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色彩平原と春の鳥祭り ~幻獣の森を添えて~

#アックス&ウィザーズ

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●森の奥
 陽光を弾く蒼い角。その影の落ちる先は艶やかに煌く漆黒の獣毛。幻獣。僅かな陽射しがそこここに落ちる森の奥深く、美しい角と同じ輝きをもつ瞳を今は瞼の内に隠し、森の隅々まで耳を澄ますように。その獣は何者にも邪魔をされる事無くそこに佇んでいた。
 誰も彼の事を知る者はなく、また知られる事もない。何故なら彼の姿を見た者は須く森の養分へと成り果てるのだから。
 つと頤を上げ、微かに首を傾ける。ヒトに聞こえぬ何かを彼の耳に聞き届けたものはなんだったのか。やがてゆるりと開かれた蒼の双眸は、憤怒の感情に彩られていた。

●予知
「皆様、ようこそおいでくださいました」
 真白のローブに身を包んだ涅・槃(空に踊る人工の舞姫・f14595)が皆を出迎える。
「早速ですが此度の事件について説明致しますわね」
 それはアックス&ウィザーズの、とある村にて子どもたちが行方不明となる事件。予知で視えたのは、十数人の子どもたちと随行する大人数人。向かう先は街道沿いの村から少し離れた平原。木々が疎らに生え、奥の森へと続いている場所だ。
 春に先立ち、その平原に営巣する色鮮やかな鳥たちが換毛期を迎えている頃で、その羽根を祭りに使うための採取とついでのピクニック。それが、悲劇に転ずるのだという。
「事件の発端は、毒を持つ害虫が現れた事に起因するものですわ。その混乱で森へ足を踏み入れてしまいますの」
 森には危険が潜んでいる。そこに限らず。だから大人が一緒でない限りは、子どもたちだけで近付くことすら禁止されている。
「皆様には子どもたちを守りつつ、害虫に備えて頂くこととなりますわ」
 滞在時間を短縮させて害虫による被害を少しでも減らすため、猟兵たちに羽集めを手伝うことを提案する。大人たちの背負い籠がいっぱいになれば足りるだろう。
「皆様方ならば、余程の慢心でなければ遅れを取るような相手ではないと存じます。ですがくれぐれも油断はなさらぬよう、ご注意くださいませ」
 初めての予知で不安か緊張からか震える手を握り締めて、ひよっこグリモア猟兵はそこに集まった皆を見回す。
「どうか、悲劇を食い止めてください」
 深々と頭を下げる彼女の背後に転送先の風景が広がり、テレポートの準備が整った。


宮松 標
 初めまして、新人マスターの宮松 標(みやまつ・しるべ)と申します。
 こちら、当方の初シナリオとなっております。
 割とありふれた感じになったと自負しておりますが如何でしょう。

 今回起こる事は全てオープニングに書いたとおりです。
 どのような展開になるかは、皆様次第となります。
 まずは鳥の羽集めをお楽しみください。
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第1章 冒険 『カラフルバード!』

POW   :    猛禽類等の肉食系の鳥から羽を取ってくる。

SPD   :    走ったり飛ぶのが速い鳥から羽を取ってくる。

WIZ   :    鳥の巣から羽を取ってくる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

キララ・キララ
※アドリブ歓迎です。

▼意気込み
「みんなでいっしょに頑張りましょう! おー!」
キレイなものってだいすき! それに、みんな子供なのよね。友達になれるかしら? とっても楽しそうね!

▼行動
「ふふふ! 鬼ごっこみたい!」
SPD:走ったり飛ぶのが速い鳥から羽を取ってくる。
【追跡】【ダッシュ】、【スカイステッパー】あたりが使えないかしら。
羽根をむしるのはちょっとかわいそうだけど……かんもうき?ならすぐに抜けるわよね、きっと。

▼周囲の警戒
虫が出てくるかどうかはわからないけど、【野生の勘】は持ってるのね。使いどころがなければいいな。



 街道から入った平原の端、森からそう遠くない開けた場所。たまたま通りかかって興味を持った冒険者一行という体で村人たちと合流した猟兵たち。
「みんなでいっしょに頑張りましょう! おー!」
「「おー!!」」
 早速子どもたちの先頭に立って走り出すキララ・キララ。お友達になれるかしら?と子どもたちを見回す。
「あの鳥の羽、かっけー!絶対欲しい!」
 男の子が示した鳥は絶妙なグラデーションを描く羽を持っていた。
「でもあの色の羽は落ちてないね?」
 辺りをキョロキョロと見回す子どもたち。件の鳥は長い足をそっと動かして子どもたちから離れていく。そのスピードはどんどんと速くなっていく。
「きらちゃんにまかせて!」
 キララがダッシュで追跡を始めた。あっという間に追いつきそうになるが、鳥とて黙って捕まる訳もなく。バサリと翼を広げて飛び立つ!
「ふふふ! 鬼ごっこみたい!」
 スカイステッパーで後を追い跳び上がったキララは、羽をむしるのは可哀想だなと思いながらも、羽へと手を伸ばす。だが二度三度と羽ばたく翼からするすると羽が舞い散った。
「わあーすげぇっ!羽がいっぱいだ!」
 地上から子どもたちの歓声が聞こえる。もう充分だろう、そう判断してキララは子どもたちの元へと降り立った。
「冒険者のねーちゃん、ありがとな!」
 小さな籠を同じ色彩の羽で満杯にした男の子が満面の笑顔を咲かせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

飾磨・霜琳
あどりぶや絡みは歓迎だ

鳥の羽集めて祭りかァ。目に鮮やかで楽しそうだ。
後で何枚か分けてもらえるようなら、それで髪飾りを作ってみてぇな。
ひとまずは羽集めの手伝いをさせてもらおうかい。

【SPD】
羽ばたきで羽が落ちンのか、こいつはしめた
錬成カミヤドリで飛ぶ鳥の邪魔をするように簪を飛ばして、鳥を傷つけねぇように羽をまき散らしてもらおう
羽拾いは【掃除】のつもりで見落とさねぇようにキッチリな

しっかし、毒虫か……
複製とはいえ本体で虫退治ってのは気が進まねぇが、それっぽいのが出たら声出して周りに知らせつつ鳥に飛ばしてた簪で攻撃してみるかねぇ

いいかちびども、道具は正しく使えよ。
マネして使い方を間違えてくれるなよ!



