地獄への道は善意で舗装されている
●タイトルは西洋のことわざです。
または【地獄は善意で満ちているが、天国は善行で満ちている】。
善行によって善意は示されるが、善意によって善行が成される訳ではない。
よかれと思って言っているのに~とか、あなたのためを思って言っているのに~とか、そんな口先だけの善意によって齎された結果が本当に良き結果になることは、案外稀だったりする――惨憺たる結果を招いた責任は、言われた通りに行動した側が負わされたりするし。言われた通りに行動しなかった責任も、言われた側が負わされたりするし。
まあ、善行を成したくても具体的に何したらいいかわからない場合は、まずたずねるし、出来る範囲を宣言するだろう。何かお手伝いできますか?とか。どうしたら力になれますか?とか。お話を聞くぐらいならできますよ、とか。
そうじゃない場合が、厄介なのだよ。その裏に隠れた無意識は、意のままに操りたい・支配したいとかだから性質が悪い。言われた側は強く責められないのだから、言った者のひとり勝ちである。見かねた第三者が咎めようにも、咎めた側が悪者にされたりすることもあるのだから、ああ、本当に性質が悪いものだ。
つまるところ【善意を装って善行を成さず、悪行を成さんとするものには近づかない方がいい】。
ただ人ですらそうなのだから――それがUDCであれば、尚更だ。
●まあ要はそんなUDCを退治しないかって話です。
「口先だけの人間や存在には近づくなって話」
とは言え、少なくとも外見サイズが幼子の骨っこ少女から出ていい言葉ではないとは思う。が、この骨っこ少女もとい唯嗣・たから(忌来迎・f35900)は一応、外見サイズ以上の歳月はこの世界に存在しているのだから、まあ、いいか。たからは招集に応じてくれた猟兵たちにぺこりと一礼、今回予知した内容について説明した。
例によって例の如く、からくり人形を用いた劇形式で。
いつも唐突だけれどもどうかゆるしてほしい。中身は幼女のままだから説明苦手なんだよ、たからちゃん。
舞台はUDCのとある高等学校。
その学校には【悪い人を退治してくれる正義の化け物がいる】という噂話があるという。
その噂話が、マジだった。UDCによる怪奇現象だったらしい。
噂話の詳細はこうだ。
【学校関係者専用アプリの連絡フォームから、宛先をShiroi-obake-ha-seigino-mikata@xxxx.xx.xxにして、退治して欲しい悪い人の個人名、どんな悪いことをしていたか、どう退治してほしいのか】を明記して送信して【返信がきた場合に限り、3日後にはその通りになる】というもの。
返信が来なかった場合や宛先エラーで返ってくる場合は問題ないのだが、問題は、その返信メールを見てしまった場合だ。閲覧した人間は認識や感覚が著しく狂い、いずれ残虐な猟奇事件を引き起こす。更にはその噂を拡散しようとするらしい。
【誰がどう悪いことをしたか】なんて私怨だけでいくらでも虚偽申告ができるし、UDCへ接続するアクションはメールを送るだけというお手軽さ。そんな噂が拡散するとどうなるか。
誰がいつ自分を申告するかわからない。
友人は?先生は?クラスメイトは?私は本当に悪いことをしていない?大丈夫?
そんな疑心暗鬼に学校中が陥り、前述のような善意が蔓延る。
そうすると人間関係が悪化していくため、噂の犠牲者が増えるという悪循環。やがて正気の生徒や教員たちが、正気のままに暴徒と化し、魔女狩りのような行いをし始める。それが狂気に陥っていた生徒や教員たちの状況を加速的に悪化させ、遂には集団惨殺事件が起こり、更には僅かながら正気に戻った加害者たちが、友や恩師を手にかけたという事実に耐えかねて――。
「そして、誰もいなくなりました」
集団自決。血まみれからくり人形たちの首が、ごとりごとりと落ちていく。
●犠牲者はその学校関係者全員です。
「止めないとだめかなって」
そうだね、犠牲者やばいね、学校まるまるひとつ全滅ってどれだけよ。
「止めるには、まず、噂の拡散を止めて。学校関係者に成りすまして潜入して、生徒たちの気を惹きそうな噂話を広める」
噂の拡散元は大半が生徒によるものらしい。花の十代、多感なお年頃だ。流行は追いたくなるものだろう。
新しい噂を持ち込めば自ずとそちらに食いついてくれる。あとは勝手に広めてくれ筈だ。ねえねえ、これ知ってる?なぁんていう風に。必要な制服や情報操作は先に潜入していたUDC職員が担ってくれるので、そこは心配いらないそうだ。
「噂の拡散が止まったら、噂の元を叩く。そのためには無理矢理にでも、現実世界に引きずり出す。儀式して」
噂拡散の【最初のひとり】が儀式の内容を知っているらしい。
その人物は【正義の化け物】を妄信しているらしく、新しい噂の拡散で躍起になったその人物から接触してくるようだ。
さしずめ、本当に居るんだって!見せてやるよ!といったところか。
その人物の指示する通りに儀式をすれば問題のUDCが顕現するので、そこを叩けばお終いだ。
「UDCの名前はピュリファイア・ホワイト。過ぎた善意のかたまり」
集合無意識下に沈む善意の精神波動。人が善性を望むことで世界に染み出してくる化け物。
人への影響は最初は人が良くなる程度だが、次第に行き過ぎた自己犠牲や過剰な悪の排斥など過剰な善性に狂い始めるという――なるほど、それによって齎される結末が集団惨殺と集団自決。
「善意も悪意も程々に。何事も過ぎたるは毒。とにもかくにも、よろしくお願いします」
再びぺこり、下げられる頭蓋骨。
|青い蝶《グリモア》は惨劇の舞台へと繋がった。
●転送先は
当該高等学校の放課後の裏庭。
用務員に成りすまして清掃していたUDC職員が話しかけてきた。
「みなさんがたからさんの言っていた協力者ですね。なんでも協力しますので明日からよろしくお願いします」
教員・生徒・用務員・購買の店員さん。まずは成りすましたい役割を自由に告げるといい。
彼らはこの学校の平穏を守るために協力は惜しまない。
今日のところはひとまず彼らと打ち合わせ。
そして仮宿としてもう使われていない宿直室がいくつか宛がわれた。
放課後にも関わらず生徒の声が賑やかに響く。
どれもこれも談笑だったり、部活の掛け声だったりと平和なものばかり。
このまま放置すれば――それはやがて悲鳴に塗り替わる。
噂の拡散も始まったばかりで今ならまだ止められる。
被害も廊下で転ぶとかそういう程度で済んでいるらしい。
――惨劇は今のうちに食い止めねばならない。
なるーん
こんにちは、なるーんです。
はじめての方はMSページご確認ください。
最近は学校連絡はプリントじゃなくて専用アプリらしいです。
びっくりですよね、ジェネレーションギャップ。
そんなこんなで学校の怪談を退治しようぜ。
以下、詳細。
●第一章 日常
生徒でも教師でも。とにかく学校関係者に成りすまして潜入して下さい。
そして新しい噂話を拡散してください。
流行に敏感な高校生ですから、勝手に食いついて勝手に広めてくれます。
●第二章 冒険
正義の化け物を妄信する最初の誰かが接触してくるので、
その人物の指示に従って化け物顕現の儀式をしてください。
詳細は第一章最後のリプレイにて追記します。
●第三章 ボス戦
シンプルにボス戦。暴走する善性の塊を完膚なきまでに叩きましょう。
●その他
グループ参加は【2人まで】。
OP公開後からプレイング受付します。
また現状、難病闘病中の身です。体調よいときに書いていく方式。
再送はあるものとしてご対応お願いします。本当に申し訳ありません。ご迷惑をおかけします。
まったり進行。大体各章一カ月ペースで三ヶ月以内に終わればいいな!!
