極光Cerasus
●急募、調査隊員!
はらり、はらりと幻朧桜の花弁が零れる。肌を刺すような寒さは鳴りを潜め、差し込む太陽の光はぽかぽかと温かい。
吹き抜ける風は、芽吹きの種を伴って。けれども其れは、人々が暮らす都市部の話。
幻朧桜は、場所を、気候を問わずに美しく花を零す。人の手が入らぬ、未開の地でも、其れは変わらない。
けれど、幻朧桜の傍には癒しを求め、影朧が集う。
故に。
此の世界、―サクラミラージュには|冬桜護《ふゆざくらもり》と呼ばれる部隊が存在する。
―辺境・秘境にある幻朧桜を巡回する、ユーベルコヲド使いたちの部隊。
元は、厳寒の雪の中の幻朧桜を調査する部隊であった其れは、今や危険地帯に咲く幻朧桜の調査部隊へと姿を変えた。
だが。何処の世界でも、知名度なき仕事に人は集わない。
此のままでは、危険な影朧が現れてもすぐさま対処する事が叶わない。
其処で、誰が言い出したか。超弩級戦力である猟兵に、一つの依頼が発令される。
|冬桜護《ふゆざくらもり》の広報を。
此の舞台に、人が集うかどうか。
其れは猟兵たちの手に掛かっていると言っても、過言ではない―。
●氷上の桜
細い指先が、ぺらり、と頁を捲る。写真と、文章が印字された其の冊子は、どうやらサクラミラージュの広報誌のよう。
全てに目を通したのか、神宮時・蒼(追懐の花雨・f03681)はそっと冊子を閉じた。
「……皆様に、依頼が、来て、おります」
そう告げるや否や、手にしていた冊子を集った猟兵たちに見えるように掲げた。
「……サクラミラージュにて、広報の、お仕事を、お願いしたい、と、依頼が、ありました」
辺境の地に咲く幻朧桜の調査を行う|冬桜護《ふゆざくらもり》。其の堅実で、過酷な仕事故か、志願者は年々減る一方なのだという。
其処で、注目されたのが、超弩級戦力たる猟兵の存在である。猟兵ならば、|冬桜護《ふゆざくらもり》の方々に同行して、其の様子をキャメラに収める事も容易いだろう、と。
「……今回、皆様に、同道、して、いただく、場所は、南の果ての、果て。……南極、と呼ばれる、場所、です」
何処までも続く、真白の世界。年中、氷に閉ざされた極寒の地。
「……共に、行動、する、|冬桜護《ふゆざくらもり》の、方の、名は、|葛《かずら》様、という、男性の、方、です」
此の幻朧桜は、しばらく調査に入れていない為、影朧が発生している可能性もある、との事。
一体、どのような影朧が待ち受けているのか。其れは現地に赴き、直接相まみえなければ分からない。
「……広報用の、映像を、収めたら。……魂鎮めの、為に、ささやかな、宴会を、行う、よう、です」
南の果て、氷の世界―。
極寒の地で、行う宴会は、やや厳しい物があるかもしれない。けれど、此の場所でしか見れぬ光景もある。
―光り輝く|南極光《オーロラ》。
「……光纏う、桜の花弁と、空を彩る、光の、帷。……普段とは、違った、幻朧桜の、姿が、見られるかも、しれません、ね」
厳しい場所だからこそ見れる、幻想風景。
きっと、其れは皆様の心に、感動を齎してくれるはずだ、と蒼は言う。
「……極寒の地、ですので、寒さ対策は、しっかりと、お願いします、です」
蒼が転送の準備を始めると、ふわりと、グリモアたる緋の蝶が、周囲を舞う。
極寒の地への花見。其れは、忘れられぬ想い出になるかもしれない。
幽灯
シナリオではお久しぶりです。|幽灯《ゆうひ》と申します。
今回は、サクラミラージュのお話をお送りします。
マスターページの雑記部分とOPのタグにプレイング受付日と締め切り日を記載させていただきます。
お手数ですが、一度ご確認をお願いいたします。
返却はとてもゆっくりです。また、再送をお願いする事もあるかと思います。
なにとぞご了承くださいませ。
●一章
|冬桜護《ふゆざくらもり》の葛と一緒に、南極に咲く幻朧桜へと赴きます。
目印など無い、氷の世界。野生に暮らす、獰猛な動物たち―、といった様々な危険が待ち受けております。
葛は、自力で何とか対処出来ますが、気にかけていただけますとたぶん喜びます。
●二章
幻朧桜の近くに発生した影朧との戦闘になります。
●三章
キャメラを止めて、宴会の時間です。
テントを張って、持参した食べ物を楽しむも良し。
暖かな飲み物を飲んで、一息つくも良し。
わいわいと賑やかに過ごしても良し。
極光と輝く桜の神秘的な光景を眺めるも良し。
お好きにお過ごしください。
複数名様でのご参加は3名まで。
ご一緒する方は「お名前」か「グループ名」を記載してください。
また、三章で蒼に何かありましたらご用命ください。
静かに桜と極光を眺めているかと思います。
尚、未成年の飲酒は当然ながら禁止です。
第1章 冒険
『秘境の桜をめざして』
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POW : 体力と腕力で危険な冒険を切り抜ける
SPD : 迫り来る危険を察知し、回避する
WIZ : カメラワークや演出を駆使し、格好いい広報映像を撮影する
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●真白の世界
辺り一面、白に覆われた世界。
ほぅ、と零れた吐息は、ぱきぱきと音を立て凍り付く。結晶と化した吐息は、静かに地に落ちて砕けて消える。
未だ、幻朧桜は目視出来ず。目印になるような物は何もなく、頼る者は、冬桜護たる彼らの案内のみ。
一歩、足を踏み出せば、足先に伝わるのは硬い氷の感触。
周囲に音は無く、響くのは氷を踏み締めた際になる音と、吐息の音のみ。
静寂に満ちた其処は、何処か神秘的な雰囲気さえ纏って。
自然の驚異と美しさを捕らえる様に、キャメラを回す。
さぁ、どのような映像を残そうか。
人々の心に残る、そして冬桜護に志願する者が増える様な、そんな映像を―。
八坂・詩織
キャメラの前で
「|起動《イグニッション》!」
髪を解き、瞳は青く変わり白い着物を纏う。
葛さん同行させていただきありがとうございます。私ずっと冬桜護の仕事がしてみたかったんです…!私はこの通り雪女ですから寒さは苦になりません。それに南極だなんて、夢にまで見たオーロラが見られるかもと思ったらわくわくします。
指定UC発動、私達を狙う危険な野生動物がいても網にかかれば動けないはず。運動能力を吸収するだけですから命までは取りません。
【地形耐性】で氷の大地を滑らないようにしっかりと踏みしめ歩きます。しばらく調査に入れていないそうですし、クレバスなどあると危険ですからピッケルで足元を確かめながら進みますね。
●
雲一つない、空模様。時折、肌を刺す様に鋭い冷たさを孕んだ風が静かに吹き抜ける。
周囲に響くのは、ざく、と地を鎖す氷を踏み締める音のみ。
其れ以外の音は、何も無い、地球の最果て。
そんな静寂に満ちた白の世界を、八坂・詩織(銀誓館学園中学理科教師・f37720)がキャメラへ収めていく。
賑わう帝都にはない、人の手が入らぬ場所。このような白の世界に、幻朧桜の淡く輝く花弁はさぞ映える事だろう。
「|起動《イグニッション》!」
キャメラを葛に託した詩織が、イグニッションカードを掲げる。カードが淡く輝くと同時に、詩織の姿にもまた変化が現れる。
緩く編まれた三つ編みが解け、胡桃色の瞳は薄藍色へと彩を変える。氷の大地に倣う様に、白い着物を纏った詩織がふぅわりと葛へと笑みを浮かべる。
「葛さん、同行させていただきありがとうございます」
其の言葉に、ぱちくり、とゴーグルの奥から葛が瞳を瞬かせる。
「私、ずっと冬桜護の仕事がしてみたかったんです……!」
―私はこの通り雪女ですから、寒さは苦になりません。
しゃらり、と詩織の動きに合わせて、羽衣の留め具である三日月が涼やかな音を奏でる。
はくり、と言葉を紡ごうとした葛の唇が、音を奏でぬままそっと閉じられた。
「それに南極だなんて。夢にまで見たオーロラが見られるかもと思ったらわくわくします」
