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交錯する炎の軌跡

#UDCアース #ノベル #カイム・クローバー #鬼桐・相馬 #夕狩こあら

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カイム・クローバー



鬼桐・相馬




●After the mission×Before the mission――Landmark Plaza,Yokohama/UDC-Earth

 ――MM21域内の交通規制を継続。引き続き管理下に置く。
「へぇ、じゃあゆっくり散歩が出來るって訳だ」
 ――待て、Black Jack。その樣な行動は許可して……あっコラ!!
 話中に通信を切り、大人しくなった携帯をポケットに突っ込む。
 後でたっぷり絞られるかと苦笑しつつ、華々しく飾られたフェスティバルスクエアを仰ぎ見たカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、左右に五層の店舗を構える巨大商業施設へ悠然と踏み出した。
 通路を漫歩いて暫く、つと紫彩の瞳が結ばれたのは、モダンな趣のセレクトショップ……の前に立つ背の高い男。
 |疎《まばら》に往來する女性達の熱視線も気附かぬか、|凝乎《ジッ》とショーウインドウを見る仏頂面に近附いたカイムは、飄と佳聲を投げた。
「随分、可愛い趣味するようになったじゃねぇか。そっちの|気《け》があるとは意外だったぜ」
「ん――ああ、カイムか」
 品佳い鼻梁をついと寄越すは、鬼桐・相馬(一角鬼・f23529)。
 大方を察していようが、その上で揶揄うのがカイムらしいと、彼の悪戯な微咲を認めた相馬は、この|人形《マネキン》に足を止められたと、正直に口を開いた。
「先刻、ひと仕事終えてな。今から戻る所だったんだが、少し見ておきたいものがあったんだよ」
 烱々たる金瞳を射止めたのは、多彩な色や模樣を取り揃えたストール。
 首に巻いたり肩に掛けたり、樣々な種類があるものだと感心して見ていたのは、婚約者に贈る爲――慥か大判のものが欲しいと言っていたと、彼女に似合う品を探していた相馬は、然し「仕事より難しい」と直截に告げた。
「俺、女性の身に着けるものって良く分からないんだよな」
 この厖大な中から、何をどう選べば佳いのやら。
 一筋縄では往かぬと紅脣を引き結んだ相馬は、隣する“便利屋”に烱瞳を結んだ。
「如何だろう。どんなものが良いか、相談に乗って貰えないか」
「…………俺に聞くのか?」
 カイムが片眉を上げて見れば、相馬は默した儘、首肯をひとつ。
 冷艶と照る金瞳は|墨々《まじまじ》と麗人の頭の天頂から爪先を巡り、「瀟洒ではないか」と信頼を寄せる。
「あー……こういうのは便利屋の仕事にはないんだが……」
 而して折れたのはカイムだ。
 月光を映したような銀髪にガシガシと櫛を入れた彼は、首筋へ送った手を開くと、參ったとばかり翻して云った。
「まぁ、アンタの頼みだ。人選ミスだと思われない程度にはやってみるさ」
「――良かった」
 交渉成立。
 請けた依頼は必ず完遂する男にて、金棒を得たと安堵した緋角の鬼は、漸の事、店内に入るのだった。

