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見習い魔女と秘密のポスト

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●アルダワ魔法学園 とある教室
 ―ーねぇ、知ってる? 『秘密のポスト』の話。
 ―ーうぅん、聞いたことないなぁ、それ、なぁに?。
 放課後の教室で学生たちが噂話に興じている。
 教科書を開き、授業の復讐をしていた少女も思わずペンを走らせる手を止め、クラスメートたちの話に耳を傾けていた。
 ―ー地下迷宮のどこかに『願い事を投函すれば叶うポスト』があるんだって。
 ――そのポストの在処を知っているのはお手紙配達人だけらしいけど……。
 本当にそんなポストあるのかな? と学友たちは笑い飛ばしているけれども。
(「願いが叶うポスト!?」)
 少女は話を聞きながら瞳をキラキラと輝かせる。
 では、そのポストに自分の願い事を投函することが出来れば、願いが叶うことは保証されたも同然。
「そうと決まればすぐに行くです!」
 善は急げと言わんばかりに少女は地下迷宮へと向かっていった――。

●見習い魔女と地下迷宮
「みんな集まってくれてありがとうなのねーっ!」
 ユニ・エクスマキナは金色の髪をふわりと揺らし、宙に浮いたディスプレイを手早く操作する。ディスプレイに浮かんだのは蒸気とからくりの迷宮―ー次に向かう世界はアルダワ魔法学園のようだ。
「あのね、アルダワ魔法学園の見習い魔女さんがまた一人で地下迷宮に向かおうとしてるみたいなの」
 その見習い魔女の名前はフィオラ。白いとんがり帽子にお揃いのマントを身に着けているから会えばすぐにわかるだろう。
「見習い魔女さんはこの地下迷宮のどこかにあるという『秘密のポスト』を探しているんだって」
『秘密のポスト』――それは、学園の一部の生徒たちの間で最近噂になっている話で、なんでも『願い事を書いた紙を投函すれば、その紙に書かれていることが叶う』というポストらしい。
 とはいえ、実際にこのポストに願い事を投函した者はいないとのこと。
 じゃぁ、やっぱりただの噂なのか……という猟兵たちの呟きにユニは「違うのね」と首を横に振った。
「地下迷宮にホントにポストはあるみたいなのね! ただ、その在処を知っているのはお手紙配達人……じゃないか、お手紙配達するくろやぎさんだけなの」
 手紙を配達するくろやぎ、なんて絶対に災魔じゃないかと顔を見合わせる猟兵たちの予想は的中。ちなみに、部下にはしろやぎさんもいるという。
「まずは迷宮のどこかにいるしろやぎさんとくろやぎさんを探してほしいのねー!」
 そのためには、手紙だらけの迷路を抜けてほしいとユニは言う。
 あちこちに色々な手紙が散乱しているというこの迷路のどこかにあるくろやぎさんの手紙としろやぎさんの手紙を探し出せば、手紙に惹かれたやぎさんたちに会えるはずだという。
「お手紙は、ラブレターとか、ごめんなさいの手紙とか、絶交の手紙とかまぁ色々あるんだけど……その中には噂を信じた人が書いた願い事の手紙も交じってるみたいなのね」
 もしも、自分の願い事と同じ内容の手紙があれば、持って行って『秘密のポスト』を見つけた際に投函してもいいかもしれない。
 また、やぎさんたちは手紙に惹かれる性質を持っているらしいので、見つけた手紙はいっぱい集めておくと使える場面があるかもしれない。
「見習い魔女さんもやぎさんに会うためにこの手紙の迷宮にいるから、よかったら手伝ってあげてほしいのねー!」
 よろしくお願いしまーす、と彼女はペコリと頭を下げると猟兵たちを送り出す準備に入るのだった。

 ――さぁ、いざ行かん。アルダワ魔法学園へ!


春風わかな
 はじめまして、またはこんにちは。春風わかなと申します。
 オープニングをご覧いただきありがとうございます。

●シナリオの流れ
 第1章:お手紙が散乱している迷路の突破(冒険)
 第2章:『グルメなしろやぎ』との戦い(集団戦)
 第3章:ボス『上司のくろやぎ』との戦い(ボス戦)

●見習い魔女
 フィオラ・アルコバーレ。9歳。
 白いとんがり帽子とお揃いの白いマントがトレードマークの少女。
 性格は明るく無邪気。人懐っこいタイプ。
 努力家ですが、ちょっと頑固なところもあります。
 何か手伝ってほしいこと、やってほしいことを指示いただければ喜んで手伝います。
 指示がない場合、自力でお手紙を探したり、猟兵たちを応援しています。

●お手紙が散乱している迷路(第1章)
 お手紙がたくさん落ちている迷路です。
 この手紙の中に混じっている『しろやぎさんの手紙』と『くろやぎさんの手紙』を探しつつ迷路を突破してください。
 お手紙の中には触るとビリビリ痺れるお手紙や、剃刀入りのお手紙など罠が仕掛けられた手紙も交じっているのでご注意ください。
 その他の手紙についても、しろやぎさんやくろやぎさんと遭遇した時に使えるかもしれないので集めておくといいかもしれません。

●第1章に関する補足
 POW/SPD/WIZの行動・判定例は気にしないで大丈夫です。
 例を参考にプレイングをかけていただいても良いですし、お好きな行動を自由にとっていただいてもかまいません。

●共同プレイングについて
 お友達や旅団仲間との合わせプレイング(共同プレイング)は大歓迎です。
 その際は、ご一緒される方のID(3人以上で参加される場合はグループ名も可)と呼び方を記載ください。
 共同プレイングは失効日が同じになるように送信していただけると大変助かりますが、無理のない範囲で構いません。

 以上、皆さまのご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 冒険 『お手紙トラップに気を付けて』

POW   :    手当たり次第、気合で探す

SPD   :    手元にたくさん集めてその中から探す

WIZ   :    見た目等をヒントに在処を予想しながら探す

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「わぁ……っ! お手紙がいっぱい落ちてるです!!」
 白いとんがり帽子を被った少女――見習い魔女のフィオラは大量の手紙が散乱している迷路を前にこれからどうしようかと考え込む。
 とりあえず、足元に落ちていた手紙を拾ってみると、それは綺麗な花の透かし模様の入った封筒だった。フィオラは封筒を破かないように慎重に中身を取り出してみる。すると、そこには封筒とお揃いの便箋に大切な親友の誕生日を祝うメッセージが書かれていた。
 ふむふむ、と頷きながらフィオラは手紙を封筒に戻し、ポケットにしまうとキョロキョロと辺りを見回す。
「くろやぎさんとしろやぎさんのお手紙って、どんなお手紙です??」
 フィオラが首を傾げるように、目的の手紙はいったいどんな手紙なのか。封筒等に手がかりがあればよいが、中身を見ればわかるだろうか。
「やぎさんたちはどんなお手紙を書くですかね~?」
 やぎさんの手紙の中身を想像するのもまた一興。
 フィオラはやぎさんたちの手紙を探すため、迷路に足を踏み入れるのだった――。
枸橘・水織
フィオラに対する感情
『他人の気がしない』
『助けたい』以上に『友達になりたい』

一人称は『みお』
水色のリボンがお洒落な魔法使いの帽子(とんがり帽子)を愛用
『誰かを救える魔法使い』が夢…で、知識欲も強い事もあり勉強中
…なお…2/20で9歳


特徴は聞いているので、フィオラを探して協力を申し出る
「みおは枸橘・水織…みおって呼んで」
ちなみに、みおちゃんはフィオラの事は(フィーではなく)『フィオちゃん』と呼びたい(みお・フィオ)

地道にフィオちゃんと手紙探索
トラップ系の手紙?は何かに使えるかと取っておく

全般的に【救助活動1】を使用
フィオちゃんが怪我したら普通に手当てします
「ごめん…まだみお…治療系は使えないの」



 地下迷宮へとやってきた枸橘・水織はキョロキョロと辺りを見回しながら迷路を進んで行く。
(「どこにいるのかな……?」)
 水色のリボンがお洒落なとんがり帽子を被った水織が探しているのはやぎさんの手紙ではなく、見習い魔女ことフィオラだった。
 年も近いし、魔法使いを志している。フィオラの話を聞いた時から親近感を覚えていた水織は彼女が困っているという話を聞いて助けてあげたい、と強く思いここへやってきた。
 そんな水織の前方で白いとんがり帽子を被った少女が足元に落ちている手紙を拾いながら歩いている姿が見える。
(「あ、いた……!」)
 水織がフィオラの方へと向かって行くと、拾った手紙を開けようとしてフィオラは「きゃぁ!」と小さな悲鳴をあげた。
 急いで水織がフィオラへと駆け寄ると、彼女は右手の指先からポタポタと血を流しながら手紙を握り締めて立っている。
「大丈夫……?」
 遠慮がちに水織が声をかけると、フィオラは照れ臭そうに笑いながら頷いた。
「フィー、失敗したです。お手紙、よく見ないで開けたら……」
 間違って剃刀入りの手紙を開いてしまったようだ。水織はフィオラの手を取ると、手に持っていた手紙を受け取って鞄にしまい、応急処置を始める。
「ごめん……まだみお……治療系の魔法は使えないの」
「フィーもまだ勉強中だから、傷を治す魔法は使えないです」
 同じです、とフィオラは水織と顔を見合わせ、笑顔を浮かべた。
「みおは枸橘・水織……みおって呼んで」
「フィーはフィオラです。みおちゃん、フィーの怪我の手当してくれてありがとうです」
 ぺこっと頭を下げるフィオラに、水織が「フィオちゃんって呼んでもいい?」と尋ねるとフィオラはにこりと笑顔で頷く。
「みおも、フィオちゃんがお手紙探すの手伝うね」
「わぁ、ありがとうです! じゃぁ、頑張って探すですー!」
 えいえいおー、と拳をあげるフィオラを見て水織はくすりと笑みを浮かべ、二人は足元に落ちた手紙を拾いながら再び迷路を歩き始めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アール・ダファディル
秘密のポストに投函すれば願いが叶う、か
本当に叶うのであればどれほど良いか
――…ああ、Echo。いいとも
今日はキミと『ゆうびんやさんごっこ』を楽しもうか

件のやぎらの手紙がど分からぬ以上は数が必要だ
まずは見つけ次第集めるとしよう
【錬成カミヤドリ】を用いて複製したテディベアたちと共に手紙探し
ぬいぐるみを操っては集荷のおしごと
安全性を重視に複製や≪彼女≫…Echoに触らせて
問題が無ければ用意した袋に入れて持っていく
同胞や幼き魔女らと出逢ったら協力しよう
こういうのは手が多い方が良いからな

――…手紙、か
昔は贈る意味も受け取る意味も分からなかったが、今ならばわかる
彼らは距離があろうと伝えたい事があったのだ



 迷宮へと降りてきたアール・ダファディルは大きなリボンがついたテディベアに話しかける。
「Echo、今日はキミと『ゆうびんやさんごっこ』を楽しもうか」
 アールは予め用意しておいた大きな袋をばさりと広げ、複製したテディベアたちも交えて手分けして手紙を集め始めた。
 罠が仕掛けられた危ない手紙もあるというので、アールはぬいぐるみたちを操ることに専念し、手紙を集めたり触るのはEchoの他、テディベアたちに任せることにする。
「よし……この手紙は問題なさそうだ」
 問題がない、安全だと判断できた手紙は用意した袋へと次々と入れていった。迷路を進みながら手紙を集めていると、どんどん袋は重くなっていく。
「――手紙、か……」
 アールは拾った手紙を手に持ったままポツリと呟いた。
 昔は手紙を送る意味も受け取る意味も正直分からなかったが、今ならばわかる。
 彼らは、例えどんなに距離があろうと、伝えたいことがあったのだ……。
 アールは手にした手紙をゆっくりと開く。可愛らしい動物たちのイラストが描かれた便箋に綴られていたのは、大切なぬいぐるみとずっと一緒にいたいと願う少女の気持ち。迷宮の奥にあるという秘密のポストに投函すれば願いが叶うというが――。
「本当に叶うのであればどれほど良いか……」
 アールは手紙を丁寧にたたむとそっと封筒へと戻し、袋の中に入れた。
 そんなアールの様子が気になったのか、Echoが手紙を拾う手をとめ、傍へと戻ってくる。心配そうにアールに寄り添うEchoに、彼は何でもない、とゆっくりと首を横に振った。
「さぁ、Echo。ゆうびんやさんのお仕事はまだ終わっていないよ」
 いけない! と言わんばかりにぱっと口元を手で押さえると慌てて手紙を集めに行くEchoを見送り、アールもまたテディベアたちに手紙を拾い集めさせる。
 Echoたちが一生懸命集めた手紙の中にやぎさんたちのお手紙が混じっていることにアールが気づくのは、もう暫く後のことだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

糸縒・ふうた
アドリブ・絡み・改変等歓迎

今度はやぎさんたちのお手紙探しか!
どんなことが書いてあるんだろ…?

いつもお手紙食べちゃうから、こんなお手紙が食べたいとか
こんなお手紙がおいしい、とかかな?
見つけられたらこっそり中身見てみたいな!

【喚び聲】で喚んだかぞくとなかまに手伝ってもらおう

特別なにおいのするものがないかとか
変わった色や形のものがないかとかとか

中には危ないものもあるみたいだから
開けるときは慎重に

【野生の勘】でこれは危なそうっていうのがあったらやめておいて

願いごとのお手紙もそうじゃないお手紙も
鞄に入れて一緒に持っていこう

どうせならこんなところじゃなくて
ちゃんと相手に届いて欲しいから


雨識・ライラ
願いごとが叶うポストなんて素敵だね!花太!

えーっと、こんないっぱいのお手紙の中から探すの?
んん、よぉーっし!頑張るぞ!
花太も手伝ってね!
カミソリには気をつけること!ボクも皮手袋つけてやろっと

後ろめたいけど中身見なくちゃいけないんだよね…

くろやぎさんは黒いワンポイントか手形のスタンプを探してみようかな?
おいしかった手紙の内容とかやりとりしてそう…

しろやぎさんは、我慢できずに自分のお手紙ちょっとかじってちゃってたりして!ふふ。
中身はくろやぎさんに「こんなお手紙が食べたいなぁ」とか書いてそう!

はー。大変だけど、これだけのお手紙の中にひとつひとつ、思いが込められてるんだね
…すごいなぁ



「願いごとが叶うポストなんて素敵だね!」
 ね、とカワウソ型のガジェットの花太に笑顔を向ける雨識・ライラだったが、迷宮に足を踏み入れると通路のいたるところに散乱しているお手紙の数々に思わず「えぇー……」と溜息をつく。
「えーっと、こんないっぱいのお手紙の中から探すの?」
 だが、ライラはすぐに気持ちを切り替えて。軽く頬をパンっと叩いて気合十分。
「んん、よぉーっし! 頑張るぞ!」
 そんなライラの様子をちょこんと首を傾げて見つめる花太にライラは皮手袋をつけながら声をかけた。
「もちろん、花太も手伝ってね! あ、でもカミソリには気をつけること!」
 わかった? と念を押すライラを花太は暫し見つめ。一人と一匹はやぎさんの手紙を探し始める。

「おいで――」
 糸縒・ふうたは【喚び聲】を発動させるとかぞくとなかまを喚び出し、手紙探しを手伝ってもらうことにした。
 たくさんの手紙を拾い集める中で特別な匂いがするものや、変わった色や形のものはないかどうか。まずは封を開ける前に判断できそうな点を中心にふうたはかぞくやなかまと手分けしてお手紙を確認していく。罠が仕掛けられた危ない手紙もあるというので、中身を確認するときには細心の注意を払ってそっと封を開いた。
「……この手紙、嫌な予感がする」
 一見すると何でもない手紙に見えるけれど、ふうたの野生の勘が『危険!』と告げる。そんな時は自分の勘を信じ、手紙は見なかったことにして触らずにそっとそのままにしておいた。

