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愛しき子らよ、箱/胎へと還れ

#UDCアース

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#UDCアース


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●小鳥、子取り、虚憑り、コトリ
 --違う、違う、違う、違うんだ! そんなつもりじゃなかったんだ! 単なる仲間内の遊びだぞ、こんなの聞いてない!

 コトリ、コトリと鞠をつく。子らが退屈せぬように。

 --助けて出して御免なさいお母さんおとうさんイヤだくらいボクがぼくじゃなくなるおねがいひとのままでころして。

 コトリ、コトリと箱を撫ぜる。子らを呼び込むために。

 --ごめんねぇ……ごめんねぇ……産んであげられなくてごめんねぇえ。生きさせてあげられなくてごめんねぇええ。

 コトリ、コトリと時を刻む。子らの齢を数えるために。

 ーー出口がない、時間が分からない、光が見えない、そもそも目玉がない、指が落ちた、足は捻じれた、もう人じゃない、じゃあ今の私は何なのかかかカカカkkkkkkkk。

 コトリ、コトリと細工を弄る。ヒトが『子ら』へなるように。

 それは濃縮された地獄だ。箱の形をした悪意を煮詰めた鍋だ。女童の姿をしたナニかが弄ぶ、極小の監獄。寄木細工の箱から漏れ出るは恐怖狂気慙愧の掠れ声。そっとその可愛らしい囁きに、女童は目を細めて耳を傾ける。

 かちりかちりと仕掛けが解かれるたびに、箱に隙間が出来てゆく。暗く、昏く、冥いそこから垣間見えるのは、人だった者の……否、人で在り続けてしまうモノの姿。目玉は闇に溶け落ち眼窩と成り果て、歯は己が手で引き抜いた。爪は一枚一枚丁寧に引き剥がし、頭部の皮膚は抜け落ちた髪の残滓が無数の穴として血で塞ぐ。

 痛みがある。まだ正気だ。自分でそうしようと思考できる。まだ正気だ。まだ人だ。まだ正気だ。まだ人間だまだしょうきだまだばけものじゃないまだこどもじゃないまだしょうきだしょうきでいられるいつまでしょうきでいなきゃいけないの?

 もうすぐ、もうすぐ。もうすぐ箱は開くから。

 コトリ、コトリと女童は箱を動かしゆく。漏れ聞こえる子らの慕う声、中でおめかしする愛らしい姿を想像しながら、女童は箱が開く瞬間を切に待ちわびる。


「……早急な対応をお願いしたい案件が出た。UDCアース、言わずもがな、邪神がらみの事件だ」
 集まった猟兵たちへ、ユエイン・リュンコイスは皺の寄った眉間を抑えながらそう口火を切った。
「場所はある寂れた地方都市。その街の祠にUDCが封じられていたんだけどね……酒の勢いか、仲間内での見栄か、素行の悪い若者集団がその祠を破壊した」
 祠は町の複数個所に存在していたのだが、スタンプラリー気分で片っ端からそれらを破壊したらしい。木製は愚か、石造りのものまで粉々にしたというのだから性質が悪い。
「祠は邪神を封じる結界、要石みたいなものでね。邪神の封じられた場所そのものではないけれど、UDCの封印場所と霊的に繋がっているようだね。祠から邪神の副産物とも言える化け物が現れ始めている。このままじゃ、被害が広がりかねない」
 そこでまずは祠の場所を調べ上げ、怪物を退治しつつUDCの封印場所を探ってほしい。そこまでユエインが説明したところで、説明を聞いていた猟兵より疑問の声が上がる。
 --その若者集団に話を聞けば、場所などすぐ分かるのでは?
 --彼らは化け物の被害に遭っているのか? 救出の必要は?
 仲間の問いかけに対し、ユエインはどちらにも首を振った。
「若者の集団に事情を聴くことは出来ない。被害には在っているけれども、救出の必要は考えなくていい……いや。してももう、意味がないというべきだろうね」
 グリモアを通し、何を見て、何を知ったのか。無感情が常のはずの人形少女は、強い不快感を滲ませながら言葉を絞り出す。
「彼らは死んでいないよ。死んでないだけで、死なせてもらえない。あれはもう、人じゃない……だから、君達は気にしなくていい。化け物を倒し、祠を調べ、邪神を討つ。それだけでいいんだ」
 もう、救いようがない。そしてその被害は、放置しておけば急速に範囲を拡大させてゆく。時間が無い。地獄というには生ぬるいナニかが、このままでは地上に完成してしまう。
「よろしく頼むよ……くれぐれも、心を強く持って」
 そうして、少女は猟兵たちをおくりだすのであった。


月見月
 どうも皆様、月見月です。
 今回はUDCアースで邪神復活を止めて頂きます。
 それでは以下補足です。

●最終成功条件
 封じられた邪神の討伐。

●プレイング受付
 25日(木)8:30から。

●第一章
 街のあちこちに点在する祠から、化け物が出現しています。
 化け物を退治しつつ、祠を調査。再封印を行いながら、祠が封じる邪神の居場所を突き止めてください。

●第二章
『子ら』が現れます。集団で現れてかわいいので、いっしょにあそぼう。

●だいさんしょう
 はこをあけよう。あければ、あいしてもらえるから。

 かのじょはかんしゃしています。からっぽになったおなかのかわりに、はこをもらいました。たくさん、たくさん、あいせます。こどもはそとにいっぱいいるから、いれてあげよう。

 みんなきてね。いっしょになろう。
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第1章 冒険 『封神祠巡り』

POW   :    発生した怪物を倒す。歩き回って壊れた祠を探し、新しい祠を設置する。

SPD   :    発生した怪物を倒す。素早く壊れた祠を治す、或いは新しい祠を作り置きする。

WIZ   :    発生した怪物を倒す。周辺住民から祠の在り処を聞き込む。祠に魔除けを施す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●箱の鍵は壊された
 その街に転送されてきた猟兵が感じたのは、恐らく顔を顰めるだろう。パッと見、街そのものに違和感はない。そこまで大きな街ではないながらもそれ相応に人が行きかっている。ビルの立ち並ぶ市街地と畑や林などが点在する農村部がほどよく共存した、ある意味ありふれた地方都市だ。
 だがそこに漂う雰囲気は、敏感な者ならばすぐに気づけるほど異質なモノ。敵意や害意、怒りではない。より得体のしれない、異質さとでもいうべき空気が感じられる。余り長居したくないような、慣れてしまったら手遅れなような、そんな本能的な忌避感を覚える何かが、空気に混じっている。
 だが逆にそれが道しるべとなり、辿ってゆけば各所の祠を探し当てるのは容易いだろう。無論、その先に何が待っているのかは行ってみなければ分からない……蛇か、鬼か、はたまた神か。
 それを確かめるべく、猟兵たちは行動を開始するのであった。

※マスターより
 プレイングは25日(木)8:30から受付いたします。
 テイストはホラー。リプレイの雰囲気や傾向につきましては、OP前半部のような空気になる予定です。それをご承知頂いた上でご参加頂けますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
尾守・夜野
【POW】
…うわぁ…
まじか
マジなのか…

我が故郷の世界ながら…
じゃなけりゃ思わず回れ右したくなるが…
うん。こんだけ気配が漏れてるなら…目ぇつけられてるかね

今さら逃げるもできねぇ
はぁ…

【呪詛】の気配を辿って祠を探す
住人には会わねぇようにしてぇ
これで影響受けてないとか楽観視できねぇ

…これ下手しなくても地域一帯封鎖物では?
うわぁ…ここまで要を的確に容赦なく壊すとは…いっそ清々しいな
元の封印式を刻印で解析しながら溢れた化物語を黒剣で切っていく

【呪詛体制】にて受けながら、相手の呪詛をある程度弱めてから再度封印だな。

収集してる呪具の封印に使ってる式を流用するぞ。

…できた…か?


雷・春鳴
箱。匣。はこ。
四角い箱には詰めたくもなるものだね。
みっしりと。隙間なく。
今回は随分と悪趣味なようだけれど。

【POW】
俺は器用じゃないから、人に聞いたりするのは誰かに任せるよ。
ふらふらと練り歩くのは好きな方だ。こんな異様な雰囲気じゃなければ、散歩には良さそうな所なのにね。
街並みからは少し離れた場所とか探してみようかな。
無粋なヤツらなら、どうせ踏み荒らしながら進んでいっただろうし。そういう痕跡を辿りながら進む。

発生した敵には、身体に寄生する蜂共が、餌だ餌だと群がり喰らう。
体内に忍び込み、肉を喰む。内側から穴だらけ。
気分が優れない場所だ。
早く終わらせよう。



●はこいりさん
 異様な空気が漂う中、到着した猟兵たちは祠の位置を特定すべく方々へと散ってゆく。そんな中の一人、尾守・夜野(墓守・f05352)は人目を忍ぶように歩を進めていた。
「うわぁ……まじか、マジなのか……」
 濃い霧のように、体へと纏わりつく忌まわしい空気。そこから単純な戦闘力や特殊な能力とはまた別種の脅威を感じとり、彼はため息を漏らす。
「我が故郷の世界じゃなけりゃ、思わず回れ右したくなるが……うん。こんだけ気配が漏れてるってことは、オレらも既に目ぇつけられてるのかね?」
「こんな異様な雰囲気じゃなければ、散歩には良さそうな所なのにね。ふらふらと練り歩くにはきっとちょうどいいよ」
 その後ろを追いかける様に雷・春鳴(迷子の跡・f11091)が付いていっている。彼自身は散歩気分で歩いているが、周囲を警戒しながら先導する夜野のおかげもあり、二人は住民と接触することなく動き回れていた。
「まだ祠から距離があるってのに、こんだけ嫌な空気がしてんだ……これで影響受けてないとか楽観視できねぇ。住人と会わねぇに越したことはねぇぜ」
「となると、狙うのは人の少ない市街地の外縁部とか農村地帯?」
「だな。とち狂った住民に囲まれるなんざ、ぞっとしねぇよ」
 二人は市街地を離れ、農村部との境界線あたりへと足を向ける。歩を進める度に嫌な空気は濃度を増し、程なくして目的の祠と思しき残骸を視認できる距離まで辿りつく。
「見つけるってだけなら簡単だったな。話によれば、化け物がいるらしいが……」
「……隠れて。あそこに何か居る」
 と、小手をかざし祠を観察していた夜野を、春鳴が半ば強引に物陰へと引っ張り込んだ。春鳴の指し示す方角へと視線を向けると、そこには十人程の人影が存在している。手に四角いナニかを持ち、各々好き勝手に体を動かしているようだ。何をしているのかと、二人が耳を澄ませ、目を凝らすと。

「箱に入ろう、愛して貰おう! 箱に入ろう、愛して貰おう!」
「余分なモノは削ぎ落とそうね? 子供になろうね? 手も足も半分でいいよね?」
「………………………入れたぁ」
 ガンガンと、空き箱に頭に打ちつける者。鋸を手に互いの手足を切断する者ら。明らかに体の大きさと合わない箱へ収まり、血塗れのまま恍惚とした表情を浮かべる者。
 控えめに言っても正気ではないと一目で分かる集団が、祠の周りにたむろしていた。

「箱。匣。はこ。四角い箱には詰めたくもなるものだよね。みっしりと、隙間なく……今回は随分と悪趣味なようだけれど」
「つうか、思いっきり影響出てるじゃねぇか!? これ、下手しなくても地域一帯封鎖ものだろ……許されるなら回れ右して逃げ帰りたいんだが」
 引きつった笑みを浮かべる夜野とは対照的に、一周回って冷静になる春鳴。落ち着いたがゆえに、彼は当初の疑問を再度口にする。
「あそこに居るのが住民として……じゃあ」
 化け物はいったいどこに? 春鳴がそう呟いた瞬間、急に足を引っ張られる感覚を覚える。隣に居る仲間ではない。さっと彼が足元を見ると、そこには幼児がしがみついていた。病的なまでに白い肌と、黒目しかない瞳がじっと彼を見上げている。これが化け物であると悟った瞬間、ソレは黒い穴のような口を開くと絶叫を放ち始めた。
「きぃいぃいいぃいいいぃいいぃぃい!」
「不味い……っ、食い破れ、『虚空の青』」
 咄嗟に春鳴は自らに寄生した青蜂型UDCを繰り出すや、蟲群は瞬く間に化け物へと群がり、本能のままに貪り喰らう。叫びは羽音と咀嚼音に掻き消えるも、事態はそれだけに留まらない。
「くそ、連中がこっちに気付きやがった! 来るぞ!」
 叫びを聞きつけた集団が、脇目も振らず二人目掛けて駆け出していたのだ。最早衝突は避けられないと、夜野は得物を手にそれに応ずる。彼らは飽く迄も被害者のはず、無力化だけで殺すつもりはない。
「一緒に箱に入ろう? 愛して貰おう? 大丈夫怖くないから?」
「こいつはなんとまぁ。祠さえ封印すれば元に戻る……よな?」
 相手の言葉は聞くだけ無駄と受け流しつつ、夜野は黒剣を手に発狂者たちを鎮圧してゆく。元が一般人であるのに加え、度重なる自傷行為も相まって、そもそも五体満足な者自体が少ない。そう時間もかからずに、二人は相手の無力化に成功した。

「……くそっ、ここまで的確に壊しやがって。さっさと封印しなきゃならねぇのに。コイツら、放っておくとそのまま死んじまうぞ」
「UDC組織には連絡したよ。この街の病院に入れるのは避けた方がよさそうだしね」
 戦闘後、手早く祠の残骸を修復し再封印を試みる夜野の横で、春鳴がUDC組織へ連絡を入れつつ発狂者へ応急処置を施していた。この後、適切な処置を受ければ命だけは助かるだろう。精神面については……封印によって正常になることを願うしかない。
「これでまだ序の口かよ……」
「さっさと終わらせよう。この街の為にも、自分の為にもね」
 その為にも早急に大元を突き止め、邪神を討たねばならない。二人は後事をUDC組織へと託すと、瘴気を辿り次なる目的地を目指すのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

荒・烏鵠
@WIZ
こりゃゆっくりはしてらんねーな。警戒を怠ンじゃねーぞシナト。
(頭上の子狐がきゅうと鳴く)

ユベコを使って番イ鳥召喚、それぞれ肩に止まらせ「祠へ続く道」という真実を“視”せて貰いながら道を辿る。同時に「怪物の近づく音」という真実を“聴”きながら攻撃に備え、気付いてないフリで騙しながらおびき寄せてシナトの風刃でカウンターを叩き込む。

怪物を散らしたら祠を……とりあえずナリだけでも整えて、全力で破魔の力を注いだ神符を貼って修復するぜ。ガチで直してたら時間かかるが、「形」と「機能」だけ正常に作動してればなんとかなンだろ……とりあえず、今は。


音羽・浄雲
※アドリブ、絡み歓迎です。
【SPD】怪物を退治して祠を修復します。

「祠を壊してしまいましたか。いつの世も人というものは変わりませんね」
 どこか懐かしげな表情を浮かべて浄雲は目を細めた。愚かだが、故にこそ愛おしい我が子を慈しむ母親の様に。
「そうは思いませんか?」
 目を開き、祠から現れた怪物に、端から応えなど期待していない空虚な問を投げ掛ける。
 それと同時に袖口からするりと詭り久秀を垂らし、放つ。【ロープワーク】、縄術にも似た技術で糸を繰り、【地形を利用】して蜘蛛の巣が巣を張り巡らすかのよう展開。
「疾く疾く祠を修復しなければなりませんのでーー失礼致します」
 そして、糸が、収束する。



●あまりものさん
「こりゃゆっくりはしてらんねーな。警戒を怠ンじゃねーぞ、シナト?」
「キュウ!」
 肌で感じる空気が、余り時間的余裕がないことを告げている。タッタッタ、と。子狐の姿をした風精を頭上に乗せて、荒・烏鵠(古い狐・f14500)は市街地を駆けていた。常々、この子狐を輩として一緒に行動している彼だが、今日はそれにまた別顔が加わっている。
「煌神に帰依し奉る。契約に基づき、我に真を授けよ……頼ンだぜ、番い鳥」
 両肩に止まった二羽の小鳥。これらは戦闘力こそないものの、留まった対象へ隠された真実を聞かせ、示す能力を持っている。彼は子狐の霊力で不快な空気を祓いつつ、双鳥の啓示に従い先へ先へと進んでゆく。大通りを抜け、路地へと入り、裏道へと足を踏み入れ……そして。
「……ここか。まッたく、よくこんなところまで来たもンだぜ」
 ビルに囲まれた路地裏の一角。ぽっかりと四角く切り取られた空の下に、無残な木端と化した祠が虚ろ気に鎮座していた。酔った勢いとは言え、こんな複雑な道をわざわざ進んだのかと、烏鵠は呆れ交じりにため息をつく。この様子では完全な修復も一朝一夕では済むまいと、視線を前へ向けたまま一歩、祠へと足を踏みだし――。
「わりィが、その『音』は端っから聴こえてンだ。やっちまえ、シナト!」
 くるりと体の向きを変えるや、路地裏の暗闇へと風の刃を解き放つ。闇に紛れて響く『音』。ヒタヒタという素足の音。カリカリという引っ掻き音。ザラザラという何かが擦れる音。どれも微かな音であり、普段であれば聞き漏らしていただろう。だが、番いの鳥から逐次情報を得ている今の烏鵠にとって、隠れ潜む相手の位置など容易いものである。
 ソレは風刃の直撃を受けるや、弾き飛ばされた衝撃でごろりと祠の方向へと転がってゆく。陽の下に晒されたその姿は――人ではあるが、人ではなかった。
「誰のモノで出来ているか、なんて……聞くまでもないよなァ」
 それは腕であり、足であり、髪であり、そしてそれだけしかなかった。人の各部位だけを集めたボール、とでも形容すればよいのだろうか。ウニの様に生えた手が虚空を彷徨い、ヒトデの如く足が蠢き、ミミズにも似た髪の毛が独りでに絡み合う。異形と言う他ない。
「悪趣味にも程があンだろ。何の意味があるんだよ、コレ」
 更に、それぞれの異形には七夕の笹飾りの様に短冊が括り付けられていた。そこに描かれた文字を見て、彼は嫌悪も露わに吐き捨てる。
 ――『あまりもの』、『ごみばこいき』、『ばいばい』。
 子供がクレヨンで書いたような文字がそこには記されていた。そのアンバランスさに、思わず眩暈すら覚えかけた時、烏鵠以外の声がその場に響く。
「……祠を壊してしまいましたか。いつの世も人というものは変わりませんね。その代償がこれという点だけは、些か同情はしますが」
 ふわりと、忍びらしく音もなく姿を見せた音羽・浄雲(怨讐の忍狐・f02651)は、よたよたと這いずり回る異形達を一瞥し、目を細める。愚かだと断じつつも、その瞳には確かな慈愛が含まれていた。それはまるで、出来の悪い愛し子を見守る母親の様でもある。
「そうは思いませんか……と、問うたところでそもそも口がありませんか」
 尤も、口があったところで彼女は返答など始めから期待していない。浄雲はくるりと手首を捻り袖口から極細の蜘蛛糸を垂らすや、それを四方八方へ投擲する。ビルの壁面や凹凸を利用して幾重にも屈折させたそれらは、正しく蜘蛛の巣とでも言うべき幾何学模様を作り上げた。
 それを脅威と認識していないのか、見た目通りそもそも考えるべきの脳がないのか。髪の集合体は毛を絡みつかせながら浄雲の元へとにじり寄り、腕の塊は糸を掴んで猿の如く這い上がってくる。その過程で髪が抜け、指が重みに耐えきれず引きちぎれるも、意に介した様子もなかった。足の群れもそれぞれが別個の動きをしながら、よたよたと彼女へすり寄らんとしている。
「元がどこのどなたかは存じ上げませんが、疾く疾く祠を修復しなければなりませんので」
 だが、対する浄雲の反応もまた薄い。怖気の走る光景だが、この程度の醜悪さであれば既に通った道。であればただ傭兵/猟兵として役目を全うするのみ。
「――失礼致します」
 くんっと糸を引き寄せた瞬間、立体的に展開されていた蜘蛛糸が急速に範囲を狭めた。それは正しく獲物を絡め取る蜘蛛の巣、みちみちと音を立てながら異形の全身へと糸が食い込んでゆく。異形も痙攣するように手足を戦慄かせるも、もはやそれから逃れる術もなく。
 ぶつり、と。手が、足が、髪が。どれもが等しく寸刻みにされ、ぼたぼたと地面に山を築く。後に残ったそれらは、みな等しく肉塊と化したのであった。
「助太刀、感謝するぜ。ただ、肉は暫く食いたかねェな」
「それが常識的な感性です。むしろ、正気の証拠であると喜ぶべきでしょう」
 そっと頭上で震える子狐の視界を手で塞いでやりながら、烏鵠は浄雲の横を通り過ぎる。ピクピクと痙攣する肉塊を視界から外しつつ、彼は祠の修繕に取り掛かった。
「ナリだけでも整えて、『形』と『機能』だけ正常に作動してればなんとかなンだろ……とりあえず、今はな」
 神符を接着剤がてらに祠の残骸を組み合わせてゆく烏鵠。修理を彼に任せつつ、浄雲は足元に落ちていた短冊に気付きそれを拾い上げた。歪んだ文字に目を走らせ、彼女は静かにそれを口ずさむ。
「……『にげられないよ』」
 その瞬間、ぼろりと短冊は朽ちて塵となる。あの肉塊も、いつの間にか地面に染みだけを残して消えていた。
 危なげなく怪物を倒し祠の修理に成功した烏鵠と浄雲。だが彼らとしては順調さよりも、寧ろ漠然とした不安をより深める結果となるのであった……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルー・ガランサス
【WIZ】
【スミス・ガランティア(f17217)くんと初めまして、ってして一緒に行動】
おー。なんだかフシギなフンイキ。とりあえずこのイヤーな雰囲気を追って行こうかなー。

