第二次聖杯戦争㉑〜鉄血驟雨の降る頃に
そのこえは嗤うに。
『あっはっはっはっは!!!会いたかったぜ――なぁ、猟兵!!!!!』
地獄より叫ぼう。
狂乱の鉄血驟雨が降るこの地へ来るがいい。
『なぁ猟兵?私と家族と遊ぼうじゃあないか。今宵は王もおられるさ!!』
王の御前で踊ろうか。
にんやりわらう女は家族と共に待っている。
乱立する和洋中折衷のめちゃくちゃなビルの森、その天守でひどく優雅に足を組み、地獄でも手放さなかった改造モーゼル銃を手に、煙管より烟くゆらせ待っている。
その様を顎を擦り撫でた閻魔王が、酷く興味深げに学ぶように見ていることさえ余興だと――嗤いながら。
●鉄血驟雨の再演を
「――わたくしはまた、皆様にこの名をお伝えする日が来るとは思いませんでした」
眉間を抑えた壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)が疲れた顔で溜息をつくと、取りだしたのは一枚の資料――……記載されたのは過去、猟兵達が打倒したコンキスタドール 編笠だ。
騒めく声に杜環子は溜息をついた後、凪いだ瞳で言う。
「“過去”でございます。向っていただく地は小野立――ですがその地は閻魔王こと生と死をわかつものによって展開された“|闇の大穴《キリングフィールド》”が大口を開けておりまする」
それは地獄だ。
黒く昏く、しかして“人類の過去から未来の全てが混ざったような町並み”で平然とある。そして杜環子は言った。
「この編笠を懐より召喚した閻魔王のせいか、それとも召喚された編笠のせいか、ビルのように重ねられ乱立された建物でめちゃくちゃな場が、皆様の戦場となりましょう」
この暗き空間を駆け回ってもらうそう、杜環子が余りに苦々しげに告げるものだから首を傾げた者が問う。“何か問題があるのか”と。
すれば、はっとしたのちぽつりと杜環子は言う。
「閻魔王は猟兵の戦いを見ながら何やら“学ぶ”かのような仕草を見せますが……おそらく、皆様がそれに気を払う余裕は無いことでございましょう。召喚された編笠も、閻魔王も共に強敵で、どちらもユーベルコードの先制攻撃が参ります」
どうか対処をし潜り抜けてほしい。
切に願うように呟くその目が、すこしだけ揺れていた。
皆川皐月
お世話になっております、皆川皐月(みながわ・さつき)です。
ビルを垂直に駆けろ。
●注意:こちら一章のみの『第二次聖杯戦争』の戦争シナリオです。
●プレイングボーナス!:閻魔王と召喚オブリビオンの「先制ユーベルコード」に、両方とも対処する。
●第一章:『生と死を分かつもの』と『『編笠』inノワール』
ビルの群れの中鬼ごっこをしようか。
お前は私の商品になりえるのか?
なぁ猟兵!私と遊ばないか?命を賭けて!!!!!!
●戦争シナリオの為、🔵達成数で〆切を予定しています。
オーバーロードすると腕どころか他飛ぶかもしれないどうか頑張って。
※でも戦いにおいて失い過ぎませんしぬきでころしにきてください。判定に関わらずころしにいきます。
●その他
複数ご参加の場合はお相手の【呼称+ID】または【グループ名】がオススメです。
【★今回のみ、団体は2名組まで★】の受付です!
IDご記載+同日ご参加で確認がしやすいので、フルネーム記載より【呼称+ID】の方が分かりやすく助かります。
マスターページに文字数を省略できるマークについての記載がございますので、良ければご活用ください。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
最後までご閲覧下さりありがとうございます。
どうか、ご武運を。
第1章 ボス戦
『生と死を分かつもの』
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POW : テンタクル・ボーダー
戦場全体に【無数の触手】を発生させる。レベル分後まで、敵は【死の境界たる触手】の攻撃を、味方は【生の境界たる触手】の回復を受け続ける。
SPD : キリングホール
レベルm半径内に【『死』の渦】を放ち、命中した敵から【生命力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ : 閻魔浄玻璃鏡
対象への質問と共に、【無数の触手の中】から【浄玻璃鏡】を召喚する。満足な答えを得るまで、浄玻璃鏡は対象を【裁きの光】で攻撃する。
イラスト:佐渡芽せつこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●災禍の商人よ
『あぁーーー……長かった』
首を回し、腕を回し、女は嗤う。
背に居並ぶ“家族”を従えて、ひどく楽しげに煙管から煙くゆらせ待っている。
『待ってるぜ、|猟兵《商品》?|此処《地獄》でもお前達ならいい値がつくだろうからなぁ!』
モーゼル銃に粗悪な鉛玉を。
キメラのような摩天楼の上、優雅に足を組み直しーー……ギラつく瞳で待っている。
***
参考
『殲神封神大戦⑧〜鉄血驟雨』
https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=40089
吉川・清志郎
【アカシア】
鬼ごっこだ! 僕負けなーい!
……でも先に向こうが仕掛けてくるってことは、それを受ける僕らが鬼?
んー解らなくなってきた!
触手は風月さんと協力して★切断して
編笠の方は……うん、敢えて食らっておこうかな!
あっでも戦闘不能になったら目も当てられないし
風月さん突き飛ばしつつ致命傷は避ける形で
★幸運が味方してくれないかな!
網笠の方は風月さんに任せて
一旦ビルに身を隠してキリングホールの★闇に紛れながら
生と死を分かつ者にこっそり接近
射程範囲に収めたら
天術剣舞・翠雨で一刀両断!
……は、無理かも知れないけど一撃必殺狙い!
風月さん
後で僕のこと取りに来てね
あくまで本体の写しだけど
折れるのは嫌だからさ……
園守・風月
【アカシア】
……お前は何を言ってるんだ
触手は荊切で★切断し……
っておい! 押すな!
