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第二次聖杯戦争㉒〜いのちのうた

#シルバーレイン #第二次聖杯戦争 #聖杯剣揺籠の君

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#聖杯剣揺籠の君


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 わたし……ゆりゆりには、ほんとうにほしいものがあります。
 それは、「すべてのせかいのすべてのいのち」

 彼女はそう口にした。

 すべてをうばいつづければ、ゆりゆりはどこまでもつよくなれる。
 いんよくのかぜのこうかはんいも、どこまでもひろがってゆく。
 せかいのそとにでれるなら、もっと。もっと。
 きっと、むくろのうみもこなごなにできるはず……!

 彼女はそれを望んだ。

 だからこそ、戦わねばならない。
 聖杯の力によって美しき水晶の宮殿となった金沢大学で。
 芸術、技巧を花言葉に持つアカンサスのキャンバス、その橋の上で。

●決戦は葉薊の橋にて
「いよいよ最後の戦いです」
 グリモア猟兵、流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)は淡々と告げる。
「こういう仕事を伝えるなら、学生服の女子の方か顔の良い青年が良いんでしょうが残念ですね、三十代のオジサンなんですよ」
 自虐的な冗談は多分緊張を解くため。
「では、本題と行きましょう。オブリビオン・フォーミュラ『聖杯剣揺籠の君』の戦場が開きました。場所は金沢大学」
 少しだけ考え込み、グリモア猟兵は言葉を続ける。
「今は白く輝く淫欲の領域に変化しました、詳細は省いておきますね。皆さん分かっているでしょうから」
 苦笑しつつ、地図を開く。
「とりあえず確実なのはこのまま放っておいて月が明けたら当日のうちに石川県全域が、翌日には日本が、そして次の日には世界が生物を死に至らしめ、その生命を揺籠の君に吸収させる『いんよくのかぜ』が支配する。今は大丈夫ですよ――君達が『揺籠の君を殺しうる者』とメガリスたる聖杯に認定されましたしねえ」
 影郎は話を続ける。
「要は猟兵がやってくるかぎりは『いんよくのかぜ』を出す余裕より、それを武器につぎ込んだ方が良いと判断したんでしょう。現時刻よりこれを聖杯武器と呼称します」
 武器は三つ。

 あらゆる物質を引き寄せる黄金の篭手「神の左手」
 突き刺した対象に宇宙の終焉まで癒える事のない毒を注ぐ「リリスの槍」
 射程距離無限かつ命中した対象のユーベルコードを全て奪う「聖杯剣」

「通常使われるユーベルコードに加えて、この三つの武器への対策も必要となります。そこまでに敵は強いと思ってください。勿論先手はあちらです、根性で耐えたりユーベルコードで防御を狙うとかは聖杯武器も加味するとお勧めできない出来ません」
 まず一本、風車を地図に刺した。
「ですが、ここで揺籠の君を倒せば。ひとまず戦争は終わり。オブリビオンは居ますが再び平和なシルバーレインの世界が戻ってくるでしょう」
 そして虚空に風車を投げれば門が開かれる。
「場所は金沢大学のアカンサスインターフェイスの直上!」
 向こうから吹く風は輝きと欲望、矛盾した何かであった。

「もうね、自分の住む世界での戦争はこりごりなんですよ。だから後はよろしくお願いします」
 グリモア猟兵が苦笑した。
 ひどく、ひどく、疲れた顔の男がそこに居た。


みなさわ
 絢爛豪華たる水晶の宮殿は淫欲にまみれた輝きの領域。
 お世話になっています、みなさわです。
 それでは最後の戦いのご案内を。

●戦場
 金沢大学『アカンサスインターフェイス』直上。
 広さの制限とかそう言うのは有りませんが、高さはあります。

●敵
『聖杯剣揺籠の君』
 聖杯に何もかもを捧げ、たった一つの願い「すべてのせかいのすべてのいのち」を望むオブリビオン・フォーミュラとなりました。
 骸の海の破壊を目指し、生命を奪う存在となっています。
 かつての記憶もありません。

 またオープニングで説明した三つの聖杯武器を持っていますのでユーベルコードに加えてこちらを混ぜた攻撃を繰り出してきます。

●プレイングボーナス
『聖杯武器の追加能力に対処する/揺籠の君の先制ユーベルコードに対処する』
 以上となります。
 今回は難易度高めです。
 プレイングを採用できないこともあるかと思いますがご容赦願います。

●その他
 マスターページも参考にしていただけたら、幸いです。

 それでは皆様、最後の戦いとなります。
 よろしくお付き合いのほど、お願いします。
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第1章 ボス戦 『聖杯剣揺籠の君』

POW   :    うずまくいんよく
【神の左手】による近接攻撃の軌跡上に【いんよくのたつまき】を発生させ、レベルm半径内に存在する任意の全対象を引き寄せる。
SPD   :    せいはいうぇぽんず
【あらゆる物質を引き寄せる「神の左手」】【癒える事なき毒を注ぐ「リリスの槍」】【対象のユーベルコード全てを奪う「聖杯剣」】を組み合わせた、レベル回の連続攻撃を放つ。一撃は軽いが手数が多い。
WIZ   :    みだらなひとみ
【揺籠の君の淫靡な眼差し】が命中した部位に【淫欲に満ちた思念】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●たたかいのはじまり

 風が吹いていた。
 人を惑わすいんよくのかぜではなくて、ただの季節風。
 それが止むと雪が降り始める。
 白く、冷たく、重たい、湿った雪。
 雪が水晶の宮殿を白く彩る中、彼女は一人立っていた。

