差し上げますわ」
 ベニテングタケはとある地方なら毒抜きをしたうえで食べられている。だが、一般的には恐ろしい中毒症状があると知られているキノコでもある。死亡例もゼロではない。一筋縄ではいかないキノコだ。
 そんな危険な美味をイレーヌは口にしなかった。やはりベニテングタケを口にするのは怖かったらしい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

生浦・檀
まあ、いつの間に金網ですまっちとか言うものに変わりましたの?
場の流れの哀れさにしんみりしそうになりますが
今の内にランブーに今の内に奥を偵察して来て貰いましょう
何もなければそれで構いません

さて、落ち着かれたようですがまだ戦えます?
戦争ならば不意討ち闇討ちも厭いませんけれども
ご令嬢同士の|一騎打ち《タイマン》は正々堂々といたしませんと
これは騎士道の方になりますかしら

氷の魔法陣とオーラ防御で場を固めて先制攻撃は受けましょう
あら、雷の魔法は|兄弟子《にいさま》がよく使いますのよ
武器の手元に絶縁の魔法をかけてURで雷攻撃を受け、そのまま纏わせますわ
UCで牽制しつつ、わたくしの一撃、受けてくださいまし?



 初っ端の動揺、先行した猟兵に思いっきり泣かされた姿。オブリビオンとはいえあまりに振り回されすぎている。
 場の流れの哀れさに思わずしんみりしてイレーヌを見てしまった生浦・檀。
 そんな視線を感じ取ったのかイレーヌは檀に鋭い視線を向け、「何ですのその目は!」と喚く。
「いえ、少々哀れで言葉が出なくなってしまっただけですのよ」
「そんなストレートに言うことありますのー!!? くっ……このデスゲームで勝ち残るのはわたくしですのよ!」
「それなんですが」
 はい、と小さく挙手した檀。突然の挙手にイレーヌは眉を顰めつつも檀の言葉を待った。
「いつの間に金網ですまっちとかいうものに変わりましたの?」
「は?」
「これではですげーむというよりですまっちではありませんの?」
「……」
 檀の質問にイレーヌが固まる。
 イレーヌの脳裏に今まで嗜んできた漫画が過る。そういえばあまりの悍ましさに細目で見たデスゲームもの、こういう殴り合いはあんまり無かった気がする。
「……は、はぁぁあぁああー!!? ほ、本当ですわ!!?」
 檀の質問――というより、もはや指摘だったそれに崩れ落ちるイレーヌ。またもメンタルダメージを喰らっているようで「わたくしとしたことが」とぼそぼそ独り言を呟いている。
「ランブー、今のうちに」
 檀がそっと『ランブー』を床に下ろせば、何を言わずとも勇敢な|ハリネズミ《ファミリア》は奥の岩戸へてちてち向かっていった。小さな身体は鉄柵をすり抜け、岩戸へ辿り着く。
 ランブーが岩戸の隙間を覗き込むが、『奥に道がありそう』なことは分かれど、小さなランブーですら岩戸の奥へ進むのは少し難しそうだ。
 よいしょ、よいしょ。頑張って押してみるも岩戸は重い。ランブーの力では開けられそうにない。
 やむを得ず、ランブーは鼻先だけ岩戸の隙間にいれてすんすんと匂いを嗅いだ。マグマの匂いに乗じて鉄の匂いと何故か美味しそうな肉の焼ける匂いが届く。どうやらこの先も似たような迷宮は続いているようだ。
 調査結果を檀に届けようとランブーが戻ると、やっとイレーヌが立ち上がっていた。
「あら、お帰りなさいませですわ」
 ランブーに気付いたのか挨拶までしてくれる。ランブーは「ただいま!」の気持ちをこめ小さな手を上げてから、檀にぴょんと飛び乗った。
「どうでした?」
 ランブーの調査結果を聞いた檀はふむ、と頷いた。
「まだ奥に道は続いているようで、……え? お肉の焼ける匂いがしましたの?」
 あらまあ。檀がランブーの調査結果に頷いているとイレーヌも「そうなんですの?」と興味津々だ。
「……興味深い調査結果でしたわ。ありがとうございます、ランブー」
 指先で撫ぜてやれば嬉しそうにランブーが身を揺らした。可愛らしさに目を細めてから檀はイレーヌを見据える。
「さて、落ち着かれたようですがまだ戦えます? 奥へ進む権利を賭けての正々堂々|一騎打ち《タイマン》、いたしましょう?」
 穏やかながらに好戦的な言葉。戦争であれば不意討ち闇討ちも厭わない檀はイレーヌが崩れ落ちたところを容赦なく叩くことも出来た。しかし令嬢同士の戦いとなれば、そうはいかない。
(これは騎士道の方になりますかしら?)
 きっとその騎士道は、令嬢同士の戦いにも通ずるものはあるはず。
 イレーヌも檀のその心構えを読み取ったのだろう。
「……ええ、まだまだ行けますわよ。だってわたくしは、お嬢様の頂点なのですから!」
 いきますわよ、と笑うイレーヌに檀は笑みを深めた。

