●わたしの扉
長い冒険だった。怖い思いをたくさんしたけれど、愉快な仲間達は皆優しく導いてくれた。
だから、自分の扉を見つけたその瞬間は、ちょっぴり寂しいような気もしたけれど、応援してくれた皆に胸を張れると、誇らしくもあった。
――そんな感慨は、一瞬で崩された。
扉の前に待ち構えていたオウガの群れ。捕まったら頭からバリバリ食べられてしまうのかと思っていたけれど、扉に磔にされてしまって。
でも、身動きが取れないまま、敵意と殺意に満ちた幾つもの眼差しに見つめられるのは、ただただ、恐ろしくて。
遠のく意識の中で思った。
わたしの冒険は、ここで終わってしまったのだと――。
●標本少女
「アリスラビリンスにおける猟書家幹部の一人、『プラーラ・シュメット』に捕らわれてしまったアリスを、救ってあげてほしい」
グリモア猟兵エンティ・シェア(欠片・f00526)は、件の幹部の目論見を語る。
この世界に召喚されてしまったアリス達は、皆が『自分の扉』を持ち、その扉から己の世界に帰れることは周知のことだろう。
そして志半ばで朽ちてしまったアリスの扉は、消滅してしまうことも。
しかしプラーラは、扉を見つけたアリスを、その扉に磔にしてしまうことで扉の消滅を防ぎながらアリスを絶望させ、オウガに堕とすことが可能なのだ。
そうして、オウガ化したアリスを、扉ごと連れ去ろうとしているのだ。
「オウガ化したアリスが、『自分の扉のあった国』を地獄ような状況に変えてしまう現象を、扉ごとの転移によって任意に作り出そうとしているというわけさ」
鉤爪の男とやらの目論む『超弩級の闘争』の引き金になると考えているようだと告げながら、エンティはメモをめくる。
一先ずは、転移の魔法を準備している間、扉を護るように囲んでいる配下達を蹴散らして行くのが肝要だろう。
「捕らわれてしまったアリスは、名を『葵』と言うそうだ。少女と呼んで差し支えのない年頃だからね、沢山のオウガに囲まれ囚われて一人ぼっちの状況は、さぞ、辛かろう」
だから、力になってあげてほしい。
今は少女の意識はなく、明確な言葉のやり取りは出来ないけれど、掛けた言葉は、届いているだろうから。
「敵を排除し、彼女を開放してあげておくれ。そうすればきっと彼女の意識も戻るだろうし……心を奮い立たせることが出来たなら、幹部との戦いにも、助力してくれるかもね」
メモを閉じ、エンティは恭しく礼をする。
そうして、任せたよと微笑むと、道を開くのであった。
里音
アリスラビリンスよりお届けです。
集団戦、ボス戦の二章仕立て。
集団戦は意識のないアリスに励ましのお言葉を掛けてあげてください。
返事はないでしょうが、聞こえてはいるはずです。
ボス戦では、アリスの気持ちが前向きに戻っていれば戦闘に参加してくれます。
二章以降時の断章にてアリスの能力等含め記載予定です。よろしければ参照までに。
●アリス
葵(あおい)さんというお名前です。
中学生~高校生くらいに見えます。
基本的には前向きで頑張り屋な性格ですが、今はもうだめだーという気持ちでいっぱいになっています。
熱い声援が響きやすいことでしょう。
皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 集団戦
『ぷんすかさま』
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POW : 燻り狂う
【怒りの感情を他人に向ける】事で【刃物の様に鋭い水晶に覆われた怪物】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : 刻み刈りヴォーパル
【無数の光り輝く剣から斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 怒めきずる
【アリスが生きている事への怒り】【アリスが守られている事への怒り】【アリスがまだ自分の餌になってない怒り】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
イラスト:そらみみ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エイベル・シュテンレー
わぁ。ピリピリしてて嫌な空気ッスね!
怒った顔ばっかりしてたらそりゃ葵さんも怖くて当然っすよ! もっと楽しくいきましょ!
という訳で、ピリピリを楽しくするためにあっしが一役買うっすよ!
火の輪くぐりみたいに、ぷんすかさまの斬撃をギリギリで避けて【パフォーマンス】に仕立てていくっす。
大丈夫! 【ショウタイム★アワーイーター】で敵さんは遅くなるはずっすからほら、この通り!(シルクハットを取ってニッコリ笑って見せて
さて、避けるだけじゃだめっすよね!
キラキラコウモリくーん! 出番っすよ! 俺みたいに攻撃を避けながらキラキラな【レーザーで射撃】していっちゃって下さいっす!
怖い人達にはご退場願うっすよ!
