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にゃんにゃんにゃん 甘い誘惑 甘い毒

#UDCアース

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#UDCアース


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●2月22日は猫の日なのだそうですよ
 どこにだって、それはある。
 誰が決めたわけでもなく、示し合わせたわけでもなく。
 自然と人の集まる所……ならぬ、猫の集まる、秘密の場所。
 3月も目前、時折春を感じさせる陽射しさえも降り注ぐ、UDCアースの片隅で。
 昼寝をしたり、あくびをしたり。
 風に揺れた雑草にじゃれてみたり、それに飽きたらまた寝たり。
 喧嘩をしたり、毛づくろいをしたり。
 飛んできた蝶を捕まえてみたり、それに飽きたらまた寝たり。
 人間様たちの忙しない日々など知ったことではない。
 彼らだってまた、自由気ままに日々を生きるのに大忙しなのだから。
 尻尾を揺らしてにゃぁんと鳴いて、今日も集会に顔を出さなければならないのだから。

●何でも2が3つ並んでにゃんにゃんにゃんとのことです
 バレンタインが過ぎ、2月も終わろうというのに、テーブルの上にはホットチョコレートの入ったマグカップが湯気を立てていた。
 そのマグカップに背を預け、手袋を嵌めた手を、顎にやったり、こめかみにやったり、額にやったり。手の位置を変えるたびに悩ましげに低く唸る男こそ、聞いてほしい話がある、とその手にグリモアを浮かべて猟兵たちに呼びかけた妖精、クロヴィス・オリオール(GamblingRumbling・f11262)である。
 ところが彼の呼びかけに集まった猟兵たちが、さぁ今日はどんな問題が起きたのかとフェアリーのギャンブラーに視線を注ぐというのに、一向に説明をしようとしない。
 そんな時間が15分も続こうものなら、その様子に呆れ果て、オオカミ少年じゃあるまいし、と1人の猟兵がその場を立ち去ろうとした。……のに、流石に慌てたか。ようやく意を決したように、あるいは観念したかのように大きなため息をひとつ。クロヴィスは、呼び集めた猟兵たちへと向き直った。
「行先はUDCアース、ド平日で真昼間の空き地だ。邪神教団があっちこっちに拠点を作っては悪さしてンのは知ってるな? 今回は出来立てほやほや……っつーか、まさに今からそこに根付こうとしてるヤツらがいるんで、そいつらが変に根を張る前にブッ潰してきてほしい」
 何だ、あんなに悩んでいた割には大して突飛でもない。立ち去ろうとしていた猟兵が足を止め、自分の話に耳を傾けているのを確認して、クロヴィスは続ける。
「どうもその空き地、学校帰りのガキどもが集まって遊び場にしてるらしい。ヤツらの狙いはそのガキどもと見て間違いないだろうな、甘い話でも持ち掛けて誘惑して、うまく取り込めたなら……まぁ、そうさな。色んなコトに使いやすい…ってとこかね」
 色んなコト、と末尾をぼかす間、ほんのわずかに目を伏せて。
「現場にはチョコっぽいオブリビオンが大量に<用意>されてる。倒すとマジで食えるチョコを落とす上に、一般人でも倒せちまうくらい弱ぇ奴らだが……そいつらをゲーム感覚で倒してヒーロー気分、おまけに甘いチョコも与えることでガキのハートを鷲掴み……って魂胆だろうな」
 そして再び猟兵たちの顔を見渡すために顔を上げ、す、と顔の前に立てた指は2本。
 ここまでの彼の説明に不備らしい不備は見当たらない。
 そして何より、未来ある子どもたちをオブリビオンの甘い誘惑に乗らせるわけにはいかない。話を聞く猟兵たちも真剣な眼差しで頷き、話の続きを促す。
「つまり、だ。……猫やガキどもを巻き込むわけにはいかねぇってことで、地元の小学校が下校時刻になる前にカタを付けてもらいたい。ちょいとタイムリミットが発生するぜ、……午後の2時だ。それまでに、ヤツらをブッ潰せ」
「…………? うん?」
「現場への転移はもちろんオレに任せろ、……さて、ほかに何か質問は」
「いや猫って何?」
「午後の2時ってちょっと早くない? 学校が終わるの午後3時とかでしょ」
「…………………」
 今まさに猟兵たちを転移させようとしていたグリモアの輝きが、しゅぅぅぅ……と音を立てて消えていく。同時に、クロヴィスの頬に俄かに朱が差し、彼の肩が微かに戦慄いたのに気づく猟兵も、幾人か居たとか、居なかったとか。

●にゃんにゃんにゃーん
「……っ! 早くしねェと!! その空き地に!! ガキどもよりも前に!! 何でか分かンねぇけど猫がたくさん来ちまうンだよ!!! ンで、そのチョコ…じゃねぇ、オブリビオンな!めちゃくちゃ弱ェっつっただろ! 猟兵じゃなくても倒せちまうくらいだ、ワンチャン猫がじゃれて引っかいたりしても倒せちまうかもしれねェじゃんか!! で、倒すとマジでチョコ落とすっつったろ! それを猫が食ったら……やべェだろ!!!」
「お、おう……」
「チョコ食べちゃダメだもんな、猫……」
 いつものポーカーフェイスはどこへやら。ヤケクソ気味にまくしたてたクロヴィスの剣幕におされ、その勢いもさることながら、ついには子どもどころか猫の心配までし始めた男に、しかし誰ひとりとして「柄にもないことを」と言わないのは……おそらくは今、目の前で真っ赤な顔で息を切らし、そそくさと転移の準備を始めるフェアリーが身をもって痛感しているだろうことを察しての、優しさか。

 本日二度目の観念をしたクロヴィスによれば、猫たちの会議は毎日午後の2時半ごろから始まるらしい。
 彼の示したタイムリミットをクリアした暁には、自分たちの集会所を守ってくれたお礼……を、猫相手に期待できるかどうかは分からないが、少なくとも彼らの自由気ままな集会に参加させてもらうことは出来そうだ。
 春の足音が聞こえてくるこの季節、昼下がりの空き地。時間を気にして戦った後は、時間も戦いも気にしたことがないだろう彼らと共に、時間も戦いも忘れて、のんびり過ごすのも悪くないだろう。


黒羽
 うまく2/22に公開されているでしょうか。たまにお邪魔する猫カフェのオペラちゃんとフーガくんが可愛いんですよ。
 黒羽です。オープニング情報の補足をさせて頂きます。

●第一章~第二章
 集団戦→ボス戦です。とっても弱いショコラーズ、例によって量はたくさん用意さr…もとい、たくさん出現します。
 可愛くたって敵は敵、甘い誘惑、甘い毒。
 倒すもよし食べるもよし。
 ボスは出てきたらのお楽しみ。

●第三章
 オープニングのとおり、午後2時半ごろ、冬の寒さも和らいだ空き地に猫たちが日向ぼっこ、もとい定例会に集合することでしょう。野良猫も家猫も、黒も白も三毛もトラもブチも沢山来ます。眺めるも良し、遊ぶも良し。
 フェアリーのクロヴィスは猫が少しだけ怖いのか、離れたところで見守っています。声を掛けて頂ければ渋々近寄ってくるかと思います、お話相手等がご入用でしたらお気軽に。

●全ての章において、他の参加者との連携・掛け合いをする場合がございます。
 おひとりで行動したい場合はその旨をプレイングにご記載ください。

●プレイング内にクロヴィスの存在(クロヴィスの名前等)が何もない場合は、採用時にクロヴィスの描写をする事はございませんのでご安心下さい。
(他の参加者様と掛け合いがある場合はございますので、おひとりで行動したい場合は、その旨をプレイングにご記載ください)

●プレイング送信推奨タイミングについて
 日曜日の終日、水曜日の夜を利用して書き進める予定でおりますので、その辺りに掛かるように送信頂けた方が採用率が高めかもしれません。

 ゆるめの敵を倒してチョコレートを食べたいあなたからも、クロヴィスと同じく猫も子どもも守りたいあなたからも、にゃんこと遊べると聞いてきたあなたからも、あなたらしいプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『チョコっとショコラーズ』

POW   :    カロリー・イズ・ジャスティス
戦闘中に食べた【チョコレート】の量と質に応じて【身体のツヤと素早さが増し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    一口チョコの誘惑
レベル×5体の、小型の戦闘用【チョコレート製ロボット】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ   :    チョコレートーテムポール
【大きなトーテムポール】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ミーユイ・ロッソカステル
……どこまでも甘い男。
なんて独白しながら、微笑ましさ故かおかしさ故か、フフ、と笑いが漏れて

とはいえ、時間が真昼なのは勘弁願いたいものね……。
ふぁ、と欠伸を噛み殺しながら、愛用の日傘を差して戦場へ

……それにしても、また食べられる敵、か。
前に倒した子を思い出す、けれど……こういうの、流行りなのかしら?
…………敵は敵、なのだから。油断なくいきましょう。


楽譜から選び取るUCは、「夜との闘い 第3番」
数がいるなら、「敵意」を識別して複数攻撃できるものが向いているでしょう。
……どれだけ、弱く見せかけても。愛玩動物のような見た目をしていても。
災魔であるならば、かならず「敵意」は存在するでしょうから。


アリス・イングランギニョル
くっくっく、そうだね
猫を助けることだってボクたちの大切なお仕事さ
それにほら、助けたら何かお礼だってもらえるかもしれないだろう?
助けた動物の恩返しなんて、お話には付き物さ

目には目を、歯には歯を
数には数を、と
さぁさ、兵士諸君
愉快に素敵で、楽しくて甘いお仕事の時間だぜ
呼び出したるはトランプ兵
武器はそうだね、槍なんかの長物の方が数の多い相手をするのには丁度いいんじゃないかい
合体はさせずに個々で戦うように指示を出そう
ま、弱ってきた兵隊が居れば消える前に足していくとしようか

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】


パーム・アンテルシオ
ふふふ。真っ赤になってる彼、ちょっと可愛かったね。
…なんて言ってたのを知られたら、怒られちゃうかな。

猫にも、興味がない、とは言わないけど…
やっぱり、惹かれるよね。チョコレート。
バレンタインには、特に色んな種類が売られてるって、後で知ったから…ちょっと後悔してて…

猫に倒されそうな程に弱いなら…
ユーベルコード…極楽鳥火。人海戦術…いや、鳥海戦術かな。
爪で引っ掻いてもいいし、炎の翼で一撃加えてもいいし。みんな、がんばって倒してね。

私は…がんばってチョコを拾うから。
部下に仕事させて、私は美味しい所だけ貰っていく、なんて。
ふふ、ちょっと悪代官みたい。ほらほら、年貢はもっと必要だよ?

【連携・アドリブ歓迎】



 時刻は昼時少し前。南の空に輝く太陽から降り注ぐ陽射しが随分と心地よい。
 世界への転移が完了し、その転移を行ったグリモア猟兵に見送られ、目的の空き地へと向かう足音が3つ。
「ふふふ。真っ赤になってる彼、ちょっと可愛かったね」
 グリモアベースでの一幕を思い出しながら、『真っ赤になってる彼』に声が届かなくなったころを見計らって、九つの狐尾を揺らしながらパーム・アンテルシオ(写し世・f06758)はくすくすと笑う。続けて「……なんて、怒られちゃうかな」と悪戯っぽく笑って同意を求めるように背後を振り返れば、残る2つの足音の主。ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)とアリス・イングランギニョル(グランギニョルの書き手・f03145)。どちらも、かのグリモア猟兵と多少の縁があった者だ。愛用の日傘で眠気を誘ってくる陽気を遮り欠伸を噛み殺しながら、そんな陽気を全て吸い込みそうなほどに黒いローブをたなびかせながら、それぞれパームの視線を受け止めて。
 一拍の後、ミーユイは長いまつげをそっと伏せ、アリスはおかしそうに黒髪を揺らして頷く。
「………どこまでも甘い男よね、彼」
「くっくっく、そうだね。いやいやしかし、猫を助けることだってボクたちの大切なお仕事さ」
 ふ、と口元を弛めながら、独り言のようにぽつりと。その仕事を見つけてきただけの彼を、そう笑っては可哀想さ、――と、言いながらも笑みを。それぞれ零さずにはいられなかった2人に、ゆらり、不規則に九尾を揺らしてパームもまた頷き笑うのだった。
 そんな和やかな空気にさせているのは、さて、芽吹きの季節も目前といった麗らかな気候故か。それとも……
「にゃーん」
 聞こえた鳴き声は猫によく似たそれ。今回自分たちが守ってほしいと依頼されている、その対象のうちのひとつだが、しかし。
 いや、まだまだ猫たちが集まってくる時間、彼の言っていたタイムリミットには早いはず……、とミーユイが日傘を傾け、ちらりと前方を伺えば。
「にゃーーーーん」
 空き地には、ころん、とまんまるい猫がいた。
 ……もとい、猫の形をしたチョコレートがいた。よく見れば鳥っぽいのもリスっぽいのも、一緒になってギフトボックスに収まっている。
 王道・定番の甘ーいミルクチョコ(リス)、それよりももっと甘く蕩けるホワイトチョコ(鳥)。香ばしいナッツをアクセントにしたチョコ(猫・右下)で気分を変えたら、甘酸っぱいイチゴチョコ(猫・左下)で華やいだひとときを楽しんで、最後には大人の味わいビター(猫・左上)できりりと引き締める。
 実にパーフェクトだ。完璧な布陣だ。見た目の可愛さもさることながら味のバリエーションにも富んでいて、プレゼントにしても重すぎず軽すぎない。もちろん自分へのご褒美にするのも良いだろう、時期が時期であれば大人気間違いなしのギフトチョコレートといって差し支えない……であろう、オブリビオン。
「……愛玩動物のような見た目をしているのね」
「にゃんにゃん、にゃあーん?(特別意訳:でしょでしょ、可愛いでしょー?)」
「きゅきゅきゅー!」(特別意訳:攻撃とかできるわけないよねー!)」
「ぴぴっ、ぴぴぴ、ぴぴょ~!(特別意訳:女子3人じゃんメロメロ不可避じゃんコレは勝ったでしょ勝ったわはい勝ち~~~)
 それぞれを模した動物に似た鳴き声で何やら訴えかけてくるチョコたちを、ふぅん、と見つめるミーユイの瞳は、品定めをするように。
「…………敵は敵、なのだから。油断なくいきましょう」
「にゃああああん!?」「きゅきゅーっ!?」「ぴょぎょーっ!?」
 暖かな日差し降り注ぐUDCアースの空き地。無慈悲な宣告さえも凛として、こだまするのは哀れな悲鳴。
 とはいえ、そもそもが小学生たちに倒される予定であった、もしくはその前に猫パンチであっけなく散るかもしれなかったショコラーズ、その時が少々早まっただけのことではある……というのは、まぁ、きっと知らない方が幸せかもしれない。
 しかして彼らもオブリビオンの端くれ、彼女たちを一目見れば、その本能が理解する。
 ――彼女たちは敵だ。ならば、黙ってやられる訳にはいかない。
 鳥の形をしたホワイトチョコの、ぴーっ、とホイッスルのような一鳴き。
 それが戦闘開始の合図となって、どこからかちょこまかとチョコレート製のロボットが大量に現れた。
「ぴぴ、ぴぴょ!」
 ……戦いとは、戦争とは、数の暴力なのだよ諸君。と言いたいのかどうかは分からないが、ロボットを呼び出したショコラーズのひとり……1匹? のホワイトチョコは両目を閉じてふふーん、と腕組み(羽根が届かなくて出来ていない)をし、何やら得意げだ。
 さて、従順な我がロボット兵たち、やっておしまい! と鷹よろしくその目をカッと見開き、しかしてその目に飛び込んできたのは。
「うわぁ美味しそう! あっ、でもこの子たちは消滅しちゃうんだ……」
「ぴいいい!?」
 ひゅんひゅんと飛び回る、チョコレートロボットの数に勝るとも劣らない、無数の火の鳥たち。そして燃え盛る炎の翼がかすめるだけで、その形を保つことのかなわないロボット兵たち。良くて相打ち、悪くてどろり。溶け落ちるが早いか消滅していってしまうチョコレートのロボットたちに、ホワイトチョコの鳥は悲鳴を、そしてパームは残念そうな声をあげた。
 グリモア猟兵からの説明では、倒せば本当に食べられるチョコレートを落としてくれるオブリビオンと聞いているのだ。挙げている戦果は確かなものだというのに、落ちてこないチョコレートにしょんぼりと肩を落とすパーム。心なしか、その九本の尾もしょんぼりと垂れていた。なお、自軍に甚大な被害を被っているショコラーズとしては大変遺憾である。
「おや、それならあのロボットたちはボクに任せるといい」
 そんなショコラーズの心中などおかまいなしに、アリスが笑ってパームに声を掛ける。
 目には目を、歯には歯を、数には数を……兵には兵を。空に火の鳥が舞うのなら、地には20体のトランプ兵。
 槍を構えるその顔は皆、きりっと引き締まったものだった。
「……何だ、いつもより随分とやる気じゃないかい? あぁ、美しくも怖ぁい女王様が間近で見てるからかな?」
 ねぇ? と傍らのミーユイを見れば、さぁね、と不機嫌そうに短く返された。おや釣れない、とアリスが肩をすくめる間にもトランプ兵たちは一斉に走り出し、1人で何体ものロボット兵を掃討していく。女王様のお叱りを受けないように、女王様にこの細い首を刎ねられぬように、そして女王様の御身を、その歌声をお守りするために。
 さてそんなトランプ兵たちに守られる、真昼間なのでちょっぴり不機嫌、それゆえほんの少し怖く見えてしまうかもしれない女王様は、ぱらりぱらりと形なき楽譜を捲る。
(――燦々と太陽が照るのだから、こんなに眠くて仕方がないんだわ)
 ……ならば、"自分の時間"にしてしまえばいい。喉の調子を確かめるように小さな咳をひとつ。トランプの兵隊たちが切り拓いた分、その華道を歩むように、一歩前へ。
 途端、開演前に照明が落ちるかのように、辺りは夜に包まれた。空から降り注ぐ陽光は、月明かりと星明かりに変わった。
 ショコラーズの視線も、猟兵たちの視線も、自然とミーユイに集まった。
 そんな視線を最早慣れっことでも言いたげに、優雅な動作で日傘を閉じて、歌姫はさらに、一歩前へ。
 夜闇の中を炎の極楽鳥たちが飛び交う幻想的なステージ、聴衆たちが見守る中、歌い上げるのは『夜との闘い 第3番』。
 夜の煌きを一身に浴びて歌うミーユイの姿は勇ましくも美しい。パームもアリスも、敵の相手をそれぞれの下僕に任せてその歌声に聞き入るほど。炎の鳥も、トランプ兵も、どこか夜を戦い抜く自分たちを奮い立たせる歌であるかのように聞こえて、飛ぶスピードが、振るう槍の鋭さが増したほど。
 しかしチョコレートたちだけが、違った意味で奮い立っていた。
「にゃぁ!」「きゅー!」「にゃにゃっ!」「ぴー!」「にゃん!」
 ――あの歌声を、聞いてはならない。
 ――あの歌声の主は、敵である。
 ――自分たちの、敵である。
 ――敵である。敵である。敵である。
 ――――敵である!!!
 愛らしいつぶらな瞳に、僅かに狂気が宿った。それは紛れもない、これまで猟兵たちが出会ってきた、戦ってきた、討ってきた、オブリビオンの瞳でもって、ミーユイをキッとにらみつけた。が、その視線を物ともせず、むしろ好都合と言いたげにミーユイは夜空に手をかざす。
 それは自身に敵意を向けさせるための歌。愛らしくか弱い彼らにさえ、その本能を呼び起こさせる歌。
「……威勢が良くて結構よ。さぁ、そのまま星たちの煌きに灼かれてしまいなさ、…………え?」
「にゃにゃ、にゃにゃーん……!!(特別意訳:な なんと ショコラーズたちが……!?)」
「きゅきゅきゅ、きゅうっ!(特別意訳:ショコラーズたちが どんどん 合体していく!)」
「ぴょおおおーーーっ!(特別意訳:なんと チョコレートーテムポールに なってしまった!)」
 威勢のいい掛け声とともに、まずはナッツ・イチゴ・ビターの3匹の猫ショコラが重なった。続いてミルクチョコのリスショコラがそこに軽快に飛び乗れば、最後にホワイトチョコの鳥がブレーメンのニワトリよろしく飛び上がって頂点へ。
 それはチョコレートで出来たトーテムポール。誰が呼んだか、その名もチョコレートーテムポール。
 僅かに覚醒してきたばかりの頭にはまだ理解しがたいその光景。それでもどうにか理解しようと、ミーユイはあんなに重たかった瞼を大きく開ける。
 陽光に代わって夜空から降り注ぐ光と熱の奔流に耐えるべく布陣を変えたショコラーズは、ただ重なっただけだというのに、なるほど確かにほんの少しその表面を柔らかくする程度にダメージを収めていた。溶けかけたチョコレートの甘い香りが空き地に広がっていく。
「うーんいいにおーい!」
 なるほど確かにミーユイの攻撃には辛うじて溶け切らずに堪えたチョコレートーテムポール。直射日光ならぬ、直射星光に耐えてみせたその耐久力は、文字通りミーユイが目を見張るだけのものがあっただろう。――しかし、早くチョコレートが食べたいパームが、炎の極楽鳥の使い手が、その香りを嗅いでしまった。
 ロボット兵たちは皆、アリスのトランプ兵たちが引き受けてくれている。それならば。
「この調子で一気に溶かしちゃえばいけるかも。 よーしみんな、あのチョコレートのタワーに! 年貢の納め時だよ、なんてね」
「に゛ゃああああん!?(特別意訳:タワーじゃなくてトーテムポールなんですけどー!?)」
 猫ショコラの叫びが、むなしく戦場に響き渡った。
 お茶目に笑うお代官様の命を受け、より多くの年貢を納めるべく。
 残っていた火の鳥たちが一斉にトーテムポールに向かって羽ばたけば、そこへ辿り着くまでもなく熱風が巻き起こる。土台が崩れればあっという間、猫もリスも続けざまに溶け落ちて、残るホワイトチョコの鳥が「同じ鳥なのに……」と悲しそうな視線を投げかけ、どろりとその形を失った。

