●
「どう、し……て……」
雪残る森の奥で蹲る少女の喉から嗚咽が漏れた。
少女――アリスはこの不思議な場所、アリスラビリンスと呼ばれる世界に来てからいつも誰かを探していた。少女には記憶がないが、いつも自分の隣には誰かがいた――そんな感覚は1ヶ月経っても2ヶ月過ぎても消えることなかった。
いつからかその違和感がきっと自身の記憶を取り戻すのに必要な鍵なのだと、根拠は無かったがそう思い、その誰かを探していた。
「どうして……」
地に伏し嗚咽を零す少女を見下ろす様に亜麻色の少女がこてりと小さく首を傾げた。
「どうして? だってあなた、探していたじゃない。いつもいた『誰か』を」
だから思い出させてあげたのよ?
そう答えた少女の答えにアリスの耳には届いては無かった。
――いつも一緒にいたあの子は、彼は。
いつも通りに寄り道をしながら二人で帰っていたあの日。
寄り道の戦果であるアイスを食べながら十字路を曲がると目の前には猛スピードでこちらへと向かってくる車。
突然のことに動けない自分の視界には彼の背中が割り込んできて――
「あっ、ああああ……」
(「どうして、どうして自分はこんな大事な事を忘れてたの……なのに思い出せばどうにかなるなんて……!」)
少女の中にあらゆる感情が渦巻く。彼は、自分はどうなった?あの後に意識はないのにどうしてここにいる?という数々の疑問。
そして――忘れてはいけない事だったのに甘い考えで過ごしてた自分への怒り!
「あっああああああああああああああああああああ!!」
嘆きと悲しみ、怒りが入り混じった悲鳴がアリスの口からこぼれた。
隣にいた存在を知ればきっと自分が分かると、淡い希望は今、白き絶望に塗り替えられた。
「……うふふっ。なんて綺麗な炎なのかしら」
そうしてアリスだった者から発せられた炎に、少女『ホワイトアルバム』はうっそりと目を細め、小さな笑みを浮かべた。
●
「そうしてオウガとなった少女は辺り一面を焼き払い、地獄の様な世界を作り上げるのでした……なんて悪趣味よね」
マリアベラ・ロゼグイーダ(薔薇兎・f19500)は小さくため息をつくと、集まった猟兵へと目を向ける。
「アリスラビリンスのとある世界で一人のアリスがオウガへと変貌し、国を滅ぼしてしまいそうになっているの。
オウガとなった彼女は鋼鉄が溶けるほどに熱い炎を操ったり、お菓子の兵隊を召喚して攻撃してくるわ。ちなみに炎に対しては防炎仕様であまり効かないみたいね。
といっても彼女はとある理由で生きたままオウガへとなったアリス。今から向かえばまだ助かる可能性はあるわ。
だからあなた達は彼女を、完全なオウガになる前に止めて欲しいの」
思い出した記憶が彼女を狂乱の沼へと陥れた事から、この記憶を起点に彼女をはげましたり慰め心を通じ合わせすれば猟兵への攻撃が鈍くなったり、オウガから元の姿に戻るだろうとマリアベラはいう。
「アリスを止めたらばこの依頼は終わり、とはいかないわ。その場には今回の元凶たるもう一体のオウガがいるから倒してきてちょうだい」
名を『ホワイトアルバム』。アリスの忌まわしき記憶を呼び覚ます能力を持つオウガにして猟書家だという。
「ホワイトアルバムはただの少女に見えるけれど、それはただのガワだけ。そのガワも今まで食べてきたアリスの物だし、中身は空っぽな邪悪なオウガよ。決して油断してはいけないわ」
遭去
●
遭去です。鉤爪の男との決戦――の前(か同時?)にホワイトアルバム戦をお送りします。
●1章
生きながらオウガとなってしまったアリスとの戦闘です。
戦闘中に声掛けして心が通じ合えば死亡せず、元の姿に戻る可能性があります。
なおOP冒頭のシーンのアリスの記憶に関する情報は、特に言及無ければ転移前にグリモア猟兵から事前情報として伝えられた物として扱います。
●2章
猟書家『ホワイトアルバム』との戦いです。
無垢な少女の様ですが邪悪なオウガです。油断せずに撃破してください。
第1章 ボス戦
『エレク』
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POW : 淡紅の火炎
【鋼鉄が溶けるほどの炎】を給仕している間、戦場にいる鋼鉄が溶けるほどの炎を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
SPD : お菓子好きの怪物
戦場全体に、【オブリビオンが食すと強化されるお菓子】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ : Who are you?
