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狂い桜に|死化粧《おしろい》を

#サムライエンパイア #戦後 #【Q】 #蝦夷地

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●|来世《こむよ》の眺め
 ひとひらの花が雪に落ちる。
 遠い昨春の忘れ形見か。否、雪面の白を埋め尽くす薄紅を見よ。
 寒風吹き付ける蝦夷地にあって、命は益々毒づいた若々しさを保って咲き乱れる。
 気でも違えたかと眼に問えど、眼前の眺めが寄越す答えは一つ。
 ――狂うておるのは、森の方だ。

 びゅう、と風が過ぎり、内陸の乾いた雪を吹き攫う。
 吹雪の中に白刃が煌めき、現れた乙女たちの貌は死人よりも白き肌。
「……来よ」
 口数も疎らな乙女がひとたび雪を鎧えば、水の護符が大瀑布を生み狂い桜へと降り注ぐ。
 乙女は、季節を忘れ咲き乱れる森を枯らそうとするかに見えた。
 森は素知らぬ顔で後から芽吹き、雪の下に草木の青さえ覗かせる。
 乙女らか、狂い咲く森か。どちらが大地に在るべきか。
 真実を告げる者は、この場にはいまい。

●魔性の森
 グリモアベースに立つ仁藤・衣笠は、相も変わらず俗世に興味がないと見える。冷めた声音でぼそりと告げる真意は、仏頂面も相まって読みづらい。
「侍の治める国、北の果ての蝦夷地。そこに狂い咲く森がある」
 荒ぶる海が隔て、測量も侭ならぬ蝦夷地は松前藩の渡った土地を除き、徳川の威光も届かぬ未開の地。徐々に開墾されてはいるが、何が潜むかもわからず、地球型世界の者が知る『北海道』と同じとも限らない。
「睦月に狂い桜、と聞けば解るじゃろう。幻朧桜でもない桜が雪中に咲く筈もない……魔性の森、という奴じゃ」
 不可思議な自然現象は好奇心をそそるが、衣笠の興味は別の事象に注がれたらしい。
「その桜、いや森を枯らさんとする乙女がおる。こちらも魔性の手の者じゃがの」
 巫女の姿をした雪女たちは妖魔か化生の類だ。こちらに友好的なはずもなく、後続の測量班を死なせぬためには討伐は避けられまい。
 ただ、気になるのは理由――人でなく森を執拗に襲うとあらば、何か事情があるのやもしれぬ。

 現地に踏み入れば、最初に出迎えるのは惑わしの森だ。
「森は敵も獣も、|同胞《はらから》の姿さえも隠してお主らを惑わすじゃろう。徒党を組めば安心との思いは捨てた方がええ。よそ見をする間に引き剥がされておるよ」
 はぐれないようにするのではない。はぐれた味方とどう出逢うかの算段をつけ、同時に敵の姿を探さねばならない。
 森の深部へと至ったなら、小さな社を前に巫女装束の雪女が現れる。猟兵たちを見れば森の木々を枯らすよりも優先して襲ってくるため、矛先を逸らすのは容易ではなかろう。
「こやつらも手練れじゃ。訪れる者を躊躇なく雪に閉じ込め、葬り去るじゃろう。……気にかかることが一つあるなれば」
 本州の様式とも異なる、古びた社。それを護るように戦う乙女には何がしかの意思と知性が見られる。人間のように意思疎通ができるとは限らないが、少ない言葉と動きから、背景事情は汲み取れるかもしれない。
「……これは儂の見立てじゃが。恐らくは森も自然界に非ざるもの……務めを果たした後でなら、その願いを叶えてやっても差し支えあるまい。どうするかは任せるが、の」
 この猟兵は、事の顛末などはなから眼中にないと映る。であれば、討伐の約束さえ違えなければ気の済むようにしてよいという事だ。

 治世行き届くエンパイアも、未だ戦乱の世。人の暮らしの整うまでには無数の血が流れ、その度に人心は迫害を受けぬ新天地を求めるだろう。
 然様、土地だ。あまねく人々が争わず平和に暮らすには、土地を切り拓かねばならぬ。
「森を拓くも閉ざすもお主ら次第じゃ。上手くやれば畑の一つはできるじゃろうて……さて。この依頼、誰が請け負う?」
 そうして衣笠は問い、あなたたちの答えの返るのを待った。


晴海悠
 最果ての大地は、この世界に於いて未だ人跡未踏。
 狂い咲く桜のふもと、埋まるものは何か。
 サムライエンパイア、蝦夷地の探索。準備のできた方からお越しください。

◇シナリオ構成
 二章構成からなるシナリオです。各章のはじめに断章を投下します。プレイングはいつ送って頂いても大丈夫ですが、手元の預かり分が書けた段階で受付を締め切る場合もございますのでご了承ください。

◇一章 冒険
 雪中に枝垂桜の狂い咲く、森。春と嘯く魔性の森は、踏み込む人々を惑わせ森の奥へと誘います。森を抜け、雪女の待つ社へと向かって下さい。
 なお複数名で訪れた場合、森の魔力が皆様を分断し彷徨わせます。五感の効かぬ森の中でどう落ち合うかを、お書き添え下さい。

◇二章 集団戦『巫女雪女・寒珠』
 土地の記憶を吸い上げた雪の化身である彼女たちは、誰も居なくなった社を守り続けています。本州の神社とは様式の異なる、未知なる神を祀る社。もしかすれば彼女たちだけが知る、未開の地にまつわるささやかな真実があるのかもしれません。

◇追加要素
 森の探索や雪女との戦闘中において、特定の物や風景を調べる追加行動をとれます。観察した事象が当たりだった場合、乙女と森に関する背景事情の一端が明かされるかもしれません。
 これはあくまでフレーバーで、隠された真実はこのシナリオ限定の独自のものです(第六猟兵の世界設定などには関与しません)。探索や戦闘の難易度は上がりますが、よければ遊びの一環としてどうぞ。

 それでは、未開の地にて皆様をお待ちしています。
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第1章 冒険 『華笑みの森に彷徨う影』

POW   :    森の入り口から隅々まで探す

SPD   :    隠れていそうな場所を探す

WIZ   :    生き物とは異なる気配を探す

イラスト:シロタマゴ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 春待たずして咲く草花の、雪にも勝る青々とした色。
 雪の下から顔を覗かす、あり余る豊穣がかえって自然に非ざるものの介入を思わせる。
 春と見紛う新緑の森。枝垂桜の梢より桜はひらり、ひらりと舞い散りて、
 雪化粧の上にまたひとつ不釣り合いな紅を広げた。

