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かしゃく

#サクラミラージュ #御衣黄桜は月下にて咲く

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#サクラミラージュ
#御衣黄桜は月下にて咲く


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「……はぁ……は、……っ……」
 息差しなき夜の街を、學徒兵・仁科は彷徨っていた。
 辺りは灯りもなく、静寂に支配され、人の営みの名残ばかりが残る死の街だった。
 だが、もう、彼は、戻れない。
(「俺が。……俺だけが、いなくなれば、いい。だから」)
 歩き通し、飲まず食わずでここまで来た。足元はふらつき、鍛えた身体も息は上がって、意識さえもう朧気だ。
(「小鳥遊、御衣黄……」)
 それでも、その名を胸の内で呼ぶことしか、出来ない。
(「赦してくれ――」)
 請うことしか、出来ない。


「學徒兵が一人、行方不明になった」
 珍しく神妙な面持ちで、明・金時(アカシヤ・f36638)がそう告げる。
「名前は仁科・辰臣。仁科っつーと聞いたことのある奴もいるか? ま、面識の有無は問わねぇよ」
 連れ戻しに行くぞと、金時は言う。
「長身で精悍な好青年ってな風体だが、まだ年の頃は十七だ。今年で十八になるか。悩み多き年頃だよ。……あいつ、初めての|巡回任務《パトロヲル》で影朧に遭遇したらしくてな」
 民間人を守れず、見殺しにしてしまった。影朧も討つしか出来ず。
 そのことをずっと、仁科自身が許せずにいる。
「良心の呵責に苛まれながらも、償うように痛みと向き合い続けて學徒兵やってた、その最中だ。影朧が取り憑いちまった」
 理由は定かではないが、仁科の後悔に引き寄せられたのだろうと。
 そのことを悟った仁科は、帝都から、友の前から、忽然と姿を消したのだ。
「だが、俺には行き先が解ってる」
 今は人なきゴーストタウン。
 |異世界《シルバーレイン》のそれではなく、言葉の通りの街の廃墟だ。
 帝都からはかなり外れた、健脚であれば三日三晩で辛うじて辿り着く程度の。
 それを飲まず食わず不眠不休でやってのけたと言う仁科は今や、學徒兵とは言えども衰弱しきっていることだろう。
「仁科は誰にも迷惑をかけないために、二度と誰も見殺しにしないために、一人で死ぬつもりだ。街の中の何処かにいて、ひっそり力尽きるのを待っている」
 止めなければ――否、見つけられなければ、仁科は死ぬ。
「苦しんでるのは仁科だけじゃねぇ。取り憑いてる影朧もだ。そいつが仁科に憑いたってのも、仁科の後悔に自分と重なるところがあるんだろうよ」
 だから、探し出して、二人共を救って欲しいと。
「お前らなら、出来るだろ。信じてるぜ」
 |フヰルム《グリモア》が回って輝く時、漸く金時は、少し笑った。


絵琥れあ
 お世話になっております、絵琥れあと申します。
 『誰か』の物語ならば脇役でも、『自分』の物語ならばきっと主役。
 今回はかつて脇役だった彼に、スポットライトを。

 流れと詳細は以下の通りになります。

 第1章(冒険)『住人だけが居ない町』
 第2章(日常)『いずれまたどこかで』
 第3章(ボス戦)『???』

 第1章では、ゴーストタウンと化した街で仁科を探していただきます。
 誰かが追ってくるとは考えておらず、また不眠不休で判断力が鈍っているため、何かしらの痕跡は残っているでしょう。
 なお、彼に縁のある人物を同行させることも出来ます。詳細は後述。

 第2章では発見された仁科が今後に希望を見出せるよう、彼の心を少しでも軽くしていただければ幸いです。
 話を聞くも、説得するも、寄り添うも皆様の心のままに。後悔の詳細は、彼の口から改めて聞けるでしょう(断章にて)。
 こちらも第1章で縁者が同行していれば、説得などに参加してくれるでしょう。

 第3章では、仁科に取り憑いている影朧と対峙することとなるでしょう。
 が、現時点でその正体は判明しておらず、詳細な情報は開示されておりません。
 この影朧もまた、何かの後悔を抱えているようですが……?

●仁科の縁者について
 仁科と組んで行動することの多い學徒兵仲間の『小鳥遊』『御衣黄』の二人を同行させられます。
 彼らは現在、仁科の失踪を知りつつ手がかりがないことから、仁科の居場所を知らないまま他の學徒兵たちと捜索を続けています。
 『御衣黄』と面識があり、彼女が信を置いている人物が呼べば、無条件で同行してくれるでしょう(小鳥遊は御衣黄が信頼しているならと一緒に来てくれます)。
 今までに交流がない場合は、納得の出来る理由|が必要《にプレイングを割くこと》になるでしょう。
 三人の関係性については拙作『#御衣黄は月下にて咲く』作品に描写がありますが、必読ではございません。
 但し『御衣黄』は『人前での女性扱い』『侮った態度を取られること』が地雷です。その点のみご注意ください。
 なお、この二人が同行していなくても、任務の達成は可能です。

 第1章開始前に、断章を執筆予定です。
 戦闘パートの地形などの追加情報も、断章での描写という形で公開させていただきます。
 断章公開後、プレイング受付開始日をタグにて告知させていただきますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『住人だけが居ない町』

POW   :    隠れている場所を探すなど、物理方面から解決策を練る

SPD   :    装置・仕掛けを探すなど、技術方面から解決策を練る

WIZ   :    転送陣・結界を探すなど、魔法方面から解決策を練る

イラスト:青空あおい

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



(「………………暗いな」)
 仁科は、崩れかけた天井を見上げた。
 窓はあるが、周辺の建物の位置関係からほぼ日光は入ってこず、灯りになるようなものもない。だが、壁にもたれて座り込む彼に、この状況をどうにかする気力はもう残っていなかった。
 いや、どうにかする必要などなかった。
(「元より、真っ当に死んでいい人間じゃない」)
 どうして。
 どうして、助けてくれなかったの。
 どうして、お前の方が生きているの。
 幻聴だと解っても、どうしたってそんな声につき纏われている気がして。遂には夢に見るほどに。
 お前がちゃんとやっていれば。
 お前が代わりに死んでいれば。
 お前が。
「……っ」
 振り払う。
 何度振り払っても、消えない。
『……仁科様の気持ち、私にも解ります』
「………………」
 別の声。
 理解してしまったのだ。これは影朧の声であると。
 だって、こんな自分のことを責めないのだから。
『でも、私は仁科様を助けるどころか傷つけてしまう』
 桜の精の癒しを得られなかった影朧。
 望む望まざるとに関わらず、傷つける。
 仁科が救えなかった、影朧のように。
『だからせめて、共に逝きます』
「……そのようなことが」
 出来るのか、仁科には解らなかった。
 ただ、取り憑いたのが自分だったばかりに、巻き込んでしまって申し訳ないという思いだけは、どうにか呑み込んだ。