現在でこそ、辺境や秘境にある幻朧桜を巡回する部隊である冬桜護だけれど、元々は厳しい寒さの中で幻朧桜を調査に行く部隊であった。
気が付けば、志願者は減り、部隊としての知名度も無いに等しく。
其れを、こんな真っ直ぐな好意ある言葉を向けられたら。
『…………ありがとう、ございます』
誇り在る仕事である事は充分に理解している。幻朧桜は此の世界の要である。不満はない。
自分たちの仕事には、きちんと意味があったのだと。じわじわとこみ上げる喜びに、葛が零せたのは其の一言が精一杯だった。
穏やかな笑みを浮かべたまま、詩織がそっと左手を持ち上げる。詩織を中心に、来訪者「ファンガス」の力を借りた、細い網が周囲へと張り巡らされる。
(これで、周囲の安全は確保出来ましたね)
張り巡らせた網に、殺傷能力は無い。此方を狙う野生動物も、此の厳しい自然を生きるのに必死なのだ。
網に掛かった動物は、緩やかに運動能力を吸収され、此方を追ってくる事は出来ないだろう。
「さぁ、行きましょう葛さん。先導は私に任せてください」
極寒の地での活動は、雪女の得意分野である。細い、白い腕にはピッケルが握られている。
「クレバスなどがあると危険ですから」
落ちたら出られない、奈落の底―。雪で隠れたクレバスは、目に見えない。
ましてや此処は、調査に訪れる事が出来なかった場所なのだ。野生動物以外にも、隠れた危険はたくさんある。
ぎゅ、ぎゅと足元の雪を踏み締め、道を作る。ひんやりと足元から漂う冷気が、何処か心地良い。
しっかりと後ろを振り返り、葛が付いてきている事を確認しながら、一歩、また一歩と詩織は歩を進める。
まだ見えぬ幻朧桜へ辿り着く為に。
自然の厳しくも美しい其の姿を、キャメラが静かに映像へと残す。
世界には、こんな神秘なる場所があるのだと、知らしめるように―。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
辛い仕事なのは間違いないし、良い面のみを伝えて人を集めるのは良くない……が
とはいえ、そもそも認知されていないのなら是非も無しだ
さておき南極。厳しい環境なのは確かだが、吹雪の中を進む必要がないのはせめてもの幸いだな
互いを見失う心配はないし、不意打ちを食らう心配も幾らかは減る……もっとも相手はこの地で生きる物。十分な警戒は必要だが
こういう環境では、視覚より聴覚や気配を頼りに探す方がいいだろう
余計な消耗はしたくないので、基本的に戦闘は回避する方向で。必要ならしばしその場で昇給しだ
襲われた場合は対処するが、その際に葛氏は下手に動かないように頼む
近くにいる方が守りやすいし、万が一はぐれたら一大事だからな
●
目印となるような物は何もない、白に覆われた極寒の世界。
耳に届く音は、ほとんどなく、静寂に満ちた場所。
もしかしたら、冬桜護が訪れる場所の中でも、此の場所は―南極はまだ優しい場所なのかもしれない。
(辛い仕事なのは間違いないし、良い面ばかりを伝えて人を集めるのは良くない……)
ほぅ、と夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)が小さく零した吐息は、ぱきり、と凍って瞬時砕けた。
(とは言え、そもそも認知されていないのなら是非も無しだ)
だからこその、現地撮影の広報なのだろう。今回に限っては仕事の良い面も、悪い面も、どちらも見られるだろうから。
世界の安寧の為に、決して潰してはならない部署であろうに。其れは、700年以上続く、此の時代の―。
其処まで考えて、鏡介はふるりと小さく首を横に振る。ざくざくと踏み締める地面は硬く、冷たい。
―南極。世界の、南の果て。
野生の動物たちが暮らす、人の手が入らぬ場所。幸いながら、天候は良好で、強い風も無い。
「吹雪の中を進む必要がないのはせめてもの幸いだな」
『そうですね。酷い時は、何も見えなくなりますから』
ぽつり零した言葉に、葛が応える。何処を見回しても、鏡介には違いが分からない。けれど、葛は迷う事無く歩みを進める。
遮蔽物はほとんど無く、何処までも視界は開けている。
(互いを見失う心配はないし、不意打ちを喰らう心配も幾らかは減る……)
此の視界の良さならば、どんな相手が来ても即座に対処出来るだろう。けれども、万が一を考えて、警戒はしっかりと。
ぺたり、ぺたりと、鏡介の視界の端で、此の地に住まうペンギンがふるりと身体を揺らした。
何とも心癒される光景であるけれど、幻朧桜が在るならば、影朧もまた何処かにいるのかもしれない。そう思うと自然と実が引き締まる。
ふと感じた気配に、鏡介は腰元の刀へと手を伸ばす。
一羽の大きな鳥が、空を翔けて行く。
「…………」
小さく息を零し、鏡介は刀から手を離す。―と言っても、直ぐに抜けるように臨戦態勢は決して解かない。
人の手が入らない、と言う事は、人が過ごすには厳しいという事。猟兵たる鏡介にとっては軽微な消耗であろうとも、現地のユーベルコヲド使いにとってはそうではない。
(余計な消耗はしたくない。基本的に戦闘は回避だな)
そんな思考を巡らせながら、鏡介はじっと葛の背中を見つめる。
(彼も、冬桜護の仕事に魅せられた者なのだろうか)
冬桜護が何時から存在するのかは、サクラミラージュ出身の鏡介でさえ知らない。
けれど、此の仕事を選ぼうと思った何かがあるのだろう。
「……そういった志を聞くのもまた、広報のひとつだろうか」
代り映えの無い景色を歩き続けて、早数刻。
今の処、近付く脅威の気配も無い。其れに、もしかしたら、幻朧桜に辿り着いた直後、即影朧との戦闘になる可能性も捨てきれない。
一度、小休止しても問題は無いだろう。そう考えて、鏡介は葛へと声を掛ける。
其れに了承した葛へ、どんな事を聞こうかと、鏡介はそっと思考を走らせる。
彼の話が、想いが。冬桜護と言う仕事の認知を増やすと共に、志願者が増えると良いな、と。そんな思いを抱きながら。
そんな様子を、頸を傾げたペンギンが遠くからじぃっと見つめていた―。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
見ろよアレス、一面真っ白だ!
呼ばれて手を差し出して
ははっ心配性 とうれしそうに笑う
太陽を貰ったみたいな気分だ
メインは確かにそうだけど
この場所の魅力も出せるよう
景色もうつすんだぞ!
なんて念押して隣を歩く
カメラ向けてるアレスのクソまじめな横顔が愛しくてくすりと笑い
…ん?あの丸っこいのなんだ
鳥?
アレってなんてなんてヤツ?
ぺんぎん…
へー飛ばねえのか
その代わり…あ!ほんとに泳いだ!
すげーな、ここの鳥たちは飛ばずに泳ぐのか
コレが土地にテキオーしてるっていうんだろ
な、アレス!ドヤっと同意を求めたその後ろ
別の鳥が飛んでいった
…ここの鳥も飛ぶな?
何でアイツら飛ばねぇんだ…?
来たことない土地にアレスとこれるのはうれしい
きっと白いものを見たり寒い時にこの場所に一緒に来たことを思い出すだろう
アレスのアルバムにもきっと追加して…
でもちょぉっとくらい広報に猟兵がいてもいいよなぁ?
葛からまたキャメラを預かって
ペンギンとアレスと…あと俺を画角に収めつつ声をかける
思い出だよ
ちゃんと広報になるからいいだろ
アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎
…あ、セリオス。待って
彼の手を己の手で包んで
炎の魔力で熱をじわりと送る
少しでも君が凍えてしまわないように、ね
映像は冬桜護の葛殿を中心に映した方がいいだろう
どうかこの氷の大地の事、そして冬桜護の誇りを
僕達とこの映像を見る人々に教えていただけないだろうか
話を聴きながら僕が撮影するよ
…ふと、隣を見れば
真白の世界を歩くセリオスがキラキラ結晶を纏っているように見えて
その姿が神秘的で…綺麗、で
ついキャメラを其方へ向けそうに…
(ハッ)(今撮るのは葛殿とこの地だろう!集中しなければ…!)