 |一騎打ち《タイマン》。その言葉にイレーヌも心躍るものがあったのだろうか。
 指先から放つ眩い稲妻は速く、僅かながらに威力も上がっているように思えた。
「あら、雷の魔法は|兄弟子《にいさま》がよく使いますのよ」
 だから対処は知っている、と。稲妻が檀の間合いに入り込んだ瞬間、床から淡い青の光が放たれる。檀が高速で刻んだ氷の魔法陣だ。そこから溢れる魔力をオーラで一気に練り上げれば、稲妻の速さに負けぬスピードで氷の壁が出来上がる。
 ぱしん、音を立てて稲妻が氷を削る。だが、それで終わりだ。檀には届かない。
「対策慣れしているってことですのね?」
 それなら、とぱちんとイレーヌが指を鳴らす。機関銃に似た罠から超高速で炎の魔弾が放たれた。
 魔法の火炎がぶつけられれば檀の魔法の氷壁も融けてしまう。上半分ほどが融け、イレーヌから檀の顔が見えるようになった。
 だが、檀の余裕は一切失われない。壁を失ってもなお優雅に笑むお嬢様力に気圧されながらも、イレーヌは今度こそ檀に稲妻をぶつける為に放つ。
「痺れてしまいなさい!」
 融けかけた氷の壁をジャンプで飛び越えた檀が握りしめた『UR』で稲妻を受ける。ルーンが刻まれたハルバードは敵の魔法も纏うことも出来る。
「|兄弟子《にいさま》の雷の魔法の威力はこんなものではありませんが……まあ、良いでしょう」
 ないよりもあったほうが良いですもの! にっこり笑った檀が放つのは【ウィザード・ミサイル】。魔炎の矢がイレーヌに襲い掛かる。
「きゃっ」
 五百七十五の炎の矢に襲われれば、焼き殺されないようにと避けるのが精一杯。
 それでもどうにか逃げ切ったイレーヌに影が落ちる。
 見上げればふわりとスカートをはためかせながら飛び掛かって来ていた檀がいた。振りかぶったURは檀の魔法で更に強化されたのか、バチバチと電撃の鋭い音を響かせる。
「――わたくしの一撃、受けてくださいまし?」
 優雅に、嫣然と。お嬢様らしい表情を浮かべたままURを振り下ろす。
 ――ドゴオォン!!
 令嬢が放った一撃とは思えぬ、重たい音が迷宮に響く。
 勢いで砕かれた床にめり込んだイレーヌが復活するまで十数分を要した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
何このポンコツ感溢れるお嬢様
真正の悪役は無理そうだなぁ