 ――帝都にて。
「……あンの堅物何処に行きやがった……!!」
「御衣黄ー、おくちわるわるになってんぞ。あと、堅物はお前も人のこと言えねーからな」
 御衣黄と呼ばれた、色素の薄い美少年――否、女は今や苛立ちを隠しもせず、同じく學徒兵である小鳥遊を伴って、仁科の行方を探していた。
 その後を追う小鳥遊は、優男風の整った顔立ちながら軽薄そうな印象を与える出で立ちと言動をしていたが、ふと神妙な面持ちとなり。
「そう言えば御衣黄、お前は……知らないんだったな」
「……何が」
「まぁ、俺も聞いただけなんだけどさ。仁科が初めて任務に出た日。二年前のさ」
「知っている。民間人に被害が出たんだろ、」
 遮ろうとする御衣黄の言葉を、小鳥遊は更に遮り。

「――丁度、三日前なんだよ」

 ――もしもの話をしよう。
 仮に猟兵の誰かが、御衣黄たちの同行を望む場合だ。
 誰か一人が連れ出しに成功すれば、それ以降の人手を彼女らの説得に割く必要はない。
 また移動手段だが、猟兵ではない彼女らはグリモアによる転移の恩恵を受けられない。
 但し、羽衣人である小鳥遊が、移動に特化したユーベルコヲドで御衣黄を伴い現場まで追いかけてきてくれるようだ。猟兵たちが現場に着けば、彼らもそこで合流出来る。
 それを踏まえた上で、連れ出すか否かを考慮するのもよいだろう。
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と

罪の意識に、取り憑かれる…
…仁科さんを見付ける事に集中しましょう
今は

事前に帝都へ転送して貰い
御衣黄様・小鳥遊さんを捜索
仁科さんがゴーストタウンにいる事
影朧に取り憑かれている事を説明し
来て頂けるようお願いします
私も仁科さんを助けたいのです
そんな終わりは、嫌だから
影朧は、私が転生に導きます
ですから、お二人には仁科さんを救って欲しいのです

現地で落ち合う事を約束して
ゴーストタウンへの転送を
明さんに改めて依頼

ゴーストタウン到着後は
足跡や手が触れた痕跡
物音に不自然な点が無いか注意
何がしかの痕跡を見付けた際は
皆さんと情報を共有

場所が暗ければ白燐蟲を呼び出し
周囲の光量を上げるよう指示
足元等に危険なものがあれば
排除しつつ先を急ぎます
狭くて入れない場所は白燐蟲を滑り込ませ
何か変わった事があれば
光って戻って来るよう言います
その際は周囲の物品を撤去して確認

仁科さんを見付けた際は
気付かれないように葛城さんへ知らせます
仁科さんが逃走・移動の気配を見せたら
足音を立てないよう留意し追い掛けます


葛城・時人
神臣(f35429)と

神臣と相談し明に
「先に帝都へ、仁科の友人達の所へ頼む」
と頼む

転移後御衣黄と小鳥遊を探し走る
「御衣黄!小鳥遊!」

邂逅後
「仁科は影朧に…。だから自ら終ろうとしたんだ」
猟兵の力で場所は判明し、滅びた街である事を神臣と説明
「御衣黄、小鳥遊、君達も来て欲しい」
俺達は仁科のそんな終わりは絶対認めないと強く
「仁科が信じてる二人が居たら説得できるって信じる」

神臣が影朧は救う
なら今度はどちらも救えるのではないかと伝えて

自分達は転移で移動可能、何とか急いで来て
探すとこまでは俺達が絶対頑張る、あちらで落ち合おうと言い
一度帰還

「無理言ってゴメン!ありがと明!」

転送後即捜索

「絶対に見つけ出そう!」
神臣と強く頷き合い
「空から視て目を増やすよ」
白燐同期翔でククルカンの目も借りて痕跡を探る

きっとある、何年も人がいない場所に新しくついた足跡や埃が
擦られた跡が
同期のククルカンとは別で何匹か出して探るのも行う

見つけたら御衣黄と小鳥遊が来るまでは隠れて待機
万一仁科が逃げたり移動するなら気付かれないよう追う




 ――先に帝都へ。
 神臣・薙人(落花幻夢・f35429)と葛城・時人(光望護花・f35294)はグリモア猟兵に要請し、御衣黄と小鳥遊を探すべく転移していた。
「御衣黄! 小鳥遊!」
「………………葛城?」
 時人の声に、御衣黄はすぐに反応した。それを受けて、小鳥遊も声の方へ顔を向ける。
「おっ、葛城サンに神臣さんも! 影朧事件の解決に来たんスか? 悪いけど、俺ら今それどころじゃ……」
「ええ、影朧事件です……が。仁科さんにも関わることです」
「……仁科に?」
 小鳥遊と御衣黄の表情が、俄に険しくなる。
「聞いたよ。仁科が行方不明だって」
「お二人も捜索に追われていると……」
「何故それを……いや、いい。思えば、以前にも似たようなことがあったしな」
 御衣黄が深く追及しなかったのは、彼女自身も知り得なかった自身の暗殺計画を超弩級戦力、即ち猟兵たちがいち早く察知し、解決に乗り出していたことを思い出したのだろう。
「今、仁科さんはとあるゴーストタウン……住む者のいなくなった街にいます」
「仁科は影朧に……だから自ら終ろうとしたんだ」
「影朧……終わる? どういうことだ」
 薙人と時人は、詳しく事情を説明した。
 影朧に取り憑かれた仁科が、御衣黄たちを含めて周囲を巻き込まないために、独りで出奔したこと。
 だが、彼の居場所は既に判明していること。そして今なら急げば、救うことが出来るということを。
「御衣黄、小鳥遊、君達も来て欲しい」
 場所は遠いが、小鳥遊のユーベルコヲドを使えば日の高い内に辿り着けるだろうからと。
「俺達は仁科のそんな終わりは絶対認めない。だから、助けたい」
 そのために、二人の言葉が欲しいのだと。
「仁科が信じてる二人が居たら、説得できるって信じる。だから」
「私も仁科さんを助けたいのです。そんな終わりは、嫌だから」
 言葉を尽くす時人に続いて、薙人もしっかりと、まっすぐに御衣黄たちを見つめて。
「不躾と思われるかも知れませんが……仁科さんの事情は、知っています。ですが」
 今なら、仁科だけではなく、影朧も救える。
 勿論、御衣黄や小鳥遊を、危機に曝させはしない。
「影朧は、私が転生に導きます」
「………………」
 御衣黄が、徐に目を瞑る。何か思案している様子だ。
「ですから、お二人には仁科さんを救って欲しいのです」
「ああ、神臣が影朧は救う。今度はどちらも救える筈だ。俺達も全力を尽くすよ」
 小鳥遊が、御衣黄をちらと見る。
「……どうするよ?」
「聞くか? 僕に」
「ま、最初から答え決まってるよな」
「! それじゃあ」
 ニカ、と小鳥遊が笑った。
「こいつのこと助けてくれたし、何よりこいつがお二人のこと信頼してる。だから俺も、……仁科も、お二人の言葉なら信じようって」
 小鳥遊も。
 そして、仁科も。
 |御衣黄《なかま》が信じるものを、信じると決めた。
「僕らは何処に向かえばいい」
 その御衣黄の月色の瞳は、揺るがず二人を見返した。