自身が【可愛さや興味】を感じると、レベル×1体の【お菓子の兵隊】が召喚される。お菓子の兵隊は可愛さや興味を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:彩
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「宇冠・由」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サンディ・ノックス
彼女の行く先に立ちはだかり、まず指定UCを発動
強制的に動きを止めるけど、落ち着いて、穏やかに、優しく語りかけることで攻撃の意志は無いと示したい
そう、自分が許せないんだね
それを外に向けたこと、偉いって俺は褒めるよ
だって許せないって自分を傷つけていたら
きっと貴女を庇ってくれたヒトは悲しむ
怒りって発散しないと消えないよね
だから存分に俺に向けて力を振るうといい
この世界が壊れるのはちょっと困るからね
力を振るって俺の話を少し聞いてもいい気持ちになったら
どうか俺の話を聞いてほしい
本当の貴女に戻ってほしいんだ
そして彼の元へ帰ろう
(最悪、彼が亡くなっていたとしても…)
彼は貴女の笑顔を何よりも望んでいるはずだから
●
『あ、あああ……うわああ!!!』
可愛らしいピンクな猫のぬいぐるみの姿からそぐわない嗚咽が零れる。
その慟哭交じりの嗚咽、感情に呼応するように釦でできた目からは炎がぼたりぼたりと落ちていく。
――私のせいだ。なのに、どうして、どうして。許せない、許せない――!
静かにそして苛烈に燃え上がる怒りは炎の涙となり辺りを焼いていく――。
「――これ以上は進まさせないよ」
オウガの前に立ちはだかる男がいた。
サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)が熱風を受ければ茶の髪が宙に舞う。それを意にも介さずにサンディはじっとオウガを見つめる。
『が、あああ』
前傾の姿勢を取り臨戦状態へと至るオウガ。それに対しサンディは、
「――ありがとう」
空の様に青い瞳を細め微笑みながらそう告げる。
『あ、え……?』
オウガの動きが一瞬止まる。
絶望の淵に飲まれかけ理性を失いかけている彼女から見てもサンディの笑顔と例は明らかに場違いだと認識していた。
「だって君は自分の悲しみを外に出してくれただろう?」
自分の罪を認める人ほど内に抱え込む。だが罪悪感という十字架は重く背負われた礼を言うことは無く、その存在感で罪人を圧し潰すのだ。
『わだ、わだジ、……マわリに、めい゛わぐ……でモ゛とめられない……!』
「自分を許せない、その感情を外に向けてくれて良かった。だって自分を傷つけていたらきっとあなたを庇ってくれたヒトは悲しむ」
『あっ……ああ』
オウガは自身の顔をがりがりと掻きながら言葉を紡げば搔いた先爪先から炎がぼたりぼたりと落ちていく。
「……怒りって発散しないと消えないよね」
地面に落ちて燃える炎は彼女の怒りと嘆き。頭ではサンディの言葉は分かるのだろうが感情がそれを許さない。
相反するその感情を知るサンディは剣を引き抜き――降ろす。
「だからその怒り存分に向けてよ」
『う、ああ、あああ』
「世界を燃やすのは止めるけれど、俺に向けてほしい」
釦からこぼれる炎涙を散らしながら、オウガは絶叫する。それと共にポップキャンディでできたお菓子の兵隊が姿を現した。
――ガラン!
サンディの一閃を受けた最後のお菓子の兵隊が派手な音を立てて崩れ落ちた。
「落ち着いた?」
『う、あ、ああ』
幾分が経ったか。サンディの目の前には焼け焦げた木々と散乱したお菓子の欠片、そしてその中心には項垂れるオウガの姿が映る。
オウガの猛攻を受けたサンディの衣服には所々焼け焦げた跡があちらこちら見えるが、それらを意に介さず剣を鞘に戻すとオウガへと歩み寄り、オウガに視線を合わせた。
「今じゃなくて良い。でも本当の貴女に戻って欲しいんだ」
先にグリモア猟兵から聞いた話からすればアリスを助けた少年は死んでいるかもしれない。
これはサンディの言葉であるが少年の言葉。
命を賭して残した側の願いだ。
「彼は貴女の笑顔を何よりも望んでいるはずだから」
『うっ……うぇ、あああ……』
オウガはわずかな身じろぎと嗚咽を零す。
ほろり。彼女の釦の瞳から涙が落ちた。
大成功
🔵🔵🔵
ライゼ・ジルベスター
「とりあえず…これ以上燃え広がるのは止めた方が良いね。」
UCドラゴニアン・チェインで自分とオウガを繋ぎ、これ以上別の場所に行かないようにしておく。
UCによる爆破は伴うが、炎の効きが悪いなら爆破でも大したダメージにはならないはず。
倒す必要は無いのだから、効きが悪いのは寧ろ好都合だ。
「怒りの感情なら…いっその事、ぶつければ良いよ。僕が、受け止めるからさ。」
