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銀河帝国攻略戦㉗～決戦の刻

作者：数巴トオイ

●グリモアベースでは
「おはんら、良かが！」
　集まった猟兵を前に、新納・景久が声を張り上げる。
　ようやくここまで辿り着いた。スペースシップワールドで絶対の王者として君臨した銀河皇帝。その喉元へと、いよいよ差し迫ったのである。
　敵の居城、帝国旗艦『インペリウム』は巨大かつ強大。人類解放軍が全力で砲撃したとしても、そうそう潰せるような耐久力ではない。逆に、反撃によっていくつもの船が沈められてしまうだろう。
　だからこそ、インペリウムに乗り込み、皇帝を直接葬らねばならないのだ。
　オブリビオン・フォーミュラ。世界の存続を脅かす過去からの忘れ物が、未来を奪う。
　これは、未来を取り戻すための戦いなのだ。
「奴はおはんらの位置ば特定し、不意を打って来よぉ。じゃっどん、そいが反撃ん好機じゃ。進め、そいで仕返せ！　敵ん一之太刀をいなし、返す刀で首ば取らんか！」
　最早銀河皇帝は鎧を剥ぎ取られたも同然。
　それでも軍を退かない。何故か。それは、皇帝こそが最強の戦力であるからだ。
　しかしそれに怯んでいる暇はない。
　世界の存続。そして未来を掴み取る。
　そのために、猟兵は集う。
　景久はグリモアを掲げた。
「狙うは銀河皇帝ん首、ただ一ォつ！　全猟兵、かかれェッ！！」

●帝国旗艦『インペリウム』
「ふん、使えぬ。所詮は寄せ集めということか。話にならん」
　戦況を見た皇帝は、忌々しげに呟いた。
　彼こそが銀河帝国。彼のいる場所が銀河帝国。
　そう、帝国は、皇帝一人で成り立っている。
　軍勢も、配下も、最早いらない。
　報告に赴いていたオブリビオンの額に、皇帝が手を添えた。
「も、申し訳ありません。我ら、皇帝陛下のため力を尽くし――」
「いらぬ。下がれ」
　吐き捨てると同時。皇帝の手から、オブリビオンが吸い込まれた。
　こうして力を蓄え続けたのだろう。皇帝に対抗できる者は、帝国軍にはいない。
「ふ、だが、良いだろう。我一人で十分だ」
　椅子を立った皇帝が、インペリウム内の気配を探る。
　そして、幾人もの猟兵が攻め入っていることを感じると、気配に向けて転移を始めた。

第1章 ボス戦 『『銀河皇帝』リスアット・スターゲイザー』

POW   :    マインド・クリエイション 【銀河皇帝を不老としている生命維持機能】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【白騎士と同性能の人型兵器『マインド』】に変化させ、殺傷力を増す。 SPD   :    フォース・インベイジョン 【銀河最強のサイキックエナジー】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【意志とユーベルコードを奪う洗脳念波】で攻撃する。 WIZ   :    ワープドライブ・ペネトレーション 【外宇宙から、知られざる『黒き槍の船』】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。 👑14 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●皇帝は全能にして全知
「そう簡単に討たせてくれんだろうが」
「銀河皇帝の力、どれほどのものか試させてもらいます」
　転移と同時に駆け出した雛月・朔（f01179）と緋縅・善蔵（f06737）。二人には自信があった。己の力量ならば皇帝に傷の一つくらいは入れられるだろうと。
　善蔵は可変形式宇宙バイクから小型の無人航空機を射出。先導させるように飛ばした。
　敵は猟兵より遥かに力量が上。それならば、いつでも対応できるように備えておくものだ。
　一方で朔はというと、【憑依・いたずら人形の霊】で敵の弱点を突ければ勝機が見えると考えていた。
　彼らの頭にあるのは、どのようにして皇帝に攻撃を届かせるか。確かに、それができれば御の字であろう。それが例え一太刀であったとしても。
「来たか、猟兵よ。我が旗艦へようこそ」
　果たして、皇帝は現れた。一瞬だ。瞬きをしたかと思ったら、正面にいたのだ。
　これが銀河皇帝の転移。
「あぁ、お前に一泡吹かせてやろうと思ってな！」
「私だって念動力には自信がありますからね！」
　啖呵を切る善蔵と朔。
　しかし、皇帝は不適に笑む。
　己の武器を引き抜いたかと思うと、それは、銀河帝国軍二大巨頭の一、白騎士を思わせる人型兵器へと姿を変えた。
　猟兵が二人なら、人型兵器も二。
「それが何だ、突破してやる！」
　善蔵がライフルを、朔がくないを構え、踏み出す。
　一歩。
　たった一歩だ。
　その一歩の間に。
「げ――ッ」
「くっ！」
　二体の兵器が、その腕に備えた砲門を猟兵に向けた。
　直撃はまずい。寸前のところで回避しなくては。
　敵の狙いをよく見ろ。どっちへ跳べば良い。
　ダメだ、もう発射される。
　善蔵が引き金を引くよりも、朔がくないを放つよりも、ユーベルコードを発動するよりも早く。
「殺れ」
　皇帝の短い一言。
　直後。
　二筋の光線が、朔を、善蔵を貫いていた。
「ば、バカな……っ」
「何も、でき、な」
　皇帝の呼び出した人型兵器は、白騎士と同等の力を持つ。
　即ち、猟兵の未来位置を予知し、そこに砲撃を仕掛けることを可能としている。
　敵の方が早い。圧倒的に早い。
　敵より先に仕掛けるなど、猟兵一人一人の力では不可能だ。
　砲撃が放たれる前にどうするかと考えていては、封殺される。放たれてからどうするか。僅か一秒にも満たない一瞬の思考が、行動が、結果を変える。
「どうした、もう終わりか。ふん、的にもなら……なんだ、まだ息があるようだな。くく、せいぜい足掻いて、救助でも待つが良い。我は寛大であるが故にな」
　満足気に薄く笑みを浮かべた皇帝が、どこぞへと転移してゆく。
　倒れた二人の猟兵は、悔しさに苛まれ、痛みに蝕まれ、拳を地に叩きつける力も出せないまま、救助を待つことしかできなかった。

