●
山岳地帯の谷間に広がる広大な森は、野生動物たちが生命を謳歌する、自然の楽園であった。
その森林に、怒号が響く。
「ぬるいわぁぁぁッ!!」
木々を揺らす轟音とともに、その冒険者は木に叩きつけられた。口から血を吐きながら、衝撃の主を見上げる。
筋骨隆々な体躯に牛の頭を持つ巨人は、人の体を容易く砕くであろう斧を担いで、鼻息荒く冒険者を睨み付けている。
「笑止! 貴様程度では、我輩を倒せぬわ! 出直して来いッ!」
罵声を浴びせて、その巨漢――ミノタウロスは、森の奥へ消えた。
冒険者は唇を噛んだ。腕には自信があったのに、彼の剣は巨体にかすり傷を与えた程度で、たった一撃受けただけでこのざまだ。
ギルドに討伐依頼が出され続けているこの化け物を倒せれば、名声を得られると思ったのに。
そこらのモンスターとは比較にならない、想像を遥かに超えた力だった。
「くそ……」
木々の隙間から差し込む光を見上げ、冒険者は悔しげに呻く。
剣を杖にして、その冒険者は去って行った。いつかきっと、ミノタウロスを打ち倒し、雪辱を果たすと胸に誓って。
ここは『力の森』。
幾多もの冒険者が、己の腕前を証明するために訪れる森。
そして、未だかつて誰も勝った者がいない、圧倒的な強者が住まう森。
◆
「変なオブリビオンもいるもんねー」
予知を見たらしいチェリカ・ロンド(聖なる光のバーゲンセール・f05395)は、何やら複雑な顔をしていた。
「まぁいつも通りといえばいつも通りなのよ。冒険者を返り討ちにするオブリビオン、珍しくないもの」
そうは言うものの、チェリカは何か腑に落ちないというように、腕を組んでうんうんと唸っている。
ともかく、オブリビオンの出現とあれば、それは世界の危機と直結している。即ち、猟兵の出番だ。
人差し指を立てて、チェリカが説明を始めた。
「えっとね、アックス&ウィザーズの山岳地帯にある森に、めっちゃくちゃ強いミノタウロスがいるの。冒険者のギルドに討伐依頼が出てるみたいね」
並のモンスターであれば、冒険者の日銭稼ぎに討伐されて終わりだ。しかしこのミノタウロスは、長い間討伐依頼が出っぱなしらしい。
つまり、誰も勝てていないということだ。徒党を組んでも、あるいは相当な実力者であっても、ことごとく返り討ちにされている。
「でも、ちょっと変なのよね。そいつは倒した冒険者が生きてても、止めを刺さないの。わざと逃してるっていうか……。そのせいで、逆に腕試しの的になってるみたいなのよ。倒せたら一躍有名人ってわけね」
しかも、ミノタウロスは普段は森から出ず人も襲わず、畑を耕し、果物やら野菜やらを食べて静かに暮らしているらしい。動物たちとの折り合いも悪くないようだ。
奇妙な話だが、オブリビオンだ。放置すれば、いずれ冒険者たちに甚大な被害を出しかねない。
「それでね、みんなには冒険者より先に敵を見つけて、倒してほしいの」
森にはすでに流浪の黒魔術師が一人で踏み込んでいる。ミノタウロス討伐を狙っているのだろうが、無謀がすぎる。遭遇してしまえば、危険だ。
即座にミノタウロスのもとへ転送できればよいのだが、チェリカが顔色を曇らせた。
「ごめんね、みんな。森の奥ってのは分かるんだけど、細かい場所が特定できなかったわ。なるべく明るいところに転送するから、そこから森の中を探してほしいの」
運がよければ、例の魔術師を見つけられるかもしれない。森は広大だが、なるべく速やかにミノタウロスを発見したいところだ。
グリモアを輝かせ転送の準備をしながら、チェリカは「最後に」と付け足した。
「ミノタウロスに挑戦する冒険者がいっぱいいるせいで『力の森』なんて呼ばれてるんだけど、ホントは動物たちが仲良く暮らしてる穏やかな森なの。だから、燃やすとかはしないでね。お願いよ」
戦いの場に転送されていく猟兵たちに、チェリカは懇願するように手を組んだ。
七篠文
どうも、七篠です。
今回はアックス&ウィザーズです。
探索の難易度は易しめですが、戦闘は激しめです。
どちらも個性あふれるプレイングほど、ボーナスと七篠の筆が乗りやすい傾向があります。
まずは、力の森を探索してもらいます。深い森の中ですが、足跡だったり食べ残しだったりを探してみましょう。
とはいえ、ミノタウロスはでかいので、いくら森が暗くてもすぐに見つかるかもしれません。足音も馬鹿みたいに大きいです。
もし早期に発見した場合は、何らかの方法で味方に伝えるか、仲間が来るまで尾行しておくことをお勧めします。一人か少人数で手を出すと、えらいことになります。
敵を発見し、仲間が全員が揃ったら、戦闘開始です。
ミノタウロスは強者を待ち侘びているようです。皆さんの力を見せてやりましょう。
森という場所を生かすのも面白いですし、広いところに誘い出すもよいかもしれません。
カッコよくボコボコにしましょう。
七篠はアドリブが多く、連携もどんどんさせます。あと文章が長いです。
「アドリブ少なく!」「連携しないで!」「文章短く!」とご希望の方は、プレイング にその件を一言書いてください。そのようにします。
グループで参加の場合は、合言葉のようなものを入れてください。
それでは、よい冒険を。皆さんの熱いプレイングをお待ちしています!
第1章 冒険
『巨漢のモンスター』
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POW : 森の中を歩き回ったり探す
SPD : 罠を仕掛けて様子を見る
WIZ : 目撃情報を整理する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エーカ・ライスフェルト
冒険者のギルドで聞き込み
回答内容より回答時の態度や回答者の精神状態を重視する。絶対大げさに言うから
「私が知りたいのは、問題のオブリビオンの現世に対する悪意の程度よ。これまで生き延びてきた冒険者なのだから、きっと何か感じているでしょう」
「仮に悪意が薄いか無い場合、現世に留まりすぎて通常のオブリビオンより結果的に大きな害を与える気がするわ」
「力試しか悔いの解消か、おそらく現世に対する悪意は薄い。でもそれがいつまで続くと思う?」
「普通の生物ですら悪意に触れて容易に染まってしまう。オブリビオンなら、元が聖人であったとしても……ね」
「たまには穏便に解決したいけど、無理よね」(情報をメモにして他猟兵へ渡す
●
冒険者ギルドへの聞き込みをするため、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は、力の森から最寄り――とはいえ、歩きで三日の距離である――の町に転送された。
町は冒険者で賑わっている。様々な露店が並ぶ通りを抜けて、ギルドの戸を開けた。
依頼内容が張り出された掲示板に目をやると、確かにミノタウロスの案件があり、その紙だけが若干古ぼけて見えた。賞金額は相当なもので、ギルドが手を焼いていることも窺える。
と、依頼状を読んでいたエーカの背後から、声がかかった。
「よう、姉ちゃん。あんたもミノタウロス狙いか?」
「えぇ、そうよ」
振り返って、エーカは声をかけた男を見た。長い棍を背負った戦士だった。むき出しの筋肉質な腕は傷が多く、歴戦の勇士であることが分かる。
「あなたも?」
「いや。俺はしばらくはいかん」
肩をすくめる戦士。どうやら彼は、一度挑んだらしい。好都合だ。エーカは尋ねた。
「よければ参考までに、ミノタウロスについて教えてほしいのだけれど」
「あぁ、構わねぇよ。もう知ってると思うが、まず桁違いに強いな。これまで相手したどのモンスターよりも強かった。斧もそうだが、野郎は頭が切れる――」
戦士は興奮したように話し始めた。どうやらよほどの激戦だったらしい。身振り手振りでミノタウロスの強さを語る戦士を、エーカは遮った。
「あぁ、ごめんなさい。聞きたいのはそこではないの。私が知りたいのは、問題のオブリビオンの現世に対する悪意の程度よ」
「オブ……なんだって?」
訝しげな顔をする戦士。エーカは構わず続けた。
「ミノタウロスから、世界を恨むような意思は感じなかった? これまで生き延びた冒険者の直感として」
「そうだな……。いや、そういうのはなかった。奴は確かに恐ろしく強いが、ただ純粋に戦士だったぜ」
嘘偽りのない言葉だと感じる、真っ直ぐな話しぶりだった。顎に手を当て、エーカは思考に耽る。
「全く悪意のないオブリビオン……そういうのもいるのかしら。仮に悪意が薄いか、あるいは無いとした場合、逆に現世に留まりすぎることで結果的に大きな害を与える可能性もあるわね」
「……姉ちゃんが何言ってるのかよく分かんねぇが、あのモンスターが討伐依頼にかけられてる理由は、挑んだ奴の中に死んだのもいるからだな。害といえば、その辺りだと思うが」
この世界において、オブリビオンはすべてモンスターという枠にくくられている。その正体についても、少なくともこの戦士は知らず、オブリビオンがもたらす世界の破滅に思い至らないようだった。
エーカは考える。ミノタウロスの目的は、力試しか悔いの解消か。どちらにしても、世界への悪意は、今のところは薄いようだ。
しかし、それがいつまで持つか。心ある以上、何かのきっかけで悪意に染まってしまうことはままあることだ。
ましてそれが、染み出した過去ならば、なおさら。聖人や神と呼ばれた者すら、オブリビオンに堕ちてしまえば道を間違える。
かつて戦った敵を思い出しつつ、メモを取る手を止めた。顔を上げ、戦士を見る。
「そのミノタウロス、いつから森に棲んでいるの?」
「さぁ。確認されたのは三年前だったか。もっと前となると俺の爺さんの代にも同じようなミノタウロスがいたらしいが、そっちは英雄様とやらに倒されたって話を聞いたぜ」
「……そう。ありがとう、参考になったわ」
メモをしまうエーカに、戦士が「もう一つ」と言った。
「奴の咆哮には気をつけろ。まともに受けたら、二撃目を防ぐのは難しいからな」
彼の敗因なのだろう、悔しげに言う戦士に片手を上げて、エーカはギルドを出た。
知り得た情報を思い返し、あるいは対話で解決もあり得るのでは、などと考え、ため息とともに苦笑する。
「たまには穏便に解決したいけど……、まぁ、無理よね」
ミノタウロスがオブリビオンである限り、少なくとも今は、その手段は取れない。
戦うしかないのだ。ならばせめて、双方にとって悔いや怨恨を残す戦いにならないようにしたい。
空に浮かぶ雲をしばし見上げてから、エーカは知り得た情報を仲間に伝えるため、力の森へと向かうのだった。
成功
🔵🔵🔴
九条・蒼
「野蛮め…大きさだけが力ではないことを教えてやろう。」
主として、仲間にとって目が届きにくい所を調査
蜻蛉の羽でホバリング
26cmの小柄な体躯を活かす
(普段から森に棲んでいるため、見通しの良い場所、死角の場所、獣道…多くを熟知している)
「ミノタウロス…いわゆる脳筋だ。では、視覚か聴覚を奪ってみるか。」
植物から編んだ特製の紐を張り、罠を作る。直接触れなくとも、大きな振動によって作動するように仕組む。
罠1:ソテツのような固い植物を、ある程度の高さに飛ばし、目を狙う。さらに植物には自前の毒を塗っておく。
罠2:細かい胞子を大量に含んだ茸や種子を耳元に飛ばす。大量の異物が耳に入り、鼓膜を刺激することを狙う
●
仲間が仕入れた話では、ミノタウロスは大変な巨体であり怪力であるという。
絵に描いたような化け物だが、九条・蒼(フェアリー・ドラゴンフライ・f04493)は、人々が恐れる事実を一笑に付した。
「野蛮な奴め。大きさだけが力ではないことを、教えてやろう」
彼女が盗賊として生き抜いて来られたのは、妖精の小さな体があってこそだった。この特徴と素早い身のこなしをもって、あらゆる手柄を上げてきた。
だからこそ、巨体を誇るばかりで中身のない者の愚かさを、蒼はよく知っている。無論、巨体が持つアドバンテージも熟知していた。
普段から森に棲んでいる蒼は、木々の隙間を縫うように飛び、自然が生み出す死角をくまなく調査していった。
森に伐採の後は見られない。だが、横から強い衝撃を受け折れていたり、地面が抉れていたりと、戦いの痕跡はあちこちにあった。
中には血のこびりついた木や岩もあり、朽ちた鎧と白骨死体も見つかった。ミノタウロスは相手を負かしても、死なない限りは見逃すらしいが、犠牲者はゼロではないらしい。
蒼は見晴らしのよい木の頂点に立った。特に水場を探す。オブリビオンも肉体を持っている以上、生活しやすい場所を好むだろうと踏んだのだ。
力の森には一本、長い川が流れている。その源泉は森の最奥にあるようだった。
「川沿いか……いや」
水を欲して現れることはあるだろうが、一時的なものだ。むしろ、一番警戒している瞬間と思った方がいいだろう。
警戒心を露わにしているオブリビオンを囲んだところで、状況が優位になるとも思えない。敵の虚を突く工夫が重要になる。
森の動物たちにも悟られないような素早い身のこなしで、蒼は木々を伝って奥へと向かった。
鬱蒼とした森でも、開けた部分はあるものだ。そういったところには日が差し込み、地面は植物が生い茂る。
見つけた巨大な倒木の周りが、まさにその場所だった。天然の広場にはあらゆる草花が咲き誇っていた。
倒木の上に降り立ち、周りを見渡して、蒼は満足げに頷いた。
「ここならよさそうだ」
蒼はさっそく準備に入った。地面の草を利用して、手早く罠を作り上げていく。すぐにかかることはないだろうが、戦いの中では役に立つはずだ。
敵は巨体の力自慢。五感をフルに活かして戦うのであれば、それを奪うに限る。
「では……視覚か聴覚を奪ってみるか」
草を編んで特製の紐を作り、巨体からでは視認できないように罠を設置する。踏み込まなくとも、一定の振動で発動する仕掛けだ。
目を奪う罠は、厚く固い葉を利用する。葉に自前の毒を塗り、ミノタウロスの頭の高さ――これは彼女の経験則から予想した――にまで舞い上がるように仕掛ける。目に直接当たらずとも、飛散した毒によるダメージはあるはずだ。
聴覚を狙った罠には、胞子がたっぷり詰まったキノコや綿毛がついた種を利用した。こちらも振動で舞い上がり、胞子や綿毛に包まれれば耳にも入り込む仕組みだ。聞こえ辛くなるだけでなく、不快感からくる不調をも狙える。
妖精の小さな体でありながら、蒼はあっという間に日の差し込む空間を恐るべき罠に仕上げた。人間や野生動物程度では反応しないが、巨大な化け物が通ろうものなら――。
「楽しいことになるだろう、な」
地面をポンと叩いて仕上げとし、再び空高く飛び上がる。
飛び抜けて高い木の上で、蒼は蜻蛉の羽でホバリングしつつ、森を見渡した。仲間の猟兵の動く気配が、木や空気を通して方々から伝わってくる。
森を見下ろしていると、風が吹いた。蒼の三つ編みを揺らすその風は、冬の冷たさを含みながらも、柔らかな春の気配を含んでいた。
成功
🔵🔵🔴
コエル・フーチ
話を聞く限りでは、人を殺しもしていない、ただ森で静かに動物と暮らしてるミノタウルスを、ただ強いからってだけで殺しに行っては見逃してもらってる……どっちが悪者だよ。
とりあえず、話を聞きに行ってみるか。
長い間討伐依頼が出ていて、畑を作って作物を育てるくらいに器用でマメな性格……ってことは森の中でも自分が通る道は、それなりに整備してあるだろう、でかい図体だし分かりやすいはずだ。
そんな感じの道を【情報収集】で探して【追跡】する。
ミノタウルスを見つけたら【目立たない】ように見張ってよう。
露木・鬼燈
実体のある生き物ってことは動けば痕跡は残るよね。
あれだけの巨体だと体重も相応かな。
歩けば地面に圧力がかかるから足跡が当然残るっぽい。
こんな時は秘伝忍法の出番なのです。
肉眼で分からなくてもムカデのセンサー群なら捉えられるはず。
処理をかけてサイバーアイに転送してもらえば…
うん、くっきりと映ってるのです。
ムカデに乗って静かに素早く移動するっぽい。
よく見ると木の枝とかにも痕跡あるよね。
それに音響センサーにも反応あるし、探索は問題ないっぽい。
仲間と連絡をとるほうが大変だね、これは。
データリンクで連絡取れる猟兵は範囲内にいるかな?
