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その遠吠えは誰が為に

#サイバーザナドゥ

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#サイバーザナドゥ


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●負け犬の末路
 お世辞にも善人とは言えない、そんな人生を歩んできた。

 生まれも育ちも良くない、誰にも見向きもされないカスが行き着く場所が、下っ端ヤクザの子分なんてこの街じゃ珍しくもない。
 機嫌のいい親分から小遣いをもらってギャンブルに全部突っ込む。それか機嫌を損ねた親分に顔をぶん殴られて鼻から赤い液体が滴り落ちる。これが俺の日常だった。

 惨めだった。空虚だった。空っぽをドラッグで埋めようとしても、何も無い空間が広がるだけだった。

「どうせ私たち、何者にもなれないまま死んでいくのよ。だったらせめて死ぬまでもがき続けるしかないじゃない」

 酔った勢いで抱いた風俗嬢。アンズという源氏名を持つ彼女は俺と同じようにろくな人生ではなかったらしい。
 たった一夜で終わるはずの関係が、二回、三回と続いていき、いつしか彼女といることが当たり前、日常になっていった。

 薬とギャンブルに使っていた金はいつしか彼女へ渡すプレゼント代に変わった。
 どれだけぶん殴られても、今夜もアンズに会えると思えば鼻血を拭って立ち上がることが出来た。
 逢瀬を重ねて、身体を重ねて。他人から見たらクソみたいな人生だろうが、それでもアンズと過ごす毎日は幸せだった。

 アンズが死んだ。
 あんなに綺麗な顔で笑ったのに、あんなに綺麗な身体で踊ったのに。
 死体はただウジが蠢く腐敗したひき肉にしか見えなくて。

 ただ、何日経っても俺のアパートに帰ってこないから。
 みんなが“アンズはあの殺人鬼に殺された”って言ったから。
 腐肉の中にアンズへ贈ったネックレスが埋まっていたから。
 彼女は死んだのだと、殺されたのだと、理解せざるを得なかった。

 殺す。あの殺人鬼を見つけ出して殺す。刺し違えても殺す。彼女が受けた痛みを何倍にもして殺す。ひき肉になるくらい何度も何度も刺して殺す。
 俺の大切な宝物を、このクソッタレな世界でたった一人の宝物を奪ったアイツを殺す。

●喜劇
「可々々、死ぬらしいぞ。この男。」

 グリモア猟兵の張三・李四(MISSING・f29512)は口元を扇で隠し、クツリと笑っている。

「返り討ちに遭って、死ぬぞ。予知で見たが…九々々…惨めな死に様であったなぁ。」

 自分としてはこのままこれが起こっても良いの、だが。と言葉と言葉の間に口惜しい様をはっきりと滲ませながら続けた。

「かの男の復讐相手はオブリビオンである。故に汝らには男の助太刀に入らなければならぬ」

 男の名前はキョウリン。予知の通り、しがないヤクザの手下だ。
 特別力を持っているという訳ではなく、腕っ節が強いという訳でもない。アンズの死によって憔悴しきっており、背は痩せて、まともに睡眠も取れていないらしい。
 復讐のための英気を養うためだろうか、今はバーガーショップにいるらしい。

「言うておくことがあるとすれば...彼奴にこの復讐を成す力は無い。一太刀も復讐相手に与える事は出来ないであろう...さて、汝らは彼奴を止めるか?それともあえて焚き付けるか?」

 いずれにせよ、面白い事になりそうだ。
 グリモア猟兵は、句派々!と高らかに笑いグリモアは輝いた。


ミヒツ・ウランバナ
 オープニングをご覧いただき有難うございます。ミヒツ・ウランバナと申します。復讐劇っていいですよね。

 第一章:日常。
 バーガーショップにて『彼』と接触しましょう。
 復讐を焚き付けてもいいですし、諦めさせてもいいです。ただし、彼の意志はかなり硬いようです。
 復讐相手の情報を収集したり、彼の様子を確認しながら普通にバーガーに舌鼓を打っても大丈夫です。

 第二章:冒険。
 復讐相手のオブリビオンの元へ向かいます。道中に仕掛けられたトラップを掻い潜り進みましょう。

 第三章:ボス戦。
『彼』の復讐相手です。彼は戦いに参加することはできますが、オブリビオンを殺すほどの力はありません。猟兵の力が必要です。
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第1章 日常 『流行りのバーガーショップ』

POW   :    客として潜入

SPD   :    店員として潜入

WIZ   :    搬入業者として潜入

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●あれはケチャップというよりコールタールに似ていた

ハンバーガーが目の前にあるということは、俺が注文したということなのだろう。
外が暗いということは、だいぶ時間が経ってしまったということだろう。

固形物を身体が受け入れなくなって、何日経っただろうか。

食べる気にもなれない“ソレ”の包装紙を指先でつまみ、開く。

中身は至って普通のハンバーガーだ。
あぁ、そういえばこれにも挽肉が使われていたな。

跳ねるように席を立ち、便器に向かってこうべを垂れる。

苦いような酸っぱいような液体が、胃からせり上がり便器を汚す。
なんだ、まだ吐くようなものが胃に残っていたんだ。

脳はもうすっかり機能しなくなったようで、何故かくふくふと笑い声が吐瀉物に続いて口から漏れ出す。

じっとりと脂汗が滲んでいる。蛍光灯の瞬きが目に痛い。
こんなにも口角が上がっているのに楽しくないなんて初めて知った。

ノックの音。
客の入れ替わりの激しいジャンクフード店では一人でゆっくりと気を狂わせる時間さえ許してくれないようだ。

大丈夫、すぐ出ますよ。席にハンバーガーが残ってるんでね。
イーブン・ノルスピッシュ
アドリブ歓迎
咽せ返る諸々の臭いを掻き分けて座席を見つけたが、離席中か
戻るまで隣の席で待つか
ボロ布を巻いて軽く隠した|改造銃《デカブツ》を傍に立て掛けて、適当にドリンクだけ注文しよう
肉は要らん、合成でもな
待つ間に店員や他の客に聞き込みをしたり、聞き耳を立てたりしよう
噂程度でも情報は情報だ

……アンタ、ヒドい臭いだな
|俺《ウサギ》は鼻が良い
お前の奥底でメラメラと滾る|もの《臭い》まで良く分かる
火勢は十分だが、長続きしない
俺の火種を貸す
焚べて足しにすればいい

俺自身、復讐を否定する理由は無い(勧める理由も無いが)
ただ少し
すぐにも鎮火しそうな焚火が気になっただけだ
(無意識にドッグタグの束を撫でる)



●復讐の炎が燃え尽きるまで

骸の海の混じった空気の湿った匂い。
売女の撒き散らすツンとした品のない香水の刺激的な匂い。
ジャンクフードの安っぽい油の匂い。

(咽せ返りそうだ)

鋭敏な鼻を持つイーブン・ノルスピッシュ(|戦闘猟兵《Scorcher》・f40080)にとってサイバーザナドゥのバーガーショップの混み合った店内は戦場とはまた違った過酷な現場だった。

個人の撒き散らす体臭や合成肉の生臭い匂い、心の奥底に染み付いた誰にも消せない“魂”のような匂いまで嗅ぎ分けて件の男を探す。

見つけた。が、そこに男の姿はなかった。バーガーがそこにポツリと残っているということはおそらく僅かな時間離席しているだけだろう。

(戻るまで隣の席で待つか)

席でかの男を待つためには何か“商品”が必要だろう。
少なくとも無賃で席を提供してくれるほど心が広い店ではないようだ。

「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですか?」

ニッコリと営業スマイルを向ける店員。
ボロ布を巻いて軽く隠した|改造銃《デカブツ》を傍に立て掛けてイーブンはメニューに目を滑らせる。
バーガーにチキンにナゲット。
入店前から匂いでわかっていたことだ。菜食主義者向きの店ではない。

「ソーダ。一番小さいのでいい。」
「かしこまりました!他にご注文はありますか?」

期間限定のメニューをイーブンに見せつけながら店員はニコニコと笑う。

「ない」

その二文字で会話を一方的に終わらせると、受け取り口へと促されるまでもなく自ら歩む。

(肉は要らん、合成でもな)

依頼でもない限りこんな店には用はない。バーガーショップにおいて彼は|異分子《outsider》だ。

​───────​───────

ウサギの耳はなぜ長い?
敵の位置を正確に知るために。
微かな情報も逃さないように。

「......また...殺人鬼の...」

ガヤガヤと騒がしい店内で、ひとつ。噂話程度でも情報は情報だ。
耳と意識をそちらへ向ける。

「どうせまた死体が増えると思ったよ。んで、場所はやっぱり?」
「そ、ダストエリアの“スクラップ・ラビリンス”付近。」
「馬鹿な奴らも結構いるもんだな。俺なら事が治まるまで絶対近づかねぇよ」
「そもそも誰が“|最下層《ダストエリア》”に好きで近づくかっつーの」

噂話にしては詳細な情報だ。
直接彼らに聞き込むか、と腰を上げようとした時、ぢりりと燃えるような悪臭を彼の鼻は察知した。

(…ようやく来たか)

目当ての男が近づくにつれて、匂いは濃くなる。
隣の椅子が金属音を鳴らし、かの男はぼんやりとバーガーを見つめる。

真っ青な面。深い隈。死者のように濁った目。
とてもじゃないが、復讐者にも、健常者にも、見えない。

「……アンタ、ヒドい臭いだな」

濁った目がバーガーからゆっくりと時間をかけてイーブンへと向けられた。

「……最近風呂に入る気力もなくてな」

そう言って彼は店の床へと視線を移す。そのまま滑り落ちるように席を立った。

「体臭の話じゃない。……|俺《ウサギ》は鼻が良い。お前の奥底でメラメラと滾る|もの《臭い》まで良く分かる」

その場を立ち去ろうとしたキョウリンは、その言葉にぴたりと立ち止まる。
落ち窪んだ目には驚愕の色がついていた。

「……アンタ…どこで…それを」

そう言うキョウリンに言葉を返さず、イーブンは外を眺める。
今日も空は灰色だ。骸の海が音を立てて降り続いている。

「火勢は十分だが、長続きしない」

キョウリンの懐をちらりと覗き込めば、ズボンのポケットにフルーツナイフ程度の刃物が情けなく隠れている。復讐に使うエモノとしては随分と頼りない。

「俺の火種を貸す、焚べて足しにすればいい」

|改造銃《デカブツ》に巻いたボロ布をほんの少しだけ解く。

覗いてみえるのは|ノルスピッシュL50-50《フィフティー・フィフティー》
大口径の対戦車ライフルにパイルバンカーと擲弾発射器を括り付けたバカデカい改造銃。
そしてイーブンの“仮の名”でもある。

その迫力ある改造銃にキョウリンは息を呑む。
圧倒的な佇まいの巨大な改造銃なんて初めて見たのだろう。

「そ、それって俺を手伝ってくれるってことか…!?なんで…どうして!見ず知らずのあんたが!」

狼狽えたように声を揺らし、キョウリンはイーブンに縋り付く。
軽く肩を押し、縋り付く彼を引き剥がし、|改造銃《デカブツ》を肩に担ぐ。

「…ただ少し、すぐにも鎮火しそうな焚火が気になっただけだ」

彼自身、復讐を否定する理由は無い。
特段勧める理由もない。
ならば、そこにある鎮火しそうな焚火にイーブンの復讐という名の尽きぬ炎を焚べるだけだ。

無意識にイーブンの指先はドッグタグの束を撫でた。
彼の首にかけられたいくつもの名前が刻まれたそれは生前の朧げな記憶を復讐の豪炎へと転化させる。

自分の真名が刻まれているやもしれないドッグタグは誰にも聞こえぬ金属音を鳴らし、揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリバー・ハートフォード
 うーんこのバカみたいなパティと合成マスタード、久しぶりのバーガーは舌に効くねぇ……ま、本官に舌は残ってないんだけどさ。

 【POW:客として潜入】だ。対象の傍に座って小粋なトークで近づくぞ。そうピリピリすんなって、どう見てもタダのお巡りさんだろ? 
 座れよ、バーガーがまだ残ってるんじゃねぇか? シェイクぐらいおごるぜ。とにかく食っといた方がいい。何かやらかす覚悟を決めるにしろ、しないにしろ。

 オマエ、眼が無くても分かるくらいにはキてるぜ。オレから言えるのは、人生を棒に振るタイミングはじっくり選ぶのがベストってコトだけさ。オマエが覚悟決めるなら、それもアリだろうよ。なぁ?

(アドリブ等々全て歓迎)



●|小粋《ジャンク》なジョークとペトリコール

ファストフード店には似つかわしくない客だ。
小汚く顔色の悪い男。
ぼんやりとしているようでその周りの空気は地獄のように淀み、ビリビリと気が張っていて混み合っている店内とはいえとてもじゃないが隣に座る気分にはなれない。

ぎぃ、とそんな男の隣の席が音を立てて埋まる。

「いやー、こんなに蒸した日に混み合った店内はキツイねぇ……本官、風通しの良さには自信があるんだけどさ。」

最悪の空気を掻き消すかのように、オリバー・ハートフォード(|殉職巡査《ワイト・コップ》・f39597)のトークは今日も小粋に弾んでいる。

しかし、当然対象は自分に向かってそのトークが投げかけられているとは思っていない。いや、耳に入ってきてさえいないのかもしれない。
キョウリンはただぼんやりとバーガーを見つめ続けている。

オリバーはトークの空振りに一つ唸ると自身のバーガーの包みを剥がし、その“大きな”口で一口頬張る。

「うーんこのバカみたいなパティと合成マスタード、久しぶりのバーガーは舌に効くねぇ……ま、本官に舌は残ってないんだけどさ。」

じとり、キョウリンの視線がバーガーからオリバーへと移る。

「……俺に話しかけてんのか?さっきからごちゃごちゃ喋りやがって」
「そうピリピリすんなって、どう見てもタダのお巡りさんだろ?」
「サツに話しかけられるようなことはしてねぇよ」

そう言うとキョウリンは長く細いため息を吐き、椅子から腰を上げた。

「座れよ、バーガーがまだ残ってるんじゃねぇか?シェイクぐらいおごるぜ。」
「うるせぇなァ!こっちは今のんきに飯食ってる気分じゃねぇんだよ!」

当たり散らすような怒鳴り声に、一瞬店内がシンと静まり返る。

「......兄ちゃん、一旦冷静になって骨を休めな。」

オリバーはキョウリンの肩に手を置き、椅子に座り直すように促した。
さっきまでの気迫はどこへやら。
そう強い力を込めている訳でもないのに、彼は椅子に崩れるように座り、またじっと虚ろな目でバーガーを見つめた。

「とにかく食っといた方がいい。何かやらかす覚悟を決めるにしろ、しないにしろ。オマエ、眼が無くても分かるくらいにはキてるぜ。」

オリバーはスっと彼の近くへとバーガーを移動させる。
キョウリンはそのバーガーを手に取り、ゆっくりと包装紙を剥いて口元に運んで、やめた。

先程よりも顔色が悪い。胃と精神の方が食べ物を受け付けてくれないのだろう。
そんな彼に食事を強要するほどオリバーは人をかけ離れてはいなかった。

キョウリンの懐に隠された刃物がちらりと見えた。
その小指みたいなナイフで復讐を果たそうとしているなんて、サイバーザナドゥでは愚か者と呼ばざるを得ない。
だがそれでも復讐の炎を絶やさないなんて、さぞ彼は彼女を愛していたのだろう。