失敗 🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●黒き槍の船
「皇帝、いないね……」
　リグレース・ロディット（f03337）はインペリウムを探索しながら呟いた。
　先へ進んだ猟兵が、突如現れた銀河皇帝に為す術なく倒れたとの情報もある。いつどこから襲撃されぬとも知れない緊張が、その歩みを緩やかなものとしていた。
「僕らの見えないところから、観察しているかもしれない。闇討ち、不意打ちには気を付けないと」
　全身を敏感なセンサーとするかのように、視覚、聴覚に神経を研ぎ澄ませる須藤・莉亜（f00277）。皇帝は猟兵を放置しないはずだ。必ず現れる。そうとなれば、今もきっと、どこかからこちらの様子を伺っているに違いない。
　正面に出てきて、二、三、言葉を交わしてから仕掛けてくるかもしれない。あるいは、姿も見せずに不可避の攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
　皇帝には後がないはず。その場その場で最適な手段を選んでくるだろう。
　そうとなれば、如何にして早く察知し、どれだけ早く対応するかが鍵となる。
　リグレースは導きの銀と名付けたモノクルを装着。これは、視覚情報を分析する高度演算機の役割を果たすものだ。もし、目に見える範囲に異変があれば、すぐに気づくことができるだろう。
　しかし。左右正面には気を配っていても、通った道には何もなかったからと背後にまで気を配らなかったのが仇となった。
「えっと、特に異常はなさゲ――ッ」
　呟こうとしたリグレース。しかし、言葉を最後まで結ぶことはできなかった。
　漏れた悲鳴。莉亜が振り返ると、そこには衝撃的な画があった。
　リグレースの腹から、槍が突き出ているのだ。背から貫かれるようにして。
　槍の主を視線で追うと、黒い小型の船がそこにある。
　間違いない。銀河皇帝のユーベルコードで生み出されたものだ。
「ああ、もうめんどくさい」
　せっかく警戒していたのに。全く気づくことができなかった。船とはいえ、浮いているのだから、音もなく忍び寄る。そしてその色は周囲の色に溶け込んで視認が困難だ。ことあるごとに振り返って、視覚情報をその度に精査していなければ気づけたはずもない。
　莉亜は地獄招来【第九圏・悪魔大王】で召喚した門から巨大な右腕を放ち、槍を殴りつける。
　すると黒い船はそのまま消えてしまった。
　打撃を与えられたのか？　それは分からない。
　だが。
「生きてるかい？」
「はは、何とか……ね」
　これ以上の進撃は不可能だった。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

