伸びた枝が、次第に赤黒く染まる。
太い血管を通っていく模様に似たそれは、影朧の血。
本体たる八重紅枝垂桜の枝が吸い上げたモノを、仮初の人型現す雨倉・桜木は無表情のまま堪能する。
傷つけられた過去として具現化する影朧。
常で在れば、場合によっては悪魔契約へと誘ってやるところである。
しかして。
“この”影朧は、大罪者だった。
仕える主人の命令であったとはいえ、罪なき犬猫たちを屠り無残に捨てた。
ヒトは、言葉が通じぬから、気持ちが分からぬから、弄ぶのだといふ。
ならば。
人間の心など理解する気のない自分が暴挙に出たとて、構わないという事だろう?
笑えていない心のまま、唇に笑みの形が浮かぶ。
桜色寄りの瞳から光沢は失われ、憎しみの黒が混じれば生々しい血の色と成る。
赦せるはずがない。
因果は巡る。永久に虚無の中を彷徨うがいいよ――。
内側の熱で樹脂にヒビが入り、溶け出すように、精霊としての透明感抱く気配が濁り、妖のそれへと変貌していく。
今にも封じ込めていた黒き物体が暴れ出すかと思われた、その時、
ぽっふん。
蠢いていた枝が、ぴたりと動きを止めた。
桜木の瞳は、おもむろに己が肩を見上げる。
ふさふさの尻尾を桜木の後頭部にあてバランスをとる、愛猫のキュウダイが居た。
「……キュウ、ダイ、くん」
数だけの粗末な影朧の方を担当してくれていた愛猫は、ただ自分を見つめていた。
まぁるい、蜜のような澄んだ琥珀の中に優し気な移ろいが在った。
もう終わった。帰って美味しい物食べるぞ。
いつも通りそう伝えてきている気がすれば、瞳に桜色が戻って来る。
「っっキュウダイくん! お疲れ様ー!」
快活な声色響かせた後、目一杯、もふもふむぎゅー!
『ふな!!』
肉球パンチを受け止めた顔に、本来の笑顔が綻ぶ。
まるで何事も無かったかのように。
黒を抱いても、憎しみが顔を出しても、“それごと”愛猫と寄り添う桜が今日も在る。
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(MSより)
万物を慈しむ桜の精で在りつつも、その懐という幹の中に黒い炎燻らせたまま咲き誇る雨倉・桜木様へ。
一見透明感と甘やかなる美麗な心身。ひとたび逆鱗という炎が点火すれば、たちまちご自身をも濁らせ焦がすのも厭わない激しき芯。
けれど、愛する動物さんたちが傍にいる限り、透明感を完全に失くすことはないであろうご印象から、閉じ込めたモノごと愛でる琥珀を選ばせて頂きました。
成功
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