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春風駘蕩にして呑花臥酒たる日~つまりカニハントな宴

#グリードオーシャン #ノベル

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櫟・陽里



エリシャ・パルティエル



榎木・葵桜



ユディト・イェシュア



彩瑠・翼



アカネ・リアーブル




●カニは美味い(確信)
 青い海、白い砂浜。そして――カニ。
「葵桜様、エリシャ様、カニです! 羅針盤戦争で夢予知にまで見たカニです!」
 グリードオーシャンのとある島。巨大なカニが溢れのビーチで、アカネ・リアーブル(モフとダンスは世界を救う・f05355)が目を輝かせている。
「夢にまでカニが出てたなんて……」
「カニ、美味しいものね。アカネちゃんが夢に見るのも納得よ」
 アカネのすぐ後ろには、榎木・葵桜(桜舞・f06218)とエリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)の姿もあった。
「ついに……ついにアカネも、カニを楽しめるのですね……!」
「そっか、アカネちゃんは今回が初カニかぁ!」
「きっとカニが、アカネちゃんと、あたしたちを呼んだのね……!」
 感極まってる様子のアカネの後ろで、葵桜もエリシャも何だかしみじみしているが、内心は期待している。

 何故ならカニだから。美味しくない筈がない。

 それに、鋏が6つ生えていて1匹で6人がひとつずつ鋏を食べられるカニなんて、オブリビオンに決まっている。羅針盤戦争の折に何度も出たカニと同じか違うかなど、些細な問題ですらない。
「アカネ、張り切ってお料理しますね!」
「それじゃあカニパのために、色々がんばっちゃおうかな♪」
「ええ、今日は思う存分カニを食べましょう!」
 カニをどう料理するか――カニ料理を話題に、3人の会話が弾む。

●宿命のカニハンターズ
 一方、その頃。
「またこうしてカニに出会えるなんて……」
 ユディト・イェシュア(暁天の月・f05453)は、カニの群れの近くでしみじみと呟いていた。
「本当に、何度目の蟹パーティーだろうね?」
「つくづく縁があるんですね。翼くん?」
 視線を彷徨わせる彩瑠・翼(希望の翼・f22017)に、ユディトの何処か悟った様な微笑みが向けられる。
「やっぱり狩りからスタートなんだね……」
 翼も諦めて、溜息混じりにカニの群れに視線を向けた。
 どうせ視線を逸らした所で、そこにもカニがいるのだ。ならば前を向くしかない。
 或いはユディトの悟りも、諦観の果てかもしれない。
(「これも修行かなぁ」)
 翼は諦めの境地の中で自分に言い聞かせる。

 ――ドルンッ!

 そんな翼の葛藤を吹き飛ばすかの様に、重たいエンジン音が砂浜に響き渡った。
「よーしユディト、翼! カニハントといこう!」
 |愛車のバイク《『ライ』》を飛ばして櫟・陽里(スターライダー ヒカリ・f05640)がカニの群れに突っ込んでいく。直前で、陽里は急ブレーキをかけると共に、前輪を軸に旋回。
 |後輪が弧を描いた《ドーナツターン》衝撃で、大量の砂と共にカニの群れの先頭集団も打ち上げられる。
「陽里さん、張り切ってますね」
「数々のカニ討伐の裏方支えてくれてたアカネちゃんのため、だしな」
 ユディトの言葉に、陽里は親指を立てて返す。
 アカネの興奮した声は、こちらにまで届いていた。
「そうですね。楽しみにしているアカネさんのためにも、俺達の為にも――いけますか?」
 陽里に頷き返し、ユディトは視線を横に向ける。
(「――これも修行、これも修行、これも修行――修行!」)
「――うん! 美味しいカニパの為にも頑張らなくちゃだね!」
 |自己暗示《マインドセット》を終えて、翼も力強く頷いた。

