未知の大海に揺らめく、海の月
馬県・義透
前回のあらすじ
陰海月、食料問題解決
『羅針盤戦争』終結後の話です。
少しだけ暇ができたので、何かしようとした陰海月。屋敷の中を漂ってみる。
仮の寝床としている風呂場(水桶がお布団。でないと乾燥する。後々、隣の土地にできた大水槽が寝床になる)、煎餅食べた居間、そしていつも通る廊下…とふよふよ漂った。
次についたのが、四角く薄い箱(パソコンとテレビ)がいくつか置かれた部屋(『侵す者』は触るべからずと書かれてる)。
何だろう?と思ってたら、義透がやってきて、興味があるかどうか聞いてきた。
少年心持つ陰海月、頷いて教えてもらうことに!
(テレビリモコン)ポチッとしたら、箱(テレビ)の中の映像が動いてたり、音がしたりでビックリ!
板チョコのようなもの(キーボード)がある薄い四角い箱(パソコン)に繋がれてる不思議なコロコロ(操作用のマウス)をカチッとすると、見たいと思ったのが見れることに感動!
そこから陰海月は、第一の趣味となるダンスにハマっていくのだが。
そんなことはまだ知らない…。
巨大なクラゲ『陰海月』は思う。
ふよふよと漂う体の心地よさは、変わらない。
いつもと変わらない居間。
乾いた触腕をひたりと水桶の中に突っ込んで、少しかき回してから、水滴が落ちる音を聞く。
静かだと思った。
シンとした屋敷の中に水滴の音が響き渡る。
「ぷきゅ」
小さく一声鳴くと、それでおしまいだった。
暇、と思ったのかもしれない。ゆらゆらと揺れる体。この屋敷にやってきてから、少し経つがもうあちこち見て回った後だった。
お煎餅も食べてしまったし、何もすることがない。
いつも通る廊下。
「ぷきゅ?」
なんだろう、と少しだけ開いていた戸をの先から漏れる音。
何かが回る音。
少しの震動。
そっと戸を開けると、そこにあったのは四角く薄い箱がいくつか置かれていた。
それは後から知ることになるのだけれど、テレビとパソコンというものだった。張り紙で『侵す者』は触るべからずと書かれていたのも後で知ったことだ。
壊してしまうからだと言われた時は、そんなことあるのかと思ったけれど、事実だった。
それはまた別の話であるが。
「どうした。ああ、それか」
後ろを振り返れば、そこにいたのは『静かなる者』だった。
四悪霊の一柱。
彼の言葉に『陰海月』は頷く。
「これはな、てれびじょんというものだ」
此処にスイッチがあると言われて押すと箱の中から光が飛び出して……映像が映し出される。それだけではない音も響き渡る。
「ぷうっきゅ!?」
「ははは、そうか。初めて見るか。こちらは……」
板チョコだろうかと『陰海月』は思った。だが違う。なんだか薄いものがいっぱいついている。
「これはきーぼうど、という。そしてこちらは、まうす、というのだ。これで……こうやれば」
「ぷーきゅ!」
それは言わば情報の大海原だった。
目の前に広がるのは海ではないが、海のような光景であった。
多くの知識が、多くの情報が、多くの体験が、そこには溢れている。
大波が自分に迫ってくる。
ああ、と思う。
これはきっとあの故郷の海と同じなのだと。
伸ばした触手がマウスのボタンをクリックする。
「ぷっき!?」
そこに流れ始めたのは動画。
踊る者たちがいる。賑やかな音楽にのせて……いや、乗るように踊る彼らを見て『陰海月』は思った。
やってみたいと。
感動を覚えたように、自らも、と。
多くの初めてをこれから経験するだろう。
その初めての一歩に、今、彼は踏み出す――。
成功
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