お話の通りだと、祠のそばにはきっとたくさんの化け物がいるだろうねえ。
とはいえ、僕は戦いには不向きだから──【リザレクト・フルール】で蔦と動物を出して、化け物たちを拘束。スミスくんのお手伝いをしようかなって。

祠に邪神の情報がなかったら、(もしかしたらまだ無事かもしれない)若者集団が情報を持ってるかもしれないなあ。若者集団の所在を知るため、この世界の【動物と話す】かなー。


スミス・ガランティア
【WIZ】
【ルー・ガランサス(f17549)君と同行……というより出会う→共に行動する感じで】

わあ、なんて事してくれたのかな……
罰当たりな……って言うのは神の立場でも言っていいのかね……

空気? 雰囲気? を辿って祠を探したら……ルー君に拘束された化け物を氷の【属性攻撃】で倒したり、祠に【祈り】で【破魔】の属性を宿して魔除けにしようと考えてるよ。我神のくせしてあんまり器用じゃないからこれくらいしか出来ないんだ……

情報収集は……祠を見ても気になる所がなかったら【動物と話す】技能で「祠を壊してた人間がどこに行ったのか」を鳥やら猫やらに聞いてみようと思うよ。

【アドリブ歓迎】



●ちゅんちゅんさん
「なんて事してくれたのかな……罰当たりな、って言うのは神の立場でも言っていいのかね……」
「おー。でもなんだか、フシギなフンイキ。怖いような、近づきたくないような、身を委ねたくなるような……とりあえずこの雰囲気を追って行けばいいのかなー?」
 悩ましげに眉根を顰めるスミス・ガランティア(春望む氷雪のおうさま・f17217)と、きょろきょろと周囲に視線を巡らせるルー・ガランサス(雪には色を、死者には花を・f17549)。連れだって歩く二人は、ぱっと見て人のようだが人ではない。超常の権能を振るう不死存在……詰まる所の神だ。同じ神同士という共通点もあり、近しい場所に転送された二人は一先ず共に行動することにしていた。
「微妙にフンイキの濃さが違うところがあるからね。これを辿れば、祠を探すのはそこまで苦労しないかな」
「ただ祠に向かうのも芸がないから、道すがら情報も集めておこうか……こんな状況だしね、人に聞くよりも動物の方がまだまともな情報が得られるかも」
「そうしようか、スミスくん。消えちゃった若者集団の情報とかも、聞ければいいなー」
 邪神の所在を突き止めるのが現段階での目的だが、その為の情報は多いに越したことは無い。無法を働いた若者集団が――現時点での生死は別として――どこへ、どのように連れ去られたかを分かれば、大きく事態が前進するだろう。
 二人は動物に手近な動物に話しかけようと、歩きながら周りを見渡すが……居ない。ごみを漁る烏や気ままにぶらつく猫はおろか、日に一度は必ず目にするはずの雀まで。動物という動物が姿を消していた。
「動物の方が人間より何かにつけて敏感、というのは昔とそう変わらないね。裏を返せば、それだけ厄介な状況ということでもあるけど」
 時たますれ違う住民に視線を向けながら、スミスは思わずそう漏らす。これでは情報を得るも何もない。空気に混じる瘴気の濃さから、もう祠もほど近いだろう。そこから情報を得るしかないかと諦めかけた時、彼の耳に甲高い声が届いた。
「これは……鳥の鳴き声。あの公園から?」
「まだ残ってくれた子も居たのかなー? 話が聞けると良いね!」
 ちゅんちゅんという鳴き声は確かに鳥のモノ。それは垣根で囲まれた公園の中から聞こえてきた。瘴気の源もちょうどその公園内の為、渡りに船だとルーは公園内へと足を踏み入れ。
「ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。ちゅんちゅん」
「…………え?」
 鳴き声の主を見て、絶句した。
 それは鳥ではなかった。かといって人でもなかった。肩口から翼のように無数の腕が、臀部からは尾羽の如き幼い脚が、口元には上下で合掌する手首が生えた、全裸白塗りの男。中腰でしゃがみながら、合掌が開閉する度にちゅんちゅんという鳴き声が漏れ出ており、それが二人の聞いた音の正体だった。ソレはぐるりと首を巡らせると、濁った瞳で二人を捉える。
「なに、これ……」
「あれが化け物に決まっているだろう! ルーは後ろへ、我が仕留める!」
 悍ましい姿に思考のままならぬルーを庇うように、スミスが雪結晶の杖を手に前へと飛び出す。と同時に、ソレも無数の腕を振り乱しながら突進してきた。
「ちゅんちゅん。ちゅんちゅん」
「近寄るな、化け物が!」
 彼の頭上に冠された氷輪が回転するや、杖を通して放たれた冷気が相手を氷漬けにした。見た目とは裏腹に戦闘力は高くないのか、為す術もなくソレは動きを止める。だが、ほっとするのも束の間、相手の臀部からごろりごろりと丸い物が転がり落ちた。
 それは人の頭、数は三つ。嫌悪感よりも先に、嫌な予感がスミスの脳裏をよぎる。ソレは鳥を模していた。ならば生み出す丸い物など、一つしか考えられない。頭はめりめりと内側から破られると、中から倒した相手と全く同じ異形が現れた。
「どこまで、人という存在を弄べば気が済むのだ……!」
「ごめん、スミスくん。迷惑を掛けちゃったね……僕は戦いには不向きだけど、あれは放置しちゃいけないモノだ。春の息吹よ、あの不浄を捕まえて!」
 ぴぃぴぃと産声を上げる異形に歯噛みするスミスへ、我を取り戻したルーが援護を行う。花を模した錫杖を振るうと、そこから伸びた蔦が相手の全身を絡め取るや、ぎりぎりと締め上げていった。
 そうして相手を捕らえた後は、狂ったように手足をばたつかせるソレらをこれ以上見たくないと、手早くスミスが蔦ごと凍らせる。今度は念入りに氷で覆い尽くすと、異形はようやく静止するのであった。
「これが封印の解かれた影響、なのか。封じられている邪神とやらは、いったい何者なんだ」
「……相手の居場所を突き止められれば、それも自ずと分かると思うよ」
 ぼろぼろと罅割れ崩壊する氷塊の背後に、スミスとルーは破壊された祠を見つける。神たる二人であれば修復も、そこから繋がる邪神の封印場所を探るのも容易いだろう。だが一方で、先の光景は行方不明となっている若者たちの末路を想像するに十分すぎるほどの傷跡を、彼らの心に残したのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

蛇塚・レモン
<WIZ>
まずは周辺住民への聞き込み
史跡学者の助手なんです!
祠がどこにあるか教えてくれませんか?
(情報収集+礼儀作法+コミュ力)
周辺地図を『魔法の辞典』で呼び寄せて、迷わず向かうよっ
(地形の利用)

辿り着いたら戦闘だねっ!
見たことない魔物がたくさん!
蛇神様っ、一緒に戦ってっ!
(動物使い+範囲攻撃+念動力+鎧無視攻撃+衝撃波)
あたいも蛇腹剣クサナギを振り回して変則的な軌道で切り刻むよっ!
(範囲攻撃+生命力吸収+なぎ払い+ロープワーク)
鏡の盾とオーラで身を守る!
(盾受け+オーラ防御)

片付けたら祠の調査、の前に!
蛇神様、結界をお願いっ!
(2回攻撃+破魔)
蛇神様の力で再封印
第六感で異常がないか調査するよ


美星・アイナ
なんて言うか・・・胸くそ悪いも程があるわね(溜息)
とは言えこのままだと厄災が拡大必至
早急に対応しなくちゃ

祠の在り処は【情報収集】【コミュ力】【第六感】で調査
大型掲示板のオカルト系カテゴリ等に写真を上げて
見た事のある人から祠に関しての噂話や言い伝えがあるか聞いてみる

集めた情報は他の猟兵に拡散

怪物とのエンカウント時は
【ジャンプ】【踏みつけ】【スライディング】【2回攻撃】で
速やかに排除
【ダンス】【パフォーマンス】を織り込んで歌うように放つUCも折り込み、被害拡大を防ぐ

ユエインちゃんが眉間に皺を寄せるほどの悪意って
一体ここには何が居るのよ、嫌な予感がするわ(冷汗と身震い)


アドリブ、他の猟兵との連携可能



●やさしいおばさん
「なんて言うか……胸くそ悪いも程があるわね。ユエインちゃんが眉間に皺を寄せるほどの悪意って、一体ここには何が居るのよ」
 方々へ探索の手を広げていた猟兵たちが、ちょうど怪異と接触し始めたタイミングより少し前。同じようにこの地へ転送されてきた美星・アイナ(インフィニティアンロック・f01943)は、スマホを片手で操作しながら顔を顰めていた。
「好奇心は猫を殺す、と言うけれど。何もわからないまま巻き込まれるのと、どっちがマシなのかしらね」
 彼女がアクセスしているのは、オカルト系の掲示板だ。玉石混合の情報が集まるそこへ、写真やぼかし交じりの概要を書き込んで返信を待つ。大型連休中とあってか、ほどなくして幾つかのレスが付き始める。

『祠って道祖神とか塞の神とかそういうヤツ? だったら町の境目とか、昔の地図を見るのが早いかも』
『この間、ガラの悪い連中が家の近くのを壊しやがった。罰が当たっちまえ!』
『↑怖いもの知らずだな~。うちの近所にもあるけど、なんか今日はやけに人が集まってたね? まだ信仰されてるの?』
『いやいや大丈夫、こわいものじゃないよ』
『そうだよ。はこにはいって、いっしょになろう……みてるよね?』

 ぷつん。アイナはある程度有用そうな情報を漁り終えると、スマホの電源をいったん落とした。その顔には、汗が一筋伝っている。
「…………掲示板の住人が悪乗りしただけ、よね?」
「あ、情報取集終わったー? 地図に書き込んじゃうから、教えてくれると助かるよ!」
 その横では、仲間が情報を集めるのを待っていた蛇塚・レモン(叛逆する蛇神の器の娘・f05152)が、地図と筆記用具を片手に声を掛けてくる。他の仲間へ情報を共有するのであれば、一度分かりやすいように纏めるのが一番だ。アイナは頭を振って思考を切り替えると、得られた情報をレモンと共有する。
 祠は外部からの悪しきモノを弾き、内部から定ぬ為の境界線を担う存在であること。その為、多くは集落の外縁部にあること。この都市は市街地の発展に伴いその境界が押し広げられ、街の中に取り込まれた祠も多いこと。得られた情報としてはそんなところであろうか。
「ネットの情報だから、量は豊富だけど正確性や信頼性が少しばかり不安ね」
「でも、ここの近くにも一つ祠があるみたいだね。とりあえずそこに行ってみようよ。分からない部分は近所の人に聞けばいいしね!」
 そう言って歩き出すレモンの背を追いつつ、アイナは嫌な予感を拭いきれなかった。そうして二人が住宅地を歩いてゆくと、先の方から女性が歩いてくるのが見えた。買い物帰りだろうか、手提げ袋にサンダル履きの中年女性だ。レモンはそれを見つけるや、小走りに駆け寄って声を掛ける。
「あのすみません。ちょっとお話良いですか?」
「あらあら、若いお嬢さんどうしたの?」
「私、史跡学者の助手なんです! この街にあるっていう祠を調べてて、どこなのか教えてくれませんか?」
「まぁ、学者さん。お若いのに偉いのねぇ」
 人懐こいレモンの言動に、女性も面倒くさがる事無く応じてくれる。そのやりとりにアイナも僅かながらに緊張感を解く。空気は嫌なものだが、まだそこまで異変は起きていないのだろう。そう安堵しかけた、その時。
「貴女もあのお嬢さんとお友達なの? 二人で調べものなんて偉いわねぇ?」
「っ……!? ええ、そうなんです」
 背後から声を掛けられる。咄嗟に振り向くと、すぐ後ろに同じような中年女性が佇んでいた。前のやり取りを見ていたせいで、接近に気付かなかったのか。そう思いかけた彼女は、しかして表情を凍りつかせた。手にした袋に履いたサンダル、服装や顔形に至るまで、その姿は先の中年女性と瓜二つ。
「あ、あのえっと……そんな一度に話は聞けないよ!?」
 それと同時に、背後から上がるレモンの困惑した声。そちらに視線を向けると、異常事態は確定的となった。
「あらあら、祠について聞きたいの?」「あれはねぇ、入り口なの。でもずうっと閉じられちゃってたのよ」「子供が欲しいのに出来ない気持ち。私も分かるわぁ」「お嬢ちゃんもとっても可愛いから、丁度いいんじゃないかしら」「まぁ、それは良いわねぇ」
 同じ顔、同じ声、同じ服装の中年女性が、何人も何人も。いつの間にか人垣が出来ており、彼女らに取り囲まれていた。こんな光景、普通に考えればありえない。
「最近便利になったわよねぇ。スマホで何でも調べられるから、良い時代になったわぁ~」
「ッ!? レモン、こいつら人間じゃない、見た目だけ! 間違いなく、これが怪物よ!」
 その瞬間、アイナから躊躇は消え去った。あれはもう、倒すべき敵だ。彼女は眼前の女を蹴り飛ばしながら飛び上がると、マイクを構えて声を張り上げる。
「【コトノハ】は【言ノ葉】にして【言ノ刃】、物理で砕けぬ悪意でも言葉の刃にゃ叶うまい! 切って刻んで滅多切り、欠片遺さず塵となれ!」
 響き渡る歌声の刃が、女の姿をした群れを薙ぎ払う。相手が人でないと分かるや、レモンも困惑から一転して、即座に攻撃へと思考を切り替えた。
「よくも騙してくれたね! 蛇神様っ、一緒に戦ってっ! 調査の前に、一人残らず切り刻んでやるんだから!」
 手を伸ばして群がってくる女へ、レモンは蛇神の神力を籠めた念動で蹴散らし、手にした蛇腹剣で相手の全身を切り刻んでゆく。だが手が、足が吹き飛んでも、女たちは動きを止める様子はない。
「心配しなくていいのよぉ、どうせみんなはこのなかにはいるのだから」
「っ、うる、さいよ! お願い、蛇神様!」
 ざくりと、黙らせるように相手の頭部を撥ね飛ばしながら、ぐるりと蛇腹剣を振るうレモン。周囲を取り囲むように展開した刃は、強烈な破魔の結界を形成。一気に相手を一網打尽にし、跡形もなく消滅させるのであった。
「これは……予想よりも根が深いかもしれないわね」
「もしこんなのは町中に居るんだったら、とてもじゃないけど気が抜けないね」
 背筋に悪寒が走るのを感じながら、アイナとレモンは得物を収める。見ると少し先に立つ電柱の陰に、壊れた小さな祠らしきものが佇んでいた。あれが女の発生源であり、二人の探していたモノなのだろう。
 レモンが再封印を、アイナが情報を拡散する中、そこでようやく彼女達も他の猟兵に降りかかった事態を把握し、事態の深刻さを再認識するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

青葉・まどか
どうにも嫌だね。
ここの空気、【呪詛耐性】である程度は耐えられるかな?

若者達は遊び半分だったんだろうけど、「本物」に出会ってしまったのは運が悪かったね。
助ける事が出来ないなんて珍しくない、しょうがないよ。
…うん、しょうがない。

起きてしまった事はどうにもならない。
なら、次の被害者が出ないようにしないとね。

街中に漂う異質な雰囲気を遡って、祠を探すよ。
祠までの道すがらスマートフォンで情報収集。
周辺の地図をダウンロードして、人類防衛組織UDCに祠の来歴の調査を依頼。
情報は多い方がいいよね。

祠に到着すれば化け物のお出迎え。
こんな所で手間取る訳にはいかないよ『神速軽妙』発動。手早く片付けて、祠を修繕するよ。


三原・凛花
今回復活したっていうUDC、どうにも…他人には思えないね。

とりあえず【水子召喚】で子供達を呼んで、この異質な空気を辿らせて祠まで案内してもらおう。
一応は生者である私よりも、この子達の方が敏感に感じ取れるだろうし。
心なしか子供達もいつもより喜んでいる気がする。
その『ナニか』に親近感でも覚えているのかな。

祠に辿り着いたら、そのまま【水子召喚】による<生命力吸収>で、その怪物達の魂を取り込んで『お友達』にしちゃうね。
何だろう、こうしてみると私自身がその『コトリバコ』みたい。

怪物達を一掃したら【呪詛の篝火】で、この辺りに漂ってる異質な空気そのものを燃焼させて浄化することで魔除けをするね。


八坂・操
【SPD】

酔った勢いで祠を壊す若者集団! 襲い掛かる祟り! 撒き散らされる呪詛! 典型的なホラー映画の導入だね♪ 綺麗に入り過ぎて操ちゃん逆にビックリだよ☆
……ま、件の馬鹿はともかく、赤の他人が犠牲になるのは頂けないね。

そんな訳で、ちっちゃな操ちゃんカモーン!
【影の煩い】で出した操ちゃんを学校帰りの小学生達に『目立たない』よう紛れ込ませて『情報収取』だ♪ 祠とか怪しいものって、大人よりも子供の方が変化に敏感だからね☆
それに現れた怪物も狙うならか弱い女子供の方を狙うだろうし、倒すのも合わせて一石二鳥だね♪
「鬼さんこちら♪」
背後から『だまし討ち』すれば、対処も容易だろうしね♪


未不二・蛟羽
箱?何かが入ってるっす?
んー、分かんないけど、とりあえず壊せば良いんっすよね!
難しいこと分かんないし、【野生の勘】で嫌な感じがするところに向かって進むっす!

死んでないけど、助けられない?
何もできないの…嫌っすけど

…うん。助けられないから、悪いものは全部喰らわなきゃ
【ブラッド・ガイスト】で【No.322】を解放。両手足を虎のそれへと変化させて
もう出てこれないように、【大食い】全部
喰ったらそれで終わりで、かえるから
…っと、変なこと言ったっす?空気に酔ったっすかね?