●
『自分の扉』に磔にされ、意識を失ったアリス。その存在を連れ去る準備をしている猟書家幹部の配下として、『ぷんすかさま』達はアリスを護っていた。
けれどそれは、彼女達にとってはひどく腹の立つことだったのだろう。
どうして私達がアリスなんかを護らねばならないのだ。そんな感情が溢れかえり、殺意と敵意が渦巻いている様子を見て、エイベル・シュテンレー(きらきら光る星蝙蝠・f37371)は声を上げる。
「わぁ。ピリピリしてて嫌な空気ッスね!」
その声に、鋭い眼差しが一斉に向けられるけれど、お構いなしにエイベルは微笑みかける。
「怒った顔ばっかりしてたらそりゃ葵さんも怖くて当然っすよ! もっと楽しくいきましょ!」
エイベルが明るく振る舞えば振る舞うほど、ぷんすかさま達は苛立ちを募らせたように表情を険しくしていった。
そんな苛立ちがなくたって、アリスを救おうとする存在は、邪魔なのだから。当然のように光り輝く剣を掲げ、エイベルへと斬撃を放った。
「おぉっと、危ないことをしてくるっすね」
次々と放たれる斬撃は容赦なくエイベルを攻めるけれど、彼は身軽なステップでそれらを躱していく。
時にギリギリをかすめて行くこともあるけれど、ハラハラ感はエンターテインメントに大事な要素だ。
「ほらほら、カリカリしないで楽しいことでも見てましょ?」
くるり、ひらり。エイベルが攻撃を躱す所作は、踊るようでもあり、弾むようでもあり、明らかに魅せることを意識している。
そうやってパフォーマンスとして昇華された回避行動は、エイベルのユーベルコードの力によって、それを楽しめぬ者の動きを制限するもので――当然、腹立たしさに表情を険しくしているぷんすかさま達が逃れることは出来なかった。
より一層回避がしやすくなった斬撃と踊るように戯れながら、エイベルはシルクハットを取って軽やかに一礼。
にっこり笑顔にぱちんとウィンクも添えて、葵の安心感を高めていく。
「――さて、避けるだけじゃだめっすよね! キラキラコウモリくーん! 出番っすよ!」
呼ぶ声に応じて現れたのは、複数体のドローン。それも、やたらとキラキラ光る羽を持つコウモリ型だ。
「俺みたいに攻撃を避けながらキラキラなレーザーで射撃していっちゃって下さいっす!」
ゴーサインに合わせて飛び立ったコウモリ達が、ひらひら、キラキラを振りまきながらレーザーでぷんすかさま達を攻撃していく。
けれど、どうあがいたって楽しむという感情を有さない彼女達には、満足に回避もできぬまま、倒れていくよりほかなくて。
「怖い人達にはご退場願うっすよ!」
ここはもう、綺羅びやかな舞台なのだから!
大成功
🔵🔵🔵
樂文・スイ
拷問にしたって怖がらせるだけなんて芸がねえよな
センスのないことする輩の思い通りになんのは癪だね
不憫なお嬢さんは自由にしてやらんとな
可愛い敵さんどもには狐の嫁入りを使う
誘惑、威圧でつい言うこと聞きたくなるようにしたいねぇ
ずっと怒ってんのは楽しくねえだろ?
俺がもっとイイコトしてあげっから道開けてくれな
警戒が薄れたら片っ端からナイフ投げで攻撃してく
部位破壊や傷口をえぐるでダメージ増加を狙おう
幸運と勝負勘で相手の攻撃はなるべく察知して避けたいね
葵ちゃんだっけ?
正義の味方が来ましたよっと!
君のこと痛めつけてる奴らは俺らに任せときな
アリスってのは最後は現実に戻るもんだ
こんなとこで君の物語は終わらせねえよ!
●
敵意と殺意に塗れた娘の集団の奥に見える、ぐったりと意識をなくしたアリスの少女。
見つめ、瞳を細めて。樂文・スイ(欺瞞と忘却・f39286)は緩く肩をすくめる。
「拷問にしたって怖がらせるだけなんて芸がねえよな」
絶望させるのなら、もっと上手なやり方もあるだろうに。
もっとも、相手が年端もいかない少女だからこそ、恐怖がより強く響いたのかもしれないけれど。
「センスのないことする輩の思い通りになんのは癪だね」
そのセンスの無さに巻き込まれた不憫なお嬢さんは、自由にしてやるべきだろう。
目的ははっきりと見据えつつも、スイの眼差しは穏やかに、柔らかく、『ぷんすかさま』達を見つめていた。
アリスが生きていること。アリスが守られていること。アリスがまだ自分の餌になっていないこと。ぷんすかさまはいつでも怒っていて、その怒りは全て、アリスに起因している。
そんな楽しくない状態でずっと居るなんて、難儀なことだ。
けれど――。
「だぁい好きだよ」
いじらしくて、いっそ一途なその様は。
だからこそ、たまにはその怒りを忘れて、楽しいことでも考えていればいい。
「俺がもっとイイコトしてあげっから道開けてくれな」
例えば、なんてナンセンスなことを聞くものではない。
期待だけでも十分心を揺らすでしょう?
「俺のお願い、聞いてくれるよね?」
甘い、甘い、口説き文句。
それに伴う心がどんなに薄っぺらくたって、声と抑揚で誘惑の魔法はかけられるもの。
にっこりと笑いかける顔にひと時でも心奪われ敵意を忘れたなら――もう、スイの術中だ。
甘い顔のまま、ナイフを突き立て、引き抜いて。急所を狙って抉ったナイフの血を払いながら、なんでも無いことのようにまた囁きかける。
尽くし、添い遂げたいと願う感情が途切れるまで、ぷすんかさま達はただ膝を折って、呻くだけ。
そうやって道を開きながら、スイは磔アリスの葵へと、声をかけた。
「葵ちゃんだっけ? 正義の味方が来ましたよっと! 君のこと痛めつけてる奴らは俺らに任せときな」
少し明るい声音は、甘さよりも爽やかさがずっと色濃くて。
熱意を込めるような言葉には、明確な激励が籠もっていた。
「アリスってのは最後は現実に戻るもんだ。こんなとこで君の物語は終わらせねえよ!」
その声は、きっと届いただろう。頷くことも出来ずに項垂れている少女の勇気を信じて、スイはまたナイフを振るう。
おっかない目をしている娘さん達が、目覚めた少女を怯えさせることのないように。
大成功
🔵🔵🔵
天道・あや
確かに扉の前でアリスを待つ方が楽かもしれない。
……とはいえ、それはちょっと、いや、かーなーり、…セコくてズルいとあたしは思うわけですよ
ーーだから、邪魔させて貰うぜ、その企み。今も、この先も……!