まぁ、いずれ集まるよね。
見失わない程度に距離をとってのんびり追跡するっぽい。
●
予知の内容や猟兵が聞き込みをした話を思い出す限り、ミノタウロスは積極的に人を殺してはいない。
森で静かに暮らしているところを、冒険者が力試しに攻め込んでくる。そうした人間すらも、止めを刺さずに見逃す。
当たり所さえ悪くなければ死にはしないことをいいことに、冒険者がミノタウロスを腕を試す相手として利用しているのだ。
その事実を考えると、コエル・フーチ(指先の熱・f08889)は、なんとも複雑な思いになった。
「……どっちが悪者だよ」
ぼやきながら、森の中を飛ぶ。敵対するオブリビオンではあるが、あわよくば話くらいは聞きたいものだ。
木々の間を抜けながら、コエルは地面に目をやっていた。モンスターといえど作物を育てるほどまめなのであれば、通る道が整備されていてもおかしくないと踏んだのだ。
戦闘の跡はそこかしこにある。徐々に数も増えているので、ミノタウロスへと肉薄していっていることは間違いない。
注意深く目を凝らしていると、地面に大きなぬかるみが見つかった。フェアリーであるコエルの体よりも、相当大きい。水が溜まっているが、足跡だ。
「新しいな」
水は雨が降ったものではなく、地面から染み出したらしい。地面に降り立ち、さらなる手掛かりはないものかと水たまりを覗き込んでいると、映ったコエルの顔の上に、うねる大きな影が現れた。
即座に振り返り、ダブルバレルの精霊銃を構える。狙いの先には、巨大なムカデがいた。深い森の中だ、不思議はない。
躊躇いなくトリガーに指をかけた、その時だった。
「おっとと、ごめん。驚かせたっぽい」
金属質な巨大ムカデの上から顔を覗かせたのは、露木・鬼燈(竜喰・f01316)だった。
精霊銃を下げて、コエルは安堵の息をつく。
「なんだ、同輩か。しかし、すごいのを連れてるな」
「うん。こんな時こそ秘伝忍法の出番なのです」
鬼燈が装着しているサイバーアイには、サイボーグムカデから転送されてくる地形情報が表示されている。
巨体が当然つけるであろう足跡を追っていたところを、コエルと合流した形だった。
サイボーグムカデのデータリンクこそ他の猟兵に届いていないが、どのみち最後は同じ場所に集まることになるのだ。鬼燈は大して気にしていなかった。
真新しい足跡を解析した結果、ミノタウロスはもう目と鼻の先にいることが分かった。二人は揃って、データの示す先を目指す。
鬼燈がサイバーアイに表示される情報を見ていると、サイボーグトカゲの頭に座っていたコエルがきょろきょろとしだした。
「コエルさん、どうしたです?」
「このあたりの木、剪定されてるな」
「あ、ホントっぽい」
光が差し込むようにというよりは、ミノタウロスの巨体が通りやすいようにしている印象を受ける。住処が近いことを、コエルと鬼燈は確信した。
ほどなく進むと、木々の奥から光が差し込み始めた。森が開けている証拠だ。サイボーグムカデを待機させ、草むらに身を隠しつつ進み、陰から開けた空間を覗き見る。
そして、見つけた。巨大な体躯の牛頭が、大斧ではなく大きなクワを振るっている。
一面に広がった畑には、冬にも関わらず豊かに育った野菜で溢れていた。どれも、鬼燈とコエルが見たことのないものだった。
ミノタウロスがクワを置いて、汗を拭った。
「いい天気だわい。野菜どもも喜んでおるわ」
上機嫌に言うミノタウロスのクワに、一匹のリスが走ってきた。器用によじ登り、牛頭の手を伝って、その肩に座る。
コエルが静かに銃を構えた。森の動物に何かをしでかすなら、撃つつもりだった。
しかし、ミノタウロスは大きな指先をリスに持っていき、その頭をそっと撫でた。
「やはり、太陽の陽気はよいものだ。お主もそう思わぬか、リス公」
答えないリスに笑い、ミノタウロスは畑から実った野菜――キャベツのように見えるが、色が赤い――を一つ採った。口を開けて一気に半分を齧り、咀嚼する。
「うむ、実にうまい。お主もどうだ」
小さくちぎった一部をリスに近づけると、リスは素直にそれを受け取って齧り始めた。目を細めて勢いよく食べる姿に、ミノタウロスが愉快気に頷いた。
「そうか、うまいか」
和やかな様子に、鬼燈とコエルは揃って渋い顔をした。これから戦う相手のこうした面を、まさか眼前で目撃してしまうとは。
再び農作業に戻るミノタウロスを監視しながら、コエルが言った。
「これ、どのタイミングで仕掛ければいいんだ」
「普通に飛び出せば、戦いにはなると思うけど」
「それはそうだろう。だけど、今突然仕掛けたら、こっちがオブリビオンみたいじゃないか」
少し考えて、鬼燈はなるほど確かにと頷いた。
農作業に勤しむ者に奇襲をかけるなど、この世界ではゴブリンなどのモンスターが使う常套手段だ。さすがにあの連中の真似事はしたくない。
それに、二人で戦いを挑んだところで、返り討ちにあう可能性が高い。
「じゃ、仲間が来るまで見張るっぽい?」
「あぁ。こいつが動いてくれたら話は別だが……」
煙草に火をつけようとして、コエルは手を止めた。煙で気づかれては面白くない。仕方なくポケットにしまう。
その後も一時間ほど監視していたが、ミノタウロスは特に大きな動きを見せず、農作業をしたり現れた動物に話しかけたりしている。
「ミノタウロス違い、とか?」
何気なく言う鬼燈に、コエルが苦笑いを浮かべた時だった。おもむろにミノタウロスが顔を上げ、鍬から大斧に持ち替えた。
二人に緊張が走った。いつでも飛び出せる体勢になりつつ様子を伺う。
ミノタウロスはしばらく森を見回し、鼻息を一つ、しゃがみ込む。足元にいた野兎に、低いが優しい声音で言った。
「すまぬな、兎の。また騒がしくなる。森の連中にも、しばらく吾輩に近づかぬよう伝えてくれんか」
長い耳をひくひくさせる兎に頷いて、牛頭が立ち上がる。
「……此度の連中は、これまでの輩とは違うようだ。決して、決して近づいてはならんぞ。よいな」
兎が駆け出すのを見送り、鬼燈たちがいる場所には近づかず、別の方面から森に入っていく。一歩進むごとに、振動が地面を揺さぶった。
「こっちに気づいていないのか?」
「どうだろ。何とも言えないっぽい」
どちらにしても、すぐに戦闘を仕掛けてこないのは僥倖といえる。二人はすぐに追跡を開始した。
力の森には、すでに複数の猟兵が入っている。彼らの気配を探りつつ、ミノタウロスはゆっくりと森の中を進んでいく。
距離を取って追いつつ、鬼燈は大きな欠伸を一つ漏らした。サイボーグムカデの頭に乗るコエルが振り向き、半眼を向ける。
「この状況で、緊張感がないな」
伸びをしながら、鬼燈は首をかしげた。
「んーでも、今すぐ戦うことにはならないっぽい。まだ体力温存でもいいと思うです」
「それはまぁ、そうだけどな」
コエルも頷いて、同意する。とはいえ、彼女は多少の緊張を解かず、注意深くミノタウロスを観察していた。
「あれがあたしたち以外の猟兵を見つけても、いきなり襲い掛かるってことはないか」
「そうだね。殺気立てばすぐに分かるです」
精神力と体力の消耗を極力抑えつつも、二人は決して油断をすることはない。
コエルと鬼燈、ミノタウロスがその気である以上、必ず、戦う時がくるのだ。
そしてその時は、もう遠くない。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ルベル・ノウフィル
pow
黒魔術師…僕は死霊術士です(謎の対抗意識)
◇
僕はまず礼儀作法をもち森を生きる者たちに嫌われないように気を付けます
動物と話す技能と聞き耳で動物とお話
「ミノさんは貴方たちと良好な関係なのですか。
僕はミノさんと遊びにきたのです、強者と遊びたがっているときいたので」
ミノさんの廻りにミノさんを怨む死霊がいっぱいいたら戦闘の時に助力を頼めるかな、と想像しつつ
「ミノさんは沢山敵を倒してきたのでしょうナ?」
◇
第六感と入手情報を元に流浪の黒魔術師を捜索、救助活動
動物たちが僕を導いてくれるとよいですが
「魔術師殿、前衛はいりませぬか? 僕は術士でもあり黒騎士でもある……身を呈して肉の盾となりましょうぞ」と誘惑
ニィ・ハンブルビー
呼ばれて飛び出てボク登場ー!
個人的に、その冒険心は応援したいとこだけど…
オブリビオンが絡むなら、横槍もやむなしだね!
よし!やるかー!
ミノにしても冒険者にしても、探すには人手がいるよね!
てことで【虚像と本質の魔法】!
敵には見えないボクのコピーを大量生成して、人海戦術だ!
ついでに仲間との情報共有のために、あちこち走り回って貰おう!
頑張れボク!
あ、でもこのコピーって全裸…
…人命優先!気にしなければ気にならない!
ミノと冒険者両方を見つけたら、一先ず冒険者を遠ざけよう!
コピー達に帽子とか杖を盗ませて、ミノと反対方向に逃げる!
追い付ける程度に適度に手加減するね!
申し訳ないけど、しばらく離れてて貰うよー!
トリテレイア・ゼロナイン
挑戦者を殺さず逃がす…やがて強くなって再び挑んでくるのを楽しみにしているのでしょうか?
手出ししてくる冒険者以外の人々へは被害を齎していないですし、騎士としては精神的に戦いたくないのですが彼もオブリビオン、戦うしかないのでしょうね…
まずは例の魔術師の保護に動きましょう。ミノタウロスを狙っているならば、その近くにいるはず。ミノタウロスの残した痕跡を中心に妖精ロボを放ち、世界知識に基づき人が残した真新しい痕跡(足跡、折れた枝)を調べさせます
見つけたらその場に急行、暗視とセンサーで調べ所在を見切り保護します
もしミノタウロスに発見されたら礼儀作法を用いて挨拶、魔術師を保護した後での再戦をお約束しましょう
「呼ばれて飛び出てボク登場ーっ!」
とうじょー……とうじょー……とうじょー…………
木々に木霊する自身の声に、ニィ・ハンブルビー(怪力フェアリー・f04621)はにんまりと笑みを浮かべた。
森の清涼な空気に声が響く感触は、たまらなく心地いい。もう一度やってみたかったが、ミノタウロスが逃げてしまうかもしれないので、やめた。
「うーん、それにしても、一人でミノに挑むなんてなー」
森にいるらしい黒魔術師とやらを思う。恐らく腕に自信があるのだろうが、そういう者ほど痛い目に合わされてきたのだ。今回も、結末は見えていると言っていい。
「個人的には応援したいとこだけど……オブリビオンが絡むなら、横槍もやむなしだね!」
ふわふわ飛びながら大きく伸びをして、ニィは木々の間から覗く太陽に手を伸ばした。
「よし、やるかー! 光の精霊! ちょっと手伝って!」
ニィの声に応えて、降り注ぐ光が凝縮していく。光の精霊はニィの体を形どり、瞬く間に何十人ものニィがその場に出現した。
ミノタウロスにしろ冒険者にしろ、探すには人手がいる。人海戦術は非常に有効といえるだろう。
だが、問題があった。空中に座ったり寝そべったり宙返りをしたりと、好き勝手動き回る自分の分身たちを見回し、ニィは「しまった」と頬に両手を当てた。
「……ボクのコピーって、全裸なんだった……」
飛び回るニィの分身は、誰一人例外なく服を着ていない。このまま森の中を飛び回らせるのは、少々はしたない気がする。
二秒悩んで、ニィは決断した。
「……人命優先! 気にしなければ気にならない! よーし、じゃあ出発! 頑張れボク!」
好きなように飛んでいたニィの分身たちは、やはり好きなように、自分たちが行きたい方向へと楽し気に飛んでいった。
これだけの数を飛ばせば、ミノタウロスと冒険者の発見は容易いだろう。ついでに、味方との情報共有もできるはずだ。
ということは、味方に光の精霊――つまり、全裸の自分を見られるわけである。
「……」
少し熱くなった頬を小さな両掌で張って、「人命優先、人命優先」と呟きながら、ニィ自身もまた、捜索に乗り出すのだった。
◆
多くのオブリビオンと戦ってきたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)だが、ミノタウロスの行動の真意が、未だに分からずにいた。
「挑戦者を殺さず逃がす……やがて強くなって、再び挑んでくるのを楽しみにしているのでしょうか」
仲間から届いた情報によれば、手出しをしてくる冒険者以外への被害は出ていないという。
「騎士としては、精神的に戦いたくないのですが……彼もまた、オブリビオン」
戦うしかないのだ。悩めるウォーマシンは、胸中で覚悟を改めた。
ともかく、人々を守護する騎士を目指すトリテレイアは、真っ先に黒魔術師の保護に乗り出した。
所在は掴めていないが、ミノタウロスの討伐が目的であるならば、敵が残した痕跡に手掛かりがあるかもしれない。
森の中を歩いてしばらく、トリテレイアは明らかに人為的な力で切断された切り株を見つけた。
「これは……」
大木のはずだが、何度も打った後がない。恐らくは、一撃で叩き切ってしまったのだろう。
見れば、周囲には戦闘の痕跡も見られる。ここが戦場となったことは間違いない。
「周囲を探ってみましょうか」
トリテレイアは、自身の体にある格納庫から十近くの妖精を放った。無論、機械だ。
統率の取れた動きでトリテレイアの眼前に整列する妖精型ロボに、電波信号で命令を送る。
機械妖精たちは、軍隊のように美しい隊列を組んだまま上空に飛び上がり、与えられた命令の方向へと、真っすぐに飛んでいった。
彼の記憶データに残された騎士物語には、英雄騎士の導き手として妖精がつきものだったのだ。それを模倣した形である。
「私のあれは、偽物ですが」
どことなく自嘲気味に呟いて、トリテレイアも歩を進める。柔らかい土に金属の足を沈ませながら、奥へ、奥へ。
◆
この森には、多くの動物がいる。森の住人である彼らと話す力を持つルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は、野イチゴを齧っていた森のネズミに声をかけた。
「こんにちは、ネズミさん」
「ん? 誰だお前」
鼻をひくひくさせて、ネズミはルベルを見上げた。ルベルがしゃがみ込んで視線を合わせると、ネズミは野イチゴをまた一口齧った。
「耳があるな。尻尾もある。お前、動物か? 人間か?」
「うーん。人間……の方が近いでしょうか。動物にもなれますけど」
首を傾げるルベルに、野イチゴを完食したネズミは毛づくろいをしてから、また鼻を上に上げてひくひくとやった。
「まーどっちでもいいや。で、俺っちになんの用だい」
「あぁ、そうでした。僕はルベル・ノウフィルと申します。聞きたいことがございまして。森に住む皆さんは、ミノさんと良好な関係なのですか?」
