第二次聖杯戦争㉒〜リリスの搖籃
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――何故、骸の海を怨んでいたか。
思い出や記憶を『聖杯』に渡した彼女には、心奥で燻ぶる憎悪を知覚はすれども解する術は無い。
「せかいのそとにでれるなら、もっと。もっと。きっと、むくろのうみもこなごなにできるはず……!」
残れる感情が求めるのは、骸の海を破壊し得るだけの強靭な力。
純粋に単純に「最強」を求めれば、全ての命を我が身に集めて、どこまでも強くなっていける。
故に彼女は、普く全てを淫蕩に堕とし、その命を我が物として取り込むのだ。
「『いんよくのかぜ』にふれたものすべてをえっちに。すべてしに。すべてのいのちをゆりゆりにそそぐ」
左手にメガリス『聖杯』の真の姿を暴き。
逆の手には『リリスの槍』を携え。
而して芙蓉のかんばせには、淫靡な眼差しを湛えて猟兵を待つ――。
彼女こそ『聖杯剣揺籠の君』、金沢市に邪災を齎したオブリビオン・フォーミュラその者であった。
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「骸の海を粉々にしたいって、彼女は嘗てどんな想いを抱いていたのかしらね」
彼女自身が記憶を手放した為、其を知る事は出来まいが、『聖杯』に渡した記憶こそ大事な感情だったのではないかと、暫し沈黙を置くニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)。
「槍持つ男も骸の海で何か見たようだったし、気になる事が沢山あるけど……今は集中、集中! 気力が大事よ」
勿論、これが第二次聖杯戦争の最終戦という事もある。
だがそれ以上に今回は「精神統一」が肝要なのだと語気を強めたニコリネは、「白く輝く淫欲の領域」に変貌した金沢大学周辺の状況を説明した。
「現在、戦場一帯は粘つく大地に、獣のような行為に耽る者達に溢れる、淫蕩な光景が広がっているの」
ゆりゆりの肉体から放たれる「いんよくのかぜ」の影響で、耐性の無い者は忽ち「淫欲に満ちた思念」に犯され、行為に耽る裡に命を落とす事になる。無論、猟兵も汚染される可能性は充分だ。
「だから皆には、これらのえっちな光景を、見ず、聞かず、嗅がず、一切を認識せずに領域を進んで、最も強大なこの能力を封じて欲しいの」
淫蕩な光景に意識を注ぐ行為こそ、敵の思うツボ。
精神を「無」にしていくとか、寧ろ別の事で頭をいっぱいにしていくとか、とにかく「えっちなのうみそ」にならずに揺籠の君と戦うのがベストだと花屋は言う。
「大好きなものとか、これからやりたい事とか……或いは心配事とか抱えて行く? とまれ、揺るがぬ精神で揺籠の君に迫る事が出来れば、あとは彼女と純粋な一騎打ちに持ち込めるわ」
そうなったら猟兵が強いとは、花屋は充分に知っている。
どうかえっちになって死なないでと言を添えた彼女は、ぱちんとウインクするやグリモアを召喚し、
「これが最後の転送になるわ。皆、無事に帰ってきてね!」
と、飛び切りの笑顔で送り出すのだった。
夕狩こあら
オープニングをご覧下さりありがとうございます。
はじめまして、または、こんにちは。
夕狩(ゆうかり)こあらと申します。
このシナリオは、『第二次聖杯戦争』第二十二の戦場、最終戦となるオブリビオン・フォーミュラ『聖杯剣揺籠の君』と戦うボス戦シナリオ(難易度:やや難)です。
●戦場の情報
石川県金沢市、金沢大学周辺。
区域一帯が「白く輝く淫欲の領域」に変貌しており、戦場に降り立つや猟兵の視界いっぱいに淫蕩な光景が広がります。
●敵の情報:『聖杯剣揺籠の君』(ボス戦)
かつて銀誓館学園と交戦した強大なリリスがオブリビオン・フォーミュラとして蘇りました。『全ての世界の全ての生命』を求め、本来ならば彼女には扱えないメガリス『聖杯』の真の姿『神の左手』を顕現させています。
●プレイングボーナス:『淫蕩な光景を一切認識しない/揺籠の君の先制ユーベルコードに対処する』
このシナリオフレームには、特別な「プレイングボーナス」があります。
これに基づく行動をすると、戦闘が有利になります。
●リプレイ描写について
フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
また、このシナリオに導入の文章はありません。
成功以上が出たプレイングから先着で5名程度の採用とし、サポートも採用しつつ早期の完結に努めます。
以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
第1章 ボス戦
『聖杯剣揺籠の君』
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POW : うずまくいんよく
【神の左手】による近接攻撃の軌跡上に【いんよくのたつまき】を発生させ、レベルm半径内に存在する任意の全対象を引き寄せる。
SPD : せいはいうぇぽんず
【あらゆる物質を引き寄せる「神の左手」】【癒える事なき毒を注ぐ「リリスの槍」】【対象のユーベルコード全てを奪う「聖杯剣」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ : みだらなひとみ
【揺籠の君の淫靡な眼差し】が命中した部位に【淫欲に満ちた思念】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
イラスト:飴茶屋