「逃げないとハチの巣だぜ!」
 バイクで砂浜を駆けながら、陽里がハンドガンを構える。
「久しぶりに良いとこ見せたいんだ、俺は! エリシャの手料理食いたいからな!」
 陽里のその意気込みは、|愛車《『ライ』》をオフロード仕様にチューンして来ている辺りに如実に表れていた。
 カニの群れへ弾丸を撃ちまくりながら、陽里はその横を高速で駆け抜け後方へと回り込む。
「逃がさないよ!」
 銃弾に追われ逃げ惑うカニの群れが広がりかけた所に、翼の声が降って来た。
 直後、空中から伸びてきた巨大な腕がカニを掴み取った。
 愛馬のペガサス『ウィン』の鞍上で、翼が|想像から創造し纏った《アリスナイト・イマジネイション》のは2本の腕を持つ鎧。
「オレの手の届かない所にいるカニも、これなら集められるよ!」
 その腕は、翼の意のままに動き、伸縮する。逃げ惑うカニを掴んで砂浜に押さえ付けたり、掴んで投げて群れへ戻すのも容易い。創造の腕ならば、カニに挟まれたって痛くも痒くもない。
「翼くんも立派になって……」
 空からカニの群れの動きを制御する姿に、ユディトは翼の成長を感じていた。
「ユディトさん、行ったよ!」
「パパッと決めてくれ!」
「せめて美味しく頂くと約束しますよ!」
 翼と陽里に応じて、ユディトは『払暁の戦棍』を掲げる。
 銀のメイスから放たれた|破魔と浄化の光の奔流《神々の恩寵》が、追い込まれたカニを全て呑み込んだ。

●おつまみとガールズトーク
 それは偶然か、海風の悪戯か。

 ――エリシャの手料理食いたいからな!

 陽里のその声は、妙にはっきり女性陣の元まで響いていた。
「あの様子なら、|義弟《ユディト》達に任せて良さそうね」
 ニマニマとした笑顔を向けて来る葵桜に、エリシャは素知らぬ素振りを貫きながら、一口大にスライスしたパンの上に、同じサイズにした野菜やチーズを重ねていた。
「葵桜ちゃんもアカネちゃんも作ってみる? ピンチョス」
 エリシャが作っているのは、小さく切ったパンに具材を乗せ、串を刺した軽食だ。
「こんな感じで、簡単だから自由に作ってみて」
「あ、これなら私も出来そう」
「彩りを考えるのも楽しいですね」
 エリシャの見本に倣い、葵桜とアカネも思い思いにピンチョスを作っていく。

 それが十数個ほど出来た所で、カニ狩りを終えた男性陣が戻ってきた。
「大漁大漁! みんな、お待たせー」
「まあ! まあ! まあ!」
 ドヤ顔の陽里が|愛車《『ライ』》で引くカニの山を見て、アカネが語彙力を喪失する。
「うん、大漁だよね……」
 わかる、と言いたげな翼の疲れた声は、カニの山の後ろからした。創造の腕でカニの山を押さえているようだ。
「陽里も翼もユディトもお疲れ様。本当に大漁ね」
「1匹残さず仕留めましたとも」
 驚きながらも労うエリシャから冷たい飲み物を受け取り、ほくほく顔のユディトが返す。
「すっごーい! さっすが! がんばったね!」
 素直な賛辞を上げた後で、葵桜がにんまりとした顔になって視線を陽里に向ける。
「これも愛の力だね!」
「おう!」
 特に陽里は――と言いたげに、葵桜がサムズアップを向けてみれば、いい笑顔でサムズアップが返ってきた。

●カニクッキング
 さて、男性陣がカニハントしている間、女性陣もただ待っていたわけではない。
 カニ料理の準備は整っているし、ご飯は大鍋で炊いてある。
「まずは定番のカニ鍋……いえ、カニすきからのカニしゃぶにしましょう」
 アカネは昆布で出汁を取っておいた大鍋を、再び火にかけた。
 カニしゃぶにもなる様、醤油をベースに一般的なカニすきよりも更に薄めの下味に整える。
「田中さーん! アカネちゃんのお手伝いよろしく!」
 そして料理となれば、この人、いや霊の出番。
 葵桜が召喚した古代の鎧武者の『田中さん』が、軽く炙ったカニの爪と脚を切り落とし、胴体もざっくり真ん中で切り分ける。そして、アカネの準備が終わった鍋に、静かにカニを沈めていく。