「ミノさん? ……あぁ、おやっさんのことか。でっけぇミノタウロスだろ」
「はい」
「仲良くやってるぜ。おやっさんはキレるとおっかねぇし、人間には容赦ねぇけど、いいモンスターだからな。みんな世話になってるんだ、俺っちもたまに野菜もらうし」
「そうですか。実はですね、僕もミノさんと遊びたいなと思って来たのです。強者と遊びたがっていると聞いたので」
ルベルが頷くと、ネズミはしきりに顔を毛づくろいしながら、
「まーたそういう手合いか。やめとけやめとけ、下手すりゃ死ぬぞ」
どうやら、このネズミも無謀な冒険者の戦いは見ていたらしい。しかし、ルベルも簡単には引き下がらない。
「大丈夫ですよ。ボクたちは強いですから」
「はぁー、人間ってのは本当に、頭がいいのか悪いのか分からんね」
「すみません。でも、どうしてもミノさんと遊ばなければならないのです」
戦う意思がルベルから消えないと見ると、ネズミは大きな耳を何度か動かし、やや呆れたように言った。
「そうかい。まぁ、好きにしなよ。話ができる人間なんてめったにいないし、楽しかったから、応援はしてやるよ」
「嫌わないでくださいますか? ボクたちのこと」
「俺っちが攻撃されるわけじゃないしな。森を燃やされたりしなければ、嫌う理由はないぜ。っと、お仲間が来たみたいだな。俺は帰る。じゃーな、ルベル・ノウフィル!」
さっと身を翻して、ネズミが草むらに消えた。立ち上がって振り返ると、黒ずくめのローブを纏った、若い男が立っていた。
その男を見て、ルベルは呟いた。
「……黒魔術師」
「いかにも。しかし、なぜこんなところに子供が?」
黒魔術師という言葉に妙な対抗意識が芽生えたルベルは、胸を張って毅然として答えた。
「僕は、死霊術師です」
「ほう! こんなところで魔術の友に出会えるとは。光栄である」
握手を求められ、素直に応じる。黒魔術師は性格こそ明るそうだが、その腰にぶら下げている小さな壺から発せられる禍々しい気配は、まるで消せていない。
魔力を行使するタイプではなく、魔道具を扱う魔術師なのかもしれない。ともかく、要救助者を確保できたのは運が良かった。
見たところ、仲間はいない。本当に一人でミノタウロスに挑むつもりらしい。ならばと、ルベルは自分の胸を叩いた。
「魔術師殿、前衛はいりませぬか? 僕は術師であり、また黒騎士でもあります。身を挺して、肉の盾となりましょうぞ」
「む……」
黒魔術師は答えず、逡巡している。一人で倒すことにこだわりがあるのか、それとも小さな背丈のルベルを前衛に置くことに躊躇しているのか。
じっと見つめるルベルの視線を受け、黒魔術師はかぶりを振った。
「いや、今回は――」
その時だった。遠くから聞こえてきた高速の羽音に、ルベルは振り返る。
森の奥から現れたのは、機械の妖精だった。黒魔術師の周囲を飛び回り、赤やら青谷らの光を目から放って、何やら調べている。
「スキャン中……終了。対象ヲ99%ノ確率デ要救助者ト判断。本体ト交信シマス」
「な、なんだこの妖精は! 死霊術師殿、あなたの使い魔であるか!?」
「いいえ、僕のではございませんね。というか、これは……ん?」
ルベルは空を見上げた。降り注ぐ光は変わらず眩しいが、その中に、ひときわ輝く何かがいる。
降ってきたのは、女の子だった。背中から羽根を生やした裸体の妖精は、声もなく叫びながら黒魔術師を指さし、拍手などし出した。
機械妖精が裸体の妖精を視認するや、妖精少女に近づいて、赤と青の光でスキャンを始めた。裸体の妖精は恥ずかしがって赤面し、手で胸を隠し身をくねらせている。
妙な光景にあっけにとられていると、黒魔術師は困惑した様子で言った。
「こ、今度はなにが? そこになにがいるというのであるか?」
「見えないのですか? 妖精がもう一人……女の子ですよ。裸の」
「なぜ、私には見えないのであるか!?」
「さぁ」
きょとんとして首を傾げるルベル。黒魔術師は目を見開いて辺りを見回しているが、そちらに妖精はいない。
そこへ、森の奥からさらなる音が近づいてきた。機械的なスラスター音だ。
草木を破って、巨大な機械騎士が現れる。さらに反対側からは、太陽のような金髪の妖精まで飛び出してきた。
「やぁ、ここにいましたか」
「見つけたー! 黒魔術師さんだよね!」
「ななな、何者であるか!?」
双方から声をかけられ、黒魔術師はさらなる混乱に陥っていた。
だが、ともかく無事だ。あとはうまく説得して帰らせればいいのだが、それよりもニィは気になることがあった。
「ねぇトリテレイア! その子止めてよー!」
飛びながら恥ずかしがるニィの分身をスキャンし続ける機械妖精を、ニィが顔を赤くして指さした。
そちらを見て、トリテレイアは合点がいったとばかりに頷く。
「あぁ、センサーに奇怪なものが映ると思っていたら、ニィ様の分身でしたか」
「奇怪ってなにさ! ひどいなー!」
「これは失礼。……時に、黒魔術師様」
機械妖精を格納しつつ、トリテレイアが黒魔術師に向き直る。敵でないことに安堵したらしく、魔術師はフードを被りなおして、咳ばらいをした。
「なんであるか?」
「どうしてもミノタウロスと戦うのであれば、我々と手を組んだほうが良いかと。奴は、貴方が考えているより危険ですから」
「……それは、できぬ」
首を横に振る黒魔術師を、ルベルが下から見上げる。
「なぜです? 僕たちが手を貸せば、勝利も夢ではございませんよ」
「そーそー。みんなでやっつければ早いよ?」
ルベルの肩に腰掛けたニィに言われても、黒魔術師は頷かなかった。
「それでは、意味がないのである」
「意味とは……お一人で倒すことで得られる、名誉のことでしょうか」
トリテレイアの言葉は、直感から選ばれたものだった。だが、恐らく間違ってはいないだろう。
冒険者というものは、日銭を稼ぐだけが目的ではないらしい。特に戦いで得られる名声に関しては、戦士も魔術師も欲しているものだ。
力の森に潜むミノタウロスを倒したとなれば、この黒魔術師の名は冒険者たちの間に轟くのかもしれない。
だが、死んでしまえばすべてが闇に消える。ルベルは魔術師の目をまっすぐに見つめた。
「僕たちは、ミノさんを倒すことだけが目的です。報酬を分配しろというつもりはございませんよ」
まっすぐ見つめてくるルベルの視線から、魔術師が目を逸らす。
その時だった。トリテレイアのセンサーが反応し、ルベルが耳を立て、ニィの大きな目が見開かれた。
地響きと音。そして、現れる。
「貴様たちが、此度の相手――猟兵か」
筋肉質な体躯は、トリテレイアを超える巨大さだ。頭は牛の形。一撫でで木々を吹き飛ばすであろう戦斧を担ぐ、その威容。
「力の森」という名前の由来となったミノタウロスが、戦士たちを見下ろしていた。
◆
「出たな……っ!」
ニィが拳を構える。トリテレイアとルベルも、それぞれ得物を握った。
睨まれても、ミノタウロスから殺気は感じない。
「何故吾輩が貴様らを知っているのか分からぬが、しかし、知っている。猟兵、我が宿敵よ。待ちわびたぞ」
淡々と、しかしどこか嬉しそうな声に、ルベルがわずかに眉を寄せる。
「待ちわびた? 僕たちと戦うことをですか?」
「左様。吾輩は戦士だ。故に強き相手を求むは必然」
ミノタウロスの全身には、いくつもの刀傷があった。冒険者の中には、彼に傷を負わせるだけの実力者もいたのだろう。
しかし、勝ち続けた。力を持つがゆえに孤独となり、戦いの充足も得られず、動物たちと暮らすことだけが楽しみとなっていたのだろう。
そこに現れた、オブリビオンの天敵である猟兵。これにミノタウロスが歓喜しないはずがない。
「……」
三人の猟兵の後ろで尻もちをついていた魔術師は、冷や汗を流していた。
ミノタウロスは、見ただけで勝ち目がないことが分かる。あの斧の一撃をもらうことなど、考えたくもない。
だが、それ以上に驚いたのが、猟兵と名乗った戦士たちだ。鋼鉄の騎士はともかく、妖精少女と狼の少年まで、凄まじい力を感じる。まぎれもなく、強者の気迫だった。
この中で最も弱い者は、間違いなく彼だ。嫌でも理解してしまう。その事実が、魔術師のプライドを引き裂く。
「……だめだ、そんなの」
腰の壺に手を伸ばす。とっておきだが、ここで使わずに、いつ使うというのか。
壺から放たれる禍々しい魔力に、ルベルが振り返った。
「っ! ダメです、魔術師さん!」
しかし、遅かった。投げられた壺が放物線を描き、地面に落ちて割れる。
黒い煙が立ち上った。濃い瘴気に、ニィがトリテレイアの背後に隠れる。
「なにこれ! 気持ち悪い!」
「……この気配は」
呟いて、トリテレイアは後退した。ミノタウロスは斧を構えて、静観している。
黒い煙は凝縮し、いくつもの影を作り上げていく。やがてそれは、翼を生やし三叉槍を持った、ミノタウロスと似た牛頭の悪魔へと姿を変えた。
無数の悪魔が、森を飛び交う。悪しき魔力が空気を濁していった。
立ち上がった魔術師は、半狂乱だった。
「よくぞ現れた、デーモンよ! 我が命に従い、ミノタウロスを討ち倒すのだ! そして……我に栄光を与え給え!」
しかし、現れた悪魔は魔術師の声など意にも介さず、猟兵たちへと襲い掛かった。中にはミノタウロスを狙う者もいるが、彼の命令に従っているとは思えない。
その証拠に、悪魔たちは魔術師をも狙った。三叉槍の尖端が、魔術師の顔面に迫る。
「な、なんでっ!?」
頭を抱えた魔術師を、トリテレイアが盾で守る。そして、即座に叫んだ。
「ニィ様!」
「もー! 人命優先人命優先っ!」
ニィは再び光の精霊に懇願し、分身を作り上げる。
「もう時間切れ! キミはあっち行ってて!」
「何をするのだ、離せ! 私の栄光が……くっそぉぉぉぉ!」
魔術師は全裸のニィにローブを引っ張られ森の奥に引きずられていった。少しかわいそうな気もするが、仕方がない。
半袖の腕をまくりながら、ニィはルベルに尋ねた。
「ねぇ、こいつらなんなの?」
「レッサーデーモン……オブリビオンでございます。魔道具に封印されていたのでしょう」
「うへぇ、敵が増えた」
「すぐに皆さんが騒ぎを聞きつけて駆け付けてくださるでしょう。やるしかありませんよ」
うんざりするニィに、トリテレイアが三叉槍を盾で防ぎながら言った。それに頷いて、ルベルが付け足す。
「それに、デーモンはミノさんも敵と見なしているようですから」
ルベルの言う通り、ミノタウロスは複数の悪魔と激闘を繰り広げていた。戦斧の一薙ぎで、何匹ものレッサーデーモンが消し飛ぶ。
少なくとも、今すぐミノタウロスと戦う必要はなさそうだ。まずは目の前の障害を片付けるべきだろう。それがオブリビオンであるのなら、なおさらだ。
ルベルとニィ、トリテレイアは、迫りくるレッサーデーモンを、睨みつけた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第2章 集団戦
『レッサーデーモン』
|
POW : 悪魔の三叉槍
【手にした三叉槍】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 金縛りの呪言
【手で複雑な印を結んで】から【呪いの言葉】を放ち、【相手を金縛り状態にさせる事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 呪いの鎖
【投げつけた三叉槍】が命中した対象を爆破し、更に互いを【呪われた漆黒の鎖】で繋ぐ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
縦横無尽に飛び回るレッサーデーモンたちは、木々の緑を枯らし木の実を腐らせていく。邪悪な波動の影響だろう。
一匹一匹は強くないが、放置すれば森が滅びるのは目に見えている。
ミノタウロスは怒りの籠った声で、唸った。
「……これ以上、森を――我が友の住まう地を、穢させはせん」
戦斧を黒い血に染めながら、ミノタウロスは駆け付けた猟兵たちに振り向く。
「猟兵よ、今だけで構わぬ。この森を守るため、吾輩に力を貸してくれぬか」
その言葉を、猟兵たちがどのように受け取ったか。それは各々によって違うかもしれない。
だが、すべきことは共通していた。オブリビオンが世界を破滅に導く所業を、猟兵が見過ごすわけにはいかないのだから。
九条・蒼
「ほう…第三軍とは。おもしろい、(ダガーを構える)降りかかる火の粉は、私の力で打ち払うのみ!」
(すると、ミノタウロスは…もしや無害なのでは?考えを改めねばならんか?)
★ミノタウロスとの休戦は賛成
デーモンも、かなりの逞しさだと考え、仕掛けた罠を活用してみる。
●戦法
鬱陶しく飛び回り、仲間への攻撃を散らす
ダガーを使って急所狙い
背中の日本刀は、三叉槍を狙う。
普段から研ぎ澄まされていることに加え、フェアリーの女性らしからぬ怪力により、はじき返しを狙う。可能なら切断する。
敵の攻撃には、ツインズ・フェアリーを使って翻弄
攻撃時は、力が入り全身の筋肉が盛り上がる
●弱点
質量の違い故、一度被弾すると致命傷になるかも
コエル・フーチ
もういっかい言っとこうか……どっちが悪者だよ。
それとも、この事態がミノタウロスがいる事で起こった
世界を滅亡に導く所業だったりするのか?
そうだとしたら、なんだかやるせないな…
ともかく…了解だ、ミノタウロス
お前の友達が住む森を守るため、力を貸そう
【高速詠唱】で『熱線の雨』を装填したホウセンカを構え
2つのトリガーを引き【2回攻撃】で『熱線の雨』の熱【属性攻撃】を放つ
120本×2発の熱線の【誘導弾】で広【範囲攻撃】を行い
敵を【なぎ払い】撃ち倒す、森には燃え移らないように注意するが
燃え移った場合はオナモミを水属性にしたのを【投擲】して消火する
敵の攻撃は【第六感】と念動領域による【空中戦】で無理矢理避ける
ニィ・ハンブルビー
なーんだ!ミノさん思ったよりイイヤツじゃーん!
しょーがないなー!手伝うのは今だけだよー?
さあ!纏めて敵を薙ぎ払…ん?
いやいやいや、落ち着いて手持ちの攻撃用ユベコを確認しよう
熱が出るのは割と火の気を伴うからよくないでしょ?
剣はデカすぎて森がやばいからダメでしょ?
無差別に脱がすとか論外でしょ?
…あれ1?攻撃用のユベコ使えなくない!?
しょ、しょうがない!
相手も空を飛ぶみたいだし、
ここは【フワフワの魔法】で仲間をサポートだね!
機動力の低そうな仲間から魔法をかけて、空中戦に対応させるよ!
殲滅力が欲しいとこだし、攻撃重視でいいよね!
よろしく風の精霊!みんな頑張って!
ほら!ミノさんも飛んで!敵殴ってきて!