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
岩永・勘十郎
「花屋には花を見繕って貰った恩がある。故に、お前さんに恨みはないが斬らせてもらうぞ」
そんな勘十郎に攻撃が飛ぶ。だがそれを[瞬間思考力]で動作を[見切り]攻撃が放たれるのと同時に[残像]が残る程の[早業]で回避する。
『一番強くなれる場面じゃない?』
「フン、面白くなってきた」
腕の端末に言われた通り、勘十郎はこういう“淫ら”な事を嫌うようで、勘十郎の殺意が[恐怖を与える]程の[殺気]となり左目には黒い炎。もはや周囲の事より殺意が勝つ。
「散れぃ」
敵目掛けて[目潰し]の爆竹や爆弾を投げ、怯んでいるであろう間にUCを発動。敵の淫欲も煩悩の一つ。それを肉体が塵となるまで焼尽する心鎧の炎を纏った斬撃を放った
用心棒で生計を立てる岩永・勘十郎(帝都の浪人剣士・f23816)の|刀劍《かたな》を借りるには、その|腕前《うで》に應じた報酬を用意すべきだが、彼を第二次聖杯戰爭の決戰地に立たせるなら、如何程が必要か。
然し此たび彼を動かしたのは、報酬の多寡では無い。
「花屋には花を見繕って貰った恩がある。故に、お前さんに恨みは無いが……斬らせて貰うぞ」
科白の劈頭は磊落と、蓋し語尾には凛然を萌して。
|莨菪花《アカンサス》に雪の被る金澤大學、白く輝く淫欲の領域に降り立った浪人劍士は、烱々と研ぎ澄まされる緋瞳に『聖杯剣揺籠の君』――此度の“標的”を認めると、スッと腰を落とすや縮地の要領で速駆けした。
「――參る」
今や眞の姿を得たメガリス『聖杯』は、黄金に輝ける左手となって催淫の風を捲き起こすが、勘十郎は遠目にも指先の方向をよく見極め、神速の機動で風を回避すると、己が代わりに残像を薙がせて距離を詰めていく。
颯と駆けゆく周囲には、嫋音嬌聲が滿ちているが、その耳には届くまい。
『一番強くなれる場面じゃない?』
「フン、面白くなってきた」
聽こえるのは、陸上火力支援端末――通称『|陸火《りっか》』の生意氣な聲のみ。
腕の端末が指摘する通り、元より淫らな事を嫌う劍士にとって、揺籠の君は最悪の好敵手となるか判然らない。
また眼に映る淫靡は視ず、眼に視えぬ疾風を見極めるのは餘程の技量を要するが、其も上等と受け取った勘十郎は、恐怖に|慄毛《おぞけ》る程の殺氣を左眼に――熾々と灼ゆる黑炎に變えて|迸發《ほとばし》った。
「滾る殺意に塗り込めて遣ろう」
畢竟、「斬る」と決めたからには組み敷くべき手合。
ここに人斬りの才覺を暴いた勘十郎は、風下から回り込んで爆竹や爆彈を擲げると、淫邪を閃光と煙幕に覆った。
『こんなもの。ゆりゆりはひもけむりもえっちに、ひとしくしをあたえられるのに』
無駄だと彼女は嗤笑を零すが、眼前の爆発に囚われた瞬間こそ好機。
淫邪が「いんよくのたつまき」で煙幕を蹴散らす間に【凶剣無道】――軍用刀『小銃兼正』を抜き払うや、万障一切を焼尽する『心鎧』を纏った勘十郎は、彈ッと蹴り上がって宙空へ、煩惱に反應して燿う赫炎の斬撃を放つ――!
「散れぃ」
丹花の脣を擦り抜ける訣別は低く短く。
その聲色は凍えるほど冷たく。
而して一瞬で敵の耳元に迫る。
『――っ!』
爆炎爆風を抜けて飛び込む一閃を遁れる術は無し。
勘十郎は花屋に受けた恩を今こそ返さんと、紅く赫く、花葩のように血飛沫を踊らせるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
龍巳・咲花
お主程の者が骸の海の破壊の為に全てを捧げても構わない程の想いを抱いたのでござるな
歩む道が違えば、また違った未来があったでござろうが、今それを言っても詮無きことでござるな
耳栓を装備し呼吸は口で、先制攻撃は直視を避ける為に会敵と同時に龍陣忍者マフラーを広げ身を隠し回避を試み、周囲を見ない為の特製の煙玉を展開するでござるよ
対策後はムシュマフの首達を召喚し、一斉に煙の中から多方面に散る様に飛び出させ火炎放射による攻撃を仕掛けてもらうでござるな!
攻撃が始まれば、拙者は位置を悟られぬよう煙の中を移動しながら、ムシュマフの炎で明るくなる方角に向けて手裏剣とクナイの投擲で追い打ちをかけていくでござるよ!
「……ふむ。“むくろのうみをこなごなに”……でござるか」
先の予兆で聽いた科白を、丹花の脣に捺擦る。纎手は動いて耳に栓をする。
記憶は喪ったが、胸裡に残る憎悪に気附く彼女に一抹の侘しさを感じた龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は、戰場に結ぶ睫をそと伏せた。
「……お主程の者が『骸の海』を破壞する爲に、全てを捧げても構わない程の想いを抱いたのでござるな」
佳聲がくぐもって聽こえるのは、首元の布地を引き上げたから。
淫靡な香氣は忍装束が弱めてくれようと前を向いた咲花は、決然と一歩を踏み出した。
「歩む道が違えば、また違った未來があったでござろうが……今それを言っても詮無き事でござるな」
別の世界線を思い描くも、|現世《いま》の道を歩む覺悟は出來ている。
或いは訣別になるかと速駆けした彼女は、催淫の風を紡ぐ左手の方向を避けて敵前へ――首魁『聖杯剣揺籠の君』に肉薄した。
『あなたもたいせつないのち。しんでゆりゆりのちからになる』
「記憶を喪って目指すのが最強……其が|本當《ほんとう》に欲しいものでござるか!」
美しくも蛇の如く妖しい瞳が笑んだ瞬間、忍者の姿影が溶ける。
和柄のお花をあしらった龍陣忍者マフラーを広げて身を隱した咲花は、眼には追わせぬと懐より煙玉を取り出すと、擲げて朦々と煙を広げた!