とはいえオブビリオンである以上
排除させて貰うよ

…演技は続けなきゃいけないんだよね

取り巻きを何人呼んだところで無駄ですの
私には指一本触れられませんの

近付いてくるものがあれば
神気によるオーラ防御とマヒ攻撃で
停滞させて防ぎますの
人でも物でも同じですの

暴力で物事を解決するのは
お嬢様らしくありませんの
邪神の遊戯を使用して
イレーヌを球体関節のお人形に変えて操りますの

その貧相な体なら硬い磁器になっても
大して変わらなさそうですの

はしたなく感じるように踊らせたり
土下座させて謝らせたり
取り巻きの前で辱めますの

…念のため言うと演技だよ
邪神の能力がそれっぽいだけで



「え、何このポンコツ感溢れるお嬢様」
 真正の悪役は無理そうだなぁ。
 そう呆れたように呟いたのは佐伯・晶。
「お嬢様という割に、品がないというか……」
 そう、駄々を捏ねる幼子によく似ている。晶が呟いた言葉が聞こえていたのかイレーヌがまた声を荒らげた。
「うるっさいですわよ! あなただって喋り方に品がなくてよ!!」
「……演技は続けなきゃいけないんだね」
 薄々そんな気もしていたが、まさか敵にまで直接要求されるとは。邪神に揶揄われる期間がさらに延びそう――そんなことを思いながら、ふ、と息を吐く。
「……お相手してあげますわ」
 これも晶の演技だ。蠱惑的に笑み、悠然とした態度で接する。
 それはイレーヌには『完全に切り替わった』ように見えた。雰囲気が急に変じた目の前の少女は、只ならぬオーラを纏っている。
(なんですの、この威圧感……? 何もされていないのに、肌がピリつくような気すらしますの)
 畏怖の感情だと、この時のイレーヌはまだ知らない。けれど直感的に目の前の少女に近づきすぎてはならないと理解していた。
「っ、あなたのような方が本当に『お嬢様』にふさわしいと思っておいでかしら?」
 恐怖で震える口角を無理矢理上げ、呼び出したのは取り巻きたち。くすくすと嘲るような声が聞こえていたのは最初だけで、取り巻きたちですら目の前の少女の異様さに気付いたのかひそひそとイレーヌの後ろで何かを話すばかりになる。
「あなたたち! このわたくしを守るために、お行きなさい!」
 イレーヌが命じればしぶしぶと言ったように取り巻きたちが襲い掛かる。
『全く、人遣いが荒いんですのイレーヌ様ったら』
 そう言いながら取り巻きたちが一斉に扇子を晶に向ける。
 ――そこで、彼女たちの動きは止まった。
「何してるんですの、早く攻撃なさい!」
 イレーヌが苛立ったように声を上げるが、取り巻きたちは動かない。否、動けないのだ。
 囲まれていた晶がくすくすと笑う。
「……取り巻きを何人呼んだところで無駄ですの。私には指一本触れられませんの」
 誰一人、ね。
 邪神の神気によって停滞させられた取り巻きの一人を押しのけて、晶がイレーヌの前に立つ。
「っ」
 心臓を掴まれるような恐怖を覚えたイレーヌが「何でもいいから!」と叫びながら罠を起動する。
 イレーヌの必死の願いに応えるように、小さな砲丸の雨とそれを縫うように放たれる氷の矢。攻撃速度はこれまでの罠の中でも格段に速い。
 それでも晶は笑みを崩しはしなかった。
「お嬢様がそれしきのことで、慌ててはいけませんわよ?」
 晶に迫った砲丸と矢は、一定の場所で空中に留まった。
「人でも物でも同じですの。――私の神気は、万物を停滞させますのよ?」
 暗に、観念しろとイレーヌに迫る。
 いやいやと首を振るイレーヌだったが、恐怖故かそれ以上の抵抗ができない。
「痛みは与えませんわ。暴力で物事を解決するのはお嬢様らしくありませんもの」
 いつの間にか晶の手に握られたのは、黒いワイヤー。ぽんと気軽にイレーヌに向けて投げただけだというのに、ワイヤーは意思を持つかのようにイレーヌの手足に絡みついた。
「ひっ、なんですの」
 今になってバタバタと暴れるイレーヌだが、ワイヤーは絡みついて外れない。
「――さあ、楽しく踊ってくださいまし?」
 黒のワイヤーから注がれる、邪神の神気。イレーヌの身体にしみ込んで彼女の身体を変質させる。
「球体関節人形イレーヌのできあがり、ですわ」
 くすくす笑う晶の目の前に立っていたのは球体関節人形と変じたイレーヌだった。
「それにしても想像はしていましたが、貧相な身体ですから固い磁器になってもそう変わりませんのね?」
『し、つれい、です、わ、ね !』
 人形となっても敢えて喋れるようにはしておいてやったものの、若干喋りづらいのか声の出方は途切れ途切れだ。
 くすくす笑いながら晶はゆるりと一部の神気を引き戻す。停滞していた取り巻きたちが時を取り戻し、きょろきょろと不思議そうにあたりを見回し――気付く。
『イレーヌ様!?』
『そんな、なんで……!』
 取り巻きたちにはショッキングな光景だったらしい。晶は動揺する彼女たちに向かってゆったりと話しかける。
「今のイレーヌは私のお人形ですのよ? ――さあイレーヌ? |観客の皆様《お友達》を楽しませてあげましょう?」
 邪気のワイヤーをくい、と動かせばイレーヌの意に反して球体関節人形の身体は動かされる。
 演じさせるは溌剌としたチアダンス。通常であれば快活で爽やかな応援の踊りだが令嬢が足を高く上げるのは行儀が悪い。
『まあ、あんなに足を上げて……はしたない』
 ひそひそ。取り巻きたちが眉を顰める。人形となったはずのイレーヌの頬がほんの僅かに赤みを帯びた。
『も、もう、いや、です、わ! 謝るからっ、これを解いて、くださいましっ!』
 イレーヌの懇願にくすりと晶が笑う。
「じゃあ、心からの謝罪をなさい?」
 す、と手を下げれば、イレーヌの体勢も自然と土下座の形になる。
『ひっ……嫌、』
 拒絶の声を上げたイレーヌに晶が笑む。目は冷えていた。
 今のイレーヌは指先を震わせる自由すらない。声の自由しかない。謝る以外の選択肢は存在しやしない。
 取り巻きたちの視線に囲まれながら晶に謝罪することしかイレーヌにはできなかった。
 するり、黒のワイヤーが解け、イレーヌの姿がもとに戻る。
『イレーヌ様っ!』
 わっと取り巻きがイレーヌに集まる。ぼろぼろと涙を零すイレーヌはなんとか取り巻きの心配する声に応えながらも晶を見た。
「ぐすっ……なんなんですの、あなた。怖すぎますのよ……!」
「……念のため言うと演技だよ。邪神の能力がそれっぽいだけで、僕は――」
 流石に怖がらせすぎたか。晶は演技をやめ、イレーヌを宥めるように口を開いた。
 が、彼女の怒りはそれでは収まらなかった。
「なおタチが悪いですわよッ!!」
 ぽこん。イレーヌが投げつけた扇子は、甘んじて受けてやる晶であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エリシャ・パルティエル
ねこみみお嬢様になったわたくしに死角はありませんの!(謎の確信
そう、あなたが悪役令嬢ですのね
その高笑い見事ですわ
でもあなたのティアラにも負けない
素晴らしいものを授かりましたのよ!(ドヤ
このねこみみにかけてわたくしはお嬢様として
負けるわけにはまいりませんの!

ランダムで発動する罠は厄介ですけれど…
今のわたくしには怖くありませんわ
それにしてもイレーヌは本気でわたくしたちを痛めつける気はないようですわね

自分で発動した罠にかかるイレーヌを見れば
危ないものなら助けますの
だってそれが本当のお嬢様というものでしょう?

あとは正々堂々と
あなたが悪しきものなら神による制裁を
さあ、真のお嬢様が誰かは明らかではなくて?



