#UDCアース
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●喪失とは
世界は常に失われている。
時間、記憶、生命。万物において失われぬモノなど無い。
彼らはどうか?
世界に染み出た既に失われた存在。
目的は?=失った。
記憶は?=失った。
生命は?=失った。
故に彼らは矛盾を孕んでいる。
彼らには何も無い。
「だから君も失ってくれ」
●消えゆく街
とある繁華街。人々の賑やかな声が青く晴れ渡る空に染み込んでいく。
この光景を言葉にすればそれはまさに【平和】そのものだ。疑う者は誰一人と居ないだろう。
その時までは--。
それは誰かの一言から始まった。それが誰だったのか、どんな言葉だったのかそれはもう誰にも分からない。それは既に失われていた。
各所から響く悲鳴と怒声。そしてそれらは染み出した【影】に塗り潰されていく。
人々は何も分からないまま逃げ惑うしか無かった。逃げる場所など既に失われているにも関わらず、人々は必死に希望に縋りつき、手を伸ばしていた。
罵声と爆発音。絶望と混沌が入り交じる街は黒一色に飲み込まれて行く。人々はその中で唯々、全てが終わる時を待ち続けるしか無かった。
--街の喪失はすぐ其処だ。
白衣の男が囁いた。
●グリモアベース
「えっと······来てくれてありがとう」
グリモア猟兵、星凪·ルイナ(一般通過大学生・f40157)はグリモアベースに到着した猟兵たちを一瞥し、軽い会釈で出迎えた。
「UDCアースで事件だよ。【影】の怪物······しかも夥しい数の怪物が文字通り湧き出したみたい。このままでは街は怪物に飲み込まれて多くの命が失われてしまう」
言葉を区切り、ルイナは猟兵たちをそれぞれ見回した。猟兵たちは言葉を返さずとも頷いてそれに答えた。ルイナはそれを見て、深く息を吸い込み言葉を続ける。
「今回、みんなにやって貰う事は怪物の群れの撃退、及び、人々の救出。人々が逃げ惑う中での混戦になるだろうから気を付けて」
「怪物は影を具現化したような見た目で人間の負の感情に干渉する力があるみたい。尤も、数がとにかく多いのは厄介だろうけど猟兵のみんなの敵では無いと思うけどね」
刹那、微笑みを浮かべたルイナの瞳には再び、真剣な感情が色濃く宿る。説明を聞く猟兵たちの間にも事態の深刻さを象徴するが如く緊張が走る。
「問題はこの影とは別に出現が予想される【忘却者】と呼ばれる強力なUDC。猟兵の力を持ってない人は彼の姿を見ただけで発狂するほどの精神汚染能力を持ってるみたいだね。それに猟兵にも効果を及ぼす、記憶や希望に干渉する能力を持ってるから気を付けてね」
「大事な夢や、大切な友達との想い出を失いたくないでしょ?」
これは警告だ。猟兵たちもそんな事は分かり切っているだろう。各々は来るべき壮絶な戦いに向けて気を引き締める。しかし、誰一人として怖気づいてしまう者はいなかった。どんな過酷な戦場でさえ守るべきものを守り抜き、生還する。それこそが猟兵だったからだ。
「余計な心配だったかもしれないね。でも注意して欲しいのはそれだけじゃないの。彼の精神汚染を受けた人間は最悪の場合、怪物に変容してしまうから。そんな事になれば人々の命が失われるのはもちろん、戦況が不利に傾くのは目に見えてる。だからこそ、彼との戦いの最中でも人々のフォローを欠かさないであげてほしい」
「大変な戦いになるだろうけど、戦いが終わった後にもやって貰う事があるよ。UDCの秘密を守る為に事件を目撃した人々の対応をしないといけないから。……あまり難しく考えなくていいよ、UDC組織の人たちも手伝ってくれるし」
そこで漸く一息吐いたルイナは薄く微笑んだ。
「ああ、そうそう。その街は夜桜が綺麗で有名なんだって。せっかくだから桜と星空でも眺めながらゆっくりしてきたらどう?」
そして一通りの説明が終わると、悲劇を回避する為の戦いの幕が上がるように転送が開始された。
「それじゃ、街の運命は任せたよ。頑張ってね」
鏡花
始めまして!新人MSの鏡花と申します!
今回が初シナリオという事で非常にドキドキしておりますが、皆さんの冒険を彩る、良いリプレイを返せるように頑張らせて頂きます故、どうか良しなに……。
●シナリオについて
基本的に純戦となっておりますので、心置きなくカッコいいプレイングをどうぞ!
●第1章
大群のUDC怪物との戦闘です。人々が混乱し逃げ惑う状況下での戦闘となっておりますので【人々の救出、及びフォロー】に関わる行動があった場合はプレイングボーナスが適用されます。
●第2章
こちらはボスとの戦闘です。1章よりも更に戦闘がメインとなりますがオープニングにある通り、人々が狂気に飲まれたり、怪物に変容する可能性が考慮される為、【ボスの姿を人目に晒さない】【人々を戦闘区域から遠ざける】など人々が狂気に晒されるのをフォローする行動があるとプレイングボーナスが適用されます。
●第3章
こちらは日常章となっております。戦後処理として被害者の人々への対応(UDCに関する記憶の消去)などが目的ですがUDC組織に任せて、夜桜や星などを楽しんで頂いても問題ありません。
●プレイング文字数の短縮の為、下記の記号を参考にして頂ければ!
「◎→アドリブOK」
「○→他の猟兵との絡みOK」
では、皆さんのプレイングをお待ちしております!
第1章 集団戦
『嗚咽への『影』』
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POW : 嗚咽への『器』
戦闘力が増加する【巨大化】、飛翔力が増加する【渦巻化】、驚かせ力が増加する【膨張化】のいずれかに変身する。
SPD : 嗚咽への『拳』
攻撃が命中した対象に【負の感情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【トラウマ】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ : 嗚咽への『負』
【負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【涙】から、高命中力の【精神をこわす毒】を飛ばす。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
川船・京香
うへぇ〜、大惨事……こりゃ早いとこ対処しないとだねえ〜
現場に着いたら《ダッシュ》で襲われてる人達を救助する為にUDCとの間に《切り込み》で割って入る
UDCを引き付けながら周りの人を落ち着くように声を掛けたり、恐怖で動けない人には大丈夫って《鼓舞》して、街から逃げるように指示するよ〜。その際、この街に住んでる人がいたら、その人に最短で街から抜け出せるよう道に皆を誘導して連れてくようにお願いしようとかな。後その人に手当てセットも渡しとこ《落ち着き、道案内》
それで避難が始まったら、UDCが皆を追い掛けように【UC】で敵を一気に纏めて攻撃して足止めだ〜《除霊、浄化、切断》
こっから先は立ち入り禁止で〜す
喪失までの秒針が刻一刻と進んでいく街。黒煙と僅かに熱を帯びた風が吹くその街に青い髪をなびかせながら川船・京香(境界線の○○・f39710)は立っていた。
「うへぇ〜、大惨事……こりゃ早いとこ対処しないとだねえ〜」
目の前の惨劇に京香は肩を竦める。もはや人間が介入できる余地など有り得ないこの光景を目の当たりにすれば当然の反応だ。だがしかし、猟兵である川船・京香――彼女は違う。既に彼女の手は帯刀した【小刀】三川に伸ばされている。
「ま、とにかくやりますか~」
そう呟いた刹那、既に彼女の足は地面を力強く蹴りつけていた。その速度は瞬時に最大速へと達して、まるで突風のように駆け抜けて行く。
街中は既に損壊した建物の瓦礫や炎上した車両で雑然としている。しかし、その程度の事で京香の足が止まる事など無かった。行方を阻む瓦礫があれば体を宙に翻し、彼女を捉えようと腕を伸ばす影があればそれを嘲笑うかのように紙一重で避けていく。それはまるで可憐な舞踊を想起させるようで、混沌としたこの場所にはまるで不釣り合いにさえ思える程に可憐なものだった。
京香が蠢く怪物の群れの一陣を抜けると、彼女の目には最初に見た光景よりも更に酷く色濃く鮮明な惨劇が映し出された。黒が街を飲み込んでいく中、人々はただ泣き叫び、訳も分からずに逃げ惑う事しか出来ていない。
「ああああ!! 嫌だぁぁぁぁ!!」
悲痛。その声を聴いた者に深く突き刺さるような悲痛な叫びが響き渡る。それを耳にした京香が視線を向ければそこには体勢を崩して地面へ突っ伏した男性。そして、その男性に向かいゆっくりと伸ばされていく影の怪物の腕があった。男性は必死に、賢明に地面を這ってでも怪物から逃れようとする。しかし、そんな事など意にも介さず怪物の腕は男性に触れようとする所まで伸ばされる。
「おっとっと、そうはさせないよ」
一閃。
男性と怪物の間に体を滑り込ませた京香は三川を打ち放ち、怪物を腕ごと切り払った。
「ギ……ギギ……?」
体勢を崩し、後退した怪物は口惜しそうに、哀しそうに表情の無い真っ黒な顔を京香に向け、そして崩れ落ちていく。
「ふぅ~危なかったね~……どう? 大丈夫? 動けそう?」
「あ……ああ……だ、大丈夫だ。た……助かったよ……」
男性は起き上がり、まだ恐怖を色濃く残した瞳を京香に向け震える声で礼を述べる。そんな男性に京香は明るい表情でいつものように明るく笑って見せた。
「それはよかった。――大丈夫、私が来たからにはきっとみんな助けるよ」
そんな言葉を聞いて男性の顔から恐怖が薄まっていくのが目に見えて分かった。その顔を確認した京香は今だ狂気の渦にある街中に視線を巡らせる。ここからが本番だ――武器を握る拳に自然と力が籠っていく。
「ちょっとだけ協力して貰っていいかな? 私が敵を引き付けるから貴方はその間にみんなを誘導して避難して欲しいの。もし怪我した人がいたら……ね?」
そう言って京香は男性に手当セットを手渡す。男性はきょとんとそれを見つめるがすぐに決心したように頷き、そして京香の目を力強く見つめた。
「分かった……! あんたもどうか無事でな……!」
「うん、ありがと!」
その言葉を最後に京香は再び駆け出し、そして影の怪物たちが入り乱れるまさに戦場の様相を呈したその場所に飛び込んだ。
「みんな! もう大丈夫だよ! 私が敵を引き付けてるその間にできるだけ遠くに逃げて!」
逃げ惑う群衆、そしてそれに押し寄せるように迫る影の怪物たちの群れの間に立ち、京香は力強く人々に告げる。
「さ、貴方たちの相手は私だよ。好きなだけ相手になってあげる~」
京香は不敵に笑ってみせる。
刹那、まるで時が止まったかのように世界から音が消失する。――あゝでもそれは気のせいだったのだろうか。気が付けばすでに静寂は打ち破られた。
「た、助かった!」「ありがとうございます……!」「早く! 早くここから離れるんだ!」
京香の言葉に鼓舞されるように人々の表情に希望の芽が芽吹く。彼らは再びその体に力を込めて、今度は狂気に晒されたままでは無く、確かな希望に向かって駆けだした。
真っ黒な顔からその感情は読み取れないが、まるで憤怒するように影の怪物たちは京香に対して迫っていく。彼女を飲み込むべく次々と腕が伸ばされるが京香はそれを寸前で避け、時には切り払い、怪物と怪物の間を縫うように黒に染まった街を駆け巡る。それは星1つも無い漆黒の夜空を一筋の流星が奔るようにも見えた。
そんな最中、人々が逃げ込んだ通路に押し寄せる怪物の群れを京香は視界に捉える。すると彼女は自らその怪物の群れの中に飛び込んだ。そしてその中を突っ切るように駆けながら【小刀】三川を振るう。そして唐突に彼女はその名を呼んだ。
「三川! 行くよ~」
その刹那、その言葉に答えるように【小刀】三川がその姿を変えた。長い柄の先に存在する冷たく鋭利な青い刃。即ち、【大鎌】境界線。その姿は_を彷彿させるには十分な物であったに違いない。
彼女が【大鎌】境界線を振り下ろせば数多の影がまるで祓われるかのようにその姿を霧散させ、返す刃で空へと振り上げれば水飛沫の如く、影の欠片が飛び散った。
これこそが彼女のUC――【セットメニュ〜(オトクナセット)】だ。一撃の威力は控えめではあったが、怒涛に繰り出されるその斬撃を浴びせられた怪物たちは耐える事ができずに次々と霧散していった。
「はーいざんねーん。こっから先は立ち入り禁止で~す」
花嵐のような影の欠片が舞う世界の中、川船・京香は不敵に笑う。
大成功
🔵🔵🔵
尾守・夜野
…逃げ遅れた一般人が混ざってるのか…面倒だな…
今回は人嫌いな僕がいくよ
取り敢えず犬たちを呼び、彼らに動いてもらう
…僕?僕は人とは関わりたくないから司令塔役だよ
まぁ他の人格は動けるんだから僕も動けない訳じゃないよ
ただの性分だから…不意打ちは効かないよ!