 ゴーストタウンの詳細な場所を御衣黄たちに教え、薙人と時人は即座に現場に向かう。
 小鳥遊のユーベルコヲドがあれば、とは言っても仁科が不眠不休で三日かけた道のりだ。着いてすぐ合流、とはならないだろう。だから、二人が到着するまでに見つけよう、と。
「無理言っちゃったけど、ありがと明……!」
「本当に……感謝しないといけませんね」
 嫌な顔一つせず送り出してくれ、戻ればその顔は収穫あったみてェだなと笑顔を向けてくれた、グリモア猟兵。
 彼の仕事ぶりに思いを馳せつつ、降り立ったのは風だけが音を立てる街。
 この街の何処かに、仁科はいる。
(「罪の意識に、取り憑かれる……」)
 仁科に憑いた影朧は、きっと罪の意識の象徴なのだ。少なくとも、仁科にとっては。
 そして、影朧自身の罪の意識は――そこまで考えて、薙人は緩く頭を振った。
「……仁科さんを見付ける事に集中しましょう。今は」
「ああ、絶対に見つけ出そう!」
 二人、強く頷き合う。
「まずは足跡や手が触れた痕跡を調べてみます。物音に不自然な点がないかどうかも……」
「解った。俺も空から視て目を増やすよ。共に往こう、|白燐蟲《ククルカン》」
 薙人は地上から、時人は白燐蟲と視界を共有して上空から、それぞれに仁科の痕跡を探して。
「きっとある筈だ、何年も人がいない場所に新しくついた足跡や埃が、擦られた跡が……」
「そうですね。何か……、……あれ」
「神臣?」
 薙人が、小走りで先へ。時人もその後を追う。
 しゃがみ込んだ薙人は、微かに眉を顰めていた。
「……血の跡」
「本当だ。よく解ったね」
「微かに臭いがしましたから……まだ新しいですよ」
「ククルカン! 辿れるか?」
 恐らく、転んで頭を打ちつけたのだろう。鼻血も少し出ていたようで、先にも数滴の跡が見受けられた。
 學徒兵でありながら、受け身も取れないほど衰弱しているということか。ますます急がなければ。
 時人の白燐蟲が血の臭いを追う。建物の中へとその身体はするりと入っていった。
 中は、日の光が入って来ておらず、薄暗い。
「光量を上げましょう。……残花」
 薙人も白燐蟲を呼び出し、その灯りに導かれて先行したククルカンを追う。
「瓦礫が邪魔だね」
「仁科さんが帰る時に躓いてもいけませんし、排除しながら進みましょう」
 手間はかかるが、やるしかない。
 その間にも薙人は残花に周囲を探らせつつ、二人は徐々に仁科の元へと近づきつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城田・紗希(サポート)
基本的には考えるより行動するタイプ。
でもウィザードミサイルや斬撃の軌跡ぐらいは考える。…脳筋じゃナイデスヨ?
15歳ナノデ、エッチとグロは(R15的な理由で)だめです。

暗器は隠しすぎたので、UC発動時にどこから何が出てくるか、術者も把握していない。……慌てた子守りロボットじゃナイデスヨ?
UCによっては暗器サイズじゃない物が出る……ほんとに猫型ロボットじゃナイデスヨ??
UCは必須じゃないので、外しても問題ありません。

鍵開けと罠外しは日課レベル、必要ならありあわせの素材でレプリカも作る。
UCの応用で魔力探知したり、召喚存在に探索を命じたり、色々。
あまり汚れる場所には行きたくないお年頃。
料理は人並み。




「人探しかー。よし、張り切って探しますか!」
 グリモア猟兵から人探しを手伝って欲しいと呼び出された城田・紗希(人間の探索者・f01927)。やる気は十分だ。
「……で、誰探せばいいんだっけ?」
 やる気はあるんです。本当なんです!
 召喚したドッペルゲンガーが、猫のような目でじーっと見てくる。そんな出だしで大丈夫か? とでも言いたげなまなざし。
「やだなーちょっとド忘れしただけデスヨ? ほら、あれ、學徒兵の人!」
 覚え方がアバウトだった。
 まぁ、今のところは街には猟兵たちと捜索対象しかいないので、問題ないだろう。見たところ、帝都桜學府の制服を着た學徒兵兼猟兵はいなさそうだし。
(「あれ、でもそう言えば桜學府の制服って明確な統一規格ってなかったような?」)
 何故か雑学の方が頭に入っていた。
「ま、いっか。それじゃあ手分けして探そうね」
 紗希とそのドッペルゲンガー、二人がかりで捜索していく。
 日の当たる通りや路地裏などは勿論、建物の中も軽々と入り込み、時にはかかったままになっていた扉の鍵あれば解錠したりして。
 だが、仁科は見つからなかった。痕跡すらも見当たらない。
(「ま、この辺りにはいなそうってことも情報だよね」)
 街の全てを見回れているわけではないのだし、仕方ない。
 それに極端な話、誰かが見つければいいのだ。その後、対話するメンバーがそこに向かえばいい。
 いい意味で、紗希は割り切っていた。だから彼女は悲観することなく、後続の猟兵たちにこの情報を伝えるべく、転移した地点へと引き返したのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シリルーン・アーンスランド
【護】
グリモア猟兵さまに現在のご状況伺わせて頂き
學徒兵さま方にはお会いできたらご挨拶をさせて頂くと
致しまして
まず懸案のご捜索でございますね