「おまちしてました、りょうへいのみなさん」
 子供のようなあどけなさのある言葉を紡ぐのはリリスの頂点にしてオブリビオンフォーミュラ故か。
「あななたちがとてもきけん、とせいはいがおしえてくれました。だからゆりゆりはりょうへいのいのちをうばいます」
 けれど口にする言葉は敵意と殺意……いや、自らの行動原理に沿ったもの。
 ただ生命ある者には受け入れがたいものであるという事だけだ。

 足元に雪が積もり、白い絨毯が出来上がる。

「ゆりゆりはおなかがすいて、こうふんしてきました……!」
 神の与えし手を左に、猛毒の槍を右に、そして全てを奪う巨大な剣をその背に。
 聖杯剣揺籠の君は一歩踏み出す。

 雪が止み、揺籠の君がその左腕を掲げた。

 ――最後の戦いが始まる!
白斑・物九郎
●共通対処
・【狩猟】本能に基き【野生の勘】をON、敵攻撃の選択/機先/射線を常に予期
・己に『モザイク状の空間』を纏い敵照準欺瞞


●対武器
・左手:敵左腕の間接可動域外目掛け【ダッシュ】
・聖杯剣:回避専心(回避不能時は『心を抉る鍵・真』で【ジャストガード】敢行)
・槍:穂先を魔鍵の先端パターン部で絡めるよう【ジャストガード】、小手を返し【武器落とし】狙い、隙を【こじ開け】る。長柄の武器に伴う「重心を崩しかねない」というリスクを真っ向叩く


●対WIZ
・「左手への対処」を敵双眸を起点に変えた形で実行


●反撃
・【アイシクルドライブ】を全開で叩き込む(属性攻撃+限界突破)

喰らいなさいや
生命の大敵、クッソ低温っスよ



●こおりのいちげき

 さく……。
 雪を踏む音がした。
 金沢の雪は湿って重く、潰れるとしてもほろりと柔らかい。
「ワイルドハント、白斑・物九郎」
 名乗る男の名は白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。
「てめえを狩りにきた」
 魔鍵一つを肩に担ぎ、物九郎は揺籠の君を睨む。
「かりにきた?」
 首を傾げる聖杯剣の主。
「おかしいですね、かるのはゆりゆりのほうだとおもいます」
「その台詞、覚えて起きなせえよ」
 下駄は雪の上故、音を立てず、嵐の王は淫魔の女王の前から姿を消す。
 金属音が響く。
 槍を高く掲げた揺籠の君。
 その頭上では物九郎が魔鍵を振り下ろし、リリスの槍を叩き落とさんとしていた。
「そっくりそのまま三倍ノシつけて送り付けてやりまさぁ!」

 物九郎が走る。
 揺籠の君の右側から回り込む様に、そうすることで神の左手とユーベルコードの射界から逃れている。
 勿論リリスの女王もそうはさせじと身を捻る。
 さすれば次は左側へと猫のように駆けていく。
 揺籠の君も左腕を伸ばすが関節の可動域を超えれば、聖杯武器を使うことができない。
 だからこそ淫欲の女王も振り下ろすのだ――聖杯剣を。
 剣が来るのを気づいた嵐の王が下駄の歯が削れるほどに荷重をかけ、方向転換。
 魔鍵を振り回して、ギアが焼き付くように鳴く音とともに正面から突っ込んだ。

 爆発が男の耳元で発生した。

 どんなみだらなひとみでも、常に動き続ける相手の部位を確実に狙うのは難しい。
 だから揺籠の君は聖杯剣で動きを止め、視線で捉えることを狙ったのだ。
「あなたのおかお、とらえられませんでした」
 顔面、つまり頭部爆殺を。
「俺めの顔を見ていいのは一人だけなんでさぁ」
 物九郎もそれが分かっていたからこそ、鍵を振るい聖杯剣の降下軌道をわずかに逸らして、ズレた視界野の方から走ったのだ。
 音は聞こえないが何を言っているかが分かる。
 足元はそろそろヤバい、鼓膜を破られて平衡感覚が乱れている。
 眼前に赤黒いものが迫る。

 ――リリスの槍

 癒える事なき毒を注ぐ死の一撃。
 それを知っている嵐の王は魔鍵のブレードを穂先に搦めてこじ開けるように『捻った』
「あっ……」
 長柄の武器を引き寄せられるようにコントロールされ、とっさに足元に力を入れたリリスの女王。
 その隙こそが狩りの時。
「喰らいなさいや」
 懐に入り込んだ物九郎が白く凍り付いた左拳を叩き込んだ。

 |アイシクルドライブ《生命殺しの絶対零度》

「生命の大敵、クッソ低温っスよ」
 物九郎は片足で跳ねつつ頭を叩き、耳に溜まった血を落としつつ宮殿まで吹き飛ばされた揺籠の君へと言い放った。

 白の絨毯に赤を捧げ、叩き込んだのは氷結。
 最初の一矢は狩の王が担った。

成功 🔵​🔵​🔴​

龍巳・咲花
先制攻撃と聖杯武器の引き寄せは、周囲に生やした龍脈鎖を巻き付け耐えつつ引き寄せる力を利用した牽制用の手裏剣や絡め取る為の鋼糸付きクナイの投擲
直線攻撃の槍は動き回りつつ周囲から生やした龍脈鎖を掴む形の急制動で回避
線の攻撃である剣は盾切りや突きは槍と同様に、横凪は上半身を鎖に引っ張らせて屈むか足元狙いなら鎖を利用して飛びつつも空中で次の動きに備え、袈裟斬りは自分から生やした鎖も利用して方向に対して平行に身体を反らす様に回避する感じでござるな

攻撃は龍脈を利用した死角からの龍の闘気による攻撃と、引き寄せのタイミングに合わせた武器の投擲、龍脈鎖や鋼糸を利用した行動阻害を組み合わせた波状攻撃でござるよ!



