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語られるもの

#UDCアース

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#UDCアース


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●rumor
 それは箱だった。
 20cm四方程度の木製の絡繰箱。
 子供が遊びたがるような、容易に開かぬその匣は、美しい緋色をしている。

 それは、昔噺だった。
 何処から来たのかもわからぬような、揺蕩って漂って、此処まで来ただけの。
 根も葉もない言い伝えだった。

 それは、子供であったという。
 食うにも困る迫害から間引かれた子供の『部品』。
 大人達は口々に云った。
『憎むなら長を』
『怨むならば、この飢えの源を』
『どうか恨むのなら、我等を害した者達を』
『呪え、呪ってくれ』
 溢れる涙と憾みの言葉は、けれども振り上げた手を止める術にならない。
 やがて小さくなった子供達を、緋色の絡繰箱に閉じ込めた。
 それが、始まりだったという。

●rumorer
「言霊と、言いますから」
 ユハナ・ハルヴァリは目を伏せて呟く。
 それは人が生み出したもの。UDCアースでは都市伝説と呼ばれる、言の葉の魔力が集まって出来た奇怪なものたち。
 そのうちのひとつが、邪神教団によってUDC怪物として呼び出された。
「これの対処を、お願いしたいのですが。呼び出されたことはわかっていますが、何処にいるのかは、正確にはわかりません。見えませんでした。……ごめんなさい」
 ばさり。ユハナが紙の地図を広げる。
 UDCアース、東京の地方都市。その一角を、赤いペンで丸く囲った。
「この辺りの、何処かです。居場所は、見えませんでしたが。『彼女』を強化するものたちは、見えました。街のあちこちに、いるはずです」
 噂語りと呼ばれるオブリビオン。
 騙るのは根も葉もない噂、けれども都市伝説はそうして紡がれ、増長し、遂にはかたちを成したもの。彼らが語れば語るほど『彼女』の力は確固たるものになり、手出しをし難くなる。対峙するにも苦戦を要するかもしれない。
「彼らを辿れば、教団の本拠に着くと、思います。『彼女』の周りにも、たくさん、いましたから」
 逆に、都市伝説本体から離れれば離れるほど噂語りは現れない。辿るのはさほど難しくないだろう。
 けれど、と。ユハナはひとつ、付け加える。瞼を鎖し眉根を寄せて。
「女のひとと。年の満たないひと。気をつけて。……都市伝説は、コトリバコ。『子取り箱』、です」
 それは根も葉もない噺だったが、それは『彼女』の根幹を成す。与えられた役割は子取り。ただ其処に在るだけで女子供を祟り殺す、呪いであったという。
 邪神教団の本拠には、教団員の姿は見えなかった。
 『彼女』は強大なUDCではあるが、不完全。儀式が失敗したと踏んで放棄したか、或いは──。
 ふるりと首を振るユハナの掌で六花が開く。真中で割れて羽撃く翅は、いつもより曇って見えた。
「ああ、そう。その本拠の近く、なんですが。空き地に……ねこが、います」
 ねこ。
「たくさん。いっぱい。埋もれるほどに」
 埋もれるほどのねこ。
「都市伝説のみならず、ねこまで。おそろしいことです」
 怪談咄と変わらぬ暗い声音で告げる内容が恐ろしく聞こえる者は、そうそう多くはないだろうが。少なくともユハナにとってはたいへんにきょうふきわまりない。
 ちなみにその猫、いわゆる地域猫というもので、近所の人たちがお世話をしている子達だ。遊んであげるととてもよろこぶ。そうでなくても陽当たりがいい場所なので、猫を眺めながらの日向ぼっこなども心地良い。
 近くには猫用グッズが潤沢に揃えられた店があるので、気になる人はそこで遊び道具を用意するのもいいだろう。
 人見知りする子も中にはいるが、基本的には人好きの猫たち。
「……おそろしいことです」
 二度言った。
 ゆらり揺らめく六花の蝶が同じかたちの門を喚び、開く。
 蠢く邪神も知らぬげな昼日中の匂いがした。

 ──イッポウ、ニホウ、サンポウ、シッポウ。

 語る声。騙る聲。
 満ち満ちたそれは、すぐ傍にあった。


七宝
怪談大好き七宝です。
我コトリバコではありません。
よろしくお願いします。

この度はUDCアースへとご案内します。

▼ Caution ! ▼
都市伝説撃破までは、『身体性別:女性』もしくは『ステータスシート上未成年』の方々に何らかの体調的な不調が表れます。
ランダムで付与しますが、どうしてもこれ!というものがあればプレイングでご指定くださっても構いません。
シナリオ成否には影響しませんが、成否に悪影響を与える旨のプレイングがかけられた場合はそちらに準じます。
意図的な苦戦が可能ですが、その分シナリオ失敗の可能性が上がります。
これは都市伝説本体のユーベルコード効果とは別物です。

▼ Caution ! ▼
集団戦における🔴の取得数に応じて、都市伝説『コトリバコ』が強化されます。
難易度変化はNormal〜Hard。

東京の地方都市。時刻は昼前。晴れ時々曇り。
後処理はUDC組織の皆さんが頑張ってくれるはず。
戦いが終わる頃には陽が少し傾いているでしょう。
全ての戦闘において、足場等に問題のある場所はありません。
また、噂語りは逃げも隠れもしませんので探すのは容易です。

いかなる戦闘もねこには無関係です。平和。
第3章のねこ戦にはお呼ばれがあればユハナがご一緒します。やわこいものは不得手です、お手柔らかに。
P・S・Wの判定に関わらずご自由にお過ごしください。
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第1章 集団戦 『噂語り』

POW   :    自分ソックリの妖怪『ドッペルゲンガー』の噂
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使ってきた猟兵のコピーを生み出し、操り】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
SPD   :    学校の七不思議『動く模型』の噂
戦闘用の、自身と同じ強さの【動く骨格模型】と【動く人体模型】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ   :    予言をする妖怪『くだん』の噂
対象のユーベルコードに対し【使ってくるユーベルコードを言い当てる言葉】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ──イッポウ、ニホウ、サンポウ、シッポウ。


 ひとりはイッポウ。
 ふたりはニホウ。
 さんにんでサンポウ。
 よにんでシッポウ。


 『ホウ』は『封』だとか、なんだとか。


 箱の中身は。
 箱のなかみは?
ユア・アラマート
この世界で暮らして長いからね。その手の話を聞いたことは何度かある
私の店にも似たようないわれで流れてきた物もあったな。偽物だったが
模倣者が現れる前に、片付けよう

戯宴を使用して、私によく似たもう一人を召喚するよ。ユーベルコードで生まれたとは言え、お前も男に分類されるだろうから
あとは二人一組で行動、噂語りを発見したら二人がかりで攻撃
【ダッシュ】【先制攻撃】【2回攻撃】を利用した速攻戦術を仕掛けよう
あいつが武器を持っていないなら、私のダガーを貸してやれるしね
討伐が終わったらまた次へ、徐々に辿る

もし、私の調子が悪くなっても、もう一人がいればそうそう遅れは取らないはずだ
大丈夫、やせ我慢はそれなりに得意だよ




 その話を聞いた時、思い出したものがある。
 営む雑貨屋──魔具からふかふかクッションまで本当の意味で雑貨を取り揃えた店に、以前流れ着いたものがあった。20cm四方程度の木箱、蓋の絡繰仕掛け、それは噂話によく似たものだったが、見かけだけの偽物。実のところはただの綺麗な箱だった。
 あれはどうしたのだったか。そういう曰く付きが好きな老人が戯れで手にしたか、木箱が気に入って一目惚れした女性が嬉しげに連れ帰ったのか。
「あれは綺麗なだけだったけど、たちの悪い模倣品が出回られても困るからね。片付けよう」
 花の香を残影に、ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)が街を走り抜けながらちらりと隣を見る。自分によく似たもう一人。髪の銀も瞳の緑も、肌を這う花蔦さえもそのままの、性別を反転したユア。
「ほら、これを持って」
 丸腰の『彼』に濁り翡翠のナイフを持たせ、その先へ。古いビルの角を曲がる。
 ずきり、と胸に走る痛みが酷くなる。
 鼓動が跳ねる。
 だけれど、やせ我慢はそれなりに得意と自負するユアの口元にはそれでも微かな笑みが宿る。
 曲がった路地は、何処か親近感さえ覚えてしまうシャッター街。噂を囁く声が聞こえる。
 花弁よりも柔くふわりと、コンクリートを跳んだ靴音。鮮やかな牙持つユアが地を行くなら、もう一人の『ユア』は壁を蹴り昼日中の眩しい中を飛んで跳ねる。
 薄く淡い影。騙る聲。
 その息の根を断つ二連閃。
 地に伏す音さえしないまま、語るものは海へと還る。
 その先、まだ先、声がする。銀の狐耳がぴくりと聳つ。
「ああ、どうやら此方のようだね」
 残り香の女は薄く笑った。傍らに己を侍らせて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
お喋りな子達だね
噂話はそこまでにしてくれない?
強引にでも、その口を止めさせてもらうよ
でも……なんだか本調子が出せないみたい
これ、何なの?気持ち悪いな
早く終わらせなきゃ

まずは守備に徹して敵の行動パターンと攻撃を注視
当たらないように【見切り】を狙おう
間に合わない時は【武器受け】でなんとかするよ
なるほど、召喚されたふたつの模型を攻撃する必要はなさそうだね
飛行で召喚主に一気に近付いて【2回攻撃】
ほら、噂は噂
こんなに簡単に消えちゃう幻でしょ
他の噂だってきっと同じこと!

どうにも力が出ないと思ったら
ユーベルコードで噂語りの力をしばらく借りたいな
こんなところで早々に倒れるわけにはいかないもの……!