「沙羅さま陸井さま宜しくお願い致します」

転移を謝し寒々しい滅びた町へ参りましたが
先行された方の気配もまして探し人の気配もなく
一瞬途方にくれますが
お二方の鼓舞を拝聴し気合を入れ直します
「はい!必ずやお助けを」

技能も用いながらUC月の斬撃を
これは攻撃意図ではなく足場の為に

「どうぞ沙羅さまも」
目は多い方が良うございます

三人でくまなく探…あれは血痕?
そして何かを引きずった跡
「ご覧くださいませ!」
お二方にお知らせし足場をその方向へ
きっと近いですわ!早く、少しでも早く!


凶月・陸井
【護】

話は聞いたが不眠不休で三日三晩なら
どれだけ衰弱しているかもわからない
幸い妻と沙羅さんが居るなら手分けもできる
とにかく急いで仁科さんを探しに行こう
「あぁ、シリルも沙羅さんも宜しくな」

何処から手を付ければいいか途方に暮れそうだけど
痕跡が残るならまず地面が基本だと思うからね
あまり力にはならないかもしれないけど
失せ物探しも使用してまず全力で痕跡を探すよ
「大丈夫。一個ずつでいいんだ。痕跡を見つけて行こう」

空からの目は二人に任せて
俺は地道に痕跡を探しながら進もう
判断力が鈍っているなら
進みながら倒した物や足跡はあると思う
痕跡を見つけたら上空の二人に合図を
「シリル!沙羅さん!この辺りかもしれない!」


神塚・沙羅
【護】
人の目から逃れ、誰も居ない所で、自分を終わらせるなど……
所以等は今は判りかねますが、そんなものは愚策であると、その方もにも影朧にも、気付いて頂かなければ……
仁科さんには手を伸ばす仲間たちが居られますし、
影朧には転生という道があるのだから

とにかく、一刻も早く見つけ出す必要がありそうですね
このような状態の地であれば、生きてる人間であれば十中八九その方でしょう
「シリルさん、今回も足場お借りします」
(シリルさんの生み出す足場を借りて、第六感と周囲の状況からの情報収集駆使して捜索を)

見付けた場合は一旦お二人の所へ戻って場所の共有を
恐らくこちらの捜索に気付けば場所を動かれてしまうでしょうから




 生の気配の消えた街に、また人影が降り立つ。
 シリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)、凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)、そして神塚・沙羅(優しき闇の紡ぎ手・f35281)の三人だ。
「沙羅さま、陸井さま、宜しくお願い致します」
 三人は、志を同じくし同じ旅団――『結社』と言った方が三人には馴染み深いかも知れないが――で切磋琢磨する仲間たちだ。けれど、シリルーンは変わらず礼を尽くし、丁寧に礼をして。
 だから、夫である陸井も友である沙羅も。
「あぁ、シリルも沙羅さんも宜しくな」
「こちらこそ、お二人ともよろしくお願いします。……しかし……」
 ふと、徐に沙羅がほんの僅か、その柳眉を顰めた。
「人の目から逃れ、誰も居ない所で、自分を終わらせるなど……」
 苦々しさの混ざる声音に、陸井とシリルーンの表情も強張る。
 ここに来る前に、グリモア猟兵から聞かされた事情。仁科の過去と、現状。
「所以等は今は判りかねますが、そんなものは愚策であると、その方もにも影朧にも、気付いて頂かなければ……」
 仁科の抱えているものを、沙羅は知らない。軽々しく解った風な口を利くつもりはない。
 だが、このまま自死を選んだところで、仁科も影朧も救われることはない。それだけは、事情を知らない沙羅にも解るから。
 死んでからでは後悔も出来ない。だから今ここで、必ず見つけるのだ。
(「幸いにして仁科さんには手を伸ばす仲間たちが居られますし、影朧には転生という道があるのだから……」)
 そんな沙羅の言葉に頷く陸井だが、同時に腕を組み、思案するような素振りも見せて。
「しかし話は聞いたが、不眠不休で三日三晩ならどれだけ衰弱しているかもわからないな……」
「想像するに余りある事態ですわ。こうしている間にも、徐々に弱っておられる筈……」
 シリルーンが物憂げに目を伏せる。その肩へと、陸井はぽんと軽く手を添えて。
「とにかく、急いで仁科さんを探しに行こう」
 三人もいれば手分けして探せる筈だ。それに先程、先行していた少女が探し終えた地点を教えてくれた。そこ以外を徹底的に探せば、見つけられる筈だ。
「ええ、まず懸案のご捜索でございますね」
「そうですね。一刻も早く見つけ出さなければ」
 陸井に頷くシリルーンと沙羅だが、シリルーンの表情が晴れない。その理由が、陸井にはすぐに解った。
 先程、情報を託してくれた少女は他の事件にも助っ人として呼ばれているようで、既に帰還してしまっている。その彼女を除けば、他に先行した仲間たちの気配すら感じられないのだ。探し人の仁科はなおのこと。
 街の雰囲気も寒々しく、時折弱々しく吹く風の音に不安を煽られる。途方に暮れかけるのも、無理のない話だった。
 だから、陸井は努めて平素の穏やかな微笑みを浮かべて、シリルーンへと向けて。
「手探りだけど、まずは探してみよう。立ち止まっていると、色々考えてしまうから。痕跡が残るならまず地面が基本だと思うからね」
「ええ、それにこのような状態の地であれば、生きてる人間であれば十中八九その方でしょうから。諦めなければ必ず見つかる筈です」
 沙羅もまた、励ますように言葉をかけて。
 二人の心遣いを感じたシリルーンの表情が、少しだけ柔らかさを取り戻す。そして今度は、気合を入れ直すようにきりりと引き締め直して。
「はい! 必ずやお助けを」
 妻のその様子に、夫たる陸井も表情を和らげて。
「大丈夫。一個ずつでいいんだ。痕跡を見つけて行こう」
 少しずつでも、見つけていけば、必ず辿り着ける筈だから。
「それじゃあ、空からの目は二人に任せるよ」
「はい。それでは……」
 路地を歩き出す陸井を見送り、シリルーンはゆるりと、緩やかに舞うように、虚空に幾つもの月を描く。
 弧月ははっきりとその場に残り、天へと導く階となった。
「さぁ、どうぞ沙羅さまも」
「ありがとうございますシリルさん、今回も足場お借りします」
 たん、たんと軽やかに。ふたり、駆け上る。
 猟兵として、能力者として、培ってきた技能全て、使えるものはフル稼働して、懸命に探す。戦うだけが彼らではない。行方不明者を探すようなことも、これが初めてではないのだから、経験が生きる。
「!」
 そして、最初に陸井がそれを見つける。
 判断力が鈍ったゆえに、進む内にぶつかった痕跡――不自然に傾いた荷車。
「シリル! 沙羅さん! この辺りかもしれない!」
 上空の二人に合図を送る。
 陸井が見つけた痕跡の近くを、空からも重点的に探し。
「……あれは、血痕?」
 たまたま低空へと降りてきていたシリルーンの目に、壁にほんの僅かに残った赤黒い染みと、砂埃の上から触ったような手形が見つかった。その下には、何かを引きずったような跡も見える。
「ご覧くださいませ!」
 沙羅のために足場を作りつつ、二人を呼び寄せ。
「きっと近いですわ! 早く、少しでも早く!」
 シリルーンの逸る気持ちに、より集中を深めて周囲を探った沙羅が。
(「あれは!」)
 手形と血痕のあった建物、そのふたつ先の廃屋の二階の窓に、動かぬ人影が見える!
 先行した仲間は沙羅たちもよく知る人物だ。そして人影ははっきりとは見えないが、その仲間たちでないことは確かだ。
 で、あれば――あの人影こそが!
「見つけました。あの建物の二階です」
 気配を察知されれば、逃走を試みる可能性もある。沙羅は静かに二人の元へ戻り、仁科を発見したことを伝えた。
「……! 本当に、ようございました……!」
「ああ、まずは一安心……いや、とも言い切れないか。慎重に、けれど急ごう」
 三人、頷き合って廃屋の中へと。
 瓦礫が散見されるが、横に避けられていて、歩くのに不自由はなかった。
 きっと先行した仲間のお陰だろう。それを確信しつつ。
 向き合うべき時が、すぐそこまで迫っている――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『いずれまたどこかで』