●
木の枝に立ち、九条・蒼(フェアリー・ドラゴンフライ・f04493)はダガーを引き抜いた。
「ほう……第三軍とは。面白い、降りかかる火の粉は、私の力で打ち払うのみ!」
飛び立ち、ミノタウロスへと三叉槍を突き刺そうとしていたレッサーデーモンに接近、その背後から喉を切り裂く。
力なく落ち、黒い煙に消えていく悪魔を見て、ミノタウロスが蒼へと顔を上げた。
「すまぬな、小さき者よ」
「なに、礼には及ばない」
軽い口調で答えて空中で宙返りし、同時に背中の日本刀を抜く。突き出された三叉槍を受け止め、身を捻って流し、敵の腕を叩き斬る。
返す刀で目を斬りつけたところに、銃声が飛び込んできた。コエル・フーチ(指先の熱・f08889)だ。熱のこもった魔力散弾は、レッサーデーモンの背中にありったけ撃ち込まれた。
黒煙となった敵を見やりながら、コエルは慣れた手つきで次弾を装填しつつ、ぼやく。
「もう一回言っとこうか……。どっちが悪者だよ」
「まったくだな。もしやミノタウロスは、無害なのでは? 考えを改めねばならんか」
油断なくダガーを構えながら、蒼がコエルの背中につく。お互いの羽根がぶつからない距離を取りつつ、コエルが再び発砲した。
散弾を受けて爆散するレッサーデーモンを確認し、ミノタウロスを見下ろす。猟兵と協力しながら、奮戦していた。
「あるいは……この事態そのものが、ミノタウロスがいることで起こった『世界を滅亡に導く所業』だったりするのか?」
二人の妖精は、一瞬顔を曇らせた。もしそうだとしたら、なんとやるせないことか。
その下方、縦横無尽に暴れるミノタウロスを見ながら、ニィ・ハンブルビー(怪力フェアリー・f04621)が楽しそうに手を叩いていた。
「なーんだ! ミノさん思ったよりイイヤツじゃーん!」
「良いかどうかは知らぬ。が、吾輩にはこの森に対し、生かされた義理があるのだ。果たさせてくれ」
ちらりと見上げ、ミノタウロスは軽く頭を下げるそぶりを見せた。
「しょーがないなー! 手伝うのは今だけだよー?」
朗らかに言うニィに、コエルは一人、頷いた。
このミノタウロスは、いい奴なのだ。森のために戦うというのならば、どうして猟兵のコエルたちが迷う必要があるだろうか。
例え、今だけの協力関係であろうとも。ミノタウロスの肩に降り立ち、コエルは愛銃ホウセンカを構えて言った。
「了解だ、ミノタウロス。お前の友達が住む森を守るため、力を貸そう」
「私も休戦は賛成だ」
レッサーデーモンの心臓を突き刺し、ミノタウロスの眼前で飛ぶ蒼が振り返って頷いた。
「……恩に着る」
低く重い牛頭の声を受け、三人の妖精が飛び立つ。上空には、やかましく笑う悪魔がひしめいている。
コエルが銃口を空に向けた。一度に放たれる熱線は二百を超え、広範囲に撃ち広がり、悪魔どもの体を貫く。
熱線の合間を掻い潜るように飛び、蒼がダガーと日本刀を振るう。刃の先に狂いはなく、的確にレッサーデーモンの急所を捉える。
黒い血煙が、森の木々を濁らせる。地で猛勇を見せるミノタウロスと、空で優雅かつ鮮烈に戦う妖精二人を見て、ニィは腕組みをしていた。
その顔頬に、冷や汗が流れる。
「いやいやいや、落ち着くんだボク。落ち着いて手持ちの攻撃用ユベコを確認しよう……」
指折り数えながら、自分の持ち技を一個一個考えてみる。
彼女の得意とする力は、炎だ。強力だが、森で歓迎される力ではない。使えない。
剣。ミノタウロスが大斧を振り回している以上、ダメではないだろう。が、木々を斬りつけてしまっては申し訳ない。これも、使えない。
自身の周囲にいる者を強制的に脱衣させる魔法もあるが、そもそも服を着ているのは猟兵だけだ。意味がない。使えない。
「……あれ? 攻撃用のユベコ、一個も使えなくない!?」
悲鳴じみた声を上げて、ニィは今も縦横無尽に活躍するコエルと蒼を見つめた。
腕の見せ所だというのに、乗り遅れてしまう。レッサーデーモンは強くはないので、殴れば倒せるだろうが、猟兵である以上ユーベルコードを使って活躍したい。
ならばと、ニィは手を広げた。
「しょ、しょうがない! ここは仲間をサポートだね! よろしく風の精霊!!」
ニィの手が煌めいて、まばゆい光の粉を周囲にばら撒く。光に触れた仲間たちが、空に浮き上がった。
一瞬動揺した仲間たちは、ニィの魔法であると分かると、すぐに安心したようだった。
「へぇ、面白いことをするね」
敵をワンショットで薙ぎ払い、高速で装填を繰り返すコエルが、楽し気に笑った。
「私らは普通に飛べるから違和感がないが、他の皆はそうでもないようだな」
血濡れのダガーを振り払って清め、仲間の様子を見た蒼が言った。彼女の言葉通り、地に足をつかない戦い方に、動揺している。
「ま、すぐ慣れるでしょ!」
特に根拠もなく言って、ニィは光をミノタウロスにも降らせた。
「ほら! ミノさんも飛んで! 敵殴ってきて!」
「む。おぉ、これは」
浮遊感に包まれ、巨体が浮かぶ。ただでさえ大きいというのに、飛び上がるとなれば、もはや手の届かないところはない。
空中での姿勢にすぐ慣れたミノタウロスが、大斧を振り回す。切り裂かれた複数のレッサーデーモンが消し飛ぶ。
斧により巻き上がった風が、妖精三人の体を吹き飛ばす。あわや木に衝突というところで体勢を整え、蒼が叫んだ。
「おい! こっちは体が小さいんだ、ちょっとは気を使ってくれ!」
「これはすまぬ。つい面白うてな」
「その図体で空を飛べるなんて、思いもしなかったんだろう。大目に見てやろう」
どうやら木に突っ込んだと見えるコエルが、頭についた葉っぱを取り除きながらぼやいた。
数こそ敵が圧倒的に多いが、猟兵とミノタウロスが連携を取ったことで、優勢は緒戦から揺るがない。
とはいえ、フェアリーの三人からすれば、レッサーデーモンの体躯と繰り出される三叉槍は危険だ。当たればただでは済まないだろう。
顔面に迫る三叉槍をすんでのところで掴み取って、ニィは怪力を持ってへし折った。
「おりゃあああっ!」
レッサーデーモンの顔面に拳をめり込ませる。仕留められはしなかったが、のけぞらせることには成功した。
そこに、コエルの熱線が火を噴く。背中に強烈な散弾を受け、悪魔が消滅する。
ニィは敵を倒したことで起きた黒い煙を、突き破るように飛んだ。その先にいたレッサーデーモンの腕をむんずと掴み取り、どのまま放り投げる。
「やっちゃって、蒼!」
「任されたッ!」
ダガー一閃、蒼の斬撃は投げ飛ばされたデーモンの顔面を切り裂き、さらに反転しての一撃が喉笛を食らわせる
落下しながら消えていくレッサーデーモンに残心してから、蒼はニィに振り返った。
「ユーベルコードがなくとも、結構戦えるものだな」
「めっっちゃ不完全燃焼だけどね! ボクもガンガン燃えたいのになぁー!」
「お主らと戦う時には、その全力を果たせる場所に案内しよう」
空に漂いながら、ミノタウロスが言った。彼はあまりにも威容がすぎて、悪魔すら寄り付かなくなりつつあった。
最後には戦う運命にある。変えられないそれに対して一抹の寂しさを覚えたが、蒼とニィは優しい化け物の言葉に頷いた。
しかし、きりがない。蒼もコエルも相当数の敵を倒したはずだが、敵の数は一向に減る気配を見せない。
魔道具に封じられていたにしても、数が多すぎる。敵の合間をすり抜けて攪乱していた蒼が、舌打ちした。
「一人じゃ掻き回し切れないな。なら――」
蒼の体が、二つに分かれる。まったく同じ服装、武装、容姿を持つ分身を召喚し、揃って敵陣に飛び込んでいった。
レッサーデーモンが印を組み、呪文を唱え始めた。一瞬、蒼と分身体の動きが鈍る。捕縛の呪文だ。
「ッ……! そんなもので、私を縛れると思うなッ!」
呪縛を破って接敵、ダガーを振り抜いて印を組む腕を切り落とす。この程度ならば、脅威にはならない。
分身体は決して見かけ倒しではなく、実体を持っている。その刃の鋭さも変わらず、悪魔の群れからたちまち黒い血が吹き出す。
雨のように降る黒い血は、大地に辿り着く前に蒸発して消えた。
蒼が繰り出す疾風の如き攻撃に、空中にひしめくレッサーデーモンから絶叫が上がる。意図は分からない。攻撃の合図か、ただの恐怖から来る悲鳴か。
「まぁ、どっちでもいいさ」
低い位置から空に向かって、ダブルバレルショットガンの銃口が吼える。
放たれた無数の熱線が放射状に広がり、敵の群れを薙ぎ払う。一瞬だけ空が見えたと思うや、すぐにまたレッサーデーモンで覆い隠された。
直後、上空から飛来する三叉槍。投擲だ。コエルは直感的に体を動かして回避、投げつけた悪魔に向かって発砲した。
すれ違うように落下するレッサーデーモンの死体に目もくれず、手短な木に着地する。素早く装填していると、ニィが近くの枝に止まった。
「もー! しつこいなこいつら! まじムカつく!」
手足をジタバタとやるニィに、コエルは「確かに」と呟く。
「いくらなんでも無尽蔵すぎる。何か元になるものがあるのかもしれない」
「じゃ、それを壊せばオッケーだね! ボクが探してくるよ」
「いや、ダメだ」
答えたのは、全身を黒い血に染めて舞い降りた蒼だった。血はすぐに蒸発して消えたが、不快そうに顔を拭っている。
「私たちは空に慣れている。空中戦が初めての連中をフォローしてやらなければ」
「うーん、そっかぁ。じゃあ、誰かにお願いするしかないかな」
ミノタウロスは森を守ることに必死で、細かいことを願えるはずもない。黒魔術師が残っていればよかったのだが、ニィの分身により遠くに運ばれてしまっている。戻ってくる気配はない。
「よし、なら……むむむ……」
ニィが頷いて、何やら体に力を入れ始めた。テレパシーのようなものだろうかと、蒼とコエルは思った。
しかしニィは、次の瞬間、声の限りに叫んだ。
「誰かぁー! こいつらが出てくる原因を探してぇぇぇッ!」
戦っていた猟兵が一様にこちらを見上げ、即座に行動に移すものと、彼らの代わりに戦闘へ傾注するものに分かれるのが見えた。
流れるような連携に感心していると、耳を塞ぎながらも迷惑そうな顔をして、コエルが愛銃を担いだ。
「念話かなにかだと思ったら、またずいぶんと力技だな」
同じ感想を抱いているらしい蒼も、苦笑を浮かべていた。
思惑通り猟兵に伝わったとはいえ、レッサーデーモンの発生源がどういったものか、特定はできていない。
仲間がそれに辿り着いてくれることを願うしかない。それまでは、無尽蔵に現れるこの悪魔を倒し続ける必要があるのだ。
「なかなか体力のいる戦いだな」
もう何度も敵の急所を切り裂いているダガーを労りながら、蒼が額の汗を拭う。
「敵がミノタウロスだけとは限らないとは思ってたけど、これは予想外だね」
周囲を見渡しながら次弾を装填するコエルも、息が上がっている。飛び回って敵を攪乱しているニィもだ。
こうも数が多くては、例え一体の力は大したことがなくとも、消耗してしまう分だけこちらが徐々に不利になる。
現に今も、意識していなかった疲れから、蒼が一瞬だけ気を抜いてしまった。
ダガーについた血を拭った瞬間、真横から迫る三叉槍に気づく。
躱し切れない。例え戦闘力で優っていても、三叉槍の大きさだけは誤魔化せないだろう。直撃すれば、致命傷は必須だ。
「しまっ――!」
回避を試みるも、三叉槍は蒼の胴を貫かんと迫っている。ニィが手を伸ばし、コイルが銃口を向けているが、どちらも間に合わない。
これまでか。そう思った時だった。
「ぬんッ!」
突然巨大な手に掴まれ引き寄せられて、蒼は三叉槍の尖端を頬に受けるだけで済んだ。
己の油断に一度だけ歯噛みして、すぐに助けてくれたミノタウロスに礼を言う。
「すまない、助かった」
「気にするな。かようなところで傷つかれては、吾輩との勝負が面白くなくなってしまうのでな」
「ふふ、そうか」
ミノタウロスの声から蒼が感じたのは、歓喜だった。協力している喜びではない。強者と出会い、心が震える戦士の喜びだ。
計らずに起きたレッサーデーモンとの戦いが、猟兵の実力を彼に知らしめることとなったのだ。
「そうだな。こんな質の悪い余興は、いつまでも続けるわけにもいかないさ」
コエルが呟いて、再び飛び上がった蒼を狙う悪魔を撃ち抜いた。
今でこそ手を携えて戦っているが、それが長くは続かないことを、皆が感じていた。
例え心地よいと思えるような戦いであっても、これは前哨戦にしか過ぎないのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
エーカ・ライスフェルト
共闘することになるとはね
忌避感とまではいかないけど違和感が強い
でもまあオブリビオンを倒すのは目的ではなく手段だし、今回は気にしないことにする。本当に、穏便に済ませたいときに限ってそういう状況にならないのよね
【エレクトロレギオン】で呼び出した【機械兵器】を3つの隊に分け、巡回してオブリビオンに遭遇したら攻撃しろと命令を与え、3方向へ送り出すわ
戦う以前に転んだり木にぶつかったりして半減しそうだし、レッサーデーモンに負けてしまいそうだけどそれはそれでいいの
「騒ぎが起こった場所へ私が出向く。機械兵器は貴方のもとへ迷い込んだら遠慮せず壊して頂戴」
レッサーデーモンと戦う際は【属性攻撃】で土属性を使用するわ
「まさか、共闘することになるとはね……」
どうにも拭えない違和感を覚えて、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は呟いた。
まさか、オブリビオンと協力して戦うことになるとは。しかも、その敵もまたオブリビオンなのだを
仲間の魔法で宙に浮かびつつ、ミノタウロスと猟兵の戦闘を見やる。さすがに心を通わせてなどということにはならないだろうが、互いに達人の域にいる者たちだ。即席の連携は見事な完成度だった。
上空の敵は味方に任せて、エーカは地面に機械兵器を展開し、広範囲を索敵、殲滅していた。小型の機械兵器は、三部隊に分けてそれぞれの方向に展開している。
各部隊が、すでに戦闘状態にある。機械兵器は耐久性が弱いため、破壊されてしまったものも多い。
その中でもひときわ騒音の多い方向があった。先ほど仲間が叫んでいた、レッサーデーモン出現の大元があるかもしれない。
空中で大立ち回りを見せるミノタウロスへ、エーカは言った。
「騒ぎが起こった場所へは、私が出向く。機械兵器が貴方のもとへ迷い込んだら、遠慮せず壊して頂戴」
「承知した」
短い返事だが、オブリビオンと意思の疎通が成り立つのは、やはり違和感が強い。
肩をすくめて違和感を打ち消し、エーカは騒ぎの方向へ飛んだ。森の木々を飛行ですり抜ける感覚は、初めてだ。
「羽のある人たちは、こんな気持ちなのね」
これが戦いでなければ、また違った味わいがあったのだろうか。
レッサーデーモンの影響で腐り始めている木もあるが、その力が弱いためか、完全に朽ちた木はない。
エーカの進む方向には、やはり悪魔が多かった。三叉槍をこちらに向けて威嚇している。
構わず接近すると、慌てた様子で何事かを叫び、槍を投げつけてきた。
当たれば脅威だが、直線的な攻撃を躱すのはわけない。身をひねって回避し、エーカは右手に集約した魔力を解き放った。
地面が盛り上がり、巨大な土の手となってレッサーデーモンを捕縛する。そのまま大地に叩きつけられ、黒い煙となって霧散した。
機械兵器は、エーカが思っていた以上に善戦していたようだ。あちらこちらから、悪魔の死を知らせるかのように黒煙が立ち上っていた。
「……」
土の手を操り敵を撃退しつつ、エーカは敵の発生源を探し続ける。
不快な魔力がより濃くなっている。敵の数も増し、破壊された機械兵器がそこかしこに見えた。
ひしめくレッサーデーモンに、各個撃破では間に合わない。エーカは地面に降り立ち、土に触れた。
魔力を注ぎ込むと同時に、地面が爆ぜる。舞い上がった土は幾多もの弾丸となり、超高速で悪魔の群れを貫いていく。
森の上方が黒煙に塗れる。しかし、吹き出すように現れたレッサーデーモンにより、再び空が覆われた。
その原因を、エーカは捉えた。地面に落ちている、小さな鏡だ。
黒魔術師が持っていたという壺は、そのものが魔導具ではなく、中にある鏡こそが本体だったのだろう。
戦闘の余波でここまで飛んだか、あるいは悪魔により運ばれたか。
「どのみち、これで元は断てるわね」
指先に収束した土弾で狙いを定め、地面に転がる魔道具の鏡へと撃ち込む。
土の弾は目にも止まらぬ速さで魔道具に到達し、その鏡面を貫いた。
砕かれる鏡。現われようとしていたレッサーデーモンが、骸の海に引きずり込まれていく。
上空の悪魔は、顕現できなかった同族を嘲笑っていた。戦力の低下を考えていないらしい。
「所詮は下級悪魔ね」
ここらの敵を一掃しようと、エーカが土に魔力を送った時だった。
レッサーデーモンの群れが、一斉に方向を転換した。仲間の猟兵やミノタウロスがいる方だ。獲物が多いと見たのだろう。
羽ばたいていく悪魔を見やり、エーカはしかし、慌てて追うようなことはしなかった。
「あの程度がいくら群れても、結果は変わらないわ」
ひとりごちて、スカートの裾を払う。派手に土の呪文を使ったせいで、汚れてしまった。
「これは、洗濯が大変そうね」
渋い顔をしつつ魔道具に近寄り、念には念をと鏡を踏みつけ、鏡面を粉々に粉砕する。
「こんなものかしら。さてと」
仲間の魔法はまだ生きていた。軽く跳躍し、再び空に舞い上がる。
「そんなに経験できるものでもないし、楽しまないとね」
しばしの空中散歩と洒落込みながら、エーカは仲間たちが待つ森の奥へと向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ルベル・ノウフィル
wiz
僕は勇気を持ち合わせぬ小者にして、己が無力を知る者
魔術の制御は難しきと理解ある者
なに、よくあることでございます、魔術師殿
「と申しては、真面目な方々に怒られてしまいますでしょうか」
身近な木に登り味方の隙を守るよう彩花を放つ
自身の居る木が枯れ腐り、あるいは狙われれば枝から枝へと跳び移る
「ところで、このあたりに揺蕩う死霊殿の中に共に戦ってくれる方はいらっしゃいますか」
必要に応じUC星守の杯で味方を癒します
『味方』には魔術師殿とミノさんも含まれますとも
僕は過去に武者の亡霊と戦ったこともあり、武人の気質に理解がございます
ミノさんもそうならば、死合う時は万全な状態で真っ向から堂々と戦いたいものです
露木・鬼燈
話は全部聞かせてもらったっぽい!