 森には生き物の姿はない。皆、攫われていったのだ。
 感覚を狂わす森の奥へ奥へと、大事に仕舞われてしまった。
 ああ、気を付けねば。
 たとえ手を繋げどもこの森は、いとも容易く友や恋人を引き離すだろう。
 仲間と散り散りになりたくなくば、落ちあう標を決め給え。
 堅く契りを交わすか、互いの心を拠り所とするか。すべては己の心次第だ。

 どうにかして森を抜け、娘たちの待つ社へ。
 あなたたちの眼前には、踏み入る者を惑わす魔性の森――。
 躊躇おうが此処へ来たが最後、もう逃がれようなどないのだから。
キアラ・ドルチェ
魔性の森とて森は森
自然と共に生きるヤドリギ使いにとっては、攻略できぬものではない

では全てが頭を垂れる宿木使いの秘儀「隠された森の小路」で、一直線に社まで駆け抜ける!
人や獣ならぬ妖しい気配があれば【第六感】で回避

しかし…雪中の枝垂桜、ね
妖しい美しさに、私も魅かれてしまいそうだけれど…その誘惑は直ぐに振り払います

と言うか巫女達が「土地の記憶を吸い上げた雪の化身」であるなら、ここで行方不明になったり亡くなった方の無念を持ってたり?
だから森を滅ぼそうとしている?
お墓とか、落とし物とか、もし見かけたらUC解除して、少しお祈りして行こうかな
何か人々の残滓あればそれも回収
巫女達に何か想起させられるかもだし



 雪を割って芽吹く、豊穣なる異形。生態系も異なる異郷の地なれど、森に親しむ者から見れば、明らかに土地が異常を来したことは疑いようもない。
 されど、森。草木であるのなら、友たるヤドリギ使いには頭を垂れるのが礼儀というもの。
 母より貰った白魔女の装束、ブーツのかかとが森の大地を踏みしめる。雪を割ったそばから若草が繁茂し、畏怖を覚える再生力で足跡を緑に彩った。
「……ふう。よし」
 神聖なる森の祭祀・ネミの裔、生命使いの名を受け継ぐ者。魔女の名を、キアラ・ドルチェ(ネミの白魔女・f11090)という。
 梢の擦れ音に耳を澄ませば、枝垂桜を撫ぜる乾いた風。目指す方角を直感で選び、キアラは母譲りの碧き眼を開いた。
「あなたも森であるのならば。友たるヤドリギ使いのため……通してくださーい!」
 隠された森の小路は、草花が頭を垂れ道を開けるヤドリギ使いの秘儀。オジギソウの如く開いた獣道は、大人の女性一人が駆け抜けるに十分だ。
 見返りに生命力を分け与える手前、もたもたしていては己が朽ち果ててしまう。
(「雪中の枝垂れ桜……ね。獣だけじゃなく、私も魅かれてしまいそうだけれど」)
 こんな時でなければ花見にでも興じたいが、今その猶予はない。かぐわしく鼻腔をくすぐる妖艶な香りに顔を背け、ネミの白魔女は小路を急ぐ。
 駆け行く足音が、何かに目を留めはたと止んだ。草木の作っていた道がひとりでに戻り、キアラの眼差しは地表の一点に注がれる。
「これは……」
 落とし物というにはあまりに古びた、削り出された木の棒。装飾のついたそれと似たものにキアラは思い当たる節があった。
 恐らくは、祭具。|木幣《イナウ》という名を知らずとも、ドルイドの古き習わしに照らし合わせれば、何かを祀る……あるいは、祓うためのものと推測がつく。
 丁重に扱われるべき祭具が打ち捨ててある事実。人の痕跡がこの地にない理由。何よりの問題は、森が|何を糧として《・・・・・・》ここまで育ったか。
「もしかして……巫女達が吸い上げたのは、ここで亡くなった方の無念? だから森を滅ぼそうとしている……?」
 憶測の過ぎる間に、たちどころに方角を見失った。この森はドルイドにも心を閉ざしている……その理由を考えるほど、寒気が背筋を伝う。
 垣間見えた痛ましい事実の一端に、キアラは胸の前で十字を切り、静かに祈りを捧げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ピオニー・アルムガルト
緑は好きだけど、生き物が見えないなんて不自然で不気味ね…。
とりあえずは適当に歩いて、惑わすという問題の起点になるものを探しましょう!

調べる物って言っても木や草花しかないから、木が動くととか草花に誘引作用があるかとか調べるのと、深緑の隠者さんを私を後方から追跡させて、何かしらの変化があるか観察して貰うわ。
精霊さんが居るなら少しでもお話出来れば良いんだけどね。これは場所的に難しいかも?

まあ迷ったら最後、野生の勘頼りに直進あるのみよ!



 目映く彩られた冬の森は、闇に包まれた故郷とも違う異質さを秘めていた。
 魔獣や異端の神々の闊歩するダークセイヴァーに比べれば、確かに危険はない。そう、危なくはないのだ。何故なら舞い散る桜花のほかに、動くものがない。
 真冬でも日光が射せば、森にはまばらにでも鳥のさえずりが響くもの。それが風と雪の降る音だけというのは、胸の内に焦燥と不安を呼び起こす。
 死の静寂にも似た、蕭然たる眺め。動く影を探し続けたピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)はとうとう何も見つからぬと悟り、そばだてていた狼の耳を甲斐なく垂れた。
「緑は好きだけど、生き物が見えないなんて不自然で不気味ね……」
 森歩きは日課だが、こんなに心の踊らない日は久々だ。足元の緑と枝垂桜だけは色づいているが、これも自然界のものか、いよいよ怪しい。
「惑わしの森というなら、何か起点になるものがあるのかしら。とりあえずは探してみましょ!」
 ただ悩むのは性に合わぬと、編み上げブーツの足取りは先ほどまでより軽く。この森が忌まわしきものであるなら、さっぱり祓ってやるのも己が務めだ。

 見当もなしに歩いては見つからぬところ、植生に詳しいことが幸いした。園芸と野外散策で培った知識に照らし合わせ、森の生態をつぶさに見る。
「うーん、勝手に木が動くわけじゃなさそうね。じゃあ、草花の方に誘う魔力があるのかしら?」
 足元の草を手に取ってみるも、草花自体の異常よりはやはり青々しさが気にかかる。小さく厚い葉は寒冷地特有のもので不自然ではないが、冬にこれほど養分が得られるとは思えない。
「……手分けして調べた方がよさそうね。精霊さんは返事がないし、かくなる上は……隠者さん、お願い!」
 呼び出した深緑の隠者に自らの後をつけさせ、しばらくそぞろ歩きをしてみると、まっすぐ歩いたつもりが森の独特な木立ちが方向感覚を狂わせていると気付く。
「ビンゴ! 木を見て歩くからいけないのね!」
 これも恐らくは、森の防衛本能。害意を持つ者を遠ざける働き……事態の中核はこの森の深部。
「まあ、迷ったら最後。こういう時は勘頼みってことで!」
 隠者に警戒を任せながら、目を閉じて直感のみで突き進む。見えるものに惑わされるなら、感覚でなく野生の勘に頼るが吉だ。
 踏みしめる地面の触感が変わり、これまでと異なる地に運ばれていく。毛並みの豊かな群青の狼しっぽが、リズミカルに揺れながら森の奥へと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルシエラ・アクアリンド
雪と桜。確かに見事だけどだからこそ感じる違和感
…【結界術】で対抗していこうか