 ――程なくして夜は去り、再び太陽が顔を出す。
「………ふぁ。……まさか、本当に落ちるとはね…………」
「ふふふ、バレンタインの時に色んなチョコが売ってる、なんて知らなかったから……ちょっと後悔してたんだよね」
 ミルクやホワイト、ビターの定番フレーバーに、ナッツにイチゴの少し変わったフレーバー。オブリビオンが消えるが早いかころころと戦場にドロップ……もとい落ちたチョコレートをひとつ摘まみ上げては、再び微睡みだした瞳でしげしげと眺めるミーユイ。その傍らには、頑張って拾わなきゃ、と無邪気な顔で嬉しそうに拾い集めるパーム。
「くくっ、それじゃあ兵士諸君はもうひと働きだ。この子たちを手伝ってあげておくれ」
 そんな2人を見て、アリスがトランプ兵に声を掛ける。
 ――今度は正真正銘、甘くて楽しいお仕事さ。
 槍を捨てたトランプの兵隊たちはこくりと頷き、乙女たちに甘いひとときをお届けすべくチョコレート拾いに精を出すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

紫丿宮・馨子
灯様(f02312)と同行

お猫様っ…わたくしがまだ器物であった頃は
お猫様は貴族のうちでもごく少数にしか飼われておらず
屋内で紐に繋がれておりました上
わたくしから近づくこともできねばあちらからの接近も防がれたものでして
正直、お猫様と仲良くなりとうございます

普段は衣服に香を焚きしめておりますが
お猫様の為に今回は焚きしめていない衣服で参りました

チョコレート様方も大変愛らしくて
攻撃するのが躊躇われますが…お猫様の為にございます

えい、と薙刀で

灯様は確か、チョコレートがお好きでしたよね
かような愛らしいチョコレートはお好きですか?

胸元から出した懐紙の上に、チョコレートを並べて見て
あまりの可愛さにほう、とため息


夢川・灯
馨子さん(f00347)と同行

これはとんでもない一大事だ……。
これは一人の猫好きとして、彼らを守らねば……よーし!やるぞー!おーっ!

俺は猫を守りたい!
なんならチョコも食べたい!
となれば……か、かわいくても容赦はしない!

獣奏器でぺちっ、と

うん、チョコレートもかわいいものも好きだから、これも結構好き……だな。
いやでも、かわいすぎて食べるの戸惑うタイプだとは思うけど。

……このチョコ、このまま持ってて猫寄ってきたらどうしよう。
むぅ、食べにくいけど、一思いに……いただきますっ



「これはとんでもない一大事だ……」
 深刻そうな顔に深刻そうな声、それもそのはず。大好きな猫にとっての一大事であれば、それはすなわち夢川・灯(スピードノイド・f02312)にとっての一大事でもあるのだから。何としてでも彼らの昼下がりの集会を守り切る。
「よーし!やるぞー!おーっ!」
「うふふ、おーっ! ……に、ございますね、灯様」
 その決意と意気込みを確かめるように声に出せば、隣で同じく意気込んでくれる人があった。
 艶めく長い黒髪が落ちるのは見るも鮮やかな十二単――此処UDCアースの、それも空き地には似つかわしくない重厚な装束を身に纏い、そして何より高貴に、しずしずと音もなく歩くその姿は、どう見ても現代に生まれ生きる人のそれではない。
 ボーイッシュな灯が隣に居ることも手伝ってか、一層その優雅な所作を際立たせるその人、紫丿宮・馨子(仄かにくゆる姫君・f00347)は何処か興奮を抑えきれない様子で。
「お猫様っ……、わたくし、お猫様とお近づきに…いえ、あわよくば仲良しになりとうございます!」
 そのためにはまず、お猫様やお猫様の集まるこの場を守り抜かなければ。
 ……ですよね、と灯と目的を同じくして頷き合い、そしてその為には――……
「か……かわいくても容赦しない!」
 それはまるで自分に言い聞かせるかのように。だってそうでもしなければ、ここで挫けてしまうかもしれない。
 灯と馨子の前には、ちっちゃくかわいいトーテムポール……否、チョコレートーテムポール。今にも崩れてしまいそうで、けれど絶妙なバランスを保ちながら塔を成す、猫型ショコラが3匹、リス型ショコラが1匹、そして天辺に鳥型ショコラが1羽。合計5匹のアニマルショコラーズが「……容赦、してくれないの?」とばかりに、キラキラうるうるした瞳で灯を見つめてくるのだ。
 素早く動けば恐らくは瞬く間に攻勢に転じるであろうチョコレートーテムポールだが、しかしその可愛さに思わず立ち止まった灯と、生来のゆるやかな動作でもってトーテムポールに歩み寄る馨子には、ただただ潤んだ瞳で、その心に訴えかけるばかり。
「うぅ、愛らしい……けれど、どんなにチョコレート様方が愛らしくとも、お猫様の為……!
 全てはお猫様の為にございますよ、灯様、……ここは、心を鬼にして――……えい」
「み゛ゃっ!」
「ああっ、猫の鳴き声……!」
 馨子の振るった薙刀が、チョコレートーテムポールの下段を担うピンクの猫(イチゴ味)にヒットした。耐久力が上がっているのか、長らく冷蔵保存したチョコレートのように固くなったその身は、簡単に斬られてはくれない。……が、その痛みに耐えるような鳴き声もまた愛らしく、更に猫型を模しているだけあって猫に似て、猫が大好きな灯と馨子を苛んだ。
 しかし決して忘れてはならない。どんなに愛らしくくりくりとした瞳が見つめてきても、どんなに甘く蕩けそうな香りを漂わせても、そう、彼らチョコレートは猫に毒。そして何より馨子や灯たち猟兵にとって、倒さなければならぬ敵、オブリビオンに他ならないことを。
「猫の為…猫の為……そうだよな馨子さん! 俺は猫を守りたい!」
 ――なんならチョコも食べたい! 欲望に、願望に素直になった灯の叫びに応えるように、彼女の振るった獣奏器が不思議な音色を奏でた。本来であれば様々な獣と通じ合うための音色を奏でるその武器だが、今この時ばかりは持ち主である彼女の想いと共鳴したのだろうか。それとも目の前の猫型のチョコレートを一種の"獣"と見なし、通じ合うための音色を奏でたのか。
 その真相は定かではないが、しかし獣奏器による打撃が炸裂したチョコレートーテムポールのちょうど真ん中、トラ柄の猫(ナッツ味)が小さく「に゛っ!」と鳴いて、だるま落としの要領でスコーン! と弾き飛ばされた。薙刀でも斬れなかったほどの強度を誇っていたトーテムポールは、要の中段を失った途端に面白いように崩れ落ち、5粒のショコラーズが軽やかにバウンドしていく。
 1匹1匹となってしまえばその強度も失われ、後は小学生でも、何なら猫でも倒せてしまいそうな程にか弱く哀れなショコラーズ。そのバウンドした先にやはり静々と歩み寄り、慈愛の眼差しを向けながら薙刀を構えれば、リス型のミルクチョコと鳥型のホワイトチョコ、それから先ほど彼女の薙刀を耐えた猫型のイチゴチョコが命乞いをするようにふるふると馨子を見上げる。
「……ごめんなさい。
 けれど…わたくしは、ずっとずっと…わたくしがまだ器物であった頃から。
 長きにわたって……お猫様との触れ合いを、夢見ておりましたのでっ……!」
 一思いに薙刀を振るった瞬間、春を運んできたような暖かな風が空き地に吹き抜けた。
 ――ころん、ころん、ころん。
 足元に転がった3粒のチョコレートを、そっとしゃがみこんで拾い上げ、取り出した懐紙に乗せる。ミルクチョコ、ホワイトチョコ、イチゴチョコ。先ほどまで対峙していたこともあってか、今にも耳や羽をぴこぴこ動かして尻尾を振りだしそうなその見た目に、思わずほう、とため息が漏れた。
 そして華やかに3色揃った彼らを手に振り返れば、灯もまた、残る2匹のショコラーズをチョコレートに変えて、その手に摘まんでいた。
「灯様は、かような愛らしいチョコレートはお好きですか?」
 猫のほかには確かチョコレートも好きだったと記憶している彼女に、3粒のチョコレートを見せながらふわりと笑んで話しかける。それに気づいた灯はにっこり笑って、もちろん、と頷きかけ、
「うん、チョコレートもかわいいものも好きだから、これも結構好き……だな。……あ、いやでも、……むぅ、かわいすぎて食べるの戸惑うタイプのやつかも……」
 先ほどまでのように、うるうると見上げてくることはないけれど。にゃぁ、と鳴くことはないけれど。その見た目が何とも可愛らしいのに変わりはない。目を合わせれば、獣奏器の力を借りずとも、「……食べちゃうの?」という声が聞こえてきてしまいそうな程だ。
 チョコを見つめて困ったような顔をする灯に、馨子は口元を袖で隠しながらくすくすと笑う。いつもなら香の匂いが鼻をくすぐるこの所作も、今日だけはその香りが身を潜めている。そう、全てはお猫様の為。お猫様と仲良くなるため。その気持ちはきっと、灯も一緒だと信じて。
「お気持ちを察するに余りありますが、灯様……チョコレートは、お猫様には毒にございましょう?」
「そ、そうだよな! 匂いにつられて猫が寄ってきちゃうかもしれないし……!」
 うんうん、とゆるやかに頷く馨子に、力強く頷き返す。
 大好きな猫のためにどうにかこうにか、あの愛くるしいオブリビオンに攻撃する決心をしたのだ。
 ならばチョコレートに姿を変えたとて、――……その愛らしさも、一思いに。

「……いただきますっ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

秋稲・霖
はは、にゃんにゃんにゃーん…ってか
猫の集会、凄そうだなあ。早く見てみたいぜ
子供が色んな甘い誘惑に乗っちまう前に、チョコ…敵もとっとと倒しちまえばいいっしょ
俺らも猫の代わりにチョコ食えるしな!とにかく食いまくってやるぜー!

チョコ食って強くなられる前にワンパンで倒しちまおうぜ!いくぜ、式神!
あ、溶かしたくねえし程々の熱さで頼むぜ!

※アドリブ、共闘歓迎です


ミーナ・アングリフ
……ちょこって…何…?わたし、食べた事無い…。
甘くて美味しい…温かいと溶ける…。
後、ねこは食べちゃダメ、なんだね…。なら、ねこが来て食べそうになったらわたしが話して止めるよ…。

ダークセイヴァー世界の元奴隷で猟兵の力に目覚めて解放された後も、貧しく暮らしてるのでチョコを知らない…。
他の猟兵達に教えてもらいながら参加。

ショコラーズが出て来たら見た目の可愛さに目を輝かせつつ、敵を【怪力】で粉砕…。熱で溶けると聞いたので【ブレイズフレイム】や剣からの炎【属性攻撃】で溶かしながら殲滅していく。
倒した後に落ちたチョコを食べて美味しくてポロポロ涙零したりする子…。

アドリブや絡み等歓迎


リンタロウ・ホネハミ
いやぁ、今まで受けた依頼や参戦した戦場は数あれど、猫を守るためっつーのは初めてっすわ……
いやまぁ、メインはガキの方なんでしょうけど
ま、どっちでもやることは変わんねぇんすからちゃっちゃかお仕事するっすか

パンピーどころか猫でも倒せるレベルっつーなら、ユーベルコードは使わないっておくっす
今回は骨食う代わりに倒したチョコを食うことにするっすからね!
甘すぎるのは苦手なんで、なるべくビターっぽそうなヤツを狙って
オレっち自慢の骨剣ブンブン振り回すっすよー!

あー、こりゃあ良い、昼飯抜いたかいがあったっすわこれは
酒のアテにも良さげっすねー、ちょっと隅っこで隠れて酒盛り……
あ、冗談っす冗談っす!!

アドリブ大歓迎



「いやぁ、今まで受けた依頼や参戦した戦場は数あれど、猫を守るためっつーのは初めてっすわ……」
「はは、にゃんにゃんにゃーん…ってカンジっすかね! 猫の集会、凄そうだなあ。早く見てみたいっすよ」
 見上げれば呆れかえるほどに青々とした空は遠く高く、そしてそれを横切る綿雲は薄く白く。リンタロウ・ホネハミ(Bones Circus・f00854)はこれまでに潜り抜けてきた戦場をぼんやりと思い浮かべては次々にその青空に溶かし、そしてそのどれもにこんなにも和やかな依頼はなかったことを確かめる。
 一方、そんなリンタロウのぼやきとも取れる独り言に相槌を打ちながらも、数時間後にこの場で行われるという猫たちの集会に想いを馳せる秋稲・霖(ペトリコール・f00119)の足取りは軽い。猫たちの集会は想像するだけで癒される気がするし、実際に見られるとあらばその楽しみも増すというもの。
 さらにそれに加えて、楽しみはもうひとつ。
「いやまぁ、メインは猫でなくてガキの方なんでしょうけど」
「そうそ、子供が色んな甘い誘惑に乗っちまう前に、チョコ…敵もとっとと倒しちまえばいいっしょ!」
 俺らも猫の代わりにチョコ食えるし! と快活に笑う霖に、それもそっすね、とリンタロウも肩の力を抜いて答えた。さぁ、それでは昼飯代わりにチョコレートを……と空き地に乗り込もうとしたその時、2人を呼び止めるか細い声。
「……ちょこって…何…? わたし、食べた事無い…」
 振り向けば、ぁ、と小さな声をあげてその声の主は目を逸らしてしまった。申し訳なさそうに灰色の瞳を足元に注いで俯く少女は、随分と華奢な体躯。細腕でボロボロのワンピースの裾をきゅっと握り、……頭には、猫耳。
 グリモア猟兵の話では、この時間はまだ小学生が空き地に来ることはないはずだ。そして何より、普通の小学生は鉄塊剣など持っているはずがない。
 つまりはこの少女、ミーナ・アングリフ(自称・戦う道具・f14513)はリンタロウ、霖と共にこの場に転送されてきた、れっきとした猟兵である。
「え…、チョコ食べたこと無いって……マジ?」
 見たところ少女は10歳前後。世界が世界なら――それこそ此処UDCアースなら――飽食の時代。甘い物が嫌いなどという一部の例外を除けばチョコレートとは人々の生活に密着し、今日まで愛され続けるお菓子の代表選手ではあるまいか。こと、俗にいう大都会を故郷に持つ霖は、ミーナの俯く姿に暫し言葉を失う。
 そんな様子を見かねてか、咥えた骨をまるで煙草のように小刻みに揺らすリンタロウがからりと笑った。
「よっしゃ、そんならちゃっちゃかお仕事するっすよ! アイツら倒したらチョコが落ちるんすから、食べてみたらいいっす!」
 甘くておいしいんすよ、と続けながら、サムズアップした片手でちょいちょいと空き地を指し示す。その親指の先には、"アイツら"と呼ばれたショコラーズが、自分たちの新たな拠点となる場所への侵入者に、あるチョコは尻尾らしきものを逆立て、あるチョコは羽らしきものを広げ、またあるチョコは前歯らしきものを見せて、警戒の色を示していた。
「…それもそうだな! よっし、ミーナだっけ? ワンパンで倒せちまうくらいだし、どんどん倒して食いまくろ……」
 ――食いまくろうぜ。そう言いたかった霖のセリフが途切れたのは、ついさっきまで俯いていたはずのミーナの視線が、足元でもなく、自分でもなく、空き地に、それもとても情熱的に注がれていることに気づいたからだ。
「……ちょこ……かわいい…! それに……いい、におい…」
 どこか虚ろにさえ思えた少女の灰色の大きな瞳がきらきらと輝いている。なるほど確かにショコラーズの見た目は、ちびっ子に人気そうな動物を模して愛らしく、更にチョコレートで出来たその体は甘い香りを空き地中に振りまいていた。
 ――つまり、子どもを釣るにはうってつけというわけだ。今まさにミーナが体現している様子に、リンタロウも霖も気合を入れ直す。ひとまずその愛らしさに目を輝かせるミーナには悪いが、しかし倒すべきオブリビオンには違いないショコラーズを見据えて、骨剣を、式神を。青年たちは、それぞれの武器を構えた。
「ちょこ………!」
 ところがそんな2人の間をすり抜けるように、金色の髪が揺れた。
 空地へと、ショコラーズへと、一目散にミーナが駆けていく。
「あっ、ちょい、待てミーナ!」
「落ち着くっすよ!?」
 その可愛さに魅了されてしまったか。いくら弱いと聞いているとはいえ、相手だってオブリビオン、油断しては手傷を負いかねない。
 しかし、慌てて引き留めようと保護者ばりに声を上げた2人の目に映ったのは。
「にゃあん、にゃあん♪ にゃ………に゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」
 自らの愛くるしい姿に目を輝かせる幼い少女。となればすることはひとつだ。尻尾を振って可愛く鳴いて、まずは彼女を篭絡し、それから――……何一つ成す術のないまま、猫型チョコは、見るも無残に砕け散った。
 ぱら、ぱら、と空き地に転がる、ショコラーズの一員、猫型チョコ"だったもの"。
 残る4匹のショコラーズも、リンタロウや霖さえも、猫型チョコの命と引き換えに、ころんと空き地に転がったイチゴチョコに視線を注ぐ中。ただ1人、その剣の一振りだけで尻尾を振る猫型チョコを粉砕した張本人、ミーナだけが無邪気にそのチョコを拾い上げ、「これが……ちょこ…?」と首を傾げている。
「……かわいいんじゃなかったんすかね」
「わかんねぇっすけど、とりあえずあの子の見てる前でこいつら倒すのは問題なさそうっすね」
 幼気な少女に見えるが、ミーナもまた、れっきとした猟兵である。
 そのことを再度確認した2人は、気を取り直すかのように再び骨剣を、式神を構え直した。