引き続きムカデに乗ったまま登場するです。
うん、ちゃんと把握してるです。
ミノタウロスは後回しだよね。
呉越同舟、これもまた戦いの面白さ。
まぁ、戦いの最中にデータはしっかりと取らせてもらうけどね。
情報の収集と解析…戦いはすでに始まっているっぽい。
とは言え、レッサーデーモンで怪我するのもね。
戦いのおまけ程度にしておくっぽい。
さて…火気禁止はなー。
仕方ないので騎乗戦闘かな。
手の内を晒すのも面白くない。
大剣と棒手裏剣だけでがんばるっぽい。
木々で自由には飛べないだろうし、やりようはあるってね。
環境に合わせた戦い方があるのですよ。
森の中ならムカデと力を合わせれば…イケルイケル!
●
仲間の魔法を受けて、猟兵のみならずミノタウロスまで浮遊している。異様な光景だった。
サイボーグムカデにまたがる露木・鬼燈(竜喰・f01316)が、ミノタウロスの周りを囲んでいたレッサーデーモンを大剣で切り裂く。
「話は全部聞かせてもらったっぽい!」
空を漂うサイボーグムカデの上で、鬼燈は棒手裏剣を構え、投擲した。複数の悪魔の脳天を貫き、即死したレッサーデーモンが落下していく。
大きな牛頭が振り返り、鬼燈を見た。
「すまぬな。貴様らの目的は我であろう」
「事情は把握してるです。呉越同舟、これもまた戦いの面白さだからね」
「責はすべて小物の魔術師にあるのだ、無理を強いてつまらぬ傷など負うでないぞ」
オブリビオンに気を使われるという感覚が妙にこそばゆくて、鬼燈は頬を掻いた。
なんと返したらいいものかと思っていると、彼らの後方、木の上から、少年の声が聞こえた。
「なに、よくあることでございます」
そう言って、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は木の上から跳躍し、浮遊の魔術でゆっくりと、サイボーグムカデに着地する。
鬼燈の服を掴みながら、ルベルは続けた。
「僕は勇気を持ち合わせぬ小者にして、己が無力を知る者。魔術の制御は難しきと理解ある者にございます。魔術師殿の気持ちも、分からなくはないのです」
バランスを崩さないよう鬼燈の服を掴みながら、ルベルは肩を竦めた。
「このようなことを申しては、真面目な方々に怒られてしまうかもしれませんが」
「いや。己の力量を推し量れるお主を、吾輩は弱者とは思わぬ。弱者ほど、ありもせぬ名誉を欲するものだ」
だからこそ、森に無謀な挑戦をしてくる冒険者を叩きのめしているのだろう。先ほどの魔術師も、自分が優れていることを証明せんがためだけに、ミノタウロスを倒そうとしていたのだ。
それが悪いことだとは、鬼燈もルベルも思わなかった。ただ、それだけでは、決して強くはなれない。
「弱き己を知るからこそ、強さを求められるのだ」
「わかるわかる」
ミノタウロスの言葉に熱心に頷きながら、鬼燈は大剣を振るって次々に悪魔を斬り捨てていった。
サイボーグムカデから木へと跳び、ルベルが札を取り出す。「彩花」と名付けたその札は、彼手製のものだ。凄まじい怨念が封じ込められている。
「揺蕩う死霊殿の中に、共に戦ってくれる方はいらっしゃいますか」
そう言って札を掲げると、ルベルの周囲だけ温度が急激に冷え込み、この世ならざる者どもの気配が濃厚に増していく。
森に留まり続ける死霊たちだ。その連中が比較的古い者たちであることに気づき、ルベルは首をかしげた。
「ミノさんにやられた人は、いないようですね」
彼らがどうして死んだのか、分からない。だが、恨めしそうに見上げる先にはレッサーデーモンがいるのだ。ともに戦ってくれるのならば、問題はない。
ルベルが札を投げた。不可視の力で悪魔へとまっすぐに進む札を、死霊が一斉に追いかける。
青白い死霊たちが、レッサーデーモンの体に纏わりつく。憑りつかれた悪魔たちは、一斉に喉を掻き毟って苦しみもがき、次々に落ち、黒い煙と化していく。
ムカデの上で大剣を振るっていた鬼燈は、その光景に思わず小さな笑い声を零した。
「悪魔が怨霊に取りつかれるって、なんか皮肉っぽい」
「よほど鬱憤が溜まっていたのでしょうね。気晴らしには良い相手なのです」
枝の上で腕を組み、ルベルは「よかったよかった」と頷いている。
死霊の憂さ晴らしに殺されるレッサーデーモンに同情するつもりはなかったが、鬼燈はなるべく敵は即死させようと決めた。
戦いつつも、サイボーグムカデの目はミノタウロスのデータを集積し続けている。
斧を振るスピード、立ち回りの傾向、突発事項への対処など、データは鬼燈のサイバーアイに逐一転送されている。
さすがに強力なオブリビオンだ。その力は、レッサーデーモンなど比較にもならない。
だが、数値やミノタウロスの立ち回りを見ながら、鬼燈は感じていた。彼はまだ、本気を出していない。
「それはそうだよね」
鬼燈だって、手の内は明かしていない。サイボーグムカデを用いて森ならではの機動力を発揮してはいるが、鬼燈の本気は別にある。
他の猟兵も皆、力を温存している。それでも――あるいはそれ故か、かすり傷程度ではあるが、徐々に傷つく者が現れている。
ミノタウロスも例外ではなかった。巨体故に狙われやすく、所々に傷を受け、流血している。
サイボーグムカデにまたがって、鬼燈は牛頭の魔物に近寄った。
「少しへばってきたです? 躱しきれてないっぽい」
「笑止。この程度の傷、問題にもならん」
鼻で笑いつつ、ミノタウロスが大斧を振り回す。引き裂かれた空気が、ルベルの髪を揺らした。
「確かに、今は影響のない傷かもしれません。ですが……その後が気になりますね」
枝から枝へ飛び移り、ルベルが両手を広げた。
「杯を逆さに、高虚より降り注ぐは夢の星粒」
呟きが空気に溶け、直後に空から色とりどりの光が降り注ぐ。
愛らしいまでに鮮やかなそれらは、金平糖だった。甘い空気が、悪魔に汚染された森を浄化していく。
傷ついた仲間が癒えていく。どうやら、魔法的な物質のようだ。鬼灯が試しにつまんでみると、甘かった。
輝きながら舞い降りる金平糖は、ミノタウロスの体をも癒やす。
「む、吾輩も含むか」
「含みますとも」
ルベルは頷いた。戦力として頼りになるだけではない。かつて戦った武者の亡霊が教えてくれた武人の気質が、このオブリビオンにはあるのだ。
「死合う時は、万全な状態で真っ向から堂々と戦いたいのです」
「同感っぽい」
金平糖を舐めつつ棒手裏剣を投擲し、鬼燈も頷いた。
彼ら猟兵もまた、強者の集いだ。戦いに命を賭す者の矜持を心得ている者は、多い。
そうでなければ、共闘の願いを聞き入れることなどなかっただろう。その事実に、ミノタウロスが鼻を鳴らした。
「……誠に、猟兵とは面白き奴らよな」
すでに元を断たれたらしいレッサーデーモンの群れは、少しずつその数を減らしていた。
広範囲に散らばっていた悪魔たちは、この場に集結しつつある。狙いは彼らの天敵である、猟兵だろう。
鬼燈が武器を振るうたび、ルベルの札に集まる死霊が取り憑くたびに、黒い煙が上がり、悪魔が骸の海に帰っていく。
しかし、この一帯は長く悪魔の瘴気に晒されたせいか、森の木々が枯れ、腐り始めていた。
「おのれ……」
レッサーデーモンへと、低く憎々しげに呟くミノタウロス。世界を破滅に導く存在とは、真逆にすら思える。
かつて戦った敵には、狂気とも思える行為で人々を苦しめながらも、真に人を救いたいと願っていたオブリビオンもいた。そういう手合いだろうか。
「……ま、考えても分かんないっぽい」
「そうですね。ただ、素晴らしい武人と戦えることを喜びましょう」
それこそが、互いにとって最も伝わる心なのだ。ルベルの言葉を噛み締めて、鬼燈は頷いた。
レッサーデーモンの勢いは、見る間に削られていく。決戦の時は、近い。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
トリテレイア・ゼロナイン
己が制御できない力に頼るとはなんと嘆かわしい…あとで説教と鉄拳を喰らわせてやりたいですね
(信頼性を重視して光線銃ではなく古い火薬式銃火器を選択している銀河帝国産ウォーマシン)
森を守るため、力を請われました。騎士としてこれを断ることなど断じて許されない。
牡牛の戦士、今この瞬間は共に肩を並べ、背中を預けることを許しては頂けますか。
ミノタウロスの隙をカバーするように背中合わせで戦います。
デーモンの攻撃からお互いをかばいつつ、飛び回る相手に向けて残弾を使い切る勢いで格納銃を乱射、撃ち落とした敵は彼に任せ、横槍を武器受け、盾受けで防ぎ、悪魔を切り捨てていきましょう
あぁ、叶うならばこの時間が少しでも長く…
●
鋼鉄の体をスラスターで制御しつつ、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はミノタウロスの背中についた。
「牡牛の戦士、今この瞬間は共に肩を並べ、背中を預けることを許して頂けますか」
神妙な声音で尋ねると、ミノタウロスが笑った。背中越しでもはっきりと、それが分かる。
「おかしなことを聞く。それはむしろ、吾輩がお主に頼むことよ。鋼鉄の騎士、我が背中を任せてもよいか」
「……無論です」
大盾を握る手に、俄然力が入る。信頼関係とまで言うつもりはないが、戦いを通じて芽生える戦友の心が互いにあることに、トリテレイアは歓喜した。
牛頭の戦士を守りつつ、空中の敵を見やる。空を飛ぶ力を付与されても、小さなレッサーデーモンのスピードには及ぼない。
ならば、遠距離から仕掛ける。格納していた機銃を展開し、一斉に射撃を開始する。
凄まじい弾幕が、悪魔の群れに襲いかかる。敵の死とともに黒煙があちこちから上がるが、一撃が小さいため、致命傷には至らない者も多い。
羽や腕などを撃ち抜かれたレッサーデーモンが、失速し高度を下げる。その高さは、ミノタウロスの間合いだった。
「頼みます!」
「承知! ヌウォォォッ!」
大斧が猛り、いくつもの悪魔が巻き込まれ、声も出せずに消し飛んでいく。
ミノタウロスの背中をカバーしつつ、トリテレイアは機銃を全弾撃ち尽くす勢いで弾幕を張った。
発生元を断たれたレッサーデーモンは、見て分かるほどに数が減っている。
悪魔の瘴気に当てられて枯れた木を見て、トリテレイアは小さく毒づいた。
「己が制御できない力に頼るとは、なんと嘆かわしい……。あとで説教と鉄拳を喰らわせてやりたいですね」
「そう言うな、鋼鉄の。あのような弱者が卑怯な手を使うは定石よ」
「しかし、森が」
「……蘇る。この森は強いのだ。故に、心配はいらぬ」
本来ならば一番魔術師を殴り倒したいのは彼だろうに、ミノタウロスは淡々と言った。
なぜ、彼がオブリビオンなのだろうか。トリテレイアは牡牛の戦士を盾で守りながら、考える。
世界を必ず破滅に導く、悪しき存在。そうであるはずなのだ。そうあってほしいとすら思う。
だというのに、このオブリビオンは――力強く、優しく、弱きを守り、厳しくも情に溢れている。
まるで、騎士のようではないか。
「……」
一瞬浮かんだ、戦いたくないという想いを、儀式用の剣でレッサーデーモンごと斬り捨てる。
トリテレイアは猟兵なのだ。ミノタウロスはオブリビオンだ。戦う理由は、揃っている。
そして何より、彼は、やる気だ。トリテレイアが躊躇することは、無礼にも当たる。
