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『無能の錬金術士』誕生と刹那の無限回転

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アルマ・アルカレイト




「イリス……我が一族の繁栄の為だ」
「全ては貴女の手にかかっているのよ!」

 それは今からおよそ10年前。レギンストーツという世界に、イリスという4歳の少女がいた。
 彼女は両親の手によって、望まぬ手術を受けさせられようとしていた。

「な、何を……?」

 手術台に拘束された少女は不安そうな顔で両親を見上げるが、二人は何も答えてはくれない。
 思わず逃げ出したくなって暴れても、幼子の力では拘束具はびくともしなかった。

「お父様、お母様、嫌です! 怖い……!」
「大丈夫よ、すぐに終わるからね」「おい、始めろ」「はっ」

 傍に立っていた研究員が麻酔魔法をかけ、抵抗するイリスを強制的に気絶させる。
 薄れていく意識の中、彼女が最後に見たものは両親の不気味な笑顔だった。



「え……失敗? 私は魔法を使えない?」

 そして、次に目を覚ました時。イリスに突きつけられたのは残酷な事実と、失望に満ちた両親の顔だった。
 彼女が受けた魔力強化手術は失敗に終わり、魔力や神秘の力は全て失われていた。

「この無能めが!」
「どうしてこんな事に……」

 魔力至上主義のレギンストーツにおいて魔力を持たぬ者は身内の恥となる。
 両親は即座に我が子の処分を決めた。

「子供などまた作ればいい!」
「ええ……貴方」
「そんな! 許して……」

 必死に許しを請うイリスを魔法で眠らせると、両親は彼女を流れが激しい川へと投げ捨てる。
 そのまま彼女は腐った魔力史上主義の歴史の闇に葬られた被害者の1人になる筈だった。

『あっ死んで3分立ってない死体発見! 魂が無くなっているわね、元の身体には悪いけど……完璧に転生出来るわ! 記憶は完全に無くなるけどオブリビオンの身体からおさらばよ!』

 神の導きか運命の悪戯か。現世を彷徨っていた謎の存在がそこにいた。
 "彼女"は少女の死体に自らの魂を移し、転生の術を使用したのだ――。



「げほっげほっ……あ……? ここ何処よ……うえ〜服ビチョビチョじゃ〜ん」

 "彼女"が目を覚ましたのは川の浅瀬だった。見たこともない景色、濡れた衣服、冷えた体。
 とりあえずここに居ても良くないと、川から上がった彼女は適当に人のいる所まで歩いて行くのだが――。

「お〜い服頂戴!」
「死ねよ!」「何で生きてんの?このゴミは……」「目障りなんだよ!」

 辿り着いた街の住民達は、彼女が魔力無しと知ると容赦なく罵倒し、石をぶつけてきた。
 魔力至上主義の思想は国中に広まっているが、"彼女"にとっては身に覚えのない迫害だろう。

「クソうぜぇぇぇぇぇぇぇ! ワンパターン! はい、クソぉ!」
「ぐげっ?! こ、こいつッ!」「ブッ殺してやる!」

 が、そこで蹲るほど彼女は大人しい人物ではなかった。
 石を投げた馬鹿の股間を蹴り飛ばし、自分を殺そうとする街の人を振り切って逃げる。

「くそ〜あいつらモラルもクソもないわ! 思い知らせてやるわ!」

 逃げた先は人のいないゴミ捨て場だった。そこで彼女は連中に対抗出来る方法を探し始める。
 ほどなくして見つかったのは、この世界では不要と切り捨てられたある学問の書だった。

「少し汚いけど……何々? 錬金術? これだわ!」

 書かれていた内容に従って、古い鍋に火をつけ、集めた材料を混ぜる。
 完成したのは質の悪いガラス。「よっしゃ〜! 出来たわ!」と叫ぶ、これが彼女の始めの一歩だった。



「おらぁぁぁ!」

 錬金術を学ぶのと平行して、彼女がやっていたのは本を読むうちに思いついた回転の研究だ。
 ゴミ捨て場にあった鉄球を的にして練習するが、当たらない。彼女はノーコンだった。

「くっそ〜! まだまだ!」

 1年は的に当てるだけで精一杯だった。だがめげずに練習を続けるうちに、2年で的を壊し、3年で岩を砕く。
 5年目にはオリハルコンを破壊出来るようになり、7年で回転で皮膚を硬化したり操れるようになった。
 そして8年目。

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

 彼女は、自分を殺しに来た魔術師を逆に倒すほどの力を身につけていた。
 さらに10年目には、奴らの自慢の魔法を塵のように吹き飛ばせるようになる。

「星の引力をかけた刹那の回転エネルギー……炸裂しろ!」

 もはや誰も敵がいなくなった頃、彼女は自分と同じ魔力なしの人間と出会う。
 魔術師への隷属を義務付けられた、哀れな奴隷達と。

「お〜い生きている?」
『だ…誰?』『怖いよ…』

 怯える連中の足枷や首輪を刹那の回転で消滅させ、自由の身にしてやる。
 その様子と倒れた魔術師を見て、驚く者達がいた。

『こ……これは! 君がやったのか?!』
「誰よ、アンタ達?」

 彼らは自分達をレジスタンスと名乗った。
 この腐った魔力史上主義を変える為に活動する者だと。

「君は?」
「私はえ〜と、アルマ…アルマ・アルカレイトよ!」

 そう尋ねられた"彼女"は、この時始めて自分の名を口にする。
 それが、後にこの世界を革命する『無能の錬金術士』の誕生だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年03月26日


挿絵イラスト