「よーし、行くぜ式神! あっでも落ちたチョコ溶かしたくねぇし、程々の熱さで!」
 勢いをつけるように声高に叫ぶ霖がひらり放つのは紙人形。術者の声に応えた式が、桔梗が花開いたと見まごうような、幻想的な青紫の焔を広げる――……が、続く使役者の注文にこたえるように、僅かにその花弁を窄めた。もちろんチョコが熱に弱いというのは周知の事実、ショコラーズたちもまた自分たちの体の性質を理解しているのか、おろおろとその熱から逃げまどい、あるいは逃げ遅れたチョコはへたりこみ、そのままチョコレートへと姿を変えていく。式神を操る術者の技量、そしてそれに応える式神の細やかな配慮の賜物か、ドロップしたチョコレートはもちろん無事。あるいはほんのり中だけが柔らかく、寧ろまろやかなくちどけとなり、より一層美味しく頂けそうなほどである。
「……ちょこ…温かいと、溶ける…?」
「ぴーっ!?」
「おっ、ビターっぽいヤツ発見っす! いやぁ、オレっちビターのが好みなんすよ!」
「に゛ゃに゛ゃー!?」
 式神の咲かせた炎から辛くも逃げ延びたショコラーズを、今まさにチョコレートの知識を吸収しつつあるミーナが血の代わりに噴き出す炎でさらに溶かしにかかり、更にそこからも逃げ延びた――ミルクチョコに比べれば僅かに融点の低いビターチョコが、その主な割合を占める――ショコラーズは、ユーベルコードを使うまでもないと振り回されるリンタロウの愛剣、Bones Circusの餌食となり。そうして空き地に散らばるチョコレートの音は数えきれないほどに上り――……やがてその音もまばらになってきた頃。

「っし、こんなもんだろ! ……うーん、うまい!」
 手のひら一杯に集めたチョコレート、さっそくその一粒を頬張って満足そうに霖が頷く。
 その傍らで同じく頷くリンタロウの手にも、乗り切らないほどのチョコレート。霖に倣うように一粒放り込めば、ビターチョコレートのほろ苦い中にある仄かな甘さが、弱小の敵相手とは言え、目一杯動いた体にじんわりと染みわたっていく。
「あーこりゃあ良い、昼飯抜いた甲斐があったっすわ……」
 噛んでも良し、溶かしても良し。ひとつ、またひとつと空いた胃袋に放り込んではうんうんと揃って頷いて。
 そして何より、ビターチョコレート特有の、芳醇なカカオの香りが鼻に抜けていくその感覚は……
「酒のアテにも良さげっすねー…こいつぁちょっと隅っこで酒盛りでも……」
「おーい、こちとら未成年なんすけどー……って、おう?」
「あ、いやいや冗談っすよ冗談ー……って、ありゃ?」
 呆れたような視線をじとりと向ける霖が、そしてそれに罰が悪そうに笑ってみせるリンタロウが、ミーナの異変に気付く。彼らと同じように、少女にもまた、手のひら一杯のチョコレート。ミルクもホワイトも、イチゴもナッツも、彼女の年頃にはまだ早いかもしれないが、ビターもある。
 生まれて初めてのチョコレート、果してどれを摘まんだのかは分からないが。
「…………ちょこ……おいしい……」
 それは勝利の歓喜に沸くでもなく、チョコレートの美味しさに飛び跳ねるでもなく、小さく小さな震え声。
 それと一緒に、ぽろり。ぽたり。ミーナの白い頬には、透明な雫が伝っていた。
「お、おいおい……大丈夫か?」
 驚きと心配の入り混じった声で尋ねる霖にこくこくと頷きながらも、チョコレートを口に運ぶ手が止まらない。
 甘くて、甘くて、甘くて、甘い。こんな食べ物が世界にはあったのだ。
 少女の鎖されていた世界は、たった今、ほんの少しだけ、広がったのかもしれない。
 けれどその"ほんの少し"は、きっと彼女にとって、とてもとても大きな"ほんの少し"で。
 ――だとしたら、きっと。
 鎖された世界で、自らの世界をも鎖してしまった、そんな少女には。
「……そう、これがチョコレートだ。美味しいだろ? もっと食べるか?」
 ゆっくりとしゃがみこみ、ミーナと視線を合わせる。
 不思議そうにぱちくりと開いた灰色の瞳が霖の紫の瞳を覗き込み、戸惑ったような、困ったような、そんな僅かな逡巡をおいて、……けれど初めて知ったこの幸せな味は、少女の世界を広げたこの味は、こっくりとミーナを頷かせた。よしよしと頷いた霖は、彼女の手のひらに、追加でチョコレートを乗せてやる。
 どんどんとミーナの手に増えていくチョコレート、それを見つめる彼女の顔に微かに喜色が表れた――……ように、見えた気がしただけで、霖も、少し嬉しくなって。
「世の中にはチョコだけじゃなくって、もっともっとたくさんの美味しいものがあるっすよ」
 そりゃもう、泣くどころか笑えてしょうがねぇくらい! とおどけてみせるリンタロウを、本当? と言いたげに潤んだ灰瞳が見上げる。
「マジマジ、大マジっすよ。あっちこっちで戦ってきたオレっちが言うんで間違いねぇっす!」
 ――世界の広さを知る人が、世界が広いことを、教えてやるべきだ。
 知ったところで、広げるも広げないも本人の自由。
 けれど、知る権利くらいは……あったって、悪くはない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

作図・未来
転移前にされた説明のあの場ではああいう空気になってしまったけれども。
オリオール君の考えはとてもよく共感できる。猫もみんな、助けたいよね。
猫だってこの地の住民だ。住民を誰一人傷つけることなく、ハッピーエンドを目指したいね。

僕は死者の舞踏で戦うよ。
敵は子供でも倒せるくらいの強さらしいからね。数だけは多い僕のこの術であれば多くの敵を処理できるはずだ。
踊る相手がチョコレートなのは……まぁ、そうだね。たまにはこんなメルヘンな舞台もいいんじゃないかな。

あぁ、倒した後のチョコレートも死者達にまとめて貰おうか。
散らばってたら猫が食べてしまうかもしれないし。
なに、【掃除】はそれなりに得意だ。空き地は綺麗に、ね。


エスチーカ・アムグラド
ほわぁ……すっごい可愛いチョコレート……

……はっ
えっと、えっと!強くなくってもチョコレートだという事が危ないのですねっ!
猫さんだって世界の住人です、ばっちり守って差し上げなくては!

猫さんが集まるような開けた場所でしたら気持ちのいい風も吹いているでしょうか?
飛ぶのも、風に乗るのも、思いのままかもしれませんね
きっとチーカは全力で戦えると思います!

あとは飛び回ってあちこちからおびき寄せて、他の猟兵さんも攻撃しやすいようにできたらなーって!
……ち、チーカはおびき寄せられませんよ!ホントですよっ!
安全になったら、……ええ、少しくらいは食べたいですけれど……

【アドリブ等歓迎】



 いよいよ太陽は空高く、ぽかぽか陽気に吹き抜ける風が春めいた香りを運ぶ。
 そんな風にひらりと乗って、あるいはその風をふわりと纏って、エスチーカ・アムグラド(Espada lilia・f00890)はこの世界へやってきた。
「うーん、気持ちいい風ですね! これならチーカ、全力で戦えると思いますっ!」
 ぱっと笑顔の花を咲かせながら意気込んで、ひらひらと風に舞う花びらのように飛んでいく少女。それが、グリモア猟兵の見送ったエスチーカの姿だった。

 グリモア猟兵は『弱いチョコレートのオブリビオン』としか説明をしていなかった。が、いかに甘いお菓子を模していようと、いかに彼らが弱かろうと、それがこの街の子どもたち、そして気ままに暮らす猫たちに害成す者であるのなら、そして何よりオブリビオンである以上、しっかりきっちり倒さなければと、エスチーカは張り切ってこの地にやってきた。そのはずだったのだ。そのはずだったのに。
「にゃぁーん?」「きゅぅー♪」「ぴぃ、ぴぴーっ!」
「ほわぁ……すっごい可愛いチョコレート……」
 ▼エスチーカ は メロメロ だ。
 そんなテロップを幻視してしまいそうなほどに、へにゃりほにゃりとゆるんだ頬。チョコレートのようにとろけてしまいそうなほっぺたを思わず両手で抑えるけれど、それでもやっぱり目の前に広がるのは、敵とは、オブリビオンとは思えないほどに可愛らしいチョコレートたち。
 尻尾を揺らしてみたり、小首をかしげてみたり、魅惑的なまんまるボディをころーんと空き地に投げだしてみたり。どこまでもあざとい彼らに、9歳の――この世界の小学生たちと同じ年頃の少女が心奪われてしまうのも、無理もないことなのかもしれない――……と、グリモア猟兵に代わって彼女を見守る視線がひとつ。
 こんなにも幸せそうに頬をゆるめる少女の夢を醒まさせるのは些か心苦しい気もするが、タイムリミットがあるのもまた事実。
 ――……こほん、と小さな咳払いが、メルヘンな世界に迷い込んだ妖精を呼び戻す。
「……はっ!」
 ……としたエスチーカが振り向けば、どうにか彼女を呼び戻すことに成功した作図・未来(朝日の死者のタンツ・f00021)が微苦笑を浮かべていた。
「あやややや……こ、これは、チーカとしたことが…っ! えっと、えっと……そ、そう! 強くなくっても、チョコレートだということが猫さんたちには危ないのですよねっ!」
 ちょっぴり顔を赤くして、「大丈夫です、ちゃんと聞いてましたよ!」と言わんばかりに慌てた様子のエスチーカを微笑ましく思いながら、その通りと頷いて帽子をかぶりなおす。
「猫だってこの地の住民だ。住民を誰一人傷つけることなく、ハッピーエンドを目指そうか」
 ――さて、その地の住民を守るためだ。ならばこの地に眠る彼らも、きっと快く力を貸してくれることだろう。
 未来が一歩空き地に踏み入れた途端、あんなに愛想を振りまいていたチョコレート、もといオブリビオン達に戦慄が走る。
 ぽかぽか陽気に、春めいた香りを運ぶ風が吹いていたはずだった。見た目のアドバンテージを存分に発揮し、そしてそんな自分たちの愛くるしい姿にメロメロなフェアリーがいたはずだった。だというのに、急にまた冬に巻き戻ったような――否、あの、ピンと張りつめたような冷たさではない。
 そっと背後に忍び寄り、するりと首筋をなぞりあげ、ひやりと頬を撫でる手つきのような―――冷気、否、霊気。
 いつの間にか未来の周りには、そしてショコラーズたちの周りには。未来に呼び出された無数の過去たちが、舞踏会の始まりを待ちかまえていた。
「……今日は少しだけ、メルヘンな舞台になりそうだね」
 スポットライトはあたたかな陽射し、傍らには春の訪れを体現したかのような妖精、そしてダンスパートナーはチョコレートなら――か弱い彼らなりに応戦しようと、健気にも増産されたロボット兵たちもまた、チョコレートとくれば。
 たまにはこんな、おとぎ話のような舞台で踏むステップも悪くないかもしれないね――……と、先ほどのエスチーカに咳ばらいをした手前、ふとゆるみそうになってしまった口元を引き締めて、剣舞の指揮を執るのだった。

「ちょ、チョコレートからチョコレートが生まれて……チョコレートがたくさんです…!」
 一方こちら、上昇気流を捕まえて空き地の上空へと舞い上がったエスチーカ。
 上昇気流が発生しているということは、即ち地上にある空気が舞い上がっているということで、その空気を捕まえたということは、今、彼女の纏う風は……
「すん…すん……ほわわわ……すっごく甘くて、しあわせな香り……、はっ! じゃなくて! こっちこっち、こっちですよーぅ……ふわぁ、チョコレートがたっくさんチーカの元に…、はっ! じゃ、なーくーてー!!」
 甘い誘惑を、懸命に振り切っていた。
 違うんです違うんです、と大きく首を横に振りながら、再びゆるみかけた頬をこちらもこちらで引き締めること数回、そして甘やかな風を率いて空き地を旋回。ロボット兵やショコラーズたちの視線を集め、未来の率いる戦士たちが踊りやすいように、あちらへひらり、こちらへひらりと舞い飛ぶ姿は――……、
「まるでチョコレートたちに魔法をかける妖精だね」
 いよいよおとぎ話めいてきた、と独り言ちながら、けれどおとぎ話に迷い込んでしまっては"午後の会議"に間に合わない。
 空き地中に立ち込めるこの甘い香り――それは今この瞬間も、フェアリーの頬をゆるめて止まない――とのお別れは、少しだけ惜しい気もするけれど。死霊たちの行く手を阻むロボット兵たちの数が減ってきた今こそが潮時だろう。
 未来は死者たちを操っていた2つの手の内、まずは右手を、例えばそれは曲の終盤に向けて重低音を煽るかのような勢いで大きく掲げる。すると死霊の戦士たちは、統率のとれた動きで各々の影剣を高々と掲げた。
 そのまま流れるように今度は左手を、例えばそれは華やかな主旋律を導くかのような軽やかさでエスチーカへと振るう。上空を舞うフェアリーは、その合図に気づき小さく頷く。
 交えた視線に言葉はなく、少女の左手は剣の鞘に、そして右手はその柄に。
 ――――――ふわり、終幕-フィナーレ-の風が吹く。
 数多の影の斬撃と、風に乗った一振りの斬撃が、ショコラーズたちを両断した。

「……さて、こんなものかな。いや、まだあっちの方は見ていなかったかも……」
 空き地のあちこちにいたショコラーズを斬り伏せた途端、そのままころりとチョコレートになったのだから驚きだ。死霊たちにそれぞれの持ち場近くに落ちたチョコレートを集めさせながら、未来は拾い残しがないかと空き地を見て回る。
 オブリビオンを倒せば子どもたちは安全だが、オブリビオンの脅威が去ってもチョコレートが猫に毒であることに変わりはない。
 死霊たちによって集められたチョコレートの数は結構な量になったが、それでも先ほど自分たちや他の猟兵たちによって倒されたショコラーズの数を思えば、……きちんとハッピーエンドにするためにも、念入りに探すのに越したことは無いだろう。
 適当な小袋にチョコレートを拾い集めながら、まだ死霊も自分も見ていない場所を探し歩く。
「このあたりにも確か、リス型のチョコが……おや、」
「あやっ?」
 未来がしゃがみ込んだそこには、――少しだけ早起きしてしまったのか。少しでも春の陽を浴びようと、青々とした葉をいっぱいに広げ、懸命に背を伸ばす黄色いタンポポが、一輪。そしてその陰からチョコレートを抱えて、ひょこっと姿を出すピンクのグラジオラスが、ひとり。
 未来の小さな感嘆の声は、果たしてどちらへ向けたものだったか。
「えへへーっ、見つかっちゃいましたね、なんて!」
 地面にちらばった物を探すのであれば、地上からわずか20センチ弱の彼女の視点はもってこいというわけだ。にっこり笑ってチョコレートを手渡してくれたエスチーカに感心しながら立ち上がれば、死霊たちが集めたチョコレートを手に集合していた。
 どうやらエスチーカの見つけたミルクチョコレートが最後の1粒だったようだ。死霊たちからも順番にチョコレートを受け取れば、なかなかの重さになった小袋。……そしてそれを見つめる小さな視線に、先ほどは自分から合図を送った彼女の視線に、未来が気づかないわけもなく。
「……食べるかい?」
「じーーー…………はっ! あっ、あのっ、いいんですか! ふわぁ…ふわぁ…、……色んな種類がいっぱい…!」
 それはチョコレートが溶けてしまうのではと心配になりそうなほどに、熱のこもった視線だった。もちろん、と小袋の口を開いて差し出せば、その中身と未来の顔とを交互に見てはあわあわするフェアリーの様子に、また、思わず頬がゆるみそうになる。
「ではでは、おひとつ失礼して……うふふふふ、とっても甘ーい香りがします! ……あっ、でもでも、チーカはひとつで大丈夫ですので! 残りはぜひぜひ、お兄さんやお姉さんたちで!」
 だってこーんなに大きいんです! と彼女が袋から取り出したミルクチョコレートは、未来からすれば一摘まみ、エスチーカからすれば一抱え。
 人の目には見つけにくい物を発見したり、小さく見える幸せを誰よりも大きく感じられたり。小さな身体というのは、存外悪くないものなのかもしれない。今度こそ零れ落ちてしまうかも……、とほっぺたを抑えるエスチーカに促され、未来は他の猟兵たちへとチョコを配りにいくのだった。

 やがてチョコレートの香りが空き地から去れば、再び春めいた香りが吹き込んで。
 ――春の足音はすぐそこに。
 ――――何者かの足音も、すぐそこに。
 ――――――タイムリミットも、すぐそこに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『狂ったカガク者あるいは探究者』

POW   :    研究の副産物
自身の身体部位ひとつを【蠢くナニか】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    ビビットケミカルズ
【蛍光色の薬品が入った試験管】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【にぶちまけられ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
WIZ   :    薬品大乱舞パーティー
自身が装備する【劇薬や毒物の入ったフラスコ】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鳥渡・璃瑠です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「さーてと、弱々ショコラーズちゃんたちは甘く美味しく跳ね回ってるかなー?」

 それはまるで、学校帰りの小学生が、空き地でこっそり飼っている犬の様子を見に来たかのような調子で。
 それはまるで、学校帰りの小学生が、空き地でサッカーをするために駆けてきたかのような足取りで。
 ――タイムリミットか!?
 何人かの猟兵が反射的に腕時計やスマートフォンで時間を確認するも、それらはほぼ同時刻、12時45分を指していた。

 それもそのはず。刻々と迫ってはいるものの、タイムリミットにはまだ早い。
 それもそのはず。だって、空き地に駆けこんできた彼は小学生などではない。

 ただの小学生は、ついさっきまでこの空き地にチョコレート型のオブリビオンが居たことは愚か、それら――この世界ではUDC怪物と呼ばれるモノたちの存在さえも、知る由もないのだから。

「えーっ!? なんだよう、ココにいたショコラーズちゃんたちは!? ガキどもを誘き寄せるための大事なエサは!? なんでだよ、なんでだよ、あんなにたっくさん用意したっていうのに、1匹もいなくなってるじゃんかよう!」

 どんなに無邪気に、飼っていた昆虫が全滅してしまったかのような口振りだとしても。

「……はっ、もしかしてオマエたちか? オマエたちなんだな!?」

 どんなにその見た目が、華奢な肩幅に小生意気そうな瞳をもった、少年のそれだとしても。

「くっそぅ! このままじゃボクのたのしーたのしー研究予定が台無しじゃんかよう! せっかくガキどもが集まりそうなトコを見つけたのにさあ……ぐすっ、ネズミやモルモットじゃダメなんだよう……、ボクは、ニンゲンで実験をしたいんだから……ぐすん…」

 どんなに地団駄を踏んで、泣きべそをかいて、しょぼくれていたのだとしても。

「……あっ、そうだ!!」

 どんなにその様子が一転して、嬉しそうにその顔を輝かせたのだとしても。

「オマエたちが、ボクの実験台になってくれればいいんだぁ!」

 口端を歪め釣りあげる"コレ"は、この地の住人たちをおびやかし、猫や子どもたちに害を成す、れっきとしたオブリビオンである。
 

 ――――――猟兵たちの、敵である。
アリス・イングランギニョル
おやおやおや
彼の話には出ていなかったから、さてどんなものが出てくるのかと思えば
ダダを捏ねるお子様とはね?
子供はお家でママの子守唄でも聞いてる方がお似合いだぜ?
さっきまで居たチョコたちのがまだ可愛げがあるってもんさ

さてさてさて
兵士諸君、引き続きお仕事の時間だ
今度はオーダソックスに剣と盾で武装させようじゃないか
どんな劇薬だろうと直接当たらなきゃ怖くはないさ
飛んできた試験管は盾で受け止めさせる、あるいは剣で切り捨てさせるよ
剣や盾がダメになったらポイさせておこう
試験管の処理をさせながら包囲陣形で囲んで
薬品をぶちまけた地面の上には立たせないようにするよ


【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】


ミーナ・アングリフ
…敵?敵なら倒す…けど…ガキって、あなたも子供じゃないのかな…?


普通の子供の様な相手に少し戸惑い、敵や周囲の猟兵に聞いてみたり…。
敵の試験管やフラスコを炎【属性攻撃】を纏った鉄塊剣で焼き切り、【武器受け】で防ぎ前進…。
敵の前まで来たら鉄塊剣を振り回す【怪力】で思いっきりビンタ。
そして「人間は勿論、何を対象にしても危ない研究はしちゃダメ…」と淡々とお説教。
自分より小さいまたは同じくらいの少女からのお説教という予想外且つ地味に精神的に効きそうな攻撃。

それにキレられて傷を受けたら、傷口から【ブレイズフレイム】の炎を噴出。相手を焼き尽くすよ…。
最後はその炎を剣に更に纏わせて一閃…。

アドリブや絡み等歓迎


エスチーカ・アムグラド
チーカたちも子供たちも、それに猫さんだって実験台にはなりませんよ!
一体何をする気だったか知りませんけど、ここであなたの実験はお終いですからね!

