アーカイブ:『みこーん☆ちょこたん』活動観察記録
エル・クーゴー
●桜咲・智依子(f16218)のネットアイドル活動模様を見てみたい
~あらすじ~
『躯体番号L-95。当機はネットアイドルの活動評価に高い適性を発揮します』
猟団「ワイルドハント」の副団長・エルは、ある日、猟団の長から「アイツが配信周りでなんかやらかしてねえかチェックしときなさいや。ま、猟兵がキマフュー辺りから発信する分にゃアンチコメはそうそう付いたりしねえとは思いますけどもよ」との命を受ける。
早速エルは、キマイラフューチャーの拠点にて電脳魔術を起動。『巫女狐・みこーん☆ちょこたん』の昨今の配信の閲覧を開始してみるのだった――
猟団こと、いつものキマイラフューチャーの拠点にて。
「躯体番号L-95。当機はネットアイドルの活動評価に高い適性を発揮します」
エル・クーゴーは空中に指を走らせると、お得意の電脳魔術を起動した。
ネットワークに接続し、お目当てを探す。そしてそれはすぐ見つかった。
「対象を発見。巫女狐・みこーん☆ちょこたんの配信動画を調査開始します」
そう。
同じ猟団に所属する狐獣人にしてネットアイドル、桜咲智依子のチャンネルである。
事の発端はついさっき。
猟団の主にして、エルの――である黒猫キマイラはこんなことを口にした。
「アイツが、配信周りでなんかやらかしてねえかチェックしときなさいや」
いつもの気だるげな口調。
欠片も興味がなさそうな音色なのに、しかし続いた言葉はこうだった。
「ま、猟兵がキマフュー辺りから発信する分にゃ、アンチコメはそうそう付いたりしねえとは思いますけどもよ」
それは心配しているのか――などと口にしようものなら、容赦のない鉄拳で済めば可愛いモノだろう、おそらく。
ともあれ、命令があったから、動く。エルにはそれで十分である。
なので、
画面の向こうで智依子が喋る。
『はーい、こんばんちょこたんよ』
「こんばんちょこたん」
すげえ使い込まれた挨拶だ、貫禄すら感じさせる。
『ちょこチャンネル、今晩もはじめていくちょこなー!』
「ちょこチャンネル」
もはや原形留めてねぇじゃねーか。あと語尾も馴染みきってて日常生活に支障出ないかソレ。
……などという|反応《ツッコミ》はエルには無縁である。
銀髪の乙女は淡々と動画を複数展開し、過去配信動画をザッピングしていく。
ピンクの狐が跳んだり跳ねたり、笑ったり泣いたりその他諸々。
『おは『こん『ばんちょこたんよ!』たんよ!』たんよ!』
なんかの修行か地獄かな?
●
拍子抜けなことに、動画は基本、平穏無事であった。
智依子がだらだら喋っているか、ゲーム配信をしているか、たまに歌を披露しているか――一般的な人気配信者の行動である。
まあ、面白い方に分類されるだろう。過去、彼女が『炎上系』であったことを思えば随分成長したものだ。
当時の彼女を知る一人として、エルも感慨深い――のかどうかは、ちょっと外からは分からないのだが。
ともあれ。
「ライブ配信の開始を確認しました、ちょこ」
そうしているうちに、たまたま智依子が配信を行う時間にかちあった。
「内容を確認――飲酒配信、ちょこ」
つまり、配信環境に酒を用意し、自分のペースで飲みながらラジオ感覚で。
「大事故の可能性が高いと当機は試算します、ちょこ」
やらかすかもしれない。
『>待機』『>ちょこたんが酒飲むと聞いて』『>これは燃える(確信』
やらかすかもしれなかった。
●
果たして。
『こんちょこわー☆ ってお前らー! 誰が燃えるって誰がー!』
「こんちょこわ」
どこぞの朝食用シリアルかな?
『ちょこたんはこれでも成人ですぅー! 今日はー、チョコリキュールを用意しましたちょこなー!』
「検索――度数、二十度。酩酊が早いと当機は思考します」
という内容を試しにチャットに放り込んでみる。
『うわ特定班早……ん? この名前……まいっか! へへー、ちょっといいのを奮発したのです!』
「家主にねだったと当機は推測します」
これは流石に呟くだけに留める。
すると、
『>ママたち助けて……』『>大丈夫? ママたち待機してる?』『>このチャンネルはママたちにかかっている』
『おらー! 家主は関係ないだろ家主はー!』
「家主の管理によってこのチャンネルは成り立っていると当機は理解しました」
智依子は同じ猟団員に家を間借りしている。ママとはその人物のことだろうと当たりを付けた。
だが、配信はつつがなく――そう、意外なことにつつがなく進んだ。
『おー、ないすぱー! ありがとねん!』
投げ銭もぽろぽろ入って、智依子はほくほく顔である。というかほろ酔いである。
『いやー、これでも酒はそれなりにお強いちょこたんですわよ、おほほ』
だが、そろそろ限界な感じもある。心配するコメントも散見された。
「――――」
エルはしばし画面を見つめた。そしておもむろに投げ銭ボタンに指を伸ばす。
ちゃりーん。
『ぶふぉ!?』
その額に、智依子が吹き出した。
『>おハーブ』『>石油王!?』『>金ドブでは?』
「切り上げて早く寝なさい、と当機は警告します」
『ちょ、やっぱエルちゃ――』
瞬間、智依子の雰囲気ががらりと入れ替わった。
『――失礼。今宵の配信はここまでとさせて頂く』
彼女の中に眠る、『神』の人格だった。
『>ママ!』『>ナイスフォローママ!』『>おやすみママ!』
「……そちらの人格もママ扱い、記録します」
●
エルからの報告を受けた猟団長は、気だるげにこう返した。
「なんとも丸くなって、まぁ」
それは呆れたようにも、安心したようにも見えた。
成功
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