牧羊犬の如く犬達には人を追い立て避難させて、僕は敵と交戦中
戦闘系の人格並みに動けばするけど基本裏方人格なので、犬が戻れば犬に任せるよ
本体は基本はNagelでの援護射撃
犬達は噛みつき
僕らは基本根暗な物だから涙は特に警戒
まぁ…毒というなら耐性で耐えてる間に辉夜が回復してくれる筈
一般人で毒が回ってるのも同様に対応
咽るような煙の臭い。肌を微かに焦らす不快な熱。あゝ厭になる。
書生を想起させる出で立ちに、黒布の外装を羽織った尾守・夜野(墓守・f05352)は不快そうに眉を顰める。不変であるべき其の世界を浸食する変質。それは夜野の手足に微かな痛みを感じさせた。
「今回は【僕】が行くとするか。生憎、ゆっくり本を読んでいたい気分なんだけど」
夜野は世界のあるべき理を裏切り、喪失へと至る見たくもない街並みへゆっくりと視線を向ける。其処には逃げ惑う民衆を飲み込まんと地獄の亡者の如く群がる影の怪物。街の終焉を飾る耳障りな狂想曲が止むことなく響き渡っていた。
「…逃げ遅れた一般人が混ざってるのか…面倒だな…」
ため息1つ。それと同時に夜野は取り出した色濃く死の気配を漂わせる触媒を放つ。
「さぁ、出番だ」
そう告げると同時に死は解き放たれ、【黒妖犬召還】(コーリングハウンド)が此処に成る。死はたちまちに黒妖犬の姿を形成し、さながら猟犬の群れを作り上げた。
「さて……億劫ではあるけど一般人の対処をしないとだ。少しぐらい手荒になっても構わないよ。此処から遠ざけてしまえ」
風が凪ぐ。静寂が訪れた。
そして、始まりを告げる狼の遠吠えがそれらを打ち破る。
雷に打たれたかのように黒妖狼の群れは、まるで黒い弾丸の如く駆け出した。放たれた弾丸は崩れ落ちた瓦礫、打ち捨てられた車両、進路を阻む物全てを穿ち、災禍の中へと飛び込んでいく。
「うわああああ! 今度は一体なんだ!?」「ひっ……!? 狼!? なんで狼がいるんだ!」
狼の一団が逃げ惑う群衆を追い立てれば、当然、群衆はざわめき立つ。しかし、不思議と大きな混乱は発生する事なく、群衆はまるで牧羊犬に導かれる羊のように、怪物が迫るこの区画から遠ざかっていく。
その光景を眺めていた夜野は思考する。
「さて、面倒な一般人の対処はこれで良い。気乗りはしないけど仕方がない、奴らを片付けてしまう事にするかな」
夜野が一歩前へと足を踏み出した瞬間、夜野の背後に位置する建物の壁が音を立てて崩れ落ち、その瓦礫を吹き飛ばしながら1体の怪物が夜野に迫った。
今回の夜野の人格は、多々ある別の人格に比べても戦闘に意欲がある性質でも無く消極的だ。更には極度の人間嫌いから人間との関りを極力避ける為にこうして一線引いている。つまり、彼を孤立していると見た怪物が不意打ちを企てたのだろう。実際に今その目論見を果たそうと夜野の背中に怪物の腕が迫っていた。
「僕1人なら始末できると思ったか? 残念だけれど、とんだ見当違いだったね」
「ア゛……」
そんな怪物の行動など既に夜野は察していた。振り向きざまに夜野がNagelを撃ち放つと、怪物の頭部は弾けるように消し飛んだ。
確かに彼の人格は戦闘を好まない。だから戦えないなどと言うのは彼の言葉通り見当違いだ。むしろ彼にとってこの程度の怪物の1体や2体など相手にもならない。銃声を聞きつけ夜野へ迫ろうとする怪物を1つ、また1つとそのNagelで沈めていく。骨董品と呼ぶに相応しい代物だがその性能に陰りは見えない。銃声と咆哮が数多の影を絡めとり、瞬く間にその数を減らしていく。
その最中だった。数多の怪物が押し寄せ混戦となったその状況下において、その怪物の1体が本来眼球が収まっているであろう顔にぽっかりと空いた2つの穴から、液体をまるで涙のように溢れさせた。怪物が負の感情を感じ取ったのだろう、元々否定的な質である夜野はこの戦闘に置いてほとんど無意識に怪物に対し嫌悪感を抱いていた。其れに怪物が反応したのだ。
一切の感情も存在しえない涙の飛沫に夜野の肌が濡れる。
「毒か……」
思考にノイズが走る。不快、記憶、断片。身体の動きが鈍る。その時を待っていたとでも言わんばかりにのそりと怪物は夜野へ腕を伸ばした。
刹那、自动乐器【辉夜】が律動した――ノイズが除去され、思考が鮮明になる。
「あゝ残念。凡て予測通りだよ」
怪物へ趣旨返しをするかのように夜野の瞳はゆっくりと表情の無い怪物の顔を捉える。神経毒、そんなものはとうに対策済みだ。この時点で怪物の勝利は永遠に喪失した。
夜野の言葉が終わるのを待っていたかのように、けたたましい唸り声を上げた黒妖犬たちが怪物に食らい付く。一般人の退避を終えた黒妖犬の一団が合流したのだ。
「これでお仕舞いだよ」
轟く銃声――穿つ大穴――怪物に空いた空虚な空間を夜野は静かに見つめた。
大成功
🔵🔵🔵
古賀・茉莉(サポート)
人間の殺人鬼×魔女、14歳の女です。
普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、狭いところでは「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。
ユーベルコードは割に合わないsacrificeを使用し、先に儀式は終えています。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
ジャンルは戦闘、ホラー、が特に好きです。
描写は自身の血みどろ、苦戦、スプラッタ、バイオレンス、負傷描写を特に好みます。
よろしくおねがいします!
古賀・茉莉(人間の殺人鬼・f33080)は街を飲み込まんとする影の大群を眺めていた。
「うー! なにあの気味が悪い怪物はー!」
数多の怪物が逃げ惑う人々に迫りくるその光景はパニックホラーさながらで茉莉は不満を隠せない。しかしその言葉とは裏腹に既にその両手にある黒星ノ双剣を握る拳には力が籠る。
「でもでも、あれだけの数なら良い戦いになりそうだね!」
茉莉はこの夥しい数の怪物が蠢き、この世の終わりとでも言うような風景を目の当たりにしてすら自然と口角が上がっていた。それどころか胸の鼓動は高まり、これから始まる戦いの事を考えるとなんだか体全体が熱くなっていく事に気が付いた。その事実に意識が至った時には既に茉莉は走り出していた。
「どいたどいたー! 危ないから離れててー!」
怪物の群れから逃れようと必死に人々が逃げ出してくるまさにその先。黒い影が波のように押し寄せてくるその方向に向かって茉莉は全速力で駆け抜けて行く。そして怪物の群れと接触する寸前で彼女は地面を強く蹴り付け、その繊細な体を高く宙へと舞わせる。その突然の出来事に気を取られたのか怪物たちの行軍はほんの僅かに動きを緩めた。
茉莉はその好機を逃すまいと体を空中で捻り、その双剣を振り落とす勢いを利用して体を回転させ、群れの先頭で彼女を見上げていた怪物を切り刻み、地面へと再び降り立った。
「さ、ボクと勝負して貰おうか」
「ギ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……!!!!」
茉莉が笑顔で宣戦を布告すると、それに答えるように怪物たちは声にならぬ声を上げる。すると怪物たちの肉体……とも呼べぬ影そのものが肥大化していく。戦闘力が格段に跳ね上がっていくのを感じ取った茉莉が抱いたのは恐怖でも焦燥でもなく、唯々、悦びという感情だ。
そして群れのうちの1体の巨大な拳が茉莉へと振り下ろされ、彼女はそれを正面から受け止める。拳の直撃を受けた双剣からは重く鈍い音が鳴り響き、茉莉の体は僅かにコンクリートの地面に沈み込み、そのコンクリートに亀裂が走る。全身に刺すような痛みを感じた茉莉は、恐らく筋肉の繊維が怪物の攻撃の凄まじい威力に耐え切れずに何本が切れたのだろうと理解した。理解してなお、彼女は笑う。
「そう来なくっちゃ!」
怪物の拳を抑え込んだ双剣をそのまま振り抜き、怪物の腕を切り飛ばす。それと同時に彼女の周囲を囲む怪物たちも一斉に攻撃を加えんとその影の塊である腕を伸ばす。
茉莉はその攻撃を避けながら怪物を次々と切り伏せていくが、凌ぎ切れなかった攻撃が蓄積していき体に損傷が増えていく。あゝ、これで良い。これこそが生。この痛みこそが自分が生きる意味なのだ。彼女は楽し気に笑った。
「いいねいいね! じゃあ、ここからが本番だよ!」
途端に彼女の体に力が満ちる。かつて処刑された大罪人、その今もなお冷めぬ殺意に満ちた力。それが茉莉の身体能力を格段に跳ね上げた。それこそが彼女のユーベルコード【割に合わないsacrifice(ワリニアワナイギシキ)】。
「懲りないねー、あんな死に方したのに」
そう呟いた彼女は目にも止まらぬ速さで双剣を振るう。黒い刃から繰り出される黒い斬撃の中で煌めいた星の文様はまるで流星のようで思わず見とれてしまう程だ。敵の攻撃に晒され、傷を受けようとも彼女の攻勢はもはや留まる事は無い。茉莉は楽し気に影の怪物たちを次々と屠っていった。
成功
🔵🔵🔴
夜刀神・鏡介
◎○
街1つを丸ごと飲み込もうとする怪異か。何がこれだけのものを呼び寄せたのかは分からないが
とにかく、被害を出す訳にはいかない。確実に対処するとしよう
神刀の封印を解除。蒼色の神気を纏う事で身体能力を強化して、廻・漆の秘剣【蒼鷹閃】
気配などから人の位置を大まかに把握してダッシュで接近、敵には斬撃波か、直接切り込んで倒していく
ひとまず周囲の安全を確保したところで彼らに声をかけていこう
少なからず混乱しているだろうから、落ち着いて安心してもらえるように
彼らには街から離れてもらいたいが、逃げる最中に再度襲われる可能性も十分に考えられる……なら、護衛は必要か
他地区の事は気になるが、そこは他の猟兵に任せるさ
クゥーカ・ヴィーシニャ
◎【奇縁】
WIZ判定
酷い状況だな……出し惜しみは無しだ。全力で行くぞ。
即【絡繰り人形らの舞踏会】を使用する。影への対処や避難誘導、救出にやることは多い。手数は多ければ多いほどいいだろう。フィラーが敵を縛り付けてくれるし、民間人避難に人形を多めに回すか。さっさと避難を終わらせた方が集中できる。
だが人形に任せっぱなしも出来ない。声をかけて避難を促したり動けない民間人は人形に運ばせたりしながら俺も姉様や絡繰剣で戦うぞ。〈オーラ防御〉に〈生命力吸収〉で多少は無茶も効く。危ない民間人を庇いながら戦うとする。このぐらいなら平気だしな。<カウンター>でお返しだ。
……纏まった奴は人形で囲んで殴るとするか。
アルメル・リルバーン
【奇縁】
…場が混乱しているね。視野を広く、救える命が一つでも増えるように、だ。
私の手札は人々を巻き込む物が多い。戦闘よりも人命救助を優先させてもらおう。幸い私よりも戦闘向きな子がいるしね。
<聞き耳>で助けを求める声を聞き逃さないようにしながら、避難誘導を行う。襲いかかって来るUDCがいるなら、<ナイフ投げ>で投擲用レーザーブレードを投げて対抗だ。
恐怖で動けない者がいるなら、気は進まないが【鎖錠捕縛】で無理矢理足を動かして逃がすとしよう。手荒ですまないが、人命を優先させてもらう。
まだ諦める時ではない。希望はまだここにあるとも。
フィラー・ホロ
【奇縁】
影の黒は私の好みではありませんし、光で搔き消してしまいたいところですが、残念ながら力不足ですね
ヴィーシニャさんとアルメルさんとの共同になることですし、ここは民間人が逃げるのをサポートするとしましょう。
【星の我儘】で影どもを引き寄せて縛り付けます。
問題は……数が多いんですよね、引き寄せたあとどうしましょう。
手持ちの武器でつつきますか。
片づけるのはお二人にお任せします。特にアルメルさんは雑に吹っ飛ばすの得意でしょうし
……しかし、あの動きは人命救助では?吹っ飛ばすにも雑すぎて民間人を巻き込むとかそういうのです?