レッサーデーモンが減っていく光景を見ながら、トリテレイアは思考の渦に捕まっていった。
「鋼鉄の」
背中越しに、ミノタウロスが呼んだ。顔を上げて、武器を構え直す。
「失礼。少々考え事を」
「うむ」
何を考えていたのかを聞かないのは、きっとすべて悟られているからなのだろう。
機銃の弾薬が底をついた。敵はもう、数えられるほどしかいない。
「貴方は」
悪魔の心臓を一突き、剣を振り払って、トリテレイアは尋ねた。
「世界を憎んだことが?」
「また、妙なことを聞くものだ」
低い声で笑いながらも、ミノタウロスは答えてくれた。
「なくはない。強者のいない世界に用などないと」
「……」
「だが気がついた。吾輩にとって、この森こそが世界だったのだ。それからは、憎むのを止めた」
しかし、それでも冒険者たちはやってきた。彼を倒すために。
戦う度に、森が傷ついた。巻き込まれた動物たちもいただろう。すべて、ミノタウロスが出現しなければ起こらなかった事象だ。
「我輩がいなくとも、森は生きる。あるいはいないほうが、静かで幸福やもしれぬと考えてきた。故に、命は惜しくない」
その言葉は、トリテレイアの背中を強く押していた。迷うな、戦えと。
それでも。トリテレイアは思わずにはいられない。最後の一匹となったレッサーデーモンを見上げ、ため息を漏らす。
「あぁ……」
叶うならばこの時間が少しでも長く――。
◆
最後の一匹を仕留めると同時に、浮遊の魔法は切れた。
地響きを鳴らして降り立ったミノタウロスの前に、猟兵たちが立つ。
一時は共闘した間柄だ。しかし、その戦いは、これから始まる決戦のために。
誰もが、覚悟を決めていた。
「よい顔だ」
満足げに、ミノタウロスが頷いた。
次に武器を振るう時、彼は本気を出しているだろう。みなぎる戦意から、猟兵たちは誰もがそれを感じていた。
牡牛の頭が猟兵を見回す。一人ずつ見つめるその目には、信頼の光があった。見返す猟兵たちも、また。
それは互いに命を賭けて戦うという信頼である。手加減などない、命尽きる瞬間まで全力を出し合えると信じ合っている。
森の木々から差し込む夕日が、双方の微笑を茜に染める。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『ミノタウロス』
|
POW : マキ割りクラッシャー
単純で重い【大斧 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 暴れ牛の咆哮
【強烈な咆哮 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【突進】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : ベジタリアン・テンポラリーヒール
戦闘中に食べた【野菜 】の量と質に応じて【身体に出来た傷が塞がり、気分が高揚し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「クロ・ネコノ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
「万全か」
ミノタウロスが言った。猟兵たちから答えはない。言わずとも、伝わっているからだ。
地面に刺していた大斧を拾い上げて担ぎ、ミノタウロスが目を細める。
「我輩とお主ら、双方ともに生きて帰るということはない。……よいな」
猟兵たちは、各々が戦いの構えを取ることで答えとした。その返答に、牛頭の戦士は小さく頭を振って、笑う。
「愚問であったか」
ミノタウロスの目が、変わる。高まった戦意を撒き散らし、大斧を振り上げ、猛り吼える。
「我が名はミノタウロス! 『力の森』の守護者なり! 強き者どもよ、いざ――参るッ!」
猟兵たちが次々に喚声を上げる。
力と力が、衝突した。
森が、震える。
エーカ・ライスフェルト
喚声を上げないと、精神的に呑まれて抗戦もできずに死んでいたわね
「エーカ・ライスフェルト、猟兵よ。死ぬまでいいから覚えておきなさい」
ところで、攻撃偏重の敵ウィザードが近くにいたらどうするかしら
ドレスなんて戦闘を舐めた服装をしていたら、真っ先に潰すのが礼儀よね
「当然、そう来るわよねっ」
【見切り】だけでは絶対に間に合わないから、最初に狙われると予測して飛び退くわ
ドレスが盛大に汚れたり裾が破ける気がするけど戦闘中は気にしない。……気にしないんだから
ドレスは譲れない拘り
今回も使用するのは【エレクトロレギオン】よ
【機械兵器】の力は見抜かれているだろうけど、雷や冷気をランダムに込めて足止めと消耗を狙いたいわ
●
ウィザードというものは、得てして狙われやすいものである。ましてそれが、ドレスを纏っていればなおさら。
ミノタウロスが狙いを定めるより早く、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)はその場から飛び退った。
巨大な大斧が、地面を抉る飛び散る土片を払い除けるエーカに、牛頭が向く。
「思うておったより身軽なようだな、魔術師よ」
「私はエーカ。エーカ・ライスフェルト、猟兵よ。死ぬまででいいから、覚えておきなさい」
「いや」
斧を担いで、ミノタウロスが否定する。その目は真っ直ぐ、エーカを捉えて離さない。
「忘れまい。例え死してもお主らは、忘れられぬであろう」
「そう、光栄ね」
言いながら、エーカは再び跳躍した。横薙ぎに振るわれた大斧が、体をかすめる。
纏う群青のドレスが割かれる。当たればただでは済まないが、エーカは舞い散るドレスの布地に目をやる。
「……気にしてないわ」
誰にでもなく言うも、内心は少しショックだった。彼女にとって、ドレスは譲れないこだわりなのだ。
「よそ見をするでない、エーカ・ライスフェルト!」
「ッ!」
鉄塊の如き斧を、地面を転がってなんとか躱す。
ミノタウロスの連撃を掻い潜るたび、土が飛び散り、ドレスが汚れる。凄まじい猛攻に、反撃のチャンスをつかめない。
「ドレスなんて戦闘を舐めた服装をしていたら、真っ先に潰すのが礼儀よね」
自嘲気味に笑いながら、エーカは手を合わせ召喚の呪文を放つ。
術師を護るように現れたのは、レッサーデーモンとの戦いでも活躍した機械兵器たちだ。
剣やら槍やらを持っているし、機銃なども搭載しているが、ミノタウロスの一撃を受ければ消し飛ぶ程度の耐久性しかない。
それでも、エーカは前進を指示した。
「目標、ミノタウロス! 進みなさいッ!」
彼女にしては、声を荒げていた。戦いの始まりに、他の猟兵たちと喚声を上げていたことを思い出す。
そうでもしなければ、ミノタウロスの覇気と異様な信頼関係に呑まれしまい、戦えないのだ。
機械兵器に取り囲まれても、牡牛の戦士はひるまない。大斧を頭上に持ち上げ、振り回す姿勢を取る。
「数の利で攻めるか。しかし、この程度のからくりではなッ!」
大斧が唸る。力任せに振るわれたその一撃を受け、先陣を切っていた機械兵器が見るも無残に破壊されていく。
しかし、エーカは焦らずにさらなる攻撃を指示した。
次々に破壊されていく様子は、まさに無双であった。その様子を見ながらも、エーカは冷静だ。
その理由は、機械兵器の中に隠されていた。
ミノタウロスが大斧で機械兵器を叩き潰した瞬間、それは起こった。
「ヌッ……!? グアアアッ!」
破壊した機械兵器から、スパークが飛び散ったのだ。エーカが仕掛けていた雷の魔法である。
「今よ!」
ひるんだ隙をついて、エーカが叫んだ。機械の兵隊が攻勢に出て、機銃の音が森に響く。
「グッ……ぬかったわ。だが、面白い!」
機銃の弾を受けても、ミノタウロスへのダメージは薄い。即座に斧を振り回し、攻撃の手は一瞬で破壊された。
しかし、きっかけは掴んでいた。敵の足元には、複数の機械兵器が取り付いている。
エーカの勝ち誇った微笑を見て、ミノタウロスが吼える。
「それで吾輩から一本取ったつもりか。甘いわッ!」
巨大な足に踏み潰され、兵器たちは粉砕した。
直後、機械兵器に施されていたさらなる魔法が展開される。凄まじい冷気が巻き起こり、巨体の足が凍りつく。
氷が地面に根を張り、ミノタウロスから移動の自由を奪った。
「なんと……!」
「甘いのはどちらかしらね」
エーカが指を鳴らすと同時に、残された機械兵器たちが一斉に進軍を始める。
足を止められたミノタウロスは、その場で応戦するしかない。防御に徹すれば、いつかやられる。
「なんの! この程度で吾輩の斧は止められんッ!」
牛頭が斧を振るい、金属が砕ける音が響く。同時に、空中を電流が走り抜けた。
攻め立てる機械兵器には、全てに雷の魔法が宿っていた。破壊される度に、バチリと電光が飛ぶ。
「ええい、厄介な!」
叫びながらも、ミノタウロスの猛攻は止むことを知らない。
氷に囚われ稲妻に攻められながらも攻撃を緩めない姿に、エーカは素直に感心した。
「分かってはいたけれど、本当にタフねぇ」
雷を全身に受けつつ、雄々しく斧を振るう姿は、モンスターと言えど勇ましい。まさしく武人であった。
やがて、すべての兵器が破壊された。足元の氷が消え、ミノタウロスがバランスを崩す。
膝をつくようなことはなかったが、見て分かるほどに消耗していた。
「むぅ……油断したつもりはないが……」
「あなたが知らなかっただけよ。猟兵は、あなたがそうだと思うより、強いの」
「ふむ――そのようだな」
肩でしていた息を整え、ミノタウロスが、笑った。
「実に、愉快だ」
体力を削られてもなお、牡牛の怪物は覇気に満ちている。
先手は取った。しかしその有利は、油断をすれば覆される可能性がある。
戦いは、まだ緒戦なのだ。
成功
🔵🔵🔴
ニィ・ハンブルビー
ん~…ミノさんは凄くイイヤツだし
森に棲む精霊達も別れを惜しんでるし
正直戦わずに済めばって思うけど…
でもオブリビオンなんだよね
わかってるよ
ミノさんも、わかってるから戦うんだよね
…よし!吹っ切った!
それじゃあボクも全力で!
炎の精霊と一緒に、真の姿でお相手するよ!
さて、全力って言ったからには、
実現可能な最大威力を叩き込まないとだよね!
まずはひたすら【力溜め】!
どこまで力を溜められるか!限界に挑戦だ!
攻撃も防御も、しばらくみんなに任せた!
そんでもって!
力を溜めたら【ズバズバの魔法】で巨大な剣を召喚!!
超弩級で最大威力な斬撃をお見舞いするよ!!!
受け取れミノさん!!!!
これがボクらの全力だー!!!!!
九条・蒼
「先ほどは私の命を救ってくれたな、感謝する。その温かい心は、お前が命の灯が消えても、生涯忘れないだろう。」ダガーを構える
感謝の心を持ちつつ全力で相対
●戦法
1章での罠を可能なら活用
基本は補助
鬱陶しく飛び回り注意を逸らす
1:仲間に一撃が行きそうな時、斧の持ち手や刃先を攻撃しバランス崩し
2:目、耳、鼻、顎、眉間など、急所を狙う
3:フェアリーらしからぬ怪力により、全力を出せば斧をはじき返…せる?
フェアリーがいるので小ささを活かした連携を希望
攻撃時、全身の筋肉が盛り上がる
●弱点
超重量の一撃ゆえ、一度の被弾も危うい
だが敢えて分身を狙わせ、隙をつく戦法も
(分身体を、真っ二つなど、激しく砕け散らせて演出も?)