今回より断章はなし。各章クリア時のリプレイの最後に断章的なものを追記する方法を取ります。断章入れる形式だと私の執筆がもたつきがちで、極力お待たせしないための措置です。
以上、よろしくお願いします!
第1章 日常
『怖い話、好きかい?』
|
POW : 又聞きの怖い話をする
SPD : 実体験の怖い話をする
WIZ : 創作の怖い話をする
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
御梅乃・藍斗
◎▲
最終的に害をなす存在を「善」とは思いたくないですね
「独善」がいいとこじゃないですか?
半年前までは現役でしたし、高校生として潜入します
「復讐を願って専用アプリのフォームに書き込む人間を殺す妖怪」がいると噂を流しましょう
怖いですねえなんて普段からかけてる十字架(信心深く見せるためのフェイク)を握りしめてみせたりして
【コミュ力】には自信がありますし、会話の中でそれとなく最初のひとりについて【情報収集】をしてみます
あんまり懐疑的な相手には…気は進みませんが指定UCで警戒心を解いてもらおうかと
君も僕も、誰かから見た「わるいひと」かもしれない
追い詰められたからと言って、甘言に乗るのはお勧めしません
山崎・圭一
◎
俺は新人の教員で潜入するって言った筈だぞ
なんで転校生として潜入する事態になってンの!?
訴えッぞ!
何が悲しくて29なのに今更高校生やってンだろな俺…
にしても今の若い子って
どういう噂に食いつくもんだかねぇ?
(すっと取り出すはスマートフォン)
AIアプリ駆使するあたり俺も“今時”ってね
なるほどね。この手段でいってみるか
『夜中の4時44分にのみダウンロード出来る謎のアプリの噂』
俺の世界でも最近のゴーストの集客手段として有りそうだけど
今時の噂の広め方ってのを俺は得てないから
ここは素直に口コミでいかしてもらうぜ
「へぇー。この学校にはまだあの噂、知られてないんだ」
巧い事会話に上記発言を盛り込みたいものかな
●作戦会議
という訳で、ちょっぴり狭い宿直室に御梅乃・藍斗(虚ノ扉・f39274)・山崎・圭一(アラサー学ラン・f35364)・UDC職員という男3人で肩寄せ合って打ち合わせ。
軽い自己紹介の後、相談する内容は演じる役割と流す噂の内容だ。
役割は被ってもいいが噂が被っては効果は薄くなる。その噂、知ってる!ってなってしまっては意味はない――拡散力は高まるかもしれないが、どうせなら相乗効果を狙いたい。
「まず、お二人はどう潜入されますか?」
「僕は半年前までは現役でしたし、高校生として潜入します」
「なるほど……失礼ですが御梅乃さんはおいくつでしょう?」
「16ですね、今年で17です」
「では、2年生ですね。こちら制服です」
手渡されたのはブレザーの制服。ネクタイカラーは赤である。ここまではすんなり。で、お次。
「俺は新人の教員かなァ……」
「え、」
「なンだよ」
「し、失礼ですが山崎さんはおいくつで?」
「29だよ!」
「えっ」
「なンだよ!!」
「ああ、いえ、すいません!先生ですね、わかりました!!ちょっと待っていてください!」
で、UDC職員、スマホのメッセンジャーアプリで何やらぽちぽちやりとりして暫く。とりあえずスーツは早朝届きますということになった。大丈夫かな? 気を取り直して、とUDC職員が話題をかえて。
「噂、どのようなものを予定しておりますか?」
「僕は【復讐を願って専用アプリのフォームに書き込む人間を殺す妖怪がいる】という噂を流そうかなと思ってます」
「俺は、そうだねぇ……今の若い子ってどういう噂に食いつくもんだかねぇ?ああ、なるほど。この手段でいってみっか。
【夜中の4時44分にのみダウンロード出来る謎のアプリの噂】ってどうよ?」
圭一もスマホを取り出してぽちりぽちり。流行りのAIアプリを屈指して創作した噂話を使うことにしたようだ。AIアプリ駆使するあたり俺も “今時” ってね、って少しだけ得意げに。そこでUDC職員、何やら閃いた。そうだ!とひとつ手を打って。
「このふたつの噂、こう組み合わせたらどうでしょう!おふたり共、少しお耳を……」
壁に耳あり障子に目あり――内緒話は声を潜めて。ひそひそ、こそこそ。
3人は一度顔を見合わせて、こくり、と頷いた。作戦会議は日付がかわるまで続いて。
そして早朝――。
「なんで転校生として潜入する事態になってンだーーーーッ!!!!」
藍斗はブレザーの制服(ネクタイカラーは緑。3年生だよ)を手にした圭一の叫び声で飛び起きる羽目になった。
●噂の転校生
少しだけ珍しい時季での転校生は噂になりやすい。更には海外からの帰国子女(という設定)であれば、昼休み頃にはすっかり学年中に藍斗の存在は広まっていた。首から下げるロザリオが海外からの帰国子女という役の存在感を補強する。
( これなら噂も広めやすいですね )
噂の人物から拡散される噂。効果はうってつけだろう。座席の周りをクラスメイトに囲まれて和気あいあいと親交を深める中で、藍斗はそれとなく話題に出してみた。
「そういえばこの学校には、七不思議みたいな噂はないんでしょうか?」
「御梅乃、そういうのに興味あんの?」
「はい、ありますよ。日本の友人から学校の怪談とか教えて貰っている内に、海外と日本では大分、怪談の質が違うことに気付きまして。何故だろうって調べている内にすっかり」
「あるある。そういうことあるよな~」
「じゃあ、とっておきおしえてやるよ!」
そうしてこそこそ、ひそひそ。語られる独善的な正義の味方の話。藍斗ははっと大袈裟に息をのんだ。
「問い合わせフォームを使うんですか?」
「そうそう。簡単だろ? 俺はまだ試してないんだけどな」
「それ、やめたほうがいいですよ。僕、友人からこういう噂を聞いたんです。最近、【学校専用アプリの問い合わせフォームから存在しない宛先にメールを送ると、悪い幽霊から呪いのメールが返ってきて、一番大事な存在が殺されてしまう】そうです。そういう幽霊が紛れ込んでいるそうですよ」
「え、どこの学校のアプリ? ここじゃねーだろ?」
「いえ、学校問わず、だそうですよ。友人や友人の兄弟の学校でも【正義の化け物】に似た噂があったようなのですが、逆にその幽霊によってペットや家族が殺されてしまったという方が出てきていて……怖い、ですよね……」
祈るようにロザリオを握りしめる藍斗。場の空気、否、それを聞いていた周りの空気が凍る。
ざわざわ、ざわざわ。え、うそ。こわい。あいつムカつくから、送ろうと思ってたのに。やめよっかな。私も。俺も。だって返ってきたメールがそれだったら、怖いじゃん。タローが殺されたらやだし。私もミィちゃんが殺されたらやだ。
( あの噂、結構、広まっているようですね。いえ、拡散力が高いと言った方がいいのでしょうか )
藍斗は困惑した表情を取り繕って、あの、と声をあげる。
「なんかすいません。怖がらせてしまって。かわりに面白い噂をひとつ、教えますね」
「え、なんだよ。面白い噂って」
「ふふ、それはですね――」
赤い瞳が悪戯に細まる。
●一方その頃、
圭一のクラスでも同様のことが起こっていた。
高校3年の時季での転入は珍しく圭一の存在もまた、昼休み頃にはすっかり学年中の噂の的だった。