「けむり。ゆりゆりはこころなきものもえっちに、しをあたえられるのに」
妖艶な肉体が風を吹かせて払おうとするが、煙幕は視線を遮るのみに非ず。
新たな風を紡ぐにも時間が必要だろうと、その一瞬を奪った咲花は、大地に流れる龍脈を辿って相棒を喚んだ!
「拙者達の力で切り開いて見せるでござるよ! 龍陣忍法、バビロニアン・ムシュマフ・ウォーズ!」
佳人が玉臂を天に掲げるや、揺籠の君を取り囲むように火柱が轟ッと隆起する。
其こそ炎竜ムシュマフ――猛然と炎を噴く七つの首は、揺籠の君へと吻を結んで一斉に火炎放射ッ!
胴を繋ぐ龍脈から無尽蔵にエネルギーを汲んで灼熱を吐くと、煙幕を吹き払い、魔蛇の鱗を灼き、また凄艶の柔肌を焦がさんばかり超炎熱を浴びせた――!
『ゆりゆりはほのおのりゅうも、しにむすべるのに』
云うが、咲花も然うはさせまい。
元々、淫靡な|星眸《まなざし》が|一點《ひとつ》に集まらぬようムシュマフを七方向に配したのだ。
それこそ光の速さで攻撃できる凝視は、視ねば術を掛けられぬと見切っていた咲花は、自身は煙幕を抱きながら相棒の背側を移動し、より明るく熱される方向へ、苦無や手裏劍を擲げて追撃する!
「この道を歩むと決めたからには、走り切るでござるよ!」
視ずとも見える道を往く。突っ切る。
花の忍者の決意の刃が、赤い花葩を躍らせて、熾やした。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
基より念頭に置くは護る為に討つべきを討つという自明のみ
――邪淫に揺らぐほど青臭くも飢えてもいない
貪詞虚消――来い、饕餮。『敵への最短距離上の術理変容、悉くを喰らえ』
召喚期限を限界まで使用し、脚力に怪力回して開いた空間を一気に駆ける
視界は聖杯剣のみに、聴覚は身に迫る音のみに注力、オーラ防御で臭気は断ち
攻撃は身熟しから戦闘知識で計り、先読みして見切り躱す
過去の残滓が此の身を操る事なぞ決して許さん
些少の傷は討ち果たす覚悟で捻じ伏せ
機をずらし囲い放つ衝撃波で回避を封じ、一瞬の静止を逃さず
専心の斬撃で斬り伏せてくれる
骸の海を壊す――其れを願う事は構わん
だが生きるもの全てを犠牲とするなら成す事は罷りならん
凡そ火種なくして炎は熾え上らぬ。
情念の炎も然り。
「――邪淫に揺らぐほど靑臭くも飢えてもいない」
明鏡止水の境地でかの領域に相對した鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、或いは記憶を手放して猶も燻ぶる憎悪にも「種」はあったろうと、視線の先に据わる首魁『聖杯剣揺籠の君』を烱眼に射る。
憐憫むか、否。
基より念頭に置くは、護る爲に「討つべきを討つ」という自明のみと、辰砂の隻眼に赫々と鬪志を|迸發《ほとばし》った嵯泉は、淫邪の強欲に負けぬ“貪惏強奪”を喚んだ。
「貪詞虚消――来い、饕餮」
煌々と照り上がる魔法陣より|顕現《あらわ》れたのは、牛身人面の邪神。
空腹を吼え哮る饕餮の胃袋を慰めるべく、嵯泉は眼路いっぱいに広がる景色を屠るよう命じた。
『敵への最短距離上の術理變容、悉くを喰らえ』
而して術者より|許諾《ゆるし》を得た饕餮は、大地に虎牙を掛けるや轟然と疾駆し、催淫の風に運ばれる馨香や嫋音嬌聲、淫蕩なる景色の全てを喰らい、その足跡に屠り尽した「虚無の道」を差し出す。
「だが虚無には再び有象が流れ込む。その前に駆け抜けねばなるまい」
邪神の健啖を借りるのは約二分間。敵の術が再び影響を及ぼし始めるのも同程度だろう。
その間に首魁に辿り着くべく一気馳走した嵯泉は、近付くほど研ぎ澄まされる烱瞳を『聖杯剣』へ結び、手は靜かに冱刀『秋水』の柄へ送る。
「如何にして斯くも早く『聖杯』を獲得したか知らんが、過去の残滓が此の身を操る事なぞ決して許さん」
全ては“討つ”爲に備えた身にて、それ以外の挙動を赦す|意《つもり》は無い。
忽ち巨劍や黑槍が幾筋にも閃いて襲い掛かるが、蓋し刃撃こそ我が範疇だと軌跡を見切った嵯泉は、得意の間合いを保ちながら躱し、或いは鞘で彈いて好機を探る。
「些少の傷は、必ず討ち果たす覺悟で捻じ伏せて呉れる」
淫靡な視線を遁れる代わり、裂傷を受け取る。その一瞬の選択を迷わない。
また一瞬の靜止も見逃さぬと、限りなく凝縮された|時間《とき》の中に機を見出した彼は、ここに抜刀――!
宛ら楔を打ち込む樣に専心の斬撃を一閃ッ! 切り結びざま十字の刃を鈞ッと手折った!!
