wonderful gift memories
カランコロン♪ とドアベルの音が鳴る。
異国風の内装の喫茶店、穏やかな音楽をバックに冬原・イロハが可愛くラッピングされた包みを開くと、中から出てきたのはしっとりとした手触りのエプロン。
「わあ!」
明るく弾んだ声。嬉しそうなイロハの反応に、エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)はにっこり笑顔。
可愛らしい黄色のパステルカラーのエプロンをイロハが広げると、ひらんとした裾には猫の足跡。
「猫さんがお散歩してますね! わぁぁ、エリシャさん、ありがとうございます……!」
「ふふふ、イロハが喜んでくれてよかったわ! 改めてお誕生日おめでとう。もう19歳ってことはすっかりおねえさんね」
「そうなのです。おねえさんなのです。エリシャさんみたいな、素敵なおねえさんになるべく、日々精進します!」
むんと気合を入れるイロハであったが、すでに可愛いおねえさんだなぁと思ったエリシャはにこにことした。
裾を踊る足跡を辿った先には猫のアップリケ。椅子から降りて可愛らしいエプロンを着てみるイロハに「やーん、可愛すぎる……!」とエリシャはスマートフォンで写真をぱしゃり!
「ウフフ。今日のお洋服に合わせると、エプロンドレスみたいですね」
このまま着ちゃおうかなと言いながらイロハが再び席に着いた。
「このエプロンを見つけた時、絶対イロハに似合うんじゃない!? って思ったのよね。想像した通り、めちゃくちゃ可愛いわ!」
きゅんっとするエリシャの様子にイロハは照れ照れである。
「エリシャさん、今度一緒にお菓子作りをしましょう」
「あ、それいいわね。もうすぐバレンタインだし、可愛いチョコレートを作っちゃいましょ♪」
後日、しっかりと果たされた約束。思い描く時間は楽しいもの。
弾んだ声で会話をしているとやってくるのはこの喫茶店のモーニングセット。
表面はパリッと、中はもっちりと焼き上げたクロワッサンはプレーンやチョコレート、シナモンやアップルといったバリエーション豊富な盛り合わせ。
いただきますと朝食を食べながらする会話は、本日のお出かけのことだ。
ここは長崎県。長崎駅近くの喫茶店は今日の二人のスタート地点だ。
長崎の情報誌に印をつけながら、ぺらぺらとめくっていく。
『行ってみたい水族館があるのです』
先日、遊ぶ予定を立てている時にそう言ったイロハ。
二人がやってきたのは、駅からバスで30分ほど。海沿いにある、ペンギンに特化した水族館。
温帯ペンギン、亜南極ペンギンと9種類のペンギンが180匹ほどいるこの水族館はちょっとした癒しの場があるらしい。
入り口のゲートを通り抜けたら、幻想的な銀の舞。イワシの回遊水槽。
そして亜南極ペンギンプールでは悠々と泳ぐペンギンの姿を見ることができる。
「とっても気持ちよさそうですねぇ……!」
「本当だわ。のびのびと自由に泳いでいるわね」
ほわぁとプールの中を泳ぐペンギンたちを見る二人。綺麗な青のなか、羽を伸ばすその姿は空を飛んでいるかのようだ。
案内板にはピンと伸ばした両足と尾羽が方向を定める舵の働きをしているのだと書かれている。
「へえ、自由自在に泳げちゃうのねぇ」
「すごいですねぇ」
と会話をするエリシャとイロハ。実は泳ぎが得意ではない。
ペンギンすごい。感心しちゃう。
「――ねえ、このペンギンたち、イロハより大きいんじゃないかしら?」
「え゛」
目視だけど、と言ってエリシャが屈んでパンフレットを開けば、のぞき込んでくるイロハ。そこには各ペンギンたちの特徴が記されていた。
「ほら、亜南極ペンギンの一番小さな子で体長50cmよ」