両親の海外赴任に伴い、親戚の家に預けられたという設定。酷い怪我をしたから、という理由で片目を隠すその容姿のミステリアスさが興味をひいて、藍斗と同じようにクラスメイトにすっかり座席を囲まれていた。
圭一も圭一で、購買の場所がわからないから、っていうもっともらしい理由でクラスメイトをパ――に、お使いをお願いしたりして。オススメのお惣菜パンなどをしこたまゲットした圭一は(お代はもちUDCの経費)、それをしっかり堪能しならがそれとなく藍斗と同じように話題を振ったのだ。打ち合わせの通りに。そうして語られる独善的な正義の味方の話。
そうして圭一の口から語れる――
「それ、やめた方がいいぜ。ってか、この学校にはまだあの噂、知られてないんだな。【学校専用アプリの問い合わせフォームから存在しない宛先にメールを送ると、悪い幽霊から呪いのメールが返ってきて、一番大事な存在が殺されてしまう】っつー噂。学校関係ないらしいぜ、これ」
藍斗と同じ噂。
ざわめきはクラスメイトだけに留まらず、興味本位で覗きにきていた廊下の生徒たちにまで及んだ。
何人かは慌てた様子で教室を出ていく――恐らく別のクラスの友人にこの噂を伝えに行くつもりだろう。
この様子ならUDCの噂の拡散は止まるだろうが、まだ足りない。ここでトドメの一手だ。何故ならば、既に【大事な存在がいない】人間ならばUDCの噂を利用できる隙がある。
「まあ、慌てんなって。俺、いい噂、知ってンだ」
クラスメイトの、廊下の野次馬たちの、|異様な目線《・・・・・》が|一斉に《・・・》圭一に集まる。
ぞくり――背筋が粟立つ。悍まい視線に晒され、圭一の背に知らず冷や汗が流れた。生徒たちには視認すら出来ないが、その異常な空気を感じ取った白燐蟲たちが、警戒露わに飛び交って。
( この様子じゃあ3年中にはあの噂、広まってンな……)
圭一は知らず詰めた息をふぅ、と吐き出した。しめしめと口元に意味ありげな笑みを作り、スマホを片手にひらひらと振って見せる。
「その様子じゃこの噂も知らねーンだろ?【夜中の4時44分にのみダウンロード出来る謎のアプリの噂】なんでも」
勿体ぶるような間。ごくり、となった喉は果たしてクラスメイトのものか廊下の野次馬たちのものか。
「【願いを叶えてくれるアプリ】――ってことらしいぜ?」
●噂の相乗効果
作戦はこうだった。
まず藍斗の案でUDCの噂の拡散を抑止し、アクセスを止める。しかし、それだけでは今だUDCを利用できる隙があった。そこで圭一の案だ。より|安全に利用できるうまい餌《・・・・・・・・・・・・》をぶら下げることで生徒たちの興味をそちらにひきよせる。この学校により適するように少々改変を施して、更にはその噂の真意が確認しずらいように海外や遠い県外の出身という設定を役に盛り込んだ。
結果――ふたつの噂の相乗効果は爆発的だった。
3日も経過する頃には学園中に広まったようで、【悪い人を退治してくれる正義の化け物がいる】という件の噂はぱたりと途絶えた。すっかり耳にもしなくなったくらいだ。
夜の宿直室。窓全開にしてぐったり寄りかかり、合法阿片の煙草を吹かす圭一のその表情は虚無である。
日中吸えないもんだから地味にキツいのだ、主に右目の疼痛が。いや、それ以外にも色々キツいけれども。
主にジェネレーションギャップで。精神が――現役高校生時代は11年も前のことだもんねぇ。
「何が悲しくて29なのに今更高校生やってンだろーなぁ、俺……そっちは楽しそーじゃん」
「ええ、まあ。久しぶりの学生生活ですからね。そういえば、それとなく探りを入れてみたんですがダメですね」
「あぁ、最初のひとりってヤツ?」
「そうです。それっぽい人物に行きつくことはあるんですが、自分じゃない、って言われてしまって。それが何回か」
「あー……そのうち向こうからくッだろ。“蟲の知らせ“ だけどな。俺のは当たンぜ?」
藍斗が何かを言おうとしたとき、宿直室の扉がノックされる。例のUDC職員は合鍵を使ってくるはずだ。
つまりは、未知の第三者。
「ほぅらな?」
圭一は鼻で笑うと、長く一服。肺にたっぷり煙を吸い込んで、ゆっくり吐き出して。それから扉を開けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
●Hello worldーPROJECT "UTOPIA”
「やあ、こんばんわ。ダメじゃあないか。高校生がこんな時間に校舎に残っていては。しかも煙草まで吸って」
扉の外にいたのは――この学校の教頭だった。
白髪交じりの如何にもロマンスグレーという言葉が似合いそうな紳士的な風貌。優しい笑顔やただ咎めるような口調に似合わず、瞳孔が開かれた双眸には狂気が覗く。
彼は圭一や藍斗が何か声をかける前に、一方的にまくしたてた。
「君たちが例の噂を広めたんだね。“ホワイト様“ が教えてくれたんだよ。君たちのせいですっかり “ホワイト様“ への信仰が落ちてしまった。これは、いけない。いけない。いけないんだよ、私の計画を邪魔しては!!!」
穏やかな雰囲気は一変して。
「折角、折角、“ホワイト様“ が力を貸してくださっていたのになんてことをしてくれたんだ!悪いことをした人間を退治してくださるんだぞ、誰の手も 汚さずに!何故、邪魔をするんだ、何故!!生徒同士や教師同士の問題がなくなるんだぞ!いじめの主犯が罰せられるんだぞ!潔癖で理想的で模範的な学校を作りあげる私の計画を邪魔するな!ああ、申し訳ございません。 “ホワイト様“ “ホワイト様“ “ホワイト様“ “ホワイト様“ “ホワイト様“ “ホワイト様“ “ホワイト様“ !!」
そしてまた――穏やかに笑う。
「君たちはまだ学生だからね、チャンスをあげよう。あの|悪い用務員《・・・・・》のようにはなりたくないだろう?」
指をさして、扉の背後の窓。開けられていない片側に――バンっ!と叩きつけられる血まりれの|The Hanged Man《吊るされた男》。【返信がきた場合に限り、3日後にはその通りになる】――UDCが力を振るうには5日は充分過ぎたようだ。
「“ホワイト様“ を見たことがないから愚かなことをしたんだね。“ホワイト様“ に会わせてあげよう。さぁ、おいで」
ーーー
MSより
●UDC職員について
彼は【上の階の用務員倉庫を整理している途中、何者かに足を引かれて、顔面から窓ガラスに激突。運よくロープに足が絡まって逆さづり】という状態です。顔面損傷&逆さづりの為、出血は派手ですが生きてます。救出の有無で生死は分かれないですが、するか否かはお任せします。※死なないです。
●儀式の手順について
この後、クレイジー教頭に空き教室に連行されて、儀式の手順を説明されます。尚、職員救出する時間くらいは待ってくれるようです。
床にそれっぽい五芒星の魔法陣が描かれています。良さそうなところにそれぞれ立ってください。その上で以下の儀式を行う必要があります。
学校関係者専用アプリの連絡フォームから、宛先を【Shiroi-obake-ha-seigino-mikata@xxxx.xx.xx】にして【ホワイト様に会いたいです。大切なものを捧げるので世のために人のため力をお貸しください】と明記して同時に送信するだけです。
ただこれだけだと確率問題らしいです。より確実に会うためには、何かを捧げる必要があります。捧げるものは血でも魔力でも何でも。お任せします。※アイテムとかでも可。破壊されないのでご安心。
以上、素敵なリプレイお待ちしております!