『そんな。ゆりゆりのせいはいけんが』
「骸の海を壊す――其れを願う事は構わん」
『では。どうして』
水晶の樣に欠けて零れる聖杯剣に視線を結ぶ揺籠の君。
その耳元に、嚴然と訣別が置かれる。
「生きるもの全てを犠牲とするなら、成す事は罷りならん」
この通りに、と。
嵯泉の搖るぎない意志を示すように刃は砕かれた。
大成功
🔵🔵🔵
ピオニー・アルムガルト
行動【POW】
骸の海を破壊してくれるのは良いことなのかしら?
まあ兎に角人の命を弄んで得た力に良いことなんて無いわよ!骸の海に何で怨みを抱いているか知らないけど揺り籠の君!全力で倒させてもらうわ!
まず全力で戦うにあたりお互い知るのに名乗りは大事!
先制攻撃には風の妖精さんにアドバイスを貰いながら【野生の勘】で竜巻の風を読みきってみせる。引き寄せてくれるなんて好都合。
えっちな気持ちは…くっでかいわね(揺籠の君の胸の辺りを見ながら)。じゃなくて生の営みは搾取する物ではく繋ぎ育むものよ!こんな情けない死にかたをしたら御先祖様に顔向け出来ないわ!
近づいたら攻撃を捌き、隙を狙い私の最高の一撃をくらいなさい!
先に視た予兆で、かの淫邪は「むくろのうみもこなごなにできる」最強の力を欲していた。
また閻魔王を名乗る者が「既に『骸の海』である」と言っていたが、これは如何云う事なのだろう。
「……骸の海を破壊してくれるのは、良いことなのかしら?」
オブリビオンが滲出しなくなる?
質量を持つ時間は何處へ排出される?
グリモアの光が解ける中、玲瓏たる花葩の中で沈思していたピオニー・アルムガルト(ランブリング・f07501)は、然し『聖杯剣揺籠の君』に明確に|否《・》を示したい部分があった。
「まあ、兎に角! 人の命を弄んで得た力に良い事なんて無いわよ!」
全ての世界の全ての命が欲しいだなんて、幾ら何でも欲しがり過ぎだと凛然を萌したピオニーは、ぎゅうと魔導杖を握り込めると、その鋩を白く輝く領域の先へ結んだ。
「風の妖精さん、あの竜巻を躱す佳い方法は無いかしら?」
精霊術士が智慧を求めれば、精霊は不可視の風を読んでくれよう。
黄金の左手が示す方向を避けるべしとアドバイスを貰ったピオニーは、催淫の氣は「勘」と「感」で聢と避けつつ、而してメガリスの“物質を引き寄せる能力”は巧みに利用して近附き、鬪志に滿ちた状態で堂々と名乗り上げた。
「私はピオニー! アルムガルト家の魔術を受け継ぐ者よ」
『ゆりゆりは、ゆりゆりです』
「ゆりゆり……骸の海に何で怨みを抱いているか知らないけど、あなたを全力で倒させて貰うわ!」
全力勝負に名乗りは必須。
先ずはお互いを知るべきと、月の樣な太陽の樣な金瞳を烱々とさせた佳人は、揺籠の君を|凝乎《ジッ》と見て幾許……吃ッと齒切りする。
「……くっ、でかいわね……!」
えっちな気持ちになるというか、なんかこう、悔しい。
だが狼耳をふるふる、ちょっとばかり過る敗北感を振り払った彼女は、胸奧に燈した炎に我が意志を薪と焚べると、その熱をみるみる高めて片脚に集めた。
「えっちになるとか死ぬとか。そうじゃなくて、生の営みは搾取する物ではなく繋ぎ育むものよ!」
『つなぎ、はぐくむ……』
「ええ! こんな情けない死に方をしたら、御先祖樣に顔向け出來ないわ!」
育まれてきたものを繋いでいく――アルムガルト家の矜持はペンダントと魔導書が支えてくれる。
御先祖樣方に胸を張れるよう戰うと決めたピオニーは、彈ッッと踵を蹴るや飛ぶように跳躍して肉薄し、新たな風が紡がれるより迅く【|一欠片の煌めき《モルゲンロート》】――膨大な炎熱を|迸發《ほとばし》る蹴撃を炸裂させたッ!
「私の最高の一撃をくらいなさい!」
欲しがりの貴女に極上の一撃を。
閃くや烈しく噴き上がった爆熱は、かの豊滿を遙か遠くまでブッ飛ばすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ニーニアルーフ・メーベルナッハ
彼女が何を思っていたのか、は気になる処ですが。
何であれ、命を食いつくさんばかりのその行いは看過できません。
それはかつて聖杯剣を手にした『彼』の思いを穢すもの…
…何より、彼女はかつての聖杯戦争で死んだ双子の妹の仇であり。
元より、赦せる筈などないのですから!
