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生まれてきた日を知らないの?

#UDCアース #アリスラビリンス #ノベル #🌈 #ぐるぐる #誕生日 #非誕生日 #食餌 #グロテスク

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スミンテウス・マウスドール



スミンテウス・マウスドール




 何――? 何月何日なのか訊ねているのか、まったく君と謂うやつは生まれた日の事も知らないのかね。そうとも、1月24日だ。え? 西暦だとかそんなものはエチケット袋の中に仕舞っておくのがよろしい、故に奥の席にどうぞ。さあさあ、這入った這入った。おっと。自己紹介がまだだったね。申し訳ない。私の名前は……しまった。忘れてしまったぞ。しまい、おしまい……そう。そうだ。私の名前はきっと邪で、悪いヤツから与えられたのだ。確かヒュプノスだったか? ごほん。それじゃあ遊びに行こうかね、ジェンキン・マウス。
 糊付けされたのか、瞬間接着剤の所為なのか、最早、オマエには判断出来なかった。強烈と謂うよりも怠惰な、枕がひっくり返った事でなんともいい迷惑な目覚めにやられる。そうだ、そうだったね。今日は僕にとっての特別な日なんだ。ぼんやりとした脳味噌を掻き毟りながら傍らのティー・ポットをノックする。おい、入ってるか。入ってるよな。この寝坊助め。はやく出てこないと目玉を抉って独楽にでもしてやるぜ。そんな脅しを口にしたところで鳴き声は無い。本当に失礼なヤツだな、招待したってのに席に座らないってのか。あーあ。だったらもう知らない。知る由もない。オマエは一生そこで転がってれば良いんだ。クッキーも紅茶もチーズも全部僕のモノだからな。湯気をこぼしたって開けてやるものか。かたかたと揺れた時計の針はだいたいお昼を表現している。それじゃ僕は外に出るからな。いや、違うな……? 僕は部屋から出るからな。あとで糞塗れになったって掃除してやらねーぞ。佛々と呟きながらレッツ解放感、空気の入れ替えには象の鼻が相応しい……。
 ――あら。やっと起きたのね、主役は遅れてやってくるってヤツかしら、弟。オマエの目の前にぐいぃと貌を晒したのはお姉さんだ、如何してかピンク・アニマルな格好をしている。また随分と変な服だね、センスがないよ、ノンセンスだ。それを謂うならナンセンス、いや、おんなじだけどやっぱムカつくわ。まあいいわ、はやくリビングに来てちょうだい。お母さんとお父さんが待ってるわよ。ああ、そうだった。特別な日は特別な人と楽しく過ごすのが当たり前だった。たいへんご苦労な事です。しっかしさっきの象の鼻といいヤケにアニマルが出てくるな? それはアンタが目の色を変えたからよ。そうなのかい。タンタンタン、と階段を降りていく。それとも上っていく? このお家は何階建てだ……?
 オマエのご登場によって沸いたのは声だったのか液体だったのか、その両方だったのか。姉かピンクに背を押されて、よろよろ、あせあせとステージのど真ん中へ。おいおい、さっきまで家の中だったじゃないか。まあまあ、そんな事は気にしなくても良い。そんな些細な事はエチケット袋にぶち撒けろってバラエティ番組でも謂っていた。そう、今回のパーティには象の鼻は不可欠なんだ。わかるかい。わかるでしょう、※※※も※※歳よ。もう年頃なんだから。ハッハッハ、お母さんの謂う通りだな。じゃあ、皆で特別な日を、誕生日を祝おうじゃないか……それで視えない象の真似事って如何かしてる。同化するのよ。違いない。ステージは滅茶苦茶に広いではないか、紅茶の準備は出来たかい? 乾杯!
 右腕か左腕かを選ぶのには苦労したが、軸になる腕は決まった。伸ばして顔面あてて、真下を覗いていく。鼠の穴を探すように円を描いていけ。回数を重ねるうちにザクロ・ジャムが口からあふれていく。クリームはないけれども問題ないね。だって此処にはビスケットなんて存在しないのだから! 姉さんも母さんも父さんもイカレてる、こんなに流されたら僕だってタノシクなりそうだ。器からはみ出たザクロ・ジャムを回収しようと止まったところで限界、もう如何にかなりそうだとアニマルに愚痴も吐いた――ケーキの蝋燭を吹き消してくれないか、※※※。ちょ、ちょっと待って。あと数秒、いや、後一分待って……そんなに待っていたら紅茶が冷めるじゃないか。
 皆が笑った。※※※も笑った。今日の主役は※※※なんだ!
 ――ケーキは反芻する事で完成するんだぞ。
 ――クッキーの生地だって元はそうじゃないか。
 ――意思の疎通はそんなに重要じゃないさ。
 ハッピー・バースディ!
 ハッピー・バースディ!
 ハッピー・バースディ――!
 うっぷ――もぞもぞと寝汚いネズミが這い起きた。茶葉のベッドを乱しながらお花畑へと直行する。楽しい愉しいパーティだったと謂うのにこのザマは如何したものか。これでは猫の胃袋から帰ってきた毛玉だ、愈々塞ぎようのない、治しようのないラビリンスの袋小路だ。フン、いいさ。スミンはもうひと眠り……。
 シェイク……!

