【クロスオフィシャル】
●世界の外側
無数のフォルト球が浮かぶ世界の外側で。
指を鳴らし、我々に紫瞳の少女の運命の日を見せた、その直後のお話。
顔のない悪魔は佇まいを正し、赤き三つ目の方に姿勢を向ける。
「すみません、おそらく私程度など一切の抵抗の余地無く抹消できるお方と心得ますが、弁明と質問をよろしいでしょうか」
薄っすらと見える赤き三つ目はその言葉を黙って聞いている。
「この顔、元からこうなのではなく、一種の呪いを掛けられているのです。 他者に素性を、顔を認識されなくなる呪いですね。 解呪の意思はあります。 ただ、掛けた者に解いてもらいたいので、もう暫しご容赦願いたいです」
「ほう。呪いでしたか。これは失敬を。ほぼ万能の神たる私ですが、翼の世界の人間が関わった存在に関してだけはなかなか情報を集められず……。いやはや厄介なことです。ねぇ?」
悪魔の言葉に、興味をそそられたらしい赤い三つ目の赤が色濃くなる。そして一瞬ちらりと"あなた"に視線を向ける。
翼の世界。それは多くの超次元存在が呼ぶ、これを読んでいる"あなた"の住む世界のことだ。つまり、"あなた"がキャラクター作成で作ったキャラクターのことだけは簡単には見通せない、と赤き三つ目は言っているのだ。
「コード・メリーと仰いましたが、それはどのような存在でしょうか。 恥かしながら、私は自分が何者なのか全く理解していないのです。 悪魔というのも、暫定で名乗っている状態でして」
「えぇ、あなたはあの世界における所謂一般的な悪魔ではない。そうでしょうね」
一般に「現代神秘世界」において「悪魔」と言うと、「上級悪魔」の事を指す。常に争わずにはいられず、現代世界を舞台に「下級悪魔」という手駒を従えて他の「上級悪魔」と|遊戯《ゲーム》を繰り返す。強力な「霊害」だ。
彼らは「|太平洋上に存在する世界樹《パシフィックツリー》」によって分かたれた九つの世界の一つから人間達の世界へ訪れているが、ここで言う「世界」とは、単一世界の人間が自分たちの理解の中でそう読んでいるだけで、実際には単一世界の中の「層」と表現するほうが正確だ。
このように世界の外側に姿を晒し、まして"あなた"に声をかけるような超次元存在ではありえない。厳密に言えば上級悪魔が何かしらの理由で超次元存在になることは否定しきれないが、ここでは割愛する。
「さて、それはそれとして、この私の預言をお求めですか? そんな事を求めてくる翼の世界の関係者はあなたで二人目ですよ」
楽しそうに赤き三つ目が揺れる。
「ですが、残念。あなたには私や私の御使い達との縁がない。預言者には相応しくない。ですが……。あなたは随分道に迷っている様子。そんな子羊に預言とは関係なく助言を与えるというのも、悪くはないですねぇ。いいですか? ここは世界の外側。あなた方が「現代神秘世界」と呼ぶ世界の法則とは無縁。「神は嘘を吐かない」なんて面倒な決まりもありません。つまり、私の言葉は|一《・》|切《・》|信《・》|用《・》|で《・》|き《・》|ま《・》|せ《・》|ん《・》。それでも、私に回答を求めるのですか?」
口無しのニタニタで、赤き三つ目が言う。
「えぇ」
悪魔は答えた。ただでさえ何も分からない。目の前の存在が何か少しでも答えてくれるというのなら、それを聞かない理由はなかった。
「そうですかそうですか! いいでしょう、では答えて差し上げましょう。信じる信じないは、あなた次第ですよ、いいですか」
極めて楽しそうに赤き三つ目が揺れる。
「コード・メリーとはAWsラボラトリーが分類する超次元存在の一つです。他にコード・アリス、コード・ドロシー、コード・シンドバッドなどがありますよ。人間というのは分類するのが好きですよねぇ」
ちなみに私は超次元存在ですがこのどれにも当てはまりませんねぇ、などと赤き三つ目が笑う。
「さて、コード・メリーとはどういった存在か、ですが。簡単に言うと世界を渡り、人に取り憑くことで自身の存在を安定させる存在のことです。|有機亡霊《オーガニックゴースト》なんかが代表的ですが……、あなたはどうなんでしょうね? あなたがまだ少女の姿で廃墟にいた頃……」
「すみません、視点で垣間見えた男女と私の関係について話す時「オフレコ」と付けていただけませんか? 貴方様のような上位存在に証明されてしまうと、私ではどうしようもなくなってしまいますので」
赤き三つ目が言葉を続けようとするところに悪魔が口を挟む。
「これはオフレコなのですが、はい、あの少女は私ですね」
こんな感じです。と悪魔が続ける。
赤き三つ目は一瞬不愉快そうに色を薄くしたが、その説明を聞いてすぐに態度を変える。
「なるほどなるほど。これは私としたことが、せっかく道に迷っているあなたを強制的に道に案内なんかしたら面白くないですものねぇ、ありがとうございます」
さも「あなたが道に迷っている様子が面白いのだからそのままでいてほしい」とでも言うかのような発言。