葵ちゃんよし、扉よし、救出準備よし
そんじゃ、いっちょ行きますか!
現場に着いたら【ダッシュ】で敵集団に突撃して【挑発】で敵をこっちへと【おびき寄せ】!
そして敵の注意を惹いてる間にUCで来てくれた船団員さん達に葵ちゃんの救出を頼む!
葵ちゃーん!初めまして!あたし天道あや!いきなりで何だけど、葵ちゃんには夢ややりたいことあるー? あるよね、きっと!!あたし達が今助けるならその事を想像して待っててねー!
●
むむ、と難しい顔をして、天道・あや(| スタァーライト 《 夢と未来照らす一番星! 》・f12190)はそこに居た。
『自分の扉』を見つけたアリスをいち早く発見し捕獲する。そんなオブリビオン側の目的を達成するためには、確かに扉の前でアリスを待つという手段は楽なものだろう。
いっそ効率的とも言えるかもしれない。上手く考えたものだとは、思う。
「……とはいえ、それはちょっと、いや、かーなーり、……セコくてズルいとあたしは思うわけですよ」
難しくひそめられていた表情が、不満げに歪む。けれど、あやがそうやって不愉快気な顔をするのは一瞬だけのことだ。
「――だから、邪魔させて貰うぜ、その企み。今も、この先も……!」
シンガーソングライターたるもの、人前に出るのに笑顔は欠かせない。勿論、学生として生きる日常にも、猟兵として立つ最前線にだって。
不敵に笑って、あやは今日も前だけを見て、なすべきことを指差し確認。
「葵ちゃんよし、扉よし、救出準備よし。――そんじゃ、いっちょ行きますか!」
磔にされた少女を真っ直ぐ見据え、たっ、と地を蹴り猛然と駆けるあや。
その姿を見つけた『ぷんすかさま』達が、敵意を乗せた鋭い眼差しを向けてくるが、お構いなし。むしろもっとこっちを見ろと言わんばかりに、あやは大きく息を吸って、声を張り上げた。
「助けに来たよ!」
パッ、と明るい声は、響いて響いて、アリスである葵の元まで届くようにと紡ぐもの。
けれど同時に、アリスに怒りを抱くぷんすかさま達の感情を逆なでする挑発でもあった。
怒りに眦を吊り上げたぷんすかさまは、アリスを攻撃できない立場を命ぜられた鬱憤を晴らすかのように、あやへと武器を振りかざす。
そうして襲いかかってくる集団をかいくぐるようにけしかけたのは、幽霊船の船員達だ。
「ふ、船の上とかじゃないけど、出来ればお力をお貸しお願いします!!」
請う声に、応えるようにして呼び出された船員達は、それぞれが戦闘力を持たない、音楽や芸術を紡ぎ出すのがお得意のご陽気な幽霊達。
葵を直接助け出すにはやや力不足感は否めないけれど、助けようとする意思を届けるのには、十分だった。
「葵ちゃーん! 初めまして! あたし天道あや! いきなりで何だけど、葵ちゃんには夢ややりたいことあるー? あるよね、きっと!!」
よく通る朗らかな声は、ぷんすかさま達の金切り声を切り裂いて、響く。
大きく手を振ってもも、意識のない彼女には見えないのだけれど。
なんだか、項垂れているはずの葵の顔が、ほんの少し前を向いたような――そんな、気がしたから。
「あたし達が今助けるからその事を想像して待っててねー!」
挑発なんかじゃない、とびきりの激励を、最高の笑顔に乗せて放つのであった。
大成功
🔵🔵🔵
キャスパー・クロス
扉を見つけ未来への希望に溢れたアリスを捕まえるなんて……
あまりに卑劣で残酷なやり方に、怒りで震えるよ
【空中浮遊】して、【推力移動】で葵さんのいる地点の上空へ
「葵さん!もう大丈夫!」
【大声】で呼び掛け、敢えて敵の注目を浴びよう
「仲間達に支えられてようやく掴んだ葵さんの未来、取り戻しに来たよ!」
上空から来たのは、ヒーローっぽいからってのもあるけど、もう一つ
「鴇羽色……」
UCを発動、地上の敵集団に向けて掌を構える
上空vs地上なら必然、敵からの攻撃は下からのみ──つまり私から見て『正面から』のみになるから
この《鴇羽色は匂やか》の絶対防御を最大限に活かせる!
「私は|終焉を壊すもの《エンドブレイカー》!葵さんの旅はこんな所で終わらせない!!」
エンドブレイカーの矜持と共に【勝者のカリスマ】を示して
敵からの斬撃は風のオーラを纏った掌で叩き落とし
代わりに蹴り足から烈風の【斬撃波】を放って叩き込む!