社にへ駆け抜けるを第一にしつつも
背景事情に繋がる物を少しでも良いから探そうか

五感が無駄ならば【第六感】と【幸運】
鷹の目が大丈夫ならばそれに頼りながら進もう
空からも目線や情報を得られれば重畳

鷹を呼び出しお願いね、と一言
明らかにより不自然な部分箇所があれば調査
巫女や社に関連する何かに繋がるかもしれない人工物や
嘗て居た人の痕跡在れば回収出来るものは回収

恐らく森が糧としたのは
生命の類の様な気がするけれど裏付けが欲しい
そして儚くなったそれらにせめて鎮魂の祈りを捧げたい

何か情報を得られたのならば鷹とメモ等で挑む仲間全員へ共有したい



 音もなく、一羽の鷹が舞い上がる。螺旋を描いて気流に乗り、空の|階《きざはし》を駆けあがる。
 この地の鷹ではない。鷹――正確には鷹の|精霊《スピリット》は、今しがた一人の女性の腕より飛び立ったものだ。
「……雪と桜。確かに見事だけど」
 吐く息白む、乾いた北の大地。のぼる吐息と鷹を見送った翠の双眸は、どこまでも高く晴れ渡る空を眺めていた。
 星霊建築の天蓋に映し出されるものとは違う、本物の空を見慣れたのはいつからだろう。かつては斧抱いた遠くの故郷を離れ、外世界すらも飛び越え異なる世界の土を踏んだ。ルシエラ・アクアリンド(蒼穹・f38959)にはそれが心許なくも感じ、同時に生きる糧を得た己に誇らしさも覚えた。
 腕にも自信ができたからだろうか。銀の雨降る世界を訪ね、戦線を推し進めるべく戦いもした。戦乱が一時遠のき、やっと目にできた空は確かに、晴れ晴れとしていたけれど。
「……静かすぎるのも考えもの、ね」
 身に魔想紋章の加護を張り巡らし、惑わしの森の魔力を遠ざける。五感に頼らずとも歩く術はあるが、それでも影響を及ぼすものは極力省きたかった。
 空からの目が、吹き渡る風の情景と共に桜舞い散る雪景色を運んでくる。
 ――お願いね。
 たったそれだけの合図で意を汲み飛び立ってくれたのも、長年の信頼の成せる業。|罪深き刃《ユーベルコード》にまで昇華した狩猟者の技巧は今や、鷹と視野を共にするまでに至った。
(「恐らく森が糧としたのは、生命……か、それに類するもの」)
 確証はない。胸騒ぎがするだけだ。証拠が見つかってほしい気持ちと見つからないでいてほしい気持ちがない交ぜになり、心の眼は鷹の広い視界に釘付けだ。
 ――ピィーイ。
 ふいに鷹の体が傾ぎ、何かに魅入られたように吸い寄せられるのを感じた。何か見つけた。急ぎ自分もそちらへ足へ向かわせ、青白い燐光纏う鷹のスピリットと合流する。
 腕に止まる、痛みなき爪の感触。地に落ちて朽ちゆく、簡素な木彫りの櫛の持ち主はおらず。
(「……盛り土」)
 童の手にするのに程よい小さな櫛。持ち主は大地に還れたろうか。自然に融け合い控えめに主張する小山を誰かが誤って踏まぬよう、小石を周りにぐるりと並べてやった。
 祈りの歌が、空に溶ける。鷹はしばし肩に留まった後、小さな手紙を嘴に咥えて再び空へと舞い上がる。仲間への伝令をスピリットに託しながら――せめて小さな命が向かった先で、安寧を得られたことをルシエラは願った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬霧・椿
桜きれい、です
けど…ここは何かこわいかんじがします
お花さんたちとはなせれば良いんですが、こたえてくれるでしょうか
おねがいします、みちを教えてください
これからここに来る人たちのためにも、すすまなきゃならないんです

えぞち、がつばきのしっている北海道といっしょならまよったりしないのですけど
きっとちがうきがします
こんなに花がさくはずがないです
社にむかうのですよね、
まわりの景色よりも、足もとをみて道のつづくほうへとすすんでみます
いきものが歩いたなら、どんなしぜんの中でもあとはのこるので
道をふさぐような木があったらしらべてみます
何かおしえたいのかもしれません
山歩きはとくいです、第六感をしんじて進みます



 空は青く澄み渡り、けれど地平に目を下ろせば、遠くの霧が大地を包むように白く染めていた。
 遠景の白に混ざる、雪白の髪。防寒着もなしによく寒くないものだ、と学園で散々言われたが、これぐらいの寒さは雪ん子たる身には適温だ。
 寒いのはむしろ、心のほうで。生まれ育った湖畔近くの眺めは、冬になれば氷に覆われ人の気配も遠のいたけれど。それでも狐や熊、湖には大きな魚……動くものの息遣いに満ちていたのだ。
 生まれた時の空と同じ、藍と焼け空の入り混じる瞳が、忙しなくあたりの景色を映す。
「桜きれい、です。けど……ここは何かこわいかんじがします」
 冬霧・椿(白姫・f35440)は慣れた筈の大地の、未だかつて見ない寒々しい眺めに不安を感じずにはいられない。
 せめて花と語らうて応えてくれればと、枝垂桜のひとつに小さな歩幅で歩み寄る。
「おねがいします、みちを教えてください。これからここに来る人たちのためにも、すすまなきゃならないんです」
 故郷ならば、草花は言葉持たずとも風にそよぎ、行くべき道を教えてくれた。だのにこの地の桜は見目麗しくも冷たいままで、一向に意味のある答えは返してはくれぬ。
「……だめ、ですか」
 椿の知る土地とはまったく異なる、異邦の蝦夷地。少なくともこの場所においては土地勘は味方してくれそうもない。
「まだ、ふゆなのに……こんなに花がさくはずがないです。こんなに、みどりがいっぱいなんて」
 あたりの景色の正体を、幼い感性は否が応でも感じとる。これはいうなれば生けるものの豊穣でなく……むしろ、彼岸の眺めだ。
 まわりの景色に惑わされてはならぬ。花たちに導かせるのでなく、己の足で歩まねば。草花に隠された窪みで足を挫かぬよう慎重に体重を移し、山里歩きに慣れた足で、森の獣なら辿るであろう方へと向かっていく。
 途中、影に道を塞がれた気がして顔を上げた。立ちはだかるような枯れ木は花を咲かせず、明らかに周囲の華々しさからは浮いて見えた。
「……何か、つたえたいことがあるのです?」
 枯れ木はもう、風にそよぐこともない。繁る木の葉も実りもないが、太い幹枝はどこか特定の方角を指しているように思えた。
「……わかりました。いってみます」
 この木は嘘をついていない。幼心にそう感じ、ただひとつの導きに身を委ねる。小さな雪女の足取りはほどなくして消え、老木はその背が見えなくなるまでを見送った。