このオブリビオン、薬品塗れの地形に立たれると良くなさそうですね!
風の鎖で動きを止めてしまいましょう!
あなたは風を捕まえる事は出来ないでしょうけど、風はあなたを捕まえることが出来るんですから!

フラスコも危ないものが入っているようですから、念力で飛んできても鎖を使って上手く空中でキャッチできるといいのですが……ダメでもともと!とにかくチャレンジです!
キャッチできなくても軌道は逸らせるかもしれませんしね!

【アドリブ等歓迎】



「ひひっ、ガキどもを集めるまでもないや! こんなにたくさん、エサもないのに自分たちから来てくれるだなんてさあ! サイコーサイコー!もうサイッコー!! オマエらには分かんないかもしれないけどさぁ、研究にもいろいろとコストが掛かって大変なんだよねぇ!」
 だぼだぼの白衣、ぶかぶかのジャージ。その袖を揺らしてひぃふぅみ。品定めをするような目で猟兵たちを数え、はしゃぐ。狂気と喜色の混在した声は、その見た目どおりに甲高い子どもらしく、耳障りなものだった。
「ガキって……あの人も、子どもじゃないのかな……?」
 多くの猟兵たちがそのはしゃぎっぷりに眉を顰める中、ミーナが灰色の瞳でじっとオブリビオンを見つめて首をかしげる。
 誰に問いかけるでもない、素朴な、しかし鋭い疑問の声。その疑問に答えたのは、思わず苦笑を浮かべて頷くアリスだ。
「彼の話には、あんな駄々をこねるお子様の話なんてこれっぽっちも出ていなかったんだけどねぇ……さっきまでのチョコたちの方がまだ可愛げがあったというのに」
 グリモア猟兵にさえも見えていなかったか、見えてはいたが取るに足らないと思ったか、もしくは甘い物と猫のことで頭がいっぱいだったか、あるいは、目を伏せるほどの『色々なこと』に、思わず口を噤んだか。グリモアベースで一体なぜ、この少年を象るオブリビオンの説明がなされなかったのか。その真相は定かではないが、しかしどんな理由があったにせよ、今目の前にいる彼を排除しない理由にはならない。
 やれやれもう一仕事か、と肩をすくめるアリスが再びトランプの兵隊たちを空き地に呼び出す。
「まぁ、本当にもう一仕事するのはキミたち兵士諸君なわけだけど」
 槍に代わって手にした武器は剣と盾。オーソドックスにそれらしい武器を構え、凛々しい表情でオブリビオンへと敵意を向ける兵士たち。その姿を見て、ミーナのもう一つの疑問にも答えが出た。
「……あの人は、敵………じゃあ、倒す」
「ひひっ……ひっ!? な、なんだようなんだよう!」
 ついさっきまで愛らしく小首を傾げていた少女が、その体躯に似つかわしくない武器を構え、ずんずんと距離を詰めてくる。そして彼女を護衛するように、アリスの呼び出したトランプ兵たちもその後に続いて行軍を始めた。ミーナの態度の変わりように動揺し、迫りくる20の剣に怯え、癇癪を起したかのように喚くが、そこに追い打ちをかけるようにひらりと舞い込んできた桃色の影。
「チーカも! チーカもお供いたしますっ!」
 味方の敵は、つまり敵。些か単純かもしれないが、きっとそれくらい分かりやすい方が戦いやすいのかもしれない。かくして鉄塊剣を鈍く光らせる少女は、トランプの兵団、そして妖精剣士エスチーカを護衛につけて、幼きマッドサイエンティストへと距離を詰めていく。
「来るな! 来るなったらぁ、おい、アッチ行けって……そ、そうだ! コッチへ来るなら新しいクスリの実験台にしてやるぞ! 集めたガキどもに使ってやろうと思ってたんだよ、ひひっ、ちょうどいいじゃないか! えいっ! えいっ!」
 感情の起伏の激しさまでも子どもじみた彼は、手のひらに毒々しい色の液体が揺らめく試験管を数本浮かべ、手あたり次第にミーナ率いる兵団へと投げ込んだ。
「おいおい、見た目や性格だけじゃなくって戦い方までお子様かい? さすがにちょっと芸がないぜ?」
 そして何より面白みがない。面白みがないというのは、こと本のヤドリガミであるアリスにとっては最悪の敵だ。面白みがないというのは展開が退屈だということで、展開が退屈だということはページをめくる楽しみが何一つないということなのだから。
 全く勘弁してくれたまえよ、退屈にもほどがある。などと言葉にせずとも溜息をつけば、その大きさが彼女の退屈を物語る。
 刹那、トランプの兵隊たちに戦慄が走った。
 ―――何せ彼らは、女王様のご機嫌を損ねてはならない。
 どうやら彼らにとって、今この場での女王様は召喚者であるアリスのようだ。何やら掛け声のような威勢のいい声がトランプ兵からあがったかと思えば、飛来する試験管に向かって1枚のトランプが飛び上がり、かきん、かきん、と続けざまに試験管を打ち払う。同時にショッキングピンクの液体が空中に振りまかれる事となったが、もちろんそのカバーも忘れてはいない。続いて今度は地上にいるトランプたちへと掛け声がかかれば、皆一斉にミーナやエスチーカを庇うように盾を構え、薬品の飛沫に備えたのだ。
「おぉっ、見事な連係……あっあっ、じゃなくてっ! ありがとうございます兵隊さん、それにアリスお姉さんも! チーカに剣はありますが盾はありませんので、……とってもとっても助かっちゃいました!」
「くっくっく、大したことじゃあないよ。そら、火事場のなんとやらって言うだろう? 彼らは皆、女王様の首刎ねが怖いのさ」
 統率のとれた軍隊たちの動きに、思わず上がる感嘆の声。続けてアリスを振り返りお礼を言えば、満更でもなさげな様子でアリスが笑う。
 女王様? 首刎ね? 一方生まれて初めてチョコレートを口にした少女は、アリスとエスチーカのやりとり不思議に思いながらも、前へ進む。
 女王様とは何なのか、どうして兵隊さんは首を刎ねられなければいけないのか――……気にならない訳ではないけれど、そんな疑問に時間を割いていられない。
 何故ならミーナにはやらなければならないことがある。
 今もこうして、ぽいぽいと目に優しくない色の試験管を放ってくるこのオブリビオンを叩きのめす、その前に。
 だからミーナは、わき目もふらず、試験管に怯えることもなく、一心不乱に前進する。
 それを叶えるのは、降りかかる薬品やガラスの破片から彼女を守る、トランプ兵たちの盾、そしてエスチーカの剣。
 決して狭いとは言えない空き地に、効能も副作用も分からないが、毒物であることだけはハッキリと分かる薬品の雨が降りしきる中、果敢に距離を詰める猟兵たち。
 そうして彼女が、彼女たちが狂った探求者の目の前に辿り着いた頃には、空き地のそこかしこがビビッドカラーに染め上げられていた。
 何本もの試験管を勢い任せに投げていたオブリビオンは、特に何のダメージもないのに息を上げていた……が、その顔に浮かんでいるものは、笑顔。
「はぁ、はぁ……きひっ、ひひひっ! 気づいてないだろ、気づいてなかっただろ! ひひひ、そのクスリはオマエたちにとっては毒でも、ボクにとっては体にいいおクスリなのさ! だからこうしてあっちこっちをクスリまみれにしておけば、ボクはいつだって圧倒的に有利! ひひ、ニンゲンだけじゃなくってフェアリーまでいるだなんて好都合だぞう、ツイてるぞう! さぁてフェアリーにはどんなおクスリが効くのかなぁ、捕まえて小瓶に入れて、いろーんなおクスリに漬けぐふぁアっ!?」
「………人間は…もちろん、……何を対象にしても、危ない研究はしちゃダメ…」
 名指しで狙われたエスチーカが剣を抜くよりも前に、鉄塊剣を軽々と振るう細腕による強烈なビンタが、問答無用でオブリビオンの長セリフを打ち切った。何が起きたのかまるで分からない、と言いたげに頬を抑えるオブリビオンはもちろん、愛剣の柄に手を掛けたエスチーカも、今にも襲い掛かろうとしていたトランプ兵たちも、そして少し離れて見守っていたアリスまでもが、ぽかんと口を開けてミーナを見たまま、ただ、時だけが静かに過ぎてゆく。ビンタを放った張本人であるミーナはといえば、「一言いってやった」と言わんばかりにその顔は達成感に溢れ、どこか満足気だ。
「あ…え、えっとえっと、……そ、そうです!! 何をする気だったのか知りませんけど、チーカたちも子供たちも、それに猫さんだって、絶対絶対、ぜーったい! あなたの実験台になんてなりませんよ!」
「ぐぬ……!」
 ようやく何が起きたのか理解し始めたのか、エスチーカがすかさずミーナの援護射撃に入る。ビシッ、と人差し指を突き付けてきた小さき者の剣幕に、科学者は僅かにたじろいで、……しかし、やはりどこまでも――まだ幼いといって差し支えないミーナやエスチーカよりも、ずっと――子どもじみた反論、即ち逆ギレをし始めた。
「なんだようなんだよう、何で急に、それもよりによってオマエらみたいなガキにお説教されなきゃなんないワケ!? もーーー怒った、ちょっと新しいクスリの実験に付き合ってくれたら許してやろうと思ってたけど、やめやめ!! オマエらなんかよりずっとずっと頭のいいボクに、えらそーーーにお説教したこと、絶対絶対、ぜーったい後悔させてやるんだからな……!」
 そう言い終わるが早いか、……め゛り゛、と。それはおよそ人体から、――否、すでに人としての在り方を捨てた者だとしても、ヒト型の、生身の身体を持つ者であるのなら、その体から聞けるようなものではない、聞こえてはいけない音がした。
「じゃじゃーん、本邦初公開! ひひひ、偶然できた割にはけっこーイカしてない? かわいくない?」
 先ほどまで試験管を生み出しては投げていた左手、その肘から先。――そこには、この世に溢れるどんな言葉をもってしても名状しがたい、ぬるぬると、うぞうぞと、絶え間なく『蠢くナニか』が宿っていた。
 腹を空かせているのか、だらしなく半開きになった口から涎を滴らせるそれに、本能という名の警鐘が鳴る。見た目の不気味さもさることながら、その凶悪さを肌で感じ取る。トランプ兵やエスチーカであれば一飲み、ミーナやアリスとて、かぶりつかれたら一溜りもないだろう。
「怖いだろ怖いだろ~? っひ、ひひっ、ナマイキなガキめ…ボクの研究成果を見せてあげるよ…! ほらほらぁ、この腕もさぁ、お腹が空いたって言ってるし……さあっ!!」
「……っ!」
 彼が一方的に喋る間も、まるでその腕の持ち主とは別の生き物であるかのように脈を打つ。目の前の獲物に食らいつくその瞬間を今か今かと待ち構えて、――ゆえに、そのタイミングは分かりやすかった。すかさずミーナが鉄塊剣で大きく振りかぶられたオブリビオンの左腕を、その腕に宿る"ナニか"を受け止め、打ち払う。
「ははぁ、ボクが言うのも何だけど、なかなかどうして悪趣味じゃないか。せいぜい気を付けたまえよ兵士諸君、女王様だけが首を刎ねるとは限らないみたいだぜ?」
 異形と化した目の前の敵の恐ろしさに、そしてそれでも容赦なく煽るアリスの言葉に。慄き怯える兵士たちを、大丈夫ですよ、と彼らに近い目線のエスチーカが笑いかける。
 そしてその言葉を叶えるために、彼女はひらりと上空へ舞い上がった。空から空き地の全貌を見渡せば、あちらにはライムグリーン、こちらにはレモンイエロー。派手に撒き散らされたコバルトブルーに負けじと被さるようにショッキングピンクが飛び散って、混ざりあったオーキッドパープルからは何やらコポコポと泡立つ音。
 猫にとっての毒とはいえ、先ほどまでは甘いチョコレートが散らばっていた空き地はすっかりその姿を変え、どこを見ても毒々しくなってしまった。
(うーんうーん、さっき「ボクにとっては体にいい」って言ってましたし、あの薬品の上に立たせるのは良くなさそうで……あやっ、でもでも、これは……?)
 ある時は小さなトランプ兵に近い目線で、またある時は鳥に近い目線で。そんなフェアリーの視点からは、普通に探してはなかなか見つけにくいものも見えてくる。それは例えば地面に落ちたチョコレートだったり、一見小さく感じてしまいがちだけれどとっても大きな幸せだったり、あるいは、敵の作戦の決定的な落ち度だったり。
 幸いにも自称:頭のいい探求者は、その類まれなる頭脳でもって完璧な作戦を立案し、ところがその実行力に欠けていたらしい。
 確かにそこら中毒々しく染め上げた薬品たちは、しかしそのどれもが猟兵たちに向かって投げ込まれていたために、肝心の彼の足元やその周囲には一滴も落ちていない。つまり探求者が今立つ場所から、少なくとも数メートルは動かなければ自身の強化は叶わないというわけだ。
「それなら……!」
「あっ………!」
 エスチーカが剣……ではなく、その剣を収める鞘に手を添えたころ、頭の良い探求者も頭が良いので即座に(と書いて"ようやく"とルビを振る)その落ち度に気が付いたが、頭が良すぎる余りに自分の作戦に落ち度があったことを認めるのに時間がかかり、また頭が良すぎるせいで自分の思い通りにならないとパニックになり、考えるより先に体が動いてしまうために、「やべぇ!」という顔で薬品の水たまりに露骨にダッシュした。何もかも全ては彼の頭が良すぎるせいだ。
 ……が、しかし。否、当然というべきか。先に気づいていたエスチーカの方が、早かった。
「させません! 風の精霊さん、チーカに力を!」
 少女の声に応えるように、彼女をを取り巻く風がひゅるりとその姿を螺旋状に変えてオブリビオンへと迫る。が、考えるより先に体が動くようになっているオブリビオンは上空から迫る風の鎖に気が付くが早いか、即座に無数のフラスコを生み出した。
「はっ…フェアリーめ、ボクの邪魔をする気だな!? くそっ、くそっ、これでも喰らえ! 痺れ薬だ! 動けなくなっちゃえ! ひひっ、そしたらオマエなんかすぐに捕まえて、フラスコの中に入れてやる!!」
「わわっ、わ、……くっ、動けなくなるのはあなたの方です!」
 その全てを、念力による不規則な動きでエスチーカへと放った。
 彼女を守るように取り巻く風の隙間を、彼女の振るう剣の隙間を探しては薬品の入ったフラスコを次々に、あるいは多方面から同時に投げつける。文字通り四方八方から襲い来る薬品の入ったフラスコに、風の鎖でいなし、時には剣で打ち落とし、負けじと応戦しながらオブリビオンを縛り付ける隙を狙う。
 奇しくも目に見えない力を操る者同士の、隙をついて相手を動けなくさせるための、両者譲らぬ戦いが繰り広げられていた。
 ……考えるより先に体が動いた方が強いのではないだろうか、彼。いやいや、そんな事はない。そう、むやみやたらに体を動かせばいいというものではないのだ。こと戦場においては、考える事だって重要だ。怒りや焦りは視野を狭める。想定外の突発的な状況にこそ、慌てず、冷静に、周囲の観察を怠らないこと――すなわち、最後には頭の良さが物を言うのだ。
「…また、くすり………危険な実験や、研究は…しちゃ、ダメだってば……」
「え、焦げ臭……おかしいな、発火性の薬品は――…って、うわああああっ!?」
 こんなにも沢山の手数を持ちながらも、頭上のエスチーカしか見えていなかった探求者は、背後に迫る地獄の炎に白衣が焦がされて、初めてミーナの攻撃に気づくのだ。……もしも頭が良かったなら、――否、そこまで頭が良くなくとも、ほんの少し、あとほんの少し彼が冷静でいられたのなら、きっと気づけただろう。だって少女の腕から噴き出す地獄は、こんなにも、こんなにも熱く燃え盛っているのだから。
「く、くそっ!くそっ! おクスリだ!あのおクスリにさえ辿り着けば、オマエらなんて……なっ、なんだよう、オマエら!?」
「くくっ、いやぁ残念、こちらは通行止めだよ。ママの子守歌でも聞きに、おうちに帰ったらどうだい?」
 白衣を脱ぎ棄てることでミーナの炎をどうにか振り切り、ようやく当初の目的を思い出したか、再び薬品の水たまりを目指す探求者。そこに立ちはだかったのは、アリスのトランプ兵たちだった。ビビッドカラーの海まであとほんの少しだというのに、薬品の海を囲い込むようにして陣形を組んだトランプたちの壁が、低いはずなのに高く、薄いはずなのに厚い。
 まるで頭の悪い子供のようにたじろぐ探求者に、後ろ側なら道が開けてるぜ、と子どもをからかう目つきでアリスが笑みを浮かべる。
 こうして、フラスコの嵐は凪いだ。
「この風を捕まえられないのなら、あなたにチーカは捕まえられません! 代わりに、……風が、あなたを捕まえますっ!」
 ―――昼下がりの空き地に、今日一番の突風が吹き抜けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
子供は無邪気ゆえに邪悪、なんて言い方をする事もあるけれど。
……おまえは、まごうことなき邪悪そのものね。反吐が出る。

この場に居合わせた者たちならば、それくらいは理解しているとは思うけれど。
よりはっきりと、その事実を浮き彫りにさせて、士気を上げるために……私が歌うは、「魔物 第2番」。


そう、どんなに純真無垢な子供のような見た目でも。
……お前がオブリビオンだと言うのなら、私たちは倒すだけ。
存在そのものが、世界に染みる毒なのだから。

勿論、味方の中に少年の外見だからと攻撃をためらうような人はいないとは思うけれど。
……私、ああいうのが自分勝手に喚くのって虫唾が走るの。
一言言ってやりたくもなるでしょう?


作図・未来
さて、子供たちと猫たちの被害はこれで無くなっただろうが……
まだ元凶がいなくなったわけじゃない。ここからが本番だね。

相手はどうもネジが外れているようだ。会話をする必要もないだろう。
出し惜しみは無しだ。最初から全力で行かせてもらうよ。

僕は砕牙の舞踏で戦う。
君たちの素早さなら、敵の手数の多い攻撃も捌ききれると信じてるよ。

作戦はこうだ。
大狼は敵の攻撃を引きつける。その体躯をいかした重い攻撃もそうだし、あとは吼えることで注意を向けたいね。脅威だと思わせるように立ち回ってもらいたい。
三匹の白狼は常に移動しながらかく乱しつつ攻撃をしかけていこう。常にどこからか攻撃がくるようにね。

さあ、油断せずにいこう。


リンタロウ・ホネハミ
あー、こりゃあ良いっすね
いや少年兵を斬ったこたそりゃ何度かあるっすけどね、テメェみてぇに性根がひん曲がっちゃあいなかったっす
だから、根性が腐っててくれてほんとありがとうっすよ
心置きなく、ぶった斬れるっすから

コブラの骨を食って【二〇六番之暗殺者】を使えるようにしておくっす
ヤツが試験管を放ったら、届く範囲で片っ端から骨剣で叩き落とすっす!
それで中身が地面にぶちまけられたなら、そこにユーベルコードで毒液をかぶせてやるわけっすわ
オレっちの毒液の上に、いつまで立ってられるか見ものっすねぇ?
そんな感じで敵のユーベルコードを妨害しまくってやるっすよ!

アドリブ大歓迎っす!



