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絢爛の夜へ

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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 その一夜限りは絢爛が街を奔り、繚乱の錦が灯りで満たされた邸を飾る。
 ちいさくとも歴史あるその街には、ひとつの伝統が今でも息衝いている――真冬のさなかに行われる、春を呼び招く為の絢爛の夜。
 二月の吉日、その日の夜だけは領主の邸が街の民すべてに開放されるのだ。綺羅びやかに飾り立てられたダンスホールで夜半から行われる、絢爛豪華の舞踏会には貴賤の差なく誰にだって扉が開かれる。
 但し、約束事がひとつだけ。
 舞踏会には必ず仮面を着用する事――身分の差を、貧富を忘れ、皆がひとつとなって賑やかに豊穣の春を呼び奉る――これはそう云う、祭事なのだから。

 扠、これを許容出来ない少女がひとり。
「なにそれ羨ましい!」
 舞踏会を控え、浮足立った街の気配に『嫉妬』を冠する彼女は眦を吊り上げる。
「駄目よ、そんなの駄目! だって、とても楽しそうで――羨ましすぎるもの!」
 可憐な爪先が地団駄の様に地面を叩く。
 石畳の隙間から滲み出す焔の虎が、大きく吼えて街並みへと影を落とした。

●いざ絢爛の夜へ
「仮面舞踏会、と聞いて胸を弾ませる者は?」
 ふと息を吐くと共にそう尋ね、斎部・花虎は浅く唇の端に笑みを浮かべた。
「――おれはそうだ。非日常が、そこに在る。……そして、これが狙われている」
 背後の映像が揺れ、石畳の質素な街並みが映し出される。
 アックス&ウィザーズに赴いた事のある者ならば、すぐにその世界の街のひとつだと気付く事が叶うだろう。かの世界にはありふれた、そんな光景だ。
「豊穣を齎す春を呼ぶ為の祭事、らしい。各々が仮面を着用し着飾って、身分を隠して一晩を踊り、飲み、食い、賑やかに明かす――毎年この時期に行われる、一年に一度の伝統行事だそうだ」
 街並みの奥にはひときわ立派な邸が見える。領主のものだろう。
 けれど、と息を継いで花虎は猟兵たちに視線を遣った。
「……これに目を付けたオブリビオンが居る。『嫉妬』のステラ、そう呼ばれる存在だ。羨ましいから妬んで壊す、そういう厄介なたちでね」
 炎の精霊を手駒に、街にそれらをけしかけては悪戯に破壊行為を繰り返し、慌てふためく人々を見ては愉快げに笑って去っていくらしい。
 家屋や物品が壊されるくらいならばまだ良いが、最近は人的被害も目立っているのだと花虎は添える。炎に巻かれて重篤な火傷を負った者、討伐に赴き返り討ちに遭った者。
 それでも何とか準備を進め、とうとう今宵にその本番たる仮面舞踏会が控えている。
「街からの依頼を受けた冒険者が対応に向かいもしたが、当然歯が立たなかった。故にそう、おまえたちの出番だ。――今宵が舞踏会の本番、ステラは喜々として仕上げとばかりにすべてを壊しに来るだろう。その前に、奇襲を仕掛けてしまえば良い」
 差し出した彼女の掌中で、グリモアが燐光を帯びて煌めき出す――猟兵たちを、かの世界へと送り届ける為に。
 その光を頬に受け、同じ色の眸が居並ぶ猟兵の姿を見遣った。
「ステラは炎の精霊の群体を伴い、街からそう遠くない森に潜伏している筈だ。おまえたちの仕事はこの精霊の群れを掃討し、ステラを引き摺り出して討伐する事」
 森ひとつ潰えてしまうも致し方なし、と言質は取れていると花虎は双眸を眇める。環境に遠慮する事なく好きにやれと暗に示した。
 そこまで説明をした所で、花虎の表情がふと和らぐ。
「……無事に終われば舞踏会に混じってくると良い。仮面や衣裳は貸してくれる店が幾つか在る様だから、気に入りのものが見つかるだろう。何、外様が混じっているのが知れた所で何も言われまいよ――それが街を救った英雄であるなら、尚の事」
 吐く息が白く濁るのも今だけだ。
 世界はもうすぐ春を迎える――その魁になるが良いと、虎色の女は唆して囁いた。
「冬の終わりがやがて来る。春の招き手になっておいで」


硝子屋
 お世話になっております、硝子屋で御座います。
 アックス&ウィザーズでのお仕事です。

 !ご注意!
 今回、第三章のみプレイング受付開始日時を設ける予定です。
 雑記にてお知らせ致しますので、ご参加をご検討くださる場合、お手数ですが雑記の更新をお待ち頂けますと大変幸いです。
 三章のみの参加も大歓迎です。なるべく皆様の描写が叶う様に頑張ります。

 ・第一章:炎の精霊戦。集団戦です。
 ・第二章:『嫉妬』のステラ戦。ボス戦です。
 ・第三章:仮面舞踏会パートです。

 !仮面舞踏会について!
 花虎がOPで語った通り、仮面の着用・盛装が必須です。自前のを持ってきた、貸衣装屋で調達した等、ご自由にご設定下さい。プレイングに衣裳の仔細を記載頂けましたら硝子屋がにっこりします。
 お一人様でご参加の場合、プレイング次第で他のお一人様の方と組んで踊って頂いたりする場合が御座います。不可の場合は遠慮なくどこかに『×』をご記載下さい。
 花虎はお声がけがあれば、お喋りやダンスのお相手を務めさせて頂きます。

 それでは、ご参加をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『炎の精霊』

POW   :    炎の身体
【燃え盛る身体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に炎の傷跡が刻まれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    空駆け
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    火喰い
予め【炎や高熱を吸収する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シェルティス・レグナード
SPD
大剣を使い集団戦を行います
空駆けに対しては相手の跳躍先を『見切り』ます。その後『野生の勘』と『地形の利用』で木に登ったり、そこから跳躍したりして迎撃するなどしてみます。または『第六感』で大剣を投げて当てて見たりと、大剣を投げた後は自前の爪や拳で戦います

「森での狩りか、それなら十八番だぜ!」

ユーベルコードは回避や攪乱に使いましょう

共闘大歓迎です



●剣使い
 かれらは炎の精霊であって獣ではない――が、猟兵たちの気配には敏感だった。或いは何かを察したステラがそれを指示したのかもしれない。
 森の木立のはざまに、虎のかたちをした炎が幾つも蟠っている。そのどれもが火の噴き上げる音に似た唸り声を上げながら、猟兵たちを威嚇していた。
 睨み合うは飽いたとでも言いたげに、そのうちの一頭が焔色の毛並みを揺らして空を蹴る。
 勢い付いてこちらに向かって来るだろうその姿に、けれどシェルティス・レグナートはにいっと口端を持ち上げた。
「森での狩りか、それなら十八番だぜ!」
 意気揚々と言うが早いか、携える大剣を樹の幹に突き刺しその柄を足場に樹上へ駆け上がる。
 獲物を逃した精霊の爪が空振るのを尻目に、そのまま剣を引き抜く反動を利用し、しなる枝の助けを得て跳躍した。
 そのまま大剣をダーツの如く地上へと投げる――が、流石にそこまで引っ掛かってやるものかと精霊もまた身を翻す。炎の尾を掠めた大剣が、重い音と共に地面へと突き刺さった。
「ま、精霊だもんな。……さてそれじゃあ、こんなのはどうだ?」
 こちらへと躍り掛る精霊に片眼を眇め、着地の瞬間のシェルティスの姿がばらりと揺れた。
 現出するはもうひとりのシェルティス――否、ひとりではない。彼を模す複数の幻影が、精霊の精度を鈍らせるべく居並び構える。
 逡巡する様に蹈鞴を踏んだ精霊の前足を見逃してやるほど、シェルティスは優しくもないのだ。
 扱い慣れたものを手許に引き戻すには、瞬きの間ひとつあれば良い――大剣の柄を握り締めた彼がおおきくそれで薙ぐと共に、咆哮を上げて炎の精霊が両断された。
「十八番だって言っただろ?」
 肺まで焦がす様な馨の中で、シェルティスはそう呟いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒海堂・残夏
全く、胸糞悪ィですねえ、畜生
どうして嫉妬って醜いんでしょう
他人様の楽しみを台無しにするようなクソ野郎め

はぁ…あんまりなので悲しくなってきましたあ
乙女を泣かせた罪は重いですよ
首を並べて慰めにでもしてやろう

木は倒していいですかぁ?
森の中でかくれんぼは趣味じゃないので
同業者さんの邪魔にならないよう程々に視界確保します
敵を見つけ次第、≪見えない神の御手≫を使って攻撃しますねえ

逃がしませんよお、ざんげちゃんのお目々は特別製でね
お前らが存在するところなんか『見たくない』
さっさと死んじまえ、ケダモノめ

ヒヒ、森、燃やしてくれればますます視界が晴れてやりやすいですねえ
熱いのはこの際我慢しましょ、みなごろしですう



●ざんげちゃん
「嗚呼、どうして嫉妬って醜いんでしょう」
 愛らしい溜息と共に、頬のまるみに手が添えられる。
 森へ踏み入る黒海堂・残夏の前を塞いでいた老木が、断末魔の様な音を立ててゆっくりと明後日の方向へ倒れていく――残る残骸を淑やかに踏み付けると共に、白衣の裾が翻った。
「全く、胸糞悪ィですねえ」
 畜生、とちいさな唇が似つかわしくない呪詛を吐く。息をする様に。
 さほど樹が密集するでもない森の中、肥った老木を払うだけで随分視界は良くなった。拓けた視線の先に身を低くし構える精霊を一頭見つけ、残夏の口端が持ち上がる。
「――みいつけた、」
 見つけた時にはそこですべてが終わっているのだ。
 炎の爪痕が幾ら地に紋を刻み、それを受けて炎の深度が増したとしても、終わっていては意味がない。
 そしてその手は誰に見えるものでもない――ただ視界に在ったが故の『拒絶』に全身を苛まれ、精霊は哀願する様に鳴き声を引いてどうと臥せる。
「ざんげちゃんのお目々は特別製でね、」
 軽やかにその爪先が森の地を踏む。
 臥した精霊の身体が断末魔の如くに炎を噴き上げ、最後の足掻きとばかりに大樹に絡んでその葉を燃す。
「お前らが存在するところなんか『見たくない』――さっさと死んじまえ、ケダモノめ」
 ひらりと足を踏み降ろす先に、燃え滓めいた精霊の骸が在った。花火の残りがそうされる様に詰り消され、後には炎の広がる樹が残る。
 残夏は嫋やかに微笑んだ。視界が少しは広がるだろう。
「熱いのはこの際我慢しましょ。ケダモノも何もかも焼き払って、首でも並べに行きましょうかあ」
 それを鏖と呼ばうのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

イア・エエングラ
宴の時間に、遅れたかしら
もう随分鮮やかで
きらきら光って、綺麗ねぇ
僕もまぜてくださるかしら

ひとつふたつみっつに、たくさん
僕とも一緒に踊りましょうな
裾曳きはらって、火の粉をのけて
燃え移るのは青い火で消しましょ
……冷たい火はお嫌いかしら
枝が落ちるんなら見やすいけども
焦げてしまうのは、嫌だものなぁ
やあお熱い、お誘いだこと
小さく笑ったなら僕もおんなじ色でお相手しましょ
そっと手を伸べれば応えるでしょう
枝を掃って炎を裂いて、赫辜の星よ散らしておくれ
たくさんいらっしゃるから精査できないの
容赦なさってとは悪びれもなく

なくては生きてゆけないけれど
苛烈すぎては、共にはあれない
だからすこうし、大人しくなさってね


ルフトゥ・カメリア
へぇ、炎の精霊、ね。
つっても、炎が効かねぇ訳じゃあなさそうだよなあ。
なら、どっちの炎が飲み込むか、試してみるか。

手首の古傷を掻っ切って瑠璃唐草色の獄炎を溢れさせ、鉄塊剣に纏わせて突っ込む。
俺の炎に耐えられる鉄塊剣なら敵の炎の熱にも押し負けやしねぇだろ。【怪力、2回攻撃、フェイント、鎧砕き、だまし討ち】
空を跳ねるんなら好都合、空中戦なら俺も得意だ。【空中戦】
地を駆けるなら、Nova.をロープ化して低く足元を狙う。【ロープワーク】

自分や他の猟兵が狙われた場合は【かばう、武器受け、オーラ防御、カウンター】で対処。

……生憎と、テメェらの主人の嫉妬なんざ欠片も理解出来ねぇもんでな。大人しく散っとけ。



●炎の色
 炎の精霊が噴き上げる鱗粉めいた火の粉は四方に手を伸ばし、捕まえた枝を端から燃して勢いを増すばかりだ。
 狭い森の中を熱気を孕んだ風が巡る――その風圧に瑠璃唐草咲く淡藤を嬲らせながら、ルフトゥ・カメリアは燃える木立と対峙する。
 その炎を護りとするかの如く、色の違う炎の塊がまた獣の形で頭を擡げる。精霊だ。
「――ならどっちの炎が飲み込むか、試してみるか」
 掲げられた彼の手首の、そこに遺る古傷が躊躇いなく掻き切られる。
 ぱっと花咲く様に散る緋色を依り代にして、瞬くうちにそれは炎になるだろう。空を汲み取った様な麗しいネモフィラの、けれど苛烈な炎が意志持つものの様に這い、ルフトゥの手に在る鉄塊へと纏わり付く。
 己以外の炎の気配を感じ取ったか、相対する精霊が乱暴に地を蹴り跳躍した。燃え盛る口を大きく開いて牙と爪とを剥くが、ルフトゥの方が尚早い。
 黒翼が風を諌めてネモフィラ纏う剣を振り下ろす――それは最早暴力だ。葬る為のものとして銘を与えられた剣は、まさにその役目を果たさんと圧を増す。
 足掻くべく精霊が吼えた――そこに星が射られたのは、その瞬間だった。
「宴の時間に、遅れたかしら」
 剣と星とを受けて、ルフトゥの対峙した精霊が墜ちてゆく。
 剥がれ落ちた星がそうなるかの如く、再び散った星の片鱗が燃え尽きてゆく精霊の肢体を貫いた。どうと音を立てて臥したそれがただの炎と消え果てるのを見届けてから、イア・エエングラは息を吐く。
 そうしてふと、木立の影を見遣って笑む。
「やあお熱い、お誘いだこと」
「――キリがねえな」
 イアの視線の先を見遣ってルフトゥが小さく肩を竦める。翼から風を流して着地すると共に、辺りの落ち葉に燃え移ったちいさな火がばちりと爆ぜた。
「平気よ。あなたもそうでしょう」
 その頬には仄かに笑みの色が滲む。裾を払えば火の粉がまた爆ぜ消える。
 或いは招く様に、イアは精霊へと掌を差し伸べる――炎をこちらへと引き寄せる為に、そこへ星を喚び招く為に。
「たくさんいらっしゃるから精査できないの、」
 赫辜の星はイアの招聘に拠りて飛んでは弾ける。一体目を穿った先刻と同等に。
「容赦なさって」
 煌めく夜空を彩り鏤めるそれも、ここでは弾丸或いは礫とそう変わらない。瞬いては精霊を穿つそのさまは、なれど弾丸を用いるよりもっとずっと美しい。
 背後でぎいんと鈍い音の鳴る――また別方向から駆けてきた炎色の虎の鋭い爪を、ルフトゥが剣で以て弾くそれ。
「……生憎と、テメェらの主人の嫉妬なんざ欠片も理解出来ねぇもんでな」
 剣を僅かに投げ上げる様にして逆手に持ち替え、コンと口蓋を柄で突いて開口させた所にそのまま刃が突き立てられる。迷いなく捌かれてゆく精霊の姿に、ルフトゥは赤椿を眇めて囁いた。
 眼前ではまた、星が炎を裂いて鎮める。
 炎。どの世界でもどの時代に於いても、無くてはならなかったもの。
「それでも苛烈すぎては、共にはあれない――だからすこうし、大人しくなさってね」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ウトラ・ブルーメトレネ
とってもきれいな炎!
でも、わたし。ぶとうかいのほうが、きになるの。
だからさっさと消えてしまってちょうだいね?
……けど、やっぱり「きれい」は無視できない。
ちょっとくらい、おどってもいい?

【SPD】
舞踏会の予行演習にと張り切って
竜の翼で空を飛び、精霊へ空中戦を仕掛ける
拘束ロープを放ち、精霊を捕まえられたら思い切りよく地上へ
ひとりぼっちでいたから、あやとりは得意なの
けど、ひとりじゃ戦えないのも、ちゃーんと知ってる。だからわたしは、みんなのおてつだい(えへん

献身は本当。わくわくの方がそれ以上だけれど
拘束ロープが届かなかったら、盛大にむくれ
攻撃を受けたら、びっくり
でも泣き出すより反撃が先
成功には満面笑顔


フィオリーナ・フォルトナータ
仮面舞踏会、確かに胸が弾む響きです
わたくし、ダンスは久しく踊っていませんので、少し、鈍っているかもしれませんが…
開催を楽しみにしておられる街の皆様のためにも、そして花虎様のためにも、一肌脱ぐと致しましょう
他の猟兵の皆様とも協力して、迅速に撃破して参ります

わたくしはトリニティ・エンハンスで攻撃力を重視しての強化を行い
一体ずつ着実になぎ払いながら倒していきます
敵の炎は剣で吹き飛ばし、強引に距離を離すことで受けないように心がけますが
どうしても避けられない場合は盾で受け流します
体力のない方が狙われるようでしたら、庇いに入りますね

…お許しは出ているとのことですが、一応、環境には配慮して立ち回りますね



●花信風
「とってもきれいな炎!」
 森を嘗めてぱちんと爆ぜては赤や橙を噴き上げる、そんな炎を見つめてウトラ・ブルーメトレネはその銀色の眸を煌めかせる。
 でもね、と継いでウトラはちらと傍らの女性を見遣った。同意を求めたがる様に。
「ぶとうかいのほうが、きになるの」
「ふふ――わたくしもですよ」
 窺う色した眼差しに、フィオリーナ・フォルトナータは自分もそうだといらえて首肯する。
 嗚呼でも、とふとその表情に翳が差す。どこか真剣な色を灯していた。
「わたくし、ダンスは久しく踊っていませんので……少し、鈍っているかも……」
「たいへん! それならさっさと片付けて、ダンスの練習をしなくちゃ!」
 それは一大事だと重々しくウトラも頷く。
 そうしてつと双眸眇め、眼前の炎を見つめて――けれど、駄目だ。だってきれいだ。きらきらして目を惹くから、どうしたって無視できない。
 すぐに吹き消してしまうには、ちょっぴり惜しい。
「……ちょっとくらい、おどってもいい?」
 おずおずと尋ねるウトラに、朗らかに笑んでフィオリーナは剣を抜く。
「どうぞ、なさりたい様に。援護は任せて」
 ウトラはぱっと咲き笑う。みてて、と明るく告げて真紅の翼を背に広げた。
 猟兵の動く気配に、姿勢を伏せて様子見をしていた精霊の一頭が、その太い前足で力強く地を蹴った。そのまま空に駆け上がる――だが、それに追随する者が在る。
「ダンスは踊れる? 舞踏会の経験はお有りかしら!」
 ひといきに飛んで精霊に追い付いたウトラが、無邪気な語調でそう尋ねた。
 応えは在ろう筈もない。ただ勢いを増す炎が、全てを飲み込まんとプロミネンスの帯を孕んで燃え盛る――そうして振り上げられた片腕が、熱を伴いウトラの鼻先を掠めた。間一髪だ。
「ッ、」
 ちいさく息を呑む。驚いただけ――だから大丈夫。自分にそう言い聞かせる。
 地上にて割り込む隙を見出そうと、顔つきを険しくさせるフィオリーナには大丈夫だと手を振って、ウトラは身を翻す様に距離を取りながら拘束ロープを精霊へと放つ。
 あやとりは得意だ。だってひとりぼっちで居たのだ。
「けど、ひとりじゃ戦えないのも、ちゃーんと知ってる。……後は、よろしくね!」
 精霊は爪を揮った反動で隙が生まれた所だった故に、あっさりロープに絡め取られて雁字搦めにされてしまう。それを地上へと叩き落としながら、真紅の尾を振るウトラが声も放った。
 走り寄ってきた別の小さな個体を斬り伏せると同時、眩しげに天を仰いだフィオリーナが凛と背を伸ばす。
「任されました。ええ、勿論です」
 言葉が魔力の引き鉄を引く。自然を満たすその力の片鱗が、フィオリーナの四肢に魔を通す。
 拘束されているが故にそのまま落下した精霊は、それでも直ぐに跳ね起きておおきく吼えた。身を振るえば振るうほど、炎が零れてロープを冒し燃してゆく。
「――舞踏会の開催を楽しみにしておられる方が、たくさんいらっしゃいますから。燃されてしまうのは、困ります」
 言葉と佇まいこそ穏やかなれど、その背にはいつだって筋が一本通っている。
 咆哮と共に迸る炎を剣の圧で以て吹き飛ばし、たんと身軽に地面を蹴って後方に飛び退る――が、ほんの一瞬だけ精霊が駆けるのが疾かった。
 追い付く牙を構えた盾が受け流す。押し返す様に一歩踏み込み、ひらりと身を翻して一撃で薙ぎ払う。
 僅かに乱れた息の許、ふとフィオリーナが笑んだ。
「……ダンス、踊れそうな気がしてきました」
 成る程、とそれを聞き届けたウトラもまた、地に降り立ちながらいらえて頷く。
 踊る様に華麗に戦うフィオリーナの姿は、確かに麗しかったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シノア・プサルトゥイーリ
宵蔭(f02394)と