「|扉《希望》まであと一歩、あと一歩なんだよ、葵さん!ここはまだ終着じゃない!
だから……目を覚まして!」
●
磔にされたアリスを護る、『ぷんすかさま』達。
彼女らは皆、アリスという存在に対して怒りを抱き、いつだって機嫌を損ねた顔をしている。
けれど、その中の誰一人とて、キャスパー・クロス(空色は雅やか・f38927)の抱いた怒りには及ぶまい。
手のひらに爪の跡を作る程に拳を握りしめて、キャスパーはわなわなと震えていた。
「扉を見つけ未来への希望に溢れたアリスを捕まえるなんて……」
あまりに卑劣で、残酷なやり方だ。
あぁ、だからこそ彼らにとって都合がいいのだろう。アリスをオウガとするためには、より絶望を抱かせるやり方を選ぶことが。
すぅ、と大きく息を吸って、吐いて。キャスパーは理性で怒りを宥めて、一歩、進む。
待ってて。小さく口元で呟いて、地を蹴る。
駆ける足は、そのまま弾むように飛び上がれば自然とキャスパーの身を中空へと躍らせた。
頭上から生じた唐突な影に、ぷんすかさま達は一様に上を見上げるが、一瞥だけして、一度視線を背けて。群れの奥で項垂れるアリス――葵へ、声を張り上げた。
「葵さん! もう大丈夫!」
大きな声での呼びかけは、自身がぷんすかさま達の敵であるということを明言するのと同じこと。
だが、それでいい。睨むような眼差しは突き刺さるようだけれど、そうやって注目をあびることだって、目的のひとつなのだから。
「仲間達に支えられてようやく掴んだ葵さんの未来、取り戻しに来たよ!」
自分は、アリスを助けに来た存在だと強く知らしめることで、ぷんすかさま達の怒りを煽れば。
彼女達は輝く剣を振りかざし、無数の斬撃で以て、キャスパーをねじ伏せようと攻撃してくる。
「鴇羽色……」
――全て受けて立つ!
風のオーラを纏った掌を体の前に突き出し構え、キャスパーはようやく、ぷんすかさま達を見据える。
上空から仕掛けたのは、ちょっと正義のヒーローっぽい印象を持たせられるかな、なんて目論見もあったけれど、何よりもこのユーベルコードのための措置だ。
上からなら、見渡せる。どんな攻撃も、どこから来るのかを見極められる。
そしてそれは、下から上への一方に限られるゆえに。己の『正面』で捉えるのは、至極、容易だった。
キャスパーの掌が纏う風のオーラは正面からの斬撃を打ち払い、掻き消していく。それと同時に、素早く繰り出される足刀から放たれる斬撃波が、ぷんすかさま達へと放たれていく。
きゃあ、と短い悲鳴を上げて倒れるぷんすかさま達は、こちらの攻撃が通っていない様子に苛立ちを一層際立たせ、がむしゃらに斬撃を繰り出してくるけれど、受け止めた風のオーラがそれを阻み続ける。
防御を優先する以上、キャスパーに自発的な行動は出来ない。それでも、ぷんすかさま達が攻撃をし続ける限り、反撃の斬撃は彼女達を切り刻み続けるのだ。
「私は終焉を壊すもの! 葵さんの旅はこんな所で終わらせない!!」
高らかな宣言は、長く戦いを続けてきたエンドブレイカーとしての矜持を込めて。
目の前にあるのが理不尽な終焉ならば、壊し、覆すだけ。
「扉まであと一歩、あと一歩なんだよ、葵さん! ここはまだ終着じゃない! だから……目を覚まして!」
祈るような声に、項垂れていたばかりだった顔が、ゆっくりと持ち上げられた。
目を覚ます兆しが見えている。けれど、目覚めた時にまだ敵が残っていては、身動きの取れない葵は怯えてしまうだろうから。
「残る敵は、あなただけだよ……!」
ここまでくれば、完全防御に頼らずとも、戦える。
くるりと身を翻して素早く滑空したキャスパーは、未だ立ち続けるぷんすかさまの真正面に降り立つと、鋭い襲撃を放った。
踊るように軽やかに、繰り返しの痛打を浴びせて昏倒させれば、先駆けの集団はそれでおしまい。
軽く息を吐いて、キャスパーは振り返る。
そうして、扉に磔にされた少女が、ゆっくりと目を覚ますのを見守った。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『プラーラ・シュメット』
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POW : 標本収集者
【動きを止める麻酔針】【動きを封じる鎖】【貫き留める銀の杭】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : クロロホルムの霧
【高濃度クロロホルムの霧】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ : 白銀の蝶