その想いを以て彼女へ意識を集中、周辺光景を認識から外すと共に先制UCを受けた際に溢れる淫欲への抵抗手段とします。
同時、【蟲使い】で操る蟲達を前面に展開、致命部位への視線を妨げます。
UC発動の機が巡り次第白燐奏甲を発動、強化と共に爆破された部位あれば【切断部位の接合】を。
ブレンネン・ナーゲルでの接近戦を仕掛け、不運齎す力も借りて攻撃を加えます。
猟兵として予兆を視た佳人は、同時に銀誓館學園の卒業生として複雑な思いを抱いてもいた。
嘗て交戰した強大なリリス――今は『聖杯剣揺籠の君』として蘇った彼女が、全ての世界の全ての命を求める姿は、ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)にとっては、矢張り“痛み”が勝ったろう。
「……彼女が何を思っていたのか、は気になる処です」
思い出や記憶を『聖杯』に渡してまで求めたもの。
其等を失って猶も胸に燻ぶる『骸の海』に對する恨み。
世界を知る程に輪郭を暴く謎について、当事者たるニーナは知る欲求を刺激されるが、然しそれ以上に、揺籠の君を止めねばならぬ意志を固くさせられる。
「何であれ、生命を食いつくさんばかりのその|行爲《おこない》は看過できません。其は嘗て『聖杯剣』を手にした『彼』の思いを穢すものなのですから……」
長い睫をそと伏せ、美し虹彩に往時の景を搖らす。
不覺えず纎手が胸に宛がわれるのは、自身の大事な記憶が悲鳴を上げるからだ。
「何より、彼女は嘗ての『聖杯戰爭』で死んだ双子の妹の仇。元より、赦せる筈など無いのです!」
己のものと、妹のものと。
二枚一組のイグニッションカード『白日と黒月』が勇気を呉れようか。
妹を想う一心で意識を集中させた佳人は、周囲に滿つ淫靡な光景や嫋音嬌聲、そして香氣の一切を認識から外すと、蟲笛『ヴァイス・リート』が奏でる七色の旋律に白燐蟲を喚び、前方へ盾の如く展開した。
「蟲さん達、致命部位へ注がれる視線から護ってください」
揺籠の君が求めるは“全ての命”にて、白燐蟲も凝視を受ければ破壞されるが、彼等が宿主に注ぐ祝福によってニーナが致命傷を受ける事は無い。また爆破されたとしてしても、切断部位を瞬時に接合する用意は出來ている。
爆発しては白燐蟲を喚び、盾と展開しては破壞されるのを繰り返しながら敵前に進んだニーナは、【白燐奏甲】――白燐蟲に護られる己を強化すると、紅炎手『ブレンネン・ナーゲル』に炎を迸らせて一氣に距離を詰めた!
「白燐蟲のもうひとつの性質は、周囲に不運を齎すこと……!」
嘗ては“蟲の知らせ”と云ったか、ニーナには此れより起こる不幸が見える。
鋭爪に赫灼と炎燄の筋を引きながら、白燐蟲の盾を厚くして正面に躍り出たニーナは、擦れ違いざま赫爪を疾らせ、その軌跡に炎と鮮血の花葩を踊らせた――!
「これ以上の冒瀆は赦しません」
『ッ、ッッ――!!』
一縷と搖るがぬ意志を置き、|訣別《わか》れるように駆け抜ける。
往時と變わらず美しい銀色を煌めかせる彼女の瞳は、激痛を叫ぶ淫邪を見るで無し、もう二度と見る事の叶わぬ双子の妹をずっと映していた――。
大成功
🔵🔵🔵
リーヴァルディ・カーライル
…なぜ、オブリビオンのお前が骸の海を破壊しようとするのか興味はあるけど、ね
…その為に全ての世界の人々を喰らおうとするならば、止めない訳にはいかないわ
…さあら覚悟は良い?ここに私達がいる以上、滅びるのは世界では無い。お前の方よ、揺籠の君
脳内機能を調整する肉体改造術式により極限まで感情を抑制する事で擬似的に精神を「無」にして周囲の惨状を受け流し、
「光の精霊結晶」を破壊する事で生じる閃光により敵の視界を潰してUCの妨害を試みつつUCを発動
空中機動の早業で包囲した1340本の黒血糸で敵を乱れ撃ちながら捕縛し、
血糸に込められた呪詛のオーラが防御を無視して血液や生命力を吸収封印する闇属性攻撃を行う
槍持つ男は、『骸の海』で何かを見た。
閻魔王を名乗る者は、|吾人《われわれ》は既に『骸の海』であると云った。
オブリビオン・フォーミュラとして蘇ったリリスは、『骸の海』を粉々にしたいと云った。
果して此れは如何云う事なのだろう。
「……オブリビオンのお前が、何故『骸の海』を破壞しようとするのか。興味はあるけど、ね」
思い出や記憶を喪失って猶も胸奧に残る、恨み――。
その感情は決して見過ごすべきで無いと、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は先の予兆を振り返るが、然しそれ以上に見過ごせぬ|所業《おこない》が、眼前の領域に広がっている事も承知している。
淫靡と云うには生温い死の庭に對峙した佳人は、而して決然と踏み出た。
「……『骸の海』を壞す力を得る。その爲に全世界の全生命を喰らおうとするならば、止めない訳にはいかないわ」
止める爲に、進む。止まらぬ。
凛乎たる意志を示した彼女は、術式を腦内に巡らせて精神を「無」に、極限まで感情を抑制すると、五感に侵入する情報の全てを受け流し、リリスに由縁する最も強大な能力を封じた。
「……後は、お前のその眼差しだけど。私を凝視しきれるかしら」
領域の中心に向かいざま、懷より取り出した『光の精霊結晶』を射線上で破壞する。
極限まで凝縮した光は忽ち溢れて|迸發《ほとばし》り、佳人へと結ばれていた淫靡な視線を強く強く眩ませた。
『!! しろくかがやくせかいが、ひときわしろくなって――』
「……さあ覺悟は良い?」
光を浴びて光を失った淫邪に届くは、怜悧に犀利に語尾を持ち上げる大瑠璃の佳聲。
敵が時間を止める間に「古き吸血鬼の血」を縒り合せたリーヴァルディは、冷嚴と訣別を告げた。
「……ここに私達がいる以上、滅びるのは世界では無い。お前の方よ、揺籠の君」
『な、に――』
揺籠の君には未だ見えまいが、彼女の周囲に張り巡らされたのは、【吸血鬼狩りの業・|血葬の型《カーライル》】。
対吸血鬼用拘束封印術式“Black Blood Bind”――「B・B・B」は、数にして1,340本の黑血絲を伸ばして豊滿の肉体を拘束すると、絲に込めた呪詛を流して血を奪い、生命力を吸収していく――!