仮面舞踏会と聞けば心は踊るもの
あら、私が貴方の手をとって良いなら
跪いてお誘いしましょう?(ふふ、と笑って
エスコートするのもされるのも好きよ

ーその前に炎と踊りましょうか

夜の闇は良き友
とはいえ、あちらは目立つわね
地形を利用し奇襲のポイントを選ぶ

先駆けは私が

先を頂くわね、宵蔭

血統覚醒にて能力を強化
太刀にて近接攻撃を

肌を焼く熱に足を止める理由など無い
目立つ分、仲間の攻撃の隙を作れれば

少し私と遊んでくださいな

敵の攻撃は武器で受け、地形を利用し立ち回る
カウンターからの一撃を

敵の強化が重なるなら、避けない事も選択に
衝撃波で炎の傷跡が消せれば幸い

戦場に見る血の鎖に瞬き、魅入る

アレンジ歓迎


黒蛇・宵蔭
シノアさん(f10214)と。
今度こそ絢爛豪華な仮面舞踏会へお誘いします。
……エスコートできるのか、されるのかわかりませんね。
その前に、演武と参りましょうか。

暗所に潜む炎の精霊とは、自ら居場所を教えてくれるようなもの。
地の利はこちらに。森に潜みながら奇襲を。

攻撃は鉄錆にて。距離をとりつつ傷を抉り、一体一体を確実に。
魂在る力の固まりですから、食い出があるでしょう?
シノアさんの後からフォロー、気兼ねなく突出できるよう掃除を。
淑女の戯れを遮るのは無粋ですから。

空を駆けるのは許しません。
傷を負っていればそれで、負っていなければ腕あたりを軽く裂いて、
血界裂鎖で動き阻みつつ刺し貫きます。

アレンジ歓迎



●乱れ舞え
 仮面舞踏会。
 華やかさに縁取られたその言葉は、戦いの気配にざわめく森を歩く今で尚、胸の奥を甘く焦がして期待と云う扉をノックしている。
 密やかに交わされる男女ふたりの遣り取りは、違う事なくふたりだけのものだ。
 ふふと笑うシノア・プサルトゥイーリを見、黒蛇・宵蔭もまた仄かに口端へと笑みを忍ばせる。
「……エスコートできるのか、されるのかわかりませんね」
「するのもされるのも好きよ。――でも、その前に」
 鳥の紋章懐く鞘から、澄んだ音と共にシノアの剣が抜かれる。
 彼女が構えるのに同調する様に息を合わせて、宵蔭もまた眼前の炎へと視線を遣った――燃え盛る森の中から生まれる様にして、炎の虎が現出する。
「演武と参りましょうか」
「ええ。舞踏会の前に、炎と踊りましょう」
 精霊がこちらの存在を感知しきらぬ内に、根を張る太い樹木の傍に身を潜める。昏い影が落ちる森の中、燃え盛る炎は麗しけれど良く良く目立つ。
「先を頂くわね、宵蔭」
「ご随意に」
 彼の返事が在っても無くても、言い終わらぬ内にシノアは飛び出し煌々と輝くそれに駆けていったに違いない。
 真っ直ぐに炎目掛けて奔るシノアの血が、覚醒によって煮え滾る――血よりも尚紅い眸が瞬くと共に、抜き放たれた太刀で以て肉薄する。
 奇襲に漸く気付いた精霊が、腹の底から悍ましい声で吠え立てるがもう遅い。赫灼と燃える四肢が両断され、断末魔の代わりに炎を噴き上げてどうと斃れる。
 斬り伏せた勢いを殺す様に、シノアはぐるりと身を反転させる。そうしてまた視界の端に新たな熱源を捉えると共に、膚を髪を焦がす炎の深度に気付くのだ。
 ――が、それに足を止めてやる理由など在りはしない。
「少し私と遊んでくださいな」
 乾く唇を舌先が舐める。
 攻撃を敢えて受け、そこから弾き返して斬り伏せるシノアの踊る様を緋色の端に認めつつ、宵蔭もまた己が鞭を揮っていた。
 有刺鉄線の如く歪な形状をしたそれが、炎の毛並みを引っ掛けては千千に斬り裂き組み伏せてゆく――けれどそれは、決してシノアの前を往こうとするものではない。
「淑女の戯れを遮るのは無粋ですから、」
 思惑を口にすればふと笑みが追随する。
 前線にて立ち回るその行為こそ、淑女と掛け離れたものではあるのやも知れない――なれどそれがいっとう美しいのだと、宵蔭は識っている。
「本当に、どちらがエスコートをするのだか――嗚呼、ですが」
 口にした所で、ふと宵蔭が気付く。
 駄目だ。それは許せない。
 精霊相手に言葉で諌めるつもりもない――宵蔭のその指先が、躊躇いなく利き腕とは逆のそれを軽く裂く。散る鮮血は、けれど血に落ちる事はない。
 編まれるのは血の鎖だ。不気味に輝く赤は、けれど見る者の視線を捉えて離さない。
「空まで許した憶えは在りません」
 シノアの死角で空を蹴り、頭上へと駆け上ろうとする精霊目掛けて言葉と共にそれが放たれる。
 炎の照り返しを受けて歪なものの如く煌めく様は、だけど矢張り魔性のものがそうである様に眸を吸い寄せてしまうのだ――シノアもまた、例外ではない。
 血鎖が精霊を貫き散らすその光景を見て、魅入られた女がほうと吐息した。
「――綺麗ね」
 宵蔭が浅く笑う。
「一言一句、そのままあなたへお返ししましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
炎が形作る獣
…これが「嫉妬の炎」というものなのでしょうか?
見目は美しいけれど、
人に悪さをするのであれば放っておくわけにはいきません

――森は命です
遠慮せず、と言われていても
傷付く樹々を見るのは胸が痛みます
それでも、今は
気を散らして為すべきことを遂げられないでは本末転倒
全力でお仕事させて頂きますね

地形を利用しつつ
飛び交う炎をフェイントと第六感、聞き耳を持って避け
共に駆ける真白の狐を杖と変えて高速詠唱
荒れ狂う雪の大波で
じりじりと肌を焼く熱を鎮めてしまいましょう
虎の爪牙を研ぎ澄ませる炎の傷跡も
消し去ってしまえれば上々です

※アドリブ・絡み歓迎です


トトリ・トートリド
…許せないから、壊す?
トトリには、よく、わからない

知ってる人も、知らない人も
なんとかしたいのは、一緒だから
協力、連携

…炎の、獣
だめだ。街も、人も、燃やさせない
森の中、ばらばらに潜むなら、一体ずつ確実、に
描いた雨、進路を塞ぐようにめぐらせて足止め
群れに出会ったら、森の力、借りる
地形をつかんで、できるだけ木を背に
仲間同士でも背中を守り合う
…行きたいなら、勝負しろ

攻撃に雨を選んだのは
…きやすめ、だ
この術は敵を倒すだけ
森の火が消えるわけでは、なくても
本当は『致し方なく』ない。…そう思いたく、ない
でも、全部は守れないこともあるって、知ってるから
今は全力で、…雨を、ふらせる
早く、終わらせるから。…ごめんな



●優しいきみ
 ――嗚呼、と雨糸・咲は眉尻を下げる。
 森は轟々と燃えている――樹の含む湿気がばちんと時折音高く爆ぜるのが、まるで悲鳴の様だと彼女は心を痛めて哀しむ。
 それが赦されている行為であったとして、甘んじたくはないのだ。
「――森は命です」
 ぎゅう、と胸元て手を握る。言い聞かせるのは自分に向けてだ。
 眼前では炎が獣を模って、それが森を蹂躙せしめている。炎の色こそ美しかったが、悪さをするのであれば放っておく事など出来よう筈もない。
 決意と共に咲は視線を上げる――が、視界に視えたものは少しだけ様相が違っていた。
 獣の形をした炎を上に、群青色したささやかな雨が降り注ぐ。
「……きやすめ、だ」
 そろりと咲の傍らに並んだトトリ・トートリドが、岩群青の絵の具に染まるゆびさきを下ろして呟く。
 雨が獣を撃つ度に、炎の勢いが弱まり苦しげに転がり回っている。が、周囲に燃え広がった炎まで消せる訳ではない。
「本当は『致し方なく』ない。……そう思いたく、ない」
「――そう、ですよね。私も、そうです」
 胡桃色の双眸に睫毛の影が曇る様に落ちるのだ。
 うん、とトトリも咲の言葉に頷いてみせる。
 わかっている。わかっているから、苦しんでいる。
「でも、全部は守れないこともあるって、知ってるから」
 ――だから今は全力で、雨を降らせるのだ。喩えそれが、森燃す炎を消せぬ力だとしても。
 どこからか柔い風が吹く。吹き付けるそれに群青色を揺らし、咲もまた顎を引いて首肯する。
「気を散らして、為すべきことを遂げられないでは本末転倒ですもの」
 決意の色がその眸に宿るのを、頼もしげにトトリが見遣った。
「そうとも。……背中は、守る。トトリの背中も、咲に、任せた」
 言葉でいらえる代わりに、咲は眼前を見据えてゆっくりと息を吸う。
 少しずつ変容するその雰囲気に、何かを察して彼女の精霊が杖の姿に形を戻す――それを確り握り締めると共に、魔法の圧を受けて咲の髪がふわりと浮いた。
 炎で塞がれた道を拓く様に、トトリの降らす雨が先を示す。撃たれた精霊が咆哮を上げて消えてゆくのを踏み越えながら、咲自身も飛び交う炎を必死で掻い潜った。
「……許せないから、壊す。トトリには、よく、わからないな……」
 駆ける咲が抗う姿を自らの雨で支援しながら、燃え盛る森を見遣ってトトリはぽつりと呟く。
 在るが儘を受け入れられない狭小さを、そしてそれを破壊という手法でしか表現出来ない悲しさを、トトリはそれでも喉の奥へと呑み込んだ。
 トトリのそんな理不尽を晴らす為に、そして自分が為し遂げたい事を為す為に、咲が嫋やかな所作で杖を振る――喚び招くは雪の大波、炎すらも抱え込む冬の化身。
「流されないで、くださいね!」
 彼方より雪波を引き寄せながら、くるりと振り返って咲が声を張る。
 任せろと張り上げて応える代わりに、トトリは青に染まった手をおおきく掲げて振り回した。何が来るのだろうと目を凝らして、そうして視えたものにわあと瞬く。
「豪快……!」
 春の目前にしたその森に、冬の名残が総てを雪ぐ様にして雪崩れていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

都槻・綾
f11024/かよさん

…致し方なしとは言え
水と実りの恵みを下さる森を焦土と為せば
農耕山野の神々も悲しみ嘆く
豊穣祈念の祭事であるなら尚更に
可能な限り配慮したい

水属の鳥葬で予め下草や木々を湿しておけば
過分な延焼は防げるだろうか

極力広けた場で施す水撒きにて
誘き寄せが叶えば重畳

死角防止に声掛け連携
第六感を研ぎ澄ませ敵出現を察知
極力周囲への被害を抑える為に攻撃は武器で受け流し
先制攻撃、高速詠唱、二回攻撃、範囲攻撃を駆使
七縛符で動きを封じ
水纏いの羽搏きで鳥葬
炎を啄み相殺し精霊を飲み込んで鎮火一掃

純粋な精霊を焚きつけた嫉妬の炎は誠、罪深いですね

焼け跡に残る若枝や植物の種あれば
森の再生願う為に大切に拾い上げる


境・花世
綾(f01786)と

その指先が思い遣りを滴らすのは、
きみがカミサマだからなの?
水がより遠くへ散るように
扇ひらめかせ風を起こしながら

――おいで、春はここだよ

爛漫に咲いた花で敵をおびき寄せ、
迫りくる炎は早業でカウンター
花の嵐で空高くへと巻き上げ、
それで届くものかと挑発を重ねよう
背に在る森と肩並べるきみが、
少しでも焦げないように庇うために

あは、わたしはだいじょうぶ
種さえあれば花はまた咲くよ
そう嘯いて、全て吹き消すまで扇を構え続け

怪我も気にせず進もうとすれば
綾の掌にのせられた小さな息吹
ああそっか、そうしてすくえるのは、
カミサマだからじゃなくて

――きみが、きみだからだね

※アドリブ・絡み大歓迎



●繚乱
 未だ火の手の回らぬその箇所にて、水の匂いが辺りに満ちる。
 恵みを齎す鳥が飛ぶ――けれどそれを導く様に指先で空を掻く、都槻・綾の顔は決して明るいものではない。
 識っているのだ、これで森の総てを救える訳ではないのだと。燃え上がる箇所は広がるばかりで、こうして未だ無事な場所に水を撒いた所でそれだけだ。
「――その指先が思い遣りを滴らすのは、きみがカミサマだからなの?」
 縷々と尋ねる声が在った。
 境・花世は問うて、水の鳥を運ぶ為の風を織る。扇がひとつふたつとはためく様に翻る度、十重に二十重にふたりの周りの草木へ庇護の滴が宿りゆく。
「いいえ。唯の自己満足です――それでも何かせずには居られない、と黙っていられなかった、己が為の」
 潤む森の気配に穏やかに息を吐き、綾がいらえた。
 密やかに交わされる声に釣られたか、或いは水の煌めきに警戒しての事か、燃え盛る方より躍る熱が駆けてくる――それを感じ取り、艶やかに笑んだのは花世の方だ。
 風には花弁が混じりゆく。冬には尊い甘い馨が、確かな芳しいものとして精霊たちを誘い招く。
「――おいで、春はここだよ」
 水の馨、匂やかな彩風、花世がそこに佇むだけで春に至る。
 虎を象る炎の精が、獣の前足で地を蹴り跳躍した。真っ直ぐに振り下ろされる炎の爪は、けれど爛漫と咲き誇る花が巻き込んでは空高くに舞い上げるのだ。
 背に守るものはこの森ひとつきりではない。今は肩を並べるその存在もまた、花世が護りたいと意志懐く内のひとつだった。
 飛び散る炎の断片を軽やかに払い除けながら、さあ、と花世が綾に促す。
「きみもまた、春だ。炎ばかりの森に、瑞々しい彩りを添えに来たんでしょう?」
「かよさんに言われるの、擽ったいですね」
 凛と背を押す声にいらえて笑う、その綾の声は穏やかで。
「貴女がそれを、望むなら。ええ、勿論」
 飛ばされた炎が再び地へと墜ちてくる――ぐるりと熱源が宙で身を翻し、真っ直ぐに綾を打ち据えようと爪を剥く。が、綾の薄紗がそれを弾く方が僅かに早い。
 そこに封じ込められる様にして、びたりと空へ縫い留められるその焔の躰へと、綾の織り成す鳥が好機とばかりに羽撃いた。
 水纏う彼らは覿面に、精霊の御身を鎮めて端から消してゆく――炎を啄んでは腹に収めて飲み下す。
「嫉妬の炎は誠、罪深いですね。……かよさん、平気?」
 燃え滓となりて消えた精霊の跡をそっとなぞる様に綾は空を撫でて、その手が落ちる。花世に向けたその問いに、彼女は笑んでだいじょうぶだと請け負った。
 宿した水のお蔭で、この周辺は随分と延焼が少ない。けれどどうしたって燃えてしまう部分はあって、点々と焦げた叢を一瞥してから、往こう、と花世は歩き出す。
「種さえあれば花はまた咲くよ、」
 森が死んでしまった訳ではない。土壌が生きる限り、荒れ果てたとして種が在ればまた芽吹く。
 その背を眩しく見遣って、綾は少しだけ言い澱むように唇を喘がせた――が、言葉にはならない。代わりに少しだけ足を止めて、足元で焦げた名もなき野花の群れを指先で探る。
 ついてこない連れの気配に振り返った花世の視界がそれを捉えた。
「ああそっか、そうしてすくえるのは、」
 ちいさく呟く。
 綾の掌の上には、ちいさな種が摘まれる――いずれ大地に根付き花咲かす、いつかの春が。
「――きみが、きみだからだね」
 穏やかな声に綾が気付いて顔を上げた。
 その唇の前に人差し指が立てられて、しい、と甘美な内緒話に封を為す。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸 是清(f00473)
アドリブ等歓迎

ビルで出逢ったクールで美しい人形の様なあなたと燃える焔と戦えるなんて熱いわね!
ええ、いきましょう
魅せてあげる!
舞踏会のその前に
焔より熱い剣舞を踊りましょ

炎の精霊さんもまるであなたのお人形のよう

刀に添える水属性
焔ごと衝撃波を込め力一杯になぎ払い
穿ち貫いて綺麗に斬り伏せて
第六感で察し見切りで躱し躍るようにフェイントを

焦らないで頂戴
ええ、纏めて揃えて
綺麗に首をはねてあげる
是清が捕まえてくれたのだもの
一つだって逃したら勿体ないわ
全部あたしのお人形
ダッシュで踏み込んで『絶華』を

次は綺麗なお嬢さん?
あらあら
嫉妬しちゃうわね
あなたの綺麗な首をはねるその時が
待ち遠しいわ


伍島・是清
誘名f02768
都心近くの歓楽街、小さなビルで出逢った木龍と

成る程、冬の凍つ風も温まるほどの焔ときたもんだ
身体が冷えに固まらず丁度善い
じゃあ、往こうか
御前の腕前、見せろよ

敵の攻撃は、糸で敵を捉え、敵を盾にして躱す
俺の死角は機械のからくり人形達が見張ってる

さあ、おいで、おいで、手の鳴る方へ
『傀儡操縦』
敵に追い詰められるように見せながら
纏めて躱して、絲で一纏め

後は任せた
思いのほか大量に集ったが、狩れンだろ
──外すなよ

揶揄まじりに言いながら
次に見据える先は嫉妬の娘
娘、次は御前の番だ、──覚悟しとけよ



●酔い謳え
 ふたりが並び立つ周囲を、轟と啼いた炎が取り囲む。
 猟兵たちの奮闘によりいよいよ数を減した炎の精霊の、その窮状に嫉妬深い女が歯噛みしているのやもしれない。差し向けられた精霊の数こそ少なかれど、苛烈さは弥増すばかりだった。
 様相見遣って伍島・是清は顎を擦る。
「成る程、冬の凍つ風も温まるほどの焔ときたもんだ」
 言葉にいらえたのは声ではない――誘名・櫻宵の佩くその刀の、鯉口を切る鋭利な音だ。
 視線が交われば、何を憂う事もない仄かな笑みを口端に乗せた櫻宵が肯く。
 じゃあ、往こうか。
 ごく軽く是清が促した。
「御前の腕前、見せろよ」
 櫻宵は機嫌良く、炎孕む熱風に花あかり宿す淡墨を流す。
「ええ、いきましょう――魅せてあげる!」
 丁度炎の奥より体躯を躍らせ、炎の精霊が駆け出るところだ。風に閃く夢見草に吊られる様に跳躍するその焔の姿に、ずらりと血色の刀が咲き綻ぶ。
 刀の腹が炎を汲んでは揺らいで弾く。気迫を纏って放たれる斬撃一閃、炎の獣もまた吼えるが抵抗にすら至らない。
 刀の産み出す圧に瞬く間に散らされる炎の残滓に、是清が薄く喉を鳴らした。笑う音だった。
「はは、魅せると宣うに相違ねえな、そりゃあ。――随分派手に始めやがる」
「あら嫌だ、こういうのがお望みでなかったの?」
 遣り取りはどこか軽妙に交わされる。刀をいなす様に振るって櫻宵が艶やかに口端を持ち上げた。
 その間にも己の方へと向かってくる一頭を、是清の糸が絡め取る。囚われてしまえば後は並べて彼の人形だ――炎の精が啼こうが吼えようが構うものか。
 それを盾代わりにまた新手の攻撃を難なく受け流す。しくじった炎が飛び退り態勢を整えようとするその最中、燃え盛る胴が血桜咲く刀に依り両断されるのを視界の端に垣間見た。
 覆わぬものの無い眸がきゅうと眇められる――是清の糸がぴんと張る。
「さあ、おいで、」
 おいで、おいで、手の鳴る方へ――御前も俺の人形だ。
 躱してばかりで攻勢に出ないのは、偏にまだ機ではないからだ。噛み殺せ燃し尽くせとばかりに是清を狙い吠え立てる炎の群れに、相対して冷えた吐息が落とされる。
 巡らされた絲を、慣れた手付きでついと引き絞った。
「後は任せた。──外すなよ」
 僅かに身を引く是清と入れ替わる様にして、そこに大輪の花が咲く。
「是清が捕まえてくれたのだもの、」
 否、それはひとだ。
 角に咲く桜が熱風に煽られ揺れている。異形の翼はけれど、目の逸らし様もなく唯美しい。それが櫻宵に違いない。
「――一つだって逃したら勿体ないわ」
 獲物を前にした花霞が、それを検分する様に絞られる。
 捕らえられた炎の精霊は今や一塊となって燃え上がり、怒り狂って吼え猛るばかりだった。唸る度に轟々と炎が踊り噴き上げ、飛ぶ火の粉が容赦なく森を嘗めてゆく。
「これもあなたのお人形、……なら全部あたしのお人形。そうでしょ?」
 その一歩は軽やかだった。
 声と共に地を蹴る櫻宵が、瞬きの合間に炎の群体へと肉薄する。血桜が閃くその一瞬を目視したとて、次に目にするのはしゅらりと鳴らし刀を納めに掛かる、嫋やかな桜の佇まいだ。
 ――きん、と。涼やかに鯉口が鳴く。
「散りなさいな」
 炎の獣の群れが、それを引き鉄として凄まじい衝撃と共に散り消えた。
 熱い風に嬲られながら、ふたりの視線が眼前を睨め付ける――木立の隙間にふと垣間見た、激情と共に此方を窺う女の姿。
「娘、次は御前の番だ、」
 翻る黒髪を片手で抑えながら、片眼を笑うかたちで歪ませ是清が囁く。
「──覚悟しとけよ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