ーーー
第2章 冒険
『電脳怪異降臨儀式』
|
POW : 特殊な舞踊や寝ずの番を行う。
SPD : 小道具の調達や奇怪なコードの打ち込みを行う。
WIZ : 召喚術式の解読や魔術儀式の詠唱を行う。
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
御梅乃・藍斗
◎▲
僕、年長者は尊重する主義なんですけど
そういう方が正気を失っているのは見るに堪えませんね…
僕自身あれこれ悩みは多いですし、教え導く立場の重圧も理解できます
だからといって超常的な何かの力を借りようなんて思う時点で、まっとうではないわけで
まずは職員さんを助けます
【救助活動】【奉仕】【捕縛】で万が一にも転落しないよう把持、こちらへ引き込みましょう
彼の言い分に共感したわけではないですが振りとしてきちんと手順を踏み、儀式には参加します
五芒星へ手をついて指定UCを使用、死なない程度に「生命力」を捧げます
僕は生きて家族を弔う義務がある
そのために一番大切なのは己の命です
供物としては文句ないんじゃないですか?
●模範的であれと求めた先が怪異ならそれは本末転倒である
藍斗自身、半年前では学生だったせいだろう。
自身は模範的とは言えずとも大きな問題を起こすような生徒ではなかったと自負する。が、クラスメイトは果たしてどうだったろうか――こうして振り返れるのも学生の道を喪ったからだ。
だからこそ、今では教え導く立場の苦労もわかる。
社会から監視され、常に模範的であることを求められるのが学校で、そして教師たちだ。おまけに時代によって移ろいかわる社会の常識や価値観に倣い、学校で指導すべき内容も常にアップデートを求められる――苦労や悩みは絶えないだろう。
( だからといって超常的な何かの力を借りようなんて思う時点で、まっとうではないわけで…… )
苦労を重ね、悩んだ末に理想を求めて行きついた先が【怪異】ならばそれは本末転倒だ。模範的でも何でもない。カルトは社会から批判され、弾圧される。ただ、教頭にはもう自らの行いを顧みることのできる正気などないのだろう。見るに堪えない、とはこのことか。現に教頭からは、ともすれば気圧されてしまいそうなほどの異様な存在感を感じる。風貌は紳士的なのに、拭いきれない違和感というか、悍ましさ、と言えばいいのか。
とにかく、だ。藍斗にとって優先すべきこと何より"人命"だ。果たして教頭に聞く耳があるのかすら疑わしくはあったが、はやくおいで、と促すその背中に藍斗は声をかけた。
「彼を助けます。先生にとっては悪い用務員さんでも、僕にとってはそうではありません」
藍斗は返事を待たずUDC職員の救出を試みる。
窓ガラスには雨だれのように流れる血。酷い出血と窓に激突した衝撃で職員は意識を失っているようだった。しっかりと胴体を把持し、絡むロープをどうにか切って室内に引き込む。そうっと床に寝かせてまずは傷の確認だ。
( 額、そして顔面に幾つかの裂傷。目蓋は切っているみたいですが眼球は無事ですね。流血が酷いのは額か )
枕カバーを細く切り裂いて簡易的な包帯代わりを作ると、刺さるガラス片を取り除き、額の傷にややきつめに巻く。圧迫止血が出来ればいいが――ちらり、と教頭の方へ視線を遣るが――その時間はなさそうだ。教頭はにこやかな笑顔はそのままに、急かすように革靴で廊下を叩いている。
「後は任せてくださいね――お待たせしました、行きましょう」
聞こえているかはわからないけれどUDC職員にそっと声をかけて。藍斗は教頭の背中を追った。
大成功
🔵🔵🔵
山崎・圭一
UDC職員は…救助は足りてるか
で、何?この安い魔法陣は。
言われるまま立ってみる
会わしてもらおうじゃん。そのホワイト様っての
【魔力供給】して送信ってね
大切なもの捧げるねぇ…
見返り必要な正義ってそれもう正義じゃねー気がするが
おい。ところで|お前《教頭》
よく喋りやがる。歪んだ正義程臭ェものはねぇ
人と人の問題事を解決するのも結局人間だけであって
学校って環境なら解決させンのは教員の仕事だろ?
何とか言ったらどうだ?給料泥棒
このおっさん放置してたら
お出ましのホワイト様とやり合うに邪魔だからな
俺のUCで、ちーっと虚無っててもらうぞ
行って来い!|紙魚白燐蟲《エンリケ》!
あの残念なおつむの中全部食ってこい
●|insane《インセイン》
「彼を助けます。先生にとっては悪い用務員さんでも、僕にとってはそうではありません」
藍斗の宣言を聞いた圭一は、ドアを開いたまま教頭とただ対峙していた。それには当然、牽制の意味も兼ねている。
教頭は今でこそ穏やかに佇んてはいるが、こういった手合いの狂人は、どのタイミングで気が変わるか読めない。万が一でも、UDC職員の救助を邪魔されては面倒だ――彼に対しては、個人的には制服を手配した恨みが無い訳でもなかったが。そんなものは些細なことだ。少なくとも、こんな羽目にあって然るべきだとは、圭一は思ってはいなかった。たらふく奢ってもらってチャラにできるような、そんな程度だ。
( 救助は……足りてるな。治療は……このタイミングはやめておくか。手の内はまだ明かしたくねぇな )
教頭への警戒を怠ることなく、彼らの様子を盗み見やる。施された応急処置も手抜かりはない様子。|オナガミズアオ《アルテミシア》で治療を施すのは、迷ったがやめておいた。本命は"ホワイト様"だ。教頭がどこまで自分たちの情報を掴んでいるか把握できかねる現状では、手の内を明かすようなことは控えた方がいいと判断した。手の内を明かすのはまず敵を知ってから――能力者として戦ってきた経験だ。現に。
「そうですね、“ホワイト様“。ええ、ええ。彼は善良です。善悪の区別なく分け隔てなく人を助ける善良です。だから待ってあげなくてはなりませんね。ですが、“ホワイト様“をお待たせする彼は悪ではないですか?ええ、ええ、そうですね。“ホワイト様“、彼は善良です」
急かすように革靴で廊下を叩きながら、教頭は常に“ホワイト様“と会話をしているような素振りを見せていた。それが真実“ホワイト様“と交流しているのか、ただの独り言を繰り返しているだけなのかはわからないが。確信もって言えるのはただひとつ。
( よく喋りやがるうえに残念なおつむしてんな、ほんと )
●そして、深淵を覗く
「お待たせしました、行きましょう」
果たして救助は教頭が痺れを切らす前に無事に終わった。ずんずんと先を進む教頭の背中を慌てて追う藍斗に続き、圭一も二人を追う。廊下を走るのは悪だと体現するかのように、教頭はあくまで異常に素早く歩くだけ。ともすれば教頭のその背中を見失いそうになりながら、藍斗と圭一が辿り着いたのは旧校舎三階の空き教室だ。
ドアについている窓からは、教室の様子が全く見えない。
本来は白い筈のドアも、やけに赤黒く汚れている。
隙間から漏れ出る、臭いが、鼻につく。
呼吸をする度に、肺に空気を取り込む度に、その臭いの空気を取り込んで――
何の臭いか気付いたとき、吐き気が、こみ上げた。
腐った肉の臭い、酸く上に血生臭い臭いが、教室から漏れ出ている。それも尋常ではない。
気付かなかった。何故かはわからないが、|気付けなかった《・・・・・・・》。
その臭いは三階に充満しているのに。その異常性に、|気付けなかった《・・・・・・・》。
「お待たせしました、逝きましょう」
藍斗の台詞をそっくり真似て、教頭が――否、|教徒《・・》がそれはそれはニコヤカにニコヤカにニコヤカにニコヤカにニコヤカにニコヤカにニコヤカに。花咲くように輝くように太陽のように幸せそうに喜ぶように悦ぶように歓ぶように慶ぶように異常の中で異常に笑んで。