 ネズミ。其処のネズミさ。寝汚いネズミめ、いつまで寝てるつもりだ。ヒュプノス様がお呼びだってのに随分と自堕落なネズミだね。ウサギに絞め殺してもらった方が良いんじゃないかい? その声はユー、ティーポットじゃないか。そんなにスミンの睡眠を邪魔したいんだね、失礼なヤツだよ。うるさい、象の鼻だかぐるぐるバットだか知らないけれどとっとと起きて薔薇でも塗りに向かうんだね! あーもう、わかったよ、スミンだって生まれていない日を知らないワケじゃないからね。今日も今日とて楽しい楽しいパーティの時間だ。あの愉快な仲間はティーを飲んでいるだろうか。そんな想像をしながらぼんやりと会場へ――やった! 今日はオリジンティーじゃない! 珍しい事もあるもんだね。スミンの席はいつも通りここで――招待もされていないのに席に座るなんて!!! え? なんだい、スミンを除け者にしようって事かい? 如何してか説明してくれないかい? 机が逃げるように伸びていく、皆の席が離れていく。誕生日じゃない日を祝う日だってのにお誕生日じゃないか! たくさん睡眠を取るべきだった、ああ、忘れていた。そんな莫迦なネズミには白湯がお似合いだよ。ほら、熱々の白湯に心からあったまれば良いさ。あつい! 茹る。茹蛸じゃなくて茹でネズミになってしまう。誰が土鍋ネズミだ、失礼なヤツラ!!!
 面白おかしく暮らしているなんて結局は幻想って御伽噺さ、現実をしっかり見てご覧よ。目を回すアリスなんか存在しない。食べられそうなアリスなんて見当たらない。処刑されそうなアリスなんて許されない――何故って兎の穴を閉じてしまったからさ! アリスラビリンスにアリスが居ないなんて非誕生日ではない今みたいじゃないか! アリスの代わりに紅茶飲んでも良い? クッキー単体でも構わないからさ。ダメ。駄目。だめ。これだから誕生日は嫌いなんだ! そう謂えばザクロジャムは残ってたよね。あれなら、まあ、誕生日の君でも食べて好いだろう。お皿なんか要らないよね! ドバァ、真っ赤! なあユー、これ本当にザクロジャムだよな? 嘘じゃないよな? 嘘だったらユーの誕生日の時覚悟しろよ。嘘じゃないさ。だって最近落っこちてきた象の鼻が語っていたんだもの。その象の鼻真っ青じゃなかった? 気の所為気の所為、ささ、ぐいっとキメてくれ……。
 ごくごく……うーん。なんとも胸の奥が焼けると謂うのか、傷むと謂うのか、鉄臭いと謂うのか。ユー、絶対にジャムじゃないよね。これジャムじゃなくて別の何かだよな? くそ、騙された。これだから誕生日なんて迎えたくなかったんだ。ぷい、と明後日の方向を向いた八面六臂。おや、なんだか描写が変だぞ。そんな輪郭が如何やって別方向を理解すると謂うんだ。ははあ、さてはユー、スミンを惑わそうとしているね。だけどもう引っ掛からないよ。スミンにはこのワールプールがあるのさ。一人遊びの延長線だね――ヒュー! ボールの底! ボウルだったか? 調理器具だ!
 脳天からいった所為でどっかのウサギを思い出した、とっても嫌な記憶だけれどそんな玉虫色はまわる星へと擲ってしまえ。ご挨拶してくれた愉快な仲間の名前はハンドミキサーだ。はじめまして、ユーがスミンを慰めてくれるのかい? 勿論さ、卵と砂糖の用意はちゃんと出来ているよ。素晴らしい。マウス・ケーキの作り方は完璧だ。じゃあそろそろ始めるよ。ぺちょり、ドードーの黄身が寄り添ってくれている。そんなに激しく回したって一生乾かないのはご愛敬だ――シンプルな方が美味だって女王様が定めたのかい? ユーの疑問も尤もだね、猫のない笑いはもう十分なのさ……気分が悪くて涙が出てきた、止まらない、止める術を知らない。蛇口の捻り方も落とした哀れなネズミ、フレッシュな無様にとけこむ。
 整形手術に頼ってしまったのがネズミの誤りなのだ。フルーツナイフに視線をやったのがネズミの失態だったのだ。折角綺麗に造られたケーキがもう台無し、お線香サマに貫かれてひどい冒涜的なセンスだ。これじゃノンセンスだよ、ユー。それを謂うならナンセンスさ。おいおい、同じじゃないのかい? これは申し訳ない、実に賢いネズミだね。いや、マウス・ケーキだった。賢いスミンに紅茶とクッキーを用意してくれよ。おっと。その手には乗らないよ、お誕生日の人にはティーもクッキーもあげられないんだ。クソ、もういい。スミンは寝床に戻るからね。その景気の良い身体で如何やって寝転がるんだい……? ユー、それかユーでもいい。誰かスミンを、スミンテウス・マウスドールを反芻してくれないかい? Cheers!
 ――ビスケットはジャムが先だぞ。
 ――クリームは唇に塗るものさ。
 ――意思の疎通が大切だと何故わからない!
 意地汚いネズミ!
 意地汚いネズミ!
 A Very Merry Unbirthday to You――!

 何――? 何月何日なのか訊ねているのか、まったく君と謂うやつは生まれた日の事も知らないのかね。そうとも、1月24日……。
 ――糊付けされたのか、瞬間……。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年01月24日


挿絵イラスト