祠って、どうやって作ればいいっすかね?
教えてくれる人がいるなら手伝うし、ダメなら上に大きめの石でも置いとくっす

【アドリブ・連携歓迎】



●『もと』ふりょうさんたち
「酔った勢いで祠を壊す若者集団! 襲い掛かる祟り! 撒き散らされる呪詛! 典型的なホラー映画の導入だね♪ 綺麗に入り過ぎて操ちゃん逆にビックリだよ☆」
 言動はおどけながらも、その言動はどこか寒々しく。八坂・操(怪異・f04936)の言う通り、一面だけを切り取ればそれは喜劇だ。ホラー映画や小説冒頭で犠牲になるモブそのもの。だがそれが現実に起きてしまえば、脅威以外の何物でもなかった。
「若者達は遊び半分だったんだろうけど、『本物』に出会ってしまったのは運が悪かったね。
助ける事が出来ないなんて珍しくない、しょうがないよ……うん、しょうがない」
 その言葉は、半ば自分へと言い聞かせるかのごとく。青葉・まどか(玄鳥・f06729)は、この世界でそんな悲劇はありふれていると口ずさむ。必要以上に入れ込んでも心の傷が増えるだけ、そうして割り切るのも心を守る術の一つだ。
「……ま、件の馬鹿はともかく、赤の他人が犠牲になるのは頂けないね。既に影響も出てしまっているようだし」
「そう、だね。起きてしまった事はどうにもならない。なら、次の被害者だけでも防がないとね」
 声音に真剣さを帯びさせた操に、同意を示すまどか。彼女はスマホを取り出すと、UDC組織に連絡を取る。個々の実力ならいざ知らず、彼らの強みは名前の通り組織力。こと情報収集などのマンパワー作業であればお手の物だ。
「祠がある場所のピックアップに、その来歴も調べて貰えると、後々役に立つかな」
「それならこっちは……ちっちゃな操ちゃんカモーン!」
 まどかが情報を集める間、操は実働用の手を増やすべく、自らの異能を発動させる。現れるのは小学生程度の姿をした操自身だ。赤いランドセルが、白いワンピースに映えている。
「祠とか怪談話とかって、大人より子供の方が夢中になるものよね。相手の傾向的にも女子供を狙うようだし、これなら一緒に混じっていても不審がられないでしょうしね♪」
 手を振る操に見送られながら、とてとてと幼操は一人情報を集めに歩き出した。今は丁度連休中だが、その分外で暇を持て余している子供とて少なくないだろう。彼女らはUDC組織と幼操から送られてくる情報を元に、位置の判明した祠を目指し進み始めるのであった。


 一方その頃、まどかと操が動き始めたのと同時刻。そこからほど近い場所でも、別の猟兵たちが調査を進めていた。
「今回復活したっていうUDC、どうにも……他人には思えないね」
「UDCというと、『コトリバコ』のことっすか?」
 ぽつりとそんな呟きを漏らした三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)に、共に調査を行っていた未不二・蛟羽(花散らで・f04322)が問い返す。勘の良い者は事前情報などから、今回の首魁が『コトリバコ』と呼ばれる呪物か、それに類するものであろうと当たりをつけていた。それに似ているのかと蛟羽が問えば、凛花は首肯し同意を示す。
「あれは女や子供を憑りつき殺す。それと同じ様に、私も『子供』たちやその『お友達』と一緒にいるから……ね」
 そういって視線を落とす彼女の周囲には、半透明の幼子の様な存在がゆらゆらと揺らめきながら歩き回っていた。黒髪の少女の年齢は、外見と著しく食い違っている。それらこそ凛花の生まれざる子供たちと、その『友達』と化した者の霊魂だ。
 蛇の道は蛇、瘴気霊障の類であればそれと近しい存在の方が感じ取りやすいだろうという判断である。どことなく生き生きと動き回る子らへ、凛花は心なしか穏やかな視線を向けていた。
「ふーん、なるほど。それにしても箱っすか。よく分かんないけど、とりあえず壊せば良いんっすよね!」
 聞く者が聞けば中々に重い話だが、彼女が長命であれば蛟羽は記憶喪失者。そういうものかとさらりと聞き流せるのは、ある意味美徳でもある。忌まわしい空気に誘われるように歩を進める水子たちを追いながら、常と変らぬテンションでこれから行うべきことを指折り考えている。
「恐らく、怪物がいるのは確定だから倒す必要があるとして……祠の封印ってどうすれば良いっすか? 教えて貰えれば新しく作るっすけど、駄目なら大きめの石でも代わりに置けば良いっすかね」
「怪物を退治出来たら、わたしの炎で異質な空気そのものを燃焼させて魔避けとするわ。本来であればちゃんとした物を建てるべきでしょうけど……一先ずはそれで十分かな」
 大元のUDCさえどうにか出来れば、致命的な事態にはならないはずだ。修繕・再建が最善ではあるが、祠の修理が不得手であれば事件解決後の対応でも最悪何とかなるだろう。尤も、それは邪神の討伐を成功させるのが前提条件ではあるが。
「ま、取らぬ狸の何とやら。兎にも角にも、今は祠を見つけて怪物を退治するのが先決っすね!」
 水子の先導の元、凛花と蛟羽は先へと進む。そうして彼らが向かった先は、再開発から見捨てられた通称『旧市街地』と呼ばれる区画の、丁度境界線上であった。


 操とまどか、凛花と蛟羽。場所が近いという点もそうだが、両組とも共通して子供を主眼に置いて調査を進めていた。故に、奇しくも彼らはほぼ同じタイミングで、同じ祠へと辿りつく。
 それは執拗なほどに砕かれた、石造りの祠。基部を残して粉砕されたその周りには、案の定彼らの想定通り『異形』が存在していた。
「あらあらまぁまぁ、これは中々素敵な姿で。町を歩けば誰もが振り向くこと間違いなしだね♪」
 テンション高く相手の姿をそう評する操。無論、そこには多分に皮肉が含まれている。
 彼らの遭遇した異形はまだ五体満足な分、人間に近しいと言えた。だが目玉は消え果て虚ろな眼窩と化し、半開きの口から覗く口内に歯が存在していない。爪という爪は剥がされ、髪の毛は無理やり引き抜いたのか、ぷつぷつと赤い点が散見された。全身が腐り墜ちたそれらが、都合二十体前後。しかし、それ以上に恐ろしい事実がそこにはあった。
「首のあれは、金のネックレス……? 手にはバット、それに身に纏っている襤褸切れって、まさか」
 まどかの声が震える。首の肉や指へ食い込む様に巻き付いているのは、金の装飾具か。身体にへばり付いている残骸は、スカジャンやジーンズのなれの果てか。そして手にした得物は金属バットに他ならない。そしてそんな恰好をしている人間たちに、彼らは心当たりがあった。
「死んでないけど、助けられない……ね。何もできないの、嫌っすけど」
 ぎりり、と。蛟羽は奥歯を噛み締めながら、そう苦い呟きを漏らす。知識の乏しい彼でもわかる。あれはもう『手遅れ』だ。である以上、やるべきことは一つしかない。
「……うん。助けられないから、悪いものは全部喰らわなきゃ」
 右腕の刻印より血紅色の帯が漏れ出るや、それは両手両足を虎の爪牙へと変じさせる。彼は思い切り地を蹴り飛び出すや、不良だったモノへと食らいつかせ咀嚼、臓腑へと飲み込んでゆく。
「ア、ウ……アア」
「そちらばかりに気を取られては、この子たちも退屈してしまうわ。どうか、『お友達』になって貰うね」
 思考か、ただの反射か。手にした得物を振りかぶる異形だが、その周囲を凛花の子供たちが取り囲んだ。甘える様に縋りつくそれらが触れた箇所より、僅かながらに残っていた魂が吸い取られてゆく。くしゃりと、肉塊と化した体が崩れ落ちた。
「何だろう、こうしてみると私自身がその『コトリバコ』みたい」
「もし相手が似たような力を持っているのだったら、厄介ってもんじゃないけどね~」
 軽口を叩きながら、操も敵中へと飛び込む。幸いにして、相手の動きは緩慢だ。死角となる位置を取り続けながら攻めたてる操に、相手は反応しきれていなかった。
「手早く、片づける。それが、今できる最善の事だから」
 しかし、それにもましてまどかの動きはより速い。一瞬取り乱したものの、踏ん切りをつけた彼女は一分一秒が惜しいとばかりに短剣で急所を的確に切り裂いてゆく。数は多いものの、猟兵側も手練れ揃い。瞬く間に不良だったものは駆逐されていった。

「喰ったらそれで終わりで、かえるから……っと、とと。あれ、何か変なこと言ったっす?空気に酔ったっすかね?」
「寧ろ、悪い物を食べたって感じじゃないかな? ゾンビ映画みたく途中で豹変だけはしないでくれよ」
 戦闘後、はっと我に返る蛟羽の様子に肩を竦める操。半ば意識を飛ばしていた彼を操が見守っている間に、浄化に関しては凛花が炎によって既に祓い清めていた。あとはここから大元への道筋を辿るだけだ。一通りの作業を終えた彼女は、難しげな表情でスマホを見ているまどかを見つけ、声を掛ける。
「どうかした? あなたも気分が悪くなったの?」
「ああ、いえ。UDC組織に頼んでいた情報取集結果が返ってきたんですけど」
 そういって、まどかはスマホの画面を凛花へと見せる。そこには簡素な文体で、江戸時代後期から祠が増え始めていること、その少し前に子を失い狂死した女が居たこと、という情報が認められていた。だが、問題はその末尾。
 ――『ありふれたひげき。だけどそのなげきまで、ありふれたいたみじゃないよ』
 前の文章とは明らかに異質な一文。僅か一行にも満たぬそれが、その他の情報よりも遥かな重みを持っているように感じられるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

落浜・語
【ヤド箱】(ティンタンさん、フィンさん、津雲さん)で

つまりあれか、コトリバコ、か。
なんというかまぁ…馬鹿だな。そんな連中は自分らだけで、勝手に自滅すりゃいいものを……。
他所に悪影響が出るのはいただけないんで、サクサク片づけるか。

【第六感】と【情報収集】あとは、【聞き耳】使って、祠の位置をできる限り調べる。再封印なんかは、津雲さんとかに任せた方が多分いいな。
気になったんだが祠の位置と、封印とで何か関わりがあったりするんだろうか。ありそうなら、カラスと上空から調べてみる。
戦闘に関しては、他の人らに任せるような形になるかな。あとは、カラスにどついてもらうなり、なんなりと。


勘解由小路・津雲
【ヤド箱】四人で参戦
※アドリブ・連携歓迎

結界は破れ、陰陽の理が均衡を崩した。たださねばなるまい、陰陽師として。退魔師、勘解由小路、いざ参ろうか。手遅れになる、その前に。

■行動 ふうむ、結界を探すこと自体は難しくはなさそうだな。一応「第六感」「失せ物探し」を使っておくとしよう。しかしそうなると、問題は「化け物」と邪神の位置か? ここは攻守に使える【符術・結界陣】を展開しておこう。おそらく霊符は再封印にも使える、はず。

再封印は、特定の手続きなどはあるのだろうか? 壊された祠からその辺りも調べてみよう。また、祠の配置などから邪神の位置は推測できないものか。事前に地図などを入手しておこう。


ペイン・フィン
【ヤド箱】
主にファンと行動。

……良くない感じ、すごいね。
単なる怨念とかじゃ無い、もっと違う何かを感じるよ。
……すごく、気持ち悪い。

ひとまず、祠を直したり、新しい祠を作っていくことにしようか。
材料は、ある程度は持ち込むけど、いざとなったら現地調達。
周囲の木を切ったりして、簡易的な祠を作るよ。
もちろん、形だけだと、効果が無いかもしれないから、封印とかは、仲間に任せようか。

……それと、何か、敵とか出てきたら……。コードを使用。
毒湯”煉獄夜叉”を多重生成。
怪物を、或いは、怪物になってしまったものを、倒そうか。
……本当は、あんまり、こういうこと、したくないけどね……。
せめて毒は、即死できる物にしよう。


ファン・ティンタン
【WIZ】はらたまきよたま
【ヤド箱】で参加
※主にペインと同行、アドリブ大歓迎

(誰かを呪わんとして作られ、意図した外で雪だるま式に呪いを溜め込んだ過去を持つ【千呪鏡『イミナ』】を見て)
呪いの類は、この子でもうたくさんだよ…
…気を取り直して。私は本来、持ち主を災厄から護るための物だったからね
こーゆー事態は、お手の物だよ

自らが【天華】を媒介に、修繕された祠へ【祈り】を捧ぐ
【スピリット・オブ・サウンド】に乗せた【破魔】の祝詞を以って祠の【呪詛耐性】を強め、周辺への影響力を高める
敵が現れるなら、流麗な【ダンス】の歩法で攻撃を【見切り】、【なぎ払い】斬り捨てる

ペインの邪魔、しないでよ
折角頑張ってるんだから



●こびとさんたち
「成程なぁ……こいつはつまりあれか、『コトリバコ』か。なんというかまぁ、馬鹿だな。そんな連中は自分らだけで、勝手に自滅すりゃいいものを……」
「……良くない感じ、すごいね。単なる怨念とかじゃ無い、もっと違う、どろどろとした何かを感じるよ。……はっきり言って、すごく、気持ち悪い」
 『ヤドリガミの箱庭』の面々が地方都市へ足を踏み入れたのは、他の猟兵が行動を開始し、徐々に彼らが遭遇した事態の情報が上がり始めた時分だった。
 それらを眺め呆れ果てる落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)と、むかつきを覚える様に胸元を撫ぜるペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)。すぐ傍にはその背をさするファン・ティンタン(天津華・f07547)や、勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)の姿もあった。津雲はペインと同じように服の裾で口元を覆いながら、語へと疑問を投げかける。
「コトリバコ……名前から察するに、呪物か何かか?」
「簡単に言えば中に子供の血肉を詰め込んだ箱だよ。効果は中に詰めた子供の数に比例し、周囲の女子供を呪い殺すことらしいが……果てさて、どこまで事前知識が通用するのやら」
 この世界でも、同名のオカルト話が囁かれることも多い。だがそれとオブリビオンたるUDCにどこまで共通点があるかは分からない。呪物という単語を聞いたファンは、恋人の背をさすりながらそっと、自らの持つ手鏡へ視線を落とす。
「呪いの類は、この子でもうたくさんだよ……私は本来、持ち主を災厄から護るための物だったからね。こーゆー事態は、お手の物だよ」
「材料も持ち込んでいるからね……修理も、あたらしい祠をつくるのも、問題ないよ。祝詞とか、御祓いとかは、門外漢だけど……」
「なに、そこは俺に任せてほしい」
 ペインの抱えた鞄の中には、手ごろの大きさの木板や携行用の工具セットが収められている。これであれば、例え祠が粉微塵にされていても一から作り直すことも可能だろう。尤も作れるのは形だけで霊的な領分は不得意だという彼に、津雲が問題ないと胸を張る。
「そういった物はこちらの専門分野だ……結界は破れ、陰陽の理が均衡を崩した。たださねばなるまい、陰陽師として。手遅れになる、その前に」
 退魔師、勘解由小路。いざ参ろうか。決意を新たに固め直す津雲を先頭に、四人は祠を目指して進み始める。幸いにしろ、仲間からの情報で大まかな場所は目途が立っていた。当然、注意すべき点も。彼らはなるべく住民に接触しないよう、周囲を警戒しながら進んでゆく。
 ――ほどなくして。
 四人は大きな妨害を受ける事もなく、目的地へと到着する。場所は市街地の外縁部、木々もまばらな森の中。石造りの簡素な階段があり、緩やかな斜面の先に件の祠はあった。バットを思い切り振り下ろしたのだろう、木製の屋根が痛々しくひしゃげていた。
「他の場所では化け物が出たらしいけど……見当たらないようだね」
「そう思わせた瞬間にいきなり、ってのは怪談物の定番だがな。どうする?」
 ファンが油断なく周囲を警戒するが、四人以外に目立って動くモノは無かった。指示を仰ぐ語に、津雲はふむと思案する。
「……敵が居ないに越したことは無いが、気は抜けん。語は周辺警戒を任せられるか? ペインに祠を修理して貰いつつ、俺とファンが再度封印を施そう」
「了解。ついでに他の祠との位置関係とかを、上から見ておくぜ。そこらへんが、どうにも無関係とは思えないしな。という訳で頼むぞ、カラス?」
 語の呼びかけに、頭上より首回りだけが白羽の鴉が舞い降りてくる。通常のサイズと同等だったそれは見る間に体を巨大化させ、本来の姿を取り戻す。語はその背に跨ると、天高く舞い上がっていった。
「さて、こちらも再封印の準備を進めてしまおうか。如何なる厄災もここより立ち入りを禁ず、急急如律令!」
「近くで何が起こっても私たちが対応するから、ペインは焦らず祠の修繕をお願いね?」
 津雲が自らの周囲へ霊符を展開し、ファンが自身たる白刀を構えて周囲へと意識を向ける。手数、反応速度共に申し分ない。空から語も警戒している以上、敵がやってきてもすぐさま対応できるだろう。
「うん、分かった……元の祠の残骸は、出来る限り再利用した方が、良いかな?」
「ああ、頼む。年月を経て霊力も帯びているだろうから、封印もしやすくなるだろう」
 津雲の回答に頷くと、ペインはそっと祠に近づく。無残にも壊された惨状を前に、彼は一瞬だけ痛ましげに目を閉じて祈る。そうして、修繕の為にそっと祠へと手を伸ばし。
「っ、痛……!?」
 がっちりと、その腕が掴まれた。ぎりりと全力で握りしめられ、ペインが思わず痛みに呻く。見ると、祠の正面扉がいつの間にか開いており、そこから無数の手が飛び出していた。だが彼も猟兵だ、この程度動じることなく対処できよう……それがただの手であれば、だが。
『おねがいたすけてここからだしてくらいのやだ』『なんで俺だけこんな目にあうんだ、おかしいだろ! お前もこっちにこいよ!』『こわくないよ、おいで』『でれた? でれた!』
 外側から順に。親指と小指が脚、人差し指と薬指が腕、そして中指が頭。それは手の様な人間というべきか、人間を手に落とし込んだとでもいうべき、紛れもない異形。それらは文字通り全身でペインの腕を抱擁しながら、きぃきぃと呪詛を吐き続けていた。
 人の苦痛や絶望ならば、彼は真実嫌という程見てきた。だが、これはなんだ。これは人と呼んでよい物か。目の前の光景を処理しきれず、ずりずりとペインが祠へと手繰り寄せられる中。
「……ペインの邪魔、しないでよ。折角頑張ろうとしていたんだから……勝手に連れていこうだなんて、許さない」
 誰よりも何よりも早く反応したのは、他ならぬファン。ダンッ、と石畳すら穿つほどの勢いで白刀が振り下ろされるや、手首の先を一刀の元に切断する。引く力が途絶え体勢を崩しかけたペインを支えながら、彼女は祠より飛び退いた。
「成程、こちらの目的は再封印。となれば必然的に祠に触れざるを得ない。そこを狙ったか……どこまでも人の道を踏みにじる手合いだ、反吐が出る」
 二人と入れ替わる様に、間髪入れずに津雲が霊符を放つ。それらは手首を切り落とされた腕は元より、祠そのものへと張り付き異形の邪気を封じ込めてゆく。そもそもそこまで強力な手合いではないのか、霊符の呪力に抗しきれず抑え込まれていた。
「大丈夫、ペイン。怪我はない?」
「うん、大丈夫。ありがとう……でも、まだ終わってないよ」
 自らの身を案ずるファンの言葉に、礼を述べるペイン。だが相手の姿を間近で見たからこそ、彼はまた事態が収束していないことを直感していた。そして、それは現実のものとなる。
『イダイ、いたい、いだぁああぁあっ!』『なにしてんだオレをだすげろよぉおっ!』『うごける! うごける!』
 切り落とされた手首たちは、それではまだ動きを止めなかった。耳障りな絶叫を放っていたと思うや、ぼこぼこと肉が膨れ上がり、見る間に子供程度の大きさ程にまで成長する。それはハイハイする赤子の様にも見えるが、受ける印象は愛らしさとは真逆だ。
「おいおいおい、とんだ化け物だな、こいつは! 他所に悪影響が出るのはいただけないんで、サクサク片づけるか!」
 と、ここに来て地上の異常事態に気付いた語も、鴉を手繰り舞い戻ってくる。大きくなったとはいえ相手はせいぜい子供程度、対する鴉は語の優に二倍の大きさだ。頭上より急降下を繰り返しながら異形を攪乱し、そのうちの一体を掬い上げて上昇する。
「まかり間違っても、そいつは食うなよ。腹を壊すだけじゃ済まないからな?」
 語の声掛けにカァと一声鳴くと、鴉はぱっと掴んでいた手首を投棄する。上空から落とされた手首は為す術もなく地面へと落下、骨の砕ける音と共に鮮血をまき散らして激突した。
『あ、え……なん、で……』
 びくびくと痙攣しながら絶命する手首に、思わずファンは目を逸らす。これらは倒すべき存在で、仲間を傷つけようとした相手だ。しかしだからと言って、この有様は幾らなんでも惨すぎる。もしこれがこちらの精神面を攻撃する為だとしたら、非常に効果的だと言えた。
「あれは単に人の言葉を模倣しているだけなのかな。それとも、本当に……」
「関係、ないよ。本当の怪物だろうと、或いは、怪物になってしまった者だろうと……倒すしか、ない」
 そんな光景を見せぬようファンを背に庇いながら、ペインは前へと踏み出す。手にするは竹筒、中身は一滴浴びれば瞬時に死へ至る猛毒湯。それを複数呼び出し、全ての栓を抜く。
「……本当は、あんまり、こういうこと、したくないけどね……せめて、痛みを感じる間も、ないくらいに」
 周囲にまき散らされた液体は絶死の雨。触れた手首たちは断末魔を上げる事すら叶わず、苦悶の表情のままばたばたと地面へ崩れ落ちる。それらはしゅうしゅうと音を立てて肉が腐り落ち、骨すら砕けて塵と化してゆく。数度瞬きする間に、それらが存在していた痕跡は、全て消え去るのであった。

 時間にしてみれば、ほんの数分だけの戦闘。森の中は先ほどの光景がまるで白昼夢の様に、元の静けさを取り戻していた。流石に壊された祠をこれ以上触るのが憚られた為、ペインが一から祠を再作製し、津雲とファンが祝詞と舞を奉ずることで再封印という形を取っていた。
「やれやれ、何とか封じられたようで何よりだ。もし何かしらの正式な手順が必要とされていたら、手の打ちようもなかったな」
「こちらの破魔の祈りも通じたみたいだね。さっきよりも、嫌な空気が大分薄らいだよ……尤も、大元を断たない限り焼け石に水だろうけど」
「二人とも、お疲れ様、だよ」
 一通りの作業を完了させ、ほっと一息つく津雲とファンに、ペインが労いの言葉を掛ける。ファンの言う通り根本的な解決にはならないものの、それでも狂気の拡大を食い止められるだけでも大きな成果だ。
 一方でそうした領分に疎い語は、代わりに上空から街を見た際の情報を取りまとめて、仲間へと共有する。
「報告の上がっている祠の場所を、上からざっと確認してみたんだけどな。多少歪んじゃいるが、どうやら何かしらの図形を描いているようだぜ」
 広げた地図の上にペンで印を着け、各位置を線で結んでゆく。こういう場合、大抵は円を描く場合が多いが、今回は違った。それは直線と直角によって形作られる、最も単純な図形――つまりは。
「四角形、つまりは箱だ。この街全体がすっぽり箱に囲まれて……いや、馬鹿でかい箱の中に入っちまっている」
 続けて、彼は図形の対角線同士に線を引き、×印を描き出すとそこに指を置いた。
「件の邪神が居るのは、十中八九中心のここだろうな。津雲さん、合ってるかい?」
「方角的にも……そうだな、そちらの方角へ祠から霊的な繋がりを感じる。間違いないだろう」
 語の指摘に頷く津雲。地図上に示された印を見つめ、ペインがその場所の名を口ずさむ。
「旧市街地跡……?」
「街の発展に伴い、寂れていったかつての中心部だそうだよ。何とも曰くがありそうじゃないか」
 彼の疑問に応じてその場所の情報を捕捉するファン。そこに何が待ちうけているかは定かではないが、ここで見たモノ以上の何かが待っているであろうことは想像に難くない。
 四人は気を緩めることなく、旧市街地跡目指して移動を開始するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ゆかりちゃん』