……何をやっている、お前
ちっ、仕方ない
女は俺が何とかする
編笠の元に向かいながらも
時折ビル内部も利用して★残像★忍び足も駆使し
攻撃を避けつつ近づいていくが
あと少し、というところを見計らって
★残像込みで敢えて隙を見せる
吉川のユーベルコードをコピーしていたな
誘発してやる
基本は★残像で受けるが
像を作るには俺自身が近くにいる必要があるからな
……四肢の一本くらいくれてやる
これで最低でも筋肉、神経
ふたつはイカれちまったなぁ?
お前は今や物言わぬ刀剣
二回、攻撃出来れば充分だ
圧し折ってやるよ!
……全く
子供が無茶をするもんじゃない……
●二刀のこえ
ビルの森向こうに座すのは、巨大な“閻魔王”と天覧で“鬼ごっこ”と笑う編笠に吉川・清志郎(星巡りの旅人・f37193)は笑っていた。
「鬼ごっこだって、風月さん!」
「……お前何――待て!」
闇に闇が蠢く。
『――沈むがよい』
閻魔王の声はほぼ園守・風月(地に足を・f37224)の言葉と同時。触手が溢れ踏み出す。
「やっぱり先に向こうが仕掛けて来るってことはさ?」
「悠長なことを言うな!」
『おいおい猟兵!|此処《品評会場》に遅刻は厳禁だ!』
遠目、ビル屋上で声張り上げた編笠の紫煙が龍となり清志郎と風月へと襲い来る!
互いの刃で触手斬り飛ばし、間髪入れず襲い来る紫煙龍の爪牙に清志郎は熟考3秒。
「風月さん」
紫煙龍の牙掠めながらも甘えた様な声で。
「鬼の役、風月さんの方が似合うでしょ?お願い!」
「――は?」
背中押されたことを叱るより早く風月は大口開けた紫煙龍を押し止め舌打ち一つ。
「ちっ、仕方ない……女は俺が何とかする!」
「はぁい!」
●vs無銘 清心
「(さぁて、どうしようかな)」
牙で抉られた傷口を押さえながらビルの間を縫うように走る清志郎は考える。
閻魔王は想像通りの巨躯。自身の攻撃がどこまで通用するかなど考えが及ばない。だが、“何かの一矢”になればいい。
闇に紛れ編笠紫煙の小龍をやり過ごし、背後の剣戟音が絶えぬことにホッとする。
風月は――無事。
「(きっと斬りきれないのはわかる、けど)」
『ほう』
目が合った。怖気が奔る。
「~~~っ!」
それでも、抜いた刃は振り降ろさねば意味がない。
「|俺《・》が――斬る」
抜く刃はその身。
|真の打刀・清心《・・・・・・・》――清志郎そのもの!
UC―天術剣舞・翠閃―へ迸る地獄に無き鮮烈な翠の極光を今揮う。
「――風月さん、取りに来てね」
“必ずだよ”そうした約束はほんの一瞬闇を断ち、その場に鋼が一刀に突き立った。
●vs面忘の藪椿
主と同じ性質らしく執拗に風月へ襲い来るその龍の目を貫けば、醜い咆哮の後霧散した。
「(あいつはもう行った。なら、)」
『おいおいつまらないなぁ、ちゃあんと私が見えてないのか?ん?お前……』
走り出そうとした風月の前にソレはいた。
「――は、?」
『いいねぇ!イイ男に花が咲いている!こりゃあ相当な値が付きそうだ!』
勢いよく風月の顔を掴むと品定めするように口角を上げた編笠が哈哈と嗤ったその手を振り払えば、“おや、強気かぃ?”と揶揄うような声。
「貴様っ!」
『お前は愛でても摘んでも喜ぶ客は多いと思うが』
「戯言を――!」
“お堅いな”と風月の一閃に身翻した編笠が紫煙龍を残し逃げた――のは、風月の狙い通り。
「(紫煙龍はあいつの技を写していたはず)」
|元に戻ってしまう《・・・・・・・・》ほどの一撃……つまり、この龍ならは“ただの煙に戻る”一撃を。
向けた剣先を揺らす。
「来い。捕まえてみろ」
鬼がどちらか。さあ遊んでやろうと喰らわせた残像ごと、美しい剣閃がその首を獲った。
追い追われる戦いは苛烈を極めた。
襲い来る龍を残の像と友に切り捨てた果てに、編笠を押さえ込んだ風月の腕に突き立つ匕首が、回される。
「~~~~往生際の悪い!」
『おいおい、この程度で済むと思うなよ!』
吸おうとした煙管を無理矢理握り込み奪えば焼けたはあの痛み――を、風月は贄にした。
UC―蕾、斬々舞―!
『――いいねぇ売らせてくれよ花の盛りのお前を!!』
「断る。が、四肢の一本くらいくれてやる!」
対価はお前の頸でいい。
ごろり転がった頸に笠をかけた風月は競り上がった血を吐き捨て、突き立った|清志郎《打刀 清心》を震える手で納刀し闇へ紛れた。
「……全く。子供が無茶をするもんじゃない」
鍔鳴りが一つ相を打つ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
一度倒したのだから大人しく死んでおけ……ってのはオブリビオン相手には詮無き事か
悪いが遊んでやる時間はない。手っ取り早く片付けさせてもらうぞ
神刀の封印を解除して、バイク『八咫烏』に騎乗
走行可能な空間を全速力で駆け巡り、ビルの窓から窓へと飛び移りながら壁を遮蔽物として、死の渦や銃弾を回避
ひとしきり走り回った上で、生と死をわかつもの達の元へ
横転ギリギリまでバイクを倒して急旋回
そこからバイクを蹴るようにして素早くバイクを飛び降り、更に高速のステップで生と死を分かつものへ接近――編笠からの銃撃はこの際無視だ。2対1でまともな戦いにはならないし
伍の秘剣【灰桜閃】で4連続攻撃を叩き込み、確実に仕留めにいく
●撃ち抜かれた腕の記憶を
それは夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)にとって斬った覚えのある姿であり、それはコンキスタドール 編笠にとって売り捌き損ねた相手であった。
真っ赤な瞳が弓形に嗤えば、黒い瞳が顰められる。
『あの時は随分やってくれたよなぁ!お陰で私は“腕”も“刀”も売り損ねた!』
「大人しく死んでおけばいいものを」
静かな鏡介の声を嗤う編笠が手を上げた瞬間、ビルの上から鏡介睨む数多の銃口。
『今度こそ右腕は売らせてもらおう。|ソイツ《神刀》も纏めてなぁ!』
「――悪いが遊んでやる時間はないよ」
手が下げられた瞬間、口火切った銃撃の雨を姿勢低く掻い潜りながら|八咫烏《大型バイク》でビルを駆け上がる――!