「ねぇ、花太。やぎさんたちの手紙ってどんなお手紙だろうね?」
 手紙を探しながら花太に話しかけるライラと同じことを想像していたふうたは思わず手を止め、ライラに声をかけた。
「いつもお手紙を食べているから、『こんな味のお手紙が食べたい!』とか、『こんなお手紙が美味しい♪』とかなんじゃないかな?」
 思いがけず返答があり、驚きを隠せないライラだったが、相手――ふうたも同じことを想像していたとわかると思わず「ふふっ」と笑みを零す。
「しろやぎさんは、グルメさんらしいから。我慢できずに自分のお手紙も齧ってしまっていたりして」
「ありそうだなぁ。――もしも、お手紙を見つけたら、こっそり中身を見せてもらってもいいかな?」
 どんなことが書いてあるのか気になるし、と悪戯っこのような笑顔を浮かべるふうたにライラもこくりと頷く。
 あれこれと二人で手紙の中身を想像しながらの捜索は楽しくて、思った以上に捗っていった。
「鞄、いっぱいになっちゃったね」
 ライラが指さしたふうたの鞄は拾い集めたお手紙でパンパンに膨れている。
「重たいんじゃない?」
「確かに……」
 ふうたが鞄を持ち上げると、腕にずしりと重みが伝わってきた。しかし、こんなところに落ちたままではお手紙たちがかわいそう。やはり手紙は相手に届いてこそ、とふうたは想う。
「相手にきちんと届けてあげたいからね」
 よいしょ、と鞄を持ち直し、ふうたはまた1通の手紙を拾い上げた。
 真っ黒な封筒に達筆すぎて読めないサインとともに、黒いヤギの足跡のようなスタンプが押されている。
「みて、これって……!」
「うん、ボクも見つけた……!」
 ふうたとライラは顔を見合わせ、「せーの!」と声を合わせて手紙を開いた。
『この間のお手紙は最高だっためぇ~。甘い恋心を綴ったお手紙は美味しかっためぇ~』
『お腹空いためぇ~。もっとお手紙欲しいめぇ~』
 開いた手紙を読んだ後、二人は顔を見合わせ、笑顔を交わす。
「やっぱり、黒やぎさんの手紙は、お手紙の味のことだった」
「白やぎさんはお手紙いっぱい食べたいって」
 見て、とライラが持った白やぎさんのお手紙は途中で噛み千切られていた。
「ボクたちの予想通りだったね」
 やぎさんたちの手紙を見つけた後は迷路を抜けるだけ。
 ライラとふうたは落ちている手紙を拾いながら、ゴールを目指して迷路を進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

幻武・極
願いを叶えたければ、迷宮の奥にあるポストに手紙を入れなければいけないかぁ。
いかにも試練という感じでいいね。
そして、ここに散らばっている手紙は夢半ばで散っていった思いなのかな?
キミはこの試練に打ち勝ちその願いをポストに届けることができるのかな?
ボクが見守っててあげるよ。

まずはこの手紙の山に眠るしろやぎさんとくろやぎさんの手紙を探すんだね。
ボクはバトルキャラクターズとの人海戦術で探してみるよ。

それにしても、郵便配達ヤギが自分の手紙をなくしてしまうなんておっちょこちょいだね。
本当に願いが叶うのか心配になってくるよ。



「願いを叶えたければ、迷宮の奥にあるポストへ手紙を入れよ……かぁ」
 いかにも試練という感じに幻武・極は「いいね」と独り言ちる。
 まずは、この手紙の山に眠るしろやぎさんとくろやぎさんの手紙を探さなくては。
 よし、と極は気合を入れるとゲームキャラクターたちを召喚し、人海戦術で手紙を探す作戦をとることにした。
 迷宮内のあちこちに落ちている手紙の山の中からやぎさんたちの手紙を探すことは容易ではない。
 手紙を拾い集める手をとめ、極は散乱する手紙を眺めて誰に言うでもなく口を開く。
「ここに散らばっている手紙は夢半ばで散っていった思いなのかな――?」
 この手紙は一体どこにあったものなのか、そもそも、なぜこの迷宮にたくさんの手紙が落ちているのかも不明だ。
 それにしても、郵便配達やぎが自分の手紙をなくすなんておっちょこちょいだと極は小さく肩をすくめる。
「まったく、本当に願いが叶うのか心配になってくるよ」
 やれやれと首を横に振る極の元へ、手分けして手紙を集めていたキャラクターたちが両手いっぱいの手紙を抱えて戻ってきた。その中にあったのは、白い封筒にヤギの足跡のようなスタンプが押された手紙。念のために中を確認すると、やはりこれは白やぎさんの手紙のようだ。
「見つけた……!」
 小さくガッツポーズをする極の視線の先にいるのは、白いとんがり帽子の少女。
 水色のリボンがついたとんがり帽子の少女と二人で目的の手紙を探しているようだが進捗は芳しくない様に見える。
「果たしてキミはこの試練に打ち勝ちその願いをポストに届けることができるのかな?」
 ――ボクが見守っててあげるよ。
 白やぎさんの手紙を手に、駆け出した極は擦れ違いざま、見習い魔女に小さな声で声援を送った。頑張れ――と。

大成功 🔵​🔵​🔵​


「――んん?」
 今、誰かに声をかけられた気がしてフィオラは慌ててきょろきょろと辺りを見回す。
 走り去る青い髪の少女の姿が目に入ったが、声の主は彼女だったのだろうか。
「フィーもがんばってお手紙さがすです!」
 いくら一人ではないとはいえ、手紙の山の中から地道に目的の手紙を探していくのは途方もない作業に思えたが。励ましの言葉を貰い、フィオラのやる気ゲージはがっつり回復した。
「フィー、こっち行ってみるです!」
 効率も鑑み手分けして探すことにし、フィオラは左へ曲がる道へと進んで行く――。
オルハ・オランシュ
アルダワの地下迷宮は面白いものがたくさんあるんだね
フィオラが惹かれる気持ちもわかる気がするなぁ
また会えて嬉しいよ
私にも手伝わせてくれる?

そうだ、もしメリーがいたら協力を申し出よう

罠が仕掛けられていない手紙は片っ端から集めるよ
何かの役に立つかもしれないから
あっ……フィオラ、待って!
明らかに手紙の厚さを超えたものと
【野生の勘】で嫌な予感を抱いた手紙は触らせずに、
ナイフを刺して危険物の目印に
うっかり触っちゃったら虚勢を張ろうかな
大丈夫大丈夫、死にはしないから……!

もしハズレの手紙に共通した特徴かあったら
それは除外して徐々に探す範囲を狭めていきたいね
つい読みふけらないように気を付けなきゃ


メリー・メメリ
おともだちがこまっているって聞いたよ!
おてつだいがんばるね!
それからやぎたちともおともだちになりたいな~
ふおお、お手紙がたくさんあるよ!

ともだちのライオンをよんだら背中にお手紙袋を乗せる!
ここにお手紙をいれるんだ~
ライオン、ライオン、きけんなお手紙もたくさんあるんだって
わかるかなあ?わかったらフィオラやみんなに知らせるよ!
フィオラ、このお手紙はあぶないって!
みんなもきをつけてね!びりびりするかも!

おねがいのお手紙、ふつうのお手紙、これはごめんねのお手紙だ~
お手紙をよんでも大丈夫だったかな……
おこられないかな……
かきあつめたお手紙はライオンの背中の袋にいれる!


キアラ・ドルチェ
フィオラさん相変わらず猪突猛進…まあでも魔女の先輩として、お手伝いをせねば
…私も願いが叶えて欲しいとか、そんな事はっ!?(背中に手紙入った封筒隠し

確保用に大きなメッセンジャーバッグ持参
封筒を良く観察して、仕掛けがあったり剃刀入りの物はスルー、その他は開封し中身確認、しろくろやぎさんのお手紙確保を
フィオラさんにも危ない物の見分け方はお伝えして、集めるの手伝って貰いましょうか
「これも魔女の修行の一環なのですっ♪」(先輩風ふかし

あと誰かの安全とか幸せ願うお手紙も確保
ポストに投函してあげたいですから、ね♪
誰かのしあわせ叶えるお手伝いするのも魔女のお仕事の内なのですっ
手伝って貰えますか、フィオラさん?


泉宮・瑠碧
フィオラは久し振り
元気なら何よりだ

さて、手紙か…
やぎ達の手紙はどんな手紙だろうな
そして誰宛なのか…

第六感や掃除の手際、失せ物探しで探してはみるが
危ない手紙も混じっているらしいからな
手袋と毒耐性で保護はしよう
普通の手紙であれば集めておくぞ

フィオラにも念の為、手袋を渡しておく
持った手紙に違和感を感じたらすぐに離してな
ある程度なら治せるが、嫌な思いはしない方が良い

僕は、特に願いは無いから…
…いや、あるにはあるか
とはいえ、願い事の手紙ならどれも投函した方が良い気もするが
…数が数だからな
せめて見付けられた分でも良いだろうか
今だと、僕が願うのは…
「願いを望んだ者達の願いに見合う努力次第で叶います様に」だな



 秘密のポストを探すために迷宮に来たというフィオラの話を聞き、キアラ・ドルチェは思わず苦笑いを浮かべた。
(「フィオラさん、相変わらず猪突猛進……」)
 とはいっても、やはり魔女の先輩として困っている彼女の手伝いをせねば、とキアラもまた地下迷宮へとやってきたわけで。
「フィオラさん、がんばっていますか」
 お手紙探しに奮闘している見習い魔女の姿を見つけ、先輩魔女が声をかける。
「あ、こんにちわです!」
 ぺこっと頭を下げるフィオラと挨拶を交わすと早速キアラも手紙を探し始めるにあたっての注意点を語りだした。
「いいですか、フィオラさん。手紙を手に取る前に、よく封筒を観察するんですよ」
 ぴっと指を立てて語るキアラの言葉にフィオラは神妙な面持ちで耳を傾ける。
 キアラ曰く――。仕掛けがあったり、剃刀が入っていそうな物には手を触れない、それ以外の物については慎重に開封して中身を確認してやぎさんたちのお手紙を探すこと。
 その他、危険そうな封筒の見分け方についてもキアラが語った内容についてもフィオラはメモを取りながら真剣な表情で聞いていた。
「……私からの説明は以上です。フィオラさんもお手紙を集めるお仕事、出来ますよね?」
 これも立派な魔女の修行の一環なのですっ♪ とマントの裾をひらりとなびかせるキアラの言葉にフィオラは真面目に「はいっ!」と元気のよいお返事で応じる。ちょっと先輩ぶってみたかったキアラにとって、素直なフィオラの反応は大満足で満点をあげたい気分だ。
「言い忘れていましたが、中身を見た時に、誰かの安全や幸せを願うお手紙があったら、それもこのバッグに入れてくださいね」
 キアラは持参していた大きなメッセンジャーバッグをぱかっと開いてフィオラに見せる。
「わかったです! フィーたちが代わりにポストに入れてあげるですね!」
 得意気に答えるフィオラにキアラは「その通りですっ♪」と何度も大きく頷いた。
「誰かの幸せを叶えるお手伝いをするのも、魔女の大切なお仕事の一つなのですっ」
 ――手伝って貰えますか?
 優しく尋ねるキアラの言葉に食い気味で「はいっ!!」と元気よく答えたフィオラだったが、逆に気になることがあったのかキアラに向かって「そういえば……」と問いかける。
「せんぱいもポストにお願いのお手紙入れるです?」
 ちょこんと首を傾げて問うフィオラにキアラはギクリと顔をこわばらせた。
「……私も願いを叶えて欲しいとか、そんな事はっ!?」
 キアラはフィオラに気づかれぬように、後ろ手で手紙の入った封筒をそっと隠す。
「さぁさぁ、私のお願いのことはいいですから。フィオラさんはあっちを探してください」
 私はこっちを探します、とキアラの指示にフィオラは素直に頷いて。やぎさんたちのお手紙を探すためにフィオラは手紙を拾い始めた。

 手紙を探しながら迷路を進むオルハ・オランシュの前に見覚えのある白いとんがり帽子を被った少女の姿が現れる。
「フィオラ!」
 名前を呼ばれた少女が振り返ると、そこにいたのは前に迷宮で困った時に助けてくれた顔を見つけ、嬉しそうにぱっと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「久しぶり、また会えて嬉しいよ」
 笑顔で手を振るオルハの背後から、今度は元気な少女の声が飛び込んでくる。
「あ、いたー! 見つけたー!!」
 バタバタと足音を響かせてやってきたのはメリー・メメリ。
 オルハとメリーの顔を交互に見つめ、フィオラはちょこんと首を傾げて問いかけた。
「わぁ、おねえさんも、メリーちゃんもポスト探しに来たです?」
「うぅん、違うよ! おともだちがこまってるって聞いたからお手伝いに来たんだよ!」
 メリーの言葉に一瞬きょとんとした顔をするフィオラだったが、すぐにそれが自分のことだと気づくととても嬉しそうに顔を綻ばせる。
「もしかして……フィーのお手伝いをしてくれるです?」
「うん、そのために来たんだ。ねぇ、私にも手伝わせてくれる?」
 オルハはしゃがみ込み、フィオラと目線を合わせて笑顔を浮かべて尋ねると、フィオラは何度もこくこくと頷いた。
「もちろんです! フィーすっごくうれしいです!!」
 早速手紙を探そうとするフィオラに「ちょっとまって!」と、メリーは【なかよしのふえ】を吹くと、ぴゅ~ひょろろ~と笛の音に呼ばれて友達のライオンが現れる。
 メリーはライオンの背中に拾った手紙を入れるための袋を乗せると早速手紙を集め始めた。
「ふおお、お手紙がたくさんあるよ!」
 メリーは傍に落ちていた手紙を手に取り、そっと開く。それは、友人への手伝いを求めるお願いの手紙だった。拾った手紙はライオンの背中のお手紙袋の中へポイっと入れて、メリーは次、そのまた次、とどんどん手紙を拾い上げていった。
「それにしてもアルダワの地下迷宮は面白いものがたくさんあるんだね」
 フィオラと一緒に手紙を集めながら進むオルハは興味深そうにキョロキョロと辺りを見回す。フィオラが惹かれてやってきてしまう気持ちがわからないこともない。
「ねぇ、ライオン、ライオン。このお手紙の中にはきけんなお手紙もたくさんあるんだって」
 わかるかな? と首を傾げるメリーにオルハは「例えば……」と1通の手紙に向かってシュッと素早くナイフを投げる。
「明らかに手紙の厚さを超えたものは危ないから触らない方がいいと思うな」
 ほら、とオルハが示す通り、ナイフが刺さっているのは異常なまでに分厚い手紙だった。確かに、こんな手紙には何か罠が仕掛けられていそうだ。
 危険物の目印にとオルハは目についた危なそうな手紙にはナイフを刺してフィオラやメリーに触らないようにと注意する。
「あ、フィオラ、そのお手紙さわっちゃダメ!」
 メリーもまた、ライオンからの警告を受け、手紙を拾い上げようとしたフィオラの手を引っ張って制した。
「その手紙、私もなんだか嫌な予感がするな……」
 むむっと眉をしかめ、オルハは手紙に向かってナイフを投げる。手紙に触れたナイフにビリっと電流が流れるのが見えた。
「あぶなかったです……ビリビリするところだったです」
 二人のおかげで危険を免れたフィオラがほっと胸を撫で下ろす。
 危なそうな手紙は避けて、問題なさそうな手紙だけを拾い集めていくうちに、絶対にやぎさんたちの手紙ではないもの――ファンシーなデザインの封筒や、すごく字が綺麗な手紙などは集めるだけにとどめ、中を読むのは後回しにすることでオルハたちは時間を短縮しながら手紙を集めていくことが出来た。
「手紙を見ちゃうとついつい読みふけっちゃうからね……」
 特に、長い手紙などは申し訳な気持ちがありつつも気になってしまって最後まで読んでしまう。
「みんなのお手紙よんでもだいじょうぶかな……?」
 おこられない? と心配そうなメリーにオルハはにこりと微笑んで口を開いた。
「誰かが書いたお手紙だってことを忘れないで、大切に扱えば大丈夫じゃないかな」
 やぎさんたちの手紙を探すためには内容の確認も避けられないことなので、中身を読ませてもらうことについては見知らぬ送り主に「ごめんなさい」と心の中で手を合わせる他はない。
「やぎさんのお手紙、どこにあるんだろう?」
 なかなか見つからないお手紙に、メリーは小さく溜息をついた。確かに、ライオンの背中の袋は大分重くなったのに、目的の手紙はまだ見つかっていない。
「うーん、ちょっと手分けして探してみようか」
 オルハの提案にメリーもフィオラも異論はない。ちょうど道も分かれているので左右真ん中とそれぞれに分かれて進んでいくことにする。