ドアを、開けた。
その先には――
大成功
🔵🔵🔵
夕闇霧・空音(サポート)
『私の可愛い妹のため…ここはさっさと終わらせるわよ』
サイボーグの咎人殺し×竜騎士。
普段の口調は「クール(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、かしら?)」、覚醒時は「残虐(俺、お前、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」です。
UDCアース出身で改造された少女。
基本クールだが、妹のことになると色々見境がなくなる。妹ラブ。戦闘時にも強気で戦います。
冷気属性で戦う。
苦戦バトルもOK
真の姿に発動可能であれば使用可。
真の姿発動時は口調が荒くなり、一人称が「俺」になる。
妹の天音はある意味弱点になる。
真の姿発動はお好きに判断してください。
●| Goodbye, sanity. Hello insane.Welcome to The Dystopia《正気を捨ててください。狂気を迎えてください。ようこそ、正義の理想郷へ》
目、目だ。目があった。目しかない。目が見ている。目が視ている。目が観ている。目が。
目が、目が、目がある。何処みても、目玉がある。目玉が、目玉が。眼球が。白い眼球が、黒い虹彩が。
廊下に佇む藍斗を、圭一を、人のものよりひとまわりほど大きな目の群が、いくつのも目が、目玉たちがみていた。
壁に、天井に、窓に、ドアに、床に、教室に余すことなく磔にされた、目玉が。二人をぎょろぎょろとみていた。
標本のように針に刺され、傷口から血を、透明な水晶体を、涙のようにぼろぼろとこぼしながら。
動く筈のない目玉の群がぎょろりぎょろりと蠢いて、藍斗を、圭一を、みていた。
――悍ましい視線が、一斉に、二人を見ていた。鼻を抉る臭いが、より濃厚になる。教室の空気が、赤く色づいて見える。息を吸う度に、血の霧を吸い込む。
その異常の中に制服姿の一人の少女が佇んでいた。夕闇霧・空音(凶風・f00424)だ。
その両脚は明らかに人の身のものではないが、教頭はさして気に留めることもなく、お待たせしましたと教室に入る。
猟兵の特性――如何なる姿でも違和感を与えないによるものだ。
空音は藍斗と圭一に近付くと、そっと耳打ちした。二人にしか聞き取れないように。
「大丈夫、幻覚よ。|よく見ていて《・・・・・・》」
「ああ、“ホワイト様“お待たせしました!!」
目玉をぶちぶちと踏みつぶしながら教室の真ん中に立った教頭が、歓喜に満ちた声をあげる。
その瞬間、目玉の群にスノーノイズが走り――書道用の半紙に描かれた|目玉の絵《・・・・》にうつりかわった。
吐き気がこみ上げるような臭いも大分薄れる。とは言え、臭うは臭うし、|目玉の絵《・・・・》が床以外に隙間なく貼られている状況も、大概ではあるが。
「先生は先にご準備を。私が二人にこれからのことを説明します。邪魔してはいけませんので廊下にいますね」
「ええ、夕闇霧さんはとても善良な生徒ですね。ありがとうございます」
教頭は赤い液体が並々入った瓶に指を突っ込んで、這うように床に何かを描き出していたが――臭いの元はどうやらあの瓶の中身のようだ。薄れた臭いが再び濃くなる。空音は教頭の背中に声をかけて一瞥し、静かにドアを閉めた。
「念のためにってあなたたちの後に潜入していたの。“ホワイト様“の噂の抑止はあなたたちに任せて、私は教頭の協力者として情報を集めていたわ。とりあえず、これからのことを説明するわね」
空音が説明したのは儀式の手順だ。
教頭が用意する魔法陣の中に入り、学校関係者専用アプリの連絡フォームから、宛先を【Shiroi-obake-ha-seigino-mikata@xxxx.xx.xx】にして【ホワイト様に会いたいです。大切なものを捧げるので世のため人のため力をお貸しください】と送信する。儀式にしてはやけに単純なもの。
「だけど、これだけだと会えないこともあるらしいの。大切なものを実際に捧げる必要があるわ。まあ、なんでもいいわよ」
「なんでも、ですか?」
「なんでも。要らないものでなければ生命力でも魔力でも、血でも。捧げるものは現状できる範囲で構わないわ」
「……要はゴミ以外で大切だと言い張れるモンを捧げろっつーことか?随分、適当なんだな」
「そうね。だから問題なのよ」
空音はふぅと重たい溜め息を吐き出す。
「“ホワイト様“への連絡は問い合わせフォームを使うだけ、儀式の手順もひどく簡単。子どもにだって出来るわ。“悪い人“を簡単に退治できるなんて正義に浸れて気分もいいでしょうし、復讐にだって使える――この怪異、余程、人のためになりたいみたいね」
銀色の瞳が剣呑に細まる。空音は二人に背を向けてドアに手をかけた。
「この怪異は|そういう怪異《・・・・・・》よ。|善意《・・》しかないの。それが行き過ぎていても、狂っていてもね――そろそろ戻るわよ。儀式には私も参加するわ。今頃、教室の中はひどく臭うでしょうから覚悟して」
「はい。そういえばあれ、なんなんですか?何やらすごく嫌な臭いなんですが」
「聞きたい?なんでも牛の眼球を集めて|絞ったもの《・・・・・》だそうよ。さあ、行くわよ」
赤い液体の正体にびしりと硬直する藍斗と圭一を置いて、空音は教室のドアを躊躇いなく、開け放つ。
成功
🔵🔵🔴
●|Hello everyone. I am justice.《こんにちわ、みなさん。私は正義です。》
教室にはすっかりあの臭いが充満していた。
藍斗はハンカチで口元を覆いたくなるのをどうにか堪えるのに対して、圭一は遠慮なく制服の袖で口元を覆い隠す。
どのような行動が教頭を刺激するかわからない――空音にぎろりと睨まれた圭一はやれやれと肩を竦めて、覆うのを諦めた。教頭はただニコヤカに、床に描かれた拙い魔法陣の上に立つ。
「さあ、“ホワイト様“との対面ですよ。みなさん、どうぞこちらへ。まずは“ホワイト様“へご挨拶をいたしましょう」
3人は教頭に促されるままに、血と水晶体で描かれた魔法陣の上に立つ。そして、手順に則り、メールを送信した。
――足元の魔法陣がぼぅっと淡く光るが、それ以上の反応はない。
「おや、今宵は捧げものが今すぐに必要なようですね。夕闇霧さんから説明は受けていますね?」
空音は黙って魔法陣へと手をつき、祈るように目を閉じた。
「はい。僕は、」
まずは藍斗が空音に倣い、そっと超常の力を発動させる。
「僕は、生命力を捧げます。先生が僕たちのことを何処までご存知かはわかりませんが……僕には生きて弔うべき家族が居ます。だから僕の大切なものは僕自身の命です。これ以上ない供物ですよね?」
「ええ、ええ!!御梅乃さんはとても善良な生徒ですね!!“ホワイト様“もお喜びになるでしょう。山崎さんは?」
「大切なもの捧げるねぇ……見返り必要な正義ってそれもう正義じゃねー気がするが。“ホワイト様“に会うためには必要なンっしょ?」
しぶしぶといった様子で圭一も先の2人に倣い、魔力を捧げる。が、それだけではなかった。
白く激しく明滅する魔法陣。教室全体に再びスノーノイズがかかるその中で、圭一の身体から白燐蟲がふわり飛び交う。
「おい、|お前《教頭》」
圭一はすくりと立ち上がり、その手に命捕網を具現化する。しゃらり、場を清めるように鳴る遊環の音。