「お喋りな子達だね。……噂話はそこまでにしてくれない?」
 オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)は何処か苛立ったような声色で言った。
 噂を語る其れから引き抜いた軽量の三叉槍をくるりと回せば、その間にオブリビオンは陽に掻き消える。
(「……なんだか本調子が出せないみたい。これ、何なの? 気持ち悪いな」)
 息が詰まるような感覚。喘ぐに近い呼吸。気道が狭まった訳でもないのに、息苦しい。
 噂は転々と、点々と、街中を巡る。
 己の不調を自覚し、だからこそ、慎重に。相手の動きを見、受け流し、対峙した噂語りを前にひとつひとつ対処していくオルハは、歩みこそ早くはなかったが確実に目的地へ近づいていた。
「……ほら、噂は噂。こんなに簡単に消えちゃう幻でしょ」
 気丈に振る舞う少女の足が少しふらついて、其処にゆらりと現れた影。昼日中の短い人影。オブリビオン、噂語り。
 ああ、上手く動けない。嫌だな。
 いつもなら、こんなところで──。
「……こんな、ところで。負けるわけない!」
 その影目掛けて三叉槍を振り上げ、突き刺す。
 其処から吸い上げるのは相手の持つ力。
「借りるよ」
 引き抜いた槍を軽々と腕に回し、貫く。
 まるで白昼夢の幻のように、その一角から噂は消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

赫・絲


『子取り箱』の呪い、かー。大丈夫、それでも行くよ。
痛みも、苦しみも、感じ取れる全ては生きていることの証左だから、呪いによるどんな負荷も厭いはしない。
それに昨日今日からじゃない呪いを、もうずっと受けてるから。祟り殺せるものならやってみろ。

噂語りの影を追って、見つけ次第【先制攻撃】
攻撃はできる限り見切って避けるけど、
きっと不調も出るから、多少の傷は押し切って常に本体の噂語りを狙う

鋼糸で敵を拘束しながら、糸に【属性攻撃】で雷を纏わせて攻撃
写し取られたなら今度は炎を纏わせ、それを写されたならまた雷を
灰に還すまで、それの繰り返し

ひとつ語りを止めたなら、次の口封じへ
何度でも、その口縫い止めてあげるよ




 呪い。
 それは生まれた時から決まっていたもの。
 誰かの為に定められた己の道筋。
 けれど彼女はそれを、悲観しない。
「──祟り殺せるものならやってみろ」
 赤いリボンを編み込んだ三つ編み揺らす赫・絲(赤い糸・f00433)が見据えるは昼の街並。
 込み上げる嘔気は、街を覆う生温い風の所為ばかりではない。だけれど彼女の足は、止まらなかった。
 大丈夫、と。そう言ってから彼女はこの街に降り立った。痛みも苦しみも、感じ取れる全ては生きていることの証左だから。
 昨日今日からではない呪いを既に受けている身ならば、今更降り掛かる災いなど児戯に等しい。

 ひとつ。鋼糸で首を落とす。
 ふたつ。紫電で焼き焦がす。
 みっつ。炎で巻いて息を止める。
 街角、ビルの非常階段、建て壊し中のバリケードの中。見つけた噂語りの口をひとつひとつ塞ぐ。
 よっつめ、ひと気のない公園でそれを見つけた。
 ゆらり、ゆれた、見覚えのある、
「……ッこの……!」
 憎しみさえ含めた声は鋼糸にも勝る鋭さでそれを射抜いて、追って空を駆ける糸が紫電を纏いそれを貫く。
 焼ける音。匂いはしない。
 陽の下の影のように薄れて消えたのはただのオブリビオン。噂を騙るもの。
 激しさを増した嘔気に口元を押さえながら、絲は肩で息をする。
 ああ、いつか、いつか。此の身の呪いなど凡て、壊してやる。

成功 🔵​🔵​🔴​



 さざめくのは声。
 街中の、囁き声。
 けれど過疎の田舎でもあるまいに、不思議と其処は人の気配も少なく、静まり返っている。
 冷え切った空気は冬のせいだけでもないのだろう。
 囁きは人に非ず。
 その声は慈悲に非ず。
 満たすは小箱、緋色の小箱。

 ──とぷん。
 水音が聞こえる。
エンジ・カラカ
アァ……うるさいなァ……。
どこもかしこも噂話で溢れている。
ソレは真実?ソレは嘘?どーっちだ。
コレが確かめてやろう。

自分のソックリサンの噂、アァ……コレは一人で十分だ。
賢い君、やってやろう。
先制攻撃。賢い君もコピーをしてきたなら君の様子を伺う。
胸糞悪いだろ?食ってしまおう。
薬指の傷を噛みきり、君に与えて蝕む。
アイツ、おんなじアイツを封じよう。

いくらニセモノでもコレの始末は己自身で。
囲まれないように味方との連携はしようカ。
他の噂も同様に毒使いと二回攻撃、賢い君で動きを封じる。
属性攻撃は賢い君の毒。

で、ハコの噂はドコに?
何で怯んでいるヤツがいるンだ?




「アァ……うるさい」
 エンジ・カラカ(六月・f06959)は歩いていた。
「うるさいなァ。ソレは真実? ソレは嘘? どーっちだ」
 街は噂で溢れている。
 囁き声。交じる水音。
 とぷん、と揺れる、満たされた水の音。
 少し粘性のある、どこかあたたかいような音。
「なんだ、そっちか。コレが確かめてやろう、なァ、賢い君」
 ぽたり。ぽたり。
 左の薬指から赤い血が溢れる。
 その手に引いた賢い子には血色の指跡。
 曲がり入った路地に点々と、噂、噂、噂。
 声がする。声しかしない。
『黒い狼が、拷問具引き摺って襲ってくるんだって!』
 噂のひとつが形になったのは、自己防衛のつもりだろうか。
 長く伸びた夕方の影の様に這い出てきたのは、黒髪の襤褸雑巾。そうして手に持ついとしの君。
「……だってさ。胸糞悪いだろ? 食ってしまおう」
 君よ、君よ、賢い君よ。唄い吸わせたその数ほどに、君を蝕むこの血なら。

 赤が飛ぶ。鱗の破片が血飛沫のように。
 緋が舞う。赤い糸が疵のように。
 紅が散る。煌く赤石が脳髄のように。

 ──ぱくり。

 後にはなぁんにも残らない。
 ご馳走さまなんて、その声も。

 路地の向こうに黒い影。もう一匹の、黒狼。
 道のこっちとあっち側、ちょうど二人ではんぶんこ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴォルフガング・ディーツェ
【SPD>POW】
子取り箱、ね…爺の俺にはあまり影響はなさそう?
火の無いところに煙は立たぬと言うけれど、真しやかな子殺しは幻想であって欲しいものだね
…似たようなモノ、実際に見た事があるけど、さ

先ずは噂語りの捜索から
【聞き耳】で該当の噂を流す者を聞き分け、攻勢に出よう
複数対象を相手取るなら光の【属性攻撃】を上乗せした鞭の【2回攻撃】【範囲攻撃】で蹴散らそう
単体なら上記スキルを上乗せした爪を用いての接近戦重視
いずれも【フェイント】で体勢崩しを狙ったり【武器受け】で受け流せる攻撃は弾く
【戦闘知識】と持参の高度情報体も用い行動分析
それらを元に相手の隙を見つけられたらすかさず【緋の業苦】
逃がしはしないさ




 火の無いところに煙は立たぬと言うけれど。
「まことしやかな子殺しは、幻想であって欲しいものだね」
 ──似たようなモノ、実際に見た事があるけど、さ。
 ヴォルフガング・ディーツェ(咎狼・f09192)の声色はどこか虚ろに過ぎしもの。
 口元まで覆うマフラーを寒くもないのに指先で引き上げ、獣の耳を欹てる。
 捜索と、分析と。それなら得意のモノクル型サイバーアイ『ヘルメス』を連れ街を行く。
「ヘルメス、「覗く」んだ。その向こうを」
 塀の先。家屋の裏側。
 歩きながら覗き見て──やがて路地の曲がり角。それらを見つける。
 溢れ出る噂、噂、噂。
「ふぅん。こっちの方か」
 都市伝説から離れる程噂が減る。ならば近付く程増えるが道理。囁き声を喉ごと掻き切るような疾駆で、その最中に飛び込んだ。
 手にした鞭は空を鳴らし、自在の光条を模してしなる。
 ひとつは首を。もうひとつは口を。
 真横に打たれて消えた噂をちらとも見ないで、黒狼は路地を駆け抜ける。
 片手で光宿した鞭を振るいながら、そしてもう片方には変幻の魔爪を指鳴らして装った。
 頬を撫でるような五爪が噂語りの視界を横切る。
 神速は悟られない。消えた事にも気付かぬ噂が切り裂かれて影になる。
 爪と鞭とで蹂躙した後の、静けさを取り戻した路地の向こう。
 もうひとりの黒狼との距離の、ちょうど真ん中に、曲がり角があった。
 溢れる噂と水音と、それはまだ、続くようだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

パーム・アンテルシオ


気をつけて、か。…どう、気をつければいいんだろう…
それにしても、UDCアースにも、妖怪の話なんてあったんだね。
私の知ってる妖怪とは…少し…いや、かなり?違った雰囲気がするけど。
なんとなく…暗い?怪しい?…ちょっと、触れ難い、っていうのかな。
…都市伝説、か。

さて、考えてばかりじゃ、何も終わらないんだよね。切り替え、切り替え。
ユーベルコード…山茶火。
たしか、この世界では、目撃者が少ないほうがいいんだよね?
それなら…見えない炎の腕。派手に壊さず、対象だけを掴み取り、焼き尽くす。
きっと、この術が適任。だよね?

…不調っていうのは、少しばかり、気になる所だけど。
この世界の妖の、お手並み拝見、と行こうか。




 気を付けろ、とは聞いたものの。
「どうやって気を付ければ……」
 パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は呟いた。聞いてはいたし身構えてもいた。何も聞かされないよりは、それがあっただけまだよかったのだろう。
 この地に降り立ってからずっと耳鳴りが止まない。頭まで痛くなりそうな音が襲い来るので、眉根に寄った皺が直りそうもない。
「都市伝説……か」
 UDCアースの、いわば妖怪のようなものだろうか。パームの知る妖怪とはまたかなり様子が異なるけれど。もののけというには少し、
(「暗い? 怪しい? ……ちょっと、触れ難い、っていうのかな。この世界の妖の、お手並み拝見、と行こうか」)
 異質なるもの、怪異。
 立ち向かおうとしているものが、少し──やけに大きく感じる。
 路地の両端の植え込みに沿って歩く。通行人とすれ違う。
『──コトリバコって、知ってる?』
 耳鳴りの隙間に滑り込む噂。
 それを吐く口は、植え込みを挟んだ向こう側。
 ちらと横目で見るだけの赤い眼は、獲物を見るように細められた。
「……山茶花」
 ぽとり。
 椿の落ちるよに、青黒の炎に濡れた首が地を転がり、瞬きの間に消えた。それが付いていた胴体の方は疾うに燃え尽きて無くなっている。
 もうひとつ、導のように立つ噂の口が車道を挟んだ向こうにある。
 それだって逃さない。道行く人の知らぬまま、灰すら残さず焼き尽くす。
 辿り歩くパームにだけは感じられる、見えざる炎の腕。
 目撃者は多分、少ない方がいいのだろう。
 だからこの『腕』で焼いていく。辿る炎の導は青い輪郭。
「なんだか、私まで」
 ──噂の妖怪になったみたいだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 ────


 ──ゴホウ、ロッポウ、チッポウ。


 ごにんはゴホウ。
 ろくにんでロッポウ。
 しちにんでチッポウ。


 ねえ、ねえ、本当はね。
 ほんとうは、もうひとつあるんだって。


 箱の名前は。
 箱のなまえは?