「んああああ、もう!! なんだようなんだよう、はなせ、この……っ、はなせったら!!」
 もがいて、さわいで、あがいて、わめいて。ようやく目に見えない束縛から抜け出し、そのまま一目散に駆けだす。どうやら運動はあまり得意ではないインドア派なのか、どたどたと走るフォームはお世辞にも美しいとは言えない。
 一番近くにあった黄色い薬液に飛び込もうと思ったが、やたら力の強い少女にトランプ兵、そして風の鎖と思わぬ妨害が入った。しかし探求者はとても頭が良いのでこんな言葉も知っている。それ即ち『急がば回れ』、風の鎖を振り切るや否や踵を返し、次に目指したのはコバルトブルーとショッキングピンクの出会った場所。その色の毒々しさは数ある薬品の中でも随一で、先ほどから化学反応でも起こしているのか、コポコポと粘度のある泡が立っては消え、立っては消え。心なしか先ほどまでよりも泡の量が増え、その毒々しさ――オブリビオンにとっては『効能』とでも言うべきか――は増しているようにも見えた。
「ひひっ、ひっ、ひゃはっ、こういう時のためにおクスリをあちこちにばらまいたんだ! マヌケなオマエらはせいぜい一生懸命そこだけを守ってればいいさ! いろんな色があるけれど、この混ざりあって紫色になったヤツはそれはもうトクベツで――」
 言いながらばしゃばしゃと音を立てて紫の水溜まりに駆けこんでいく。この水溜まりを拠点に新たな試験管やフラスコを生み出せば、さらなる威力をもった薬品を猟兵たちにお見舞いできるはずだ。そうなればこの勝負は最早勝ったも同然、そら見たことか、やっぱりボクは頭が良い。
 勝利を確信したオブリビオンは、泡立つ薬品から流れ込んでくるであろう湧き立つ力を心待ちに足元を見る。
「………………えっ?」
 ごぽ、と一際大きく膨らみ弾けた泡の飛沫が、ズボンの裾へと飛んだ。その瞬間、薬品に濡れた布地はじわりと溶け、消滅していく。
 ――嘘だ、何で、どうして、ボクの作った薬だぞ? この、頭のいいボクが作った薬だぞ?
 頭のいいオブリビオンは考える。考える考える考える。
 どうしてズボンが溶けたのか。どうして力が湧いてこないのか。
 どうして、むしろ力が抜けていくような気さえしてしまうのか。
 どうして此処に立っているだけで、……こんなにも、息苦しいのか。
「ひっ…は、ひ…ひぃっ……なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでぇっ!?」
 声変わり前の甲高い悲鳴をあげて、頭が良すぎるせいで自分の思い通りにならないとパニックになり、考えるより先に体が動いてしまう彼は、ようやく辿り着けたはずのオアシスからばしゃばしゃと――ともすれば駆け込んだ時よりも幾分速い駆け足で――抜け出す。
 が、そこにすかさず白き大狼がその後を追いかけ、吼え立て、その体躯を力いっぱいに叩きこめば、大して運動もしていなさそうな細身の身体が面白いように空き地の地面に転倒した。
「お、おおかみ……? なんで…? さっきまでそんなの居なかっ…ひィ、や、やだやだ、こっちに来るなバカイヌっ!!」
 尻餅をついたオブリビオンに低く唸り迫る白狼。そしてそれに続くように3頭の白狼、合計4頭。集団で狩りをする動物ならではの統率のとれた動きで追い詰めてくる白狼の群れに、狙われた獲物は顔を引きつらせ、咄嗟に劇薬の入ったフラスコを複数個生成し、空間を捻じ曲げながらそれを狼たちに投げつける。
 ……が、気高き狼たちに、その攻撃はほとんど意味を成さなかった。
 なぜならば――……
「一度死した者たちに毒が効くというのは、少し考えづらいね」
 彼らの召喚者である死霊術士、未来が淡々と告げる間にも、4頭の狼たちは彼を守るべく不規則に動くフラスコたちを次々と機敏な動きで仕留めていく。冥界と現世とをつなぐ術者の集中さえ切らさなければ、彼らに望まぬ二度目の死が訪れることもない。
 そしてその狼たちと一緒になって骨剣を振るい薬品を叩き落としながら、買いかぶりすぎたっすかねぇ、とぼやく声がぽつり。
「7秒っすよ、7秒、それも7秒たらず。はーぁ、もうちょっと頑張るかと思ったんすけどねぇ…っと!」
 これ見よがしにわざとらしい溜息をついてみせながら、リンタロウが最後の一つのフラスコを叩き落とした。
 さてフラスコによる攻撃、決定的なダメージこそ与えられなかったが、時間稼ぎと牽制程度にはなったかもしれない。例えばそう、肉食獣が迫る恐怖に耐えて立ち上がるための時間だとか、今度こそ自己強化のはかれそうな水溜まりを探すための時間だとかを得るための牽制程度には。
 オブリビオンの視線の先にはライムグリーンの水溜まり。
 ―――あそこに、あの場に、辿り着ければ、立てれば、この忌々しい狼たちも、その召喚者も、馬鹿にしたような目で――開いてるか閉じてるかも分からないけどそんな雰囲気で――ボクを見てきたコイツも、みんなみんなボクの敵じゃない。見てろよう、今更謝ったってもう遅いんだからな……髪の毛の一本から足の爪まで余すところなく実験材料にしてやるんだからな!!
 狂える探求者が、我武者羅な一歩を踏み出した。
「あぁ、まだあそこが残ってたっすね……これ、あんまカッコよくねぇから出来りゃ使いたくねぇんすけど、」
「な……!?」
 ――――びしゃり。
 それは数にして206番目の骨の能力。毒が、毒を汚染する。
 そうしてまたひとつ、探求者のオアシスは毒の水溜まりへと姿を変えた。
 自称:頭の良いオブリビオンはそこで初めて、自身の戦闘能力を上げるはずの薬液が、力をもたらすどころか、逆にその力を奪っていった絡繰を理解した。
「オマエか、そうか、オマエか!! ボクのおクスリを、ボクの天才的な作戦を台無しにしてくれたのは!」
 狂った探求者は、――――笑っていた。
「ボクはオマエらと違って頭が良いから、毒を以て毒を制すって言葉を知ってるんだ! すごいや、口から吐けるんだな! 一体どうやって? そういう種族なのか? いや見たところタダの人間だ、人間にそんなことが出来るだなんて聞いたコトがない! ということは突然変異か? いやいやそれとも何か特別なクスリでも?」
 見た目相応の子どものように、これまで見たことのないものに、未知へと手を伸ばすことに、きらきら、きらきらと目を輝かせて、嬉しそうに笑っていた。
 その視線を真っ向から受け止めたリンタロウをはじめ、その場にいた猟兵たちの何人かが一瞬面食らう。
 相手は敵だと分かっていても。オブリビオンだと分かっていても。
 例えば愛らしいチョコレートの形のオブリビオンを攻撃するのが躊躇われた者もいるように。
 ほんの一瞬、この幼い探求者のことを―――……
「もう少ししたらさ、ガキどもがこの辺りを通るんだよ! そしたらその毒の液をガキにかけてみてくれない? どんな反応を起こすかデータを取りたいんだ、いいだろ? いいよな? そしたらショコラーズたちを倒しちゃったことも、ボクに攻撃したことも許してやるからさあ!」
 それは猫でなくとも微睡むほどに暖かな昼下がり。
 それはほんの一瞬見失いかけた、このオブリビオンの本性。
 静かに戦慄した空き地。
 そこに、とろりと微睡んだような、しかして微睡みかけた戦意に気付をするような凛と通る声が、おもむろに白鍵を叩いたように猟兵たちの間に響き渡った。
 そんな一度聴いたら忘れられないような声の持ち主もそうそう居ない、――ダンピールの少女、ミーユイだ。
 さて何を歌おうか、と譜面を捲り、五線譜を辿る間にも、眩しい昼の陽射しが眠気を誘うのか。小さな欠伸を噛殺しながら、彼女は黙り込んだ猟兵たちを見やる。
「……ねぇ。……まさかとは思うけれど。……アレが少年のような外見だからと、攻撃をためらうような人はいないわよね?」
「…いーや? むしろこりゃあ良いっすね。これだけ根性が腐っててくれりゃ、オレっちも心置きなくぶった斬れるっすよ」
 これまで数多の戦場で斬り伏せてきたどの少年とも違う目をしている、違う心をしている目の前の狂者。もはや少年と一括りに含めることさえ、きっとこれまで出会ってきた少年たちに失礼だ。要望に関しちゃ無論お断りっす、と骨剣を握り直す。
「彼はどうもネジが外れているようだ。……会話をする必要もないだろうね」
 そしてそれを試みる時間さえも、今は惜しいのだ。一気に畳みかけるよ、と大狼に目配せをすれば、古代の勇者は応えるように大きく吼えた。
 即座に返ってきたリンタロウと未来の答えに、「なら、いいけれど」と頷いて。
「……でも私、ああいうのがああやって自分勝手に喚くのって虫唾が走るの」
 ―――ねぇ、そうは思わない?
 夜闇の中では見る者を吸い込むほどに妖しくきらめくというのに、暖かな陽光の下ではどこかアンニュイな色を映す金の瞳は、そう言いたげに猟兵たちをゆったりと見回して。
 もしも、あなたもそう思うのなら。もしも、あなたが猟兵であるのなら。
 徐に一歩前に出て、歌い上げるは『魔物 第2番 ――オブリビオン』。
 邪悪を討つ勇者を歌ったこの歌は、力強く勇ましいこの歌声は、きっとあなたを助けるだろう。

 彼らは今一度、心に刻む。
 自分は猟兵であることを。目の前にいるのはオブリビオンであることを。
 すなわち、存在そのものがこの世界にとっての"毒"であることを。
 今ここで、討たねばならぬ存在であることを。
「ありがとう、いい歌だ。……さぁ、油断せずにいこ――」
 歌の邪魔にならないよう、ミーユイに小さく短く称賛の言葉を贈って未来は帽子をかぶりなおし、あらためて敵を見据えようと前を向く。

 ところが、その視線の先には―――………

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

紫丿宮・馨子
灯様(f02312)と同行
アドリブ絡み可

童特有の残酷さ…にございますね
今更命の道理を説いたとて
無駄でありましょう
聞く耳も他人の讒言を受け入れる器もないとお見受けしました

UCを使用し、灯様を守るように立って攻撃いたします
フラスコや試験管は、薙刀でなぎ払いましょう

灯様、まだいけますか?
お猫様のためにも、頑張りましょうね

お仕置きさせていただきましょう
ご覚悟なさいませ


夢川・灯
馨子さん(f00347)と同行
アドリブOK

本当は、そんな戦闘って得意じゃないんだけど。
猫でも人間でも、みんなを傷付けるってのは見過ごせない。

UCを使うぜ。俺自身はあんまり戦えないから、キャラクターを呼ぶ。
白くて浮いててもふもふした毛玉みたいな、もきゅもきゅ鳴いてる生き物……見た目はかわいいけど、舐めちゃいけない。
何体かは落とされちまうかもしんないけど、タイミングを見て合体させて……大きくして、それで思いっきり火花をぶつけてやる!

ああ、大丈夫。
あいつの実験なんかにいつまでも付き合ってられないしな…………!


天命座・アリカ
さあてさて!子供の笑顔を守る為!にゃんこの幸せ守る為!
現れ来るは天命座!
遅れた?違うね、世界が速い!むしろねこれでちょうどいい!
天に代わってアリカちゃん!悲劇を止めに参上だ!
(空き地にある高い物の上に乗っている)

残念ながら、君の予定はかなわない!
全ての命は貴重であれば!つまりね、今回は私もちょっぴりおこだぜ!
奥の手一つお見せしよう!冥土の土産にゃお釣りが来るよ!
(真の姿(一部)はいつもの姿に天使の片翼)

では、シューティングゲームと行こうか!それとも早撃ち勝負かな!
君のフラスコ、試験管!片っ端から撃ち抜こう!
細かい情報は必要なく!ただ、質量をぶつけるのさ!
余所見してると、ハートと頭をロックオン!


パーム・アンテルシオ
なんだか、子供みたいなオブリビオンだね。
いけない事をする子供は、きちんと叱ってあげないと。
それが、大人の役目…だよね?

ユーベルコード…崑崙火。
ふふふ。この術、UDCアースで見た…アニメ?を参考にして、考えてみたんだけど…
どう?中々かっこよく出来てると思わない?

さて、この術で何をするか、なんだけど…
私の役目は…その、怪しげな薬を撃ち落とす事。
あちこちにバラ撒かれて、尻尾とか、チョコとかにかけられても困るからね。
熱量最大、一滴残らず蒸発させてあげるよ。

もちろん、余裕があれば本体も狙いはするけど…
攻撃は二の次。あくまで、防衛、サポートに徹する形で動くよ。
みんな、攻撃はお願いね?

【連携・アドリブ歓迎】



 ふわりそよぐは春の風、それに踊るは長き髪。
 春の香りに春の色、あたたかうららか心地よく。
 暦の上では少し早いが、しかしてそれも仕方なし。
 何故なら我らの世界は今日も、今日も今日とてめまぐるしい。
 遅れた? 違うね、世界が速い。むしろねこれでちょうどいい。
「天に代わってアリカちゃん! 悲劇を止めに参上だ!」
 てーれってー。 ……というBGMやらSEやらの類は残念ながら聞こえてこないが、それでも空き地の奥にあったコンクリート製の土管が3本、ピラミッド状に積まれたその上に乗り、天命座・アリカ(自己矛盾のパラドクス・f01794)は空き地中の視線という視線を集めてご満悦。そして主役は遅れてやってくるものだと言わんばかりの堂々とした出で立ちは、ふたりの少女の視線を特に釘付けにしていた。
「うわぁ、すごいすごい! ちょうどこの世界、UDCアースで見た…アニメ?みたい!」
 思わぬヒーローの登場に思わず手を振る、こちらも春色、九尾の狐。無邪気にはしゃぐパームにアリカがにこやかに手を振り返す。
「アニメみたい、っていうかもうほぼアニメだよ! えっ、今日って平日だよな? 日曜日の朝とかじゃないよな!?」
 興奮気味に拳を握る灯の言う通り、今日は平日、時間帯は真昼間。テレビを付けたところで流れてくるのはワイドショーか2時間ドラマ、あるいは近々上映される映画の主演俳優が頭角を現し始めたドラマの再放送くらいのものだろう。喚くオブリビオンの子も黙る天才美少女、天命座・アリカちゃんのきらびやかな登場シーンが見られるのは此処、UDCアースの空き地だけ! ……ではないかもしれないが、日曜日の朝に負けないくらいの眩しい登場を果たしたアリカを、やはり面白く思わないのはオブリビオン。
「ちぇっ、なんだよう、みんなしてチヤホヤしちゃってさぁ! ひひっ、アニメなんてそんなの、ガキの見るものだろ! さてはオマエらガキだな?」
 アリカの登場にはしゃぐパームと灯に舌打ちをしながら、すっかりコブラの毒に侵し尽くされてしまった自分の領域を取り戻そうと手のひらに試験管を浮かべる。筒状のガラスに閉じ込められた派手なピンクと派手なブルーは、皮肉にもアリカを応援するサイリウムのようだ。
「む、ガキって……あなただってさっきからずっと子供みたいだよ。いけない事をする子供は、きちんとオトナが叱ってあげないとね」
 ガキ、と言われて頬を膨らませ、オトナが叱ってあげる、というパームも、その見た目はかなり幼い部類のはずなのだが。いや、あまり深くは追及すまいと、灯はパームから視線を外し、それよりも眼前でケラケラと笑うオブリビオンを睨みつける。
「猫でも人間でも、みんなを傷付けるってのは見過ごせない」
「は? ネコ? あーうん、ネコもねェ、この辺けっこーいるらしいよね……ネコ、ネコかぁ…………」
 きひひ、と笑いながら試験管を揺らせば、管を満たす薬液が滑らかに踊る。ネズミやモルモットよりは大きく、人間よりは小さい生き物。なるほど悪くないサイズかもしれない。例えばそう、フェアリーや、それこそケットシーを捕まえるのには骨が折れそうだが、猫の程よいサイズはそれら小柄な種族用の毒薬の実験台に良さそうだ。
 うーん、一瞬の間にこれだけの考えを巡らせちゃうボクってやっぱり頭が良い! 探求者の目がぎらりと光り、口端が大きく吊り上がる。
「ひひひひひっ、うん、アリだ! まずはオマエらで実験し尽くして、そしたらその次はネコにしよう! ってことでー……まずはオマエからだっ!」
「………っ!」
 勢いよく放られた試験管、ピンクとブルーの液体が交錯しながら灯に襲い掛かる。
 溶けあって、混ざりあって、次第に毒々しいパープルへとその色を変えて降り掛かる劇薬。比較的近い距離からの投擲に恐らく避ける事はかなわないと判断し、反射的に目を瞑り、せめてそのダメージだけでも抑えようと、自らを庇うように両腕を前方へ構えた灯。
 そして、――その間に、舞うように優雅に、風のように疾く、薙刀が割り込み閃いた。
「ご無事でしょうか、灯様」
 猟兵からもオブリビオンからも遠くの地面に落ちて、呆気なく砕け散る試験管。薙刀を直接当てるのではなく、そこから放たれる衝撃波によって薙ぎ払ったからこそ出来た技だろう。神霊体へと姿を変えた馨子が、灯を振り返り優しく微笑む。
「馨子さん…! ありがと、助かったよ!」
 戦う事に不慣れだが、それでも猫や子どもを助けたい。灯があの毒々しい色から逃げなかったのは、その強い決意の表れなのだろう。灯の無事を確認した馨子は、狂える少年に向き直る。その表情も、灯に向けていた柔和なものから幾分か険しいものに変わった。
「う……な、なんだよう! もしかしてお説教か……!?」
「いいえ、今更命の道理を説いたとて、無駄でありましょう。 聞く耳も、他人の讒言を受け入れる器もないとお見受けしました」
 それはあれほど煩くはしゃぎ、喚き、癇癪を起こし、人を馬鹿にしたような態度をとっていたこの少年の姿のオブリビオンが、一瞬怯むほどのものだった。
 聞いている周囲の猟兵たちの背筋が思わず伸びるような凛とした声には静かな気迫があり、身の丈ほどもある薙刀を構え直す、その動作にさえも気品が漂う。
 お説教を聞くような悪ガキであれば成程それで済んだだろう。
 しかし此度の相手は、最早そんな慈悲を与えるのでは生温い。手遅れなところまで来てしまっている。
 ――で、あれば。
「わたくしが灯様をお守り致しましょう。この神霊体の身体であれば、あの薬品の毒性も多少は軽減されますから」
 庇うように灯を――猫を愛し、猫を守りたいという願いを同じくした同志を背に立ち、オブリビオンを見据える。
 そしてあの、凛とした声を空き地に響き渡らせるのだ。
「灯様は、大きな一撃を放つ機会を伺ってくださいませ。 ……それでは、お仕置きさせていただきましょう」
 ――――ご覚悟、なさいませ。