対象の【『機械歯車の鱗粉』に触れた箇所】に【白銀の蝶】を生やし、戦闘能力を増加する。また、効果発動中は対象の[『機械歯車の鱗粉』に触れた箇所]を自在に操作できる。
イラスト:ゆりちかお
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠幻武・極」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●絶望標本
「わたし……どうなったの?」
ぱちり、ぱちり。何度も瞳を瞬かせ、少女は不安げな顔で猟兵達を見た。
けれど、そこに並ぶ表情が皆頼もしく、勇気づけるようだったから。アリスは――葵は、悟る。
また、助けられたのだと。
そして、未だ驚異は存在しており、『自分の扉』を通るためには、また、助けてもらわねばならないのだと。
「可哀想なアリス。戦う手段もないのに我儘を言って、また、貴方のために傷ついてもらおうとしているのですね」
憐れむような、静かな声で。猟書家幹部『プラーラ・シュメット』は告げる。
白銀色の蝶を侍らせて、ぜんまい仕掛けの人形を抱いて。ゆっくりと、葵を見つめる。
「終わらせてしまえば、よろしいのに。大丈夫、痛みなどありませんわ」
ただ、深く深く眠るだけ。そう言って漂わせるのは、高濃度のクロロホルムの霧。
捉えること、封じることに長けた女は、猟兵達を一瞥だけして、葵へと手を差し伸べる。
「私の元においでなさい。なんにもできない、可哀想なアリス」
その誘惑は決して甘いものではなく、いっそおぞましいものだけれど。葵は真っ直ぐに睨み返して、首を振る。
「わ、わたしは、帰らなきゃいけないんだ……助けてくれた沢山の人達に報いるためにも、無事に、帰らなきゃ行けないんだ!」
そうして、猟兵達を見つめて言うのだ。
「わたしは、戦う事はできないけど、皆さんの力を強化することは、出来ます」
祈るような所作とともに現れる、光の塊。光の精霊と呼んでいるその存在は、葵が強い感謝を抱いた対象を強化する力を持つという。
ただし、その代償として、葵は自衛手段を失う。
「甘え、させてください。どうか、わたしを護ってください……!」
――プラーラは、彼女に力を行使してもらわねば勝てぬ相手というわけではないだろう。
けれど、護られることしか出来ない少女の精一杯を聞き入れてやることは、彼女の心を安らげることだろう。
どちらだって良い。どちらだって、やることは変わらない。
猟書家幹部を倒し、アリスを救う。
それが、猟兵としてこの地に赴いた、目的なのだから。
マリエ・ヘメトス
スイさん【f39286】と共闘
自身を危険に晒すのも厭わず、わたしたちを助けてくれるなんて…
葵さん、あなたの想いは無駄にはしない
共に試練を乗り越えましょう
眠らされないよう距離をとって、屍衣を纏いて、でだんなさま(使役する死者)を敵の恐れるものにみせる
あなたのこわいものはなに?
敗北かしら、それとも孤独?
これをみて少しでも不安になったなら…膝をついて、祈りなさい
あなたの罪が贖われるように
UCを使用しながら後方で葵さんを護るわ
麻酔針や鎖が飛んでくるようならカウンター、誘導弾で対応
天は自ら助くる者を助く
他者の奉仕に報いようとする彼女には、必ず救いが訪れます
樂文・スイ
マリエちゃん【f39275】と共闘
可愛い子に甘えさせてなんて言われたら断れないよねえ
いっちょ一肌脱ぎますか!
まずは十分に距離を取り、因果律の天狐で敵さんのツキを奪おう
幸運や勝負勘はこっちの独壇場だ
運のないやつが攻撃当てたりできると思うかい?
ついでに能力が暴発でもしてくれりゃ儲けもん
マリエちゃんの能力で怯むようなら懐に飛び込んでナイフを振るう
こっちにも不安や恐怖を与えるよう威圧してやろう
そのうえで目潰し、部位破壊を行い、さらに傷口をえぐる
別に俺らは強制なんてされてないし?
可愛いお願いはワガママって言わねえんだよなあ
お前こそ欲しがってばっかいねえで、大人しくしてな!
●
甘えさせて。そう告げた葵は不安じみた顔をしていた。
だからこそ、樂文・スイ(欺瞞と忘却・f39286)は表情に甘い色を添えて、揺れる瞳を見つめるのだ。
「可愛い子に甘えさせてなんて言われたら断れないよねえ。いっちょ一肌脱ぎますか!」
当たり前のように少女の前に立つ男に、マリエ・ヘメトス(祈り・f39275)もまた、ふ、と短く笑みこぼす。
一度、葵の祈るような手に己の手をそっと添えて、それから、彼女が呼び出した光の塊を見つめて。
「自身を危険に晒すのも厭わず、わたしたちを助けてくれるなんて……」
優しく語りかけながら、少しだけ添える手に力を込めて握る。