「羽ばたきで羽が落ちンのか、こいつはしめた」
 キララの活躍を遠目に眺めて何かを閃いた様子の飾磨・霜琳。空を見上げるが生憎鳥の姿はなく。するりと1本の簪を……いや、20本近くの簪を手に、手近なところで草を食んでいる大型種の群れへと視線を移す。
 ちょうど小鳥が数羽が降りてきたところ目掛けて簪を投げた。鳥に中てぬよう、狙いを定めて。着陸を妨害された小鳥たちは慌てて空へと舞い戻り、近くに立つ木の懐へと飛び込んだ。
 食事を邪魔された大型種は、けたたましい声を鳴き交わし長く太い足を踏み鳴らして移動を開始する。
「ゲァァァァッ!」
「グァーッ!」
 霜琳の念力を受けて簪たちが群れの行方を操ろうと縦横無尽に駆け巡る。しかし一向に飛び立つ気配なく、スピードを上げてぐるりと円を描き出した。そして群れの先頭が最後尾を追い抜き、輪が完成する。
「くっ……!」
 走鳥類の群れ相手に飛び立つよう追い立てても仕方がない。簪たちの動きが変わって足元を縫うように集団飛行を始める。これには大型種も大慌て。パニックと言っても差し支えないだろう。
 少々驚いて飛ばずとも羽ばたいてくれれば、と思ってアプローチを変えてみたが、まるで蜂の巣を突いたような混乱ぶりは霜琳にとっても想定外であった。
 結果的には大量の羽を集めることに成功し、髪飾りの分以上を手元に確保することもできた。最初遠巻きに見ていた子どもたちは今は遥か彼方。
 ままならないねェ、と苦笑を浮かべ胸中でこぼす。背後の木の根元に腰を下ろそうと振り返り、そこに先客の姿を認めた。髪をくしゃくしゃにして半べそ顔の女の子。
「ありゃ、巻き込んじまったか……すまねえ」
 幼女の傍に膝をつき、頭を垂れる。それに応えるかのように、背を向けて霜琳の前に座り込む幼女。髪を直せと言わんばかりに。
「そんじゃ、村一番の別嬪さんにさせてもらおうかい」
 まずは髪に絡んだ草葉を取り除くところから。さわりと緩やかな風が頬を撫ぜた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

モニカ・ラメール
アドリブは歓迎よ

さぁ、今日は鳥尽くしね!
いっぱい捕って、いっぱいいっぱい食べるわよ!

そうね、鋼糸と鞭で捕えてしめて……子供たちには何匹か仕留めたら羽を毟っておいてもうおうかしら
その間に血抜きして捌いて……あら、あら。手伝ってくれるのかしら?

うふふ、それならお願いしようかしら!
いっぱい頑張ったらおねーさんがおいしい【料理】を作ってあげるわ!

ソテーにフリットにクレーム仕立てでフリカッセ、とろ火で煮込んでキャセロール、丸ごとオーブンでロティール……腕が鳴るわね!
……お腹も鳴ったわ

お邪魔な虫さんに備えていっぱい食べておかないとね!
そう、戦う準備だから仕方ないわよね!
虫料理、どんな味がするかしら……



 太陽が天辺近くに上り詰める頃。大人たちは昼食の準備に取り掛かる。
「今日は冒険者たちもいるから持ってきた分じゃ足りないな……」
「ここらは初めてだって言っていたから、その辺のをちょいと仕留めてアレ作るかい?」
「そうだな、腕に縒りを掛けてやるぜ!」
 何やら慌しく動き始めた。よく見ると小さな影がうろちょろと紛れ込んでいる。村の子どもではなさそうだ。食材の気配に惹かれ、わくわくした顔のモニカ・ラメールだ。
「嬢ちゃんも冒険者なんだよね?あの辺りのデカいヤツを5羽ほど獲ってきてもらえるかい?」
 人の良さそうなおばちゃんが指さしたのは森の方。一際大きな木の上に地味な色の猛禽類がちらほら見える。
「任せて!いっぱい捕って、いっぱいいっぱい食べるわよ!」
「はっはっはっ!頼もしいねぇ!じゃあ頼んだよ」
 満面の笑顔を浮かべるモニカの頭の中は、様々な鳥料理で埋め尽くされた。
「ソテーにフリットにクレーム仕立てでフリカッセ、とろ火で煮込んでキャセロール、丸ごとオーブンでロティール……ああ、どれも美味しそうでステキね!」
 目を輝かせて猛禽類のテリトリィに踏み込む。この後予知されている害虫との戦闘を見据えて、たらふく食べておかなければならない。更にはその害虫を使った料理に想いを馳せる。
「虫料理、どんな味がするかしら……」
 頭上では警戒態勢に入った猛禽類がぎゃあぎゃあと威嚇の声を上げる。うちの1羽が攻撃を仕掛けに勢いよく降下してきた。両手から放たれた鋼糸はあやまたず首に巻き付き、そのまま頭から地面に叩きつけた。絞める手間をも省く鮮やかな手際。
 同じようにあと7羽を仕留めるのに時間はかからなかった。多い分は自分の分だ。これをどう運んだものかと思案していると、体格の良い男の子を2人連れた男性がやってきた。
「手伝いに来たつもりだったんだが……もう捕まえちまったのか!?嬢ちゃんすげぇなぁ!」
 さっきのおばちゃんに言われて後を追ってきたようだが、もう仕事が残ってないことに呆然としている。
「じゃあ運ぶのを手伝ってもらえるかしら?」
 やろうと思えば出来なくはないだろうが、折角来てくれたのだ。可愛らしくお願いして、上機嫌で彼らと共に戻る。
 鳥の下準備は子どもたちの仕事だ。慣れた手つきで羽を毟っていく。モニカの分も準備をお願いして、大人たちの料理を手伝ってかまどを増やしてもらう。
「モニカねーちゃんの分も終わったよ!」
 大きい子が運ぶ肉を示して小さい子が声を張り上げた。
「ありがとう!おねーさんもおいしい料理を作ってあげるわ!さあ腕が鳴るわね!」
 その途端ぐぅぅぅ~、と応えるようにモニカのお腹が鳴った。後に続けと言わんばかりにあちらこちらでお腹の虫が大合唱を始める。
 誰とはなしに笑い声が漏れ聞こえ、あっという間に笑いの渦に包まれた。
「さあさあ、笑ってたらいつまで経ってもご飯が出来やしないよ!どんどん手を動かしとくれ!」
 おばちゃんの一喝でそれぞれ自分の持ち場に戻る。モニカも何から作るか算段しながら鶏肉の切り分けに取り掛かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リィン・エンペリウス
おお、鳥達の羽根を使ったお祭りなんて面白そうだね!
お祭りが大成功になるようボクもお手伝いするよ!