珍しい風習のある街だな。
豊穣を祈る祭りならよく聞くが、舞踏会か。
何にしろ、祭事というのは大事なものだ。
ここはひとつ我々も力を貸そう。

森一つ潰えてもいいとのことだが。
相手は炎の精霊と使役者の魔女か?
まぁ、なるべく森は傷付けず戦おう。

俺は【トリニティ・エンハンス】で水の魔力を剣に宿そう。
水の魔法剣といえど、流石に敵を一刀で斬り伏せる事はできないだろうな。
ならば、狙うは手足だ。切断・消火で炎の精霊の機動力を奪う。
そういえば、このパターンは一度経験があるな。
後は任せたぞ、リリヤ。

よく覚えていたな、賢いじゃないか。
才色兼備の立派なレディに一歩近づいたな。


リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

でも、よい風習ですね。
たのしくにぎやかなのは、すてきです。
みんなで春をむかえられるよう、がんばりましょう。

これから芽吹く季節ですもの。
できれば、森もそのままに。

ユーゴさまが風以外を繰るのは、めずらしい。
……は。気にしているばあいでは、ありませんでした。
はい。おまかせください。
燃え上がる炎に惑わされないように。
鈍った隙を衝いて【ジャッジメント・クルセイド】を。
うごきをよく見て、攻撃を避けるよう気をつけましょう。

えと、ええと。
『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』、です。
ふふん。わたくしはかしこいので、ちゃあんとおぼえているのですよ。
いまだって、立派なレディですもの。



●春へと
 中から順に燃えてゆく森を、それでも出来るだけ安全な道を選びながらふたりで駆ける。
 足を捉える様に大きく張り出す根の傍を、苔生した岩が群生する不安定な場所を、時折手を貸して導きながら。
「豊穣を祈る祭りならよく聞くが、舞踏会か」
 そんな幾つか散見される悪路のひとつで、珍しい風習のある街だと独り言ちてからユーゴ・アッシュフィールドは云う。
 彼から差し伸べられた手を頼りに足場の悪い箇所をひらりと飛び越え、リリヤ・ベルは朗らかに笑んでみせた。よい風習だと少女は囁く。
「たのしくにぎやかなのは、すてきです」
 ふたりを待ち構えていたかの如くに炎の気配が励起する。身を伏せて待ち構えていたのだろう、草木をじわりと燃す様に侵食しながら焔色の獣が姿を顕した。
 ――みんなで春をむかえられるように。
 そんな想いが、リリヤのちいさな胸中を満たしている。
「森ひとつ潰えても良いとは聞いているが――まぁ、なるべく森は傷付けずに戦おう」
 ユーゴがすらりと抜き放つ剣には水の気配が付き纏う。
 清廉な魔のにおいに、炎の精霊たちを覆う炎が尾を引き揺らぐ。まるで本来の獣がそうやって、毛を逆立てて威嚇するかの様に。
 地を蹴るユーゴの身が自分たちを取り囲む、その炎の群れの一角に肉薄する。軽やかに距離を詰められた事で咄嗟の反応が行えず、精霊はまごついた様に前足を躊躇わせた。
「一刀、……は、無理か」
 間近でそれを見定め、ならばとユーゴが重心を僅かに落とす。
 精霊の手脚を斬り落とす様に薙がれる水の魔法剣の効果は覿面で、物悲しげな悲鳴を上げて幾体かの精霊が轟と地面に倒れ臥せた。
 嘗ての記憶をなぞらえて、否そうでなくともここは彼女に頼むべきだ――視線を獣たちから離さぬ儘に、ユーゴは声を放る。
「後は任せたぞ、リリヤ」
「――、はっ、」
 彼が風以外を操るなど珍しい――そんな風に見入っていたらバトンを渡され、少しだけ居住まいを正す。
 気にしている場合ではなかった、と少しだけ咳払いと共に。
「はい。おまかせください」
 燃え上がる炎が如何に勢いを増せど、惑わされていてはいけない。喩えその表面が潤む様に熱を帯び、蕩ける様に麗しく燃え盛っていたとしてもだ。
 リリヤのゆびさきが空を撫ぜる――どれにしようか、どれから選ぼうか。神様は何をお選びになるだろう。
「さあ、ごらんになって」
 幼い彼女が指差す先に、天より降り来たる光が落ちる。強い光は足を斬られ弱った炎の獣など、呆気なく呑み込んで消し去るだろう。
 機動を削がれ逃げられもしない獣を屠るなど、容易い作業も同然だ。
 幾度か光が瞬けば、群れを為していた炎の精霊たちは燃え滓を残して消えゆくばかりだった。
 ええと、とリリヤが瞬く。
「『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』、です。わたくしはかしこいので、ちゃあんとおぼえているのですよ」
 ふふん、と得意げにそう口にするリリヤの傍らに剣を納めつつ戻りながら、ユーゴの無骨な手がぽんとちいさな彼女の頭に乗せられる。
「才色兼備の立派なレディに一歩近づいたな」
 そうでしょう、と緑の眸が得意げに蕩けた。
「いまだって、立派なレディですもの」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シゥレカエレカ・スプートニク
夫、ギドと!



春のお祭り、ね!
こういうお祭りごとの雰囲気って大好きなの
守るべきものよ、こういう文化は

旦那さまのご期待に応えて、用いるのはエレメンタルファンタジア
水属性の春一番は繁る葉を厭わず、この場を制圧するわ
少し頭を冷やしてもらわなきゃ、話、聞いてもらえそうにないしね

森や人を燃やすのは楽しい?
あなたたちが楽しいを好きなことはよおく知ってるわ
でも、わたしに力を貸してもらえれば、後でとっても楽しい思いをさせてあげられる
どう?こんなことよりもずっとね

……こら、駄目よギド
力の使いすぎだわ
あなたの考えもわかるけど、今はそこまでする必要はない
らしくないわね
…ふふ、ちょっとやきもち?
わたしの可愛い旦那さま!


ギド・スプートニク
シゥレカエレカと

身分の差、か
思う事はあれど表情には出さずに

亡霊共を鏖殺するのに理由など要るまい

たかだか精霊とは言え、群れを相手にするとなると面倒だ
まとめて吹き飛ばすならば、きみの方が得手だろう

ならば、と辺り一帯を視界に収め
金色の魔眼にて支配する

此よりこの場は我らの領域
なれば貴様らに、これ以上の勝手は許さぬ

精霊に声を掛けるシゥレカエレカの様子は黙って見守るも
さっさと消し飛ばしてしまえば良いものを、と内心
心無しか支配の力も強くなる

情けなぞ不要
どのみち親玉を引き摺り出すなら潰した方が好都合
『拒絶』の力を強め、精霊の存在ごと消し去ろうとし

諌められ
この程度、大したものではない
と力を弱める



●鴛鴦
 ――身分の差を、貧富を忘れ、皆がひとつとなって賑やかに。
 思う所がない訳ではない。ギド・スプートニクは傍らの伴侶へ――シゥレカエレカ・スプートニクへ視線を遣るも、それだけだ。直ぐにふいと逸らされた視線に、読めぬ顔色に、誰かが何かを感じ取る事も無かっただろう。
 炎の精霊は猟兵たちにその数を減らされ、恐らくは最後の一塊だろう数頭の群れが、のそりと森の奥から姿を見せた所だった。燃え盛る前足が下生えを、樹々の根元を踏み付けて、そこから炎が緑を嘗める。
 たかだか精霊、けれど群れを相手取るのは面倒だ。
「まとめて吹き飛ばすならば、きみの方が得手だろう」
 温度差が産み出す風が、轟と啼いてふたりに叩き付けられる。煽られる妻の背をそっと支えてやりながら、ギドはその蒼い眸を眇めて囁いた。
 まかせて、と翅を震わせシゥレカエレカが綻ぶ様に微笑む。
 細い可憐な指先が、空を撫ぜては風を喚ぶ――南より来たれ春疾風、この場を諌める水を乗せて。それは苛烈であれど梢には柔く、彼女の思惑通りにこの場を制圧に掛かるだろう。
「旦那さまのご期待には応えなくちゃ。……それに、」
 吹き込む風によって場の空気が少しずつ鎮められてゆく。
 その気配に満足そうに頷きいてから、シゥレカエレカはきりりとした眼差しで炎の精霊たちと相対した。
「少し頭を冷やしてもらわなきゃ、話、聞いてもらえそうにないしね」
 成る程、とギドが独り言ちて顎を擦る。
 その眸が金色を得て爛と煌めく。
「きみにばかり強いるのもいけないな、」
 魔眼は主の意思通りに、このちいさな領域を世界と定めて働くだろう。主たるギドが一瞥をくれるそれだけで、精霊たちの躰が枷を嵌められた様に鈍り出す。
「此よりこの場は我らの領域――なれば貴様らに、これ以上の勝手は許さぬ」
 炎の精霊たちは膝を折る。否、折らずにはいられないのだ。
 純然たる君臨するものの気配を眼前にして尚も燃え盛り吠え立てられるほど、世界の理から逸脱してはいないのだから。
「森や人を燃やすのは楽しい?」
 柔い声がその頭上に降り注ぐ。シゥレカエレカが華奢な翅をはためかせ、寄り添う為に声を紡ぐ。
「いいえ、それをよおく知ってるの――でも、わたしに力を貸してもらえれば、後でとっても楽しい思いをさせてあげられる」
 意志を通わせようと身振り手振り、真心から言葉を織るシゥレカエレカのその薬指には燦きが宿る。
 同じ輝きを同じ指に宿す男がそれを見遣る――精霊へと心を砕く彼女の様子に、ギドの眉宇がほんの少しだけ顰められた。が、きっと気付けるのは彼の細君ぐらいだろう。
 ――さっさと消し飛ばしてしまえば良いものを。
「情けなぞ不要」
 空間が拉げる様に重みを増す。この場の支配権を握る男の眸が煌々と金に輝いている。
 言葉をひとつひとつ零す度、精霊たちが唸り声を上げて地に伏せてゆく。あれだけ勢いよく踊っていた炎は今や、消えてしまう寸前だ。
「どのみち親玉を引き摺り出すなら、潰した方が好都合だ」
「……こら、駄目よギド」
 ひらりと翔んだシゥレカエレカが伴侶の顔を覗き込む。
 そこまでする必要はないのよと甘い声で諌めて、ちいさな両掌が彼の頬へと触れて慈しんだ。わたしの可愛い旦那さま、と蕩ける響きがギドを呼ぶ。
 そこで漸く、金色の支配が緩むのを見せた。
「――この程度、大したものではない」
「らしくないわね。……ちょっとやきもち?」
 ねえ、と聞きたげにしてシゥレカエレカはちらちらと羽ばたく。
 黙秘を貫く伴侶の姿勢に、もう、と口先では困った風に漏らすものの、満面の笑みは嘘が吐けない――夫妻のよくある光景だ。

 戒めは解けたが、炎の獣が再び起き上がる様子はない。水の匂いをする春疾風に、王の片鱗たる魔眼のそれに、屈する事を選んだ様だった。
 森を燃す炎の一部と還る如くに、その体躯がほどけて消えてゆく――漸く拓けた視界の先には、不服そうに顔を歪めたひとりの少女が佇んでいた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『『嫉妬』のステラ』

POW   :    あたしすごい?ほんと?……でっしょー!(ドヤ顔)
戦闘力のない【動画撮影ドローン】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【視聴者の応援】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD   :    そんなの、あたしだってできるんだから!
対象のユーベルコードに対し【正確に全く同じユーベルコード】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ   :    違っ……あたしそんなつもりじゃ……
【槍】が命中した対象に対し、高威力高命中の【召喚ドラゴン】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠リサ・ムーンリッドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『嫉妬』のステラ
 炎の勢いは決して弱くはなかったが、けれど森すべてを覆って焼き尽くしてしまうほどの傲岸さもない。
 少しでも被害が減る様にと尽力した、或いは迅速に相対する敵を片付けた、猟兵たちの努力の賜物に相違ない。焼け落ちてしまった箇所は在れど、きっとまた残る樹々から新たな芽吹きを得るだろう。
 ――それもまた、“彼女”の不機嫌さに拍車を掛ける要因やも知れなかった。
「あたしの邪魔をしに来たのね?」
 鮮やかな出で立ちの愛らしい少女が、唇を尖らせ不服も顕にそこに居る。
「どうしてこうも巧くいかないのかしら――途中までは、すごく順調だったのに!」
 自分勝手に喚いて頬を膨らませる。そんな仕草だけ見れば外見相応の少女にしか感じられないが、彼女は――『嫉妬』のステラは間違いなくオブリビオンだ。
 じろりと彼女が猟兵たちを睨め付ける。
「……皆きらきらしてるのね。可愛くって、格好良くって、誰かの期待を背負ってあたしを倒しに来たんでしょう?」
 薄暗い嫉妬の炎が燃え上がる。
 爆ぜる音を立てて勢いを増す森の炎を背景に、逆光に覆われた口許が劣悪に笑む。
「ああ、ほんと妬けちゃう――良いわ、あなたたちも壊してあげる!」
黒蛇・宵蔭
シノア(f10214)さんと。
次なる調べも、優雅に踊るのは難しそうですね。
荒々しい舞踏であっても華となるように。ええ、ご随意に。

私の鉄錆は過ぎたる者を戒めるために。
実に原始的な懲罰ですが、効きますよ。

木々が覆い繁る地形を利用し、攻撃し辛い位置を心がけて立ち回り。
困ったお嬢さんには、血界檻鎖を。
基本は彼女が脚を止めた瞬間を狙います。
全身を拘束する鳥籠を贈りましょう。
同じものが戻って来ても、痛いだけですから。

シノアさんを援護するように。
炎も血も、彼女を彩るならばより凄絶であればいい。

嫉妬はお好きにどうぞ。
けれど全てを妬き尽くすとなれば傲慢――仕置きされても、仕方ないでしょう?

アレンジ歓迎


シノア・プサルトゥイーリ
宵蔭(f02394)と

夜の戦場は麗しの舞台
えぇ。せめて華はあるように
次の舞踏は私がお誘いさせていただいても?

女性を誘うのに遠くからというのも失礼なもの
地形を利用し立ち回り、近接にて仕掛ける
太刀に手を沿わせ、黒礼二式を発動

私と踊ってくださるかしら?お嬢さん
貴方の炎と私の炎で踊りましょう

向こうの攻撃は武器で受け
宵蔭の紡ぐ攻撃に併せて炎を向ける

お嬢さん、よそ見は駄目よ
宵蔭の見ている舞踏ですもの

血と炎の舞踏にて
踊る鉄錆の鋭さに笑みをこぼす

ドローンは衝撃波で消せるか試してみましょうか
無理でも鎧を無視して刃を届かせ

嫉妬、ね
全てを口にするのならば
相応の覚悟が必要となるわ、お嬢さん
貴方も灰になる覚悟はあって?



●舞うのならば華やかに
 赫々と炎を滾らせこちらを睨め付けるステラの姿に、シノア・プサルトゥイーリはそれを検分する様にして傍らへと囁く。
「次の舞踏は私がお誘いさせていただいても?」
「ええ、ご随意に」
 淑女の問いに、黒蛇・宵蔭はその手に歪な形状の鞭を構えて肯いた。
 その遣り取りを、拗ねたような眼差しでステラが咎める。
「そういうのすーっごい妬けるし、すーっごいムカつく! 衆人環視で徹底的にぶちのめしたげる!」
 彼女の足裏が地を叩く。それを合図にするかの様に、虚空からドローンが飛来する。モニタ越しに待ち構えるは好事家のパトロン、彼女の嫉妬と破壊を好ましく思う者どもだ。
 あら、と咲く様に吐息が漏れる。不規則な地形を読み切ったシノアの肉薄は、その体幹がぶれることなく真っ直ぐで美しい。
 故に、ステラも簡単に懐への侵入を赦してしまう。
「ならば尚の事、無様は見せられないわね――私と踊ってくださるかしら? お嬢さん」
 言葉通りにその動きは洗練され、いっそ舞う如くに麗しい。
 ずらりと抜き放たれた太刀に添う様、柔らかな指の腹が曝される。当然の如く肉を裂いて溢れる鮮血は、けれどそれだけに留まらない――呪われた血は、そこに真紅の炎を喚び招く。嫉妬に狂う彼女の身を、焼き焦がすが我が務めと云わんばかりに。
「だぁれが、あんたなんかと――……!」
 炎に巻かれ灼かれる事を厭って、ステラが僅かに身を引き後ろへと飛び退る。
 その僅かな隙を見逃してやるほど、宵蔭という男は甘くはない――過ぎたる者を戒める、その為の鉄錆が啼いている。
「困ったお嬢さんには、躾の為の鳥籠など如何でしょう」
 応じる様に濃い血臭がその空間に蓋をする。身構える様に足を留めてしまったステラの躰を取り囲む様にして、虚空から骨組みが現出する。
 苦痛による彼女の悲鳴をバックにして、重い金属音と共にステラの四肢が血塗れの鳥籠に封じられた――そうしてそれを為した男は、ついとその双眸を麗しのシノアへと向けるのだ。
「炎も血も、彼女を彩るならばより凄絶であればいい」
 独りごちる様な宵蔭の言葉を聞いてか聞かずか、シノアの口端が艶やかに吊り上げられる。
 ぱちりと彼女が指先を弾く瞬間、視界の片隅でドローンが爆煙を上げた。それを頼りに強化に臨もうとしていたステラが歯噛みする。
「何よ……何よ! 意思疎通なんかしちゃって、孤軍奮闘のあたしをばかにしてるんでしょ!」
 嫉妬に塗れた吠え声だ。猟兵たちには何の障害にもならない、取るに足らない程度の。
 その鳥籠の隙間から、ぬうと腕が伸びる――シノアへ向けて。
 れどシノアが距離を取って刃を構え直すよりも疾く、その腕を強かに撃つものが在る。
「嫉妬はお好きにどうぞ」
 鉄棘持つ鞭が、宵蔭の手許へと巻き戻る。
「けれど全てを妬き尽くすとなれば傲慢――仕置きされても、仕方ないでしょう?」
「全てを口にするのならば、相応の覚悟が必要となるわ」
 そうして再び真昼の如き明るさが、揺らめきを伴い鳥籠を、その中のステラを照らし出す。真っ赤に燃えるシノアの真紅――何よりも美しい、その炎が。
 お嬢さん、と彼女が笑う。
「貴方も灰になる覚悟はあって?」
 ステラの悲鳴と共に、燃え朽ちた鳥籠と共にその身が地へと崩れ落ちた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒海堂・残夏
ほ〜らね、こーゆーのって大概同情もできない自分勝手なヤツなんですよねぇ
ざんげちゃんは決して人道を説くような人間じゃありませんが、お前みたいなヤツは嫌いなんですよお
なのでボコボコにしますぅ

コッチにくる火の粉はざんげちゃんが避けましょ〜
槍がなけりゃ多少手段は限られますかぁ?
リボンで槍を奪ったらこっちのモンだ
お前の槍は『貫かない』――否定してやりましょう、その矛を

仲間に入れてほしけりゃ最初から素直になりゃあ良いのにね
アハ、それができたら苦労しませんかぁ?
同情しますねぇ、だからこそムカつくんですけどぉ
イヒヒ、こっちの話です
とりあえずとっとと火を消して、祭に行きましょ〜ぉ

※アドリブ・共闘も嬉しいです〜う


ルフトゥ・カメリア
はッ、くだらねぇ
妬み嫉みなんざ腹の足しにもなりゃしねぇ
そんなもんで他人の妨害してる暇があったら、一歩でも前に進んだ方が遥かに建設的だ

這い上がって来た育ち柄か、嫉妬の感情への理解は薄い。故に、敵のそれも当然ながら理解が及ばない

妬んだって誰も与えてくれねぇし、壊したってどうせ自分のものにならねぇだろ
馬鹿馬鹿しい、労力の無駄だ

そんなに妬ましいなら、何もかも奪われる悪夢でも見てろよ
敵の動きを【第六感】で予想しUCを発動、永遠に死に続ける悪夢を
敵が動揺すれば、己の傷口捌いて溢れる炎を鉄塊剣ごと【怪力、鎧砕き、2回攻撃、だまし討ち】で叩き込む

自分への攻撃は【かばう、オーラ防御、武器受け、カウンター】で対処



●自分勝手の宴
「ほ~らね」
 崩れ落ちたステラの身体に影が射す。
 此方を見下す様に立つ黒海堂・残夏を睨め付けて、ステラは跳ね起きて距離を取った。
「こーゆーのって大概同情もできない自分勝手なヤツなんですよねぇ」
 ふふ、と残夏の口端に笑みが浮かぶ。
「全部持ってる様な奴らの同情なんか、こっちから願い下げよ!」
 得物を構えながら吼えるステラの台詞に、くだらねぇ、と低い声が唸った。
 ルフトゥ・カメリアは残夏の傍らに歩み出ながら、言葉通りに心底くだらなさそうな顔と声とで次を継ぐ。
「妬み嫉みなんざ腹の足しにもなりゃしねぇ」
 激情に合わせて揺れる様に、瑠璃唐草の色灯す炎が輪を描く。
「そんなもんで他人の妨害してる暇があったら、一歩でも前に進んだ方が遥かに建設的だ」
「ッ、黙って聞いてれば、言いたい放題してくれるじゃない……!」
 ステラの表情にもまた、苛烈な激情が宿るのが視えた。
 番えた槍を衝動の儘に解き放とうとする――が、けれどそれは為されない。展開を読んでいたかの如く伸ばされた一条のリボンが、ステラの槍を封じた故に。
 蕩ける様に残夏がわらう――いいこにしててくださいねぇ。甘い甘い声で云う。
「お前の槍は『貫かない』」
 ――否定してやりましょう、その矛を。
 ステラの顔色がさあっと青褪める。リボンを振りほどけないだけではない――その身の内に蓄えるユーベルコードが使えない。
「あ、な、なんで……!」
「ついでにどうだ、こんな悪夢は?」
 踏み込んだルフトゥの指先が、何かを発動させる様に、或いはくしゃりと崩す様に握り込まれる。
 それをトリガーとするかの如く、嗚呼、とステラが全身を戦慄かせた。
 眸こそ大きく見開けど、彼女の脳裏には耐え難い悪夢がその緞帳を上げている――自らの嫉妬も欲しがった何もかも、諸共すべてが崩れ落ちてゆく終焉の夢が。
「妬んだって誰も与えてくれねぇし、壊したってどうせ自分のものにならねぇだろ」
 言葉の裏には妬み嫉みへの理解の薄さが鋲を打つ。けれどそれはこの場に於いて、間違いなくアドバンテージだった。
「馬鹿馬鹿しい。労力の無駄だ」
 傷口を裂いて生まれた炎はルフトゥの得物を這い上がり、それごとステラへと叩き付けられる。
 悲鳴を上げて堪らず膝を地に突く彼女の姿に、アハ、と笑ったのは残夏だった。
「仲間に入れてほしけりゃ、最初から素直になりゃあ良いのにね。……あ~わかってますわかってます、出来ないんですよねぇ? それが出来たら苦労しませんものねぇ!」
 喉奥で笑いを押し潰しながら、愉快で堪らぬ風体で残夏は詰る。
 かあっとステラの頬が赤く染まる――図星を突かれたか、それとも炎の照り返しが揺れただけか。
「同情しますねぇ、だからこそムカつくんですけどぉ」
 機嫌良く続く残夏の言葉に、剣を引きながらルフトゥが眉間に皺を寄せる。
「わかった風に喋るんだな。なんの話だよ、そりゃ」
「こっちの話です」
 イヒヒ、と笑った残夏は、自らの人差し指を唇に当ててそう返した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雨糸・咲
羨ましいから、妬ましいから、壊す
それであなたは満たされるの?