 三叉路で真ん中の道を選んだフィオラだったが、歩いていくと前方で手紙を探す女性の姿を見つけて駆け寄っていった。
 足音に気づいて顔をあげた女性――泉宮・瑠碧もまたフィオラの姿に気づくと口元に小さく笑みを浮かべる。
「フィオラは久し振り。元気なら何よりだ」
「おひさしぶりなのです!」
 瑠碧に再会できたことを喜ぶフィオラに瑠碧の表情も心なしか和らいでみえた。
「手紙、見つかったか?」
 尋ねる瑠碧も何となく答えは想像がついていたが、予想通りフィオラはしょんぼりとした表情で首を横に振る。ポンとフィオラの背中を叩いて瑠碧は励ましの言葉をかけた。
「大丈夫、僕も手伝うから。きっと見つかるさ。こう見えて、失せ物探しは得意なんだ」
「――はいっ! フィーもがんばるです!」
 早速手紙を探そうとするフィオラを「ちょっと待って」と瑠碧は止め、手袋を差し出す。
「危ない手紙も混じっているらしいからな。念のためつけておいた方がいい」
「ありがとうです!」
 さっそく手袋をつけようとするフィオラの右手に包帯がまかれていることに瑠碧は気づいた。
「フィオラ、その指は……?」
「さっき、お手紙をひろった時に切っちゃったです。でも、もういたくないですよ!」
 だから、大丈夫とフィオラは顔の前で手を振るが、瑠碧は悲しそうに顔を曇らせる。
「フィオラ、傷を見せて。僕が治せればいいけど……」
 フィオラの手をとり、瑠碧が【優緑治癒】を発動させると森の恵みの光がフィオラの指先を包み込んだ。あっという間にフィオラの指の傷は癒されていく。
「すごい……! フィーのきず、なおっちゃったです!」
 ビックリして目を丸くするフィオラは傷が治った右手をしげしげと見つめた。
「治ったみたいで良かった。でもフィオラ、もう怪我はしないように気を付けてな」
 はーい、と素直に返事をしたフィオラは手袋をはめて手紙探しを再開する。
「おねえさんのお願いのお手紙も、ポストに入れるです?」
 手紙を探しながら訪ねるフィオラに瑠碧は暫し考え込んだ。
「僕のお願いか……」
 特にないから、と答えようとした瑠碧だったが、途中で口をつぐむ。今、瑠碧が願うことは……。
「『願いを望んだ者達の願いに見合う努力次第で叶います様に』かな」
「ポストにいれたら、そのお願いがかなうのに、ですか?」
 首を傾げるフィオラに何と答えようかと考えながら手紙を集めていた瑠碧の手が止まる。
「おねえさん? どうかしたです?」
 怪訝そうな顔で覗き込むフィオラに瑠碧はニヤリと笑みを浮かべて1通の手紙を差し出した。
「あったよ、フィオラ――黒やぎの手紙だ」

 瑠碧が見つけた黒やぎの手紙は、黒い封筒にやぎの足跡のようなスタンプが押されている。
「わぁい、お手紙あったですー!」
 嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるフィオラの声にキアラやオルハ、メリーもやってきた。
「よかったね、フィオラ」
「メリーたちも見つけたー! 白やぎさんのお手紙―!!」
 いぇーい、と嬉しそうにハイタッチをするメリーとフィオラをオルハはにこにこと笑顔で見守っている。
「よかったですね、フィオラさん。さぁ、あとは迷路を抜けましょう」
 キアラの言葉に瑠碧もこくりと頷く。
「この迷路を抜けないとヤギたちには会えないみたいだからな。さぁ、あと少し。頑張ろう」
 はい! と元気よくフィオラは頷いて、皆と一緒にたくさんの手紙を抱えて歩き出した。
 ――迷路のゴールまで、あと少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イェルクロルト・レイン
【バッカス】4名
願いを叶えるポスト、なあ
いかにもあのちびが好きそうだな
おれは、別に。生きてられればそれでいい

危ない手紙もあるんなら、ちびには触らせない方がいい
そのグローブいいな、おれにも貸してくれ
ベリンダから予備を借りて手紙探し
古紙の香りに釣られあちらこちら
相も変わらず自由奔放

ヤギの手紙を探せばいいんだろ?
ほら、あの歌
食っちまうぐらいなんだから、齧ればうまいんじゃねえの
なんて言いながら味見は終に押し付けて

なんとなく拾った手紙には生きたい意思が綴られて
同封された写真には病室のベッドで笑う女の子
神頼みで治る筈もないのに
数秒悩んでポッケにくしゃりと詰め込んで
撫でる手にむすりとしたままそっぽを向いて


ベリンダ・レッドマン
【バッカス】
実にファンタジーだねぇ!
みんなは叶えたい願いはあるのかな?
はっはっは!現実主義者だねぇルトくんは!

まずはお手紙探しからだね!
私はガジェット開発に使うこの
ぶあっついグローブで作業することにしよう!
丈夫だし電気も通さないからビリビリも大丈夫!
ルトくんにもスペアを渡そう!
ふふふ、備えあればなんとやらさ!
お腹を壊さないようにね終くん!
美味しければ私もいただくよ!

おや、経験がないのかい是清くん
ひとつ願い事をしてみてはどうだい
青春の花を咲かせてみたいと!

連れていきたい願いがあったのかい?
ならば届けにいこうか!0.00001%でも可能性を上げられるならやるべきさ!
たとえそれが神頼みであってもね!


伍島・是清
【バッカス】ベリンダ/静海/ルト
(機械の身ゆえ電流や剃刀は怖くない)

しろやぎさんとくろやぎさんの手紙って、なんだ
まァいいや、視ればわかンだろ

はー、ベリンダ御前、用意周到だね
色んな願いごとあるけど、人絡みが多いよなァ
恋とか、友情とか
…恋や友情って愉しいンかなァ
(おどろおどろしい嫉妬の文を視た。視なかったことにする)
青春の花、俺はいいや。…怖い
(手紙を押し付けられてる静海には、あァと目を細め)
その手紙、美味しいと善いね…。
えぇ、半分こすんのー?善いけど…

ヤギの手紙らしきものがあれば
これか?と振ってみせ

ルトが押し込めた手紙の中身は見えなかったけど
ぽすぽすと頭撫で

願いがあるならば
叶うといいねと、呟いて


静海・終
【バッカス】
誰かに叶えてもらう願いとは…
自分にどう仕様も出来ぬことなのでしょうか
いったいどんな願いなのでございましょう

ベリンダ嬢は準備がよろしい…!
私は地道につんつんしていきましょうかね…
おや、ルトは憎まれ口をたたくわりには小さい方にはお優し…
って、ちょ、ちょっと待ってください
剃刀とかびりびりするって言ってるじゃありませんか!
あぁっ!押し付けないでくださいませ!!
何でしたら是清も半分こしますか!?美味しいかもしれませんよ!!

しかし、やぎのおてがみとは…
ヒヅメのハンコなどしてあったりしませんかねえ…
ふと目に留まった封筒を拾い中身を見る
気まぐれに懐にしまっておく
まあ、徒労でもないので少しくらい、ね



 迷宮へ降りてきた時には手紙の山と言っても過言ではないくらいの手紙の数にウンザリしていたはずなのに、いつの間にか手紙探しに没頭していた【バッカス】の面々。気づけば迷路を半分以上進んでいる。
「願いを叶えるポスト、なあ」
 イェルクロルト・レインは迷宮の奥にあるという秘密のポストの話を思い出し、チッと小さく舌打ちを一つ。
「ああ――実にファンタジーだねぇ!」
 手紙を吟味しながら相槌を打つベリンダ・レッドマンの隣で手紙を開こうとしていた手を止め静海・終は小首を傾げる。
「ポストがどうかしましたか、ルト」
「いや、いかにもあのちびが好きそうだなと思っただけ」
 イェルクロルトの視線を辿ると白いとんがり帽子を被った少女が手紙の山を行ったり来たりしながら手紙探しをしている様子が目に入った。
 確かになァ、と迷路を駆け回って手紙を探す少女の姿を微笑ましそうに見つめながら伍島・是清は目についた手紙を次々に拾い集めている。
 中には危険な手紙もあるというのに躊躇う様子を微塵も見せず手紙を触る是清とは対照的に、終はつんつんと慎重に手紙を触って確認しながら拾っていた。つん、と手紙に触った途端、痺れるような痛みを感じた終は慌てて手紙から手を離す。
「終くん、その手紙は何か仕掛けがありそうかい?」
 終の様子に気づいたベリンダがひょいっと無造作に手紙を拾い上げた。見れば、いつの間にかベリンダの手にはぶあっついグローブが嵌められている。
「これは私がガジェット開発に使ってるものなんだ。丈夫だし電気も通さないからビリビリも大丈夫!」
 終の視線に気づいたベリンダは、グローブをそっと一撫ですると得意気にグッと親指を立てた。
「ベリンダ嬢は準備がよろしい……!」
「はー、ベリンダ御前、用意周到だね」
 感心する終と是清にベリンダはふふっと笑みを浮かべて口を開く。
「備えあればなんとやらさ!」
「そのグローブいいな、おれにも貸してくれ」
 右手を差し出すイェルクロルトにベリンダは「いいとも!」と大きく頷くとスペアのグローブを渡した。
 そんな彼の言動に意外そうな視線を向ける終からそっぽを向き、イェルクロルトはふらり気の向くままに迷路を進みやぎたちの手紙を探す。
 古紙の香りに釣られるままにあちらこちら自由気儘に手紙を探すイェルクロルトにベリンダはからからと笑いながら声を掛けた。
「ルトくん、今回はちょっと積極的じゃないかい?」
 普段のイェルクロルトであれば仲間に任せて手紙探しなどやらなそうではある。が、当の本人はそっぽを向いたまま「別に」と短く答えるだけ。尻尾をパタンと揺らし、イェルクロルトはただ、と口を開く。
「危ない手紙もあるんなら、ちびには触らせない方がいい」
 イェルクロルトらしからぬ発言に終は「おや」と思わず意外そうな声をあげた。
「ルトは憎まれ口をたたくわりには小さい方にはお優し……」
 イェルクロルトにギロリと睨まれ、終は慌てて口をつぐむ。だが、時すでに遅し。イェルクロルトがニヤニヤとサディスティックな笑みを浮かべているのに気づき、終はすぅっと背中が凍り付くのを感じた。
 そんなイェルクロルトと終の遣り取りなど気づいていない是清は集めた手紙をかき分け首を傾げる。
「なァ、しろやぎさんとくろやぎさんの手紙って、なんだ」
 終は話題を変えるため、今更ながら疑問を呈する是清に乗っかることにした。とはいえ、終にもやぎのお手紙など、どんな手紙なのか皆目見当がつかない。
「ヒヅメのハンコなどしてあったりするのではないですかねぇ……」
 見た目でわかるとすれば、目印になりそうなものはこれくらいだろうか。
「ふぅン……まァいいや、視ればわかンだろ」
 頭を捻る終の言葉に相槌を打ちつつ、是清は深くは気にしないことにする。
 だが、何かを思いついたのか、イェルクロルトは仲間たちへ顔を向けるとニヤッと趣味の悪い笑みを浮かべて口を開いた。
「ほら、歌にもあるだろ。ヤギは手紙食っちまうぐらいなんだから、齧ればうまいんじゃねえの」
 イェルクロルトは適当な手紙を掴むと終の顔へと近づける。そんなイェルクロルトに慌てたのは終。
「って、ちょ、ちょっと待ってください。剃刀とかびりびりするって言ってるじゃありませんか!」
 終は両手で手紙を押しのけようとするが、もしも危険な手紙だった場合、手で触れても痛かったりするわけで。躊躇いを見せる終とは対照的に、イェルクロルトは楽しそうに終の口元に手紙を近づけていった。
「味見、よろしくな」
「お腹を壊さないようにね終くん!」
「静海、その手紙、美味しいと善いね……」
 楽しそうに成り行きを見つめるベリンダの隣で、あァ……と目を細めて終を見つめる是清の視線は「ご愁傷様」と語っている。
「何でしたら是清も半分こしますか!? 美味しいかもしれませんよ!!」
 終は手紙に触れないように気を付けながら必死に顔を背け、背後の是清をなんとか巻き込まんと画策する、が。
「えぇ、半分こすんのー? まア、善いけど……」
「半分こ? そんな生温いこと言わねぇで、二人ともが味見してくれていいんだぜ?」
 もう一通、手紙を拾いあげたイェルクロルトはどうする? と心の底から楽しそうに終たちに問いかける。
「ふむ、美味しければ私もいただくよ! さぁ、手紙を食べた感想を教えてくれたまえ!」
 あっけらかんと笑い飛ばすベリンダを前に、イェルクロルトは嬉々として終の口の中に手紙を突っ込んだ。

 先程口に入れられた手紙は罠などない普通の手紙だったが、残念ながら終はやぎではないので手紙は美味しいとは言い難い。まだ紙の味が残る口元を押さえながら手紙を確認する終の傍らで、集めた手紙を開きながら是清は独り言ちる。
「それにしても、色んな願いごとあるけど、人絡みが多いよなァ。恋とか、友情とか」
 それは、機械の身を持つ是清にはあまりピンとこない話だ。
「……恋や友情って愉しいンかなァ」
「おや、経験がないのかい是清くん。では、ひとつ願い事をしてみてはどうだい? 青春の花を咲かせてみたいと!」
 そんな是清の呟きを聞いたベリンダは願い事を迷宮のポストに投函することを勧めるが。ちょうどその時、是清が開いた手紙に綴られていたのはおどろおどろしい嫉妬の文。不吉さを覚えるその内容は視なかったことにして是清はそっと手紙を閉じる。
「青春の花、俺はいいや。……怖い」
 そんな二人の遣り取りを聞いていた終は、ふっと浮かんだ疑問を言葉に乗せた。
「誰かに叶えてもらう願いとは……いったいどんな願いなのでございましょう」
 自分にはどう仕様も出来ないことなのだろうか――。
 終の疑問には答えず、イェルクロルトはふっと目についた手紙を手に取る。なんとなく拾った手紙を広げてみると、そこには生きたい意思が綴られていた。封筒の中にはまだ何か入っていると気づき、イェルクロルトが取り出してみるとそれは病室のベッドで笑う女の子の写真だった。
「…………」
 無言で手紙を見つめるイェルクロルトには気づかない振りをして、ベリンダはぐるりと仲間たちを見回す。
「そういえば、みんなは叶えたい願いはあるのかな?」
「おれは、別に。――生きてられればそれでいい」
 間髪入れずに答えたイェルクロルトは手にしていた手紙をくしゃっとポケットに詰め込んだ。神頼みで治る筈もないのに――。
「はっはっは! 現実主義者だねぇルトくんは!」
 笑い飛ばすベリンダの隣でイェルクロルトを見ていた是清は、ぽすぽすとイェルクロルトの頭を優しく撫でる。
「願いがあるならば叶うといいね」
 是清に頭を撫でられたイェルクロルトはむすりとしたまま、でもその手を払いのけることもなく。そっぽを向いたまま何も答えなかった。
「……おや」
 終はふと目に留まった封筒を拾い上げるとその中身を見る。そして、またきちんと封筒に戻すとそっと懐にしまった。それは、本当に、ただの気紛れ。
「まぁ、徒労でもないので少しくらい、ね」
「おっ、連れていきたい願いがあったのかい?」
 終の呟きが聞こえたのだろうか。ならば、届けにいこうか、とベリンダは朗らかに言う。
「0.00001%でも可能性を上げられるならやるべきさ! たとえそれが神頼みであってもね!」
 パチリとウィンクをするベリンダが指さす先には迷路のゴールが見えた。
 あの扉を抜ければ、この迷路はクリアできる。
 だが、やぎたちの手紙はまだ見つかっていない筈だが……。
「やぎの手紙ッて、これか?」
 ぴらぴらと是清が振って見せる手紙には、やぎの足跡のようなスタンプが押されている。終の予想は見事的中していたのだ。
「ホント、視ればわかンだなァ……」
 しみじみと呟く是清の言葉に終は。
「味見は無用にございました……」
 紙の味を思い出し、不快そうにわずかに顔を顰めて呟きを漏らしたのだった。


 見事やぎさんたちのお手紙を見つけ、猟兵たちは迷路を抜けて進んで行く。
 この迷路で拾ったたくさんのお手紙とともに、願いが叶うという秘密のポストを探してさらに、迷宮の奥深くへ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『グルメなしろやぎ』

POW   :    めぇめぇじゃんぷ
予め【めぇめぇ鳴きながらぴょんぴょん跳ぶ】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    おてがみはりけーん
【カバン】から【何通ものお手紙】を放ち、【視界を埋める事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    めぇめぇタイム
【めぇめぇと、歌う様な鳴き声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


================
【第2章について】
・第1章への参加有無を問わず、第2章に参加くださる方は全員以下のものを持っています。
 ―くろやぎさんの手紙
 ―しろやぎさんの手紙
 ―第1章のお手紙の迷路で拾い集めた手紙たち
・これらのお手紙について、必要に応じてプレイングで活用いただいて構いません。
(もちろん、使用しなくても問題ありません)
================