出来れば土とかで汚れていない綺麗な羽根を持って帰りたいよね。
よ~し、それならビーストマスターのボクが鳥達を呼び集めて、まだ地面に落ちる前の羽根をゲットしようか。
獣奏器のアララギの【楽器演奏】を使って周囲にいる鳥達を呼び出すよ。
呼び出した鳥達に【動物と話す】で、生え換わる羽根をもらえないかお願いしてみるよ。
綺麗な羽根を色々手に入れられて子供達が嬉しい、換毛期の身体的煩わしさを減らせて鳥達も嬉しい、初めて見る綺麗な鳥達を間近で見られてボクがすっごく嬉しい!
みんなが喜べる良いことだと思うんだよ♪



 昼食を終えて大人たちが片付けを始める脇で、子どもたちは拾い集めた羽を選り分けていく。汚れのひどいものを川で洗うためだ。
 それを見て、何かを閃いた様子のリィン・エンペリウスが、子どもたちに向かって提案する。
「よ~し、それならビーストマスターのボクが鳥達を呼び集めて、まだ地面に落ちる前の羽根をゲットしようか」
「鳥さんを呼ぶの?」
「そんなことできるの!?」
「もちろんだよ。見ててごらん!」
 リィンは獣奏器のアララギを取り出しながら笑いかけた。ホイッスルのようなそれに息を吹き込めば、高く低く鳥たちが鳴き交わすような音色を奏でる。
「わあっ!すごーい!本物の鳥みたい!」
「見ろよ、鳥がこっち見てる!来るぞ!」
 気が付けば周囲には大量の鳥・鳥・鳥!平原中の鳥が集まったかのよう。羽毛の壁と皆の体温で、中心部はまるで初夏の空気だった。
 続けて鳥たちにその抜けかけた羽が欲しいとお願いする。返事は概ね賛成だった。他人に触られたくない個体もいるようなので無理強いはしない。
「さあ、採り放題だよ!……あれ?」
 肝心の子どもたちが鳥たちに埋もれて見当たらない。しかしあちこちから歓声が聞こえるので、大丈夫だろう。リィンは初めて見る綺麗な鳥達を間近で見られてほくほく顔である。
 気が済んだ鳥からどんどん輪を外れ、自分たちのテリトリィに帰っていく。すっきりした顔の鳥たちがいなくなる頃には、大人が持ってきていた籠がいくつも満杯になっていた。
「これだけあれば、今年は新しい髪飾りを作れそう!」
「私は衣装のフリルを増やすわ!」
 小さなお針子さんたちが羽の使い道でかしましく盛り上がっている。

 男の子たちはその様子に面白くなさそうな視線を向ける。
「村の門飾りの分、残るかなぁ」
「残ってもいいヤツはみーんな持ってかれちまうからな」
「だよなぁ」
 自分たちでも確保はしているが、総量では女の子たちには勝てなかったようだ。
「まだ時間はあるからいつもよりちょっと遠くまで行ってみようぜ!」
「父ちゃんたちに怒られるよぉ」
「ちょっとくらいなら大丈夫だって」
 やんちゃで負けず嫌いな子が男の子たちを煽る。リーダー格には逆らえず、渋々と移動を始めた。森に沿って街道から離れるように。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳶沢・成美
僕が集めた羽を男の子たちにわたすことで皆のところに戻ってもらいましょう

【WIZ鳥の巣から羽を取ってくる】
〔影烏〕で鳥巣を観察、居ないところを見計らって羽を失敬する
高い所にある巣はフック付きワイヤーを枝に引っ掛けてひょいと上がって取る感じで
「偶には探索者ぽい所も見せないとね」

取った羽は街道から離れた男の子たちに接触して
「やあどこに行くんだい? もし羽が足りないなら僕が集めたのを持っていくといいよ」
「実は急用を思い出しちゃってさ、捨てるわけにもいかないだろう?」

”コミュ力”と”言いくるめ”で説得を試みる



 籠を背負い木々の間を行く青年が一人。傍を鳥影が横切った。その影を追うように顔を上げる。そして手にしたフック付きワイヤーを1本の木に向かって高々と放り投げた。枝に引っ掛かったのを確認する。
「偶には探索者ぽい所も見せないとね」
 鳶沢・成美はそう独り囁いて、するすると登っていく。主のいない巣を見つけ、中の羽を拾い集める。偶然ではない。影烏。それが彼のUCだ。注意深く目を凝らせば或いは見えるかも知れない。そこここに潜んだ、彼と五感を共有する影の数々が。
 ふと木々の向こうに少年たちの姿を見留める。大人たちから離れる進路。数羽の影烏が先行し、少年たちの様子を観察する。

「な、珍しい羽がいっぱいだろ!」
 リーダー格の男の子とその取り巻きたちは、普段滅多に見る事の出来ない変わった羽に目を輝かせていた。
「でも数なら平原の方がたくさん拾えるし……」
「腰抜けはついて来なくていんだぞ!その代わりこの羽はやらねぇからな!」
 怒声が木々の合間を縫って響き渡る。少年たちの耳に届いたのはこだまではなく、下草を踏み分け何かが近づいてくる音だった。気が付けば背の高い草に囲まれて見通す事が出来なくなっている。
「な……なんだ……?」

 ようやく接近した成美がガサリと草を掻き分け少年たちに声をかける。
「やあ、どこに行……」
「うわああああ!」
「出たああああ!」
 その声は悲鳴によって途中からかき消されてしまう。成美が頭を抱えそうになるのを堪える間に、冷静な少年の一言でぴたりと止む。
「……あっ!冒険者のおにーさん!」
「えっ?」
 なんとか笑顔を作り、背負い籠を少年たちの前に差し出す。
「もし羽が足りないなら僕が集めたのを持っていくといいよ」
「うおおお!すげぇ!」
「ホントにいいの!?」
 少年たちから尊敬の眼差しを注がれ、緩む顔を叱咤する。
「実は急用を思い出しちゃってさ、捨てるわけにもいかないだろう?」
「……こんな所で急用?」
「バカ!大人のジジョーってやつだろ!いいから戻るぞ!」
 リーダー格の男の子が移動を指示する。年長者というだけでは無条件には信用しない。リーダー格たる所以。
「にーちゃん、大人たちには黙っとくから”森”には入るなよ!」
 何か思い違いをされているが、無事に少年たちの背を見送る。
「羽!ありがとなー!」
「「ありがとー!」」
 少年たちの声が木々に反響した。

「後は平原でこの籠をいっぱいにしないとな」
 大きな籠は少年たちが拾った珍しい羽で1/3ほどが埋まっている。満足するにはあと少し足りないようだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

月守・咲凛
自分がかなりの高機動で飛べるので、鳥を捕まえるのは特に苦労はありません。
両手に一羽ずつ、なんか飛ぶのが早そうな鳥を掴んだまま子供達の前に降臨、的な感じに空から降り立ちます。
「こどもたちよ、羽根が足りないというのなら、このなんか早そうな鳥の羽根をむしるがよいです。……トリうるさいです」
人が喋っている時にうるさくしているトリの頭をゴツンと一撃、したらそのまま動かなくなったトリを眺めてそっと目を逸らし
「……ついでに夕飯として持って帰って焼いて食べるがよいです」
とりあえず引き渡します。
それで足りなそうならもう一度飛び回って適当に集めてきましょう。