 ────
芥辺・有
都市伝説とか、そういうのには疎いからよくわからないが。
コトリバコねえ。……気を付けろってんなら、気を付けるさ。
何があるにしろ、覚悟があるとないとじゃ違うだろうから。

聞き耳をたてながら、コトリバコの話をしている噂語りを探そうか。
ひとつ聞こえたなら、より多く聞こえる方を探して、耳を欹てながら歩こう。

見つけた噂語りは丁寧に始末して。強化するというのなら、面倒事は減らしておくに越したことはない。
精霊銃でも、杭でも。先制攻撃を仕掛けたりで、なるべく手早く。
人目があって戦いにくい、とかがあるならすれ違いに鋼糸を仕掛けて、目立たぬよう斬りつけたりしよう。




 引鉄ひとつ、この指で。
 昼日中の陽に融かされるように消えた噂の口を見送る事なく、揺れる黒髪が踵を返す。
 忠告を受けたからには気を付けようと、覚悟がないよりマシだろうと、そう思って。事実そうだった。
 割れるような頭痛に時折顔を顰めながら、この街を歩いた。照準を合わせるのにいつもより僅かばかり間を取られたが、狙いは然程に狂わない。動揺が無い所為だ。
 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は精霊銃をそっと仕舞うと、耳を欹てた。
 次の声は曲がり角の向こう。
 その次は街路樹の陰。
 ジャングルジムの上、ベンチの背凭れ。
 路上駐車のボンネット、小学校の校門、フェンスの向こう。
 都市伝説に明るくない有だったが、それだけの語る口とまみえれば覚えたくもないのに耳に残る。
 コトリバコ。子取り箱。
 昔の話。
 誰かが誰かに伝えた話。
 誰かが教えた、呪いの作り方。
 子供と女を祟るものの話。
「ただ其処にあるだけで……か」
 まるでこの名のようだと。
 呪いのように、それだけが残った。
 ああ、そうであるのなら。
 代わりに、そこに在るだけのかの呪いを、壊しに行こうか。
 掌に赤い杭。己の血を代償に招く鋭さは無数。
 昼の短い影に突き刺して、掻き消して、噂が消える。
 丁寧に、ひとつずつ、塗り潰すように。

成功 🔵​🔵​🔴​

クレム・クラウベル
【夜猫】
そうだな、この世界の怪異の類だは大体ロクでもない
女子供には近くにあるだけで害だと聞く
さっさと片付けよう

ルト、探ってくれるのは助かるがあまり先に行くな
目立つ尾がなければ見失うところだ
歩調を速めて追いつけば
眉間の皺に肩を竦めて

ああ、やっておく。探す方は任せたのだからな
それより辛いならあまり無理するな
此方でも探してやるから

見つけた噂語りはナイフで素早く処理を
人目が心配な場所ではコート翻し影で一撃
過たず首を掻き斬って

……終の言う紳士的は胡散臭さがすごいな
なに、褒め言葉だ
躊躇されるよりは良いさ、特に今回は

オブリビオン嫌いというよりアレはまあ
先日の同種相手で少しな
あまり見たくないものを見たのだろう


イェルクロルト・レイン
【夜猫】

コトリバコ、なあ
どうせロクでもないもんなんだろ
さっさと終わらせよーぜ
回りくどいのは好きじゃない

ヒトよりもよく利く耳で声を拾って
同行人も置いてあちらこちらへふらふらと
いつもより集中すれば聞こえる情報量は増えて
変わりに頭痛も比例する
眉間に皺寄せ、噂に誘われて

倒すのは任せる
別に、やってもいいけど
……この存在は好きじゃない
先日のガクエンサイを思い出してどこか浮かぬ顔
見やるクレムの視線に気付いてふいと顔を逸らして

あんた、ふるまいに依らず結構無遠慮だよな
噂語りを聞きながら、じいと終を見つめ

目印は、噂の多さと空き地の猫
それの近くにあるというなら十分な情報だ
こっち
今日ばかりは導き手に


静海・終
【夜猫】
コトリバコ、本当におぞましい物
存在してはいけません、早々に消し去りましょう
悲劇は殺して壊しましょう

見渡し耳を澄ませ違和感のある者を探る
こちらを気にせず進んでいくルトが目に入り足早に近づく
集中しながら進む様子に此方なのだろうと追う

酷く嫌そうな顔のルトと気にした様子のクレムに首を傾げながら
槍を構えてルトより前に出ておく
そうでございますか?
私はいつでも紳士的に振舞っていますよ、えぇ。
にっこりと笑って返しながら噂語りの顔面を穿つ

進む毎に殺す量も増えていく
クレムはルトがなんであのオブリビオン嫌いとかしってます?
こっそりと聞いてみる




 彼方此方にふらふらと。
 彷徨い歩く様は、まるで幽鬼のようだった。
「ルト! あまり先に行くな」
 イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)を追いかけて、クレム・クラウベル(paidir・f03413)が走っていく。
 人よりも利く人狼の鼻と耳で探ってくれるのは助かるが、それにしたって今日のイェルクロルトは様子がおかしい。
 おかしい、と、その理由を知らない静海・終(剥れた鱗・f00289)が気付く程度には。
 はさはさと左右に揺れる黒い狼尻尾を、クレムと終が追っていく。
「本当に、おぞましい物ですね、コトリバコとは」
 そんな風に終が言えば、
「そうだな、この世界の怪異の類は大体ロクでもない。あるだけで、女子供には害だと聞く」
 碌でもない、ともう一度呟くクレムが応じる。
 視線の先のイェルクロルトは振り向かないが、黒い耳がちらりと後ろを向いている。
 回りくどいのは好きではない。何より、あいつらのことはもっと、好きではない。
 さっさと片付けよーぜ、と、その足音が告げている。
「倒すのは任せる」
「ああ、やっておく。それよりあまり無理をするなよ」
「何が」
「探すのを手伝う事はできる。先走るな」
 横合いに並べばはっきりする。浮かない顔、眉間の皺。クレムは静かに肩を竦めた。
 三人の向かう先、昼の明るく広い市民公園から声が聞こえる。
『コトリバコの中身って知ってる?』
『知ってる! 子供の指でしょ?』
『箱の中身が赤ちゃんだったら、臍の緒も入ってるんだって』
『赤ちゃん、ころしちゃったの?』
『そうなんだって。こわいよね』
『こわいね』
『こわいね』
 ──噫、五月蝿い。
 頭が痛い。段々と、段々と、酷くなる。
 噂の声が渦巻くようだ。
 眉間に寄せた皺が一層深くなったイェルクロルトと気遣わしげなクレムを追い抜いて、終が槍を構える。
 二人の様子に内心首を傾げるも、けれどそれだけ。前を見据え、後ろでクレムが抜いたナイフの音を耳だけで確かめ、その歩調を読む。
「あんた、ふるまいに依らず結構無遠慮だよな」
 イェルクロルトの声がした。
「そうでございますか? 私はいつでも紳士的に振舞っていますよ、えぇ」
「……終の言う紳士的は胡散臭さがすごいな」
 槍が顔面を貫き、ナイフが喉を掻っ切る。
 返す刃はもう一閃。胸を穿ち脳天を刺す。影を裂くように手応えがないが、けれど語る口はゆらりと乱れ掻き消える。
「酷い言われようでございますね。こんなにもいたいけだというのに」
 疾駆は後ろに茫と立っていたイェルクロルトの背後まで。二人ほどを貫き影へと消した仕草までを一として、背筋を真っ直ぐに周りを見る終をほんの少し低い位置からイェルクロルトが眺める。
「いたいけ」
「いたいけ」
 赤毛の人狼を挟んだ向こう側で、最年少のクレムが同じ語調で呟く。
 意に介さず槍先を下に、次の標的を百メートル程先に定めた終がクレムを誘うように先駆けた。芝を踏み、まだ花の咲かない白詰草を散らして。
 その少し後ろでクレムが軽やかに足音を奏でる。
 一番後ろにイェルクロルトの気怠げな、引き摺るような靴の音。それでも少し苛立ったような、それでも白炎は留守番の侭で。
「……クレム」
「なんだ」
「ルトがなんであのオブリビオン嫌いだとか、知ってます?」
 彼我の距離は、あっという間に十ばかり。
 締めた脇に槍の柄挟んで、終がちらとだけクレムを見る。
「嫌いっていうより、アレはまあ。先日同種と少しな」
「同種でございますか」
「……あまり見たくないものを見たのだろう」
 あの時ほど顔色が悪いわけでもない。それなら、今何か見せられているのではなく、単に思い出しているだけなのだとクレムは思う。
 その一点にだけは、安堵する。
「見たくないもの。ですか」
 思案するような顔の下で、別物のように動いた終の腕が噂を語るその口を刃で塞ぐ。
 長い槍の柄を軽々と渡り、穂先で跳んでは緩やかな放物線を描いて落ちる人の影が、生み出されつつあった人体模型の噂ごとそれを切り裂く。
 一息すら乱さぬ二人の脇を、やがてのそりとイェルクロルトが擦り抜けていく。
「……こっち」
 目印は噂の声の多さと、空き地の猫。
 情報はそれで充分。あとは辿るだけでいい。
 足取りは迷いなく、惑うこともなく、二人の導き手となるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミーナ・アングリフ
任務…了解…。
あなた達が、恐怖を広めるヒト…?
それなら、わたしはあなた達を止める…。

【ライオンライド】でみーくん(ライオン)を召喚…。みーくんが模型達を足止めしてる間にわたしが本体を攻撃、といった感じで連携して戦闘…。
姿からは想像できない程の【怪力】で鉄塊剣を振り回し、剣から炎【属性攻撃】を噴出させ、【鎧砕き】で敵の防御ごと粉砕する様に叩きつけて攻撃…。
敵の攻撃は【第六感】で感知して【武器受け】で防御…。