ぐっと耐え撮影続行
…少し残念に思うのは何でだろう
あれは…
キャメラを一度葛殿に返して確認
ペンギン、だね
彼らは空を飛ばない代わりに泳ぐ鳥だそうだ
彼の笑顔に同意しようとしたら
…あの子(ユキドリ)は飛んでいるね…?
あ、はは…でも、ペンギンは海の中を飛ぶとも聞いたよ
さて、続き、を…?
呼び声に振り向き…僕達を映すキャメラに気付く
…あ。
こら!ちゃんと広報の映像を撮らないと…!
…君って奴は…
…後でアルバムにも綴るからね
●
広がる地平は、何処までも白く。果ての見えぬ白に、空の色はとても良く映えた。
零れる吐息すら、白へと変じて空へと還る。
周囲に満ち満ちる静寂を破ったのは、無意識に零れたであろう笑い声。
「ふは、見ろよアレス、一面真っ白だ!」
大きく手を広げるセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)が、にかり、と太陽が如く輝かん笑みを浮かべて、後ろの相棒を振り返る。
「……あ、セリオス。待って」
セリオスの、むき出しの指先が寒さ故か赤に染まるのを見て、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)が慌てたように隣へと駆け寄る。
「手を出して?」
言われるままに、セリオスがそっと冷えた両手をアレクシスの前に差し出せば、ほんの少し大きな掌に包み込まれる。
冷たい指先に、じんわりとアレクシスの体温が伝わる。天色の瞳が伏せられて、ゆっくりと、ゆっくりと炎の魔力を灯して熱を送る。
「ははっ、心配性」
冷えた指先は、何時しか熱を取り戻して。其れは、まるで太陽の熱を分けて貰ったかのよう。
「少しでも君が凍えてしまわないように、ね」
開かれたアレクシスの瞳には、優しさの色が滲んでいた。其の笑みを受けて、セリオスも晴れやかな笑みを浮かべる。
「さて、と」
名残惜し気に離された掌に、今度はキャメラを構えて。前を歩く葛を中心に画像に収める。
「映像は冬桜護の葛殿を中心に写したほうがいいだろう」
過酷な仕事なれど、此の仕事でしか得られぬ感動を伝えられたら―。
「メインは確かにそうだけど、此の場所の魅力も出せるよう景色もうつすんだぞ!」
思っていたことは同じだったか、アレクシスの隣を歩くセリオスが、念を押す様に告げる。
「そうだね。……葛殿、幾つか話を聞きたいんだけれど、いいかな?」
『はい、勿論いいですよ』
―どうか、この氷の大地の事、そして冬桜護の誇りを。
「僕達とこの映像を見る人々に教えていただけないだろうか」
其れは、此の仕事に就く葛にしか分からぬ事。
『……そう、ですね。最初は、何でこんな場所に、と思っていました』
けれど、此処には、帝都には無い、ありのままの世界が見れるんです。
そう語る葛の瞳は、きらきらと輝いて。其の様子を逃さぬように、アレクシスは真剣な表情でキャメラを向ける。
「…………」
そんな真剣な横顔を、セリオスがじっと見つめる。
とろりと熱を宿す様に自分を見る表情も愛おしいけれど、針のような鋭さを伴った真剣な表情もまた堪らなく愛おしい。
じっと此方を見つめるセリオスに気付いたか、アレクシスが小さく首を傾げる。
声を出さず、セリオスはふるふると小さく首を振って、何でもない、と綻ぶような笑みを浮かべる。
葛に置いて行かれぬように、一歩前に出たセリオスの。夜空を映したような黒髪が、ひらりと靡く。
此の白に満ちた世界において、其の黒は、触れてはならぬ神秘のように煌めいて。儚い黒へ、アレクシスは思わず手を伸ばしかけ―。
(ハッ)
ふと、我に返る。足が止まったアレクシスを、セリオスが訝し気に振り返る。
まるで、絵画のような神秘なる光景に、キャメラを向けそうになっていた自分に気が付いて、アレクシスの頬がほんの僅か朱に染まる。
(今撮るのは、葛殿とこの地だろう!集中しなければ……!)
けれど。
「……少し、残念に思うのは、何でだろう」
もやもやと沸き上がる気持ちの名前が判らぬまま。そっとアレクシスが胸に手を当てる。
「アレスー?」
置いてくぞー、と言う声にアレクシスが顔を上げる。
「ああ、今行くよ、セリオス」
冷たい氷を踏み締め、|神秘的で綺麗な君《セリオス》の元へと駆け寄る。気付けば、胸中に燻っていた澱みは綺麗に消えていた。
「…………ん?」
遠くにぽつりと、黒い物体が浮かぶ。くい、とセリオスがアレクシスの服を引っ張り、其の方向へと細い指先を向ける。
「あの丸っこいのなんだ」
じぃーとセリオスが目を細めて、何かの姿を確認する。黒くて、丸くて。羽根のような物が生えているアレは―。
「鳥?……アレってなんてなんてヤツ?」
一度、キャメラを葛に返して、セリオスが指さした先を、アレクシスもじーっと見つめる。
「あれは……」
黒い体躯に白いお腹、黒々とした嘴に、平たい翼。そう、其れは―。
「ペンギン、だね」
「ぺんぎん……」
聞きなれぬ鳥の名を、セリオスが口の中で転がす。
「彼らは空を飛ばない代わりに、泳ぐ鳥だそうだ」
「へー、飛ばねえのか……」
其の言葉を裏付けるかのように、どぼん、と氷の割れ目からペンギンが凍える海の中へと身を躍らせ飛び込む。
「あ!ほんとに泳いだ!」
次々に、ペンギンたちが海の中へと飛び込む様子を見て。きらきらと瞳を輝かせながら、セリオスがペンギンの姿を見つめる。
「すげーな、ここの鳥たちは飛ばずに泳ぐのか」
知らなかった事、新たな発見。何よりも、其れを教えてくれたのがアレクシス、という事が、セリオスの胸に喜びを齎す。
「コレが土地にテキオーしてるっていうんだろ」
厳しい環境を生きる為に、其の身体を作り変え、今の姿へと相成った。其の事実に、感動を覚えながら、セリオスは興奮気味に頬を染めてアレクシスを見つめる。
「な、アレス!」
其の表情は、何処か誇らしげで―。其の後ろを、純白の鳥が優雅に空を翔けて行った。
「「………………」」
にこり、と笑みを浮かべたまま固まるアレクシスと、ぱちくりと瞳を瞬かせるセリオス。
しん、と静寂が場に満ちる。しばしの沈黙を打ち破ったのは、アレクシスだった。
「……|あの子《ユキドリ》は、飛んでいるね……?」
「……ここの鳥も、飛ぶな?何でアイツら飛ばねぇんだ……?」
ああ、でも。と慌てたようにアレクシスがペンギンについての補足を一つ。
「あ、はは……。でも、ペンギンは海の中を飛ぶとも聞いたよ」
ペンギンの泳ぐ速さは時速35キロ程。きっと、彼らにとっての空は、海なのだろう。
同じ青の中を、優雅に、自由に泳ぐ姿を想像すれば、自然と口角が持ち上がる。
「そっか。アイツらも自由に飛ぶんだな」
―嘗て、羽搏く事を赦されなかった黒い鳥が、ぽつりと呟く。
檻は壊れ、自由になった今でも。あの時眺めた空の寂しさは。
きゅ、とセリオスの手が柔らかな温もりに包まれる。炎の魔力を通していない、アレクシス自身の体温が、セリオスの手をじんわりと温める。
そろり、と視線を移せば、優しい笑みが自分に向けられていて。もう一人ではないのだと、セリオスの頬にじんわりと熱が灯った。
見た事ない場所、来た事の無い土地。
(アレスとこれるのはうれしい)
繋いだ掌は離される事無く。だから、セリオスも控えめにぎゅっと掌を握り返す。
すっと、宵空の青い瞳が、白の世界をじぃっと映す。
―きっと、白いものを見たり、寒い時に。この場所に一緒に来たことを思い出すだろう。
其れは、忘れられぬ一頁として。
(アレスのアルバムにもきっと追加して……)
陽の光を受けて、アレクシスの金色の髪が、きらりと輝く。白い世界に輝く|金色の光《大好きな色》が残らないのが、勿体なく感じて。
「……でもちょぉっとくらい広報に猟兵がいてもいいよなぁ?」
其の呟きを葛が拾ったのか。小さく笑いを零した葛から、セリオスがキャメラを受け取る。
遠くに見えるペンギンの姿と、アレクシス。端っこに自分の姿を納めた事を確認して。
「アーレス」
にっかり笑って、相棒の名を呼ぶ。くるっと振り返った彼の姿は、驚きに目を瞠らせて。
「……あ」
