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帝都探偵梓:怪盗『不死蝶』殺人事件の顛末

#サクラミラージュ #ノベル #不死蝶パラレル

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灰神楽・綾



乱獅子・梓




「今回の、怪盗『不死蝶』の件。知ってるよね?」
 探偵事務所に招かれざる客人の声が響く。探偵乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は胡乱げに目を眇め、声の主。灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)を睨みつけた。
「……いや、ありゃ怪盗『不死蝶』の仕業じゃないだろ」
「どうして? 上の方はもう、『不死蝶』の事件として捜査を始めてるよ?」
「だから、なんでわざわざべらべらそんなことを右から左へ流しに来るんだよこの憲兵は!」
 何故捜査情報を流す。解せぬ、という梓の言葉に、うーん。とあくまで綾は飄々と首を傾げる。ツッコミに堪えた様子が全くない。
 何だってこれが正義とか法とか……を司ってるかわからないけれども公的な機関に属した真っ当な職業をしているのだろうかと梓は疑問に思う。その顔で面接でどう答えたのかぜひ知りたい。ともあれ、綾はにっこり笑って、
「なんでって……探偵件文豪さんへのネタ提供に?」
「そりゃ、ご丁寧にどーも!」
 そうのたまうのであった。
 ちなみに梓は売れない探偵件売れない文豪というある種やくざな商売である。ガシガシと軽く頭を掻きながら、梓は息をつく。
 ここは探偵事務所。梓は執筆用でもあるデスクの前に行儀悪く座り、綾は応接用の長椅子にだらしなく寝そべっていた。お茶の一つも出さないので、早く帰って欲しい。
「……この件、怪盗『不死蝶』の仕業じゃないと思うぞ」
「へえ……?」
 それでも。投げやりに、デスクにもたれかかりながらぼやく梓からは、わずかに綾の表情が変わったのは見えない。それに気づかぬまま、梓は事件に思いをはせる。
「だって、今回の件は強盗だろ。家に押し入って、殺して金品を奪うっていう」
「うん。でも予告状が置かれていたらしいよ?」
「それは死体と一緒に見つかったから、あとからでも置いてこられるだろう。怪盗『不死蝶』はあくまで怪盗だ。胸糞悪い金持ちからお宝を奪って貧しい庶民に配る義賊だから、まるで違う」
「……怪盗も、人に見つかったら殺してもおかしくはないだろう? 正体がばれるのは避けたいだろうし」
「は? 怪盗『不死蝶』は、そんなこと、しない」
「……」
 梓は長年怪盗『不死蝶』を追いかけてきた。だからわかる。
「あいつはそんな、しょうもない殺しはしないんだ。確かに悪人だとは思うし、街で言われているほどの正義の味方でもない。必要に応じて適切に殺人は行うだろう。……でももっといつも飄々として、スマートで、憎らしいほどにかっこよく動くんだ。お前も憲兵なんだから、それくらい覚えとけよ」
「キュ……」
「ガウ……」
 探偵助手の焔と零も、同意するようにひと声、鳴いている。……その声が、なんでか微妙にこう、鈍感でごめんね、みたいな空気を醸し出しているような気がするが、それが何でかは梓にはよくわからない。焔と零は梓と綾を交互に見て、ちょっと肩を竦めているようであった。
「てわけで、あれは便乗してるだけの偽物だろう」
「……そっか。梓がそこまでわかってたならよかった」
「よかった? って何だよ。俺を試したのか?」
 なんでまた、と梓は瞬きをする。なんでだろうねえ。なんてのんびり言って、綾は身を起こした。
「ま、貴重なご意見ありがとう。持ち帰って検討させてもらうよ」
「……何しに来たんだ、お前は」
「うーん。秘密。じゃあ頑張ってね、怪盗『不死蝶』のライバルさん」
 どこかほんの少しうきうきした口調で、綾は部屋を出ていく。その背中を見送って、本当に何だったんだろう、と梓は少し首を傾げて、
「……そうだな。偽物ってのも、気分悪いし」
 トレンチコートに手を伸ばした。コートの上に乗っていた帽子もかぶると、お出かけですかというように焔と零が梓を見る。
「ああ。いつまでも偽物に幅を利かせておく必要もないだろ。万一偽物が捕まって、それで事件が全部解決なんかになっちゃ目も当てられねえし。怪盗『不死蝶』を捕まえるのは、俺だ」
 かっこよく決める梓に、焔と零は顔を見合わせる。
「……」
「……」
 「その怪盗『不死蝶』、目の前で今寝転んでましたよ」と口に出すべきか、出さぬべきか。二人は一瞬悩んだ後で、
「キュ」
「ガウ」
 いつものように、そういうことにしたのであった。