「葵さん、あなたの想いは無駄にはしない。共に試練を乗り越えましょう」
すく、と立ち上がったマリエはスイの少しだけ後ろに並ぶと、『プラーラ・シュメット』が散布する霧と、その中にふわりと漂う機械歯車達をを見やり、薄く瞳を細めた。
苦しませる毒でもなく、ただ眠らせるだけの霧。触れれば標本作りが目的のプラーラらしい手段なのだろう。
「眠らされては大変ね」
「そーね。距離は十分にとって……まずは、敵さんのツキを奪っておこうか」
手の中でナイフを遊ばせていたスイが放つのは、殺戮衝動。
ゾッとするほど冷めた笑みを口角に乗せて対峙するスイは、放出した衝動の隙間を埋めるかのように、敵対者の幸運を奪っていく。
光の精霊が強化するその効果のためか、『幸運にも』辺りに充満し始めていた霧を払うような突風が吹き、プラーラの瞳をわずかに丸くさせた。
「あぁ、これでよく見えるわ」
ニコリと微笑んだマリエは、自身が寄り添う死者である『だんなさま』に、ユーベルコードのまじないを施した。
「さぁ……あなたのこわいものはなに?」
促すままに歩み出た『だんなさま』を見て、プラーラは眉をひそめた。
それもそのはずだ。どう見えているかはマリエにもわからぬが、今の『だんなさま』は、ぷらーらにとって最も恐れるものに見えているのだから。
「敗北かしら、それとも孤独? これをみて少しでも不安になったなら……膝をついて、祈りなさい」
敬虔な聖職者でもあるマリエは、説くように語る。
恐ろしいのなら額ずきましょう。
求めず奪わぬならば、お慈悲もありましょう。
「あなたの罪が贖われるように」
「――くだらないこと」
細めた瞳と瞳が、かちりとぶつかり合う。
小首をかしげるマリエに、プラーラは手の中のぜんまい仕掛けの人形をあそびながら、ゆるりと首を振ってみせる。
「不安など、心の弱いものが抱くもの。私には縁のないものですわ」
「そうかい。それなら実感させてやろうかね」
地を蹴るスイの足が、真っ直ぐにプラーラとの距離を詰める。
振るわれるナイフの切っ先は布に隠された女の目を抉らんと突き出され、あるいは肉の感覚を求めるようにひたすらに振るわれる。
本来のプラーラにとって、それを躱し切るのはさほど難しくはないことなのだろうけれど。なにせ、彼女の幸運は根こそぎ奪われているのだ。
裾の長いドレスに足を取られてみたり、逆光に視界を妨げられたり。
ごくごくささやかな不幸が、幾つもの傷を負わせてくるのだから、腹立たしい。
「いっそお得意のクロロホルムで眠ったら傷も癒えるんじゃないか?」
「そうね。それじゃあ皆で、眠りましょう?」
強烈な麻酔効果を持つ霧が放たれるも、咄嗟に距離を取ることで『運良く』難を逃れるスイ。
「残念。幸運の女神サマは、俺にぞっこんらしいんで」
「そのようね。忌々しい」
言葉通りの苛立たしげな顔で、葵を睨もうとするのをマリエが体で遮る。
更に立ちはだかる『だんなさま』は、相変わらず恐怖と不安を煽ろうとする様相なのだから、苛立ちは増すばかり。
「私のために傷ついてくださいだなんて、我儘なアリスだこと」
「別に俺らは強制なんてされてないし?」
葵の心を折ろうとする言葉をピシャリとはねのけて、スイは軽くウィンクをしてみせる。
「可愛いお願いはワガママって言わねえんだよなあ。お前こそ欲しがってばっかいねえで、大人しくしてな!」
再び地を蹴るスイを見つめる葵は目に見えてハラハラとした様子だ。
不安が無いわけではないのだろう。それでも逃げ出さず、目をそらすこともしない少女を、マリエは微笑ましげに見つめていた。
「天は自ら助くる者を助く。他者の奉仕に報いようとする彼女には、必ず救いが訪れます」
せめて、その不安が少しでも晴れますように。
願うような言葉に、少女が眉を下げながらも微笑むのを、見つけていた。
大成功
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天道・あや
ーーOK!存分に甘えていいし、護らせて貰うぜ!(バシッと拳と掌を叩いて葵の前へと立つ)(| ファン 《 護るべき存在 》の| リクエスト 《 期待 》を聞くのはスタァとして当然。寧ろしてくれた事に感謝だ)
あ、護るその前に、ーーこれあげる。良かったら帰った後、聴いてね(最近発売した自分のCDを渡して、今度こそ前へ出て戦闘態勢へと移行する)
葵ちゃんよし!扉よし!葵ちゃんの未来よし! んじゃ、行くぜー!
見た感じ、あの針やら鎖やらは……触れてたら不味い予感。なら、避けるしかナッシング!
敵を【挑発】して葵ちゃんに攻撃がいかないようにしながら、【ダンス、見切り】で避けながら、UC発動!【歌唱、楽器演奏】!