「ねこみみお嬢様になったわたくしに死角はありませんの!」
 胸を張って堂々とイレーヌの前に立つはエリシャ・パルティエル。
 猫が好きらしい石像から授けられたパワーアップねこみみはそのまま装着してきたようだ。
「ねっ、ねこみみお嬢様ぁ……?」
 つい先程までの恐怖体験で荒んだ心を和らげるような猟兵の登場にイレーヌは困惑したような、少しだけ安堵したような複雑そうな声を上げた。
「ふ、ふん。わたくしはもとよりけもみみですしティアラもありますのよ? おーっほっほっほっほ!」
 ぐしぐしと涙を拭ったのち、高笑いをしてみせる。
「その高笑い、見事ですわ。悪役令嬢らしいですわね」
「そう! わたくし、悪役令嬢ですもの!」
 調子を取り戻したイレーヌに少しだけほっとしたエリシャ。ねこみみお嬢様となった今、正々堂々と悪役令嬢を倒してこそなのだ。弱ったところを一方的に叩く気は、エリシャにはなかった。
「……ティアラを授かるほどのあなたに簡単には追いつけるとは思っていませんわ。でも!」
 しゅびっ。両手でねこみみを指さすエリシャ。
「あなたのティアラにも負けない素晴らしいものを授かりましたのよ!」
 輝けるほどのドヤ顔でエリシャはねこみみを誇る。|石像《猫好き同志》から授かったねこみみは、エリシャにガンガン力を注いでくれている……ような気がした。
 そして猫が好きなエリシャからすれば、正直ティアラよりもねこみみの方が数倍素晴らしい冠にも思える。
 ――つまり、エリシャの中では、彼女自身が最強。
「このねこみみにかけてわたくしはお嬢様として……負けるわけにはまいりませんの!」
「何度も言わせないでくださいまし! けもみみ|+《プラス》ティアラのわたくしに勝てると思わないことですわね!」
 斯くして、迷宮から冠を授かりしお嬢様たちの戦いの幕が切って落とされた。

 稲妻を飛ばしエリシャを牽制しながら、落とし穴を開くイレーヌ。それを避けたエリシャに機関銃が向けられる。しかし今のエリシャは『最強』。恐れなどない。
「ファイヤー! ですわよ!」
 ガガガと音を立てて出てきたのは複数属性の魔弾だ。
 エリシャは猫のようにしなやかに跳び、弾丸を全て避けてふわりと着地する。ねこみみのおかげかいつも以上に動けているように感じる。
(本当に身体が軽い……、ねこみみお嬢様力って凄い!)
 やっぱり大迷宮内最強アイテムを頂いちゃったのでは!? と軽く感動しつつもイレーヌの次の動きを観察するのは忘れない。
「すばしっこいですわね……それなら……!」
 ば、と手を天井に向けたイレーヌ。ゴゴゴ……と音を立てて天井が開く。
「え」
「あ」
 ガアン、と大きな音を立てて開いた天井には巨大な岩が収まっていた。落ちれば柵内の八割ほどは岩の下に収まるだろう。――そう、イレーヌも巻き込まれる可能性が高い。
「……なんですの、これ。こんなの、危なすぎますの」
 イレーヌとしても完全に想定外の罠。ほぼ全域を圧殺する罠だとは思ってもいなかったのだろう。呆然とそれを見上げるだけだった。
 ぐらり。岩が微かに揺れたのをエリシャは見逃さなかった。
「イレーヌ!!」
 咄嗟にイレーヌにタックルするように飛び込み、しっかりと彼女を抱きかかえて岩の影がない方へ滑り込む。
 ズガアアン、と岩が落ち砕け散る音は、二人の耳に嫌に響いた。
「怪我はありませんの?」
 未だぼんやりとしているイレーヌに声を掛ければ、イレーヌはゆっくりとエリシャを見て、震える声で何かを呟いた。
「……どうかしましたの?」
 一度では聞き取れず、エリシャは優しく笑んで、耳を寄せる。
「……こんな罠だとは思わなかったんですのよ」
 イレーヌが泣き出しそうな声で呟いた。
「ふふ、気にしな……気になさらないで? わたくしとあなたは今は敵対する身――罠を使うことだってあるはずですわ」
 ついうっかり、安心させようとして普段の口調が出かけたのをお嬢様言葉に戻しながら、エリシャはイレーヌを優しく撫でる。
(……イレーヌは本気であたしたちを痛めつける気はないようね)
 ただ追い払いたいのだと、エリシャは理解する。かといってイレーヌはオブリビオンだ。引いてやるわけにはいかない。
「……あの。どうしてわたくしを助けましたの」
 小さな声でぽそぽそとイレーヌが問う。エリシャはにっこりと笑って答える。
「危ないものなら助けますの。だってそれが本当のお嬢様というものでしょう?」
 イレーヌはエリシャから後光が差している気がした。悪役令嬢には持ちえない、ヒロインのような正しさ。少しだけ羨ましいとイレーヌは思った。だからだろうか。
「さあ、あとは正々堂々と、お嬢様力をぶつけあいましょう!」
「……ええ、正々堂々、受けて立ちますわよ!」
 悪役令嬢らしくはなくとも、正々堂々と戦おうとイレーヌも決意した。