 少年たちは羽を拾いながら少しずつ平原を進んでいく。その頭上遥か、何よりも速く飛ぶ影。そして何羽かの鳥が落下してくる。
「なんだぁ……?」
 空を振り仰げば猛禽類の影と高速で滑空する影。その二つが交差する瞬間、短い悲鳴のような鳥の声が聞こえた。そして高速で飛び去る影。かと思えばまた1羽、錐もみ状態で自由落下してくるのが見えた。バードストライクか。
「あっち!なんか来るよ!」
 年少の子の声に再び視線を上げる。既に頭上へ到達した人影は垂直に降りてくる。人影?そう、人間の顔を見た。自分たちとそう歳の変わらない子どもの、少女の顔を。
 両の手に猛禽類を1羽ずつ携え降り立ったのは、金属の翼を生やした――天使。
「こどもたちよ」
 あっけに取られている少年たちに向かって、月守・咲凛が声をかける。しかし手の中の鳥が離せと言うようにじたばたと暴れ悲痛な叫びを上げる。
「羽根が(ギャァゲェー)足りないと(ゲァァー)いうのなら(キュゥーギャァー)このなんか(ギョワッギョワッ)早そうな鳥の(ガェェー)羽根をむしるが(ギャッギャギャッ)よいです」
 咲凛が語りかける間も叫び続ける鳥たち。
「……トリうるさいです」
 鳥の頭同士でおしおきのゴツン。否。もっと一撃必殺な音。そしてだらりと動かなくなる鳥たち。儚い鳥生だった。
 そっと目を逸らし、呆けている少年たちにその2羽を押し付ける。
「……ついでに夕飯として持って帰って焼いて食べるがよいです」
「お、おう、さんきゅ……」
 とりあえず引き渡しは行われ、羽も充分集まっている事を確認する。
「では」
 短い一言を残して離脱。完了である。

 何が何だか判らないうちに目的を達成していた少年たち。
「……とりあえず……いつものとこに戻るか……」
 川に到着し、洗う必要のある羽を選別し始める。黙々と作業をしているうちに落ち着いてきたのだろう。
「あれって、魔法なのかな……」
「さっきのちっこい子?」
「見たことない金属だったよな!」
「魔法鋼ってやつかな!」
「この前来たキャラバンのおっちゃんが言ってたやつ?」
「そう、色が似てた!」
 咲凛の事を大興奮で話し始めて盛り上がる。
「キャラバンって言えばさ、今年は季節外れの毒牙虫が大量発生してるから注意しろって言ってたけど何もなかったよな」
「ああ……そういえば、あいつらがいるところは羽の粉が散らばるからな」
 自分たちには関係がなさそうだ、と肩を竦めた瞬間。

 ドォォォ……ン
 森の脇を抜ける街道の、森の方向から爆発音が轟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『毒牙虫』

POW   :    針付き鎌
【毒針】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    針付き鋏
【毒針付きの鋏】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    1匹いれば
【忌避】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【30匹の仲間】から、高命中力の【攻撃】を飛ばす。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 女の子たちの悲鳴。そして大人たちの怒号が微かに聞こえる。
「毒牙虫が出たぞ!大量にな!」
 そう言う間にも、街道の空に火炎魔法の華が咲く。
「野郎!森の向こうから連れてきやがった!」
 森が街道の両脇に迫る区間がある。その向こうからやってきた、旅人か冒険者――魔法使いがいるなら後者だろう――が倒しきれずに追いかけられているようだ。

 子どもたちを森から引き離す事に成功した猟兵たち。予知通りに毒牙虫が現れた。しかし、数が思ったより多いらしい。一般人もいる。守りきれるか――
鳶沢・成美
:心情:
さてここからが本番かな、一般人に被害がいかないように頑張ろう
「僕は一応”毒耐性”もあるし何とかなるでしょ」

:行動:
毒牙虫と一般人の間に立つ
毒牙虫達に対し扇状に”2回攻撃”で『火雷神道真』を使用
「これはまさに急用だよねえ」

敵がこちらに向かってきたら一般人と離れる方向に移動
”第六感”と”逃げ足”で誘導を試みる
「鬼さんこちら?」



「川を下って避難しろ!村の連中呼んでこい!」
「なんでアレを連れてきやがったんだ!」
「僕らも突然襲われて……」
 子どもたちが逃げる時間を稼ぐため、数人の男たちが立ちはだかる。それと騒ぎの元凶の冒険者たち。一人の男が何やら揉めている喧騒の脇をすり抜ける。
「おい!迂闊に近付くんじゃねぇ!奴は毒針を持ってんだぞ!」
 村人の警告を鳶沢・成美は肩越しに軽く受け流した。
「僕は一応”毒耐性”もあるし何とかなるでしょ」
「お、おいっ!」
 後ろを振り返る事なく前に出る。一般人に被害がいかないようにするにはどうしたらいいか。彼は理屈もなしに悟る。こちらを認識した毒牙虫が大群を率いて押し寄せる。成美は現状人影のない街道の村方向へと走り出す。
「鬼さんこちら?」
 おどけるように虫たちを挑発する。体当たりをギリギリで避け続け、街道を挟むの反対側の草地まで到達した誘導の巧みさと華麗な逃げ足は、称賛に値するだろう。
「これは、まさに、急用、だよねえ!」
 更なる強襲を風圧に乗るように、鮮やかな体捌きで回避する。体当たりを躱された集団が上空で旋回し再び成美を狙う。それを正面に捉えた成美は本を手に迎え撃つ体勢。
「道真さんよろしくー」
 空中へと腕を振りぬけば、電撃を纏った礫が現れ襲い掛かった。かなりの広範囲ではあったが一度では全てを捉えきれず、後続が範囲外へと進路を変えるのを見るや、もう一度。総計二百個近い礫が放たれ飛来中の毒牙虫全てを撃ち落とした。

 だが、それでもほんの一部に過ぎない。離れた場所では、他の猟兵たちや一般魔法使いの攻撃が乱舞している。

成功 🔵​🔵​🔴​

龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎

「村の子供たちのために、頑張るよ!!」

【POW】

できるだけ一般人の人たちから離れた場所で毒牙虫の群れに対して『煉獄猛焔波動』を『針付き鎌』の射程圏外かつできるだけ多く巻き込めるように放つよ

これで群れの大半を倒せたらいいけど、もし倒しきれずに近づいてきたら鎌や鋏の攻撃に注意しながら両手で構えてた「黒焔竜剣」の炎【属性攻撃】で対抗するよ

一般人に襲おうとしたら、頼れる相棒「槍焔竜「ホムラ」」を片手で【槍投げ】して毒牙虫を【串刺し】にするよ。ホムラは槍から小竜に変身して帰ってくるから安心(ホムラは、やれやれって感じで還ってくるけどね)
襲われてた一般人は危ないから下がってもらおうかな



 乱戦の中心近くでド派手な火柱のようなものを上げている少女がいる。
「みんなまとめて燃えちゃえ!!」
 龍ヶ崎・紅音は焔の翼を広げ、地獄の炎で毒牙虫を燃やし尽くした。かろうじて範囲外に逃れた個体も、彼女の愛刀「黒焔竜剣」によってあっけなく散ってゆく。しかし、周囲を飛ぶ忌避感を誘うその姿はまだ健在だ。
 次はどこへ、と視線を巡らせば、杖を支えにしゃがみ込む一般魔法使いの姿が飛び込んでくる。そしてそれを好機と捉えない敵もいない。相棒のホムラを引っ掴むや否や、槍へと変化させ力いっぱい投擲する。
「うわぁぁぁぁ!……あ?」
 背後から襲来する毒牙虫に反応が遅れた一般魔法使いの悲鳴が終わらぬうちに、紅蓮の炎を纏った槍は襲撃者を射抜いて地面へと縫い付けた。炎でそれを焼き尽くした後、槍は白銀の小竜へと姿を変える。ちらりと一瞥して主の下に帰る。
 一般魔法使いは自分を救ってくれた小さな戦士の背を見送り、疲弊した身体を引き起こすとのそのそと自主的避難を開始する。全力疾走を挟んでの連戦。これ以上留まっても足手まといだと感じたからだ。
 その間にも次々と切り伏せ燃やす紅音。だいぶ数を減らせただろう。やれやれといった風情で相棒が傍へと戻っていることを確認する。

 街道の先は木々の向こうへと回り込んでいて見通せない。毒牙虫軍団はまだその全貌を見せていない。次の標的を見据え、紅音とホムラは顔を見合わせてひとつ頷く。
「子どもたちのためにもうひと頑張りね!行くよ、ホムラ!」
 愛刀を携え相棒と共に戦場となった街道を駆けてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リィン・エンペリウス
う~ん、随分数が多いね。村の人たちがケガしないよう頑張っていこうか!

