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Secrets of 『Curtis』

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カーティス・コールリッジ




《この情報を開示するにはレベル4以上の職員の許可が必要です》

Ship name : Clunker
Ship type : Cargo ship

Destination : ****
Cargo : Experimental anti-oblivion
Crew : 7

Captain : Barton=Galloway
Steerer : Beck=Malthus
Navigator : Gautier=Hubert
Operator : Eliza=Seager
Mechanic : Hao xuan
Medical practitioner : Rachel=Ainsworth , Cedric=Daltrey

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 貨物船『Clunker』の救護室――コールドスリープカプセルの中で、カーティスは一時の眠りについていた。機械技師のハオ・スアンがマザーコンピューターに繋がる端末のモニターを眺め、重々しく口を開く。
「小僧は大丈夫かね」
 深い皺が刻まれたハオの表情は険しいが、彼の内情をレイチェル・エインズワースは薄々察していた。無理もないことだ。治療という名目で、兵器の中に生じた『不要物』を排除しているのだから。スペースノイドというヒトである故に、彼らは慎重に言葉を選ぶ。対照的に、レイチェルと同じ医療班に所属する旧式のウォーマシン、セドリック・ダートレイは粛々と雑務をこなしていた。
「……分かりません。ですが、これも仕事ですから」
 無垢な少年の寝顔を見つめるレイチェルの瞳は憂いを帯びている。そこには、軍務と良識の板挟みに揺れる葛藤が表れていた。
「この子はまだ子供だというのに……」
 ハオは何も言わなかった。そして、彼らの密やかな会話を遮るように、操舵手のベック・マルサスが大股で救護室に押し入ってきた。通信師のイライザ・シーガーも一緒だ。ベックは欠伸をしながらカプセルを一瞥し、その後ハオとレイチェルの表情を交互に見やった。
「ど? 順調?」
「まあな」
 ベックの言葉にハオは素っ気なく答えた。ベックは軽薄な優男だが、それ以上何か言うつもりはなかったのか、ただ肩をすくめただけだった。だが、イライザが余計な口を開く。
「ねぇ、それ、そんなに悩むコト?」
 ハオが明らかに眉根を寄せる。明確な意図などなく、ただ何となく出た言葉。だからこそ不愉快だった。だが、イライザは無邪気に、ベックは頭をかき、世間話のように続ける。
「おじいちゃん怖っ。そんなんだからハゲるんだよ。記憶や感情を消すだけで、死ぬワケじゃないんでしょ」
「そ。別にいーじゃん? 元々そういう目的で『造られた』兵器なんだし。そんなに肩入れしてると、第二のキース博士にならないとも限らな――」
「黙らぬか、若造ッ!」
 ベックの言葉を遮り、ハオは声を荒げた。怒りとも悲しみともつかぬ感情に驚き、イライザは一瞬怯むも、開き直ってベックの陰に隠れた。成功しているかは兎も角、こうしてベックの気を惹くつもりらしい。
「む、難しいコトわかんないけど、カーティスちゃんはうちらとは違うし。宇宙の平和の為に必要な犠牲……だよね?」
「その考え方が間違っとると言っておる!」
「やめて下さい皆さん、クルー同士で言い争いは……」
 若者と老人の間であるレイチェルが仲裁に入ると、また扉が開き中年の男達が入ってきた。その顔を見てベックはぎょっとする。
「げっ、艦長!?」
「今日も職務怠慢か」
 来訪者は艦長であるバートン・ギャロウェイと、彼の盟友たる観測手ゴーチェ・ヒューバートだった。バートンはベックに近づくと黙って拳を落とした。頑強な腕から放たれる一撃は、只の拳骨であっても痛い。
「いったぁ! 艦長、もうちょい手加減して下さいよ!」
「自業自得。全く、これだから君は……早く操縦室に戻りなさい。イライザもだよ、何だいその服と化粧」
 寡黙なバートンの心中を穏やかで口賢いゴーチェが代弁する。いつもの光景だ。モヌ星雲の最新トレンド、と呟くイライザをよそに、レイチェルはセドリックを見やる。
『重要機密に関する会話が行われた為、艦長に通達致しました』
 良くも悪くも機械らしい対応だった。慌てて持ち場に戻ったベック達と入れ替わり、バートンとゴーチェもカプセルを覗く。
「検査結果は」
『問題ありません』
 沈黙するハオ達の代わりにセドリックが答えた。『今回は』被験体カーティスに不要な記憶や感情は生じていないようだ――バートンは短く息を吐く。
「安心してる?」
 ゴーチェが囁いた言葉は他のクルーには聴こえなかったろう。君の考える事は解るさ、とばかりに顎髭を撫でる彼に対し、バートンは僅かに首肯した。
「……ああ」
「はは。君はまだ人間に近い方だ。僕なんかはいつの間にか忘れてしまうよ。……博士の事も」
「…………お前はそれでいい」
 『不要物』を消去する権限は艦長たるバートンの手中にある。つまり『問題あり』と報告されれば、また削除命令を出さねばならない。これは任務。表向きの仕事とは違う、軍務だ。それでも、人間のバートンには忘れる事ができない。
 かつてハオ達のように被験体の人権を訴え、反逆者として処分されたあの痩躯の科学者を。彼こそがカプセルの中で眠る少年の父ともいえる存在である事を。
 刑の執行者の名は――カーティス・コールリッジ。
 残酷な真実の記憶を消した事が、間違いだったとは思えなかった。

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Experimental anti-oblivion : 1
Representative : Keith=Coleridge

Name : Curtis
Special Notes : **** **** ****

任務、自己、軍ニ疑念ヲ抱イタ場合
余分ナ感情ガ超過シテイルト判断シタ場合
艦長ハ任意ニ被験体XXノ記憶ヲ改竄及ビ消去スル権限ヲ与エル

キース・コールリッジ博士ノ反逆罪ニ於ケル処分ニツイテ言及シテハナラナイ
被験体ニ事実ヲ通達スルコトハ不許可

コレハ命令デアル
コレハ総意デアル
コレハ――、

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 ヤ! おれは……カーティス。
 クルーのみんながだいすきなんだ。うん、おぼえてる。
 さあ、今日もきれいなものを探しにいこう!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年01月21日


挿絵イラスト