 イレーヌが稲妻を放ち、エリシャがそれを避け、更に距離を取ろうとする。
「おーほっほっほ! 避けてばっかりではわたくしには勝てませんわよ!」
 エリシャが仕掛けてくる気配はない。優しさ故に仕掛けてこないのだろうかと思いながらも、イレーヌは攻撃の手を休めない。
 一方で、エリシャはイレーヌの絶え間ない攻撃になかなかユーベルコードを発動できないでいた。
 祈りを捧ぐ必要がある以上、稲妻で阻害され続けるのはそこそこ厄介だ。
(――あ)
 先程の大岩が砕けたものの一つがエリシャの背丈以上のものであることに気づき、そこへ身を隠す。イレーヌの弱い稲妻ではその岩を砕けないようだ。
(――慈悲深き神よ。悪しきものには制裁を、善なるものには安らぎを与えたまえ)
 そっと手を組み神へ祈りを捧げれば、迷宮に光が満ちる。
「なんですの、この光――きゃあっ、なんか痛いですの!」
「悪しきものなら神による制裁を。さあ、真のお嬢様が誰かは明らかではなくて?」
 岩陰から出てきたエリシャは美しく笑む。
 イレーヌは歯軋りしながらも、ほんのちょっぴり、納得もしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
おビンタバトルのお時間でござるますわよイレヱヌ氏

無駄に虹色の残像が見えそうなぐらいの超スピードで罠をぶち抜きつつイレヱヌ氏の前に登場でござるますわ
罠だけに頼るなど笑止千万にござるますわよ、お嬢様たるもの最後にモノを言うのは…おフィジカル!そしてお暴力!

イレヱヌ氏を百万点のお嬢様にする為にも実戦が必要でござるますわ…とひう訳でおとりまきの方々をおビンタバトルにてぶっ飛ばして差し上げるでござるわ!
ほぅら片っ端からおビンタ!おビンタ!相手のおビンタを回避してのおカウンター!
トドメの突き上げ!これぞおビンタバトルの禁術…お掌底とひうものでござるますわ
こうやってお猟兵の方々をぶっ潰して回るんでござるわよ



「ん? なんですのこの音」
 ズドドドドドドドと勢いよく何かがこの広間に迫るような音が聞こえ、イレーヌは辺りを見回す。
 またこの部屋全体を攻撃するタイプの罠でも起動してしまったのかと思ったが、音の出どころはもっと手前の部屋から聞こえているような気がした。
 きらり、ぎらりと手前の部屋へ続く道から虹色の光が見えた――その瞬間。
「ィイィヤッホーーーゥ!! ハッハー!!! ですわー!!!!」
 グワッシャァン!!
 派手な音を立てて顔の前で腕をクロスさせた男が鉄柵をぶち破って来た。硝子じゃなくて鉄柵なのに何故ぶち破れたのかは男――エドゥアルト・ルーデルにもイレーヌにも分からない。
 エドゥアルトは何事もなかったかのように着地し、晴れやかな笑顔をイレーヌに向けた。
「お待たせしましたわねイレヱヌ氏、おビンタバトルのお時間でござるますわよ」
「イレヱヌし???」
 普段とは違う名前の呼ばれ方をしたイレーヌは不思議そうに聞き返すがエドゥアルトがそれに答えることはない。
「イレヱヌ氏を百万点のお嬢様にしにきたのでござるますわ」
「お待ちなさい何も分かりませんのよ!!?」
 多分今まで戦った猟兵の中で一番話が通じてない気がする。
 ヤバいと思ったイレーヌは落とし穴と強制送還マグマ弾でとにかく目の前の|益荒男《お嬢様》を入口に飛ばそうとする――が、イレーヌはこの男がトンデモおフィジカルお嬢様だということを既に失念していた。
「おほほほほ! 罠だけに頼るなど笑止千万にござるますわよ~!!!」
「消え……!?」
 エドゥアルトの姿が消えた。落とし穴に落ちたか? 否、超スピードで罠を避けていた!
 何故かゲーミングカラーな残像をよく見ると謎の技術で開いた床を戻し、強制送還マグマ弾を火炎放射器で迎撃して破壊していた。
 ついでにグレネードもぶん投げてルーン文字が書かれていた壁も一部爆破。
 超スピードのエドゥアルトには罠が無意味だったことがよくわかる。
「風邪ひいた時の悪夢ですわよこれぇ……!」
 あまりの|光景《戦闘力》にへたり込みそうになるイレーヌ。しかし、それは誰かに腕を強く握られる形で阻止された。
 イレーヌの視界のドアップで、|エドゥアルト《ご本人》登場。イレーヌは声にならない悲鳴を上げた。悪夢じゃなかった。現実だった。
 がっしと握った腕をひっぱり、イレーヌをそっと立たせてあげるエドゥアルト。そこはかとない|紳士感《お嬢様感》が、確かにそこにあった。
(一応、お嬢様の精神はないわけではないんですのね、この方も……?)
 イレーヌは困惑しながらも目の前の男もまたお嬢様精神の持ち主と納得した。今のイレーヌにはささやかなことですら『お嬢様力』に見えてしまう。
「まだまだ終わりじゃないでござるますことよイレヱヌ氏。というよりまだ始まってもないんでござるますわ。立て、立つんだイレヱヌ氏! でござるわよ」
「わたくしに何をさせる気なんですの……!?」
「言ったはずでござるますわよ、『イレヱヌ氏を百万点のお嬢様にしにきた』と。お嬢様たるもの最後にモノを言うのは……おフィジカル! そしてお暴力!!」
「……本当にそれで百万点のお嬢様になれますのね?」
「なれますとも! 叩き上げのお嬢様ほど最強ッ、百万点でござるますわ~!」
「……やってやりますわよ~!」
 エドゥアルトの生み出した|混沌の空気《カオス》に、イレーヌが呑まれた瞬間だった。