 カニ鍋をアカネと田中さんに任せて、エリシャは別の鍋に向かっていた。
「さて。剥いていくわよ」
 いい感じに丸ごと茹で上がり赤くなったカニを、熱さに耐えて鍋から取り出す。
「エリシャさん、1人で剥けるのかな?」
「えっちゃん、力仕事とかあれば言ってくれよな?」
 その背中に、食器を運んでる翼と陽里の声がかかる。
「大丈夫よ! 動画見て研究したから!」
「昨日、自主トレとか言いながらずっと動画見てたのは、この為ですか」
 義姉の行動に得心が行ったユディトは、大丈夫だろうと大皿を運んでいく。
「動画だと、脚の付け根を押さえて筋に沿ってまとめてパキッと……まあ、脚1本ずつやればいいわね」
 エリシャが見たのは、普通のカニを剥く動画だ。
 それでもカニはカニである。
「多分、こんな感じで……あ、いけそうね」
 エリシャは動画で得た知識を応用し、カニを解体していくのだった。

●カニパタイム
「それでは、いただきます!」
「「「「「いただきます」」」」」
 カニ尽くしの食卓を囲んで、アカネの音頭で始まるカニの宴。
 まず多く手が伸びたのが、ボイルか焼いたカニだ。どちらもシンプルな調理法故、カニ自体の味が良くわかる。丁寧に甲羅を剥いてあり、とても食べ易い。
「食べやすく剥かれたカニ、絶品ですね」
「ふふ、むきむきえっちゃんって呼んでいいのよ?」
 アカネの賛辞に、甲羅剥き担当だったエリシャが得意気な笑みを見せる。
「えっちゃんぐっじょぶ♪ 魔法みたいにスイスイだったよ、さっすがー」
「ええ。むきむきえっちゃん様さすがです」
 葵桜とアカネに加えて田中さんも同意するように頷く、見事な剥きっぷりだった。
「アカネちゃんのカニ鍋も美味しいじゃない」
「ええ。カニ鍋、あったまりますね」
 あまりにストレートに褒められたからか、少し照れたように話題を変えたエリシャにユディトが頷く。
 カニすきのカニには、白菜やネギなどの野菜の旨味と出汁の味が染み込んで、他のカニとはまた違う味わいがある。甲羅ごと炙ったカニを入れた事で、甲羅の旨味が出たスープも薄味ながら味わい深い。
「カニしゃぶしても美味しいよ!」
 翼がやってみせたように、そこに甲羅を剥いただけのカニ刺しをさっと潜らせれば、表面が白くふわっと広がって半生のカニの味を楽しめる。勿論、そのまま生でカニ刺しを食べても美味い。
「俺はこのコロッケ……大好きな味かもー」
 陽里が気に入ったと笑うのは、エリシャ作のカニクリームコロッケ。
 揚げ立てサクサクで、中のクリームはトロトロながらカニの身たっぷり。
「カニにもいろいろ食べ方があるんですね」
「やっぱりカニづくしは最高だね♪」
「あ、そうでした」
 次はどれにしようかと悩む葵桜とユディトの横で、アカネがふいに席を立った。

 程なく、何かの瓶を抱えて戻って来たアカネは、僅かにカニ味噌が残っただけの甲羅を炙り出した。
 水気が飛んだ甲羅の中に、透明な液体――清酒を注ぐ。
「こうするとお酒が大変美味しいそうで……」
 所謂、甲羅酒だ。
 プツプツと酒が温められ、湯気と昇る甲羅の香ばしさとカニの風味が、アカネの鼻孔をくすぐる。
 甲羅から杯に注いで、一口。
 アカネの喉がこくりと鳴った。
「とても香ばしくて……カニの風味豊かで……美味しいです」
 ――ほぅ、とアカネの喉の奥から吐息が零れた。
「アカネちゃん良いね良いね! 俺にも」
「甲羅にお酒ですか。俺もやってみたいです」
「あ、じゃあ私も!」
「はい、皆様もどうぞ」
 その様子と香りに反応した陽里とユディトと葵桜の杯に、アカネは甲羅酒を注いでいった。