オリバーは自分のバーガーの残りを咀嚼し、環推へと流し込むと警官帽を被り直した。

「オレから言えるのは、人生を棒に振るタイミングはじっくり選ぶのがベストってコトだけさ。」
「……アンタも、知ってるのか。」
「“朝に紅顔ありて夕べに白骨となる”…物騒な世の中とは言えど、ひでぇ話だ」

サイバーザナドゥで死体が上がることは珍しいことではない。
けれど、朝に出かけた愛しい人が原型もないほどの遺体で見つかったとなれば同情しない人はそういないだろう。

「……お巡りさんは、俺の復讐を止めにきたってわけか」
「いや、オマエが覚悟決めるなら、それもアリだろうよ。なぁ?」

そう彼に言うと、彼の緊張やピリピリとしたムードはだいぶ落ち着いたように感じる。
警官相手だから、余計に気が立っていたのだろう。

ごちそーさん。オリバーは包装紙をクシャリと丸めてゴミ箱へ捨てる。
少しは冷静に考えられるようになったなら、一旦お巡りさんの役目はおしまいだ。

「もう一度言うぜ。“人生を棒に振るタイミングはじっくり選ぶのがベスト”だ。時間をかけて考えな。」

お巡りさんは外で待っててやっから。

そう言うとオリバーはキョウリンの隣の席から立ち上がり、そのまま店の外へ出た。

空は灰色。
サイバーザナドゥでは|有害物質《骸の海》が雨となり地上へ降り続いている。

「……いやぁ、今日も雨が骨身に染みるぜ」

ま、本官には身なんて残ってないんだけどさ。
呟いた小粋な死人ジョーク。誰に言ったわけでもないその言葉は、雨音とペトリコールにかき消されていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎

客として潜入、正体は隠し接触を行う
復讐に手助けする方針。寧ろ自分を雇えとアピール
昔アンズの客だった事にして取り入ろう
【演技】【言いくるめ】フル活用

ニイちゃん、それ食わねえなら貰っていいかい?

……アンズの事は聞いたぜ
オレもあの娘は|置きにいりの嬢《おキニ》でさ、まー最近はトンと
ご無沙汰だったがな!足を洗うんじゃねえかって話も聞いてたからよ……
わかるかい?オレが此処に来たのは偶然じゃねえ、
アンタと会うために来たのさ

「ケジメ」ってのは必要だ。
殺るんならオレも乗るぜ?まあ報酬は頂くが……
さっきのハンバーガーで十分だ。
オレはロック。ロック・ロウだ。ちょいとお茶目でお節介な傭兵さんさ!



●ハンバーガーと感謝と復讐と

愛する人を失った男、キョウリン。彼は、窓ガラスに垂れる|水滴《骸の海》を眺めていた。
何を思って、流れ落ちる雨水を眺めているのかは誰にも分からない。
本人すら自分が何を考えているのか、わかってなどいないのかもしれない。

「ニイちゃん、それ食わねえなら貰っていいかい?」

ロウガ・イスルギ(|白朧牙虎《我》・f00846)は彼の目の前にあったバーガーを指さす。
突然隣から話しかけられたことに驚き、深い隈の刻まれた眼を瞬かせロウガを見る。

数秒、考えた後キョウリンは何も言わず目の前のバーガーをロウガの前にスライドさせた。

包装紙を解けば、シンプルなバーガーが目に入る。
バンズにケチャップ、合成マスタード、合成パティ。
大きく一口かぶりつけば、合成パティはボソボソと固くなり、ケチャップと合成マスタードがバンズに染み込んで冷たくなっている。
おそらく何時間も放置された結果だろう。あまり味わうことなく、二口目、三口目と胃に収めていく。

くだらない誰かの雑談の声。雨音。フライヤーのタイマー。
そして二人の間に流れる沈黙。

沈黙は一人の女の名前によって砕かれる。

「……アンズの事は聞いたぜ」

キョウリンは息を飲んだ。まさか彼女の名前が彼の口から飛び出すとは思ってもいなかったのだ。

「どこで、その名前を……」
「オレもあの娘は|置きにいり《おキニ》の嬢でさ、まー最近はトンとご無沙汰だったがな!」

合点がいったような顔で、キョウリンは頷く。
ロウガの演技も、言いくるめも全てが上手くいっている。

「足を洗うんじゃねえかって話も聞いてたからよ……」

その言葉をロウガが口にした時だった。
はらり、キョウリンの目から大粒の涙が流れ落ちた。

「アイツ…そんなことを、言ってッ……クソッ…俺、なんで守ってやれなかったんだ…!」

流れ落ちる涙は止まらない。
ついには嗚咽混じりになり、大の大人が声を上げてバーガーショップの中で泣いている。

周囲はその異様な光景に明らかに動揺しているようだったが、ロウガの演技は崩れない。
キョウリンの背を叩き、さらに言葉を重ねる。

「わかるかい?オレが此処に来たのは偶然じゃねえ、アンタと会うために来たのさ」
「おっ、俺に…?……あぁ、でも、なんだか…わかる気がする」

これは偶然ではなく必然の出会いだと。
彼の涙が止まる。

「『ケジメ』ってのは必要だ。殺るんならオレも乗るぜ?」

そう言って、カウンター席の下で彼の銃“アグネヤストラ”をチラつかせる。
本物の銃など兄貴分から触らせてもらったこともないのだろう。
突然目の前に現れた銃火器にキョウリンは言葉を失った。

「ほ、本当か!?本当に手を貸してもらえるのか!?」
「ああ。まあ報酬は頂くが……」
「いくらだ!?いくらで助けてくれるんだ!?」

彼は半狂乱になりながら懐から財布を取り出す。
外から見ただけでもわかるように、その財布は薄かった。
その薄い財布から数枚の札束と小銭、各種カードや身分証までなんでも彼は文字通り財布をひっくり返してロウガに縋った。

よほど大切な女だったようだ。
その光景に、ロウガはフッと演技を崩し頬を緩ませた。

「報酬は、さっきのハンバーガーで十分だ。」

そう言って、金やカードを彼の財布に戻してやる。

「ぅ…あ…ありがとう…本当に…!ありがとう!」

キョウリンは再び声を漏らして啜り泣きながら椅子から立つと、埃や油で汚れたジャンクフード店の床に額をつけて何度も感謝の言葉を述べた。

「おいおい…!何もそこまでするこたぁないだろ…!」

先ほど以上に異様な光景に客も店員も目を丸くしてこちらを凝視している。
ロウガは慌てて肩を持つようにしてキョウリンを立たせた。

立ち上がっても尚、彼は頭を深々と下げロウガに心からの感謝を伝えた。

「…本当にッ、ありがとうございます…!俺、なんてお礼していいか…」

心からの感謝の現れだろうか。先ほどまで砕けていた口調が固くかしこまったものへと変わっている。

「堅苦しいのはよそうぜ、ニイちゃん。礼ならハンバーガーでいいって、さっき言ったろう?」

マズルを歪めてニッと笑ってみせる。

「あっ…まだ名前を聞いてなかった…アンタ、名前はなんて言うんだ」
「オレはロック。ロック・ロウだ。ちょいとお茶目でお節介な傭兵さんさ!」

雨は未だ晴れず、空には分厚い雲がかかっている。
そんな鬱屈とした街の片隅で復讐劇が今始まろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リアラ・アリルアンナ
まずは彼の復讐対象について調査しましょう
悲しいかな、この世界で人の命が不当に奪われる事は日常茶飯事ですが、
それでも遺体を態々ミンチにするケースは異常です
加えて市民達が「あの殺人鬼に殺された」と口を揃えている事から、対象は同様の手口で何人も手に掛けていると推測できます
同一犯と思われる過去の事件を洗っていけば、特定はそう難しくないでしょう
念の為、市民アンナの側にも標的とされる理由が無かったか確認します

粗方調査が済んだら、市民キョウリンの元へ向かいましょう
無論、彼に協力するためです

「こんにちは、市民!お隣よろしいですか?」

敵は少なくとも二人の市民の幸福を踏み躙った反逆者
決して許すわけにはいきません



●全ての市民に幸福を、反逆者には抹殺を

サイバーザナドゥはリアラ・アリルアンナ(リアライズユアハピネス・f36743)の考える“幸福”からは遠く離れた世界かもしれない。

|有害物質《骸の海》降る暴力的で退廃した近未来都市。

悲しいかな、この世界で人の命が不当に奪われる事は日常茶飯事。
それでも遺体を態々ミンチにするケースは異常であると、市民の親愛なる友人は判断した。

“あの殺人鬼に殺された”

市民は口を揃えてそう言っていた。

“あの”殺人鬼、と死体から特定できるということは、対象は同様の手口で何人も手に掛けているとリアラは推測した。

『対象に関連する情報を検索、分析を開始――』

ユーベルコード“|行動傾向分析《トレータラス・プロファイリング》”を発動し、電脳空間のアーカイブへとアクセスする。

十数件の過去のニュースの記録。
被害者は老若男女が勢揃いし、職業もバラバラ。
事件発生時刻も早朝から深夜まで散り散りになっていて、計画性のある連続殺人とは考えにくいものだった。
ただ、一貫して事件はとある|最下層《ダストエリア》の近くで起こっていた。

電脳空間アーカイブの奥の奥に打ち捨てられていたとある監視カメラの映像。
早朝のサイバーザナドゥは薄暗く、黒にも見える雨が降り続いている。
画面端から女性が現れる。映像が薄暗く判別が難しいが、おそらく市民アンズであろう人物だ。
市民アンズは至って普通に歩を進め、画面端から画面端へと消えようとしていた。

銃声が何発か鳴り響く。撃たれた市民アンズが胸を押さえながら仰向けに倒れる。
次の瞬間、破裂音。市民アンズは焦げたミンチへと姿を変える。
炸裂弾。遺体がひき肉になっていたのは炸裂弾が使用されていたからだった。

念の為、市民アンズの側にも標的とされる理由が無かったか確認する。

十数件のニュースの記録の一番最新のもの。
殺人鬼に関する記録はほとんど掲載されていないにも関わらず、彼女のプロフィールは詳細に綴られていることに秩序の乱れを感じざるを得ない。

本名:アンナ・エンドウ
年齢:24
職業:ソープ嬢

ソープ“モモハナ”の従業員の一人で源氏名は“アンズ”。
本人も源氏名を気に入っていたことから、本名よりそちらを名乗ることの方が多かった。
趣味は歌と写真。歌手を夢見て田舎から都会へと出てきたが夢やぶれ、ソープ嬢となった。
最近はソープに出勤することが少なくなり、その代わりに再び歌手を目指してトレーニングに励んでいるようだった。

残念なことに、標的とされるような理由はニュースの記録にも電脳空間アーカイブにも残されてはいなかった。
彼女はただの“市民”にすぎなかった。

「犯人は許されざる反逆者ですね」

粗方調査が済むと電脳空間アーカイブとの接続を切り、リアラはポツリと呟く。

幸福とはあまねく市民の義務であり、権利だ。

『|管理者《マザー》』の遺志を継ぎ、市民の幸福を啓発することが使命のリアラにとってこの事件の犯人は“反逆者”であり“抹殺”の対象だ。


リアラは、その足をバーガーショップに向け歩き出す。
市民キョウリンへと接触するためだ。

自動ドアが開き、軽快な入店音が店内に響く。
今日もバーガーショップは食事によって幸福を満たそうとしている市民で混み合っている。

その中で一人、窓際のカウンター席でポツンと市民キョウリンは幸福指数の低そうな顔を項垂れて座っていた。

「こんにちは、市民!お隣よろしいですか?」

いつも通り元気よくリアラは市民キョウリンへと声をかける。
無論、彼に協力するためだ。

市民キョウリンはちらりと数秒間こちらを見ると、再び項垂れた。
返事がないということは、OKということなのだろう。

隣の席へ腰掛けるとリアラは単刀直入に話を切り出した。

「市民アンズとあなたについて調べさせてもらいました。敵は少なくとも二人の市民…あなた達の幸福を踏み躙った反逆者、決して許すわけにはいきません。リアラはあなたに協力します。」

そう言って市民キョウリンに微笑む。
市民キョウリンは驚いたように目を見開いた。

「ア、アンタ、それって…俺の復讐に協力してくれるって事か?」
「はい、リアラは市民キョウリンの幸福と反逆者の抹殺のため、あなたの復讐に協力します!」

共に手を取りあえばきっと反逆者の抹殺は完遂できるだろう。
手を取り合うことはとても幸福なことなのだから。

それが敬愛する『|管理者《マザー》』の遺した遺志を継ぐリアラの使命なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
【POW】
キョウリンが席に戻ってきたところで隣にすっと座って話しかける。

あなた? キョウリンさんってのは。大事な人を再起不能までに「壊されちゃった」哀れなヤクザさん。

気が立ってるところにそんなことを言われたらおそらく反射的に殴りかかってくるだろうけど、見切って掌で受け止める。相手は私の石のような硬さに多分驚くでしょうな、本当に石なんだけど。

こっちはあんたみたいなのを相手に商売してんだ、って微笑みながら運命の輪が描かれた自前の名刺をテーブルの上に置く。

今ならお安くしとくよ。そうだな……せっかく注文したのに全く手をつけられてないそこのハンバーガーとかとはどうよ?



●|運命の輪《ホイール・オブ・フォーチュン》は回りだす

嗚呼、また胃から何かが迫り上がろうとしている。
うまく働かない脳みそで何人もの人間と会話したんだ。人酔いのようなものを起こしてもしょうがないか。
フラッシュバック。アンズとの幸せだった日々の情景と交互にあの腐肉が目の裏に現れる。
再び席を立ち、トイレへと。
流石にもう吐くものもないか。それでも胃は無理矢理にでも何かを吐き出させようと喉奥を開こうとしてくる。

汚してもいないのにトイレの水を流す。

そうしてキョウリンが席に戻ると、スッとごく自然な様子で隣に座る焦茶色の肌を持つ女性がいた。カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)だ。

「あなた? キョウリンさんってのは。大事な人を再起不能までに『壊されちゃった』哀れなヤクザさん。」

窓の外を見つめていたキョウリンが呟く。

「壊された…だと…」

アンズを物扱いしやがって。哀れだと?ふざけるな。テメェに何がわかるっていうんだ。俺の、アイツの、何がわかるってんだ。どうせテレビかなんかで見たんだろ。可哀想だとか、そんなくだらねぇ理由で話しかけてきたんだろ。それともただの興味本位か?大事な人を壊されてどんな気持ちですか?なんて聞きにきたんだろ!ふざけるな!舐めやがって!