POW   :    湿っぽいのは嫌いなので笑顔で送ろう

SPD   :    言葉に想いを込めるのが大事だと思う

WIZ   :    祈りを…ただそれしか出来ないから

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「――おい」
「! ……何故、」
 御衣黄の声に、仁科が目を丸める。
 猟兵たちが仁科を囲む。その奥に、御衣黄が腕を組み、小鳥遊も溜息を吐いていた。
 起伏は少ないが、驚いている表情だ。その額には、まだ赤い擦り傷が出来ている。鼻血は辛うじて止まっているようだ。
 窓から仁科が身を投げ逃走を図ることを懸念していた者もいたが、そのような素振りは見せなかった。そのような体力気力がもう残っていないのだろう。
「何故はこっちの台詞だ。何を馬鹿なことをしている」
 怒気を孕んだ御衣黄の言葉。
 こういう時に場をとりなしそうな小鳥遊も、言うに任せていた。仁科自身も小さく項垂れ、その言葉を甘んじて受け入れているように見える。
「……二年前の件と、関係があるんだろ」
 踏み込みすぎるような、小鳥遊の言葉。
 だが、彼らの関係は、そういうものなのかも知れない。踏み込みにくいところにも踏み込めるような、そんなことでは壊れてしまわないような。
「俺らだけじゃない。ここにいる皆、自分の意思でお前を助けようと集まってくれたんだ。説明する道理くらいあるんじゃねぇのか」
 話したくないことだとしてもな――と。
 仁科は、暫く押し黙っていたが、やがて口を開いた。
「……駄目だった。どうしようもなかったんだ」
 その声が、彼には珍しく、震えていた。
「あの日。俺たち學徒兵は、誰もが己の力不足を痛感していた。民間人に被害を出し、影朧も討つことしか叶わなかった。出来る限りのことはした……だが、そんなことは言い訳にもならない」
 だから誰も、あの日言葉を発せなかった。
 励まし合っても、慰め合っても、何が解決するわけでもないと、皆が思っていたから。
 その事実から目を逸らしてはいけないのだと、そう信じていたから。
「月日が流れ、あの日が近づく度に、悪夢を見る」
 どうして、助けてくれなかったの。どうして、お前の方が生きているの。
 お前がちゃんとやっていれば。お前が代わりに死んでいれば。
 どうして。お前が。
「責め苛む声が、止まない――」
 その時、初めて。
 仁科が、助けを求めるような目を向けた。
「……俺は、」
 涙は流さず、|慟哭《な》いていた。

「気休めでもいい、誰かに許されたかった!!」

 お前のせいじゃない。
 ただ一言、そう言われたかった。
 力不足は変わらない。事実は変わりようがない。
 それを正しく、理解していても。
「全てを背負う必要なんてないんだと、誰かに言って貰いたかった……っ!」
 だが。
 他でもない仁科自信が知っている。それは。
「……許されないことだ」
 だから、言えなかった。
 言わねば伝わらないと、解っていながら。
 求めることなど、許されるわけがなかったから。
 今も――『助けてくれ』と。
 その一言が、言えない。
シリルーン・アーンスランド
【護】

影朧のオイタの時に
お三方さまをお見かけした事がございます
楽し気なご様子覚えておりますわ
近くお寄りでき嬉しゅうございますが
横言を申す暇はございませんね

火急にて目礼のみで近づき
水を手巾に浸しお顔を拭い水筒をお口許へ
「喉もお乾きであられましょう…?」

怪訝なお顔には
遠目の邂逅と神臣さま葛城さまの知己である旨
丁寧にお話致します
「夫と姉に等しき方とお探しに参りました」

「わたくし共の大切な方々がお心掛けられる方を、
お探しお助けするのは当然でございますわ」
にこにこ笑顔で

お話は傾聴しお苦しそうなら汗をぬぐうなどして
お心平らかにお保ちになれますようお心配り致します

落ち着いて頂けたら良いのでございますけれど…


凶月・陸井
【護】

俺としては以前の依頼の時に見かけた程度の縁だけど
袖振り合うもなんとやら、だよな

それに何よりも相棒と友人が真っ青になって探す相手で
そんな相手を俺が大切に思わない訳がない
シリルが水を飲ませる手伝いをしながら俺も声をかけるよ
「本当に、見つけられてよかったよ」