“ホワイト様“以外の超常を目にして、何やら喚き散らかす教頭の言葉を――圭一は、敢えて無視をした。
恐らく教頭は“ホワイト様“を排除する障害になり得ると判断した圭一は、もう手の内を明かすことにした。
教祖を叩くにはまず教徒を無力化してから、だ。
(邪魔になる方が面倒だからな)
「本当、よく喋りやがるな。歪んだ正義程臭ェものはねぇ。そもそも人と人の問題事を解決するのも結局人間だけであって
、学校って環境なら解決させンのは教員の仕事だろ?何とか言ったらどうだ?給料泥棒」
「っぐ。な、なにを知ったような口を!!私は教頭だぞ!!かつてはそう信じて私も!!しかし、それだけではっ」
「あーあーあーうるせえな。お前ひとりが先生じゃねーだろ。そういう問題事を協力して解決していく姿勢を見せて教えるのが先生だろって言ってンだよ。“ホワイト様“に会ったから可笑しくなっちまったンじゃねーの?」
「な、なんということを!!私は可笑しくなどない!!理想のために努力を!!」
はっ、と圭一は鼻で笑う。
(これが努力であってたまるかよ)
「努力の仕方が根本的に間違ってンだっての。行って来い!|紙魚白燐蟲《エンリケ》!あの残念なおつむの中全部食ってこい!!」
圭一の身体からざざぁと零れ出た掌サイズの紙魚の大群は――時々、紙魚自身の燐光や顕現しかけている“ホワイト様“の光に驚愕したようにぴょんぴょん飛び跳ねながらも――教頭に襲い掛かる。教頭は手で払い除けようと抵抗するも敵う筈もなく、瞬きの間に紙魚の群に包まれて。
「や、山崎さん。大丈夫なんですか、あれ」
「大丈夫、大丈夫。“ホワイト様“に纏わる記憶食ってるだけだから。ちょーっと呆けるかもしンねーけど」
慌てる様子の藍斗に圭一はにししと悪戯めいた笑みを見せ。
やがて|紙魚白燐蟲《エンリケ》たちが圭一の身体に戻り始める頃には、教頭の様子はすっかり一変していた。教頭は、ただ天井を見つめてぼんやりと佇むだけ。
「やるわね。彼のことは私に任せて。貴方たちはアレをよろしくお願いするわ」
それまで静観していた空音が教頭を引き連れて教室の端まで後退する。
魔法陣の中央には騒動の合間に顕現を果たした“ホワイト様“――否、ピュリファイア・ホワイトが居た。
「---- ・-・-・ -・-・ ・・-・ -・- ・-・-・- ・・-・- ・-・ -・-・- ・-・-・ -・・・ ・-・-- ・・ ---・-」
「---- ・-・-・ -・-・ ・・-・ -・- ・-・-・- ・・-・- ・-・ -・-・- ・-・-・ -・・・ ・-・-- ・・ ---・-」
「---- ・-・-・ -・-・ ・・-・ -・- ・-・-・- ・・-・- ・-・ -・-・- ・-・-・ -・・・ ・-・-- ・・ ---・-」
「---- ・-・-・ -・-・ ・・-・ -・- ・-・-・- ・・-・- ・-・ -・-・- ・-・-・ -・・・ ・-・-- ・・ ---・-」
白い人影の群は繰り返し、繰り返し雑踏のような音を成し。
藍斗と圭一を、見た。
ーー|Do you accept the insane?《あなたは狂気を受け入れますか?》
→Yes or No.
ーーー
MSより
●教頭について
……あ、あれぇ?!奇跡の会心プレイングにより、教頭は戦闘の邪魔をしなくなりました。
教室の端っこで放心しております。虚無ってます。ぽけーって突っ立ってます。それだけです。
空音様(サポート様)が障壁で教頭を守ってくれているので、戦闘に巻き込まれる心配はありません。思いっきりどうぞ。
※教頭たちはプレイングに記載ない限り、描写されません。
●ホワイト様戦のリプレイについて
Yes or Noでリプレイが変わります。冒頭にご記載を。
Yesの場合→ホワイト様が何を言っているのかわかるようになります。あなたに罪がある場合、それを責め、償うために自決を促してきます。抗いながら戦ってください。心情より描写。戦闘背景は目玉ぎょろぎょろ世界です。ホラーワールド。|Welcome to The Dystopia《ようこそ、狂気の理想郷へ。私は貴方を歓迎します》
Noの場合→ホワイト様が何を言ってるのか全くわかりません。何となく罪悪感とか自責の念とかを刺激されているような気がしますが、気がするだけです。無視できるレベルです。がっつり普通の戦闘描写。戦闘背景は目玉の絵がいっぱい貼られた教室です。現実世界です。|Welcome back to The Real.《おかえりなさい、現実世界へ。その選択は懸命です》
以上、よろしくお願いいたします!!
ーーー
第3章 ボス戦
『ピュリファイア・ホワイト』
|
POW : 清浄な白
【善意に満ちた純粋な白い精神波動】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
SPD : 集合無良識
自身が戦闘で瀕死になると【善を妄信する限りピュリファイア・ホワイト】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ : 人の性の善なるは、なお水の下きに就くがごときなり
【白い閃光】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【心は罪悪感】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ウラン・ラジオアイソトープ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
クレア・フォースフェンサー
◎▲
善なる世界を求める者に善意の手を差し伸べる
なるほど確かにありがたい話じゃが、その結末は破滅
木々のみを見て、森を見ぬからであろうな
善意から言わせてもらうが
一度、自分が齎した結末を振り返ってみてはどうじゃ?
いや、これは悪意と冷笑じゃな
まったく、自分で善意などと口にするものではないのう
さて
狂気を受け入れるかじゃが、そうせねば本質は見切れぬ
受け入れようぞ、おぬしを完全に還すために
ああ、そうじゃ
オブリビオンとあらば、その者の想いなど関係なく斬ってきた
善か悪かなど関係なく斬ってきたとも
その罪を背負うつもりがなければ剣など持ちはせぬ
光剣で波動や閃光を斬りつつ距離を詰め
その星を斬り捨ててゆこう
山崎・圭一
【Yes】
どいつもこいつも…
関係ねぇクセに俺の罪を覗こうとしやがる
生憎手錠はもう間に合ってンだよ
ずっと昔からな!
そりゃ昔は…自責の念に潰されそうだった
自分で自分を手に掛けようとした
けどもう俺は何も知らないガキじゃねぇ
贖い方に自滅しか選択出来ない程ガキじゃねぇのよ!
あの白い閃光は受けて立つ
攻撃手段が光だなんてズリィよな。躱しようねぇもん
ま、俺が言えたクチじゃねぇけど
敢えて攻撃を受けたのは奴の強化狙い
毒ナイフに燐光を込めて【投擲】
貫通さえすりゃ俺のUCの条件は満たせる
『泡沫無現』可愛い俺の蟲となりな
巧い事蟲化出来たら【蟲使い】として俺がお前に命令してやる
人間同士の世界に介入した罪を贖え
●|Do you accept the insane?《あなたは狂気を受け入れますか?》
現実から異界へ、此岸から彼岸へ。
移ろいかわりつつある世界の中で、
「そうせねば本質は見切れぬ。受け入れようぞ、おぬしを完全に還すために」
ーークレア・フォースフェンサー(光剣使い・f09175)は、
「上等だ。見せてみろよ、お前の狂気ってやつを」
ーー圭一は、
→Yes.