その心、私にはよくわかりませんけれど…
そんな風に我儘勝手に振る舞っていては
せっかくの星の名も
その愛らしい姿も
くすみ、淀んでしまうのではありません?

否定と言うよりは純粋な疑問

第六感、聞き耳で攻撃を極力回避
フェイントと高速詠唱で隙を突きましょう
私の杖は氷の精霊
少し、頭を冷やしたら良いのです

召喚されたドローンは速やかに撃破
強化はさせません

お見送りは清しい花の香で
彼女の烈しい感情に当てられた気がして

もしかしたら私も
少し、羨ましいのかも知れません
吐き出したくともできない
胸を焼く想いに
いっそ内から壊れてしまえば良いと思ってしまうから

※アドリブ歓迎


イア・エエングラ
やけつく、ように、炎のように
壊してやろうと、思えるほどに
目の前に熱くなれるのが、僕には
――すこし、羨ましいかしら

海よりかえって、いらっしゃるほど
何がお気に召さないだろなあ
前征く方の援護としてひとつ
隙間をつくりに動きましょ
その火、鎮めて、差し上げようか
そっと笑ってひらと手振って
招くのは冷たい、彼岸の火
滄喪でもってその足を止めような
凍て風哭いてと、請うならば
遠のく季節を呼び止めて

やあ、お強いのなあ
僅かに傾げて、褒めてあげたとて
……やっぱりお気には、召さないかしら
ちりりと焦がす激情さえも、
遠く聞こえてすぐに消えてしまうから
その気のすむまで、絶えるまで
聞かせてくださる



●炎ふる森でひそやかに
 ――羨ましいから、妬ましいから、壊す。
 そんな事は雨糸・咲には到底理解の及ばない事だった。もっとやりようはある筈だ。壊すことはきっと正解ではない筈だ。
「それであなたは満たされるの?」
「そうよ」
 問い掛ける咲の言葉に、躊躇なくステラはいらえてみせる。ぐ、と咲は喉を鳴らした。
 その細い身体に、少女めくステラのそれに、尚も燃えゆく苛烈な感情を灯すのを見て、イア・エエングラは吐息を揺らす。
「そんな風に、何もかも焼き尽くして燃して、壊してしまえと思えるほどに」
 ゆびさきが碧い火を熾す。
「目の前に熱くなれるのが――僕にはすこし、羨ましいかしら」
 そう囁くイアの身体を、織り上げられた碧い火が柔く包んだ。招かれた彼岸の火は正しく作用し、幾度となく倒されては立ち上がる、ステラの身体を押し留めに膨らんでゆく。
 ――その火を鎮めて差し上げようか。
「妬まれる側だから、そんな事が言えるんだわ……」
 その嫉妬の炎は仄暗く、底を尽きる事は無いのだろう。少なくともこの場にいる彼女は、斃されるまでそうなのだろう。
 呻くステラに向けて、イアの指先が嫋やかに撓る。春の向こうに逝こうとする冬を手繰り寄せ、その名残が強烈に彼女を凍て付ける。
 度し難い寒さに身を竦め動きの鈍るステラに、咲はすうと息を吸った。
「その心、私にはよくわかりませんけれど……」
 手繰り寄せられた冷気が尚も冷える。咲の杖に宿る精霊が、この場の冬を囲い込んで逃さない。
 救いを求める様に、ステラの手が虚空を掻く――そこからドローンが滲み出す。
「そんな風に我儘勝手に振る舞っていては、せっかくの星の名も、その愛らしい姿も――くすみ、淀んでしまうのではありません?」
「あたしはあたしが輝き続ける為に、諦めないのよ!」
 吼える様にステラは返す。
 咲は嘆息した。燃え盛る炎に訪れた局地的な冬の最中、ステラの指先の伸びたドローンがばきりと割られて崩れ落ちる。
「なら、少し頭を冷やすべきです」
 物言いは凛と告げられる。
 それと共に、携える杖がその輪郭を揺らがせる――崩れ落ちると共に風に舞うは白菊の花弁、咲の眸にもイアの眸にも、それは只々美しいだけのものだ。
 なれど白菊はステラの身を清冽に苛む。凍えるほどの寒気の中で身を千千にされる恐怖に、彼女は悲鳴を上げて燃え盛る炎の方へと飛び退る。
「やあ、お強いのなあ。気丈でいらっしゃること、」
「ッ、ばかにして……!」
 イアの声に、涙目でステラが睨め付ける。お気に召さなかったらしい、とちいさく肩を竦めるイアを他所に、ステラは逃げるべく別方向へと駆けてゆく。けれどそちらにも恐らく、待ち構える猟兵が居るだろう。
 咲はちいさく息を吐く――けれどその吐息が不意に震える事に気付いたイアが、そちらを見遣った。
 心を雪ぐ様な花の馨に満ち満ちた、それでも星の名を持つ彼女の感情は烈しいのだ。
「もしかしたら私も、……少し、羨ましいのかも知れません」
 胸に閊えるその想いは未だ胸を灼いている。
 吐き出したくともそう出来ない、それの叶わないものを追い詰める様に微かに胸に爪を立てる咲の姿に、イアはとろりとその目蓋を僅かに伏せた。
「では、似た者同士ね、僕ら」
 咲はいらえる代わりに少しだけ顎を引く。
 いっそ内から壊れてしまえば良い等と――そんな烈しいものを、吐露してしまうのを堪える様に。
 空気にはまだ冬が留まっている。いずれ炎に巻かれて消えてしまうだろうけれど、今はまだ、清しい花の馨と共にそこに腕を拡げている。
「あてられてしまったわね、」
 何にとは言わない。断じもしない。
 自らと咲とを示してそう囁き、イアは仄かに笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウトラ・ブルーメトレネ
むむむ、む
なんだかイラっとしたの
ねぇ、あなたが「ぶとうかい」を邪魔しようとしてるのね?
うん。わたしには、それで十分!

POW
戦場を駆け、敵の視界から外れる事に成功したら
そこから問答無用の勢いでドラゴニアン・チェインを発動。思い切りよくぶん投げる
無事にヒットしオーラの鎖を結べたら、ウトラ的本番
じゃまは、だめなの!!
いかりのどらごんあたーっく!
鎖を辿って一直線ダッシュ、からの、頭突き(角の生えてる頭で
きっとダメージ狙いとしては効果なし
狙いは驚かせる事と、バランスを崩させる事

他の猟兵の集中攻撃タイミングを作れたら、即座に飛んで退避
こっそり頭を抱える
うう、いたかったのっ
でも、負けるのはシャクにさわるのっ


フィオリーナ・フォルトナータ
貴女がオブリビオンである以上、わたくし達が、貴女の邪魔をしない理由はありませんから
勿論、ここから先へは行かせません
ですが、折角ですから――わたくし達と、踊ってくださいますか?

他の猟兵の皆様と協力して戦います
トリニティ・エンハンスで防御力を重視しての強化を
盾で攻撃を受け、庇いながら、時にフェイントを絡めて舞うように戦います
妙な機械(ドローン)は叩き落としつつ
隙あらば懐に飛び込み、捨て身の一撃で守りを砕きましょう

何が妬ましかったのでしょう
ただ、楽しそうだから?
それとも、貴女自身が絢爛の場に相応しくないと知っていたから?
その嫉妬さえも仮面で覆い隠せたなら、…いいえ、考えても仕方のないことでしょうね


トトリ・トートリド
最初は、酷いことやめろって、言おうと思ってた
でも…思わず傾げる首
期待。は、少し、違う
トトリは期待されて来たんじゃ、ない
自分が、守りたかったからで
…ぜんぶ、自分のためだ

本気で、止める
さっきの…咲の雪崩、思い出して
絵の具飛ばす一振りは、いつもより力強く
嫉妬の、ステラ
…ひとを羨める人、は、本当は悔しさで頑張れる人、なのにな

酷いこと、したし
倒すしか、ないなら。容赦はしない
負けたくないことに、頑張れたら、よかったのにな
ここで、おわろう
その嫉妬も、塗り潰すから

仲間が追い詰める方に、回り込んでまちぶせ
攻撃、写されないように
同じ技、だけど、描く軌跡、色の濃淡
全部違えて、違う技みたいに、放とう



●決意をみっつ束ねたら
 喚ばれた冬より逃げる様にしてステラは駆ける。
 未だ炎燻る場所に入り込み、膚を嘗める熱の気配に漸く息を吐いた――そうして眼前に認める。
「――ぼけっと突っ立ってんじゃ、ないわよ!」
 漸く狩れそうな獲物を見つけたと、歓喜滲む声が悪辣に響く。跳躍して槍を番え躍り掛るステラの姿を迎え撃つ様に見つめるのは、猟兵の一たるウトラ・ブルーメトレネ――但しその頬は、ほんの少し膨れている。
「ねぇ、あなたが『ぶとうかい』を邪魔しようとしてるのね?」
「あんな催し、やる方がいけないのよ!」
 ウトラの問いに対して即座に甲高い声が響く。傲然と捕食者を気取るそれに、ふすと気合と共に息を吐いてウトラは構えた。
「うん。わたしには、それで十分!」
 全てを言い切るより、その爪先が軽やかに地を蹴って走り出す方が尚早い。
 眼前の目標を攻撃する事ばかりに注力していたステラは、突如視界から掻き消えたウトラの動きに対応し切れずに蹈鞴を踏む。息を呑んで気配を追うよう顔を上げるが、それではもう遅いのだ。
「――せぇ、の!」
 掛け声と共に、ウトラの練るオーラがステラに向けて放たれた。接する瞬間に爆破するそれに対して受け身を取る暇もなく、ステラの身体が練気の鎖でウトラへと結わえ付けられる。
 すう、と息を吸う音が耳の遠くでひとつ弾けた。
「じゃまは、だめなの!!」
 それは彼女の――ウトラの裂帛の気合だ。彼女なりの怒りを纏って鎖を伝い、その身が真っ直ぐにステラ目掛けて流星宜しく駆けてゆく。
 間近になっても勢いは緩まない。そのまま半ば突進する様な形で、角の生えている頭からウトラが突っ込んだ。容赦はない。だってウトラは怒っている。
 ――ごおん!
「……絶対音しましたよね、あれ」
 少女ふたりの渾身の頭突きの様子を、少し離れた位置から見守っていたフィオリーナ・フォルトナータははらはらと眉根を寄せて心配する。
 その傍らで同じく待機していたトトリ・トートリドは、真剣な眼差しでこくりと肯いた。
「ウトラの本気、伝わってくる。トトリも、本気で、止める」
 丁度ふたりの視線の向こうでは、衝撃により仰け反ったステラを指差しながら、あとよろしくねと大きく手を振りそこから飛び退るウトラが見える。
 森の向こうからは、ひやりと冷気が這い寄っている――ここに来るまでに、トトリはそれを識っていた。共に精霊と戦った少女の姿を少しだけ思い出した、そんなトトリの操る絵筆はいつもより少しだけ力強い。
「トトリは期待されて来たんじゃ、ない」
 燃やされ黒に霞む森に、鮮やかな孔雀の尾羽が棚引いてゆく。否、それそのものではない。否、それよりも尚瑞々しい――そんなマラカイトが、トトリの操る道具から迸る。
 ――期待を背負って来たんでしょう。嫉妬に狂う少女はそう云った。
 けれど違うのだ。自分が、それを守りたいと願ったのだ。
「……ぜんぶ、自分のためだ」
「どいつもこいつも、ほんっと……!」
 鮮やかな緑のそれが礫の様に、ステラの四肢を責め立てる。その嫉妬すらも美しいいろで塗り替えてやろうとばかりに降り注ぐ孔雀のそれに、苦痛に顔を歪ませながらステラは槍を番えた。
 トトリに向けて真っ直ぐに放たれる槍は、けれど鈍い金属音と共に放物線を描いて弾き飛ばされる。
「ええ、勿論。させませんよ」
 仄かに笑うフィオリーナのその体躯を祝福する様に、多色の魔力が迸っていた。
 掲げた盾で槍を防いだ彼女は、隙を挟む事なくステラの方へと距離を詰める。
 その接近を赦す前に強化に臨むべくドローンが呼び出されるが、警戒していたフィオリーナの剣先が軽やかにそれを撃墜した。
「ですが、折角ですから――わたくし達と、踊ってくださいますか?」
 オールドローズが空に舞う。鮮やかなその軌跡にステラの視線が一瞬逸れて、けれど剣戟が叩き込まれればぐっと息を詰めて後方へと飛び退る。
 息を整えさせる暇を与える事なく再びそれを切っ先で捉えながら、フィオリーナは尚も言葉を重ねた。
「妬ましかったのでしょう? 楽しそうだから? ――それとも、誰かと共に行きたかったのかしら」
「ッ、か、関係ないでしょ!?」
 かあ、とステラの頬が紅く染まる。明らかな羞恥に、その剣捌きを緩める事なくフィオリーナは嘆息した。
「その嫉妬さえも仮面で覆い隠せたなら、……いいえ、考えても仕方のないことでしょうね」
「……ひとを羨める人、は、本当は悔しさで頑張れる人、なのにな」
 フィオリーナの思う事に寄り添う様にして、描き続けるトトリもまたぽつりと呟く。
 負けたくない事に頑張れたら良かったのに――そんな風に彼は思えど、言葉にはせず唇を噤んだ。そう悔やむには、このオブリビオンは傷付けたものが多すぎる。
 フィオリーナの戦う方へと追い詰める様に、トトリの絵の具が色彩を空に描いてゆく。盗まれぬ様にと色調を、濃淡を違え生み出す色は、こんな戦闘だと云うのにどうしたって麗しい。
 ――ぎいん、と金属のがなる音がひとつ嘶く。
 悲鳴を上げて倒れ伏すステラの姿に、漸くフィオリーナに剣の切っ先を下ろして周りを見る余裕が生まれた。
「……あの子、大丈夫だったかしら?」
 盛大に額をぶつけていたウトラの姿が引っ掛かっている。案じる彼女に、トトリはうん、と鷹揚にいらえた。
「ほら、あそこだ。……でも、ちょっと……つらそう」
 示す木陰を見遣って、ほんのちょっぴりおろっとする。
 視線の先には、ぶつけた箇所を抑えて蹲る少女の姿。
「うう、いたかったの……っ」
 名誉の負傷を得たウトラの姿が、そこに在った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クラウン・メリー
嵐吾(灰青・f05366)と共に

女の人と戦うのは少し躊躇うけど、
悪いことしてるなら、退治しないとだね!

まずは俺の芸を見せちゃうよ!
火を使った芸にしようかな?

火がついたジャグリング四本を手で回すよ!後ろ向きでも出来るよ!
油を口に含み、ジャグリングに
向かって吹いたら……あれ、火がボスの方にいっちゃった!

ラストは口の中に火がついた
ジャグリングを入れて火を消すよ!
良い子は真似しないでね?

その間に嵐吾は攻撃してるかな?
わぁ、嵐吾の狐火やっぱり凄いかっこいい!

嵐吾が攻撃をしてる間に
【傷口を抉る】様な痛さの火の輪で
ボスをくくりつけて最後に【鎧も砕く】大玉に乗って突撃だ!

君の火より俺達の火の方が
絶対強いよね!


終夜・嵐吾
クラウン君(f03642)と共に

そうじゃな、悪い事しようとしとるなら、それは挫かんとな
クラウン君の芸はすごいのー! ステラの嬢ちゃんもうらやむかもしれんの、その技を。
炎の扱いも上手で……えっ、それ口、ひぇっ!
ほおおお、すごいの! はっ、楽しんでしまってはいかんな!
わしも仕事せんとな。この後の為にも。

火の扱いならば、わしもクラウン君には負けんぞ。
手元の狐火を躍らせステラへ。
嬢ちゃん、羨ましいならわしらがここで遊んであげよ。
それで満足――できんのなら、痛い目見てもらうしかないからの。
攻撃はかわせるならかわして。どうにもならんならあとで治癒を。



●炎渦巻くその果ての
 突破して逃げねばならない――この猟兵たちから遠く、遠くへ。
 そう判断したステラは槍を回収して走り出すが、そんな行為を見逃してやる猟兵が居よう筈も無い。
「――ね、どこ行くの?」
 明るい声がひとつ響く。同時に行く手を塞ぐ様に、ひとりの影がそこに在った。
 クラウン・メリーは問い掛けて、それから人懐こい笑みを零す。これから戦おうとする者のそれでは無い様な笑顔なのに、その頬には無骨な炎が照り返すのが歪だった。
 音なくステラが息を呑む。
「急いでないでさ、まずは俺の芸を見てってよ!」
「えっ、な、何……!?」
 身構えていた所にそんな風に声を掛けられ、思わずステラは驚いて瞬いた。
 クラウンは応えない。ただ口端を持ち上げて、その手に燃え上がるジャグリングを四本携える――のが早いか、軽やかな手捌きでそのジャグリングを回し始める。
 サーカスでしっかり仕込まれたその技術は彼の誇りで持ち物で、だからとても鮮やかだ。或いはもしかすれば、森を燃し続ける炎よりも。
「……っ、」
 ステラの眸に、初めて嫉妬のいろ以外が宿る。
 時折身体の向きを入れ替えながら披露されるジャグリングに、すっかり見惚れる様子の彼女を見遣って、彼女の退路を絶つ様に現れる終夜・嵐吾はちいさく笑った。
「クラウン君の芸はすごいのー!」
 敢えて彼女の意識を引き戻す為に、声を上げて歓声を放る。
「ステラの嬢ちゃんもうらやむかもしれんの、その技を。なんたって今、食い入る様に見とったもんな?」
「う、うう……っ、」
 嵐吾に事実を指摘されて、ステラの頬に朱が滲む。
 それだけ見れば年頃の、癇癪持ちの少女に過ぎないかもしれない――けれど彼女は間違いなくオブリビオンで、既に甚大な被害を出している。
 少しだけジャグリングの手を止めて、クラウンは僅かに眉尻を下げた。けれどそれも瞬きひとつにも満たない間だ。
 クラウンはすぐに笑みを取り戻す。だってそれが、サーカスのピエロだ。
「少し躊躇うけど――、悪いことしてるなら、退治しないとだね!」
「そうじゃな、悪い事しようとしとるなら、それは挫かんとな」
 見過ごせん事よと顎を擦る嵐吾もまた、いらえて肯く。
 やられる前にと槍を番えて飛び退ろうとするステラよりも、クラウンの方がひとつ上手で早かった。
 油を口に含み、ジャグリングに向かって吹き付ける――生まれた特大の炎はジャグリングを更に越え、その先のステラの鼻先を擽って見せた。
 それはサーカスで仕込まれた技術であったけれど、ステラの出鼻を挫くには丁度良い。きゃあ、と悲鳴を上げて彼女が身を竦ませる。
「……ね、結構デキるでしょ?」
「クラウン君えっ、それ口……!」
 ひぇ、とかほお、とか驚いたり感嘆したりの百面相を浮かべながらも、嵐吾のその指先はしっかりと狐火を編み上げるのだ。
 楽しんでしまってばかりではいかんな、と態とらしく咳払いなど挟んだりもする。
「わしも仕事せんとな。この後の為にも」
「――ッ、あたしとした事が、見え透いた足留めに……!」
 この後、と拾い聞いてステラの顔色が変わった。
 逸るように駆け出そうとするのを、まあゆっくりおしと笑う嵐吾の炎が絡め取る。狐火が燃えて燃えて尚も燃えて――その苛烈さに、わあ、とクラウンが双眸を煌めかせた。
「嬢ちゃん、羨ましいならわしらがここで遊んであげよ」
 そんなのいらない、とステラが跳ね除けるよりも“それ”は先んじている。
 クラウンの投げた火の輪がステラに絡まり、疵を刳りながら燃え上がった。
「君の火より俺達の火の方が、絶対強いよね!」
 朗らかに言ってのけるクラウンを、炎の中からそれより強い光を帯びたステラの眼差しが射り貫く。狐火で以てそれをあやす様に炎を繰りながら、嵐吾は穏やかに声を重ねた。
「痛いか。痛みを良く覚えておくんじゃな」
 琥珀色が、微細に歪む。
「満足できなかった自分への、跳ね返りじゃからの」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