不幸を増やす事も、不幸を騙る事も必要ない…。
世界にこれ以上の不幸は生み出させない…。
みーくん、やっちゃえ…。

アドリブや他の方との絡み歓迎




 黄金の獅子が街を駆ける。
 その一角に入り込むと、妙に寒々しさを感じた。昼の陽に当たれば今時期でも少し暖かさを感じる筈なのに。
 獅子の背に乗るミーナ・アングリフ(自称・戦う道具・f14513)が背筋の悪寒に身を震わせると、心配そうな双眸が振り向いて目が合う。
「……だいじょうぶ、みーくん」
 ぽんぽんと鬣を叩くように撫でて宥め、前を見る。
 ざわざわと、声。語る声。
『ねえ、コトリバコって──』
「しってる」
 短に告げる。
 齢十と一の体躯に見合わぬ身の丈以上の斬鉄剣を手に、獅子の背中から飛び降りる。
『夜中、学校の廊下を歩き回る模型があるんだって!』
 噂を語る口が動けば、テレビのスイッチが入ったように明滅して現れた人体模型と骨格標本。
 そこへ飛び込む黄金の獅子が、関節を無視して腕を振り回す骨格標本に噛み付く。人体模型に鋭い爪を見舞う。
「みーくん、やっちゃえ……」
 命じる声は酷く幼い。
 模型達に守られる本体、噂語りへとミーナは足を向ける。
 手足が痺れる。感覚が薄い。けれども確と柄を握り締め、振るう。襤褸布のようなワンピースの裾が翻る。
 地獄の炎を噴出させ、燃え上がるその剣は、斬るよりも叩き付け潰す方へと得意が向く。
 防御など許さぬ重さと、ひとときだけ燃え上がるような輝きを持つ銀の瞳とが残影になる。
 薙ぎに上下へ裂かれた頭がぶれて揺れて、風に吹かれた。靄のように消えていく。
 噛み砕いた模型が本体と共に消え去ると、黄金の獅子が駆け寄ってはミーナにそっと寄り添う。ぐるる、と鳴る喉を掌で撫でて、彼女はその先へと獅子を促した。
 これ以上の不幸を増やさない為に、不幸を騙る口を塞ぐ為に。

成功 🔵​🔵​🔴​

暗峠・マナコ

私もちゃんと、女性の上に未成年のようです。
この謎の不調…噂語りの噂の出所、探すのは中々骨が折れそうです。私に骨はありませんが。

骨格模型に人体模型、中々興味深いですね。
骨も内臓も私にはありませんから。
あぁでも、なるほど、噂の出所、探すのは中々「骨格模型の骨が折れそうです」

邪魔してくる模型たちは【バウンドボディ】で腕を伸ばして一気に[範囲攻撃][なぎ払い]
噂語りへの道がひらけた所で、弾力性で勢いつけた腕に仕込んだ[フック付きワイヤー]で、
手の先からフックを覗かせ、その言霊を吐く喉を搔っ捌きましょう。
どうか次は、幸せを語るキレイな噂をお願いしますね




 ゆら、ゆら。
 確と歩いている彼女なのに、どこかふるふると揺れているように見える。
 暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)は黒の液体ブラックタール。骨も内臓もない身体ゆえ、人体模型や何かと聞けば、興味深いことだと呟いていた。
 ゆらゆら、ゆら。
 視界がくらりと回る。身体の輪郭もふるふると揺れる。
「私もちゃんと未成年の上に、女性のようですね」
 マナコは冷静に呟く反面、状況把握も怠らない。
「噂の出所を探るのは、少し……ああ、『骨が折れる』と、言うんでしたね」
 顎に手を遣り考える素振り。真黒の瞳に映る影。昼日中の短い影、むっつ。
 かたかた、かしゃん。かしゃん。かしゃん。
 ひとりでに動く人体模型と骨格標本が、迫っていた。
 マナコの黒い両腕が広げられる。
 慈愛を抱くように。迎えるように。
 広がる、広がる。
 その愛らしい少女の腕は伸びて、伸びて、十は離れた模型達への距離を目測で計る。
 くるり、彼女の足が踊るよう。長いスカートを翻すのに似たステップを踏んでゆらり軟く一回転。
 伸縮性を増したマナコの腕は鞭の如くに、横並んだむっつの模型を一撃のうちに薙ぎ倒した。
 しゅるる、と何事もなかったように腕を仕舞うと同時、けたたましい音を立てて模型が崩れ落ちる。
 さっきまで元気だったのに、とマナコは息を吐いた。
「なるほど。噂の出所を探るには、『人体模型の骨が折れそうです』。こうですね」
 さてあといくつの骨を折れば辿り着くやら。
 静かな足音が模型屑の山を越えていく。とん、と跳ねて樹木の後ろ、隠れ潜んだ噂の口まで飛んでいく。
 ぐらりと揺れた視界。捻り曲がった世界を眺め、手の先から覗かせるフック付きワイヤーを投擲する手指に補正をする。ゆら、ゆら、揺れる輪郭を、経験値で埋める。
「どうか次は、幸せを語るキレイな噂をお願いしますね?」
 ひとつ、ふたつ。
 平然と裂かれる喉笛から血など出ない。ただ融けて消えるだけの影。
 みっつ。
 模型の数から本体の数を割り出せば、それで最後だ。振り向く前に模型も消えた。
 彼女の揺れる輪郭も、通りすがる昼休みのサラリーマンには違和感すら持たれない。
 こうして非日常は、素知らぬ顔で消えているのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​


 ────

 八人の子供。
 幼い子供。
 それが所望だったのだという。


 無垢なものほど思いは強く、無垢なものほど純粋で。
 そうして無垢なものほどに、容易く歪んでしまうもの。


 箱の名前は。
 箱のなまえは。


 ──『    』。


 ────


第2章 ボス戦 『『都市伝説』コトリバコ』

POW   :    カゴメ、カゴメ
全身を【囲む様に子供の霊を召喚、内部を安全領域】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD   :    そして皆いなくなった
【コトリバコから敵対者を追尾する無数の小鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    【常時発動型UC】子取りの箱
【自身から半径レベル三乗mの一般の女性、子】【供を対象に寿命を奪い衰弱させる状態異常を】【付与。また、奪った寿命でレベルを上げる事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 それは雑居ビルのひとつにあった。
 テナントは全て閉店していて、取り外されなかった看板が風化して破れ朽ち、風に揺られている。


『コトリバコって』
『コトリバコって』
『コトリバコって』


『──知ってる?』


 導のように辿る噂。
 順に立つ影は裏口へと導く。
 昼日中だというのに薄暗いそこは、悪寒さえ呼んで澱のよう。
 深い泥へ沈み行くように足を踏み出して、鍵の壊れた裏口から狭い階段を上る。
 気持ち悪い、と誰かが言った。
 がたん、と誰かの足が踏み外されかけた。
 手摺にしがみつく様に、重い足取りは止まらない。

 三階。
 六階建てのこのビルの、何とも中途半端なそのフロア。
 けれどもそこに『いる』。
 壊れているのか、態と開け放してあるのか、非常扉のランプが消えた扉が易々と開き、生温く腥い空気を入れ替える。
 電気は付かない。カーテンの外された窓から日の光が淡く差す。
 部屋の真ん中に、ぽつん、と。
 黒髪の少女が立っている。
 逆光で顔は見えない、けれどその手に持った緋色の箱が、やけに鮮やかな色をして。
 何もない剥き出しのコンクリートの壁。床。置き忘れた机や椅子、紙屑が隅に散らばる、広いオフィスのようなその一室。
 壁に貼られた風化したポスターが、外の看板と似たような有様で爛れたように壁面を這う。──否。誰かがそれを見咎めた。
 ポスターは人の指が引っ掻いたように破られていた。爪の痕が四本、その下の壁に残っている。赤黒く線を引いて。
 けれどもそれだけだ。人の声も気配も、亡骸もない。
 よく見れば彼方此方に、藻搔いたような痕はあった。痕跡だけは。
 握り締められた紙束。片方だけの靴。何ヶ所かひび割れた窓硝子。落ちた生爪。
 少女は静かに佇んでいる。
 緋色の箱が佇んでいる。
 その蓋の縁から、子取り箱の『部品』に含まれない筈の髪の毛が覗いていたことに、気付いた者はいただろうか。
ユア・アラマート
コトリバコの呪いは、酷く強いと聞く。呪われた方は勿論、箱を作った者たちも呪い殺してしまうほどに
もし、それが実在したとして。一体どれほどの呪いがそこには詰められているんだろうな
きっと、この身にふりかかるそれとは…比べ物にならないんだろう

私の特技はスピードだが、今回は少し我慢強く耐えないといけなさそうだ
下手に動き回れば衰弱が酷くなる。【ダッシュ】で必要最低限の回避で攻撃を避けながら、他の猟兵達の行動を観察。敵がそちらに気を取られる一瞬の隙を突いて移動
【暗殺】【忍び足】で死角へと回り込み、【属性攻撃】【全力魔法】【先制攻撃】【2回攻撃】で可能な限り攻撃を強化
刹無の風杭を一気に放ち、敵の体を貫かせる


エンジ・カラカ
コトリバコ。噂話。
アァ……コレか。コレを何とかすればいいンだなァ……。
賢い君、賢い君、行こう。
コレはこどもじゃない、足手まといにはならないサ。

薬指に結んだ真っ赤な糸、傷口伝って燃える真っ赤な糸。
女とこどもがあぶないらしいンだ。
君、君、かわりにヤってしまおう。

狙われているヤツがいたら間に割り込む。
属性攻撃は今回は炎。運命の真っ赤な炎。
コッチにはあまり効かない攻撃は見切りとオオカミの足で建物の構造を利用し素早く避ける。

こどもも女もそんなにほしい?これじゃあ遊べないなァ……。
おーい、コレともあーそーぼ。


芥辺・有
周囲の痕跡は一瞥をして、すぐに視線を戻す。
お前が、そうか。

馬鹿みたいに痛む頭に、考えるのも面倒で。
避ける気力もあったもんじゃない。けど、丁度良い。
影人形を使用して、最低限、危険を感じる攻撃だけは見切って避けるように。そうしてそのまま真っ直ぐ少女に駆ける。

それから、まあ、椅子でも何でもいい。散らばる物を蹴飛ばして、フェイントを仕掛けながら背後にまわる。
負った傷か、あるいは自分でつけるか。どちらにせよ、作り出した炎で少女に攻撃する。

……代償行動なんて、可愛いもんじゃないけどさ。
壊すよ、お前を。


パーム・アンテルシオ


…何かが、重い。
足?体?違う気がする。
…魂?
本能が、先に進むなって。そう言ってるの?