成功 🔵​🔵​🔴​

木霊・ウタ
心情
雪の枝垂れ桜ってのも神秘的で綺麗だけど
ぼうっと眺めてもいらんないよな
森を抜けるぜ

行動
最初は大人しく森の奥に誘われてやるぜ
魔性の森となったのは
何が理由なのか
何が目的なのか
その答えが森の奥で見つかるかも

で森の奥で
その答えが判っても判らなくても
指パッチンと共に俺の辿ってきた道なりに
一気に炎が走る
実は血を一滴一滴垂らしながらここまで来てた

魔性とは言え植物だ
怯えて魔力が弱まるだろう
まやかしが外れるか薄くなったその機に
森を駆け抜ける

ちょいと乱暴なやり方だったかも
悪ぃな

森を燃やし尽くすかどうか
それは雪女を倒してから決めるんで
森を抜けたら延焼を止める



 焔は自然になくてはならぬものだ。大木が雷に撃たれた時ぐらいにしか出番はないが、枯れ木を灰にし、大地の懐へ還す役目は雨にも風にも任せられぬ。
 炎はこの地に味方したろうか。還すべくものを正しく還元し、輪廻の巡りを与えたろうか。胸に抱く問いに眼前の景色がよこす答えは、否であった。
「雪の枝垂れ桜ってのも神秘的で綺麗だけど……ぼうっと眺めてもいらんないよな」
 圧倒的な美を前に、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は目を奪われそうなのを堪え、歩みを止めないよう努めた。進む足取りは成り行きに任せ、指先を地面に向けながら歩いていれば、方角を見失うのは時間の問題だった。
 魔性の森。意思持ち、獣や生命を裡へと捕らう森。何が目的かは判らぬが、その意思や成り立ちが邪悪に満ちているならば焔の出番だと思った。
(「今少しの辛抱だぜ……答えは、きっと森の奥で見つかるはずだ」)
 己に言い聞かせ、誘われるままに森の奥へと踏み入れば、目指す社も来た方もどこにあるのか見当もつかなくなる。そうして森に『してやられた』今なお、ウタの気概は微塵も萎えていない。
 大胆不敵なその理由――指の傷より滴る紅き血潮が、己の足跡のそばに点々と続いていることを確かめる。捕食者気取りのこの森は、垂らした滴が地獄の一滴だとは夢にも思うまい。
「……悪く思うなよ」
 ぱちり、と指を弾けば地獄の業火が森を焼いた。眩き紅蓮の炎血はたちどころに火柱となり、慄いてか森の意思が遠ざかる。
 魔性といえども植物だ、樹木の体が松明よろしく燃え盛るのは怖いらしい。
「っと、いまだ……ちょいと乱暴なやり方で悪ぃな」
 まやかしの呪力の薄まったうちに、心に従いまっすぐにひた走る。これまでよりも邪魔は入らず、立ち並んでいた枝垂桜の密度はしだいに増していく。
(「森を燃やし尽くすかどうか……決めるのは、雪女を倒してからだ」)
 まだ、己は森の正体を見定めていない。裁くべき相手かも考えず焼くのは、悪徳に塗れた故郷の主君どものしそうなことだ。
 非礼の詫びとばかりに再度指を鳴らせば焔は消え去り、あたりにたちこめる|拐《かどわ》かしの呪力。それが復活しても、今のウタにはもう、自分がこの森に惑わされるとは思わなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鹿村・トーゴ
オレの外套は蝦夷渡りの生地だとか
こーゆー柄の着物なのかね?
蝦夷地の雪か…防寒に少し重ね着しとこ
雪の中に桜もたけなわ
青葉とくれば最早夏の様相だねェ
でも…(梟や鹿の鳴き声を【演技】遠くまで通る発声で)
んーホントに答える者も無し…?
少しでも反応あればそれも心に留め散策
窓わしの、迷いの森かー
雪や桜の花の上をUCと【軽業】駆使
まず高い木の上から森を見渡し俯瞰
そのまま樹上を少し行って【野生の勘】も活用し【情報収集】でザッとお社を探そ

森の中に戻り
蝦夷民のよすが…仕掛け弓や猟場印とかあるかな
影の向き、葉や樹皮の厚み差から大まかの方角を割り出しクナイで樹に浅く刻み印を付け堂々巡りを防ぎ【地形の利用】地道に進む



 黒曜の角が与え給うたもの。口寄せの秘儀と神通力、引き換えに放浪のさだめ。鄙びた村は住まうには小さく、少年は飴売りとして世間を渡り歩く身となった。
 出自柄、足底から冷える山里の寒さには慣れていた。ただそれでも狂い桜に覆われた、異様な眺めには目を見開いて。
「蝦夷地の雪か……さしものオレも身に堪えるねェ」
 鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)の纏う鹿皮と|編布《あんぎん》の外套は、いずれも蝦夷渡りの生地だと聞く。えらく丈夫な衣は暖かく、寒い夜はこれと焚き火で暖を取ったものだ。
「多少仕立て直して貰ったモンだが……元々こーゆー柄の着物なのかね?」
 柄の意味は魔除けの類か、はっきりと聞いた事はない。ただ、愛用品のルーツが思わぬところにあるものだと、纏い直すついでにしげしげと見る。
 びゅうと寒風が吹きすさび、桜花が濃くむせかえるような甘い香りを鼻に運ぶ。
「雪の中に桜もたけなわ。青葉とくれば、最早夏の様相だねェ……でも」
 息を吸い、オウ、オウ……と梟の鳴きまねをすれば、猛禽が出たかと腕に止まる黄芭旦が大慌てで翼を広げた。
「アァッ!?」
「オレだよ、オレの鳴きまね。ビビんなって。んー……ホントに答える者も無し……?」
 風の吹き、桜の舞い散る音を除いては、山里に獣の発する音はない。こちらの声も雪に吸われ、耳の痛くなる静けさに鸚鵡の冠羽も下りてゆく。
 しばし散策しても、一人と一羽の目に飛び込むのは変わらぬ眺めばかり。雪と桜は綺麗ではあっても、延々と見せられては飽きもこよう。
「惑わしの、迷いの森ねェ……よっと」
 少しばかり違う景色が見たくて、飛び越えるトーゴの足の向かう先。木の幹を平地よろしく足裏で捉え、高い木に造作もなくよじ登る。
 樹上より見渡せば、やや開けた土地が見つかった。急ぎ伝い降りてそちらへ向かえば、地に散らばるのは狩猟民の仕掛けた罠の痕跡。
「仕掛け弓か……もう壊されて相当経ってやがるな」
 熊など大型の獣を狩る木製の弓は、手入れしなければあっという間に朽ちるもの。これを使った民がいたとて、いなくなったのは半年やそこらの間の事ではあるまい。
 土地の民との邂逅が難しいと悟り、トーゴはあたりの植物の葉の向きから方角を割り出し、懐のクナイを手に握る。
「堂々巡りは御免だ……恨んでくれるなよ」
 近くの木の樹皮に方角を刻み、森の呪力に惑わされぬよう目印とする。歩き始めこそ同じ印を見たものの、幾度も巡れば要領も得て、次第に枝垂桜の本数が増してきた。
 あと少し、あと少しだと本能が告げる。ほどなくして視界はむせかえる芳香と薄紅、大地の白に満たされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『『巫女雪女』寒珠』