●こおりのろうごく

 巨大な聖杯剣がミサイルの如き速度から落下する。
「龍脈鎖!」
 龍巳・咲花(バビロニア忍者・f37117)は大地から伸びる鎖を掴んで横っ飛び。
 雪が舞い、剣が突き刺さる。
「まさか、ここまでとは……強敵でござる」
 咲花の視線の先には鎖で絡めとった揺籠の君。
 だが、それもいつまで持つか分からない。
「こうそくぷれいですか? ゆりゆりもだいすきです」
 淫魔の女王は楽しそうに答えた。

「お主が揺籠の君でござるな?」
「はい、わたしがゆりゆりです」
 出会って一番、咲花の言葉に揺籠の君は正直に答えた。
 ペースを乱されると思いつつクナイを投げるバビロニアの忍び。
「いたそうですね」
 歩を進め、リリスの女王は神の左手で刃を自らの元へ招いた。
「……やるでござるな!」
 咲花がその意図に気づき、続いてクナイを投擲した。
 投擲武器を『引き寄せる』事で速度をコントロールされたのだ。
 だから追加でクナイを投げたが、健闘虚しく刃は全て揺籠の君が避ける。
 突如バビロニア忍者の足元が暗くなった。
 見上げればそこには赤黒いリリスの槍があった。

 ――長い槍にはいくつかの使い方がある。

 相手を突き刺す事が良く知られているが。
 もう一つ、その長さを活かして上から振り下ろすと槍は恐るべき鈍器へと変わる。
 リリスの女王の身長に対して約二倍分。
 その長さが慣性と質量で叩き落され、雪が激しく舞った。
「のがしました」
 けれど咲花はそこにはおらず。
 鎖を自らの身体から伸ばし、それを引くように横に転がったのだ。

 ――龍脈鎖

 龍巳・咲花は龍陣忍者。
 バビロニア龍脈を操り、そこから鎖を生み出すことができる。
 それを使って、自らの肉体以上の動きを見せているのだ。
 同時に鎖は揺籠の君を縛る。
「まだひだりて、うごきま……うごかないですね、へんです」
 神の左手を振るわんとした聖杯剣の主が異常に気付く。
 見れば左腕には鋼の糸が絡みつき、糸の先は宮殿の床に突き刺さったクナイに繋がっていた。
 そう、追加で投げた刃に。
「じゃあ、せいはいけんでたおします」
 そして揺籠の君は聖杯剣を解放した。

 辺りを緊張が包んでいた。

 拘束もいずれ解かれるだろう。
 聖杯剣が鎖と糸を断ち切れば、揺籠の君は再び自由となるのだから。
 けれど、それこそが――勝機であった。
 剣が拘束を断ち、リリスの女王が左手を掲げる。
「――今でござる!」
 揺籠の君の背後より龍を象った凍れる闘気が召喚されたのはバビロニアの忍びの言葉と同時であった。

 |真・龍陣炎《シンリュウジンエン》

 戦場を龍が駆け巡る。
 揺籠の君が魔氷に囚われた時、咲花は飛んだ。
 再び龍脈鎖が伸び、クナイに仕込んだ糸が淫魔の女王を封じる。
 そこへ投げ込まれる複数の手裏剣。
「ちくちくといたいです」
 揺籠の君が素直な感想を述べる。
「そうでござるか? なら熱いのは如何でござるか?」
 だからバビロニアの忍びは自らが契約せしムシュマフの力を解放した。
 刺さった手裏剣が爆発する。
 ムシュマフは炎龍。
 凍った状態からの炎熱はダメージが大きい。

「拙者は龍陣忍者」
 炎を睨み、龍巳・咲花は告げる。
「お主が死した後、運命の糸に引かれし者。この技を知らぬも――道理でござる」
 時代が進んだことを、未来が進んでいることを。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒木・摩那
いよいよ決着のときですね。
相手は強力な揺籠の君。
しかし、さすがに最後に控えるだけあって、強力で厄介な敵ですね。

今回ばかりはUCも当てにできなそう。
自らの技能とアイテムに活路を見出します。

魔法剣『緋月絢爛』で戦います。
先制攻撃は、スマートグラスのサポートによる【受け流し】と【念動力】による軌道反らしで対応。

相手が物質を引き寄せるならば、その波に乗るまで。
マジカルボード『アキレウス』に乗って、さらに加速【空中機動】。
一気に駆け抜けます。
すれ違いざまに【先制攻撃】【衝撃波】【なぎ払い】【リミッター解除】。
一撃に全力賭けます。



●ぐれんのかがみ

「いよいよ決着のときですね」
 黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)が無意識に顔を拭い、その掌を見て自分が何をしていたのかを把握した。
 強力で厄介な敵であると身体が感じ取っているのであろう。
 拭った汗がそれを証明していた。
 故に摩那はユーベルコードではなく、技能とアイテム、この二つを以って活路を見出すことにリソースを割くことを選択肢とした。
 答えはこれから証明される……。