まあヴィーシニャさんがなんとかしてくれるでしょう。
■災禍を断ち切る刃
炎がパチパチと弾ける音に紛れ、悲鳴と嗚咽が熱を帯びた風に運ばれてくる。各所で戦火が広がっていくその光景を己の眼で確認した、帝都桜學府の軍服を思わせるロングコートを羽織る青年。夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は帯刀した神刀【無仭】に手を触れた。
「街1つを丸ごと飲み込もうとする怪異か。何がこれだけのものを呼び寄せたのかは分からないが、とにかく被害を出す訳にはいかない。確実に対処するとしよう」
鏡介が瞑想するように瞼を静かに閉じる。刹那、彼の周辺の空間がまるで水面に波紋が奔るかのように揺らぐ。じわりと陽炎の如き蒼炎が鏡介の体に纏われたかと思うと彼は再び世界をその瞳で捉えた。
「神刀解放。駆けて刻め、蒼き爪痕――廻・漆の秘剣【蒼鷹閃】」
神刀【無仭】を抜き放つとその白銀の刃が冷たく、そして鋭く光る。
「行くぞ……!」
一刻の猶予も無い。一瞬の判断がこの街の未来を決定付ける。それこそ、まさにこの世界に喰らい付く理。それすらも置き去りにするかのように鏡介は駆けだした。全ては己の責務を果たす為に――。
「1人、2人……いや、それ以上か……急がないとな」
目視可能な範囲だけでもまだ多くの人々が避難に追われている上、鏡介はまだ多数の人間がこの戦火の中に取り残されているのを感じ取っていた。混乱の末に打ち捨てられた車両なども一因となって避難が遅れているのだろう。燻る焦燥感が心の臓の鼓動を早鐘のように早めていく。
「すまん、使わせて貰うぞ」
一刻も早く先へ進む為、鏡介は打ち捨てられた車両の屋根に飛び上がると、まるで海原に浮かぶ小舟を飛び渡るように車両を足場にして宙を駆けるかのように進んでいく。すると、ふと前方に人ならざる物の気配を感じ取る。
怪物の群れだ。人々を飲み込まんとする黒い影の軍団だ。それは今まさに逃げ遅れた人間のその命を刈り取ろうと手を伸ばそうとしていた。
「させるかッ!」
宙を駆けるその勢いのままに鏡介は怪物の目の前に飛び降りる。足を折り曲げ着地の衝撃を和らげる――否、その衝撃を利用するように鏡介はすぐさまに地面を蹴り付けまるでバネのように足を延ばすと爆発的な勢いで怪物に向かって体を飛び込ませる。怪物がそれに反応する時間すら与えず鏡介は刀を流れるように右へと振り抜いた。
「ガッ……」
文字通り、一刀両断されその体を2つに分けた怪物のその体と体の間を鏡介がすり抜けると、数多の怪物たちが彼に迫る。しかし鏡介は眉1つ動かさずに勢いのまま体を回転させ右下から左上へと切り上げるように刀を振るい怪物を切り捨てる。かと思えば腰を屈ませ、ずっしりと構えたかと思えば目にも留まらぬ速さで斬撃を繰り出しその一撃で怪物を屠った。どれほどの敵を倒したか、あとどれほど残っているか、人々を救う事はできたか。そんな思考を巡らせながら超人的な動きで1体、また1体と怪物を切り捨てていく鏡介。その背後から突然、悲鳴が響き渡る。
「きゃあ……!」
鏡介の逆側で逃げ遅れた女性が足を縺れさせ、地面へと倒れ込む。そこに喜びでも無い、怒りでもない、唯々哀しそうな声を上げながら怪物の手が伸ばされる。
「そのまま動くな! 伏せていろ!」
女性の声に反応した鏡介は振り向いたそのままの勢いで刀を振るう。神気を帯びた刃から放たれた蒼い斬撃は風を切る音すら置き去りにし、女性と怪物に向かって一筋の閃光を奔らせる。
地面に蹲るように突っ伏した女性の頭上を蒼い斬撃が掠め、怪物を消し飛ばした。
騒々しかった戦場に束の間の静寂が訪れた。
「無事なようだな。……立てるか?」
「は、はい……あの、ありがとうございました……」
鏡介は地面に倒れ込んだ女性の手を取り、引っ張り上げる。女性は襲撃の恐怖から憔悴している様子だったが、その顔には安堵の表情が浮かんでいた。
鏡介が周囲を見渡すと、他にも何人かの人間が疲れ切った顔で地面に座り込んでいたり、呆然と立ち竦んでいたりしている。
「大変だったな、だがもう大丈夫だ。この辺りの化け物は片付けた。他の場所の化け物も仲間たちが片付けてくれるだろう」
その言葉に人々は安堵し、喜びの声を上げる者もいる。そんな人々の姿を見て鏡介は思考を巡らせた。
(彼らには早くこの街から離れてもらうのが一番だが……戦いがまだ終わった訳ではない以上、彼らを孤立させたままでは不安が残るな)
「よし、追手が来る前にこの街を離れよう。安心しろ、俺が安全な所までみんなを守り抜くさ」
人々の身の安全を案じた鏡介はまずは彼らの避難を優先させる。鏡介のその言葉に人々は次々に返事をして、この場を離れるべく移動を開始した。希望の糸を紡ぐ事に成功し、生きようとする活力に満ちた彼らを見て鏡介もどこかほっと胸を撫で降ろす。
「さて、そっちは任せたぞ」
この街で戦う他の猟兵たちに想いを馳せ、黒煙が上がる空を見上げると黒く失うばかりだったその空に輝かしい太陽の姿がちらりと見えた。
■悲劇に抗う者たち
一方その頃、別の区画では3人の猟兵たちが失われゆく街を救う為に駆けつけていた。
「酷い状況だな……出し惜しみは無しだ」
クゥーカ・ヴィーシニャ(絡繰り人形・f19616)は凄惨な街を見て憤る。誰かを救う事を己の役目とする彼女にとって無辜の人々の日常が蹂躙されるこの様を到底、我慢出来る筈もないのだろう。彼女の繊細で精巧な美しい体が儚げにも震え、その蒼い瞳には静かな怒りが宿っていた。
「……場が混乱しているね。視野を広く持とう。救える命が1つでも増えるように、だ」
そんなクゥーカを落ち着かせるようにアルメル・リルバーン(義手傭兵・f39500)は彼女に言葉をかける。
「とはいえ、猶予が余り無い以上は少々の手荒さは許して欲しいけどね」
これから始まる荒事に備えるように開いては閉じるを繰り返させている右腕の義手を静かに眺めながら、アルメルはその銀色の長い髪を風にはためかせて自分に言い聞かせるかのように呟く。その隣ではもう一人、淡い光をその身に宿した少女。フィラー・ホロ(月の燐光(またの名を可動式電球)・f39511)が淡々とした表情で立っていた。
「影の黒は私の好みではありませんし、光で搔き消してしまいたいところですが、残念ながら力不足ですね」
淡々と、そして真面目にそんな言葉を放ったフィラーを見て、クゥーカの表情が少し和らいだように見えた。
「2人とも心強いな。よし……急ごう。影の対処に民間人の救出と誘導、やる事は多いぞ」
クゥーカが劇の幕上げを指揮するかのように両腕を広げる。
「これより始まるは絡繰り人形たちの舞踏会。踊れ、何もかも忘れて。踊れ、何もかもを磨り潰して。自由気ままに、踊り狂え!」
彼女の号令と同時に周辺に光が走り幾何学的な模様が描かれたかと思うと数多の小さな絡繰り人形が現れる。人形たちが並ぶその様はまるで豪華絢爛な劇場の中に迷い込んだような錯覚を覚えさせる。それこそがクゥーカのユーベルコード。【絡繰り人形らの舞踏会(マリオネットハオドリクルウ】だ。
絡繰り人形の召喚を見届け、アルメルとフィラーはほとんど同時に頷く。
「ああ、分かった。依頼を完遂するとしよう」
「了解、行動を開始します」
――開演だ。
クゥーカの絡繰り人形が各地へ散ると同時に3人の猟兵も動き出した。終焉までの猶予は無い。3人の猟兵たちは過ぎ去る時を、未来に喰らい付く過去を打ち倒す為に戦場へと飛び立った。
「さて、私は民間人のみなさんのサポートをしましょうか」
フィラーが己の胸部の前へ両手を掲げ、小さな球体状の空間を作り出すように手のひらを向かい合わせると、彼女の胸部で眠っていた恒星のような宝石が微弱な光を放ち始める。
「星は持てるだけの力で全部を縛ろうとするものですよ。ほら、こんな風に」
フィラーの胸部に宿る宝石。星塊の放つ輝きが一段と眩さを増したかと思うと、その周辺を闊歩していた影の怪物たちの動きが止まる。それは星の明るい光に当てられ、その体を縮こませているようにも見えた。
【星の我儘(グラビティ)】。星は己の引力で全てを引き寄せ、全てに重力を与える。其れは影の怪物も、喪失していくこの街の運命も引き寄せたのかもしれない。
「やるじゃないかフィラー。私もきちんと仕事はしないとだな」
動きの止まった怪物たちの隙間を軽々とすり抜けていくアルメルはこの狂乱に包まれた状況下でも助けを求める悲痛な叫びを聞き逃しはしなかった。逃げ遅れた人々を見つけるとすぐに避難誘導を開始する。
「さぁ、こっちだ、私たちが奴らを足止めする。その間にできるだけここから離れるんだ」
「ありがとう……ああっ!!」
民間人の驚愕の表情と声、背後から感じる悍ましい気配にアルメルは振り返る。そこには巨大な影がアルメルを見下ろすように立っており、その空虚な顔からはじわりと神経毒の作用がある涙のようにも見える液体が噴出している。だが、それも予想済みだ。
アルメルは怯むことなく冷静に投擲用レーザーブレードを怪物の頭部に命中させ消し飛ばす。
「残念だけどこういうのには慣れているんだ。しかし――」
アルメルが周囲を見渡す。視界には民間人に激励の声を掛けながら怪物たちを打ち倒していくクゥーカと民間人を賢明に運ぶ彼女の絡繰り人形たち。星塊のエネルギーを利用し、槍や剣を形成しながら怪物たちを牽制するフィラーの姿が見える。また、それと同時に何人かの身動きが出来ない民間人の姿も捉える事ができた。その表情は恐怖に沈み、体は激しく震えている。
「手段を選んでる場合じゃないか……」
「生憎私は警察ではないのでね。手錠より、少々手荒になってしまう」
民間人の退避を優先すべく彼女が手錠を掲げると、その手錠から稲妻の鎖が射出される。【鎖錠捕縛(オルタナ・カリギュラ)】。対象の行動を操るユーベルコードだ。それが命中した民間人は、先ほどまで蹲って動けなかったのが嘘かのように平然と立ち上がる。すると一目散にその場から逃げ出した。
「な、なんだこれは……!? 体が勝手に……!?」
「手荒ですまないな。だが諦める時ではない。希望はここにあるとも」
「あれ? 民間人救助ですかアルメルさん。てっきり雑に敵を吹っ飛ばしてると思ってたんですが。ああ、もしかして吹っ飛ばすにも民間人が居て危なすぎるからですか?」
逃げる民間人を追う怪物を1体、また1体と撃ち抜き、骸の海へと返しながらフィラーはすまし顔で言う。彼女の星塊は未だに数多くの怪物たちを地面に縫い付けていた。
「ま、そんな所かな……しかし……」
そんな軽口を叩き合っていた2人の周囲を突然湧き出したかのように出現した怪物たちが囲む。猟兵と言えど、流石にこの数に囲まれては分が悪い。さて、どうしたものかと2人が思考を巡らせる。
