御伽噺の扉を開くは、海の月
馬県・義透
前回までのあらすじ
陰海月、動画見始める
※器用な義透(『疾き者』)により、フィルタリング済み※
ダンス動画を見ていた陰海月。真似して踊ったりもし始めていた。
だが、この日は違った。誤って違う動画をクリックしてしまったのだ。
それは『童話読み聞かせ動画』であった。
偶然だったけど、引き込まれた陰海月。赤ずきんに白雪姫、シンデレラ…と知っていった。
そして翌日、義透(『疾き者』)の買い物についていった陰海月。スーパーの一角に絵本が置かれてるのを発見!
ねだって一つだけ買ってもらった!これで文字のお勉強も少しできる!
なおそれのタイトルは『しあわせな王子』
義透は一般的に西洋の童話を知らず。
陰海月が読み終わってびゃーびゃー泣くことになるなぞ、その時は誰も知らなかった…。
馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の一柱である『疾き者』は少しだけ困っていた。
それはと言うと彼の前でねだる巨大クラゲの『陰海月』のことだった。
触腕をくいくいと器用に使って、己の着物の裾を引っ張っている。
言葉無くとも。
鳴き声無くとも理解できる。
先日の一件以来、『陰海月』は未知なるものに対して大いに興味を惹かれているようであった。
貪欲とも言えるほどに多くの事を知りたがっている。
それ自体は良いことのように思えたし、実際に良いことなのだろう。
知識を求める欲求は、彼の知の育成には欠かせない土壌であったからだ。
「……ぷきゅ!」
これ、というように示す先にあったのは一冊の絵本だった。
『疾き者』はパソコンを扱うようになった『陰海月』に悪影響がないようにフィルタリングを施す役を担っている。
ダンス動画をよく見ていることも知っている。
時折、屋敷の庭で踊りを揺らめくように披露してくれることもある。
「ふむ……絵本。また『陰海月』はなにかに触発されたように思える」
どうやら『陰海月』はダンス動画だけではなく、動画読み聞かせ動画にも興味を示したようだった。
それは偶然であった。
けれど、引き込まれるものがあった。
幼い心は、まっさらなものではない。子、それ自体に個性が宿っている。相対する大人がそれを感じ取れないだけで、彼らにも多くのことを知り、感じ取る力があるのだ。
表に出すことがまだ難しいだけなのだ。
「しかし……私は西洋の御伽噺には疎いのですよね」
そう、問題はそこであった。
インターネットのフィルタリングはできる。設定さえすればパソコンが悪影響を及ぼしそうなものは弾いてくれる。
物語はそうはいかない。
知らないということは、免罪符にはならない。
だからこそ、慎重にならなければ。
しかし、『疾き者』もまた『陰海月』の様子に押し切られてしまうだろう。
また今度、が通じることはない。
「では好きなものを一冊にしなさい」
そう言って『陰海月』が手にとるのは、黄金の立像とツバメの話。
「ぷっきゅ!」
物語はこころを育てる。
今までなかった回路をつなげるように。
バラバラであった、子供の心にあったものをつなげて形を作り上げていく。
彼が手に取ったのは『しあわせな王子』。
忘れられたものたちの終着駅にていつの日にか邂逅を果たす涙にあふれてしまう物語――。
成功
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