『からだが……ちからが……』
「……お前が命を|鹵掠《うば》うのと、同じ事をしたまでよ」
揺籠の君が淫靡に堕として死に至らしめるなら、リーヴァルディは闇黑の血によって同様の陰惨を見せよう。
而して「奪われる者の痛み」を刻んだ佳人は、揺籠の君が死に|嚮導《みちび》かれるまで、幾度も黑血絲を亂舞させて捕縛・吸収し続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
流茶野・影郎
久遠寺(f37130)と同行
二人なら何とかなりそうだな
行くぞ久遠寺
最後の戦いだ
「ダブルイグニッション」
対策
●淫靡な光景
一番厄介なのはユベコなどで吹き飛ばされた時だ
基本的には揺籠の君を注視して
久遠寺に関しては信じる
落下のリスクは有るが下を見る事だけは避ける
●先制攻撃
インフィニティエアで踏ん張って久遠寺の支援を待つ
同様に久遠寺に向かってのUCは俺が背後から蹴っ飛ばす
「二人居るんだぞ」
そうだ二人いるからこそ
互いに補える
そして借りるぞ英霊の力
『エアライダー・トゥルース』
「トリプルイグニッション」
短期決戦でぶっ叩く
今、俺の全てを叩き込む
「ルチャキック」
飛び蹴りで決める
久遠寺……戦争に巻き込んで済まない
久遠寺・絢音
流茶野先輩(f35258)と
二人なら負けないわよねっ
ラスト、行くわよ!
えっちな光景は集中しながら高速詠唱に頭を傾けて対処しつつ、反撃の備え
先輩は……信頼してるからあんまり気にしない方向で
大丈夫大丈夫
先制で放たれるヤバい竜巻は、銀糸絢爛と白妙月光を周囲の建造物や動かなさそうなものに絡みつけて
私と先輩も引き寄せられないようにしっかり縛り付けてやり過ごす
先輩、ナイスアシスト!
そうよ、私達は二人だもの
お互いの短所も補い合えるし、長所は乗算以上よ!
放つのは絡新婦の羽衣。舞うように大きく腕を振るってゆりゆりを薙ぐ
返す腕で2回攻撃
いいのよ。先輩の隣で戦うって決めた、私のワガママだもの
……ありがとう
嘗て銀誓館學園と交戰した強大なリリスは、『骸の海』を潜ってオブリビオン・フォーミュラと成った。
神の左手とリリスの槍、そして聖杯剣を備えた『聖杯剣揺籠の君』の領域には、凡そ淫靡という言葉では表せぬ|頽廢《デカダン》――悍ましき死の園が広がっていたが、往時の|戰鬪《たたかい》を共に乗り越えた者同士なら、一縷の恐怖も無い。
「二人なら何とかなりそうだな」
遙か遠くに見える聖杯剣に鼻梁を向けた儘、淡然と言つ流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)。
彼の隣、玲瓏と煌く睫をかの領域に結んでいた久遠寺・絢音(苧環の魔女・f37130)は、勿論だと首肯を添えた。
「二人なら負けないわよねっ」
櫻脣を滑る佳聲は、あの時と變わらず透徹なる儘。
金彩の瞳は幾分か成熟して艶帯びたけれども、その虹彩には往時の鬪志が萌していると、後輩の弓張月の如き橫顏を瞥た影郎は、スーツの|衣嚢《ポケット》から取り出したイグニッションカードを兩指に挟んで言った。
「行くぞ久遠寺。最後の戰いだ」
「ラスト、行くわよ!」
――ダブルイグニッション!
凛乎と聲を張れば、影郎は|覆面《マスク》を被って「ルチャ影」に。
銀誓館の理科教師「あやねせんせー」は、霹靂の如き靑を纏う能力者の姿を取り戻す。
而して全き同時、阿吽の呼吸で踵を彈いた二人は、淫欲の風が吹き荒ぶ領域の中心地へ、高所を飛び渡るようにして移動を始めた。
勿論、二人にも揺籠の君の“最も強大な能力”が五感を蝕みに掛かるが、絢音は詠唱を重ねる事に集中して催淫を拒むと同時、『銀糸絢爛』に魔力を注いで靭やかに嫋やかに伸ばしていく。
彼女が淫蕩に堕ちる事は無いと厚い信頼を寄せた影郎は、然し最も厄介なのは、淫靡な馨氣では無く風圧――竜巻に巻き込まれた時だろうと、妖しく頬笑む揺籠の君を|注視《・・》した。
「玉肌香膩の契情と云うべきか……なんてえっちなおっぱいをしているんだ」
「先輩?」
「けしからんもんでやる……もみしだいてアーッ!」
0.001秒でえっちになって飛ばされる。
絢音も影郎を信頼しており、催淫に関して然程脅威と受け取っていなかったが、覆面の儘「ドスケベなおっさん」の|仮面《ペルソナ》を暴かれた影郎は、ぐるんぐるん竜巻に巻き込まれてどっかへ逝きそうになる。
「大丈夫大丈夫って……全然大丈夫じゃなかった!」
いざさらば!(完)という瞬間に擲げられたのは、既に強靭を得た蜘蛛絲。
綺羅と輝く水晶錘が助平を捉えるや、ぐるんぐるんに縛られた影郎は、傍の電柱に巻き付けられて事無きを得た。
「いい|緊縛《しばり》だ、久遠寺。助かった」
「本当に良かった……このヤバい竜巻、引き寄せられないように暫く様子を見なきゃね……!」
影郎を電柱に縛りつけた後は、己も『白妙月光』を伸ばした先、建物に花車を固定する。
この見事な臨機応變を見た影郎は、後輩の成長を嚙み締めるのだった。
†
蓋し「えっち・即・死」の過酷な領域で、影郎が生命を奪われなかったのは、偏に彼の強靭な鬪氣に拠る。
研鑽を積んで武器となった『インフィニティエア』は、神の左手が指し示す軌跡上に構えながら、練り上げれば槍の如くして颶風を裂き、何とか踏ん張って攻撃を引きつけていた。
『あのままえっちになって、しねばよかったのに』
「慥かに、畢れるほど樂な事は無い」
喰い縛った佳脣から皮肉が零れた|刹那《とき》だった。
竜巻の影響を受けぬ側面から踏み込んだ絢音が、纎指に操る蜘蛛絲を撓やかに延伸させ、神の左手を拘束する!