そこからは希望を見出せるように、か
きっと一番重要な言葉を伝えるのは俺の仕事じゃない
その言葉が、彼に届くようにするのが俺の仕事だ
「シリルの説明の通りで…大事な妻と、旧くからの俺達の友人だよ」
「そして、俺達は…仁科さんと同じだよ。戦い続けてきた仲間達だ」

安心して言葉が交わせるよう
軽く話して心を解して
俺達がすべきは此処まで
あとは信じる相棒へ託すよ


神塚・沙羅
【護】
初対面の方たちには軽く会釈をし、
先輩達と長いお付き合いである旨を伝え
彼の言葉を、受け止め

嗚呼、矢張り、この人は

過去とその帰結に、縛られているように、私には見えてしまった
留め置いた過去と力に縛られている私と、似て非なる

謂えない
癒えない
当然でしょう

自分で自分を、自分の心を、傷つけ続けてる
忘れない為に
其れを耐えられるのは、恐らく生命の埒外であっても僅か
そうではない者であれば、猶の事

断罪が欲しければ、それも結構です
ですが
貴方が姿を消したことを知り、探していた人が
其処から連鎖して、その人たちにも貴方にも手を差し伸べた人が、此処にいます
お節介と、言うかもしれません
でも、彼等はそういう人たちなのです




(「嗚呼、」)
 力なく俯いた、仁科を前に。
(「矢張り、この人は」)
 神塚・沙羅(優しき闇の紡ぎ手・f35281)は、苦い思いでそれを見据えた。
 彼の言葉を聞いて、受け止めて、過去とその帰結に、縛られているように、沙羅には見えてしまった。
(「留め置いた過去と力に縛られている私と、似て非なる――」)
 抱えるものが違えば、苦しむ理由も違う。だが、苦しんでいるという事実だけは、確かに理解出来るから。
「俺としては以前の依頼の時に見かけた程度の縁だけど
袖振り合うもなんとやら、だよな」
「ええ、影朧のオイタの時にお三方さまをお見かけした事がございます。楽し気なご様子、覚えておりますわ」
 凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)とシリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は、直に仁科と、その仲間と言葉を交わしたことはない。だが、知らない相手でもない。
「それに……何よりも相棒と友人が真っ青になって探す相手で、そんな相手を俺が大切に思わない訳がない」
 彼らが助けたいと願う人物ならば、手を差し伸べない理由は陸井にはなかった。
 三人は、仁科を刺激しないよう気をつけながら、彼に歩み寄る。
「近くお寄りでき嬉しゅうございますが、横言を申す暇はございませんね」
 シリルーンはひとつ目礼し、水に浸した手巾で仁科の顔を拭い、水筒をその口許へ運んだ。
「喉もお乾きであられましょう……?」
「……」
 仁科が抵抗しないのを見て、陸井もその背を支えながら、安心させるように声をかける。
「本当に、見つけられてよかったよ」
 こくり、と仁科の喉元が動くのを確認して、沙羅もひとつ息を吐いた。
「……貴方方は」
 仁科が問えば、シリルーンは彼らのよく知る二人の知己であると告げてから。
「夫と、姉に等しき方とお探しに参りました」
 ふわり、優しく笑うシリルーンの隣、陸井もまた、穏やかな笑みでその心を解す。
「ああ、シリルの説明の通りで……大事な妻と、旧くからの俺達の友人だよ」
 そして、今はまだ掛ける言葉を選んでいる『彼ら』も。
(「きっと、一番重要な言葉を伝えるのは俺の仕事じゃない」)
 陸井は振り返らない。
 だが、背後に確かに彼らの存在を感じている。
 希望を見出せるように――出来るとしたら。そう、陸井は考えて。
(「その言葉が、彼に届くようにするのが俺の仕事だ」)
 だから今、陸井がかけるべき言葉は。
「そして、俺達は……仁科さんと同じだよ。戦い続けてきた仲間達だ」
 繋ぐ言葉を。
 続く彼らが、思うまま話せるように。
「わたくし共の大切な方々がお心掛けられる方を、お探しお助けするのは当然でございますわ」
 仁科の汗を拭いながら、シリルーンも笑みを深める。
 そして、沙羅は彼と視線を合わせて。
「謂えない、癒えない」
 仁科が、はっとした顔をする。
 その顔に、諭すように語る。
「そんなの、当然でしょう」
 責任から、逃げていないからこそ。
(「この人は、自分で自分を、自分の心を、傷つけ続けてる」)
 何故か?
 忘れないためだ。
 背負ったものを、忘れないために。
 自分で自分を、許さないために。
 仁科を許さないのは、結局のところ、仁科自身なのだ。
(「其れを耐えられるのは、恐らく生命の埒外であっても僅か。そうではない者であれば、猶の事」)
 だから、沙羅は敢えて言おう。
「断罪が欲しければ、それも結構です。ですが」
 今は見守っている、彼らが。
「貴方が姿を消したことを知り、探していた人が。其処から連鎖して、その人たちにも貴方にも手を差し伸べた人が、此処にいます」
 彼らの思いを、無駄にはしたくない。
 それは、仁科も同じ気持ちの筈だと信じて。
「お節介と、言うかもしれません。でも、彼等はそういう人たちなのです」
 陸井と、シリルーンも頷く。
 後は、仁科にその言葉を聞く気があるかだ。
「……俺は」
 少し躊躇いながら、彼は言う。
「だからこそ、彼らを巻き込みたくはなかった……」
 けれど、彼のそれゆえの行動こそが、今を招いている。
 だから仁科は、今を受け入れなければならない。
「……話します。彼らと」
 その言葉を聞けて、三人共が安堵に表情を和らげた。
「……お心、平らかにお保ちになれますでしょうか」
「ああ、きっと大丈夫だ。これなら、安心して言葉を交わせるだろう」
 シリルーンと陸井が、ひそりと交わし合う。
「落ち着いて頂けたら、何よりでございます。……お手をお貸しいたしましょうか」
「いえ。お気遣い感謝いたします」
 よろめきながらも、仁科は立ち上がる。
 陸井は道を譲るように、横合いへと逸れた。
(「俺達がすべきは此処まで。あとは信じる相棒へ託すよ、――さぁ、」)
 行ってこい、相棒。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
葛城さん(f35294)と