善意の狂気を受け入れた。
●| Welcome to The Dystopia《ようこそ、狂気の理想郷へ。私は貴方たちを歓迎します》
鼻を抉るような臭いが強くなる。現実にスノーノイズが走る。
紙の絵が、本物の目玉にかわる。視線を感じる。いくつもの悍ましい視線を、感じる。
硬い床の感触は次第に生々しさを伴い、ただ其処に立ち竦むだけで、ぶちゅり、目玉が、ひとつ、潰れた。
血の霧が濃くなる。視界が赤く染まる。世界がアカになる。
その中でただピュリファイア・ホワイトだけが眩い程に清らかに輝いた。
「こんにちわ、みなさん。わたしは| ・---・ ・- -・-・・ ・・ 《せいぎ》です」
「コンイチハ、ミナサン。ワタシハ| ・---・ ・・ ・-・-・ ・- 《ぜんい》デス」
「あなたのつみを、つぐないましょう」
「アナタノツミヲ、ツグナイマショウ」
「かぞくをころしたつみを、つぐないましょう」
「アマタノイノチヲコロシタツミヲ、ツグナイマショウ」
「いのちをうばったのならば、いのちをたつべきです」
「キヨラナカヨニスルタメニ、アクハホロビルベキデス」
「つみにたえられないでしょう」
「セオウノハオモイデショウ」
「あわれなつみびと」
「スクワレナイツミビト」
「かわいそうなあなたのために、」
「アナタヲオワラセテアゲマショウ」
「いままでとてもがんばりました」
「アナタハトテモガンバリマシタ」
「しにましょう」「シニナサイ」
「しにましょう」「シニナサイ」
慈愛に満ちた声が響く。優しさに満ちた聲が聞こえる。善意を秘めた乞えが聴こえる。
終わりなき戦いの身を歩む貴方たちに、終わりを乞う数多の声が聞こえる。
――聞き取れないノイズは確かに正義だと、善意だと、宣った。
それを、
●罪を背負うもの
「重くて当然じゃろう、命は重い。わしはオブリビオンとあらば、その者の想いなど関係なく斬ってきた」
クレアはさも当然のことのように言い放った。
アカき世界の中、光のように煌く黄金の瞳は、ピュリファイア・ホワイトを射抜く。
「ああ、善か悪かなど関係なく斬ってきたとも。その罪を背負うつもりがなければ剣など持ちはせぬよ、今更じゃ」
「ならばしにましょう」
「イノチノタイカハ、イノチデアルベキデス」
「おもいつみをせおいつづけるあなたが、あまりにかわいそうです」
「アナタノタメニ、アナタヲオワラセマショウ。アナタノタメニ、イッテイルノデス」
善意の塊は心の底から、ただ純粋な善意でもって自決を促す。
――貴方が可哀そうだから、貴方のために、もう終わらせてあげましょう。
破滅を促す善意。終末を促す善意。善意に満ちた純粋な白い精神波動が、赤い世界に響き渡る。
「善意から言わせてもらうが。一度、自分が齎した結末を振り返ってみてはどうじゃ?」
クレアは溜め息まじりに光剣を引き抜いて。目玉をひとつ、ぶちゅりと潰す。
そして、ただ鍛え抜かれた己が御業をもって、波動もろともピュリファイア・ホワイトを貫いた。
「いたい」「イタイ」
「ひどい」「ヒドイ」
「あなたのために、いっているのに」「アナタヲオモッテ、イッテイルノニ」
「お主らが招いた結末は破滅ばかりじゃろうて。わしとそう変わらないじゃろうが」
ピュリファイア・ホワイトはただゆらゆらと揺らめきながら、違う!チガウ!と喚き出す。
「わたしは、よきせかいをもとめるものに、」
「ゼンイノテヲ、サシノベテイルダケ!!」
「なにが違うんじゃ。いいや、違うな。わしの方がまだマシじゃ。わしはオブリビオンが存在するだけで世界を蝕む存在だから斬っているにすぎんが、結果的にそれで救われている命がある」
クレアは光剣を今一度、構える。金色の美貌は、悪意に満ちた冷笑を浮かべて。
「もう一度、言おうかのう。お主たちはその善意とやらで一体いくつの命を救った?一度、自分が齎した結末を振り返ってみてはどうじゃ?」
|いのちだったもの《目玉》をまたひとつ、ぐちゅり、潰した。
――アカき世界に金色の一閃が走る。
●償いの道を歩むもの
「はッ、どいつもこいつも大概だな。関係ねぇクセに俺の罪を覗こうとしやがる」
圭一は鼻で嗤った。
しゃらりとなる遊環は、善き声をかきけすように。促される自責の念を、鎮めるように。
「かんけいなくは、ありません」「アナタハ、ヨキモノデハ、ナイカラデス」
「よきものでないならば、はいじょしなければ」「ヨキセカイノタメニ、ハイジョシナケレバ」
「ですが、あくのまま、ほろびるのはかわいそうです」「アナタガ、カワイソウデス」
「だから、せめてすこしでも、よきたましいとなるように」「アナタハ、アナタノテデ、ホロビルベキデス」
「あなたのために、」「イッテイルノデス」
善意の声は、善意からくる憐れみすらもっていて。
揺らぐその姿はまるで、泣き震えているようにすら見える。
(ああ、胸糞わりィ)
それを見た圭一の気分は、それはそれは最悪になる。
己が歩むと決めた道は、ひたすらに険しいだけの償いの道だ。
確かに昔は、それこそ自決以外の償いの手段を知らず、そうしようと思ったこともあった。
ただ、それは己が楽なだけだと気付いたのは、もうずっと昔のことだ。
家族の命を奪ったゆるされざる罪を償うために、険しいだけだと、辛いだけだと理解した上で。
進むと決めた、戦い続けるこの贖罪の道を。その選択を。その覚悟を。
――この善意の塊は何も知らない上で、ただ、かわいそうだと、あわれんだのだ。
「俺の覚悟を舐めんな!!」
叫んだ圭一に怖い!怖い!と怯え震えて、ピュリファイア・ホワイトは白い閃光を放つ。
それを圭一は、防がなかった。防ぐ手段がなかったとも言うが、それでいい。
加速的に湧き上がる罪悪感を、目の前の存在に対する敵愾心だけで堪えて。
「あなたのことは、おぼえました」「アナタノコトハ、シリマシタ」
「つぎは、はいじょします」「アナタハ、アクノママ、ハイジョシマス」
「できるもンならやってみな!」
圭一は、淡く燐光灯る毒ナイフを投擲する。実体持たぬ善意の身を、毒ナイフはただすり抜けて。
きゃらきゃら。きゃらきゃら。ピュリファイア・ホワイトはわらった。嗤った。哂った。
――かわいそう。なんてかわいそう。
どこまでも圭一の気分を逆撫でするソレに、圭一は冷たく言い放つ。
「| 成れ《・・》」
びきり――白き光の姿が歪む。人の形した姿から蟲の翅が、触角が、複眼が、単眼が、手足が、針が。
生えて。生えて。生えて。生えて。生えて。生えて。生えて。次々と。次々と。次々と。次々と。次々と。
数多の蟲の特徴が、人の形から生えて、歪んで。まるで歪み切った本質を体現するように生え散らかして。
その姿は、人から、蟲に、成りかわる。
「おーおーこりゃあまたすっげぇ蟲だな。蟲が、」
圭一に向かって伸ばされる数多の蟲の手が、
「|俺《蟲使い》の命令に逆らえると思うなよ」
圭一を尚もあわれむ数多の眼が、
「――お前たちこそ、人間同士の世界に介入した罪を贖え」
――ごろ。ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ。床に、転げ落ちた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御梅乃・藍斗
◎▲
僕は、狂気を。
受け入れ、ません!
自分は善良なのだと思っていました
潔癖なくらいだと信じていました
けれど過去を思い出して、本当は罪業と汚穢に塗れていると悟って、それを否認し続ける方がずっと汚らわしいと思いました
善の塊である貴方は僕を責めているのでしょう
けれど清らかすぎる水には生き物も棲めない
命と正気の絶えた清浄さなど、善でも正義でもありはしないんだ
指定UCですべての攻撃を弾きます
【居合】【残像】【受け流し】で反応を補助
【狂気耐性】【激痛耐性】【覚悟】で精神影響を排除
人影の群れを無心で切り捨てます
申し訳ないですが、僕は本願を果たすまで――
狂うことも壊れることも、己に赦していないので。
アレクシア・アークライト
◎▲No
また会えたわね。あの子は元気かしら?
閑話休題。
すっかり出遅れちゃったけど、
銀の雨が降る世界の人達にばかり矢面に立ってもらうわけにはいかないわ。
室内に展開した《領域》で敵の攻撃を感知。
《防壁》で自分や仲間を防御しつつ、
《温度干渉》で目玉の絵と敵の身体を燃やす。
全く悪趣味な教室ね。
この絵はビッグブラザーの真似事かしら?