「では、オフレコですが、あなたがまだ少女の姿で廃墟にいた頃は普通の人間のように見えました。後天的に|有機亡霊《オーガニックゴースト》になる存在もいるようですが、どうなんでしょう。あなたのことはあなたが決めるので、違うとも違わないとも私には決めかねますが」
ちらりと”あなた"の方を見ながら、赤き三つ目は口無しのニタニタを披露する。
「ちなみに、もう一つの可能性として、|私《・》|個《・》|人《・》|の《・》|考《・》|え《・》|で《・》|は《・》、あなた、所謂「ロア化」しているのでは? その能力はその影響でしょう」
頭に枕詞を入れることで断定を避けることで証明しないようにしつつ、もう一つの可能性を述べる。
ロア化。周囲の噂などによって存在が変質させられた存在の事を言う。この『試練の洞窟 -The Cave of Ordeal-』においても、「怪奇人間」という種族名でロア化した人間を選ぶことが可能だ。
「あるいは、後天的な|有機亡霊《オーガニックゴースト》でありながら、ロア化した存在という|可《・》|能《・》|性《・》|も《・》|あ《・》|り《・》|ま《・》|す《・》が」
あくまで断定しない証明しない形で赤き三つ目は続ける。
だが、ロア化するにはそれなりの多くの人間から認知が歪められなければならない。廃墟に男と二人っきりでいた、とするならそれは不自然だ。
「おそらく、あの男のほうが所謂「エンジェルダスト」だったのでしょう」
エンジェルダスト。その言葉は現代神秘世界にはない用語だ。
「まぁ、意味は良いじゃないですか。簡単に言えば彼は、単独でロアを生み出し、ロア化を発生させられる存在だった|可《・》|能《・》|性《・》|が《・》|あ《・》|り《・》|ま《・》|す《・》」
つまり、悪魔は男の能力によりロア化させられたことで、今の「悪魔の証明」と呼ばれる能力を得たのではないか、と赤き三つ目は言う。
「あくまで可能性の話ですけどねぇ」
赤き三つ目は再び口無しのニタニタだ。
「ちなみに、コード・メリーに取り憑かれ、適合し、その能力を行使できるようになった存在のことをコード・メリー適合者、と呼びます。あの紫の瞳の彼女とあなたの関係はよく似ている|気《・》|が《・》|し《・》|ま《・》|す《・》ねぇ。まだ彼女は世界の外側に飛び出すほどの能力行使は出来ていないようですが、過去を見られた後、寒気を感じていましたねぇ、あれはまさに"視点"の存在に気付こうとしている兆候、超次元存在となりかけている証ではないかという|気《・》|が《・》|し《・》|ま《・》|す《・》ねぇ」
やはり断定はしない。赤き三つ目にとっては、目の前の悪魔の迷子の前に幾筋もの分かれ道を見せて迷わせるのが楽しいのだ。
赤き三つ目の言葉をすべて信じるなら、悪魔は有機亡霊であり、エンジェルダストである男によってロア化して今の能力を得て、そして、コード・メリーとして紫瞳の女性に取り憑き、彼女をコード・メリー適合者にした、とそういうことになるだろうか。
もちろん、どれかが間違っている可能性もあれば、全てが違う可能性さえある。
「ここまでの考察が正しければ、あの廃墟は、後に「試練の探求者」が「知性間戦争後の世界」と呼ぶ事になる世界|か《・》|も《・》|し《・》|れ《・》|ま《・》|せ《・》|ん《・》ねぇ。「エンジェルダスト」がいて、廃墟が多い世界と言うと、もっとも可能性が高い世界です。だとすれば、次に攻略する「試練の洞窟」を選ぶ機会があればフランス近くの「試練の洞窟」を選ぶのも手かもしれませんよ。彼と運命の再会、なんてこともある|か《・》|も《・》|し《・》|れ《・》|ま《・》|せ《・》|ん《・》ねぇ」
楽しそうに赤い三つ目が揺れる。
「まだまだ色々な可能性を述べたいところですが、あまり文字数を使いすぎるのも、"あなた"に申し訳ないというもの。一つの一連の可能性を述べたところで、私の話はこの辺にしておきましょうかね」
「ありがとうございます。 最後に一つ、提案をしたいのですが……」
"あなた"を一瞥しながら、赤き三つ目が揺れる。
これで終わりと聞いて、悪魔がお礼を言いつつ、何かを提案しようとする。
「いえいえ、確定させるのは私ではありませんから、ねぇ。私は一連の可能性の一つを示したのみです。そしてなんです? 提案とは、私は面白ければ乗って差し上げますよ」
赤い三つ目は"あなた"に視線を投げかけつつ、答える。
「また視点であの二人が覗かれそうになった時、一緒に実況と解説をしませんか?」
「ほほう、それは面白そうですねぇ。今のようにあることないこと好きに喋っていいなら、喜んで、あなたの過去を思う存分|迷わせ《導い》て差し上げましょう」
赤い三つ目はその提案に口無しのニタニタで答えた。
「それでは、次に会う時、何が確定して何が確定していないのか。楽しみにしていますよ」
赤い三つ目は悪魔とそして"あなた"にそれぞれ視線を向けた後、今度こそ消えていった。
成功
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