POW   :    神威雪護装(ゴッド雪だるまアーマー)
無敵の【自身が奉る神に寄せた雪だるまの鎧】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    出でよ守護兎
自身の身長の2倍の【乗り換え可能な雪狛兎】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ   :    猟氷封縛陣
【対象を飲み込む水を生む護符】が命中した対象に対し、高威力高命中の【水ごと氷結封印する氷の護符】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。

イラスト:赤月 絆

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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 枝垂桜に覆われ森の広間に眠る、小さな建屋。
 本州の神社とはまったく異なる様式の社は、長らく尋ねる者もいないようだった。
 クマ笹と樹皮で葺かれた屋根。模様つきの布がかけられ、何かの祀られた祭壇。
 そう、ここは――土地の人々が神威へと祈りを捧げた|家《チセ》だ。

 社へ近づこうとするあなたの前に、ひと際強い花風が吹き荒れる。
「……去ね」
 次々と現れる、青白き肌の巫女。
 背丈こそ一人ひとり違うが、誰もが凍てつく吹雪を味方につける雪女だ。

 すぐには襲って来ぬのを見て視線を巡らせば、桜のふもとには小高い盛り土。
 木の根が盛り上げたには不自然なそれの正体に、何名かの者は思い至る。
 人のいた痕跡。遺留品は時を経て、季節が幾度も巡ったことを示す。

 花散らす桜は何を吸うて育ったか。真冬になぜ、生を謳歌できたか。
 答えは至極単純――この森自体が過去なのだ。

「……来よ」
 土地の想いを吸い上げ背負うた雪乙女は、外敵を受け入れぬ。
 それは桜の森の侵略へも、あなたたちへも同じこと。
 彼女たちへ宛てた言葉を紡ぐ間もなく――熾烈な白の吹雪が舞った。
キアラ・ドルチェ
人の生命を啜ったか? 桜よ
だとすれば貴方達は「自然」ではない
まさに「魔性」…なればヤドリギ使いの手で大自然の円環に戻そう

…とは言え、雪女達への対応も必要か
ならば…【第六感】で護符回避しつつ、相手の攻撃の的を絞り込ませない様にジグザグ移動、雪女も桜も多数入る位置まで来たら
【多重詠唱】【全力魔法】【高速詠唱】、ついでに寿命削ってUC発動!
社には影響ないよう調整し他はまとめてぶった斬りっ!

…先程拾った木幣の重さはいのちの重み
桜よ、その重さへの償いを受けよ
そして雪女よ、ここは畑となり新たないのち紡ぐ場所となる
でもその時にも、社が残り鎮魂の祈りが満ちるよう
私が「運命の糸」を繋ぐから
どうか安らかにお眠りを



 朽ちた建屋のなだらかな背。降り積もる桜花もずり落ちて、あれでは雪の重みから護れまい。
 当然だ。これは護るべき人を失った家のあるべき定め。大地は無情にも営みを奪い、忘却の海へと葬った。
 今やこの地に芽吹くのは、骸に根を張る歪な桜。それが世界を蝕むものとは、猟兵ならば出会った瞬間に嫌でも解る。
「その色艶、その根……桜よ。さては人の生命を啜ったか?」
 厳かに問うキアラ・ドルチェの声に、常日頃の幼さは滲まない。今の彼女は冷徹な魔女、自然の摂理に背くものを許しはしまい。
「もはや貴方達は自然のものではない。まさに魔性……なれば、ヤドリギ使いの秘術で大自然の円環に戻そう」
 鋭く言い放つキアラの元へ、霜を帯びた護符が飛来する。バックステップで躱した足元に弾ける大瀑布は瞬く間に氷柱を形作り、冷ややかな輝きに背筋が凍る。居並ぶ巫女が続け様に放つとあれば、キアラとて巫女らを無視できぬ。
「稀人よ……疾く、去ね」
「雪女達への対処も必要か。ならば……!」
 意を決して踏み込みを早め、氷華咲く前に駆け抜ける。ぎらついた輝きで飛び散る氷の破片。玉肌が裂け、腿より朱の糸が引くが、荒事に長けるドルイドがどうしてそれしきで止められよう。
 大地を裁縫のようにめまぐるしく駆け、巫女らの組む円陣の懐へ。ここが最も窮地なれど、桜と巫女の双方を掌中に収めるには都合が良い。
「来たれ、創生樹の剣よ!」
 負傷も厭わずトネリコの杖を掲げれば、宙より一振りの刃が突き立った。かつて天地を創り給うた開闢の力、宇宙樹イグドラシルの輝きを弧を描いて放つ。
「先ほど拾った木幣の重さはいのちの重み。桜よ、己が成した事の償いを受けよ!」
 鞘もなき剥き身の刃は灼熱を帯び、昼をも焼いた。膨れ上がる創生の光が辺りを包み、連鎖して爆ぜる大気はキアラの命をも焼き焦がしていく。
「……そして、雪女よ」
 呼びかけるよう手を伸べれば、焔に飲まれる巫女たちの姿。彼女たちが背負う命は蘇らぬが、時が巡ればここも新たな生命育む揺り籠となろう。その時にこそ社は息を吹き返し、安寧を見届ける標とならんことを願う。
(「鎮魂の祈りが満ちるよう……私が運命の糸を紡ぐから」)
 敵対者である以上、手控えることは許されぬ。故にキアラはありったけの魔力を投じ、イグドラシルの刃に焔を纏わせる。
 ――どうか安らかに、お眠りを。
 巫女達の身を、儚むように。桜の雨が、焔の大竜巻の中に舞った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルシエラ・アクアリンド
道が交わる事が無くとも知ることが出来た
きっとそれで十分なのだと思う
昔も今もそれは変わらない