 イレヱヌ氏を百万点のお嬢様にする為にも実戦が必要でござるますわ、という|師匠《エドゥアルト》の言葉に、イレーヌは躊躇いもせず取り巻きたちを呼び出した。
「よいこと! わたくしが百万点のお嬢様となるため……おビンタバトルの修行を共にするんですのよ!」
『ぇえ……?』
『ご乱心ですわ』
 ざわざわと思いっきり嫌そうにする取り巻きたち。
 ――ッパァン!
 突如取り巻きの一人が吹っ飛んだ。エドゥアルトの鋭いおビンタが、一人の令嬢を散らす。
「とひう訳で今からおとりまきの方々をおビンタバトルにてぶっ飛ばして差し上げるでござるわ!」
『ひぇ』
『野蛮でしてよ!』
「お黙り! おビンタバトルの極意も知らずお嬢様を語るんじゃないでござるましてよ!」
 ノリノリのエドゥアルトはもう止まらない。未だ文句を垂れる取り巻きたちを片っ端からリズミカルにおビンタ! おビンタ!! おビンタ!!!
 悲鳴を上げ、スローモーションじみた動きで崩れ落ちていく取り巻きたちにエドゥアルトは笑う。
「ほぅらこれがお嬢様のおフィジカル、お暴力でござるますわよ! ついてくるでござるますわ!」
『くっ……わかりましたわよ、これで良いんでしょう!?』
 取り巻きの一人がエドゥアルトに反撃のおビンタ! 観察眼は悪くなかったのだろう、おビンタにキレがある。
 エドゥアルトは口角を上げ、それをひらりと躱す。
「まだまだ甘いでござるますわよ、おビンタを避けられた後のことを考えられていないのが丸わかりでござるますわ」
『な……っ』
「おカウンター!!」
 ッッパァアン!!
『ぐふっ』
 綺麗なカウンターおビンタが決まり、ずしゃあと取り巻きが崩れ落ちる。
「す、凄い勢いですわ……これが出来たら確かに百万点かもしれませんわ……」
「まだまだこれは序盤でござるますわよイレヱヌ氏。おビンタバトルには禁術があるんでござるますの」
「禁術……!」
 強そうな響きにイレーヌが目を輝かせる。よく見るでござるますわよ、と言ったエドゥアルトがイレーヌに向き直る。
 わくわくしていたイレーヌだがここでハッとした。この構図、どう見ても禁術おビンタを喰らうのは自分である、と。
 だがもう遅い。エドゥアルトの『禁術』が深々と突き刺さる。
「ぐはぁっ……!」
「トドメの突き上げ! これぞおビンタバトルの禁術――お掌底とひうものでござるますわ!! こうやってお猟兵の方々をぶっ潰して回るんでござるわよ、おわかり?」
 強すぎる掌底を喰らったイレーヌはくらくらして何も分からない。
 何故かひらりとエドゥアルトから赤い薔薇の花弁が落ちたように見えたのが、夢なのか|現《うつつ》なのかも、分からないままだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薬袋・あすか
そもそもなんだが……お嬢様のトップを決める必要なんざないんじゃないか?
悪役令嬢だって病弱な深窓の令嬢だって僕みたいなお転婆な男装の麗人だってみんなお嬢様だ。みんな違ってみんな良い、ナンバーワンよりオンリーワン。な、そうは思わねぇかい?そういうお互いの違いを認め合う心の広さこそが真のお嬢様力な気がするさね
と取り巻きもまとめて言いくるめ

素直に聞き入れてくれるならよし
ダメそうなら実力で解らせる

精神攻撃や略奪、物を隠す可愛らしい嫌がらせは右から左に受け流し義侠心あふれる圧倒的なお嬢様力を見せつける

罠は優雅に怪力で部位破壊し無力化させて返す

それでもダメなら……
躾るかい?(UC、尻を蹴る、ドレスの【鎧無視攻撃】)
お嬢様だからってチヤホヤされんのはよろしくない、むしろ人より多くの物を持ってる以上相応の責任を負うよう厳しく育てられてるもんだ、これは実体験なんだが……
お嬢様、ってのも楽じゃあねぇんだ。