これだけ数が多いと1体1体相手にしてたらきりがなさそうだね。
よし、ボクはアララギを使ってロウくんを召喚しようか。
ロウくんには【動物と話す】で咆哮で視界にいる毒牙虫だけを一斉に攻撃するよう作戦を伝えようか。
ロウくんの攻撃によるうち漏らしがいたらボクが近づき、自慢の包丁による斬撃の【2回攻撃】でトドメをしっかりとさしていこう。
近づく際には【野生の勘】【地形の利用】【見切り】も使い敵の攻撃を受けないよう慎重に行動するよ。
群れを倒したら、他の群れの所にロウくんに【騎乗】して移動し、どんどん敵を倒していこう!



 ――轟!
 目に見えぬ衝撃が毒牙虫を襲う。大気を震わせ敵の身体を裂いたそれは、気高き狼の咆哮。辛うじて直撃を免れ地上へ降りてやり過ごそうと、ひらひらと舞い降りる個体。そこへ二本の剣閃が身体を貫く。何が起きたかも判らぬうちにオブリビオンは消滅した。
「よし、ここは終わりだねぇ」
 包丁で鮮やかな剣戟を見せた少女に狼が寄り添う。リィン・エンペリウスはひらりと彼の背に跨った。
「次は――あっちだよ!」
 その指示に従い、狼は走り出す。木々の向こうに敵の姿を捉えた。窪地に身を隠すように集まる毒牙虫を見下ろすささやかな崖の上。多分、何か攻撃で変化した地形だろう。いつそんな事が行われたか判らないが、今は敵をまとめて殲滅するに適していた。
 ――轟!
 少女が背から降りた直後に再度の咆哮は窪地で反響し、全ての個体を沈める。
「ロウくんすごい!全部やっつけちゃったねぇ!」
 リィンの称賛に、ロウと呼ばれた狼は少し得意そうに上を向く。攻撃力をもった咆哮が届く範囲は限られている。それを窪地という地形を上手く利用し、一匹たりとも洩らさずに捉える事ができた。
 狼の耳が羽ばたき音を捉えた瞬間、ややリラックスしていた表情を一気に引き締める。木々の向こうから近づいてくる毒牙虫の姿。上手くこの窪地に誘い込めるならば、一網打尽に出来るだろう。
 決断を示すように崖を駆け下りる少女。狼は赤茶けた地面に落ちた影の中で伏せて身を隠す。その存在を感づかれないように。互いに信頼し合い、数の不利を覆す実力も充分。しかして驕ることもなく。
 華麗なステップで攻撃を見切り、リィンはオブリビオンたちを死神の手中へと誘う。そして炸裂する咆哮。見事なコンビネーションで勝利を積み上げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トレイシー・ライト
【心情】
 なんだか、大変みたいだな。守れるかはともかく、数を片付けるのであれば手を貸すよ。
 気持ち悪い虫だけど、飛んで火に入ればいいさ。

【行動】
 魔道書を開いて術式を起動する。ウィザード・ミサイルがちょうど炎属性だし、【高速詠唱】と【2回攻撃】【範囲攻撃】の技能を活用して毒牙虫の群れを焼き払うよ。一般人の方に向かう奴、こっちに寄ってくる奴、その他の優先順で炎の矢を向ける。
 一般人の無事の確認は一通り敵を片付けた後で。あと、森林火災には十分に注意する。勝手に消えてくれるわけじゃないからな、草が燃えていたら踏み消しておかないと。


モニカ・ラメール
アレンジ等は歓迎よ

出たわね、アンセクト!
硬い殻に鋏、スコルピオンに近いかしら
それならクルヴェットみたいにテルミドールにエスカベーシュ、殻を剥いてポシェにするのもいいかしら
剥いた殻でソースを作るのも良さそうね

あら、いけないわね
今は考えるよりも、まずは味見よね!
食べ放題のアミューズ・ブーシュ、いっぱい食べちゃうわ!

使うのは伸ばした影に沿って血の津波を起こすユーベルコードね
これで他の人に取られないように、じゃなくて向かえないように壁を作って取り囲んで、そのまままとめて食べちゃう(味覚有り)の!
動きを止めるのに鋼糸で網を張っておくのもいいわね

何か忘れて……あ、お料理に使う分!
まだその辺りに居ないかしら



 ――彼の活躍に言及するならば、少し時を遡らねばならない。
 街道を背に平原を警戒していたトレイシー・ライトだった。だが騒動は別の方向からやってきた。
「誰かっ!誰か助けてくれぇー!」
 息を切らせて走ってきた少年。街道を行くにしてはあまりに軽装。村人の一人が走り寄る。
「一体何があった?」
「もっ……森の……入り口で……毒……毒牙虫……追われて……」
 村人の腕の中へ倒れこむように飛びつき、息も絶え絶えに事情を語ろうとする。袖の隙間から、変色した腕が見えた。
「もういい!しゃべるな!すぐに解毒を!」
 少年を抱えて村人は皆の下へ駆け戻る。解毒剤を持ってきていたはずだと。不気味な羽音が木々の向こうから響いてきた。トレイシーは魔道書を開いて術式を起動する。延焼の懸念から、ウィザード・ミサイルの発射が僅かに遅れた。
 その遅れが、大量の毒牙虫の通過を許してしまう。悔やむ暇などない。高速詠唱による準備時間の短縮。範囲攻撃による巻き込み数。2回攻撃による手数。それ以後はオブリビオンの通過を一切許さなかった。
 ――そして今。
 一体どれだけの炎の矢を射ったか。どれだけの敵を屠ったか。どれだけの時間が経ったか。既に判らなくなっていた。高速詠唱の正確さ、木々を巻き込まない調整、敵を捉え続ける集中力。如何な猟兵といえど並大抵の事ではない。果たしていつまで持つか。