『つれないこと言うなよ』
至近距離での声には覚えがあった。
咄嗟に捻った首筋と頬掠めた弾丸が白い肌に赤を刻み滴らせるも、鏡介が構う間もなく窓を割りビルへ滑り込む直前――自身見下ろす閻魔王に小さく“ほう”と呟かれ怖気が奔る。
「あれが――……」
地獄の門に立つもの。生と死をわかつ者――!
『今度は私が鬼役かい?』
考えたい。が、止まる暇を編笠は許さない。
ほら!と己の頸指す指先追おうものなら撃たれる、という判断はあの日の経験からだが、正解。鏡介の居た場所は蜂巣にされていたのだから。
突如ずん!とビルが揺れた。
「まさか、」
思い当たること等唯一つ。生と死をわかつ者の、
「死の渦――、……っ?!」
『ヒュゥ――良い判断だ』
ほんの僅か外窺った鏡介の勘が伏せろと言った瞬間、頭上過る鉛の雨。目をぎらつかせた編笠が上階よりヒール鳴らして嗤っていた。
ほた、と血が落ちると同時、鏡介は傾く向かいのビルへ向け加速し飛び移る。後ろから聞こえる揶揄うような口笛を無視して。
「(このままではまともに戦えない)」
2対1だが相手の手数が多すぎるからこそ、危険な賭けと知るも選んだのは一つ。
『ハッハハ――哈哈哈哈!!』
駆け上がったその先で沈みゆく中、最も高い天覧より鏡介は八咫烏ごと飛び、更に烏を足場に跳んだ。
『最っ高だ――!お前、それを研いだのか!!』
「黙れ」
その抜き打たれる秘奥の耀きを編笠は知っている。禍しくも美しき神刀
『あぁ待っていた!さぁ!さぁその腕ごと私が|買ってやる《撃ち落とす》!』
銃弾の雨の中、掠める痛み全てを無視して鏡介は構える。どこか興味深げに自身を見る閻魔王の視線ごと――斬る。
UC―伍の秘剣【灰桜閃】―
その刃舞うが如く。
刺突、斬撃が触手を斬り飛ばすこと3度。
『――お前、私のことを抜いたつもりか?』
「まさか」
分かっている。
分かっていたが、あと一歩。間に合うはずのそこへ無理矢理割り込んだ編笠の一蹴と雨の如きモーゼルの火吹きが閻魔と鏡介を引き離す!
『甘いんだよ!!』
鏡介の腹撃ち抜いた銃の火吹きへ、返す一刀が編笠の半身を切り裂いた。
“再見!”
嗤う女が地獄へ落ちる。
鏡介の腹と腕に風穴を残して。
成功
🔵🔵🔴
プリズム・アストランティア
アドリブ、連携可、苦戦描写OK
あまり思い出しくない相手だけれど
躊躇している場合ではないわね
先制攻撃に対しては足を止めずに
回避し続ける事で凌ぐわ
応えられる質問ならはっきりと答えるわね
ドレスアップ・プリンセスで和装の姫の姿に
変身して戦闘能力を高め、飛翔能力を得るわ
ビルの群れの中に囚われないよう
飛び回って閻魔王を撹乱していくわね
多少のダメージを受けても止まらないわ
そして舞い散る花びらやプリズムスフィアで直接攻撃するわ
向こうがどういうつもりでも、
全力を尽くして悪しき者を滅ぼすだけよ
「学びたいなら学ばせあげるわ。何度復活しようとも勝てないという事をね」
「品定めしている暇なんか与えないわよ」
鈴鹿・小春
◎
鬼ごっこは得意じゃないけど…この勝負、負けられない…!
光属性と破魔の力で全身にオーラ纏い死の触手をガード、可能な限り集中して見切り鮫剣で生命力奪いつつ斬り飛ばし道を開くよ!
とにかく上目指しつつ道は瞬間記憶で使えそうなとこだけ覚えとく。
紫煙龍の襲撃は見切り瞬間思考力で対応検討。
呪詛全力で乗せた鮫剣で受け流しつつ編笠の弾丸を警戒。
上とか考え辛い方向からの奇襲とかあるだろうし、必要なら近くの壁や脆そうな場所斬り退路確保。
十分時間稼ぎUC準備できたら猟銃に持ち替えつつ起動、芥子田君来て!
全力で鬣に掴まって騎乗、派手に跳ねたり壁走ったり高速移動で翻弄しつつ紅炎の銃弾編笠や閻魔王目掛けぶっ放しまくるよ!