「先ずは竜巻を、それから『槍』と『剣』を封じて――」
『ゆりゆりの“せいはいうぇぽんず”はさいきょう……だれにもうばえません』
兩者の間でピンと張りつめる絲はその儘に、揺籠の君がリリスの槍を構える。
逆手に携えた毒の鋩先が絢音へと注がれた、その瞬間、今度は影郎が淫邪の背面へ一気肉薄ッ! 背後に控える巨劍ごと蹴っ飛ばし、大きく|突倒《つんのめ》らせた。
「二人居る事を忘れて呉れるなよ」
『きゃあっ!』
撞ッと倒れ込む豊滿を颯然と躱した絢音は、振り返るや莞爾たる|微咲《えみ》。
「先輩、ナイスアシスト!」
言わずとも連携が整ったと瞳を緩めた佳人は、今の影郎の科白を丹花の脣に|捺擦《なぞ》りながら、更なる雄渾を得た。
「そうよ、私達は二人だもの。お互いの短所も補い合えるし、長所は乗算以上よ!」
「そうだ。二人いるからこそ互いに補える」
嘗ての仲間と再び運命を共にする事が、どれほどの力を発揮するか。
二人は今こそ其を|證左《あかし》しよう。
「次は全部、絡め取るんだから!」
『な、にを――』
先に動いたのは絢音。
日本舞踊の風情が漾うよな、優美な舞いで玉臂を動かした彼女は、【絡新婦の羽衣】――長い睫を閉じ合せた十秒の集中によって全領域を把握し、纎指に結ばれた蜘蛛絲を、大きく嫋やかに踊らせた!
『っああぁっ!! うぇぽんずが……!』
ふわふわと|靉靆《たなび》く絲も、魔力を注いで硬質化した今は鋼鐵の如く、撓れば鞭となって淫邪の躰を強かに搏つ。
纎麗の躯が更に踊れば、二度目は毒の槍と巨劍を聢と絡め取り、揺籠の君ごと雁字搦めにした。
「戰場中に巡らせた蜘蛛絲に獲物が掛かれば、あとは――!」
冱ゆる金瞳が追った先、然う、影郎は既に動いている。
短期決戰でぶっ叩くが最良と、時と距離と縮めるように神速を駆った彼は、カードリーダーに更なるイグニッションカードを読み込ませて「トリプルイグニッションシステム」を解放!
英霊の力を借りて戰鬪力を飛躍させると、生命を削らん覺悟で【エアライダー・トゥルース】!
往時のルチャ影と全く遜色無き、いやそれ以上の|衝撃《インパクト》を孕んだ|飛び蹴り《ルチャキック》を決めた――ッ!
「今、俺の全てを叩き込む!」
『――ッ、ッッ……!!』
匂い立つほど艶かしい躯が、ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅいぃぃぃいーん! と吹っ飛んでいくアンバランス。
覆面の下、烱々たる黑瞳にその影を追った影郎は、かの淫邪が雪斑を置く|莨菪花《アカンサス》の茂みにブッ込む音を聽きながら、ほつりと言つ。
「……戰爭に巻き込んで済まない」
端整の脣を擦り抜けるハイ・バリトンに滲むは、“共犯者”への詫び――。
その聲音に後悔の色を見た絢音は、ゆっくり|頭《かぶり》を振って答えた。
「いいのよ。先輩の隣で戰うって決めた、私のワガママだもの」
「久遠寺」
「……ありがとう」
言い添えられる科白は、慈雨の樣に染みて。
時を経てこそ触れられる優艶の|澪《しずく》に濡れた男は、閑かに、瞼を閉じ合せるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
カイム・クローバー
自身の掌を見つめた。
ゾワリ、と人ならざる腕への変貌。意思とは無関係に。一瞬の間、其処に在ったのは何時もと変わらぬ己の掌だった。
今回の戦争、邪神の力の行使が激しかったか、己が己でなくなる感覚がある。…最も今回はそれが良い方向に動く。
いんよくのかぜの影響を最低限に出来る。行為のことなんて考える余裕もないくらい、既に内側が浸食されかけてる。
最初以外はいつも通りを装う。
力を求める気概は分かるぜ。生憎と俺らには骸の海の事はさっぱりだがな。
軽口の【挑発】に【悪目立ち】。魔剣を肩に担いで臨戦態勢。
引き寄せる神の左手は無抵抗に、リリスの槍を【見切り】で躱して、振るわれた聖杯剣を魔剣を携えるのと逆の手で【盗む】!