 群れとはぐれて一匹の毒牙虫が地面に程近い木の幹に止まり、身を隠すように休んでいた。探して群れに合流するか、このまま一匹で獲物を探すか――
「いたわ。出たわね?アンセクト!」
 幼さの残る高い少女の声。気がついた時にはもう遅い。はぐれ毒牙虫の彼は少女の手の中。丈夫な鋼糸でその身を拘束され、少女が近付いてくるのをただ恐怖して待つしかなかった。
「硬い殻に鋏、スコルピオンに近いかしら」
 冷静に毒牙虫を分析しながら歩くその姿。白いレースに飾られた肌を露出しない可愛らしいドレス。楚々とした立ち振る舞い。ボンネットの内側で揺れる金髪。愛おしそうに彼を見つめる眼差しは赤。モニカ・ラメール、その人だった。
「それならクルヴェットみたいにテルミドールにエスカベーシュ、殻を剥いてポシェにするのもいいかしら」
 次から次へと料理の名前が並ぶ。目の前に辿り着くと、何かを思いついたように顔を上げた。歳相応の可愛らしい笑顔。
「剥いた殻でソースを作るのも良さそうね」

 酷使し続けたトレイシーの身体は限界を迎えようとしていた。ぐらりと赤茶の髪が揺らぐ。眩暈。その隙をつこうとした毒牙虫をすかさず炎の矢が貫く。
 更なる大群にすぐさま詠唱を始めた刹那。脇を通り過ぎる何かの気配を自分の中の何かが感じ取る。後方から迫ってくる凄まじい圧力に、横っ飛びで距離を取った。その場所を過ぎ去る圧力の正体。津波。それも血で出来た津波。
 津波はその圧倒的なスピードと暴力的なパワーで毒牙虫を文字通り『飲み込んだ』。一体こんな攻撃をしたのは誰だと、振り返るトレイシー。
「ああ、ステキね!食べ放題のアミューズ・ブーシュ、いっぱい食べちゃいたい!」
 うっとりと頬を上気させた少女。気がつけば残った全ての毒牙虫は彼女の鋼糸が捕らえていた。
「あら、いけないわ。全部食べてしまっては、お料理に使う分がなくなってしまうわね。でも、もう少しなら食べても構わないかしら?」
 モニカは踊るように前に出た。毒牙虫がもがけばもがくほど鋼糸は絞まって絡まり、自由を奪われる。彼らの命運はここで尽きたと言えよう。

 こうして平原に平和が戻ったように見えた。だが猟兵たちは気付かなかった。毒牙虫が森を荒らし、森の主の怒りを買っていた事を。そして、怒りのままにこちらへ向かっている事を――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ヒューレイオン』

POW   :    ディープフォレスト・アベンジャー
【蹄の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【自在に伸びる角を突き立てて引き裂く攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    チャイルド・オブ・エコーズ
【木霊を返す半透明の妖精】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ   :    サモン・グリーントループ
レベル×1体の、【葉っぱ】に1と刻印された戦闘用【植物人間】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ミレイユ・ダーエです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちは情報を整理すべく、転送先として用意されていた馬車の傍へと集合する。全員がお互いの顔を見回し、何から話すか逡巡しつつも誰かが口を開いた瞬間。
 馬の嘶き。鳥の羽ばたき。何かが鳴き交わす声。それらが一斉に始まった。続いて空を埋め尽くす大小の鳥たち。突進する走鳥類。馬や鹿、見慣れぬ草食動物。ウサギやリスなど小動物。人型の何か。猿などの霊長類。蝶のようなものから姿を捉えられぬ小さな生き物たち。
 森の奥からやってきて、どこかへと走り去っていく。その全ての瞳に映った感情は、底知れぬ恐怖。畏怖。困惑。何かから逃げるように。
 やがて動物たちが全て行ってしまった後、森の方角からとてつもない殺気が漂ってきた。これに脅えていたのか。
 村人や一般冒険者たちは、と振り返ったが、既に彼らもいなくなっていた。遠く村の辺りでは騒ぎになっている。よく見れば大きな荷物を背負った人や、馬車の姿も見えたところからして、避難を開始したようだ。
 ついに、殺気の主が姿を現す――!
モニカ・ラメール
アドリブ等は歓迎よ

あら、今日のヴィヤンドはセール(鹿)なのね
わたし、とっても好きよ!
ジビエは早めに処理しないとどんどん味が落ちちゃうの
腕の見せ所ね!

さっきのアンセクトはお料理用に残したから、ちょっとお腹が空いてるの
はしたないけれど、ちょっぴりつまみ食いしちゃうわね
だってだってお腹が空いてるんだもの
ユーベルコードで雷を纏って、一気に近付いて噛み付いて、真っ赤なワインで喉を潤すの【吸血】
ついでに血抜きにもなるから、いいわよね
ついつい食べすぎちゃうかもだけれど、美味しかったら仕方ないわよね

キャセロールはお昼に作ったから、今度はシヴェにリエットに、後はどんなお料理にしようかしら
どれもとっても楽しみね!


リィン・エンペリウス
ヒューレイオンか…他の依頼でも戦ったことあったけど、原因を排除したし【動物と話す】で怒りを収めることができないか聞いてみようか。ダメだったら…残念だけど戦うしかないね。

ボクはライオンライドでSPD自慢のライオンくんを呼び出そうか。
呼び出したライオンくんに【騎乗】して戦闘に臨むよ。
ライオンくんの自慢の早さによる【残像】で、敵の攻撃を【見切り】と【地形の利用】で回避しようか。
移動中何かが追跡しているような【野生の勘】を発揮したら、【情報収集】と【聞き耳】で居場所を特定して撃破し、戦闘を有利に進めようか。
敵に隙が出来たらライオンくんとボク自慢の包丁による【2回攻撃】でてきを攻撃するよ!


龍ヶ崎・紅音
アドリブ・絡み歓迎

【POW】

「あちゃ~、完全に怒ってるね派手にやりすぎちゃったかな」

とりあえず、蹄が怖いからそれを【勇気】と【気合い】で回避、それ以外は「黒焔竜剣」の【武器受け】で防御
仲間が危ない場合は【かばう】ね

焔槍形態の「ホムラ」を【槍投げ】と「黒焔竜剣」で牽制しつつ、隙を見て【力溜め】てから急接近し、自慢の【怪力】で『煉獄黒焔斬』を繰り出すよ
反撃を受けないように攻撃後はバックステップで距離をとるようするよ

