終夜・嵐吾
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何らかの事情で11人になった雅と嵐吾のお話をお願いします
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何度訪れても、この世界はいつだってキラキラのぴかぴかで。
今宵も漂っているのは、犯罪の香り。
そして。
「いつ来てもこの世界は派手じゃな~」
そう琥珀の視線を巡らせる終夜・嵐吾(灰青・f05366)も、今宵は派手派手だ。
ふっさふさの高そうなイケイケジャケットに、腹チラするほどショート丈なショッキングピンクのレオパード柄シャツ。それに、イケイケ星型サングラスをお耳の前にちょこんと乗せれば――そう、どこから見てもパリピ!
そして同じように、マフィアのボス感醸している、お揃い星型サングラスを頭に乗せた清史郎も。
「ふふ、俺はこの世界は楽しくて好きだ」
傍から見ればイケイケなパリピだ。多分。
そんなふたりがやって来たのは、サイバーザナドゥの世界。
VIP制ナイトプールで行われる、パリピなパーティーへと参加するためだ。
そして勿論それは、違法な秘密のドラッグパーティー。
ドラッグパーティー自体は、この世界では珍しいものではないが。
何やらオブリビオンが絡んでいる可能性があるということで。
何かが起こった時のために警戒にあたるというのが、今回の猟兵の任務である。
とはいえ、潜入調査だとばれては決してならないから。
ふたりは今、イケイケのパリピになっているのである。
それからスムーズに会場へと潜入し、着替えるのは、パリピな水着。
お揃いのパリピアロハを羽織り、星型サングラスも忘れず装着して。
それぞれパリピイルカさんフロートと激甘ドーナツ浮き輪を抱え、プールサイドへ。
雰囲気満点な薄暗いナイトプールはこの世界らしく、ゲーミングカラーのミラーボールがくるくると回り輝いていて。プールの底に設置された照明がその色を変えるたび、ゆらめく水面の雰囲気も変化する。
その光景は、傍から見ればやはり、イケてるパリピ達の夜遊びであるが。
何せ此処は、社会モラルが崩壊した骸の雨降るサイバーシティ。
夜遊びは夜遊びでも、モラル無き夜遊びである。
とはいえ、共に潜入している友は相変わらずうきうき楽し気で。
嵐吾はこう、清史郎へと先に言っておく。
「せーちゃん、甘味はほどほどにの」
「勿論心得ているぞ、らんらん。まだ甘味はお預けだな」
ちょっとその言い方に引っかかる部分はあるものの。
何か起こる前の初手から激甘の強襲を受けることは回避できたようで。
切実に友に言って聞かせながらも、嵐吾がとりあえず安堵した――その時であった。
「そこのイケてるお兄さん達も参加しない? これから、とーってもたのしくて刺激的なゲームがはじまるの」
そう声をかけてきたのは、スタイルの良い色っぽい女性。
きっと、ドラッグの密売組織から雇われた仲介人だろう。
そしてふたりは視線を交わし合い、こくりとお互い頷いて。
「それは楽しそうじゃな、せーちゃん。わしらも参加してみるかの!」
「ああ、そうだな」
調査を兼ねて『とーってもたのしくて刺激的なゲーム』に参加してみることに。
そのゲームの内容とは。
「ほほう……どれかひとつを選んで飲む、とな。せーちゃんは、どれにするんじゃ?」
「俺はそうだな、この苺のように甘そうな色のものに」
「甘そうな……ではわしは、この甘くなさそうな、爽やかそうなのにするかの……」
目の前に差し出されたのは、様々な色をした沢山のドリンク。
それを参加者がひとつずつ選んで、それぞれ口にしてみる……というものだが。
用意されたこれらの中には、普通のドリンクではないものが混ざっているのだ。
ドリンクのいくつかには、違法ドラッグが入っているのだという。
しかも、入れられているドラッグの効力は様々。
いわゆる『当たり』を引いても、どのような効力があるかは分からないという。
とはいえふたりは猟兵、ドラッグを口にしても、多少の効力の影響は受けても、命にかかわることにはならないだろう。
なので潜入捜査だと怪しまれないためにも、ふたりはこのゲームに乗って。
パリピムーブで乾杯してから、それぞれ選んだドリンクを口にしてみる。
「……うむ、見た目通り爽やかな味わいでおいしいの~」
「俺のものも、苺とは少々違ったが、甘やかで美味だ」
「せーちゃんのは、甘いんじゃな」
清史郎の言葉にちょっぴり警戒しながらも、でも嵐吾は首を傾ける。
このようなゲームに使われるようなドラッグは、恐らく即効性のものだろうが。
特に今、嵐吾の身に何か変化などは起こってはいないからだ。
きっと自分のものは、普通の美味しいドリンクだったのだろうと……思った瞬間。
「……!」
「せーちゃん?」
ふと視線を向けるのは、眼前の友の様子。
何だか珍しく、少し苦し気で。
「だ、だいじょうぶかの? 少し休んだ方がええんじゃ……」
流石に心配になって、パリピビーチチェアへと友を促そうとした嵐吾だけれど。