キョウリンの脳内でぐるぐると回る言葉がそのまま口を出る。
カーバンクルを口汚く罵ると、拳を強く握りしめその勢いのまま彼女へ殴りかかった。

カーバンクルはそれを見切り、掌で受け止める。
パシン、と大きな音が鳴る。
固い。掌が、固い。
まるで石でも殴ったようだ。
微笑んだ表情を変えないどころか、彼女はその掌で拳を喰らってもびくともしなかった。
キョウリンの顔に驚愕の色が浮かぶ。

(多分驚いてるんでしょうな、本当に石なんだけど。)

彼女はクリスタリアン。血塗られたジャンクパーツのお嬢様。
一般人の拳程度、彼女にとって蚊に刺された程度でもないのだ。

ジンジンと痛む拳にキョウリンは強制的に正気へ引き戻される。

「まあ落ち着きなよ、ほら座り直して」

先ほどまでキョウリンが座っていた席をポンポンと叩く。

キョウリンは、あっけに取られたような、放心したような様子でストンと椅子に座った。

「こっちはあんたみたいなのを相手に商売してんだ」

ニコニコと微笑みながらカーバンクルがテーブルの上に置いたのは名刺がわりに使っている十番目のタロットカード“運命の輪”

“運命の輪”ホイール・オブ・フォーチュン

それは人智を超えた宇宙の真理を表すカード。
それは物事の変化を表すカード。

幸いにも、カーバンクルは正の位置でキョウリンにその“名刺”を見せた。
思いがけない好転。幸運。そして、チャンスの訪れ。

キョウリンはタロットカードを見て、そして先ほどのカーバンクルの言葉を思い返した。

「俺みたいなの…復讐に加担してくれるってことか?」
「そ、まータダじゃないけどね。今ならお安くしとくよ。」
「い、いくらだ?いくら払えばお前を雇える?」

そう言って彼は財布の中身を全てカウンターの上に広げた。

キョウリンは弱い。
数多の敵と戦ってきたカーバンクルにはそれがわかる。
先ほどのパンチの威力も低く、背も痩せていて、拳を振りかぶる姿も素人そのものだった。
彼自身も己の弱さを自覚しているのだろう。
だからこそ、なんとしてでもカーバンクルを、鉱石のように固く力強い彼女を引き入れておきたいのだろう。

「そうだな…」

カーバンクルはキョウリンの財布の中身を眺める。
少ない。小銭と札が数枚ずつ。あとは個人IDなどのカードやレシートなど。
そういえば、彼はヤクザというよりその子分。
その日暮らしていくだけの金くらいしか持ち合わせていないのが普通だ。

ほんの少しだけ考えて、カーバンクルは小銭を数枚つまみ上げる。

「ちょうど腹が減ってた頃なんだ。ハンバーガー代だけ貰っとくよ」

そう言うと彼女はさっさと注文の列に並んでしまった。

|運命の輪《ホイール・オブ・フォーチュン》

それは宇宙の真理

人間にはどうすることもできない運命を暗示するカード

まさにカーバンクルがキョウリンにとっての運命の輪となる事を暗示しているのだろうか。
それとも、この一件がカーバンクルの運命を変えることを暗示しているのだろうか。

いずれにせよ、それは人間には知り得ないことだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『スクラップ・ラビリンス』

POW   :    脆い壁や瓦礫の山を崩しながら進む

SPD   :    狭い足場を器用に走り抜ける

WIZ   :    現地の住民から安全なルートを聞き出す

イラスト:九印

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


ここはスクラップ・ラビリンス。

頻発する殺人事件の現場の周辺。

こんな所にいるのは本当にこの世界に居場所がなくなった者たちくらいだろう。

サイバーザナドゥの最下層。
九龍城とはほど遠い、無計画で違法な増築と度重なる破壊によって作り上げられた“ガラクタの迷宮”

脆い壁に鉄屑が雑多に積まれた瓦礫の山。
腐った足場の下には罠のように尖った鉄骨。

足場は狭く、ボルトが緩んで今にも外れそうだ。

ここを抜けなければ、犯人の元へは辿り着けない。

あぁ、そうそう。ここでかの男は死んだのであった、とグリモア猟兵は言っていた。

瓦礫に飲まれ、身動きも取れず、何日も放置され。
そうして憔悴しきった所に、アンズを殺した犯人が一発ズドンと。

キョウリンはここを抜けることができなかった。

ただ全ては予知である。猟兵がいれば未来は変わるかもしれない。



《マスターより》

第一章の結果により、キョウリンも猟兵と共に復讐へと向かいます。
しかし、一般人の彼にスクラップ・ラビリンスを抜ける力はありません。
猟兵が“一人でも”彼をサポートすればここを安全に抜けることができます。
サポートする猟兵がいなかった場合、第三章で彼が登場することはありません。
皆様の素敵なプレイングお待ちしております。
貴方・あなた
“彼をサポート”します。

 ユーベルコード、技能、装備アイテムを駆使し、なるべく負傷や怪我の無いよう、安全を第一に考えて慎重に慎重を重ねて行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。多分。
 また、依頼の成功のためなら、多少の公序良俗に反する行動は厭いません。
 あとはミヒツ・ウランバナMSにおまかせ。よろしくおねがいします!



●わたしはあなた、本当のわたし

サイバーザナドゥの最下層。スクラップ・ラビリンス。
有害物質降るそこは九龍城未満。屑鉄の打ち捨てられたゴミ山と区別がつかない。

無計画で違法な増築と度重なる破壊によって作り上げられた“ガラクタの迷宮”の前に、嗚呼なぜ赤いランドセルが見えるのだろう。
なぜツインテールが風に揺れているのだろう。
なぜ美少女女子小学生がそこにいるのだろう。

貴方・あなた(わたしはあなた、あなたはわたし・f38681)はスクラップ・ラビリンスを前に怖気付くキョウリンに向かって言う。

「復讐かぁ……いいね。わたし、そういうの大好きだよ」

およそ女子小学生の口から出る言葉とは思えないそれにギョッと目を丸くする。

「嬢ちゃん…あんた自分が何言ってるのかわかってんのか?この先は危険だぜ。悪いことは言わねぇからとっとと帰った方がいいぜ。じゃないと怪我だけじゃすまねぇ」

あるいは嬢ちゃんも殺人鬼に、とそこまで言ってキョウリンは言葉を区切った。

またフラッシュバックがきたのだろう。
青い顔をさらに青くして、口に手を当てている。

「うーん、わたしってそんなに頼りなく見える?それに君が美少女だったらもう少しだけ助けがいがあったんだけどなぁ…残念だなぁ」

女性が大々々好きな|完璧百合《ガチレズ》のあなたは小さくため息をつく。

「男でも復讐のサポートはちゃんとしてあげるから安心してよ。復讐は過去の鎖を断ち切り未来に進むためにあるからね。」

そう言うとランドセルの中からフック付きワイヤーを取り出す。
グルングルンと遠心力で勢いをつけていく様子は素人やか弱い女子小学生には決して見えない。

「じょ、嬢ちゃんアンタ何者なんだ…?」
「まぁ、黙って見ててよ。すぐにわかるからさ」

勢いのついたワイヤーをその手から離すと、勢いよくスクラップ・ラビリンスの方へ飛んでいく。

しかし、そのフックはガラクタやボロい看板に引っかかることはなく、あろうことか虚空に先端が突き刺さった。

「さあ、行くよ。ちゃんとついてきてね」

あなたはキョウリンの手を掴み、勢いよく走り出すとワイヤーを使ってまるで振り子のようにガラクタの上に飛び乗った。
あなたの“視力”で確認できる最も安全な場所に飛んだおかげで足場は固く、グラグラと揺れ動いたりはしなかった。

あなたはその身軽な体でスカートを揺らしながら、安全な足場をひょいひょいと渡っていく。

キョウリンも彼女の後ろについて歩き、錆び付いて今にも崩れそうな階段やまるで落とし穴かのような鉄骨の隙間を抜けていく。

が、しかし予知とは必ず当たるものなのか、それともこの汚染された雨のせいか。
キョウリンは水溜りに足を取られ、バランスを崩す。

このままスクラップ・ラビリンスを転げ落ちればまず助からないだろう。

「|命令《オーダー》!さあ、欲望のままに従うがいい。キミの中の具現化された欲望をわたしに見せてよ。」

『わたしはあなた、本当のわたし』

キョウリンの中の欲望。それは、あの殺人鬼を必ず殺すという強い怒りの欲望だった。
こんなところで復讐が潰えてなるものか。こんなところで終わってなるものか。

あなたのユーベルコードによって引き出されたキョウリンの欲望は彼に力を与えた。

落ちていく最中、体力も気力も底をついていたはずの身体が動き出す。
恐るべき反射神経で確実に掴めて安全な鉄骨をその手に掴み、身体を引き上げる。
鉄骨を筋力で登っていく。それはあなたのユーベルコードがなければできなかった事だろう。

転げ落ちたところから足を滑らせたところまで、ほんの数秒で彼は戻ってきた。
あなたはそこで笑顔を浮かべて佇んでいる。

「……なあ嬢ちゃん、今のは…?」
「だから言ったでしょ。すぐにわかるって」

そう言ってあなたはクスリ、と笑う。

「さあ先に進もうか。復讐を成し遂げるために。徹底的に、根絶やしにするまで」

そう言って彼女はまたスクラップ・ラビリンスを歩き出す。

キョウリンは曇天の空を少しだけ眺めた後、また彼女の後ろをついて行くように歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロウガ・イスルギ
アドリブ・連携歓迎 SPD選択

ニイちゃんには付いてくるな、と言いたいトコだが……
どうせ付いてくるんだろ。戦力外、いや足手纏いでしかねえのによ。
案外アンズ殺し自体がアンタを誘き寄せるエサなのかもしれねえ……
わかるか?アンタが|標的《獲物》の可能性も捨てきれねえんだ。
ココじゃアンタの命、ハンバーガーで言ったらピクルス位の価値しかねえぞ
覚悟は出来てるか?ハイかYESで答えろ

UC不空羂索使用、複製したフック付きワイヤーは探索に使用
その他足場の補強や崩れそうな箇所の押さえ、命綱、登攀等
キョウリンには悟られない範囲で

何だかんだ言いつつキョウリンが落ちたりしたら助けるが、な
オレは案外好きなんでね、ピクルスは



●頼りないピクルスを飲み込んだから

錆びた金属とアスファルトが踏みしめられて耳障りな音が靴の下で鳴る。
|亜鉛鉄板《トタン》の上を油の浮いた虹色の水が流れ落ちる。

スクラップ・ラビリンスを訪れた ロウガ・イスルギ(|白朧牙虎《我》・f00846)はこの迷宮をどうやって攻略するか思案しながらちらりと後方を伺う。
そこには、同様にどのようにゴミ山を攻略するか悩み唸るキョウリンの姿があった。

(ニイちゃんには付いてくるな、と言いたいトコだが……どうせ付いてくるんだろ。)

戦力外、いや“足手纏い”でしかねえのによ。

バーガーショップで見せた気のいい傭兵という姿はあくまで“演技”に過ぎない。
“ここ”からは本物の傭兵の領域だ。敵の元へ向かう道中でさえ、戦場といっても過言ではない。
一般人が立ち入るべきではないそこに無策で飛び込もうとしている|キョウリン《一般人》は正直こちらにとっては足手纏いだ。お荷物だ。足枷だ。

ロウガは傭兵としてこれから起こるかもしれない“最悪”を想定する。

「案外アンズ殺し自体がアンタを誘き寄せるエサなのかもしれねえ……わかるか?アンタが標的の可能性も捨てきれねえんだ。」

アンズを殺したのは、怒りや悲しみで自暴自棄になったキョウリンを殺すための下準備でしかない。
その可能性もこんな廃れた世界じゃ捨てきれない。

「そんな事ッ…」

キョウリンは考えてもいなかったのだろう。
口をパクパクと何度か動かしても何も言葉は出ず、じっと下を向いて押し黙ってしまった。

「ココじゃアンタの命、ハンバーガーで言ったらピクルス位の価値しかねえぞ」
「…わかってるさ」

数秒の間の後返ってきたのは頼りないか細い返答だった。
数十分前に食べたハンバーガーを思い出す。
合法ピクルスは食のアクセントにしては心細い薄さだった。

「覚悟は出来てるか?ハイかYESで答えろ」

退路はもう残されていないのだ。
アンズが死んだその時から。
ロウガがハンバーガーを飲み込んだその時から。

「…か、覚悟なんざ最初から決まってら」

そう言ってキョウリンは先陣を切って歩き出そうとする。
その細くもしっかりと伸びた背筋を見てロウガはひとつ頷く。

|不空羂索《ラウンドアップ・ストラングラーズ》

先端にフックのついた頑丈かつ軽量なワイヤーを複製する。
時に裁きの縄となるグレイプニルは、今回はロウガの救いの手になる。

先行しようとするキョウリンをすぐに追い越し、伸縮するワイヤーで基盤の安定している壁や、電灯のちらつく看板にガシリとひっかけ上へ上へと登っていく。

「ほら、こんなので根を上げてたら永遠にここを抜けられねえぜ」
「…クソッ、わかってるよ」

キョウリンの頬から大粒の汗が伝う。
それにしても青い顔だ。体力的に、やはりここを一人で抜けるのは難しいのだろう。

腐った床はあえて先にぶち抜いて、キョウリンがうっかりと踏み抜いてしまわないように。
崩れかけの壁はしっかりと押さえつけ、足場の悪い箇所には命綱を張る。

あくまでもキョウリンには悟られないように。

幸運なことに彼はスクラップ・ラビリンスを突破するのに必死な様子で、ロウガの気遣いに気づく様子はない。

(案外喰らいついてくるじゃねぇかニイちゃん)

振り返ってキョウリンの様子をうかがって、そう思った時だった。

|亜鉛鉄板《トタン》の上を油の浮いた虹色の水。
水よりも油の比重が大きくなった水溜りに、キョウリンが足を突っ込む。

足を取られバランスを崩し、ガラクタの山から身が投げ出される。
彼が落ちる先はガラス溜まり。
瓶や窓ガラスであっただろう鋭いガラスがキョウリンの体に突き刺さることになる。

ロウガは脱兎の勢いで駆け出し、跳躍した。
落下していくキョウリンの身体を受け止めると、グレイプニルを頭上に向かって射出し、太い鉄骨に巻き付けて固定する。

そのままグレイプニルを収縮させて、上へ上へと登っていく。
鉄骨の上に至ると、キョウリンを降ろしてやる。
青い顔をさらに青くして、冷や汗が止まらないようだ。
足が震え、まともに立てない様子だがロウガの方を見上げて、震える声で笑う。

「…へへッ…なんだかんだ言ったわりに、助けてくれるんだな…ありがとう、感謝するぜ」
「オレは案外好きなんでね、ピクルスは」

その的を射ない返答にキョウリンは首を傾げる。

「へっ、なんでもねぇよ」

その様子を鼻で笑うと、キョウリンの肩を持って立たせてやり、背をバシバシと叩きスクラップ・ラビリンスの奥へと歩を進めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リアラ・アリルアンナ
ダストエリアという時点である程度予想はしていましたが、想像以上に酷い道のりですね…
これでは一流の戦士であったとしても、ひとりで目的地に辿り着く事は難しかったかもしれません
しかし市民、今の貴方にはリアラ達がついています!
憎き殺人鬼を見つけ出すまでは、必ずお守りしますよ!