 迷路を抜けた先で猟兵たちを待っていたのはしろやぎさんたちの集団だった。
 猟兵たちとともに迷路を突破した見習い魔女ことフィオラはしろやぎたちに向かって話しかける。
「しろやぎさん! フィー、くろやぎさんに会いたいです! どこにいるか教えてほしいです!」
 だが、しろやぎさんたちはぴょんぴょん飛び跳ねながら迷宮を逃げ回るばかり。
 やはり、力づくでしろやぎさんたちからくろやぎさんの居場所を聞き出すしかないのか……と猟兵たちが顔を見合わせた時、一匹のしろやぎさんがぴょこぴょこっと近づいてきた。
『お手紙の匂いがするめぇ~。お手紙食べたいめぇ~』
 すばしっこいしろやぎさんを捕まえるのは難しそうだが、向こうから寄ってきてくれるのであれば話は早い。
『美味しいお手紙をくれるなら、くろやぎさんを紹介してもいいめぇ~』
 思いがけないしろやぎさんの提案に猟兵たちは再び顔を見合わせる。
 しろやぎさんが本当に約束を守ってくれる保証もないし、そもそもやぎさんたちが言う『美味しい手紙』はどんな手紙なのだろうか。
 恋文? 祝福の手紙? 謝罪の手紙? それとも、絶縁の手紙……?
 まずは自分で美味しいと思うであろう手紙を予想して渡してみるか。手元に美味しそうな手紙がなければこの場で書くしかないだろう。
「しろやぎさんっ、フィーのお願いのお手紙、食べちゃダメですー!」
 しろやぎさんから必死に手紙を守ろうと逃げ回るフィオラを助けるためにも早く何とかした方が良さそうだ。
 ――さぁ、どうする?
枸橘・水織
まずは単刀直入…しろやぎさんに…
「しろやぎさんっ!!…しろやぎさんはどんなお手紙が欲しいのっ!?」
直接聞く

回答を得られれば、EAを使用し、周囲の物体(前回回収したトラップ系の手紙など)や魔力を錬成し組み替えて紙を作り出して【早業】で手紙を書く

回答を得られなくても、同様の方法で紙を作り出し『特定の人物』への『感謝の手紙』…さらに『恋文』(自分の想いをとにかく書いて…は赤面したりしながら)とかも書いてみます
「うん…誰にも見られないからいいよね…」

『恋文』は早く食べてしまってもらいたい…反面…
「あ…」
自分の想いを詰め込んだだけに、もったいないような名残惜しいような感じで食べられるのを見ています



 しろやぎさんたちは一斉に期待に満ちた眼差しを枸橘・水織に向ける。
 どんなお手紙をくれるんだろう? 甘いかな? しょっぱいかな?
『お腹空いためぇ~。早く欲しいめぇ~』
 はやくはやくと急かすようにしろやぎさんは水織の周りをぐるぐるぴょこぴょこ跳ねて回った。
 ここは思いきって直接聞いてみよう、と水織はしろやぎさんに声をかける。
「しろやぎさんっ!! ……しろやぎさんはどんなお手紙が欲しいのっ!?」
 単刀直入に尋ねた水織はドキドキしながらしろやぎさんの返事を待った。
 しろやぎさんは跳ね回るのを一瞬やめて、うーん、と考えてから口を開く。
『美味しいお手紙が欲しいめぇ~』
 ……それは、さっき教えてもらった。
 仕方がない、と水織は【ENERGY・ALCHEMY】を発動させて紙を創り出す。
(「何を書こうかな……?」)
 水織はちょっと考えた後にペンを持つとスラスラと感謝の気持ちを綴り始めた。続けて恋文も書き始めた水織だったが、なかなか言葉が浮かんで来ず、ペンの動きは止まりがち。
「うん……誰にも見られないからいいよね……」
 頬を赤く染め、水織がキョロキョロと周囲を見回していると、お手紙を書き終わったのかとしろやぎさんが顔を近づけてくる。水織は慌てて書きかけの手紙をしろやぎさんに見られないように隠した。
「ま、まだだよっ! ……もう少し待ってっ」
 そして、水織は恋文を最後まで書き上げると「どうぞっ」としろやぎさんにお手紙を差し出す。
『いただきますめぇ~』
 しろやぎさんはお手紙を受け取るや否やパクっと口にいれてむしゃむしゃとあっという間に食べてしまった。
「あ……」
 恥ずかしいので恋文は早く食べて欲しいような、でも想いを詰め込んだ手紙がすぐになくなってしまうのは寂しいような……なんともいえない複雑な気持ちを胸にじっと見つめる水織に向かってしろやぎさんは口を開く。
『おかわり欲しいめぇ~!』
「え!? ……おかわりっ!?」
 もう一度書くの!? と水織は真っ赤な顔で俯いた。
 ――しろやぎさんたちが満足するまでにはまだまだお手紙が必要なようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メリー・メメリ
しろやぎだ!しろやぎともお友達になりたいなー。
お手紙?さっきライオンの背中にたくさんのせたからたくさんあるよ!

どれがいい?
ごめんなさいのお手紙はちゃんと本人の所にとどけたほうが良いとおもう…!
うれしかったこととかおいしくないかな?

召喚したライオンの背中に乗せたお手紙の中から
うれしいほうこくのお手紙をしろやぎに渡すよ!
はい!おいしいお手紙!
たりなかったらメリーの好きなものをお手紙にかくね!

かかさまのてづくりべんとう、ととさまの手、おともだちみーんな、それからえらんでもらったお守り!
ぜーんぶだいすき!
しろやぎ、どうかな?おいしい?
くろやぎに会える?


オルハ・オランシュ
美味しい手紙?
紙の味のことではなさそうかな
あっ……フィオラ!大丈夫?
待ってよしろやぎさん、その子は美味しい手紙の持ち主じゃないんだから
ほら!

さっき集めた大量の手紙を見せてみよう
これでフィオラから注意を逸らせるといいんだけど
しろやぎさんを手放しに信じるわけじゃない
でも、約束を守ってくれるって期待したいな

ねぇ、美味しい手紙は匂いでわかるものなの?
難しそうなら勘で何か渡してみるしかないか

んー……未来の自分に宛てた、希望でいっぱいの手紙とか?
どうぞ召し上がれ
おかわりも遠慮なくね

次は逆に、裏切った人への恨みが綴られた手紙をあげてみよう
両極端な二通を渡すことで
後に続く人へのヒントになるかもしれないからね


アール・ダファディル
手紙が喰いたい、か
ふむ。ヤギは本当に手紙を喰らうのだな

袋の中から無造作に半分ほど手紙を撒いて反応を伺う
喰いついた手紙を見て好みを探ろうか
――…ならばくれてやる。どのみち届かなかった手紙らだ
腹の中に収まるのも、またひとつの運命だろう
手紙はどんな味がする?
俺には喰えんが其の味は知りたいものでね

敵対するならば遠慮なく相手になろう
最も、俺は単なる囮。糸張りつつ逃げ惑おうか
【先見の繰糸】を用いて急所は避けるさ
喩え視界を奪われようが糸が凡てを教えてくれる
息の吸い方、動き方、敵の攻撃――…≪彼女≫の居場所も
Echo、狙いは鞄だ

膨らんだ鞄を裂き手紙を撒き散らしてやろう
生憎と、俺たちは敵を討つより悪戯が好きでね



『お手紙持ってるのは知ってるめぇ~。早く欲しいめぇ~』
 お手紙が早く食べたくて、しろやぎさんたちは待ちきれない。
「フィオラ! どこ? 大丈夫?」
「おねえさん~、フィーはここですー」
 しろやぎさんにお手紙を狙われ、なんとか逃げつつ物陰に隠れてやり過ごそうとしていたフィオラはこそっと顔を出してオルハ・オランシュに向かって小さく手を振った。
『お手紙! お手紙の匂いがするめぇ~』
「はっ!? フィーのお手紙はあげないですー!」
 べそべそと泣きながらフィオラは大事な願い事の手紙を抱えてオルハの方へと急いで駆けていく。
 フィオラの前に立つようにして彼女を庇いながら、オルハはしろやぎさんに向かって苦笑交じりに話しかけた。
「ちょっと待ってよ、しろやぎさん。その子は美味しい手紙の持ち主じゃないんだから」
『でも、お手紙持ってるのはわかってるめぇ?』
 諦めきれない様子でしろやぎさんはフィオラの傍を離れない。
「やれやれ……」
 仕方がないなと言わんばかりにアール・ダファディルは【at will】を繰り出し【先見の繰糸】を発動させた。琥珀揺らめく繰糸が狙うのは、フィオラを追いかけているしろやぎさんの持っている鞄。
「Echo、狙いは鞄だ」
 傍らのテディベアに一声をかけ、アールの繰糸はお手紙でパンパンに膨らんだ鞄を一撃で引き裂く。鞄が破けると同時にしろやぎさんの持っていたお手紙がばさぁと勢いよく床に落ちた。
『あぁー! 大事なお手紙が落ちためぇ!』
『お手紙がいっぱい落ちているめぇー。貰っちゃうめぇー』
 床に散らばったお手紙に群がるしろやぎさんたちを横目にアールはフィオラに「早く逃げろ」と視線で語る。
「ありがとうです……!」
 アールに向かってぺこっと頭を下げるとフィオラはしろやぎさんたちが手紙の取り合いをしている隙に、急いで安全な場所まで逃げてゆく。
『んん? お手紙持ってるめぇ? 早く出すめぇ!』
 猟兵たちもたくさんの手紙を持っていることに気づき、ぴょこぴょこっと軽やかな足取りでお手紙の催促に来たしろやぎを見て、メリー・メメリは嬉しそうにぶんぶんと大きく手を振った。
「ねぇねぇ、しろやぎー! お友達になろうよ!」
『とりあえず話はお手紙食べてからめぇ~』
「お手紙? さっきライオンの背中にたくさんのせたからいーっぱいあるよ!」
 ちょっと待ってね、とメリーはぴゅ~ひょろろ~と笛を吹いて黄金のライオンを呼ぶ。ライオンの背中に載せた袋は先程拾い集めたお手紙ではちきれんばかりに膨らんでいた。メリーは袋の中に手を入れて、よいしょと両手いっぱいのお手紙を取り出すとしろやぎたちの前に並べる。
「ねぇ、おねえさん。美味しいお手紙ってどんなお手紙かなぁ?」
「うーん……少なくとも紙の味のことではなさそうかな……」
 メリーとオルハは顔を見合わせ、首を傾げた。メリーは傍にいるアールにも聞きたそうに顔をじっと見つめるが、もちろん彼にもしろやぎさん好みの手紙など見当はつかず。黙って首を横に振る。
 美味しい手紙がわからないので、メリーは手に持った手紙を見つめてむむーと唸ると。
「どれがいい? あ、でもちょっとまってね……」
 仲直りの手紙はちゃんと本人に届けたいので、しろやぎさんが手を出す前にひょいひょいっと避けておいてから、メリーはもう一度「どれがいい?」としろやぎさんに欲しい手紙を尋ねた。
『全部欲しいめぇ~! 全部! 全部!!』
「全部? うーん、でも一度に全部はあげれないから、順番だよー! うれしかったことととかおいしくないかな?」
 どう? とメリーが嬉しい報告の書かれた手紙を取り出すとしろやぎは目にも止まらぬ速さでしゅばっと手紙を奪い取るとむしゃむしゃと食べ始める。
「ふむ。ヤギは本当に手紙を喰らうのだな」
 しろやぎさんがバクバクお手紙を食べる様子にアールは感心した様子で独り言ちた。
「ねぇ、一つ気になったんだけど、いいかな?」
 モグモグと口を動かし続けるしろやぎさんに向かってオルハは気になっていたことを尋ねる。
「ねぇ、美味しい手紙は匂いでわかるものなの?」
『匂いはするようなしないような……とにかく、お手紙を出すめぇ!』
 しゅしゅっと前足を繰り出して催促するしろやぎさんに応えるため、オルハは己の勘を信じて一通の手紙を差し出した。それは、未来の自分に宛てた希望に溢れた手紙。
「どうぞ召し上がれ。あ、おかわりもあるから遠慮なくどうぞ」
「至れり尽くせりだな」
 率直な感想を口にするアールにオルハは「だって」と言葉を続ける。
「しろやぎさんを手放しに信じるわけじゃない。でも、約束を守ってくれるって期待したいからね」
「そうか……ならば、俺も協力しよう」
 オルハの言葉にアールは静かに頷くと、袋いっぱいに集めておいた手紙をぐしゃりと掴むと次々と周囲にばら撒いた。
「そんなに手紙が喰いたいのか――……ならばくれてやる」
『お手紙! お手紙がたくさんだめぇ~』
『太っ腹だめぇ~』
 アールが手紙を放るとしろやぎさんたちは我先にと手紙を求めてアールの周りへと集まってくる。これらの手紙はどのみち届かなかった手紙らだ。しろやぎさんの飢えを満たし、彼らのお腹の中に収まるのも、またひとつの運命――。
 しろやぎさんたちは無造作に放り投げられた手紙を拾い上げるとむしゃむしゃと次から次へと口に運ぶ。
(「果たしてヤギたちに手紙の好みはあるのだろうか……?」)
 一心不乱にお手紙を食べるやぎさんたちの様子を観察していたところ、彼らは手当たり次第にお手紙を口に入れているものの、幸せそうな顔をして頬張っていることもあれば、顔を顰めていることもあるので味の違いはやはりあるようだ。
「その手紙はどんな味がする?」
 顔を顰めながら手紙を咥えているしろやぎさんに思わずアールは声をかけた。
 アール自身は手紙を食べることはできないが、どんな味なのかは興味がある。
『このお手紙、すごくしょっぱいめぇ~。もういらないめぇ』
「ふむ……?」
 どんな手紙だろうかとしろやぎさんが残した手紙をアールが受け取って見ると、齧られた便箋には水にぬれたようなシミがいくつもあり、文字が霞んでいた。……これは、涙のあとだろうか。
「へぇー、涙でぬれたお手紙はしょっぱいんだ!」
 意外そうな声で叫ぶメリーにオルハも面白いね、とにこりと頷く。いろんなお手紙をしろやぎさんにあげて味の感想を聞いてみたいとオルハは好奇心を押さえきれず。
「しろやぎさん、このお手紙はどうかな?」
 オルハが差し出したのは裏切った友人への恨みが綴られた手紙。怨念渦巻く手紙だが、しろやぎさんは気にする素振りもなく手紙を奪うとぱくぱくと食べてしまった。
「ねぇ、そのお手紙はどんな味?」
 問いかけるオルハはもちろん、アールも答えが気になるのかちらちらとしろやぎさんを見ている。
『苦いめぇ。一言でいうと、大人の味って感じめぇ』
 不味いわけではないが、どうやら好みの味ではなかったようだ。すっきりしない表情のしろやぎさんにメリーが「はい!」と嬉しそうに手紙を差し出した。
「メリーのお手紙、しろやぎにあげるね!」
 それは、メリーの好きなもののことを書いた手紙。かかさまの手作り弁当、ととさまの手、おともだちみーんな、それからおねえさんに選んでもらった赤いお守り!ぜーんぶメリーの大好きなものだ。
「ねぇねぇ、しろやぎ。どうかな? おいしい?」
『美味しいめぇ~。ほっこりする甘いお手紙だめぇ~』
 幸せそうな笑顔で手紙を頬張るしろやぎさんを見て、オルハの心もほっこりとする。
「じゃぁ、メリーたちくろやぎに会える?」
 期待に満ちた眼差しをしろやぎさんに向けてメリーが尋ねるが、しろやぎさんはゆっくりと首を横に振った。
『まだまだ満足していない仲間がいるめぇ~。皆を満足させてほしいめぇ~』
 慌ててアールが周囲を見回すと、確かにまだお手紙を食べたそうにしているしろやぎさんたちがいる。
「……なるほど」
 しろやぎさんの欲求を満たすには、もう少し時間がかかりそうだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

糸縒・ふうた
アドリブ・絡み・改変等歓迎

ほんとに食いしん坊さんなんだから!
集めたこのお手紙は書いた人のきもちが詰まってる大事なもの
だから、これを君たちに渡すことは出来ないよ

仕方ないから今この場でお手紙を書こう

おいしいお手紙、ってなんだろう?

さっきの黒やぎさんのお手紙には甘い恋心を、ってあったけど
オレ、こいごころってものがよくわかんない

だから、だいすきな人たちのことを書いたお手紙にしようかな

父さん、母さん、かぞくに、なかま
それと、初めて出来たともだち

たいせつな、たいせつな存在
みんなの顔を思い浮かべながら、だいすきなきもちをたくさん込めて

ほら、これなら食べてもいいぜ
くろやぎさんの居場所、教えてくれたら嬉しいな


キアラ・ドルチェ
さっき集めた「誰かの安全とか幸せ願うお手紙」はポストに投函したいし、自分の手紙もあげられない…

くろやぎさんのお手紙を読まずに食べちゃうしろやぎさん…と言うのがあった気がしますし
「くろやぎさんのお手紙ですよっ、未開封の!」
と差し出してみましょう

ダメそうならこの場で手紙書きます
内容は…離れてる両親と弟妹達へ
家を出て暫く経つけれど、皆元気かな?
お土産持って帰るので待っててね♪
寂しい時もあるけれど…運命の糸は皆に繋がってると信じてるから
落ち込んだりもするけれど、私は元気ですっ♪

…家族思い出したのと、折角書いた手紙食べられるせいでちょっと涙目で、しろやぎさんに差し出します
さあ、召し上がれ! お味は如何?