 最初に襲ってきたのは聖杯剣だった。
 受け流そうと魔法剣を構えた時、自らの位置が強制的に動いたのが分かる。
 神の左手――射程距離無限の聖杯剣の命中率を上げるために『猟兵の位置を』修正させたのだ。
 けれど摩那もただの猟兵ではない。
 スマートグラス『ガリレオ』が伝えてくる情報を把握し、念動力を一度だけ。
 瞬間、全てのユーベルコードを奪う刃が止まった。
 あとは剣を振るうだけ。
 位置を奪われるならタイミングを取り返せばいい。
 サイキッカーが聖杯剣を吹き飛ばした、なら次は――。
「とてもおじょうずですね」
 槍が来る。
 黒木・摩那は超能力者だ。
 念動力だけでなく、見えない感覚にも優れ、そして情報を統合する能力が高い。
 だからリリスの女王が追撃に来ることは考慮できていた。
『緋月絢爛』からルーン文字が浮かび上がる。
 それ自体は剣の機能だが、視覚に増える媒体は念動力の起点として使いやすい。
 刀身を見えざる力で包み込み、リーチを伸ばした一撃が槍を打ち落とした。

 即座に距離を取る摩那。
 シンプルだが正解だ。
 連続攻撃をいつまでも受けている余裕はない。
 ならば終わらせなければならない。
 だから攻撃の流れを断ち切るために距離を取った。
 無限が如きコンビネーションは此処に終る。
 だが聖杯武器はまだ健在。
 ユーベルコードほどの速度は無いにしても、使いこなしてくることは明白。
 超能力者はスマートグラスのコマンドを一つ、アクティブにした。

 残雪残る中、空気が冷えてゆく。
 冬の寒さか……いや、殺意だ。
 片や猟兵としてオブリビオンフォーミュラを打倒せねばならず。
 片や自らの無垢な願いの為に全ての命をこの手に。
 そこに熱情など残らない。
 揺籠の君の左手が握られる。
 同時に黒木・摩那自身が引き寄せられた。
 次に来るのは槍か? それとも剣か?
 どちらにしても、機は訪れた。
「ここです!」
 彼方から来たマジカルボード『アキレウス』に飛び乗ると摩那が空を駆ける。
 対するリリスの王はというと――自らも引き寄せられていた。

 |フリーダムブレイズ《その炎は戒めから解き放つ》

 サイキッカーを包む炎のオーラ、それが摩那に対する『引き寄せ』を行動の制限と判断し、自動的に揺籠の君へと反射させたのだ。
 このユーベルコードは受動的な技。
 故に機会さえ得られれば後は勝手に発動する。
 そしてリリスの女王の連撃―― せいはいうぇぽんずの攻撃を切り抜け距離を取った時にはもう条件はそろっていた。
 互いに引き寄せ合う二人の女。
 だが猟兵はそれが分かっていたからこそ先手を奪うことができ、オブリビオンフォーミュラは後手となり、槍を繰り出すしかなかった。
 槍を中心に摩那が回転する――一種のバレルロールから振るう魔法剣は輝かんばかり。
 すれ違い様の薙ぎ払い。
 衝撃と共にルーン文字が放出され、揺籠の君は宮殿の壁を破壊し遥か向こうへ吹き飛ばされた。

 活路を見出した剣はオブリビオンフォーミュラに刻み込んだ。
 敗北への道を!

成功 🔵​🔵​🔴​

山吹・慧
骸の海に恨みを持っている…
ですが敵の敵は味方とはいきませんね。
正に今が危急存亡の秋。
ゆきましょう、未来の為に。

先制に対しては【気功法】で
敵の気を読み、【集中力】で反応して
浄黒から光の【目潰し】の衝撃波を放って対応。
そして聖杯武器を警戒する【フェイント】で
神の左手を誘いましょう。
引き寄せられたならば、抵抗せずに
逆に自分から接近して虚を突いてやります。
間合いが近過ぎればご自慢の槍も
使えないでしょう。
聖杯剣は隠していたエンジェリックウイングの
光の【羽を飛ばす】【不意打ち】で
僅かでも怯ませて回避。
敵の攻撃を凌いだら【聖天覚醒】を発動。
【リミッター解除】した【功夫】の打撃の
【乱れ撃ち】で一気に攻めます。



●まばゆいつばさ

 白の絨毯に朱が染みこむ。
 聖杯剣揺籠の君の腹から流れていた血はやがて止まり、新たに積もった雪がまた絨毯のように足元を彩る。
 その中を山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)は一人歩いていた。

「骸の海に恨みを持っている……」
 揺籠の君の言葉が慧の耳に残っている。
「ですが敵の敵は味方とはいきませんね」
 だが、決して相容れることのない一線が二人の間にあった。
「正に今が危急存亡の|秋《とき》」
 ここで言う秋とは重大な時期の事、即ち生命根絶の危機。
 だから人狼騎士は進むのだ、未来の為に。

 空気が震える音がする。
 風が吹いているわけではない、誰かが泣いているわけではない。
 気を練っているのだ、慧が。
 これはそのための呼吸。
 身体を、気を、魂を震わせる息吹。
 振動が終われば、静寂が訪れる。
 勿論、風のさえずり、呼吸音、運足の擦れる音は聞こえる。
 だが、それを内包するかの如き静寂な空気を人狼騎士とリリスの女王が作り上げていた。
「あのう」
 最初に口を開いたのは揺籠の君。
「おはなしでもいかがですか?」
 言葉からも甘い吐息が感じられるようであった。
 淫靡な眼差し――見た物に思念を送り爆破するか操るか。
 けれどリリスの言葉はそこで終わった。
 閃光と後に続く衝撃波が彼女を吹き飛ばしたからだ。

 ――浄黒

 気を浄化の波動や衝撃波に変換する発勁手袋。
 白虎拳士の速さを担うその武器は玄武の拳士にも恩恵を与えるのだ。
 即座に相手の左側へと回り込む慧。
 危機を察知した揺籠の君が聖杯剣を放つと人狼騎士も隠していた光の翼を羽ばたかせ、輝く羽根をリリスの女王へと射ち込む。
 羽根の牽制射によってコントロールを失った剣。
 その一撃を避けた男は再び距離を取って気を伺う。
 そこに――神の左手が伸びた。
 舌打ちが漏れた時には引き寄せられた。
 しかし、その姿は陽炎のように揺らぎ、消え、そして揺籠の君の真正面へと人狼騎士は立つ。
 |幻惑《フェイント》。舌打ちも距離を保った動きも全て誘い。
 狙いはあくまで近接、その為に聖杯武器を使わせ、虚実を以って拳の間合いを確保した。