「民間人の大方の避難は終わったぞ! アルメル、フィラー! 待たせたな!」
クゥーカの鈴が鳴るような凛とした声が響き渡る。――それと同時にアルメルとフィラーを取り囲んでいた怪物の群れが崩れ落ちるように霧散し、空間に溶け込むように消失した。2人が其処に視線を向けると美しいミレナリィドールが存在した。その人物こそクゥーカ・ヴィーシニャその人だ。彼女の手には絡繰剣「チュード」が握られており、その周囲には数多の絡繰り人形が並んでいる。まさに奇跡と呼ぶに相応しいタイミングで2人との合流を成したのだ。
「私も今しがた来たところさ。じゃあ残りを片付けてしまおう」
「はい、さっさと終わりにしてしまいましょう」
クゥーカの言葉を受けてアルメルとフィラーは攻勢を強める。憂慮すべき問題が無くなった今、もはや怪物に彼女たちを止める術など無い。終幕まで残り僅か――それは明白だ。
「ア゛ア゛ア゛ア゛……」
悪あがきか、それとも1人でも多く道連れにしたいのか、怪物は逃げていく民間人を追い始める。しかし、そのような蛮行をクゥーカが見逃す筈など到底ありえない。彼女はその行方を阻むようにその身を呈して怪物の進行をくい止めた。
「手出しはさせんぞ! お前らの相手はこの俺だ!」
クゥーカは怪物の攻撃を受け流すと流れるような動作で剣を振り払い怪物を切り伏せる。その怪物の残骸が霧散するとその残骸を払い除けるようにして新手の怪物が彼女へと迫りくるが、彼女は意にも介さずに帰す刃で剣を返し怪物を両断する。そんな彼女の背後にもう1体の怪物の攻撃が迫るもクゥーカは静かに体を反転させその攻撃を受け止めた。彼女を包む神秘の守りが怪物の攻撃を相殺したのだ。その瞬間、いつの間にか怪物の懐に迫っていた桜花によって怪物は切り刻まれる。
「お見事! 流石、姉様だ!」
歓喜の声を上げるクゥーカの元にアルメルとフィラーが近寄ってくる。
「大方、終わったようだね」
「ああ、みんなのお陰で犠牲を抑えられた。しかし、今回の事件の大本はまだ姿を見せてないみたいだな」
「ここからもう一踏ん張り……って事ですかね。ええ、もちろん頑張らせて頂きますとも」
人々は逃げ去った――怪物は消え去った――全てが消失したがらんどうの街――
3人はこの地に漂う只ならぬ気配を感じ取り、背中合わせで周囲を警戒する。
――そんな猟兵たちを見て、呟く男の影1つ
「あゝ残念だ。愈々持って終わりとしよう」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『忘却者』セレスタイト』
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POW : 過去の忘却
【自身を満たす無限の空虚】を籠めた【、記憶を奪う、一切の無駄のない完璧な打撃】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【一番大事にしている思い出】のみを攻撃する。
SPD : 未来の閉塞
全身を【攻撃者の希望を自身の内の空虚に喰わせる姿】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ : 存在の喪失
【自身を満たす無限の空虚】から【無数の、対象の思い出や対象が描く未来の姿】を放ち、【それらが取り憑き凄惨な幻覚を伴う自爆】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:シェル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「アルトリウス・セレスタイト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちの迅速な行動により既に大半の住民は避難を終え、影の怪物も掃討された。残るは出現が予知されていた強力なUDCのみだ。
『『忘却者』セレスタイト』
――何処に在る。――否、何処にも在ない。――そんな者は最初から存在しなかったのではないか。
緊張を残しつつもこの街からは危機感が消失しつつある。訪れた静寂の中、住民の避難が終わっていない地区での退避行動が行われている。立ち昇っていた黒煙は鳴りを潜め、陽は既に傾き始めて街を橙色に染めていく。
――亀裂。その静寂に亀裂が奔る。街全体が悍ましい寒々とした感覚に支配される。
――私は誰だ。――俺は誰だ。――僕は誰だ。
――――キミは一体、誰だ――――
白衣を纏った其の男は猟兵たちを唯々、虚ろな瞳で見つめた。
「もう全てが手遅れだ。さぁ、終わりにしよう」
川船・京香
◎
(持ってきてたスナックバーを口にして、体力を回復する)《エネルギー充填、落ち着き》
よし、体力全快っと
……で、え〜と、全てが手遅れで終わり? う〜ん、一体全体、何が手遅れかは知らないけど
ーー終わるのは貴方だけだよ
先ずは私とUDCを囲むように魔法で水の壁を作る
私の一人の魔力だと無理だけど、この街の地下パイプに流れてる水も使えば何とか出きる筈《地形の利用》
これで街の人達も少しは落ち着けるかな〜?
さて、それじゃ更に落ち着いて貰う為にも、ーー迷惑なお客様には退出して貰いますか
大鎌を構えて、接近。攻撃しながら水まみれの地面を利用して魔法で相手の足を凍らせて、身動きが取れない所にUCを食らわす《氷結攻撃》
束の間の平穏を破る新たなる脅威。川船・京香(境界線の○○・f39710)はその元凶と対峙していた。
唯、静かに、そして孤独に白衣を纏った男……『『忘却者』セレスタイト』がこちらを向いて立っている。男の虚ろな瞳は京香の姿を捉えている。しかし、誰の姿も見ていない。その薄気味悪さに京香はなんとも言えぬ寒気を感じ、じわりと僅かに冷や汗を滲ませた。
(一体なんなんだろう……)
京香は、未だ何の行動も起こさない目の前の脅威から目を離さないまま、携帯していたスナックバーを取り出すと、それを嚙み砕いて咀嚼する。ふと、体が軽くなり体に纏わりついていた緊張感が僅かに解れる。直前の戦闘で溜まっていた疲労を回復させる事が出来た京香はセレスタイトに力強い視線を向ける。
「……で、え〜と、全てが手遅れで終わり? う〜ん、一体全体、何が手遅れかは知らないけど……」
大鎌を握る拳に力が入る。――瞬間、京香の全身を魔力が駆け巡った。
「ーー終わるのは貴方だけだよ」
その言葉と同時に京香は身を屈め、己の手のひらを足元の地面へと触れると同時に地面に向けて魔力を注ぎ込む。
京香は周辺にまだ民間人が残っている事に気が付いていた。このままセレスタイトとの戦闘が始まれば民間人たちが彼の狂気に晒されるのは目に見えている。彼女は民間人たちを護る為、セレスタイトと民間人を分断する事にした。
地面に巡らされた魔力は大気中の水分を凝結させ、京香を中心に円形状に氷を張り巡らせ一面を白く染め上げた。円の外周には氷壁が盛り上がり完全に壁外との関係を断ち切った。これほどの氷を成すには京香1人の魔力では不可能であっただろう。しかし、彼女は街の構造上、地下に大量の水が引かれている事を知っていた。彼女はその水を利用する事によってこの大技を成し遂げたのだ。
「これで街の人も落ち着けるかな~?」
京香は満足そうに周りを見回し、そして再びセレスタイトに向き直る。
「あゝ見事。然し――凡ては無駄だ。安息など最早、永遠に消失した。何をしようと凡ては消える。――お前のその行動もいつか忘れ去られる」
「ああ、そうですか。さて、それじゃ更に落ち着いて貰う為にも」
セレスタイトの言葉が終わると同時に距離を詰めた京香の振り上げた大鎌は既にその軌道上にセレスタイトを捉えている。
「ーー迷惑なお客様には退出して貰いますか」
【大鎌】境界線は青い曲線を描き風を切る。セレスタイトの体をその刃で引き裂く――瞬間、セレスタイトは寸前の所で後ろに飛び退き京香の攻撃を交わした。しかし、京香はセレスタイトのその動きを見逃さない。彼の足が地面に接した瞬間にその足に氷が纏わり付いた。辺り一面は既に氷塗れだ。京香はセレスタイトの回避に反応して瞬時に魔力を展開し、その着地点の氷を活性化させたのだ。
「――小癪な。――無駄だと言うのに」
氷に足を取られたセレスタイトの足が鈍る、しかし其れは刹那。氷はひび割れ砕け散る。
――十分だ。その一瞬の隙は京香にとってそれだけで十分だった。
「本当に無駄かどうか……たっぷり味合わせてあげる!」
その僅かな隙に京香はセレスタイトの懐へと潜り込み、其の大鎌の斬撃を放つ。
「こちら本日のフルコースになりま〜す。ご堪能していってくださいね〜?」
横に薙ぎ払われた青き刃がセレスタイトの体を捉えると、その勢いを殺さずに体を回転させ弧を描きながら刃を掬い上げ、彼の体を逆袈裟に切り裂いた。
「――煩わしい」
其の連撃に思わず怯んだセレスタイトは虚ろな瞳で京香を見る。その瞳に映ったのは大鎌を己の頭上高くに振り上げる姿だった。
「てりゃー!」
重く強烈な一撃がセレスタイトに振り下ろされる。その刃は自身の体を守った彼の左腕に深く食い込んだ。セレスタイトの虚ろな瞳に底知れない空虚が宿る。彼はその腕を振り払うと京香に向けて残酷なまでに精巧な打撃を打ち込んだ。
京香はとっさに体を捻り、更に大鎌でその打撃を滑らすように受け流す事で打撃を回避した。
――思考にノイズが奔る。――■■は誰だ?――私は。
京香の思考に一瞬だけノイズが掛かるがそれだけだった。既に其れは何事も無かったかのように消え去っている。【忘却者】の記憶を喪失させる技、直撃していれば無事では済まなかっただろう。しかし京香はそれから逃れる事に成功した。
「おっとっと……危ないなぁ~……だけど!」
京香の構えた大鎌が淡い光を帯びる。【フルコース】の条件が整ったのだ。なれば後は最後の品を客に届けるだけ。セレスタイトの懐に再度飛び込んだ彼女の|【メインディッシュ】《浄化の一撃》がセレスタイトの体に叩きこまれた。
「お味の方は如何かな?」
セレスタイトに向けて京香はニッコリと笑う。
――■■。――■■。――■■。
「――――――あゝ、効いたよ」
成功
🔵🔵🔴
尾守・夜野
◎
ようやくのお出ましかな?
引き続き犬達には一般人を遠ざけて貰うよ
虚無であるならば一時の感情とて穴埋めはできるだろ?
…同じ所まで堕ちるといいさ
…僕らが何か?あぁそれが?
無だから何?僕らが誰であれ生き延びてしまった事にかわり無し
忘れられるから何?俺等が覚えてるそれが真実だろ?
俺等が忘れたら?
そりゃそこまで
無駄?ぎゃははは!そいつぁ傑作だ!
まさかとは思うが意味のある事が世の中にあるとでも?
そんな希望を持ってるたぁ破壊しがいがあんじゃねぇの!