「……!!?」
目の前で起こった友の変化に刹那、思わずお耳もぴこり。
驚きを隠せない様子で、ぱちりと瞳を見開いてしまう。
それもそのはず――だって、分裂しはじめたのだ。
「えっ、ちょ、せーちゃん?? えっ!?」
そう、清史郎が増えたのである。
それも、ひとりやふたりではない。
「おお、これは……?」
「ふむ、どうやら、当たりの飲み物を引いたようだ」
「それにしても、俺は何人になったのだろうか」
「では数えてみよう」
「1、2、3、4――10、11」
「成程、11人か」
「随分と俺が増えたな」
「2人ならば、ユーベルコードで増えたことがあったが」
「だが、いずれ戻るだろう」
「それまでは、それぞれ楽しむとしよう」
「ということでらんらん、何をして遊ぼうか」
そう――清史郎が、11人になったのである。
実は自分のドリンクの方がドラッグ入りの当たりで、友が11人になった幻覚を見ているのかとも思った嵐吾であったが。
「あら、イケメンが11人に!」
やはり、清史郎が11人になっているらしい。
「せーちゃんが11人……なんだか、すごいことになっておるの……」
嵐吾は11人の清史郎を見遣り、そう言うので精一杯だが。
分裂する時は少し苦しそうだったものの、今は元気なようだし。
本人たちが気にしていなさそうであるし、そのうち元に戻るだろうし、潜入がバレてもいけないので……動揺してしまったが、嵐吾も気にしないことにする。
そんな嵐吾が気を取り直している間にも、思い思いに楽しんでいる清史郎たち。
プールで泳ぐ清史郎、パリピチェアで寛ぐ清史郎、自分と談笑する清史郎、ドーナツ浮き輪でぷかりと浮かぶ清史郎、そしてメニューを見ている清史郎――。
「! せーちゃんっ」
嵐吾はハッと瞳を見開き、慌ててメニューを見ている清史郎へと声を掛けて。
どうした? ときょとりとしているその清史郎に、慌てて訊ねる。
「せ、せーちゃん、何を頼むんじゃ?」
何せ、ひとりでも激甘王の友……それが11人に増えたのだ。
甘味も11倍とかなれば、確実にどろ甘地獄である。
そんな恐怖を感じる嵐吾を余所に、清史郎はにこにこと。
「そうだな、ココアでも飲もうかと思っている。ああ、そこの店員さん、ココアを11人分お願いしていいだろうか。とびきり甘くしてくれ」
注文したのはやはり、激甘ココアであったが。
でも嵐吾はホッとする。11人分ということは、自分達の分だけであるから。
ということで。
「では、わしも何かたのむかの」
そうあまり甘くないものを頼もうと、メニューを手にしたものの。
清史郎は微笑みを向け、こう嵐吾に告げたのだ。
「らんらん、11人のうち1人は甘いものがそれほど得意ではない俺のようなので。らんらんの分も合わせて、11人分のココアを頼んでおいた」
「えっ、わ、わしのも……!?」
いや、完全によかれと思って頼んでくれたということは分かっている。
分かっているのだが……でも嵐吾は、普通の常識的な程々の甘さが好きなわけで。
とんでもないどろどろ激甘は、勘弁して欲しいのだけれど。
何度言っても、そう遠慮するなとにこにこ、友は毎回甘味を口につっこんでくるのだ。
だがココア程度の量ならば、耐えられるかもしれない……なんて思い直しつつ。
甘い香りに誘われ、他の10人の清史郎もわらわらと集まってきて。
「では、皆で乾杯しようか」
11人の清史郎に囲まれながらも、激甘ココアで乾杯を。
そして、そろりと口にしてみれば。
「……甘っ!!?」
ぶわわっと尻尾が膨らむほど、やっぱり甘かった。
そんなもふもふ尻尾を、甘いものが得意ではない清史郎がしれっともふる中。
お残しするわけにはいかないので、何とかココアを飲み干す嵐吾。
そして急いで、しょっぱいものを頼もうとメニューを開いた――その時。
「お待たせしましたぁ、11人分の激甘☆パリピビッグパフェでーす!」
「……!!?」
店員が運んできたのは、ゲーミング色に輝くパリピビッグパフェ11人分。
勿論よかれと思って、また別の清史郎が、嵐吾の分も頼んでいたようだ。
そんな眼船のパリピビッグパフェに慄きながらも。
ハッと嵐吾は断る口実を思いつき、清史郎達にすかさず告げる。
「い、いや、わしは……そう、おなかいっぱいじゃから! 10人のせーちゃんで、わしのパフェもわけておくれ」
しかし相手は何せ、人の感情の機微がわからぬ箱×11。
一斉に、きょとりとした顔で嵐吾を見つめて。
10人の清史郎はスプーンをすちゃりと握る。
そして、いつものいい笑顔で。
「そう遠慮するな、らんらん」
「ふふ、では俺達が食べさせてやろう」
「その間に、甘いものが苦手な俺が尻尾の毛並みを整えておくので。らんらんは甘味を存分に味わってくれ」
ということで。
「ちがっ、せーちゃんたち、そうでは……ふごっ!?」
いつものようにもふもふされつつ、パフェをお裾分けされる羽目になる嵐吾であった。
勿論――10人分の清史郎の甘味を。
成功
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