 時は来た。
 玄武は放たれ、星の導きにおいて山吹・慧は埒外への一歩を踏み出さん。
 そう――

 |聖天覚醒《真の姿へと》

 逆境を超えるべく羽ばたく光の翼。
 その推進力を乗せてまずは双掌を以って闘気を伝達しリリスの身液を震わせん。
 鋭き直拳は鳩尾を貫き、体機能の伝達を狂わせ、九の字に曲がった揺籠の君の目の前で強い踏み込みに繋げる。
 雪が舞い上がり、直後リリスの顎は蹴り上げられ空に舞った。
「まだだ!」
 男が普段見せることのない叫び、それは魂の震える音。
 それを引き金として、自らの限界を解き放ち慧は飛ぶ。
 光の翼が闘気と重なり収束すれば、螺旋を描き正拳へと形作られる。
 全てを内包した一撃は今、揺籠の君へと叩き込まれた!

「きれいなつばさ……まぶしいですね」
 それだけを呟いた女はアカンサスインターフェイスへと叩きつけられ盛大に雪煙を舞わせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
聖杯武器。どれか一つだけでも厄介だろうに3つ纏めて相手をしろとは
出鱈目なのも大概にしろと言いたいが……勝ち目が薄くとも戦うさ。これまでもそうしてきた

神刀の封印を解除。神気によって身体能力を強化
俺の間合いは基本近距離なので、神の左手で引き寄せられても別に困らない
引き寄せられる直後に別の攻撃を受けないように構えておこう
聖杯剣は巨大故に至近距離への攻撃へは不得手だろう
奴は当然軽々しく扱うのだろうが、それでも振るう予備動作を見てから対処できる

ひとまず最大の驚異となるのはリリスの槍と判断して、澪式・陸の型【隼返】の構え
一点集中で槍の攻撃を受け止め、弾き飛ばしてから反撃へ
武器を拾わせないように立ち回る



●はやぶさのように

「……しまった」
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は眼前に振り下ろされる巨大な剣を前に呟くしかなかった。

 時は遡る。
「聖杯武器。どれか一つだけでも厄介だろうに三つ纏めて相手をしろとは」
 鏡介が森羅万象の悉くを斬る刃の封印を解く。
「出鱈目なのも大概にしろと言いたいが……勝ち目が薄くとも戦うさ。これまでもそうしてきた」
 真に斬ると決めたものを聖杯剣揺籠の君を判断した剣士に応え、神刀『無仭』は無形の神気を授け、鏡介の身体能力が向上する。
 刀を構えた。
「つよそうですね」
 揺籠の君が槍を構える。
 神の左手もそれが放つユーベルコードも桜幻の剣豪には問題は無い。
 自らの間合いへと変えてしまえばいいのだから。
 後は槍を捌き、聖杯剣は予備動作を見て対応すればいい。
 相手が剣豪や武芸に通じたオブリビオンなら問題はなかった。
 だが相手はリリスの女王。
 淫欲と無垢と生命を求めるオブリビオンフォーミュラ。
 故に剣を持たずに――意のままに飛ばしてきた。
「……しまった」
 それは剣士であることをつけ込んだリリスの罠だった。

 陸橋に叩きつけられる聖杯剣。
 雪が跳ね上がり、霧のように周囲を覆った。
 その中を歩く影が一つ。
「はずれました?」
 揺籠の君が首を傾げた。
 彼女の言葉の通り、夜刀神・鏡介はアカンサスインターフェイスを疾走していた。
 彼が無傷で居られたのは相手の武器の間合いとそこから選択するであろう方法を見抜いていたからだった。
 巨大故に至近距離への攻撃へは不得手。
 ならば聖杯剣は槍より遠い間合い――遠距離にて放たれる。
 剣を振るう予備動作は無くても、神気にて引き上げられたその身なら避けることは叶い、呟く余裕すら生まれるのだ。
 そうでなかったら、此処へと至ることはできなかったであろう。
 神の左手が動き、竜巻が鏡介を戒めんとした。
 だが桜幻の剣豪はその先へと踏み込んだ!
 槍が――高く掲げられていた。
 刀ごと問答無用に叩き伏せる、
 雑に見えるが、この使い方は防御を許さない。
 しかし、それすらも鏡介は読んでいた。
「獲った」
 澪式・陸の型。
 名を――

 |隼返《ハヤブサガエシ》

 そう伝えられていた。
 刀で槍を打ち落として軌道を逸らし、手首を返せば槍の柄がリリスの女王への|道《レール代わり》となる。
 ユーベルコードに至った一つの技法。
 神秘一つ無い技だからこそ届くのだ、揺籠の君へと。
 隼が獲物を捕らえるか様に――!

