Soeurs qui tournent en rond
ラップトップ・アイヴァー
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《みきなの。
ノベル企画『オリジナル料理orスイーツは如何ですか?』の再始動にあやかって、みきもクレープセンセに挨拶に来たの。
みきは三上・美希。黒い髪に紫の瞳のお姫様。
普段は赤髪のお姉ちゃんの身体を借りてスポーツ選手をやってるの。
元々が本当に血の繋がった姉妹なの。
…Revolution.
今回は指を鳴らして美希の姿に変身して接するね。
みきもお姉ちゃんの栄養管理に携わってた以上料理は得意だけど、別に味にうるさいわけでなくて、他人の料理を食べさせてもらえるのが素直に嬉しいことだから、みきは嬉しいの。
じゃあ、早速スイーツをお願いするの。
ジャンルは洋で、絶対に入れて欲しいものはいちご…みきの好きなフルーツなの。
モチーフは…これは難しいけど、2つにするの。
太陽と月。
みきがお日様で、お姉ちゃんがお月様。
要は、みきたち姉妹をイメージしたスイーツを作って欲しいの。
どんなスイーツが出来上がるか、みきはとっても楽しみなの!
出来上がったら美味しく食べるし、お姉ちゃんもみきも喜ぶの!
こんな感じでお願いしたいかな。
その他は特にNGも制限も無いの。
楽しみに待ってるの!
あ、みきもそうだけどお姉ちゃんに何喋らせてもいいよ。
みきは優しいお姫様だけど、お姉ちゃんはバトロワお嬢様。全人類をバトロワプレイヤーと思っている節がある程度には時たま物事をバトロワと絡めようとするの。話聞いてバカ姉?》
●
マギラントは緑の領地、その一角。
「……Revolution.」
この日、パティスリー『Miel de Ange』の前で、ちょっとした革命が起きた。
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からり、ドアベルが鳴り響く。
「こんにちは、クレープセンセ」
「いらっしゃい! 予約してくれてた……ええと」
「『今回は』みきなの」
|ラップトップ・アイヴァー《シエルと美希》(動く姫君・f37972)の関係は、予約の段階でクレープ・シュゼット(蜂蜜王子・f38942)に伝えてある。
今は『美希』として表に出てきている彼女は、艷やかな黒髪に煌めく紫の瞳のお姫様。しかしこの身体は本来、燃えるような赤髪に自信に満ちた橙の瞳のお嬢様――美希の姉、シエルのもの。
二人で一人。元より血の繋がった姉妹。シエルの身体に美希の心、二人合わせてラップトップ・アイヴァーなのだ。
そう、今日の予約はそんな二人のためのスイーツを。
「じゃあ、美希ちゃんね。早速だけど、こっちに来て貰えるかな?」
案内されたのは、カフェスペースも併設された小洒落て可愛らしい空間を越えて、キッチンスペース。
促されるままついていくと、くるっとクレープが美希の方を振り返り。
「これから作っていくけど、希望とか、逆に駄目なこととかあるかな。何でもいいよ、キミたちのことを聞かせてね」
「じゃあジャンルは洋で、絶対に入れて欲しいものはいちご」
みきの好きなフルーツなの――と。
ぽつぽつ語る美希の言葉に、クレープはうんうんと頷きながらメモを取っている。
「後は、キミたちをイメージするものとか。モチーフってやつだね」
「……これは難しいけど、二つにするの」
少し悩んだ後に、美希が告げた答えは。
「太陽と月」
お日様のみきと、お月様の|お姉ちゃん《シエル》。
それぞれの輝きで、人々に希望の光を与える二人の象徴。
「作って貰える?」
「勿論。任せて」
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「あ、そうだ」
「?」
「美希ちゃんはシエルちゃんの栄養管理にも携わってたって言ってたけど。制限とか大丈夫?」
「ああ、それなら……」
クレープの言う通りで、美希も料理は得意だ。シエルのために、美味しくて栄養バランスの取れた食事をと日々研究もしていた。
けれど。
「別に味にうるさいわけでなくて、他人の料理を食べさせてもらえるのが素直に嬉しいことだから、みきは嬉しいの」
だから、遠慮は一切なしのスイーツを。
楽しみに待ってると、そう告げれば。
「お姫様の仰せの儘に」
茶目っ気たっぷりに返して、クレープはまず果物を取り出した。
メインの苺はふんだんに。他にも、チェリーにオレンジ、ブラックベリーとグレープを。
きらきらつやつやと、瑞々しく輝くそれらを輪切り、もしくは縦半分に切ってゆく。
「美希と私の色ですわね!」
「正解! ……んっ?」
何やら、不意にラップトップの雰囲気が変わった。
姿は美希のそれから何も変わってはいないのだが、明らかに中の人が入れ替わったような。
「あ、今のお姉ちゃんなの」
「え、今は美希ちゃん?」
「うん、そうなの」
突然の早着替えならぬ早入れ替わりであった。
けれどシエルの言う通り。希望の苺の他に選ばれたのは、ぱっと見て二人の色合いだと解る彩りの果物だった。
それから生クリームと、お手製らしいスポンジをドーム上になるようボウルに敷き詰めて。
「成程、これでスタジアムを表しているのですわね!」
「お姉ちゃん、これはみきたちモチーフのスイーツで、バトロワモチーフのスイーツじゃないの」
「やはりバトロワは広い|会場《フィールド》でこそやり甲斐がありますものね」
「話聞いてバカ姉?」
姉妹のやり取りをバックミュージック代わりに。
中には柔らかめのカスタードクリームと、先程のスイーツを。
土台のスポンジで蓋をして、一旦冷やす。待つ間、お茶を飲んでお喋りしながら、頃合いを見て取り出して。
余った苺を土台を囲むように飾って、更にキラキラ光るゼリーの、重なり合った太陽と三日月を頂点へ。
「それ、パート・ド・フリュイ?」
「ご明察。美希ちゃんは物知りだね」
そして最後の仕上げ。
月の側に、弾丸の形の飴細工と。
太陽の側に、チョコスティックの絵筆を。
それぞれ数本ずつ飾れば、完成したのは。
「『|Soeurs qui tournent en rond《巡りめぐるふたり》』――お待たせしましたっ!」
二人の魅力が沢山詰まった、ズコットケーキだ。
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「わぁ、断面も華やかなの」
「よかった、成功だね。それじゃあ……」
「ん。いただきますなの」
促されるまま、一口。
果物はどれも甘くて、酸味も程よいアクセントだ。
クリームもその味を殺さないよう控えめ、けれどぼけてはおらず、果物を引き立てる味わい。
「絶品ですわぁ!」
「うん、美味しいの!」
「えへへ、二人ともそう言ってくれたなら大成功だね!」
幸せそうに顔を綻ばせる少女。
そこには確かに、寄り添う姉妹の姿があった。
成功
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