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暴力と屈辱の学園生活

#デビルキングワールド #ノベル

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イザナ・クジョウ




●特待生
「みんな! クラスメイトが増えたぞ!」
 声を張り上げた教師が、バシン、とイザナ・クジョウ(処刑槍の悪魔の勇者・f31369)の背中を叩く。
「っ……!」
 魔界学校の生徒たちに立て続けに暴力を浴びせかけられた身体はまだ痛んで、遠慮なく背中を叩かれるとヒリヒリ痛む。
「みんなで『仲良く』するんだぞ!」
 含みのある教師の声に、良い返事が返ってくる。
 イザナは暗澹とした思いで、その声を聞いていた。

 ――立て続けに魔界学校の生徒たちに敗れたイザナは、魔界学校に『特待生』として入学することになった。
 もっとも、これはイザナが望んだことではない。生徒たちの嘆願によって先生たちが合意した結果、入学『させられた』のだ。
 入学に際して、安全がどうのともっともらしい理由をつけてイザナが持つ処刑槍「クジョウの魔槍」は教師の預かりとなったから、腕ずくで逃れることだって出来ない。
 何があっても、イザナには逃げ場はなかった。

 席に着くなり、イザナは背後から思い切り殴りつけられて椅子から転げ落ちる。
「……!?」
 無様に床を転げるイザナの髪は引っ張り上げられ、頬を思い切り踏みつけられた。
「ぅぎ……!?」
 髪を引っ張られることで顔が持ち上げられ、頭に走る細かな痛みに顔が歪む。二タニタ笑いの生徒たちはイザナに顔を寄せ、耳元でささやきかける。
「『例の動画』、観たぜ?」
「! それって……」
 それだけで何を指しているのかを理解して、イザナの頬には赤みが差す。
 生徒たちの暴力の嵐に晒されて、土下座での謝罪をする羽目になった時の記憶がイザナの脳裏に蘇る。あれを見られたのだと思うと、あの時に味わった数々の暴力が思い起こされる。
 あれを観ただけあって、クラスメイトらの歓迎は手厚い。あの時のようにマウントを取られボコボコに殴打されていると、意識も遠のくようだった。
「おい、授業が始まるぞ!」
 ――意識を繋ぎとめたのは、教師のそんな声。
 カツカツと足音が近付いてくる――助かるのか、と望みを抱いたのは一瞬のことで、床に横たわるイザナは教師によって腹に蹴りを食らう。
「ぅべっ!!?」
 炸裂する激痛に、イザナの身体は宙に浮く。
 いくつもの机と椅子を巻き込みながら、イザナの身体は教室の後ろの壁まで吹き飛ばされる。ロッカーに不格好に激突するとイザナの身体はようやく止まり、一拍置いてから床に落下すると不格好さに嘲笑が湧いた。
「今日はプリントを持ってきた」
 プリントを生徒一人ひとりの机に配りながら教師は言う。イザナの席ということになっている机にもプリントは置かれ、イザナは自分の席まで這うように進みかける。
 よたよたと机の間を這う手を思い切り踏みつけられて、思うように進めない……イザナが席に着くより教師がプリントを配り終える方が早く、教師は床に這いつくばるイザナの腹を戯れに殴る。
「ご……ぉっ……」
「プリントが終わったら自習だ。終わった奴からコイツを好きにしろー」
「ぁ……」
 拒否するように首を振るイザナだが、誰もがイザナを嬲る時を楽しみにしてプリントに向き合っているから、拒絶に気付く者はいない。
 イザナの拒絶に気付いたとしても、彼らが止めることはなかっただろう。てきぱきとプリントを終えた生徒は迷うことなくイザナの元に来て、挨拶代わりに膝蹴りを食らわす。
「がッ……!!」
 鈍い悲鳴を上げてくずおれるイザナの腫れあがった顔に、更に拳が叩き込まれる。
 イザナの端正な顔は膨れ上がってボロボロだ。度重なる暴力に歪んだ唇からは血が糸を引いて、イザナは目も開けていられない。
 チャイムが鳴った後も、暴力は続いた。