自分と、セリオスの姿が画角に映っている事に気付いたのだろう。ほんの少し、困ったような笑みを浮かべながら、アレクシスがセリオスを諫める。
「こら!ちゃんと広報の映像を撮らないと……!」
『大丈夫ですよ。映像は、担当の者がきちんと編集しますから』
「ほら、葛もこう言っているし!」
それに。
「……思い出だよ。この場所に、俺たちが来たって言う」
これだってちゃんと広報になるからいいだろ。と、そう言われてしまっては、アレクシスも何も言う事が出来ず。
「……もう、君って奴は……」
後でアルバムにも綴るからね、と困ったような笑みを浮かべて。
(アレスと二人で来たっていう思い出を。どうしてものこしたかったんだ)
そう、彼に告げたらどんな顔をするだろうか。其の言葉を、セリオスはぐっと飲み込んで。
「あ、あれ、幻朧桜の花じゃないか?」
白い大地にぽつりと、光り輝く光が見える。
目的地は、もうすぐ其処に―。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『正常を望む者』
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POW : わかってる、“自分”が何をしていたのか知っている
【理性を優先する自分と】【本能を優先する自分の】【記憶が混雑すること】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 食べたい、壊したい、満たされたい
自身の【瞳】が輝く間、【爪や牙やブレス】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : あなたを助けたいの
【桜色のブレス】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。
イラスト:黒無
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「サフィリア・ラズワルド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●孤独に塗れる
はらはらと、ひらひらと。何処であろうと幻朧桜は其の在り方を変える事は無く。
光り輝く花弁が、真白の大地に降り落ちては、儚く消える。
其の樹の根元。静かに佇む白と赤の竜。
静かに樹を見上げる姿は、何処か神聖な雰囲気を醸し出していた。
けれど、其れも一瞬。
ゆるりと此方へと視線を向けた竜の瞳は狂気に染まって。ぐるる、と喉元から呻き声をあげた。
刹那、向けられる敵意は、鋭く、重い。
自分を害する敵を排除せんと、翼を広げ、身を沈める。
唯人訪れぬ、未開の地。
静かに咲き誇る幻朧桜を見つめていた竜が願うのは、安寧か。其れとも、擾乱か。
孤独に塗れた竜を開放する為に、猟兵たちは各々の武具を構える。
―此の場に集った哀しき魂を沈める為にも。
そして、孤独なる竜を救う為にも。
八坂・詩織
(綺麗…)
氷の世界、幻朧桜の元に佇む白と赤の竜の姿につい綺麗だと思ってしまうけれど。
(でもなんだか、孤独を感じます…)
強制共生弾発動、【麻痺】で動きを止めます。
ごめんなさい、少し止まってください。
UC効果のテレパシーで語りかけ。
『落ち着いて。私達は貴方に危害を加える気はないんです。ただ、いつまでもここに居ることはできませんから…氷の世界で独りきりは寂しいでしょう?貴方が望むなら次の生へ転生することもできます、その手伝いに来たんです』
仮に言葉が通じなくても想いは伝わると信じて。
少しばかり痛い思いをさせてしまうかもしれませんけどごめんなさいね、と光の子安貝で【浄化】を乗せた光の【属性攻撃】。
●
氷の世界に、淡く輝く花の雨が降り注ぐ。
静かに、只静かに―。彩の宿らぬ瞳で、竜は静かに桜の木を見上げる。
其れは、まるで一枚の絵画のようで。
(綺麗……)
あれは本当に害成す影朧なのだろうか。そんな疑問が、詩織の頭をふっと過ぎる。
けれど。
(でもなんだか、孤独を感じます……)
無機質な瞳の奥に、小さな孤独が宿っているような、そんな気がして。一体、彼の竜は、幻朧桜に何を思うのだろう。
ざり、と氷を磨り潰す音が耳に届いたか。ゆるり、と竜の視線が詩織へと向けられる。
刹那、寒さとも違う、鋭い殺気が詩織の肌を突き刺す。先程の静寂は鳴りを潜め、竜の瞳は狂気を宿す。
『ギャオォ―――――!』
響く咆哮が、空気を揺らす。轟きが止むと同時に、竜―正常を望む者は紅の翼を広げ、詩織へと肉迫する。
咄嗟に身構える詩織の前に、ぶん、と空気を切る音と共に、紅の尾が迫る。
見た目はふわりと柔らかそうだけれど、振り回される音は、最早凶器の其れと同じく。
「……っ!」
後方へと跳躍するも、砕けた氷が詩織の白い肌に一筋の赤い線を描く。
掌を広げ、強制共生弾を撃ち出す。其れ等を打ち落とさんと振るった尾に、小さなキノコがゆるりと生える。
菌類の来訪者―ファンガスの力を借りたキノコが微細な胞子をまき散らす。
やがて、胞子は竜の神経を侵し、小さな鳴き声を上げながら、かくり、と前足の自由を奪い去る。
「ごめんなさい、少し止まってください」
尚も抗おうと、何とか身体を動かそうとする竜へ、詩織がテレパシーを送る。
「落ち着いて。私達は貴方に危害を加える気はないんです」
ぎん、と詩織を睨みつける瞳には、狂気と理性の光が交互に入れ替わるように瞬く。
其の様子は、詩織の瞳には物悲しく映る。
「いつまでもここに居ることはできませんから……。……氷の世界で独りきりは寂しいでしょう?」
―猟兵ではなく、銀誓館の学生として戦った日々。分かり合える相手ばかりでは無かったけれど、其れでも手を取り合える者は居た。
だから、きっと。
目の前の竜も、そうであると信じて。詩織は心を盡して言葉を紡ぐ。
「貴方が望むなら次の生へ転生することもできます。……私は、その手伝いに来たんです」
言葉通じずとも、想いは伝わる筈だと。
ゆっくりと竜の瞳が細められ―、けれども其れもまた狂気の波に呑まれ、消える。
大きな口を開き、上空へと桜色のブレスを吐き出せば、竜に寄生していたキノコは融けるように消える。
そんな様子を見て、詩織は傷ましい表情を浮かべる。
「貴方も、辛いのですね……」
狂気と理性の狭間を行ったり来たり。思う様に動けず、思考すら出来ず。
「少しばかり、痛い思いをさせてしまうかもしれません」
―ごめんなさい。
せめて、せめて。其の心が安らかになるように、と。そんな祈りを光の子安貝に込めて。
浄化の光宿した一撃が、哀しき竜に向かって放たれた―。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
雪、桜、そして幻獣の如き影朧。絵になる光景ではあるが……あの様子を見れば、そんな事は言っていられないな
奴は何故、何を思ってここにいるかは分からないが。とにかくやるべき事は1つだ
利剣を抜いて、漆の型【柳葉:梵】の構えで相対
万が一にも葛氏が狙われないように敵の注意を引き付けつつ、まずは防御と回避重視で立ち回り
相手の手数が多いのは厄介だが、位置取りを調整する事で十分な威力を発揮できないようにしつつ、刀で受け流し
動きを見極めて余裕ができたら、受け流しと共に敵の体勢を崩して隙を作って反撃に
まずは前脚と後脚にそれぞれ一撃。動きを鈍らせたところで胴体へ
きっちりと戦力を削っていこう
●
ぐるぐると、唸り声が静寂の世界を壊す。
其の振動を受けて、より一層幻朧桜が花弁を零す。
手負いの獣と、輝く桜。真白の世界に赤が広がっていく。
「雪、桜、そして幻獣の如き影朧。絵になる光景ではあるが……」
視線は決して、竜から逸らさず。鏡介は腰元の刀へと手を伸ばす。
ゆらゆらと理性と狂気の狭間で揺れていた紅と白の竜の瞳は、敵意と憎悪に染まり切って。
「あの様子を見れば、そんな事は言っていられないな」
此れ以上、影朧を放っておく訳にも行かない。
幻朧桜が此の地で咲く限り。新たな影朧は現れるのだから。ならば、脅威は少しでも少ない方が良い。
(奴が何を思ってここにいるかは分からないが……)