「エクセレントだ素晴らしい! 麗しきかなバディの絆、姫が戦わないなんて誰が決めた!」
 その様子を見ていたアリカが胸を打たれたかのようにオーバーな身振り手振りでその感動を表現する。
 そしてそのまま――土管の上から――彼女の高らかな演説は続いた。
「子供の笑顔を守る為、にゃんこの幸せ守る為! 猟兵たちの心は一つ、そしてこの天才美少女も猟兵なれば!」
 ――ばさり、とアリカの半身に羽根が広がる。
「つまりは仲間に入れとくれ! いやなに実はね今回は、――さすがの私もちょっぴりおこでね」
 それは、未来の命と引き換えに発動するユーベルコード『システム・天命座』。
 降り立ったのは、天使か悪魔か、それとも天魔か、いやいや愚問だ問うまでもない。
 ただ目の前に広がるは、絶対不変の揺るがぬ事実。
 ―――完璧にして究極の美少女、天命座・アリカこそが此処に在り。
 きゅいん、きゅいん、とシステムが作動し、魔力の込められたエネルギー弾が生成されていく。
「それじゃあ私は、ユーベルコード……崑崙火。 なかなかかっこよく出来てると思うんだよね、これ」
 空中に次々と装填されていくエネルギー弾を見てパームが喚び出したのは、百をゆうに超える炎の剣。
 アニメを参考にして錬りあげたという術を披露する彼女の表情は、少しだけ得意げ。
 どこからともなく現れ燃え盛る剣たちを撃ち出す先は、彼女の紅い瞳だけが知る。
「……っく、う、なんだよ! なんだよなんだよ、なんなんだよう! そんなのちっとも怖くないぞ! 天才ならボクだって天才だ、いやボクの方が天才だ!」
 数で勝負だというのならやってやるさ、と喚きながら、再び手のひらに蛍光色の薬液を閉じ込めた試験管を浮かべる。
 自称:頭の良い彼には多少なりと学習能力があるらしい。あの手この手で妨害された自己強化、ならば最初からこうすればよかったのだ。
 狂った探求者は新たに手にした試験管を、そのまま足元に勢いよく叩きつけた。
 黄色とも緑ともつかない蛍光色に地面が染まった途端に、彼の複製するフラスコの数が目に見えて増えていく。
 エネルギー弾や炎剣と同じように宙に浮くそれらを全て念力で制御しようものなら、彼の周りの時空がぐにゃりと歪んだ。
「さっきからさぁ……ひひひひっ、わかってたぜぇ! オマエがいちばん弱そうだよなぁ!」
 そして時空と同じくらいにその口元を歪めて、びっ、と灯を指さす。
 飛来する試験管を薙刀で一蹴した馨子。
 見るからに威力の高そうなエネルギー弾を宙に保有するアリカ。
 そして無数の炎剣の軍勢を従えるパーム。
 探求者は頭が良い。頭が良いので、これまでの戦闘を鑑みて、まずはひとつも技らしい技を出してこなかった灯へと標的を定めたのだ。
「……灯様、」
「ああ、大丈夫。言ってくれるじゃん……確かに、俺は戦うのがあんまり得意じゃないけど……」
 案じるような馨子の声に、精一杯の声で返す。
 大きな一撃を放つ機会。 ……やってやろうじゃん、と小さく口の中で呟いた。
「もきゅっ!」 「もきゅきゅ~?」 「もきゅー!」 「もきゅもっきゅ!」
 ぽぽぽぽんっ、と灯を取り巻くように呼び出されたのは、まるでぬいぐるみのように愛らしいキャラクターたち。先ほどのチョコレートたちに負けないくらいにまんまるく、もふもふとした毛並みに覆われて、体長は30cmほどだろうか、つぶらな瞳、小さなお手々、足……は、その毛並みに埋もれているのか、それとも無いのか定かでないが。
 つまりはそんな、愛くるしい見た目の、真っ白いモーr……、失礼。毛玉、と表現するのが恐らくは適当な生き物が16体。
 それぞれ額に「1」と数字が刻まれた毛玉たちは、もきゅもきゅと小動物的な声を上げて灯の指示を仰ぐ。
「全員だ! 全員で、できるだけたくさん、大きく合体してくれ! あいつのフラスコが届く前に……」
 ひょっとしたら、何匹か倒されちまうかもしれないけど……、とわずかに弱気になってしまった彼女の声を、聞き届けるヒーローの声があった。
「こいつはなんとも愛らしい! それに全員合体だって? そいつは夢ありロマンあり! 王道結構、大好きさ!」
 ―――つまりは1匹も欠けさせなければいいんだろう?
 不敵に笑うは天才美少女、此れより始まるはシューティングゲーム。ステージⅡは障害物の少ない空き地。
 ミッションは単純明快、<夢川・灯、並びにその使役するキャラクター達を守り抜け>。
「フラスコが割れて薬品が飛び散ったら困るよね。蒸発させるのは任せてよ」
 シューティングゲーム・ミッションへの参加者が増える。無数の炎剣を保有するパームが名乗りを上げれば「オーケー、それじゃ援護を頼むよ」とアリカがぱちりとウインクをする。見晴らしのいい土管の上に立つ主砲はアリカ、それに追従する副砲はパーム。
 2人の会話を受けて、馨子が灯を振り返る。
「ならばそれでも灯様に届く薬瓶は、全てわたくしが打ち払いましょう……どうかご安心くださいませ、灯様」
 ―――絶対に、あなたを守り切る。
 3人の少女が、1人の少女を守るべく各々の武器を構えた。
「馨子さん、アリカ、パーム……! ありがとう、俺、ううん、俺たち頑張らなきゃなっ!」
「もきゅーっ!」「もきゅきゅ!」「もきゅ~っ」
 心強い仲間たちの言葉に背中を押された主人の姿に、毛玉たちが嬉しそうな声を上げる。
「う、うぐ、うぐぐぐぐ……や、やれるモンならやってみろよう! いくつだって複製してやる!!」
「やれると思ってるから、言うんだよ」
 声に出した言葉は、言霊となって、力になる。最早、誰の台詞だったか。
 エネルギー弾が打ち出される音に、フラスコが割れる音に、炎剣が貫く音に、フラスコが割れる音に、薙刀の放つ衝撃の音に、フラスコが割れる音に、空き地で突如開幕した弾幕戦に、掻き消されてしまったけれど。
 1が2に、2が3に、――順番にぽこぽことくっついて。
 最後には、7と7が、ぽふん!と重なれば。
 全長1m近くまで膨れ上がった毛玉は、もっこもこのふわっふわ。
 ―――つまりは1匹も欠けなかったというわけだ。
「こ、これで、全員……よし、今なら……」
 パームの炎剣がフラスコの群れの最後の1つを貫いた。
「今なら……いけるぞ!」
「「「「「「「もっきゅー!」」」」」」」
 灯の号令で、巨大なもふもふがふよふよーっとオブリビオンに突進する。
「そ、…そんなふわふわの何かで、何ができるっていうんだよううう!!!」
「可愛いからって甘く見ちゃうような、頭の悪いヤツの実験を止めるんだよ!! おい、遠慮することないからな! 全力で……いっけええええええ!!」
「はぁ!? ボクは頭が良いって何度言えば……ひ、ひいッ!? やめろ、来るな、ココにはまだフラスコが、次のフラスコが、おクスリがあるから…ひっ、ばちばちしてっ、やめ、わ、来るな、近づくな、このおクスリは危な……うわあああああっ!?」
 もっこもこの、もっふもふの、ふわっふわの、もっきゅもきゅ。
 キングでグレートなサイズの毛玉から最大火力の火花が弾け飛び、新たに生み出された無数のフラスコ、その薬品もろとも、オブリビオンは弾け飛んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『愛らしい猫達を存分に堪能…しませんか?』

POW   :    猫達を沢山抱っこしたり背に乗せたりじゃらしまくる!

SPD   :    猫が好みそうなおもちゃの動かし方をしたり、心地よさそうな撫で方をしてみる

WIZ   :    猫の好みそうな事を考えて、おもちゃ等を用意して一緒に遊ぶ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 オブリビオンの消滅と共に、空き地のあちこちに塗りたくられた蛍光塗料、もとい薬品もいつのまにか霧散して、跡形もない。空き地にはただ、今日もふわりと風が吹き抜けて、大して手入れのされていない雑草や、タンポポやハルジオンがそよぐばかり。

「そ、そろそろでしょうか……?」
「いや、まだ14時ちょい前……」
「でもでも、5分前行動を心がける猫さんだっているかもですし…!」
「それにしたって早すぎるだろ」
「あ、じゃあじゃあ! ちょっと歩いたとこにペットショップあるみたいだよ。猫ちゃん向けのオモチャとか売ってるかも!」
「オヤツとかも売ってるかなぁ? 食べ物で釣れば遊んでくれたり……」
「野良ちゃんも飼い猫ちゃんも、勝手に食べ物あげるのは良くないかも……猫ちゃんにとってチョコだけが毒ってわけじゃないから……」
「そっかぁ、それじゃオモチャだけにしといた方が良さそうだね」

 まるでさっきまでの戦いなんてなかったかのように、その空気は春の陽気のように穏やかで。

 午後の陽射しが暖かく、吹き抜ける風は心地いい。
 ――春の足音はすぐそこだ。
 ―――そして、彼らの足音も。

「……あ、ねぇねぇ、来たみたいだよ!」

 黒い毛並みに金色の瞳。のしのしと歩いてきたその子は議長だろうか。

 ―――にゃぁん。
 猟兵たちを見るなりひとつ鳴いたその声は、「討伐ご苦労だった」とでも言いたげな。
 いやいや、あるいは「何だお前たち」とでも言いたげな?
 ともあれ威嚇をしてくる様子はないので、此処にいることを許されたようだ。

 みゃー……、と眠たげな声を上げる白。
 くぁぁ、と大きな欠伸をするトラ。
 ぺろぺろと顔を洗う黒。
 鼻と鼻でご挨拶をする、ミケと灰。
 次々に集まる猫たちは、様々な毛色に様々な性格。
 妙に人慣れしている子もいれば、少し怯えたような子もいて、
 鈴の付いた首輪をつけた子もいれば、何もつけていない子だっている。

 さぁ、彼らと共に、時間も戦いも忘れる時間がやってきた。
ミーナ・アングリフ
ビーストマスター能力でねこ達と心を通わせ【動物と話す】でみんなでのんびり…。頭や肩、膝等に心を通わせたねこまみれになりながら日向ぼっこしたり、のんびりついでに獣奏器でねこやみんながリラックスできるような【優しい】音色を【楽器演奏】したり…。

ねこを撫でながら夕方までのんびりしたら、今日はここで寝ようかな、とボロボロの毛布を取り出して空き地の隅で寝仕度始めたり…。

ダークセイヴァーの元奴隷なミーナは猟兵活動で給料が貰える事もUDCアースでは組織支援で生活保証されてる事も知らない(猟兵になった際に説明受けたが心に余裕が無かった)模様…。
誰かが教えてあげても良いし、教えなくても良い。

アドリブや絡み等歓迎


セリア・エーデルワイス
クロヴィスさんからオブリビオンの反応があると伺ってはいたのですが…この様子だとすでに事件は解決した様子でしょうか。
こんなに沢山の猫さんが集まるなんて…なんとも平和な時間ですね。
せっかくですから私もご一緒してもよろしいでしょうか?

まずは玩具を用意して色んな猫さんと遊んでみましょう。
猫じゃらしで遊んだり、甘えてくる子にはそっと優しく撫でたりしてみます。
怯えている子にはこちらから無理には近づかず、向こうから歩み寄ってくれるのを待ちます。
少しでも気持ちを落ち着かせるために、思わず静かに歌を口ずさんでみたりします。
「大丈夫ですよ。ここには怖いものなんてありませんから」

※他猟兵との絡み、アドリブ歓迎


リンタロウ・ホネハミ
あー、そういやガキの頃ネコ相手に遊んだこともあったっすねぇ
懐かしいっすわぁ、オレっちもちっと童心に返って遊んでみるっすかね?

そうして取り出したるは伝家の宝刀、猫じゃらし……!
いや意外とどこの世界にも生えてるもんっすね
ともあれ、この猫じゃらしを猫どもの前で振ってやれば……
おー猫パンチ猫パンチ、その調子っすよー
いやぁ、人懐っこいっすねぇこの猫ども
……これはいっちょ猫カフェとやらに売り飛ばして……
あ、ウソウソ冗談っすから!!あっはははははは!!

……あ、ダメっすわなんか野良だと予防だの去勢だのでめっちゃ金かかるっすね……

アドリブ大歓迎



 右へふりふり、左へふりふり、爛々と光る眼の興味を良く良く引いたところで、……勢いよく下に!
 そしてそのまま緩やかに地面を這わせてー……
「にゃっ!!」
 しゅっ! と素早く遠ざけられた猫じゃらし目掛けて、鋭い爪が飛び掛かる……が、どうやら相手はなかなかの手練れらしい。
 奮闘むなしく捕まえられなかった猫じゃらし、どうやら昨日まで地面から生えていただけ、そよ風にふらふらと揺れるだけだったソイツは、この骨を咥えて上機嫌に笑いながら立ち上がった男の手によって劇的に化けたらしい。
 次こそはと鼻を鳴らし、もう一回、と言いたげに金色の瞳を輝かせたサビ猫は、猫じゃらしの使い手を見上げた。
 空き地に生えていた猫じゃらしを手に、サビ猫の視線を受け止めたリンタロウはすっかり童心に返っているのか、声を上げて笑う。
「あっはは、ガキの頃の遊び方っすけど通じるもんすね、懐かしいっすわぁ! よーしそんじゃもういっちょ……っとぉ!?」
「にゃーっ!?」
 わくわくと猫じゃらしを待つサビ猫としゃがみこむリンタロウの間に割り込むように、灰色の猫が猛烈な勢いで突進してきた。ぼくがあそんでたのに! と言いたげなサビ猫にお構いなしに、呆気にとられたリンタロウの手に宙ぶらりんの猫じゃらし目掛けて連続猫パンチ。それを見たサビ猫も、なぜか負けじと猫パンチ。
 サビと灰、2匹の猫の猫パンチの連打をくらって黙っていられるリンタロウではない。即座に体勢を立て直し、華麗な猫じゃらし捌きで猫2匹を捌きだした。
「ほっ、よっ…今度はこっちだ! よーしよし、その調子っすよ! いやぁ人懐っこいすねぇこの猫ども……」
「えぇ、本当に……こんなに沢山の猫さんが集まるだなんて、平和な時間ですね」
 空き地に生えていた猫じゃらし一本に大興奮の猫たち相手の、リンタロウの独り言。「にゃぁ」としか返事をしないものだと思っていた所にふいに聞こえてきた、人の声の相槌。思わず声のした方を振り向けば、セリア・エーデルワイス(善白に満ちて・f08407)が穏やかな微笑みを浮かべていた。
「皆さんのお力で、この平和な時間が守られたんですよね。 猫たちに代わって、お礼を」
 リンタロウと同じく片手に握られる、しかしリンタロウと異なりゆらゆらと不規則に振られる猫じゃらし。緩急のあるリンタロウのそれとはまた違った魅力があるのか、真っ白い少女の傍らには、彼女と同じく真っ白い猫がちょいちょいとお上品な猫パンチを繰り出している。
「いやいやそんな、大袈裟っすわ」
 セリアの慈愛に満ちた笑み、そこに深々とした会釈が加われば毒気も抜かれるというもの。
 ――こんなに人懐こいのならば猫カフェにでも売り飛ばして一儲け、なんて考えも、聖女の前では鳴りを潜めるというもの。
「……ま、どっちにしても、野良だと予防だの去勢だのでめっちゃ金かかるっすもんね」
「……? お金がかかる、……ですか?」
「あ、ウソウソ冗談っすから!! あっはははははは!!」
 ――ビジネスチャンスはまた今度、ということで。
 その今度がいつになるのか等ということはさて、楽し気に猫じゃらしに飛びつく猫たちの知ったことではないのだ。
 明後日の方向を向いて笑いながら猫じゃらしをブンブン振りまわすリンタロウに、思わず猫じゃらしを振る手の止まったセリアは小首をかしげる。するとセリアの傍らにいた白猫が不満げににゃぁんと鳴いて、彼女の膝を肉球でぷにぷに。
「ふふっ、ごめんなさい、止まっちゃってましたね……あら、お友達でしょうか?」
 いつの間にかセリアの周りには、白猫だけでなく三毛やブチ、トラ柄の子やハチワレ柄……明らかにさっきまでよりも猫が増えている。白猫が連れてきたのだろうかと顔を上げ、周囲を見渡してみれば――……否、耳を澄ましてみればその出所は、すぐ近く。聞こえてくるのは、優しい音色。
 空き地の地面に座り込んだミーナの奏でるメロディにぴくぴくと耳を揺らし、一匹、また一匹と彼女の元に猫たちが集まってきていた。膝に乗ってみたり、寄り添ってみたり、肩に乗る子もいれば、頭に登るやんちゃな子まで。様々な動物と心を通わせ、時にはその力を借りて共に戦うビーストマスター。彼らの持つ不思議な力は、この空き地の猫たちにも優しく語り掛ける。
「これは……猫でなくとも、心の安らぐ不思議な音色ですね、……♪」
 ミーナの奏でるメロディに合わせるように、セリアのハミングが重なる。
 穏やかに、緩やかに。歩くような速さで流れていく午後の時間を彩るのは、小さな小さなアンサンブル。
 ふたりの奏でる優しい音に誘われて、野良猫だろうか、揺れる猫じゃらしにもツンと興味を示さなかったあの子も、臆病なのだろうか、物陰に隠れてじっ……と様子をうかがっていたあの子も、段々、段々、寄ってきて。
「大丈夫ですよ、ここには怖いものなんてありませんから」
 ……だって、猟兵の皆さんが守ってくださったのです。いつもの集会には居ない顔ぶれを訝しんでいるのか、恐る恐る近寄ってきた様子の猫に優しく話しかける。セリアの瞳をじっと見つめて「にゃぁん」と一鳴きしたその意味は、ビーストマスターの力を持たないセリアには分からないけれど――……
「……あ……、きた…」
 彼女たちの演奏会にやってきて、観客席といって差し支えない距離に腰を下ろしたことはその答えと見て良さそうだろう。
 獣奏器の演奏をいったん止めて、あったかいね、と膝に座る茶トラをそっと撫でて話しかければ、にゃぁ、と答える声は心地よさげ。ぽかぽか陽気も、膝に感じる猫の温もりも、猫が感じるミーナの温もりも、あったかくて、お昼寝日和。
「こんなに、あったかいなら……今日は、ここで寝ようかな……」
「えっ、……こ、ここで……ですか……?」
 驚いたように灰色の瞳を丸くするセリアに、むしろ不思議そうにミーナがこっくりと頷く。どこから持ち込んだのか、彼女の傍らには使い古されてボロボロの毛布――が、今はひとまず猫のお昼寝布団にされていた。
 よく見れば毛布だけではない、身に纏うワンピースもボロボロな幼い少女に、セリアはひとつの可能性に思い当たる。
「ひょっとして、ミーナさんは……」
 そしてひとつずつ、順番に、猟兵としての活動で報酬が得られることや、世界によっては、こと此処UDCアースでは猟兵への支援が手厚いこと、……そして、誰もが持つ、幸せを求める権利、幸せを手にする権利、幸せを享受する権利があることを、ミーナにもわかってもらえるように、鎖された少女の世界の扉をゆっくりと開いていくように、優しく説いていく。
 ――世界の広さを知る人が、鎖された世界に生きる人に、世界の広さを説いたところで、鎖された世界から出るも出ないも本人の自由。
 けれど、やっぱり、知る権利くらいは……あったって、悪くはないのだから。
 今度はミーナがその灰色の瞳を丸くする番だった。自分と同じ色をしたその瞳にゆるやかに頷き、傍らの真白い猫を撫でていた手を止め、細い指を胸元で組む。真白い聖女は、心から祈り、優しく微笑んだ。
「どうか、貴方の未来に祝福がありますように――」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリス・イングランギニョル
やぁやぁ、そんなに離れてどうしたんだい?
キミのご期待通りの結果だぜ?
ああ、もしかして怖かったりするのかな
そこの所、どうなんだい?
実に興味があるね

暇そうにしているならクロヴィスくんに話しかけてみようか

ああ、ボクかい?
ボクはのんびりと読書でもしてようかな
猫くんたちに興味はあるけれど、あまり遊んであげたりは得意じゃないんでね
見学に回るとするさ

ボクの長い髪が揺れてたりする様子はもしかして興味を惹くかもしれないけれど
ま、なぁにそんなことはないだろうけどね、はっはっは

【アドリブ、他の方たちとの絡みは歓迎】


紫丿宮・馨子
灯様(f02312)と
アドリブ絡み可

よろしければクロヴィス様をお誘い
肩へどうぞ、と

ああっ…ついにお猫様がっ…

わたくしがまだ器物だった頃はお猫様は貴族のほんの一部しか飼っていない珍しい存在でした
室内で紐に繋いで飼われ
間近で拝見する機会もなかったのですが

お猫様の為に、今日は香をたきしめておらぬ服で参りました
お猫様、来てくださいますでしょうか…(しゃがんで視線をできるだけ下げて手を差し出してみる

手にすり寄ってくれたら笑顔
失礼します、と撫でさせてもらう

あ、天冠の飾りが気になるのでございますか?
あ、おふたりとも、助けてくださいませっ…(髪飾りの揺れる部品を狙われている。焦ると飾りはさらに揺れる悪循環


夢川・灯
馨子さんと一緒に(f00347)
アドリブ絡み可

やったーっ!ほんとに来た!嘘じゃなかったんだなっ!
はは、猫……猫はいいなぁ……かわいいなぁ。

俺もなあ。猟兵になるまでは、あんまり間近で見たことなかったから。
……さすがに楽器使うのはズルかな。ここは自分の力で……
へへ、おいでー、猫ちゃん!