まずは周囲の地形の情報検索を行い、危険箇所を把握・共有します
破壊しても周囲に影響がない程度の障害であればプラズマ警棒とZAPガンで除去しますが、
そうもいかない所『汝の隣人を愛せよ』の出番です
周辺の地形そのものに協力していただき、安全に通行させてもらいましょう
念の為落下物等を防ぐ盾を市民に貸し、また、はぐれないように気を配ります



●幸福へ至る道

最下層に存在するここはいつから“ダストエリア”と呼ばれるようになったのだろう。
このゴミの山はいつからここにできて、どれほどのゴミが積み重なっているのだろう。

それはこのダストエリアにゴミを運ぶ業者でさえ知らないのだろう。

|最下層《ダストエリア》に住む市民の個人情報と同様に誰も気にする人がいないのだから。

「ダストエリアという時点である程度予想はしていましたが、想像以上に酷い道のりですね…」

リアラ・アリルアンナ(リアライズユアハピネス・f36743)は足元に転がる、汚れとも錆ともわからぬ茶色に汚れた缶を踏まないように避けながらそう呟く。

「ああ…見ろよ、あそこの壁なんて今にも崩れそうだ」

キョウリンが言ったそばから、遠くのコンクリートの壁が崩れ落ちた。

サイバーザナドゥの“自然”と有害物質の雨が作り出した天然の罠。
道なんてものは存在せず、目の前のゴミをかき分け、踏みしめて歩むほかないこの“山”はまさにスクラップ・ラビリンスと呼ばれるに相応しい過酷さだった。

「これでは一流の戦士であったとしても、ひとりで目的地に辿り着く事は難しかったかもしれません…しかし市民、今の貴方にはリアラ達がついています!憎き殺人鬼を見つけ出すまでは、必ずお守りしますよ!」

目の前の陰鬱な状況とは打って変わって、リアラはいつも通りのハイテンションでキョウリンに笑顔を向けた。

「しかしよぉ、嬢ちゃん…本当に大丈夫か?復讐に協力してくれんのはありがたいんだけどよぉ…」

キョウリンは明らかに心配そうにリアラを見ている。
無理もない。彼女の見た目は身長148.5cmの少女だ。逆に守ってあげなければならないという庇護欲を抱いてもおかしくないだろう。

「市民キョウリン、心配はご無用ですよ!リアラに任せてください!」

リアラはそう言って胸を叩いた。

再び電脳空間へとリアラは接続する。
朽ち果てた物ばかりで作られたスクラップ・ラビリンスだが、近隣の防犯カメラ映像や市民たちの口コミ、かろうじて起動している“ゴミ”から、あらゆるものから地形の情報は獲得することができる。

右に進むと危険地域。
ゴミがまだ“圧縮”されていないため不安定な足場が更に不安定になるだろう。

危険箇所を把握し、|市民《キョウリン》へと共有する。

その情報把握能力にキョウリンは仰天する。

「嬢ちゃん…あんたすげえ人なんだな」
「リアラは市民の親愛なる友人ですから!これくらい当然です!」

感心するキョウリンにそう言いながら先陣を切って歩みを進めていく。

目の前に壁があれば、普段は反逆者を抹殺するために使用しているディスク交換式破壊光線照射銃“ZAPガン”の引き金を弾き道を切り開く。
檻のように張り巡らされた太いワイヤーも|プラズマ警棒《フォトンセイバー》で断ち切って、次々とスクラップ・ラビリンスを攻略していく。

「む、この先は…少々危険ですね。」

先に見えるのは違法建築の成れの果て。
建築基準を全く満たさないで建てられた繁華街がゴミの山に半分埋もれている。
範囲も広く、迂回して進むことはより困難を極めそうだ。

「プラズマ警棒とZAPガンの破壊では、逆に市民の身を危険に晒しそうですね。ここは『|汝の隣人を愛せよ《ラブ・ユア・ネイバー》』の出番です。」

インカムマイクのユーベルコード増幅機能を起動し、リアラは詠唱を始める。
小さな渦巻状の波動がどんどんと増幅されていく。
波動はリアラの元を勢いよく離れ違法建築群へと命中する。

しかし、命中した箇所が破壊されるでもなく、特段何も変化は起こらない。

「さあ、市民!先へ進みましょう!」
「お、おい嬢ちゃん…今何かしたのか?」
「ええ、少しだけ周辺の地形そのものに協力していただきました。安全に通行させてもらいましょう。念の為、こちらをお貸ししますね。」

機動隊の盾を市民に渡すとさっさと歩き出すリアラ。目をパチクリするも慌ててそれについていく市民キョウリン。

ゴミ山に半分埋まった繁華街は、薄暗く足元もよくない。
しかし、濡れた細長い鉄骨の上でも何故か足元はしっかりとしている。
何度か上部でコンクリート片が崩落を起こしても、“幸運”なことに廃業した飲食店の屋根や鉄骨、カーブミラーなどにぶつかりリアラ達にぶつかることはなかった。

「すげぇな嬢ちゃん!あんた一体何者なんだ」
「リアラは|市民《あなた》の親愛なる友人リアラ・アリルアンナです!先ほど言ったように憎き殺人鬼を見つけ出すまでは、必ずお守りしますよ!」

笑顔で言葉を返すリアラ。
その間も警戒は怠らず、はぐれないように気を配る。

それが|市民《キョウリン》の“幸福”へと繋がることだから。
|反逆者《殺人鬼》への抹殺に繋がることだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

カーバンクル・スカルン
ふーん、中々やるじゃんあの子。さて、私も下準備をやるとするかねー。

腐った足場に罠のように尖った鉄骨。足場も狭く、ボルトは緩んで今にも外れそう。でも外に材料となる建材は山のように積まれている。……じゃあそれを使ってガッツリ補強していくとしましょう。違法建築のバロックなんだろう、私の手がちょいと入っても大差ないさ。

さて、キョウリンさんが別行動してる今こそ聞き込みだ。なぜ彼女はターゲットに殺されたのか。通り魔? 介錯? それとも誰かに依頼されて?

それを知らなきゃターゲットに対するアプローチが決めらんねぇ。じっくり弱火か、強火で苛烈か。ここの住人さん、あなたの証言が彼の運命を決めるよ?



●運命と炎の勢い

|有害物質《骸の海》降る悪天の空。
鈍色の空を切り裂くように虚空に突き刺さるフック付きワイヤー。
ガラクタの山を軽く駆け上がっていくのは赤いランドセルを背負った華麗な女子小学生。

「ふーん、中々やるじゃんあの子。」

カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)はその様子を亜鉛メッキ鋼板の屋根の下で眺めていた。

パラパラ、ザァザァ
トタンの上で雨水が踊り音を奏でる。

カーバンクルは一つ、軽く伸びをすると再びスクラップ・ラビリンスへと目を向ける。

「さて、私も下準備をやるとするかねー。」

薄い縦敷の屋根の下から雨空の元へと踏み出す。
水溜りの張った地面から泥水が跳ねる。

有害物質に侵食され、赤く錆びた鉄の床。
誰が、なんのために使ったのだろう。なぜ、ここに行き着いたのだろう。
鋭く尖った鉄パイプは脆くなった鉄の床下に深々と刺さり、まるで精巧な落とし穴のようだ。

「足場も狭く、ボルトは緩んで今にも外れそう。でも外に材料となる建材は山のように積まれている。……じゃあそれを使ってガッツリ補強していくとしましょう。」

どうせ違法建築のバロックなんだ。
そこにカーバンクルの手が入ったとしても大差はない。
バロックはバロックのままだ。

“血塗られたジャンクパーツのお嬢様”
スクラップを相手にするのは慣れているんだ。

右手に金切鋸。左手にリベットガン。
廃材を切り取り、組み替え、結合し、脆い鉄は打ち捨てて。
道なき道に道を敷いていく。
これこそが“スクラップビルダー”の真髄だ。

渓谷のように落ち窪んだ廃商店街。
みるみるうちに灰色と茶色の橋がかかっていく。
あとはお嬢様らしく悠々と渡るだけ。

「さて、キョウリンさんが別行動してる今こそ聞き込みだ。」

一体なぜ彼の思い人、アンズは殺されてしまったのか。
不運な“よくある”通り魔殺人か。
それとも誰かに恨みを買っていたのか。
はたまた、彼女自身が死を望んでいたのか。

それを知らずにカーバンクルはターゲットへのアプローチを決められない。
じっくり弱火か、強火で苛烈か。
二つに一つ。極めるためには情報が必要だ。

幸いにも、最も情報収集に適した人間がここにいる。
現地住民だ。

薄汚い肌をした少年が、ボロボロの布袋片手にガラクタの山を漁っている。
最下層の、いわゆる“スカベンジャー”と呼ばれる人種だ。

「住人さん、ちょっとお話いいかな?」

最初、自分に話しかけられたと思わなかった少年は何度か呼びかけると顔を上げた。
パチパチと目を瞬かせ、その黒い目玉でじっとカーバンクルを見つめた。

「最近ここらで噂になってる殺人鬼のこと、何か知らないか。あなたの証言が彼の…依頼人の運命を決めるよ?」

少年は少し思案した後に言葉を放つ。

「ああ、ボク、それ、見た」

カタコトの言葉だ。無理もない。生まれてからずっとここで生活しているのだろう。
学ぶ機会を得ることができなかったのだろう。

カーバンクルはそのカタコトの言葉の意味を捉え間違わないように、ひたむきに彼の言葉に耳を傾けた。

すごい音がした。だからよく覚えている、と少年は言った。

それが始まったのはほんの少しだけ前のこと。
何かが爆発する音に目を覚ますと、死体が転がっていた。
それは|最下層《スクラップ・ラビリンス》の人間の死体だった。

爆発音は不定期に、何回も鳴って、その度に死体が増えた。
遺体となって発見されるのは|最下層《スクラップ・ラビリンス》の人間だけではない。
年齢も、性別も、身分も、職業もバラバラだった。

だが、犯人は噂の殺人鬼で間違いないと少年は言う。
死体の状態がどれも似ていることはもとより、少年自身が現場を数回見ているのだと言う。

黒いフードにガスマスク。
そして妙に強く、恐ろしいほどの怒気。

「仕事で、人殺す。もっと、落ち着いてる。だから、“アレ”仕事、違う。多分。」
「なるほどねぇ……」

アンズはどうやら不運な“よくある”通り魔殺人に巻き込まれたようだ。

黒いパーカーの怒れる人物。それがアンズの仇であり、キョウリンの復讐対象だ。
この先に潜んでいるであろうそいつの怒りの原因はなんだろうか。
少年は、それだけはわからないと言っていた。

十番目のカードを取り出す。
“運命の輪”
今回は有力な情報提供者との“出会い”を暗示してくれたのだろうか。

“運命の輪”
“定められた運命”を意味するカード

さて、火加減はどうしようか?
彼女の中で答えはもう決まっている。

成功 🔵​🔵​🔴​

イーブン・ノルスピッシュ
連携アドリブ歓迎
この男の墓場になるはずだった場所、か
そんな|予知《予約》など|否定《キャンセル》してみせよう
|今の俺《猟兵》なら、出来るはずだ

ファイアーマンズキャリーで行こう
俺の体格と【怪力】でなら安定して担げるだろう
UCで跳躍力を強化
踏んだ足場が崩れるよりも先に跳ぶ
【地形を利用】して戦う時と同じだ
崩れ易い箇所、比較的そうでない箇所
幾らか先読みして進むとしよう

マトモに食えていないんだろう
奴に報いを与えるのはお前自身だ
応報の時は直ぐに来る
その為にも、今は体力を温存しておけ

(他の猟兵の調査結果を聞き、復讐心に対する共感と、敵への怒りが益々強まる)
(踏み締める足元から既に火の粉が散り始めている)



●その臭いの名は

|スクラップ・ラビリンス《ここ》で死ぬ方法など五万とある。

ガラクタの山から落下して死ぬ。
足を滑らせ鋭利な金属に貫かれて死ぬ。
不衛生な環境に身を置いたことで疫病にかかり死ぬ。

「この男の墓場になるはずだった場所、か」

|雨音《ノイズ》にかき消されそうな程の声でイーブン・ノルスピッシュ(|戦闘猟兵《Scorcher》・f40080)はそう呟く。

キョウリンは、崩落した瓦礫に飲まれた後に何日もその下敷きとなり、衰弱したところを件の殺人鬼に殺される。

その“予定”だ。

「そんな|予知《予約》など|否定《キャンセル》してみせよう。|今の俺《猟兵》なら、出来るはずだ」

湿った風に吹かれてドッグタグが揺れる。
かつて戦場に散った兵士はここにはいない。
ここにいるのは冷静に、だが苛烈に復讐の炎を静かに滾らせる戦闘猟兵だけだ。

「ファイアーマンズキャリーで行くぞ」

キョウリンへ向かってそう言葉を放つと、彼が言葉を返すよりも早くイーブンはその“怪力”で彼の身体を持ち上げる。

憔悴しきっている細身の人間とはいえ、成人男性だ。
その身体を難なく持ち上げると、キョウリンの脇の下から首を通し、肩の上でその身を担ぎ上げた。

|消防士搬送《ファイアーマンズキャリー》

負傷した兵士を運ぶ際によく用いられる技術だ。

『アンズは|最下層《ダストエリア》の近くで殺された』
『炸裂弾を喰らい、彼女の死体は見る影もなかった』
『アンズ自身に殺される理由はなく、唐突に命を奪われた』
『黒いフードの怒れる者に一方的に殺された』

バヂヂ、イーブンの足元で火の粉が散る。

似ている。
肩の上に乗せた男は、尽きぬ復讐の炎に心臓を焼かれ続けている。
だからこそわかる。どれほど相手が憎いか。
その|炎《復讐心》の身を焼くような熱さを、イーブンは知っている。

だからこそ、この先に潜む殺人鬼への怒りが|油《ガソリン》を撒かれた炎のように益々強く燃え広がっていく。

普段は冷静な彼だからこそ、己の中に広がっていく激しい衝動を、熱さをはっきりと感じる。

「クソが……!」

これも|雨音《ノイズ》にかき消される音だ。

|エディプスの手招き《エディプス・タブー》

彼のユーベルコードが自動的に発動する。
イーブンは自らの跳躍力を強化し、ガラクタの山へと跳躍する。

着地した鉄の板がギシリ、音を立てる。
その瞬間には次の足場へと跳ぶ。

踏んだ足場が崩れるよりも先に跳ぶ。
“地形を利用”して戦う時と同じだ。
朧気な記憶に残された戦場での戦い方の応用だ。

イーブンが跳ねる度に足元から吹き出す火の粉が風に飛ばされる。
まるで摩擦熱で発火するマッチのようだ。

しかし、その炎の勢いはマッチ程度でおさまるものではない。
|有害物質《骸の海》の雨で消えるようなものでもない。

しかし、彼はまだ激情に脳を蝕まれてはいない。
崩れやすい場所にわざわざ突っ込むほどの愚か者ではない。

激しい衝動に身を任せつつも、あくまで脳は冷静に。
崩れ易い箇所、比較的そうでない箇所。
幾らか先読みして進んでいく。

「…ッ、なあ、アンタ…そろそろ降ろしちゃくれねぇか。俺なら自分で歩けるからよ」
「断る」

肩の上から降ってきた言葉を瞬時に拒絶する。

どこでキョウリンが死んだかまでは、グリモア猟兵の情報にはなかった。
ならばここを抜けるまでファイアーマンズキャリーを解くわけにはいかないだろう。

それに、彼の顔色はやはり青い。

「マトモに食えていないんだろう」

ガラクタの中を跳ねながら、キョウリンに向かってそう言葉を吐く。

「…どうしてそれを」
「バーガー屋での様子を見れば誰でもわかる」

その返答にキョウリンは言葉を詰まらせる。
数秒間の沈黙が二人の間に流れる。

「奴に報いを与えるのはお前自身だ。応報の時は直ぐに来る。その為にも、今は体力を温存しておけ。」

ちら、と肩の上のキョウリンの瞳を覗き込みそう言った。

何も言い返さない彼の瞳は真っ黒で、しかしその奥で復讐心という炎が燃えていることが言葉を解さずともはっきりとイーブンにはわかった。

(……臭いが強くなったな)

キョウリンの奥底でメラメラと滾るもの|《臭い》
相変わらず、酷い匂いだ。

だが、火の勢いが強くなるにこした事はない。

ふと、敏感なイーブンの鼻は別の臭いを察知する。
酷い臭いだ。
おそらく、件の殺人鬼の臭いだろう。

黒いフードとガスマスク。
顔も見たことのない殺人鬼。
だが、この種類の臭いは既にイーブンは知っていた。

その臭いは、“怒り”という名前をしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リア・アストロロジー
努めて無機質に質問と提案。

人を殺したことはあるのですか?