転生を望み、幻朧桜に惹かれてやって来たのか。果たしたい怨嗟が在るのか。
理性が擦り切れそうな竜に、其の答えを確かめる術は、無い。
「とにかく、やるべき事は1つだ」
此度の目標は、冬桜護の広報―。危険を乗り越えた先に、どんな光景が待っているのか。其れを見る為に。
しゃりん、と鞘から抜いた利剣の刀身が、ゆぅらりと淡紅色に煌めく。
浄化の力を宿る桃花を込めて作られた刀身は、清浄な空気を纏って。
ちらり、と葛へと視線を向ければ、心得たかのように葛が距離を取る。
小さく、深く鏡介が息を吐く。神経を研ぎ澄まし、相手の一挙一動を逃すまいと見据えれば、空気が変わったのを察したか、じり、と竜が一歩、後退る。
竜の瞳が妖しく輝くと同時に、翼羽搏かせ鏡介へと肉迫する。
勢いよく振り下ろされた腕には、ぎらり光る鋭い爪。利剣を薙ぎ、軌道をずらせど、次いで逆の手が振り下ろされ、鏡介を八つ裂きにせんと風を切る。
しっかりと動きを見れば、爪の動きを読む事も造作も無く。躱せぬものは、利剣で弾き、真上へと振り被った腕には、真横に跳躍する事で回避する。
振り下ろされた爪が、がつん、と大きな音を立てて氷を抉る。
狂気に呑まれている為か、竜の攻撃の軌道は読みやすく、単調だ。
これがもし、理性を取り戻していた状態であれば、また戦況は変わったのだろう。
がん、と爪と利剣がぶつかって、橙の火花が散っては消える。
ぶわりと吹いた風が、雪煙を巻き起こす。大きな咆哮轟かせ、鏡介を睨みつける竜に生じた、一瞬の隙。
両足に力を込めて、飛び込んだ先は、竜の懐。其れに気付き、大きく口を開き、鋭い牙にて貫こうとするが、寸でのところで身を捩る。
そのまま後方へ下がる事無く、前足を横薙ぎに。返す刃で後ろ足を一閃。
噴き出す血が、びしゃり、と雪を赤く染め上げる。血液の熱か、じわりと雪が融けだして。
己が体躯を支えきれず、どぅ、と音を立てて竜の身体が地に伏せる。
其の背に向け、鏡介が利剣を上段へと構え、降り下ろす。
「きっちりと戦力を削っていこう」
最早、竜に理性は残らず。
目の前の敵を殲滅せんと、大地に鮮血の花を零しながら、大きく息を吸い込んだ―。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
そうそう
危険な影朧が現れても何とかできるようにする為の活動で
冬桜護が倒れちゃ本末転倒だからよ
任せとけって
俺はともかく…アレスは│浄化して《おくって》やるのも得意なんだぜ
…今言葉は通じなさそうだけど
なんつーかあんま無駄に傷つけたくはねぇよなぁ
それなら、俺が惹き付けつつ逃げ回ってアレスが隙を作る係か?
よぉしと気合を入れて駆けようと…なんだ?
…ああ、そんじゃ俺も
夜明けを背負うってことで
アレスのマントをつけて
歌で身体強化
青空を翻しながら
飛ぶように跳ねて駆けて注意を引く
他に攻撃が行かないように
回避に専念しながら走り抜け
どうしても避けられなさそうなブレスが来るなら…そこがチャンスだ
アレスの行動に合わせて雪に紛れ居場所をスイッチ
アレスの背を押すように【赤星の盟約】を歌い上げる
…ついでに、俺の熱も連れてってくれよな
歌に紛れて炎の魔力を送り、アレスの剣に添わせる
少しでも暖かく終われるように
このあとの鎮魂の言葉が届くように
アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎
葛殿、貴方は離れた所へ
この地の影朧を鎮めるのも冬桜護のお役目であると思うが…
此処は私達にお任せを
先ずは竜に届くようにしないと
駆けようとするセリオスに待ったを
今日はその係を僕にも担わせてくれないか
己のマントを差し出し
交換しよう。…共におくるのは優しい夜である事も伝えたいんだ
星空を纏い、僕は地を駆けよう
雪に反射させるように光属性を放って竜を牽制
風属性の追い風で彼を掩護するよ
…君も自由に飛んでおいで。セリオス
ブレスの瞬間を見切れば
雪を巻き上げ彼を雪で隠し
前に出て盾のオーラ『閃壁』で受け止める!
…この大地は美しいが…独りでは魂まで凍えてしまいそうだ
だから竜は桜の元に来たのだろうか
ブレスを怪力で押し返して生じる隙を狙い
【聖域の戦歌】展開
寒さを、狂気を、孤独を和らげ鎮め…癒すように
竜を浄化と狂気耐性の光で包もう
瞳に狂気の色が消えれば…
君を温かいところへと導かせてほしいんだ
春の日差しを、光の花を
…彼の歌を、どうか供に
僕の光とセリオスの熱を合わせた祈りの天光で送るよ
―その魂に安寧の春を
●
空気が、震える。ずん、と圧し掛かる圧は、とても重い。
理性を失った竜が辿り着くのは、破壊の本能。
目の前に映る全てを壊さんと動く、暴力の権化―。
「葛殿、貴方は離れた所へ」
分別の付かぬ獣程、恐ろしい物は居ない。葛に攻撃の手が届かぬように、アレクシスは声を掛ける。
「この地の影朧を鎮めるのも冬桜護のお役目であると思うが……」
どれ程の間、彼の竜は此の地に居たのだろうか。其れ程までに、相手の力は増して。
「そうそう。危険な影朧が現れても何とかできるようにする為の活動で、冬桜護が倒れちゃ本末転倒だからよ」
にっこりと、太陽が如く笑みを浮かべながら、セリオスが葛を安心させるよう声を紡ぐ。
「任せとけって。な!アレス」
指の関節を鳴らしながら、セリオスが傍らの相棒を振り返る。
「俺はともかく……。アレスは|浄化して《おくって》やるのも得意なんだぜ!」
誇らしげに、我が事のように。セリオスの言葉に、アレクシスが小さく頷く。
「此処は私達にお任せを」
『……ご武運を』
其の言葉を受けて、葛が其の場からそっと離脱する。
後に残ったのは、幻朧桜と、血華咲かせる竜と、猟兵二人―。
どん、と手負いの竜が尻尾を氷の大地へと叩きつける。
「……今言葉は通じ無さそうだけど。なんつーかあんま無駄に傷つけたくはねぇよなぁ」
傷ましき過去から生まれたオブリビオンー影朧。個体差はあれど、彼らとてこのような姿を望んだわけではないから。
だから。其の苦痛を永く与えるような事はしたくないと、セリオスが小さく呟く。
其の呟きを拾って、アレクシスも頷き一つ。
「うっし、じゃあいつものやるか!」
相手を引き付けている間に、アレクシスが隙を作る。意気込み充分に、セリオスが腕をぐるりと一振り。
―通例通り、手負いの竜へセリオスが駆け出そうと。
「待つんだ、セリオス」
一歩、足を踏み出した彼を止めたのは、アレクシス。疑問符を浮かべながら、セリオスがアレクシスの方を振り返れば、柔らかな笑みを纏って彼の姿が瞳に写る。
「今日はその係を僕にも担わせてくれないか」
そんな言葉に、セリオスの瞳が驚きに瞬く。
ぱちり、と軽い音が響いて。己のマントの留め具を外したアレクシスが、そのままマントをセリオスへと差し出す。
「交換しよう。……共におくるのは優しい夜である事も伝えたいんだ」
其の言葉を受けて、セリオスもぱちん、と濡羽色のマントを外しアレクシスへと差し出す。
「……ああ、そんじゃ俺も夜明けを背負うってことで」
ばさり、とマントが翻って。
―白金の鎧は、やがて訪れる夜を伴う様に。
―漆黒の衣は、やがて訪れる朝を伴う様に。
優しい眠りを纏う夜は、澄んだ目覚めを呼ぶ朝へと。彼の竜が、其の輪に戻れるように。
声高らかに、黒い鳥は歌を囀る。届け、届けと願いを込めて。
かっ、と身体の奥に熱が、力が灯る。互いが互いを見つめて、大きく頷いて。
駆けだしたのは、同時。
翼羽搏かせ、竜の巻き起こした鋭い風が、鋭利なる刃となって二人に襲い掛かる。
砕けた氷の欠片が、きらきら輝いて。アレクシスの纏った濡羽のマントに星が輝く。
抜き放った剣は、雪の真白を受けて淡く光を宿すかのよう。
目を晦ませるように、横薙ぎに振るえば、危険と判断したのか竜は場に留まる。
そんな夜を塗り替えるかのように、セリオスが纏う紺碧のマントがひらりひらりと周囲を舞う。
がむしゃらに降り下ろされる尾を、爪を。軽快な動きで、飛ぶように。思わず、目で追ってしまうような、身軽さでセリオスは場を駆ける。