幻武・極
う~ん、キミ達がほしいのはこのしろやぎさんの手紙かな?
それとも、このくろやぎさんの手紙かな?
でも、くろやぎさんの手紙を食べたらくろやぎさんに怒られるかもしれないね。

戦闘になるときはトリニティ・エンハンスⅡで状態異常力を強化して属性攻撃を雷属性にしてぴょんぴょん跳び跳ねるのを麻痺で妨害するよ。



 お手紙を食べても食べても、まだ食べたりない。
 そんな様子のしろやぎさんたちを見て、糸縒・ふうたはぷくっと頬を膨らませる。
「まったく、もう! 白やぎさんってばほんとに食いしん坊さんなんだから!」
 食いしん坊と言われてもしろやぎさんたちは気にしない。
 ふうたが持っている手紙を狙い寄ってきた。それに気づいたふうたは慌てて持っていた手紙を後ろ手に隠す。
「集めたこのお手紙は書いた人のきもちが詰まってる大事なものだから、これを君たちに渡すことは出来ないよ」
『そんなこと言わないでほしいめぇ~。1つくらいくれてもバチはあたらないめぇ~』
「ダメったら、ダメだってば!」
 そんな押し問答がずっと繰り返されているのを見ていたキアラ・ドルチェはどうしたものかと考えていた。
(「さっき集めた『誰かの安全や幸せ願うお手紙』はポストに投函したいし、自分の手紙もあげられない……」)
 他に何かないかと手紙の入ったメッセンジャーバッグを探ると、1通の手紙が目に入る。それは、やぎさんスタンプのついたくろやぎさんのお手紙。
 そういえば、くろやぎさんのお手紙を読まずに食べちゃうしろやぎさんの歌があったことを思い出し、キアラはしろやぎさんに向かって声をかけた。
「ほらほら、くろやぎさんのお手紙ですよっ、未開封の!」
『お手紙!?』
 手紙と聞けば、しろやぎさんはビュンっとキアラの方へと駆けてくる。
「くろやぎさんのお手紙だったら、ボクも持ってるよ」
 ぴっとしろやぎさんに手紙を見せたのは幻武・極。手紙と聞いて嬉しそうに極へ近づいてくるしろやぎさんを制して「でも」と極は口を開く。
「いいのかな? くろやぎさんの手紙を食べたらくろやぎさんに怒られるかもしれないね」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる極の言葉にしろやぎさんは一瞬たじろいだように見えたが……。
『お手紙を我慢することは出来ないめぇ~』
 しろやぎさんは、お手紙を掴むと口へ運ぶ。例えくろやぎさんに怒られてでも、手紙が食べたかったようだ。
「あーあ……ボク、し―らない」
 ニヤニヤと悪戯っ子のような笑みを浮かべて極は大袈裟にしろやぎさんから視線を逸らす。
(「ふぅ、良かった……」)
 極のおかげでしろやぎさんから解放されたふうたは、彼らの遣り取りを横目にホッと胸を撫で下ろした。だが……。
『足りないめぇ! もっとお手紙を出すめぇ!』
 ぱく、むしゃっとくろやぎさんのお手紙をたいらげてしまったしろやぎさんは、『もっと、もっと』とおかわりコールをしながら猟兵たちの周りをぐるぐると回る。
 それなら、と極は1通の手紙を取り出した。そして、しろやぎさんたちの顔の前でぴらぴらと振ってみせる。
「ここにしろやぎさんの手紙もあるけど……」
『それはいらないめぇ』
 さくっとしろやぎさんに断られてしまった。
 キアラとふうたは顔を見合わせ、小さく溜息をつく。
「これは……お手紙を書くしかないでしょうか」
「仕方ないなぁ……」
 ふうたには、しろやぎさんたちの言う『おいしい手紙』がどんな手紙かよくわからなかったが、もっと手紙を渡さないと集めた大切な手紙を食べられてしまいそうだ。
「今からお手紙書くから、ちょっと待ってて」
『お手紙くれるめぇ? 待ってるめぇ~』
 しろやぎさんに見つめられながら手紙を書くのはちょっと落ち着かないが、ふうたは願いを込めてペンを走らせる。
「どんなお手紙を書いているのか、聞いてもよろしいでしょうか」
 こそっとキアラに話しかけられ、ふうたは満面の笑みを浮かべて答えた。
「だいすきな人たちのことを書いたお手紙だよ!」
 父さん、母さん、かぞくに、なかま。そして、初めて出来たともだち。
 みんな、みんなふうたにとってたいせつな存在だ。
 皆の顔を心に描きながら、ふうたはありったけの大好きな気持ちを込めて手紙を綴る。
「――奇遇ですね。私も大好きな家族に宛てた手紙を書こうと思ったのです」
 にこりと笑みを浮かべるキアラの脳裏に大切な家族――大好きな両親と弟や妹たちのことが思い浮かんだ。
 家を出て久しいが、皆元気でやっているだろうか。今度帰る時にはお土産を持って帰るつもりだが、何がいいだろう。
 離れているがゆえに寂しい時もあるが……運命の糸は家族みんなと繋がっていると信じているから、大丈夫。
「出来たっ!」
「私も、書けました♪」
 二人は同時にペンを置くと、書き上げた手紙をしろやぎさんに差し出した。
「ほら、これなら食べていいぜ」
『いただきますめぇ~』
 しろやぎさんはふうたの書いた手紙をむしゃむしゃっと幸せそうな表情で食べると、今度はキアラの方を向く。
(「家の皆、今頃どうしてるでしょう……」)
 家族を思い出し、少し寂しくなったキアラだったが、目許に煌めく涙をさっと指で拭うと努めて明るくしろやぎさんに手紙を渡した。
「さあ、召し上がれ! お手紙のお味は如何でしょう?」
『わーい! こっちもいただきますめぇ~!』
 美味しい、美味しいとしろやぎさんは瞬く間に手紙を食べてしまう。
「それじゃ、くろやぎさんの居場所、教えてくれる?」
 だが、尋ねるふうたにしろやぎさんは悪い笑みを浮かべて答える。
『まーだーダーメーめぇー』
 まだ手紙があることはわかっている。こうなったらありったけの手紙を食べてやろう――。
 そんなしろやぎさんの想いが垣間見える返答に、猟兵たちは困ったように顔を見合わせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
手元の手紙は人の物なので…この場で書こう

文面を考えながら、フィオラにこっそり

僕個人は、だが…
フィオラの様に、叶えようと思って前向きに手紙をポストに入れるのは良いと思う
最後の神頼みも
…フィオラにも無理はしないで欲しいが
投函して叶うより、そうして頑張っている気持ちや過程も大事だと思うんだ

願いを否定する訳では無いし、やはり叶っては欲しいから
僕が願うのは、努力次第で…なんだ

…と、僕もよく精霊に願い事をしているので
あまり言えた事では無いが

出来た手紙はしろやぎ宛て
跳び回る姿も可愛いけれど、いつもお疲れ様
迷宮内でのお仕事は大変そうだから、休息はしてね
という意味合いの

あと、しろやぎの手紙は返した方が良いのか?



 お腹は膨れつつあるが、まだまだ手紙が食べたい、そんな気分のしろやぎさんたちを横目に泉宮・瑠碧は手紙を書こうとペンを片手に悩んでいた。
「おねえさんもお手紙書くです?」
 無事にしろやぎさんから解放されたフィオラが瑠碧の手元を覗き込む。
「ああ、今、僕の手元にある手紙は人の物だからね」
 勝手にしろやぎさんに渡すわけにはいかない。
 何と手紙に書こうかと悩んでいた瑠碧にフィオラは躊躇いがちにゆっくりと口を開いた。
「おねえさんは……ポストをたよってお願いをかなえるのはダメだって思うです?」
 不安そうに尋ねるフィオラの顔をまっすぐに見つめ、瑠碧は優しく首を横に振る。
「そんなことはない――」
 そして、これは僕個人は、だが……と前置きをしてから瑠碧はゆっくりと言葉を選んで語りだした。
「フィオラの様に、願いを叶えようと思って前向きに手紙をポストに入れるのは良いと思う。他にも、最後の神頼みなんかも」
 神妙な顔で話を聞くフィオラに瑠碧は一語一語、考えながら言葉を伝える。
「でも、投函して叶うより、そうして頑張っている気持ちや過程も大事だと思うんだ。それは願いを否定する訳では無いし、むしろ願いは叶っては欲しいから……僕が願うのは『努力次第で』なんだ」
 瑠碧の説明を聞き、フィオラの顔が晴れやかになっていく。自分の想いが伝わったことに瑠碧は安堵して微笑を浮かべた。
「……と、僕もよく精霊に願い事をしているのであまり言えた事では無いがな」
 書けた、とペンを置く瑠碧にフィオラはどんな手紙を書いたのかと尋ねる。
「ああ――これはしろやぎ宛の手紙だよ」
 いつもお疲れ様。跳び回る姿も可愛いけれど、迷宮内でのお仕事は大変そうだから、休息はしてね……そんな瑠碧の気持ちを込めた手紙をしろやぎさんはむしゃぁと嬉しそうに食べた。
『これは……すごく美味しいめぇ。元気が出るお手紙めぇ!』
 手紙を食べ終えたしろやぎはぴょんぴょんと先程よりも軽やかに跳び回る。
 そんな可愛らしい姿を愛おしそうに見つめる瑠碧だったが、はっと気づいて1通の手紙を取り出した。
「ところで……この手紙はしろやぎの手紙だろう? 返した方がいいのか?」
 瑠碧はしろやぎさんが書いた手紙を差し出す。だが、しろやぎさんは首を横に振った。
『いらないめぇ~。自分で書いたお手紙は食べないめぇ~』
(「では、この手紙はくろやぎさんへの手土産にするか……」)
 そうか、と頷いて瑠碧はしろやぎさんの手紙をしまう。
 しろやぎさんたちもお手紙を食べてだいぶまったりしている様子。
 彼らが満足するまで、あともう少しのようだ――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イェルクロルト・レイン
終(f00289)と
美味しい手紙……(終を見る)
やっぱり手紙にもうまいまずいがあるんだな
どれがうまいかなんておれには分からないし
……もっかい食う? 冗談だ
食いたいなら食えばいいけど
とりあえずあーんでもしとく?

持ってきた手紙は食わせてやれないし
自分では文字が書けないので終に書かせる
ついでに中身を覗き
文字だけや難しい事は内容も分からないけど
書きたいことがあるなら興味がある

おれは……別に……
手紙なんて、何を書けばいいのかわからない
あんたはなに書いたんだ?
興味は素直に言葉にして

とりあえず手紙に寄ってきた白ヤギは確保
……という名目でもふもふする
触りたいなら早く手紙書けば?
自らはやらないのにこの態度である


静海・終
ルト/f00036と
美味しい手紙…(目線をそらす)
どれが美味しいかなんて私だってわかりませんてば!
あー…って、食べませんよ!

流石にビリビリも剃刀も美味しい物とは言えないでしょうし
となれば自ら書く方が良いでしょう
ルトは…何か書いてほしいことありますか?
私は、そうですねえ
ラブレターでも書きましょうか
香りが好きだった、色が好きだった
なんて好きだった事を羅列する
全部、過去形ですが、というところは言わずに笑い
ルトと自分の手紙を書く

あぁっ!しかし愛らしい!
私もモフモフしたい…ルトだけ先にずるいです…
山羊さんもしよろしけれ食べてる間だけでももふっとしてよいでしょうか!?
お手紙が足りなければまた書きますから!



 何だかんだ言ってしろやぎさんたちはどの手紙も美味しそうに食べているように見える。
 それは、『美味しい手紙が食べたい』というしろやぎさんのリクエストに応えて猟兵たちが美味しそうな手紙を選んで渡しているからであるが……。
 しろやぎさんはとても幸せそうに手紙をあむあむと齧っていたかと思うと、次に口に入れた手紙は眉間に皺を寄せてすぐさま吐き出すと床に叩きつけた。
「ふーん……やっぱり手紙にはうまいまずいがあるんだな」
 しろやぎさんを眺めてぼそりと呟いたイェルクロルト・レインは無言で静海・終をじっとつめる。
「何ですか、ルト……どの手紙が美味しいかなんて私だってわかりませんてば!
「じゃぁ、……もっかい食う? 食うんだったら『あーん』ってしてやるけど?」
 イェルクロルトの発言の意図がわかりかね、一瞬、終の思考は停止した。
「あー……」
「――冗談だ。食いたいなら食えば? おれは止めないけど」
「……って、何を言ってるんですか。食べませんよ!」
 ハイハイと適当に終をあしらいながら、イェルクロルトはどうしようかと考える。
「持ってきた手紙は食わせてやれないし……」
「流石にビリビリ手紙も剃刀手紙も美味しいとは言えないでしょうしねえ」
 仕方がありませんね、と先に腹を括ったのは終だった。
「……となれば自ら書く方が良いでしょう」
 早速、終は手紙を書こうと紙とペンを取り出す。
「それなら、おれの分も書いて」
「はいはい、承知致しました」
 文字が書けないというイェルクロルトの手紙を代筆することを終は引き受けつつ。
(「何を書きましょうか……」)
 暫し考え込んで、終が真っ白な便箋に綴り始めたのは内に秘めた恋心。
 ……香りが好きだった。
 ……色が好きだった。
 ……時間が好きだった。
 そんな『好きだった事』を書き連ねる終の手元をイェルクロルトが覗き込んだ。
「なぁ、なに書いてんだ?」
 文字だけや難しいこと内容は分からないが、終が書きたいことがどんなことなのか、イェルクロルトには興味がある。
「んー……ラブレターですよ」
 もっとも、それは全て過去形であることは口には出さず、終は静かに微笑みを浮かべてペンを置いた。
「それで、ルトは……何か書いてほしいことありますか?」
「おれは……別に……」
 ぷいっと顔を背け、イェルクロルトは黙り込む。手紙なんて書いたことがないから何を書けがいいのかわからない。
「あんたに任せる」
 終が書き終えた手紙を勝手に取り、ぼんやりと見つめるイェルクロルトの傍にしろやぎさんが寄ってくる。
『お手紙くれるめぇ? それは美味しいお手紙の予感がするめぇ』
「いいぜ――」
 期待に満ちた眼差しを向けるしろやぎさんをイェルクロルトはがしぃっと確保。
「手紙食いたきゃモフモフさせろ」
『お手紙っ、お手紙っ、やっぱり美味しいお手紙めぇ~』
 お手紙を食べていれば他は気にならないのか、モフモフされてもしろやぎさんは嫌がったりする気配はない。イェルクロルトはお手紙を頬張るしろやぎさんをモフモフしてその柔らかな毛並みを堪能する。
 これを見ては終も落ち着いてはいられない。
「あぁっ! 私もモフモフしたい……ルトだけ先にずるいです……」
「あんたも触りたい? だったら早く手紙書けば?」
「今、私が書いているのはルトの分の手紙ですよ!」
 人にやらせておきながら、とぶつくさ言いつつもモフモフのために終は急いで手紙を書き終えた。
「山羊さんもしよろしけれ食べてる間だけでももふっとしてよいでしょうか!?」
『いいめぇ~。そのかわり、お手紙もっと欲しいめぇ~』
 心良く許可をくれたしろやぎさんをモフモフし、その心地良さに終もメロメロ。
 モフモフを堪能する終だったが、しろやぎさんの一言が彼を現実へと引き戻す。
『お手紙まだめぇ? 早く、お手紙を渡すめぇ!』
「は、はい、すみませんっ。すぐに書きますから!」
「おー、頑張って書けよ~」
 イェルクロルトはモフモフする手を休めることなくニヤニヤと楽しそうに、慌てて手紙を書き始める終を見つめているのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨識・ライラ
んー、しろやぎさんたちが「おいしい」と思う手紙かぁ
なんだと思う?花太
…うーん
よし!

ボクがしろやぎさんがおいしいと思う手紙は、「純粋な想い」のお手紙!
お願いごととか、ラブレターとか、もちろん憎いって思う気持ちも純粋!
っていうとキリがないから、ラブレターにするね!
甘酸っぱいのかな?
さっき拾ったのにあったと思うから…これかな?