境・花世
綾/f01786と

嫉妬の炎で焼き尽くしたって
自分のものにはならないままだよ

――かわいそうにね、ステラ

綾に重ねてそう告げるのは
単なる本心だけど
彼女の怒りを煽って煽って、
手元を狂わせるなら重畳だ

“紅葬”

たちまち身を侵食するのは
匂やかな春の色した大輪の花、
そのまま高速移動で敵へと駆ける

真っ直ぐに進めるのは綾のお蔭だと
振り返らずともわかっているから
あえかに、微笑って

春が欲しい? なら、存分に

放つ花弁が一斉に襲いかかれば、
駄々こねる唇も嫉妬に焦げる瞳も
ほら、全部お望み通り春に染まる
薄紅と黄色、ふたつ混ざって

春風が全てを吹き消したなら
いつかまた巡る季節の幻を視る
きっと美しい絢爛の春だ
綾、きみの願った通りに


都槻・綾
f11024/かよさん

つまり
自己顕示欲
虚栄心
羨望
其の先に、嫉妬

ステラの身勝手な言い分に名を与えて煽動
口調は穏やか乍ら
意図的に、敢えての憐憫の眼差し

例え華美な衣装を纏い
見目良く容を成したとて
海より這い上がる程の妄執は――誠、醜いですねぇ

かよさんが自由に咲けるよう、補助として動く
第六感で見切り回避
自他オーラ防御
援護に放つ七捕符

焦がれる事も妬く感情も
実のところよく分らぬまま

貴女は、貴女でしょうに

舞う牡丹の幻想に合わせて編む、黄薔薇の花筐は
やがて風に散る幻影
嫉妬に焼かれた季を越えて
いつかの春に再び森が芽吹くよう

傍らに勇ましき佐保姫殿が御坐すから
願いはきっと叶うのだと思える

かよさんこそ
幻ではない、春絢爛



●春に先立ち連れ添うもの
 全身を火傷に苛まれながらも、ステラは拘束を脱してひた走る――街へ、街へ。あれを壊さねば気が済まない。だって羨ましい。だって妬ましい。あたしはあそこへ行けないのに。
 ならば知らしめてやりたい。あたしを排斥した者共へ。あたしと云う、苛烈な存在を!
「――つまり、自己顕示欲」
 嘲笑うかの如く声の在る。
 唇を噛んでステラが声を主を探る――また猟兵。どうしたってこの往く道を邪魔する者たち。
「或いは虚栄心、或いは羨望、その先に――嫉妬が、」
 謳うようにそう紡いで、ステラを行く手を遮る様に都槻・綾はそこに居る。
 傍らには花が咲く。匂やかに、大輪の女が。
「嫉妬の炎で焼き尽くしたって、自分のものにはならないままだよ」
 綾の言葉に寄り添う様にして、境・花世もまた囁く。
 ふたりの眼差しには共通の色が宿っている。それはステラにもよくよく解る。
 あれを憐憫と呼ばう以外の何が在ろう。
「――かわいそうにね、ステラ」
「あたしを、憐れまないで……ッ!」
 搾り出す様な声で叫ぶと共に、猟兵たちに立ち回られるより先にとステラが飛び出す。
 けれどそれを易々赦すほど、綾も花世も優しくはないのだ。かよさん、と導く様に花世を呼ばい送り出す声に示されて、その姿が花と解ける。
 百花の王が花世の身を侵食する――否、侵食と呼ぶには余りにも可憐だ。まだほんの少し先にある春が、そこにだけ許された様に花弁へその色を宿している。
 八重の牡丹に身を預ける花世は、軽やかに地を蹴った。瞬く間に肉薄するその姿に、けれどステラは傲岸に笑う。
 ユーベルコード、頂いた――確かにそう掴み取った筈だった。
「そんなの、あたしにだって出来るんだから!」
「いいえ、叶いませんよ」
 鋭利に研ぎ澄まされた綾の勘が、ステラの半歩先を往く術を示す。
 紅糸鮮やかな薄紗がステラを呪を刻む。今まさに花世より掠め取って発動せんとしたユーベルコードは、熾きる事なく彼女の中で眠るだろう。
 忌々しげに歯噛みするその横顔を見遣って、綾は囁く。
「海より這い上がる程の妄執は――誠、醜いですねぇ」
「……簡単に理解なんかされちゃ、堪らないわ」
 その心中を汲み取ってほしい訳でもない。は、と笑うステラの眼差しが、再び花世へと引き戻される。
 奇しくも今宵は春を喚び招く為の祭りの日――それに一足早く駆けて来たかの様な花世の出で立ちに、忌々しい、とばかりにステラがちいさく息を吐いた。
 彼女の意図をなぞらえたか、花世は交差する瞬間にあえかに笑う。
「春が欲しい? なら、存分に」
 聞くものが聞けば、それは傲慢だと眉間に皺を寄せたやもしれない。
 唯――確かに花世がそう望めば、そこはいつだって春になるのだ。その身が千々に吹き乱れ、春宿す花弁が鮮烈に散っては舞い踊る。
 彼女は、オブリビオンの少女は確かにそれを希ったのかもしれない。けれどそれは彼女の、ステラの唇からは決して語られない。推し量れるのはただ、視界を覆い尽くす春のにおいに五感を預けた彼女の横顔のみだ。
「貴女は、貴女でしょうに」
 その横顔を見遣って、僅かに眉尻を下げた綾はそう零す。焦がれると云う事も妬くと云う事も解らねど、ただ眼前に見ゆるものは嘘ではない筈だ。
 彼の伸ばす指先から、春に色を添える如くに黄薔薇の花弁が散らされてゆく――薄紅と黄色は目にも鮮やかなれど、ステラの身には刃と同じだ。オブリビオン故に、その身体は裂かれてゆく。
「駄々を捏ねたりするからだ」
 艶やかに花世の唇がそう紡ぐと共にひとつ風が吹いて、花弁も何もかもをひとときの幻の如くに拭い去る。
 混ざり合う花も何もかもが流されて――けれどひとつ残る名残に、綾はふと笑って傍らにその手を差し伸べた。
 彼女こそが春に違いない。願いも何もかも叶う気がした。
「きっと美しい絢爛の春だ――綾、きみの願った通りに」
 差し伸べられた手を伝い、花が一輪、寄る辺に収まる。
 指先をあやす様に柔く握り締めて、綾は眩しげにその眸を眇めてみせた。
「かよさんこそ」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ギド・スプートニク
シゥレカエレカと

仮面舞踏会が羨ましいなら混じればよかろうに
何故このような真似を
ほとほと亡霊の思考は理解できぬな

別に期待など受けてはおらぬよ
よしんば受けていたとして私には関係ない
ただ貴様のような輩を葬るために此処に居る

UCを使用し、金の瞳で敵を睨む

(傍から見れば見つめ合うふたり)
(同UCによる支配領域の奪い合い)

どうした、息が上がっているぞ?
蘇ってまで嫉妬とは、見苦しいにも程がある
恵まれた容姿に生まれておいて、狭量な事だ
他人に嫉妬させてやるくらいの気概は持てぬのか

軽口を叩き合いながら徐々に距離も近付き
最終的には至近距離でガンを付け

は?
一体何を言って――うおっ!?
暴走気味の攻撃を避けながら


シゥレカエレカ・スプートニク
夫、ギドと


……羨ましい、のね わかるわ
その感情が凶暴性を伴うことはままあることだけど
オブリビオンだから、こうなってしまったのかしら
それとも、こうだったからオブリビオンに?

さて、珍しいものを飛ばすのね、あなた
わたしは援護として、動画撮影ドローンを発見次第撃墜するわ
用いるのはエレメンタルファンタジア、雷のかまいたち!

ギド、わたしたちはサポー、

えっ


(ち、近くない?えっ…近くない?あっやだ、ギド、近い、かっこいい、えっ、そういう…そういう女の子が好きなの?ああいう服装がいいの?ちょっとツンデレみたいな?待って待って…えっ近くない?ちゅう…ちゅうでき…えっ)

だっ、駄目~~!!
ちゅうは駄目です!禁止です!



●世界はすべてふたりの為にあるのかもしれない
 全てを羨み全てを壊そうとしたその代償に違いなかったが、嫉妬を冠する彼女は未だそれを認めない。
 力尽きて森の只中に崩れ落ちた姿勢から、片手を伸ばし虚空を掻いてドローンを呼ぶ。まだその向こうには、この草臥れた身体に力をくれる支持者たちがいる筈だ。声援を、この身に糧を――そう願えども、ドローンは呼ばれる端から撃墜されてゆく。
 雷の鎌鼬を鮮やかに扱って魅せながら、シゥレカエレカ・スプートニクはその身を揺らしてちらちら燦き瞬いた。
「珍しいものを飛ばすのね、あなた。でも駄目よ、ずるはいけないわ」
 猟兵の姿に、そして誰かを伴いふたりで歩くその光景に、まだ折れぬ眸に激情を灯してステラがその眼差しを睨め付け返す。
「別に期待など受けてはおらぬよ、」
 ステラの唇が開かれるのを見遣って、差し挟む様にギド・スプートニクが低く囁く。彼女の口から流れ出すであろう自己愛に満ちた批判など、傍らの愛しい女へ聞かせたくはない。
 ほとほと亡霊の思考は理解出来ない――跪く様な姿勢で苛烈に睨むステラの前に、王たる男が凛と立つ。
「ただ貴様のような輩を葬るために、此処に居る」
「……そういう風に為政者ぶった、上から目線の強い言葉なんてだいっキライよ」
 吐き捨てる様なステラの台詞に、ギドは僅かに眉間に皺を刻む。
 そうして彼女へと向けて指先を伸ばす――遠慮のない力で顎先を掴み、無理矢理に此方を向けさせた。引き上げられる様に顔を強引に上向けさせられ、ステラもまた顔を顰める。
 ふたりの様子を見遣りながら、シゥレカエレカは心配げに眉尻を下げて指先を握り込んだ。
 ――羨望。強烈なまでの、彼女のそれ。
「オブリビオンだから、こうなってしまったのかしら。……それとも、こうだったからオブリビオンに?」
「さあな。幾ら私たちが議論を重ねた所で、この娘が素直に口を割る筈もない」
 妻にいらえて、ギドの双眸が金を帯びる。
 全てをその手に掌握する事すら叶う、邪眼のちからだ。正しく発動を得たその力はステラの膝をもう一度砕き、躾ける様に立ち上がる事すら許さない――けれど、そのまま大人しくしているつもりも彼女には、無い。
「あたしにだって、それくらい出来るわ……!」
 金の瞳を織り上げる、その根底のユーベルコードを掠め取る。ギドのそれと同じく金色を帯びるステラの眸を見遣って、面白そうにギドの喉奥が笑う色に揺れた。
 その細い顎を掴む指先に力を籠める。詰められた距離のもと、囁く様に声色は交わされる。
「どうした、息が上がっているぞ? 使いこなして見せろ、亡霊」
 喰い合う様に睨む視線が絡み付く。一歩間違えば命の遣り取りにすら発展しかねない、そんな危うい綱渡り――その筈だ。少なくとも本人たちの間では。
 でもその光景を傍らでじっと見つめる、シゥレカエレカの目線だとちょっと違った。
「……えっ、」
 怪訝そうな声が漏れる。
「(ち……近くない? えっ、近くない?)」
 何にせよ距離が近いのである。夫のユーベルコードを思えば距離が近付いてしまうのもやむ無しかも知れないが、それにしたって近いものは近い。すごく気になる。
「(あっやだ、ギド、近い、かっこいい、えっ、そういう……そういう女の子が好きなの? ちょっとツンデレみたいな?)」
 シゥレカエレカは大混乱していた。何せ愛しい夫とぽっと出の少女が矢鱈に近いし夫はなんだかかっこいい。好き。あっ違うのそうじゃないの。いやそうなんだけど。
「(待って待って、えっ近くない? ちゅう……ちゅうでき……、えっ)」
 ――ちゅうはわたしだけのものなのに!
「だっ、駄目~~!!」
「他人に嫉妬させてやるくらいの気概は持てぬの――、……は?」
 半ば悲鳴の様なシゥレカエレカの声に、いつの間にか物凄い至近距離でそんな風にステラに囁いていたギドが何事だと顔を上げる。
 見れば妻が身振り手振りではたはた慌てていた。赤くなったり青くなったり忙しない。
「ちゅうは駄目です! 禁止です!」
「一体何を言って――うおっ!?」
 指導指導とでも言いたげに指先が振られる度に、闇雲にそこから雷の鎌鼬が飛び出してくる。最早無差別に行われる攻撃に、流石にギドも姿勢を崩して狼狽した。
 拘束が緩んだ隙にステラが這い出る様にして逃げ出すが、伴侶を宥めるのに必死のギドにはそれに気付けど食い止める腕がもう一本足りない。
 この二本の腕は、こんな時に伴侶以外へ向けられる様には出来て居ないのだ。
 奥へ奥へと逃げながら、べー、と舌を出したステラが吐き捨てる。
「やってられないわよ、あんな犬も食わなさそうなの!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

……それがお前の言い分か?
自分勝手に妬み嫉み、他者の邪魔をし、あまつさえ命を奪いかねない程の怪我を負わせる。
いい加減にしろよ、お前。

リリヤが居るにも関わらず、怒りを露わにする。
感情的になっている自覚はある。
だが、こういう輩は許す訳にはいかない。
かつて同じような人間を見逃した事により破滅を呼び込んだ。
もう二度と、同じ轍は踏まない。

弾けるように剣を抜き放ち、ダメージも気にせず戦う。
きっと、俺は怖い顔をしているだろうな。

いつもより随分と苦しい。
俺はこんなにも弱かったか?
そんなはずは無い。
では、何がいけないのか。

ふと、歌が聞こえた。
聞き慣れた歌だ。

――そうか、そうだったな。


リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

ほかのものを壊しても、じぶんが満たされるものではないでしょうに。
……そうはおもわないから、ここまで来てしまったのでしょうか。

怒りを含む声に、びくりと首を竦めて。
水のちからよりもずっとめずらしい。

ユーゴさまのことを、ぜんぶしっているわけではありません、けれど。
こころにいたみがあることは、しっているのです。
……どうして止められましょうか。
手の、こころの、とどかない距離がもどかしい。
わたくしがほんとうにおとなだったら、となりにならぶこともできたのに。

こちらをふりかえる必要なんて、ないのです。
でも、ユーゴさまが気付いたときに、癒やせるよう。
うたは紡ぎつづけましょう。



●あなたのためのうた
 逃げて生き延びる為に森の中を走るステラの前へと、立ち塞がる影がある。
「……またなの? 猟兵ばかりね。ああ、ほんとヤになっちゃう!」
「自分勝手な物言いは、ここまで痛め付けられても変わらない様だな」
 すり抜ける事は叶わないと判断して足を止めて嘆息するステラに、語尾に静かな怒気を孕ませユーゴ・アッシュフィールドは唸る様にそう告げた。
 彼の後ろに控えめに佇むリリヤ・ベルもまた、自らの胸の上で両の手をぎゅうと握って悲しげに顔を歪めて囁く。
「ほかのものを壊しても、じぶんが満たされるものではないでしょうに――」
 リリヤの言葉に、ステラは軽薄に笑った。
「でもあたし以外の誰かが満たされる事もなくなるわ!」
「――いい加減にしろよ、お前」
 地を這うようなユーゴの低く冷たいその声色は、間違いようもない怒りが押し上げる心底からの言葉だ。
 耳にしたリリヤが、びくりと肩を竦めてほんの少し小さくなる。彼が扱って見せた水のちからよりも、もっとずっと珍しい。
 背後の少女が己をじっと見つめる事にも気付いていながら、ユーゴは自らを律し怒りを抑える事をしなかった。否、出来なかったのだ。
 けれどこういう輩を赦す事は出来ない――もう二度と、破滅を呼び込む様な轍を踏む訳には行かない。
 決意が剣を抜き放つ速度に手を添える。弾ける様に抜き放つそれを手に番え、風すらも絶つ様な苛烈な斬撃で以てステラを襲撃した。
「っ、ユーゴさま……!」
 可憐な声が抗えぬ不安の色を乗せてユーゴを呼ぶ。
 或いは引き止めるかの様なそれを振り切って、ユーゴの剣がステラへと振り下ろされる――刹那、ぎんと響く金属の不協和音。構えた槍で防がれた衝撃が、一拍遅れて全身を苛む。
「(――きっと、俺は怖い顔をしているだろうな)」
 心中でそう紡げど、それを表に出す事はない。
 ないが、今日はどうした事か、いつもより随分と苦しい。俺はこんなにも弱かったろうか。自問は何も生み出さない。ただ踏み出す事も出来ない沼地が、自らの居場所を狭めるだけだ。
 ――否、そんな筈はない。ならば何がいけないのか。それでも止まぬ迷い路の如き昏い胸に、ふと一条の歌が差す。
 聞き慣れた歌だった。
「……どうして止められましょうか」
 ふと息継ぎの合間、リリヤの震える唇がそう紡ぐ。
 止められないのならば、その背に寄り添えるものでありたい。それでも手の、こころの、その届かない距離がもどかしい――わたくしがほんとうにおとなだったら、となりにならぶこともできたのに。
 埋められないものを埋めたがる様に、リリヤのいとけない声が尚もと歌を織り上げるのだ。それはユーゴの疵にも確かに届く。彼の心へと、歌声が入り込む。
 こころに痛みを持つあの人が、痛い思いをしません様に。
「――そうか、そうだったな」
 得心した様なユーゴの声は、果たしてリリヤに届いただろうか。
 否、届かずとも構わないのだ。背に寄り添い押し続けるその歌は、確かに途切れず此方へ届いているのだから。
 ひらりとユーゴがいちど引き、剣を改めて構え直す。
 迷いを断ち切る様に大きく振られた一撃が、風圧と共にステラの体躯を大樹の幹に叩き付けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

伍島・是清
誘名f02768

俺は然程きらきらもしてねェけど。
真っ直ぐで、綺麗なものを羨ましいと思う気持ちは、解らンでもない。
(誘名の言葉にぱちんと瞬き、首筋を掻いて)
御前は、真っ直ぐだね。
──じゃあ、誘名。 往こうか、親玉を狩りに。

ステラ。
御前がもっと優しい過去なら、御前も一緒に踊れたのかもしンないね
ステラの掌を取り、踊るように一転して
でも、嫉妬から生まれた御前は、嫉妬ゆえに壊してしまうから
御前を壊すよ、壊される前に

プログラムジェノサイド『絲独楽』
機械のからくり人形が足を掴んで止めてくれる
誘名と息を合わせて
独楽のように旋回しながら嫉妬の娘を糸で刻む


誘名・櫻宵
🌸 是清(f00473)と
アドリブ等歓迎

あたしが美しいからって嫉妬なんてやめて頂戴!
あら是清……十分キラキラしてるわよ?
あたし、綺麗なもの大好き!
ステラだっけ?あなたは醜いけど…安心して綺麗に首を狩ってあげるから!
ええ、いきましょう
狩りましょう、奪いましょう!
あなたのダンスを魅せて頂戴な

刀に纏わせる衝撃波
踊るようになぎ払って傷を抉り
抉り切り裂き突き刺して
幾度も走らせる斬撃
少々力任せは許してね
踊るように見切り躱して
綺麗な赤い花を咲かせましょ
是清、ダンスがお上手ね!
妬いてしまうわ?
壊される前に壊すだなんて情熱的!息ぴったりじゃない!
笑い踏み込んで、絶華