 鮮血が舞い。
 赤交じりの雪が足元を汚していった。

成功 🔵​🔵​🔴​

暗都・魎夜
アドリブ可
マオ・イェンフー(f36169)と参加
【心情】
こいつはまた絶景だな
ゆりゆりもとんでもない力を手に入れたもんだ

「今だったら逃げて帰れると思うけど、どうする。マオ?」
「かつての戦い」の頃から信頼している仲間だ
答えは分かり切ってるけどな

【戦闘】
「第二次聖杯戦争。終わらせて、祝勝会だ。行くぜ、イグニッション!」

「見切り」「武器受け」で聖杯武器を凌ぎ、引き寄せには「カウンター」で距離を取る
「こいつはまた、随分とチート装備を持ってきたもんだ。ランドルフ以上だぜ、これ」

眼差しの攻撃には「狂気耐性」で操作を抑え込み、爆破は「激痛耐性」で耐える
「だがな、師匠が言ってたぜ。"仲間の絆は最強の武器"ってな」

UCを発動し、「リミッター解除」「限界突破」した状態で「斬撃波」を放つ
俺には帰るべき場所があるんでね

「揺籠の君、今お前が戦ってるのは俺たちだけじゃねえ。この世界で必死に生きていた人々、その全ての命が俺たちの味方だ。そうそう負けはしねえよ」

揺籠の君、生命の歌が聞こえるか?
この歌がお前の子守歌だ


マオ・イェンフー
暗都・魎夜(f35256)と参加
アドリブ歓迎

▼心情
リリスは弟の仇である不倶戴天の敵
その首魁の首を取る大戦なんざ俺の本懐そのもの
絶対守るぜ俺たちの世界をよ
「冗談。蛇女相手にそれはねぇよ」

▼戦術
「応!銀誓館のやり方を教えてやるぜ!イグニッション」
聖杯武器は「二回攻撃」「弾幕」で距離をとり、近接時は「受け流し」で被弾を対応
引き寄せは「ジャンプ」「軽業」で距離を離したり周囲や相手を蹴り距離を稼ぐ
眼差しは過去のリリスへの怒りを思い浮かべ「落ち着く」「覚悟」で強い心で抵抗

「リミッター解除」「限界突破」で自己強化しつつ【浄化の風】で魎夜と自身の心を震わせ、手数の多い連撃や竜巻を吹き散らしダチと命を掛けた戦いを続ける力を生み出し続け詠唱銃で攻撃だ
「世界を自分の願いで満たそうなど、押し付けがましい所業などまっぴらゴメンだ!俺たちの世界から去りやがれリリス!揺り籠の君!」

仲間との絆と銀の雨ふる世界での長い経験、最高のダチと全てを乗り越える
それが銀誓館のやり方だ
あばよ揺籠の君
二度と戻ってくるんじゃねぇぜ



●このせかい

 雪降る中、聖杯剣揺籠の君は空を見上げていた。
「しろい、ですね」
 手をかざし、揺らぎ落ちて来た白い粒を握ると、それは無くなった。
「そして、はかないです」
 そうこれから手に取る命のように。
 けれど、ことごとく阻まれている。
 いつかもそんな事があった気がしていたけれど、もう何も覚えていない。
 だから。
「ゆりゆりはあなたたちの、いのちを、うばいます」
 望みを叶えるしかなかった。
 その言葉を受け取るのは二人の男。

 ――こいつはまた絶景だな。

「ゆりゆりもとんでもない力を手に入れたもんだ」
 水晶宮殿にそびえ立つアカンサスインターフェイス。
 白の絨毯に彩られた最後の戦場に立ち暗都・魎夜(全てを壊し全てを繋ぐ・f35256)はただ呟いた。
「今だったら逃げて帰れると思うけど、どうする。マオ?」
「逃がしちゃくれねえだろ?」
 魎夜に話を振られたマオ・イェンフー(その漢トゥーハンド・f36169)が皮肉を返し、そして――揺籠の君を睨みつける。
「冗談」

 友と弟をリリスに鏖殺され、両手に銃を握った男。
 時が変わり、両手は家族のために開けていたが戦いが彼にまた銃を取らせた。
 初めてリリスに対して銃を握った時からマオの怒りは変らない。
 リリスの首魁たる揺籠の君の首を取る――それは本懐にも等しいだろう。
「蛇女相手にそれはねぇよ」

 勿論、魎夜もそれが分かり切っていた。
「なら、第二次聖杯戦争。終わらせて、祝勝会だ」
 カードを手に取った。
「応! 銀誓館のやり方を教えてやるぜ!」
 マオも同様に。

「「イグニッション」」

 二人の男の声が金沢の大地に木霊し、戦いは始まった。

 フォワードは魎夜、バックスはマオ。
 嵐の王は魔剣を手に、トゥーハンドは勿論二丁拳銃。
 間合いを詰めることでまず神の左手の優位性を潰した魎夜へ襲い掛かるのはリリスの槍。
 すかさずマオが牽制射にて動きをコントロールすれば嵐の王は猛毒の槍を叩き落とし、蒼玄の刀を抜き、横に薙いだ。
 ほぼ同時に聖杯剣がトゥーハンドに襲い掛かる。
 金虎の意匠をあしらった拳銃からありったけの弾丸が吐き出される。
 加速する質量は次々と打ち込まれた鉛で軌道を狂わされ、マオは前方に転がるように飛びこみ。
 ほぼ同時にリリスの女王も後ろへと飛んだ。
「いまのは、ちょっと、いたかったです」
 左手で頬に出来たかすり傷を舐めとり、揺籠の君が笑った。
「おう、そうかい」
 同様に魎夜も笑みを返し、マオは新しい弾倉を銃把に叩き込み、再び構えた。
 淫魔の女王が左手を動かす。

 ――神の左腕

 あらゆるものを引き寄せる聖杯武器。
「こいつはまた、随分とチート装備を持ってきたもんだ。ランドルフ以上だぜ、これ」
 けれど|機先を制した《カウンターを奪った》魎夜はその場におらず、側背へと回り込み。
 跳躍したマオは軽業を活かし、揺籠の君の肩を蹴ってその背後を奪った。
 三者三様。
 振り返る猟兵とオブリビオンフォーミュラ。
 そしてリリスの視線は――嵐の王へと注がれた。
 淫靡な眼差し、そして思念。
 魎夜が狂気に耐えるが如く抗わんとすれば。
「ばん、です」
 嵐の王の足首から先が爆発し、その場に崩れ落ちた。

 ――危なかった!?