 そして、それは他の授業でも同じこと。
「いいか? フォームをしっかり覚えるんだ!」
 体育の授業で、イザナは生徒たちの前に出され、正しい土下座の姿勢を見せるよう教師の指示を受けた。
 拒むイザナの腹は何度も殴りつけられ、青黒い痣が大きく広がっている。えづきながらもイザナが土下座の姿勢を取ると、教師はイザナの背中に片足を乗せる。
「ぅ……っ!」
 体格の大きい教師の体重が徐々に加わり、背骨や肋骨が軋む。肺が圧迫されて呼吸が苦しく、ゼイゼイと喘いでも脳まで酸素は回らない。
「真の土下座は、こうやって!」
 背中に圧し掛かる重みが増す。
「…………ッ!!」
 グリグリと足で踏みつけにされているのだと分かると屈辱感に身体が熱い。
「こうやっても!」
 今度は蹴り上げられ、イザナの体内で内臓がシェイクされる感覚がある。
「何をやっても、土下座のフォームは崩れない!」
 熱弁する教師は、しかし生徒たちに土下座の姿勢を取らせようとはしない。
「分かったら、お前たちも殴ったり蹴ったりしてみろ。何をしてもコイツは土下座のままだぞ!」
 教師の号令を受けて、生徒たちはワッとイザナに群がる。
「や、やめ……」
 かすかな懇願は当然のように無視され、生徒たちはイザナの無防備な背中を踏みつけにかかる。
「うっ……ぐぅうッ!!」
 骨が軋む感覚に苦悶の声を上げるイザナだが、土下座の姿勢を崩せばもっと酷い目に遭うことは分かっていた。
 歯噛みしながらも受け入れ、そして耐え続けるしか道はない。


 どんな授業でも生徒たちの玩具のように扱われ、ボロ雑巾のようになって迎えた放課後も、イザナは彼らの暴力に晒され続けた。
 部活動と称して乱打され続けた身体はもはや痛いのかどうかもわからない。絶望的な苦痛の中で永遠に等しい時間を過ごしたイザナは、それでも部活動が終わる様子に気づいて胸を撫で下ろす。
(これで、今日は終わりね)
 ――だが、そう安心できたのは一瞬のこと。
「もうオレらは帰るし、|コレ《・・》は持っていくか」
 イザナを殴り続けていた名も知らぬ生徒はそう言うとイザナの傷だらけの腕に爪を刺して無理やり立たせ、学校そばの大時計へと向かう。
 大時計には夜風が吹いていた。身体さえ無事ならば冷たいなりに心地良い風だっただろうが、イザナの傷だらけの身体には風が染みて痛いばかり。立たされた身体に伝わる激痛に、イザナは思わず顔をしかめる。
「く……っ」
「ここに、こうして、っと」
 そんなイザナの痛みや苦しみなど知ったことではないという風にテキパキと、イザナの四肢は時計台に縛り付けられる。
「明日の朝、たぶん誰か来るから」
「……!?」
 その言葉に、血の気がとうに失せたイザナの顔が更に青ざめる。
 一晩もこんなところで寒風に吹きさらしになることはどれほど苦痛か――想像するだに恐ろしい事実に、イザナは身をよじって声を上げる。
「そんな、下ろしなさい!」
 身をよじるたび、縛られた四肢に鮮烈な痛みが走る。血が滴っていることは見ずとも分かる。それでも夜通し晒されることには耐えられないとイザナは叫び、抵抗の意志を示す。
 だが。
「うるせー」
 一言と共に顔面を張り飛ばされ、願いは聞き届けられない。
「ぅぐ……ッ」
 切れた唇から流れる血が、イザナの顎を濡らした。
 挨拶代わりに腹を一発殴って生徒はその場を立ち去り、辺りは静寂で満たされる。
「う……うううっ……」
 放置され、屈辱に声を漏らすイザナを顧みるものは、誰一人いなかった。


 翌日も、その翌日も、イザナの暴力に満たされた学園生活は続く。
 彼らが飽きるまで暴力と屈辱から逃れることは出来ないのだと思い知って、イザナの意識は何度めかのブラックアウトを迎えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年01月29日


挿絵イラスト