「くっ……わたくしが|お嬢様の女王《トップお嬢様》なのに……! 皆、全然敬ってくれない……!」
 ギリギリと歯軋りするイレーヌに、ふぅっと息を吐いて声をかけたのは薬袋・あすか。
「そもそもなんだが……お嬢様のトップを決める必要なんざないんじゃないか?」
「なっ……なんですのその口の利き方! 品がなくてよ!」
 敢えてお嬢様言葉を捨てたあすか。慣れないムーブに立ちまくる鳥肌が嫌になったのもあるが、よく考えれば『お嬢様』に決まった形はないのだと思い至ったのだ。
「アンタのような悪役令嬢だって、病弱な深窓の令嬢だって、僕みたいな男装するヤツだってみんなお嬢様だ」
 ――なんなら僕はお転婆とも言われるし、自覚もある。
 ふ、と不敵に笑むあすかに、イレーヌはぽかんとした。
 男装の麗人と言われることもあるあすかは、その佇まいにどことなく品を感じさせる。
 だが、イレーヌには俄には信じがたい。否、彼女がお嬢様だと認めたくない。
「あ、あなた、それでお嬢様の心算ですの?」
「今は振袖を着ちゃいるが、いつもはもっと動きやすい格好でいるね」
「なんてこと……お嬢様失格ですわよ……!」
 否定的な言葉を浴びせるイレーヌにやれやれとあすかは肩を竦めた。
「だから、お嬢様に決まった形はないんだよ」
「そんなことありませんわ! お嬢様的な言葉遣い、お嬢様的ドレスと決まっていますのよ! ――あなたたち出てらっしゃい! あなたたちもそう思うでしょう!?」
 自分の意見を否定されるなど思っていなかったのだろう、焦ったようにイレーヌは取り巻きたちを呼んだ。
「わたくしのこの言葉や服装、振る舞いこそがお嬢様だと思いますわよね!?」
『ええ、そうですわイレーヌ様!』
 取り巻きたちはイレーヌを肯定する。ほっとしたような表情のイレーヌに何とも言えない気持ちになりながらも、あすかも自分の想いを彼女たちにぶつける。
「……そこの皆だって実は隠れた一面があるんじゃないかい。みんな違ってみんな良い、ナンバーワンよりオンリーワン。な、そうは思わねぇかい?」
 びく。取り巻きの数人が身を震わせた。どうやら心当たりがありそうだ――そう判断したあすかはより声を張って、イレーヌやイレーヌの取り巻きたちに言葉を届かせる。
「そういうお互いの違いを認め合う心の広さこそが、真のお嬢様力な気がするさね」
「そんなこと……」
『そうかもしれませんわ……ううん、そうかも』
『オレもお嬢様言葉もドレスも疲れんだよなあ』
「えっ!?」
 反論しようとしたイレーヌを遮るように取り巻きの一部の口調が突如崩れた。今まで彼女たちも無理してお嬢様言葉を使っていたのだろう。
「~ッ、見損ないましたわよあなたたち! ええい、他の皆様はわたくしこそが真のお嬢様と思いますわよね!」
『ええ!』
 まだイレーヌへついていく気の者は残っているようだ。
「ならば、わかるでしょう! 目の前の嘘っぱち女をボコボコにしなさい!」
 扇子であすかを指し、取り巻きへ攻撃指示をするイレーヌ。
 おしくらまんじゅう状態であすかを取り囲み、取り巻きたちはあすかを嘲笑う。
『自分自身がお嬢様らしくないからって、妙な言い訳をするなんてみっともなくてよ?』
『なんですの、振袖でお嬢様ぶろうっていう発想が浅はかでしてよ!』
『あっ可愛らしい帯留め。生意気ですわ、わたくしが没収して差し上げますの!』
『これは本? スケッチブック……見せてごらんなさい!』
 それぞれが囀りながら好き放題あすかの荷物を漁る。だが、あすかはそこで声を荒らげたりしない。彼女たちが飽きるまで全て流す。
 あすかにとっては彼女たちの行為は、まだまだ『可愛らしい嫌がらせ』程度。怒るほどのことではないのだ。
『……くっ、全然動じない……!』
『なんだかこうしているわたくしたちの方がお嬢様じゃない気がしてきましたわ……』
『確かに……。はっ、わたくしたちのこの嫌がらせにも怒りをぶつけてこないのも、お互いの違いを認め合う心の広さってことかしら!?』
『ということは……』
 ばっ。取り巻きたちの視線が、一斉にあすかに向く。
「ん?」
 あすかはにっと笑う。その爽やかな笑みが、取り巻きたちを確信させた。
『『この方こそが真のお嬢様ってことですわね!』』
「ちょっとおおおおおおおおお!?」
 イレーヌの叫びも気に掛けず、取り巻きたちはあすかからそっと離れ、深々と頭を下げた。
『申し訳ございません、わたくしたちの一方的な価値観であなたを否定するようなことを……』
『わたくしたちは縛られすぎていたのかもしれませんわ。それに気付かせてくださり感謝いたしますの』
『帯留め、お返しいたしますわ。それにしても振袖、とてもお似合いですわ』
『スケッチブック、大変素晴らしゅうございましたわ。またいつかお会いすることがあれば、その時も見せてくださいませ!』
 もうすっかりイレーヌの取り巻きというよりあすかのファンとなってしまった取り巻きたち。なんなら少し頬を赤らめている。まるでアイドルを間近にした限界ファンのよう。