君子危うきに近寄らず。
それなら、一体誰が、危ないものを探るんだろう。
君子の反対は小人。けど、きっと違う。
探るのは…贄。囮。
人に代わって危険を探るのは…いつだって。

それでも私達は…ただのカナリアじゃあ、ない。
ユーベルコード…鶯火楽。
自分の動きが鈍くても…誰かに、託す事はできる。
わかる。あれは、放置してはいけないものだって。
目が霞む。景色が赤い。けれど、止まれない。
撃てるだけ撃ち込む。届くうちに。見えるうちに。
見えるうちに?…赤い?景色が?
鉄の味。でも。
止まらない。止めちゃいけない。私はヒトだから。止めなくちゃ。




「そうか。お前が……そうか」
 ちらとだけ周囲の様子を一瞥し、すぐに視線を戻す芥辺・有(ストレイキャット・f00133)の仕草はまるで情報収集をしただけの風。頭痛は金槌のような鈍い強さで脳髄を揺さぶってくる。ああ、億劫だ。面倒になる。
 重苦しい、と。
 一言で言えばそういう感覚だった。
 黒髪の少女はそこに立っているだけなのに、先に進むなと言われているようだ。
(「……何かが、重い。足? 体? 違う気がする。……魂?」)
 パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は竦む足をそれでも一歩踏み出して。耳鳴りは疾うに慣れる程酷くなっていた。
 最初は心臓を針で刺されるようなちくちくとした痛みだった。それが今は。自然上がる息をユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)は飲み込んだ。
 コトリバコの呪いは、強い。ただ其処に在るだけで──なんて、そんなもの。触れてもいないのに周りを汚染していく、この世の穢れを一身に詰め込んだような呪いの小箱。それがもし実在したなら、彼らを今蝕んでいるものより余程、余程に。だってそれは一晩で女子供の臓腑を捻じ切り、血反吐を吐かせた地獄絵図を作ったというから。
「アァ……コレか。コレを何とかすればいいンだなァ……」
 ──賢い君、賢い君、行こう。
 水銀の名を持つ拷問具、辰砂を担ぐエンジ・カラカ(六月・f06959)が歌うように前に出る。
 賢い子には赤い血を。左の薬指から流れたそれを、既にたっぷり飲み込んだ賢い子には、べったりと口の周りを汚した子供のように赤い手の痕。それからその血は指を伝う。薬指に繋がれぷらりと下がった赤い糸を伝う。ちり、ちり、火花。赤い、線香花火の如くに焔が柔く爆ぜた。燃える。
 ユアと有が同時に左右へ別れて駆け出す。有にふわりと覆い被さるのは影、黒い影、それは聞き取れない言葉で笑いながら。煩い、と一言だけ落とした有が放棄された机の上に飛び乗り渡って、引っくり返った椅子をひとつ少女へ向け蹴り飛ばして目を盗む。
「……鶯火楽」
 遠く、パームの声。風切って飛来した幾つもの針が、目を奪われた少女に刺さる。呪いに呪いが染み付いて、もう剥がれない。
 見て妖艶に笑ったユアの身体を這う花蔦が淡く光を放ち、常に纏う花の香が強くなった。戦場だというのに、それは天上の楽園に似て。
 その無上を自ら切り裂く。
 風を司る神の名宿した無色の杭はユアの周りで形になる。狙いは突き刺さる呪針が教えてくれる。ただそれを穿てばいい。淑やかな仕草で白い指が指し示し、風杭には是非もない。慈悲もない。
 風の尾を見送る有が自身の親指の腹を喰い千切る。上空、天井近く。割れた蛍光灯を背に、指の傷から這い出した纏う影より黒く清廉とした焔を鞭の様に投げ出した。風杭に巻き取られ、拡がり、黝い竜巻を模して少女を貫く。
『……ふ、ふ』
 黒に燃える少女は嗤う。見えたのは、小鳥だった。室内を覆うほどの影。囀りもしない鳥達の数は、宵闇と見紛うような。
 襲い来る音は羽搏きだけ。
 一度中空まで舞い上がり、目標を見定め捕捉する仕草はまるで猛禽。その風切羽が柔肌を裂く刹那、瞬きの間に赤い焔が呑んだ。散る花に似てはらはらと、無力に解ける。
「コレともあーそーぼ。ねェ。遊んでよ」
 エンジの薬指からぶら下がる、燃ゆる赤糸。胡乱な金眼は今は真っ直ぐ少女を見ている。
 糸の先は緋色匣。縛り燃やす焔が蛇舌の如くに絡みつく。
 刻む秒針の音。命を削る音。
「コレはこどもじゃない、だからさ。ちょうどイイだろう、このくらいでさァ」
 歪んだ笑みの背中にはパーム。背に隠したところで何か変わる訳でもない、エンジにはわからぬ襲い来るものが減る訳でもない。ただの気分だ。
 床を這う赤糸が延焼する。地平を染める夕陽にも似た、運命色の、焔。
 視界を染める赤が眩暈なのか、炎なのか、パームにはわからない。舌に鈍く刺さる鉄の味は錯覚なのかもしれない。知らず噛んだ唇に滲んでいるかもしれない。
 赤い景色を撫でる掌になぞる呪針。身動きの鈍ったパームの代わりに、仲間を助けるもの。穿った敵の身を瓦解させる呪い。
 撃てるだけ、撃てるうちに。この赤がまだ、見える、うちに。
 黝と緋の焔、その匂いを巻き上げる風。
 ──止まらない。止めちゃいけない。私は、私たちはヒトだから。止めなくちゃ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 少女は嗤う。
 焔の中で風に紛れて。

『わたしはコトリバコ。呪の箱。しっているのね?』

 わたしを、しっているのね。

『呪えるのは女と子供だけ。だけれど、ねえ、ねえ?』

 今のわたしはちがうわ。
 手があるの。
 足があるの。
 目が、口が、こころがあるのよ。
 《ただ其処にあるだけの箱》は、わたしではないのよ。

『呪い殺すのではなくて、ただこの手で殺すだけなら──女も子供も、男も大人も、関係ないのだわ!』
暗峠・マナコ

さて、箱の中身はブラックタールだったのでしょうか
タールならまだしも、普通の人間は箱に詰めてはいけませんよ
詰めたいのであればタールを詰めましょう
私は遠慮いたしますが

と、まぁ、冗談はさておきです
無数の小鳥さんをどうにかしないと近づくのも困難なので
【ガジェットショータイム】で攻略法を考えましょう
強力な掃除機ガジェット、なるほど、[範囲攻撃]で吸い込んでハコの型に詰めて圧縮してにしてしまえと
ある程度吸い込んで隙ができたら吸引を反転、鳥さんらを圧縮してできたハコを射出しましょう

趣味が悪い?
でもほらだって、しょうがないじゃないですか
キレイじゃないんですから


クレム・クラウベル
【夜猫】
同種だな。分かりやすくて助かると言えばそうだが
……ルト、動けるか?
返事だけは強気だが幾分覇気がない
フォローはする。無茶はするなよ
終、……お前大体いつも派手にぶち抜かれてないか
ああ、言われずとも。隙は晒すまい

向かい来る攻撃は祈りの火を眼前に展開、壁代わりにし焼き払う
特に数で来る小鳥はこの方が防ぎやすかろう
粗方払うか隙間出来たなら身を屈め距離を詰める
前へと喰らいつく野良犬は止めたところで止まるまい
ならこの方がカバーも楽だ

主に害為すは子供と女と聞くが
……それで留まってるか怪しいな
床に転がる痕跡に目を伏せる
呪詛を祓うなら本業だ。一片も残さず片付けよう
短剣を逆手に一閃、箱へと狙いを定めて


イェルクロルト・レイン
【夜猫】
ああ、あれ、またいるんだ
過去に視たコトリバコを思い出し、静かに目を伏せる
きもちわるい
二人の声は聞こえるけれど
フラッシュバックする未来視に酔って吐き気がする
……いい、うごける
口から出るのは強がりばかり

炎を
これだけ穢れた場所ならば
これだけ畏れの篭る場所ならば
困ることはひとつとして存在しない
クレムの火をも喰らいながら
前へ、前へ
壊してしまおう、ぜんぶ
ただがむしゃらに腕を振るう
カバーは、任せた
言わずともこの男はするのだろう

女子供でないのなら、影響は少ない方だ
あんたはシッポウ? それともハッカイか
まあ、なんだっていいけれど
耐性はある。この程度、怯む理由なんてない
喰った魂、呪詛ごと喰らってしまおうか


静海・終
【夜猫】
おやまあ、再び相見えましたねえ
おぞましい呪いの箱、幾つあろうと、壊しましょう
その、悲劇を
ルトは随分気分が悪そうで…気分のいい物でもございませんし当然でしょう
クレムもルトばっかり気にしていると怪我しますよ
私は以前、わき腹を喰われました

まるで火葬の様に燃える炎たち
きっと形さえ骨さえ残さないようなその火と守るようなその火
仲良しさんですねえ
笑うと取りこぼしの小鳥は槍で確実に落とし
がむしゃらに向かう腕を近接でカバーしながら
広く周りが見えているであろう後方の声を聞き呪いを破壊する