…外見で脅威を見誤り、足元さえおぼつかない。
あなたには向いてません。
今からでも遅くはありません…引き返しなさい。

あなたの仇の末路は、もう決まっています。
その結果にあなたの行動が影響することはない。
今や彼も…依頼人にとっては無聊を慰める玩具にすぎませんから。

そう…ですか。
なら、好きなだけ、気が済むまで足搔きなさい。
…変なものは入っていません。無理だったら、吐き出して。

キャンディを一粒口に含ませて。

手を…今は、少しでも体を休めなさい。
目を閉じて…息を、ゆっくりと吐いて。吸って…。

指定UCにて無重力に近い状態で、彼の体を包むように支え進みます。



●甘くて赤いキャンディを

「人を殺したことはあるのですか?」

9歳の少女が口にするにはあまりに残酷な言葉だ。

鉄板、トタン、ワイヤーに剥き出しの骨組み、朽ちかけたコンクリート。
無機質が転がる|最下層《スクラップ・ラビリンス》でリア・アストロロジー(M2-Astrology・f35069)のその言葉はそこらのガラクタに紛れてしまいそうなほど“無機質”だった。

キョウリンは錆びついた赤茶色の骨組みに手を置き、肩でしていた息を整える。

「……いや、ねぇな」

乱れた息の間から漏れ出るように返された言葉は、答えるまでもなく明らかだったことだ。

ヤクザの子分。
要するにただのチンピラの彼は銃も大きな刃物も持った経験なんてなく、殺す殺されるといった感情までもつれ込む喧嘩や抗争、憎悪になんて触れずに生きてきた人間だ。
アンズが殺されるまでは。

「…外見で脅威を見誤り、足元さえおぼつかない。あなたには向いてません。」
「……そんなこと…そんなこと…」

初めから自分でもわかっていたことだ。
復讐のお供は切れ味さえ知らない小型のナイフ。
相手の獲物は、少なくとも人を細切れ肉にする威力のある武器。

「…そんなこと、わかってるさ」

コンクリートの黒く割れたヒビを眺め、ポツリと呟く。

「今からでも遅くはありません…引き返しなさい。」

冷酷に言葉は紡がれていく。
その言葉は、キョウリンにとって最初の質問よりも残酷だったかもしれない。

「あなたの仇の末路は、もう決まっています。その結果にあなたの行動が影響することはない。」

キョウリンは自分に協力を申し出てくれた人物たちを、一人ずつ思い返す。
屈強な兵士や警察官がいた。女も、自分より遥かに年下の者でさえ、自分に自信があり、堂々としていて、実際このスクラップ・ラビリンスの攻略でさえ、いとも容易く行ってみせた。

この復讐劇において最も不要な役者はキョウリン自身だった。

リアはグリモア猟兵を追憶する。
笑っていた。キョウリンの死を見て笑っていた。
この復讐劇の行く末を娯楽的に楽しんでいた。

「今や彼も…依頼人にとっては無聊を慰める玩具にすぎませんから。」

だからこそ、やはり未来に干渉できないキョウリンがここにいる必要はない。
この先を行く必要もない。
彼が行っていることは自らを滅ぼしかねない上に、|猟兵《役者》達の邪魔でしかないのだから。

「でも…でもよ…この足が止まってくれねぇんだ。」

疲労と恐怖で震える脚をキョウリンはじっと見つめる。

「今まで散々理不尽に耐えて生きてきた…握った拳を下ろして、口元まで出かかった言葉を飲み込んだ回数は数えきれねぇよ……けどな、愛した女あんな無惨に殺されて、それだけはどうしても許せねぇ。だから…俺バカだからよ、どんなに“アイツ”殺しの邪魔になったって行くしかねぇんだ」

迷惑かけてすまねぇな、嬢ちゃん。
そう言ってリアにヘラリと笑いかけるとガクガクと震える脚を数回叩き、ゴミ山の先を目指して一歩踏み出す。

「そう…ですか。なら、好きなだけ、気が済むまで足搔きなさい。」

そのリアのその言葉は不思議と赦しのような暖かさを含んでいた。

リアはハートの飴玉を一つ、キョウリンへと差し出す。

「…変なものは入っていません。無理だったら、吐き出して。」

キョウリンは赤いキャンディを受け取ると、つまんで眼前に掲げた。

“Follow your heart.”

キャンディには短くそう書かれていた。

口に含めばじわり、赤いハートが溶け出す。
甘いそれはゆっくりと時間をかけて、彼の胃へと落ちていく。

「手を…今は、少しでも体を休めなさい。目を閉じて…息を、ゆっくりと吐いて。吸って…。」

キョウリンはリアの手を取ると目を閉じた。
リアの手は小さく、とても暖かだった。
ゆっくりと呼吸をするリアを真似るように、キョウリンもゆっくり息を吐き、息を吸った。

“|Gravity《グラヴィティ》”

ふわり、体が浮かぶような、そんな感覚に包まれる。
ゆっくり、体が前へ前へと進んでいるのが目を閉じていてもわかる。
こんなに長く目を閉じたのは随分と久しぶりのような気がする。
サイバーザナドゥの湿った空気が頬を撫でる。

無重力に近い状態で、リアはキョウリンの身体を支えながら前へ、前へと進んでいく。
その軽さにヒビの入った床でも崩落は起きない。
この世界では珍しい、静かな、ゆったりとした時間だ。

キャンディの優しい甘さを感じながらふいに、キョウリンは愛しい人を思い返した。

生前の、あの愛しい笑顔を。

暖かな涙がひとすじ、頬を伝う。

成功 🔵​🔵​🔴​

オリバー・ハートフォード
 オイオイ、そんなに脛骨を震わせて、針山のダンスホールで踊りたいって気分か? 頭からツッコんでみりゃ、無駄骨を折るだけじゃすまないってのが解るぜ?
 ……ジョークだよ、そう心配すんな。オレの仕事は仇のところまで送り届けて、オマエと一緒にソイツをぶん殴ること、安心してついて来いって。

 まずは周囲を〈索敵〉し、廃材を崩して安全に進めるようにしていくぜ。行く手を塞ぐトタンを〈叩き割り〉、橋もかけてやろう。運悪く足場を踏み抜いても、針山は肋骨の間をすり抜けて〈受け流し〉てしまえるだろうさ。

 復讐ってのは、覚悟を決めるのが7割、ブッ殺すと宣言するのが2割、あとの1割はナイフを突き立てるだけ。さぁ、もうひと踏ん張りだぜ。こんなところでくたばるじゃねぇぞ。

(【POW】で挑戦、アドリブ等々全て歓迎)



●骨が舎利になっても

こんなに膝が震えるのは雨で身体が冷えたからだろうか。
それとも遂にエネルギー不足の身体が限界を迎えたのだろうか。

バラバラと雨が打ち捨てられた|金属《ガラクタ》に当たっては跳ね返る。|虹色《オイル》の滲む泥水が靴を濡らしていく。

「オイオイ、そんなに脛骨を震わせて、針山のダンスホールで踊りたいって気分か? 頭からツッコんでみりゃ、無駄骨を折るだけじゃすまないってのが解るぜ?」

オリバー・ハートフォード(|殉職巡査《ワイト・コップ》・f39597)は肩をすくめながらキョウリンを振り返る。

彼は膝に手を当て、荒む息を整えているようだった。

「……俺ァここから先へは進めねぇか、ここで死ぬってアンタは言いてぇのか」

ゴホゴホと咳き込みながら、髪から滴る汗とも雨とも判別つかない液体を拭う。

一時の休息で息は次第に整っていくものの、足の震えが止まらないのはやはりそれが精神から来るものだからだろう。
無理もない。愛しい人が殺されてまだそう経ってはいないのだ。
やはり目がなくともキていることはわかる程度に憔悴した人間なのだ。

「……ジョークだよ、そう心配すんな。オレの仕事は仇のところまで送り届けて、オマエと一緒にソイツをぶん殴ること、安心してついて来いって。」

雨音のオトモは小粋なトーク。
舌が回る事が本官の長所なんでね。ま、舌はもう無いんだけど。

そうこう話しているうちにキョウリンの呼吸もだいぶ安定してきたようだ。
それに軽口をたたく合間に見せるオリバーの心強さに精神の方も支えられているようだ。

オリバーが下顎をしゃくって先を指し示すと、二人はまた歩き出した。

彼が先導し周囲を“索敵”する。
グリモア猟兵はキョウリンがどこで死んだかまでは教えてくれなかったので、より慎重に道を選ぶ。もちろん軽くジョークを飛ばしながら。

|廃材《ガラクタ》の上に|廃材《ガラクタ》を積み上げて作り上げられたスクラップ・ラビリンス。
道になりそうな廃材を踏みしめ、崩れかけ朽ちかけの廃材は先に崩す。

道を塞ぐ錆びた赤茶色のトタン。愛用の警棒を振るうとその薄い図体に見合わない激しい音を立て綺麗に半分に割れる。それを何度か続ければ|有害物質《骸の海》に侵食された亜鉛鍍鉄板など細かな破片となってボロボロと地面に落ちていく。

トタンを割って現れたそこにはポッカリと空いた大穴。
細い鉄骨が数本渡っているが、人が立って歩けるようなものではない。

「うーん、渡るにしては細い鉄骨だねぇ。トタンをわざわざ割ったにしては…骨折り損のくたびれもうけ、と言ったところか?」
「……じゃあ、迂回するか?サツの兄ちゃん」
「いや、本官もダテに修羅場潜ってないよ。ちょっと待ってな。」

そう言うと再びオリバーは周囲を散策する。
侵食されている上層の鉄板を退けてみると有害物資の影響を多少受けているものの頑丈で分厚い銅の板が埋まっていた。

「おっ、骨身を削った甲斐はあったようだな」

銅板を掘り起こし、鉄骨の上に渡すと多少ぐらつくものの安全に渡れるような簡易的な橋が出来上がった。

「さ、オマエもこれで渡れるだろ」
「サツの兄ちゃん…あんた良い人だな。きっとアンタなら俺なんか置いて簡単に向こう側にいく方法もあったんだろう」
「さっき言ったじゃねぇか。『オレの仕事は仇のところまで送り届けて、オマエと一緒にソイツをぶん殴ること』ってさ。オマエ抜きで仕事は出来ねぇよ」

ほらいくぞ、と軽く言うと、背後で鼻を啜るような音が聞こえた。

不安定な足場を抜け、ガラクタの谷を渡り、いよいよスクラップ・ラビリンスも終盤へと差し掛かった。

「もうそろそろこのガラクタの迷宮を抜けそうだぜ」

そう声をかけようとした時だった。

腐食していたのは鉄か、プラスチックか、まあどちらでもいい。
オリバーが踏みしめた一歩に腐食した地面が耐えきれず、メキリと音を立てる。
足が沈み、身体が落ちていく。深さにして約2メートル。
その“落とし穴”の深さは幸いにもそれほど深くはなかったものの、何の基礎だったのか、または誰かが意図的にそうしたのか、落ちていくオリバーを受け止めるのは先の尖った何本ものワイヤーだった。

激しい音を立てて、オリバーは落下する。

「お、おいサツの兄ちゃん!大丈夫か!」

慌ててキョウリンが中を覗き込むと、文字通りワイヤーはオリバーを貫通していた。

「いやぁ、流石に心臓が止まるかと思ったぜ。肝が潰れるとはまさにこのことだね。ま、本官には心臓も肝も残ってないんだけどさ。」

オリバーの肋骨の隙間を、肋軟骨と腸骨の間を、オリバーの|骨格《身体》はワイヤートラップを“受け流す”ように穴の中に落ちていた。

「……サツの兄ちゃん、本当にそれ大丈夫なのか?」
「やわな|身体《カルシウム》してないもんでね。それに流石の本官もここに骨を埋める気はないぜ。」

そう言うと身体をガラガラと鳴らしながら立ち上がり、近くの頑丈な骨組みに手をかけ、ひょいひょいとキョウリンの元へ戻った。

「こんな場所もあるから気をつけるんだぜ?仇はもう目の前まで来てるんだ」

オリバーは足場の状態を確認しつつ、キョウリンに忠告した。
ごくりとキョウリンが唾を飲むのがわかる。

もう愛する人を殺した奴が、誰よりも憎いアイツがすぐそばにいる。

「復讐ってのは、覚悟を決めるのが7割、ブッ殺すと宣言するのが2割、あとの1割はナイフを突き立てるだけ。さぁ、もうひと踏ん張りだぜ。こんなところでくたばるじゃねぇぞ。」

腐った足場を蹴飛ばしながらキョウリンの背をバシバシと叩いた。
その言葉に、緊張か、それとも憎悪にか、表情を固くしたキョウリンはゆっくりと頷いた。

キョウリンは猟兵によって生かされた。
数多のガラクタを抜け、スクラップ・ラビリンスを突破した。

運命は変わった。
だが、復讐劇はまだ始まったばかりなのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『シグマ-13『憤怒の銃士』』

POW   :    全てに死を(オール・キリング)
自身の【装備している銃火器】から極大威力の【着弾時に爆発するエクスプローダー弾】を放つ。使用後は【茫然自失】状態となり、一定時間行動できない。
SPD   :    猟犬の狩り(ハウンド・ハント)
【怒りを露わにする】事で【高速戦闘モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    無限の戦域(インフィニティ・シアター)
自身が発射した【貫通スラッグ弾】の軌道を、速度を落とさずレベル回まで曲げる事ができる。

イラスト:藤凪

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠八重樫・真璃です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●殺人鬼はかく語りき

憎い。憎い。何が憎い?