POW   :    「ただいま」「おかあさん、おとうさん」
戦闘用の、自身と同じ強さの【母親の様な物体 】と【父親の様な物体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    「どうしてそんなへんなかおでわたしをみるの?」
【炎上し始める捜索願いからの飛び火 】が命中した対象を燃やす。放たれた【無慈悲な】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    「ひどいよ、ひどいよ、ひどいよ」
【嗚咽を零した後、劈く様な叫声 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ようこそ、はこのなかへ
 旧市街地。元々はこの地方都市の中心部で在り、江戸時代初期の宿場町をその起源としている歴史ある場所だ。だが近代の発展に伴って主流より外れた結果、都市が発展しても再開発される事無く、今では手つかずのまま放置され寂れた場所となってしまっている。
 そんな前情報と共に突入した猟兵たちであったが、彼らは一様にある直感を抱いた。
 ――ここは主流から外れてしまい、見捨てられたのではない。
 ――ここに眠る強大な『何か』を恐れて、見て見ぬふりをしたのではないか、と。
 それほどまでに、この市街地には醜悪な空気が漂っていた。それこそ、祠の周囲で感じたものの何倍もの濃さだ。身体的な悪臭はいずれ慣れるが、これは肉体による感覚ではないため、慣れることは無いだろう。寧ろ、慣れてしまえばその時点で手遅れだとも言えるかもしれない。
 そうして細心の注意を払いながら、朽ちた民家や崩れた塀、草木が伸び放題となった空き地を進んでいた……その時。
『おともだちだ。おともだちが、はこのなかに来たよ』
『うれしいね。みんな、わたしになるんだね。ボクがわたしになったように』
『ボクってだーれ? みぃんなこども。はこのなかで、こどもになるの』
 前後左右から声が響く。と同時に、民家の扉が開き、塀を乗り越え、茂みの中から、幾人もの少女が姿を見せた。全員が同じ格好、同じ背丈、同じ年齢。まるで誰かがその通りになるよう整えたかのように、全く同じ少女が猟兵たちを取り囲む。
『さぁ、かわろう。こどもになろう?』
『いっしょにあそんでくれるだけでいいよ。そうしたらなれるよ、みんなみたいに』
『なれなかったら、おそとへぽーい!』
 無邪気、無垢、純粋。しかしてその根元は醜悪そのもの。猟兵らを自分たちの仲間にすべく、襲い掛かる少女達。
 さぁ、彼女らを調伏し、箱の中心へと至るのだ。

※マスターより
 第二章プレイング受付は29日(月)8:30からとなります。もし29日(月)時点でプレイング人数が10名を超えている場合、残りの方につきましてはお手数ですが30日(火)8:30にプレイングを送りいただけますと、執筆時間確保の関係で非常に助かります。
 引き続きよろしくお願いいたします。
美星・アイナ
悪意に呼ばれてやって来たら
こんな醜悪な光景とご対面か

『はこ』って何?
いえ、多くを考えるのは後よ

ペンダントに触れて交代する人格は
浄化の焔を纏う舞姫
『幼心の持つ漆黒の悪意、此処で浄化致します』

力溜めの跳躍から剣形態の黒剣で2回攻撃のなぎ払い
草木や塀、民家の屋根などを有効活用し
パルクール系パフォーマンスを織り込んだ動きで翻弄しながら
歌うように詠唱したUCで生み出した赤水晶の欠片を一斉発射

合わせるように欠片で生じた傷口をえぐる様に剣の切っ先をねじ込む
数が少なくなったら欠片を錬成して作った西洋槍で串刺し

攻撃は呪詛耐性、激痛耐性、見切り、覚悟で耐える


さあ出ておいで 、はこの持ち主さん
お仕置きの時間だよ


青葉・まどか
ハコの中の旧市街地。
異様な少女たち。
少女たちは何処から来たのか?
封じられていたのか、それとも最近、成ったのか?
彼女たちも犠牲者だったのかもしれない。
けれど、今は違う。
無邪気に、でも悪意に満ちた様子で同類を増やそうとする姿は悍ましい。

貴女達の仲間になる訳にはいかないんだ。
止めさせてもらうよ。

【神速軽妙】発動。
フック付きワイヤーを駆使してワイヤーアクションでのヒット&ウェイが基本戦術。
範囲攻撃と二回攻撃を駆使して殲滅速度を上げていくよ。
敵の動きをよく見て、攻撃を回避したらカウンターを仕掛けるよ。

彼女たちも望んで成ったわけじゃないよね。なんとしても、この事件の元凶を止めてみせるよ。



●どこからきたの? もうわすれちゃった。
「悪意に呼ばれてやって来たら、こんな醜悪な光景とご対面か……」
「ハコの中の旧市街地と異様な少女。彼女たちは何処から来たのか? 封じられていたのか、それとも最近、成ったのか? それを知ったところで、救いがあるかどうかは、分からないけど」
 姿を写し取る者、オリジナルの量産コピーなど、同一存在という敵自体はそこまで珍しくはない。ただ、眼前の少女達がどうして『そう』なったのか、そこに秘められた悪意の深さは他の比ではないだろう。そっと胸元のペンダントに手を伸ばすアイナの横で、まどかは眼鏡の位置を調整しつつ、短剣を鞘より引き抜く。
「彼女たちも犠牲者だったのかもしれない。だけど……今は、違う。貴女達の仲間になる訳にはいかないんだ。止めさせてもらうよ」
 元が何であろうとも、今は呪いを濃縮し、呪詛領域を広めようとする一要素に過ぎない。手加減も同情も、躊躇も最早は不要。無邪気さと悍ましさの同居した存在を断つべく、彼女は思い切り地面を蹴り上げる。
「市街地だと動きが制限されがちだけどね……こういう戦い方だって出来るんだよ」
 フック付きのワイヤーが射出されたと思うや、まどかの姿がその場より掻き消える。瞬き一瞬――少女に顔があるとすれば――の間に彼女は民家の屋根へと移動すると、そこから見下ろしていた少女の首を切り裂き落とした。
『あーあ、あたまおちちゃった。できそこないは、すてられちゃうね』
『こどもはね、おとなしくて、すなおなほうが、かわいがられるんだよ?』
 仲間が斃れたのにも無感動に、少女達は顔面を向けてくる。ぼわりと、少女達の顔に貼られた捜索願が燃え上がるや、そこから跳んだ炎がまどか目掛けて殺到し、脆くなった屋根瓦を焼き崩す。着弾前に彼女は飛び去り回避していたものの、相手の数も多い。戦いが長引けば捕捉される危険もあるだろう。
『みんなー、あんまりはこのなかをこわしちゃ、メッだよ?』
「『はこ』っていったい何なの? UDC、それともこの領域そのもの? ……いえ、多くを考えるのは後よ。『幼心の持つ漆黒の悪意、此処で浄化致します』!」
 湧き上がる疑問を抑え込み、アイナがペンダントに触れた……瞬間。彼女の言葉遣い、立ち振る舞いが変化する。明る気なものから、冷たく怜悧な人格へと。アイナは剣形態の得物を構えるや、倒れ込むような姿勢で地を駆ける。少女達も炎で応射してくるも、速度任せで強引に塀壁を走り抜け、一刀の元に相手の胴を切り捨てた。
『しずかにしてなきゃ、おこられちゃうよ。そんなのやだ、こわい、もうあの、なかは』
 行っても聞かない猟兵たちに堪りかねたのか、ふるふると少女の一体が肩を震わせる。それが攻撃の予兆だとアイナが察知した瞬間、戦場に甲高い絶叫が響き渡った。
『もう、いやだぁあああぁぁあああっっっ!』
「っ、この声は子供、じゃない……!?」
 その声が一瞬、声変わりした男のそれに思えた。だが、その真偽を確かめている暇は無い。相手が声を武器してくるのであれば、負けてなどいられない。
「地に落ちた血涙達、姿を変えて此処に集え……行き場なく囚われた哀しみと怒り、水晶の炎に変えてここに放たん!」
 歌うように紡がれる詠唱と共に、アイナの周囲に紅の結晶炎が生み出される。灼熱の焔と鉱物の鋭利さを備えたそれらの数は、都合二十と八。
「さあ――骸も遺さず焼き尽くせ!」
 締めの言葉と共に、アイナが突撃を敢行する。先に放たれた結晶炎が少女の首元へとめり込み叫びを封じるや、放たれた黒剣による二の太刀が頸を撥ね飛ばした。失った頭部を求める様によたよたと彷徨う胴体、その心臓へ短剣を穿ち止めを刺しながら、まどかは悲しげに呟きを漏らす。
「貴方たちも望んで成ったわけじゃないよね。なんとしても、私たちがこの事件の元凶を止めてみせるから」
「ええ。はこの持ち主さんには、お仕置きの時間が必要だよ」
 ひゅんと、刃を振るい血糊を払うアイナ。二人は少女達を蹴散らしつつ、邪神が居るであろう旧市街地深部を睨むのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

尾守・夜野
あー…
ちいせぇのはやりづれぇな
仲間になんざなれねぇんだよ

んな変な奴ではなく、本当の両親の所、またはいづれ逝く所に送ってやんよ

本体のみを狙っていくぞ
…というか、呼ばれる両親っぽいのもまともな形してるとは思えねぇ
箱に入るように小さくされてるんじゃね?

そう思って隙間を縫うように動こうとする。

痛みを与えねぇように一撃必殺を心掛ける

あまりに両親の数が多く動けねぇようなら

【黒妖犬召喚】で相手させて、隙を作る


音羽・浄雲
※アドリブ、絡み歓迎です。

「全員が同じ様に作り替えられているのですね・・・。ということは先ほどのは外へ棄てられたいらないものという訳ですか」
 冷静な口調とは裏腹に浄雲の腸は煮えくり返っていた。再び詭り久秀を袖口から垂らし臨戦態勢に入る。
「生命への冒涜と言うべきでしょうか。己の都合の良い様に作り替え、要らぬものは棄てる・・・赦しておける所業ではありませんね」
 袖口から糸を垂らしたまま両手を眼前に構えて広げ、音羽忍法【絡新婦】を放つ。そしてその放った糸に紛れさせ詭り久秀も同時に張り巡らせる。
「さあ、あやとりの時間ですよ。満足したら迷わず逝って下さいね」
 優しげに微笑み、糸を繰る。



●こうなったらおわり。かえるばしょなんて、ない。
『みんなおなじ。みんないっしょ。なにがいや?』
『よけいなものは、ぜんぶすてちゃった。すっきり』
 ゆらゆら、ゆらゆらと。猟兵たちの周囲を取り囲む少女の数は、時と共にその数を増している。ここは相手の本拠地のようなもの、それもある意味当然だ。だが浄雲が眼前の敵群に対して抱くのは、脅威ではない。
「全員が同じ様に作り替えられているのですね……。ということは先ほどの『アレ』らは、外へ棄てられたいらないものという訳ですか」
 それは、怒り。脳裏には先ほど見た手、足、髪だけの異形の姿がよぎる。大人と子供では、必然的に質量が違う。であればまさしくあれらは用済みとなった『あまりもの』だったのだろう。
「あー……ちいせぇのはやりづれぇな。大きさ的にも、心情的にも。でもな、仲間になんざなれねぇんだよ」
 だが、元がどうにせよ眼前に居るのは見た目幼げな少女。それに背後事情を察してしまえば、刃が鈍る者とて出てもおかしくはない。しかし、夜野は右手に怨嗟の剣、左手に釘弾の単発銃を構えて敵対の意思を示す。
「んな箱にこだわる変な奴ではなく、本当の両親の所、はたまたはいづれ逝くはずだった所に送ってやんよ」
「貴方達の在り様は、生命への冒涜と言うべきでしょうか。己の都合の良い様に作り替え、要らぬものは棄てる……どのみち、赦しておける所業ではありませんね」
 邪神、討つべし。異形、葬るべし。やるべきことはただ一つ、取った戦法は好対照。先ほどと同じように袖口からだらりと蜘蛛糸を垂らす浄雲の横を、手にした武器を捕食携帯へと変じさせた夜野が駆け抜けてゆく。
 しかし、少女達も異形を通じて猟兵の戦法を観察していた節が見え隠れしていた。そのせいだろうか、彼女らは飛び込んでくる夜野へ慌てることなく対応する。
『おかあさんは、はこのもとにいるよ。おとうさんは、どっかいっちゃった』
『おとなならだいじょうぶ。こどもじゃないけど、あいしてほしい?』
 ずるりと、少女達の足元から大きな人影が二人一組現れる。のこぎりや箱を手にしたそれらの姿に、夜野は見覚えがあった。
「呼ばれる両親っぽい何かがまともな形をしているなんざ、端っから思っちゃいなかったが……あれは『箱』に入れちまった連中か。思ったより数が多いな」
 祠より漏れ出た瘴気に当てられた発狂者集団。恐らく、あれらはその中でも『手遅れ』になってしまった手合いなのだろう。手足の長さはばらばら、体のあちこちがひしゃげており、既に手遅れなのは明らかだった。
 少女達は彼らの維持に力を割かれ、戦闘に加わることが出来ない。だが一方で単純な数であれば一瞬にして三倍に増加している。夜野が得物を振るうたびに呼び出された大人が吹き飛ぶも、数の差は如何ともしがたい。だが彼が攻めあぐねる後方で、浄雲は事態打破への布石を既に打っていた。
「数が多く、密集している。確かに脅威ですが、わたくしにとってはむしろ好都合。搦め捕って差し上げましょう」
 彼女が掌を眼前へと向けると、粘着性の糸が幾条も放たれる。それはまさしく蜘蛛の捕縛糸。相手の体へと張り付いた糸は浄雲が手繰る度に敵同士を接着させ、身動きを封じる。だがそれだけでは終わらない。柔軟な糸に混じって張り巡らされているのは、硬く鋭い鋼糸。
「さあ、子供らしくあやとりの時間ですよ。満足したら迷わず逝って下さいね」
『ああああああああっ!?』
 まさしく一網打尽。ぐんと糸の圧を上げた瞬間、少女と大人合わせて二十近い敵が微塵へと変えられた。大人を失った少女は狂ったように泣き叫ぶも、その声は瞬時に途切れる。彼女の首筋には、黒い猛犬が食らいついていた。
「本体さえ倒せれば、それで仕舞だ……せめてこれ以上痛みを感じさせねぇよう、一撃で終わらせてやる」
 ダンッ、と響いた銃声と共に、少女の顔面に張り付いた捜索願に弾痕が穿たれる。夜野は弾を込め直しつつ次の標的へと狙いを定めた。
「さぁ、次に救われたいのはどいつだ。ここで終わらなきゃ、もう消える事すらできねぇぞ」
「仲間にはなれませんが、遊びのお相手程度はしてさしあげましょう。遠慮は要りません、冥途の土産というものです」
 ごっそりと数を減らされたものの、少女達の様子に変わりはない。だがほんのわずかに彼我の距離や力量差を測る様な素振りが感じられる。そんな時間など与えはすまいと、夜野と浄雲は引き続き敵陣へと切り込んでゆくのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

スミス・ガランティア
【引き続きルー(f17549)と共闘】

(真剣時の口調のまま)
子供……。
……いや、彼女らは違う。我が手にかけた無辜の民ではない。ああ、違うとも……かつてはそうだったのだとしても(言い聞かせるように
ってこら、吐くのは後だ。

放棄された旧市街地……であれば、思い切り力を奮っても構わないだろう。周囲の建物を【氷結の世界】で氷や吹雪に変え操作&ルーが誘導してくれた敵を攻撃。炎もこれで相殺出来ないだろうか。出来なくとも延焼は防ぎたいのだが。

召喚を行われた場合は、物体ではなく召喚した本人を狙って吹雪を向けよう。物体の妨害はルーに任せた。
叫び声は……【オーラ防御】でどうにか出来ないか。ルーも【かばう】つもりだ。


ルー・ガランサス
【1章に引き続きスミス・ガランティア(f17217)くんと行動】
うあー、フンイキが強め。ダメっぽいですねー。イロイロ。僕とか僕とか。げろげろしていい?

コドモちゃんだ? あ゛ー……、そっかそっか。少しでもみんなが幸せになるには、やっぱりギセイは仕方ないやつかなー。祠の奴らより可愛げがあるから遠慮とかいらないやつかもー。

【リザレクト・フルール】の蔦で敵を縛って、スミスくんを援護しようか。
僕は動物に乗って敵の誘導をするよ。サイあたりなら火に強いし速いしいいんじゃないかな。

POW攻撃には蔦で物体を捕縛。SPD攻撃はサイで回避。WIZ攻撃はスミスくんに任せたよ!



●わたしはわたし。だれでもないよ?
 くすくす、くすくす、と。塀に腰かけ、玄関に佇み、草木の間を歩き回りながら、少女達は囁くような嗤い声を漏らす。こんな状況でなければ、パッと見可愛らしい光景。だがどれだけ精緻に整えようと、人ならざる神の身に上辺だけの虚飾など通用しない。
「子供……いや、彼女らは違う。我が手にかけた無辜の民ではない。ああ、違うとも……かつてはそうだったのだとしても」
 己が犯したかつての罪業。少年は氷像と化し、少女は涙を流して慟哭する。無力だった自分の凍てつく記憶。それがスミスの脳裏をよぎるも、彼らと眼前の異形は別物であると首を振る。元がどうあれ、あれはもう終わらせてやるしかない。
 そんなスミスの葛藤を余所に、すぐ隣ではルーが口元に手を当てて顔を蒼くしている。
「うあー、フンイキが強め。ダメっぽいですねー。イロイロ。主に僕とか僕とか……ねぇ、スミスくん。ちょっとだけ、げろげろしていい?」
「ってこら、ルー。吐くのは後だ。いま、そんな隙らしい隙を見せている余裕があるか」
 祠の悪しき空気が微かに匂う程度であれば、旧市街地一帯に漂う其れは嗅覚を塗りつぶす程の濃度。そういったものに疎い者でさえ、呼吸する度に肺腑を侵されるような錯覚を覚えるのだ。同じく神たるルーが気分を害すのも無理はないが、嘔吐は流石に攻撃してくれと言っているようなものだ。
 しかし一方、そんな彼の泰然自若とした態度が、滅入りかけたスミスの気を紛らわせてくれているのもまた事実であった。
『ひとじゃない? でも、わたしたちともちがう? だけど、こども!』
『かみさま! かみさまだって、あいしてくれるよ!』
 少女側も相手の特異性を感じ取ったのだろう。きゃっきゃと無邪気にはしゃぎながら、二人に対する包囲網を狭めてゆく。吐き気を何とか抑え込みながらそれらへ視線を向けたルーも、相手の存在について大まかながらに看破していた。
「コドモちゃんだ? あ゛ーー……、そっかそっか」
 やや無気力なきらいのあるルーであるが、少女達の歪さを見て取ると声に若干真剣な色が混じる。気だるげであろうと、子供の姿であろうとも、神は神であることに変わりはない。
「少しでもみんなが幸せになるには、やっぱりギセイは仕方ないやつかなー。祠の奴らより可愛げがあるから、遠慮とかいらないやつかもー」
 葛藤、苦悩の素振りは見せず、彼は淡々と眼前の少女らを討つと当然のように決めていた。外見は齢十にも及ばぬ少年だが、経た年月は数千を数える。神の視点とも言うべき思考を以て、彼は開戦の火蓋を切る。
「戦術はさっきと同じで良いかな? 僕が縛って、スミスくんが凍らせる。それで大丈夫?」
「うむ、問題ない。頼んだぞ!」
「はーい、それじゃあ任せて。さて、では呼び出す動物は……」
 ルーが己の権能を解き放つや、足元よりぶわりと新緑の蔦が溢れだす。それらは塀や家屋を伝いながら、少女達を絡め取るべく追尾する。
『だめ、だめ。そんなのじゃつかまらないよ』
『おにごっこはとくいなんだから』
 しかし、少女達はその身軽さを生かしながら周囲を飛び跳ね、器用にも蔦から逃れてゆく。小馬鹿にするようにステップを踏みつつ、蔦を燃やそうと捜索願に火を灯し……。
「そう? だったら、彼からも逃げ切れるよね?」
 刹那、猛突進してきたサイに撥ね飛ばされた。それは爆走する自動車に轢かれるのとほぼ同義。炎を蹴散らし少女をひき潰すと、片っ端から蔦の中へと叩き込んでゆく。
『いたい、ひどい! らんぼうなひとは、きらいっ!』
 蔦に絡まれ身動きが取れなくなろうと、声を出すことは可能だ。蔦の戒めをすり抜けて、苦痛に呻く少女達の絶叫が響き渡る。サイの背に乗ったルーは煩げに耳を塞ぎながら、仲間へと合図を送る。
「これでいいかな? 叫び声の対処は任せたよ」
「いや、声をどう防げと……まぁ、やりようは幾らでもあるがな」
 ルーの半ば無茶ぶりに呆れつつ、それでもスミスはきっちりと己の役目を果たさんとする。彼は手にした錫杖の氷輪と頭上の光輪、二つの輪を高速回転させ急速に魔力を練り上げてゆく。
「ここは放棄された旧市街地……であれば、思い切り力を奮って困る者もいない。多少、周囲が壊れたところで構わんだろう」
 膨れ上がる魔力に少女達も危機感を覚える。より一層叫び声を強める者、スミスへ炎を浴びせんとする者、脱出しようと藻掻く者。反応は様々なれど、末路は一つだ。
「ある程度加減はするが……基本我、やるからには全力だぞ?」
『な、あ……そんな、これじゃあ、どこにも、いけな……っ!?』
 解き放たれるは氷雪の嵐。それは瞬く間に蔦ごと少女達を凍結させ、声も炎も、永遠に静止させてゆく。後に残ったのは死に至らず、箱にも戻れず、永劫ここに留まり続ける白き墓標だけであった。
「ま、こんなものだろうな……場所は不満だろうが、ここで静かに眠るといい」
「おつかれさま。まぁ、状況を考えればベターな終わり方、かな?」
 サイに跨ったまま、スミスの元へと戻ってくるルー。少女達がそのままであればどうなっていたか、それを考えればこの末路もまだ上等な方だろう。
 しかし、まだ残っている数も多い。二人は旧市街地を目指すと同時に、残る敵を蹴散らしながら前進するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヌル・プラニスフィア
こども こども こども…
どいつもこいつも こどもばかりだな。
『こどもになろう だって!』
モノ、お前は元々こどもみたいなもんだろ。仲間になってきたらどうだ?
『や、やだよ!!俺は8頭身がいい!!』
ハイハイ。それじゃ お断りするか。