炎で攻撃はされるだろうが、炎が有効打になりにくいのはブレイズキャリバーである此方も同じこと。
炎による攻撃であれば、すぐにやられる事は無いはずだ。耐えられる限り、怒りを体現した炎を受け止めて行こう。
●
『あああ、ああ……うわああああ!!』
嘆き混じりの咆哮と共に炎が、辺りを降り注ぐ。
辺り一面を炎の海へと変えるオウガはゆっくり立ち上がると、あてもなく移動しようとするが――刹那、飛来したドラゴンオーラが直撃し彼女の身を巻き込み爆発する。
『ぎゃっ!?』
爆発した火の粉を振り払うオウガに腕にジャラリと鎖が巻き付いた。
「ごめんね、でもこれ以上進めさせないよ」
ライゼ・ジルベスター(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・f35081)が鎖を握り直すと、真っ直ぐに目の前のオウガを見やる。
(「良かった、効きが悪い」)
爆発が起こったにも関わらずぬいぐるみの肌は綺麗な事に、ライゼは内心ほっと胸を撫でおろした。
ライゼは目の前のオウガを倒すために来たのではない。
アリスだった少女はオウガになり猫の人形の姿をしているが、今なら助けられる可能性がある――そのグリモア猟兵の言葉を思い出しライゼは彼女と自身を縛り付ける鎖を握る力を強めた。
『放し、放せええええ!』
「大丈夫、攻撃するつもりはないっ……!?」
邪魔だとばかりにオウガが腕を振り上げれば、ライゼの体が宙に舞い、地上から放たれた火球がライゼに直撃し爆発する。
「ぅ……」
地面に叩きつけられる前にギリギリのところで着地する。
茶色い鱗が一部焼け焦げるも大きな火傷が無いのは彼が地獄の炎を内包するブレイズキャリバーゆえか思いの大きさゆえか。
目の前のオウガがはっとした様に近づこうとするも――すぐさま足を止めて後ずさった。
『う、うわあああ……逃げて、にげ……あなたまで巻き込みたくないっ……!』
もう自分が原因で誰かを失いたくない――目の前のライザの姿を見て少女がわずかに残った理性をもってライゼへと警告する。
「怒りの感情ならば……いっそのこと、ぶつければ良い」
だが、少女の行動を是と言うようにライゼが言葉を紡ぐ。
この炎は、怒りは、きっとブレイズキャリバーが抱える熱と一緒だ。
しかしてブレイズキャリバーと違い彼女の炎は一度出し尽くせば元に戻る可能性がある。それに付き合う覚悟がライゼにはあった。
「大丈夫、僕はこれでも頑丈なんだ。君が落ち着くまで隣にいるよ」
『う、あああああああああああ!』
ライザの言葉で堰を切ったかのようにオウガの――少女の絶叫と共に火球が再び降り注ぐ。
炎が体を、鎖を伝って来た熱が手指を焼くが、ライザは構わずに鎖を握りしめた。
――この鎖を、つながりを決して離してはならない。
大成功
🔵🔵🔵
イリスフィーナ・シェフィールド(サポート)
人間のスーパーヒーロー×パラディン、17歳の女です。
普段の口調は「女性的(わたくし、~様、ですわ、ですの、ですわね、でございませんこと?)
敵には自信のないのを隠して(わたくし、呼び捨て、ですわ、ですの、ですわね、でございませんこと?)
基本的に目的達成を第一に動きますわ。
他の参加者や無関係の人物に迷惑をかけるようなことはいたしません。
損得抜きで人助けをするように見えます。
自身の事を軽んじる傾向があるので自分より他人を優先しがちです。
自分への悪意に疎いのであっさり騙されたり利用されます。
敵には結構ドライなので遠慮なく叩きのめします。
負傷したり装備破壊されたりするダメージ描写は歓迎です。
●
『あああああ!!!』
鎖に拘束されるオウガが咆哮一つ挙げると、猟兵達の目の前の風景は一変する。
二方、もしくは三方を埋めるのはクッキー。通路のところどころにはケーキとアイスが無造作に置かれ。
そして極めつけ、とばかりに粉砂糖が天から降り注ぐ。
「――まぁ美味しそうね」
イリスフィーナ・シェフィールド(相互扶助のスーパーヒロイン・f39772)は目の前に構築されたお菓子の迷宮に目を輝かせた。
『あっ、あああああ!!』
別の猟兵が放ち拘束する鎖が食い込むのを構わずにオウガは自身が作った|迷宮《お菓子》を喰らった。
『うああああああ!!』
それを機にオウガの体が大きくなり力が深まる。一方で鎖は更に食い込み、オウガ自身を苦しめていく。
だが食べるのを止めることは無い。苦しんで食べなければいけないと脅迫されているかのように。
「――そんな悲しそうに食べないでくださいまし」
悲しみを深めるためにお菓子を食す様にイリスフィーナはわずかに共感するも、ふるりと顔を横に振り否定する。
そして自分で自分を苦しめるような事をしている人を見逃す選択肢など、イリスフィーナの中には無い。
イリスフィーナがぎゅっと手を握る。その握る力に比例するようにその拳には煌々と炎が纏う!