全てが。全てが。全てが憎い。
世界が。過去が。現在が。未来が。他人が。自分が。
憎い。憎い。全てが憎い。

クソみたいなメガコーポが生み出した|己《マウス》と言う存在が嫌いだ。
嫌いだ。嫌いだ。大嫌いだ!
所詮は遺伝子情報までお膳立てされた存在だ。
この思考すらも遺伝子操作で出来上がった|消耗品《レディメイド》だ!

憂さ晴らしに銃弾をばら撒けば一つの命が一瞬にして潰える。
ザマァみろ。
オマエの命なんて所詮こんな鉛玉一発で終わっちまうんだよ!
ちっぽけなゴミだ!カスだ!スクラップだ!
今まで誰を、何人殺したかって?知るか馬鹿。
いちいち踏み潰したアリの冥福を祈るやつなんていねぇだろ。

誰の命にも意味なんてねぇんだよ。
笑えるな、クソが。

気晴らしに人殺し。俺も存外クズだね。
まあ許してくれや、生まれがこんなんだからさ!

というわけでさ、死ねよ。
怒りでどうにかなっちまいそうな俺の心の慰めのためにね。
《マスターより》
第二章の結果によりキョウリンも戦闘に参加することができます。
戦力は一般人程度で、まともにダメージを与えることはできません。
“彼”の力ではトドメを刺せません。猟兵の皆さんの力が必要です。

素敵なプレイングをお待ちしております。
リアラ・アリルアンナ
観念しなさい、殺人鬼!
如何なる理由があろうとも、人が幸福を求めて生きる権利を奪った罪は決して許しません!

ジャミングを行い銃の狙いを絞らせず、さらに結界術と盾による二重の防御で市民キョウリンを守護
こちらも銃の反撃でダメージを与えていきます

敵が弱ってきたと見えたら、
市民に改めて奴を断罪する覚悟はあるかを問います
その意思がまだあるのなら、リアラはバーチャル・ゴーストとなって彼に憑依します
危険は伴いますが、これによって強化された彼の身体能力であれば、奴を倒す事も不可能ではありません
特別に警棒と銃も貸与します
さあ、貴方の手で決着を!

全てが終わった後、彼が市民アンズの分まで幸福に生きる道を選ぶ事を願います



●幸福な復讐劇の先にあるものは

殺人鬼は語った。
自らの凄惨な出生を。自らの“始まり”にして怒りの源を。

「観念しなさい、殺人鬼!如何なる理由があろうとも、人が幸福を求めて生きる権利を奪った罪は決して許しません!」

リアラ・アリルアンナ(リアライズユアハピネス・f36743)はそんなものでは絆されなかった。

殺人鬼に向かってそう言い放つとZAPガンを構える。

いかなる理由があろうと、多くの市民の命を奪った事や市民キョウリンの愛しい者を殺した罪が許されるわけがない。
目の前にいるのは多くの市民の幸福を奪った“殺人鬼”にすぎない。

ZAPガン。
主に反逆者を抹殺する為に用いられる、ディスク交換式破壊光線照射銃。
目の前の殺人鬼を反逆者と言わず誰を反逆者と言えるだろうか。

「あっそ。じゃあ死ねよ」

殺人鬼は短くそういうとその手に持つ銃の銃口をリアラに向けた。
そのはずだった。
狙いがブレる。まるで一気に視力が悪くなったかのように彼女の姿が霞み、揺れ動く。

「クソッ、ジャミングか…!」

レーダー波による電子妨害によってバーチャルキャラクターである彼女は、その実体を安定させず敵に狙いを定めさせない。

ならば、と殺人鬼はキョウリンに狙いを定める。
引き金を引くと貫通スラッグ弾が彼を目掛けて放たれる。

だが、その弾がキョウリンに命中することはなかった。
殺人鬼が狙いを変えるその時にリアラは機動隊の盾を持ち市民キョウリンのもとへ走った。
彼の前へ躍り出ると大きな盾で射線を遮り、その上さらに青白く光る結界を張り巡らせた。
スラッグ弾に貫かれて結界の破片が光を放ちながらキラキラと舞い散る。
弾は超軽量金属の盾にぶつかりカラカラと地面に転がった。

盾の端から顔を出し、ZAPガンを放つ。
今まで反撃というものを受けたことがなかったからだろうか。
それとも攻撃に特化して作られたその身体のせいか。
どうも避けるのは苦手なようだ。光線銃は彼の身体を確実に蝕んでいく。

「市民キョウリン、改めてお聞きします。貴方にあの殺人鬼を断罪する覚悟はありますか。」

相手の動きが鈍くなって隙ができたなかで、リアラは改めて奴を断罪する覚悟はあるかを彼に尋ねた。

猟兵とオブリビオンの戦いの中に存在する|一般人《イレギュラー》。
銃口を向けられ、盾の後ろで震えていた。

しかし、その手に持ったナイフは決して放さず、チャンスがいつか来ると信じてその眼光をギラギラと鋭く光らせていた。

「勿論…アイツが…アイツがアンズを殺したんだ!今度は俺がアイツを殺してやる!」

その言葉を聞くと、リアラはこくりと頷いた。
リアラの身体がすぅっと透明になっていく。
“バーチャルゴースト”
半実体化した身体でキョウリンに憑依する。

キョウリンの背に青く光る電子の翼が生える。

「こ、これは…!?」
「危険は伴いますが、リアラによって強化されたあなたの身体能力であれば、奴を倒す事も不可能ではありません。特別に警棒と銃も貸与します。さあ、貴方の手で決着を!」

姿は見えないが、リアラの声がキョウリンには届いていた。

身体の震えが止まる。脚に力が入る。
盾越しに見る殺人鬼は再び狙いをこちらに定めているところだった。

スラッグ弾が射出された瞬間、キョウリンは跳ねるように殺人鬼の元へと走った。
握ったこともない銃の引き金を弾きながら、雄叫びをあげて仇の元へ。

リアラはそんな彼の素人臭さの抜けない動きを補正するように操作し、キョウリンのサポートに徹した。

スラッグ弾を一発、二発かわし、警棒を軽く振って伸ばすと青白い刀身がその身を表す。

キョウリンは走る勢いそのまま、殺人鬼を警棒で殴りつけた。
殺人鬼は咄嗟に両手でそれを受けるも、その一撃は重く、殺人鬼はぐらりと体勢を崩す。

一発だけで終われるはずがない、二発、三発、まだまだ。
何度だって警棒を振り降ろす。

(市民キョウリン…)

彼が殺人鬼を警棒で殴り続ける様子をリアラは眺めていた。

情報を収集している最中に見つけた一枚の写真。
幸せそうに笑い合うキョウリンとアンズがそこには写っていた。

幸福とはあまねく市民の義務であり、権利である。

果たして、彼がアンズのいない世界で幸福に生きていけるだろうか。
それは彼にしかわからないことだ。

(あなたが市民アンズの分まで幸福に生きる道を選ぶ事を願います。)

泣きながら仇に向かって警棒を振り下ろすキョウリンの姿を眺めながら、リアラは心の底からそう祈っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーバンクル・スカルン
それがあんたの言い「訳」か。

人の価値ってのは1人が決められる物じゃねぇ。多数決だ。だからさ。

束ねられてない札の山を宙に放り投げる。

あんたの首にはこんだけの恨みが持たれてる。他人の多数決によるあんたの価値だ。……直接ぶっ潰したいって奴は1人だけだったけどな?

相手の注意が札に向いた瞬間に【クリスタライズ】を発動。敵の姿が見えなきゃ必殺の銃弾をどれだけ曲げても届きやしねぇ。

そして肉薄し、男の両手を銃ごと切り落として車輪に拘束。

さてキョウリンさん、お膳立ては済ませたよ。満足するまでやりな。

キョウリンさんの気が済んだら手持ちの武器でトドメを刺す。なるべく、惨たらしく。それがクライアントのお望みだ。



●運命の輪は止まらない

全てが憎い。何もかも、己すらも。
憎くて、憎くて、どうしようもないから殺人鬼と化した。
生まれてから今この瞬間まで消えることの無い怒りで頭がどうにかなっちまいそうだから、その度に人を殺した。

殺人鬼はそう語った。

「それがあんたの言い『訳』か。」
カーバンクル・スカルン(クリスタリアンの懲罰騎士・f12355)は冷静に、そう口にした。

「あんたは誰の命にも価値なんてない、そう言ったな...人の価値ってのは1人が決められる物じゃねぇ。多数決だ。」

だからさ。

そう言うとカーバンクルは勢いよく腕を振り上げた。

バラバラと舞い踊るのは束ねられてない札の山。

「あんたの首にはこんだけの恨みが持たれてる。他人の多数決によるあんたの価値だ。」

頼む、あの殺人鬼を殺してくれ。
カーバンクルは何人もの人にそう依頼されていた。
バーガーショップで、スクラップ・ラビリンスの中で。

あの殺人鬼は兄の仇なんだ。
父の。母の。娘の。孫の。親友の。
彼らはそう言ってカーバンクルに金を渡してきた。
日銭を稼いで暮らしている奴らが必死にかき集めてきた金だ。
薄汚れ、クシャクシャで、それでも今日生きるために必要な金を彼らはカーバンクルに頭を下げながら手渡したのだ。

「……直接ぶっ潰したいって奴は1人だけだったけどな?」

ちらりと後ろにいる、その一人を振り返る。
ガタガタと震えてはいるものの一丁前に小型ナイフを構えている。

サイバーザナドゥの汚れた風に吹かれてまるで紙吹雪のように恨みの籠った金が舞う。

殺人鬼はほんの一瞬、カーバンクル達へ向けていた注意を目の前を飛び交い視界を邪魔する紙幣に奪われてしまった。

その瞬間をカーバンクルは見逃さなかった。
“クリスタライズ”
彼女の姿が一瞬にして戦場から消える。
まるで飛び交う紙幣に攫われたような、ほんの一度瞬きした瞬間のことだった。

殺人鬼はその情景に狼狽え、貫通スラッグ弾を連射する。
一回、二回、その軌道を曲げても銃弾はカーバンクルに擦りもしない。
カーバンクルの姿が見えない限り、その必殺の銃弾は軌道を曲げようと彼女に届きはしない。

殺人鬼は不意に目の前で風がゆらめくのを感じた。
瞬間、殺人鬼に肉薄していたカーバンクルはその手に持っていた金切鋸でその両手を持っている銃ごと切断する。

「ッ!?」

突然の出来事に殺人鬼は動転し、地面に落ちていく自身の両手と切断された銃を凝視した。

カーバンクルは針があちこちについた巨大な車輪“カタリナの車輪”に殺人鬼を捕縛し、キョウリンへと目をやった。

「さてキョウリンさん、お膳立ては済ませたよ。満足するまでやりな。」

そう言うと彼の肩をポンポンと叩いて、殺人鬼の元へと彼をエスコートした。

目の前に愛しい人を殺した仇がいる。
キョウリンの息はどんどんと上がっていく。
獣のような雄叫びを一つ上げると、小型ナイフを振り上げて勢いよく殺人鬼の腹部に突き刺した。
蟾蜍のようなうめき声を殺人鬼はその口から漏らす。
その声を聞いてか聞かずか、小型ナイフを胴体から引き抜き再び同じように腹部へとナイフを突き立てる。
何度も、何度も、何度も。
返り血で顔が真っ赤になるほど何度もその小さなナイフを殺人鬼へと突き立てた。

だが、悲しいかな。
相手はオブリビオン。キョウリンはただの一般人だ。
何度そのナイフを突き立てたとしても、その命を奪うことはできない。

血生臭い匂いが辺りに充満する。
キョウリンが肩で息をする音だけが辺りに響く。

血で真っ赤に濡れたナイフが、彼の手から滑り落ちる。

「気が済んだかい?」
「……いや…でも…ああ、もういい。」

彼は、自分に殺人鬼を殺す力がないことを理解してしまったのだろう。
落とした小さなナイフを拾うこともなく、足を引きずるように離れていった。

「よう、あんたこれでお終いだと思ってないかい?」


カーバンクルは息も絶え絶えといった様相の殺人鬼へと笑顔を向ける。

その手にはバールとリベットガン。

「なるべく、惨たらしく。それがクライアントのお望みだ。」

そう言うと思い切りバールを振りかぶる。
一度や二度では終わらない。クライアントからの依頼だからね。
ここからがカーバンクル・スカルンの本当の“仕事”だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

デアボリカ・スナイパーライフル
私は狙撃手……正々堂々真正面から戦う必要なんてない……

(可能な限り遠くに隠れる。狙撃銃の弾丸は……100m以上先から獲物を撃ち抜く。猟兵やオブリビオンでなくても一流の軍人なら1㎞程度は届き、UC等使えなくても超一流狙撃手であれば2-3㎞の長距離狙撃も可能)

(増してや、この身は百年以上で幾千もの命を奪い、何人もの狙撃手の技術を刻み込んだ|埒外存在《イェーガー》……外す理由がない)

(|銃《わたし》は|私《じゅう》。あとはただ……その役目を全うするだけ……)

魔法陣を展開し……

「我が名はデアボリカ。デアボリカ・スナイパーライフル……器物に宿りし神……」 

引き鉄を、引く。

【属性攻撃(毒)+呪殺弾】



⚫︎幾千分の一

彼女の耳に、殺人鬼の戯言は届いていただろうか。
いや、届いていたとしてもいなかったとしても、そんなことは彼女には関係のないことだ。

デアボリカ・スナイパーライフル(悪魔之魔弾狙撃銃神・f40208)は超遠方に身を潜めて殺人鬼の様子を確認していた。

「私は狙撃手……正々堂々真正面から戦う必要なんてない……」

そう呟くようにして言葉を吐くと、|デアボリカライフル《自分自身》に弾を装填する。

猟兵やオブリビオンでなくても一流の軍人なら1㎞程度はライフルの弾が目標へと届く。
ユーベルコードなどが使えなくても超一流狙撃手であれば2-3㎞の長距離狙撃も可能。

では、果たして銃のヤドリガミであるデアボリカの放つ弾丸は何キロ先まで届くのだろうか。

(増してや、この身は百年以上で幾千もの命を奪い、何人もの狙撃手の技術を刻み込んだ|埒外存在《イェーガー》……外す理由がない)

仮初の肉体を得るまでの百年間で数え切れぬ程の命を奪ってきた。老若男女、善悪など彼女の前では関係がない。
彼女はただ、役目を全うする。
それが彼女にとっての安心であり、器物としての在り方だ。

スクラップの中に身を隠し、照準器で相手の様子を伺う。
ギシリ、足場にしている 亜鉛鍍鉄板が軋み音を鳴らす。

黒いフードに真っ赤な裏地、同じく真っ赤なベルトが巻かれた彼は言うなれば“ちょうどいい的”
本物の狙撃手相手には、随分と武が悪い勝負だったようだ。

(|銃《わたし》は|私《じゅう》。あとはただ……その役目を全うするだけ……)