●春に酔いしれて
「本当! お酒も美味しい♪」
「ふふふ、美味しいですよね」
 甲羅酒を手に、アカネと葵桜が微笑みあっている。
「出会った頃はまだ10代だったアカネちゃんと葵桜ちゃんが、お酒を飲んでるなんて……」
 その光景に、エリシャは月日の流れと言うものを感じずにはいられなかった。
「アカネちゃんと葵桜ちゃんの成長に乾杯、ってとこだな」
 そんなエリシャの手に、陽里が甲羅酒の杯を持たせ、自分の杯をコンッと合わせた。
「私もアカネちゃんもお酒飲めるようになったって、ほんと感慨深いよね!」
 自分の話なのを聞きつけてか、そこに葵桜が駆けて来る。
「お酒って美味しいんだね?」
「美味しいよー♪」
 楽し気な様子が気になったのか、翼に問われて微笑む葵桜。
 にへらとした緩んだ笑みで、軽く酔っているのが見て取れる。
「翼くんは、お酒はもうちょっと先ですね」
「ユディトさん、全然顔色変わってないね!」
 口を挟んだユディトの顔色が普段と変わっていないのに気づいて、葵桜が訊ねる。
「お酒強いんだ?」
「俺? お酒に強いかはわかりませんが……酔うほどたくさん飲まないので……まあでも確かに顔色は変わらないですね」
 甲羅酒もそれなりに呑んではいるユディトだが、確かに口調からも酔いを感じさせない。

 むしろ心配なのは――アカネだ。

「ふふ、ふふふふ……♪」
 頬を赤くして微笑みながら、お酒をぐいっと煽る手が止まらない。
「アカネさん。ふらふらしてませんか?」
「美味しいからって飲みすぎはダメよ……って遅かったかしら」
「いい感じに酔ってるね?」
「よってませ~ん」
 案ずるユディトとエリシャと葵桜に返すアカネの声は、全然大丈夫そうじゃない。
「……酔っぱらってるよね?」
「よっていませんが――アカネはいま、すっごくおどりだしたい、きぶんです」
 飲めない翼にもわかる酔いっぷりながら、アカネは怪しい呂律で酔ってないと言い切って、ふにゃりと手を掲げる。
 その掌から、ザァァッと|幾つもの茜の花びら《茜花乱舞》が噴き上がった。
「さあ――みなさま、おどりましょう!」
 幾つもの赤が舞い、その中心でアカネが回る。くるくると、楽し気に。
「なんだかお花見みたいですね」
「いいねぇ、花見酒。一緒に踊ろっか♪」
 その景色にユディトは目を見張り、葵桜はアカネに駆け寄っていく。

 ――ベベンッ♪

 そんな空気を読んだ田中さん。
 手を取り合い踊り出した葵桜とアカネに合わせて、三味線の音を弾ませる。
「舞と酒なんて贅沢な時間だな」
「お酒が進むのは、楽しい証拠だけど……」
「まあ、良いじゃないか」
 飲み過ぎてないかと心配そうなエリシャに、陽里が笑いかける。
 しばらくは、陽里もエリシャも楽し気に舞う2人の様子をのんびり眺めていたのだが――。
「よし踊ろう!」
「え?」
 突然、陽里が立ってエリシャの手を引いた。
「陽里酔ってるの?」
「まあな」
 陽里が甲羅酒を飲んでいた杯は空になっている。
「楽しい雰囲気に、羽目を外しすぎそうにはなってる。エリシャの手を握れて一緒にいられて嬉しいし?」
「もう……」
 好意を隠そうともしない陽里に手を引かれるまま、エリシャはまんざらでもなさそうに踊りの輪に加わった。
「よし。翼くん。俺達も一緒に踊りましょうか」
 そしてユディトは、翼と傍観者でいると言う選択肢を投げ捨てる。
「え、踊るのはオレはいいよ、恥ずかしいし……」
「これも修行ですよ」
「って、修行なの?」
 その提案を否定しかけた翼だが、修行、の一言に食い付いてしまう。
「これは寛いでいるところに敵が襲撃してきた時、素早く動けるかの修行でもあるのです」
「な、なるほど……?」
 ユディトに翼が丸め込まれるのを止める者は、誰もいない。
「それじゃ、ユディトさんも一緒に踊ろっ!」
「ええ、行きましょうか」
 そして――6人は陽里が言う所の『贅沢な時間』に酔いしれるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月01日


挿絵イラスト