●
「――OK! 存分に甘えていいし、護らせて貰うぜ!」
真っ直ぐな言葉は好きだ。天道・あやは、葵の前に立つと、バシッと己の掌を拳で叩く。
スタァはいつだってファンの前に立つもの。普段は向き合ってパフォーマンスを披露するものだけれど、今日ばかりは|ファン《護るべき存在》のために背を向けることを容赦してもらおう。
「|リクエスト《期待》してくれたことに感謝するぜ! っと、護る前にだ……――これあげる」
思い出したように振り返り、あやはきょとんとしている葵に、一枚のCDを差し出す。
聞いたことのない名前。だけれどパッケージに描かれているのがあやであることは、すぐに見て取れた。
「良かったら帰った後で、聴いてね」
きっと、元気が出るだろうから。
にっこりと微笑んだあやは、改めて戦闘態勢を取るべく葵の前へとでた。
「葵ちゃんよし! 扉よし! 葵ちゃんの未来よし! んじゃ、行くぜー!」
確認バッチリ、気合十分。
そうして改めて確認した敵の持つ武器の数々は、どうにもこうにも、殺意に乏しい代物だけれど。
それが、動きを封じることに特化した代物であることは『プラーラ・シュメット』という猟書家幹部の趣向を見ればけどれるから。
「……触れてたら不味い予感。なら、避けるしかナッシング!」
放たれるそれらは、あやを狙うと同時に葵を狙ってもいるのだろう。
自力で躱すということもままならない葵に覆いかぶさるようにして共に回避しながら、あやは積極的にプラーラとの距離を詰めていく。
「あたしが居る限り、葵ちゃんには指一本触らせないぜ!」
「まあ。勇ましいこと。だったら、避けずに受け止めてくださらないかしら。痛みなんて、なくってよ?」
「針も杭も刺されば痛いもんだろ!」
射線が葵へと向かぬよう、大きく目立つ動きで立ち回りながら、あやは口元にマイクを掲げた。
「右よし! 左よし! あたし、よし! それじゃ、一曲、いっくぞーー!!」
聞いていけ。魅了されろ。
力強い旋律が、心に突き刺さる音符となってプラーラを襲う。
心を奪う歌声に、明らかに動きを鈍らせるプラーラだが、振り払うように鎖を薙いで、あやの歌を強引に止めた。
「いっててて……でも、まだまだ終わらないぜー!」
一曲歌いきれないままで、スタァが引き下がってたまるかとばかりに立ち向かうあやを、光の精霊が照らし続けていた。
スポットライトさながらの輝きに、あやの歌う力が増したのは、言うまでもない――。
大成功
🔵🔵🔵
キャスパー・クロス
「ははっ…やっぱイイ女だね葵さん、気に入った!」
助けてと言える女はイイ女に決まってるのさ
そしてそれに応える女もイイ女に決まってる!
「どうぞ頼って。どうか甘えて。一人だけじゃ前に進めないと知っている貴女は、誰よりも強い」
いい旅をしてきたね。と笑顔を見せて
すぐに視線は忌むべき猟書家幹部の方へ
風を繰り、纏い、葵さんを護るように立って
戦闘開始と同時にUCを使用
「──承和色」
相手の攻撃は霧、ならば……私の操る風のオーラは天敵だろう!
目を閉じ、《承和色は綽やか》で風を読んで攻撃の流れを【見切り】
葵さんの力で増幅された風の【オーラ防御】で霧を吹き飛ばす!
そうして吹き飛ばしたクロロホルムの流れも確り読んで、葵さんには1粒子たりとも吸わせるものか
「防御だけじゃ…ないんだよ!」
霧の流れで敵の動きを読み取ったら、蹴り足から放つ風の【斬撃波】で遠距離からも攻撃
一度当てたらこっちのもの、UCの効果で攻撃力を底上げしつつ更に精度を高めた斬撃波の【連続コンボ】!
【早業】の【2回攻撃】も加え、烈風の勢いで斬り刻む!
●
「――ははっ!」
弾けるような声が響いた。甘えさせてほしい。守ってほしい。
申し訳無さに俯くでもなく、情けなさに唇を噛むでもなく、頼るべき相手を見据え、自分の限界を理解している少女。
それが、彷徨えるアリス、葵なのだろう。
「やっぱイイ女だね葵さん、気に入った!」
キャスパー・クロスの上機嫌な口ぶりに、葵は数度瞳を瞬かせた。
イイ女、だなんて。どうしてそんな風に言うのだろうと問いかけるような表情に、キャスパーは口角を上げて笑う。
「助けてと言える女はイイ女に決まってるのさ。そしてそれに応える女もイイ女に決まってる!」
だから、どうぞ頼って。どうか甘えて。
「一人だけじゃ前に進めないと知っている貴女は、誰よりも強い。――いい旅をしてきたね」
不敵に笑った女の、甘やかで優しい表情は、理想的な『姉』のようで。つられたように表情を緩めて、はい、と真っ直ぐに頷く葵。
たくさん助けてもらった旅立った。だからこそ、せめて己のために戦ってくれる人達が大きな傷を負うことのないように。
感謝の気持ちが、光の精霊を通してキャスパーを強化する。
その力を感じながら、葵に見せたのとはまるで対象的な鋭い視線を向ける先は、猟書家幹部『プラーラ・シュメット』。
ぎりぎりと、もう回らないだろうゼンマイを力任せに弄っている様子は、まるで不機嫌な子供のようだ。
敵意を込めた視線同士をぶつけ合う二人だが、その視線を遮るように漂う霧の存在が、徐々に濃くなるのを感じていた。
けれど、キャスパーは口元の笑みを崩さない。
「――承和色」
纏う風は、穏やかなものから始まり、徐々に強さを増していく。葵を護るような風は、場を覆おうとする霧を、吹き飛ばし掻き消す力を持っている。
「霧には、わたしの操る風のオーラは天敵だろう!」
なんたってこっちは、光の精霊の強化を得ているのだから!