(なるべく、この場所も荒らしたくないんだよなぁ)
びし、と叩きつけられた尾は、氷の地面に罅割れを生じさせる。頬に当たる氷の礫は、セリオスの体温を受けてじわりと水に。
横薙ぎに振るわれた尾を、回避しようと足に力を込めれば、感じるのは風の息吹。
竜から視線を逸らさず、掲げられたアレクシスの掌には風の魔力。
「さんきゅー、アレス!」
だん、と踏み込み竜を飛び越えるように空を舞う。其の動きを掩護するのは、アレクシスの追い風。
「……君も自由に飛んでおいで。セリオス」
其の動きに焦れたのか、ギャオ!と竜が咆哮を上げ、口腔へ濃密度の魔力が練られる。
とん、と軽い音を立てて着地したセリオスの目の前へ、アレクシスが下段から剣を振り上げ雪を巻き起こす。
二人の姿が雪煙に隠れた瞬間に、立ち位置が入れ替わり、轟と放たれたブレスはアレクシスの放った盾のオーラにぶつかり拡散する。
二つの力がぶつかった余波か。周囲に強い風が巻き起こる。
普段は自身が纏う黒のマントの、其の背に。セリオスがそっと触れる。
小さく囀る様に紡がれた歌が、アレクシスの耳に届く。
(……この大地は美しいが、……独りでは魂まで凍えてしまいそうだ)
朧気にしか思い出せぬ、故郷の姿。けれど、覚えている其の歌と。
―いまはほがらかにわらう、きみが。攫われたあの日、一度アレクシスの心は凍った。
探して、探して。ようやく、氷は溶けたのだ。
(だから、竜は桜の元に来たのだろうか)
アレクシスにとってのセリオスが、魂の拠り所であるように。影朧にとっての幻朧桜が、そうであるように。
未だ吐き出されるブレスは、渾身の力を揮って前へ、前へと押し返す。
次第に勢いを失うブレスが消える瞬間、光が降った。
「孤独と戦い続けた君へ……」
凍える寒さを、抗えぬ狂気を。此れまでの孤独を。寂しい、寂しいと泣き叫ぶような竜の、孤独を和らげ、鎮め。少しでも其の傷が癒えるように。
天から降り注ぐ光を見上げた竜の瞳が、ゆっくりと細められる。
傷付いた竜へそっとアレクシスが手を伸ばし、浄化の光で竜を包む。
「君を暖かいところへと導かせてほしいんだ」
もう、凍える事の無いように。其の掌に、もう一つ。白い手が重ねられる。
「……ついでに、俺の熱も連れてってくれよな」
雪を溶かす、太陽の熱。冬から、春へ。
柔らかく、暖かな春の日差しを。命芽吹く、光の花を。
―優しい声が、遠く、遠く聞こえる。
「……彼の歌を、どうか供に」
竜の瞳から、狂気が消え失せる。ゆるりと閉じられる瞳に写るのは、暖かな笑み。
「――その魂に、安寧の春を」
さむくて、つらい、ふゆがおわる。
やってくるのは、暖かな春。何時か来る、新たな始まり。
正常を望む竜は、やっと安寧の眠りを得たのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『桜幻想譚』
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POW : 花見を楽しむ
SPD : 花見を楽しむ
WIZ : 花見を楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●夜の帳
『ありがとうございました。おかげで良い映像が集まりました』
深々と、冬桜護たる葛が猟兵へと頭を下げる。
幻朧桜は、何事も無かったかのように花雨を降らせる。
哀しい時間は過ぎ去った。
後は、鎮めの時間。
気付けば、日は落ちて。
夜の帳が降りて、ひとつ、またひとつと星が煌きを灯す。
全方位、星に囲まれた夜空の姿は圧巻で。
思わず息を呑む。
視界の端で、淡い光がゆぅらり揺れる。
夜空を包むように、光の膜がゆっくりと曳かれる。
優しい翠の光が、|極光《オーロラ》がゆらゆら揺れる。
はらはら零れる幻朧桜の花弁が、翠の極光によく映える。
宴はささやかなものなれど。哀しみに塗れた影朧が少しでも賑わいに心癒されるように。
雪に覆われた桜を眺めながら、一時の安らぎを。
さぁ、何をして過ごそうか―。
夜刀神・鏡介
帰路も考えればこれで万事完了とはいかないが
だからこそ今は、少しだけゆっくりさせてもらうとしよう
まあ、これも仕事の内と言っていいだろう
景色を眺めつつ、熱いコーヒーでも飲んで一息
ふと広報用の写真の事が頭をよぎる。なにせ滅多に見れる景色じゃないし、話題作りにはもってこいだろう
……だが、これを撮るのはなんとなく無粋な気もして、撮らない事にする
本当にただの感覚でしかないんだけど
さておき、だ。あの影朧と、そしてもしかしたら此処にいるかもしれない他の影朧達も
彼らが幸せに転生できることを、陰ながらにでも祈っておこう
星に願いをなんてガラでもないが、これだけの星空だ。少しくらい、叶うような気がするだろう
●
月の咲かぬ夜。暗い空を彩るのは、遠く在る星と音無く揺れる|極光《オーロラ》の翠。
そんな風景に寄り添うように、幻朧桜の淡く光る花弁が一枚、また一枚と降零れる。
与えられた任務は、無事に完了と相成った。とはいえ。
(帰路も考えればこれで万事完了とはいかないが……)
無事に帰るまでが、何とやら。鏡介がゆるりと視線を上げれば、氷の世界に咲き誇る幻朧桜の姿。
通常であれば、絶対に観る事が出来ない、厳しくも美しい自然の姿。
「……今は、少しだけゆっくりさせてもらうとしよう」
静かに、只静かに。桜の傍に寄りそう事が、影朧の慰めになると言うのであれば。
「まあ、これも仕事の内と言っていいだろう」
ゆるりとカップを傾ければ、熱いコーヒーが喉元を通る。冷えた身体に、カッとした熱がじんわりと灯る。
無意識のうちに、鏡介が大きく息を零す。ゆっくりと指先に熱が戻る。
視界の端では、風も無いのに|極光《オーロラ》がゆらゆら揺れて。其れに合わせるように、幻朧桜がひらひら花雨を降らせる。
ふと、鏡介の頭に広報用の写真の事が過ぎる。
(……滅多に見れる景色じゃないし、話題作りにはもってこいだろう)
此の世の物とは思えぬ幻想風景。風景見たさに、冬桜護に志願する者も現れるかもしれない。
そう考えて、そっとキャメラに手を伸ばした。―けれど、鏡介の手は空を切る。
ふるふる、と小さく首を振って、再び空を見上げる。満天の星が、揺らめく極光が、輝く桜花が黒檀の瞳に映る。
(……これを撮るのは、なんだか。……勿体ない)
此の光景を映像に収めるのは、違う、と。何かを思った訳ではなく、漠然とただそう感じただけ。
「……これは、写真ではなく。直接、自分の目で観るべきだ」
―映像に収めても、此の星空と|極光《オーロラ》、幻朧桜は素晴らしいだろう。
けれど、映像と、直接現地で観るのとでは、感動の振り幅が違う。
「……さておき、だ」
ゆるゆると首を振って思考を打ち切り。そうして、先の戦闘で出会った、神秘の桜に惹かれた影朧を思い出す。
彼の竜は実体を得たけれど、哀しき想いを抱いた魂は、見えぬだけで幻朧桜の元に集っているのかもしれない。
感傷なんてらしくないと主ながら、鏡介の瞳がゆるりと閉じられる。
―哀しみに染まった彼らが、幸せに転生できるように。
微力ながら、彼らの次の生が、満たされた物であるよう、陰ながら祈りを捧ぐ。
「星に願いを、……なんてガラでもないな」
自分の行動に、思わず小さく笑みを零す。何処を見渡しても、星が煌く此の場所なら。
些細な願い事も叶う様な気がして。
「本当に、ガラでもないな」
そう独り言ちて、温くなったコーヒーを口に含む。
そんな鏡介の頭上で、一条の光を零した星が、ゆっくりと流れて消えた。
大成功
🔵🔵🔵
八坂・詩織
葛さん、撮影お疲れ様でした。よろしければこちらをどうぞ。
指定UCの温かいチャイを差し出す。寒かったでしょう、これは寒冷耐性も付きますし体が温まりますよ。
見上げれば空には南極の星達とゆらめくオーロラ。
わぁ…すごい…
オーロラ、動画や写真では何度も見たけれど。
本物を見るのは初めてで。なんというか…言葉にできませんね。この感動を伝えたいのに、なんて表現したらいいのかわからない。
葛さん、これから冬桜護を目指す皆さんに向けてメッセージを贈りたいんですがいいですか?