●煌めきの先へ
プリズム・アストランティア(万色の光・f35662)が溜息一つ。
「(悍ましい……でも、)躊躇している場合ではないわね」
視界の端で走る鈴鹿・小春(万彩の剣・f36941)を横目に自身も一歩を踏み出した。
同時刻、光を身に纏い駆ける小春は無数の触手と嗤う編笠の召喚した紫煙龍から逃れるように駆けていた。
『おいおい鞠のようじゃあないか!』
「煩いな……僕は――っと!」
蜘蛛喰らいの逸話持つ“つうれん”を揮えば、触手ごと紫煙龍を喰らい削ぐ。
“へぇ”と嗤う編笠も興味深げな視線降らせる閻魔王をも振り切る勢いで転がり込んだキメラ摩天楼を、小春は転がるように駆け上がる。
「っ、は――結構キツい……!」
廃墟に等しいキメラ摩天楼の中はめちゃくちゃ。
「いや――……これ、もしかして」
『おや気付いたのかお前』
構造が同じ?と気づきかけた瞬間、声。
「え―――っ、わぁ!」
『ほう。良い判断と記憶力だ、それに見た目より素早いじゃあないか』
ふう、と吹きかけられた紫煙龍の爪牙をつうれんで弾けば弾き飛ばし返されたものの、小春は負けん気とコンクリート壁に叩き付けられる直前のオーラの盾展開に成功した己の第六感に息をつく。
『ん?……おい』
「悪いけど僕鬼ごっこ得意じゃないんだよね!」
爽やかに逃げ打ち階段駆け上がる小春の背に編み笠が舌打ち一つ。
小さな“呪いやがったな”という恨み言を無視すれば階下より牙剥く紫煙龍が触手を纏い追い縋る。
キメラ摩天楼の一棟で苛烈な鬼ごっこ行われる最中、UC―ドレスアップ・プリンセス―でプリスムは暗闇の中は生党姫君への回廊を駆け上がる。
艶やかな黒髪のてっぺん飾るは金の|平額《ひらびたい》。翻した十二単鮮やかに、地獄で咲かぬ春告の花吹雪かせて翔けだした――瞬間、数多の銃口と刃が襲い来る!
「っ、誰」
『いいねぇ。姫君なら欲しがる客が数多いる』
いつから居たのだろうか。
パッと手を上げた編笠が手を下ろした、瞬間――!
向けられた数多の銃口。何処からともなく襲い来る|家族《黒服》共が小柄なプリズム押さえんと手を伸ばす。
『おや。驚いた顔も中々じゃぁないか――お前達、顔だけは傷つけるなよ』
「編笠っ――」
続々突き立てられる刃を転がり避け、起き上がろうとした瞬間狙う弾丸をギリギリ舞う花弁で逸らす。
息つく暇もない!
“やっちまいな”。嗤った首領の一声に|家族《黒服》がプリズムへ殺到する。
「私はあなたなんかに捕まらないわ……!」
窓ないビルへ飛び込み、b転がりながら立ち上がり駆けだした勢い殺さず翔けた瞬間、壁襲う銃弾の雨がプリズムの肩を抉る。
「っ、ぅあ……!」
『おや。その傷は後で縫うか』
「誰がっ……!」
先回りの編笠が煙管ふかして嗤う。
避けようとしたプリズムの頸を掴むや壁へ叩き付け、抵抗した白い右手をナイフ一本で壁へ縫い付ける。
『お前さ』
「~~~~っ、う゛っ!」
『いいねぇ。白磁の肌に黒髪、お前の目は花のようじゃあないか――よぉく映そう。王の御鏡にも!』
編み笠が嗤ってプリズムに見せたのは閻魔王の浄瑠璃鏡!
『答えよ。汝何故吾人に刃向ける』
「わっ、たし、は!」
月よりこの星へ来て取り戻した自分も世界も失わぬ様に。
「私は!平和を取り戻すために、あなた達悪しき者を滅ぼすだけよ!!」
叫べ。
眩く煌めいたクッキーハートが星の如き輝きを放ち家族と編笠の眼を焼いた。
瞬間、がっしりとした小春の手がプリズムの手を取り、ニッと笑った空色の瞳が示したのは前!
「行こう――芥子田君、来て!君も乗って!この勝負、負けられないよ……!」
「―――はい!」
咆哮するケルベロスオメガが空裂き編笠の家族を踏み潰して走るそれこそUC―電子の海より出でし獅子―!
『獅子!いいな!最っ高だ!』
『……ほう』
紫煙龍をケルベロスオメガの刃で切り裂き縋りつく編笠の家族へプリズムの花弁が目晦まし。
駆け上がったその先で――プリズムと小春は閻魔王を見た。
恐ろしいほどに茫洋と、プリズムと小春を見詰める存在。
応急処置だけは済ませた手の傷が痛むのを見ないフリをした小春が舞い飛ぶ。
「学びたいなら学ばせあげるわ。何度復活しようとも勝てないという事をね……!」
『ほう。私には見せてくれないのか?』
編笠――そうプリズムが口にするより早く炎が編笠を襲う。
「させない。僕らを動揺させようとしてもそうはいかないから」
息呑みかけたプリズムを小春の狙撃とケルベロスオメガの火炎がフォローして。
それこそが人たる猟兵の戦い方!
舌打つ商人へ空駆ける獅子の一刀を見舞えば煙管と龍の爪牙がギリギリ防ぐ。
「芥子田君、いくよ!」
『おいおい毛皮は傷つけたくないんだがなぁ!!』
競り合う烟と焔へ手伸ばす閻魔王へ花吹雪が絡みつき遮って。
「だめよ」
七つの刃が虹のように煌めく剣をプリズムが抜く。
「帰って――死の世界へ!」
迸る輝きが闇を滅すように遍く照らす。
煌めきが闇を押し返し、焔の残滓が落ちた笠を焦がしゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
遊ぶ!?
ええ是非ともそうしましょ! ちょうど美希も目を覚m……
私の腕が千切れたところでそれは構わないのだけど、
美希は、今を生きている。
腕が千切れる痛みなんて、もう少しだけ知らないまま……
Retry.
真の姿……死体に変身。
サインを最大出力にして武器受け、浄玻璃鏡・銃弾共に武器受けできる分防御しながら切断し体勢を調整。
残り? 死体は痛みを感じない(激痛耐性・継戦能力)。
先制を凌いだらUCで134秒以内のタイムアタック!