 帝都には影朧以外にも、怪しげな輩がうろついている。
 怪盗『不死蝶』は言わず物がな。晴れた日にずぶぬれで歩く池魚人や、辻切牛人間など本当か嘘かわからぬ怪人が黄昏時の町中を跋扈してるたのだ。
 その中でも怪盗『不死蝶』は、義賊として人気があった。しかし今回怪盗『不死蝶』が強盗殺人を行ったことにより、街中では彼に対する不安が広がっている。彼の犯行ではないと疑うものはほぼいない。
「……」
 それに対して、どうしてここまで苛立ってしまったのか。
「追い詰めたぞ!」
 黄昏時の裏路地で梓は声を張り上げた。後ろにはたくさんの憲兵を引き連れている。
「怪盗『不死蝶』もどき! 観念して大人しくするんだ!」
 ここに来るまで本当にいろいろあった。非常にやる気を見せた梓は、自分一人がわかっていても仕方がないと思った梓は憲兵に協力を仰ぎ(なぜか綾がまぜっかえしながらも協力してくれた)、聞き込みをして容疑者を絞り(なぜか綾がませっ返し以下略)、そして特定した容疑者を追い込み(なぜか綾が以下略)、最後にあと一歩というところで容疑者が人質を取って逃走したのだ(なぜか綾はいなくなっていた!)。
 帝都も一歩路地裏を曲がれば、光の届かぬ世界と魑魅魍魎が跋扈する世界。人質を取った真犯人は、その辺で捕まえたパーラーメイドの首筋にナイフを突きつけて何やら叫んでいる。
「お、お、俺は、怪盗『不死蝶』だぞ!」
「馬鹿を言うな! 怪盗『不死蝶』の身長は、もうちょっと高い!」
「この……!」
「乱獅子探偵、このままだと人質が……!」
 憲兵たちが声をあげる。焔と零が今にも飛び掛からんとばかりに真犯人を取り囲んでいた。人質がいるので大技は使えない。なお、人質がいなくとも梓は大技など使えないのでこうして声を張り上げて焔と零のために隙を作っているのである。
「くそ、人質がいなきゃこんなやつ……!」
 梓が歯噛みする。どうにかしてあれを……と思った、瞬間、
「お困りのようだねぇ」
 妙に人を喰ったような声が響いた。
 え。と犯人が顔を上げる。顔を上げた瞬間、何かが梓の前を横切った。
「ぎゃ……!」
 血でできたナイフだ。誰かがそう、認識した次の瞬間、ナイフは無数の蝶の群れへと変化する。変化して、一斉に犯人の顔面に襲い掛かった。
「なにを! あああ……!」
「焔、零、確保!」
「キュ」「ガウ!」
 一瞬の隙をつき、焔と零が犯人を取り押さえる。人質のメイドさんはというと……、
「あ、あの」
「大丈夫かな? 君も災難だったねぇ。あんな偽物に絡まれて」
「怪盗『不死蝶』……!」
 漆黒の怪盗衣装にシルクハットを被った怪盗『不死蝶』がすでに救出していた。
「本物だな! 待て、今度こそ……!」
「さて、今宵はこれにて失礼するよ。俺の名を騙る不届き物も片付いたことだしね。……君も、帰り道には気を付けてね」
「は、はい……!」
 梓が走り出したころには、既に怪盗の姿は消えていて、あとにはただ犯人と、メイドさんが残されただけだった。
「あいつ、何しに来たんだ? こんなところに盗むものなんて……」
 まさか人助け。と言いかけた憲兵に、梓は苦虫をかみ砕いたような顔をした。
「盗みに来たんだろ。……あのお嬢さんの心をさ」
「ぶっ」
 かっこよく言い放った梓に、たまらず吹き出した、というような声が響く。梓は思わず振り返ると、いつの間にかいなくなっていたはずの綾が梓の後ろに立っていた。
「綾……! 肝心なところでお前、何やって……」
「いやあ、あっちの角に面白いものがあってねえ」
 遅れてきた綾は全く悪びれていない。いや遅いし! などと苦情を述べる梓は、なぜ綾が遅れてきたのか、まったくその真相には思い至っていないようだ。
 そんな梓に、焔と零はもの言いたげな目を向けた。そんな二人に、綾は軽く片目をつむってみせるのであった。

 ……今はまだ、内緒にしておこうよ。
 その方が、面白いから。


●後書
いつもお世話になり、ありがとうございます。
苦労人属性の梓さんを憲兵にするか、探偵にするかで相当悩みましたが、憲兵にすると昭和の刑事ドラマになる気がしたので探偵になりました。その場合梓さんは怪盗兼相棒刑事イメージでした。
「お前さ、おふくろさんが泣いてるぜ……」
「キュ」「ガウ」
「かつ丼食べるか?(なお、お手製)」
取り調べはこんな感じ。
ともあれ楽しんでいただけたら幸いです。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年03月15日


挿絵イラスト