僕ら交代しつつ口撃を浴びせる
(武装:ネガティブオーラ)
思い出が消える?元よりあの日以降の記憶は温度なき記録のみ
あの日以前の記憶が薄れれば切れて
Nagelで射撃
茜が差し込む街の中。【忘却者】は依然として虚ろな眼差しをこちらに向けている。尾守・夜野(墓守・f05352)の黒妖犬たちが民間人を追い立て遠ざけようともセレスタイトに動く気配は無い。
「漸くお出ましかな? 随分と遅い到着だったね」
夜野はセレスタイトに吐き捨てるように呟くが、セレスタイトに反応は無い。唯々、虚ろな目を夜野に向けるだけだ。そんな彼に対して少しづつ、ゆっくりと夜野は歩み寄っていく。
――虚ろ同士。厭、違う。――全てを喪失した同情か?――ありえない。
「あゝ何をしようと無駄だ。お前が何をしようと――俺が何もしなくても――」
「そんな事、僕が知った事か。――お前の虚無だのなんだのに興味なんかありもしない。本当に虚無だと言うのなら、僕がその隙間を一時の感情で埋めてやる」
近づいてくる夜野の様子の変化にセレスタイトは静かに構える。風が凪ぎ、音が凪ぎ、時が凪ぐ――様に思われたその瞬間には黒剣【怨剣村斬丸】をその手に握る夜野は彼の間際に迫っていた。
「……同じ所まで堕ちるといいさ」
呪詛が滲むその剣を振り払えばセレスタイトはその身を退け寸前で避ける。そんな事はお構いなしに右へ左へ、下から上へ、次から次へと夜野は剣を振るっていく。
「可笑しな話だ。お前も――厭、君も凡て喪失したのだろう?――なら理解できる筈だ」
「僕たちが何か? 全てを失ったから? あぁそれが?」
風を切る音が木霊する。そんな苛烈な剣戟をセレスタイトは的確な体裁きで凌いでいく。しかし、その全てを躱し切る事は出来ずに確実にその体に傷を増やしていく。しかし、彼の虚ろな瞳にはまだ何も映らない。
「君にも――お前にも何も無い。喪失に抗う意味など元々存在しない」
「何もない? だから何? 僕らが誰であれ生き延びた事に変わりなし」
剣だけでは無い。夜野の――彼らの核となる衝動すら形を持った殺意としてセレスタイトに襲い掛かる。鈍く燃えるような斜陽が2人の影を酷く鮮明に映し出した。
「忘れられるから何? 俺等が覚えてるそれが真実だろ? 俺等が忘れたら? そりゃそこまでだ」
夜野の口調が、雰囲気が、衝動が移り行く。秘めたその感情を吐き出すかのように口撃をセレスタイトに浴びせていく。
「己の凡ては遥か過去に失われた――言っただろう? もう手遅れだと。お前の行動は無駄だ。凡てのものが行き着く先は喪失だ。俺も、私も、お前も、君もいつかは忘却の底に沈む」
「無駄? ぎゃははは! そいつぁ傑作だ! まさかとは思うが意味のある事が世の中にあるとでも? そんな希望を持ってるたぁ破壊しがいがあんじゃねぇの! なら失う前に私が壊してあげる! だっていつかは無くなるのでしょう? だったら壊しちゃってもいいわよね? 分かり切っている事さ、価値あるものなんてありもしない事は。――だから面倒だが、片付けてしまおう」
夜野の人格が次々と切り替わってはその度に攻撃の苛烈さは増していく。その刃が、衝動がセレスタイトに確実に傷を与えていく。今なお、夜野の攻撃を受け止めているセレスタイトだが確実に、着実に、少しづつだがジリジリと後退していく。退く事すら叶えまいと夜野の攻勢は止まらない。
「そらそらそら!あはは!誰をみてるのかしら!」
夜野、否、彼らの連撃はついにセレスタイトの防御を崩し、その体を宙に浮かせた。こうなればこちらのものだ。無防備となったセレスタイトの体に【怨剣村斬丸】が喰らい付く。
――■■。――■■。――■■。
アレはなんだ。セレスタイトの体にノイズが走り。その姿が変わる。アレは――。
姿を変えたセレスタイトのその姿は夜野の記憶に漣を立てる。記憶にない姿――しかし、どこか懐かしい姿。知らない筈なのに確かに知っている。どこまでも矛盾を孕んだ姿だ。
そんな思考を巡らせればふと夜野に1つの仮説が過る。大切な思い出の消失。元よりあの日から夜野にあるのは温度など無い、温もりを失った記録だけ。然し――然し、もしあの日、以前の記憶に瑕が付くのなら――。
「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ! お前に手は出させない!」
夜野が射殺す程の殺意をセレスタイトに向ければそこにはあの日の面影など既に消え、セレスタイト本来の姿が唯、立っていた。
「問答は止めだ――全てが終わると言うのなら、僕がお前を終わらせる」
Nagelから銃声が響き渡れば、セレスタイトの体に激しい衝撃が叩きこまれる。忘れ難き痛みを受けた【忘却者】はゆらりと揺らめき、夜野を見る。
――■憶。――痛■。――■■。
「――望む所だ猟兵よ。――終わらせてくれ」
成功
🔵🔵🔴
アルメル・リルバーン
◎【奇縁】
終わりかもしれない。手遅れかもしれない。だが、私は諦めるのが苦手でね。足掻かせてもらおう。
引き続き民間人の誘導をさせてもらおう。見ただけで発狂するというならば、見なければ問題ない、という事だ。背後を振り返らずに、私の方に逃げてきてくれ。攻撃は私が何とかするとも。
…【推理破棄・捜査壊始】。私には全てが遅く見える。[カウンター]と[受け流し]で民間人を守り抜こう。
過去を失うことに恐怖はないとも。私は元々ソレを持っていないのでね。
クゥーカ・ヴィーシニャ
◎【奇縁】
手遅れかどうかは俺が決める。俺たちが諦めない限り手遅れにはさせやしないさ。
絡繰り人形はそう簡単には倒れないのさ。【天使憑依:絡繰】で果敢に攻めるぞ。
対象を拘束し民間人がいるところには行かせない。これ以上被害を出してたまるか。それに動きを封じればアルメルやフィラーも行動しやすいだろう。
相手の攻撃には<オーラ防御>や<生命力吸収>、UCの回復で乗り切る。どんな攻撃が来ようともここで立ち止まるわけにはいかないからな。
俺は俺、姉様と共に人々を守る猟兵だ。そのためにもお前にはここで朽ち果ててもらうぞ。
フィラー・ホロ
【奇縁】◎
月が出るには……まだ早いみたいですね。手遅れどころか私個人としては早すぎなくらい。あちらも時間のことを言っているわけではないのでしょうが
余計なことを考えていないで行動を開始しましょう。日が陰る時刻ですが、私の光で少しでも皆さんを照らせるよう助力します。
【W.F.A】をアルメルさんに与えます。忘却者が視界に依存した存在かは未知数ですが、通用するなら避難する人たちを追うことは困難になるはずです。
そうでなくとも戦いの下支えになることですし、ね
あとは『エネルギー充填』を行いながら避難の手助けします。攻撃は隙があれば充填したエネルギーを放つ程度でいいでしょう。
できるだけ狙われたくないことですし
陽は傾き、もうすぐ夜が訪れる。【忘却者】セレスタイトの瞳は3人の猟兵の姿を見据えている。喪失は――忘却は抗えない理だと言うのに、今もなお猟兵たちは抗う事を止めない。
「――世界の流れは止められん。いくら足掻いてもいつかは凡て忘れられ、消えゆく。この世界は始めから手遅れだ」
「ああ、そうかもな。終わりかもしれない。手遅れかもしれない。だが、私は諦めるのが苦手でね。足掻かせてもらおう」
アルメル・リルバーン(義手傭兵・f39500)は静かに淡々とセレスタイトの言葉に抗う。諦める気など端から無い。依頼を完遂するのみだ。
「そうだ。手遅れかどうかは俺が決める、俺たちが諦めない限り手遅れにさせないさ。絡繰り人形はそう簡単には倒れないさ」
その蒼い宝石のような瞳に決意を滾らせ、クゥーカ・ヴィーシニャ(絡繰り人形・f19616)はセレスタイトに立ち向かう。その手からは決して取り溢す事は無い。必ず人々を守り抜く。その使命は忘れない。
そんな2人の傍らでフィラー・ホロ(月の燐光(またの名を可動式電球)・f39511)は茜空を見つめていた。
「月が出るには……まだ早いみたいですね。手遅れどころか個人としては早すぎるくらい」
空を見つめたままに静かに告げる。その言葉はこの狂気の戦場では明白に浮いているような、なんだか優しく。暖かみを含んでいるように思えた。
そんなフィラーをセレスタイトは虚ろな眼で――いや、どこか悔しさが含まれているような眼で睨んでいるようだった。
「あちらも時間の事を言っている訳ではないと思いますが――そうですね、余計な事を考えていないで行動を開始しましょうか」
フィラーのその言葉にクゥーカとアルメルは頷き答える。
「そうだな。奴の凶行を止める。みんなを救うぞ!」
「同意だ。迅速に行動しよう」
それぞれの役目を果たす為に3人の猟兵たちは行動を開始する。セレスタイトもそれに伴い動き出した。
――世界は加速する。――世界は循環する。――世界は喪失する。
「認めぬのならそれで良い。俺が凡て忘れさせてやろう」
セレスタイトが告げると、彼を満たしていた空虚――其れが爆発的に膨れ上がった。かと思えば音も無く炸裂し数多の光弾となり、夜空を駆ける流星群の様に降り注ぐ其れは謂わば記憶の断片。かつて人が夢見た形を成して、無差別に周囲の人間に襲い掛かった。
「こっちだ! 私の方へ逃げて来てくれ! 決して後ろは振り返らずに走れ! 案ずる必要はないさ。攻撃は全て私がなんとかするとも」
悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴で埋めつくされた街にアルメルの声が響き渡る。さもすれば人々は彼女に縋るように駆け出した。背中越しでも理解できる――出来てしまう這い寄る狂気。振り返りたく無くとも思わず振り返ってしまいそうになるが彼らはその身に残ったなけなしの勇気をふり絞り走った。アルメルの掛けた声、それは彼らにとってかけがえのない希望となっていた。
しかし、そんな彼らの希望をいとも簡単に吹き消すように、もはや逃れようもない数の光弾が人々に襲い掛かる。アルメルがそんな彼らを守るべく立ち塞がるように飛び出すが、この数を1人で凌ぐのは到底不可能だろう。
――しかし。
「日が陰って来ましたね。――ですが安心して下さい。私の光が皆さんを照らします」
フィラーの淡々とした声が人々の元へ届く。一体、何をするつもりか……誰もがそんな事を脳裏に思い浮かべたその刹那、周囲がどこか暖かい、白い光に照らされる。
「白。閃光。装光……この煌めきが貴方を守ります!」
|【W.F.A】《ホワイト・フラッシュ・アーマー》――その光は人々を護る為、その身を呈して攻撃に晒されようとするアルメルの体を包み込んだ。己の体に力が漲っていくのを感じたアルメルは飛来する流星群をその瞳で見据える。
「助かるぞ! フィラー!」
澄ました顔でグッとサムズアップするフィラー。そんな彼女の視線を受けながらアルメルは告げる。
「|【推理破棄・捜査壊始】《スイッチ・オン》……さぁ、切り替えていこうか」
アルメルの反射神経が研ぎ澄まされ、体が軽くなる。目の前に迫る流星群は、彼女にとって酷く緩やかに見えた。自身に迫る光弾をレーザーブレードを滑らすように受け流し地面に叩きつける。瞬時にアルメルが後ろに飛び退くと、先ほどまでアルメルが居た場所に複数の光弾が雪崩れ込んだ。しかし、まだ息を付く暇など無い。次から次へと襲い掛かってくる光弾、その全てをアルメルはその身1つで次々と打ち消していく。