しろやぎさーん!
これあげるよー!
食べてくれたら、「願いが叶うポスト」の場所を聞くよ
しろやぎさん、教えてくれないかなぁ
投げそうになったら、別の内容のお手紙を渡すね

アドリブ、絡み歓迎



 猟兵たちから色々なお手紙を貰って、しろやぎさんたちもそろそろお腹がいっぱいになってきたように思える。
『ふぅ~。そろそろデザートが欲しいめぇ~』
 おねだりのつもりなのか、しろやぎさんたちは甘えたような声で雨識・ライラに話しかけた。
「んー、デザートかぁ。なんだと思う? 花太」
 しろやぎさんの要望を聞いたライラは傍らに佇むカワウソのガジェットの花太へ視線を向けてうーん、と腕を組んで考え込む。悩むライラにつられてか、花太も困ったように首を傾げた。
「……よし!」
 ぱっと閃いた。
 ライラは急いでゴソゴソと持っていたお手紙の中から目的の手紙を探し始める。
『純粋な想い』を込めたお手紙はきっと美味しいに違いない。
 心からのお願いごとを綴った手紙や憎いって気持ちをぶつけたお手紙も純粋な想いには違いないが、考え出すとキリがないなぁと迷いつつもライラの心は決まった。
「今回は、正統派でいってみよう! ……ん、これかな?」
 あったあった、とライラが取り出したのは甘く切ない想いを綴ったラブレター。
「ねぇねぇ花太。やっぱりラブレターの味って甘酸っぱいのかな? しろやぎさんが食べてくれたら感想、聞いてみようね!」
 花太にコソコソっと耳打ちをして、ライラはくるっとしろやぎさんの方を向く。
「しろやぎさーん! これあげるよー!」
『ありがとうめぇ~。さっそくいただくめぇ~』
 さっとライラからお手紙を受け取ったしろやぎさんはむしゃむしゃとお手紙を齧り始めた。
「しろやぎさん、しろやぎさん、そのお手紙、どんなお味がするの?」
 果たして予想は当たっているのか。わくわくしながらライラはしろやぎさんに感想を尋ねる。
『甘いだけでなく仄かに酸味も感じるけれど、ちょっぴりビターな大人の味がするめぇ~』
 なかなか繊細な味めぇ、としろやぎさんはじっくりと味わうように手紙を食べた。
「む、ただのラブレターだと思ったんだけどなぁ……」
 どんな内容なのか、もっと詳しく読みたかったなぁとライラは思ったが、すでにお手紙はしろやぎさんのお腹の中におさまっている。
『ふぅ~。たくさん食べためぇ。お腹いっぱいめぇ~』
 満足そうに手を合わせるしろやぎさんにライラは「ねぇねぇ」と遠慮がちに話しかけた。
「願いが叶うポストの場所、知ってる?」
『それはくろやぎさんが知ってるめぇ~』
「あ、そうか。じゃぁ、くろやぎさんはどこにいるのか教えてくれる?」
『いいめぇ、あっちの方向に走っていっためぇ~』
 しろやぎさんは迷宮のさらに深部へと下る階段を指差すとふわぁと大きな欠伸を一つ。
『お腹いっぱいで眠くなってきためぇ……ちょっと休憩するめぇ』
 すやすやと丸くなって眠り始めてしまったしろやぎさんに「ありがとう」とライラはお礼を告げる。
「よーし、花太! くろやぎさんに会いに行くよっ!」

 ライラは迷宮にいる仲間たちを呼び集め、くろやぎさんの居場所を急いで伝えた。
 そして、猟兵たちは満腹になって気持ちよさそうに眠ったまま骸の海へと還っていくしろやぎさんに別れを告げて、さらに迷宮の奥へと進んでいく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『上司のくろやぎ』

POW   :    でりしゃすれたー
【『あまい』告白の手紙】【『しょっぱい』別れの手紙】【『からい』怒りのお手紙】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    ようしゃしないめぇ!
【『するどいきれあじ』の催促状のお手紙】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    そくたつぽっぽさんめぇ!
レベル分の1秒で【頭上にいる速達担当の相棒ぽっぽさん】を発射できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠メーアルーナ・レトラントです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 長い階段を慎重に降り、細い一本道を進んで行くと、何やら前方に誰かの気配を感じた。そっと様子を伺うと、軽やかな足取りでぴょこぴょこと跳ね回っているくろやぎさんの姿が見える。
「くろやぎさん、フィー、教えてほしいことがあるですー!」
 大きな声を出してフィオラはくろやぎさんに話しかけた。
「『秘密のポスト』はどこにあるです? 教えてくださいですー!!」
『ポスト? ポストだったらこの奥の扉の向こうにあるめぇ~』
 くろやぎさんが指さした方向に視線を向けると、確かに扉がある。あっさりと教えてくれたことに少々拍子抜けする猟兵たちだったが……。
『あ、扉には鍵がかかってるめぇ。ちなみに、鍵はここめぇ』
 これはくろやぎさんから力づくで鍵を奪うしかないか、と猟兵たちは互いに顔を見合わせるがフィオラは諦めない。
「くろやぎさん、その鍵貸してくださいです! フィーはポストにお願いのお手紙を投函したいです!!」
 ぺこっと頭を下げるフィオラにくろやぎさんはシュッと素早く近寄ってきた。
『お願いを聞いてくれたら、鍵を貸してあげてもいいめぇ』
「ホントです!? くろやぎさんのお願い、かなえてあげるです!」
 ぱっと顔を輝かせるフィオラに、くろやぎさんが自身の願いを告げる。
『お願いのお手紙をいっぱい食べたいめぇ~。嘘偽りのない強いお願いのお手紙はとってもとっても美味しいって聞くめぇ』
 だから、そんな美味しいお手紙を一度でいいから食べたい――それが、くろやぎさんの願いだった。お願いが叶えば満足して昇天してしまうかも……それでもくろやぎさんは構わないと思っているようだ。
「それって……フィーのお願いのお手紙も、食べたいってこと、です……?」
 ――くろやぎさんのお願いは叶えてあげたい、でも……どうしよう。
 泣きそうな顔でフィオラは手紙をぎゅっと握り締めたまま、立ち尽くしていた……。
枸橘・水織
『誰かを救える魔法使い』が夢

前回と同じくユーベルコードを駆使し、自分の『願い』を書いた手紙を何枚も書きつつフィオラに…
「フィオちゃんが『その手紙をポストに入れたい』っていうならみおは協力する」

みおにも『願い』や『夢』はある…でも、フィオラの為に犠牲になるとかそういうのじゃない…

ある人に教わった事
『簡単に手に入ったモノは簡単に手から零れ落ちる』
『でも…苦労して掴み取ったモノは、手には収まらない大きなモノでも零れ落ちる事無く、自分の生涯の宝になる』
…それをフィオラに伝える


ポストに投函できるなら、一通だけの秘密の手紙
「自分の願いは自分で叶える…だからフィオラちゃんの『願い』が叶いますように」



 くろやぎさんは鞄から取り出した鍵をカチャカチャと揺らし、願いごとのお手紙が貰えるのをわくわくしながら待っている。
『どんな味のお手紙くれるめぇ? 誰のお願いでもウェルカムめぇ!』
「……わかった」
 最初に動いたのは枸橘・水織だった。
 水織はしろやぎさんにお手紙を渡した時と同様に【ENERGY・ALCHEMY】を発動させると、創り出した紙に己の願いを書き綴る。
 水織の願い――それは、『誰かを救える魔法使い』になること。
 フィオちゃん、と水織は手紙を書く手を止めることなく、フィオラの名前を呼んだ。
「フィオちゃんが『その手紙をポストに入れたい』っていうならみおは協力する」
「みおちゃん……」
「もちろん、みおにも『願い』や『夢』はあるよ。……でも、フィオちゃんのために犠牲になるとか、そういうのじゃないの」
 次々と紙を捲り、水織は休む間もなく何通も手紙を書き続ける。
「あのね、フィオちゃん。簡単に手に入ったモノは簡単に手から零れ落ちちゃうんだよ」
「簡単に、手に入ったモノ……です、か」
 自分の両手をじっと見つめるフィオラにチラリと視線を向け、「でもね」と水織は言葉を続けた。苦労して掴み取ったモノは、零れ落ちること無く、自分の生涯の宝になる、と。それは、たとえ手には収まらない大きなモノであったとしても――。
 そして、手紙の最後の一文字を書いて水織はペンを置く。
「書けた……っ。くろやぎさん! みおのお願いのお手紙、あげるっ……!」
 水織が手紙を差し出すと、くろやぎさんは待ってましたとばかりにビュンっと駆け寄りバッと手紙を奪い取った。そして、パクっと手紙に嚙り付く。
『ふむふむふむ。未来への希望に満ちた夢の味は美味しいめぇ~』
「くろやぎさん、おかわりもあるからねっ」
 もぐもぐ、むしゃり。美味しくお手紙をいただいたくろやぎさんに、水織は追加のお手紙を差し出したが。
『同じ内容のお手紙はいらないめぇ~。味、知ってるめぇ』
 くろやぎさんに丁重にお断りをされてしまう。
『いろんな味のお手紙を食べる方が楽しいめぇ~』
 ……グルメなしろやぎさんの上司であるくろやぎさんもやはりグルメだったりするのだろうか。そんなことが水織の頭をよぎるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

糸縒・ふうた
アドリブ・改変等歓迎

強いお願いのお手紙、かぁ
思う浮かぶのは大切な人たちのこと
これまで悲しい、を経験してきた、色んな人たちのこと

オレがこうして力を使うのは
悲しい、を、少しでも減らすため

楽しい、を、たくさん感じられるせかいをつくるため


それはきっととても、とても難しいことで
とても、とても長くて、大変な道のりなんだろうけど

オレがこれまで関わってきた人たちが
少しでも笑顔で楽しいを感じられるように

そんな世界を作れるようなお手伝いがしたい

それが、オレのお願い


どうかな?
オレのお願いの味は

きっと、簡単にはいかなくて
中にはそんなの無理だっていう人もいるだろうけど
オレは、オレに出来ることを精一杯していきたい


メリー・メメリ
くろやぎ!みつけた!
くろやぎの鍵?おねがい……?
うーん……ライオンライオン、まだ手紙はあるかな?
さっきしろやぎにお手紙たくさんあげたもんね……。

さっき避けたお手紙をあげるのはうーん…うーん……。
しかたがないなー。くろやぎくろやぎ、これどうかな?
さっき避けたお手紙をくろやぎにわたしてみるよ!
でとポストにお手紙をいれなきゃだからね、気を付けなきゃ……。
おいしい?まだたりないならお手紙かくよ!

ぺんと紙はね、もってきた!
強いおねがいをかけば良いんだよね?
ととさまよりもつよくなりたい、とーっても強くなって
キマイラの王様になりたい!


泉宮・瑠碧
僕の場合は、ポストに投函しない願いならあるから
それを少し書いてくろやぎへ渡そう

…普段は心の奥で、願いとして意識していないからか
出てこないものが多い気もする
どんな者も平穏で居て欲しいとか、色々願いはするのだがな…

悲しい思いや寂しい思いをする者が
少しでも減ります様に

頑張る者がきちんと報われます様に…

そういえば
しろやぎの手紙もあったな
くろやぎへ渡してはおこう

フィオラは…
出来る限り手紙を渡さずにしたいが
もし、どうしても手紙を渡さないといけないなら
渡す分か投函する分か、どちらかを改めて書くのは駄目だろうか

もしかしたら…
願いの大本はそのままでも、
様々な願いを見て、自分の願いの細部も変化したかもしれないしな


雨識・ライラ
フィーさんっ!だめ!
くろやぎさんへは、ボクの手紙をあげるから! フィーさんの手紙はポストにださなきゃ!

これで満足してくれるかわからないけど、くろやぎさん、どうぞ!

ボクのお願いの手紙はね、もう一人のボク、カヤさんに向けての「お願い」のお手紙だよ!

カヤさんへ
ボクが眠っている間に、脱いだ服をその辺に放っておかないでください
ボクが起きてくる前に、デリバリーをたくさん頼まないでください
お願いだから、部屋におじさん臭さを残さないでください!
花太を枕にして寝ないでください

フィーさんのためだから、このお手紙はくろやぎさんにあげる…!

アドリブ、絡み歓迎


幻武・極
いよいよ試練の時だね。
ボクはくろやぎさんから鍵を奪うでも構わないと思っているけど、キミはそうしたくないんだよね。
そして、くろやぎさんは鍵の交換条件として強い願いがこもった手紙を要求してきたと、だったら手紙を渡すしかないよね。

ほら、キミのどうしても手紙をポストに入れたいという強い願いをくろやぎさん宛に書くんだよ。
別に今書いたっていいんでしょ?
その願いがくろやぎさんを満足させられるかはキミ次第だけどね。

戦闘の場合は模倣武術を使うよ。
相棒のポッポさんをかがんでかわした瞬間に発動させるよ。


アール・ダファディル
求めるは『嘘偽りのない強い願いの手紙』か
最後まで持って来させておいて
開ける為には喰わせろとは性質が悪い

白ヤギから死守した残りの手紙を袋からすべて無造作に撒いてやる
この中にあるようなら幾らでも
今日の俺は機嫌がいい。ごっこついでに探す手伝いもしてやろう
【錬成カミヤドリ】で動かす分身らと手分けして手紙の捜索
漁ってはそれらしき想いが籠っていそうな品を黒ヤギに見せる

それでも少女の手紙を奪おうとするならば、
自身の書いた手紙を目の前で揺らして見せては嗤う
『≪彼女≫…Echoをヤドリガミにする』
14年分煮詰めた正真正銘嘘偽りない願いの手紙だ
必要とあらば幾らでも書き足してやろう
くれてやるからそっちは諦めるがいい


イェルクロルト・レイン
【バッカス】3名
嘘偽りない……味で分かんのかな
もう手紙を終の口に突っ込むことはせず
フィオラの解決策には異論なく
好きにすれば、と人任せ

んん
妥協――したところで、不味いだけだろう
いい、自分で書く
人に言う事に躊躇いはないがこうして場を用意されるとむず痒い
たった一言、覚えた文字の組み合わせ
『いきル』
食われたところで変わらない
だから、やる

先に食われているごしまの手紙を眺め
なあ、あんたなんて書いたの
気遣いなんて知らない

目的のものを見つけたならば、さっさとポケットの手紙を入れて
帰る
一言それだけを告げれば踵を返す
チビを見守る目があるなら、
辛気臭い男はいない方がいい


伍島・是清
【バッカス】静海/ルト
『嘘偽りのない強いお願いのお手紙』ねェ
静海の手紙に思わず瞬く
成る程、御前、頭いいな。
俺は、俺もまァ、適当に書くか。
便箋とペン貸してくンない?

迷うことなく願い事を書いて、誰にも視えないように折り畳んで
くろやぎに、ほらよ、これやる
願い事はちゃんと書いたよ
嘘偽りない心の底からの願い事

何を書いたかと問われればちらりルトを一瞥する
『笑ってください』だよ
どうか沢山、心の底から、笑ってくださいと、誰宛とも無い願い事
願い事より決意表明のようなルトの手紙に、少し笑って

秘密のポストへ向かう静海を見守りながら
何を願ったのだろうと考える
ただ、あの背は悪いものじゃない気がして
もう一度、少し笑う


静海・終
【バッカス】
おやおや、黒ヤギさんは意地悪でしたねえ?
先程同様手紙を書く事で代弁しましょうか
フィオラ嬢は食べてほしくないという願いを代わりの手紙に書けば良いでしょう
それは今この時、偽りのない強い願いでしょう?
ふふ、小賢しいのは得意ですよ

私は総ての悲劇に終焉を
それ以上の強い衝動は私の中に存在しませんので
その願いは自分で叶えていきますのでどうぞお食べください
代筆しましょうか?とルトに伺う
書くのに覚束ない様子を微笑ましそうに眺める
是清はなんて書き…ってもう食べられてる!