彼方が吹雪なら此方は白い魔導書で対抗しようか
不意打ちの先手で結界術と精神攻撃を織り込んだUC使用し
状態異常付与の確率上げ、高命中始め行動を制限してしまいたい
叶えば、引き続き軽業や気配察知、第六感で避けつつ
範囲攻撃且つ二回攻撃で手数を増やして行こうか
失敗時は知識蓄積し精度上げて再度行動
負傷していれば生命力吸収で回復

囲まれぬ様に、そして無駄に周囲を荒らさぬ様に行動しようか
割り切っていてもその位は心を寄せても良いと思いたいし
最低限、私の出来る事でもあると思うので

後に、この地がどうあろうとこの事を私は忘れはしない



 世界が如何に広くとも、既に途絶えた道と交わることは二度とない。
 その顔に喜びはあったか、その胸は満ち足りていたか。ちいさな墓標は教えてはくれぬが、そこに命が眠ることを知っている。
(「知ることが出来た。きっとそれで十分なのだろうね」)
 覚えている、ささやかな痛みと共に。見出だした命の在り処を胸に刻み、ルシエラ・アクアリンドは毅然と翠緑の眼を開いた。
 終焉を砕ける者だからとて、すべてを掬うにはこの両の手は足りぬ。さりとて、出会わなければよかったなどとの思いを抱いた事は、人生を振り返れど一度もない。
 さして敵意の滲まぬ穏やかな表情のルシエラを見ても、雪乙女は手控える事なく護符を握る。
「……疾く、去れかし」
 飛び退いた後の地面に凍て滝が降り注ぎ、舞い散る氷片が吹雪を呼ぶ。視界を遮る雪は桜の紅もろとも白一色に染める気らしいが、そちらが白ならとルシエラは白き魔導書を紐解いた。
 神智学の思想を元に著された物語は、紋章より作中の姫君の力を呼び起こす。ルシエラの舞うたび光が弾け、光の羽根を乗せた風が渦巻く結界を形作りながら敵の元へと押し寄せる。
「舞うは風より生まれた翼――風よ、風よ」
 光の竜巻に飲まれ、巫女の一人が眼を瞑った。次にルシエラの姿が見えた時、巫女は氷雪を呼ぼうとして突き出した掌を茫然と眺めた。
「……面妖な」
 忘却の魔術に絡めとられ、欠け落ちた記憶は戦いの術。薙刀を手に自棄気味に走る巫女は魔術書の光弾に打たれ、地に伏した。
 近づく巫女には|不可視の衝撃《フォースボルト》を見舞い、包囲を許さぬ立ち回りで森を駆ける。ユーベルコードの域には至らぬ魔導書の力も、咄嗟に身を護るには十分役立ってくれた。
 戦う最中もルシエラは、盛り上がった土を踏むことは一度もなかった。たとえそれが己の戦いを利する事はなくとも、せめてそれぐらいは心を寄せていたいと感じる。
(「戦いの後に、皆の選択でこの地がどうあろうとも」)
 吹きつける風が強まり、巫女達の姿が羽根の嵐にかき消える。少しも悲鳴をあげぬのは見上げた精神だが、哀しみを負ったその強さが胸に痛い。
(「……私は、忘れはしない」)
 今より葬る敵から目を逸らすまいと、目を見開くルシエラの前で。生存意思を砕かれた巫女が倒れ、虚空へと運ばれていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ピオニー・アルムガルト
話をする前から攻撃って、取り付く島も無いわね!人の話はちゃんと聞きなさいって教わらなかったのかしら。もう。

土着信仰なのかしら?自然の厳しさを知ってるからこそ、またその恵みも知ってるものよね。だから土地を守る為にひん曲げちゃって寒さビュービューしてるってのもどうかと思うわ。
自然は巡り循環するもの。過去からの古木は今いる者達、未来の若芽に道を託しなさい。デーンと構えてると日が届かなくなって後進の者達の信仰も育たなくなっちゃうわよ。

まあ問題は桜の方にもある訳だし、亡くなった人達の無念も背負って叩き切ってあげるわ。



 用意していた言の葉は、視界を埋める吹雪に遮られた。それが神威の雪だるまを纏うついでとしても、ピオニー・アルムガルトは不躾な敵にいたく憤慨した。
「ちょっと! 話をする前から攻撃って、取り付く島もないわね!」
 こちらの声に応じるよりも早く、北方の神を模した雪の兜が雪女達の顔を覆う。その面は般若よりも険しく、問答は無用とばかりに睨みを利かす。
「なんだか怖い顔だし……土着信仰っぽくもあるけど。人の話はちゃんと聞きなさいって教わらなかったのかしら、もう」
 朱金の陽の色に煌めく両手斧を背負い、ピオニーは敵の出方を探る。薙刀を持つ雪女達の主武装はやはり雪、得物は斬るためより距離を保つために持っていると見えた。
 ならば躊躇なく攻め入るのみ。吹雪の上を跳躍して飛び越え、薙刀の柄に戦斧を叩きつける。
「……不遜」
「ええ、憚らないわ! だって間違ってるんだもの。自然の厳しさを知ってるからこそ、普通はその恵みも知るものよ。土地を守る為に寒さビュービューしてるのもどうかと思うわ!」
 頬を張る氷雪の風に飛び退くよりも踏み込む道を選び、斧の柄で小突くようにして距離をあける。薙刀の重みに足元が乱れ、間合いは斧を振るうには十分だ。
「信仰だってそうよ! 日が届かなくなったら後進の人達も祈りを捧げてくれなくなるじゃない」
 足元から掬うように戦斧の一撃を見舞い、遠心力に任せて振り切れば、飛ばされた雪巫女の一体が幹に打ち付けられ動かなくなる。乙女に対する仕打ちとしては熾烈ともとれようが、あの桜と巫女たちが居座っていてはこの地に命は芽吹くまい。
 大きく斧を振りかぶりながら、桜も後で伐採してやろうと心に決める。亡くなった人の無念を思えば、それを吸い上げる樹木など放ってはおけぬ。
「自然は巡り循環するもの! 過去からの古木は今いる者達、未来の若芽に道を託しなさーい!」
 雷神思わす轟音が響き、撃ち込まれた斧頭に大地が裂ける。雪と桜花の下から茶色い土砂が噴き出し、意識を手放す雪巫女たちの体を埋めていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鹿村・トーゴ
雪巫女さんか(相棒ユキエを後へ退避させ
ここがあんたらの聖域なら帰れと言われのも納得
でもなー
お前さん達の縄張りは既に過去
現在を生きてる自然やオレたちを否定するかね?そもそも住人を糧に意地汚く居残るのはダメじゃね?