「――ハッ!」
そのまま、燃え盛る炎の拳をクッキーの壁へと叩きつけた!
クッキーと言えどユーベルコードでできたこのクッキーはとても堅く、痛みの信号がイリスフィーナの腕を伝う。
もう一撃。だが結果は同じ。否、炎は上から降り注ぐ粉砂糖を焼き、彼イリスフィーナの服と白い肌を僅かに焼いてしまった。
それでも構わずにイリスフィーナは殴る、殴る、殴る!
こんな|お菓子《悲しみ》には|炎《思い》を!
「燃えよ灼熱っ、バーニング・ブレイカーッですわっ!!!」
何度目かの殴打、遂にクッキーの壁が粉砕される。それを皮切りに周りにも炎は引火し、お菓子の迷宮は崩れ落ちる。
「貴女の悲しみ、焼き付くして差し上げます!」
ところどころ焼け焦げたイリスフィーナの眼にはオウガが目を見張ったように映った。
成功
🔵🔵🔴
エダ・サルファー(サポート)
アックス&ウィザーズ出身の聖職者で冒険者です。
義侠心が強く直情的な傾向があります。
一方で、冒険者としての経験から割り切るのも切り替えるのも早いです。
自分の思想や信条、信仰を押し付けることはしません。
他人のそれも基本的に否定はしません。
聖職者っぽいことはたまにします。
難しいことを考えるのが苦手で、大抵のことは力と祈りで解決できると言って憚りません。
とはいえ、必要とあらば多少は頭を使う努力をします。
戦闘スタイルは格闘で、ユーベルコードは状況とノリで指定のものをどれでも使います。
ただ、ここぞでは必殺聖拳突きを使うことが多いです。
以上を基本の傾向として、状況に応じて適当に動かしていただければ幸いです。
メル・メドレイサ(サポート)
時計ウサギのマジックナイト×パーラーメイド、15歳の女です。
普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、演技時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
戦闘スタイルは多種の属性を扱う魔法使い
武器に魔法をかけ戦うこともできます
依頼にちなんだ品を給仕することを好み、味方には有効なもの、敵には嫌がらせ用のものを渡します
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●
『うっ、ああ……ああっ!』
先の猟兵達の攻撃と説得によりオウガの動きが鈍く、躊躇うような動作をするなど無駄のある行動が目立つようになる。
だが、まだ足りない。彼女が動きを止めるためのあと一つが。
「アンタの大事な人が事故で……だったか。まだどうなったかは分かんないんだろ? ならここで止まってる場合かい?」
エダ・サルファー(格闘聖職者・f05398)が降り注ぐ炎を避けながらオウガに問うも、彼女はいやいやと駄々っ子の様に首を横に振るだけ。
「アリス様、安心してください。私たちはあなたを殺しに来たわけではありません」
お菓子の兵隊に鉛玉をくれてやりながらメル・メドレイサ(蕩けるウサメイド・f25476)も彼女へと声をかける。
メルの一声に反応しオウガのボタンの眼がこちらを向いた。
「後悔するにしてもまだ早いですわ。逆にお相手があなたの帰りを待っているかもしれませんよ」
『や、やだぁ。怖い……!』
絞り出すような声と共に、再び炎の雨とお菓子の兵隊が猟兵達の元へと飛来し、襲い掛かる。
「エダさん、この炎の雨と兵隊たちはわたしに任せてくださいまし」
「できるのかい?」
「ええ、お掃除は得意ですので💗代わりに……」
「もちろん、あの子は私が引き受けた」
エダの眼鏡越しの強い意志の煌めきに口元に指を当てメルは笑った、同時に彼女の周りから力が渦巻く。
「それでは我が魔力の限界を超えた境地をご覧あれ!」
力が収縮し、一瞬にしてはじけ飛ぶ。
限界以上に放出された魔力はたちまちに姿を雨に、あるいは見えざる風へと変わり、二つが合わり生まれた暴風雨は炎の雨を鎮火し、兵隊たちをなぎ倒してていく!
暴風を背にエダが駆けた。
「アリス、必ずあなたを助けよう。ここでオウガの思い通りになんてさせない」
彼女の背後に現れたのは自身の拳、自身より何十倍も大きな拳。
彼女の元の世界の事は分からない。それでも確定していない結末を決めつけて絶望なんてさせない――!
「さぁ、お目覚めのお時間だよ!」
エダの祈りを込めた一撃がオウガの頭へと穿たれた。
直後、オウガの体が炎に包まれる!