その嫉妬ごと
斬り落としてあげる
あたし強欲なの



●かれら春の魁たらん
「あたしが美しいからって、嫉妬なんてやめて頂戴!」
 大樹の根本へと崩れ落ちたステラの前に、人影がふたつ立ち並ぶ。
 そのうちのひとりが――誘名・櫻宵がその手に携える刀の鞘の先で以て、ステラの顎先を持ち上げながらそうやって笑った。
「ステラだっけ? あなたは醜いけど……安心して、綺麗に首を狩ってあげるから!」
 屈託なく笑む儘に向けられる言葉に、その傍らに立つ伍島・是清は櫻宵を見つめてぱちりと瞬く。そうして緩慢な所作で首筋を掻いた。
「御前は、真っ直ぐだね。──じゃあ、誘名。 往こうか、」
 指し示す様なその声に、ええ、と明るい声がひとついらえる。
「狩りましょう、奪いましょう!」
 あなたのダンスを魅せて頂戴な、と片眼を瞑る櫻宵の所作を、じろりと睨め付ける者が在る。意識を取り戻したステラだ――とは言えその身体はもう襤褸切れも同然、既に勝敗は決している様なものだ。
「それでも、大人しくやられてあげるもんですか!」
 言うが早いか、姿勢を低くし男ふたりの視界を擦り抜けようとする――が、勿論許されるものではない。当然だ。彼女は既に裁きを待つ身と成り果てた。
「ステラ」
 柔くその名を呼ぶのは是清だ。
 逃げようとする彼女の掌を掬い上げ、強引に立たせて引き寄せる。そのまま慣性に任せてくるりと身を転じれば、成る程襤褸切れの様な少女相手でもダンスの風体がそこに成り立つ。
 幾ら彼の顔立ちが整って居ようと、柔い声音で呼ばれようと、その眼差しには笑みが無い。底冷えのする様な感覚を覚えてステラは咄嗟に手を引こうとするが、無論それは叶わない。
「御前がもっと優しい過去なら、御前も一緒に踊れたのかもしンないね」
「な、に……」
 掛けられた声を、言葉を噛み砕いてそれがどの様な意図か判別する間も与えられない――ただ是清は底の知れない眸のいろで、じっとステラを見つめていた。
 疲弊困憊の彼女は気付かない――独楽が既に回り始めていると云う事に。その足許に纏わり付く絡繰人形が、彼女を捉えておく為のものだと云う事に。
 揺れるステラの眸を覗き込んで、その頬を是清の指背が撫ぜる。
「でも、嫉妬から生まれた御前は、嫉妬ゆえに壊してしまうから――御前を壊すよ、壊される前に」
「は、……あ、ぁあ、いや、いやぁ……ッ!」
 逃げる事など既に不可能だ。周囲の状況を吟味する暇もなく、櫻宵の声がそこに被さる。
「壊される前に壊すだなんて情熱的! 息ぴったりじゃない!」
 鈴鳴る様な音と共に、血色のそれより尚紅い刀が抜き放たれる。その腹が不気味に周囲の炎を、僅かな光を撚り集めて放つのを、ひ、と引き攣った声でステラが見下ろした。
「ごめんなさい、ごめんなさい、謝るから、ごめんなさい……っ!」
 半ば恐慌状態でそう口走る彼女に考え直す事もなく、軽やかに刀を番えて櫻宵は突き放す。
「あらぁ、駄目よ。ゴメンナサイするには、ちょーっと遅かったわね?」
 櫻宵の刀が、是清の糸が、調子を合わせて繰られゆく。
 独楽の様にくるりくるりと回るその様は、翻る様に咲く赤い鮮血を除けばダンスと呼ぶに相応しかろう。
 嫉妬を冠する娘だったものを合中に挟んで、彼らふたりは苛烈だった。櫻宵の波動纏う刀は容赦なく疵を創っては刳り、刺しては捻る。是清の糸は熱烈に肉を繋ぎ止めては離さない――結局肉の方が根負けして、柘榴の如くに弾けて仕舞うのだけれど。
 春を喚びましょう、と血払いを為して彼は云う。
「その嫉妬ごと、斬り落としてあげる」
 芽吹きを邪魔する花をひとつ摘む様に、鮮やかな斬撃がそこに咲いた。

 ――見回せば、燃え疲れたか炎も随分と疲弊した様に小さくなっている。
 後は手の空いている街の者たちが、舞踏会の開幕までの時間を使って消火に当たるだろう。
 匂やかな薫風が、春の魁の様にそこに満ちてゆく――樹々の燃ゆる焦げた馨も何もかも、押し包み隠してしまう様に。
 さあ、今宵は仮面舞踏会。
 ひととせにいちどの、春を喚び招く為の特別な夜。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『ようこそ、ちいさな舞踏会へ』

POW   :    体力に任せて踊ったり、食事をいっぱい楽しむ

SPD   :    楽器の演奏や華麗な舞踏により、会場を盛り上げる

WIZ   :    軽妙なトークや武勇伝により、人々を楽しませる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●夜へと臨む
 とっぷり夜に沈む深夜になっても、その日だけは街は眠らない。
 綺羅びやかに着飾った仮面の紳士淑女たちが、手に手を取って街の最奥、領主の邸へと押し寄せる。ほら押さないで、ちいさい子に気をつけて、おっとそこの御老体を労って、さあ春を呼ぼう、さあさあ、さあ――。
 古くともこの日の為に磨き上げられた金の調度品、鏡の様に艷やかな大理石の床や柱、葡萄色の天鵞絨が掛けられた大階段には楽団が陣取り、華やかな音楽を奏でている。
 広間の中央にはダンスフロアだ。示し合わせた様にこの場だけは広く空けられて、時折周囲の人垣から手に手を取った若いふたりが、或いは仲睦まじい老夫婦が滑り出て、はにかみながら拙くもダンスを楽しんでいる。
 壁近くには堪らない薫りを放つテーブルが所狭しと並んでいる――その上にはぎっしり並んだ大皿の数々。例えば肥った鳥をまるまる一匹使って、その腹に香草や練り物を詰めたオーブン料理。或いはもちもちとした麺にまろやかなソースを絡め、海老や大ぶりの貝をたっぷりあしらったパスタ。はたまた越冬の為に乾燥させて旨味をぎゅっと詰めた野菜をメインに、クールブイヨンからしっかり取ったゼリーがパンチを添える季節のテリーヌ。
 デザートだけは別テーブルに集められ、これもまたどれも垂涎の品ばかり。早穫れ苺のピューレと生クリームをふんわり絡めたムースや、薫り高い紅茶の葉を使った甘さ控えめのシフォンケーキ――ずっしりした素朴なガトーショコラは、領主夫人のお手製だと云う。
 テーブルの隙間を埋める様にして、古いラベルの酒瓶も散見されるだろう。とっておきなんだと提供したらしき誰かが鼻の下を擦る。蕩ける様な舌触りのワインも、じっくり漬け込んだふんわりした味わいの果実酒も、望めばなんだってグラスに注がれ手渡される。
 それらは全て、この夜にここへ集う者たち皆へ提供されるものだ。何に憚る事もなく、大いに食べて飲んで歌って踊れ――領主はおおきく腕を広げて皆を歓迎する。
 但し約束事がひとつだけ。必ず仮面を着けること――今宵は何もかもを忘れて賑やかに春を喚び招く夜だ。身分や悪意、そんな無粋なものはすべて押し隠して仮面の下に仕舞ってしまえ!
 もしも猟兵たちがこの舞踏会に相応しい仮面や衣裳を持っていないのだとしても、案ずる事はない。街中にはこの日の為の貸衣装屋が幾つか在って、気に入ったものを借り受ける事が叶うだろう。
 華やかな衣裳であれば、男が女の装いをしたとて、女が男の装いをしたとて、譬えば遠い異国の衣裳を、或いは別世界のそれを纏っていたって誰も咎めはしないだろう。なんたって、そういう夜なのだから。

 ――さあ。
 春をはじめよう。
都槻・綾
f11024/かよさん

黒燕尾の装いも
翼を模した目元の仮面も
一夜の魔法が織り成す架空の紳士

童話の中に入り込んだ心地で傾ける葡萄酒は
香り深く且つ蠱惑的
夢に溺れるのも悪くないと
甘やかに酔わせてくれる

フロアの華やぎが増したように思うのは
春の化身が降り立ったからか

――喜んで、

手を取り浮かべた微笑は
地に遊ぶ鳥を天に返すまいとする禁忌に艶めく色
私の指は籠の檻

花舞う三拍子は軽やかに
変調は優雅に

囁き誘う春へ笑みを深め
腰添える手に力を入れて抱き寄せたなら
耳元でそっと吐息を零す

――後悔しますよ?

交わる視線の後

擽りの刑です、と
にこり笑って悪戯返し
脇腹をひと撫で

彼女の飾らぬ素の笑顔に
二人重ねる笑い声に
春の暖かさを覚える


境・花世
綾/f01786と

右目の花は仮面に秘め、
結上げた項には偽の宝石
薄紅の夜会服を纏ったなら
今宵は架空の淑女になろう

仮面越しの青磁の眸に
嫋やかに手を伸ばすのは、
わたしじゃない私、だから

この手を取ってくれる?

柄にもない蠱惑の囁きさえ
平気で言えたりするし
ダンスの足取りだって優雅に冴える

演目は春の夜のワルツ
今このひとときだけは
きみの花、きみの春になる
どうか咲かせてみせて、なんて
逸らさずに見つめ返し――

! 綾、だめ、そこは弱点っ、

つい素に戻って擽りに悶え
堪えきれずに笑えば、ひらり
仮面から毀れる花びら

きみの胸がこんなにあたたかいから
きみが、そんな風に笑うから
思わず咲いてしまうよ
確かに訪れた、春のあかしに



●春の名を導けば
 傾ける葡萄酒は、まさしく美酒と呼ばうに相応しい味わいを舌の上へと齎すだろう。
 夜空から縫取ったかの様な黒燕尾に、翼を模した華やかな仮面で目許を隠す都槻・綾は、宛らこの夜限りの魔法が作り出した架空の紳士だ――煽る酒の蕩ける様な心地が、尚更それを夢見心地に包んでいる。
 見果てぬ夢と豪奢な夜のあわいに、ひととき溺れて仕舞うのも悪くはない――仄かに酔いの潜む頭はそんな風に綾を誘う。けれど嗚呼、それはこの場にひとりで在ればと云う話。
「――ねえ、」
 春が。そこに咲き初むのだ。
 いつもの麗しい花はこの日ばかりは仮面に秘め、艶やかに髪を結い上げた項にはイミテイションの宝石が暉る。薄紅の夜会服は身体に添うて誰も彼をも惑わすけれど、膝下から咲く様に広がるレースが、フリルが、どうしようもなく彼女を――境・花世を可憐に仕立て上げていた。
 唇が紅と共に蠱惑を差して笑む。仮面越しの青磁の眸に嫋やかに手を伸ばすのは私であって、わたしじゃない。
「この手を取ってくれる?」
 ふたりの周囲が華やぐのは、彼女の持つ雰囲気だけでは無い。恐らくあの方々が街を救って下さったのだ、困り者を退治して下さったのだと、猟兵たちへ密やかに向けられる熱っぽい視線や囁きは、確かにそこかしこに在るのだから。
「――喜んで、」
 差し出された花世の指先を、綾のその手が恭しく掬い取る。
 微笑む顔に仮面が在って良かったのやもしれない――地に降り立った美しい鳥を天に返すまいと、そんな風な甘美な禁忌に揺れるいろなど、きっと欲の顕れだ。
 指先にだけそれが滲む。繋ぐ手のそれこそが、彼女を繋ぎ止めておく為の鳥籠だ。
「ねえ、こんなにされちゃ、逃げ出せない」
「逃げ出す気も無いでしょうに、」
 フロアへとエスコートを受ける最中、そんな風に蜜言が囁き交わされる。楽団は春の夜に相応しいワルツを奏でている――少しだけ熱を帯びるものを何もかも、有耶無耶にしてしまう様なふたりだけの。
 漆黒の鳥が色も鮮やかな花を伴い、真ん中へと滑り出る。指先だけは番う儘、燕尾の裾を、或いはドレスの端を優雅に翻してふたりが三拍子のテンポを刻む。
 ゆっくりとした音楽の流れは、視線を絡ませ身を寄せる鼓動も、少しだけ離れるときの余韻も、すべてを内包して帳を下ろす――ふ、と気を惹く様な吐息を零したのは、花世の方だ。
「今このひとときだけは、きみの花だ。きみの、春だよ」
 ――どうか咲かせてみせて。
 既にその身に大輪の春を咲かせておいて、随分と可愛らしいことを云うものだと綾は双眸を眇めた。否、委ねられたのだ。彼女からひととき、その権利を。
 逸らされぬ視線はけれど、彼女がくるりと身を翻す為にふいと途切れる。
 差し出された甘い花を啄まぬ鳥など居はしない。優美なターンを終えて向き合うそのタイミングで、綾は花世の腰をそっと抱き寄せる。
 寄せられた唇は、耳許で吐息と共に淑やかに紡いだ。
「――後悔しますよ?」
 ほんの一瞬、けれど確かに交わり合うのだ。ふたりの視線が。他に何も介さぬ春の意が。
 物言おうと唇を開きかけた花世が、けれど不意に肩を跳ねさせる。反射的に視線を遣る先にある綾の顔が、態とらしくにこりと笑んだ。
 それを言葉にするが早いか、綾の手が花世の脇腹をつと撫で上げる。
「擽りの刑です」
「……! 綾、だめ、そこは弱点っ、――!」
 フロアには、耐え切れず明るい笑い声が拍を打つ。仮面の奥から毀れ落ちる花びらが、確かな春を招き寄せる。
 重なって広がるその笑い声が、確かにいま、暖かかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
🌸 是清(f00473)と
アドリブ等歓迎

真っ赤なナイトドレスにピンヒール
真っ赤なルージュ
結い上げた髪には赤薔薇を
仮面をしてなおこの美しさは隠せやしないわ

あら、ムッシュ
あなたこそ素敵よ?
麗しのムッシュのエスコートなんて光栄よ
ええ!全世界が嫉妬するような美しさをみせてあげましょ
(腕を搦め

華やかな場所は好きよと微笑んで
ああ
この空気に酔ってしまいそう
ムッシュと乾杯を
何か食べるのもいいけれど
あなたと踊りたい

あたしも剣舞は舞えてもダンスはダメなのよね……失礼、ムッシュ
あなたの足に風穴をあけるとこだったわ
可愛らしく淑やかに謝罪
流石紳士は心が広いわね
今日のあたしは、あなたのシンデレラ
絢爛の時を楽しみましょう


伍島・是清
誘名f02768
白シャツに細身の黒スーツ
仮面は善い、好きなように好きなことが言える

準備は出来たか、マドモアゼル
善いね、綺麗だ
じゃあ、その美しさを見せつけに往くとしようか。
(自分の腕を差し出して)
足元には、気をつけて

流石、随分と華やかだな。
ウェルカムドリンクにシャンパンを一口。
何か食べたいもの有る?
それとも、俺と踊ってくれる?
──承知、貴方の仰せのままに。

踊りの心得は無いので適当に
──ッ!
…足踏まれンのも、お約束か
誘名を見返して少し困ったような笑み
まァ許そう、今宵は御前が俺のレディだからね
ああシンデレラ、魔法が切れるまでは俺にお付き合いを。

※右目は隠す(仮面の右目は中が見えない)



●解けない魔法と宵まかせ
「善いね、綺麗だ」
 仮面の下の左眼が細められてごくシンプルに、けれど衒いなく伍島・是清は口にする。
 準備は出来たか、マドモアゼル――細身の黒スーツを身に纏う彼はそう尋ねる。その仕立てを邪魔しない程度に、控えめに色硝子の粒で飾られた仮面の奥を見透かす様にじっと見つめて、誘名・櫻宵は艶やかに唇の両端を持ち上げた。
「あら、ムッシュ。あなたこそ素敵よ?」
 真っ赤な華が、そこに咲く。
 ナイトドレス、ピンヒール、結い上げた髪に挿した薔薇、そのどれもが滴るほどの真紅を誇っていた。
 仮面を着けても尚溢れるその美と自信に、周囲の男女問わず視線がちらちらと彼を射る。好奇のそれではない、唯、羨望が注がれていた。
 ドレスの裾を華麗に捌いてヒールの踵を鳴らす。
「御眼鏡に適ったンなら、エスコートの権利は俺が貰っても?」
「勿論。麗しのムッシュ、あなたならね」
 上げられた語尾には一も二もなく笑んで肯く。迷うことなく返る言葉に是清は、櫻宵を見上げる様に視線を遣りながら片腕を差し出した。プラスされているピンヒール分の差はそれなりに大きい――が、是清のエスコートの所作には、そんな些細な事は問題にすらならない。させないのだ。
 何せ、良い男のする事なので。
「じゃあ、その美しさを見せつけに往くとしようか」
「ええ! 全世界が嫉妬するような美しさをみせてあげましょ」
 腕を搦めてホールへと進み出る様は堂々と、上背のあるふたりが華やかに着飾り連れ添い歩きながらそう振る舞うのは実に壮麗だ。
 ようこそ絢爛の夜へ! ――そんな風に声を掛けたのは、鬣を模した派手な仮面を着けたボーイだ。彼は恭しくふたりにグラスを載せた銀盆を差し出し、腰を折る。
 華奢なグラスのウェルカム・シャンパンを響かせ合って呷れば、酒精の薫香と共に会場の熱も酔いも彼らを取り込みに掛かるだろう。
 もっと美酒を? それとも美食を? いいや、それより為すべき事が在る。
「ねえ、叶えてくれる?」
「きっと望みは同じに違いないが、――勿論だ。聞こう」
 熱に浮かされた様な囁きが酌み交わされる。仮面の下の眼差しが、お互いに焦れったくて歯痒い。
「ムッシュ、あなたと踊りたい」
「──承知、貴方の仰せのままに」
 エスコートは少しだけ強引に、いらえるが早いか傍らの華を開けたフロアへと拐かす。曲調は僅かにテンポを早めた情熱的なものに変わっている――穏やかなアダージョよりも、心掻き立てる様な魅惑の調べ。
 手を引かれる儘にステップは舞踏のそれへと変わりゆく。踏み込んでは離れて、否離れるなど赦さないかの如くに引き寄せて抱き留めて。
 真っ赤な衣裳の裾が揺れる度、フロアの床に反射して艶やかに色が泳ぐ。是清の視線がほんの一瞬そちらに流れた瞬間、カツンと高い音が鋭く響いた。
 真紅のピンヒールが照明をきらりと弾く。
「あなたの足に風穴をあけるとこだったわ」
 剣舞は舞えてもダンスはダメみたい――愛らしく笑んで片眼を瞑り詫びる櫻宵に、是清が少しだけ困った様に笑んで見せた。足を踏まれるのもお約束だ、未遂だけれど。
「まァ許そう、今宵は御前が俺のレディだからね」
 緑の左がつと笑む形に眇められる。お返しとばかりに不慣れを盾に手を引けば、下手ねと笑って櫻宵がステップをずらす。崩れた調和はけれど、すぐにまた重なって解け合うのだ。
 掛けられた魔法はまだ解けない。――今宵はまだ、はじまったばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルフトゥ・カメリア
【セラと】

服装は、完全に他人に任せた
動きやすさを阻害しない、性別に沿った物なら特に拘りもないし、否やもない
こんな煌びやかな場所での服装や立ち振る舞いなんて、スラム育ちの元奴隷が知るはずもないから、壁際に寄って静かに

はっきり言って目的は甘い物にしかなかった、この天使

道中一緒になったセラの言葉を聞き流していたら、ふと消えた姿
すぐ迷子になる餓鬼かよ……なんて呆れながら探しもせず、壁に寄りかかったまま黙々とケーキを口に運ぶ
甘さに、仮面越しの目元が柔らかく細まる
と、視線
気付かないほど愚鈍じゃねぇよ

…………何だよ。

ち、と舌打ちひとつ
見んな、と雑な手付きで彼の口にフォークに乗せたケーキを突っ込むだろう


セラ・ネヴィーリオ
【ルフトゥくんと】

まずは貸し衣装屋へ
手に取るは艶やかな夜天色のフリルシャツ
仮面はお任せで!