●インペリウムに転がるものは
　ゴトゴトと音が響く。
　銀河帝国軍旗艦『インペリウム』を猛烈な勢いで進む物体があった。総数十二。
　その正体は……。
（たるっ♪）
　樽だ！
　銀河皇帝は、不可避とも呼べる先制攻撃を仕掛けてくる。生半可な対策では裏を掻かれてしまう。そう予測したタールダール・ダルタン（f13756）は、ブラックタールの特性故か、その姿を変え、何と個人的に所有している樽の中に納まったのである。
　ゴロゴロと転がる樽。そのほとんどは酒樽だが、彼女が収まったのは小樽（UDCアースの北海道と呼ばれる地域でわざわざ買い付けた空き樽）だ。
　何故これを選んだか？　答えは、他の樽は臭いがキツいからだ。漬物樽とか。
　あ、でも小樽もちょっと生臭い気がする。元々は魚でも入れていたのだろうか。イワシかな？
　しかし、樽も無限に転がり続けるわけではない。慣性は緩み、やがては停止する。
　タールダールはそのまま待つことにした。今出て行ってしまえば、どの樽に潜んでいるのかを把握されてしまうからだ。
　そんな時、何かが近づいていることが分かった。十二の樽の内、いくつかが破壊される音が聞こえたからだ。
（どの樽に入っているか、見つけられるかな？）
　などとワクワク気分でその時を待つが、実はタールダールからも、近づいて来る者の姿は見えていない。
　ここは一発勝負だ。
（つ　か　ま　え　た）
　タールダールが小樽より飛び出す。そして【聖者は樽に閉じ込められました】を発動。召喚された巨大な樽が、蜘蛛の巣を飛ばす。
　迫っていたのは、黒き槍の船だった。
　これに絡めとられ、船は動きを止める。
（今の内たるーっ！）
　再び小樽に入り込んだ彼女は、そのまま先へ先へと転がってゆく。
　彼女は元より、攻撃するつもりではなかった。敵の目を欺き、負傷した猟兵の救出へ向かう。今のタールダールにできることを、彼女なりに精一杯考えた結論であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

●覚悟はできていたとしても
　インペリウム内には、負傷した猟兵が数えきれないほど転がっていた。
　その治療に当たろうと考えた轟・富士王（f03452）。【檄を飛ばす】というユーベルコードは、彼の主張を聞いて共感した者を治療するというものだ。
　痛みに、苦しみに呻く猟兵達。その前に立った富士王は両手を広げた。
「さぁ、治療だよ。おじさんの主張を――」
　そこまで言ったところで、負傷した猟兵の一人が、富士王の背後を指さした。
　何かを伝えようとしている。
　振り返ると、猛烈な勢いで黒き槍の船が迫ってきている。
「おや、奇襲だね。大丈夫、来ると分かっていれば」
　痛みには耐えられる。彼は、そう言おうとしたのだ。
　しかし。
　例えば。蟻は、人間に踏み潰される瞬間、覚悟を決めていれば痛みに耐え、死を免れることができるだろうか。
　答えは、否だ。
　船の槍が、富士王の腹を貫いた。
　内臓が抉れ、口から血が溢れる。
　己の主張をＩＣレコーダーに吹き込み、これを再生すれば自身がその場にいなくとも治療ができるはず。彼はそう考えていた。
　もしかしたら、それも可能だったかもしれない。しかしこれはユーベルコードによる効果。その主たる富士王の意識が途切れれば、何度再生しようとその恩恵にあやかることはできないのだ。
　槍が引き抜かれ、足がふらつく。そこへ、駄目押しの一突き。
　堪らず、白目を剥き、倒れる富士王。
　黒き槍の船はというと、負傷兵には興味がないとばかりに、どこかへと去ってゆく。
　脳や心臓を貫かれなかったのは、幸いだと言えよう。意識はなく、重傷を負うこととなったが、命だけは何とか拾えたのだから。

　敵は、オブリビオン・フォーミュラ。
　一筋縄ではいかない。
　勘に頼っても、覚悟を決めても、圧倒的な力の前には、無力に等しかった。
　決定打を与えるには、もっともっと力が必要だ。
　例えば、敵の一撃を耐えきる、物理的な術。
　例えば、敵の一撃を確実に躱す術。
　猟兵が蟻なら、銀河皇帝は象。
　蟻は象の耳へ入り込むことで、象を狂わせ、場合によっては死に至らせることもあるという。
　それだけの力が、奇策が必要なのだ。
　根性論、精神論、楽観視。それは、銀河皇帝には通用しない。
　全ての行動が読まれていると考えるべきだろう。全ての攻撃が無力化されると考えるべきだろう。あらゆる防衛手段が突き崩されると考えるべきだろう。
　だが、その中で。たった一太刀浴びせる。そのための手段を講じなくてはならない。
　それも、早急に。

失敗 🔴​🔴​🔴​

最終結果：失敗 完成日:2019年02月20日