全能力6倍、勿論暗視も使用。
縦横無尽に駆け回り、エアを編笠やその家族、閻魔王にぶっ放し、サインで斬りつけたり、やりたい放題暴力しますの!
勿論骸の海もアークも使って蹂躙で!
しかし全く家族との接し方がなってませんわね!?
ああ組織なら別に良いのですけど!
瞬間思考力と早業でとどめは迅速に!
編笠に対してはカウンター狙いからの凍結攻撃、
閻魔王に対してはナイフ投げからの凍結攻撃を命中させますの!
それで終わりにしましょうね!
もし足りないなら幾らでも限界突破で殺してあげる!
世界記録更新ですわ!!
●|遊ぼうか《タイムアタック》
『なぁ猟兵?私と家族と遊ぼうじゃあないか。今宵は王もおられるさ!!』
『遊ぶ!?ええ、是非ともそう――……っ、なにを!』
この地獄でこんな誘いをすることに気付けぬ程、どこか|ラップトップ《シエル》・アイヴァー(動く姫君・f37972)の思考は摩耗し始めていたのかもしれない。
『ふふ!あっはっはっは!!!初めてだよそういう風に喜んでもらえたのは!!』
|功夫服の男《編笠の家族》に蹴り飛ばされ、咄嗟に受け身を取って転がり避けた瞬間、追い縋るように突き立てられた刃の群れに転がりに転がって、思い切り地を蹴った|ラップトップ《シエル》の判断に迷いはない。重なる小傷に舌打ちをして走る。
「(私は何を――!)」
『なぁ可愛らしいお嬢さん。お前は私の商品足り得そうだ――その花のような髪もガラス玉のような瞳も……その裡の隠し玉も、全て暴かせてもらおうか!』
「お断りいたします!」
“つれないねぇ”なんて高みから声張る編笠の憎たらしいことを……!ぎりりと歯噛みした|ラップトップ《シエル》が、ナイフ掠め痛む腕に触れる。
「……こんなの、あの子には――美希、には」
知られたくない。この、|痛み《恐怖》を。
「(私は腕が千切れようと所詮死体――……でも美希は、)」
“今”を生きている。
シエル自身、シエルの全ては仮初の様なものとさえ思っている節があり、美希の痛みも悲しみも苦しさも辛さも、全て代行できるだけで十分だった。ある意味“|生きている実感《痛みに感じる命》”があったから。
だからこそ、知ってほしくない。
こんな命の在り方も、そも“痛み”というものも。
『いたぞ!』
「くっ……!」
転がり込んだ建物の先でも出現する|編笠の家族《黒服》は厄介なことこの上ない。飛び込んだ建物はビル、中華風家屋、和風の家屋その全てがごちゃ混ぜのキメラめいた見た目だった。
咄嗟に盾にした棚に|編笠の家族《黒服》のナイフが思い切り突き刺さる。
『っ、このっ!』
「――温臭いことなさらないでくださりません!?」
ナイフを引き抜こうと藻掻く|編笠の家族《黒服》のガラ空きになった脇腹を思い切り蹴り飛ばす!
『ガッ』
壁に叩き付けられ気絶したのか動かぬそれにホッとし、階段を駆け上がり|屋上《編笠の元》へ向かおうとした、時。
『おいおい。私の家族にずいぶんじゃあないか』
「――っ、なんっ……!」
いつのまにか編笠が、目の前に――いた。
逃れようと身を捩った瞬間、|ラップトップ《シエル》は首を掴まれ思い切り壁へと叩き付けられる。
「がはっ……!」
『ほおう……悪くはないな。お前の目は金でも無くば赤でもなく、しかして橙でもない』
しげしげと赤々とした瞳に覗き込まれ、|ラップトップ《シエル》はまるで自分の内側まで見られているような錯覚が起こる。
見ないでほしい。
触れないでほしい!
「は、なっ……しなっ、さい!!」
『――へぇ、なぁるほど』
編笠がにたりと嗤い、握った煙管の――埋火燃える火皿が|ラップトップ《シエル》に押し付けられたうえ、編笠が指を鳴らした瞬間、触手より現れ出でたのは浄瑠璃鏡――!
「あ゛、ぐっ……!」
『答えよ――吾人に答えよ。そなたの|それ《・・》は、誰だ』
『いいなぁ。いいなぁ、おまえ面白いじゃあないか……くくく!こりゃあいい!』
じゅう、と焼ける感覚に歯を食いしばり、閻魔王の言葉に|ラップトップ《シエル》はすぐに理解した。
編笠が気付いたのも、問われているのも――シエル自体か美希のこと!
「私こそが悪!美希こそが正義のお姫様――!それ以上に何がありましょう!」
ケタケタ嗤いの子の目の前の女にイラつきそうになる――!
“ほう”と天から降る声に吐き気がする!!
「――触らないで!このっ、鏡も邪魔ですわ!」
『っとぉ、足癖が悪いんじゃあないか?“|お姉ちゃん《・・・・・》”?』
どこで知ったなどと問う前に浄瑠璃鏡へ伸ばした足も、振り回して編笠蹴り飛ばそうとしたことも、編笠の後ろから飛び出したナイフと銃口の群れに襲われ声を出す暇さえない。
「(私は、嫌)」
『はっはっは!!お前はバラせばよぉく売れそうだ!ああいやそのままでも良いか!』
“不愉快”
ただそれに尽きた。
勝手なことを言うなと叫べればよかった。ああでもいっそ――……バレたならば、そのように振る舞ってしまえばいい。編笠同様に悪は悪足れば良い。悪を殺すより悪しく残虐な者が居たとていいだろう。
「そうですわ。ええ――ええ、私は“お姉ちゃん”!|美希《優しいお姫様》の悪い姉!」
『おや、へえ』
上階へ軽やかに駆け上がり嗤う編笠を見上げた|ラップトップ《シエル》の高らかに叫びが反響する。
いっそ――そういっそ、“|迷わなくてもいい《・・・・・・・・》!!”
