Plamotion After Actor
●五月雨模型店
良かれと思ったことが裏目に出た時、人は真摯に成るべきである。
それも、なるべく早くに。
その教えはきっと馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)たちの教えであったことだろうし、巨大クラゲ『陰海月』の性根させたものでもあったことだろう。
「ぷきゅ~……」
大変に申し訳ない、と言わんばかりにうなだれる『陰海月』にヒポグリフの『霹靂』は平気だというように羽を揺らす。
「クエクエ♪」
「ぷっきゅ」
二人が如何なる言葉を交わしているのかは、なんとなく伝わる。
きっと『陰海月』が落ち込んでいるのは、アスリートアースにおいて猟兵が関わることとなった事件に端を発することが原因だった。
『プラモーション・アクト』――通称『プラクト』と呼ばれる非公式スポーツ競技。
『ダークリーガー』との戦いにおいて、『ぐるぐるバッター』が放ったユーベルコードに寄って強制的な目回しが今も『霹靂』の三半規管にダメージを与えているのだ。
強力な攻撃であったと言えるだろう。
どれだけ人ではなく、またただの動物でないのだとしても。
それでも友達を巻き込んでしまったことを『陰海月』は悔いていた。
しかし、その後悔は心を育てる土壌になるだろう。そのことについて真摯であればあるほどに花咲くものは美しい。
「ぷきゅ、きゅきゅ」
「クエクエッ!」
敵のユーベルコードは確かに恐ろしいものであったが、普段は『プラクト』に参加できない『霹靂』。
そうなのだ。
『プラクト』は自分で作ったプラスチックホビーを自分で動かすホビー・スポーツ。
『霹靂』がヒポグリフである以上、その動きは『モーション』と呼ばれる操縦系統でなければならない。
いつもは自分の触腕で動かすこともできるが、今回はヒポグリフ型のメカ騎馬を作って『霹靂に』に楽しんでもらいたいと思ったのだ。
「きゅぷ……」
それがどうにも裏目に出てしまったことがどうにも後ろめたい。
そんな後ろめたさを払拭するように『霹靂』は羽ぶり身振りでもって彼に伝えるのだ。
自分ではないものを動かして、それがフィールドの中を駆け抜ける。
その楽しさは『陰海月』が夢中になるのもわかろうというものであった。
確かに『ダークリーガー』のユーベルコードは脅威であったし、今も自分はちょっと目が回るような気さえしている。
それでもそれ以上に、といえば良いだろうか。
『陰海月』の気持ちが嬉しい。
「……なんだったか、『陰海月』。帰りに、立ち寄るのではなかったか」
『静かなる者』が堂々巡りになりそうな気配を感じて『陰海月』に用事を思い出させるように言う。
「ぷっきゅ!」
そうだった! と『陰海月』が『霹靂』の前足を引くようにして早足で『五月雨模型店』の扉を叩く。
「クエ?」
なんだろうと思っていると、どうやら今回『疾き者』たちが使った『戦国大将軍』の弓兵セットを完成させるために作業スペースを使用したいようだった。
店主は構わない、と彼らを作業スペースに通す。
元々は武装に使った弓矢のパーツ取りに使ったものだ。
けれど、本体がまるまる残っているのはなんとも寂しい。だから、パーツ取りで残されたもう一体を共に作りたいと思ったのだ。
『霹靂』はなるほど、と頷く。
このためにコツコツとお手伝いをしてお小遣いを貯めていたのだ。
「きゅきゅきゅ」
「クエッ!」
二人は並んで組み立てていく作業を見つめる。
触腕が次々とパーツを切り離していく。『霹靂』は眺めることしかできないけれど、しかし、組み上がっていく行程は見ていて楽しいものがあった。
こうやって作るのかと思うし、またそうして作業スペースにいると『五月雨模型店』のメンバーの少年少女たちが駆け寄ってくる。
「お、なんだよー! もう次のやつ作ってんのかー?」
「おおッ!『戦国大将軍』シリーズか!! これは良いものだなッ!!」
「細かいパーツが多いですから、紛失しないように気をつけましょう」
「あ、おおお、お茶入れてきますね」
『静かなる者』たちは、少年少女たちと彼らの交流を見守る。
二匹だけではない。
こうして世界が広がっていく。
誰かが居るから己という存在を知ることが出来る。自分たちのように束ねられて初めて存在できるものではなく。
個として世界に根ざすことの出来る彼らを微笑ましく思う。
これが己たちの守らねばならぬ者たち。
道行く未来が、何処に続いているのかはわからない。けれど、『ダークリーガー』、オブリビオンたちがもたらす破滅ではないことは確かだ。
「ぷーきゅ!」
「クーエ!」
二匹が鳴く。
手を上げ答えながら『疾き者』、そして残る三柱たちは微笑む。
彼らのその後に幸が多からんことを。
そして、その幸多き未来をもたらすことこそ、己たちの幸せなのだと自覚するように優しく、優しく、見守るのだった――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