そう。いつも通りのことをするだけ。
装填した銃弾は一発。それを外せば、敵はこちらに気がつくだろう。
普通の人間なら緊張するだろうが、彼女の心は自然と穏やかだった。
今まで数え切れぬほど行ってきた“命を奪う”という行為をするだけなのだから。

“インソムニア・スナイプ”
魔法陣が銃口の先に展開される。
魔法陣はまるで彼女の髪やツノのように真っ黒だった。
その魔法陣は毒と呪殺の効果を持ち、打ち出された弾丸にその効果を付与する力を持つ。
それを幾重にも重ねて効果を増加していく。

「我が名はデアボリカ。デアボリカ・スナイパーライフル……器物に宿りし神……」 

いつも通り、己の名前を口にし引き金に指をかける。
ほんの僅かな静寂の時。

引き金にかけた指にグッと力を込めて引き金をひいた。
静寂をかき消す銃声がサイバーザナドゥに響く。

照準器の中のオブリビオンが頭に銃弾を受け、倒れる。

ふーっと、長く息を吐いて身を隠していたスクラップの中から這い出る。
これで彼女の役割は終いだ。
殺人鬼とはいえど、これまで殺した幾千の命と何ら変わりのないものだった。

役目を終えた彼女の胸を安心感が満たしていく。

一弾の下に命を撃ち消す事、それこそが彼女にとっての唯一の歓びだ。
あのオブリビオンは自分の中から湧き出る無限の怒りを殺人によって解消して今日まで生きていた。

案外、あのオブリビオンとデアボリカはその性質が似ていたのかもしれない。
だからと言って、それが彼女にとってどうというわけではないのだが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オリバー・ハートフォード
 命の意味なんてない、とは随分大げさに言ったもんだな。落ち着けよ|酩酊者《ジャンキー》、発砲炎で脳味噌までボイルされてんのか?
 そんなアタマでも、コイツは|理解《ワカ》るだろ――|Freeze!!《動くな》

 【UC:ホールド・アップ!】を発動、バッヂを突きつけながら〈大声〉で〈威圧〉、注意をこっちに向けるぜ。|堅牢《カタ》さが本官の真骨頂、〈盾受け〉と〈威嚇射撃〉を駆使しながら致命傷は避けていこう。

 ここまで御膳立てしてやらぁキョウリンが〈不意打ち〉で、奴のがら空きの背中にナイフを突き立ててくれるだろうさ。そのデカい隙にオレも警棒で〈武器落とし〉を仕掛ける。上手く決まればコイツには指一本も触れさせないまま終われるだろうよ。

 命の意味、使い方ってのは自分で決めるもんだ。オマエは殺人に、コイツは復讐に使った。じゃあオレは、オマエのぶん殴る為に使わせてもらうとするぜ。笑えよ、声を出せば少しは頭の熱も冷めるだろ?

(アドリブ負傷等々全て歓迎)



●命の使い方

「命の意味なんてない、とは随分大げさに言ったもんだな。落ち着けよ|酩酊者《ジャンキー》、発砲炎で脳味噌までボイルされてんのか?」

舌は無いが口は回る。
オリバー・ハートフォード(|殉職巡査《ワイト・コップ》・f39597)はそんな怒れる殺人鬼に小粋な|皮肉《ジョーク》を飛ばした。
先ほどまでベラベラと自らの生い立ちについて語っていたくせに、今じゃすっかりおしゃべりをする気分ではなくなってしまったようだ。
殺人鬼はオリバーの|それ《ジョーク》に応える代わりに銃口をこちらに向ける。

折良く、こちらも優雅に|舌戦《ディベート》をしにきたわけではない。

ヘラリ、笑いながら命の無価値さを説いた殺人鬼。
業火のような怒りを織り交ぜながら大手を振って語るその様はまさに|酩酊者《ジャンキー》そのものだった。気狂い、狂人と同じ類のものだ。
グツグツと煮えたぎる怒りの思考の堂々巡り。

「そんなアタマでも、コイツは|理解《ワカ》るだろ――|Freeze!!《動くな》」

そんな脳に“ホールド・アップ!”の命令が矢のように突き刺さる。
目の前の相手の胸にPOLICEと書かれているのに今更気がついたようだ。
眼前に突きつけられるバッジ。
警官の魂とも言えるそれの中央には黒の帯。
もちろんその意味をメガコーポは実験動物の一匹に教えたりなどはしない。
だが、状況を理解できる程度の知能は与えてもらえたようだ。
オリバーが張り上げた声と動くなという命令に威圧され、動揺しているようにも見える。

だが、その程度で銃を置いて投降してくれたら猟兵がわざわざこんなところにまで来る必要はなかっただろう。
むしろ彼を蝕み苦しめていた怒りの矛先が全てオリバーへ向いたようだ。
オリバーの声によって威圧された体でゆっくりと銃身を持ち上げ、引き金に指をかけて一言呟く。

「……死ね」

“|全てに死を《オール・キリング》”
彼が装備している銃火器から銃弾が一発放たれる。

その瞬間オリバーは機動隊の盾を構え、威嚇射撃を殺人鬼の足元へと放った。
殺人鬼が放った銃弾は盾に命中し、その瞬間弾頭内の火薬に火がつく。
爆発。銃弾の破片が飛び、炎が立ち上がる。
オリバーの外套がジリリと火に焦がされて嫌な匂いが立ち上る。
小さな破片が脛骨に突き刺さる。
ヒビこそ入らなかったものの、脛骨の他にも大腿骨など主に盾で庇い切れなかった下半身の骨を破片は勢いよく突き刺した。

だが|堅牢《カタ》さがオリバーの真骨頂。
下半身に弾丸の破片が食い込もうとその立ち姿は崩れない。
爆発による衝撃波を盾で受け止め後退も体勢を崩すこともしない。
威嚇射撃を打ち込みながらただ着実に前へ前へ、殺人鬼と自身の距離を狭めていく。

一方殺人鬼はエクスプローダー弾使用の副作用で茫然自失状態となり、ぼんやりとオリバーを眺め、フツフツと自らの原動力である怒りを溜めているあいだ、リロードも照準を合わせることも出来ずにいた。

「死ね!クソ野郎!」

そんな中、殺人鬼の背後からキョウリンの声が響く。
オリバーが威嚇射撃で注意を引きつけているうちに無防備な背後に回り込んだのだ。
殺人鬼の背に不意打ちで小型ナイフが突き刺さる。
ガスマスクのせいで表情は伺えないが明らかに殺人鬼はその一撃に吃驚していた。

それでもやはり殺しのプロなだけあってか、背に刃物が突き刺さっているという状況ですぐに次の弾をリロードし、その照準をキョウリンに向けた。
殺人鬼の銃火器の照準器にキョウリンの青白い顔が映る。

「言っただろ、安心してついてこいって」

キョウリンの作った大きな隙に乗じて、オリバーは構えていた盾を放り投げ警棒を取り出しながら一気に距離を詰める。
殺人鬼がその手に持つ銃火器でキョウリンの眉間に風穴を開けんとしているところに警棒を振り下ろした。
カラカラと音を立てながら吹き飛んでいく銃火器。
有害物質を含んだ水溜りに沈んだエクスプローダー弾はたとえ何十人殺した殺人鬼だとしても、もう使いこなすことはできないだろう。

それでもなお拳銃に手を伸ばそうとする殺人鬼を逮捕術を応用し自身の身と警棒で挟み込み捕縛する。

「先手を取らせて後手で倒す、これぞ『肉を切らせて骨を断つ』ってヤツ。ま、本官に筋肉は無いんだけどさ」

そう言ってケタケタと笑ってみせる。腕の中の殺人鬼は身を捩り、抵抗を続けている。

「命の意味、使い方ってのは自分で決めるもんだ。オマエは殺人に、コイツは復讐に使った。じゃあオレは、オマエのぶん殴る為に使わせてもらうとするぜ。」

殺人鬼の背中を蹴り落とし、地面に這いつくばらせる。
汚泥に塗れ、なお立ち上がろうと腕に力を込めようとしている。

相手がクソッタレの殺人鬼じゃなかったら“怒り”とはここまで人を動かすかと感心さえできたかもしれない。

「笑えよ、声を出せば少しは頭の熱も冷めるだろ?」

ちょうど雨も降ってることだしさ!

殺人鬼はオリバーを見上げ、唸り声を上げた。

「…ふざけるな…ふざけるな、ふざけるな!」

そう言って彼は怒りに任せ地面を強く殴る。
何度も、何度も。
泥が跳ねる。オリバーのズボンの裾が汚れる。

「どうやらオーバーヒートしちまったみてぇだな。」

獣のような声を上げながらオリバーに掴みかかろうとしたところを、警棒で一発ぶん殴る。
鈍い音がして、殺人鬼の身体は泥水に沈んだ。

当たりどころの良し悪しなどは特に気にしない。
殺人鬼の骨を拾うのは誰か、なんて気にする者はいないのだから。

「…そんで、これからどうするつもりだ?キョウリン」
「……これからって…そんなん何も…」
「あんたのこれからの命の使い方を知らねぇと胸の内がおさまらなくってね」

まあ、本官の胸の内は空っぽなんだけどさ。

「好きなだけ考えな。お巡りさんはいくらでも待っててやるさ」

お前に待たされるのは二回目だな。
そう言って雨空の下、オリバーはケタケタと笑うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リア・アストロロジー
3機のドローン展開&指定UC発動。
彼我の位置、遮蔽等を俯瞰で共有。

「その武器だと…」

戦う以前の問題。
彼を死なせないことを最優先に、精神状態を見守りつつ。

重装甲化したバルタザールを盾に音響砲で牽制。

「『骸の海』の過剰投与は。人を実験動物にしてしまう者たちの行いは」

怒り狂う嵐のその中心を彼と見ながら。

「だから仕方ない、という気はありません。けれどオブリビオンと呼ばれる存在に墜ちた時、多くの者が正気さえ保てず狂い果ててしまうのも、事実です」

ちっぽけな銃口を彼へ向けて。

「わたしは、これから彼を殺し――少なくともそれに加担します。それが依頼人の望みだからでも、あなたの仇だからでもない」

わたしが、そうするべきだと思ったから。

「……この命に、世界に意味なんかなくても」

出来るなら、そばでわたしの|声《本音》を聴いてくれる人がいて欲しい。
わたしという存在が砕けて無くなる日に、涙を零してくれる人が――

だから、怒れる人。
あなたがもう、それを壊すことしかできないなら
せめてわたしは、あなたの声を聞いていましょう。



●そうして小さな銃の引き金は弾かれた。

まるで夜空が泣いているような雨の中、空を飛ぶのはCasper、Melchior、Balthasar。
いずれもリア・アストロロジー(M2-Astrology・f35069)が|精神感応《テレパシー》でコントロールしているものだ。

“暁を残して”

怒りと悲しみを孕んだこの夜はあまりにも長すぎる。だからこそ。

彼女は戦場全体に彼女自身を核とした|精神感応《テレパシー》によるネットワークを発生させた。
リア、キョウリン、そしてオブリビオンの位置と身を隠せるような遮蔽物の位置を俯瞰で共有する。

キョウリンの手の中には小型のナイフ。

「その武器だと…」

戦う以前の問題。
こうやって憎悪を持って人に刃物など向けたことなんてないのだろう。
そのナイフで切ったことのあるものは精々果物だけだろう。

実際に彼女の|精神感応(テレパシー)にはキョウリンの殺人鬼に向ける憎悪の他にも、圧倒的な強者を前にした強い恐怖心と、未だ消えないアンズを失った悲しみ、生前のアンズと過ごした幸せな日々の追憶が次々にが流れ込んできている。

ぐるぐると巡る思想。睡眠不足も祟って精神的な限界も近いのだろう。

(ひとまず、彼を死なせないことを最優先に…)

重装甲化したバルタザールを盾として彼の前へ。
その瞬間、轟音。
殺人鬼が放った貫通スラッグ弾がバルタザールの装甲を貫いた音だ。
パラリ、と装甲の一部が濡れた地面の上に崩れ落ちる。
重装甲がなければ今頃その威力の弾丸がキョウリンの額に穴を開けていたことだろう。

装甲がこうなってしまっては次の一撃はとても防げそうにない。

メルキオールに精神を集中させ、音響砲をオブリビオンへ放つ。
彼女の声が、音の圧と共に殺人鬼へと雪崩れ込む。

「『骸の海』の過剰投与は。人を実験動物にしてしまう者たちの行いは」

なんと愚かで惨たらしいものだろう。
彼を|殺人鬼《オブリビオン》へと仕立て上げたメガコーポの研究者たちは彼の怒りも、その怒りによって引き起こされた今回の事件も他人事…あるいは耳に届いてすらいないのだろう。

「なんだ、お前。俺に同情してくれんのか?ありがてぇなぁ、無垢ってやつは。」

ガスマスクの裏でヘラリと笑う声の音。
しかし、彼の怒気はさらに増していくばかりだ。

それは怒り狂う嵐と表現するのが正しいのかもしれない。

「だから仕方ない、という気はありません。けれどオブリビオンと呼ばれる存在に墜ちた時、多くの者が正気さえ保てず狂い果ててしまうのも、事実です」

リアはちっぽけな銃を取り出す。
過酷な世界では身を護るにも心許ない武器だが、最後に己や仲間を──誰かを"救う"為に使える。
そんな銃口を彼に向ける。

そしてキョウリンへ語りかけるように、しかし独り言にも聞こえるように彼女は言う。

「わたしは、これから彼を殺し――少なくともそれに加担します。それが依頼人の望みだからでも、あなたの仇だからでもない」

“わたしが、そうするべきだと思ったから。”

その決断は、彼女がフラスコチャイルドであるが故か。

|海の星《Maris Stella》計画

同一の遺伝子情報を持つ40体のクローンは脳が焼き切れて既にこの世のものではなくなってしまった。
M2-Astrologyという|失敗作《いない子》
そう彼女たちを呼んだ人間もいた。

だからこそ、たった一人生き残った彼女は残された時間を、もらった時間を、精一杯生きるだけ。
“おかえりなさい” “ただいま”というどこにでもある普遍的でささやかな幸せに憧れるだけ。

「……この命に、世界に意味なんかなくても」

オブリビオンは言った。
“オマエの命なんて所詮こんな鉛玉一発で終わっちまうんだよ!ちっぽけなゴミだ!カスだ!スクラップだ!”

オブリビオンは言った
“誰の命にも意味なんてねぇんだよ。笑えるな、クソが。”

たとえそれが本当だとしても。
たとえそれがこの世のあまりにも残酷すぎる現実だとしても。

出来るなら、そばでわたしの|声《本音》を聴いてくれる人がいて欲しい。
わたしという存在が砕けて無くなる日に、涙を零してくれる人が――

リアは|精神感応《テレパシー》に意識を集中させ、オブリビオンの、彼の意識を探した。

赤黒く渦巻く嵐のような怒りと悪意。
そこの中心に届くように、彼女は心をそちらへ向けた。
その行為は双方向性の情報伝達となる為、互いに影響を及ぼし、精神汚染の危険性等も孕んでいた。

無限とも思えるような怒りだった。
生きていることへの、生命への底なしの苦痛だった。
自分だけではない、全てへの嫌悪だった。

「怒れる人。あなたがもう、それを壊すことしかできないなら…せめてわたしは、あなたの声を聞いていましょう。」

彼の情報を振り解くことはせず、ただそっと寄り添うように、ただ抱きしめて背を撫でるように。

怒りは消えない。苦しみは潰えない。
しかし、彼の中にとても小さな感情が芽生えた。

“どうして?”
“どうして俺なんだ?”