彼女がその攻撃を撃ち漏らせば背後の人々に危険が及ぶ。それだけは絶対に阻止しなければ……そんな思考を巡らせているとふいに思考が曇るような奇妙な感覚に襲われる。それは少しづつ、ほんの僅かに蓄積した忘却者の呪いにも等しい技。当たり前だった事が消失する。記憶が喪失するなどそんな体験をすれば自然と恐怖し体も鈍る。そうなれば容赦なく降り注ぐ光弾の餌食になるのは避けられない。それを理解しているかのように光弾はアルメルの体に肉薄した。
「私が恐怖したと思ったかい? しかし恐怖などしないとも。――最初から私はソレを持っていないのだから」
彼女は不敵に口角を上げ、迫りくる光弾を両断してみせた。
そんな攻防を視界に留めながら、セレスタイトは苦々しく目を細めた。その理由はセレスタイト自身にも分からない。然し、その事自体には特に感慨など無かった。
「……煩わしい。――次で終らせてやろう」
セレスタイトの体に満ちていた空虚が再び膨張する。いよいよ持ってこの戦いに終止符を打たんとする其れは――麗しきクゥーカによって阻まれる。
「我が天使よ。俺に力を与え給え。さあ、神罰の時間だ」
彼女が信仰する天使。その姿をその身に写したクゥーカがセレスタイトの目前に飛び出すと、彼女の操る糸がセレスタイトの四肢を絡めとる。セレスタイトの動きが阻害された事により、アルメルたちへの攻勢が弱まり、その隙をついて民間人の避難を進める事が出来た。
「今だ。出来るだけ遠くへ!」
「援護します。後ろの事は気にせずに」
軽業師のような身のこなしで攻撃を捌くアルメルの周囲に飛来する光弾を、攻撃とチャージを両立させ連射力を強化したフィラーが次々と撃ち落としていく。
「――そうか。諦める気はないか」
ただ見られただけで心が壊れてしまうのではないか。そう錯覚するほどの視線をクゥーカに向け、セレスタイトは忽然とその腕を振り払う。ブチブチと音を立ててクゥーカの糸は引きちぎられていく。
「当然だ! これ以上の被害は出させん!」
クゥーカは剣を握り果敢にセレスタイトへ立ち向かうと彼は言葉も無く、ただ真っ直ぐと彼女を見据え構える。
クゥーカの刃が三日月の弧を描くようにセレスタイトへ迫れば、彼は僅かに体を反らして躱すと、すかさずクゥーカに掌底を打ち込んだ。
――鋭い痛み。――思考が塗り潰される感覚。
だが、動ける。彼女は一撃を食らうその直前に身を引いて威力を殺す事に成功していた。全てのダメージを無効化出来た訳ではないが十分だ。クゥーカが纏う神秘のオーラがその身体を癒していく。
「例え記憶を失おうと俺は俺、姉さまと共に人々を守る猟兵だ。その為にも――お前にはここで朽ち果ててもらうぞ」
どんな攻撃を受けようと、例え記憶すら犠牲にしても彼女の意思は決して折れない。轟音を響かせ放たれたセレスタイトの回し蹴りを上体を逸らして避け、続けて迫りくる音すら置き去りにする手刀をその瞳で捉え、身体を翻して華麗にいなす。その際に招じたセレスタイトの隙――それは僅か1秒にも満たないだろう。しかしクゥーカはそれを見逃さなかった。
絡繰剣「チュード」が描く軌道は奇跡の名に相応しく鮮やかにセレスタイトの体を引き裂き、それと同時に飛翔したレーザーブレードと銃撃が彼の体を貫いた。
民間人の避難を終えたアルメルとフィラーがクゥーカの隣に並び立つ。まるで大きな希望の光を背負うかのようにその背後を鮮やかな夕日に照らされる中、クゥーカはその剣を、後方に飛び退き、地面に片膝を付けたセレスタイトに向けて突き出した。
「これが俺の……俺たちの覚悟だ。その空っぽな心に刻んだか?」
――■■。――■快。――愉快。
ゆっくりと立ち上がったセレスタイト。彼の口元はなんだか笑っているようにも見えた。
「――忘却。――喪失。――しかしそうか。――あゝそうだったのか」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
夜刀神・鏡介
◎○
確かにこの事件で多くのものが奪われ、失われたかもしれない
だが、終わってはいないし終わらせはしない。その為に俺達がいるんだから
変わらず神刀を手に、澪式・捌の型【炎舞】の構えで敵と相対
なるほど、確かに奴の動きは鋭い。ある種、武の極致と言ってもよいかもしれない……が、完璧すぎるが故に動きは読みやすい
動きを先読みし、攻撃を刀で受け流してから反撃。基本に忠実に、確実に対処していこう
俺の思い出も、或いは他の誰かのそれも。お前にくれてやるほど安くない
……先程は「武の極致」なんて言ったが、やはり否定させてもらおう
仮にも積み重ねてきた身だ。空虚でしかないお前がそうだと認めるのは業腹だからな
何が起きようとも、誰が何をしようとも、世界は決して止まらない。その真実を象徴するかのように茜空の地平線から夜が顔を覗かせている。世界を蝕む喪失――それはこの世界にとって約束された運命だったのかもしれない。しかし、そんな運命を変える為に彼らはここに存在した。
セレスタイトはもはや何も語る必要は無いとただ静かに構える。世界を穿つ空虚、そのような存在であるセレスタイトと対峙して夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)はその刀を握る拳に力を籠める。
「確かにこの事件で多くのものが奪われ、失われたかもしれない。だが、終わってはいないし終わらせはしない」
鏡介は損壊した街の風景や、傷ついた人々――それらから決して目を逸らさない。彼1人の手だけではきっと届かない物もあるだろう。避けられない悲劇もあるだろう。しかし、其れは決して鏡介が諦める理由にはならない。出来る事はまだある。己に課せられた使命を果たさんとその心は熱く滾っていた。
「――その為に俺達がいるんだ」
鏡介は確固たる意志を持って、|澪式・捌の型【炎舞】《レイシキ・ハチノカタ・エンブ》の構えでセレスタイトを迎え撃つ。セレスタイトはそんな鏡介に答えるかのように、地面を抉る程の瞬発力を以てして飛び出した。
「――ならば、やってみろ」
その勢いのままに腰を溜め、更なる加速と共にセレスタイトが打ち出した掌底を刀の側面でその威力を殺すように受け流し、続けて迫る強烈な蹴りを返す刃で弾く。攻撃を躱したにも関らず凄まじい衝撃が鏡介の体に伝わった。恐ろしく正確で鋭い一撃だ。
「なるほど……見事だな。その鋭い一撃、武の極致とも言ってもよいかもしれない」
鏡介は思わず感嘆する。常日頃、鍛錬を積み重ね、己の技を磨く彼だからこそ理解できた。セレスタイト――彼の其の技が完璧なまでに洗練されている事に。
「完璧だな。完璧過ぎる――故に読みやすい!」
正確無比に繰り出されるセレスタイトの連撃。其れは1つの狂いも無く鏡介に打ち込まれる。確実に急所に迫る攻撃、それを理解しているからこそ鏡介もその全てを完璧に防いでいく。ある意味では、其れは達人同士の信頼とも呼べるものだったのかもしれない。
「――防ぐだけではどうにもならん」
「もちろん。分かっているさ」
喉元を抉らんとする手刀の一撃を刀身で受け、その衝撃を流すべく体を回転させた鏡介はセレスタイトのその一撃の威力を利用し、そのままの勢いを刀に乗せて横一文字に切り払う。咄嗟に身を屈めそれを避けるセレスタイトに鏡介は強烈な兜割りを叩きこむが、セレスタイトは寸前で横っ飛びに体を転がし回避した。
鏡介とセレスタイトはお互いに再び構え直し、相対する。
――静寂。
鏡介とセレスタイトは同時にお互いに向かって駆ける。繰り出される掌底を鏡介が刀でいなすと、セレスタイトに向かって風切り音と共に鋭い斬撃がセレスタイトに迫る。其れを避けたセレスタイトがそのまま回し蹴りを繰り出せば鏡介が其れを弾く。完璧で流れるような――演舞と呼ぶには、激しすぎる攻防が繰り広げられていた。
攻防が暫く続くと、鏡介は異変に気が付く。――何かがおかしい。――何か忘れているような。
其れは一種の呪いだ。セレスタイトの逃れえぬ狂気。それは確かに少しづつ鏡介を蝕んでいた。鏡介は確信する、このまま戦闘が長引けばこの忘却の呪いは更に進行する。――使命。――出会い。かけがえの無い思い出が消えてしまう事を。
ならば道は1つ――此処で勝負を決することだ。
「……忘却。それがどうした。俺の思い出も、或いは他の誰かのそれも。お前にくれてやるほど安くない」
この惨劇に終止符を。鏡介は煌めく刃に秘めたる想いを乗せ刀を振るう。響き渡るは剣戟の音色。両者の攻防は永遠に続くかのようにも思われたが、やがてその均衡は崩れる事となった。僅か、ほんの僅かな隙。それがセレスタイトに生まれた。
多くの経験を――思い出を積み重ねて来た鏡介。全てを忘れ――喪失したセレスタイト。その差は余りにも致命的過ぎた。
「……先程は「武の極致」なんて言ったが、やはり否定させてもらおう。仮にも積み重ねてきた身だ。空虚でしかないお前がそうだと認めるのは業腹だからな」
蒼炎の軌跡。虚無の拳。それらが交差する。――決着は一瞬だった。
「――私は。――俺は……あゝ、そうか――」
【忘却者】セレスタイト。凡てを忘れ、世界から忘れ去られた男。彼は最初から世界の興亡に興味など無かった。凡てを失った男は唯、其処に存在しただけだった。全てはオブリビオンという存在の性質から起きた事象。其処にセレスタイトの意思など皆無だった。――だがしかし、完全なる虚無である筈のセレスタイト。その最後、その瞬間だけは虚無では無い、別の何かが彼を満たしていたのかもしれない。
斃れ、地に伏せ、消滅していくセレスタイトを前に、鏡介はその刀の露を払い鞘へと納める。空を見上げれば、薄暗い天蓋にいくつかの星が瞬き始めている。朝が訪れればやがて夜が来る。始まればいつかは終わる。ならばその逆もまた然り。1つの物語の終わりは新たな物語の始まりだ。夜はやがて明けてまた朝がやってくる。またあの|青空《セレスタイト》がやってくるのだ。
「いつか終わりが来るとしても俺は俺の使命の為、この刃を振るい続ける。また世界に仇をなすというのであれば――」
「また、俺が相手になってやる」
護り抜いた未来への道。その道の先へと向かう為、いつか辿り着く為に鏡介はその歩みを止める事はない。
成功
🔵🔵🔴
第3章 日常
『夜桜星見見物』
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POW : 花より団子、食べて飲むぞー
SPD : 辺りを散策
WIZ : 暖かい飲み物等を用意してのんびり
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
街の喪失を防ぐ猟兵たちの戦いは幕を閉じた。街には決して浅いとは言えない傷跡が残ったが、それらは全てUDC組織により【大規模な事故】として処理をされるだろう。戦場となった区域は一時封鎖され、巻き込まれた一般人たちは秘密保持の為に同区域に隔離され、UDC組織による記憶処置を施される事になる。
街はすっかり荒れてはしまったものの、落ち着いた静けさを取り戻し夜空には勝利を祝福するように星々が瞬いている。
被害が殆ど無かった場所では満開の桜が、煌めく星々と月明かりに映し出されそよ風に揺られている。近くを流れる小川のせせらぎが安らぎのBGMとなり幻想的な雰囲気を演出していた。此処で猟兵たちは組織の補佐として人々のケア、もしくはその疲れた体を癒す為にこの景色の中を散策するなど、それぞれが自由にこのゆったりと流れる時間を過ごす事になるだろう。
瑞月・苺々子
【星縁】
あ!みて、レイラ
ここも桜が咲いてるの
えへへ、どこの世界でみても桜はキレイだね
見上げる夜の桜とお星さまたちはとってもステキ
でも、ももよりもレイラの方が魅入ってるみたい
キレイな景色だもんね
うーん
ももにはよくわからないけど
「エモい」ってこと?