「おのれ、おのれ、おのれーっ! なんなんですの、篭絡術でもお持ちですのあなた!? ずっるいんですのよそういうのは! わたくしももう手段は選びませんわよー!」
 取り巻きたちを巻き込もうが構うまいと、イレーヌが片っ端から罠を起動する。
「痺れなさい!」
 壁の一部が輝き、金色の弾丸があすかたちへ向かう。逃げ惑う取り巻きたち、ひらりと振袖を揺らし避けるあすか。その光景が、よりイレーヌを苛立たせる。
「生意気ですわ、ほんっとうに生意気!」
 ばっとイレーヌが手を振り上げればあすかを囲うように無数の槍が出る。
「……突き刺しにこないのは、アンタの優しさかい?」
「ち、違いますわよっ」
 図星だったのか照れたように顔を赤らめぷいっとそっぽを向いたイレーヌは次の罠を起動させる。
「……これでトドメですわ!」
 あすかの真上から小さな鉄球群が落ちてくる。
 あすかは咄嗟にバキンと力に任せて槍の一本を折り、手にした。そしてそれをぐるぐると頭上で回すことで鉄球が直撃するのを避ける。
「あー!!? 折れるんですのねそれぇ!?」
「みたいだな? 良い武器をありがとうよ」
 イレーヌが次の罠を起動しようとする前に、あすかは竹藪の如く生えた槍の一つに拳を向ける。
 彼女の怪力の前では槍も茹でる前のパスタのようにパキポキ折れてしまう。
(脆いな)
 想像よりもだいぶ脆いことを確認したあすかは、最初に手にした槍を握り直し、くるりと踊るように一回転して槍の囲いを薙ぎ払う。槍は綺麗に長さを揃えて折れてしまった。
「……おっと、もたなかったか」
 握っていた槍もまた、ぽっきりと折れてしまった。仕方ないと投げ捨てる。
「お転婆が過ぎましてよ。本当にあなた、お嬢様に向いてませんわ」
「……まだダメか」
 取り巻きは比較的素直に話を聞き入れてくれたが、イレーヌはまだお嬢様の多様性を認める気はないらしい。
 はぁー。あすかは溜息を吐き、鋭い視線をイレーヌに向けた。
「ここまで聞き分けが悪いなら……躾けるかい?」
 視線と言葉にイレーヌがびくりと震える。
 イレーヌが動くより先に、あすかはばっと手を伸ばした。|生存の力《グラビティ・チェイン》がイレーヌを絡めとる。
「っ?!」
 ぱし、と。何かが当たった感覚はあれど痛みは軽い。しかし鎖に繋がれた感覚がある。その透明な鎖から伝わるのは、あすかの意思。
 ――お嬢様だからってチヤホヤされんのはよろしくない。むしろ人より多くの物を持ってる以上、相応の責任を負うよう厳しく育てられるもんだ。アンタは違ったのかい?
 冷えた声が聞こえた気すらして、イレーヌは震えあがった。
 あすかの口調から全く想像できていなかったが、言葉の重みが違いすぎる。彼女が正真正銘本物のお嬢様であると、イレーヌは漸く理解した。
「あ、あの、わたくし先程まで大変失礼なことを」
 ゆっくり近づいてくるあすかは、答えない。
「謝りますわ、ですから痛いのはやめて、躾ってなんですの、あの、あの!」
 イレーヌの後ろに立ち、少し脚を上げたあすか。
 ――バシッ!
 振袖であることも構わず、イレーヌの尻目掛けて回し蹴りを入れる。
「いやああああ! こんなの、こんなの痛いですの~!!」
 イレーヌのドレスの厚さなど、あすかの蹴りの前では何の防御の役にも立たない。
 次を警戒し咄嗟に手で尻を庇ったイレーヌにあすかが短く「手ごと蹴り飛ばされたいか?」と問うた。もう逃げ場はないと察したイレーヌはぶんぶんと首を横に振って、両手を上げる。
「これは実体験なんだが……」
 バンッ!
 叩きつけるように再びの蹴り。イレーヌはもう悶えるしかない。
「痛ああああああ!!!!!」
「お嬢様、ってのも楽じゃあねぇんだ」
 グラビティ・チェインを通し、そして彼女のこの気迫を見てイレーヌはあすかが本物のお嬢様どころか、圧倒的格上のお嬢様であると認めた。
 ――|お嬢様の女王《トップお嬢様》は、自分ではない、と。
「まだやるかい?」
「わ、わ、わたくし……わたくし、出直してきますわ……!」
「ん」
 肉体のダメージは既に限界を超えていたのだろう、敗北を認めたイレーヌの姿が闇となって消え始める。
 あすかはそこへ追撃はせず、彼女の消滅を見届け――
「……本当、お嬢様って楽じゃあねぇ」
 僕も彼女も、お嬢様っていろんなものに縛られているもんなんだなと、深く溜息を吐いた。


 お嬢様力を試す大迷宮に侵入したオブリビオンは猟兵たちの活躍により|消滅《リタイア》した。
 決闘の間のお嬢様バトルを制した猟兵たちは、デビキン内最強お嬢様となったのだ(多分)。
 それぞれの『お嬢様』の心を胸に、猟兵たちは大迷宮を後にするのだった。

 ことり。
 誰もいなくなった|後《のち》、岩戸がほんの少しだけ動いた――かもしれない。
 お嬢様大迷宮に限らずデビキンのやりこみ大迷宮は、まだまだ謎だらけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年10月27日


挿絵イラスト