館への道中でルフくんとばったり
館内の絢爛さに息を呑みつつ、でもシンフォニアとして音楽が聴こえたらついそちらへ引き寄せられて…なんてふらふらしていたら、彼とはぐれちゃった
壁際にその姿を見留めたら駆け寄るけど、ふと覗いた、珍しく平和に緩んだ彼の口元を人混みに隠れて盗み見て
(なんだ、笑えるじゃん)なんて妙に嬉しく思ったり

あ、覗き見バレた!
仮面越しでも分かる圧に屈して大人しく近寄れば突き出されるクリームの塊
もがーと口で受け止めつつ、外れたクリームを掬い取りながら笑って
「んっふふ、美味しいねえ」なんて、また笑うんだ



●天使たちは夜を征く
 夜天色したドレス仕立てのシャツの裾を揺らして、セラ・ネヴィーリオははたと立ち止まる。
 そうして仮面の下の紅色がきゅうと窄まる――きっとこれがお似合いですよ、と貸衣装屋の女が太鼓判を押した仮面だ。艶やかな赤い宝石の花咲く蔓が緻密に絡み合い、雫の様なビジューの揺れる。
 視線の先には逸れてしまった連れが居た。シンフォニアとしての性が楽団の方へと後ろ髪を引くけれど、それを振り払って彼の、ルフトゥ・カメリアの方へ駆け寄ろうとしてふと瞬く。
 黒の燕尾服をクラシックに着熟す姿だけでもかなり珍しいものを見た気分なのに、その手許にはちいさな皿が収まっていた。上にはフリルの様な生クリームがたっぷり添えられた、ふわっふわのシフォンケーキ――それを丁寧に切り分けて、ルフトゥはぱくりと一口で頬張る。
 仮面に覆われてこそ居るが、確かにセラはそこに見たのだ。
 緩む様に蕩けて笑う、彼の椿色の眸を。
「(――……なんだ、笑えるじゃん)」
 セラの胸中にじわりと滲む喜色は、けれどすぐに咎められる。彼の視線に気付いたルフトゥが、フォークを咥えた儘にじろりと此方を睨め付けていた。
 人垣を泳ぐ様に滑って歩み寄る。すぐ傍でさやかな音を立ててセラの仮面の雫が揺れるのを、睨むのを止めないルフトゥが出迎えた。
「…………何だよ」
「べーつにー?」
 覗き見、バレちゃったしねとセラが笑う。思う事を決して明かしきらないその笑みは、屈託なくルフトゥに向けられていた。
 バツが悪そうに舌打ちして、ルフトゥが手許のケーキと切り分ける。さっきより少し大きい。とどめとばかりに生クリームも掬って乗せて、フォークに刺したそれをセラの唇へと突き付ける。
「見んな。ほら、」
 そのまま口に押し込んだ。
 おとなしくセラが押し込まれてやったのは、間近でよく見るルフトゥの衣裳がただの黒一色ではなく、夥しい黒のビーズを襟口や袖に縫い込んで光を弾く柄を為す、手の込んだ意匠のひかる逸品だと気付いた所為だ。
 べつに普段とちょっと違う姿に見惚れていた訳じゃない。
「口止め料あっま。あ、でも、……んっふふ、美味しいねえ」
 口端に残ったクリームを指先で拭って、舌の上に広がる優しい甘さに機嫌良く笑う。
 彼の唇が幸せそうに咀嚼し笑んでは緩むのを、ふと瞬きを和らげて見遣ってから、ルフトゥもケーキをもう一口はこぶ。
「餓鬼の口を塞ぐにゃ、甘いモンって相場は決まってっからな」
 揶揄するような口調が滑る様に零れ落ちるのは、この場の浮かれた空気がそうさせるのかもしれない。
 にやと笑う視線を向けられ、セラが片眉を跳ね上げる。
「ガキって何それ。僕のこと?」
 抗議をする様に詰め寄るものの、語調はそれに似つかわしくなく軽くてあまい。ざわめく舞踏会のホールの片隅、遣り取りされる言葉は猫がじゃれ合う様な意味合いしか無いのだから。
 すぐ近くにあるセラの仮面に、ルフトゥの指先が伸びる。赤い宝石花を擽ってビジューを揺らし、指背でつと縁をなぞってルフトゥは口端を持ち上げた。
「浮かれてすぐ迷子になるやつを餓鬼って云うンだよ」
 迷子じゃないし、と間髪入れずに抗議が上がる――続く夜の内側へ融ける様に、ふたりの声が弾けては重なってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
貸衣装屋さんに借りたのは
春めくミントグリーンのエンパイアドレス
薄絹が幾重にも重なるスカートは軽やかに揺れ
結い上げた髪と
ドレスの胸元には勿忘草の飾り

パフスリーブが子供っぽく見える、と
お店の人に散々渋られましたが

あんな前も後ろもざっくり開いたの
着られるわけないじゃないですか…

トトリさんやフィオリーナさん
知り合いさんらしき方を見掛けたら
さり気なく会釈してみたり
豪華なお食事も程々に楽しむけれど
華やかな場には何となく気後れして
それに
慣れないヒールに足が痛くて!
こっそりテラスへ避難し、裸足になって
明かりも音楽も
窓から漏れるだけで充分
月光の下、自由気儘に身を泳がせます

※アドリブ・ダンスの相手等絡み歓迎です


閂・綮
◾️アドリブ歓迎
(もし踊って下さる方がいるのなら年齢・性別問いません。どなたとでも喜んで。)

◾️服装
マスク:目元用。鉄製で光沢があり、竜胆の花が装飾されている。片側にだけベールがかかり、錆びた頬を覆う。
衣装:白を基調とした洋装の貴族風衣装。袖口・襟・背中に金の細やかな刺繍がされている。
他:金のチャーム付きチョーカー(BU参照)/ラッフルカフス/藍色の手袋/背面、腰に翼モチーフのバックリボン

◾️心情
華やかな催しは良いものだな。
洋装というものも悪くはない。

こういった場での「舞踏」は身に覚えが無い。…踊れんのだ。誘いは嬉しいが、お前の足を引っ張るだろう。

それでも構わん、というのなら。
一一手を。



●重なる縁にゆびさき委ねて
 ――貴女、本当にそれで構いませんの?
 貸衣装屋のふくよかな女主人は、二度三度と飽くことなく彼女に尋ねた筈だ。そうしてこう続ける――やはり女性はデコルテを着用してこそでしてよ!
「でもあんな前も後ろもざっくり開いたの、着られるわけないじゃないですか……」
 雨糸・咲はそんな遣り取りを思い出しては密やかに息を吐く。それでも眼前を見知った顔が通り過ぎれば、彼や彼女らに微笑みを向けて手を振った。皆、思い思いに愉しんでいる様子だ。
 そうしてしなやかな指先が、己の纏うドレスを摘み上げる――春を染め込んだ様なミントグリーンのドレスはエンパイアラインが美しいし、散々子供の様だと言われたパフスリーブだって、控えめな甘さで気に入っている。
 結い上げた髪に少し触れる。そこと胸元には、揃いの勿忘草が揺れていた。
 ドレスのデザインでこそ意見の相違は在ったけれど、それでも自分の好きなもので着飾ってきた――けれど、と咲は仮面の奥の胡桃色を伏せる。
「やっぱり少し、背伸びをしすぎたでしょうか」
 華やかな会場に何と無し気後れして、大窓から続くテラスへと滑り出る。
 先客の姿に気付いたのは彼女が先か、それとも佇んでいた先客――閂・綮のが先だったろうか。良い夜ですねとお約束の挨拶を交わして、仮面の下の視線が絡む。
「慣れない場でね」
 片頬を仮面から下りるヴェールで覆う綮は、白い衣裳の裾を揺らして咲に向き直る。袖口や襟のそこかしこに凝らされた金色の刺繍に視線を奪われながらも、咲は彼を見上げて瞬いた。
「まあ、そうなんですか? すごく場に馴染んでいらっしゃる様に、お見受けしたのですけれど」
「いいや、こういった場は初めてだ。――けれど、華やかな催しは良いものだな」
 洋装と云うのも悪くはない、とごく僅かに笑む様に口端が上がるのを見て、ええ、と咲もつられて笑う。
 背面と腰に結わえられたバックリボンは、鳥を模したものの様だ――犀利に降る月光を金のチョーカーで弾きながら、竜胆の花咲く仮面越しに綮が視線を遣る。
「本来ならこういった場で、一曲誘うのが興なのだろう。が、『舞踏』は身に覚えが無い。……踊れんのだ」
 零す様なその言葉に、咲はぱちりといちど瞬く。
 それから咲く様に、ふわりとはにかんで見せた。
「――あら。じゃあ、丁度良いかもしれませんね」
 少しお行儀が悪いので、あまり御覧にならないで下さいね、と囁いた咲が、少しだけ身を屈めて身動ぎする。そろりと頭を擡げた彼女の背が少しちいさくなっていて、綮は僅かに首を傾げた。
 はにかむ儘に咲がドレスの裾を持ち上げる。裸足だった。
「慣れないヒールに足が痛くて!」
 指先を離せばするりとドレスが滑り落ちる。夜風を孕んでふわりと膨れるその姿に、綮は何と無し双眸を眇めた。
 何せ綺羅びやかだったのだ。
「相手の女性がヒールを履いていないのなら、巧く踊れなくても仕方がないでしょう?」
「……お前の足を引っ張るだろう。それでも?」
 勿論と肯く彼女に、綮の手が恭しく差し伸べられる――見事な染めを誇る藍色の手袋が、白魚の指先を捕まえて導く。
 それは正しいエスコートのかたち。
「――ならば、手を」
 バック・ミュージックは流れ出る微かな音楽で、シャンデリアの代わりに冴え渡る月光が照らし出すのだろう。
 拙くも愉しいたったひと夜を、ふたりのステップが踏み締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオリーナ・フォルトナータ
ターコイズブルーの地に繊細な刺繍が施されたロングドレスを纏い
仮面は片側に羽飾りがついたアイマスクを

春を呼ぶ、絢爛のお祭り
なるほど、これは確かに彼女が嫉妬してしまうのもわかります
だってこんなにも眩くて、楽しげな人々の声に満ちている

特別待ち合わせて居る方はいらっしゃらないので
もしお相手をしてくださる方がおられるならば
どなたでも喜んでお受けしましょう
トトリ様(f13948)やウトラ様(f14228)が
いらっしゃるようでしたらお誘いできればと
…麗しいお姿の花虎様は引く手数多かしら?
久しいダンスの感覚も先の戦いでしっかりと思い出しましたので
もしダンスが苦手でも…エスコートはわたくしにお任せくださいね


トトリ・トートリド
仮面の下の、明るい気配、弾む笑い声
守れて、よかった

…だけど、忘れてた
舞踏会…ト、トトリ、どうすれば
貸衣装屋さんに見立て頼んだ
灰色のじゅすと、こーる?…きゅろっと
じれ?は深緑
慣れない服、緊張、する…
翡翠色の羽飾りの仮面は自分で選んだ

きっと戦いより勇気奮って
手を預けてくれたら、知らない誰かとも踊って…みる
フィオリーナ(f11550)や、咲(f01982)や
知り合いに気づけたらほっとして
初めてだけど、よかったら、踊ってほしい
…小さな足、踏まないように、気をつけなきゃ、だ

花虎の男装、かっこいい
トトリ、女のステップ、覚えた方がいいか?
へんてこな誘いに笑ってくれたら
ステップはどっちでも
すてきな夜に、一曲を



●かれらが守りし春の魁
 顔見知りの者たちも、手を振り振られる事が無ければ気付かなかったやもしれない。
 だってここは仮面舞踏会で、今宵限りは身分も本意も何もかもを、その下に隠し籠めてしまわねばならないのだから。
「中々にお似合いですよ、トトリ様」
 贅沢に刺繍が施されたターコイズブルーの裾を揺らし、羽飾りの仮面越しにフィオリーナ・フォルトナータは傍らの彼を見つめて片眼を瞑る。
「慣れない服、緊張、する……」
 言葉通りに不慣れの滲む声色ではあれど、フィオリーナが褒めた様に、トトリ・トートリドの格好だって勿論、仮面舞踏会に相応しい。灰色のジュストコールにキュロットと、そこに合わさる深緑のジレが仕立てを引き締める。立派な紳士の出で立ちだ。
「初めてだけど、よかったら、踊ってほしい」
 翡翠色の羽飾りが揺れる仮面の位置をちょっと直しながら、それでもトトリは勇気を振り絞る。
 片手を差し出しながらの彼の申し出に、ちいさく笑ってフィオリーナはその掌に指先を預ける。ドレスを軽く摘んでカーテシーを行えば、それだけで華やかな舞踏会の雰囲気がそよぐのだ。
「光栄だわ。ええ、勿論――あら、」
 ふたりの視界の端から、そんな嫋やかな光景に吊られたかの様に虎色のあたまが覗く。
 花虎、とトトリが呼べば、燕尾の裾を揺らしながらふたりの前へと進み出た。
「こんばんは、ふたりとも。愉しんでいるかな」
「丁度いま、可愛らしいお誘いを頂いた所なのです」
 花虎の問いかけに、ふふと笑みを零してフィオリーナがエスコートを受ける手を示してみせる。いいないいな、と眼前のふたりの出で立ちを順繰りに眺める花虎の視線にいらえる様にして、少しだけ誇らしげにトトリが胸を張った。
 そうしてふと、そのつぶらな琥珀色がじっと花虎を見つめて呟く。
「トトリ、女のステップ、覚えた方がいいか?」
「覚えてくれると云うなら是非。おれにエスコートをさせてくれ」
 トトリは大変だなと花虎が笑う。フィオリーナには紳士の顔でエスコートをして、花虎には淑女の風体でステップを譲ってくれると云うのだから!
 遣り取りにつられた様に、フィオリーナもまた花咲く様に笑っていた。猟兵たちが守ったこの場はそうやって誰かの笑顔を呼び、それらが暖かな春を招き、絢爛の夜は更けてゆく。
 そういう祭りなのだ。
「久しいダンスの感覚も、先の戦いでしっかりと思い出しましたから」
 苦手なら、エスコートはお任せ下さいねと彼女は括る。
 その自信が縁取るレディ然とした態度を見遣って、トトリと花虎はひそひそと囁きを交わす。
「百戦錬磨の気配がするな。頑張れよトトリ」
「足を踏まない様に、気を付けなきゃ、だ……!」
 ひとまず参りましょうか、と手を重ねるふたりの腕が軽く持ち上がる。人垣は彼らに当然の様にフロアへの道を譲るだろう――見知らぬ顔の冒険者たちがこの街を、舞踏会を救ってくれたのだと、その話は夜の内側を密やかに広まっている。
 送り出す様に一歩下がる花虎が、フィオリーナに向けても囁いた――後でおれとも踊ってくれるか。
 喜んでと微笑んでいらえ、トトリとフィオリーナ、ふたりのリズムが少しずつ重なり合って旋律を踏む。
「参りましょうか、トトリ様。絢爛の夜の、その中へ」
「ああ。――すてきな夜に、一曲を」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウトラ・ブルーメトレネ
貸衣装屋で一目惚れした淡いピンク色のテールカットシフォンドレス
後ろの裾が長くてひらひらするのが、嬉しくて
ふんわり姫袖で口元を隠してうふふ
同系色の蝶々っぽい仮面を選び、胸はドキドキでいっぱい

だけど、ぶとうかいは初めて
おどれるのかな?

最初は壁の花
昔読んだ絵本そのままのような世界にうっとりほわわん
花虎お姉さんをみつけたら、思い切って一歩を踏み出す

わたしと、おどっていただけますか?

絵本の紳士がそうしていたように、誘う時は目一杯礼儀正しく
踊ってもらえたら、うれしくてくるくる
靴に慣れない足元の不安も忘れる
とってもたのしい!

最後はきちんとお礼
今日はたくさんのひとと踊れたらいいね
わたしもいっぱい踊りたい!



●花咲く竜の君
 その足取りが機嫌良く大理石の床を弾む度、美しい魚の尾鰭がそうであるかの如く、ピンクのシフォンがたなびいて揺れる。それが何とも言えず嬉しくて、フリルがたっぷり隠れる姫袖で口許を隠し、うふふと密やかに笑った。
 慣れない靴は少しだけ窮屈だけれど、それすらも今宵は彼女が――ウトラ・ブルーメトレネがおひめさまになる為の魔法のひとつだ。昔々に読んだ絵本でも、お姫様と王子様はこんな場所で踊っていた。
 ――おどれるのかな。
 蝶々の羽ばたく仮面越しの眼差しが、綺羅びやかな舞踏会を見回しながらふと考える。
 こんな世界は初めてだった。歩みはいちど、壁際で立ち止まる。視界いっぱいに見晴かす大広間はそうやって見つめているだけでも楽しかったけれど、――でも。
 視線の先に見えた人影目掛けて、勇気の滲む一歩が在る。
「わたしと、おどっていただけますか?」
 掛かる声に、花虎は唇に薄く笑みを滲ませ勿論だと肯いた。
「愛らしい春のお姫様の誘いだ。おれで良ければ、エスコートをさせてくれ」
 さあ、と重ねた手をお互いに引き合いながらフロアへと滑り出る。
 楽団の紡ぐ華やかな重奏に絡まり、見様見真似のクイック・ステップをふたりで踊る――勿論慣れている訳ではないから足だって踏むし、ここぞと云う箇所でお互いにお互いを引き寄せようとするから、軽くぶつかったりもするだろう。
 それでもふたりでくるくる回りながら描く軌跡は煌めかしくて、何もかもが新鮮で初めてで。
「ねえ、わたし、とってもたのしい!」
 引き寄せる合間に聞こえた弾む声に、ウトラの身体をくるりと回しながら花虎も笑む。
「勿論。嗚呼、愉しいな」
 ねえ、そうだな、だから――ありがとう!
 誰に乞われるでもなく重ねる感謝の声がふたり分、賑やかなホールに花ひらく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェルティス・レグナード
POW

狼の仮面となれない正装を怒られない程度に着崩して参加します
並べられた料理と飲み物(お酒)をある程度確保したらばテラスに出ます
華やかな踊りや音楽を肴に月を眺めて食事を楽しみます

「舞踏会ってのは初めて参加するが、なかなか楽しいもんだな。料理も旨し酒もうまい」

「曲はリズムがいいし、フロアは華やか、そして天上には満点の星にまん丸お月様。これほどめでたいことはねぇ」

「踊ったなんてねぇからあんまりあそこにゃ入れないが・・・それでも興味はあるんだよなー。誰かお相手してくれないかね」

と言うわけで、ベランダ的な所に食料を持っていき、飲んで食べます
ええ、1人参加なので
踊ってくれる方がいたらうれしいな(笑)



●華やぐ夜に狼の
 明るい月光が冴えた光を降り注ぐ、夜風通るテラスにはひとり狼が佇んでいる。
 シェルティス・レグナードは己の目許を隠す狼を模した仮面の下の双眸を眇め、肩越しに明るい大広間を振り返る。喧騒は硝子を一枚隔てても尚、その耳許を擽っていた。
「舞踏会ってのは初めて参加するが、なかなか楽しいもんだな」
 機嫌良く呟くその手許には、色とりどりの料理が乗せられた皿と、それから蕩ける様な葡萄色の酒が注がれたグラスが携えられている。
 料理は旨いし酒も旨い。酔いは心地よく心身の輪郭を滲ませてゆく――それでもふと後ろ髪引かれる様に大広間の方を振り返ってしまうのは、フロアで愉しげに踊る二人組を幾多も目にしてきた所為だ。
 踊った経験がないからこそ、興味は募る。シェルティスだって例外ではない。
「誰かお相手してくれないかね、」
 月にぼやく彼の背中に、あのう、と控えめな声が掛かる。
 瞬いて振り向けば、街の娘らしき金髪の少女が恥じらった様子でシェルティスを窺っていた。
「わたくしで宜しければ、踊って頂けませんか。――街を救って下さった方々のおひとりでしょう?」
 感謝をお伝えしたかったのです、と彼女が微笑んで膝を折る。
 そうして娘はさあ、とその掌で大広間の方を指し示す――きっと皆が注目しますよ、と笑んだ儘で彼女は言った。
「……注目されるのはご遠慮願いたいが、折角だ」
 何せ踊りなど経験がない。それでも大広間の、ダンスフロアの熱気が、華やぎが、シェルティスの背中に縋っては引き寄せる。
 口端を持ち上げてはラフに着崩した盛装の裾を揺らし、狼は再びその中へと身を投じてゆくのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリヤ・ベル
【ユーゴさま(f10891)】と

ユーゴさまをお待たせしまして、ドレスを借りてお支度を。
春ですもの。お花で飾って参りましょう。
花冠を頂いて、毀れる花で目元を隠し。

踏み出すせかいはお伽噺のよう。
耳と尻尾をぱたぱたさせて、行ったり来たり。

ガトーショコラを一切れ貰って堪能していたところで、
差し出された手にびっくりした顔。
慌ててお皿を置くと咳払いをひとつ。
「はい、よろこんで。」
返す声は、努めてレディに。

……びっくりしました。びっくりしました。ケーキのおあじがわかりません。
少し熱い手をそっと重ねて、エスコートに添ってくるくる回る。

ふふ。騎士様は、ダンスがお上手です。
たのしい。
ね。はるのゆめのようです、ね。


ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)】と

仮面も衣装も立派なものだな。
やはりここは、豊かで良い街だ。
護れてよかったと思う。

礼服を着るのも久々だな。
こんな服装をするのは何年振りだろうか。
それに料理も随分と豪勢だ。
リリヤは……ここにある全てに夢中のようだな。

さて、今日のお礼も兼ねて
たまには彼女が望む通り扱ってやるとしよう。

恭しく跪き、手を差し出す。
「素敵なレディ、よろしければ私と踊って頂けませんか?」
いつものからかい混じりではなく、1人の女性を扱う時の態度。

ダンスが初めてでも大丈夫だ、俺がエスコートしよう。
拙くてもいい、大いに楽しもう。

今夜のダンスホールは、技巧を競う場では無いのだから。



●春の夢にレディは踊る
 まるで御伽噺の世界に飛び込んだよう、とリリヤ・ベルは群れる花に覆われた仮面の下、翠の眸を輝かせる。
 頂く花冠の下では耳がひこひこ揺れているし、尻尾だってはしゃぐ様にぱたついている。つまりはそういう事だ。
 何もかもが夢から出てきたかの様な具合なのに、その全てを好きなように貰って構わないのだと誰しも云う。受け取ったガトーショコラの皿はずっしり重くて、一口ぶんを唇に運べば素朴な染み渡る様な甘さが品良く口中に広がった。
 ――ここにある全てに夢中の様だ、とそんな彼女を少し遠くに見つめてユーゴ・アッシュフィールドは思う。護れて良かったと思える街の、その豊かさを絵に描いたかの如き景色の中に淑女然とした少女が居る――中々に悪くない景色だと、そうも思う。
 ガトーショコラに舌鼓を打つリリヤの傍らに、久し振りに着飾った出で立ちでユーゴは歩を進めた。そうして恭しく跪き、乞う様なかたちで掌を差し伸べる。
「素敵なレディ、よろしければ私と踊って頂けませんか?」
「ゆ、ユーゴさま……!」
 いつものからかい混じりの声色とはどうしたって違うと解るその台詞に、ひとりのレディを前にしたかの様なその仕草。突然の事に驚いて双眸を瞠るものの、リリヤは慌てて皿を置く。
 咳払いをひとつ。
「――はい、よろこんで」
 返答はスマートに、本物のレディと呼ばれる女性たちがそうする様に。差し出された手に指先を預ければ、ユーゴの蒼が此方を見つめて柔和に笑うのを掠め見た。なんだか少し頬が熱い。
「(……びっくりしました。びっくりしました)」
 ケーキのおあじがわかりません――努めて淑女を装うとも、リリヤの心はふわふわと波立って騒がしい。
 預けられた手を確かに握って、ユーゴが口端を緩める。声には出ずとも彼女の内心が愉しげな事になっているのは明白で、それはとても堪らない心地を連れてくる。
「ダンスは初めてか? ――嗚呼、大丈夫だ。俺がエスコートしよう」
 問い掛けにリリヤが肯くと、柔い声が大らかに請け負う。
 そんな所にいつも自分を慮ってくれるユーゴの姿を垣間見て、またリリヤの心中は揺れるのだ――こうして一人前のレディの様にわたくしを扱ってくれるのは、紛れもないユーゴさまなんだ。
 重ねた手が熱を帯びているのは伝わってしまったろうか。ちいさな胸がときめいて張り裂けそうな事も、もしかしたらばれてしまっているのだろうか。
 翠が此方を見上げるのを受け止めて、大丈夫だとまたユーゴが口端を持ち上げる。何もかもを見透かしていたって、それを顔に出さないのが肝要だ。特に繊細なレディを前にしている、いまこの様な時であれば。
 連れ立つふたりがフロアへと歩み出る――曲は折しもスローテンポなクラシックに移り変わった所で、周りでも慣れないらしい若者たちがぎこちなく、けれど楽しげに旋律に身を任せている。
 ぎこちなくステップを捌くリリヤを、ユーゴが少しだけ先回りしてフォローする様に寄り添い踊る。夜会の空気に身を泳がせる様におおきく腕を広げながら、密やかにお喋りを重ねゆく。
「騎士様は、ダンスがお上手です」
 ふふ、とちいさく笑ってリリヤが囁く。いらえる代わりにユーゴの手が導いて、彼女の身をくるりと回して引き寄せた。
「拙くてもいい、大いに楽しもう。そういう夜だ」
 鼓動が重なる。指先の膚から熱が滲む。
 ――それは確かに、はるのゆめと呼ばうに相応しい夜だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
シノアさんと(f10214)
服装は黒に銀糸の刺繍の上下(ジュストコール)
ウエストコートは深い緋色。黒絹のクラバット。
仮面も黒。目許を覆う形。

約束通り私がエスコートを。一応年上ですしね?
……お手をどうぞ、レディ。

……ふふ、実は華やかな場は得意で無くて。
初めて他人と踊るので、少しだけ緊張しているんです。
ええ、楽しいものです。そう思えるのは、仮面のお陰か。

戦いの昂揚は絢爛の夜に相応しい戯れとなりましたか?
炎や血と踊る貴女も、煌びやかな夜会の貴女も。
どちらも美しいですよ、可愛い妹ができて光栄ですね。

ふふ、恥じる男の顔など見ても。
そのドレスよくお似合いです。
仮面がなくば、手も取れませんよ。

アレンジ歓迎


シノア・プサルトゥイーリ
宵蔭(f02394)と
服装はネイビーブルーのAラインドレス。銀糸で薔薇の刺繍。
仮面は目元を隠すタイプ。黒

エスコートされるなんて久しぶり。
えぇ、お兄様ですものね(悪戯っぽく笑い
ーはい

そうなの?
貴方から聞かなければ分からなかったもの
初めての誰かと踊るのはいかが?

