「バレンタイン……チョコ……」
テンペルト・ヴァッハはUDCアースの街をふらふらしていた。むしろふわふわしていた。
「思った以上に……もらえない……」
……期待していた分だけ落胆も大きい。
おかしい、今頃はかわいい女の子とチョコに囲まれてウハウハしていたはずなのに!
「はぁーあ……ん?」
ため息一つ、そして視線を上げる。
すると、チョコレート店の張り紙が目に入った。
「チョコレート作り体験……好きな人にチョコをあげよう?」
その時テンペルトの脳裏に過ぎったのは、自分のためにチョコを作ってくれる可愛い女の子の姿だっ、
真っ赤な姿が過ぎった。自分とそっくりな、しかし傷と狂気に塗れた顔。
「ちがーう!? なんであのゲス野郎が……!?」
違う。
テンペルトが思い描いたのは自分を好きで好きでたまらない可愛い女の子であって、
どう頑張っても、真っ赤な姿の、同じヴァッハ神――しかもオス――の姿しか浮かばなかった。
この流れでその妄想は、つまりそういう意味になってしまうのではないか?
「いや、そんなはずはない!……って、あれ?」
「いらっしゃいませー」
――俺は~いつ~店に入った~にょ?
「本日、チョコ作り体験会を行っております! お客様もいかがですか?」
「あ、はい。やります……」
「一名様入られますー! よろしくお願いします!」
――え、何、何なのこの流れ?
完全に無意識の出来事。
気がつけば、あれよあれよとチョコ作りをすることになってしまったテンペルトであった。
そして。
薄力粉をふるう。チョコレートを湯煎で溶かす。
「どうしよ……どんなに頑張っても、頭にあいつしか思い浮かばない……」
女の子は、いずこ! という思いすら忘れそうになる。
卵白を泡立てる。卵黄も泡立てる。下ごしらえした食材たちを、順番通りに混ぜ合わせていく。
――ペルー、ペルー、聞こえっかぁ? 今、俺はお前の脳内に直接話しかけてるぜぇ♪
「やめろー! やめろー!」
「お、お客様、どうかしましたか……?」
「あ、いえなんでも……」
何はともあれ、ガトーショコラが焼き上がる。
「素晴らしい出来です! お相手も喜ぶこと間違いなしですよ!」
「お相手……お相手……」
頭に浮かぶのは、相変わらず赤い影。
にまにまと笑うその姿は、さながらそのチョコを持ってこいと言わんばかりであった。
この後どうなったかは、神のみぞ知る。
失礼、二人とも神だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