■お断りだ
仲間が欲しいなら あの世で仲良くしてきな。
UCで作った爆弾の弾丸を【スナイパー】で撃ち込むとしよう。なるべく一度にたくさんの敵をまとめて爆破だ。
近づかず、ある程度の距離をとる。
周囲の索敵は別人格モノに任せるとしよう。もし近づくヤツがいれば銃剣で対応だ。

『ところでヌル。このこどもたちは怖くないの?ホラー苦手でしょ?』
苦手じゃない。………殴れるしな。

アドリブ絡みOK


雷・春鳴
ひとり ふたり たくさん。同じ顔が並んでいるのはちょっと飽きるな。
こんなになるまで。箱の蓋を閉じて。見て見ぬ振りをしてきたんだね。
もう溢れかえってしまいしまいそう。
俺の入る場所はないよ。
けど 遊びたいなら相手をしてあげる。
かくれんぼでもしようか。

【五月の青い亡霊】
青い蜂が霧と化す。真っ青な視界の中。誰の姿も見えやしない。迷子になってしまったら、さあ。鬼さんこちら。手のなる方へ。
【手をつなぐ】で少女の一人が手を取った。指先から、伝う、青い蜂。
じゃくり。じゃくり。内側から肉を蝕まれる嫌な音。

跡形もなく。


八坂・操
【SPD】

「わーい♪ 遊ぼ遊ぼ☆ あ、もう一人呼んじゃうけど大丈夫かな?」
まずは【メリーさんの電話】でメリーちゃんを呼ぼう♪ 同じくらい小さい子も混ぜて遊べば、きっと楽しいだろうしね☆
「じゃー鬼ごっこしよう! まずはメリーちゃんがおーに♪」
そんな感じで、メリーちゃんには遊撃して貰うよ♪
操ちゃんはゆかりちゃん達に紛れて逃げつつ、『忍び足』で『目立たない』よう背後から『だまし討ち』して回ろっか♪

……夜遊びの成れの果てがこれなら、いっその事最期まで遊び倒してしまった方が良い。
全ては童心に潜む悪い夢……成ってしまった現実から目を背けさせるのも、猟兵の仕事だろう。
「おーにさーんこーちら♪」
また来世。



●みちみち、みちみち。はこをみたそう。
「こども こども こども……確かにどいつもこいつも こどもばかりだな」
「ひとり、ふたり、たくさん。同じ顔が並んでいるのはちょっと飽きるな。こんなになるまで、箱の蓋を閉じて。見て見ぬ振りをしてきたんだね……もう溢れかえってしまいしまいそうだ」
 紫煙を吸い込みながら周囲を一瞥するヌル・プラニスフィア(das Ich・f08020)の横では、春鳴が僅かに表情を痛ましげに歪めている。仲間達が数を減らしても、なお少女達の数は多い。どれほどの人間がこれまで犠牲となり、そして新たに取り込まれてしまったのか。倒すべき敵と忌むべき犠牲者とは、表裏一体の存在。
『そうだよね、ひどいよね。でもようやくはこがひらくの。でもね、もっともっとこどもがひつようなの』
『おにいちゃんはもうおとなだけど……だいじょうぶ、なれるよ』
 一方の少女達はそんな感傷を意にも介せず、否、その同情すらも取り込もうと誘惑を囀る。ただただ純粋な醜悪さが、そこにはあった。彼女らの問いかけに、ヌルの中に同居する別人格が無邪気に声を上げる。
(ねぇねぇねぇ! こどもになろう、だって!)
「モノ、お前は元々こどもみたいなもんだろ。仲間になってきたらどうだ? すんなり受け入れてくれるだろ」
(や、やだよ!! 小さいのじゃなくて、俺は8頭身がいい!!)
「ハイハイ。それじゃ、お断りするか。こどもでも分かるよう、丁重にな」
 煙草をもみ消しながら、ヌルは二連装式のマスケット銃へ弾丸を込める。どのみち、猟兵側の回答など初めから決まっていた。春鳴も同じように首を振って相手の誘いを拒否する。
「いいや、俺の入る場所はないよ。けど 遊びたいなら相手をしてあげる。かくれんぼでもしようか」
「わーい、操ちゃんも混ざるよ♪ 遊ぼ遊ぼ☆ あ、もう一人呼んじゃうけど大丈夫かな?」
 ヌルが拒否を示し、春鳴が同情を示すのであれば、操は積極的に相手の誘いへ乗ってゆく。だがそれは単純に付き合うだけではない。自らのペースへと巻き込み、逆に破滅させる我道に他ならなかった。彼女はスマホを取り出すと、存在しない番号へと電話を掛ける。数字の羅列に導かれるは、この世ならざる者を呼び出す儀式。
「追いかけ、見つけるのが大得意なメリーちゃんだよ☆ まずはメリーちゃんがおーに♪ さぁ、みんな逃げて隠れろー!」
 通話が繋がった瞬間、最も操に近かった少女が後ろから刺し貫かれた。それは相手の背後へ確実に忍び寄る西洋童女の呪い。ぐらりと斃れる仲間を見た少女達は、逃走ではなく闘争を選んでいた。一斉に解き放たれる無慈悲な炎……しかし、それが操へ届くことは無い。
「隠れなくてもいいのかい。尤も、その必要もないかもしれないけどね」
 見ると、春鳴を基点に蒼い霧が発生していた。それらに飲み込まれた炎は瞬く間に見えなくなり、命中したかどうかも分からない。霧は急速にその範囲を広げてゆき、戦場を覆い尽くしてゆく。
「……ここなら誰の姿も見えやしない。迷子になってしまったら、さあ。鬼さんこちら。手のなる方へ」
「さぁ、メリーさんが追いかけてくるぞ♪ 逃げ切れるかなー?」
 斯くして、戦場は一寸先も見えぬ蒼霧に飲み込まれた。その内部を縦横無尽に駆け回る猟兵に対し、少女達はその数が仇となる。当たるを幸いに攻撃を放つ春鳴や操に対し、彼女らは同士討ちの警戒をし続けなければならないからだ。
『たのしくない、つまんない! はいるのなら、はこのなかじゃなきゃ……』
「答えはさっき言った通りだ……仲間が欲しいなら あの世で仲良くしてきな」
 とは言え、霧の範囲にも限界は存在する。喚き散らしながら外部へと脱出を図る個体に対し、浴びせられるは鉛玉。銃声一つ、弾痕は二つ、穿たれた弾痕は頭部と左胸。ヌルは霧の内部から逃げ出そうとする相手を、一人一人確実に処理していった。
『ああああ、やだ、やめて、やめてくれ! あの中に戻りたくない、ここから出してくれ!』
 暗く、出口のない場所。そんな状況に抑え込まれていた『何か』が刺激されたのか。少女の声は、少女のモノでなかった。狂ったように周囲へ炎をまき散らす中、ぐっとその手が掴まれる。
「もう、怖がらなくていいよ」
『あ、ああ……』
 春鳴の言葉に、少女はただ呆然と棒立ちになり……彼の指先から伝った青蜂によって貪り食われた。蜂群は内側から肉を食み骨を齧り内臓を咀嚼し、瞬き数度のうちに跡形もなく体を食い尽くす。
「怖がる必要なんてもう……ないんだ」
 ぽつりと漏れた呟きは、切々とした悲哀に満ちている。奇しくも、それは霧の中を小気味良く跳ね回る操も同様であった。
「……夜遊びの成れの果てがこれなら、中途半端に目覚めさせるより、いっその事最期まで遊び倒してしまった方が良い」
 逃げ惑う少女を貫き、縊り、裂きながら、彼女の表情は無そのもの。淡々と、子らになってしまった者を骸の海へと沈めてゆく。
「全ては童心に潜む悪い夢……成ってしまった現実から目を背けさせるのも、猟兵の仕事だろう」
 それでは、また来世。そう小さく一人ごちながら、彼女は相手の数がそれなりに減ったとみるや、攻撃ではなく誘導に動きを切り替える。出来る限り多く、狭い範囲に集める様に動き回り……もう十分だと判断するや、今度は打って変わって笑顔を背後へと向けた。
「おーにさーんこーちら♪ さ、そろそろ一区切りつけようか」
(ヌル、合図来たよ!)
「ああ、こちらでも見えている。感謝する、これなら視界が不明瞭だろうが纏めて消し飛ばせるな。お願いだから巻き込まれないでくれよ?」
 青い霧の中で蠢く、白いワンピース。それを目印にヌルは照準を合わせると、マスケット銃の引き金を引く。二発の弾丸はどちらも彼謹製の炸裂弾。発射時に僅かに銃身を逸らした結果、弾丸の軌道は丁度少女達の真上で交わる。交差するように、互いにかち合う銃弾。
 刹那、炸裂した爆炎が下方向に向けてまき散らされた。その衝撃は青い霧を吹き飛ばし、一瞬にして戦場の視界をクリアにする。そうして、攻撃後の跡地には避難していた春鳴と操以外、立っている者は誰一人として存在していなかった。十分な戦果に、彼は満足げに頷く。
「相手の総数的に全滅には程遠いが、ここらのは一掃できたな」
(だねー。ところでヌル。このこどもたちは怖くないの? ホラー苦手でしょ?)
「苦手じゃない………殴れるし、こうして倒せるからな」
 そうして油断なく銃弾を再装填するヌルを始めとし、三人は次なる敵へと向かい始めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ファン・ティンタン
【POW】遊びじゃないんだよ
【ヤド箱】で参戦

子供の霊、ね
あなた達は善悪の区別もなく誘ってるだけなんだろうけど…
それ、悪いことだから
止めさせてもらうよ
…ウチの悪食でさえ食えない、その闇
そんなモノ、振り撒かないで

【刀心習合】で近付く敵は皆、殴り斬り蹴り断つスタイル
護刀由来の【破魔】の力を身に宿しつつ、可能な限り【早業】での決着を目指す事で仲間の負担を減らす
怨霊の言葉を耳にとどめるのは下策も下策
仕事と割り切る事が一番の【呪詛】対策なんじゃないかな
私が、その先陣を切る

敵の言葉に囚われそうな仲間が居れば、一喝

…っ、死者の戯言をまともに聞いてんじゃないよッ!
私の側にいて、誰かが死に向かう事は許さないから!


ペイン・フィン
【ヤド箱】

……どう、言葉にすれば、いいんだろうね。
ぐちゃぐちゃして、どろどろして、熱くて、冷たい。
怨念と似ていて、でも、決定的に違う。
…………そして、悲しい。

真の姿を解放。
数歳程度幼い姿になり、血霧のようなものを纏う。
そして、コードを使用。
複製するのは、ナイフ”インモラル”、石抱き石”黒曜牛頭鬼”、毒湯”煉獄夜叉”。
複製したそれらを展開し、1人1人、確実に、なるべく一撃で殺すよ。

……ごめんね。
自分は、君たちとは遊べない。
君たちの友達にも、なれない。
だからせめて、もっと安らかな場所に送るよ。
君たちへの、天国の門は閉じられたかもしれないけど、
……せめて、地獄には。


勘解由小路・津雲
【ヤド箱】で参戦、アドリブ・他の猟兵との連携歓迎

天の理のもと、陰と陽の気が合一して生命が生まれる(と、陰陽師のおれは考える)。だがここでは、陰の気のみで生命を誕生させようとしているようだな。その結果が、この有様か。こいつらも元は人間のようだが、もはや救うこと能わず。ためらわず討つとしよう。

■戦闘 【歳刑神招来】を使用。天道に背きし者よ、疾く帰れ。なるべく相手と距離を取り、破魔属性の鉾や槍を打ち込むとしよう。

また、こちらに近づこうとする者へのけん制、仲間への援護を心がけよう。特に支援に集中している語に敵が近づかぬように。(前衛に)「後はまかせろ、だが気をつけろ、迷うともっていかれるぜ」


落浜・語
【ヤド箱】(ティンタンさん、フィンさん、津雲さん)で

う、わぁ……悪い、割りと真面目に頭痛と吐き気がしてきた……。怪談噺は嫌いじゃないが、笑えない、笑いどころのない怪談話は勘弁してくれ…。
とはいっても、やらないとだな…うん。やるか。

『誰の為の活劇譚』で仲間の支援を。
一応保険として、カラスを肩に。怪しいことを口走り始めたら、カラスにどついてもらう。

「此度語りますは…街ひとつを巨大な箱に見立て、悪意を集めた悪辣な呪詛。…それを放ってはおけないと、集まりますは猟兵方。」

くそ、雑音がうるさい
…かたれるのか?



●くうきも、つちも、みぃんな『わたし』
 ぞわり、ぞわりと。空気が密度を増してゆく。嗅覚でなく、肌でなく、魂そのものへと染み渡る様な、汚穢に塗り潰された大気。周囲に展開される異様な光景と相まって、耐性のない者には耐えがたい環境となっていた。
「う、わぁ……悪い、割りと真面目に頭痛と吐き気がしてきた。薬を飲んで治る、ってもんでもないよなぁ。怪談噺は嫌いじゃないが、笑えない、笑いどころのない怪談話は勘弁してくれ……」
「……どう、言葉にすれば、いいんだろうね。ぐちゃぐちゃして、どろどろして、溶けるほど熱くて、凍えるくらいに冷たい。恨みや怨念と似ていて、でも、決定的に違う。…………そしてどこか、悲しい」
 心霊や呪術にそこまで強くない語はその影響をもろに受けているのか、顔色が蒼くなっている。口元を抑えて呻く彼の横では、同じようにペインが顔を顰めていた。彼の場合、拷問具としての半生によって幾分かは耐えられており、空気に混じる感情や想いを読み取る余裕がまだあった。愛情、悲哀、絶望、歓喜。綯い交ぜになった感情は坩堝と化し、踏み込み過ぎれば飲み込まれてしまうとう感覚を覚える。
「天の理のもと、陰と陽の気が合一して生命が生まれる。実際がどうあれ、俺たち陰陽師はそう考える。だがここでは、陰の気のみで生命を誕生させようとしているようだが……その結果が、この有様か」
 五芒の書かれた守符を握りしめながら、津雲は周囲の惨状を忌々しげに一瞥する。常人では言い知れぬ不快感を感じるだけだが、知識があればそこにどんな意図と悪意が秘められているのか、つぶさに理解出来てしまう。
「こいつらも元は人間のようだが、余りに捻じれすぎている。もはや救うこと能わず。ためらわず討つとしよう」
『すくい? すくう? ひつようないよ?』
『あいされてるから、すくわれてる! はこのなかにはいれば、みんなそう!』
 津雲の言葉に、口々に応答を変えす少女達。しかしそれは哲学ゾンビと同様、与えられた刺激に対し機械的に定められた反応を返しているだけだ。電話の自動音声とそう変わらない。
「子供の霊、ね。斯くあれかしと、あなた達は善悪の区別もなく誘っているだけなんだろうけど……それ、悪いことだから。止めさせてもらうよ」
 そう宣言しながら飛び出したファンの手に、常に帯びていた白刀は無く。ただ徒手空拳にて少女へ挑む。更に飛び出すタイミングを一瞬ずらし、ペインがその背を追った。
「……ウチの悪食でさえ食えない、その闇。そんなモノ、この世界に振り撒かないで」
「箱の中で、静かに暮らしてくれたら、なんて……都合のいい、考えかもしれないけど」
 迎撃の為に放たれた炎が、二人の体を掠めてゆく。今更、この程度の炎を恐れる彼らではない。脅威を感じるのであれば、それはもっと別のモノ。予想されるそれが起こるよりも先に片をつけんと、ファンは少女へと肉薄し拳を叩き込む。拳が叩き込まれた瞬間、少女の体が上下に寸断された。拳撃による斬断という矛盾も、護刀のヤドリガミである彼女だからこその実行可能な異能である。
「……ごめんね。自分は、君たちとは遊べない。君たちの友達にも、なれない」
 その光景を見ていた少女達は、二人が直接渡り合ってはいけない相手だと悟るや、瞬時にオトナ達を召還する。先ほど見た手首人間の成人サイズや、幽鬼の如き元不良が現れると、悍ましい叫び声と共に突進してきた。それを前に、ファンと入れ替わる様に踏み込んだペインが真の姿を解放する。
「だからせめて、もっと安らかな場所に送るよ。君たちへの、天国の門は閉じられたかもしれないけど、こんな箱の中に居るよりかは」
せめて、地獄へ。彼の姿は時を巻き戻したかの如く、幾分か幼い少年のものへ。周囲の空気を逆に血霧で塗り潰しながら、彼は己の拷問具から最適と判断した物を複製する。即ち、背徳の刃、獄卒の石塊、夜叉の毒湯の三種。刃が手指の腱を断ち、石塊が不良を押し潰し、毒湯が少女を溶かし尽くしてゆく。
『ああああああ、いたい、やける、なんで、なんでぇ!?』
『なにがいやなの? いっしょになってあいされる、それがわるいこと?』
 尤も、単純計算で敵の数は三倍に増えているのだ。それで一掃しきれるものではない。絶叫と共に残った残党が波の如く襲い掛かり、ペインへ猛攻を加えてくる。しかし、頼るべきものが居るのは無論猟兵も同様。
「天道に背きし者よ、逝くべき道へと疾く帰れ。八将神が一柱、刑罰を司る歳殺神の名において、その罪その穢れ、歪められし汝らを裁かん。急急如律令!」
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!?』
 ペインを取り囲み、引きずり込まんとした亡者群が、百と八十にも及ぶ槍や鉾の迎撃を受けた。後方で津雲の生み出したそれは、差し詰め槍衾。個を潰すのではなく集団を押し留めるのであれば効果は覿面である。痛みにより凄まじい絶叫を上げるが、その場に縫い止められたお蔭で影響は最小限で抑え込まれていた。
「ありがとう……助かった、よ?」
「後方支援はまかせろ。だが気をつけろ、迷うともっていかれるぜ。肉体的にも、精神的にもな」
「大丈夫、飽く迄これは猟兵としての任務、仕事だからね……必要以上に、感情移入はしないよ」
 津雲の頼もしい言葉に、感謝を述べるペインと気を引き締め直すファン。前衛を白兵・対人戦に特化した両名が務め、後方から霊的存在に強い陰陽師たる津雲と、広域への支援に長けた語が支援する。勝手知ったる四人の連携戦術。ここからが本領発揮だと、津雲は傍らの輩へと視線を向け。
「さぁ、ここからが本番だ。今回もまた一席頼むぞ、語……語?」
 彼の異変に気付く。常ならば朗々とした声で活劇譚を紡ぎあげる語が、ふらふらと体を不安定に揺らめかせている。脂汗が滲み、瞳の焦点が合っていないその様子は一目で異常であると分かった。
「雑音が、雑音がうるさい……こんなんで、聞こえるのか。でも、やらなけりゃ……モノを、かたるのが、おれの」
「おい、大丈夫か!? 不味い、場の陰気にあてられたか!」
 要因を考えれば、四人の中で最も呪詛等に耐性が低かったというのもある。だが彼は噺家、語り聞かせる者だ。それはただ一方的に話すだけでなく相手の反応を見る力、つまり感受・共感性も重要となる。
 特に彼の語る活劇譚はその場その場の即興劇、必然的に周囲の状況を把握する必要に迫られる。それらが重なった結果、語は場の空気の影響を過剰に受けてしまっていた。
『おはなし、してくれる? きかせて、きかせて! はこのなかのおかあさんも、ききたいとおもうよ』
「あ、ああ。はこのなか、なら……しずか、かね……?」
 隙あらば、狂気はそこへとつけ込んでくる。少女達は前衛を釘付けにしながら、甘い毒を吐き続ける。津雲も支援を行いつつ彼の肩を揺さぶるが、そう容易く正気には戻れない。
「……ペイン、少しだけでいい。相手を黙らせられる?」
「そう長くは持たないけど……うん、任せて」
 交わされる言葉は短く、だがその一瞬で意図は伝わった。ペインは再度拷問具を展開し、被弾も構わず相手の勢いを押し返す。そうして相手の圧力が消えた一瞬を狙い、ファンが後方へと向き直る。
「語っ、死者の戯言をまともに聞いてんじゃないよッ! この程度の雑音で掻き消えるほど、小さい声量じゃないだろう! 私の側にいて、誰かが死に向かう事は許さないから!」
 喉を傷めんほどの、大音声による喝破。それは戦場の喧騒を貫き、語の耳朶を打つ。破魔の祈りも込めた一声にまず反応したのは語自身、ではなく。
 ――カァ。
 肩に留まった一羽の鴉。彼は一声そう鳴くと、しっかりと嘴を閉じ、すっと自らの主の方へと向け……全身全霊を込めて、啄木鳥もかくやという一突きをこめかみへと叩き込んだ。
「っ、ぁああっ! いってぇぇえ!? カラス、一体何をして、って……あれ。そもそも俺は何をしてて……」
 痛みに悶絶する語の反応は正常な人間のもの。すまし顔で肩に乗る鴉と周囲を見渡した彼は、それだけで大まかな状況を把握した。
「ああー……すまん、もしかして面倒を掛けたか?」
「謝罪は後だ! まだまだ手は足りない。申し訳なく思うんだったら、働きで返してくれよ?」
 無茶をした前衛のカバーの為、前へ視線を向けたまま津雲はそう答える。それは冷淡なものではない。もう大丈夫だという、信頼の証だ。であるならば、語のやるべきことも只一つ。彼は思い切り息を吸い込むと、自らにしか出来ない役目を果たし始める。
「此度語りますは……街ひとつを巨大な箱に見立て、悪意を集めた悪辣な呪詛。それを放ってはおけないと、集まりますは猟兵方」
 紡がれる言の葉は空気に混じる邪気も、戦闘の騒乱も超え、敵味方隔てなく戦場へと響き渡る。それは決して呪術的な力も、破魔の魔力を帯びたものではないかもしれない。しかし、それが劣ると誰が決めた。仲間を鼓舞せんとするその意思は、最早微塵も揺るぎはしない。
「群れ為す少女に囀る誘惑、満ちる大気は禁忌に染まり、出る居る吐息も詰まります。六方閉じたままの箱庭に、吹き込む風もございません。我らが猟兵の八面六臂の活躍は、小鳥の箱庭に風穴を空けましょう!」
 話が進むにつれ、舌の滑り声の通りが常の勢いを取り戻してゆく。仲間達もその声援を背に繰り出す攻撃の勢いも強める一方、対する少女達は反対に動揺が広まっていた。
 ――もう少しで堕とせたはずだ、今一歩だったはずだ。
 ――なのに何故、逆に自分たちが押され始めているんだ?
 彼女らが『子ら』で在る限り、その答えを得ることは無いだろう。疑念と困惑を抱いたまま、彼女たちはただただ蹂躙されてゆく。
「進むは猟兵、目指すは旧市街市中央部。対峙の時は、もう間もなくでございます」
 斯くして連携を取り戻した『ヤドリガミの箱庭』の面々はその勢いのまま、一直線に邪神の元へと進軍するのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