呪いを顕著に受ける対象ではないにしろあまり近付きすぎると
何かに囚われてしまうような寒気もございます
慢心せずただ確実に壊す


赫・絲


気っ持ち悪。きっと今私酷い顔色してるんだろなー、なんて。
それでも、そんなコト足を止める理由にはならないから。

さて、一体いくつ閉じ込めたんだか。

言うが早いか手首を裂く
グローブを伝った血は鋼糸と同じ糸の形を成して、
距離を取りながらも箱そのものを少女の手から弾くように【先制攻撃】

子供の霊や小鳥が現れれば、
攻撃を【見切り】ながら即座に鋼と血の糸で排除
仲間が本体を狙いやすいように

全ての糸には【属性攻撃】で炎を纏わせ
糸の端に少しでも敵を捕えたなら【全力魔法】で炎を増幅
箱も閉じ込められた呪いも少女も何もかもを何度でも燃やしにかかる




 ──ああ。クレム・クラウベル(paidir・f03413)の推測は少女の口から語られる事実となった。
 あれは既に呪いの域を越え、現出した厄災に近いもの。正に邪神であるのだろう。
 呪いであるならそれだけの。けれどそうでないのなら──床に壁に、彼方此方に散らばる痕跡にも頷ける。僅か目を伏せたその横を、亡霊のように擦り抜けるイェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)の足音は。ずるり、ずるり、引き摺る重さを孕む。
 あれは、再来。
 あれは、再会。
 リフレインは彼方で反響する。その尾を掴んだのなら今度もまた、逃さない。
「「──きもちわるい」」
 声の高低。異口同音に紡がれたその言葉の片方は赫・絲(赤い糸・f00433)のもの。
 きっと酷い顔色をしている。
 解っていてそれでもその足は止まらない。
 止まる理由が、ない。
 だってあれを壊さなくちゃ、毀さなくちゃ。
 それが『呪い』を前にした絲の、危うい程に真っ直ぐな希い。
「おやまあ、再び相見えましたねえ」
 静海・終(剥れた鱗・f00289)の声はいっそ呑気だ。幾つあろうとやる事は変わらない。おぞましいその箱が存在する限りは。
「……ルト、動けるか?」
「ああ。べつに。うごける」
 クレムに応える声は強がりと知っている。それでもイェルクロルトが素直に何だの言う訳もない。
「まったく、クレムもルトばっかり気にしていると怪我しますよ。私は以前、わき腹を喰われました」
「終、……お前大体いつも派手にぶち抜かれてないか」
「さあ。何のことでしょう」
「まあ、言われずとも。隙は晒すまい」
 指先に火を灯すクレムと、槍先を風切り振り下ろす終の前で、イェルクロルトが一歩先を行く。
「あんたはシッポウ? それともハッカイ?」
 前にも同じものを見た。フラッシュバックする未来視に吐き気がする。
『はちの箱だったかしら。どうかしら。だけど、わたしはわたしよ』
「……まあ、どうでもいいか。壊すんだし」
 息を吐く。煙のような白き焔が漂う。
「……さて、一体いくつ閉じ込めたんだか」
 手首を疾る傷が一。爪でついと緋を描いてぽたりと落ちた血液は、絲の掌で鋼糸に似た細い一筋を成す。いち、に、さん、よん。
 羽搏きがうねって鼓膜を叩く。鳥が、鳥の影が、天井にも壁にも床にも一面に。
 白い焔が燃えて、葬列のような祈りの火がそれに緋を微かに添える。クレムが盾のように広げた淡の灯火はイェルクロルトが持つ白の焔に添い、狼に似た大口を開けて白焔がみるみる喰い育つ。
「仲良しさんですねえ」
 我も彼も構わぬ黒の野良犬を止めもしない終は少しだけ前に出て、それ故に鳥の影が真っ先に狙ったのも彼だった。せめて隣が喰われぬようにと槍で落として、落とし切れなかった影がその肉を喰い貫く。別に、解っていたので。黙って喰われるつもりはないが、慌てることも何も無かった。
 苛立ったイェルクロルトの白焔が尚も質量を増すその前に、少女の微かな笑いが遮った。
「ふふ。掃除機、ですか」
 マナコのガジェットが指し示した『正解の象』がそうだったので、彼女が笑っただけだ。
 一番後ろに位置するマナコへと小鳥が羽撃く。けれども攻撃は出来ない。襲い来る動きに似て、まるで嵐のように、頬を叩く風になるだけ。そうして通り過ぎたあと、全てはガジェットの胎の中。
「これでこちらは問題ないでしょう」
 マナコの黒い液体の手が、子どもの頭にするように働き者のガジェットを撫でる。
「さあ、ご存分に」
 彼女の声を背に、影の嵐を擦り抜けて駆ける。散開しての波状は四。
 火を纏う血の鋼糸が、白炎と祈りが、槍の穂先が少女に届く前に、ぬぅと現れた半透明の子どもを擦り抜けた。
 少女はその幻影めいた子どもに囲まれる。かごめかごめと遊ぶには随分と陰惨な、重苦しい澱んだ空気が、けれど少女にとっては何よりも居心地がいい。己の生まれた場所に似ている。
「燃えていけっ!」
 両の手から放つ絲の血糸には、滴る血液のように炎がちらつく。子どもの亡霊を出してきたということは、もはや防御に徹するつもりだ。ならば此れを剥がしてしまえば、後が無い。淡く浮かび上がる透いた子どもに糸が刺さり、血潮もないのに血飛沫めいて炎が上がる。
 すい、とイェルクロルトの腕が真横に空を撫で、山肌を下る雪崩の如くに燃え広がる白焔が薄暗い空気を舐めていく。押し寄せる白が視界を灼いても少女は笑んだ侭だ。自ら焔に身を投げるよう、イェルクロルトが其処へ我武者らに突っ込む。
(「寒気がしますね」)
 クレムと並び、その野良犬の腕を支えるべく槍を構えて併走する終は、呪いの掛かる年頃でもないと解っている。それでいて、何かに囚われてしまうような云い知れぬ冷冽さを感じている。
 見えぬ壁を抉じ開けるように亡霊へ槍先を突き刺す。少女の笑みが眼前にある。
 届かぬそれに手を伸ばす白焔を、少女は嗤った。
『だめよ。わたしは燃えないわ』
「それはどうかな」
 クレムが視線を返して応えた。
 黝く獣化したイェルクロルトの狼爪が亡霊の陰を割り、槍が広げ、糸を伝う炎が灼き広げる。
 ずるり。
 それは──蛇だった。
 隙間に入り込む白蛇の焔。
 クレムの火を疾うに呑んだ──、
『……あ、ああ、おまえ』
 祈りの火は彼女すら燃やす。順に子どもが消えていく。浄化されるようにふわり、ふわり、解けて熔ける。
 はち、なな、ろく。
「残念ながら、呪詛を祓うのは本業だ」
 培った破魔の力は世界を違えど呪いを解く。その動きをも封じる。尽きぬ炎に身を縛られる少女に足掻く力は無い。
 掻き消えていく亡霊の隙間を槍先が縫い、少女の胸を突き貫く。終の喚んだ竜がそれを喰らう。
 大切に大切に箱を抱える少女の腕が緩んで、絲の血鋼がそれを弾き飛ばした。ふわり、浮かぶ緋色。
 ご、よん。
 すらと抜かれた銀の短剣、胸元の十字模すそれはクレムの掌で翻る。軽く床を爪先で叩いて跳び上がり、箱を刺し突く。
 対の方向から絲が炎の血糸を飛ばす。捕捉したなら一気に燃えて、燃えて、其れへクレムが祈火を焚べる。
 耳に微か、声。呻くような地を這うような、形にも成らぬ声。
 さん、に。
『あぁ、いや、いやよ』
 少女が哭いた。
 いち。
 最後に残った透いた亡霊を、少女がくしゃりと歪んだ目で追った。それさえもう、消えてしまう。
『しにたくないの』
「ふん。……あんたが喰った命みんな、そう言ったろうが」
 ぜろ。
 ふつりと消える亡霊。燃えて解けて、中に押し込められた呪詛と骸ごと灼けて。
 その灰と火の粉が降り注ぐ中をイェルクロルトがひとつ跳ぶ。牙を剥き、爪を立てて、血に汚れ呪いに染まった少女の喉笛に喰らい付いた。其れが喰った魂ごと全部、啜り切ってしまうように。



 からん。
 静かの床に黒が落ちた。
 それは20cm四方程度の、箱の形をしている。
「……趣味が悪い、ですか?」
 黒い少女が笑った。
 わらって云った。

 ──だってしょうがないじゃないですか。キレイじゃないんですから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『愛らしい猫達を存分に堪能…しませんか?』

POW   :    猫達を沢山抱っこしたり背に乗せたりじゃらしまくる!

SPD   :    猫が好みそうなおもちゃの動かし方をしたり、心地よさそうな撫で方をしてみる

WIZ   :    猫の好みそうな事を考えて、おもちゃ等を用意して一緒に遊ぶ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 にゃあ。
 にゃあ。
 にゃーん。


 賑やかなひだまりの空き地。
 ねこは今日も元気らしい。
 ごはんを食べておねむの子たちはねこだまりを作っていたり、
 遊び足りない子たちが遊んでくれる人を今か今かと待ち構えていたり、
 マイペースな仔猫たちがじゃれ遊んでいたりする。


 おつかれさまでした。
 少し、遊んでいきませんか。
暗峠・マナコ

空き地の隅っこに黒いお饅頭があると思ったら、ごきげんよう、キレイな黒猫さん。
一人でぽつんと、お暇であれば一緒に遊んでくださいな。
自分の手をぐにゃりと子猫の形に変形させて、この無愛想な黒猫さんと交流を図りましょう。

しかし貴方、とてもキレイな瞳ですね。
ふむ、よかったら私の住処に来ませんか?
【レプリカクラフト】で作った箱を置いてお誘いをしてみます。
箱は箱でも宝箱です。ぎゅっと詰めたりしないのでご安心ください。身体の大きい貴方をそのまま抱えるのは危ないかと思ったもので。

地域猫ですし引き取りの打診をしてみたいですが、よろしいでしょうか、ユハナさん?
難しそうならば貢物として寝床に使える箱を置いていきます




 彼女はそこに座っていた。
 澄まし顔でひとり、誰にも混ざらずに。
 その視界にすいと現れたのは黒い仔猫。恐る恐るというていで少しずつ近寄ってきて、隣にそっと添おうとしたのを、彼女は許した。
 どちらかと言うと、その仔猫の元──片腕を仔猫の形に変化させた暗峠・マナコ(トコヤミヒトツ・f04241)を。

「ごきげんよう、キレイな黒猫さん」
 空き地の隅で佇む彼女に目を惹かれたマナコが声をかけると、澄まし顔はちらとも崩れず視線だけ。
 丸めていた体を起こせば、黒いお饅頭から流線形の置物へ。
 透き通る緑の瞳だけが艶やかな黒い毛並の中でふたつ、きらりと光った。
 隣に添った黒い仔猫、マナコの片腕は鳴けはしないけれど、前肢を伸ばしてちょいちょいと彼女を突く。
 長い尻尾ふりふり、立ち上がって誘う先は大きな箱。蓋の開いた段ボール型の箱を横に倒した形の中に、マナコが座っている。その隣の空きスペースにはもうひとつの、成猫がぴたりと収まるくらいの箱が置いてある。レプリカクラフトで作った彼女の『家』。
「よかったら、私の住処に来ませんか?」
 黒猫の耳が右左。
 考える様にぴこぴこ動いたあとゆっくりとした仕草で立ち上がると、誘われるまま箱に歩み寄り、ふんふんと匂いを検分してからマナコの隣に収まった。黒猫は長身だったけれど、丸まるとその箱にちょうどよかった。
「あら、ぴったりでしたね。……箱は箱でも宝箱です」
 ──ぎゅっと詰めたりしないのでご安心ください。なんて囁いて、黒猫の毛並にそっと手を伸ばす。仔猫の擬態はやめてみた。
 黒猫はマナコの手の匂いをやっぱり確り確かめてから、その顎を擽ることを許してくれた。
「もうなかよく、なったんですか?」
 嬉しげな声色。ユハナ・ハルヴァリ(冱霞・f00855)が少し離れたところから声を掛けると、マナコは少し考えてから頷きを返す。
 それからひとつ、付け加えた。
「地域猫ですし引き取りの打診をしてみたいですが、よろしいでしょうか、ユハナさん?」
 海色の瞳がぱちりと瞬く。
 それからふわりと細められて、きっと喜んでくれますよ、と言った。

 ──結局、彼女は箱から出て来なかった。ぴったりサイズのそれが余程お気に召してもらえたらしい。
 黒猫が収まった箱を抱えて帰路を辿る道、いつもと形の違う自分の影が路地に伸びる。ひとりと、一匹。
「さあ、貴方のお名前、何にしましょうか」
 その綺麗な緑に合う名を。
 早く呼びたくて少しそわそわとしてしまう。
 少女の唇が、宝物の名前を形作る──君の名、ひとつ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

赫・絲
わーいにゃんこがいっぱい!