「此処から先はタイムアタック。この134秒は私の時間でしてよ――Retry.」
この魂に撃鉄を下ろせ。畏れずに引き金を引け!
UC―Trigger /2―!!
悪は相手の準備など聞かない。公平などこの盤上には在り得ず、|紅の閃光《最大出力サイン》を揮う!
溢れ出すその骸の海はシエルだけのもの。閻魔王にすら縛られぬ身の裡占める小さな世界。
めちゃくちゃな建物中心の螺旋階段を駆け上がり様、実り出して狙撃狙った黒服を踏みつけ蹴り上げ蹴落として。
「叩っ斬る――!」
『いいなぁ!武器が多いのは好きだぜぇ!』
牙剥いた銃口ごとその家族を斬ってしまえ!
降る肉塊を足場に空を翔ければヒュウと口笛吹いた編笠が嗤って、向けられた煙管ごとその手を骸の海で喰らってやれ!
「叩き返して差し上げましょうか!」
『強気な女も悪かねぇなあ!』
シエルの骸の海はひどくつめたい。吐息さえ凍て落とし、触れた者総て凍り付かせる死者の海。
よって――……
『あ゛?』
「遅いのね」
斬られたことさえ気付かせない!
『やりやがったなじゃじゃ馬ぁ!』
「ふふ!ごめんあそばせ?足りないのならばいくらでも――ああでも、トロフィーが待っているの!」
編み笠さえ足場に|ラップトップ《シエル》は駆け上がる!
「それでは終わりにしましょうね!」
踏み出し擲ったナイフに閻魔王の視線が取られた一瞬、最大出力の|サイン《紅の小刀》が触手を斬り飛ばす。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
◎
…嬉しくない再会だ
商品など、冗談じゃない
ユーベルコードを発動
閻魔王を目指し真っ直ぐ走る
編笠の位置を見失わないよう確認しつつ、改造モーゼル銃の狙いを絞らせない為に常にビルの間を走り回避を試みる
モーゼル銃の配置を確認
エンチャントアタッチメント【Type:I】を拳銃に装着、閻魔王への道を塞ぐモーゼル銃へ氷の魔力を纏う弾丸で攻撃
凍らせて銃の動作を止め、強引にでも突破したい
同時に「死の渦」を警戒
進路を塞ぐ渦が出た場合、相手の裏をかく為に渦を避けず真っ直ぐ突っ込む
強敵二人を相手にする以上、無茶も必要だろう
その際、真の姿を解放(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る)
自身の強化は勿論、真の姿であれば自身が淡く発光する
完全な闇にはならず「死の渦」の威力を殺げるかもしれない
編笠も目立つこちらを狙うだろうが、位置の把握は続け動きが止まるその瞬間を逆に利用し弾丸を撃ち込む
負傷もダメージも覚悟の上
血を流そうと命を削ろうと足は止めず
渦を突破後、ありったけの弾丸を閻魔王へ叩き込む
●鼓動を刻む
「――ったく」
嬉しさなど微塵も無き再会に吐き気がする。
編笠の言葉を反芻しながら、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は猟兵を“地獄で売れる商品だ”と高笑いした姿を思う。
馬鹿げている。
そうまでこちらを嘲笑うのならば為すべきは一つだけ。
UC―イクシードリミット―……それはシキをこの地獄を振り切るい風のように……する、はずだった。
「――、」
『おや。へえ……お前は良い毛並みだなぁ?』
見上げた建物の上、待っていたのは指先で笠押し上げる|バケモノ《コンキスタドール》。
赤い瞳で楽し気にシキを見下ろすと、モーゼル銃の銃口を向けて。
「あんたに用はない」
『おいおい寂しいなぁ?――遊んでやるし売ってやるって言っただろうが!』
あっはっはっはっは!と高らかに笑う編笠が指を鳴らす。
『まぁいい。だが――ここは|王《閻魔王》の御前だ。伏せでもしけよ、犬っころ』
意図された煽りに乗るほどの若さは無いとシキが踵を返し駆けだした瞬間、被る大きな影。
空気が一息に重くなる。
「っ!?」
『生命よ。吾人が戯れに付き合うがいい』
すいとシキ指した閻魔王の指先からどぼりと溢れた骸の海一滴が落ちた瞬間、瞬く間に広がり始める!
「ちっ!」
視線の先のビルが傾いた。
恐らく骸の海に食われているのだと理解できた瞬間、良すぎるシキの耳劈く悲鳴が響き、咄嗟に其方へ顔を向け足を止めてしまう。
「なん――」
『そうか、お前聞こえたんだな?ありゃあ“死に損ない”さ』
真横から聞こえた声振り切るようにシロガネの引鉄を引けば弾けた生命の水の氷弾。
翻される赤の衣だけを裂けたことに歯噛みしながらシキは全て振り切り再び走り出す。
「(死に損ない?だがあれはたしかに悲鳴で……)」
『おいおい優しいなぁお前。そんなんじゃあ――』
眼前に、モーゼルの銃口。
『吞まれちまう』
「っ、!」
打ち出される一発を咄嗟に屈み良ければ口笛を吹いた編笠が嗤う。
『いーい反射だ。だが|あんなもん《・・・・・》に心持ってかれてちゃあ世話ねぇな!ここは地獄――あぁそうかお前、|まだ《・・》死んだこと無ぇのか』
「あれが、地獄」
経験が足りてねぇなと嘲笑う編笠だが、今を生き続けるシキが地獄など見たことなどある筈も無い!