三原・凛花
ふふ、遊んでくれるの?
ありがとう皆。
でもごめんね。
私はこれでも一応お母さんだから、今更こどもになるわけにはいかないの。

だから逆にあなた達が、私の子供達の『お友達』になって頂戴(引き続き【水子召喚】で子供達を呼び、<生命力吸収>と合わせて少女達を取り込み『お友達』にする)。

私の子供達が嬉しそうだったのは、ある意味自分達と同類であるこの少女達の存在を察していたからかな?
それとも…私なんかよりよっぽど母親にふさわしい人に会えると思ったから…?

何にせよ、その元凶のUDC。
同じ母親同士、是非一度ゆっくり語り合ってみたいものだね。
出来ればそのままママ友にでもなってみたいけど…流石にそれはちょっと無理かな。


未不二・蛟羽
【野生の勘】で空気は何となく感知して
なーんか、嫌っす
くさいっていうか、きもちわるいっていうか…なんか
おなかがすく、みたいな

俺で、ぼくで、わたし?
…そもそも、俺が何なのか知らないっすから
アンタも俺も、何が違うかも、あんま分からないっすよ

においが、くらくらするから
ああ、これもわるいものだから
喰べないと

【ブラッド・ガイスト】で【No.322】を虎の両手足へ、【笹鉄】蜘蛛の脚へ変化させ
コドモも、オカアサン、オトウサンっていうのも【大食い】と【生命力吸収】で全て平らげて

どろどろになってぜんぶいっしょなら、どこでもおなじ、だよね?

まだくらくらする…ちょっと変なもん食べすぎた、かもっす?

【アドリブ連携歓迎】



●しょうき、きょうき、ほんのう。ちがいなんてない。
 戦場に剣撃が、銃声が、爆発音が響き渡る度に、霧散した少女達の死が大気と混ざり合う。それは元々満ちていた忌まわしき空気と溶け合い、気を抜けば意識が容易く崩れ去れるほどの密度となっていた。
「なーんか、嫌っす。くさいっていうか、きもちわるいっていうか……なんか」
 おなかがすく、みたいな。酩酊したかの如くふらふらと体を揺らめかせている蛟羽の呟きは、彼の口内から出ることなく奥へと吸い込まれていった。一方で、凛花はそのような惨状の中でも常と変らぬ態度を保ち続けている。
『みんな、減った? でもけっきょくは、はこのなか。それならいっしょに、はいろ?』
「ふふ、遊んでくれるの? ありがとう皆……でもごめんね。私はこれでも一応お母さんだから、今更こどもになるわけにはいかないの」
 周囲を取り囲む子供も呪詛に満ちたこの場所も、意に介さず。異常の中で正常を保ち続けるのは、果たして正気と呼べるのだろうか。だが、世間的な尺度などに意味はない。彼女はただ、自身の子らを慈しむだけだ。
「だから逆にあなた達が……私の子供達の『お友達』になって頂戴?」
 彼女がそう儚げに微笑を浮かべた、瞬間。四方八方から半透明の幼子が少女へと抱きついた。それはまるで子供同士のじゃれ合いの様だが、一挙手一投足が奪命の呪いを孕んでいる。瞬く間に少女から色が消えてゆき……数瞬後には、同じような半透明の幼子と化していた。
「あらあら、やっぱり思ったとおりね。子供達が嬉しそうだったのは、貴女達が同類であると察していたからかな? それとも……」
 私なんかより、よっぽど母親にふさわしい人に会えると思ったから?
 遊ぶ子供を見守る母の表情から、一瞬だけあらゆる感情が抜け落ちた。狂気すらも圧する母性に、少女達は怯えた様に喉をひくつかせるや、次々と絶叫を上げ始める。
『はこは、いや。おれじゃなくなるのは、いや。でもそれは……もっといや、イヤ、イヤだッ!?』
 嗚咽交じりの叫びは物理的な衝撃を伴い、ころころと幼子たちが吹き飛ばされてゆく。思わず凛花も顔を顰め、一歩後ずさる。狭まった視界、その中で彼女は前へと飛び出す人影を見る。それは紛れもなく、蛟羽。
「俺で、ぼくで、わたし? ……そもそも、俺が何なのか知らないっすから。アンタも俺も、どこがなにがどう違うのかも、あんま分からないっすよ」
 発する内容は譫言の如く要領を得ない。瞳孔が開き、無感情でありながらどこか弛緩したその表情は、熱に浮かされた夢遊病患者のよう。彼は叫声の音圧で全身の肉が押し潰されながら、それでも前へと突き進む。
「このにおいが、くらくらするから。めのまえのこれも、ああ、わるいものだから……なら」
 めりめりと、人の姿が変わりゆく。両手両足は虎の鋭爪に、背には鋼糸と鉤爪が絡み合い、八本の蜘蛛脚が。それこそまさしくキマイラ。人と獣に鳥や蟲、爬虫類も混ざった合いの子。その欲求は根源に根差した、ただ一つ。
 喰べないと。
 呟きは叫びに消え、代わりに手足がその意を実行する。叫びを上げる個体を蜘蛛脚で串刺しに拘束するや持ち上げ、そのまま虎の手足で引き裂いた。彼はぼたぼたと零れ落ちる命の通貨を口腔内へ導き、嚥下する。
 正気でなく、狂気でなく、本能でもない。それら全てが入り混じった在り様に、今度こそ少女達は絶句する。
『たべたいのなら、あげる! それはいらないものだから!』
『けものはことり、ことりがいいの! それはだめ!?』
 まともにやりあってはいけない。少女達は不格好な大人達を召還し、蛟羽へとけしかけた。数の暴力で袋叩きに遭うものの、それでも彼は構うことなく捕食を続ける。
「なんで、いやがる……? どろどろになってぜんぶいっしょなら、どこでもおなじ、だよね?」
「まぁ、おやつの時間? それなら、この子たちの分も残しておいてくださいね。ほら、いってらっしゃい」
 振れず、鈍らず、揺るがない。凛花は仲間の狂態を特段気にすることなく、自らの子供たちを送り出し、友達作りに精を出させる。もう陣形も戦術もない。繰り広げられるのは狂気を塗りつぶす狂乱の宴。それを少女達が乗り越えられる道理など、存在するはずもなかった。
「……まだ、くらくらする。ちょっと変なもん、食べすぎた、かもっす?」
「それよりも、食事の前には手を洗うべきかしらね。この子たちにも言い含めないと」
 自我を取り戻したのか、混濁した意識ながらも蛟羽が纏まりのある思考を取り戻す。どこか的外れな/彼女にとって至極真っ当な助言をしつつ、数の増えた『お友達』を引率しながら、凛花は旧市街地の奥へと視線を向ける。
「兎にも角にも、そのUDC。同じ母親同士、是非一度ゆっくり語り合ってみたいものだね。出来ればそのままママ友にでもなってみたいけど……流石にそれはちょっと無理かな。子供だけで出歩かせるのって、危ないもの」
 似て非なる者が出会えば、辿る結末は一つ。朧気な直感が、その邂逅はもう間もなくであると告げるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『都市伝説』コトリバコ』

POW   :    カゴメ、カゴメ
全身を【囲む様に子供の霊を召喚、内部を安全領域】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    そして皆いなくなった
【コトリバコから敵対者を追尾する無数の小鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    【常時発動型UC】子取りの箱
【自身から半径レベル三乗mの一般の女性、子】【供を対象に寿命を奪い衰弱させる状態異常を】【付与。また、奪った寿命でレベルを上げる事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●愛しき子らよ、箱/胎へと還れ
 少女達の群れを突破し、旧市街地を突き進む猟兵たち。目指すは祠によって描かれし箱の中心部。程なくして彼らが辿りついたそこは、ある一件の古民家。元は重ねた年月相応の重厚感を纏っていたであろう佇まいは、人の手を離れたことによって無残にも朽ち果てていた。
 だが、そんなものは最早問題の範疇にも入らない。
 近づいただけで感じる邪気瘴気陰気の密度は、これまでの比ではない。今までの空気が濃い霧であったのなら、これは粘液とでも表現すればよいのだろうか。嫌に生ぬるく、どこか鉄錆くさい粘液が体に纏わりつく感覚に、誰もが顔を顰めた。だがそれでも、今更回れ右して帰ることなど出来ない。
 猟兵たちは意を決して内部へと足を踏み入れ――暗転。

『愛は哀として藍より尚青く、児は死をもって子とならん』
 それはある女の嘆きだった。児を宿せず、児を産めず、児を流した、ある母親の嘆き。それはありふれた悲劇だった。その時代、誰しもが一度ならず耳にする、よくある出来事。
『箱の六面、頭、腕、腹、脚を数え、中に臓腑を込めて吾が胎と為す』
 されどありふれた悲哀であろうとも、女の慟哭の深さは正しく真実だ。裂かれ、膿み、癒えぬ痛みを与える胎の傷は、遂に狂気という箱を開いた。
『子を取りたる胎は虚が憑り着き、小鳥すらも寄り付かぬ』
 コトリバコ。箱に幼子の血肉を収め、以て周囲へ呪いをまき散らす特級の呪物。その強さは中に収めた児の数によって変わるという。これを誰が女に伝えたのか、今となってはもう知る術もない。だが、であればこれ以上の適任は居なかっただろう。
『故にただ、コトリコトリと箱を弄びて刻過ぎ去るを待つのみである』
 女は失った胎の代わりに、際限なく児を詰め、自らの子らとしたのだから。

 視界が戻る。今見たのは、今回のUDCの過去なのだろうか。此処に満ちる狂気が示した、始まりの記憶。しかし、猟兵たちにその内容を吟味する余裕は無かった。
 ポンポン、と鞠をつく音。パタパタと、翼の羽ばたく音。
 この場において音を発する存在など、猟兵を除けば一つしか在りえない。はっと視線を上げたその先、古民家の奥座敷には、小鳥を侍らせながら手毬をつく女童の姿。もう片方の手で握りしめる箱こそ、此度の元凶にして討つべき対象であるコトリバコに他ならない。

 ――足りない、満たない、埋められない。どれだけ集めても、虚ろのまま。

 鞠をつく手を止め、女童は猟兵たちへ視線を向ける。その瞳は、どこまでも虚無が広がっている。

 ――どれだけ、孕めば、取り戻せるの?

 ゆっくりと、こちらに箱を向ける女童。その瞬間、全身の力が奪われる感覚を覚える。あれは不味い。そのまま放置しておけば、確実にこの箱が開き、呪いが溢れだすと直感する。
 さぁ、猟兵たちよ。正気を以て対峙し、狂気を以て突き進み、本能と理性の両牙で女童の胎/箱を食い破れ。ここが――決着の時だ。

※マスターより
 プレイングの受付につきましては、3日(金)8:30から受付いたします。
ただ、3日は東京オフがありますので、プレイングが10名様を超えている場合、残りの方につきましてはお手数ですが4日(土)8:30以降に送りいただけますと、執筆時間確保の関係で非常に助かります。
 引き続きよろしくお願いいたします。
美星・アイナ
小鳥は子取りに変わりてコトリとなるか・・・っ!
呪詛のせいか体が重い、けど厄災を阻止する為にも負けてたまるかぁっ!

ペンダントを握り締めて真の姿解放
同時に災厄を祓う翼持つ天の御使に人格シフト
『呪詛の風、此処から先には通しません!』

呪詛耐性、覚悟で子取りの箱の影響を堪えながら飛翔
大鎌形態に変えた黒剣を振るいなぎ払い、2回攻撃、鎧砕き、鎧無視攻撃、だまし討ちで攻撃

UCによる攻撃は見切り、激痛耐性、第六感で回避

UC詠唱は箱に変えられた者達の悲しみを乗せ
傷口をえぐる様に放った欠片を錬成して作った炎熱の剣で力溜めの一閃

現し世に戻る事が叶わぬなら
せめて来世を歩める様に
穹に歌うは鎮魂歌

アドリブ、他猟兵との連携可


音羽・浄雲
※アドリブ、絡み歓迎です。

「あれは・・・・・・よくありませんね」
 小さく呟くと、素早く印を結ぶ浄雲。印を結び終えたかと思えば、その身体が青白い劫火に包まれる。
「わたくしも仲間や故郷、大切なものを失った身。あの時死んでいればわたくしも其方側だったかも知れません。故にこそ、葬りましょう」
 腰に差した謀り長慶を抜き、オブリビオンに向かって駆け出す。
 その顔には能面。頭に掛けていた般若の面を顔に被り、鬼と化した。
「げに恐ろしきは女の情念ですね。あなたの満ち足りなさも悲しみも、わたくしの怒りと怨みで全て焼き尽くして差し上げます」
 鬼と化した女狐が吼える。その命を薪とくべ、文字通り燃やし尽くしながら。


尾守・夜野
正直常に大体だるい(貧血で)し寿命が減るのに痛みがあったとしても(激痛耐性で)生半可な痛みはわからないから
影響が出てもギリギリになるまで気づけないぞ

こいつがいつの時代の奴か知らんが、元服が成人だった場合、殆どの奴は子と言う事になる
…それ以前に俺未成年だが

だから、子か女か危うい奴らを離れた所からけしかけようと、スレイを呼んで背中に乗り…
全力で逃走を開始する!(ダッシュ、空中戦、騎乗)

「くそっ!逃げても離れられてる気がしねぇ!」

叫びながらUC使い足止めを試み、余裕ができたと【思った】ら手鏡に映して【情報収集】し
封印による弱体化を狙う


八坂・操
【SPD】

コトリバコは知ってたけど、まさか子供を設ける手段で使うとはね♪ 操ちゃんもビックリだよ☆
ま、だからって死んでからも顕界で求めるものじゃないよね♪
……そこまで子を求めるのなら、賽の河原で子を救い上げる事も出来ただろうに。

自身を【狐狗狸さん】で操り、衰弱対策を行う。『忍び足』で『目立たない』よう隙を伺い、『カウンター』の要領で攻撃を対処。
隙を見てドスを『投擲』する事で『フェイント』を挟み、一足飛びで近付き『鎧無視攻撃』の『串刺し』貫手を叩き込む。
「つか まえ た」

陳腐と一笑するには余りに重く、他者へ犠牲を強いるには独善が過ぎる。
子を取られた母の気が知れぬようでは、アンタは親として失格だ。


雷・春鳴
満たされない。
そうからっぽが響くのは
とったこどもは あんたの子供なんかじゃないから。
それだけの事。
孕んだのは悪夢だけだよ。

【虚空の青】【毒使い・激痛耐性】
サポートとして動く。
猟兵たちを追い回す小鳥の群れがあれば引き受けよう。
攻撃が発動する前に小鳥に蜂を群がらせ 落とす。
蜂を喰い散らかされたとしても。
蜂共の毒が内側から蝕む事だろう。
また、俺自身も盾として。
空っぽの身体には 痛みは届かないから。