もしユハナを見つけたらぶんぶん手を振って
ユハナー!一緒に遊ば……ない?あれ、にゃんこ苦手?
ユハナの分もじゃらしあるよ!
様子を見つつ、決めポーズ付きでにっこりお誘い

んんー、こんなににゃんこいると遊びたい放題だね!
猫じゃらしや毛糸を取り出して猫達の前でゆらゆら揺らし、黒猫を見つけたら写真をぱちり

飼いたいなーと思うんだけど私一人暮らしだからね。
出かけてる間寂しいだろうし飼っちゃダメーって言われてるんだ。
ある日急に家に帰れなくなるかもしれないしね。……なんて。

美人に撮れた黒猫の写真を見せて何でもないように笑う
かわいー。見てるだけで癒やされるけど、折角だしガンガン遊ぶよー!




「わーいにゃんこがいっぱい!」
 話には聞いていた赫・絲(赤い糸・f00433)が、ペットショップの袋を片手に提げて目をきらきらと輝かせる。
 猫、ねこ、猫。気ままにごろごろと転がる猫の日向。陽射しまでもがそのふわふわの毛並に吸い込まれていく。
 さて案内人の姿はと言えば──空き地の隅、塀の陰。日向に比べると寒いので猫が少ない、そんな場所にユハナは立っていた。
「ユハナー! 一緒に遊ば……ない? あれ、にゃんこ苦手?」
 近寄って行きながら絲が首を傾げると、ユハナの目が泳いだ。
「……ねこは。やわこいので。やわこいことこの上ない、ので」
「だいじょぶだよー、ほらユハナの分もじゃらしあるよ! 触らなくても一緒に遊べるよ?」
 にゃーん。猫の手真似た絲が招き猫ポーズでお誘いをする。
 随分と迷ったユハナが、鏡写しに同じようなポーズをした。
 つまり、了承であった。

「んんー、こんなににゃんこいると遊びたい放題だね!」
 ねこじゃらし各種に毛糸玉。地面にひっくり返した袋から取り出す七つどころではない七つ道具に、猫たちは色めき立つ。寧ろ殺気立つ勢いで寄ってきた。
 ユハナは思わず絲の後ろに隠れた。
 包囲されているので実際のところ無駄なのだが。
「だいじょぶだって! ほらこれ持ってーゆらゆらしてー」
「こ、こう……ですか、……うわぁあせなかに」
「あっ張りついてる」
「絲、とってください絲」
「んー良いお顔。もちょっとこっち向いてー」
「……絲」
「ごめん美形の黒猫だったから」
「とって」
「ごめん私の手があかないわー」
「いと」
「ほらみてかわいい! すごくよく撮れたと思わない!?」
「かわいいけど。いいお顔だけど。……」
 背中がじんわり猫の体温であったかい。ユハナは何とか手探りでねこじゃらしを駆使し、背中から猫を剥がした。
 絲は黒猫が好きらしい。仔猫にも成猫にも、黒猫は何匹かいたので、彼女のスマートフォンが度々火を吹いた。
「絲はねこ、好き?」
「うん、好きだよー」
 かわいいよね、と笑いながら赤い毛糸玉を転がすと、仔猫が何匹か後を追う。
「私一人暮らしだからね。出かけてる間寂しいだろうし、飼っちゃダメーって言われてるんだ。飼いたいんだけどね」
「絲は、ガクセイさん、だもんね。学校も、あるし」
「そうそう。それにある日、急に家に帰れなくなるかもしれないしね。……なんて」
「? 絲?」
 首を傾げるユハナの目の前に、ずいっとスマホの画面を割り込ませる。
 目線を上げた絲の顔は、いつもとまるで変わらない笑顔だった。
「見てー! 綺麗に撮れたよ、黒猫親子!」
 ぱちりと瞬く。
 それから、ユハナも何でもないように、目を細めた。
「かわいい」
「でしょーでしょー!」
 笑う彼女の綺麗な横顔と、戯れる黒の仔猫と。
 真新しいスマートフォンにそれを収めたユハナは、あとで見せてあげよう、なんて口元を緩める。
「はーかわいー。せっかくだからいっぱい遊ぶよー! ねっユハナ!」
「……僕も?」
「もちろん!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
猫。……猫ねえ。
体調も戻ったなら、少しくらい休んでいこうか。

そこら辺に適当に座って。ねこじゃらしなり、手近なオモチャを猫に向かってくるくると振ってみたり、素早く動かしてみたりして、猫で遊ぶ。
飛び付く姿に目を細めて。楽しいのか、これ。

寄ってくる奴がいるなら適当にわしゃわしゃと撫でてみよう。……結構やわらかいんだね、お前。

しかし、こうしてると。……眠くなるな。




 体調も戻ったことだし、と。
 芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は適当に石片など椅子にして空き地に座った。それだけで、人懐こい猫たちはなに? だれ? と寄ってくる。
 手にはねこじゃらし、水色とピンクの羽根が付いたもの。すい、と空を泳がせれば見つめる視線が追い、くるくると回せば首が動く。
 タイミングを見てすっと素早く走らせると、食いついた何匹かが同時に駆け出す。
 捕まらないようにすいすいと動かし猫で遊ぶ有の周りで、たのしそうだなーみたいな猫たちの視線が幾つか集まってくる。
 いいなーみたいな顔はねこじゃらしを追って右往左往。
「……楽しいのか、これ」
 遊ぶ猫は夢中だから、楽しいのだろうきっと。
 ぴょん、とじゃらしを跳ねさせると猫の手が三対ついてきて、
「んむ」
 ──有の顔にも一匹ついてきた。
 目測を誤って顔面に張り付いた猫のふかふか腹毛に顔が埋まる。うずうずうずもれる。
(「……ぬくい」)
 陽だまりの匂い。
 ぺろっと顔から剥がれた猫がそのままちゃっかり有の膝の上に居座り、周囲の猫がまだかなーあそんでーという顔でねこじゃらしを見ている。
 有の手がふわりと浮いて、膝上の猫の背中をわしゃわしゃと撫でる。慣れているのか彼は退かずに気にせぬ素振り。
「……結構やわらかいんだね、お前」
 ふかふかなサバトラ色の毛に撫でる指が埋もれる。少し毛足が長い子のようだ。
 ぽかぽか陽射しに平和な香り。
 喧騒など夢のよう。戦いなど嘘のよう。
 こうしていると、なんだか──
「……眠くなるな」
 小さく欠伸を噛み殺す。
 我慢しきれず動かぬ水色の羽根をちょいちょいと肉球で押す仔猫に、有の金眼がほんのすこしだけ細められた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユア・アラマート
ユハナ、ユーハーナ
そんな所にいないで一緒に猫と遊ばないのか?
大丈夫、怖くはないよ。柔らかかったりもふもふだったり引っ掻いたり噛んだりしてくるくらいだ
……(ユハナを猫溜まりに引きずっていく)

ほら、あんまり隙を見せてると猫タワーにされるぞ。好奇心が旺盛な子が多いみたいだ
ここから、あのビルは見えるかな
今回はちょっと、負担がキツかった……覚悟はしていたがね
これからも人の噂がある限り、ああいうのは出てくるんだろうな
止めたければ、それこそ噂の元を消すしかない

……(お店で買っておいた猫じゃらしを空に振る)
やめるか、こんな話。今は事が片付いた事を嬉しく思おう
というわけでユハナ、そこのデブ猫に抱っこチャレンジだ




「ユハナ、ユーハーナ」
 ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)が声を掛ける先には白いエルフ。
 隅っこの方で膝を抱えて座っている。
「そんな所にいないで。一緒に猫と遊ばないのか?」
 ちっちっち、と小動物にするように手招きするが寄ってはこない。

 ▼どうしますか?
 ┌┛🦶  三.  ∵  【放っておく】
 【様子をみる】
 【構う】

「大丈夫、怖くはないよ。大丈夫だ」
 近付いたユアは彼の右袖を掴み。
「柔らかかったりもふもふだったり引っ掻いたり噛んだりしてくるくらいだ」
 左袖を掴み。
「さあほら」
 両手を束ねて持って肩に担ぎ。
「大丈夫だいじょうぶ」
 目指す猫だまりまでずーるずる。