それを揺籠の君目掛けて投げつける――が、意志とは無関係に覚醒状態に引き込まれる。増した【怪力】、黒光りする歪な腕がヤツを殺そうと頭で囁く。
覚醒状態を解くのに精神を研ぎ澄ませて。己を取り戻す。
片膝着いて、呼吸を荒げ、それでも。
――俺の意志は俺だけの物だ、と。銃弾を聖杯剣の柄尻目掛けてUCで撃ち放つ。
ゾワリ、らしくもない|戰慄《ふるえ》が疾る。
指先に集められるチリとした|痛痒《いたみ》に視線を遣れば、五指は魔爪を尖らせて鈎の如く、掌を覆った黑銀の鱗は手首から臂まで広がって、凡そ人ならざる腕へ變貌を遂げていく――意思とは無関係に。
催淫の風の影響か、いや否。
では唯の悪夢か、それとも|現實《リアル》か。
然し時は待たぬ。
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が交睫した一瞬の後には、|何時《いつも》と變わらぬ己の掌があった。
(「……時折」)
時折、己が己でなくなる感覺がある。
特に今回の戰爭は、邪神の力を激しく行使したと記憶を|捺擦《なぞ》った彼は、この腕が己の物だと確かめるように開いては閉じ、閉じては開くと、最後にぎゅうと握り込めた。
(「既に内側は浸食されかけてる」)
封印の渦中に在ると思っていたのは、“己”だけか――。
目下、カイムが踏み込んだ領域にも淫靡な光景が広がっていたが、行爲に耽る獸も、その嫋音嬌聲も今は届かぬ。
「……この俺に餘裕が無いとは。良い風が吹いてら」
皮肉ってはみるものの、淫蕩に堕ちぬのが何よりの|證據《しょうこ》。
一瞬の違和感を持続しつつ戰場を駆けたカイムは、然し首魁が背負う『聖杯剣』を眼路に捉えた時こそ“仕事”の顏に――普段通りの飄然を装っていた。
『ゆりゆりはしんぷるに「さいきょう」をめざします』
『きっと、むくろのうみもこなごなにできるはず……!』
求めるものが手に入るなら、心すら要らぬと言い、而して全てを聖杯に捧げたリリスが、聖杯剣揺籠の君。
眼前に立つ淫邪に先の予兆を重ねたカイムは、魔劍を肩に担ぎ、逆の手をヒラと開きながら聲を掛けた。
「あー、“何處かで見た覺えがある”って云うのはナンパの常套句だったか? 兎に角、アンタに用があって來た」
『たいせつないのち。あなたもいまにゆりゆりのちからになる』
「力を求める気概は分かるぜ。生憎、骸の海に足先すら浸した事の無い俺らには、恨みというのは|全然《サッパリ》だがな」
輕口を叩くのは毎度の事。
美し妖し蛇の眼が瞶めるカイムは、悪戯っぽく片眉を上げるのみ。
畢竟、何處までも平行線を行く会話が両者の境界線だった。
『りょうへい。あなたがたでは、せかいのためにはなけません』
「へえ、そりゃ残念だ」
スッと差し向けられる『神の左手』――メガリスに由來する力には無抵抗に、逆に利用する形で近附いたカイムは、逆手に握れる『リリスの槍』の軌跡を見切って回避する。
「花車なアンタには大きな得物だ。取り回しが大きくて読み易い」
『ゆりゆりの、うぇぽんずが……』
槍も身丈を越す大物だが、聖杯剣はそれ以上だと、カイムは実践する事で教えよう。
全き眞上から轟然と振り下ろされる巨刃に烱々と紫瞳を結んだ彼は、先にヒラと踊らせた左手一本を峰に添えると、なんと其を我が物に――! 猛然たる勢いはその儘、鋭鋩を揺籠の君に反転させて擲げつけた!
『――っっ!!』
“|弑《コロ》セ。|屠《コロ》セ。”
「――ッッ!」
時が止まる代わり、ドクンと、大きな拍動が全身を搖らす。
己が意志とは無関係に“覺醒状態”に引き込まれたカイムは、この手が尋常でない膂力を発揮すると同時、黑々と輝く歪な腕に變わっていくのを視る。
“|戮《コロ》セ。|殲《コロ》セ。”
『ッ……ッッ……五月蠅えよ……ッ!』
腦内で執拗に囁く存在に抗った彼は、聖杯剣が淫邪の脇腹を掠める映像を何とか認めながら、今に縋るように意志を強く強く、精神を研ぎ澄ませて「己」を取り戻す。然うして“覺醒”を押し殺す。
珍しくも冷たい膏汗を絞ったカイムは、片膝を着き、肩で呼吸する程であったが、それでも紫彩の瞳の|光耀《かがやき》を喪わぬ彼は、屈んだ状態から黑銃を構え、淫邪の柳腰を斬った直後の巨刃に|照準《マト》を絞った。
「――俺の意志は俺だけの物だ」
冷然と、嚴然と、楔打つように言い放つ。
同時に放たれた銃聲は、ちょうど聖杯剣の柄尻目掛けて【|戦場の咆哮《ハウリング・ロアー》】――威力も射程も飛躍した冱彈を精確に沈め、玻璃と輝く剣を一瞬で破壞する――!
刹那、硝子片の如く飛び散った無数の刃は、悉く淫邪に突き刺さり、凄艶の躯に閃々と血華を散した。
『きっと、むくろのうみをこなごなに……!』
哀れにも骸の海でなく聖杯剣を粉々にしたオブリビオン・フォーミュラ『聖杯剣揺籠の君』は、生命の代わり刃撃を受け取って|蒼溟《わだつみ》に還るのだった――。
大成功
🔵🔵🔵