 元々痛みには耐えられる方だった。
 だから、パニックにもショック症状にも至らず魎夜の思考は回転を続ける。
 これが頭や首であったら即死だったであろう。
 だから、もう一つの疑問が浮かぶ。
 何故、足首なのか?
 答えはすぐに分かった。
 視界に入る聖杯剣。
 確実に殺すつもりなのだ、揺籠の君は。
 動きもユーベルコードも何もかも封じ、確実に生命を奪うために。
「させるかぁ!」
 マオの咆哮が如き叫びと銃声。
 だが、それもリリスの女王が振るう槍と目の前に立ちはだかる巨大な聖杯剣が阻む。
 金属が火花を散らし弾け、鉛は熱を以って雪の中に沈んだ。
 そして剣の陰から顔を出した揺籠の君がトゥーハンドを見つめる。
「あなたも、ばん、です」
 マオ自身も過去の記憶を思い出し、その怒りを内包するが如き落ち着きと覚悟でリリスの視線に抗った。
 だが抵抗虚しく爆発音が響き、膝から下を失った男は白い絨毯の上に転がった。

 男達は地に伏せ。
 女は槍を片手に一人へ近づき。
 剣はもう一人の男を刺し貫かんと落下する。
 もはや、絶体絶命か……。
 だが……男達はそうは考えてなかった。

「だがな、師匠が言ってたぜ。“仲間の絆は最強の武器"ってな!」
 暗都・魎夜が言い放ち、その体は銀に輝く!

 |嵐呼ぶ銀色の戦士《ソウル・オブ・シルバーレイン》

「まぶしい、です」
 その輝きの名は詠唱銀、詠唱兵器の源にしてこの世界に降る雨の正体。
 神秘根絶を謳う存在がシルバーレインなら、神秘たる力を持ち魂に応える魎夜の身も――シルバーレイン。
 振り向いてその眩しさを目の当たりにした揺籠の君。
 風が吹き、銃声と共に彼女の背中に弾丸が打ち込まれたのはその時だった。
「ふざけんじゃねえ」
 立ちあがった男の名はマオ・イェンフー。
 喪ったはずの足は元通り。
 全ては風が癒してくれた。そう――

 |浄化の風《仲間を救うという覚悟が呼んだ風》によって

 マオの二丁拳銃が火を放つ。
 最初を武器を狙い、次に四肢、そして体幹。
「世界を自分の願いで満たそうなど、押し付けがましい所業などまっぴらゴメンだ!」
 それは技と言うには熱く。
「俺たちの世界から去りやがれリリス!」
 弾丸は火薬の熱よりも熱く。
「揺籠の君!」
 男の魂そのもの。
 かつて、武があった、道があった。
 拳や剣でなく銃を武器とする武道。
 自己の魂を二丁拳銃と合一させるその武技の名こそ――

 |二丁拳銃道《トゥーハンドウ》

「今だ――魎夜!」
「応!」
 マオの言葉に友が応える。
 炎の魔剣を薙ぎ払えば、波が――揺籠の君へと襲い掛かる。
「揺籠の君、今お前が戦ってるのは俺たちだけじゃねえ。この世界で必死に生きていた人々、その全ての命が俺たちの味方だ。そうそう負けはしねえよ」
「せかい……ですか?」
 槍で斬撃波を受け止めるリリスの女王。
 問いかけに応える者はおらず、代わりに脊椎を上から順番に撃ち抜かれた。
「仲間との絆と銀の雨降る世界での長い経験、最高のダチと全てを乗り越える」
 二丁拳銃から紫煙が昇っていた。
「それが銀誓館のやり方だ」
「揺籠の君、生命の歌が聞こえるか?」
 身を崩し、斬撃波をその身で受けんとするオブリビオンフォーミュラへと詠唱銀の戦士は問うた。
「この歌がお前の子守歌だ」
 その一撃は音速を超え、空気を震わせる――まるで歌声のように。
「う……た……」
 呟く揺籠の君。
 その姿は舞い上がる雪煙と共に消えた。
「あばよ揺籠の君」
 吹き飛ばされ、倒れゆくオブリビオンフォーミュラを見つめるマオ。
「二度と戻ってくるんじゃねぇぜ」
 仕事を済ませた男は黒のコートを翻し、友とその場を去っていった。

「……この、せかい」
 揺籠の君は去っていく男達の背中をただ見つめる事しかできなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御鏡・幸四郎
自分の容姿の自覚はあります。
なので、対応や心構えは自然と身に付きました。
揺籠の君の目を惹くのは顔でしょう。
眼差しは落ち着いた仕草で受け流し、微笑みのカウンター。
躱しきれない時は意志を強く持つよう念じます。

瞬間、脳裏に閃く髪の長い少女の姿。姉さんでは、ない……

高まる動悸に自身の想いを自覚します。
学生時代以来、まだそんな情熱があったとは。

「行くよ、姉さん」
姉と合体し、能力を底上げ。……姉さん、止めて下さい。(優しい眼差し)
淫靡な眼差しには浄玻璃の瞳で対抗。必要ないかもしれませんが。

引き寄せは霊媒手袋で力を受け流して躱し、
躱せない時は力を上手く利用して離脱。
リリスの槍、聖杯剣は基本的に見切り、受け流しますが、
避け切れない場合は、結界を集束させた風水盤で受けます。

