Une jeunesse brillante
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マギラント、緑の領地の一角。
パティスリー『Miel de Ange』は今日は貸し切り。
「本当にいいの?」
遠慮がちに尋ねつつも、声音に喜色を滲ませた葛城・時人(光望護花・f35294)に、パティスリーの主はふふ、と笑った。
「そりゃあ、研究に協力してくれる大事なお客様だからね! 丁重におもてなししなくっちゃ」
木をメインにデザインされた内装は、ナチュラルでありながらも可愛らしい、小洒落た内装だ。
ケーキなどのスイーツが並んだショーケースや、製菓の過程が見えるセミオープンのキッチンは勿論、数席ながらカフェスペースも備えられている。時人はそのひとつに荷物を置いて、キッチンへと向かった。
実際に出来上がるまでを見せてくれるのだと、クレープ・シュゼット(蜂蜜王子・f38942)は言った。その方が色々と話も聞きやすいし、と。
今日は、時人をモチーフにしたオリジナルスイーツを作ってくれる約束なのだ。
「じゃあそうだな……キミを構成するもの。何でもいいよ、キミが大事にしてること、これがあるから今の自分があるってこと、何でも聞かせて」
そう問われると、やはり|銀の雨が降る時代《シルバーレイン》の学園生活が中心となるか。
死と隣り合わせの青春。辛い別れや、厳しい戦いも沢山経験したけれど、大切で温かい日常も、確かにあって。
クレープはふんふんと、その話をメモを取りながら聞いていたけれど。
時人の話が一段落ついた頃を見計らって『よしっ』と製菓道具を手に取った。
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まずクレープが作り始めたのは、小さなムースだった。
土台はレアチーズ。但し正方形に四等分されたそれの上に乗るのは、全てが異なる彩り。
最初はストロベリームース。勿論、果肉も土台との境目にふんだんに使い、ピンクと赤のグラデーションを生む。上には桜の花弁を象った苺を乗せて。
お次はブルーベリームース。食感を活かしつつも、色味を調整して生まれた青は空か海か。乗せられた甘夏のような果肉は太陽か。
続けてアップルムース。皮も使って舞い散る紅葉も表現し、上にもちゃんと楓の葉の形に整えられた皮を飾って。煮詰めた果肉もしっかり敷き詰めて。
最後にホワイトチョコムース。積もりたての新設のように粉砂糖を散らして、赤くコーティングされた丸く小さいチョコレートを、南天に見立てて飾り。
それと並行して作っていたのは、それより少し大きい箱型のゼリー。
白いヨーグルトゼリーで作られたそれの中に、先程のムースを慎重に詰めていく。
左上はストロベリー。右上はブルーベリー。左下はアップル。右下はホワイトチョコ。
「これ、もしかして四季を表してる?」
「学校生活ってさ、行事や衣替えで季節の移り変わりを感じて、それもまた楽しいんだよね。俺も製菓のだけど、学校通ってたからさ」
言われてみれば、白い箱は銀誓館学園の校舎の色でもあり。
学園にぎゅっと詰め込まれた四季は、確かに学園での一年を表現しているようだった。
「さって、ここからが本番!」
「え、これで完成じゃないんだ」
「まだ『時人くん』らしさが足りないからね!」
そう行って、クレープが取り出したのはクリームの絞り器だ。
盛りつけた皿から、きゅーっとムースを詰めたゼリーへ、巻き付き、護るように伸びるその姿は。
「ククルカン!」
『きゅい?』
名前を呼ばれた純白の翼蛇がひょこり、顔を出す。
他の器具も使って、翼から羽毛、目元に至るまでを再現する。そして振り撒く白い燐光の代わりに、粉砂糖を箱の外、皿の上にも。
これだけでは終わらず、取り出したのは。
「あ、それ俺も知ってる。エディブルフラワーだ」
「ご明答! あとはこれも添えて、っと」
竜胆に似たエディブルフラワーと、飴細工の鍵を添えて。
「はい、お待たせ! 『|Une jeunesse brillante《輝ける青春》』――これで出来上がりだよ!」
時人だけの宝石箱。
それが今、青い視界の中で確かに輝いていた。
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「わー……なんか食べるの勿体ないかも」
「えへへ、目でも楽しんで貰えたんならパティシエ冥利に尽きるね」
甘党魔神をしてそう言わしめる作品。
改めてカフェスペースに移動し、時人が思わず零したのがその言葉だった。
精巧に再現されたククルカンなどその代表である。
「でもさ、食べて貰ってこそのスイーツだから」
「ん……そうだよね。それじゃあ、お言葉に甘えて」
いただきます! と。
元気よく挨拶して、宝石箱の中身を食む。
「!!」
ぱっと、その表情が輝いた。
「美味しい……!」
「よかった! 見掛け倒しじゃ目も当てられないからね」
「いやいや、お世辞抜きで絶品だよ。四種類あるから飽きが来ないし、他の部分も食べられるし……」
この作品の魅力を、一生懸命語る時人。
だが、クレープが満面の笑顔を見せたのは、彼にとっては時人のその笑顔こそが、何よりの報酬に他ならないからだ。
成功
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