そんな監視密告社会は願い下げよ。
瀕死になると増えるっていうのなら、
UCを叩き込んで瀕死になる過程なしに骸の海に叩き返すわ。
そういえば、挨拶がまだだったわね。
-・- -・ --・-・ -・・・ --・ -- ・・- ・ ・- -- ・-・-・・
行っててよかった駅前留学。
●|Do you accept the insane?《あなたは狂気を受け入れますか?》
現実から異界へ、此岸から彼岸へ。
移ろいかわりつつある世界の中で、
「いいえ、興味ないわ。私はただあなたを排除するだけよ」
ーーアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)は、
「僕は……狂気を……受け入れません!」
ーー藍斗は、
→No.
善意の狂気を拒絶した。
●|Welcome back to The Real.《おかえりなさい、現実世界へ。その選択は懸命です》
現実に走るスノーノイズが止む。移ろつつあった世界が現実に鎖される 。
僅かに残る異臭は相変わらずだが、足元の感触は硬い床のまま。
教室中を隙間なく埋めるのは、眼球ではなく半紙で描かれた目玉の絵。
教室にいた圭一の姿が消えていることに藍斗は気付いたが彼の無事を信じ、眼前にただ輝くピュリファイア・ホワイトと対峙する。
影朧のようにゆらりゆらり漂うピュリファイア・ホワイトから、規則的な信号音がけたたましく鳴り響くが、藍斗がその意味を理解することはなかった。恐らく彼らの性質的に、罪を責め、自決を促すような何かだろうと察したが、それだけだ。
彼らはきっと自分たちの在り方こそが善良だ、善意だと信じているのだろう。
――かつて過去を思い出すまでの藍斗自身と同じように。
藍斗もそれまでは自分も善良だと、潔癖だと信じ切っていた。本当は自分の存在こそが罪業で、汚穢に塗れているのに。
「善の塊である貴方はきっと僕を責めているのでしょうね。けれど命も正気も絶えた清浄さなど、善でも正義でもありはしないんです」
事実、命も正気も絶えた清浄さなど【無】でしかない。
罪業と汚穢に塗れているからこそ、自分はそうではないと否認し続けることの方がより汚らわしい。
罪業を認め、汚穢を認め、そこからどう在ろうとするか――そこに善良さは現れるのだと、そう思う藍斗だからこそ。
「僕は貴方を、あくまで此岸から否定します。僕は本願を果たすまで、狂うことも壊れることも己に赦していないので」
藍斗は彼らの在り方を否定する。ピュリファイア・ホワイトが発する信号音が嗚咽のように甲高くなる。
三翼刀を引き抜き――そこに響く、カツンと軽快なヒールの音。
「あら、あなた。また会えたわね。あの子は元気かしら?」
●再会
赤い髪、翻る赤いコート。見覚えのある姿に藍斗は思わず叫ぶ。
「アレクシアさん!?」
「ええ、覚えていてくれたのね。すっかり出遅れちゃったみたい。彼を助けてくれたの、あなたでしょう?」
「あ、」
「そう、用務員の彼からコールを貰ったから来たの。彼は無事よ、安心して。私、こういうの専門のUDCエージェントだもの。私が来るのは当然だわ」
アレクシアは藍斗の隣に並び立ち、ピュリファイア・ホワイトを見据える。
歪んだ善意の象徴は突如現れたアレクシアに警戒を露わに、ぼう、ぼう、と不安定に瞬いて。
藍斗は眼前の敵に再び視線を戻すと、刀を正眼に構え。
「ちとせさんは元気みたいですよ。新しいご家族の元で楽しく過ごしている、と。手紙、届いてる筈ですから……読んであげてください」
「そう、よかった。仕事の後の楽しみが増えたわ。それじゃあさっさと片しましょうか」
「はい!僕があれの攻撃を妨害します。アレクシアさんは攻撃を」
「わかったわ。けれど、防壁くらいは張らせてくれないかしら。貴方にばかり矢面に立ってもらうわけにはいかないわ」
「、はい!」
戦線を共にした訳ではないものの、一度は共通の依頼を果たした者同士。
ピュリファイア・ホワイトは金切り声のような信号音を発しながら、善意に満ちた純粋な白い精神波動で教室を満たしていく。すべてが白に包まれる――それを、させません!と全身を包む藍色の闘気を刀から放ち、藍斗が阻害した。
亀甲する白と藍。それに、
「それにしても悪趣味な教室ね。ビッグブラザーの真似事かしら?そんな監視密告社会は願い下げよ」
赤が交わる。
アレクシアの温度干渉により教室中の目玉の絵と、ピュリファイア・ホワイトの身体が焔に包まれて。
「--・-- ・--・ ・- --・-- ・--・ ・- --・-- ・--・ ・- --・-- ・--・ ・- 」
まるで人のように暴れ狂うピュリファイア・ホワイトの群。
悲鳴のようなノイズを発しながら、二人に閃光による攻撃を仕掛けるも、アレクシアへの攻撃は藍斗が尽く三翼刀で阻害して、藍斗への攻撃はアレクシアの念動力による防壁が弾いて。
「・・-・・ ・・ ・・- --・-・ ・-・-- -・- -・ --・-・ -・・・ --・-- ・-・ -・ -・ ・・-・ --・・- ・・-・・ ・・-- -・ -・・・- -・-・ ・-・-- ・--- ・-・・ --・-・ ・-・-- ・- -・--・ ・・-- -・-・ 」
届かぬ攻撃に対して癇癪か。慟哭か。ピュリファイア・ホワイトからは分かりやすく苛立ちが伝わる。
それを藍斗は無心で切り捨て、アレクシアはふふと鼻で嗤い。
「ひとのため、ね。ああ、そうだわ。挨拶が遅れたわね」
そして、UDCエージェントはオブリビオンに還送の力を叩き込む。
「|-・- -・ --・-・ -・・・ --・ # ・・- ・ ・- -- ・-・-・・《わたしはりょうへいよ》」
「・-・・・ ・・-- --- --・ ・・- ・ ・- 」
響く断末魔。
赤い炎がピュリファイア・ホワイトの身体を舐めるように這い上がり、飲み込んでいく。
――やがて、目玉の絵もすべて燃え朽ちる頃には、狂気を受け入れた2人も教室に帰還を果たした。
藍斗はほっと溜息を吐き出すと、刀を収めて。
「終わりましたね……ところであの、アレクシアさんはあれの言っていたこと、わかったんですか?」
「ええ、わかったわ。行っててよかった駅前留学ね」
「え、嘘ですよね?」
「さぁ、どうかしら?探せばあるかもしれないわよ」
「……やっぱり嘘じゃないですか!」
そんな藍斗とアレクシアの様子に、知り合い?なんて聞いてきたのは2人の内のどちらだったろうか。
話せば長くなりますが、そんな在り来たりな切り出しから以前の依頼のことを話してみたりして。
――そうして、狂気の淵から、彼岸の涯から、現実に、日常に、確かにかえっていく。
●かくして
【正義の白い化け物】は骸の海に無事、還された。
行き過ぎた善意による暴走も起こることはなく、生徒の被害は精々が廊下で転んだりなどの軽度なもの。
教頭はホワイト様をすっかり忘れて元の真面目な先生に、用務員に扮した彼も命に別状はないそうだ。
藍斗や圭一が流した噂によって、件の噂そのものが忘れられつつある。
人の噂も七十五日――この場合、人ではないが――いずれ藍斗や圭一が流した噂も忘れ去られていくだろう。
――誰かがまた、善意を求め過ぎぬ限り、ではあるが。
とにもかくにも、今は、めでたし、めでたし。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