【情報収集/目視】敵達との距離目測

聞いた話じゃ蝦夷の民は木も動物もみんな神様なんだろ?
生き物の消えた森にしがみついてどこにあんたらの神様がいる?
その雪も今じゃない
かつての雪はあんたに囚われて神様の名残だけだ
【追跡】活用UCの蜂を別個に襲わせ
手裏剣でそれを【念動力/投擲】フォロー
更に追随
クナイを手に【暗殺】
理由はありそ
でも話は通じなさそ
短絡的だがオレの答えは問答の前に狩る
ゴメンよ雪巫女さん



 倒れた巫女の亡骸を、猛吹雪が骸の海へと押し流す。仲間の死を見届けても、雪女巫女達は退くこともせずに淡雪の燐光を纏っている。
「雪巫女さんか……ユキエ、隠れてろ」
 鸚鵡のユキエに下がるよう伝え、戦いの場を離れる羽音を見送る。それが十分に遠のいたことを確かめ、鹿村・トーゴは敵意もあらわな巫女たちへと向き直った。
「ここがあんたらの聖域なら、帰れと言われるのも納得だけど……でもなー。お前さん達の縄張りは既に過去のもんだ」
 呼びかけながら、悟られぬよう彼我の距離を目で測る。薙刀と呼び寄せる氷雪は厄介なれど、縮地の歩法でなら己の間合いに持ち込めよう。
「今を生きてる自然やオレたちを否定するかね? そもそも住人を糧に意地汚く居残るのはダメじゃね?」
「……否」
 反駁するように被せる巫女に、心の動きありと見て言葉を止める。ひとまず言い分を聞こうと決め、トーゴは先を促した。
「命を吸うておるのは彼岸の桜。我ら無念を背負いて桜を枯らし、この地に久遠の誓ひを打ち立てん」
「だとして。桜がなくなっても……それが亡くなった人たちの望みなのか?」
 雪巫女たちの言葉が真実になれば、桜とはまた別の歪んだ自然風景が広がるのだろう。新しき者の住まいを拒む氷雪は、土地を雪の中に閉ざすだけだ。
「聞いた話じゃ蝦夷の民は木も動物も、みんな神様なんだろ? 生き物の消えた森にしがみついて、どこにあんたらの神様がいる」
 言葉に反感を買ったか、氷雪が舞うのを見て利き手を後ろに隠す。指の間に握るのは、古びて暗器にも見えぬちいさな飛針。
「その雪も今じゃない……かつての雪はあんたに囚われ、纏うのも神様の名残だけだ!」
 音もなく地を蹴り襲いかかるトーゴに応じようと、薙刀を構えた巫女が一人崩れ落ちた。何が起きたかも判らぬままに、ただ瞼がぴくぴくと神経毒の症状を表している。
 虚蜂――不可視の大蜂の毒針に貫かれ、巫女たちの足並みが一気に乱れた。見えぬ何かに襲われたと気付いたとて、今度は手裏剣とクナイが応戦を許さない。
(「話の通じる相手じゃない。短絡的だがオレの答えは、問答の前に狩ること」)
 次々と倒れる巫女たちの、瞼を閉ざしてやる猶予もない。雪の上に滲む朱の色が、彼女たちにもかつて命と体温があったことを僅かに示す。
(「……ゴメンよ、雪巫女さん」)
 情けをかけたくなるのを堪え、呟きも心の中に押し留める。氷の鉢金をクナイに貫かれ、巫女がまた一人雪中に倒れ伏した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
森も雪女も互いに守りたいものがあるんだな

確かなことは
今を決めるのは今を生きる命ってことだ
過去の化身を海へ還すぜ

戦闘
腕を一振り
沸き起こる炎の竜巻を掴めば
それは愛用の楽器、ワイルドウィンドだ

土地や
そこでの生活、家族を守りたかった者たちの想いが
雪に力を与えたのか

あんたらとの相性はバッチリだ
俺にとっては、だけどな

ギターを掻き鳴らせば
それは春を呼ぶ音色

温かな灯
煌めく光
緑と白や赤、黄に満ちる森
鳥の囀りや羽ばたき
野山を駆け回る獣ども

響き渡る音色は
春の太陽の力を孕んで
雪女や雪だるまを弱体化し溶かして行く

常の冬はない
雪解けは必ず来る
あんたらの思いは受け取った
もう休め

演奏は
全ての雪女が溶けて消え去った後も続く

それは雪女や
この地に眠る人たちへの鎮魂曲だ
安らかに

事後
更に演奏を続ければ
社を中心に炎の渦が広がり
過去の森をも海へと還す

あんたも海で休め

どうするかは
今を生きる人たちが決めることだけど…
森を拓いて祠を祀るのがいいんじゃないか



 天つ風、雲の通ひ路――美しきに触れては永遠にと思う心は、或いは万物に通ずるものか。季節を忘れて咲く桜は、過去の景色を必死に留め置かんとするように映った。
 桜を排除せんと戦う雪巫女も、亡き民の尊厳を守らんとして薙刀を振るうのだろう。誰が悪いわけでもない。互い違いになり、交わることはない両者の想い。
「森も雪女も、互いに守りたいものがあるんだな」
 相容れぬ双方を見て、木霊・ウタがどちらとも責める気持ちになれないのも道理であった。
「確かなことは……今を決めるのは、今を生きる命ってことだ。過去の化身を海へ還すぜ」
 包帯の巻かれた手をかざせば、腕を取り囲むように炎が渦巻き吹き荒れる。やがてその中から姿を現す、愛用のギターを掴みとる。
 戦意に呼応し、雪巫女たちが焔とは対極の凍てつく冷気を身に纏う。局所的な猛吹雪の去った後に纏っていたのは、やはり神々を模した雪の鎧と兜で。
「その鎧兜、神々のものか。土地での生活、家族を守りたかった者たちの想いがあんたらに力を与えたんだろうな」
「……問答は要らず。去ね」
 突き出した手より、溢れんばかりの冷気の瓢風が過ぎる。肌を切る颯が頬を掠めたが、炎血で火力を増せるウタにはむしろ好都合だ。
「あいにく、雪なら相性はバッチリだ。俺にとってはだけどな」
 吹きすさぶ強風の中でギターの弦を掻き下ろせば、春風を思わすあたたかな音色。陽の光が煌めき蝶が陽だまりを舞う、色彩豊かな春の森。
 甲高いトレモロは鳥のさえずり、羽ばたき、虫の羽音さえも音に拾うかのよう。寒きを耐えた野山は活気づき、萌え出づる命の音が広がっていく。
 寒風が木の根の断ち切られるように途絶え、かわって満ちる春風が雪だるまの鎧を溶かしゆく。幾度冬の冷気を呼び込もうが、無尽に湧く生命の息吹には抗えまい。
「|常《とこ》しえの冬はない。雪解けは必ず来る……あんたらの思いは受け取った」
 冬越えした命は、その先へ行く。雪も常夜も忘れ去り、また次の冬が来るまでを謳歌する。
 からり、と。雪女の一人が薙刀を取り落とす音が、石の上に響き渡る。演奏は雪女が倒れた後も続き、一帯を取りまく炎の渦が彼岸の桜たちを還していく。
「……あんたももう、休め」
 桜の木々が、燃える木立ちとなって騒ぐように揺れた。雪の下に覗く不自然な緑が薄れたのを見て、ウタは後一息であることを確信した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冬霧・椿
ここはいのりのば、です
ずっとずっとむかし、見た事があります

