1
花には嵐と茶をしばけ

#シルバーレイン #ノベル

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#シルバーレイン
🔒
#ノベル


0



ディル・ウェッジウイッター
猟兵になり様々な世界を渡るようになって改めて感じたことがあります
それは、お茶は星の数ほどあるという事です
ティーソムリエたるもの全ての世界のお茶をいただきたいのですが私の身は一つ。
定命の人間の生きる時間で成すにはさすがに時間が足りない事は承知しております

ですので、あなたのお力をお借りしようかと
よろしければあなたの郷里の、もしくは今まで見聞きしてきたお茶の話についてお聞かせ願えませんか?


(個人企画です。過去にほぼ同じリクエストをしています。)
お茶やお茶会に関係するノベルを書いてください
各世界のお茶事情はもちろん、グリモア猟兵さんの思い出でも、言い伝えでも、MSさんが今しがた考えた物でも、お茶とお茶会にまつわればどんなお話でも構いません
世界はシルバーレインにしてますが他の世界の話でも歓迎です

文体自由
PCとグリモア猟兵さんの対談式でもレポートでもグリモア猟兵さんが口述する形でもなんでもOK
PCが出ない形式でも問題ありません

また、文字数は多めに用意しておりますが、短くても大丈夫です

●PCについて
人当たりが良く穏やか、時折茶目っ気をみせるティーソムリエ。ちょっとしたことでは動じない。マイペースともいう
紅茶が大好き

●NG
PCの恋愛描写、性描写、公序良俗に反するもの

以上、よろしくお願いします



 静かな波音と白い砂の道が、そこにただただ存在していた。春先の太陽がもたらす温かな眠気が、砂浜を優しく包んでいた。背高の草木は潮風になびき、遠くには険しい岩山がそびえ立つ。此処は人の手が入る余地のない、雄大なる自然に支配された地。
 要するに――ディル・ウェッジウイッターは、無人島にいた。

「問題ないよ。この島は僕の私有地だから」
 なんて?
 ディルを島に招いた張本人である、鵜飼章という怪しい猟兵は平然と草木をかき分け、道なき道を進んでいく。聞いた所、猟兵活動の収入で購入したらしい。一方ディルはというと、無人島貸切ティーパーティー……その手があったか、と壮大な閃きを得ていた。
「流石だ。きみは普通についてきてくれると思ったよ」
「ええ、そこにお茶があるならばアマゾンでもサバンナでもご一緒しますとも。一体どのようなお茶をご馳走していただけるのでしょうか?」
「野草茶を作ろう」
「野に生える草からお茶を……それは興味深いですね」
 どうやら茶葉を作るところから始める気らしいが、ディルは引くどころかむしろ乗り気だ。章はその顔を見て微笑むと、丁度ディルの足元に生えていた花を指す。誰もが知る春の運び手。タンポポであった。
「そう、例えばそれも材料。採集してくれるかな」
 ディルは渡されたハンドシャベルでタンポポを根元から掘り起こした。この花は栄養価が高く、全ての部位が野草茶の材料として有用だそうだ。他にもヨモギやクワなどがお勧めだと章は言うが、生憎今はシーズンではないらしい。熱心にメモを取りつつ山道を歩いていると、ディルの字の上に花弁がひらりと乗った。――早咲きの桜だ。
「これもいいね。摘んでいこう」
「いいんですか?」
「私有地だからね」
 要するに公共の場ではダメ、という事らしい。そうして摘んできた春の花を海辺に広げれば、この世界が現代と地続きである事を一瞬忘れるような心地がした。このままただ眺めていてもいいのだけど、と章は言う。
「知りたいんだろう。野草茶の何たるかを」
 今、ティーソムリエとしての覚悟を問われている……ディルはそう感じ、深く頷いた。
「はい。願わくば、この世界のお茶の全てを知りつくしたいと思う程です」
 この男、瞳まで茶に染まっている――彼の双眸に力強い光を感じた章は、無言で桶を取り出すと、ろ過しておいた湧水を盛大に注いだ。

 摘んできた野草はそのままでは使えない。桶に投入し、土埃や虫等が取り除かれるまで、丁寧かつ大胆に洗いまくるのだ。葉の裏や根の間等、汚れが残りがちな所は特に見逃せない。しかし、花だけはあまり洗ってはならない。ディルは章に言われた事を反芻しつつ、ざぶざぶと野草を洗った。
「どうでしょう章さん、綺麗に洗えましたよ!」
「ありがとう。では干そうか」
 タンポポは丸ごと洗濯物(物干し竿もそのへんの木で手作りしたらしい)のように吊るしておけばよいそうである。桜は塩をまぶしてジッパーに入れ、重石を置く。だが、ここで大きな問題が二人を襲う。
「これ、完成まで何日かかるんですかね?」
「1~2週間かな……なので、この後乾燥させたタンポポを刻み、オーブンで焼いたものがこちらだよ」
 そしてディルは完成したタンポポ茶と桜の塩漬けをお出しされた。料理番組でたまにある回。
 しかし章の無人島茶はまだ中盤だった。超能力も文明の利器も用いず、わざわざ火打石で火を起こし、焚火で茶を沸かすのだ――実は火遊びが大好きなディルは、普通にはしゃいだ。ついでにマシュマロとか焼いた。
 桜の塩漬けは一度塩抜きをしてお湯に浮かべたら、塩抜きに使ったお湯を一匙垂らす。そうすれば、見た目も小粋な桜茶の完成だ。ちなみに桜の葉を野草茶にしても美味しいらしい。
 ちょっとしたお菓子を大きな葉っぱの皿に並べ、石のテーブルにタンポポ茶と桜茶を置く。すると、豪華な品はないが、それなりに見えてくるものだった。
「いよいよですね。では……いただいてみます」
 ディルは自ら工程を体験し、やっと完成した茶に口をつける。どちらも紅茶とは全く異なる味で、特にタンポポ茶は癖が強く、珈琲のように苦い。だが、一口ごとにここまでかけてきた労力が鮮明に描き起こされ、不思議と美味しいように思えるものだった。
 桜茶の控えめな味と香りが、遠くでそよぐ桜の風と枝が、この茶会とも言い難い茶会に例え難い詩情をもたらしている。章は特に気の利いた話もせず、ただ雲を見つめていたが、ディルには彼の趣向が理解できた気がした。
「自身の体験が更にお茶を味わい深くするのですね。章さんはだからいつもわざわざ手間をかけて野草茶を……!」
「いや。普段はスーパーで加藤園のジャスミン茶を買っているよ」
「加藤園! 安くて美味しいですよね!」
 気まぐれだった。そういう日もある――!

 なお、章は野草茶が完成するまで無人島生活を続けた。ディルが最後まで付き合ったのかは謎である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年03月07日


挿絵イラスト