  †

 結果。
 鬼も金棒も惱みに懊んだ。
 ――お肌の白い奧樣でしたら、コントラストの利いた濃色か、血色佳く見せるピンクも宜しいかと。
 ――格子柄も大きめだと小顏効果が期待できますよ。
「その“ぶるべ”“いえべ”というのは何の呪文なのだろうか」
「色味の他には、紋樣や柄の大きさでも印象が違って……これは難題だぜ」
 折に店員にもアドバイスを貰いつつ、二人が「これ」と決めたのは、群靑と深緑のミリタリータータン――これなら翼と同化せず見つけ易いと、最終的に実利を重視したあたり猟兵だろう。
 とにかく任務はクリアしたと、二人は安堵の息を揃えたが、平穩な時間はそこまで。
 ラッピングを待った相馬とカイムは、須臾、足元に異樣な地響きを感知した。
「――妙な|振動《ゆれ》だ」
「は、雜魚共が“働け”って言ってら」
 片や凛然と床へ鋭眼を結び、片や皮肉いっぱいに口角を持ち上げる。
 急ぎ店を出れば、どうろり泥濘む地面から黑い気泡が湧き立ち、無数の翅蟲が羽搏き始めた。
「これは……UDC怪物か」
「人々の恐怖を贄に邪神召喚儀式を行う“狂氣の塊”だそうだ」
 横浜港附近の再開発地域で度々確認されている怪奇現象――百鬼夜行ならぬ『百鬼晝行』が此度も予知されたとは、討伐要請を受けていたカイムの言。
 折しもポケットの中で喚く携帯を取り出した彼は、襲い掛かる翅蟲らを次々と躱しながら應答した。
 ――Black Jack、これまで屋外に発生していた翅蟲が館内で発生した。至急……、
「ガーデンスクエアだろう。今、目の前でウヨウヨしてるぜ」
『シギャァァアアッ!!』
 間際で叫ぶ異形が全てを語ろう。
 この通りだと翅音を聽かせたカイムは、直ぐに機動隊を回すという職員に是を示して通信を切ると、仕舞い込む携帯に代わって『神殺しの魔剣』を構えた。
「扨て、眞面目に働くとするか」
「何だ、カイムは不眞面目で通ってるのか?」
 僅かに目を瞠る相馬にも巨蟲が襲い掛かるが、これは半身を退いて避ける。
 擦れ違い樣、黑闇の翅が紺靑の炎に抱かれたのは、彼が同時に『冥府の槍』を閃いたからで、眞二つに斷たれた躯が地面に轉がりながら灼えるのを眼眦に送った彼は、その儘カイムの背後を預った。
「腕前が何よりの信頼になると思ったが……」
「|組織《むこう》はやけに組みたがるが、団体行動はちょいと苦手でね。お偉いさんには随分、可愛がって貰ってるよ」
「成程、躾が嚴しい樣だ」
 |淹悶《ウンザリ》だと手を振るカイムを肩越しに見遣り、同情を添える相馬。唯、今の話で彼の素行は判明った。
 慥かに御行儀の宜しい方では無いと、咄嗟に巨蟲へ蹴撃をくれる長い脚を見た相馬は、然し己も|他人《ひと》の事は言えまいと剛拳ひとつ、眼路に飛び込む異形を亂暴に叩き落す。宛で喧嘩殺法だ。
 これを瞥たカイムは吃々と嗤って、
「仕事終わりに即、新しい仕事なんざアンタも運がねぇな。ま、俺は助かるが」
「|先方《オブリビオン》が此方の事情を汲まない事は理解ってるよ」
「Exactly(慥かに)!」
 云って、相馬が槍を振り被るに合わせて刃鳴一揮ッ!
 忽ち噴き上がった黑銀の炎と紺靑の炎が、双龍の如く絡み合って灼熱を突き上げると、吹き抜け一帯に飛翔していた翅蟲を悉く灼いて落とした!
『シギギィィイイ!!』
『ゲェァア嗚呼ッ!!』
 颯ッと掠める烈風に前髪を梳った二人は、其々に虹彩を輝かせ、短い言をひとつふたつ。
「この儘、ラクをさせて貰っても?」
「構わない」
 應諾を示す冥府の炎が地面を放射状に駆け走れば、カイムはニッと艶笑を添えて終末の炎を放つ。
 属性を違える二つの火燄に抱かれた邪蟲らは、絶叫を叫ぶ空氣すら奪われて果てるのだった。