『過酷な環境であっても、乗り越えて初めて見える景色があります。それはきっと、想像以上に素晴らしいものです』
私はきっと、今日のオーロラを忘れない。
●
明るかった空は、夜の衣に覆われて。陽が落ちてから、凍えるような空気は鋭さを増した。
雪女である詩織にとって、寒さは全く気にならないけれど、唯人である葛にとってはそうもいかない。
「葛さん、撮影お疲れ様でした」
嫋やかな笑みを浮かべ、空を見上げる葛へ詩織がゆっくりと近付く。
「よろしければこちらをどうぞ」
其の手には、暖かなチャイ。
「寒かったでしょう。これは寒冷耐性も付きますし、体が温まりますよ」
『ありがとうございます。……いただきますね』
小さく礼を告げて、葛がチャイをそうっと口に含む。ぴりっとしたシナモンの香りが鼻腔を抜ける。
こくりと飲み下せば、ほかほかと身体の中から熱が灯る。ほぅ、と安堵の息を零す葛を見やって、詩織がゆっくりと空を見上げる。
夜空を彩る、宝石のような煌き。其の煌きを閉じ込めるかのように、ゆらり、ゆらりと|極光《オーロラ》が揺らめく。
「わぁ……、すごい……」
ぽつり、と感嘆の声が詩織の唇から零れる。
動画や写真で、|極光《オーロラ》は何度も目にしてきた。開いたページをそっと撫でて。綺麗、と感じた記憶は懐かしい。
けれど、今、此の目の前に広がる光景は。
「………………」
此れが、本物の|極光《オーロラ》かと、詩織は小さく息を呑む。ゆらゆら揺れる、翠の光は、言葉に出来ぬ程美しい。
淡く輝く幻朧桜が、其の様子を見守る様に花を降らせる。
真白の世界に、彩が咲く。幻想的な其の光景に、詩織の胸がきゅっと切なく締め付けられる。
言葉を紡ごうとして、はくり、と吐息が零れる。じわりと目の端から溢れる雫には、気付かない振りをして。
(……この感動を伝えたいのに、なんて表現したらいいのかわからない)
今は唯、此の風景を眺めていたい。ひらり、舞う桜花が詩織の元へとゆっくりと落ちた。
そっと、指先で雫を拭って、詩織は葛へと向き直る。
「葛さん」
柔らかく、けれど何処か緊張を孕んだ声で、冬桜護たる葛の名を呼ぶ。
其の言葉に応えて、葛もまた真剣な表情を浮かべ、詩織の瞳を見つめ返す。
「……これから冬桜護を目指す皆さんに向けて、メッセージを贈りたいんですがいいですか?」
ぜひお願いします、と告げて、葛がキャメラを構える。
輝く星々と揺らめく|極光《オーロラ》、降り注ぐ桜雨を背に、柔らかく笑みを浮かべた詩織が唇を開く。
「冬桜護は、大変なお仕事と存じます。……けれど」
キャメラに向けていた視線を、夜空へと移して。
「過酷な環境であっても、乗り越えて初めて見える景色があります」
銀の雨降る世界で得た経験が詩織の背を後押しする。
―これは、冬桜護を目指す人々へ。
―そして、銀誓館学園の教え子へと何時か伝えたい事。
「それはきっと、想像以上に素晴らしいものです」
困難を越えた先に見える景色は、掛け替えのない想い出になる事だろう。
(私はきっと、今日のオーロラを忘れない)
南の果て。奇跡が折り重なった此の光景は、彼女の記憶に何時までも残り続ける事だろう。
大成功
🔵🔵🔵
セリオス・アリス
【双星】アドリブ◎
じっくり眺めたいけど…さむっ
ん?ココア入れるのか?
ウキウキそわそわ近寄っていく
アレスの赤い炎の黒猫みたいに
俺も何かお手伝いできるかな?
そうだ!アレス、強火にしたらすぐできるんじゃね?
俺、手つだ…え?
マシュマロを入れる係…
言い切る前にもっと役に立てそうな提案をされ
嬉しそうなドヤ顔で
アレスが助かるなら
よぉし俺がしっかり手伝ってやる
出来上がったココアはすごく美味しくて
優しい味がしてお腹も心も暖まる
けど…この氷の大地じゃちょっと足りない
人肌で暖をとるとか言うし…ちょっとくらいくっついてもいいんじゃね?
程よい言い訳を見つけたから
アレスにすすっと近寄って
…いいのか?
もっと近くに、マントの中に招かれた
一つも寒いとこなんかなくなったなぁ
じっくりふたりで空と桜を眺めていたら
アレスがアルバムを取り出した
帰ってからにしねえの?って聞いたけど
確かに、ここの空気ごと写し取れそうだもんな
…俺も、この景色の中にちゃんといるか気になるな
なあアレス、今記したアルバム見せてくれよ
秘密って、なんだよそれぇ!
アレクシス・ミラ
【双星】アドリブ◎
まるで暁光のようだね…!
さて、初めて見る光景と宴のお供にホットココアを作ろうか
葛殿に火と小さな鍋等器具を借りよう
鍋でココアを混ぜながら軽く炒て
砂糖と牛乳も少しずつ…
(強火は流石に…
…いや、此方の黒猫さんの気持ちは大切にしたい)
君はマシュマロを入れる係をしてくれるかい?この仕上げは重要なんだ
手伝ってくれると助かるのだけど…いい?