植物人間がいた場合は、大きく振りかぶってからの【なぎ払い】で数を減らしておくよ
ほとんど、私の攻撃は焔【属性攻撃】だしよく燃えるかも

ホムラには、焔槍形態のほかに小竜形態での援護も頼もうかな



 漆黒に艶光る獣毛と鮮やかな2対4本の蒼の角。不思議な葉が芽吹いているはずの枝は今は葉もなく変色していた。悠然と歩を進めながら何かを探すようにゆっくりと首を巡らせている。
「……ヒューレイオン……」
 その幻獣の名を、誰かが呟いた。
「あちゃ~、完全に怒ってるね?派手にやりすぎちゃったかな」
 龍ヶ崎・紅音が苦笑いする。
「あら、今日のヴィヤンドはセール(鹿)なのね!わたし、とっても好きよ!」
 嬉しそうに声をあげたのはモニカ・ラメールだ。”お土産”を残した分、空腹は満たされていない。瞳を輝かせて幻獣を新たな獲物と見定め、調理法を思い浮かべる。
 モニカが一歩踏み出すと同時にリィン・エンペリウスが声をかけた。
「ちょっと待って!先にボクがお話をしてみたいんだけど、いいかな?」
 少し腰をかがめて覗き込むようにお願いする。先んじてヒューレイオンと接触しなければ、モニカの手によって食材にされてしまう。説得して、せめて怒りを鎮める事が出来るならば。
「わかったわ。でも少しだけよ?わたし、お腹が空いているんだもの」
「うん、ありがとう!」
 黄金のライオンを呼び出して素早く騎乗する。そのままヒューレイオンへと向かうが、あと数十メートルというところで足を止めてしまう。伝わってくるのは警戒、恐怖、困惑、拒絶。これ以上近付きたくないようだ。
 リィンは仕方なくライオンくんから降りて小走りで近付いていく。刺激しないよう大きな音を立てないよう。キラキラと手触りの良さそうな毛並み。つい魅入ってしまう。つと互いの視線が絡み合う。説得して森へ帰ってもらう。そう決めて口を開いた。
「あ、あの」
「――――!」
 声無き叫びを叩き付け、ヒューレイオンは更に後ろ足で立ち上がった。そしてリィンへと蹄を振り下ろす――!
 強い衝撃と共に視界がブレて地面へと投げ出される。後方で待機していたライオンくんの前肢だ。真っ向から受けた叫びはどす黒い感情。その荒波の彼方に青い悲しみを見た。気がした。
 狙いを外された幻獣は、今度こそ怒り狂った。慌ててライオンくんに飛び乗ってその場を離脱する。疾走する風圧でなびく髪に違和感を覚えた。何か引っ張られる感触。振り返っても何もいない。むしろ、何かが髪に絡み付いているような。
「あら?髪に何かついているわ」
 それを目ざとく見つけたのはモニカだ。ほら、と髪の先を銜えている半透明の精霊。
「着いてきたのね?いけない子だわ」
 両手で挟みこんでやると口を開き髪を放す。手と精霊との隙間から血が湧き出てきて意思を持った波のように包み込んで捕食した。ほっとしたリィンは礼を言う。
「取ってくれてありがとう」
「いいえ、これはあまり美味しくないわね」
 残念そうにぽつりとこぼす。
「それより来るよ!」
 警戒していた紅音が注意を促した。こちらへ真っ直ぐに突進してきている蒼と黒の幻獣。一箇所に留まっていては良い標的だろう。猟兵たちはすぐに散開した。

 真っ先に動いたのはモニカだ。雷を纏い、駆け出す。紅音がその後を追う。リィンは死角から狙うべく、ライオンくんを駆る。
 モニカを捕捉し前脚を振り上げたヒューレイオンと、その首を狙って腕を振り被るモニカ。蹄の軌道を鋼糸を使って逸らし、首へと爪を突き立てた。背に跨るように取り付き、滴る赤い”ワイン”で喉を潤そうと噛み付く。一口、いやひと舐めで充分だった。
「!」
 口の中に広がる痺れるような苦味。驚きのあまり振り落とされる。今度こそと蹄を振り上げるヒューレイオン。
「あぶない!」
 紅音が間に割って入った。ホムラが心配そうにモニカの傍へ寄る。愛剣で蹄を受け止めながら問う。
「大丈夫!?」
「ええ……大丈夫よ……」
 涙目で答えながらふらりと立ち上がって少しの距離を離れる。あんなに美味しくない、率直にマズいとは思わなかった。どうすれば美味しく頂けるか考える。紅音とヒューレイオンの睨み合いは続いている。
 その隙を突くようにリィンがライオンくんと共に背後から攻撃を仕掛ける。ライオンくんの爪とリィンの包丁。全く別の方向から別々のタイミングで繰り出されるそれを横っ飛びで躱そうとする。
 だが紅音もいつまでも蹄を支えている訳ではない。それを察して蹄を振り払いながらバックステップで間合いを取る。
 尽くタイミングをずらされ、爪と包丁の両方をその身に受ける。が、深手を負わせる事は出来なかった。そこへ再び雷を纏ったモニカが襲い掛かる。さっきは美味しくないと思ったが、きっと美味しい飲み方があるはず。それを探すためにももう一度。
 首を掻き切ると見せかけ、脇腹を狙った。毛皮に弾かれ浅く食い込む。先ほどの包丁での裂傷を見つけ、そこへ口付け啜り上げる。今度は苦くない。どういう事なのか考える暇もなく暴れ出す気配を感じ、撤退を余儀なくされる。
「今だ!」
 投擲された焔槍形態のホムラに逃走の出鼻を挫かれ、たたらを踏むヒューレイオン。そのチャンスを逃がさず急接近した紅音が煉獄黒焔斬を放つ。黒い炎が幻獣を包んだ。声無き声を上げ走り出す。その光景は禍々しさを内包する神秘的な美しさだった。
 炎をたてがみのようになびかせながら疾駆する姿を、その行く末を注視する三人。果たしてどこへ行くのか――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

アリス・マジック
このまま逃げてくれるなら面倒がなくていいけど、まぁ、そうもいかないだろうね

〇WIZ
走るヒューレイオンをウィザード・ミサイルで追撃します。[属性攻撃]で炎の矢を放って延焼を狙います。
防御優先で、もし狙われたら氷矢に切り替えてヒューレイオンの足元を狙い、凍り付かせて移動力を削れないか試みます。
また、植物人間が召喚されたら、優先的にそちらを炎矢で攻撃して燃やします。



「このまま逃げてくれるなら面倒がなくていいけど……」
 そう呟きながらアリス・マジックは指輪を嵌めた手をヒューレイオンへと向ける。アレはオブリビオン。我ら今を生きる者の敵。歪な形で甦った過ぎし日の幻影。
「まぁ、そうもいかないだろうね」
 逃走する後姿に追撃を仕掛けようとしたアリスだったが、ヒューレイオンは唐突に足を止めた。遥か彼方で何か探すそぶりをしていた幻獣は、それを見つけたように猟兵たちへ向き直ると猛然と地を蹴った。速い。
 ただ、その進路上にアリスがいたのは偶然だったかもしれない。しかし機動力を削ぐチャンスと捉えた。追撃の炎属性から迎撃の氷属性へ。ウィザード・ミサイルを呼び出し直す。百本の氷の矢がアリスの周囲へ展開した。
 接近するヒューレイオンの足元へ、何本か集中して放つ。闇色に艶めく体毛から覗く翡翠色の蹄の元へ、氷の枷が届く。はずだった。ザザッと音を立てて地面から緑の壁が立ちはだかり、その身で全てを受け止めきったのだ。
 幻獣はその凍りついた壁を飛び越え、スピードを落とす事無く迫り来る。更に矢を放った。が、悉く直前で召喚された植物人間に阻まれる。アリスは残りの氷の矢を全て撃ち尽くしてから属性を切り替える事にした。
 ありとあらゆる角度から数十本が次々と降り注ぐ。流石に全てを捌ききる事も出来ずに、何本かはその漆黒の身体の表面で氷の華を咲かせた。
「―――!」
 声無き悲鳴を上げ、どう、と倒れ伏す。首元の傷口から噴き出した血が地面へと滴った。ジュ、と音と共に黒煙を燻らせて草を灼いた。
 アリスは無事幻獣から機動力を奪えた事に安堵し、改めて炎属性のウィザード・ミサイルを召喚する。前方へ伸ばした手に嵌めたデーモンズリング越しに目標を一瞥する。そして僅かな時間差で取り囲むように全ての炎の矢を射った。
 盾として召喚された植物人間が次々と燃え上がる。それでも主を守るため、燃える仲間で矢を迎撃し、或いは無事な仲間を庇い自ら矢を受け消滅する。
 やがてヒューレイオンが動き出す。その身を焦がす炎を纏い、命を灼く血を振り撒き、なお戦意は衰えていない。そこまで幻獣を突き動かす想いとは。