ガラスのヒビのような、そこを押せば全てが崩れてしまうようなそんな“悲しみ”の感情。
実験体として生まれ、実験体として死ぬことが定められたが故の悲しみ。

もうオブリビオンは何も語らなかった。
銃口を向けられても、避ける意志もないようだった。

リアは何も言わず、ただ頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イーブン・ノルスピッシュ
連携アドリブ歓迎
俺の記憶は曖昧だ
憎むべき相手さえ分からない
やり場の無いお前の憤怒は俺の炎にも似ている
だからこそ許し難い
然るべき報いを受けてもらうぞ、オブリビオン……!

改造銃は肩紐で吊ったまま、足元から噴き上がる炎を纏う
速度は上げず、敢えて狙いをつけやすいように接近する
撃ってきたら爆発の有効範囲に入る前に引火させ誘爆を狙おう
失敗しても炎の【オーラ防御】と【火炎耐性】、|外套《ポンチョ》の防弾繊維に任せて無理やり火中を突っ切るさ
距離を詰めたら【怪力】で銃士の手ごと銃を掴み、俺に押し当てさせ【威圧】しよう

さあ、引き金に力を込めろ
自分を巻き込まない距離でしか撃った事が無いのか?
憎悪を向ける者は、自らも等しく|憎悪《報い》を受ける覚悟がなければならない
|撃て《行け》、|臆病者《復讐を果たせ》!
(キョウリンにも向けて)覚悟を決めてみせろ、クソッタレ!

……行動を見届けてから、銃士の手と銃をフルパワーで握撃
キョウリンから少し距離を取って
俺ごと炎に巻き込んで銃士を【焼却】してやろう



●|憎悪《報い》

「俺の記憶は曖昧だ。憎むべき相手さえ分からない」

かつて戦場に散った兵士イーブン・ノルスピッシュ(|戦闘猟兵《Scorcher》・f40080)
唯一朧げに残るのは燻りもせず苛烈に燃え続ける復讐の炎。

「やり場の無いお前の憤怒は俺の炎にも似ている」

心の中と言おうか、心臓と言おうか。
自分の中心で永遠に尽きることのない憤怒。
それはイーブンの中にも、オブリビオンの中にも同様に存在していた。

「へぇ。じゃあ許してくれるのか?それともこれから一緒に“憂さ晴らし”でもするか?」

そう言って握手を求めるかのようにオブリビオンはイーブンに手を差し伸べる。

銃声が一つ鳴る。
イーブンの改造銃から放たれた銃弾はオブリビオンが差し出した手を掠めた。
それがイーブンの答えの全てだった。

「だからこそ許し難い。然るべき報いを受けてもらうぞ、オブリビオン……!」
「そうかい。じゃあ、無様に死ねよ。白兎。」

改造銃を肩紐でぶら下げる。
馬鹿でかいソイツは、ずしりと確かな重量をもってイーブンの肩にぶら下がっている。
いつも通り。戦場での彼の姿だ。

怒りに、激情に肩が震える。
カタカタと改造銃が鳴るほどに震える。

“オレステス|の業怒《アヴェンジ》”

彼の足元から一気に炎が噴き上がる。
まるで火柱のようだ。

彼の激情を糧にして、炎は燃える、燃える。
激しい怒りの炎が彼の全身を包み込んでしまうまでそう時間はかからなかった。

イーブンはオブリビオンに向かって歩き出す。
速度はいらない。
敢えて狙いをつけやすいようにゆっくりと、一歩一歩オブリビオンに近づく。

「大層な炎ぶら下げて的にでもなったつもりか?」

オブリビオンはそう嘲笑うと、自らの銃火器に火薬のこもったエクスプローダー弾を装填。
照準器を覗き込みイーブンを狙う。

タァン、と音が鳴りエクスプローダー弾が発射された。

弾は爆発の有効範囲に入る前にイーブンから放たれた炎にジリリと炙られる。
中の火薬にイーブンの炎が引火し、大きな炎を巻き上げて爆発した。
こんなにも激しく雨が降っていると言うのに、炎の勢いはそれに負けず、恐ろしいほどに燃え上がった。

いつもと異なる爆発力。
オブリビオンはそれを予想できず、巻き込まれ衝撃波によって体勢を崩し地面に転がる。

「……クッ!」

立ち上がろうとしたその時、炎の中に人影が現れる。

この程度の炎ならば既に身体の中で飼い慣らしている。
持ち前の火炎耐性でイーブンは爆発の炎の中を突っ切りオブリビオンの眼前まで迫った。

そこでイーブンは改造銃を打ち込むでも、そのままオブリビオンをぶん殴るでもなく、持ち前の怪力で|銃士《オブリビオン》の手ごと銃を掴み、イーブンの胸に押し当てさせた。

「……っは?」

突然の出来事に動揺するオブリビオンへ向かってイーブンは言葉を吐く。

「さあ、引き金に力を込めろ。自分を巻き込まない距離でしか撃った事が無いのか?」

ガスマスク越しに息を飲む音。
オブリビオンはカラカラになった口内で唾を飲む。

「……アンタ正気か?」

銃を撃てばオブリビオンを巻き込み爆発を引き起こす事は確かだが、その火種となる銃弾はイーブンの胸へと直撃する。
正気の沙汰とは思えない。
だがどうしてだろうか、銃を持つ手が震えるのは。

「憎悪を向ける者は、自らも等しく|憎悪《報い》を受ける覚悟がなければならない」

イーブンはさらに強く銃を自らに引き寄せ、反対の手で胸を掴み上げて吠える。

「撃て、臆病者!」

|銃士《オブリビオン》はイーブンの言葉を聞けば聞くほど、脳がカッと熱くなるような憎悪と憤怒に取り巻かれていくが、不思議なことに引き金を持つ手の力は次第に弱くなっていく。
撃とうとしても指が言うことを聞いてくれないのだ。

「行け、復讐を果たせ!覚悟を決めてみせろ、クソッタレ!」

その言葉はキョウリンを突き動かした。
今がその時だと。焦がれに焦がれていたその時だと。
目の前の光景に圧倒されている場合ではない。
今動かなければ、このチャンスは二度とこない。

「グッ…アアアアアアアア!!!」

腹の底から湧き上がる激昂の声に身体を突き動かされ、キョウリンは|オブリビオン《愛する人の仇》の元へ走るとその背に小型ナイフを突き立てる。

一度突き立てるだけじゃ身体が止まってくれない。
何度も、何度も、その背に切れ味の悪いナイフを突き立てる。

鮮血の匂いだ。
赤い液体が跳ねる。

オブリビオンは拘束されていない手でキョウリンを突き飛ばす。
泥水に塗れながらキョウリンは遠くへ転がっていく。
やはりオブリビオンを倒す力はないようだ。
それでも、彼は自らの手で仇の背を貫いた。
それをイーブンは見届けた。

いつまで経っても引き金は引かれない。
イーブンは銃士の手と銃をフルパワーで握撃する。
金属と骨の折れる音、そして呻き声がイーブンの長い耳にはっきりと届く。

キョウリンから距離を取るようにオブリビオンを引きずり、一気に火力をあげる。
自らも巻き込んでしまいそうな程の炎の勢いだ。
それでいい。白い毛並みがジワリと焦げていく。

全てを焼却し尽くさんばかりの火力の中、オブリビオンはイーブンにより拘束され逃げることを許されなかった。

炎の外側からは二つの影が揺らめいて見えるだけだった。
ただ様々なものが焦げる匂いが辺りに充満していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロウガ・イスルギ
アドリブ歓迎

文句も恨みも|メガコーポ《おや》に言えや!
|大層なご高説打つ《でけえ口叩く》割にやってる事は|一般人相手に殺人鬼気取り《弱いものいじめ》。
笑えねえほど笑わせてくれやがる!

★キョウリンを庇い敵UC被弾 背中~後頭部にかけ熱傷及び裂傷
実はUC発動の鍵

ハハ……初手ブッパとか余程俺の煽りが効いたようだな
慌てなさんな、|漬物くん《ピックル》……!
|瀕死状態《こういう時》だからこそ……使えるモンがある!

UC発動、亡霊としてアンズ召喚。呆然自失状態のシグマを羽交い絞め
アグネヤストラにて攻撃

狙いは俺がつける、|銃爪《トリガー》たのまあ……
お前が|引導を渡せ《ケジメをつけろ》……糞野郎と……|あの娘《アンズ》にな
あの娘は恨みで戻ったんじゃねえ、お前を守るために戦ってるんだ!
終わりにしてやってくれ……!

仕留めたらキョウリンと会話
後追い、とか考えてねえだろうな?漬物クン
今のお前が死んだ処でアンズと同じトコへ逝けるワケねえだろ!
まずは……親分とやらにナシつけに行こうか
仕方ねえな……一緒に行ってやるよ



●戦場の亡霊

|殺人鬼《オブリビオン》はヘラリヘラリと笑いながら言う。

“まあ許してくれや、生まれがこんなんだからさ!”

ガスマスクに隠された歪んだ笑顔まで想像できるようだ。

ロウガ・イスルギ(|白朧牙虎《我》・f00846)は固く握った拳を震わせる。

「文句も恨みも|メガコーポ《おや》に言えや!|大層なご高説打つ《でけえ口叩く》割にやってる事は一般人相手に|殺人鬼気取り《弱いものいじめ》。笑えねえほど笑わせてくれやがる!」

ロウガはオブリビオンに吠えるようにそう言い放った。

ヘラヘラと|お喋り《言い訳》をしていた口が閉じる。
あたりはシンと静まり返り、有害物質の雨が降る音だけが聞こえている。

「……あっそ、じゃあお望み通りまず弱いもんから殺してやるよ」

そう低い声で唸るようにオブリビオンは言うと、照準器の狙いをロウガからキョウリンへと変更する。
え、とキョウリンが言うが早いか、オブリビオンは引き金を引く。
極大威力のエクスプローダー弾が彼の銃火器から放たれる。
キョウリンは思わずぎゅっと目を瞑った。

銃声ののち、炸裂音。
しかし、いつまで経ってもキョウリンに衝撃は訪れなかった。

「ハハ……初手ブッパとか余程俺の煽りが効いたようだな」

目の前には眉間に皺を寄せたロウガが立っていた。
彼の息は荒い。
錆びた鉄のような匂い。何かが焦げるような匂い。
地面の水溜りに赤い液体が溶けていく。

「ア、アンタ…!俺を庇って…!」

|殺人鬼《オブリビオン》が狙いの先をキョウリンに向けた瞬間、ロウガはキョウリンの元へ走った。そして、キョウリンと殺人鬼の間に割って入り、ロウガのその背を彼の盾としたのだった。
背中に突き刺さる銃弾。
着弾したことにより銃弾内に仕込まれた火薬が発火した。
爆発。ぱっくりと割れたような大きな傷からはとろとろと血が溢れるように流れ出し、細かな銃弾の破片が彼の背中に広く突き刺さりそこからも赤い筋が流れ出ている。
傷の周りは爆発が原因で赤く焼け、ところによっては黒く焦げてしまっている部位もある。

「慌てなさんな、|漬物くん《ピックル》……!|瀕死状態《こんな時》だからこそ……使えるモンがある!」

彼が瀕死状態になったことにより、ユーベルコードが発動する。

“戦場の亡霊”
『ロウガが戦闘で瀕死になると【戦場の亡霊】が召喚される』

召喚された“戦場の亡霊”は艶やかで長い黒髪に、深い夜のような黒い瞳の女性──アンズだった。

「あ、あぁ…アンズ…!アンズ!」

キョウリンは縋るように彼女に向かって声を発した。
彼女は彼に向かってフッと懐かしいあの頃のような笑顔を向けると、すぐに殺人鬼に向き直り鋭い眼光で睨みつけた。

アンズは呆然自失状態の|シグマ《殺人鬼》を羽交い絞めにするとロウガに向かって頷いた。
ロウガはそこへアグネヤストラを数発打ち込む。
腹や胸、肩に銃撃を受けると茫然自失だったその身体をぐったりと前に倒した。
しかし、まだ息はあるようでロウガの方に顔を向けて怒りの籠った唸り声を上げている。

ロウガはシグマに狙いを付けていたアグネヤストラをキョウリンの手に押し付け、その上からしっかりと補助できるように自身の手を添えて銃を握らせた。

「狙いは俺がつける、銃爪たのまあ……お前が引導を渡せ……糞野郎と……あの娘にな」
「えっ、お、俺には」
「今更無理とか言うな…あの娘は恨みで戻ったんじゃねえ、お前を守るために戦ってるんだ!終わりにしてやってくれ……!」

キョウリンは一度銃をじっと見つめ、そしてアンズの方を向いた。
彼女はまた、キョウリンに向かって懐かしい笑顔を向けて、何も言わずに頷いた。
その目には涙が浮かんでいるようにも見える。

懐かしいアンズと過ごした日々が一瞬にして脳にフラッシュバックする。
初めて出会った夜。最期まで付けていてくれたネックレスをあげた日の事。自分の部屋に初めて彼女を連れ込んだ日。狭い部屋で一緒にジャンクフードを食べて寄り添った日々。

全部もう戻ってこない、過去になってしまった思い出たちだ。

ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。身体の震えが止まらない。
けれど手に込めた力だけは決して弱めないように気力を振り絞った。

ロウガが狙いを定めた。視線でキョウリンに合図をする。

「う、ああああぁぁぁぁ!!!!」

キョウリンの絶叫がまるで遠吠えのように響き、銃声が鳴った。

シグマの胸に銃弾が突き刺さる。
カハ、と乾いた声が彼の口から漏れ出る。
アンズが拘束を解くと既にシグマは息絶えていたようで、そのまま地面へと崩れ落ちた。

それを満足げな顔で見たアンズは次第に透明になっていく。

「い、行くな…!行かないでくれアンズ!」

縋るように抱きしめたその腕の中で、アンズはキョウリンにしか聞こえないように何かを囁くと雨の滴の中かき消えていった。

ぼんやりと虚空を見つめるキョウリン。
彼と出会ったバーガーショップでの様子にそっくりだ。

「後追い、とか考えてねえだろうな?漬物クン」

その声にハッと我にかえり、ロウガを振り向く。

「どうしてそれを…」
「今のお前が死んだ処でアンズと同じトコへ逝けるワケねえだろ!」

そう言って彼の背を叩く。

「まずは……親分とやらにナシつけに行こうか」
「お、親分は権力も金も力もあって…とても俺が話を付けられる相手じゃあ…」
「仕方ねえな……一緒に行ってやるよ」

そう言って肩を組むとキョウリンを引っ張るようにして歩いていった。

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雨は止まない。

悲しみも、怒りも潰えない。

それでもあの雲の上に太陽があると信じて生きていくしかないのだ。

せめて死ぬまでもがき続けるしかないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月01日


挿絵イラスト