コエル・フーチ
さて、毎度の如く言っておこう……どっちが悪者だよ、ってな
確かにミノタウロスはこの森の守護者だよ、あたしらが悪者に思えるくらいに
だからと言って、手を抜くつもりもなければ、負けてやるつもりもないがな
オナモミの属性を光にして、スタングレネードのようにして【目潰し】する
その隙に【目立たない】ように飛び上がり、木の上から狙い撃つ
【高速詠唱】で『熱線の雨』を装填したホウセンカを構え
さらに【念動力】で敵の動きを阻害した後に、左右2つのトリガーを引き【2回攻撃】で『熱線の雨』の熱【属性攻撃】だ
120本×2発の熱線の【誘導弾】で一点に集め攻撃する
ミノタウロスのヒールは、もったいないが
こげこげの消し炭にさせて阻害
「ん~……。ミノさんは凄くイイヤツだし、森に棲む精霊達も別れを惜しんでるし、正直戦わずに済めばって思うけど……」
思わず本音を吐露したニィ・ハンブルビー(怪力フェアリー・f04621)を、体毛に焦げた跡を残すミノタウロスは、厳しく睨みつける。
「そこな妖精。お主には使命があるのだろう。吾輩もまた、我が念願を成就せんがために戦うのだ。その想いはありがたいが、覚悟を決めよ」
「うっ、怒られちゃった……。でもそうだね、分かってるよ。ミノさんも、分かってるから、戦うんだよね」
「左様。お主の仲間の妖精もまた、同じ想いであろう」
ミノタウロスの鋭い眼光は、いつのまにかニィの背後に飛んでいる二人の妖精に向けられていた。
その視線を真っ向から受けつつ、九条・蒼(フェアリー・ドラゴンフライ・f04493)はダガーを構えた。
「先ほどは私の命を救ってくれたな、感謝する。その温かい心は、お前の命の灯が消えても、生涯忘れないだろう」
「まったく、何度も言ってるが、つくづく思うよ。どっちが悪者だよ、ってな。確かにあなたはこの森の守護者だ。あたしらが悪者に思えるくらいには、ね」
敵の目線の高さに飛びながら、コエル・フーチ(指先の熱・f08889)が肩をすくめた。
妖精三人の言葉を聞いて、ミノタウロスは斧を担いだまま、わずかに笑う。
「案ずるな。森の者どもにとって、吾輩もまた生まれては消えゆく命の一つに過ぎぬ。そして、この闘いは吾輩が望んだものでもある。吾輩を殺すことを躊躇う必要はない。助けたことも、感謝されることではない」
淡々とした言葉だった。そこに嘘は微塵もない。だから、蒼は否定せずに頷いた。
「そう、かもしれないな。だが、私には私の義理がある。……全力で戦うことで、義理を果たさせてもらう」
「あぁ。手を抜くつもりもなければ、負けてやるつもりもない」
愛銃ホウセンカの銃身を撫でつつ、コエルもはっきりと宣言した。
仲間の決意を受けて、ニィもまた、覚悟を新たにする。両腕を振り回し、元気よく叫んだ。
「ボクも吹っ切った! 全力でお相手するよ!」
緊張が高まる。ミノタウロスの大斧が、肩から正面へと、ゆっくり構えを変えた。
そして――、
「来いッ!」
獣の如き雄叫びを合図に、戦いが再開した。
初手はミノタウロスが仕掛けた。妖精の三人からすればあまりにも巨大な大斧を、横薙ぎに振るう。
暴風を巻き起こす斧は、空を切った。身軽に空を飛ぶ三人に、敵の第二撃が即座に襲う。
さらなる薙ぎ払いを、蒼が見切る。斧の切っ先をダガーで受け止めた。
化け物らしい怪力に、吹き飛ばされそうだ。しかし次の瞬間、蒼の筋肉が盛り上がる。
「らァッ!」
叫びとともに、大斧を弾き飛ばす。妖精の体躯からは想像しかねる力に、ミノタウロスが目を丸くした。
「ヌゥっ!?」
大きな隙だ。妖精たちはミノタウロスの足元や頭上から背後に回る。
股下を潜り背中を取ったコエルのダブルバレルショットガンが、二百以上もの熱線を噴いた。
「グワァァッ!」
牡牛の背を焼くも、散弾では貫けない。敵は倒れず、思わず舌打ちが漏れる。
「分かってはいたけど、固いな」
「たが、急所なら!」
頭上から、蒼が眉間に向けてダガーによる斬撃を見舞う。しかし、斧に受け止められた。
筋肉を膨れ上がらせ対抗するも、力を入れるのは敵が早かった。力任せに弾き飛ばされる。
「くぁっ!」
「おっとと!」
慌ててニィが受け止め、蒼を抱えたまま追撃の斧から退避する。
太い枝に一度着地すると、コエルも飛んできて、同じ枝に止まった。
「さて、どう攻めたもんか」
コエルの簡潔な疑問に、ニィは腕組みをしてミノタウロスを眺める。こちらを見上げながらも、無理に襲いかかってはこない。仕切り直しということか。
闇雲に攻めて勝てる相手ではない。高い木の上から勇ましい牡牛を見下ろし、蒼が呟く。
「二人とも、火力に自信はあるか?」
ニィとコエルは目を見合わせた。そして、頷く。
「うん。むしろボクの自慢はパワーだからね! 限界まで力を溜めれば、すっごいのをぶちかませるよ!」
「あたしもホウセンカの火力を一点集中させれば、相応のダメージは与えられると思う。何か考えがあるのか?」
問われた蒼は、ミノタウロスから視線は外さずに答えた。
「私が仕掛けた罠がある。そこで足を止めて、叩く」
「なるほど。じゃあ役割を決めよう――」
妖精たちは手早く役割を決め、即座に行動を開始した。三人揃って、ミノタウロスの前に躍り出る。
「手は決まったか?」
敵の問いに、コエルが肩をすくめて答えとした。
ミノタウロスが、斧を振り上げる。
「よかろう。では、参るぞ」
「二人とも、準備はいけるか?」
「いつでも!」
「いいぞ」
瞬間、斧が振り下ろされる。全員が散開し、大斧が巻き起こす風を利用して高く飛んだ。
コエルが小さな球体を投擲した。投げられた魔力式グレネード「オナモミ」は、敵が気づくより早く、炸裂する。
オナモミから溢れた強烈な光の魔力が、ミノタウロスの視界を焼いた。
「ヌゥォォッ!?」
「これがあたしらの手ってやつさ。捕まえてみな!」
叫ぶや、コエルが森に消えた。
目を焼かれたミノタウロスは、視力が戻るまで気配を辿るしかない。その動きは、あまりにもたどたどしかった。
「もらったッ!」
蒼が振るうダガーの一閃が、牡牛の耳を裂く。舞い散る血が、大地に落ちる。
「ぬぅ、やりおるわ!」
「ミノさんの実力は、そんなものじゃないでしょ! 根性見せてみろっ!」
ニィの拳が、ミノタウロスの頬を殴り飛ばす。直後、痛みを力に変えて、ミノタウロスが咆哮を上げた。
「オオオオオオオッ!!」
「くっ!」
「うわぁーっ!」
森を揺るがす大音声に、蒼とニィが吹き飛ばされる。その気配を追って、巨体が突進を敢行する。
「ウオオオオオオッ!」
「しまッ――!」
体勢を立て直した蒼に、タックルが直撃する。凄まじい筋力と圧倒的な質量を受け、蒼の体が、砕け散る。
「蒼ぃっ!」
バラバラになって飛び散る蒼に、ニィが半泣きで叫んだ。しかし、ミノタウロスは悔しげに歯噛みする。
「ぬぅっ! 手応えがないわい!」
「気づくのが早いな、少しは騙されてくれ」
苦笑気味に言ったのは、他でもない蒼――破壊された分身体ではなく、本物の蒼だ。即座に森の奥へと飛び込んでいく。
目をぱちくりさせていたニィは、どうやらミノタウロスと一緒に騙されてしまったらしい。すぐに気を取り直し、蒼に追いついた。
「やるね、蒼! ボクまでびっくりしたよ!」
「すまない。だが、誘い込むためだ」
現に、小さな妖精に翻弄されている敵は、少しずつ冷静さを欠いている。獰猛さを隠しもせずに、破壊的な咆哮を上げていた。
森の木々をすり抜け飛び越えるニィと蒼を、ミノタウロスが追いかける。枝をへし折りながら進むも、木を斧で斬り倒すようなことはない。
森を愛している証拠だ。誇り高い戦士の猛攻を受け、二人は嬉しくすらあった。
「やっぱいい人だよね、ミノさん!」
「そう思う。だが、勝負は勝負だ」
開けた空間に出て、蒼とニィは即座に空高くへ飛び上がった。
遅れて現れたミノタウロスの視線の先には、高所の枝で愛銃を担ぐコエルの姿。
「待ち焦がれたよ、ハンサムさん」
もう、ミノタウロスの視界は回復していた。はっきりとコエルを見、そして吼えた。
「それで待ち伏せのつもりかッ! 見くびるなッ!」
怒号を上げて踏み込んだ刹那、地面が弾けた。大地から噴き上がる白い胞子と厚手の葉が、牡牛の戦士を包み込む。
「見くびってなんかないさ。なぁ、蒼さん」
「あぁ。その罠は、私のとっておきだ」
罠を仕掛けた蒼は、上空から誇らしげに答えた。
肉厚の葉は巨体の顔の高さにまで上がり、ミノタウロスが暴れるほどに、その顔を、目を、傷つけていく。
さらに雪の如く舞う胞子が、耳を塞ぎ、目を覆い、非常な不快感を与える。
「ぐぬぅッ、またしても!」
「ついでだ。これも取っておくといい」
コエルが掌を敵へと向ける。途端、不可視の力がミノタウロスの体を縛り上げた。完全な拘束とまではいかないが、その動きが明らかに鈍る。
自由を奪った敵へ、蒼が素早くダガーで斬りつける。硬い筋肉は小さな刃を深くまでは通さないが、その意識を蒼に向けるには十分すぎる。
「ええい、その程度で吾輩は倒れぬ! 倒れてなるものかァァァァァァッ!!」
覇気に満ち満ちた咆哮が、大地を震動させる。しかし蒼は、血濡れのダガーを一振りしつつ、言った。
「まだまだ。これからだ」
「そうとも」
高い木の上――ミノタウロスの死角からホウセンカを構えたコエルが、トリガーを引いた。
派手な発砲音とともに放たれた無数の熱線が、うねり歪んで束となり、やがて一本の強大な熱線となる。
血の流れる目でそれを確認したミノタウロスは、武器で受けることは間に合わないと見たのか、頭を突き出し角で熱線を受け止めた。
「ぬるいわッ!」
「おいおい、冗談だろ」
思わず零れたコエルの言葉だが、それはむしろ面白そうな響きすらあった。
収束した熱線と押し合うミノタウロスだが、それを黙って見ている手はない。二人に分身した蒼がダガーを手に襲い掛かる。
「取った!」
「甘いッ!」
熱線を受けながら、ミノタウロスが器用に拳を振るう。
しかし、蒼も見切っていた。分身体とともに拳を飛び越え、その腕に着地、肩に向かって走る。
「な、なんという奴ッ!」
「おっと、よそ見は厳禁だ」
コエルがさらなる熱線を放つ。愛銃から射出された赤い光が、再び収束し、角と押し合う光に加わる。
蒼がその右面にダガーを振るったのは、同時のことだった。
小さな刃が頬に大きな傷を作り、のけぞったミノタウロスの腹部に、角から解放された凝縮熱線が突き刺さる。
「ガッ――!」
よろめいたミノタウロスが、膝をついた。だが、倒れない。
「このミノタウロスが、不覚を取ったわ……!」
腹部の傷口からは血が流れ出ているものの、それでも難なく、立ち上がる。大地を踏みしめる足は今も力強い。
「タフな奴だ」
素早い手つきでホウセンカに次弾を装填しつつ、コエルがその様子を眺める。普通の人間ならば致命傷だが、そこはやはりオブリビオンだ。
分身体を消した蒼が、コエルの横に立った。
「だが、準備は整ったようだ」
「あぁ。まったく、焦らしてくれるよ」
二人して、空を見上げある。釣られて、ミノタウロスも上空を見た。
暮れ始めた空に、小さな小さな、しかし激しく燃え盛る者がいる。
炎の精霊を味方につけ、太陽の如く眩い炎を衣服の代わりに纏った、ニィだ。この瞬間に至るまで、ひたすら力を溜めていた。
そして今も、彼女を取り巻く炎は巨大に膨れ上がっている。夕暮れの森を、昼間のように明るく照らし出す。
「ぐぬぬぬ……っ! 溜まったぞぉぉぉぉ!」
叫んで、空に手を突き出す。その手に現れる、巨大な――ミノタウロスの身長を、否、森の巨木すらも超える、巨大な剣を召喚する。
炎が剣にまで宿った刹那、ニィはミノタウロスを見下ろし、力強く笑った。
「いっけぇぇぇぇぇッ!」
何もかもを破壊し尽すような一撃が、振り下ろされる。
天日の炎を宿した超巨大な剣を、ミノタウロスは斧を振り上げて、その刃で受け止めた。
「ヌォォォォッ! 負けぬッ! 吾輩は、負けぬッ!!」
「こんのぉっ、ボクだって! 負けるかぁぁぁっ!!」
凄まじい力の押し合い。大斧よりも遥かに大きな炎の剣を、ミノタウロスは押し返す勢いだった。
そこに、蒼が飛び込む。巨大な炎剣の刃に手を当て、押し込む。
「私たちは、必ず勝つ! ハァァァッ!」
蒼の筋肉が膨れ上がり、大斧を押し返す。妖精の怪力を受けて、ミノタウロスの足が大地に沈み込む。その状況でもなお、諦めることを知らない。
「まだだ……まだだッ!」
「大した奴だよ、本当に。だが私たちも、負けられない理由があるんだ」
炎の大剣、その切っ先に狙いを定めて、コエルのホウセンカが火を噴く。一点集中した熱線が剣に突き刺さり、その重みを爆発的に増大させる。
全身の炎をより一層燃やし、ニィが剣に結集した妖精三人の力を、全身全霊をかけて押し込む。
「受け取れミノさんっ! これがボクらの――全力だぁぁぁぁぁぁッ!!」
全てをかけた一撃に、ミノタウロスが唸る。
「ヌゥゥゥゥッ! このような、このようなことが――!!」
限界を迎えた巨体の膝が、崩れた。直後、燃え盛る炎を纏った巨大剣が、轟音とともに森の中へと突き刺さる。
大地を巻き上げ、木々が倒れんばかりに揺れ動く。飛び散った火炎は、精霊の計らいで森に燃え移ることはなかった。
炎が砕け、剣が消える。ニィを包んでいた炎も消えた。
「ミノ……さん……」
力を出し切ったニィが、一糸纏わぬ姿で気を失った。すかさずコエルが抱きとめる。
適当な木の上に着地したところで、蒼も合流した。
衝撃の余波が徐々に薄れ、巻き上がった土煙が風に流され消えていく。
地面に形成されたクレーターの中心で、ミノタウロスは倒れていた。全身血に塗れ、熱傷を受けている。
蒼もコエルも、ただじっと待った。まだ、あのオブリビオンが死んだとは思えないのだ。
そして、その予想は、当たった。
「……ぐ」
小さく低い声が漏れたと思うと、ミノタウロスがその場にゆらりと立ち上がった。満身創痍の様相ながら、しっかりと己の足で大地を踏みしめる。
斧を担ぎ、血塗れの体の具合を確かめ、夕暮れの空を見上げた。
「……これだ。これこそが、吾輩の望んだ――闘いよ。この時を、待っていた」
笑った。始めは小さく肩を揺らし、次第に哄笑へと変わっていく。
体中から血を撒き散らし大口を開けて笑う、その鬼気迫る姿に、蒼は息を呑んだ。
「なんて奴だ……」
「化け物にも、限度ってもんがあるだろうに」
冗談めかして言うコエルの頬に、緊迫の汗が伝う。
低く気迫の籠った笑い声が響く森に、夜の帳が下り始めようとしていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
露木・鬼燈
個人的には嫌いじゃない。
まぁ、それで剣が鈍るなんてことはないけど。
相手にも覚悟がある以上は全力で殺す。
それに躊躇は…ない!
とゆーことで、情報を整理するのです。
あのパワーを生み出す筋肉。
ただ固いだけではなく、生体ゆえの柔軟性。
それが威力を削ぐ天然の鎧としても機能する、と。
あれを抜いて致命傷を与えるのは大変っぽい。
火気厳禁で手札に制限があるのもね。
隠していた手札で使えるのは魔剣の変形機構に気功術。
これで戦いを組み立て…叩き込む一撃の形は見えているのです。
背後に回り、魔剣で傷をつけ、そこに血霧腕を叩き込む。
臓腑を失い、内側から呪詛に喰われればさすがに…
全力とゆーことでこれを選ぶ辺り、僕も相当だよね。
トリテレイア・ゼロナイン
私は数多の敵を骸の海に還す際に卑怯な手を使い勝ちを拾ってきた紛い物です
ですがこの戦いでそれをしたら私の芯が折れてしまう
我が名はトリテレイア・ゼロナイン、森の守護者よ、いざ!