 ▷【引き摺る】◁

 引きずっていればぴったり2cmの身長差も気にならないのである。
 背中でユハナが動きたくない柴犬みたいな顔をしていても見えないので気にならないのである。


 そうして今、ユアの隣には猫タワーが出来ている。
 中にはひとりのエルフがいた。顔面から頭によじ登られたりしているが一応息はしている。
「隙を見せると寄ってくるよな。うん」
 彼女は用意しておいたねこじゃらしを揺らしながら遠くを見ていた。
 りんりりん。ねこじゃらしに付いている鈴が小さく音を立て、白い仔猫がついて回ってくる。
 頭と背中と肩とその他に猫を載せて固まっていたユハナがふと隣を見ると、ぼんやりと何処か遠くを眺めているユアがいた。
「……ユア? 体調、まだ悪いですか?」
「ああ、いや。もう大丈夫だ。……あのビルが見えるな、とね」
 少し離れたところに、もう噂の響かないあの六階建のビルの頭がある。
 思い出すとまだ少し、胸がずきりと疼くような気がした。覚悟はしていたが、少し負荷が重かったとは素直に思う。少しばかりキツかったな、と彼女は笑った。
「これからも人の噂がある限り、ああいうのは出てくるんだろうな」
「そうです、ね。……噂って。人の言葉ってやっぱり、怖いんですね」
「止めたければ、それこそ噂の元を消すしかない。人の口に戸は立てられなくとも」
 ──怖いものになるかどうかは、使い方次第だよ。そんな風にユアは呟く。
 しゃがんでいた足を伸ばして立ち上がって、穏やかな陽射しの中で伸びをする。
「……やめるか、こんな話。今は事が片付いた事を嬉しく思おう」
 ぴこ、と指代わりに空き地の一点を指すねこじゃらし。誇らしげな鈴がしゃんと鳴る。
「というわけで、ユハナ」
「? はい」
「そこのデブ猫に抱っこチャレンジだ」
 ハチワレの猫がその先にいるのを見てしまった。恰幅が大変によく、毛並もつやつや。ぶにゃーと潰れた声で鳴くその猫は、エルフの二本の腕でも溢れそうに思えた。
「……」
 ふるふると首を振るエルフ。
 じりじり躙り寄る妖狐。
 平和な第二ラウンドが今ここに開幕しようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーム・アンテルシオ
暢気だね、あなたたちは。
たしかに、そうだった。猫は、そういうものだった。
それなら…

●WIZ
私は、日向ぼっこをしようかな。
猫に構いに行かないのかって?ふふ、猫は、そういうものなんだよ。
構ってほしい子がいるなら、きっと来る。
来なければ、今はそういう気分じゃないだけ。きっとね。

この気分の悪さは…まだ、あの呪いが残ってる、って事かな。
もしくは、気の所為なのかもしれないけど。
日向ぼっこを選んだのは、今は、あんまり動きたい気分じゃない、っていうのもあって。

呪い。人を不幸へと誘うもの。
掴みかけた獲物を、自由にできるものを、離したくない願いの残滓。
あるいは…
人を呪わば穴二つ。そういうことかな。
ふふ、なんてね。




 空き地の隅、陽当たりの良いところにがらくたが積んである。
 使わなくなった古い机、戸板の壊れた棚、鏡の割れた鏡台、他こまごましたもの。
 そんな中、寝転がるのにちょうどいい平たいところを選んで、パーム・アンテルシオ(写し世・f06758)は日向ぼっこに興じていた。
 桃色の狐の毛並は柔らかな陽射しを浴びてふわふわと。その尻尾も常より暖かそうに膨らみ、ぱたんと上下する。
 頭の下で腕を組み、視線を巡らせると、空き地の様子がよく見える。彼方此方で勝手気儘に遊んだり眠ったりしている猫たちと、それに構う人間たちと、隣接する路地を行きながら遠く見守る通りすがりのご近所さんたち。
「暢気だね、あなたたちは。……たしかに、そうだった。猫は、そういうものだったっけ」
 誰にともなく囁けば、にゃあんと返る鳴き声ひとつ。見れば、がらくたの山によじ登ってくるキジトラ三毛猫が一匹、パームがころんと寝転がる広い棚の上に手を掛けたところ。
「呪い、か」
「にゃあ」
 登き切った三毛猫がパームの匂いをふんふんと嗅いで、それからお腹に前肢を乗せ、顎をぽふりと乗せて伏せた。
 ちょうど陽の当たっていたところが暖かかったのだろう。
「人を不幸へと誘うもの。掴みかけた獲物を、自由にできるものを、離したくない願いの残滓。……そんなものが、世界にはたくさんあるね」
「なぁ」
 わかっているのかいないのか相槌を律儀に返す三毛猫に、パームは微笑って手を伸ばす。
 丸い頭を撫でても、猫は逃げない。
 今にも眠りそうに瞼を開いては閉じて、微睡んでいるだけだ。
 気分の悪さがまだ残っていた。お腹の中で何か蠢いているような、胃を微かに押し上げてくるような。
 あの箱はもう無くなった。けれども噂の元は、まだ世界の何処かに転がっている。
 何処かで誰かが、あれと遭っている。
 何処かで誰かが、誰かを呪っている。
 凄惨なまでに、悲痛なまでに。
「或いは……人を呪わば穴二つ。そういうことかな」
「んにゃ」
「ふふ、なんてね」
 暢気な猫には関係のない話だ。
 変わらず頭を撫でながら、暫しの休息を。
 若しくは少しの、微睡みを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クレム・クラウベル
【夜猫】
そうだな。終わった以上もう何も害されるものはない
過去は過去へ、ただあの海へ流れ着くだけのこと

早速と寝転んだルトには呆れつつも目を細めて
……電池の切れた子供だな
足元に寄ってきた人懐こい猫を一匹抱えあげて暫く撫でてやる
途中で思い立って、抱えてた猫をルトの背中にのすりと
大人しく乗っかったままの猫には褒美と顎を撫でやり
他に寄ってきた猫たちをさらに空いたところへずいずい乗せて積み上げ
猫溜まり(ルト)に仕立てる
重いと聞こえれば、でもぬくいだろう?等と笑って返す
猫とは付き合いが長いからな。触れ合い方は慣れている
そこまで嫉妬深くないさ、あいつらは。利口な良い子だ
終の猫パンチには猫パンチをぺちんと返して


静海・終
【夜猫】
終演を迎えたそれを
ただ少し見てから目を閉じる
終わった、けれどどうしたって戻ってくるものはない
ここに残す祈りはない

猫がいっぱい…!
幼い子たちばっかりですね可愛らしい…
近付いてくるだろうかと手を伸ばして抱えると座り込む
愛らしい…もふもふ…うっとりしながら2人はどうしたかと目をやる
…おやあ、ねこだまりにでっかい猫が居られますねえ
埋もれるルトを見ると笑い何匹か身体の上に乗せてやる
ルトもクレムもなかなか猫に好かれますねえ
お家にいる猫に怒られません?こう、うわきものーって
抱える猫の手を掴むとクレムの頬に猫パンチして笑う
クレムは大丈夫そうですがルトは怒られてますねえ
ちゃんとミケに言い訳するんですよ?


イェルクロルト・レイン
【夜猫】
終わったならばさっさと踵を返して
過去のことは振り返らない
そんな、悲劇があったのだ
それで終わり

猫溜まりに訪れれば直ぐにでも埋もれて
疲れた
汚れるのも構わず地面に横たわり猫と眠る
いつもそうするように、猫を懐に抱き寄せて
生き物のぬくもりは心地いい

横になったまま積み上がる猫を横目に見やり
……重いんだけど
文句を言いながらも退けはせずに
呆れたようなため息ひとつ、目を閉じて
好きにしろ

クレムの家にいる2匹の猫は利口だけど
近くの野良猫のミケは引っ掻いてくる
思い出して少し眉根を潜めつつ
それでも寄ってくるものだから、構やしないのだけれど

寝入ってしまっても面倒見のいいやつがいるから
ぬくい毛玉に埋もれて、おやすみ




 男は、じっとそれを見た。
 男は、静かに瞼を伏せた。
 男は、気怠げに踵を返した。
 其処にはもう何もない。残滓は死も呪いも祈りも抱えたまま海へと流れた。
 其処にはもう何もない。破れたポスター、割れた机、カーテンの外された窓、その所々に残る足掻いた跡だけが残された。
 其処にはもう、何もない。何も戻っては来ない。
 そんな悲劇がひとつ、あったのだ。


「猫がいっぱい……!」
 所変われば喜びの声を上げる静海・終(剥れた鱗・f00289)。
 ころころとじゃれて転がる仔猫たちにうっかり目を奪われる。
 無邪気な様が何とも可愛らしい。
 寄ってきてくれるだろうかと指先伸ばせば、興味津々な硝子のような視線が三対、一斉に集まる。
 三匹纏めて抱え上げたって、仔猫にとってはそれも遊びのひとつ。終の膝の上に場所を移して、人の指も交えたじゃれ合いを続けるだけなのだ。
「……ふぁ」
 欠伸をひとつ。イェルクロルト・レイン(叛逆の骸・f00036)は汚れるのも構わず地面に体を横たえた。
 いつもと何も変わらない。
 少し違うのは、そこが猫だまりの真ん中だったことくらい。
 近くの猫を構わず懐に抱き寄せると、懐こいそのキジトラ猫は仕方ないわねぇみたいな顔をして寄り添った。
「……電池の切れた子供だな」
 呆れた声音のクレム・クラウベル(paidir・f03413)は、けれども表情はキジトラ猫に近く。
 ふと足元に頭を擦り寄せてきた灰色猫を慣れた仕草で抱き上げると、ぴこぴこ揺れる耳元を指先で撫でる。
「…………」
 猫を抱き寄せたあとはぴくりとも動かなくなった狼の背中を見下ろしていたクレムは、抱いていた灰色猫をそこに置いた。
 大人しく乗っかる猫の顎を褒美と擽ってやってから、遊んで欲しそうに周りをうろうろとしている猫を次々抱き上げては並べていく。
 黒、白、サビ、茶トラ、サバ白、靴下。
「……重いんだけど」
 八匹目のポインテッドを乗せる手前で、イェルクロルトが抗議した。
「でも、ぬくいだろう?」
 抗議の甲斐なく八匹目が乗った。
 文句の割に退けもしないので、すっかり背中が猫だまりと化す。寧ろ溢れて頭や尻尾にも猫がこぼれている。
「……おやあ、ねこだまりにでっかい猫が居られますねえ」
 終が愛らしいもふもふ達にうっとりとしている間にいつの間にやら隣は猫の山。
 つい笑ってしまってから、更に猫山に猫を追加。茶白、黒白。
「ルトもクレムもなかなか猫に好かれますねえ。お家にいる猫に怒られません? こう、うわきものーって」
「そこまで嫉妬深くないさ、あいつらは。利口な良い子だ」
「でも近所の野良猫のミケは、引っ掻いてくる」
「おやまあ。ちゃんと浮気の言い訳するんですよ? お詫びのおやつとか持って。ルト、そういう甲斐性なさそうですからねえ」
「うるさい」
 終が抱えた仔猫のピンクの肉球がクレムの頬をむにっと押す。
 返すクレムの猫ぱんちは、通りすがりのサバトラの両手。
 肉球の応酬に見向きもしないイェルクロルトが、猫に埋もれながらもう一度欠伸をした。
 眠っても、後はどうにでもなるものだ。世話焼きがいるから。

 そんなわけで、おやすみなさい。
 おつかれさまでした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月19日


挿絵イラスト