黄色みがかったぬいぐるみじみたオウガの姿は瞬く間に縮んでいき中から黒い人型が生まれ――
『――っ、ええ!』
炎が晴れた。
目元は真っ赤に腫らし、足はふらついて無様な姿だった。それでも真っ直ぐな目をした少女が姿が確かにそこにあった。
「あーあ、折角綺麗な炎だったのに。残念だわ」
炎の中から現れたアリスを見て、亜麻色の髪の少女がくすくすと笑った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 ボス戦
『ホワイトアルバム』
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POW : デリシャス・アリス
戦闘中に食べた【少女の肉】の量と質に応じて【自身の侵略蔵書の記述が増え】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : イマジナリィ・アリス
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【虚像のアリス】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ : イミテイション・アリス
戦闘力が増加する【「アリス」】、飛翔力が増加する【「アリス」】、驚かせ力が増加する【「アリス」】のいずれかに変身する。
イラスト:ち4
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ライカ・リコリス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「綺麗な炎だったのに、残念だわ」
「あなたっ……!」
オウガだった少女がエプロンドレスを身に纏う少女へと敵意を込めた瞳を向ける。
「どうなっているか分からない事に泣くあなたはとても素敵だったわ。でも、私あなたより気になる人ができたみたい」
笑みは変えず、少女は猟兵達へと向き直る。
「ねぇ、アリス。もしくはアリスじゃない猟兵の皆様。あなた達はどんな幸せな記憶を持っているの? 何も知らない真っ白な私に教えてくださいな」
白い本を両手で抱え、少女は小さく首を傾げる。
その姿は親に御伽噺を読み聞かせをねだる子供の様だ。
だが決して油断はできない。
彼女は御伽の世界を駆ける無垢なる少女に非ず。
人の不和を呼び、世界に闘争を齎す。
彼女を悪魔と称してもなお足りない。
『ホワイトアルバム』とはそういう|猟書家《オブリビオン》なのだ。
ライゼ・ジルベスター
「僕の記憶、ね。…別に聞かせてあげる程良い物じゃないと思うけどな。」
仮に語るような内容があったとしても悠長に語って聞かせてやるつもりもないのだが。
いずれにせよ、アリスをオウガに変えかけた相手だ。あまり言葉に耳を貸さない方が良いだろう。
「ここは一気に行かせてもらうよ。そんなに炎が好きなら僕が燃やそうか?」
接近される前にUCダークフレイムブレスで一気に炎の攻撃を仕掛ける。
強引に接近してくるなら鉄塊剣で切り払い斬撃波で迎撃を狙う。
斬撃を嫌って距離を取られるようならブレス攻撃で追撃。
中距離か近距離か、間合いに応じて攻撃手段を選ぶことにしよう。
●
『ねぇ、あなたの記憶はどんな物? 私に教えてくださる?』
ホワイトアルバムは笑う。悪意も何もない、純粋なる願いを携え。
しかし彼女がやる事は悪辣なることこの上ない。
「僕の記憶、ね。……別に聞かせてあげる程良い物じゃないと思うけどな」
『そうかしら? 貴方にとってはそうかもしれないけれど、私にとってはちがうかもしれないわよ』
ライゼの苦虫を噛んだような顔とは対照的にホワイトアルバムの顔は興味に溢れていた。
ライゼは自信の記憶は聴いて愉快な物ではないはと捉えているが、目の前の少女、ホワイトアルバムはそうでは無いらしい。物語の先を強請る子供の様に早くはやくと催促してくる。
意思疎通はできても相互理解は難しいのだろう。
(「――いずれにせよ、アリスをオウガに変えかけた相手だ。あまり言葉に耳を貸さない方が良いだろう」)
言葉を重ねれば重ねる程こちらを乱してくるならば交わすべきではない。そう内心で決着を付けるとライゼは鉄塊剣を構えた。
『あなた魔術師さんだと思ったのにそんな無骨な武器を持っているの? 意外だわ!』
あどけない笑みを浮かべるホワイトアルバムが手にもつ本を開けば真っ白なページが姿をあらわす。
『ねぇねぇ黒い鱗が素敵なあなた。あなたはこの本を埋める|インク《血肉》になってくださる?』
そう彼女が囁いた瞬間、姿が掻き消えた。
辺りをぐるりと見渡すも姿は見えない。が、どこかで彼女が動いている気配は分かる。
おそらく攻撃の機会を伺っているのだろう。
(「でも彼女にイニシアチブは取らせない」)
ライゼは大きく息を吸い込むと――周囲に大きな真っ黒な炎を吐き出した!!