見付かって良かった、です
お怪我をなさっている様子ですから
まずは一言断りを入れてから
桜灯籠で仁科さんの傷を治療します
拒否された場合は、無理強いはしません

仁科さんがある程度まで落ち着かれたら
目線を合わせてお話します

仁科さんは、許されたかったのですね
私は、自分のせいで人が死んだ事があります
大好きなひとでした
私は、許されたくなかった
どうして私じゃなかったんだろうって
どうしてあの時動けなかったんだろうって
泣く事も叫ぶ事も
自分の罪を軽くする気がして許せませんでした
それを許せるようになったのは
私の事を必要だって
大切だって言ってくれる人がいたからです
罪の意識は消えなくても
生きていたいって思えるようになったんです

仁科さんにも
小鳥遊さんと御衣黄様がいらっしゃいますよね
お二人とも、仁科さんの事を
とても大切に思ってらっしゃいます
だから、自分ではなくお二人のために
自分で自分を傷付けるのは止めませんか

小鳥遊さんも御衣黄様も
仁科さんにお伝えしたい事があるのでしたら
言葉にして伝えてあげて下さい


葛城・時人
神臣(f35429)と

影朧は御衣黄が桔梗を許して神臣が転生させたの視て
すがりついた先が慚愧持つ仁科だったかもって
ふと、思った
けどこれは後の話だね
先ずは仁科の心を解さなきゃ

今でも解る事はある
俺が三人に会ったのはたった二回
けど信頼し合ってるってちゃんと知ってるから

誰に言われても多分ホントには納得して貰えない
俺は御衣黄と小鳥遊に繋ぐのが役目だ
口下手でも
劇薬かも知れなくても

「仁科。俺もね、人を死なせてるよ…何人もね」
家族を護れなかった、依頼で人が、死んだ
「それは、事実だ」
強敵を討ち漏らし野に放ってしまった事もある
どれも思い出すと胸が痛い

「でもだからこそ往くんだよ」
勿論等価じゃない
亡くしたものは戻らない
でも往かないとその先でもっと失うから

「それと、ね」

振り返る
仁科にも見えるはずだ
「紹介するよ。俺達の仲間。助けてって俺が、言った」
独りで戦う必要は無いんだ
助けを求めて良いんだと

「あ、御衣黄と小鳥遊も俺達が呼んだよー」
当たり前の笑顔で
「だって御衣黄と小鳥遊は仁科の仲間じゃん?」

だから言って良いんだよ、と




 ふらふらと歩む仁科へと、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)と葛城・時人(光望護花・f35294)も歩み寄る。
「見付かって良かった、です」
 薙人は安堵したように溜息ひとつ小さく吐いて、失礼しますと幻の灯籠を掲げる。
 光のように零れ落ちた桜の花弁が、仁科の周囲を包み込むとその傷を瞬く間に癒した。時人は今は静かにそれを見守っている。
(「影朧のすがりついた先が、慚愧持つ仁科だったのは……」)
 御衣黄を護り、彼女を恨んだ影朧を救ったあの日のことを思い出した。
 そんな超弩級戦力の存在を知ったゆえかも知れないと、ふと時人の頭を過ぎったものの。
(「これは後の話だね」)
 まずは、目の前の仁科を。
「……お見苦しいところを」
 ぼろぼろの姿と、取り乱した醜態に、仁科は深く恥じ入っているらしかった。
 ただ、それでも、彼の表情が晴れないから。
「仁科さんは、許されたかったのですね」
 薙人は仁科と目線を合わせ、ぽつりぽつりと語り出す。
 今なら、きっと仁科に声は届く、そう信じて。
「私は、自分のせいで人が死んだ事があります。大好きなひとでした」
 本当に、心から大切で。
 だが、それゆえに。
「私は、許されたくなかった」
 永遠に、苦しみを背負うことになったとしても。
 いや、永遠に苦しむことになるからこそ。
 それを己への罰として。
「どうして私じゃなかったんだろうって、どうしてあの時動けなかったんだろうって。……泣く事も叫ぶ事も、自分の罪を軽くする気がして許せませんでした」
 苦しみから、逃れたかった仁科。
 苦しみから、逃れたくなかった薙人。
 相反する筈の二人――だが、確かに共通していることが、ひとつだけある。
「それを許せるようになったのは、私の事を必要だって……大切だって言ってくれる人がいたからです」
 薙人も、仁科も。
 自分では、自分を許せなかったのだ。
 彼らを許せるのは、自分自身ではなかったのだ。
「だから、罪の意識は消えなくても……生きていたいって思えるようになったんです」
 苦しみながらも、許せなくても、許してくれる誰かがいるから生きていける。
 許してくれる誰かなら、仁科にだって、いるじゃないか。
(「俺が仁科たち三人に会ったのはたった二回。けど、信頼し合ってるってちゃんと知ってるから」)
 それは、今の時人たちにも解る。
 だから、彼の心は決まってる。
「仁科。俺もね、人を死なせてるよ……何人もね」
 家族を護れなかった。
 依頼で人が、死んだ。
「それは、事実だ」
 強敵を討ち漏らし、野に放ってしまったことだって。
 どれも思い出すと今なお胸が痛み、けれど目を逸らすことの出来ない、事実。
「でも、だからこそ往くんだよ」
 往けば必ず報われるとは限らない。
 亡くしたものも戻らない。
 けれど往かねば、その先でもっと失うから。
 後悔の数を重ねないためにも、前に進むのだ。
 だが、時には一人で歩くのが辛い時もある。
 けれど、辛さを和らげる方法だってある。
「それと、ね」
 時人が振り返る。
 薙人も振り返る。
 仁科が顔を上げた。
 そこにいるのは誰だ?
(「今の仁科はきっと、誰に言われても多分ホントには納得して貰えない。だから俺は――」)
 口下手でも、劇薬になり得ても、それでも繋ぐのが、役目だ。
 彼らに。
「仁科さんにも、小鳥遊さんと御衣黄様がいらっしゃいますよね」
 誰よりも信頼出来る筈の友が、仁科にはいる。
 それを、薙人たちも知っている。
「お二人とも、仁科さんの事をとても大切に思ってらっしゃいます」
 そうでなければ、ここには来ない。
「だから、自分ではなくお二人のために……自分で自分を傷付けるのは止めませんか」
 自分で自分を許せなくとも。
 信じてくれる、友のために。
「それに……紹介するよ。俺達の仲間。助けてって俺が、言った」
 先に仁科へと声をかけた、時人たちの仲間。
 時人が助けを呼んだから、彼らは集ってくれた。
 独りで戦う必要など、本当はないのだ。辛い時、苦しい時は、助けを求めていいのだと。
「あ、御衣黄と小鳥遊も俺達が呼んだよー」
 まるで当たり前だと言うように、笑顔で告げて。
「だって御衣黄と小鳥遊は仁科の仲間じゃん?」
 二人になら、仁科だって頼れる筈だ。
 そう、確信して。
「ね。だから言って良いんだよ」
 促され、仁科は何か言いかけて、口籠った。
「……俺は……」
 踏ん切りがつかない仁科――ではなく、薙人は御衣黄と小鳥遊へと声をかけ。
「小鳥遊さんも、御衣黄様も」
 お互い信じ合っていても、全てを理解し合うのは不可能に近いことだから。
 だからこそ、言葉にして伝え合うことも、時には必要なのだと。
 ありきたりかも知れないが、それは真理だからこそだろう。
「仁科さんにお伝えしたい事があるのでしたら、言葉にして伝えてあげて下さい」
 そうして。
 初めに口を開いたのは、御衣黄だった。
「仁科」
 はっと彼女を見る仁科。
 御衣黄はやはり不機嫌そうな顔をしていたが、はっきりと、しかし先程より幾分か落ち着いた声音で、続けた。
「僕は、人の気持ちを察するなんて器用な真似は出来ない」
「ぶっちゃけたなお前。知ってたけど」
 生温い眼差しを向ける小鳥遊のことは気にも留めず、御衣黄は言葉を紡ぐ。
 仁科へと、届くまで。
「だから、言え。言われないと僕は解らん」
「………………!」
 その言葉には。
 人の子の、多少の願いや我儘――そんなものは、幾らでも受け止めてやるとでも言いたげな、無愛想ではあったが本来の年齢を考えればおかしくないような、そんな包容力が滲み出ていた。
 尤も、彼女の場合それが向けられるのは余程信を置いた人物に限られるのだろうが――仁科なら、充分だろう。
「……ま、俺も事情だけなら知ってたけどさ。実際コレだよ。確信が持てなきゃ動けなかった。だからさ、潰れそうになったらちゃんと俺らに言いな」
 俺ら、そんな簡単に切れるような仲じゃねぇだろ、と。
 小鳥遊のその言葉が、仁科の中の何かを断ち切った。
「……小鳥遊、御衣黄」
 そして、微かに。
 はにかむように。
「すまない。ありがとう」
 笑った。