寄ってきてくれたら、「触っていいか?」と聞きつつ優しく撫でる
いつになく慎重な手つき
頑張ったかいがあったなぁ……と感動しながら

あ、馨子さっ……大丈夫?
ああほら、あんまり動くと……いやにしても、猫、元気だな……!?
……あ、でも……じゃれてるのもかわいいな……(ほのぼの)




「麗しいことだね、瞳から光を失った少女に手を差し伸べる聖女サマ……何とも絵になるじゃないか、このまま一本の物語にでもなりそうなくらいだ」
 そんなふたりの様子を遠巻きに眺めては呟いて、アリスは再び手元の本に目を落とす――……と、見せかけて、目を落としたのは地面。視線の先には彼女らをこの地へ導いた――この光景を守ってほしいと彼女らへ申し出たグリモア猟兵、クロヴィス・オリオールが片膝を立てて、アリスと同じくふたりの少女の様子を見ていた。
「たくさんの猫たちが自由気ままにくつろいで……ほら、キミのご期待通り、ご希望通りの結果だぜ? それをこんなに離れたところでぼーっとしちゃって、もったいない。一緒に猫と遊ばないのかい?」
「……うるせぇ、期待とか希望とか言うなっつの……それにオレがそういうガラでもねェの知ってンだろ。」
 グリモアベースでの失態を思い出したか、こめかみを抑えてフェアリーは項垂れる。加えて何とも眠気を誘う午後の陽射し。退屈そうに欠伸をひとつ噛み殺しては、ぶっきらぼうにアリスに応じて。
 猫じゃらしを振ってみたり、獣奏器を使っての対話を試みたり、優しく頭を撫でてみたり、喉を軽くくすぐってみたり。あの手この手で猫たちの気をひく猟兵たちのおかげで、このふたりの周囲にはどうやら猫が見当たらない――……と、思いきや。
「……………ぁンだよ。別に呼んでねェし、遊ばねェぞ」
 ふたりの元に、一匹の黒猫が尻尾を揺らして近づいてきた。おや、とアリスが声を上げる間もなく、先に不機嫌そうな声をあげながらクロヴィスがおもむろに立ち上がる。が、「遊ばないの?」と言いたげにくりっとした瞳をぱちぱちと瞬く黒猫は、とてとてと構わずふたりへの距離を詰めてくる。……フェアリーは、じりじりと後ずさる。その背に揺らめく四色の翅をひらりと羽ばたかせようものなら、蝶よろしく飛びつかれかねないからだ。その様子に合点がいったように、ああ、とわざとらしくアリスが笑う。
「もしかして怖かったりするのかな?」
「ばッ……別に怖くねェし!! 猫だぞ猫! たかが!! 猫!!!」
 と言いながら、黒猫を指さす。それはまるで尻尾を逆立てて威嚇する猫のように、ふしゃーっという鳴き声が聞こえてきそうな剣幕だった。……つまりはその程度の剣幕だった。たかだか30センチ強の体躯に出せる剣幕などその程度のものなのである。
 そんなクロヴィスにくつくつと笑って、黒猫と目を合わせるように――フェアリーの視点を確認するかのようにしゃがみこみ、
「あぁそうだね、猫だ、たかが黒猫一匹だ、可愛いものじゃないか」
 ねぇ? と黒猫に話しかければ、黒猫の視線と興味はクロヴィスからアリスへと移る。それは彼女なりの助け舟か、それとも猫を怖がる自分への当てつけか、いやこの際どっちでもいい、とその隙にクロヴィスはひらりと安全圏――猫ジャンプをもってしても届かないほどの上空へ飛び上がった。
 アリスの問いかけに不思議そうな顔で「にゃあ?」とだけ答えた黒猫は、飛び上がったクロヴィスを追いかけるでもなく、かといってアリスがそれ以上かまってくれるわけでもなく、しかして他の猟兵たちのところへ行くでもなく、ぺたりとその場に座り込む。
 ひとまずは襲ってきそうにない様子に安堵したのも束の間。立ち上がったアリスと胸をなでおろしているクロヴィスの元に、彼の四色の翅を見留めた声が飛び込んできた。
「あぁ、こちらにいらっしゃいましたか。 クロヴィス様、よろしければどうぞご一緒に……」
 声のした方に目をやれば、そこには馨子と灯の姿。どちらも猫たちと過ごすこの時間を心待ちにして、故に猫たちの憩いの時間、憩いの場を守る為に奮闘していた者だ。もちろん、その足元には猫たちが日向ぼっこをしていたり、顔を洗っていたり、自由気ままに過ごしている。彼女たちと『ご一緒』するということは、必然その足元にいる猫たちとも『ご一緒』することになるだろう。
「……あ、……ぁー……おー……」
 馨子たちの顔と彼女らの足元にいる猫たちを代わる代わる見ては、二つ返事で「今行く」と言えずにいるクロヴィスに、アリスが再びくっくと口元を抑えて笑う。
「おいおい紳士クロヴィスくん、あちらは正真正銘の淑女ときた。まさか淑女のお誘いを断るキミじゃあるまいね? それともやっぱり、猫が怖いのかな。いやいや、誰しも怖いものの一つや二つあるものさ、何も恥じることは……っふふ…ないと、ボクは…っく、ふふ…思うけどね?」
「……っ! ッだーもう、うっせェな! 怖くねェっつってンだろ! なんっっっも怖くねェ! レディのお誘いとあらば喜んでご一緒しますってンだ、その猫と一緒にそこで見とけよ!!」
 台詞の合間にもこみあげる笑いを堪えきれないアリスの対峙する男、クロヴィス・オリオール。猟兵であり、グリモア猟兵である彼のもうひとつの顔はギャンブラーである。――すなわち、負けず嫌いである。
 誰の目にも明らかな虚勢を、例え虚でも勢いは大事とばかりに叩きつけ、ひらりと風を切って馨子たちの元へと飛んでいった。その後ろ姿をいってらっしゃいと良い笑顔で見送れば、彼の翅が起こしたのか、それとも春の気まぐれか。彼女の重たい黒髪を、ふわりと揺らすほどの風が頬を撫でてゆく。
「……さてと、ボクは読書に戻ろ――……うん? なんだいキミは」
 春を運ぶ風が弄んだアリスの髪は、あちらこちらへ不規則に舞い上がった。それがふわりと落ちてくるタイミングに、思わず繰り出された猫パンチ。
 ――なんだい、と問われましても、猫の本能でして。きゅるんとした瞳で小首を傾げる黒猫は、まぁ可愛いと思わないこともなくはない。それにほら、なんとなく、おそろいの色。風が止み、揺れなくなった後も、「また揺れる気がする……」とちょいちょい髪に手を伸ばす黒猫を一瞥して。
 ――まったく、邪魔だけはするんじゃないよ。それ以上かまうこともなく、けれど黒猫を追いやることもなく。
 此処にもまた、穏やかな時間が過ぎていく。


 渋々顔で飛んできたフェアリーを紅梅の彩る春の襲の上に招き入れた馨子は、空き地のあちこちで春の陽気を堪能する猫たちを見て目を細める。
「わたくしがまだ器物だった頃はお猫様は、貴族のほんの一部しか飼っていない珍しい存在でした」
 加えて室内で紐に繋がれて飼われていたものですから、こんなに間近で拝見することもなくてと続ける彼女の色白な横顔をその肩から眺め、ふーん、と相槌を打ちながら、クロヴィスは脚を組みなおす。器物だったころ、という事は、先ほどのアリスと同じく、100年の時を経てその肉体を得たのだろう。豪奢で重たげ、華美なようで奥ゆかしい色合いのこの装いも、その器物だった頃とやらに流行ったものなのだろうか。
「俺もさ、猟兵になるまではあんまり間近で見たことなかったんだ……ほんとに来るなんて、嘘じゃなかったんだなっ!」
 灯もまた馨子と同じように空き地をきょろきょろ見回しては、あちこちで気ままに過ごす猫たちの姿にそわそわとした気持ちを抑えきれない様子。馨子の肩から「あんな赤っ恥かいてまでオレが嘘つくワケねェだろ」とぼやく声が聞こえた気がしたが、今はそれよりも待ちに待った猫との触れ合いが先だ。
「色んな子がいるなぁ……はは、かわいいなぁ猫は……、っと」
 まずは猫たちと同じ視線になろうとしゃがみこみ、獣奏器に手を伸ばしかけた手をピタリと止める。
 ―――流石にちょっと、ズルかな。初めての猫にどうしていいのか分からないのか、ただただ目を輝かせるばかりの馨子がちらりと目に入ったからか。ビーストマスターとしてのお手本ではなく、ただ猫が好きで、猫と触れ合いたいだけの、"同志"としてのお手本を見せるように、獣奏器を持たない手のひらを猫たちに向けて差し出した。
「来てくれるかな……おいでー、猫ちゃん!」
「にゃー…?」
 灯の声に反応するように鳴いたのは、先ほど彼女が呼び出した、つぶらな瞳に凛々しい眉毛の、もきゅもきゅと鳴く可愛らしくも不思議な生物――通称:毛玉――たちに負けず劣らずふわふわとした毛並みを持つ猫だった。まるで値踏みするかのようにゆっくりと、ゆーらゆーらと尻尾を揺らして近寄ってくる。灯も、馨子も、そしてなぜかクロヴィスも固唾を飲んでその様子を見守る。穏やかな時間の中に流れる、ふとした緊張の一瞬。
 すとん、と灯の前にお行儀よく腰を下ろして、じぃ……と灯を見つめる毛玉、もとい猫。吸い込まれそうな程に見つめてくる水晶のような瞳に、思わずこくりと喉を鳴らしながら恐る恐る灯は問う。
「さ…、触っていいか?」
 そぉっと差し出した手を伸ばしながら、沙汰を仰ぐ。猟兵になってから、ビーストマスターとしての力を操るようになってからというもの、色んな猫たちと心を通わせてきたが、今こうしている間にも感じる馨子からの期待と不安の入り混じった視線を落胆させてしまうわけにはいかない。いつになく緊張した手つきの灯に、ゆっくりと両目をつむって見せた猫は、にゃぁーんと間延びした声で。
「まぁ……まぁ…! 灯様、すごいです灯様、お猫様が…ふかふかのお猫様が、ご自分からっ……!」
 なぜか思わずひそひそ声になってしまう馨子に、まぁ気持ちはわからんでもないが、とクロヴィスが苦笑まじりに肩をすくめる。
 灯の手に自ら収まるように一歩踏み出し、そのふかふかボディを魅せつけていく猫。ついさっきまで日向ぼっこをしていたのか、ぽかぽかの陽射しをたっぷりと吸い込んだふかふかの毛並み、その手触りは一級品。
「うわあぁ、あったかい……へへ、頑張った甲斐があったなぁ……」
 こうなってしまえばもう猫の虜、否こうならなくとも元々彼女は猫の虜。この子たちを守る為に奮闘した心身を一瞬で癒してしまうほどの、圧倒的もふもふ。自分の守り切ったものが目の前、むしろ手の中にあり、そしてそれは如何ともしがたき至高の手触り。無上の報酬に、灯のゆるむ頬はとどまる所を知らない。
 ――さて、お手本はばっちりだ。かくなる上は、いざ尋常に、実践。
「お猫様の為に、今日は香をたきしめておらぬ服で参りました……」
 そう、お手本どころか、準備までばっちりなのだ。オブリビオン退治に先駆けて、まず猫のため、猫と触れ合うための準備をしてきたのだ。うずうず、そわそわとしながら、来てくださいますでしょうか、と灯を真似てゆっくりとしゃがみこむ。――そんな馨子の胸の高鳴りが肩に乗る自分にまで聞こえてくる気のしたクロヴィスは、例え猫との距離が近くなろうとも、今ここで彼女の肩を離れるほど空気の読めない男じゃないさ、などと心の中で呟きながら、頭上でしゃらりと鳴る瓔珞の音を聞いていた。
 ほどなくして、灯に負けず劣らず恐る恐る差し出された馨子の手にも、もふりと温かな感触がやってくる。
 小さな身体にほわほわとしたグレーの毛並み。まだ子猫なのだろうか、すっぽりと両の手のひらに収まってしまいそうなほどに小さく、確かな温もり。甘えたざかりなのか、撫でてもいいかと許可をとるまでもなく、すりすりと馨子の手のひらに頭をこすりつけ、くるくると喉を鳴らす。その得も言われぬ愛らしさに感動を隠し切れず、最初は息が震えたものの、やがて灯と同じように頬をゆるめて、ほぅ、と溜息をこぼすのだった。
 そう、確かに此処にも、そんな穏やかな時間はあったのだ。馨子の手のひらにグレーの子猫が収まっている間は。その子猫が、ふと馨子と視線を合わせてしまうまで――春の陽射しを反射しながら揺らめく、彼女の天冠の飾りに気づいてしまうまでは。
「あっ、あっ…お、お猫様っ、…その仕草も大変可愛らしゅうございますが、お、お戯れを……!」
「うおおおいおいおい揺れる揺れる! ちょっ、落ち着けって!」
「え、馨子さっ……大丈夫?」
 馨子の悲鳴にも似た声とその肩に乗っていたはずのクロヴィスの慌てた声に振り向けば、灯の目に飛び込んできたのは馨子の髪飾りを狙って猫パンチを連打するグレーの子猫。ついさっきまで馨子の手の中に大人しく可愛らしく収まっていたはずの子猫は、好奇心旺盛に馨子の髪飾りに狩猟本能を燃やしていた。
「ああほら、あんまり動くと……いやにしても、猫、元気だな……!?」
 慌てた馨子がほんの少しでも動けば、ゆらりしゃらりと飾りが煌く。それを見た猫、おおはしゃぎ。猫パンチでは飽き足らず、ついにはぴょんこぴょんこと瓔珞目掛けて飛び上がりだす始末。
「あぁっ、それも、それも大変可愛らしゅうございますが…ですが、おふたりとも、助けてくださいませっ……!」
「いや助けろっつったって……! おい、頼むから何とかしてくれ!」
 揺れるし食われちまいそうだしでオレも怖ェんだけど! と叫んでしまいそうになるのを恐怖と一緒にぐっと堪えて、しかし慌てふためく彼女の肩からひらりと逃げ出してしまえばそれこそ男が廃ると、やはりそこもぐっと堪えて、クロヴィスが灯に助けを求める。
 実のところ遠巻きに眺める分には、そんなじゃれつく猫も、それにうろたえる馨子も、どちらも可愛いのだけれど……と、ついほのぼのしてしまいそうになりながら、灯はふたりの救出に向かうのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
折角守り抜いた、至福の時間。
それなら、存分に楽しまないと損だよね。

彼…クロヴィスにも、折角なら、楽しんで欲しい所だけど…
…私は初対面だからね。他に、彼に相応しい場があるなら。
そうじゃないなら…一つ、一緒に遊んで貰おうかな。
もちろん、みんなで遊んでもいいし。ね?

●WIZ
猫は気分屋。構って欲しそうな時は構って、そうじゃない時はやめておく…
で、いいんだよね?

私が持ってきたのは、猫じゃらし。
変に気合入ったおもちゃより、こっちの方が、らしいかな?って。

こうして遊ぶのももちろんだけど…えいっ。
もふ、もふ。ふふ、本命はこっち。
人を魅了する、その毛並み。あなた達のも、参考にさせて貰うよ。

【アドリブ・連携歓迎】


天命座・アリカ
華麗に綺麗な大勝利!世界の平和は保たれた!
いやぁ、最後の一発はとってももふっとしていたね!
私ももふもふしたい気分!報酬を貰う交渉と行こう!

(じーっと一匹の猫と向かい合って、自身の頬を押したり引っ張ったり)
……君も中々やるじゃあないか!今日は引き分けにしておこう!
天才同士の闘いだ!千日手にねなりそうだ!
しからば協定を結ぼうじゃないか!両者に利ある取引を!
(鰹節を与えてその隙に抱っこ)
毛並みがいいよね素敵だよ!これも一つの芸術品!

(何か思いついた)
合☆体!
(猫を頭に乗せる)
芸術品が二乗になってしまったね!
この感動を誰かに伝えなければ!
そういや未来君がいたような!まだいたらちょっかいをかけに行こう!


作図・未来
うん、平和な日常風景だ。こういった平和な日常こそが一番の幸せだね。
みんなが幸せで、明るくて楽しい毎日を送れるように頑張っていきたいな。

いやはや、それにしても先ほどの戦闘では驚かされた。
まさか目の前に天命座君があんな突飛な登場を……失礼、あんなに華麗な登場をするだなんて思っていなかったからね。
まぁ、うん。かっこよかったとは、思う。君らしくて。

……さて、せっかく手に入れた平和だ。少しくらい戦いを忘れて休んでもいいだろう。
何か背もたれになりそうなものを探して、座ってゆっくり過ごしてみようか。
のんびりと太陽の光を浴びて、猫たちと一緒にまったりと、ね。




「ひでェ目にあった………」
 そよそよと春を運ぶ風に乗りながら特大の溜息をこぼす。ぐったりとしながらもその高度は高く高く、なぜならぐったりと低空飛行でもしようものなら、そのひらひらとはためく四色の翅を鋭い爪に捥がれない保証はないのだ。逆に言えば、襲われる心配のないこの高度から見下ろす分には、猫たちと過ごす猟兵たちの、猟兵たちと過ごす猫たちの、それぞれの穏やかな午後を眺める分には――……
「まぁ、悪い気はしねェが……、っと、何してンだありゃ……」
 そんな誰にも聞こえない独り言をこぼす、彼の瞳に此度映ったものは。

 じー。じーーー。じーーーーー。青の双眸は瞬きひとつせず。
 ふんふん、ぺろぺろ。くぁーあ。金の双眸は、見向きもせず。
 むに。むにむに。みょーーーん。整った顔だちを崩すことも厭わず。
 ぺろぺろ……ちらり。にゃーお。顔を洗う手を止める位なら厭わず。
「……君も中々やるじゃあないか! 今日は引き分けにしておこう!」
「えっ、今何の勝負してたの!?」
 長いこと黒猫と何やら対峙していたアリカがすっくと立ちあがると、すかさずパームがツッコミを入れる。春めいた色彩を持つふたりの元にも、ちらほらと猫が集まっているようだ。
 そのうちの一匹、ふわもふの美しくも魅惑的な長毛種――その品種をノルウェージャンフォレストキャットという――と猫じゃらしで遊ぶパーム。猫が楽しく遊ぶための趣向を凝らしたオモチャをどれほど用意しても、結局オーソドックスな猫じゃらしこそが不動の人気を誇るのだ。
 しかしてなかなか振り向いてくれないツンとした黒猫と人知れず戦っていたアリカも、それに思わずツッコミを入れてしまったパームも、実のところその目的はとてもとても近かった。
 かたや猫じゃらしを振り振り、気を引いてじゃれさせて遊んで……、と見せかけて、もふもふにゃんこの隙を伺う妖狐。かたや、真っ向勝負では埒が明かないと奥の手――……もとい、公正な取引を申し入れるための秘密兵器を取り出すアリカ。
「しからば協定を結ぼうじゃないか! 両者に利ある取引を!」
 取り出したるは鰹節。安心安全無添加国産。
 国産だから大丈夫。なんてったって国産だ。
 国産はすごいんだぞ。何がすごいかってそりゃもう色々。
 だって国産だぜ?
 国産を笑う者は国産に泣くのだ。……多分。
 ピンと指先まで伸ばした手のひらに鰹節を少々乗せれば、ほら御覧なさい国産のチカラを。いや国産じゃなくても食べたかもしれないけど、これ国産だから。安全だから。
 さておき。――何ということでしょう、あんなにツンとしていた黒猫の態度の変わりようはまさしく劇的。
 くるくると甘えた声で喉を鳴らしてアリカの手のひらをざりざりと舐めるその隙にひょいと抱き上げれば、うっとりとするような天鵞絨のごとき手触り。
「さすがの毛並みだ素敵だよ、これも一つの芸術品! 世界の平和ににゃんこの温もり、これ以上ない報酬さ!」
 生きているもの、命あるものの温もりがその手触りのいい毛並みごしに伝わってくる。ご満悦にもふもふと楽しむアリカの姿に、なるほど鰹節、その手があったかと、パームはゆらり、九尾を揺らす。
 そう、彼女の狙いもまたそのもふもふ。人という人を虜にしてやまないこの猫という生き物の魅力のひとつ、今目の前で人……どころか電子の海より来る精霊まで夢中にさせているそのもふもふの毛並みは、今も彼女の背後で揺れるボリューミィな尻尾でもって人を癒やす、その名も「もふ屋」を営むパームにとって羨望の対象であり研究の対象。
「猫じゃらしに夢中になってる間に、本命をー……えいっ」
 もふ、もふ。もふもふ。もふ、もふもふもふ。
 長毛種ゆえに、その繊細な毛一本一本の間に沢山の空気が含まれ、さらに暖かくやわらかな陽射しでたっぷりの日向ぼっこをしたことで、より一層のふわもふ感(※当社比およそ1.5倍)を実感して頂けるようになりました。私共自慢の逸品です。
「えへへ……もふもふで、おひさまのにおいがして……、あったかくって、気持ちいー…わわっ!?」
 しょうがないなぁ、とくべつだぞ? と言いたげな長毛種、もふっと抱きついたパームの頬を、さらにもふもふの尻尾で追いもふもふ。ノーギャラでも旺盛なそのサービス精神には「もふ屋」の店主も思わずびっくり、しかしそのびっくりもねじ伏せるほどの圧倒的癒しパワー。
 おひさまぽかぽか、にゃんこもぽかぽか、おまけにもふもふで気持ち良くって――……
「ほーぉ……こりゃあったかそうな。オレからしたら高級ベッドだ、眠くなっちまうのも無理はねェな」
「うーん、もふもふ………って、ふわあっ!? く、クロヴィス!?」
 思わずうとうととしかけた妖狐の頭上から、ぽろりと降ってきたのは妖精の声。どうやらパームががっちり猫をホールドしているこの場なら、襲われる不安もなかろうと下降してきたらしい。襲われるのは怖い(とは口が裂けても言わない)が、そのもふもふは確かに気持ちよさそうだと宙に腕組みをして留まっている彼に、パームは口をとがらせる。
「びっくりしたぁ……居るなら居るって言ってくれたらいいのに。 ほら、あなたが予知したおかげで助かった猫たちだよ」
 一緒に遊ばないの? と自らの抱く長毛種の顔をクロヴィスに向ければ、細い瞳孔と目の合ったフェアリーはそぉっとそぉっと後退して。
「アンタの抱えてるそのあったかそうなベッドは気にならんワケじゃないが、生憎と猫とじゃれるとかそーいうガラでもなくってな。 ま、アンタらが楽しんでるようで何よりだよ」
「ふふっ、もふもふなら私も負けてないけどねー? なんて、うん、おかげさまで楽しんでる……って、あれ、そういえばアリカは? さっきまで一緒にいたはずなんだけど」
 良ければごひいきに、と冗談ぽく笑ってもふもふ尻尾をゆらゆらとアピール。五分間で五百円、ベッドというには時間が短いが、しかし全身でそのもふもふを味わえるのはフェアリーの特権――否、彼女ほどのボリュームあるもふもふなら、フェアリーといわずとも大抵の利用客なら幸せいっぱいの空間に包み込んでしまうかもしれない。
 とはいえ冗談には冗談で返すのが礼儀というもの、考えとくかね、と軽く笑ってみせ、そのままキョロキョロと辺りを見回すパームに、あっちあっちと方向を指し示す。クロヴィスの指さす方を追ってみたなら、――ああ居た。あれ、でも……
「彼女、帽子なんてかぶってたっけ?」
「あー…? ……いや、よく見てみろ、ありゃあ帽子じゃなくて……、」