『――きゃっ!?』
いきなりの炎に驚いたホワイトアルバムが姿を現した。
『剣を持っているのに炎を吐いてびっくりしちゃった。貴方の炎、とっても綺麗ね!』
ホワイトアルバムがライザの吐く炎を褒める。だが言葉とは裏腹に彼女は侵略蔵書を護る様に抱きかかえると距離を取り始める。あの蔵書とはよほど大事な物だろう。
(「火を見て喜んでいたのに随分都合がいいなぁ」)
その矛盾に呆れと怒りが渦巻くが、これは好機だ。
彼女が見せた隙を許す者はこの戦場内に置いてどこにもいない、むろんライゼも。
炎の射程外まで下がったホワイトアルバムが胸を撫でおろした、そのタイミングでライゼは笑う。
「さっきはあんなに炎を見て喜んでいたじゃないか。もっと近くで見てごらんよ」
大きく息を吸い込み――二回目の炎が巻き起こった。
だがそれは先の炎よりも広く――あっという間にホワイトアルバムがいるところまで伸びていく!
『きゃっ―!』
炎がここまで伸びるなんてない。そんな慢心の対価は彼女を焼くこととなった。
大成功
🔵🔵🔵
琳・玲芳(サポート)
神将の仙人×正義の味方、15歳の女です。
普段の口調は「私、~殿、です、ます、でしょう、ですか?」
大体語尾に「!」がつくタイプの熱血乙女です。
槍のような戟のようなハルバードを武器にしていますが、肉弾戦も得意です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
アドリブ連携◎ エログロ× あとはおまかせ。
よろしくおねがいします!
●
ホワイトアルバムは荒れ狂う業火を振り払う。
『良かった、ご本は無事ね……』
そうして腕の中に抱えていた本に燃えた形跡が無い事を確認し安堵の声を漏らす。
「今が好機ですね!」
そう、このチャンスを逃す猟兵はここにはいない。それは琳・玲芳(熱血乙女純情派・f39479)も同様、玲芳はハルバートを構え、一直線にホワイトアルバムとの距離を詰める。
『まぁ、とっても速いお姉様! あなたはどんな記憶を持っていらっしゃるno
?』
玲芳の繰り出したハルバート矛の一突きをホワイトアルバムは回避。一房の髪の毛が風に舞うのにも構わずに本を開く。
開いたそこには何もない、真っ白のページが輝くとホワイトアルバムの体がふわりと浮き上がり、空を駆けていく!
(『近距離の攻撃がお得意の様だからここは距離を取って――』)
「私の攻撃から逃れられる――なんてお思いですか!?」
考えを感じ取ったかのような玲芳の声に少女は身を固くする。
「残念ですがちょっと空を飛ぶくらいで私の鉾から逃れらるなんて――お思いにならいで頂きたい!」
玲芳は竜の顎をイメージとした『戟『龍顎』』を握り直す。
握った手から現れるはほんのわずかな水が出た、かと思った瞬間水は水量を増しながら鉾の先へと螺旋を描き集まっていく。
穂先には水がドンドンと圧縮され――それでも水の弾は大きくなっていく。
「ホワイトアルバム、あなたのやったことは許されるものではありません」
玲芳は自身の後ろ側に控えていたアリスを一瞥すると、今度は空を飛ぶ少女に視線を向けた。
「ですのであなたは――渦巻く水流にて撃ち抜きます!」
裂帛の声と共に槍の穂先から放たれた水――激流が今、放たれると猛スピードで空にかけていく!