ここを守っていたのですか?
でもその桜は、もうここにそんざいしていてはいけないものへと変わってしまっています
いのちと、おもいを吸った花は、かえるべきところにかえりましょう
つばきとにているあなたたちと戦うのはあまりうれしくないです
でも、ここから離れなければ、あなたたちはとらわれたまま

あなたに、つばきの知る春をとどけます
巫女達へと向けた六華は氷柱を内に隠した金色の花吹雪と変わって
あたたかな春の色、蝦夷の花です
知っているでしょう?

まだ春は遠いです、ねむりましょう
目がさめたら、きっと次の生へとたどり着いているはず
さよなら、おやすみなさい



 雪ん子たる身は道北の空気に親しみ、人里の風景を垣間見て育った。
 不足する菜類を補うべく豆や蕪を漬け込み、冬備えをする村の家々。遡上する鮭の恵みに預かる狐たち。幼心に見た眺めの中には、伝統ある暮らしを守り抜かんとする民の姿もあった。
 骨と皮は命が巡るよう、洗って川へ。家に飾られる木や樹皮の彫りもの。名を知らずとも、この家にこめられた祈りは知っている。
「ここは……いのりのば、です。ずっとずっとむかし、見た事があります」
 たどり着いた小さな足音は、構える雪女たちの前で止まった。炎に包まれる樹林の中、明けの情景とも宵ともとれる紫の瞳が、揺れるように同胞の姿を映す。
「ここを守っていたのですか? すんでたひとたちのおもいを、ずっと?」
 冬霧・椿の問いかけに雪巫女たちは首肯し、意味ある言葉を返した。
「然様。我ら、夢待ちいたる民の眠り妨ぐる者、何人たりとも許さじ」
 びょうと吹き荒れる白の吹雪。|性《さが》の近しい雪女とて、邪魔だては無用との意思がそこにはあった。
「その桜は、もうここにそんざいしていてはいけないものへと変わってしまっています。それに……あなたたちも」
 敵意を向けるでなく、憐憫を。巫女の魂を捕らうものが骸の海なれば、彼女たちもまた被害者。
「かえるべきところに、かえりましょう……ここから離れなければ、あなたたちはとらわれたまま、です」
 避けられぬ戦いのただ中へ、駆ける下駄音がからりとひと際高い音で跳ねた。
「|同胞《はらから》よ、汝は道を違えた。去ね、我が前より消えよ!」
 雪巫女の手元から護符が飛び、椿のいた地面へ水柱を降り注がせる。滝の飛沫が瞬く間に凍り、細氷となって陽光に煌めく。
 後ろを振り返れば巨大な氷柱、躱せば連発できぬとて無視できる威力ではない。ならば狙うは短期決戦、居並ぶ巫女たちをひと網に掬い上げるのみ。
「あなたに、つばきの知る春をとどけます」
 てのひらを向ければ雪の華が咲き、大気中に白い道を作りて巫女へと向かう。巫女自身の冷気も借りてすくすく育つ氷晶は、やがて内に輝きを秘めた金色の吹雪となった。
「……これは」
「あたたかな春の色、蝦夷の花です。知っているでしょう?」
 |蝦夷立金花《えぞりゅうきんか》――またの名をヤチブキ。卯月から水無月にかけて春を知らせる、色鮮やかな蝦夷の花。
 花氷は剣となりて、巫女の袂に乱れ咲く。正しき流れに戻し給えと、祈りを受けて咲き綻ぶ。
「まだ春は遠いです……ねむりましょう。目がさめたら、きっと次の生へとたどり着いていますから」
 寒気にはもう慣れたと思っていたのに、巫女たちは|凍《しば》れる手足に痛みがないのにやっと気づいた。それが椿からのささやかな心遣いと気付き、見開いていた眼を緩やかに閉ざす。
「さよなら、おやすみなさい」
 霜の色をした長い髪が、風になびきながら倒れ伏す。そのまま雪巫女たちは身を起こすことなく、雪の揺り篭に馴染むように消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 もう、どれだけの間そうして立っていただろう。
 かつてあった民が祈りを捧げた小さな|家《チセ》は、
 在りし日のように息を吹き返すことはない。
 雪巫女たちを骸の海に還せど、喪われたものは戻ってこない。
 あるのはただ、静けさのみ。

 鼓膜に沁みる無音の後に、たったひとつの音を耳が拾う。
 ――チュチュ、ピピピ……チィッ。

 鳥の囀る声が聞こえだしたと気付いてあたりを見れば、
 満開の桜はいつの間にか姿を消していた。
 |白粉《おしろい》を施したようにまばゆく輝く雪面。
 立ち並ぶ白樺の木々は葉を落とし、寒々しい眺めが続く。
 これでよい。これこそが在るべき自然の姿なのだから。

 荒れた土地の手入れをする者もいる中、
 ギターの爪弾く音が、去りにしものへの鎮魂曲を紡ぐ。
 戦いの最中にはなかった穏やかな音色は、わらべ歌のように語りかける。
 春、遠からじ。寒きに耐えて忍べばこそ、焦がれた春を|愛《うつく》しむ事もできよう。

 寒風が枯れ木を揺らす中、古びた|木幣《イナウ》が雪の中に立っている。
 傍らに咲く金の花氷は、彼らの待ち侘びたろう春の色。
 この地に再び営みが根づく日は、いつになるだろうか。
 はかなきものを、哀れむことなかれ。
 たとえ社が深い雪に埋もれ、すべてが忘れ去られたとしても。

 ――それは春待つ大自然の、大切な祈りの儀式なのだ。

最終結果:成功

完成日:2023年02月08日


挿絵イラスト