  †

 仕事帰りにUDC事件に巻き込まれる形となった相馬だが、彼は既に得心したろう。
「矢張り蟲と云うべきか、炎に吶喊する走光性がある」
「本能で|明処《あかるみ》に集まるんだろう」
 而してその飄然たる返答で、カイムが敢えて館内に待機していたのが判然る。
 今日のような冬の曇天は、夕暮れともなると屋外より屋内の方が明るいと周囲を見渡した相馬は、カイムの強かさに感心して云った。
「不眞面目も計算尽くか」
「さぁてな」
 成程UDC組織も梃摺る訳だと、幾許か竊笑が零れたか。
 佳脣に淡く弧を描いた相馬は、刹那、敵の本能を弱点として衝かんと猛烈な火柱を立てた。
「俺が惹き付ける。カイムは間合いに入った個体から灼き払って呉れ」
 云うや溢れる炎は、冱々とした紺靑から輝かしい白金へ――。
 目も覺める色に抱かれた相馬は、獄闇の軍服を純白に染め上げて「眞の姿」を解き放った。
「へぇ、男前が上がったじゃないか。正面から見られないのが残念だぜ」
 背越しにも凄まじい鬪氣の奔流を感じると、煽られるように殺気を帯びるカイム。
 事前情報無くして要領を得る機智も、咄嗟に連携する技量も見事だと快哉を抱いた彼は、大いに頼ろうと魔劍一閃、続々と迫る蟲を黄昏の炎に呑み込んだ。
「飛んで火に入る夏の虫ってヤツか」
「季節外れも酔狂な事だ」
 絶叫の狭間に交す戯談も妙々。
 而して全ての翅蟲を灰燼と化せば、今度は一際大きな蟲が地面から飛び出した。

 ――ォォォヲヲヲ雄雄ッッ!!

「おっと、デカイ奴のお出ましだ。春を待たず顏を出したか」
「或いは然うかもしれない。躰が未完成だ」
 現れたのは、頭を擡げれば五層仕立てのガレリアに迫る超巨大地蟲。
 本來なら儀式を経て甲虫型の邪神となったろうに、贄となる狂氣を削られた渠魁は、眠りを妨げられた稚児のように嚇怒を露わに咆吼する。
「……百蟲の王を引き擦り出してしまったか」
「ハッ、助かるぜ。あんな雜魚だけで報酬を頂いたんじゃ流石の俺も気が引ける」
 巨蟲が猛然と攻撃する中、俊敏な機動で圧殺を回避する二人。
 所々に甲鎧を纏いながら、柔かい部分も残す不完全を仰いだ兩者は、「攻め手はある」と烱瞳を結んだ。
「お陰で邪神の一柱が炙り出された訳だが。メインディッシュにも附き合えるか」
「いいよ。ひとつやふたつ仕事が増えた位、何の問題も無い」
 この一瞬の一瞥、小気味佳い微笑の一致が、埒外の異能を暴く最良のタイミング。
 両脚で泥濘を強く踏み締めた相馬が、【|神鳴火《カミナノヒ》】――我が身より迸發る白金炎を鎖状にして巨蟲に絡めるや、その暴悪を灼いて戒めると、鎖環がギチギチと挙措を抑える間にカイムが躍り掛った。
「とんだ間の悪さだと、思い知らせてやってくれ」
「噫、アンタより運が無かったってな!」
 冗談交じりに閃くは、【|無慈悲なる衝撃《インパルス・スラッシュ》】ッ!
 魔劍を水平に眞一文字に薙ぎ払った刹那、鋭く疾る刃撃が斬ッッ! と胴を別てば、次の瞬間には黑銀の炎が巨躯を飲み込み、人々の恐怖を屠る筈だった邪蟲神を滅ぼす。
 不完全の躯がどうろり崩れて肉片を散せば、二人は酷く穢された服を見遣り、
「……ストール、店に預けた儘で良かったな」
「――取りに行くとするか」
 と、互いに泥塗れになった麗顏を見て苦笑するのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年01月10日


挿絵イラスト