「いやはや、それにしても先ほどの戦闘では驚かされた。まさか目の前に天命座君があんな突飛な登場を……失礼、あんなに華麗な登場をするだなんて思っていなかったからね」
 まさしくその天命座・アリカが突飛……もとい、華麗な登場を果たした場所、積み重なった土管に腰を下ろして背を預け、その光景を思い返しているのか瞼を下ろし、しみじみと未来は呟いた。彼のセリフが一区切りつくのを待っていたかのように、やわらかな風が未来の髪を、そして未来の前で「うんうん、そうだろうそうだろう」と満足げに話を聞いているアリカの髪を揺らしていく。
 今度は未来が、その風が凪ぐのを待って瞼を開けた。途端、春の暖かい日差し。高く遠い、良く晴れた空。少しずつ葉やつぼみを付けだした樹木に、あちこちで猫と戯れる仲間たちの姿。彼や、彼の仲間たちが力を合わせて守り通した「平和な日常風景」が、次々と色鮮やかに飛び込んでくる。
 もちろん、未来の元にも猫が居る。心穏やかなもの同士は惹かれ合うのだろうか、ゆったりと流れていく時間を楽しもうとここに腰を下ろした未来の足元に、ほどなくして現れた一匹の猫。のんびりできる場所を探していたのだとでも言いたげに、彼にじゃれる事もなく、大人しくその傍らに、彼に倣うように腰を下ろした。その猫が、「にゃぁん」と鳴く。
「にゃーん」
 するとどうか、その声にこたえる、また別の猫の声があるではないか。この大人しくクールな猫にも友達が居たということだろうか、一体どこにいるのだろう、いや探すまでもない。なぜならそれは、その声は――……
「おや、おやおや? なんだいキミたち、ひょっとして仲良しだったりするのかい?」
 間の抜けた声を上げたアリカの視線は、正面の未来から、―――頭上の猫に。
 その様子に未来は再び瞼を下ろし、平和な日常風景の中に混ざり込んだ友人の姿にこめかみを抑える。
「なんだって突飛な登場を立て続けに2回もする必要があるのかな?」
 今度は、華麗、と言い換えることすらしなかった。
 時は数分前にさかのぼる。ゆっくりと時間が過ぎていく昼下がり、元気に自分の名前を呼ぶ声に顔を上げた。
 聞き間違えるはずもないその声。誓いを立てた桜色の髪。幾度もの戦場を共にした彼女と、此度もまたその勝利を、この暖かな午後の陽が射す平和な日常風景のその中で分かち合えるのだろうかと、未来は顔を上げたのだ。
「何でどうしてと聞かれれば、答えは簡単さ未来君! 天才美少女の頭脳にだね、思いついたからに他ならない! そしてそんな芸術は、誰かに見せてこその芸術さ!」
 つまりは今此処に完成した、とぱちんとウインクをして見せて。
 ここにね、ピンときたのだよ、と自身のこめかみを指さして。
 悩ましげにこめかみを抑える少年と、得意げにこめかみを指さす少女。こうも表情が違うとくれば、むしろ一周回ってマッチしているようにさえ見えてくる。
 アリカいわく芸術品の二乗、その実、猫をかぶった(物理)美少女。明るいピンクの髪に黒い猫がのっしと乗っかっている……というか、乗っけられているその姿は、なるほど遠目に見れば帽子をかぶっているように見えなくもない。
 ようやく、眠たくもないのに重たい瞼を開き、そんな彼女の姿を再び視界に収めれば、しかしその素っ頓狂な出で立ちで得意げにしている姿を「彼女らしくない」と言えるはずもなく、美少女に可愛い猫が乗っかれば、つまりはプラスとプラスは足しても掛けてもプラスにしかならないわけで、結局何が言いたいのかといえば、初見の驚きさえ過ぎ去ってしまった今は、微笑ましいことこの上ない。
 ――加えて、「彼女らしさ」という観点から言うのならば。
「まぁ、うん。あの登場シーンね……かっこよかったとは、思う。君らしくて」
 事実、オブリビオンも猟兵も、何より未来自身も、劇的な彼女の登場に視線を向けずにはいられなかったのだ。
 帽子をかぶり直しながらぽつりとこぼす未来に、アリカはぱちぱちと瞬いた。
 君らしい、というのは、「君」を知っているからこそ言える言葉だ。故に、だろうか。言う方も、言われる方も、君のことを知っているという自負に、自分のことを知られているという宣言に、春風がくすぐる程度に、なんとなくくすぐったくて、満開の桜を見た時のように、なんとなく、嬉しい。
「あっはっは! らしい、らしい、らしいときたか! にゃんこのもふもふも受け取ったけれどね、これまた報酬に違いない! キミの言葉も世界の平和も、まるっと頂戴するとしよう!」
 具体的にはこれこの場所で、うららかあたたか、優しいひととき。
 にゃんこで和んで陽射しに微睡む、みんなそろって楽しいひととき。
 そんな、自分たちの手で守った平和な時間を、――……キミと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エスチーカ・アムグラド
ふわー、猫さんがいっぱい!いっぱいですよ!
えへへ、チーカと気の合う猫さんが居るといいのですけど


背中に乗せる?
いえいえっ!チーカは背中に乗せてもらいますっ!
猫さんの気分の赴くまま空き地をあっちへふらふら~、こっちへゆらゆら~。
色々案内してもらえたらお礼もしないとっ
あごの所とか、こう、わしょわしょーって!
チーカの手じゃちっちゃいでしょうからハグして、ぐりぐりー!

もしかしたらもしかしたら、ぽかぽかのお昼寝スポットにつれて行ってもらえるかもしれませんね!
えへへー、ふかふかの猫さんと一緒にお昼寝なんかもできたら気持ちいいだろうなー!

【アドリブ等歓迎】


ミーユイ・ロッソカステル
…………役目は終わったのだし。帰るわ。

猫と戯れようとする人の群れを後目に、その場を去……ろうとして
人なつっこい猫の一団に囲まれては、無下にもできず困惑しながら相手を
……率先して飛びつきこそしないが、可愛い生物には基本的に弱いのだ

……どうしましょう、なんて言いながらもかまっていれば、その中の一匹に飛び疲れ、日傘を取り落として

……あ。

かくん、と。白昼に晒されれば、抗いようのない眠気に襲われた
即座に寝息を立てて……傍目から見れば、猫に群がられて日向ぼっこ、というていに見えるだろうか
脅威は去った後だから、問題はないけれど。そんな一幕

※可能ならばクロヴィスさんとの絡み希望
 アレンジ・アドリブ歓迎




 思い思いに猫との時間を過ごす猟兵たちを空から眺め、時には気まぐれに近くへ行って、時にはまた音もなく空へと逃げて。グリモア越しに見た甘い毒もケミカルな毒もない、いつも通りの空き地に、いつもとは少しだけ違う、猟兵たちの賑わいがあふれる時間は、のんびりゆったりと過ぎていく。彼らが満足いくまで猫たちとの時間を過ごしたら、希望者はそれぞれの世界へ送り届けて、それでグリモア猟兵としての仕事はおしまいだ。
 そよぐ春風に腰掛けるようにひらりと乗って、さてそれまでの時間を如何にしてつぶそうか、と思案を巡らせるために煙草を取り出し――……た、ところで視線がぶつかる。
「何だ、あいつらみてーに遊ばねェのか」
「…………役目は終わったのだし。帰るわ」
 日傘でばっちりと日差しを遮る彼女の肌は、まだ雪が溶けていないのか、ひんやりと白い。
 世の女子供が皆して小動物が好きなのかと問われれば答えはNOだ。そんなもの個人差があって当然である。ならばそっけなく不機嫌そうに空き地を出ていこうとするミーユイのために、一足先に彼女だけでも送り届けようと、煙草をしまった代わりに、その手にグリモアを浮かべるのも吝かではない。一向に吝かではない、の、だが。
「……何だお嬢さん、帰るんじゃなかったのか?」
 くく、と含み笑いを堪えきれずにクロヴィスが問えば、うるさいわね、と彼女の視線だけがそれに応えた。
 ミーユイの細い足首まで包み込むほどの丈の長いドレス、その裾についたフリルが歩くたびに上品に揺れる。歩かなくたって風に揺れる。ひらり、ひらり、ゆらり、ゆらり、そんな動きが彼らを誘わない訳などないのだ。
「にゃ、にゃ」「にゃにゃ」「にゃーっ」「にゃにゃにゃ!」
 このフェアリーと目が合ってしまったばっかりに、ほんの少し足を止めてしまった。ほんの少し足を止めてしまったばっかりに、こうして彼らに囲まれてしまった。4匹の猫たちは、友達だろうか、兄弟だろうか。代わる代わるドレスの裾に手を伸ばす彼らを、――今目の前にいるこのフェアリーが守ろうとした彼らを――事実、自分の手で守った彼らを――いやいや何より、ちょいちょいと手を伸ばしてはひらりと逃げる裾を不思議そうに見つめる、この愛くるしい生き物たちを、無下にすることなど、ミーユイには出来なかった。
「ははっ、まぁアンタも楽しめてるようで何よりだ。 そンじゃ、帰りたくなったら言ってくれよな」
「あっ、ちょっ、待ちなさ……もう! …………、どうしましょう」
 何とかしなさいよ、と言う前に、猫に負けず劣らず自由気ままな妖精はひらりと飛んで行ってしまった。困ったように足元に視線を落とせば、そこには変わらず、4匹の猫たちが前後左右からフリルを狙い、目を輝かせているばかり――……。

 所かわってこちらにゃんこ運送、UDCアース支店、空き地周遊号、フェアリー便……なんてものは存在しないのだが、ひらりと飛び乗られたところで文字通り羽のように軽い妖精の体は振り払う程疎ましいものでもなく、エスチーカを背に乗せた猫はのっしのっしと日課の散歩を敢行するのであった。
 特に行先も告げずに飛び乗った乗客は実際に行きたい場所があるわけでもなく、ただただ、陽射し降り注ぐオープンカーのふかふかシートを堪能しながら、ご機嫌に猫バスに揺られている。
「えへへっ、あっちへふらふら~、こっちへゆらゆら~♪ 次はどこへ連れてってくれるのでしょう!」
 面白い形をした石が転がっていた。もう綿毛になっているタンポポがあった。エスチーカの身長よりも高く伸びた雑草があった。一際深く窪んだ場所には、一昨日に降った雨の水たまりが残っていた。
 そんな具合で猫としては今日も空き地に異常はなく、いつも通りの平和なパトロール兼散歩。けれど小さな乗客には、たくさんの発見があったようで、そのどれもが豊かな感性を刺激したようで、事あるごとに賑やかな歓声が背中から聞こえてきていた。いつもはこの辺で満足して、あとはまったりと時間を過ごしたり、たまには早めに帰ったり、あるいは別の場所へ出張に行ったりもするのだが、これほど無邪気に喜んでくれる幼い乗客に猫も機嫌を良くしたか、どうやら今日の散歩はもう少し続くようだ。
「なぁーお」
 ――そこは我々猫だけが知る、人間共には秘密の場所。だが、小さな小さな妖精のお前なら、特別に連れて行ってやらんこともない。
 ……という彼の言葉を、エスチーカが理解できたかどうかは分からないが。
 気の向くままにあちらこちらへ歩いていたかのように思えた猫の足取りは急に、明確な目的地があるかのようにしっかりとしたものになった。
 のっしのっしと一直線。目指すのは、空き地中でいちばん良く陽射しの当たる場所、この空き地で一番のぽかぽかお昼寝スポット――……の、はずだったのだが。
「にゃ……!?」
「あやっ!?」
 ――そこには4匹の猫と、1人のダンピールの先客。
 そして何故か傍らには、開かれたままの日傘が転がっていた。
「えっとえっと……み、ミーユイお姉さん…ですよね……?」
 何故こんなところで倒れて……いや、不安になって猫の背中から一旦ミーユイへと近づけば、穏やかな寝息が聞こえてきた事にまずは一安心。顔色も悪くない、どころか暖かな日差しを受けた頬は、仄かに血色の良ささえ感じさせる。
 オブリビオンの脅威は自らの手で消し去り、真昼間の空き地、エスチーカを含む多くの猟兵の目もある今なら、何ら危険ということはない。が、それにしたってドレス姿で眠る女性、それも4匹の猫に寄り添われて、というのは何ともこの平日昼間の空き地には似つかわしくない光景だった。
 けれど、あのクールにツンとすました――それこそ気品漂う猫のような佇まいの彼女が、こうして無防備に寝顔を晒しているというのは、
「きっとそれだけ、ミーユイお姉さんもついついこうして猫さんたちと一緒に寝ちゃうくらい、ここがぽかぽかで気持ちいいー…ってことでしょうか!」
 ふむ、と合点がいったように頷くエスチーカに、その通り、と言いたげに彼女をここまで連れてきた猫が歩み寄る。少々先を越されてしまったが、ここがナンバーワンお昼寝スポットであることに間違いはない。
 遊び疲れた4匹の猫と、ミーユイ。そこにさらに寄り添うようにもそりと丸まった彼は、くぁあ、とフェアリーが飲み込まれてしまいそうなほどの大きな欠伸をして、片目だけをぱちりと開いてエスチーカを見る。
 ――――お前も来るといい。あったかいぞ?
「はぅ……!」
 したん、したん。その動きはゆっくりと、しかしどこか急かすような動きの長い尻尾が、体を丸めたことにより出現したもふもふホールへとエスチーカを誘う。人間ならば思わず手を突っ込みたくなるそのもふもふホールも、なんとフェアリーならすっぽりと収まることが出来るサイズ。まさしく、高級ふかふかもふもふベッドというわけだ。
 ぽかぽか陽気、ふかふかにゃんこ、もふもふベッド。
 9歳の少女のちっちゃな体。目一杯戦った後の疲れた体。
 そんな魅力的な誘惑に、抗える訳もなく――。
 まずは一歩、続いてもう一歩。三歩目でよろりと地を蹴れば、誘惑に負けてふらつく足取りも、彼女のお友達は優しく乗せて運んでくれた。
 ふわり、ひらり、ぽすん、もふっ。
「ほわわわぁ……もふもふ、あったか……、こんな、こんなの、すぐに…眠たく……」
「…ぁ、…だめです…だめです。チーカ、まだ猫さんにお礼を…色んなところへ、連れていって頂いた…お礼を……」
「…むにゃ……猫さん……猫、さん……たくさん…ありがとう、ござい…まし………」
 段々と遠のいていく意識の中で、力いっぱい、力の入らない手を伸ばす。まずはもふ、と猫の首に小さな手と細い腕が埋まって、続いてもふぅ、とそこに顔を埋める。目一杯腕を伸ばして、猫の首に抱き着いて、顔を寄せて……そこで、ひとつだった寝息はふたつに増えた。

「…………いや、何してンだこいつら」
 やがて、ひとり、またひとりと猟兵たちを見送り、あるいは別の世界へと送り届け、また会議に参加していた猫たちも各々の都合で空き地を後にするのを見送ったグリモア猟兵を待っていたのは、ダンピールの少女がひとり、フェアリーの少女がひとり、それから猫が5匹。みんな揃って仲良く寝息を立てているという、何とも平和極まりない光景だった。
 しかし、あと30分もすれば小学生たちがサッカーボールを片手にこの空き地に雪崩れ込んでくるだろう。
 そうでなくとも、この時期の1日の寒暖差は激しい。自らの呼びかけに応えてくれた猟兵に、風邪をひかせて帰らせるというのも忍びない。
 ―――起こすか、とひらり降り立ち、久方ぶりの地面の感触を味わう。猫たちもこれだけ深く寝入っているのなら、突然襲ってくるようなこともないだろう。
 まずは丸まった猫に抱かれているのか抱き着いているのか、――その過程を知らないクロヴィスにとっては――よくわからない体制になっているエスチーカに声をかけようと歩み寄り、その顔を覗き込む、が。
(……幸せそーに寝てやンの……こいつは後だな)
 いやいや、まずは年長者のミーユイから起こすべきだろう。寝顔を見られたと言って憤慨しそうな気もするが、自分とエスチーカに見られるよりは自分ひとりの方がダメージは半分だろうし、もし憤慨したところでそこは猫やエスチーカの寝顔を見て和んでもらえばどうにかなりそうだ、と頭の中に立て並べて、エスチーカから離れて今度はミーユイの方へ。
(って、……こっちはこっちで、なんつー穏やかな顔で寝てンだ……)
 「あー」とも「うー」ともつかない、そも声になりきらない声をあげてがしがしと頭をかく。
 ――――……そしてグリモア猟兵の出した答えは。
「20分だ。20分して起きなかったら、トランプ兵どもに叩き起こさせっからな」
 それは眠っている2人に届かないと知りながら。それは自分にも言い聞かせるように。
 ぼそりとその場に言い残して、再び宙へと飛び上がる。もしも彼女らのどちらかでも目覚めたのなら、偶然を装って、……寝顔なんて見ていない、という顔で降り立つつもりだ。

 ふわりと吹いた風が、今日何度目かの春を空き地に運ぶ。
 水溜まりの水面を撫でて、タンポポの綿毛を攫っていく。

 やがて、最初に目覚めたのは5匹の内誰だったか。
 ―――尻尾を揺らしてにゃぁんと鳴いて、春を喜ぶ声がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月08日


挿絵イラスト