「……わあ」
ほんとだあ。
大きい子――キングペンギンは約90cm。イロハの倍以上ある。水族館で一番大きいけれど、おとなしくておっとりした種なのだそう。
「2Fにいるコガタペンギンさんは、私よりもお小さいみたいですね」
「イロハより小さいの? キュンとしちゃうわね」
オーシャンブルーのプールを眺めて、次に出るのは温帯ペンギンゾーン。
高低差のある岩場とプールで自由に過ごすペンギンたち。水の上をぷかぷかと浮かんで遊んでいたり、ジャンプして飛び込んだり。手を伸ばせば届きそうなくらいに近い場所で見ることができる。可愛い~と二人で呟きながら、
「――知ってるかペン。食堂にペンギンケーキができたらしいペン」
「――ペ、ペンギンケーキ!? まさか……最近ペニョ子の姿が見えないと思ったら……ペン……」
ペンギンのしぐさをスリラー風にアテレコしたり、スマートフォンに映したりとしていると館内アナウンスが流れてきた。この水族館に来た真の目的タイムが始まったのだ。
「ふれあいペンギンビーチのお時間ですー」
「わ、ちゃんとペンギンが移動してる。かわいいー」
参加権を握ってわっくわくと外に出れば潮騒。九州の穏やかな冬の陽射しに、砂浜と青い海。飼育員の手拍子に合わせてヨチヨチと行進するフンボルトペンギン。
隣接するビーチに放たれたペンギンたちが体を揺らしながら砂浜を歩いたり、駆けていったり『自由だー!』という野生のような姿を存分に観察できる時間だ。午前の10時半から昼の14時まで楽しむことができるらしい。
「砂浜を行く足音が可愛いわね~」
パチャパチャ、ペタペタと元気よく走っていく音にも癒される。残された足跡もこれまた可愛い。
ビーチで自由に過ごすペンギンたちは、泳いだり、ぼんやりとしたり、腹ばいに寝そべってうとうとしてたり。
「はあ、いいなぁ~気持ちよさそうね~」
「ですね~」
ぽやんとしたペンギンにつられて二人の語尾ものびのびだ。
そんな風にペンギン水族館で至福の癒され時間を過ごしたあとは、市内に戻って長崎観光。
長崎の坂や歴史を感じる教会、ビードロや陶器、ステンドグラスを使った雑貨屋を覗いてみたり。
異国風の景色は写真にも映えて、思わずモデルごっこをする二人。
ステンドグラスを背景にパシャリと写るエリシャはもちろん聖女。
石畳をとととっと駆けるケットシーの後ろ姿は愛らしい。
「これもしてみたかったんです~」
と、フュージング体験。千の花の意味を持つミルフィオリという硝子ビーズを組み合わせて作るのはアクセサリーやキーホルダー。
金太郎飴みたいな、色とりどりの可愛い花たち。ひし形の硝子板に並べて、もう一枚の硝子板でサンド。焼成のため仕上がりには二週間ほどかかるらしいので、二人の分はUDCの本部へと送ってもらうことに。
「出来上がりが楽しみね」
「ふへへ」
陽にかざせば、きっとキラキラとミルフィオリが輝くことだろう。
「エリシャさん、素敵なお誕生日プレゼントをありがとうございます」
イロハのお礼はエプロンだけではなく、楽しい時間を贈ってくれたことに。
猫の瞳は綺麗な硝子みたいにキラキラとしている。さっきの硝子工芸を目にするたびに、エリシャは今日一日のことを思い出すことだろう。
「どういたしまして。でもね、一緒に過ごしたぶん、あたしもイロハから素敵なプレゼントを貰ってるのよ」
ふわふわの白い毛並みのお友達へと、エリシャは笑顔を返す。
「ねえ」
「あの」
ふと紡いだ声が重なって、ふふ、と一緒に笑った。
「「また一緒に遊びましょう」」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