――でも一つだけ、シキは“生きたままの地獄”は知っているけれど。
あくまでもそれはそれ。それと先程聞いた怨嗟の声は全く違う。先程聞こえた怨嗟は背筋の凍るような、初めて聞いたシキにすら伝わる“|何か《畏怖》”を抱いていた。
猟兵でなくばこのようなところに来ることが無かったが、並の者なら聞いた瞬間呑まれる。あれはそういう代物だ。そう割り切ってシキは走り、真っ直ぐにビルを駆け上がる。
時折上階から撃たれる弾丸を飛び込み避け、滑り込んだ部屋で無数の銃弾の雨を避け息を整え上がった――屋上。
『おや、やあっと私と遊ぶ気にでも――』
「ならねぇよ」
シキがシロガネに装着していたのはエンチャント・アタッチメント【Type:I】。
静かな生命の水の音がわずかばかりシキの焦燥感を治めるのを感じながら、下方より競り上がり迫る|キリングホール《死の渦》!
退路は無い。
だがそれは編笠も同じこと。
『さぁて……いいなぁ、いーい毛並みに歯の揃いも良い。それにその目』
ふうっと緩んだ編笠の赤い瞳が。
『その輝きは|ここ《地獄》には無い。|お前ら《生命》特有だ。あぁ――欲しいなぁ!』
「商品など、冗談じゃない」
一息にギラつき牙を剥く。
シキも編笠も一歩も引かず、互いを撃ち合い躱し距離を詰める。
突き出されたモーゼル銃の銃口を反射で躱せば下段からの蹴りをシキのシロガネが撃ち落とす。
『ハハッ!』
「俺は」
迫る。
『アハハハハ!』
「あんたに構ってる暇はねぇんだ」
迫る!
『つれねぇな!もう少し遊ぼうじゃあないか!』
死の渦が――!
その瞬間は酷く研ぎ澄まされた瞬き程度の時間だった。
咄嗟にしては余りに鮮やかにシロガネの銃口がモーゼル銃の銃口を捉え、|水《生命》の音が爆ぜる。
「あんたは此処で止まってろ!!」
『……――てめぇ!!』
息呑む編笠が何だ。
思い切り蹴り飛ばし屋上から蹴落とせば、大笑いした編笠が叫ぶ。
『おいお前!|再見《またな》――はは、あはははははははは!!』
背へ迫る触手にも似た死の渦を避けるように別の傾くビル屋上をシキは走る。
未だ――そう、未だ閻魔王は|シキ《生命》を追い続けるのだから!
『――、』
「っ、っぶね――ごほっ」
踏み出す直前足場に展開された死の渦を転がり避けた時、シキは競り上がったものを吐き出す。赤い血だった。先程の戦いでは分からなかったが、恐らく編笠に撃たれた名残だろう、と冷静に口元を拭ったシキが足を止めることは無い。
淡い月色を纏い“再見”と叫んだ編笠を警戒し、神経を張り詰めさせながら。
じくじくと痛む腹にいくら苛まれようと、退く選択肢は無い。いたい。どこがと言えぬ程、本当は全身痛い。それでもきっとこの闇を除かねば“生命としての先”が危うくなるのが、本能的に分かる。
きっとこの地だけではない――この世に生きる者が、その大切さも尊さも何もかも問われず言葉さえなく奪われる。
容易く影すら殺され、いっそ無かったことにさえされるかもしれない。
「……させるかよ」
そこにあったのは血を吐く様な思いだけ。
こんな闇も地獄も、未来にはいらない。
同時に、ここでこの地獄を退けられればいくらかの時間と理解を生み、次への布石となることをシキは知っている。
学び、知り続けることは生命の特権だ。
深呼吸をする。
装着したアタッチメントを確かめる。
『来るか』
「当たり前だ!!」
近しい屋上から飛び出し、自身へ銃口向けるシキを閻魔王の指が示した――瞬間、|地獄《死の渦》が大口を開ける。
怖ろしい光景に息を呑んだもの一瞬、飲み下して渦へ吞まれて尚シキの輝き衰えず、爛々とした瞳は揺らがない。
「だから――何だ!!」
吼える。
この局面で怯む意味など無く、今この引鉄を引かねばならぬと猛る感覚そのままにシキは引鉄を引いた。
伸ばされた触手さえ足場にし、凄まじい射撃が火花と清廉な水の香に透き通る冷気を乗せ放つ!
『ほう』
閻魔王の声が静かに響いていた。
大成功
🔵🔵🔵
唐桃・リコ
◎
テメェ、前見たな
細かいことは覚えてねえ
でも尾の逆立つ感じが、逃げろと叫ぶオレん中のオレが覚えてる!
逃げねえよ、バーカ!!
オレともまた遊んでくれんだろ、なぁ!!楽しもうぜ!!
生命力なんて奪われても怖くねえ
あいつと一緒にいられる時間さえあれば良い
痛みは【激痛耐性】があるから、その先を越えていける
暗い場所を作り出すなら、建物をぶち抜いて光を通してやる
【Fall】!
爪でも牙でもナイフでも、お前に届くものを!!
テメェの力も食らい尽くしてやる!!
ビルの間を走って抜けて、
あの女に向かって迫る
ははは、なあ、楽しそうだな
前も色々弾き飛ばしてくれたからなあ!
でも覚えてるか!最後に勝ったのはオレだ!!
アイツを守るための力
アイツの前で、オレはもう負けねえ!!
お前の命!
また、オレに喰わせろ!!
●赫き獄へ
「テメェ、前見たな」
『そうか――お前、“子狼”』
“細かいことは覚えてねえけど”。そう溢した唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)へ、にぃっと編笠が嗤った瞬間――奔る怖気が警告する。
“覚えている!!!”慟哭上げた毛の逆立ちに疑いようは無い。
『はははっははははははははは!!なあ!“また”逃げるか!!!!』
「――逃げねえよ、バーカ!!」
“あの時”と“今”は違うと、今なら言える。だから、嗤うな。
もう眼を逸らさない。それこそ喰らうのならば正面から喰らい飲み干せばいいから――リコもわらう。
「オレともまた遊んでくれんだろ、なぁ!!楽しもうぜ!!」
キメラめいた魔性の塔を駆け上がり出した時、閻魔王の|キリングホール《死の渦》がそれらごとリコを吞み込み始めようとも!