成功 🔵​🔵​🔴​

朝倉・くしな
絡みやアドリブは歓迎です

幻獣……とは言ってもオブリビオン。過去のまやかしですか
その脈動する筋肉は大変私も好みなのですが、相容れそうにないのが残念です

過去の産物が、今を生きる者を脅かすのは頂けません
破壊を、戒めましょう

幻獣とは言っても獣
基本は向かってくるだけでしょう
ならば迎撃のタイミングも計りやすいはず
分かりやすく恫喝のオーラを出して30cmの間合いまで誘い、来るであろう蹄の一撃に合わせて、真正面から灰燼拳を叩き付けます
追撃の角が伸びてくるでしょうけど、それも30cmまで惹き付けたら灰燼拳で粉砕しようとします
角が頭に繋がってるなら衝撃で気絶させる事も可能かもしれません
まぁ相打ちでもそれはそれで


モニカ・ラメール
おーいついーたっ!
ダメじゃない、逃げちゃ。アナタはわたしが食べるんだから

いっぱい走ったからお腹が空いちゃったわ、とってもよ?
つまみ食いはちょっぴりだけのつもりだったけれど、もうぜんぶ食べちゃっていいわよね

使うのは血に飢えた竜槍達を呼び出すユーベルコード
来なさい、ラ・ヴイーヴル。アナタ達もお腹が空いてるでしょう? 
遠慮なくいっぱいいっぱい食べるといいわ?
一斉に飛び掛かって【串刺し】にして鎖につないで
溢れたワインも全部啜ってそのまま丸ごと食べちゃうの

何か探していたみたいだけれど、残念
その前にわたしに見つかっちゃったわね
アナタも変わった血が流れてたみたいだけれど、それもぜんぶわたしがいただいちゃうわ



 ヒューレイオンの視線の先には、ずっとあるモノが据えられていた。御者と馬を村へ避難させた後の荷台だけになった馬車だ。猟兵たちの転送をカモフラージュするための幌馬車が二台。その片方――モニカが”お土産”を置いている方――である。
 その視線に気付いたのか、白いフードの裾から碧がかった黒髪を惜しげもなく曝している少女が立ちはだかる。紅の数珠をあしらった奇抜な服装。その少女の名前は朝倉・くしな。
「過去の産物が、今を生きる者を脅かすのは頂けません。破壊を、戒めましょう」
 正面から憤怒の瞳を見返し、威嚇する。このまま間合いに誘い込んで拳を叩き込もうと。相打ちさえ覚悟して。
 むしろゆったりとした歩調で悠然とこちらへ向かって来る幻獣。少女をどうするか考えあぐねているようにも見える。 互いに視線を外すことなく両者の間はどんどんと狭まっていく。もう少しでくしなの間合いに触れる。その瞬間を待ち構える。
 だが間合いは向こう――ヒューレイオンの方に分があったようだ。くしなの間合いに触れる寸前で立ち止まり、攻撃の意思を見せた。一歩余分に踏み込まねばならないが、届かない距離ではない。じり、とタイミングを計る。
「おーいついーたっ!」
 高く澄んだ幼い声。モニカ・ラメールの声が響いた。反射的にそちらへ注意を引き付けられる一人と一体。
「ダメじゃない、逃げちゃ。アナタはわたしが食べるんだから!」
 一度獲物と見定めたからには逃がしはしない。もうぜんぶ食べちゃっていいわよね?とモニカの赤い瞳が雄弁に物語る。ヒューレイオンは眼前のくしなに向き直り、後肢で立ち上がった。くしなもそのタイミングで前に出る。
 上から全体重を乗せてくる蹄に対し、下から超高速で拳を突き上げる。ぶつかり合った結果、ヒューレイオンは弾き飛ばされ仰け反るように一瞬宙に浮く。身体を捻って着地を試みるが、塞がりかけた傷口が開いて血を噴いた。全身を駆け巡る痛み。
 一度は地に伏したがよろめきながら立ち上がる。臨戦態勢は崩さずその動きを見つめるくしな。蒼い角が形を変えた。だけでなく、猛スピードでくしなを刺し貫こうとその長さを伸ばしていく。
 蹴り上げ、叩き落し、巻き取り、最後はもう一度超高速の拳を叩きつける。角を介してその衝撃が頭へと伝わり脳を揺らす。するすると角は元に戻り、漆黒の身体は地面へと横倒しになって血溜まりを広げた。
 空腹に耐え切れぬモニカが歩を進めてくる。その気配を感じ、ヒューレイオンは辛うじて身体を起こし、立ち上がるそぶりを見せた。
「来なさい、ラ・ヴイーヴル。アナタ達もお腹が空いてるでしょう?」
 二十本のルビー色した竜槍を呼び出した。血のような真紅の槍。否。実際彼女自身の血で出来ている。
「遠慮なくいっぱいいっぱい食べるといいわ?」
 竜槍たちが食べる事はつまり、モニカの胃に収まる事である。二十本の分身体とも言える槍がヒューレイオンへと迫る。満身創痍の幻獣はその槍たちを迎え討つ。
 一斉に竜槍がその身を貫き、肉を爆ぜ、間欠泉のように赤い”ワイン”が降り注ぐ。声ならぬ声と共に槍を振り解こうと身体を震わせるが、体力を奪うだけだった。
「溢れたワインも全部啜ってそのまま丸ごとわたしがいただいちゃうわ」
 アナタも変わった血が流れてたみたいだけれど、と小さく呟いた言葉は幻獣に届いたかどうか。漆黒も蒼も全て、真紅に飲み込まれてゆく。一滴残らず啜り上げた竜槍は主の元へと還った。

●余談
 こうして脅威は全てなくなり、村では無事に祭りが行われた。この祭りは貯水池の掃除を兼ねた飛び込み大会や、衣装の出来を競うコンテストなどが目玉となっている。
 猟兵たちも招待され、余裕のあるものは参加することにした。それぞれ出し物をしたり、大会やコンテストに出場する他、出店や土産物屋巡りを楽しむ。
 猟兵たちにとって濃厚な一日になった、のではないだろうか。


●●おしまい●●

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年03月16日


挿絵イラスト