攻撃を繰り出した隙を突き、威力を高めた雑霊弾を放ちます。
貴女の目的がどうあれ、命を奪わせるわけには行きません。
能力者として、猟兵として、これで聖杯戦争を終わらせます。



●いのちのうた

 揺籠の君は立ちあがる。
 もうその魂の火は残り僅かしかない。
 聖杯にくべた何もかも、そして得た何か、それすらも燃え尽きんとしていた。
 彼女を動かすのはただ自らの望みのみ。
 全てを捧げた女にはそれしか残っていなかったのだから。

 それは生命の詩。

 あるオブリビオンフォーミュラが何もかもを捧げて求めたものの話。
 ならば、その詩を聞くものが必要だ。
 だから御鏡・幸四郎(菓子職人は推理する・f35892)は此処に来ているのだろう。

 これは生命の詩。

 詩の終わりが始まった。

 ゆっくり、ゆっくり……と、揺籠の君が幸四郎へと歩み寄り、その顔へ手を伸ばした。
「きれいな、おかお」
「ありがとうございます」
 リリスの女王の言葉に礼を返し、微笑と共に霊媒師はその視線から外れていく。
 自分の容姿に自覚はある。
 だから対応や心構えは自然と身に付いていた。
 故にオブリビオンフォーミュラにとって目を引くのが自分の顔だと分かっていれば、交わすことはできる。
「ねえ……」
 勿論、揺籠の君もそのままでは終わらない。
「ゆりゆりをみてください」
 甘い吐息とともにささやかれる言葉。
 反射的にリリスの女王を見てしまった幸四郎。

 ――瞬間、脳裏に閃く髪の長い少女の姿

 姉ではないだ誰かが、彼を現実に引き戻した。
 咄嗟、頭を捻る霊媒師。
 遅れて空間が爆発した。
「くっ……」
 耳を抑える。
 鼓膜が破られた、足元がおぼつかない。
 片眼は爆炎が焼いた、誰かに回復してもらわなければ視力は失われたまま。
 たたらを踏みそうになるのを必死に抑え込みながら、幸四郎は笑う。

 高まる動悸に。
 自身の想いに。

 学生時代以来、まだそんな情熱があったとは……苦笑する霊媒師の肩へ乗せられる骨だけの手。
「分かっているよ……行くよ、姉さん」

 |ゴーストイグニッション《最後の戦いも共に》

 これは生命の詩。

 あの頃を必死に生きた自分が、何かを思い出し、そして|現在《いま》を生きていくための物語。
 詩には聞き手が必要だった。
 聞き手の名は揺籠の君。
 全ての生命を奪い去らんとする、何もない女。

 浄玻璃の瞳が仮初の視力を取り戻し、身を重ねた姉が代わりの耳となる。
 互いの詩が始まった。
 オブリビオンフォーミュラが左手を掲げれば、同様に幸四郎も霊媒手袋に包まれた左手を掲げる。
 あらゆるものを引き寄せる力の手に対し、目に見えないものに触れることが出来る手。
 拮抗し合うのは相性か、それともリリスの女王の体力の限界か。
「おどりましょう」
 場を転換すべく、揺籠の君が後ろに跳び、入れ替わりに聖杯剣と飛ぶ。
「ダンスの相手は居るんですよ」
 姉と一体化した男が踊るように剣を避ける。
 勿論、それで終わらない事は猟兵もオブリビオンフォーミュラも知っていた。
 リリスの槍――癒える事なき毒を注ぐ魔槍が貫かんと繰りだされる。
 風水盤を媒介に盾代わりの結界が槍の穂先を食い止める。
 されど聖杯武器――メガリスたる器は障壁すら貫かんとする。
 だからこそ幸四郎はもう一つの面――探偵騎士たる技を披露した。

 |探偵格闘術《バリツ》であった。

 盾を起点に穂先の方向をずらし槍を受け流す。
 力の方向をずらさせてリリスの女王が一歩踏み出したところに何かが刺さった。
「貴女の目的がどうあれ」
 それはガンナイフの刃。
「命を奪わせるわけには行きません」
「かえりたく……ない」
 幸四郎の言葉におそらくは初めて、聖杯剣揺籠の君は請うただろう。
「…………」
 少しだけ与えられた躊躇の時。
 けど、それはすぐに終る。
「能力者として」
 そう、彼は能力者だったから、ゴーストと戦い。
「猟兵として」
 猟兵だからこそオブリビオンと戦う。
「これで聖杯戦争を終わらせます」
 もうこれ以上の悲劇を起こさせない為に。

 銃声が響き、雑霊の魔弾が揺籠の君を貫いた……。

「……うた」
 姉との合体を解き、その場に膝を着いた幸四郎の鼓膜をリリスの言葉が震わせた。
 ゆっくり、ゆっくり、近づいていく霊媒師。
 ガンナイフを構えて、倒れている揺籠の君を見据えると。
「うたが、きこえます」
 女は呟き。
「そうですか」
 男は答える。
 もうオブリビオンフォーミュラはここに居ない。
 ここに居るのは質量を持った過去の残滓。
 それが何かを振り返っているだけなのだ。
 そのうたが何かは知ることはできない。
 もう過去は質量を失い、消えていったのだから……。

「終わったよ、姉さん……みんな」
 雪が晴れ、太陽の日差しを受ける輝けるアカンサスインターフェイス。
 その上で一人、御鏡・幸四郎は呟いた。

 これは生命の詩。

 過去より戻ってきて何もかもを聖杯に捧げた女と、今も戦い続け、そして猟兵と言う新たなる絆を得た者達の物語。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月19日


挿絵イラスト