『きゃっ……!』
その水流のあまりのスピードにホワイトアルバムは避ける事が出来ず攻撃を喰らうと、少女は地面に落ちていった。
成功
🔵🔵🔴
リク・ネヴァーランド(サポート)
「大丈夫、“僕たち”が来た!」
うさぎ人の住む不思議の国、ラパンドール王国の元王子様です。
魔法の本の中に王宮を封じ込めることにより、王国と国民を携帯している状態にあります。
本の中から国民や過去助けた愉快な仲間達を召喚したり、剣を用いたりして戦います。
利発そうな少年といった口調で話し(僕、~さん、だね、だよ、~かい?)、年上の人や偉い人には敬語を使います。戦闘中は凛々しく台詞を言い放つことも多いです。
ユーベルコードは設定したものを何でも使いますが、命よりも大切な魔法の本に危害が加えられる可能性がある場合は本を用いず、自分自身の力で何とかしようとします(他の猟兵と連携が取れそうなら取りに行きます)。
鳥居・祐介(サポート)
戦闘スタイルは所謂「タンク」タイプです。
武装はほとんどが収納可能もしくは不可避なため一見丸腰に見え気弱でおどおどした外見で油断を誘って敵を引きつけ味方の突破や攻撃のための囮になります。
攻撃に対しては【激痛耐性】で多少の攻撃には怯まず耐え必要とあらば【怪力】で押さえつけます。
こちらの意図や強さを見抜く的にはグレートソードを抜いて大振りな攻撃を仕掛け否が応でも意識せざるを得ない状況にします。
ダメージが蓄積し瀕死になったら『風魔神顕現(アウェイキング・フレスヴェルク)』にて高い戦闘力を待つ風が人の形を成したような魔神を召喚して敵を薙ぎ払います。
●
『っ……!』
先の猟兵の一撃により地面へと墜落したホワイトアルバムはすぐさまに立ち上がった。
自身は一人に対し猟兵は複数。多勢に無勢は火を見るより明らかであるが、オウガ『ホワイトアルバム』はあどけない顔に浮かべた笑みを崩さない。
『なんて素敵なのかしら、今日は色々な人の素敵な記憶が見れるわ!』
――ああ、でもお腹が減ったわね。
『ねぇアリス、貴方のお肉ちょうだい?』
ホワイトアルバムは猟兵達の後ろに控え時折サポートをしていたアリスの後ろに一瞬で現れると、彼女のうなじに――
「させないよ」
怜悧な声が響くのと同時に、ホワイトアルバムの体は横に吹っ飛んでいく。
「ふぅ油断も隙もあったもんじゃないね……無事かい?」
銀色の耳を揺らしアリスとホワイトアルバムの間に割って入ったリク・ネヴァーランド(悠久ノ物語・f19483)。
ありがとうと礼を言うも震えるアリスにリクは笑みを浮かべた。
「……大丈夫、“僕たち”が来た!」
心配は要らないと笑いかけるリクの顔にアリスは体の緊張を適度に抜けたのか体の震えは止まった。
「あ、アリスさんは僕らの後ろに……」
アリスを護るように立つのは一人ではなかった。
緑の髪少年、鳥居・祐介(「風魔神に憑かれし者・f05359)はおどおどとしながらも少女の前に立った。
『まぁ、猟兵ってマナーが成って無いのね? 折角のご飯がめちゃくちゃよ?』
「それは君のことだろう。アリスは食事ではないからね」
服に着いた埃を払いながら立ち上がるホワイトアルバムにリクは睨みつけ、王家に伝わる聖剣の剣先を彼女へと向け駆ける。
「その素っ首、刎ね飛ばさせて貰うっ!」
その言葉と共にリクから光り輝くオーラが溢れ出た。煌々ときらめく輝きを受けながら、聖剣がホワイトアルバムの首を狙う!
音よりも早いその一撃はホワイトアルバムの細い首を掻ききった――はずだた。
『うふふ……せっかちさん』
瞬間、ホワイトアルバムの体が、首がガラスのように透明な少女へと姿を変わった。
(「しまった……!?」)
本物ではない。ならばホワイトアルバムは――
「あぶないっ!」
アリスの後ろに再び現れたホワイトアルバムは今度こそ彼女の肉を比べく首に歯を立てる――瞬間、今度はアリスが横に吹っ飛んでいく。
「うっ……!」
『えっ、嘘。やだ……!』
くぐもった少年の声に慌てて身を起こしたアリスが見た光景――それは、ホワイトアルバムが祐介に歯を立てる場面だった。
自分を庇った事でまた誰かが犠牲になったと顔を真っ青に震えるアリス祐介はふるりと首を横に振る。
「だ、大丈夫……」
アリスを心配を掛けまいと祐介はふにゃりと笑うと、嚙みついたホワイトアルバムを腕力をもってあっさり引き剥がした。
線が細い体と気弱な性格ゆえ誤解されやすいが、祐介は体が非常に丈夫で腕力も並みの猟兵では叶わない。
だがそんな事も分からないホワイトアルバムの狐につままれた様な顔をしている顔に祐介は先ほどとは違う笑みを浮かべ。
「っ……僕に宿りし風魔神よ……契約に従い、今こそ力を貸してください!」
震える声で宣言すると、彼の体の中より風が舞い踊り『風魔神フレスヴェルク』が姿を現す!
「あ……あとは、おねがいします!」
祐介の途切れ途切れの声に応えるように風魔神は頷くと大ぶりなグレートソードでホワイトアルバムの体に叩き込む!