瞳を伏せて視覚を遮断し、風の流れに意識を向ける。
さぁ、と道が拓けるように霧が晴れていくけれど、間違ったってその余波を葵に届けたりなどしない。風のオーラが全て巻き取って、遥か彼方へ運んでいくだけ。
勢いを増す風に、はたはたとドレスの裾が揺れ、髪が靡くのを払い除けながら、プラーラは、ふん、と短く鼻を鳴らす。
「お生憎様。風ごときで払いきれぬほどの霧を放つことだって、出来ますのよ」
「それなら、その前に叩くだけだよ!」
侮ってもらっては困る。風は、護るだけの壁ではないのだ。
笑みをぶつけるや、キャスパーは鋭く右足を薙ぐ。
それによって放たれるのは斬撃波。風を切り裂くどころか、流れに乗って勢いをますような斬撃波へ、プラーラは手に持つ人形を投げつけ回避するけれど、風の流れを汲み取るキャスパーの意識は、その細やかな動きも、見切っていた。
「――見えてるよ。防御だけじゃ……ないんだよ!」
流れる風に、乗せるように。繰り出される蹴撃は、立て続けの斬撃波でプラーラを襲う。
さながら烈風のような勢いは、吹き荒れるという言葉が相応しいほど。
普段より身軽に感じるのは強化のおかげだろう。『力のないアリス』と侮った少女の力に追い詰められているだなんて、プラーラに認められるだろうか。
「いつまでもコレクター気取りでいて、私達に勝てると思わないでよね!」
苛烈な瞳と、視線がぶつかったかと思えば。下から振り上げられた足が、華奢に見える女の体を、強かに蹴り上げた。
大成功
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エイベル・シュテンレー
わぁ、葵さんもキラキラが使えるんすね! 凄いっす! 綺麗っす!
でもでも! 無防備になっちゃうのはちょいと危ないかもっすね……あっしは守る手段とかないっすし……
という訳で葵さんを抱えさせてもらって、普通に翼による飛行で素早く移動して(【空中機動】併用)クロロフォルムの霧の範囲外に避難させてもらうっすよ! 眠っちゃったらちゃんと帰れないっすからね!
そしたらあっしは敵さんを超スピードとキラキラの世界にご招待っす!
霧の範囲外を飛び回って狙いを定めにくくしつつ【スピードスター★ライトシャワー】のディスクからの光線で攻撃するっすよ!
●
『プラーラ・シュメット』にとって、アリスはコレクションの一部に過ぎない存在だった。
だからこそ、殺すという想定がなく――それが、彼女にとって致命的だったと、言えるだろう。
「わぁ、葵さんもキラキラが使えるんすね! 凄いっす! 綺麗っす!」
猟兵たちからの攻撃を受け、よろめくプラーラの眼前で、はしゃぐような声でアリスと――葵と視線を合わせるエイベル・シュテンレーの姿があった。
さり気なくプラーラと葵の間に立ち、庇うように位置取るエイベルを含め、猟兵だって、絶望を彩る標本でしかないはずだったのだ。
眠らせて、針と杭で縫い止めて、きれいな姿で心を殺してやれば――。
「怖い顔で睨んできてるし、一旦避難させてもらうっすよ! 眠っちゃったらちゃんと帰れないっすからね!」
プラーラの思考を読んだわけでは全く無いけれど、睨むような眼差しと、にじみ出るようにあたりに広がる霧の気配を察知して、エイベルは素早く葵を抱え上げた。
葵はキラキラ――光の精霊を召喚した代償として自衛手段が失われている状態。かと言ってエイベル自身に葵を完全に守り切るような手段はない。
ならば至極簡単なこと。霧が、こちらに届く前に退避して、遠くから遠距離攻撃をお届けだ。
「しっかり捕まっててくださいっすよ!」
落とす気なんて無いけれど、超速での飛翔は恐ろしくもあるだろうから。
促せば素直に従う少女の無垢さに笑み浮かべつつ、エイベルは霧の範囲外をぐるり、飛び回る。
「ふふん、あっしのスピードに着いてこれるっすか?」
最大時速は1万キロを超えることも可能ながら、緩急をつけて飛翔するのは、プラーラからの攻撃に狙いをつけにくくするため。
無論、ただ飛び回っているだけでは埒が明かない。エイベルは霧の範囲をしっかりと見極めながら、流れ星を模した円盤状の何かを放つ。
エイベルが『シューティングスター・ディスク』と呼ぶそれは、ものすごいスピードで中空を駆けながら、プラーラに向けてキラキラ光る星のような光線で攻撃を仕掛けていった。
霧を晴らす手段がなくともかまわない。プラーラが霧の範囲を広げようと、エイベルの飛翔速度を上回るものではないし、生き物ではないディスクには関係がないのだから。
「ああ……嘘、うそ……私の標本が、コレクションが……完成しないまま、終わるなんて……!」
視界が霞む霧の中、女の嘆きと、断末魔が響いて。その瞬間、ぎゅ、としがみ付く腕に力が籠もった気がしたけれど、エイベルは何も言わず、霧が晴れるのを待って、地上に降りた。
二本の足で、少女はしっかりと地を踏みしめて、猟兵達へと向き直る。
「助けてくださって、ありがとうございました……!」
そう言って、深く、深く、頭を下げるのであった。
大成功
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●旅立ち
ひと時とは言え、己が磔にされていた扉に近づくのは、少しだけ勇気が必要だった。
それに、なんとなく理解していた。この扉の向こうにあるという、自分の元の世界は、決して、順風満帆で明るく楽しいだけの場所ではなかったのだろう、と。
だけれど、見送ってくれる人達は、皆、頼もしくて、そして、優しかったから。
躊躇なんて、一つも感じなかった。
「行ってきます」
大変な冒険をしてきた世界に、さよならを告げて。
一枚のCDを大切そうにぎゅっと抱きしめながら、少女は扉に臨むのであった。