親も子供も代わりは居ない。
虚しいだけなら、初めから間違いなんだと。思う。



●子を求め、児を捧ぐ――それは本当に正しいの?
 今回の元凶たるUDC……コトリバコと対峙した猟兵たちは、すぐさまその脅威を理解していた。こうしている今もコトリバコは周囲の女子供から生命力を吸い取り、存在強化を繰り返している。しかも、眼前の相手はあらゆる相手を自らの『子ら』と見なす手合い。必然的に『子供』と認識する対象に上下限はほぼ無いとみるべきだろう。
「あれは……よくありませんね。文字通り在り得ざるべきモノでしょう」
「小鳥は子取りに変わりてコトリとなるか……っ! 怨嗟の連鎖、ここで断つ!」
 であるならば、長期戦は猟兵側にとって不利になることは確実。故に浄雲とアイナが瞬時に下した判断は速攻だった。素早く印を結ぶ浄雲の体を蒼い炎が包み込み、ペンダントをアイナが握り込むや、背から翼が生え真の姿を解き放つ。初手から全力、躊躇う余地など存在しない。
「呪詛の風、此処から先には通しません! 箱の中にあるべきものは、ただ箱の中へ!」
「わたくしも仲間や故郷、大切なものを失った身。あの時死んでいればわたくしも其方側だったかも知れません。故にこそ……」
 葬りましょう。翼をはためかせ大鎌を手に飛翔するアイナと、謀将の名を冠する妖刀を手に地を舐める様に駆ける浄雲。それに対し、女童はそっと手にした箱を眼前へと突き出す。
 ――子らよ、子らよ。吾が胎へ。
 その瞬間、先ほどまで感じていた倦怠感が何倍もの重力を伴って全身を襲った。一歩一歩踏みしめる度に、体が地面へとめり込む錯覚。それと同時に、血液を抜き取られる様な虚脱感。相反する感覚を受け、常人であればまともに動けはすまい。
「げに恐ろしきは女の情念ですね。あなたの満ち足りなさも悲しみも、わたくしの怒りと怨みで全て焼き尽くして差し上げます……御覚悟を」
 常人であれば、だが。纏う劫火は同胞らの怨念、被る能面は般若の相。その姿は正しく悪鬼羅刹に他ならない。浄雲は活力を奪い取られようとも、自らの命を薪にくべ、より炎を燃え上がらせる。彼女は女童の眼前まで強引に迫るや、蒼白なる焔で相手の全身を飲み込んだ。
「っ、呪詛のせいか体が重い……けど、厄災を阻止する為にも負けてたまるかぁっ!」
 焔は相手を焼くと同時に、その輝きで視界を奪う。その隙を狙い、続く二の太刀を務めるのは当然アイナ。動きの鈍る体へ裂帛の雄叫びで鞭を打ち、墜落しかけた体無理やり着地させる。体勢は崩れるも、立て直しよりもそのまま飛翔速度を乗せて攻撃へと転化。女童の小さな体を、袈裟に切り裂いていった。
 ――遊んでほしい? なれば、友達を呼びましょう。玩具をあげましょう。
 ばしゃりと、鮮血が朱の着物を穢すが、その傷も瞬く間に塞がってゆく。受けた傷以上に、生命力を吸い取っているのだ。女童は傷を意にも介せず、コツコツと箱を叩く。
 瞬間、そこから無数の鳥が現れるや浄雲やアイナ目掛けて襲い掛かった。四方八方より群れるコトリたち。その嘴が、爪が、翼が彼女らに触れる……寸前。
「こいつがいつの時代の奴か知らねぇが、やっぱり殆どの相手は子ども扱いかよっ!? 正直、手元もおぼつかなくなりそうだ。頼むぜ、スレイ!」
 二人の姿が掻き消える。見ると、夜野の駆る馬の背に二人の姿があった。隻眼神が愛馬の名を冠する馬は浄雲とアイナを回収すると、呪いの効果範囲から逃れるべく一目散に駆け出した。無論、小鳥とてみすみす見逃す気などない。猛然と迫りくる翼群に夜野は冷や汗を流す。
「くそっ! 逃げても離れられてる気がしねぇ! 足止め頼んだぞ!」
 彼は曲型水筒より血をばら撒くや、それを触媒として黒妖犬の群れを召還。百五十以上を数える獣を小鳥と相争わせる。それによって距離を稼ぐことに成功するものの、強化状態の小鳥は瞬く間に黒妖犬を屠り去ると執拗に追尾を続行してきた。そこに滲むのは、絶対に逃がさぬという執念。
 ――逃げないで、去らないで。愛しい子、虚ろはまだ満ちないのだから。
「……満たされない。そうからっぽが響くのは、取ったこどもはあんたの子供なんかじゃないから」
 追い縋る鳥群の侵攻を止めさせたのは、雲霞の如き蒼蜂の群れ。それを呼び出した春鳴は両者の間を遮る様に立ちはだかる。人で在れば事実上無差別に生命力を奪われてしまう。であれば畢竟、人でなくなればその呪いより逃れることが可能であるという事。
 彼の全身は夥しいほどの黒穴……蜂の巣が穿たれていた。人で在りながら人の範疇よりの逸脱したその姿に、僅かではあるが呪いの効果が薄まる。
「掛け替えのない存在だというのなら、その言葉をもう一度よく読み解くといい。親も子供も代わりは居ない……その箱が孕んだのは、悪夢だけだよ」
 小鳥と蜂群が中空で入り乱れ、互いを捕食してゆく。蜂の群れが小鳥へ群がるや骨肉を貪り、反対に小鳥が蜂を啄み咀嚼する。だが、蜂には当然毒があり、それは死しても尚猛威を振るう。結果的に、小鳥の群れは瞬く間に死に絶えていった。
「……コトリバコの逸話は知ってたけど、まさか子供を設ける手段で使うとはね♪ 操ちゃんもビックリだよ☆ ま、だからって死んでからも顕界で求めるものじゃないよね♪」
 小鳥たちの追撃により女童の意識は遠方へと注がれ、必然的に周辺への警戒が緩む。その隙を狙い、敵の懐深くまで踏み込むのは操。足音を、気配を殺して忍び寄っていた彼女に対し、コトリバコは迎撃の為再び小鳥を呼び寄せようとする。
 その動きは素早いけれども、焦りはない。当然だ、自らに近づく者は須らく活力を奪い取られる。白兵戦でまともな動きなど出来るはずがない、そう判断し……。
「……そこまで子を求め焦がれるのなら、賽の河原で子を救い上げる事も出来ただろうに」
 投擲された短刀が、翳した手ごと箱へ突き刺さり縫い止めた。常と変らぬ正確無比な一投に、さしもの女童も目を見開く。呪いが無効化されている訳では無い、なのに何故?
「狐狗狸さん、狐狗狸さん、どうぞおいでください♪ ……力が抜けようが、動かす側には関係ない。操り人形の如く、繰糸を操るだけだ」
 狐、狗、狸。つまるは低級な動物霊による憑依と身体操作。これらは獣で在るがゆえに、呪いの範囲外となり問題なく効力を発揮する。冷徹にそう言い放つ操だが、女童はそれを耳にする余裕は無かった。箱こそが、自らと子らを繋ぎとめる要であるがゆえに。
 ――あ、ああ、ああああああっ!?
 内側から短刀を弾き飛ばし、先程とは比べものにならぬ量の小鳥が溢れだす。慟哭と共に上がる叫びは先ほどまでの澄ました態度とは違い、狂乱に染まりきっている。
「っ、とと! 成程、相手の泣き所はやっぱり箱みたいだね? ……まぁ、経緯を考えればさもありなん、といったところかな」
「その分、抵抗も激しい……これは、俺自身も壁役として前に出た方が良いかな。痛み自体に耐性はあるしね」
 追撃は困難と判断した操が短刀で小鳥を払い落しながら後退し、春鳴が再び青蜂を展開しつつ支援する。だが、その勢いは先ほどよりもなお激しい。青蜂も本能のままに襲い掛かるも、じりじりと押され始めていた。このまま防戦に徹していても、押し切られる可能性の方が高い。
「だったら……最速で突っ込んでからの、一撃離脱しかねぇよなっ!」
 とその時、後方から声が上がる。見ると、八脚馬に跨った夜野が黒妖犬を引き連れながら、後ろに浄雲とアイナを乗せて駆け抜けんとしていた。彼は愛馬をがっちりと鎧で固め、自身は妖刀を振るいながら小鳥の群れ目掛けて加速する。
「突入までの手が足りねぇ! すまん、援護を頼む!」
「分かったよ。蜂を一点に集中させて隙間を作るから、そこへ入って」
「これ、操ちゃんも乗るスペースあるかな? なければ、ちょちょいと☆」
 夜野の要請を受け、黒き魔犬と共に小鳥を襲う蒼き蜂群。局所的にとは言え優勢へと勢いを転じさせるや、その箇所目掛けて馬が突撃する。鎧に鋼糸を引っかけて追随する操も含めれば、都合四名が敵陣深く切り込んでゆく。
「それでもなお小鳥の壁は厚い、と。であれば、ここからは私が道は開きましょう……音羽の怨怒、今一度ご覧じろ」
 それでも未だ多い小鳥へと、浄雲は手にした刀身に炎を纏わせて一閃。飛んで火に入る、とは正にこの事。青白い炎に包まれて、ぼとりぼとりと小さな翼が地へ墜ちてゆく。
「箱へ落ちた血涙達、姿を変えて此処に集え……囚われた哀しみと怒り、水晶の炎に変えてここに放たん」
 道は開かれた。小鳥の奥に隠れた女童の姿をアイナの瞳が捉える。彼女は詠唱と共に馬の背から飛び上がるや、周囲に無数の紅水晶を形成。それらを合一し一振りの炎剣と変じさせると、大上段より女童目掛けて振り下ろす。
「現し世に戻る事が叶わぬなら、せめて来世を歩める様に……これが餞の鎮魂歌だ」
 咄嗟に女童も小鳥を集結させて盾代わりとするも、それごと剣閃は相手を断ち切る。此度は血が流れない。傷口すら焼きつぶす斬撃は、先の一撃よりも修復困難な傷跡を相手へと残した。
 ――治ら、ない? 駄目、駄目。出来損ないと呼ばれるのは、もういや。
「……過去、何を抱き、何と謗られたか。陳腐と一笑するには余りに重く、だが他者へ犠牲を強いるには独善が過ぎる」
 信じられないというように自らの傷跡へ視線を這わせる女童。その瞬間だけは外見相応のように見えた。それは誰かに害されることを恐れる手弱女の姿。そんな無防備を晒す相手の胎を。
「子を取られた母の気が知れぬようでは、アンタは親として失格だ。何よりも忌んだ境遇を、他者にも押し付けたのだからな」
 操の貫手が貫いた。下腹部へ肘までめり込んだ一撃に、ごぽりと粘度の高い血液が零れ落ちる。踵を返す八脚馬に曳かれてずるりと腕が抜けるや、黒々とした大穴がぽっかりと口を空けた。本来収まるべき臓器は見当たらず、そこはただ黒々とした汚濁のみが満ちていた。
 ――嗚呼。無い、ない、ナイ。私の子らは、もうここには来ない。
 呪いの効果により、うぞうぞと傷口が再生を始める。だがそれは外見を取り繕うのみで、ダメージの完全回復には時間が掛かるだろう……況や、そこにあるべき『モノ』の再生など、確認するまでもない。
 ――だから、箱を満たそう。そうすれば、きっと。
 女童は血に濡れた手でそっと箱を撫ぜる。愛おしげに、慈しむ様に……あるいは、もうそれしか縋るものが無いというように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

未不二・蛟羽
覚えてない
よくしってる、においが
おなかすいた、あんなんじゃたらない

どうしても何かが欲しいって気持ち、正直分からなくて
でも
間違ってるって思うから
偽物を詰めたって、それで手に入れたものはきっと偽物のままだと思うっす
それは…本当に一番欲しいものなのかなって

だから
喰べよう
うばわれるならそのぶん喰べればいい
つめてもみたされない、いっしょ?
くらくらして
あたまがまとまらない
どらいばーがあつい

真の姿へ
言葉を知らぬきんのめのばけものはただの如く唸り吠え

周りの子供、小鳥には興味を示さず、爪で蹴散らし
尾の蛇で女童を見て、【顎】で【大食い】【生命力吸収】で喰らい

喰べれば命はそこで終わり
巡れば次はきっと、きらきらだから


青葉・まどか
あれは函なんかじゃない、穴だ。
自分だけが苦しいのは嫌だと、道連れを求める底なしの穴。
止まらない妄執、負の連鎖の始まり。
犠牲者の成れの果て、その果てに成った呪物。

埋まらないよ。他者の命でその穴は埋まらない。
命を収めれば収めるほど、その穴は深く、大きくなっていくから。

だから、止めるよ。

正直、アレは怖い。
近づきたくない。関わり合いたくない。
でも、アレが存在するはもっと怖い。
だから私は必死で刃を振るう。

『神速軽妙』発動。
【破魔】の【属性攻撃】を活用、【早業】で【2回攻撃】

カゴメ、カゴメを発動されたら。
内部は安全みたいだけど、外の子供たちはどうかな?
召喚された子供の霊を攻撃すれば無力化出来ないかな?


ヌル・プラニスフィア
こんばんわ。お嬢さん。
――あぁ よくないものが憑いてるな。そう オカルトなら 言うんだろうな。
生憎 こちらはオカルトがわかならくてね。アンタらを救う方法が これしかわからない。
痛くはしないから これでサヨナラをしてくれ。


UCで作った銀の弾丸で味方のサポートだ。効果があるかは 試せばわかるだろう。
コトリバコ をどうにかすれば 気味悪さもなんとかなるかな。優先的に叩くとしよう。
モノ お前もその手伝いだ。いいな。
『おっけー任せて!こわいから近寄りたくないし!みんなをかばったり応援したりするよっ』
ん。せいぜい賑やかにしててくれ。

さようなら 子どもたち。子どもの時間は もう終わりだ。

アドリブ絡みOK



●正気と狂気、この場に相応しきは。
「あれは、単なる箱なんかじゃない……穴だ。自分だけが苦しいのは嫌だと、道連れを求める底なしの穴。止まらない妄執、負の連鎖の始まり」
 仲間の戦闘、そして女童の在り様を直接見たまどかは、端的にそう評した。確かに、児を詰めれば箱は開くだろう。だがそれでアレが真の意味で満たされるかと言えば……彼女は否であると確信できた。イメージの差こそあれ、同様の感想を傍らのヌルも抱く。
「こんばんわ、お嬢さん。あぁ よくないものが憑いてるな。そう、オカルトなら言うんだろうな。生憎 こちらはオカルトが分からなくてね。アンタらを救う方法が これしか思いつかないんだ」
 ぴん、と。指先で銀の弾丸を弾くと、それをマスケット銃の銃身へとそのまま落とし込む。魔性邪物の類は銀を嫌うと、昔から相場が決まっている。効果の程は、戦えばすぐ分かる事だろう。
 寧ろ、と彼は仲間の方へと視線を向ける。『憑いている』とは若干違うかもしれないが、視線の先ではやや危うい雰囲気を纏う者がひとり。
「覚えて、ない……? でも、よくしってる、においが……おなかすいた、あんなんじゃたらない。もっと、まだ」
 ぶつぶつと、熱に浮かされたように呟きを漏らす蛟羽。その視線は、ただひたすらに女童へと注がれている。彼はああまで何かに恋い焦がれ、欲する気持ちを分からなかった。ただ分からずとも、何かが致命的なまでに間違っていることだけは本能で理解している。
「偽物を詰めたって、それで手に入れたものはきっと偽物のままだと思うっす。本物になんか、思えっこない。それは……本当に一番欲しいものなのかな、って」
 彼の僅かながらに残った理性の漏らした、微かな感傷。次の瞬間、刻印が熱を帯びたと思うや姿が変貌する。虎の手足、蛇の尾、猛禽の翼に捻じれた角。それは先にも輪を掛けた異形の姿。乱杭歯の隙間から、吐息と共に声が漏れ出る。
「喰べよう。うばわれるなら、そのぶん喰べればいい。つめてもみたされない、いっしょ? おんなじ?」
 その内容は獣のソレ。瞬間、彼は金の眼光を曳きながら敵陣へと吶喊を開始する。その動きは戦いではなく、もはや狩りというべきだろう。呪いも何もかもを無視して女童へと襲い掛かり、蹂躙してゆく。
「ちと心配だが、前衛を務めてくれるのなら好都合だ。こっちは援護に回る。モノ、お前も手伝いだ、いいな?」
(おっけー任せて! こわいから近寄りたくなかったし、寧ろ願ったり! みんなをかばったり応援したりするよっ)
「ん。せいぜい賑やかにしててくれ……で、お前さんはどうする?」
 別人格と方針を確認し終えると、ヌルは瞬時に後方から支援射撃を叩き込み、蛟羽が戦いやすいよう相手の動きを牽制する。予想通り、銀の弾丸は効果があるらしい。彼は照星から視線を外さぬまま、まどかへと問いかけた。
「正直、アレは怖い。犠牲者の成れの果て、その果てに成った呪物。近づきたくないし、関わり合いたくない。でも、アレがこのまま存在するのは……もっと怖い。だから」
 ここで止める。恐怖と嫌悪感を抑え込み、そう意を決すると彼女も前線へと駆け出して行く。それを見届けながら、ヌルは射撃速度を心なし速めてゆくのだった。

 対して、前線では凄惨な光景が広がっていた。
 ――やや子や、やや子。暴れないで、泣かないで、小鳥と共にお遊びなさい。
「あ、ああ。たりない……ぜんぜん、もっと……!」
 襲い来る蛟羽に対し、女童も小鳥群を出して応戦しているが、ほぼ焼け石に水と言ってよかった。小鳥の嘴によって受けた傷を、翼を食らうことによって癒す。呪いで奪われた生命力を、女童の血肉から取り返す。それはさながら、尾を食らいあう蛇のよう。
 ――愛しき子らよ、どうかあやすのを手伝って?
 このままでは埒が明かないと判断したのか、女童は飛び退くと箱を撫ぜる。瞬間、彼女の周りに『子ら』が円を描く様に出現。その内部を安全領域へと変えて、蛟羽を弾き出す。
 女童にとって、時間は味方だ。その判断は決して間違ってはいない。ただし、ある程度種が割れてしまえば、突破する方法など幾らでも考え付くものだ。
「内部は安全みたいだけど、外の子供たちはどうかな? 守られているのは、飽く迄も貴女だけでしょう?」
 目を閉じて開くたびに、円を形成する子らが二人ずつ消えてゆく。呪いを警戒して高速機動による一撃離脱に徹するまどか。彼女の振るう破魔の刃によって、まるで虫食いの様に子らが削り取られる。確かに内部は守られるだろうが、子ら自体は先ほどの少女らと大差ないのだ。であれば、倒せる。
 ――消え、る。私の子が、消えてしまう。せっかく、満ちた子なのに。
「……埋まらないよ。他者の命でその穴は、絶対に埋まらない。命を収めれば収めるほど、その穴は深く、大きくなっていくから」
 欠けを埋めるべく次から次へと子らが出てくるも、増える速度よりかまどかによって消滅させられる速度の方が僅かに上回っている。じりじりとした均衡の果て、生まれた隙間を見つけるや、蛟羽は体をぐるりと捻らせる。刹那、鞭の如くしなった尾の蛇が領域内へ滑り込むと、その顎で女童の肩口へと食らいつきそのまま円の外へと引きずり出した。
「たべれば、命は、そこでおわり。めぐる命は、次はきっと……きらきらだから」
 ぶちりと、女童の肩肉を食いちぎりながら蛟羽は相手を宙へと放る。小鳥を操るとはいえ、自身に羽が生えている訳でもないのだ。地面に足をつけるまでの数秒間、身動きを取ることは出来ない。
「仲間との連携まで忘れてなくて嬉しいぜ……モノ、スポッターを任せて問題ないな?」
(安心して! 室内だから横風もないし、今度は相手もばっちりみえるしね。外す心配はないよ!)
 そしてその数秒もあれば、狙い撃つには十二分。ヌルは膝立ちで体勢を整えると、照門と照星の延長線上へ相手を捉える。狙いは女童が後生大事に抱え込む箱。緩やかな放物線を描く対象をしっかりと追尾し、ヌルは引き金を引く。
 ――させるか、させる、ものか……!
 意図に気付いた女童が、箱より小鳥を呼び出して弾丸を防ぐ壁とする。小鳥たちに銀色の弾丸が触れるや、瞬時に起爆。爆炎の中に小鳥たちをまるごと呑みこみ燃やし尽くすも、そのせいで本体はほぼ無傷……だが。
「さようなら『子ども』たち。子どもの時間は、もう終わりだ。歳ってのは取って、重ねるものだからな。戻れなんざ、しないんだ」
 彼の愛銃は二連式なのだ。初弾から間を置いて放たれた二弾目が、小鳥の消え去った空間を通り過ぎる。それは何物にも遮られることは無く、箱へと吸い込まれてゆき。
 ――バキン。
 命中、直撃。ただの箱よりも頑丈なのか、貫通破壊とまではいかず弾かれたものの、表面へ傷を刻むことに成功する。跳弾した弾丸が一拍遅れて炸裂し、女童の体が吹き飛ばされた。留め紐が千切れたのか、ばらりと髪が散らしながら女童は立ち上がる。
 ――私の胎を、箱を、愛しき子らを。また、奪うの?
 その瞳にはこれまでになかった感情が混じり始めていた。それは、怒り。自らの子にしようというのではなく、明確な殺意と敵意の発露。それは箱同様、女童の優位へ徐々にひびが入り始めてきたことも意味するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルー・ガランサス
【1・2章に引き続きスミスくん(f17217)と共闘】
──っ、ああ。もう、これじゃ流石に生身では助からないよね。
ごめんね未来ある子たち……せめて、せめていいところに行けますように……。

小鳥の大群、当たったら痛そー……。【ゴッド・クリエイション】で硬度を強化した盾で攻撃を防がなきゃだね。がきーん。

もしスミスくんが敵のカゴメカゴメを止められなかったら、《蔦人形》で子供の霊を殴ったり呪詛を吸い取ったりするね。それで安全領域が解除されるといいけど。

WIZの攻撃に対しては一応〈呪詛耐性〉で対策を取れるかな。神とはいえ僕も“子ども”の姿をしているからね。ないに越したことはないだろうし。


スミス・ガランティア
【真の姿:光輪が氷の王冠になり頭に嵌まる。髪が腰を越すほど伸びる。周囲の温度が下がり雪の降る幻影がちらつく】
【ルー(f17549)と共闘】