『っう……!』
土煙が湧くほどの衝撃が叩きつけられた少女はついに苦痛に顔を歪め、風魔神と距離を取り相対しようとする。
――ここで、ホワイトアルバムの命運は決まったと言っても過言では無い。
気づいていればよかったのだ、相手をしていたのは祐介だけではなかったことに。
「随分つれないじゃないか」
その声が聞こえた時点で彼女は無気力にならいと!とつい”身構えて”しまった。
「首は嫌なら、こちらをいただこう!」
幾度血に塗れても失わない輝きを放つ聖剣が、自身の心の臓を貫いた事で彼女は技の失敗を悟ったのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
サンディ・ノックス
幸せな記憶
俺はたくさん持ってるよ
でもお前には教えない
だって幸せな記憶とは受け取る者の心次第
からっぽのお前が聞いたところで
どうして幸せか理解することはできっこない
俺は無駄なことをするほどお人よしじゃないんでね
肉体を魔法物質に転換し、盾を作りだす
さあ、どうくる猟書家
相手の攻めの手を見極めるつもりで盾を構え
一方的に押されることになってもひたすら耐える
アリスを心配させてしまうのがちょっと心苦しいけれど
あのいけ好かない猟書家の心を折るのはこれくらいが丁度いい
俺が何もしてこないと猟書家が慢心したときが反撃開始のタイミング
盾から黒水晶が多数飛び出してあいつを攻め立てるんだ
いい顔を見せてくれてありがとう、外道
●
『うっ……あ゛ッ』
ホワイトアルバムが声を発する。
彼女の青いエプロンドレスは焼け焦げ、心の臓を貫かれたせいで真っ赤に染まっていた。
「良い格好になったね。今までのより断然いいよ」
サンディはわらう。そうやって地に這う方がお似合いだと。
『随分酷い人なのね……っ!』
困ったような言い方とは比例するようにホワイトアルバムの目はギラギラと輝いて。そこには先の人畜無害な無垢な少女の姿は無く、追い詰められた捕食者が血路を見出すために策略を巡らせる姿だった。
「可哀そうに、幸せな記憶を探してここまでボロボロになって。俺はたくさん持ってるよ」
ぱぁと顔がほころびる少女にサンディは冷たい目を向ける。
「教えないよ。特に空っぽなお前に教えたころで理解できないだろ」
記憶とは誰かの感情の蓄積であり積み重なった記録でしかない。その記録から感情の機微を知ることはそれなりに訓練が必要である。
『いいえ、いいえ! 幸せである記憶を集めれば私は幸せを理解できるわ!』
髪が乱れるのも構わずに少女は叫ぶように否定する。
吐き捨てる様にため息をつくとサンディは肉体を魔法物質に転換し、盾を作り出す。
「さっさと始めよう?」
平然としかし殺意に満ちた眼をオウガに向けると自身の肉体で形成された盾を構えた。
彼女の攻撃が見舞われる度、サンディの盾を構える腕にびりびりと振動が伝わる。
『あはははっ! なんにも反撃できないの?』
少女が笑い声を上げる。
――戦況はサンディの防戦となっていた。
ホワイトアルバムはユーベルコードによりとても強いアリスへと変身をしてサンディに攻撃を見舞っているのだ。
『見てられない……!』
恩人がただやられるのを見ていられない。アリスは二人の間に割って入ろうとするも。
「アリス」
(「大丈夫、心配しないで」)
彼の意を汲み取ったアリスはぐっとこらえ、戦いの行く末を見つめる。
その間にも悪辣な、ホワイトアルバムの猛攻は止まらない。だがサンディは慌てることなく一つ一つ、攻撃を盾で受け止める。
――ぴきり。
サンディの構える盾から小さな悲鳴が上がった。
ホワイトアルバムの口角は自然と上がった。これで彼の記憶を読み取れば真っ白で何もない自分にも幸せというのがわかるのだと、根拠がない確信をもって!
『さぁ、あなたの記憶を見せて!』
ホワイトアルバムの不可視の魔弾がサンディの盾を穿った。
攻撃を受け止めた盾が壊れた。瞬間、盾から無数の黒水晶が飛び出した!
『――え』
ホワイトアルバムの体には無数の黒水晶が穿たれ、ホワイトアルバムは仰向けに倒れこむ。
「……ははっ!! 猟書家って随分油断するね? わざと攻撃しなかったって分からなかったかな?」
倒れ込んだ少女にサンディはまるで悪戯が成功した子供の様に、綺麗な笑顔を向ける。
そう、いくらホワイトアルバムが強力なオウガだとしてもサンディも経験を積んだ猟兵だ。反撃する機会はいくらでもある。
だがそれをしなかったのは防戦を徹することで圧倒していると勘違いさせ、慢心を誘うため。それに気づかなった彼女はサンディの策に見事にハマり、こうして死に体を晒すこととなった。
息も絶え絶えの猟書家に、サンディは微笑みかける。
「良い顔見せてくれてありがとう、外道」
それがホワイトアルバムが最期に見た『記憶』となった。
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ホワイトアルバムの横に投げ出された侵略蔵書には飛び散った血が真っ白なページを辱めていた。
何も記述が無かった本のページを一番最初に埋めたのはアリスの幸せな記憶でもオウガの記憶でもなく。
他でもない、己の死であった。
大成功
🔵🔵🔵