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風花カプリチョーソ

#アルダワ魔法学園 #ノベル

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栗花落・澪




 遊びに行きたい、と乞われると案外悩む方だ。鵜飼章にとって人生は退屈な映画であり、万事は暇潰しで、だからこそ選択肢が多すぎる。とりあえず地図にダーツを投げて行き先を決めようと提案してみたら、提案した本人である栗花落・澪は快諾してくれた。良い子だ。
「刺さったよ。アルダワ魔法学園にしよう」
「いいね、楽しそう! ところで鵜飼さん……この地図どこから入手したの?」
「自作だよ。世界の位置関係は出鱈目だけど、いる?」
 ちなみに治安の悪そうな世界は抜いておいた。後はカブトムシの導く侭、グリモア猟兵の職権は濫用するものだ。

 とはいえ、現地に着いても何をするかが問題だ。最近気になる水中考古学やクマムシの量子もつれ化等の話をするのは人として避けた方が無難だし、体力に不安がある澪を趣味の無人島サバイバル生活やゲテモノグルメに付き合わせるのは尚更最悪だろう。オサ掘りなら乗ってくれる可能性はある。が、アルダワまで来てする事ではないし、失敗した時のリスクが高すぎる――何も考えず蒸気機関車に乗った章は、窓側の席で景色を楽しむ澪の隣に座り、概ねそんな考察をしていた。
「見て、精霊の森すごく綺麗だよ。鵜飼さん?」
「次が目的地だ。ここで下車するよ」
 さも初めから決めてましたって感じで言った。
 冬季、精霊の森の片田舎の駅で下車する旅人は少ない。豊かな森林は一面白で覆われ、遠くには雪化粧して巨大な雲のように膨らんだ天空樹の姿が薄らと見える。森の奥へ踏み入る程に人気は失せて静謐となり、空気は澄んで、深呼吸をすると身体が芯の底から清められるようだ。
「鵜飼さんのお気に入りの場所?」
「そう」
 章はこんな寂しい場所が好きなのか。澪は言葉の意味を探るのはやめ、空気を吸う。少し冷えるが、澪もこうして静かに自然を楽しむのは好きだった。
「雪、すごく積もってるね。鵜飼さんは寒くないの」
「いや、とても寒いよ。寒いのは苦手なんだ」
 いよいよこの男が何をしたいのか困惑する所だが、澪はこんな事もあろうかと持参したホットココア入りの水筒を荷物から出した。その気遣いに章は凄いね、と素直に感心を覚える。冬、寒い森の深くで飲むココアはとても美味しい。濃さや温度、甘さにもこだわられているようで、いつも安い茶を適当に沸かしているだけの章とは雲泥の差だ。
「人間の味がする……」
「……僕、鵜飼さんの普段の食生活が心配になってきたよ……」
 所で何故ここに連れてきたのだろう。雪合戦でもする気かな、と澪が考えていると、如何とも気の抜けた笛の音が唐突に響き始めた。……どうやら章が獣奏器のオカリナを奏でているらしい。
「驚いたかな。これがかつて音楽室の悪魔と呼ばれた僕の実力だ」
 上手くもないが下手でもない。まさに虚無。自覚もあるらしい。さすがの澪も反応に困っていると、突然雪の中からぴょこりと何かが飛び出してきた。白くてふわふわした毛玉のようなモグラだ。森の奥からは鹿に似た獣の群れが。空からは氷の翼を持つ半透明の小鳥が。様々な生物が何故か寄ってくる光景に、澪は歓声をあげる。
「そういえば鵜飼さんって昔はビーストマスターだったんだっけ」
「うん、動物と話すのは得意だよ。皆『うるさい』と苦情を言いに来たみたい」
「せっかくファンタジーだったのに台無しだよ!」
 これには澪も思わずツッコミを入れた。ああ、また暫く笛の練習をしていなかったなと章は何処吹く風だ。今更練習してどうなるものでも無さそうだが。
「栗花落さん、お手本を聴かせてくれない?」
「いいの? うん、それじゃあ僕も一曲歌わせてもらおうかな!」
 章の吹いている謎の曲の雰囲気を何となく汲み取り、澪は森に歌声を響かせる。ケルト音楽を思わせる民族調の曲は、あてもない路を往く気儘な旅人の姿を綴ったように思えた。この音に捻くれた詩など似合わない気がしたから、ラとルだけ届けられれば充分だ。
 章の笛の印象などたちまきかき消えるほどに、澪の歌唱技術は聴衆の心を震わせる。それが人であっても、獣であっても、例え相容れぬ宿敵だったとしても、きっと。
 森の獣たちの機嫌も治ったようで、聴き終えた後は皆澪にじゃれついてきた。雪が頬や手にかかって冷たい。けれど、気に入ってもらえて嬉しい限りだ。歌は澪の大切なものだから。
「あはは、皆くすぐったいよ……あれ? 鵜飼さん? 急に立ち上がってどうしたの?」
「……来たね。最近この区画を荒らしている水晶の大龍帝リヴァイアサン・ランサーが」
 えっ?

 ズーン……ズーン……。
 森の奥からなんか響いてくる。足音が。
 今なんて言った? 幻獣? もしかしてこれ呼ぶために笛吹いてた?
 澪は思い出した。この人、今は魔獣解体士だった――!

「準備して栗花落さん。大丈夫、殺しはしない。お話するだけだ」
「お話って何!?」
 遊びとは人によって定義が異なるものである――この後どうなったかはまた、別の話だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年02月13日


挿絵イラスト