レイラが寂しい気持ちにならないように
落ちてる桜を拾って集めて
小さなブーケみたいにして差し出せば
……いらないの?
そっか
じゃあこれは、お留守番してる|妹《ミーシャ》へお土産にするね!
歩いたら何だかお腹空いちゃった
UDCアースに来たら食べたいものあったの!
もちもちした桜のドーナツ!
思い出は心にしまうだけじゃなくて
お腹にしまっても良いもんね
レイラ・ピスキウム
【星縁】
"小さな姉"に夜桜が見たいと誘われてきたけれど
丁度花盛りの頃で良かった
月明りと花明かりが一緒に拝めるのは運が良かったかな
桜花爛漫のその様に燥いで駆け出す姉を注視しては声をかける
苺々子さん、転ばないようにね
深くは語らないけれど
『桜』は僕にとって大事な花だから
つい郷愁に駆られるのかも
はは、僕より苺々子さんの方が物知りみたい
小さな掌いっぱいに集められた桜のミニブーケ
受け取ってあげたい気持ちを堪えて
首を横に振る
気持ちは嬉しいですけどね
"思い出"はもう心にしまっておくだけで十分なんだ
あはは
折角の期間限定ものだからね
味わって楽しめる思い出ならいくらでも付き合いますよ
さざ波一つも無く、夜の静寂に沈んだ空に銀砂を散りばめたような星が煌めいている。そんな星空に凛として佇む月は仄かに薄青い光で地表を照らしている。川のせせらぎ、梢の擦れる音、夜鳥の囀り。それらを運ぶ風に吹かれて桜花の花弁が舞えば、月光を浴びて宝石箱をひっくり返したかのようにキラキラと輝いて見えた。
――そんな夜道に動く二つの影があった。
「あ!みて、レイラ。ここも桜が咲いてるの。……えへへ、どこの世界でみても桜はキレイだね」
月白の髪に月光が映える子狼。瑞月・苺々子(苺の花詞・f29455)は桜花爛漫の世界に、双眸を輝かせて笑う。まるで夢の中のように鮮やかな、そんな世界の中を駆ける彼女から目を離せば桜吹雪に攫われてしまいそうに思える程に、それは儚く優しい光景だった。そんな"小さな姉"にレイラ・ピスキウム(あの星の名で・f35748)は星の宿る瞳を細めて微咲を零す。
「苺々子さん、転ばないようにね」
レイラは世界を一望する。天蓋には銀砂の星。大地には月光に映し出される玲瓏の桜。まるで星空をアクアリウムに閉じ込めたかのような景色が瞳に映る。
"小さな姉"に夜桜を見たいと誘われてこの場所を訪れたのは偶然だが、丁度花盛りの時期で月明かりと花明かりを同時に拝められたその幸運にレイラは感謝の念を抱いた。
そんなレイラに見守られて苺々子が空を見上げれば、天蓋に散りばめられた星々を彩る桜が愛らしく揺れている。それがなんだか嬉しくて――この気持ちをお裾分けしようと振り返れば、桜花が踊る月夜の舞台でレイラも空を望んでいる。その手の平には桜花の欠片が寝そべっていた。
「ももよりレイラの方が魅入ってるね。でも仕方ないよ、だってこんなにキレイな景色なんだから」
コロコロと鈴が転がるような音色の言葉にレイラはふっと息を吐いて笑う。
「『桜』は僕にとって大事な花だから」
一言。たった一言だけだが、その時にレイラが見せた表情は多くを物語っている。突然、心の中にぽっかりと穴が開いたような――チクリとする小さな痛み。郷愁の想いが心に満ちる。しかしそれらは優しい温かみに包まれて溶けるように消えていく。いつの間にか閉じていた双眸を開けばそこには困ったように眉を下げた苺々子が、レイラの手をぎゅっと握って顔を覗き込ませていた。
「うーん……ももにはよくわからないけど。「エモい」ってこと?」
「――そうかもね。はは、僕より苺々子さんの方が物知りみたいだ」
それはどうもありがとう、と煌めく夜に笑顔が咲いた。そんな彼女は何かを思いついたようにハッとして、弾かれたように桜花の散りばめられた夜を駆け出した。
「レイラ! ちょっとだけ待っててね!」
「うん、それは構いませんけど。暗いから足下には気を付けてね」
「大丈夫だよ。お星さまが明るく照らしてくれてるもの」
桜花爛漫の世界に踊る天真爛漫な彼女を見送りレイラはふっと息を吐く。まだほんの少しだけ残る肌寒さがその吐息を白く彩った。
星が夜道を照らすのならば、きっと彼女は自分を照らす月なのだろう。そんな事を考えていればコツコツと足音を夜に響かせて彼女が戻って来た。その手の中には浅紅のブーケが咲き誇っている。
「そんな寂しい顔しないでね。……ほら、素敵なブーケでしょ? これならきっと、レイラも寂しくないと思うの」
レイラの目の前に小さなブーケが差し出されれば、レイラの心に小さなさざ波がゆらりと揺れた。なんて素敵な贈り物なんだろうか。きっとこれは大切な宝物になるだろう。だけれど、レイラは静かに首を横に振る。
「ありがとう苺々子さん。その気持ちはありがたいですけどね。思い出はもう心の中にしまっておくだけで十分なんです」
星を抱いたレイラの瞳が暖かな煌めきを含ませた柔らかな眼差しを苺々子に送る。
「いらないの?――そっか」
残念――そんな感情はすぐに溶け。苺々子はブーケを優しく抱きしめ微咲を零す。
「じゃあこれは、お留守番してる|妹《ミーシャ》のお土産にするね」
えへへと笑えば、苺々子のお腹がきゅうと鳴く。
「歩いたらなんだかお腹が空いちゃった」
青白い月明かりが梢の間から差し込む桜小路を往く二人は、悠久に流れる星の廻りの中を随分と歩いていた事に気が付くと顔を見合わせて笑う。
「ねぇ、私此処に来たら食べたいものがあったの! もちもちした桜のドーナツ! 思い出は心にしまうだけじゃなくて、お腹の中にしまっても良いもんね?」
考えるだけで甘やかで心地よい薫りが漂ってくるような、そんな想像を膨らませ苺々子は体と心を弾ませる。
「あはは、折角の期間限定ものだからね。味わって楽しめる思い出ならいくらでも付き合いますよ」
レイラの言の葉が夜を彩れば、ひらりと桜の漂う宝石を散りばめた夜空に双星がきらりと流れて消えた。
「――さぁ、行きましょうか」
浅紅の梢は賑やかに囁いて、連れ添って歩く|月《苺々子》と|星《レイラ》の後ろ姿を見送った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
終わったか。もっともUDC組織の人達にとっては事後処理が残っているし、巻き込まれた人達はこの日の事を抱えて生きていく事になる
記憶処置されたとしても、消えないものはあるだろうから。当事者たちにとっては、何も終わっていない訳だ
だが、それに対して俺ができる事はないようなもんだし。少し歩くとしよう。夜桜見物だな
何があっても星や桜の美しさは変わらないか。この風景だけをみれば殆ど何も起きなかったように見えるが……って、こういう事を考え続けてちゃ気分転換にはならないか
だがまあ、セレスタイト……奴の事はちゃんと覚えておくさ。一応、約束したからな
勿論、あんなのは何度も出てこない方が良いに決まっているけれど
俄かに騒がしくなった区域ではUDC組織の職員が左へ右へと駆け回っており、怪我人の搬送や事件を目撃した被害者たちへの対応に追われている。陽はとっくに落ちているにも関わらず、駆けつけた車両の回転灯や設営されたテントを照らす照明などのお陰で周辺はやけに明るかった。
「――終わったか」
その光景を見て、夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は改めて戦いが終わった事の実感を抱く。事件に巻き込まれた人々は一様に皆、酷く疲れ切った表情を浮かべているが、その中には安堵の念が混じり、笑い声すら聞こえてくる。本来であれば其れらは既に失われていた筈の光景だ。しかしそうは成らなかった、街の命運を賭けた先の戦い――その戦いに勝利した猟兵たちにより其の未来は護られたのだ。
(助けられて良かった――しかし、彼らの中にはこの出来事はきっと残り続けるのだろうな。例え、記憶処理されたとしてもその心の中には残るものが――彼らにとってはまだ何も終わっていない筈だ)
この凄惨な事件に巻き込まれた人々のこれからの事を思うと、鏡介は身につまされる様な思いだった。だが、きっと自分が彼らにしてやれるような事など今は無いのだろう。だからと言って立ち止まっている場合でも無い。鏡介は無意識に力を込めていた拳を解いた。
「少し歩くとしよう――夜桜見物だな」
鏡介は、一先ずこの喧噪から離れようと歩みだす。その間も、もやもやとした思いが湧き出ては消えていき自然と視線は足元ばかりに向けられる。そんな事を何度も繰り返していると鏡介の耳に囁き、語り掛けるような川のせせらぎが聞こえて来た。もうそんなに歩いたのだろうかと顔を上げた鏡介はその双眸が映す光景に思わず息を飲んだ。
絢爛に小路を彩る桜並木。その頭上では白銀の星々が夜空の底で瞬いている。寡黙な月の光を浴びて、闇夜に浮かぶ浅紅の花弁が白く輝くその様は季節外れの雪のようにさえ思えた。鏡介にとってはどこか――故郷を想起させる光景だ。
「見事だな……」
星降り桜花舞う小路は、あの凄惨な事件は一時の悪い夢だったのではないか。そう錯覚させる程に美しい光景だった。鏡介は浅紅の花弁と凛と煌めく月光をその身に浴びながら、一歩、また一歩と小路を征く。
「何があっても星や桜の美しさは変わらないか。この風景だけをみれば殆ど何も起きなかったように見えるが……」
ふと、鏡介が手を伸ばすとその手の平にひらりと一枚の桜の花弁が舞い降りる。どこか小さな温もりを感じる――しかし、その手の平にはまだあの戦いの感覚が残っている――そんな気がしてならない。
「って、こういう事を考え続けてちゃ気分転換にはならないか」
あの事件から離れる為に歩く事にしたにも関らず、今なお、あの事件が頭から離れない自分がなんだか可笑しくて、鏡介は苦笑を浮かべる。確かに思うところはあるが、ともあれ自分たちはあの戦いに勝利した。決してあの事件が無かった事になる訳ではないが、確かに救えたものはあったのだ。だから今だけは――この桜と星を楽しもう。
心地よい風に誘われて、桜花が小路を彩れば、鏡介はその中で立ち止まって空を見上げる。黒の天蓋にひらりはらりと浅紅が散らばれば、きらりと瞬き白銀の線が引かれる。今のは流れ星だろうか。そんな事を考えていると、ふと記憶が浮かび上がる。皮肉にもそれは忘却されるべき記憶。世界から忘れられ、自身すら忘れた男【忘却者】セレスタイト。
「だがまあ、セレスタイト……奴の事はちゃんと覚えておくさ。一応、約束したからな。勿論、あんなのは何度も出てこない方が良いに決まっているけれど」
例え世界が彼を忘れても、鏡介が彼と刃を交えたという事実は変わらない。――凡てはいつか忘れ去られ。――凡てはいつか消失する。彼がまたそう世界を否定するのなら、それを否定し何度だって相手してやろう。――それがあの時、誓った約束だ。
「さてと――もう少し歩くか」
やれ、面倒な約束をしたものだ。そう肩を竦めて鏡介は笑った。
大成功
🔵🔵🔵
尾守・夜野
【SPD】
人格は僕に戻ってるよ
…さて、これにてしまい
何もなかったこととなりすべて忘却の中に
…彼もオブリビオンでなく、カクリヨであったなら生きやすかったのかもね
…日が昇れば人にあふれるのだろうが
事故(となるだろう事件)のあった夜ならば人気はやはり少ないね
ならこの瞬間の景色は僕だけのもの…と考えると感慨深いね
まぁ多分人格交代のときにこの感情はなくすのだろうけど