秘密のポストを見つければ
懐に収めていた手紙を投函
この思いは、願いはきっと、叶っているけれど
誰に届くかわからないけれど
届けておきたかった


キアラ・ドルチェ
フィオラさんのお手紙はポストに出させてあげたいです
…仕方ありません、私のお手紙を差し上げます
内容は「善き白魔女となって、沢山のしあわせを与えられますように」
まだ私も未熟だから…一足跳びに願いが叶うなら嬉しいと思ったけれど…でもやはりこの願いは自分で叶えるべきものっ!
それに可愛い後輩魔女さんの手紙を守るのも、しあわせを与える事に他なりませんし♪

それでもまだ足りないなら…集めた他の方の手紙も黒ヤギさんにあげます。ごめんなさい…私はフィオラさんの願いを叶えてあげたいから。悪い魔女と言われても構わない
…どこかで、フィオラさんに昔の自分を見てるのかも
猪突猛進だった私を(苦笑
だから手助けしたくなるのです♪


オルハ・オランシュ
フィオラ、君の手紙は使わないで
それはポストに入れるべきものだから
ここで失くすわけにはいかないよ

くろやぎさん、お腹いっぱい召し上がれ
拾った手紙はまだそれなりに残ってる
願い事が書かれた手紙も……うん、何通かあるみたい
目先の小さな目標も、人生を懸けた壮大な夢も
私には眩しく見えるよ

この手紙と他の猟兵が出してくれた分で
満足してくれたらそれでいいんだけど
まだ足りない様子なら、追加でこの手紙も

『――に、認めてもらえますように』

こっそりポストに入れるつもりだったけど、いいよね
これは自力で叶えるべきことだもの

投函できたら一緒に喜びつつも
願いを叶えるのは自分自身の力でもあるんだって
フィオラにもそれとなく伝えたいな



「最後まで持って来させておいて、扉を開ける為には今度は喰わせろとは性質が悪い」
 琥珀色の瞳でくろやぎさんを見つめる少年――アール・ダファディルはやれやれと肩をすくめる。
「そんなに喰いたいのなら、くれてやろう――」
 アールはしろやぎさんから死守した残りの手紙を袋からバサバサと無造作にばら撒いた。
「この中に、お前が欲しいという手紙があるなら、幾らでも喰うがいい。その『嘘偽りのない強い願いの手紙』とやらをな」
『お手紙がいっぱいめぇ~! どれから食べるめぇ……?』
 床に散らばったお手紙を一つずつ手にとっては匂いを嗅ぐくろやぎさん。
 そんなくろやぎさんの仕草を見て、糸縒・ふうたが意外そうな声をあげる。
「匂いで手紙がわかるんだ?」
『強いお願いの手紙だけは、なんとなくわかるめぇ~』
 これは違う、これも違うとポイポイと手紙を放り投げるくろやぎさんを見て、ふうたはなんかスゴイと感心しきり。
 一方、そんなくろやぎさんを見て、アールは僅かに眉根を寄せるも、すぐにその表情を和らげた。
「手紙の選好みか……まぁ、いい。今日の俺は機嫌がいい。ごっこついでに探す手伝いもしてやろう」
 アールはパチリと指を鳴らし複製したテディベアを喚び出すと、Echoも交え手分けしてくろやぎさんのために手紙の捜索を始める。
「これなんてどうだ?」
 アールは床の手紙を漁っては、それらしく想いがこもっていそうな手紙をくろやぎへと渡した。
『ありがとうめぇ~。……可もなく不可もなく、って感じめぇ』
 微妙そうな表情で手紙を咀嚼するくろやぎさんに、アールは「そうか」と短く呟き再び手紙を探し始める。
「オレも手伝うぜ!」
 ふうたもまた、アールの隣にしゃがみ込むとくろやぎさんの好きそうな手紙はないかと散らばった手紙を漁り始めた。

 願いごとを書いた手紙はあれど、くろやぎさんの心を満たすような強いお願いの手紙はそう簡単には見つからない。先程からアールたちが手紙を渡すものの、くろやぎさんがむしゃむしゃと手紙をたいらげては首を横に振るというやりとりが繰り返されているのを見て、メリー・メメリは不安そうに相棒のライオンにこっそりと話しかける。
「ねぇ……ライオンライオン、まだ手紙はあるかな?」
 ライオンの背中に載せた袋いっぱいに入っていたお手紙は、先程しろやぎさんに惜しみなくあげてしまったのでほとんど残っていない。今、袋に入っているお手紙は、ちゃんと本人に届けようと思ってしろやぎさんには渡さずに避けておいたお手紙たちだ。
「待って、メリー。私もまだお手紙持ってるから」
 くろやぎさんにお手紙を差し出そうとするメリーを制し、オルハ・オランシュは自分が持っていたお手紙をどうぞとくろやぎさんに渡した。
「ほら、願いごとが書かれた手紙も……うん、何通かあるみたい」
 これなんてどう? とオルハ差し出した手紙には、新学期を迎えるにあたっての抱負が書かれている。
『これはこれは、パクパクっと一口でいけちゃうめぇ!』
 言葉通り、くろやぎさんはパックン、パックンとまるで水でも飲んでいるかの如く滑らかな動きで手紙を咀嚼していった。
「はい、次はこれをどうぞ」
 続いてオルハが渡した手紙は人生を懸けるた壮大な夢を綴った手紙。
『これはまたガツンとくる味めぇ~』
 嬉しそうに手紙に嚙り付くくろやぎさんを見つめ、オルハは「ねぇ」と疑問をぶつける。
「どっちの味が好きとか、好みはある?」
『全然種類の違う味だめぇ。好みというよりも、その時の気分によるめぇ~』
 くろやぎさんの味覚を理解するのはなかなかに難しい。
(「私には、どちらの手紙もとても眩しく尊いものに見えるんだけどな」)
 残念そうに肩をすくめるオルハに気づくことなく、くろやぎさんは幸せそうにお手紙をむしゃむしゃと食べていた。

『次はどんな味のお手紙めぇ?』
 わくわくソワソワしながら今か今かと新しいお手紙を待つくろやぎさん。
 どうする? と視線だけで会話を交わす猟兵たちだったが、ここで一人の少女が元気よく手をあげ立ち上がる。メリーだ。
「しかたがないなー。くろやぎくろやぎ、これどうかな?」
 メリーは袋の中の手紙をむんずと掴むと、くろやぎに「はいっ!」と掲げて見せた。それは、ごめんねの気持ちを込めて書いた仲直りの手紙だった。
『ちょっと美味しそうな匂いがする気がするめぇ~。ありがたくいただくめぇ~』
 コツコツと嬉しそうに足音を鳴らし、くろやぎさんはシュッとメリーからお手紙を受け取った。そして、そのまま流れるような動作でお手紙を口へと運ぶ。
「どう? おいしい?」
『美味しいけど……これは、あんまりお腹いっぱいにならなそうめぇ』
 最後の一口を口に押し込め、くろやぎさんは寂しそうに呟いた。
 そうかーとくろやぎさんにつられてメリーも残念そうに肩を落とす。
 アールたちの手紙の捜索もあらかた終わった様子だが、くろやぎさんが満足している素振りは見られない。
「おやおや、黒ヤギさんは意地悪でしたねえ?」
 静海・終は仲間たちの方へと向き直ると小さく肩をすくめ、先程と同じ代替案を提示する。
 それは即ち――手紙を書くことで代弁すること。
「よーし、それじゃぁ、メリーもお手紙かくよ!」
 もってきたペンと紙を取り出し、メリーはお手紙を書き始めた。そんなメリーを見て泉宮・瑠碧もまたいそいそと手紙を書く準備を始める。
「『嘘偽りのない強いお願いのお手紙』ねェ……」
 お願いかァ、と伍島・是清は腕を組んで考え込んだ。
「なぁ、『嘘偽りない』……って、味で分かんのかな」
 イェルクロルト・レインは誰に言うでもなくぼんやりと独り言ちる。そんな彼の呟きを耳にした終は、チラとイェルクロルトが自分を見た気がして、彼の方へは絶対に視線を向けまいと素知らぬ顔で是清に声をかける。
「是清、便箋とペンは持っていますか?」
「持ってねェわ、静海、それ貸してくンない?」
 どうぞどうぞと差し出す終から便箋とペンを受け取った是清はきょろりと周囲を見回して皆の様子を伺った。
 願いごとはすでに決まっていたのか、終はさらさらと筆を走らせ、手紙を書き綴っている。
 終にとって『嘘偽りのない強いお願い』と言われれば、それは一つしかなかった。
 ――総ての悲劇に終焉を。
 この願いを超える強い衝動は終の中に存在しないと断言できる。だから、終には願いに迷うということはありえない。
「僕の場合は、ポストに投函しない願いならあるから」
 それを書いてくろやぎに渡せばちょうど良いのではないかと瑠碧は言う。
 とはいえ、普段は心の奥にあって願いとして特別意識していないからか、いざ紙を前にしてもなかなか出てこないものが多い気がしてならない。
「どんな者でも平穏で居て欲しいとか、色々願いはしているはずなんだがな……」
 悲しい思いや寂しい思いをする者が少しでも減ります様に。そして、頑張る者がきちんと報われます様に……。
 なかなか思う言葉が出てこないのか、手紙に文字を書いては消してと繰り返す瑠碧を横目に、是清は無意識のうちにくるりとペンを回した。
「俺は……俺もまァ、適当に書くか」
 ポツリと呟きを漏らし、是清は迷うこともなくスラスラと願いごとを便箋にしたためた。
 一方、イェルクロルトはというと。
「もう手紙喰わせたりしねぇっての……」
 チッと小さく舌打ちをする彼の呟きを聞き、ほっとした様子の終は何事もなかったかのようにイェルクロルトに話しかけた。
「ルト、代筆しましょうか?」
「んん――」
 終の申し出を受け、イェルクロルトは暫し考えた後にゆっくりと首を横に振る。
「いい、自分で書く」
 妥協したところで、そんな手紙は不味いだけだろう。
 終から借りたペンを手に取り、まっさらな便箋を前にイェルクロルトは文字を書いてはぐしゃりと丸め、再び文字を書くも、びりびりと破き。
 そんな覚束ない様子のイェルクロルトを終は微笑ましそうに見つめていた。
(「チッ、人に言うことには躊躇いはねぇけど……」)
 終の視線に気づいたイェルクロルトはぷいっと黙って背を向ける。こうして改めて『場』を用意されると何だかむず痒い。イェルクロルトは思わず首筋を押さえてしまった手をハッとした表情で見つめた後、何でもないとばかりに便箋にたった一言を綴った。
『いきル』
 覚えた文字を組み合わせ、書き殴ったという表現がふさわしく思えるその手紙を是清はチラリと覗き、口元に笑みを浮かべる。
「願い事っていうより、決意表明みたいだな」
「うるせぇ、そういうあんたは何て書いたんだよ」
『気遣い』などと言う言葉は生憎とイェルクロルトの辞書には載っていない。単刀直入に尋ねるイェルクロルトに是清はキョトンとした顔で口を開いた。
「ん? 俺?? 俺は『笑ってください』だよ」
 さらりと答える是清だが、よく見ると彼の手に手紙はない。
「是清、失礼ですがお手紙はどこ………ってもう食べられてる!」
 終が驚くのも無理はない。すでに是清の手紙はくろやぎさんのお腹の中に収まっていたのだから。
「いや、だってくろやぎが欲しそうにこっち見てたからさ……」
『美味しくいただいためぇ。自然で豊かな甘みが口いっぱいに広がるお手紙だっためぇ』
 こくこくと何度も頷きながらくろやぎさんは次にお手紙をくれるのは誰だろうかとぐるりと見回した。くろやぎさんと目があったのは――終。
「私、ですか……? いいですよ、こちらです」
 どうぞどうぞと終はくろやぎさんに手紙を差し出す。
「その願いは自分で叶えていきますのでどうぞお食べください」
『では、遠慮なくいただくめぇ』
 ペコリと頭を下げ、くろやぎさんはぱくりと一口でお手紙を頬張った。
『甘さは控えめ、奥深い渋みと共に心安らぐ香りが口の中に広がるめぇ……』
 うんうん、と何度も頷きながらくろやぎさんはお手紙を飲み込む。
 そして、最後に……とイェルクロルトへと視線を向けた。
『匂いからして期待できそうなお手紙がすぐそばにあるめぇ』
 んぁ? とイェルクロルトは気怠そうに返事をすると、先程書いた手紙を無造作に折り畳み、ポイっと放り投げるようにしてくろやぎさんにイェルクロルトは手紙を渡す。
「食われたところで何も変わらねぇ。だから、やる」
 くろやぎさんは俊敏な動きでイェルクロルトの手紙をキャッチすると嬉しそうに口に放り込んだ。
『今まで食べたことのない、不思議な味めぇ……』
 なんと表現すればよいのかわからない味なのだが、これがまた後ひく美味さで困ってしまう。くろやぎは頬を押さえて首を横に振る。
『美味しい手紙がいっぱいめぇ! こんな幸せがずっと続けばいいのにめぇ~!』
 幸せそうなくろやぎを見て、思わずくすりと笑みを浮かべる瑠碧だったが、ふっと自分の手の中にしろやぎさんの手紙があることを思い出した。
「そうだ……もしよかったら、この手紙も食べてみないか?」
 だが、しろやぎさんの手紙を見たくろやぎさんの表情が一瞬にして曇る。
『……これは、あんまり美味しそうじゃないめぇ』
 と、言いつつもくろやぎさんは瑠碧から受け取ったしろやぎさんのお手紙を一口齧った。
『やっぱり……やっぱり美味しくないめぇ!』
 ペッ、ペッと口の中に残った手紙を吐き出すくろやぎさん。
 しろやぎさんの手紙とは一体どんな手紙だったのかと瑠碧はくろやぎさんが残した手紙の残骸をこっそり開く。
「これは……」
 断片しかないので推察を含むが、どうやら上司に対する不満を綴った手紙のようだ。
(「自分の悪口を書かれた手紙は美味しくないだろうな……」)
 瑠碧は心の中でそっとくろやぎさんに手を合わせた。

『口直し! 口直しに美味しいお手紙が欲しいめぇ!』
 いまだに口の中に違和感が残る素振りを見せるくろやぎさんが、新しい手紙を所望する。
 それじゃぁ、と立ち上がろうとした瑠碧よりも早く、ふうたがくろやぎさんに手紙を差し出した。
「オレのお願いの手紙、食べてみてよ」
『ふんふん、これは美味しそうなお手紙の匂いがするめぇ~』
 くろやぎさんはふうたからお手紙を受け取ると、期待に満ちた眼差しを向けてむしゃぁと頬張る。
 ふうたが手紙に書いたのは、大切な人たちのこと。これまで『悲しい』を経験してきた色々な人たちがいるけれどもそんな『悲しい』を少しでも減らし、『楽しい』をたくさん感じられる世界をつくりたい――それが、ふうたの願いであり、彼が今まで力を使ってきた理由だった。
 この願いを叶えることは、きっと、とてもとても難しいことで、とてもとても長くて太源な道のりであろうことはふうた自身にも容易に想像できる。それでも、ふうたがこれまで関わってきた人たちが少しでも笑顔で過ごせる、『楽しい』を感じられるように、そんな世界を作れるようなお手伝いがしたい。――それが、ふうたの嘘偽りのない願いだった。
「どうかな?」
『いいめぇ、いいめぇ。今はこういうのが欲しい気分だっためぇ~!』
 どうやらくろやぎさんが求めている味に近いお手紙だったらしい。
『あっさりとした旨味があとひく美味しさめぇ』
 喜ぶくろやぎさんを見ていたメリーは自分の願いがどんな味なのか気になってきた。
「ふーん、じゃぁ、メリーのも食べてみて!」
 メリーは書き終えたばかりの手紙をくろやぎさんの腕にグイグイと押し付ける。
「メリーのおねがいはね、『ととさまよりもつよくなりたい、とーっても強くなってキマイラの王様になりたい!』だよ!」
 だって、強いおねがいを書けばいいんでしょ! とメリーはにこにこと満面の笑みを浮かべ、くろやぎさんの感想をわくわくしながら待っていた。
 メリーに押し切られる形でくろやぎさんはお手紙をむしゃむしゃと食べる。
『ふむ……む、飾り気はないけれども、実直なほっこりする味めぇ』
 美味しいめぇとちょっと意外そうな顔でくろやぎさんはメリーのお手紙を食べてしまった。
『次のお手紙はどれめぇ?』
「じゃぁ、僕の手紙をどうぞ」
 そう言ってくろやぎさんの前に歩み出た瑠碧が先程書き終えたばかりの手紙を渡す。
 くろやぎさんは礼を言うや否やひょいっと瑠碧の手紙を口に入れた。
『口に広がる爽やかな香りがなんとも心地良いめぇ』
 うんうん、と満足そうに頷いているくろやぎさんを見て、フィオラは期待を込めた眼差しを向ける。
「くろやぎさん、そろそろお腹いっぱいになったですか?」
『んー……でも、さっきから美味しい匂いがするお手紙があるめぇ。まだ、食べるめぇ~』
「…………」
 くろやぎさんが自分の方を見たような気がして、フィオラは無意識のうちに手紙を背中に隠した。