指定UCを発動、それ以外のUC装備は排除、クローも最初から展開
すり足、ステップ、スラスターでのスライディングを織り交ぜた回避重視の近接戦闘、防御は斧を振りぬかれる前に接近して柄を武器受け、恐らく数合で折れる
相手の全力が来たら見切り盾受けで防御、左腕ごとくれてやります
そのカウンターとして己自身をハッキング、リミッター解除して自壊前提の怪力で貫手を彼の胸板へ
(勝利できたら森に守護者を称える墓碑を。蘇っても「彼」ではないのだから)
ルベル・ノウフィル
pow
魂の凌駕使用
残りの彩花を目の前で全て燃やす
手札を燃やすは背水の陣にも似て
早業有り
僕は小回りの効く身
1
墨染にオーラ防御を施し鍔元を握る
動作の大きさと第六感を頼りに力の流れを読み、巧く攻撃の芯を逸らす
反撃は柄頭を握り尾を狙いましょう
ほんの僅か射程が伸びておりますぞ
2
消耗度合いを見て墨染のオーラ防御を解く
刀は砕けましょうナ
墨染に断末魔をあげて貰った隙に
僕は痛悼の共鳴鏡刃を敵の軸足の腱を狙い投げる
鎧無視攻撃での暗殺
僕の負傷が大きいほど鏡刃は鋭さを増す
3
真の姿、白毛の小狼となる
狼は脚で狩る
捨て身の爪牙は肉の鎧を無視する必殺の一撃となる
僕には勇気はありませんが
命を燃やし、捨て身で戦う覚悟はあるのです
●
振るわれた戦斧を、漆黒の魔剣で受け止める。
ミノタウロスの攻撃は、瀕死に近い傷を受けてより苛烈になっている。その中に、どこか儚さをも感じた。
出血は今も止まらず、森の大地を赤く染めている。
もはや、意志のみで戦っているようなものだ。並の戦士ならば、立つこともできないだろう。
「個人的には、お前の考えは嫌いじゃない」
鍔迫り合いの最中、露木・鬼燈(竜喰・f01316)が敵を見上げた。
「まぁ、それで剣が鈍るなんてことはないけど」
「無論だ」
斧が振り切られ、鬼燈が後退する。着地と同時に、ミノタウロスが猟兵を見回した。
「我輩とて、ただで死ぬつもりは毛頭ない。最期の瞬間まで、全力をもって斧を振るおう」
「その覚悟、私たちが汲まぬわけにはいきますまい」
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が、全身の格納装備をパージする。
銃火器系統が外れ、隠されていたクローも剥き出しになる。小細工を捨てた、真の機械騎士がそこにいた。
身軽となった鋼鉄の体が、剣を構える。
「我が名はトリテレイア・ゼロナイン。森の守護者よ、いざ!」
「来いッ!」
ミノタウロスの声に合わせて、トリテレイアがスラスターを全開で出力する。
一気に加速し、敵に肉薄した。大斧が、すでに振るわれている。
大振りの一撃を、トリテレイアは足を滑らせ、俊敏にかがんで回避した。その横を、小さな影がすり抜ける。
ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)だ。飛び込んだ勢いをそのままに、妖刀「墨染」を目にも止まらぬ速度で一閃する。
冷たい妖気を放つ黒刀による斬撃は、腹筋に傷をつけるも、深手には至らない。
巨大な斧が、ルベルの頭蓋を砕かんと迫る。割って入った鬼燈が黒い大剣で受け止め、押し返した。
間合いを離そうにも、ミノタウロスの鬼神の如き猛攻は止まらない。叩きつけた斧が大地を抉り、土塵を巻き起こす。
視界を覆う土に構わず、トリテレイアと鬼燈が同時に仕掛けた。二方向からの斬撃を、斧の刃と柄で受け止める。
魔剣の刃を柄で受け止められた鬼燈は、その材質がただの木でないことを感じた。あるいはこれも、オブリビオンの能力なのか。
真偽は分からないし、知る必要もないと思った。今はとにかく、押し込むのみ。
「はぁぁッ!」
「なん、のォォ!」
ウォーマシンと羅刹の剣を跳ね飛ばし、ミノタウロスが斧を背後へ振り回す。
背中を取っていたルベルが、直感的に防御の姿勢を取る。妖刀が、大斧を受け止めた。
あまりに重い一撃に、歯を食いしばる。
「くっ、致し方ありませんナっ!」
ルベルの周囲で、いくつもの札が燃える。重要な手札である彩花を全て燃やし尽くした以上、もう後には退けない。背水にも似た悲壮な決意の表れと言えた。
黒いオーラに包まれる妖刀の鍔元を握り締め、超重量の戦斧に負けじと踏ん張る。
「今です! お二方ァ!」
攻撃の合図を出しつつも、ルベルは持ち手に込めた力を緩めない。斧にプレッシャーを与え続け、敵の標的を絞らせる。
「承知!」
「ぽい!」
トリテレイアと鬼燈が応え、それぞれが動き出す。が、仕掛けるより早く、牡牛の頭が振り向いた。殺気への反応が早い。
「やらせぬッ!」
ルベルを強引に弾き飛ばし、体を反転させながら斧を振り回す。
背面から伸びるクローを二本犠牲にして斧の軌道を逸らし、トリテレイアが懐に潜った。儀式剣による刺突が、敵の左腕に突き刺さる。
やはり、浅い。だが、腕の力が一瞬弛緩したのを、見逃さなかった。
「鬼燈様!」
「任されたッ!」
高い跳躍からの振り下ろし。魔剣の黒い刃が、斧で防がれるよりも早く、ミノタウロスの額を割った。
激しく血を噴き出し、牡牛の戦士が吼える。すべてを破壊せんとする勢いで、トリテレイアを蹴り飛ばし、鬼燈の体を血塗れの角で跳ね上げる。
鋼鉄の体であるトリテレイアも黒い大剣を持つ鬼燈も、相応の重量であるはずだが、軽々と吹き飛ばされた。
揃って地面に接触、受け身を取ってすぐに立ち上がる。
「今のは危なかったっぽい」
汗を拭って、鬼燈が呟いた。すんでのところで角を剣で受け止めたが、刺さっていたら致命傷だったかもしれない。
だが、大事ない。見ればトリテレイアも、銃器を捨てたことで軽量化していたことが幸いし、衝撃によるダメージはないようだった。
「油断していたわけではありませんが」
「うん。これは、全力中の全力でやるに限るです」
二人が強制的に間合いを離されたことで、短い時間とはいえ、ルベルは一人でミノタウロスと応戦していた。
オーラを纏う黒刀で襲いくる斧を受け流し、あるいは俊敏な動きで躱して、隙を伺う。膂力便りの攻撃に見えるが、振るわれる戦斧は武術として完成されていた。
回避したことにより地面に突き刺さった戦斧が、またも大地を抉る。飛び散る土に紛れて回り込み、ルベルは柄の頭を握った。
「いけぇッ!」
若干ながらリーチの伸びた斬撃は、地中から斧を引き抜くミノタウロスの尾に狙いを定めていた。
黒い刃が、煌めく。牡牛の尾が、根元から切断された。
「ヌウッ!」
痛みに振り返るミノタウロスが、斬られて土に落ちた自身の尾を見た。ルベルには、このオブリビオンが一瞬笑ったように思えた。
「我が尾を落としたところで、吾輩の力は衰えはせぬぞ、人狼の小僧」
「えぇ、存じておりますとも。しかしながら、貴方様を斬ることができる証明にはなり得ますナ。体の一部であることには、相違ございませんでしょう」
「言うてくれるわ。たかが尾っぽを斬った程度で、吾輩の体を斬り貫くことができると、誠に思うておるのか」
「思うだけではございません。これより僕たちが、それを証明して御覧に入れましょう」
刀を正眼に構え、ルベルは毅然として言った。
無論、猟兵の力を示すのは彼だけではない。鬼燈とトリテレイア、そしてこれまでの戦いでミノタウロスを追い詰めた仲間の力が、その証明となる。
ルベルの背後から、鬼燈が跳んだ。手に握る魔剣を振りかぶる。
漆黒の大剣と無骨な巨大斧が衝突し、空間が衝撃に振動する。
「そのパワーを生み出す筋肉。固いだけでなく生体故の柔軟性まである。僕らの剣から威力を削ぐ、天然の鎧っぽい」
「まさしく、我が肉体は鋼の如し。ならばどうする、鬼の子よ」
「こうするですよッ!」
突如、鬼燈の大剣が連結剣に変形し、戦斧に纏わりついた。押し合っていた斧の力が空を切り、ミノタウロスが驚愕に目を見開く。
連結剣をロープのように使って着地し、さらに魔剣を変形、戦鎚の形を取る。地面に足を食い込ませ、全力で振り抜く。
大斧を盾にしようとするミノタウロスの腕を、トリテレイアのクローが掴む。本来の用途は隠し腕のため、耐久性は低い。身をよじるだけで引きちぎられる。
だが、一瞬の時間を稼ぐことこそが重要だった。鬼燈の戦鎚が、硬い脇腹にめり込む。骨を砕いた感触が、鬼燈の手に伝わった。
「ガッ――!」
ミノタウロスが血を吐いた。よろめいて膝をつく姿を見ながら、鬼燈は戦鎚を大剣に変形させる。
「頑丈な鎧には打撃が有効って、相場が決まってるですよ」
「ぬぅ……やりおるわ」
ふらつきながらも立ち上がり、なおも戦斧を握り締める。戦意は、まるで衰えていない。
だが、満身創痍の肉体がもう長くは持たないであろうことを、猟兵の三人は感じ取っていた。
最期の瞬間が近いことは、本人も感じているはずだ。であれば、もうミノタウロスに恐れるものはない。
「お主らの実力、まさしく強者のそれよ。しかし、吾輩も老齢ながら闘いに生きる身。ここで引き下がるわけには――いかぬッ!」
天蓋を破らんとするほどの咆哮が衝撃波となり、ルベルと鬼燈が吹き飛ばされる。
体重を活かして踏ん張ったトリテレイアへ、斜めに振り下ろされた大斧が迫る。咄嗟に剣を柄に当てて受けるも、勢いを止めることができない。
「重いッ……!」
受け流すも、即座に返す刃が迫る。ルベルと鬼燈が体勢を立て直し駆けつけてくる。あとわずかだけ、持ちこたえなければならない。
再び剣で受けた瞬間、刀身にヒビが入った。一瞬で解析し、まだ若干は持つことを確認、こちらから仕掛ける。
仲間が接敵するまでの数合を打ち合い、煌びやかな儀式用の刀身が、とうとう破壊された。
生命を摩耗しながらの猛攻は止まらない。得物をなくしたトリテレイアに振り下ろされる戦斧を、彼の肩に足をかけたルベルが妖刀で受け止める。
墨染に守りの力を与えていたオーラが掻き消え、刀身が軋む。
「そのような細い剣で、吾輩の斧を受けられるものかッ!」
「そんなことは百も承知!」
込められた剛力により、黒い刃が砕ける。その時には、ルベルはすでに妖刀を手放していた。
刀に封じ込められていた怨念が、破片となった刀身から溢れ出した。怨嗟の叫びが森に木霊する。
「ぬぅ……鬱陶しいわ!」
怨念の声を一喝で吹き飛ばし、背後に回り込もうとしていたルベルへと、大斧を横薙ぎに振るう。
これまで以上に速度を増した一撃だった。刃はなんとか躱したものの、長い柄が華奢な少年の胴体を捉える。
「くぁっ――」
吹っ飛ばされたルベルを、鬼燈が受け止める。具合を確認し、命に支障はないと見るや、すぐに下ろした。
「まだ戦えるです?」
「問題ございません」
腹部を苦しげに抑えてはいるが、ルベルは懐から短剣を取り出して構える。すでにミノタウロスは、眼前に迫っていた。
鬼燈が大剣を連結剣に変形させ、斧に巻きつけ動きを止めた。トリテレイアとルベルが、敵の足元にまで肉薄する。
力任せに持ち上げられた大斧と一緒に、鬼燈が空に放り出される。その瞬間、ルベルが敵の背後に回り込んだ。
「くっ……!?」
激痛が走る。先ほど受けた一撃で、肋骨をやられたらしい。唇を噛んで耐え、鏡刃を持つ短剣を巨体の足に投げつける。
鏡の刃に潜む死霊が、ルベルの身を苛む苦痛に狂喜する。呪怨の哄笑を受けて、その刃は切れ味を増す。
今まさにトリテレイアへと戦斧を振るわんとしていたミノタウロスの、軸としていた右足の腱を、鏡刃が切り裂いた。
支えを失った足が不自然に崩れ、訪れた痛みに叫びながらも、牡牛の斧は止まらない。トリテレイアの左手が構える盾と、衝突する。
圧倒的な破壊力を持って振るわれた大斧は、鋼鉄の大盾を一撃で破壊し、その先にある機械騎士の左腕までをも粉砕する。
視界に響くレッドアラートを、トリテレイアは気合をもって無視した。出力リミッターを解除、半身を失ったことでさらに増した速度を利用し、自壊覚悟の貫手を放つ。
「これが私の全力――貴方に示す、我が騎士道ッ!」
鉄板の如き胸板を貫いた右手は、限界を超えた力にひしゃげながらも、敵の肺を破壊する。
血塗れの右手を引き抜く。指は完全に壊れ、これ以上の戦闘続行は不可能だと、トリテレイアのブレインが告げていた。
口と鼻から血を吐き出しても、ミノタウロスは生きていた。その右手が振るう斧もまた、生きている。
故障の影響だろうか、トリテレイアの体はもう動かなかった。振り上げられた戦斧に、死を覚悟する。
だが、大斧が振るわれることはなかった。無数の死霊を纏う白い小狼――真の姿を解放したルベルが、敵の右手に食らいつく。
捨て身の覚悟は、トリテレイアだけではなかったのだ。命を燃やし一切の力を振り絞った牙により、太い腕を食い千切った。握る右手ごと、大斧が地面に落ちる。
「ヌゥゥゥアァァァッ!」
得物と利き腕を同時に失った猛き戦士は、残された左手を拳に固め、小さな狼の体を殴りつけた。支える足のない一撃は斧ほどの威力はないが、それでもルベルは大地に叩きつけられ、短い悲鳴を上げる。
満身創痍のミノタウロスが、殺気を感じて木の上を見上げる。
黒い鎧兜に漆黒の旋風を纏う鬼燈が枝から跳び、大剣を振り下ろしていた。咄嗟に守る姿勢を取った左腕を、渾身の力でもって斬り捨てる。
血飛沫とともに絶叫を上げるミノタウロス。着地した鬼燈は、兜の奥の目を見開いて狙いを定め、漆黒の魔剣をわき腹に斬りつけた。
固い筋肉に守られた腹部は、今もなお深手を与えることを許してくれない。しかし、傷はついた。突破口としては、十分だ。
一歩踏み込み距離を詰め、その傷口へ、無造作に右手をねじ込む。
「全力と言った以上、手段は選ばないです」
内臓を掴み取り、ありったけの呪詛を流し込み、引きずり出す。
「ガッ――アァァァァァッ!」
臓腑を失い、体内から蝕んでくる呪詛を受け、ミノタウロスががむしゃらに暴れる。
蹴り飛ばされた鬼燈は、巨木に激突した。全身が砕けたような感触。口の中に血の味が広がる。魔剣が遠くに転がるのが見えた。
ミノタウロスが、吼えた。夜空に向かって、遠く遠く響く声で、儚く、悲しく、力強く。
沈黙が下りる。静けさが、森を包んでいく。
やがて、ルベルがよろめきながら立ち上がった。白い体毛は土に汚れ、漂う死霊も減ってはいるが、その目はしっかりと相手を捉えている。
レッドアラートが即時システムダウンを提案しているが、トリテレイアはそれを決して認めず、エラーメッセージの奥を見つめていた。
脳震盪やら全身の痛みやらで、指の一本も満足に動かせない鬼燈もまた、目線だけは一点から外さなかった。
彼らの視線の先には、肺を破られ両腕を失くし、臓腑を引きずり出され呪いに全身を蝕まれた、森の守護者がいた。
誰もが全てを出し切ったこの戦場で、彼は今もなお、自分の足で立っていた。
◆
ミノタウロスは、夜空に浮かぶ満月を見上げていた。
「……美しい。そうは思わぬか」
心からの言葉は、猟兵が思わず空を見てしまうほどに、あまりにも穏やかだった。
激戦の最中、世界を護る者たちによる渾身の一撃を何度も受け、また彼自身も、かつて出したことがないほどの力を振り絞って戦った。
もはや、これ以上望める戦いはないだろう。自身の体から流れた血溜まりの上から、猟兵たちを見回す。
もう動けぬ者。まだ自力で立てる者。警戒を解かずに武器を向ける者。悲しげな瞳でこちらを見つめる者。様々だった。
「見事、実に見事。お主らの勝ちだ。悔いの残らぬ、素晴らしい闘いであった」
もう一度見上げたまん丸の月は、美しく輝き、戦士たちの顔を黄金色に照らす。
体の奥底から広がる終焉の予感に、雄々しき戦士は目を細める。
「もはや、痛みも感じぬ。死がこんなにも穏やかなものだとは、思わなんだ」
見れば、ミノタウロスの周りには、森に住まう動物たちが集まり、その身を巨体の足に摺り寄せていた。
柔らかく吹き抜ける空気の流れに、揺れる木々が、ざわざわと泣く。森の守護者は、静かにその目を閉じた。
「良ーい、風だわい」
そう言って、最期まで倒れることなく、ミノタウロスは死んだ。
強大な戦士の遺骸は、朽ち果てるその瞬間まで、巨木が如く立ち続けていた。
深い深い森の奥に、巨大な戦斧が墓碑のように突き立っている。
斧腹には、誰かによって次のような碑文が掘られていた。
「偉大なる森の守護者、ここに眠る」
ここは『力の森』。
幾多もの冒険者が、力の意味を識るために訪れる森。
そして、かつて誰よりも高い誇りを持ち続けた、優しき強者が眠る森。
fin
成功
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