……お前のそれは、永遠に満たされることなどなかろうよ。
人の子に対する愚弄、ここで終わらせてくれる。

【破魔】の力を込めた【雪待草の宴】を放ち、子供の霊に当て安全領域を作るのを妨害しコトリバコにも攻撃する。
小鳥を放たれたらそれも相殺を試みる。

……この空間内だ。霊や生き物が影響を受けていないはずはないだろうし故にさぞかし効き目はある事だろう。
子の霊には「慰め」を、敵には速やかなる死を与えよう。

戦闘後、ルーの当てられ具合が危険そうなら【生まれながらの光】で治療を。



●神が救うか、箱が堕とすか
「──っ、ああ。もう、これじゃ流石に生身では助からないよね。只人の身で耐えきるには……この場所は昏すぎる」
 この戦場に辿りつくまで、実際に『コトリバコ』を目にするまで。僅かではあるが、ルーは期待していたのだ。誰か救える者は居ないかと。だが、その期待は儚くも消え去った。ここに、真っ当な生を抱く者はいない、と。数千年を経た神でようやく割り切れるのだ。であれば、その十分の一程度しか経験していない者の心中は如何ばかりか。
「……お前のそれは、永遠に満たされることなどなかろうよ。人の子に対する愚弄、ここで終わらせてくれる」
 燃え上がるは怒りと憐憫。反比例するように凍てつく空気。スミスの頭上に輝いていた光輪が冷気を纏うや、それは王冠となって彼の頭へと収まる。腰下まで伸びる髪を揺らす姿は、正しく神としての彼本来の姿だ。
 ――あなた、は。要らない、見たくない。神なんて、いまさら……遅いの!
「周囲へ影響をもたらす異能、持っているのがお前だけだと思うな。……気付いた時にはもう手遅れ、など。それは神だろうと変わらない。せめてこの花の舞を、子らへと捧ぐ手向けとするがいい!」
 薄暗い古民家の中で、咲き誇るは雪待草の純白の花弁。一枚一枚へ破魔の力を籠めた花吹雪は、単純な攻撃の為だけではない。女童を中心として展開される、奪命の呪い。それをかき乱し、猟兵たちが動きやすいように状況を整える狙いがあった。
 ――これは、いや。いやなものを、遠ざけて。
 無論、相手とて指をくわえてそれを見過ごす謂れなどない。箱の中より小鳥の群れを呼び出すと、花吹雪が自らの元へと近づかぬよう掻き乱させてゆく。
「うわぁ。小鳥の大群、当たったら痛そー……。スミスくんの花吹雪はきちんと避けてくれるのになぁ。だったら、きちんと防がなきゃね?」
 真の姿を解放したスミスと、戦闘の過程で自己強化を繰り返した女童の勢いは拮抗している。その中を、自らの権能を以て編み上げた蔦の盾を構えながらルーは前進してゆく。
 花びらも支援するように動いてくれるも、それで全ての小鳥を防げるわけではない。四方八方頭上より、その足を止めんとする小鳥たち。
「がきーん……一応これ、生きている上に固さも強化しているからね。見た目以上に、抜くのは難しいよ?」
 だが、盾は自らの意思でもって蔦を蠢かせ、近づく小鳥を片端より弾き返してゆく。この盾自体がルーによる被造物。その形状上攻撃能力には乏しいが、防御能力という点ではその役目を十全に全うしていた。
「スミスくん、もう抜けられそうだよ」
「分かった、我も続く。先導は頼むぞ!」
 花びらを維持させつつ、ルーの背にスミスも追いつく。小鳥は確かに脅威だが、それが本番ではない。女童を、箱を攻略できねば意味がないのだ。
 ――囲め、籠女、我が子らよ。あなたの帰る場所が、なくなってしまうから。
 小鳥群を凌がれた女童は、最後の砦たる安全領域を展開させる。しかし二人にとって、それらは小鳥よりかは容易い相手だ。人を幼子を導くは、神たる彼らの本分なのだから。
「宣言しただろう。これは手向け、幼き霊への慰めだ」
「ごめんね、未来があったはずの子たち……せめて、せめていいところに行けますように。こんなものでも、その箱よりかはマシだと思うから」
 スミスの白き花弁が子霊を包み込むや、縛めの呪詛を解きあるべき流れへと還してゆく。手の足らぬ範囲ではルーの手にした盾が蔦の人形へと形を変え、次々と子供の霊を吸い取り、箱より引き剥がす。
 女童の外見をしている通り、相手はそも白兵戦に長けた手合いではない。呪詛で弱らせ、小鳥で蹂躙し、突破されても子らの守りで凌ぐことを基礎戦術としているからだ。といっても、決して油断は出来ない。
 ――あ、ああ。触らせ、ない。これは、これだけは……!
 奪い取った生命力を自らへと回せば、尋常でない膂力を発揮することも可能。箱を庇うように抱えながら手を突き出してくる相手に、スミスは動じることなく大杖をかざす。
「拒む気持ちが分からんとは言わん。だが、どうあがいても満たされぬ道行きであれば……ここで終わらせてやるのも慈悲だろう」
 ばきり、と女童の全身を霜が包み込む。本来の力を全力で発揮した凍気は、相手の抵抗を許さず停止させてゆく。そこへ止めとばかりに、ルーの蔦が絡みつき、ミシミシと全身を締め上げた。
「さぁ、このまま箱ごと……っ!?」
「これは……侮ったか!? 下がれ、ルー!」
 そのまま千々に砕こうとした瞬間、違和感を覚えたルーをスミスが咄嗟に手を取って引き寄せる。刹那、氷片が舞い散り、内側から強引に蔦が引きちぎられた。
 ――いやだ。いやだ、いやだ、いやだ、いやだ!
 中から現れる女童は満身創痍と言ってよい。箱とて、半ば凍り付いている。だがそれでもなお、母となれなかった少女は消滅を忌避した。
 ――もう、失うのは、いや!
 ただ、その一念のみで。この世にしがみつき続けるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ファン・ティンタン
【WIZ】流転
【ヤド箱】で挑む

想いには形があり、色がある
かつて母が、子を想ったが故の強い思念(私怨)が、今ここに在る
永く重ね連ねたコレを消し去るのは並大抵の事じゃ実現出来ない

けれど、もし
黒く澱むコレを、穢れる前の想いへと流転出来たならば

―――いや
出来たなら、じゃないね
“私達”で、やるんだよ

【真の姿】
【天華】に己が全てを集約して、津雲の手の内に収まる
祈りと詩の祭器として、【破魔】の【力溜め】を続ける

術式をねじ込む機会は一度だけ
でも、きっと―――大丈夫、だよね

ペイン、加減は出来ない…頑張って

機が満ちれば【転生尽期】

私は命ず
その想い、澱み果てる前に、思い出せ
願わくば、何物をも包む母の清らな心へ、還れ


勘解由小路・津雲
【ヤド箱】で参戦、アドリブ連携歓迎

子を失ったことを嘆くのが悪いはずがない。誰がコトリバコなどという邪法を授けたのか。これが見知らぬ術者の悪意によって始まった悲劇であれば、おれも一人の術師として幕を引く責務を果たそう。

■戦闘 【七星七縛符】 いつもの北斗星君ではなく冥府の神にて陰陽道の主神、泰山府君に畏みて申し奉る。祭器の準備がないが……、おお、護刀に力を貸してもらえるなら、あの技封じてみせよう。

泰山府君祭中は動けぬ、語、今度は頼んだぞ。おれにどれほどの寿命があるかわからぬが、それと引き換えに、今しばらくあの母の嘆き、鎮めたまえ――!

よしペイン、最後は泰山府君の加護を受けた天華を使え!


ペイン・フィン
【ヤド箱】
……さて、
埋まらない、虚ろなままのそれを、
全ての痛みを、お仕舞いにしてあげよう。
ずっとこのままなのは、あまりにも、悲しすぎるから……、ね。

真の姿を解放。
数歳程度幼くなり、血霧のようなモノを纏う。
そして、コードを使用。

石抱き石“黒曜牛頭鬼”が、子どもの霊を潰す。
ーーー子は罪石を積め、全ての怨みが忘れられるまで

猫鞭“キャット・バロニス”で、小鳥をなぎ払う。
ーーー小鳥は、猫に食われ、消え果てる

そして、毒湯“煉獄夜叉”を、敵と箱に振りかける。
ーーー苦しみも、毒に酔い潰れて、忘れよ

最後、津雲からファンの本体を受け取り、身が焼かれながらも振るうよ。
……せめて、その魂が救われるよう、願いながら。


落浜・語
【ヤド箱】で

一人だったら、危なかった…
迷惑掛けた分、働かないとな。大丈夫、今度はちゃんと騙れる

とはいっても、また同じ事になるのも怖いし、向こうの常時発動コードも厄介だな
近接戦闘は苦手だがその分を何かで補えばいい。『怪談語り』で自身を強化。宿す連中も場の空気で好き勝手やってくれそうだが勝手知ったるなんとやら。ここの狂気に落ちる事よか、まだマシでしょう?
ああ、任せてくれ。さっきは助けてもらったんだ。だから、津雲さんの術が成るまで、フィンさんがそれを繋ぐまで、今度は俺が【かばう】なり時間稼ぎなりなんなりするさ。だからそちらに集中してくれ。
多少の被弾は、気にせず前へ出る。
ぎゃあぎゃあうるさい。黙ってろ


三原・凛花
この子(水子)達が会いたがってた理由が良く分かるよ。
いいお母さんだね、あなた。
子供の事を、本気で悲しめるなんて。

それに比べて私は…
多分、心の奥底で…「この子達が流れてくれて清々した」なんて思っているんだよ。
幾ら陵辱で孕まされたと言っても、子供に罪はないのに。

そんな最低な私だけど、それでも…
同じ母親として、あなたを見過ごす訳にいかないんだよ!

【水子召喚】による<生命力吸収>で、コトリバコが奪った寿命を取り返し【子取りの箱】を無力化。
そして<捨て身の一撃>で本体に接近し、<優しさ>を込めて<手をつなぎ>、<コミュ力>でお願いしてみるよ。
「母親失格の私の代わりに、この子達と一緒に遊んであげて」って。



●箱を握り続けた、その手を。
「この子達が会いたがってた理由が良く分かるよ……いいお母さんだね、あなた。子供の事を、本気で悲しめるなんて」
 傷つき、汚濁に塗れ、血を吐く様に叫ぶ女童。二度と失いたくない、別れたくないと、全身全霊を賭して吼えるその姿に、凛花はどこか羨ましげな視線を向けている。無意識のうちに自らの胎を撫ぜながらも、しかしその表情はどこか陰があった。
(それに比べて私は……多分、心の奥底で、『この子達が流れてくれて清々した』と思ってる。宿した経緯がどうあれ、子供自体に罪はないのに)
 ゆらゆらと、自らの周囲に揺らめく幼子たち。彼らを見守る瞳に浮かぶのは、愛か憎悪か悔恨か。しかしそれでもなお、彼女はその場から逃げるような真似はしなかった。
「例え、出来不出来に差があろうとも……同じ母親として、あなたを見過ごす訳にいかないんだよ!」
「ああ、その通りだ……そもそもの話、子を失ったことを嘆くのが悪いはずがない」
 そう宣言する凛花に何がしかの事情があろうと察しつつも、触れる野暮をせぬまま津雲が頷く。今がどうあれ、始まりは凄絶かつ純粋な願いだけだったはずだ。
「誰がコトリバコなどという邪法を授けたのか。今となっては知る術もないし、知ったところで意味も無かろう。だが、これが見知らぬ術者の悪意により始まった悲劇であれば……おれも一人の術師として幕を引く責務を果たそう」
 しゃん、と。響く錫杖の音は涼やかに。彼は呪詛と慟哭に満ちた戦場を祓い清め、終わらぬ無間地獄に終止符を打たんと対峙する。その傍らでは、語が並び立つ。気分の悪さは、先ほどの比ではない。だがそれでも、彼の思考は明瞭に澄み渡っていた。
「さっきもそうだが、一人だったら危なかった……迷惑掛けた分、きっちり働かないとな。大丈夫、多少は慣れた。今度はちゃんと語れる」
 手には奏剣、帯には扇子、肩には鴉を留め置いて。此度の噺家は前へと出る。切った張ったは不得手なれど、ここでいかねば男が廃るというもの。
「それに、噺はきちんと下げないとな。それが笑えるものならば、尚良い。という訳で頼んだよ、ティンタンさん?」
「ああ。ただ、準備が整うまではそっちも頼りにさせて貰うよ」
 仲間の呼びかけに、ふっと笑みを漏らすファン。だが視線を女童へ戻すと、その表情は真剣なモノとなる。護刀として、彼女は此処に満ちる感情を刀身に染みて感じ取っていた。
「想いには形があり、色がある。かつて母が子を想ったが故の強い思念が、今ここに在る。永く重ね連ねたコレを消し去るのは、並大抵の事じゃ実現出来ない……けれど、もし」
 穢れる前の想いへと、流転出来たならば。そう、ただ倒すだけなら簡単だ。一斉に攻めたてれば、それで事足りる。だが彼女が望み、願うのはその先。
 しかし、果たして可能なのだろうか? そう揺らぎかけた時、彼女の前に小柄な人影が立つ。それは誰よりも愛する者。彼はそっと背中越しに小さく頷く。ただそれだけで、自身でも驚くほど呆気なく迷いが吹っ切れた。
「出来たなら、じゃないね。“私達”で、やるんだよ……津雲!」
「委細承知。護刀に力を貸してもらえるなら、あの技を封じてみせよう」
 ファンが自らを本体たる一振りの白刀へと変じさせると、津雲の手中へ収まる。そのまま呪力を溜め始める彼女の力を借り受けながら、津雲が護符を放ち相手を封じ込めに掛かった。狙うは当然、最も厄介な奪命の呪い。
「この場においては、北斗星君ではなく泰山府君が相応しいか。祭器が無くとも護刀があれば!」
 ――これ、いじょう。触れさせない、これを、傷つけさせは、しない!
 女童目掛け飛翔する護符。一方追い詰められた相手も、攻撃の一つたりとも自分へ通すまい必死に抵抗する。何度目かも分からぬ小鳥の群れを呼び出し、護符を撃ち落さんとけしかける、が。
「……さて。埋まらない、虚ろなままのそれを。全ての痛みを、お仕舞いにしてあげよう。ずっとこのままなのは、あまりにも、悲しすぎるから……ね?」
 護符と共に飛びだしたペインがそれを許さない。彼の手に握られしは九の尾を持つ猫鞭、それは一振りする度に九羽を裂き落とす。瞬く間に数を減らしてゆく小鳥の間隙を縫い進んだ護符は、相手が子らを呼び出すよりも前に取りつくや、呪詛の拡大を抑え込む。
 ――ア、アアァアァ!? だめ、繋がりが……子との、繋がり、が!?
「捕らえた……ッ! これで今暫くあの母の嘆きを鎮められる。だが、代わりに術の維持で動けん上、今度は術に寿命が持って行かれそうだ。語、今度は頼んだぞ?」
「ああ、任せてくれ。さっきは助けてもらったんだ。術が成るまで、時間を稼ぎ終えるまで、こっちも身を張らせてもらうさ……さて、どうやら早速の出番らしい」
 右手で印を、左手で護刀を握る津雲はみだりに動けない。一方で、ペインの攻撃は護符の突破を優先したため、幾分か小鳥を通してしまっている。無防備な仲間を守るべく、語の取った行動は単純明快だった。地力が足りなければ、他で補えばよい。
「さて、宿す連中も場の空気で好き勝手やってくれそうだが、そこは勝手知ったるなんとやら。ここの狂気に落ちる事よか、まだマシでしょう?」
 身に宿すは蝋燭を握る死神、髑髏姿の亡霊、稚児を背負う悪霊。呼び出されし怪談話の原型たちが、周囲の修羅場もよそにがちゃがちゃと喚き散らす。代償としてじわりと皮膚の下で内出血を起こしながらも、彼は小鳥の群れへと身を晒し、攻撃を一身に引き受けていった。
「ええい、どいつもこいつもぎゃあぎゃあと……! 既に死んだ身だろう、多少の痛みぐらい黙って耐えろ!」
 憑りついたモノどもが好き勝手に文句を垂れ流すも、語はそれを一喝し黙らせる。これが任され、自らへ課した役割なら、それを果たすまで退くことなどありえない。
「援護は必要かな? この子たちはどちらでもいけるけど」
「いや、こっちは何とか持たせる。それよりもコトリバコを! 今でこそダメージに再生が追い付いちゃいないが、それでも溜め込んだ生命力は膨大だ。少しでもそれを削ってくれ!」
 凛花からの問いかけに首を振る語。幸い、ペインが減らしてくれたおかげで小鳥の数は語が対応しきれる数に収まっていた。それを受け、凛花は子供たちと共に前線へと加わる。
 ――近づか、ないで! 来ないで!
 前線に残った小鳥を殲滅し終えたペインと、そこへ合流した凛花。眼前へと迫る敵へ半狂乱になった女童は、幼子たちの安全領域を形成する。しかし此度もまた、それに対する対抗手段は存在していた。
「あの女の子達もよりも歳が近い分、仲良くなりやすいかしら……さぁ、思い切り遊んでもらいなさい?」
 わっと、輪を組む幼子たちへ群がるのは凛花の子供たち。彼らは幼子たちの手を取ると、次々とその輪から連れ出し、自分たちの『お友達』へと変えてゆく。それは自らの半身、集めた命の結晶を奪われる事と同義だ。
 だがその中心にいる女童はその領域を維持する代わりに動けず、ただ指をくわえて見ているしかない。解除してしまえば、無防備な本体が晒されてしまうのだから。
「ここまで、くれば……。子は河原にて罪石を積め、全ての怨みが忘れられるまで……胎無き母よ。苦しみも、毒に酔い潰れて、忘れよ」
「子を取るか、自分を取るか。その選択の是非を問えるような資格、私にはないけれど……それでも、あなたはどちらかを選ぶべきだった」
 凛花の言う通り、子を戦力として積極的に使い潰せば、まだ切り返し様があっただろう。児を慈しみ自らの身を晒せば、せめて母としての在り様を果たせただろう。だが、目の前の女童はそのどちらにも振り切れなかった。故にこの瞬間、趨勢が確定的となる。
 ――あ、が、あぁ、あああああっ!?
 ペインが残り少なくなった幼子を石塊で蹴散らし突破、毒湯で相手の顔面を焼き潰す。思わず顔を覆うその瞬間、あらゆる守りが剥がされ相手は無防備となる。
「これならば……よしペイン! 最後は泰山府君の加護を受けた天華を使え!」
「珍しく前に出て身を張ったんだ、頼んだぜ?」
「ペイン、加減は出来ない……頑張って」
 術を維持し続ける津雲が、護衛していた語の頭越しに白刀姿のファンを投擲する。それを受け取り、愛おしげに握り込んだペインは、極限まで籠められた破魔の呪力に焼かれながらもそれを頭上に掲げ……。
「不本意かも、しれないけど……せめて、その魂が救われるよう」
 大上段より、振り下ろす。それは頭頂部から左右真っ二つに女童を斬り捨て、握りしめた箱すらも断ち割る。誰がどう見ても、致命の一刀――にも関わらず。
 ――ああ、はこが。あくのでなく、われて……こらが、こぼれて。それ、は。
 女童は残り僅かな生命力をかき集め、身を浄化される激痛に耐えながらも、弾け飛びそうな箱を両手で抑え込んでいた。その中に在る物だけは、何を犠牲にしてでも逃したくないというように。血が滲むほど、爪を立てるその手を。
「……もう、良いんだよ。あなたの想いは、しっかりと伝わっているはずだから」
 そっと、凛花の掌が包み込んだ。彼女は諸共浄化の呪力に焼かれるのも構わず、女童の手を握りしめる。
「母親失格の私の代わりに、どうかこの子達と一緒に遊んであげて。あなた、ずっと箱を握ってばかりだったでしょう? 最後くらいは……ね」
 凛花の瞳を、周囲に群がる子供たちを、女童は呆然と見つめる。彼女はそっと手を伸ばすと、子供の小さな手を握り込んだ。壊れ物を扱うように恐る恐るながらも、優しさを滲ませて。
 ――ああ、そうか。どれだけ、こをあつめても。いちどだって、わたしは、あのこの……。
 何かを悟ったように、ふっと女童の全身から力が抜ける。その瞬間、堰を切ったように彼女の小さい体が光となって解けてゆき……。
 コトリ、と。割れた箱だけが床へ転がった。

 町ひとつを蝕まんとした呪いの元凶はここに打ち倒され、猟兵としての役目はここに果たされた。だが、一つだけ確認しておかねばならぬことが残されている。もしかしたら僅かばかりの救いとなるやもしれぬ、ある疑問が。
「コトリバコとは、箱に幼子を詰めて作る呪物。此度はその力によって、次々と周囲の命を飲み込んでいったが……」
「そもそもとして、箱を作るための『最初の一人』は誰だったのか。ま、考えられる可能性は、ほぼ一つだけだな」
 津雲と語は、その答えを確かめんとするファンの様子を見守っていた。ペインも疲弊しているにも拘らず、先の一撃で疲労困憊の彼女を支えながら共に寄り添って立つ。
「無理しないでとは、言わないよ……代わりに、一緒にいるから」
 ペインの言葉に、静かに微笑むファン。彼女は自身たる白刀を床に突き立てると、周囲に残る想いの残滓へと呪力を巡らせる。
「その想い、骸の海へ澱み果てる前に、思い出せ。願わくば、何物をも包む母の清らな心へ……」
 還れ。瞬間、霧散したはずの女童の想いが結実する。箱の呪いに蝕まれる前の、どこまでも子を想う姿が取り戻される。何故また此処に居るのかと困惑した様子の彼女へ、凛花は静かに歩み寄る。
「子供たちと遊んでくれて、ありがとう。でもまだ一人、愛して貰ってない児が残っていたからね」
 ――まだ愛してない、児……?
 疑問を浮かべる女童の前に、凛花がそっと割れた箱を差し出す。すると……ふわり、と。そこから小さな輝きが立ち昇る。微かで、儚げで、それでいて何よりも暖かな、命の光。
 ――あ、あぁ。これは。この、児は。
「母親が愛してあげなきゃいけないのは……やっぱり自分の子供だと、思うから」
 胸元へと吸い寄せられた輝きを、女童はそっと抱きしめる。かつてしてあげたくても出来なかった行為を、噛み締める様に。
 ――やや児や、やや児。もう、もう、離したりはしないから。一人には、しないから。
 ゆっくりと、女童の姿が薄れてゆく。それは先の様な消滅ではない。ようやく満ち足りることが出来た末の昇天。彼女の姿が完全に消える、寸前。
 ――きゃっきゃ、と。
 そう、嬉しげな赤子の笑い声が……猟兵たちの耳に聞こえた気がしたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月06日


挿絵イラスト