 そんなフィオラの様子を見ていたひとりの少年がくろやぎさんに声をかける。
「――黒ヤギ、この手紙が欲しくないか?」
 すっと一通の手紙を取り出したアールがくろやぎさんの目の前でひらひらと手紙を揺らして見せた。
『そ、それは……!!』
 アールの手紙を見た瞬間、くろやぎさんの目の色が変わる。
『もう匂いだけでわかるめぇ! すごくすごく強いお願いの手紙めぇ!』
「そうだ、14年分煮詰めた正真正銘嘘偽りない願いの手紙だ」
 この手紙に記されているのは、アールがヤドリガミとしてこの世に誕生した時からずっと抱いていた願い。それは『≪彼女≫……Echoをヤドリガミにする』こと。
『そのお手紙、食べてもいいめぇ?』
「ああ、お前にくれてやろう」
 ソワソワしながら両手を差し出すくろやぎさんの手にアールは手紙を握らせる。そして、フィオラを指差して口を開いた。
「だから――そっちの手紙は諦めるがいい」
 くろやぎさんはアールの言葉には返事をせず、貪るようにお手紙を食べる。
『ああ……わかってた通り、芳醇な香りが口の中いっぱいに広がって……まさに至福めぇ』
 うっとりとした様子で手紙を味わうくろやぎさんを見て、フィオラはほっと胸を撫で下ろした。
「ねぇ」
 唐突に背後から声をかけられ、フィオラは思わず「ヒッ!」と間抜けな声をあげる。恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは幻武・極だった。
「安心するのはまだ早いんじゃない?」
 確かに、くろやぎさんはアールの手紙だけでは満足できなかったようで、まだ次のお手紙を夢見心地で待っている。
「やっぱり、フィーのお手紙も……」
 フィオラがぎゅっと握り締めている手紙にチラリと視線を向け、極は淡々と語りだした。
「キミはその手紙をポストに入れるためにくろやぎさんが持っている鍵が欲しいんだよね。
 ボクはくろやぎさんから鍵を奪うでも構わないと思っているけど、キミはそうしたくないんだよね。そして、くろやぎさんは鍵の交換条件として強い願いがこもった手紙を要求してきたと、だったら手紙を渡すしかないよね」
「そう、ですよね……それしか……」
 フィオラは極の言葉に黙って耳を傾けていたが、俯いたまま顔をあげない。
(「――最後まで言わなきゃ気づかないか」)
 仕方がないな、と極は天を仰ぎ、フィオラの背中をポンと叩いた。
「ほら、キミのどうしても手紙をポストに入れたいという強い願いをくろやぎさん宛に書くんだよ」
「……あ! おねえさん、フィーにも紙とペンをかしてほしいです!」
 極の言葉にハッと気づかされたフィオラは慌てて瑠碧から紙とペンを借りる。
「別に今書いたっていいんでしょ? もっとも――その願いがくろやぎさんを満足させられるかはキミ次第だけどね」
 どうかなとニヤリと不敵な笑みを浮かべ極は大急ぎで手紙を書くフィオラを見つめていた。

 手紙を書き終えるや否や、フィオラはくろやぎさんに元気よく手紙を差し出す。
「フィーのお手紙、あげるです!」
 だが、くろやぎさんは気怠そうにフィオラに顔を向けると露骨に溜息をついた。
『えー、こっちめぇ? ……なんだか違う気がするめぇ』
 でも、貰える手紙は貰っておく。くろやぎさんは遠慮なくフィオラの手紙を受け取ると、パクっと食べる。モグモグモグモグ、ゴックン。
『うん、やっぱりコレジャナイめぇ。欲しかったお手紙は違うめぇ』
「ダメ、ですか……」
 しょんぼりと肩を落とすフィオラだったが、正直、自分でも薄々気が付いていた。今の自分の気持ちが、この迷宮へやってきた時ほどポストに手紙を入れることに拘っていないということに。
(「投函して叶うより、そうして頑張っている気持ちや過程も大事だと思うんだ」)
(「簡単に手に入ったモノは簡単に手から零れ落ちちゃうんだよ」)
 瑠碧と水織の言葉がフィオラの脳裏を何度もよぎる。
 ポストに入れなくてもいいというなら、フィオラの願いを書いたこの手紙もくろやぎさんへ渡してしまってもいいのではないか――。そんな風にフィオラが思った時。
「フィーさんっ! だめ!」
 両手をぎゅっと掴まれ、フィオラはハッと我に返った。パチパチと瞬きをして手を掴んだ主を確認すれば、それは雨識・ライラだった。
「おねえさん……?」
「くろやぎさんへは、ボクの手紙をあげるから! フィーさんの手紙はポストにださなきゃ!」
 フィオラの両手を握り締め、ライラは「絶対にだめ!」と繰り返す。ライラの隣ではカワウソガジェットの花太も『ダメだよ!』と両手でバツを作って主人と一緒に訴えていた。
「だって、『ポストに投函したい』って願いよりも強いお願いなんでしょ!?」
 この気持ちをフィオラに伝えたいと願うライラの肩にそっと誰かが手を置く。それは、ライラと同じ想いを頂いていたキアラ・ドルチェだった。
「そうですよ、ここで諦めるなんてフィオラさんらしくありませんね」
 ライラの気持ちとキアラの気持ちは同じ。だからこそ、二人が選んだ選択も同じ――。
「くろやぎさん」
 心を決めたキアラはくろやぎの名を呼ぶ。そして、大切に持ってきた己の願いの手紙を取り出した。
「せんぱい、そのお手紙……!」
 息を呑むフィオラにキアラはにこりと優しく微笑むと、くろやぎさんへとそっと手紙を差し出す。
 キアラの願いのお手紙――それは、『善き白魔女となって、沢山のしあわせを与えられますように』という彼女の夢を綴った手紙。
「ダメです、フィーのお手紙渡しちゃダメなら、せんぱいのお手紙もダメです!」
「いいんです、フィオラさん」
 キアラは愛おしそうにフィオラの頭をそっと撫でると、「どうぞ」とくろやぎさんに手紙を渡した。
「ボクのも! これで満足してくれるかわからないけど、くろやぎさん、どうぞ!」
 ライラがくろやぎさんへと差し出した手紙はもう一人の自分である『カヤ』宛のお願いの手紙。
 ――ボクが眠っている間に、脱いだ服をその辺に放っておかないでください。
 ――ボクが起きてくる前に、デリバリーをたくさん頼まないでください。
 ――それから、ボクの部屋におじさん臭さを残さないでください!
 ――あと、ボクの大切な花太を枕にして寝ないでください!!
 カヤとライラの関係を知る者にとっては微笑ましい内容に思える手紙かもしれないが、ライラにとってはどれもこれも重要なお願いである。
『フンフン、どっちも美味しそうな匂いのお手紙めぇ。いただきますめぇ~』
 むしゃぁと美味しそうに手紙を頬張るくろやぎさんを見て、キアラは零れ落ちそうになる涙をフィオラに見せないようにこっそりと拭う。
「まだ私も未熟だから……、一足跳びに願いが叶うなら嬉しいと思ったけれど……。でも、やはりこの願いは自分で叶えるべきものっ!」
 それにとフィオラに笑顔を向けるキアラの瞳はキラキラと輝いており、後悔の念は微塵も感じられない。
「可愛い後輩魔女さんの手紙を守るのも、幸せを与えることに他なりませんし♪」
 ねっ♪ とウィンクをしてみせるキアラに泣きそうだったフィオラもつられて笑顔を浮かべた。
「くろやぎさん、ボクのお手紙の味、どう……?」
 ライラはドキドキしながら、そっとくろやぎさんに味について感想を尋ねる。
『爽やかでさっぱりとした味めぇ。口の中がちょっとスーッとするような、そんな感じめぇ』
 なかなか美味しいめぇとくろやぎさんはむしゃむしゃ、ごくんと手紙を飲み込んだ。
「くろやぎさん、私の手紙のお味はいかがでしょうか?」
『じんわりと胸が温かくなるような、ほこほこした甘いお手紙だっためぇ』
 気に入ってもらえて良かったとキアラは胸を撫で下ろし、くろやぎさんに問いかける。
「くろやぎさん、これで満足していただけたでしょうか?」
『うーん……満足したかといわれると、まだめぇ……』
「えー、まだなの!? いっぱいお手紙食べたのに!」
 ライラの台詞はまさにこの場にいる者たちの気持ちを代弁するものだった。
『そういわれても、正直に言っただけめぇ……』
 チラチラっとくろやぎさんはまだ手紙を持っている者に対して視線を向ける。
「やっぱり、フィーが……」
 手紙を握り締めたフィオラが口を開きかけるも、それをオルハが制した。
「フィオラ、君の手紙は使わないで。それはポストに入れるべきものだからここで失くすわけにはいかないよ」
 そして、くろやぎさんへと向き直るとポケットから手紙を取り出す。
「こっそりポストに入れるつもりだったけど、くろやぎさんは全部お見通しなんだね」
 くろやぎさんはオルハの手紙を受け取るとはむっと嬉しそうに齧った。
『噛めば噛むほど味が出る、いつまでも食べていたい味めぇ』
 むしゃむしゃと幸せそうな表情でくろやぎさんはお手紙の味を噛み締め余韻に浸っている。
(「ねぇ、先生。これで、いいんだよね……だって、これは自力で叶えるべきだもの」)
 思わず唇をきゅっと噛み、くろやぎさんを見つめるオルハの袖をメリーがそっと引っ張り話しかけた。
「ねぇねぇ、オルハおねえさんのお願いってなぁに?」
「それはね……」
 オルハはしゃがみ込むとメリーの耳元でそっと囁く。
「『――に、認めてもらえますように』って書いたんだ」
 ナイショだよと口元に人差し指を当てるオルハにメリーも仕草を真似て頷いた。
「うん、メリーだれにも言わないよ! おねえさんとメリーのひみつ!」

 持っていた手紙だけでなく、その場で書いた手紙もくろやぎさんのお腹の中へと消えている。にもかかわらず、くろやぎさんの口から『満足した』という台詞は出てこない。
『あともう少し……ここまで来たら、全部のお手紙の味を知りたいめぇ……!』
 くろやぎさんを動かしているのは食への執念なのだろうか。
「それならば……仕方がないですね」
 前に出ようとしたフィオラをすっと制し、キアラは持っていたメッセンジャーバッグに入っている手紙を取り出す。
「せっかく集めた手紙でしたが……これも差し上げましょう」
 それは、皆の願いを叶えてあげるために、キアラがフィオラと一緒に迷路で集めた手紙だった。
(「誰かの幸せを叶えるお手伝いをするのも、魔女の大切なお仕事の一つなのですっ」)
 先輩風を吹かせていた自分の台詞がキアラの頭をよぎる。そしてキアラはフィオラの方へと向き直ると自嘲的な笑いを浮かべ、言葉を紡いだ。
「フィオラさんにお話ししたことと矛盾していますね。でも……私はフィオラさんの願いを叶えてあげたいから」
 たとえ、悪い魔女と言われても構わない――。
 そう、きっぱりと告げるキアラにフィオラはぶんぶんと首を横に振る。
「ちがうです! せんぱいは、フィーのために……! わるい魔女なんかじゃないです!」
 涙を浮かべて否定する可愛い後輩の眼元を優しく拭い、キアラはふっと口元を緩めた。
(「どこかで、フィオラさんに昔の自分を見てるのかも」)
 猪突猛進だった自分と重なる、可愛い大切な後輩のことを。だから……。
「貴女を見ていると、手助けしたくなるのですよ♪」
 ニコリと笑顔を浮かべるキアラにフィオラはただただ黙って首を横に振り続ける。
 ――そんなフィオラを見ていた終にある考えが浮かんだ。
「フィオラ嬢、ちょっとこちらへ」
 おいでおいでと手招きする終の方へとフィオラはふらふらと引き寄せられるように歩いていく。
 終が何かをフィオラに耳打ちをすると、一瞬にしてフィオラの表情がぱっと明るいものへと変わった。そして、終からペンと便箋を受け取ると、すぐさま手紙を書き綴る。
「……静海の奴、フィオラに何言ったんだ?」
「さぁ……知らね」
 怪訝そうな顔で首を傾げる是清と、興味ないとばかりにそっぽを向くイェルクロルト。
 書き終えた手紙を握り締め、くろやぎさんの元へと駆けて行く少女の背を見つめながら、終は是清の疑問に答えた。
「今のフィオラ嬢の願いを手紙に書くよう助言したのですよ――『お手紙を食べて欲しくない』という願いをお手紙に書いてはどうでしょうとね」
 それは、まさに今この時、フィオラにとって偽りのない強い願いに他ならない。
「あ――成る程、御前、頭いいな」
 思わず口をついた是清の率直な感想に、終はふふっと声をあげて笑った。
「小賢しいのは得意ですから」

 くろやぎさんの前に立ったフィオラは逃げ出したい気持ちをなんとか抑え、恐る恐る手紙を掲げる。
「くろやぎさん、フィーのお手紙、あげます! だから……」
 これで、さいごにしてください――。
 そう言ってフィオラが差し出した手紙をくろやぎさんはサッと奪い取るようにして受け取る。
『さっさとくれれば良いものを……気が変わったと言っても返さないめぇ~』
 匂いからして強い願いであることは間違いない。さて、どんなお味だろうかとわくわくしながらくろやぎさんは手紙をあむっと頬張った。
『甘さと酸味が程よく混じっているめぇ……ちょっと酸っぱいのが、口の中をスッキリさせてくれて今の気分に合うめぇ』
 むしゃむしゃ、ごっくん。
 手紙を咀嚼し、飲み込んだくろやぎさんの身体が光に包まれ始める。
『たくさんのお手紙食べさせてくれてありがとうめぇ。とても幸せな時間だっためぇ』
 ありがとうと感謝の言葉を残し、くろやぎさんの身体は静かに消えていった。


「くろやぎ、いなくなっちゃった!」
 突然の出来事に呆然としていた一同だったが、驚いたメリーの声でハッと我に返る。
「あそこに何か落ちているよ」
 くろやぎが立っていた場所をくいっと指し示す極の視線の先を辿ると、そこには小さな鍵が落ちていた。
「ねぇ、これ扉の鍵だよね?」
 ライラはフィオラに鍵を渡すと、早く開けてみようと扉の前へと彼女を引っ張っていく。
 皆に見守られる中、フィオラは鍵穴に鍵を差し込み、くるりと回せばカチリと音を立てて扉が開いた。
「へぇー、あれが『秘密のポスト』か」
 部屋の中を覗き込んだふうたが指さす先にはこの迷宮には不似合いなポストがポツンと立っている。
「フィオラさん、行ってみましょう♪」
 キアラの誘いに頷き、フィオラはポストの前へと歩いて行った。ゴクリと小さく唾を飲み込み、フィオラが緊張した面持ちでそっとポストに願い事を書いた手紙を投函しようとした時――ポストが光に包まれ、徐々にその姿がぼんやりと薄くなっていく。
「ポストが消えていく……?」
 何事だとアールは思わずポストへと手を伸ばした。だが、アールの手はポストに触れることは叶わず、空をきる。
「……つまんねぇ」
 吐き捨てるように呟いたイェルクロルトはポケットの中に入れていた手紙をぐしゃりと握り潰し、プイと顔を背けた。
「くろやぎが消えたから、ポストも消えたのか……?」
 考え込む瑠碧の言葉に答えられる者はいない。その可能性が高いであろうことは想像が出来るが、真実はここにいる誰にも分からない。
「せっかく……みんなのおかげでここまで来れたのに」
 ――お手紙、ポストに入れられなかった。
 皆に守ってもらった大切な願い事の手紙を握りしめ、涙を浮かべるフィオラに終が声をかける。
「もしかしたら――どこか他の場所にも『秘密のポスト』はあるかもしれませんね」
「え……?」
 思いがけない言葉にフィオラは涙で濡れた顔のまま思わず終の顔を見た。
「地下迷宮は大変広いですからねぇ。どこに何があるかわかりませんよ」
 ふふと笑う終にフィオラも笑顔を向けて頷く。いつの間にか、彼女の涙は止まっていた。
「成る程、良いこと言うね」
 終にだけ聞こえる小さな声で話しかけた是清に、終もまた小声で答える。
「言ったでしょう? 小賢しいのは得意だと」
 顔を見合わせて笑い合う是清と終を見て、好きにすればいいと呟くイェルクロルトの尻尾がパタンと揺れた。
「ポスト、どこにあるかな……?」
 うーんと水織と一緒にフィオラも首を傾げる。
「大丈夫、フィオラにならきっと見つけられるよ。だから、それまでお願いの手紙は大切に持っていなきゃね」
 笑顔を向けるオルハにフィオラは「はいです!」と元気よく頷いた。
 次にポストを見つけた時は手紙を投函出来ればいいなと思いながら、水織はポケットの中の秘密の手紙をそっと撫でる。もしかしたら、その前に願いは叶ってしまうかもしれないけれど……。
「――それじゃぁ、皆で一緒に帰ろうか」
 オルハの言葉に異を唱える者はなく。一同は迷宮の出口へと向かって歩き出した。
 歩き出した一行に独り遅れた終は懐にしまっていた手紙を取り出し、じっと見つめる。
「…………」
「静海、何してンだ? 帰るぞ」
 是清に呼ばれ、終は手紙をまた懐へと収めると、急いで仲間たちを追いかけ出口へと向かうのだった。

 地下迷宮のどこかにあるという噂の『秘密のポスト』。
 迷宮を散策していれば、貴方も見つけることができるかもしれない。
『めぇ~』と迷宮のお手紙配達人の鳴き声が聞こえたならば。
 ほら、きっと秘密のポストはすぐそばにある――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月07日


挿絵イラスト