それまでは…ね
川辺りをふらふら歩いてそのうち帰るよ
災禍は過ぎ去り忘却に沈む。すっかり陽が沈んだ街は、あの騒動など無かったかのように静寂に包まれていた。その静けさの中、佇む尾守・夜野(|墓守《うせものさがし》・f05352)は物語るように言葉を紡ぐ。
「……さて、これにてしまい。何もなかったこととなりすべて忘却の中に……彼もオブリビオンでなく、カクリヨであったなら生きやすかったのかもね」
凡て――己すらからも忘れ去られた【忘却者】セレスタイト。忘れられた過去の空虚な残照として顕現し、そして消え去った。今回の事件も、彼自身も、いずれはまた忘却の底に沈むのだろうか。もしもオブリビオンとしてでは無く、忘れられた者としてカクリヨに辿り着けていたのなら満たされたのだろうか。そんな思いを馳せながら、夜野はその場を後にする。
人気の無い夜にコツコツと足音が反響する。そよ風が吹けば梢が擦れる音に紛れて、どこか遠くから眠たそうにそうそうと流れる川音が夜野の耳を撫でた。人気の全くない其処には自然の音だけが夜に響き合っていた。
「ああ……なるほどね。確かにこれは見事なものだよ」
夜野の眼前に広がるのは絢爛たる浅紅がキラキラと舞う鮮やかで――艶やかな桜小路。漆黒塗りの天蓋には静かな威厳を携えた月が無数の星屑を従えて浮かんでいる。感嘆を零した夜野の白い吐息は桜花と夜空に浮かんで消える。泡沫の夢の如き世界の中に、1人迷い込んでしまったかのような感覚を覚えた夜野は静かに目を細めた。
「この瞬間の景色は僕だけのもの…と考えると感慨深いね」
心にジワリと染み込むような気持ち。どこか懐かしさを帯びた仄かな感情。今、この世界で――厭、数多に存在する全世界でただ1人、この景色をその瞳に映せているという特別な感情。多重人格者である夜野にとって其れは、人格が代るまでの一時の感情でしかないのかもしれない。
――しかし。
「分かってるよ。すぐにこの感情はなくすのだろうけど――それまでは…ね」
――今だけは。――今この時ばかりは。
この感情を独り占めする事を怒ってくれるなよ。
ひらりひらりと乱れ舞う桜花の中で、己の手のひらに収められた花弁を見て呟く。ふと、その視線を外せばすぐ近くをさらさらと音を立てて、月明かりをキラキラと反射させた小川が流れているのに気が付く。その流れに乗って一枚の花弁がゆらゆらとその身を揺らしながら流れていく。
「さっさと帰って本でも読もうかと思っていたけれど――気が変わった。もう少しだけ歩くとするかな」
水面に映る月明かりをその身に浴びて、伸びた己の影を連れ添って夜野は、流れていく花弁を追うように川辺を歩んでいく。やがてその後ろ姿は、不意に吹いた春風が巻き起こした桜吹雪に攫われた。
大成功
🔵🔵🔵
クゥーカ・ヴィーシニャ
◎【奇縁】
良い夜空に夜桜。戦いが起きてなかったらもっと気楽に楽しめるんだが……仕方ない。出来る限りのことはやった。後は専門の組織に任せて休息に浸ろう。
姉様の名前でもあるから桜には親しみを感じる。綺麗だが儚い、そんな桜の楽しみ方は……そうだな、眺めるのが一番だな。ぼんやりとでもいいし、何か食べながらでもいい。折角だし何か食べながら見ることにするか。
後は……祈るぐらいは自由だろう。この街の傷跡が癒え人々がまた歩き出しますように。
アルメル・リルバーン
◎【奇縁】
一件落着、か。後処理も手伝いたい所ではあるが、専門外が混ざっても手間を増やすだけか。大人しく夜風に当たるとしよう。
ああ、桜か。聞いたことはあるが…見るのは初めてだね。美しく咲くものだ。
ふむ、楽しみ方か。私もわからないが…まぁ、依頼を終えた後にやることといえば、だ。
酒だろう。肉と、あとは景色をつまみにしながら飲む物さ。
三人欠けずにこの夜桜を拝めた事に感謝を。…それと、散っていった一人の男に、この酒を捧げよう。
フィラー・ホロ
◎【奇縁】<SPD>
いい夜空ですね。この輝きだけでも戦ったかいがあるというものです。
街のことは気の毒ですが、いずれ人々がこの街に再び光を灯させることでしょう。
空をぼんやりと見続けていてもいいのですが、アルメルさんとヴィーシニャさんがいることですし、夜桜というものも楽しみましようか。とはいえ、桜の楽しみ方というものを私は知らないんですよね。
おふたりは知ってたりしますか?
陽は沈み、街に夜が訪れる。その傷跡は決して浅くはない――が、それでも確かに平穏は訪れ、少しづつだが街は落ち着きを取り戻しつつある。尤も、事件の後処理の為にUDC職員たちが総動員され、また街は俄かに騒がしいがそれでもあの災禍の騒動に比べるとその雰囲気は全く持って別物だ。
「一件落着、か。後処理も手伝いたい所ではあるが、専門外が混ざっても手間を増やすだけか……」
右往左往するUDC職員たちを眺めながらアルメル・リルバーン(義手傭兵・f39500)は残念そうに呟いた。そんなアルメルの隣ではフィラー・ホロ(月の燐光(またの名を可動式電球)・f39511)がそのサファイアの如き双眸で空を見つめている。その視線の先には漆黒塗りの天蓋に銀砂が散りばめられたような星空が燦々と輝いている。
「いい夜空ですね。この輝きだけでも戦ったかいがあるというものです。街のことは気の毒ですが、いずれ人々がこの街に再び光を灯させることでしょう」
フィラーはふと街に視線を向ける。深く傷付いた街並みの中に力強く、鮮やかに咲き誇る桜の木の姿があった。その姿にフィラーはこの街の行く末を感じ取る。
「良い夜空に夜桜。戦いが起きてなかったらもっと気楽に楽しめるんだが……仕方ない。出来る限りのことはやった。後は専門の組織に任せて休息に浸ろう」
「……ああ、大人しく夜風に当たるとしよう」
あの惨劇が残した傷跡を心に刻むクゥーカ・ヴィーシニャ(絡繰り人形・f19616)はその凛とした表情で街を一望すると祈るように双眸を閉じる。暫くした後、アルメルとフィラーの二人を振り返り、そう告げるとUDC職員たちの妨げにならないようにと歩き出す。アルメルはそれに静かに頷き、フィラーはそんな二人の後ろを無言で追う。
暫く歩けば徐々に騒がしさは鳴りを潜め、草木が擦れる微かな音や夜鳥の囀りなどが耳に届く。そんな音に誘われるように視線を向ければ、銀糸の点のように煌めく星々と春風に浅紅を躍らせ絢爛に咲いた桜花が織りなす絶景が広がっている。咲き零れるような桜を目の前にクゥーカは立ち止まる。
「桜か……」
戦いの最中での凛々しい美しさとはまた違う、穏やかで柔らかい雰囲気を纏い桜を見上げるクゥーカに続き、アルメルとフィラーも立ち止まるとクゥーカの目線を追う。
「ああ、桜か。 聞いたことはあるが……見るのは初めてだね。美しく咲くものだ……何か思い入れがあるのかな」
夜に咲き誇る桜とそれを優しく見守るクゥーカ、それに釣られてアルメルも不意に微咲を零す。この星夜の魔力に当てられたのか、不意に口からそんな質問が零れていた。
「姉さまの名前でもあるからな。だからだろうか、親しみを感じるんだ」
チラリと姉さまに視線を向ければ、不思議と姉さまはなんだか誇らしげに桜を見ているように感じられた。クゥーカは優しく微笑むとその腕でぎゅっと姉さまを抱きしめる。
「あの、こういうのを夜桜――でしたっけ。せっかくなので夜桜を楽しんでみませんか?尤も、私は桜の楽しみ方については全く分かりませんけど」
星々に負けじと淡い光を放ちながらぼおっと夜空を見上げていたフィラーが不意に口を開き、淡々とした表情でクゥーカとアルメルに向き直す。そんなフィラーの行動に二人は思わず顔を見合わせて、そして笑う。
「ああ、そうだな。綺麗だが儚い桜……せっかくこんな見事に咲いているんだ、楽しまないと失礼というものだな。さて……となると、やはり桜は眺めて楽しむのが一番だな」
「なるほど、私も桜の楽しみ方については素人だが――まぁ、依頼を終えた後と言えば、やはり酒だろう? 肉と……あと景色をつまみに一杯やればもう言う事無しさ」
「あはは、その通りだな。ぼんやりと眺めるのもいいが――折角だ、何か食べながら楽しむ事にしようか」
酌をする手振りを見せるアルメルに思わずクゥーカは口角を上げる。あの戦いの殺伐としていた空気はすっかり解れて溶けては消えて、今は星夜に穏やかな笑い声が響くばかりだ。そんな最中、フィラーが相変わらずに淡々とした口調でいつの間にか手に持っていたソレを二人に向けて差し出した。
「夜桜はそうやって楽しむものなんですね、勉強になります。でしたら、こちらが丁度いいのでは? 実は先ほどUDC職員の方から労いの品として頂いてたんです。すっかり言うのを忘れてましたけどね」
そんなフィラーが差し出したのは、小振りな肉を簡易に調理した食品と果物の果実から絞った飲料水と酒。そして、桜をモチーフにした焼き菓子だ。クゥーカとアルメルの二人は突然差し出されたそれにキョトンとしてフィラーに視線を返すが、それはすぐに朗らかな笑みに代わる。
3人は桜並木が取り囲む円形状の広場にある桜の木材で作られたベンチに並んで座ると、ささやかな宴を始める。クゥーカとアルメルは今宵の勝利を祝う美酒をあおり、フィラーは果物の飲料水を味わう。桜の焼き菓子を齧りながら桜に視線を向ければ、浅紅を纏う梢がさも愉快そうに揺れていた。
この光景は本来見ることは叶わない筈だったものだ。災禍に飲み込まれ消えゆく定めだった未来。しかし、そうはならなかった。彼女らは忘却者に打ち勝ち、こうして3人で夜桜を眺めている。それはかけがえのない奇蹟――アルメルはそれに感謝の念を抱き、桜花舞う夜空を見上げる。
(忘却者セレスタイト――奴は……いや、何も語るまい。だがしかし……今だけはこの酒を送らせてくれ)
凡てから忘れられた男。その喪失した心の内は誰にも分からない。今回の事件も、忘却者セレスタイトもいつかは再び忘却の底に沈んでしまうのだろう。しかし、アルメルの記憶には鮮明に彼の姿が残っている。過去の亡霊――その姿を。今は唯、その魂に休息を――アルメルは星を抱いて漆黒に浮かぶ凛と澄んだ月に向かって手を伸ばした。
そんなアルメルの姿に気が付いたクゥーカはふっと息を吐く。
「何か思う所があるんだな。……なら私も少しだけ自由にさせて貰おうか。祈りを捧げる事ぐらい、きっと桜も星も許してくれるだろうさ」
クゥーカは静かに瞳を閉じ、両手を胸の前で組み合わせ祈る。傷付いた人々の為に――人々の受けた傷は、身体と心、そのどちらも決して浅くは無い。しかし、失ってはおらず残っている。ならば後は立ち上がるだけだ。彼らの傷が癒え、再び歩き出さん事を――。
銀色の羽衣の如き柔らかな月明かりを受け、祈りを捧げるクゥーカの姿はまるで――天使のようだった。
「皆さんいろんな楽しみ方があるんですね」
そんな二人の姿を見て淡々と呟く影――フィラーだ。彼女は黙々と食べ物を口にしながらそれを眺めていた。相変わらずに澄ました表情を浮かべる彼女だが、不意にその表情に変化が訪れた。
「……なんだ、夜桜見学って面白いじゃないですか」
フィラーが微笑を零した瞬間、一際強い春風が桜を空へと舞い上げる。月に照らされキラキラと煌めくそれを目で追えば……無数の星が瞬く夜空の中に一際強く光を放つ3つの星が見えた。
大成功
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