私はこういう場は久しぶりだけれど、えぇ、今日はとても楽しいわ

ーえぇ、存分な程に
少し戯れに身を浸し過ぎたかと思ったけれど
今宵、貴方のエスコートに相応しくあれたならば、ふふ、良かった

血を操り鞭を振るう貴方も、絢爛の夜会にある貴方もとても素敵
夜の森では見惚れてしまう程だと思っていたけれど
今、仮面の奥、その顔を見られないのが残念なくらい

アドリブ歓迎



●暴かずの夜に
「お手をどうぞ、レディ」
 約束通り私がエスコートを、とそうやって手を差し出す黒蛇・宵蔭が笑う様に口端を緩めるのを見遣って、シノア・プサルトゥイーリも悪戯っぽくその頬に笑みを乗せるのだ。
「エスコートされるなんて久しぶり。――はい」
 一応年上ですからねと宵蔭が囁やけば、お兄様ですものねとシノアが涼やかに返す。心地の良い軽口だ。
 銀糸の刺繍が施されたネイビーブルーのドレスはすっきりとしたAラインが麗しく、召するシノアの桜髪や赤い眸が良く映える。対してエスコートをする宵蔭のウェストコートは互いに引き立て合う様な緋色で、覗くジュストコールの銀糸刺繍が煌めいていた。
 揃いの意匠なのかしら、素敵だわと何処ぞの婦人からそんな風に声を掛けられたりもする。有難うと微笑んでそのままダンスフロアへと向かいながら、宵蔭は密やかに息を吐いた。
 傍らのシノアを見て、僅かに笑む。
「……ふふ、実は華やかな場は得意で無くて」
「そうなの?」
 瞬く彼女に、ええ、と宵蔭が肯く。
 初めて他人と踊るので、少しだけ緊張しているんです――そう告げられた彼の言葉に、ふと擽ったげにシノアが相好を崩した。
「初めての誰かと踊るのはいかが?」
「ええ、楽しいものです。そう思えるのは、――」
 これのお陰でしょうかと指先で目許の仮面を突く。ふたりの目許を覆う、夜色より尚濃い黒の仮面。それひとつで秘されるものの、なんと多い事だろう。
 その仕草を見つめて、紅引く唇を吊り上げた。フロアに滑り出て向き合う様に立つ宵蔭を真正面から見遣り、シノアがあえかに囁いてみせる。
「私はこういう場は久しぶりだけれど、えぇ。……今日はとても楽しいわ」
 豪奢を誇る絢爛の夜。贅を凝らした春への願い。けれど籠めた思いも真意も何もかもを仮面の下に押し込んで、ただこの夜限りは何をも暴かずただ愉しめと皆は云う。
 楽団が情熱的な弦捌きで楽曲を奏でる――その演奏通りに熱の籠もる、正統派のテンポであれど重厚な重奏が効いた三拍子のワルツ。
 先導するかの如き宵蔭の手を受け入れて、ふたりの身体が旋律を掴み爪先がステップを嗜む。ドレスの裾を、或いはコートの端を華麗に翻らせて踊る光景は、宛ら一幅の絵画にも成り得よう。
「戦いの昂揚は、絢爛の夜に相応しい戯れとなりましたか?」
 くるりと身を翻すシノアを腕中に引き入れながら、宵蔭は問う。
「――えぇ、存分な程に。少し戯れに身を浸し過ぎたかと思ったけれど、」
 捕まえがたい蝶々がそうするかの様に、ヒールを鳴らしステップを踏んで、甘い拘束から逃れながらのシノアが返す。
 シャンデリアの燦きを受けて踊る彼女を見遣って、それが稀有なものであると宵蔭は思う――炎や血と踊る貴女も、煌びやかな夜会の貴女も、きっとどちらも美しいものだ。
 眼差しに潜む色に気付いてシノアが笑む。彼もきっと、自分と似た様な事を考えているに違いない――血を操り鞭を振るう貴方も、絢爛の夜会にある貴方も、どちらもとても素敵だと、そんな風な。
「今、仮面の奥、その顔を見られないのが残念なくらい」
 言葉通りに酷く残念そうにシノアは囁いた。
 仮面があってはどうしても感情が読み切れない。今この場でそれを逃すのは、たいへんに勿体無い事の様に思えて仕方がなかった。
「恥じる男の顔など見ても、面白くはないでしょう」
 飄々と宵蔭が云う。
「仮面がなくば、手も取れませんよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
さぁ楽しい夜の始まりじゃ
キトリ(f02354)と遊びに

この世界の者がよくきておる服をキトリに選んでもろた!
銀の刺繍巡る群青のジュストコールを羽織り。
髪もちょっと分け目変えて結んでしまえばどこからみてもどこぞのええ貴族じゃろ?
仮面は、目があってしもうた。顔の上半分隠す猫の面を。

キトリ、色気より食い気か~
わしもそうじゃけど!おやあれは花虎の嬢ちゃんでは。
嬢ちゃんも色気より食い気の気配…!

折角じゃし…キトリと踊っといで。皿はわしが預かとってあげよ!
その間にわしがつぎの美味しい物を探しておこう。
だいじょうぶじゃ、ひとりでたべたりせんよ…飲みは、するがな!
大人の役得、と踊る様を見つつ美味しそうな物を皿へ


キトリ・フローエ
嵐吾(f05366)と一緒!
ふんわり裾が広がるラベンダー色のミニドレスに
花飾りがついた銀色の仮面をつけて

すごいわ、とってもきらびやか!
ねえ、お料理も美味しそうよ、嵐吾!
…!そ、そうね、あたしったらはしたない(こほん)
あたしだって(一応)レディなんだもの、エレガントに振る舞ってみせるわ

あっ、花虎、見つけた!踊りましょ!
そう、嵐吾のお洋服、あたしがコーディネートしたの
とてもおこたでぬくぬくしてるようには見えないでしょう?
嵐吾に任せておけば大丈夫、きっと美味しく盛り付けておいてくれるわ

あたし、二人で踊るダンスは経験がないけど、でも小さいから
花虎の足を踏む心配はいらないわよね?
新たな春の訪れを祝って!



●にぎやかに夜明けまで
「すごいわ、とってもきらびやか!」
 翅を羽ばたかせて全身でその感動を表せば、ラベンダー色のミニドレスの裾がふわりと広がる。
 一足先に春を満喫したかの様な、花飾りの仮面の下で双眸をきょろきょろさせながら、キトリ・フローエはそんな風に感嘆を零した。
 そうして肩越しに振り返っては楽しげにはしゃぐ。
「ねえ、お料理も美味しそうよ、嵐吾!」
「キトリ、色気より食い気か~」
 なるほどなあみたいな顔して返すのは終夜・嵐吾だ。今宵ばかりはこの舞踏会を彩るべく、世界に馴染み深い衣裳を纏っている――羽織る群青のジュストコールに施された銀刺繍が、シャンデリアから零れ落ちる光を掬い取っては弾いて煌めく。
「……! そ、そうね、あたしったらはしたない」
 こほんと咳払いしてひらひら翅を震わせた。一応はレディなのだ、エレガントに振る舞わねばなるまい。
「わしもそうじゃけど! ……おや、あれは花虎の嬢ちゃんでは……、あっ、あっちも食い気が……!」
 これだけ居並ぶ美食があればそうもなろうと鷹揚に肯いたところで、案内役の猟兵を見つけてそちらを見遣る。見遣った先でもちまちま忙しそうに料理を突いていた。食い気優先だった。
「あっ、花虎、見つけた! 踊りましょ!」
 すいと近寄るキトリの姿に、花虎が漸く料理から顔を上げてふたりを見る。
「キトリ、それに嵐吾も。ああ勿論だ、……しかしめかしこんだな、おまえたち」
 誘いには喜色を滲ませ頷いてから、ふたりの衣裳を順繰りに見つめて感心した様に呟いた。
 嵐吾のお洋服はあたしがコーディネートしたの、とそのちいさな胸をちょっぴり張って誇らしげにするキトリに、とても素敵だと花虎が肯く。嵐吾にも、と彼の顔に改めて視線を移して、ちょっと止まった。
「……にゃーん」
 猫の面を見て鳴かずに居られなかったらしい。
 どうじゃどうじゃと指差して面をアピールしつつ、嵐吾もまたいらえるのだ。
「にゃーんじゃな」
 それから、さあ、と片手を差し出す。
「折角じゃし、キトリと踊っといで。皿はわしが預かとってあげよ!」
 その間にわしがつぎの美味しい物を探しておこう、と添えられた言葉に、花虎は有難くその手に皿を委ねた。からっぽの皿だ。
 ひらりと翔ぶキトリが微笑んで、大丈夫よと請け負ってみせる。
「きっと美味しく盛り付けておいてくれるわ。――さ、行きましょ!」
 キトリの言葉に返る誰かの声は無くとも、ダンスフロアへと道を譲る様に、先客たちが衣裳の裾を掻い取って笑む。
 ならばと花虎は、差し伸べる様に彼女へ向けて掌を差し出す――燕尾を纏って来た以上、今宵の自分は紳士の端くれ。
「なら、おれにエスコートくらいはさせてくれ。レディから誘って貰ったからな」
 きょとんとアイオライトを瞬かせてから、面映そうに笑ったキトリがその手を重ねた。足は踏まないから心配しないで、と彼女は云う――あたし、二人で踊るダンスは経験がないけど、でも小さいから。
「新たな春の訪れを祝って!」
 少女たちの声が花を咲かす。
 慣れない同士の、ぎこちないながらも遠慮をする事のない軽やかなステップを眺めながら、嵐吾はテーブルから蜂蜜酒のグラスを掬って呷る。
 ひとりで抜け駆けして食べたりする事はない。ないが、飲みはするのだ。
「大人の役得、じゃの」
 視線の先では楽しげにダンスが続いている。
 皿の上にも春呼ぶ様に色とりどりの料理を盛りながら、嵐吾は喉奥に仄かに香る蜂蜜に尾を揺らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
宵の色した三つ揃いも落ち着かなくて
上から羽織るのは目一杯に星を散らしたローブを
仮面とばかりに羽根飾りに花で埋めリボン括って

音の波にふらふらと灯すあかりに誘われるて
人の声が弾むのに、待ち望む季節を知るよう
焦がす心地はわからなくとも希う待ち遠しさならば
願う先に綻ぶ春を、寿い謳う心地は、分かるかしら

手にはひとつ、星の弾けるシャンパングラス
酔う心地には遠いけれど、薫る花に目を細め
夜風もずいぶん、優しくて、星は淡く瞬いて
いずる春へと想いを馳せる
巡る季節のゆくさきを願う

遠くへも訪れる季節はあの子の心を慰めるかな
きみの、見なかった季節を僕は愛しいと、思えるかしら
絢爛たる春へ、零れる花弁を爪先で追いかけような



●絢爛誇る春よいざ
 身体の奥底、芯の部分が波立つ様な不思議な感覚に、イア・エエングラはそっと衣裳の上から左胸を探る。
 指の軌跡が衣裳にドレープを産む度に、星を縫い込めた様なローブがちらちらと光を弾いて瞬いている――羽根と花とが擽る様に目許を覆う、その下で眸が夜を泳ぐ様に外を見遣る。
 宵色の三つ揃いはなんだか落ち着かなくて、笑いさざめく音の波間の只中に在るのがそれを掻き立てていた。ただ喧騒は決して厭うべきものではない――誰も彼も声は弾み、眼前に潜む春へと皆が願いを託している。
 待ち遠しいのだ。きっと皆が。ふ、とイアは目許に柔和な笑みを滲ませる。
「(願う先に綻ぶ春を、寿い謳う心地は――分かるかしら、)」
 大事に仕舞う想いは芯で仄かな灯を得ている。
 ぱちぱちと流星煌めく様なシャンパン・グラスを手に取れば、丁度使用人の誰かがテラスに続く大窓を開け放した様だ――熱気で少しだけ倦んだ空気が、夜明けを間近に控えた春先の風で雪がれてゆく。
 花がどこからか薫る。春のにおいが鼻先を擽る。酒精でなくとも酔ってしまいそうだと、イアはその藍を春のむこうへ向けて眇める。
 嗚呼、季節が巡るのだ。待ち望むものが、靴音高らかにこの街を訪っていた。
 この街だけでなく、春はひとしく何処へでも渡るだろう。
 ――あの子の心を慰めるかな、と、言葉にはせずともそれは確かにイアの胸から零れ落ちた感情だ。
「きみの、見なかった季節を僕は愛しいと、思えるかしら」
 輪郭霞む月が見える。冷えた夜空にそれだけ暖かなものの様にして、ぽてりと眠たげに寝転がる。
 慈しむ様な女神の指先が、見えぬ風となってイアの目許に触れてゆくだろう。好ましいものにそうするかの様に、羽根を、花を揺らしてリボンの裾を遊ばせてゆく。
「ああ、そうな」
 誰に告げるでもなく、イアはその芯から囁くのだ。
 やわらかな薫風が渡る。いざ目眩くひととせの魁が来るのだと、声高にそれらが叫んでいる。
「――はるが、くるよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギド・スプートニク
仮面を被ろうとも見紛う事はない
我が最愛のきみと

私が妖精であったなら
きみに相応しい身分や立場であったなら

きみは家を捨てずに済んだ
私はこの手で
きみを強く抱きしめる事だってできた

それは現世では叶わぬ望み

愛おしいその背中も
頬も
唇も
そっと触れる事しか許されてはいない

それは仮面を付けた今とて同じ
ふたりの距離は近いようで、遠い

それでも私は
こんなにもきみを愛している

満足に共に踊る事すら叶わぬ身なれど、この身のすべてをきみに捧げたい
今だけは、きみのすべてが欲しい

この溢れるような想いを、情欲を、
そのままぶつけてしまうには、きみの身体はあまりにも――

そんな想いには仮面で蓋をし

このひとときばかりは、きみと踊り続けたい


シゥレカエレカ・スプートニク
わたしのギド(f00088)と
顔を隠したって、あなたを見失うわけなんてないわ
だってほら――…姿は…、変わらないもの

わたしが人間だったなら、
あなたを守るようにこの腕全部で抱きしめたかった
あなたのよすがであるように抱きしめられたかった

このちいさな身体では、あなたの手に足りないことがこんなにも口惜しい
そして、わたしの手ではあなたに足りない…

…でもいいの、こんな話は仮面を脱いでからにしましょう?
枕許で、ねむたくなるまで
ゆめの話は、夢の傍で

また春が来るね、ギド
今年はわたし、お花見に行きたいわ
あなたがお世話になってるひとたちとパーティするのもいいな

ねえ、ねえ
ギド
わたしの旦那様

わたし、ずうっとあなたのものよ



●夜の果てるまで
 番う指先はいつだって、この身にはどうしようもなく細く小さい。
 幾度となくそれは、切なく胸を焦がしてきた想いだ。
 私が妖精であったなら――きみに相応しい身分や立場であったなら。
 叶わぬそれはいつか埋み火となり、心を炉にして永久に燃え続けるのだろう。ギド・スプートニクは、妻の薬指にひかるちいさな指輪をそっと指の腹で撫ぜた。
「仮面を被ろうとも、君を見紛う事はない。我が最愛のきみなのだから」
 ギドが押し頂く様に指先を引くのに導かれながら、シゥレカエレカ・スプートニクは甘やかに微笑む。
「顔を隠したって、あなたを見失うわけなんてないわ」
 青い眸が彼女を見遣る――どうして私は妖精ではなかったのだろう。きみに相応しい身分や立場が、この身に備わっていたのなら。
 彼女に捨てさせたものがあった。彼女にしてやれない事があった。もの言いたげに薄く開くギドの唇に、伸ばされたシゥレカエレカの指先が封をする。
 紫の眸が彼を仰ぐ――わたしが人間であったなら。あなたを守る様に、この腕全部で抱き締めたかった。あなたのよすがである様に、抱き締められたかった。
 叶わぬ望みだ。口にしたのは妻の指先に恭しく口吻するギドだった。
「――互いを隔てる身分も真意も何もかも、仮面の下に覆い隠して春を呼ぶ。それがこの夜のマナーだそうだ」
「なら、隠してしまわなければ。……ね、ギド」
 シゥレカエレカのちいさな掌が、ギドの頬に添えられる。応える様に彼の指先が、彼女の頬を擽った。
 互いの手には互いに足りず、それはとても口惜しい事だ。それでも今は仮面を着けているのだからと、シゥレカエレカは緩くかぶりを振る。
 絢爛の果てはすぐそこに在って、朝はもう間もなくだった。楽団の奏でる音楽は次第にテンポを落としてゆく――周囲の人垣も随分と疎らになっていた。
 どちらからともなく導かれる様に、フロアへと滑り出る。あまりにも違いすぎるふたりを見咎める無粋者などここには居ない。だって仮面を着けた者は、皆等しく存在を同じとするのだから。
 愛を囁く様な淑やかなワルツの調べに身を委ね、ふたりで同じステップを踏む。その腕に伴侶を抱き寄せる事も、互いの身体を寄せ合って踊る事も叶いはしない。
 けれど確かに、その眸同士は情を湛えた儘に絡むのだ。近いようで遠い距離を、それがひとつ確実なものとして繋いでいる。
「――今だけは、きみのすべてが欲しい」
 愛しているからこそ、願う事も望む事も尽きはしない。こんなにもきみを愛しているのだと、言葉で、仕草で、如何用に伝えても虚空が埋まりはしない。呆れるくらいの情動に、欲に、いま蓋をするのはこの仮面ひとつきりだ。
 夢みる様なギドの切願に、シゥレカエレカの頬が幸福のいろを宿して微笑んだ。
「ねえ、ギド。ねえ、わたしの旦那様――わたし、ずうっとあなたのものよ」
 一緒にいるわと囁いた。それだけは仮面から零れ出た、本心だった。
 指先を繋いで踊りながら、睦まじく囁きあう蜜言が耳朶を擽る。
 ――今年はわたし、お花見に行きたいわ。愛しき細君の願い事に、王の喉が浅く上下して笑ってみせた。
 触れる事しか叶わねど、永久を共に居ると決めたのだ。死がふたりを別つとも。
 重ねてゆく歳月と愛しく思う。去年の春とはまた違った春にしよう。来年の今頃にまた、去年は何をしただろうかと交わして睦み合える様な、そんなひととせを紡いでゆこう。
「きみが居るなら、なんでも良いな」

 たったひとつの特別な夜は、そうやってゆっくりと飲み干されてゆく。
 今宵猟兵たちが守り導いた次の春が、その夜を境に街へと少しずつ滲み始める――それが解るのは、もう少し先だ。
 路傍の花がその蕾を膨らませている。
 絢爛の夜をこえて花弁が解ければ、紛う事なく春になるのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月17日
宿敵 『『嫉妬』のステラ』 を撃破!


挿絵イラスト