『――へぇ。イイ目だ……今宵は私だけじゃあねぇ。だから“また”こっちが鬼だと思ったんだがなぁ!』
「うるせぇ!!」
『ほぉう……いいねぇ!遊んでやるよ!!とっとと来い!!』
降る粗悪な鉛玉の雨に部屋へ転がり込めば突如現れた死の渦に呑まれた一瞬。
「っ、げほっ――くそ!」
邪魔だ。
どこか自身の|内側《生命力》を削がれた感覚を吐き捨て、徐々に思い切り傾きだすビルの床をほぼ垂直に駆けたリコが窓から向かいのビルへと飛び込み転がる。
「はっ、 ンの野郎……!」
編笠の伺えぬ位置からの銃撃をギリギリで聞き避ければやはり掠めてしまう。
「――まだ!」
痛くなんかない。
|いたくなんかない《わからない》。
『おおいおいおいおい怖くねぇのか?それとも捨て身か?私は死にたがりには用はねぇなぁ興覚めだ』
勝手にすればいい。吐き捨てたければすればいい。
所詮今までそうだったのだ、今更何を――……
「ちがう」
“死にたい”訳ではない。
だって“ ”を一人になんてしたくない。
『あ?』
「オレはあいつと一緒にいられる時間さえあれば良い」
いつのまにか背後にいた編笠へ振り返ったリコの瞳は凪いでいた。
「お前はここにいりゃいい。商売したきゃしろよ」
『――ぁンだと?』
「オレは――あいつと先に行く」
そこに怒りは無く悲しみは無く、事実だけ。
リコと大切の事実だけを口にすれば、瞠目した編笠が何かを言いかけ呑んで――嗤う。
『いーいなぁ!!お前、その“大切”を私が売ってやったらいくらで買い集める?はは――あはははははは!!!!楽しい取引をしようじゃねぇか!!』
そう言うこと等、ある程度見当はついていた。だが言われればどうだろうか……答えは至極簡単だった
リコはいつでも大切な笑顔を見ていたい。
大切な全てを教えてくれるあの微笑みを。
それを邪魔するのならば――奪おうというのなら、話は別だ。
手中でくるり、ナイフを回す。
前よりもっと手に馴染む感触はより手足の延長のように、腕から伝う|赤《血》滴ればそう――それこそナイフはリコの爪先になる。
ここは地獄。
真っ昏な地獄。
そこかしこから――特に死の渦から響く嗚咽交じりの悲鳴と怨嗟を聞き流しながら、リコは深呼吸した。
噎せ返るような部屋に染みた血の匂いを、知っている。
あの香港租界より酷いこの場が、いくら地獄であろうとも。
「お前さ」
『なんだ、やあっとやる気になったかぃ?』
「――オレと“あいつ”の時間を奪おうってんなら、」
UC―Fall―
天を突くように吼えろ。
空気震わせるそれこそ狂える獣の目覚め。
“ほう”と天から声が降ることが何だ。引いてやるものか、他の猟兵が戦う姿が窓から見えるのだから!!
『あ゛っ?!て、めぇ!!!!!』
「うるせえ!!!!」
飛び掛かり食い破った編笠の右肩から吹き出した赤がリコを染め、左手で引鉄引いたモーゼル銃の鉛雨を転がり避けたリコが壁を蹴り飛び出せば、鋭い一蹴が飛ぶ。
「もう一度!!テメェの力を喰らい尽くす!!」
『やれるもんならやってみなぁ!!!!』
思い出す。散々追い回され、撃たれ、散々ズタボロにされたのだ。
滴る赤を散らし、降る鉛の雨を転がり避け懐へ転がり込めばピタリと銃撃が止まる。やはりだ。
押し込むように落すように窓際で飛び掛かれば硝子無き窓から落ちゆく編笠を蹴り飛ばし傾く向かいの塔へ乗り込んで。
『ひっでぇことしやがるじゃあねぇか!!!!!!!!!』
「前も色々弾き飛ばしてくれたからなあ!!でも覚えてるか!!!」
突きつけられたモーゼル銃の銃口を斬り飛ばす。
『チィ!!!』
「あの時!!最後に|勝った《狩った》のは――オレだ!!!!!」
叩きつけるように振り下ろしたナイフで床に編笠の足を縫い付ければ舌打ちが降る。
『ガキのくせに!!!』
「関係ねえ!!!」
強靭なまでの精神力で振い落された踵を爪で削げば編笠が息を呑む。
「オレがあいつを守る。アイツの前で、オレはもう負けねえ!!!」
深い一蹴が編笠の腹を蹴り飛ばす。
吐き出された赤い血を浴びたのは二度目。それでも銃口斬られたモーゼル銃がリコを捉えた――かに見えて、編笠がひょいと後ろへそれを投げ捨てリコを指差し、嗤った。
『蜂巣だ!!!!!!!!』
「お前の命!!“また”オレに喰わせろ!!!!!!」
その爪牙が編笠の細い頸を喰う。
滴る赤は瞬く間に黒へ。そしてごくりと飲み干した仮初の命の味を覚えたリコの瞳がギラギラ燃えるのに反比例で冷たくなり逝く編笠が、嗤ったまま地獄へ堕ちた。
『……――ほう』
閻魔王は踵を返す。
酷く興味深げに猟兵達を見下ろして。
数多の傷を、さも何事もなかったかのような振る舞いで済ませて。
地獄の慟哭が――ゆっくり、ゆっくりと遠のいてゆく。
ぐらり傾く体でリコは薄く息をし、思う。“かえろう”。
「(あいつがまってる)」
未だ癒えぬ傷を押さえ、滴る血の止め方が思い浮かばずぼうっとするけれど……それでも、リコはかえろうと血反吐を吐き出し床に爪を立て身を起こす。
ひゅうっと抜けた呼気が、白く淡く空気に解け散った。
大成功
🔵🔵🔵