ふたりで作ったココアを楽しんでいると
傍に落ち着く熱がひとつ
熱を分けるにも手を握るだけじゃ足りないような気がして
…もっとこっちにおいで、セリオス
抱き寄せ、マントの中に迎え入れる
…心の裡からあたたかい喜びと愛おしさが燈るような心地がした
ふたりで極光と桜を眺めていたら
先程のキャメラのように、想い綴るアルバムにこの景色を記したくなってそれを取り出す
僕から見える景色がとても綺麗だから
この空気ごと残したくなってね
見せての言葉に瞬く
普段なら見せていたが…
…まだだーめ
秘密、と唇に人差し指を当てる
(…その輝く表情も残したくなったから
今日の頁は、もう少しだけ僕の秘密)
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真白の世界が、闇に染まる。人が訪れぬ未開の地。
住まう動物たちも、すっかりと息を潜めて。痛い程の静寂が、場を包む。
空気が澄んでいるからか、空を彩る星は一等煌きを宿す。
そんな星々を包むのは、柔らかな翠の帷。ゆらり光を伴う景色は、まるで―。
「まるで暁光のようだね……!」
夜闇を照らす、優しくまろい朝の光。夜と朝の境目―。そんな風景に、アレクシスは目を奪われる。
「……さむっ」
ぽつり、と隣から零れた言葉に。すぐさまアレクシスの視線がじぃと向けられる。
同じように、空に見入っていたセリオスが、ほぅ、と己が手を温めるように掌に息を零す。
(流石に陽が落ちれば気温も下がるか)
ならば、寒さに凍えぬように。些細な宴のお供に。
「ホットココアを作ろうか」
離れた位置にて、幻朧桜の様子を眺めていた葛にアレクシスが声を掛け、小鍋と火を借りる。
「ん?ココア入れるのか?」
ぱぁ、と華やかな笑みを浮かべて、セリオスが傍らへと立つ。
小鍋に、ココアと砂糖、少量の水を入れて、ゆっくりと温める。焦げぬよう、ダマにならぬ様にペースト状になるまでココアを練って。
もったりとしたペースト状になったら、少しずつ牛乳を加えて混ぜていく。
ふんわりと甘い匂いが周囲に漂う。
(アレスの赤い炎の黒猫みたいに、俺も何かお手伝いできるかな?)
いつも彼の料理を手伝う黒猫の姿を思い出す。こんな弱火じゃなくて、がんがん強火で熱すればいいのでは!
そんな天啓を受けて。
「そうだ!アレス、強火にしたらすぐできるんじゃね?」
星を宿したセリオスの瞳がきらきらと輝いて、期待を込めてアレクシスをじぃっと見つめる。
(強火は流石に……)
其れだと焦げ付いてしまう、とか、風味が飛んでしまう、なんて事を考えながらアレクシスは穏やかな笑みをセリオスへと向ける。
(……いや、此方の黒猫さんの気持ちは大切にしたい)
其の結果がどうあれ、手伝いたい、という気持ちを無下にしたくない。
「俺、手つだ……」
今にも掌に炎を生み出しそうなセリオスへ、アレクシスは一つの小袋を持たせる。
「…………え?」
かさり、とした其の袋には―。
「君はマシュマロを入れる係をしてくれるかい?」
マシュマロ、と書かれた小袋を受け取ったセリオスはぱちくりと瞳を瞬かせる。
「マシュマロを入れる係……?」
其の表情が、可愛らしくて。ついセリオスの頭に手を伸ばそうとするけれど、今は調理中。ぐっと其の衝動をアレクシスは堪えて。きわめて真剣に、セリオスへ語りかける。
「いいかい、セリオス。この仕上げは重要なんだ。この仕上げ一つでココアの美味しさが変わると言ってもいい」
「おいしさが、変わる……」
セリオスの白い頬が、興奮で上気し、赤く色付く。あと一押しだ、とアレクシスが更に言葉を重ねる。
「この重要な仕上げを、手伝ってくれると助かるのだけど……、いい?」
そんな役割を与えられたセリオスは、にんまりと嬉しそうに、得意気な笑みを浮かべて。
「よぉし、俺がしっかり手伝ってやる!」
「頼んだよ、セリオス」
ほこほこと、ココアが煮立つ前に、アレクシスが二つのカップにココアを注ぎ入れて。其の上にセリオスがそっとマシュマロを乗せる。
ゆらゆらとココア海で揺蕩うマシュマロは、じんわりと形を崩していく。
カップの熱が、掌にじんわりと伝わる。まだ、ほんの少し熱いココアを口に含めば、優しい甘さが口いっぱいに広がる。
ゆっくりと其れへと視線を移せば、夜空に輝く極光と、花雨降らせる幻朧桜が目に映る。
此の場所でなければ、二度と観る事が出来ないであろう景色。此の素晴らしい景色は冬桜護の人々の特権。
―嗚呼、ここに来れて良かった。
こくり、とココアを飲み下すと、ぽすり、と肩に寄りかかる重み。
ゆるりと視線を向ければ、ぺたり、と身を寄せるセリオスの姿。
「……人肌で暖をとるとか、言うし。―ちょっとくらい、くっついてもいいんじゃね?」
よくよく見れば、其の頬は朱に染まって。きゅ、とアレクシスの胸に熱が灯る。
手を握ろうとして、けれど其れじゃ足りないような気がして。
「……もっとこっちにおいで、セリオス」
ばさり、とマントを持ち上げて、セリオスを招き入れる。
「……いいのか?」
何処か遠慮がちに、セリオスの瞳がアレクシスをじぃと見つめて。すすっと近付けば、逞しい腕がぎゅっとセリオスの腰を引き寄せる。
先程感じていた寒さは消えて。ぽかぽかとした熱が、心を温める。
「一つも寒いとこなんかなくなったなぁ」
へへ、と嬉しそうに笑うセリオスの姿に、アレクシスの胸中に喜びと愛おしさが熱となって沸き上がる。
「そうだね。……とても暖かい」
其の言葉と共に、アレクシスの腕に力が籠り、セリオスとの距離が更に短くなる。
そんな様子を、瞬く星と揺らめく極光。そして寒さに屈する事無い幻朧桜が静かに見守っていた。
ゆらゆら、きらきら、はらはら。
星も、極光も、幻朧桜も。それぞれが、それぞれの動きを持っていて。どれだけ眺めていても、飽きる事は無く。
しばらくぼんやりと景色を眺めていた二人であったけれど、徐にアレクシスがアルバムを取り出し、頁を開く。
「帰ってからにしねえの?」
其れは、記憶をなぞり綴るアルバム。普段なら、帰ってから想い出を振り返る様に、頁に綴るのだけれど。
「……僕から見える景色がとても綺麗だから。この空気ごと残したくなってね」
そぅっと、頁に触れれば、じわ、と想い出が綴られる。
「確かに、ここの空気ごと写し取れそうだもんな」
つん、と突き刺すような澄んだ空気も。暖かく甘いココアの味も。じんわりとした人肌のぬくもりも。
頁を開けば、きっと鮮明に思い出せる事だろう。
けれど、綴られた頁を見て満足そうに緩い笑みを浮かべるアレクシスの姿が気になって。
「……俺も、この景色の中にちゃんといるか気になるな」
そんなに、焦れる様な笑みを浮かべる程、アルバムに綴られたのは素晴らしい景色なのだろうか。
気になれば、何処までも気になってしまう。だから。
「なあアレス、今記したアルバム見せてくれよ」
其の言葉に、思わずアレクシスが瞳を瞬かせる。普段の彼ならば、いいよ、と即答していただろう。
けれど、返ってきたのは予想外の反応だった。
「……まだだぁーめ」
ちょん、とセリオスの薄い唇に、そっと自身の人差し指を当てて。
―秘密。
耳元で小さく囁けば、むぅ、と小さく膨れる姿が目に映る。
「ひ、秘密って、なんだよそれぇ!」
―え、それって俺がいないって事か!なぁ、アレス!!
夜色の瞳が、星の光を映してもう一つの星空となって。揺らめく極光と、咲き誇る幻朧桜に見惚れる君の、輝く表情を遺したくなったから。
(今日の頁は、もう少し僕だけの秘密)
ぷんすこと頬を膨らませるセリオスの姿を見て、アレクシスが小さく笑みを零す。
「あ、笑った。笑ったな!」
こうして、賑やかな夜は過ぎていく。
いつかの未来、今日と言う記憶の頁を見て、二人はどのように想い出を語るのだろう。
其れは、きっと―。
こうして、鎮魂の宴は幕を閉じる。
此の賑やかな声は、哀しさに呑まれた魂に安らぎを。
そして。出来上がった冬桜護の広報映像を見て、冬桜護への志願者もまた緩やかに増えていく事だろう。
大成功
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