「助けに来てくれて」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『小日向・桜』

POW   :    私のせいでこんな事になってごめんなさい
攻撃が命中した対象に【良い感じのところでドジる呪い】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【物事が上手くいかない心理的不安】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    珈琲溢したらお皿も飛んでいきますよねごめんなさい
【躓いて溢した珈琲】が命中した対象に対し、高威力高命中の【ソーサー】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    荷物も床も壊しちゃってごめんなさい
【重たい荷物】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。

イラスト:リタ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠カスミ・アナスタシアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 仁科が、希望を持ち直した。
 まさにその瞬間だった。彼の身体が、太陽のように赤く、強く輝き出す。
「……これは……」
 それが如何なるものなのか、仁科には察しがついているらしかった。
 やがて輝きは目を灼くほどに強くなり、その場にいる全員が目を瞑ったその時。
 頭の中に、追体験するような誰かの記憶が、流れ込んできた。


 ――わたしは、とあるお屋敷で|女中《メイド》として働いていました。
 正直、わたしは容量のいい方ではなくて。お食事やお飲み物をひっくり返すなんてことはしょっちゅうでしたし、調度品は壊すわ、庭の花は駄目にするわで……いつ、お払い箱になってもおかしくありませんでした。
 けれど、旦那様も奥様も寛大な方で、こんなわたしでも、笑って許して屋敷に置いてくださいました。
 それは、ありがたくも坊ちゃんがわたしに心を許してくださっていたことも、大きかったと思います。
 女中の中では一番年若かったわたしは、坊ちゃんの遊び相手にもよくなっていました。やっぱりわたしは駆けっこの途中で転んだり、ビー玉やおはじきは明後日の方向に飛ばしてしまっていましたけれど、その度に坊ちゃんは面白おかしそうに笑ってくださるのです。
 恥ずかしかったけれど、坊ちゃんが楽しんでくださるなら、わたしのこの気質も悪くないかなって、思い始めていました。
 ……いえ、仕事に支障をきたすのは勿論直さなきゃとは思ってましたよ! 本当です!
 ただ……結局、駄目でした。
 ある日、わたしは坊ちゃんにいただいた花冠を、うっかり庭の池に落としてしまったのです。
 それを見た坊ちゃんは、迷いなく池へと飛び込んで……そのまま、溺れてしまい……帰らぬ人と……なってしまいました……。
 これには、旦那様も奥様も、激しくお怒りになられました。
 大切なご子息が、わたしのせいで命を落としたのですから、当然です。
 旦那様の憤怒の形相は、今でも忘れられません。
 ただ……わたしを許さなかったのは、旦那様と奥様だけではありませんでした。
 わたし自身が、わたしを許せなかったのです。
 こんなわたしにも、あれだけよくしてくださった坊ちゃんを救えなかった、わたしを。
 せめてもの償いにと自ら命を断ち、こうして影朧の身となってからも、どうしても――。


「……仁科様ぁ……」
 子供のようにべそべそと泣きじゃくり、頬を涙で濡らした少女が、仁科の背後でへたりこんでいた。
「わっ、わたしのせいで……仁科様にも、皆様にも、ご迷惑をお掛けしてぇ……」
 童顔で愛らしい顔立ちは今や、涙でぐしゃぐしゃになってしまってはいたが、だからこそ彼女のその涙が、その言葉が、本心から申し訳ないと思ってのものだと感じ取ることが出来た。
 だが、問題はここからだった。
「本当にっ、申し訳ございませ……っきゃあ!?」
 立ち上がって、仁科や猟兵たちへと歩み寄ろうとした少女――小日向・桜が、突如何もないところで転んだ。
 その瞬間、何故かどこからともなく現れた大量のトレイが激しい勢いで飛び散り、その場にいた全員を襲う!
「危ない!」
 猟兵たちが各々に回避したり、防御したりする中、御衣黄が仁科へと突進して突き飛ばし、更にそれを庇った小鳥遊が腕を強打する。
「……って……」
「あっ、ああっ、ごめんなさっ、ひゃあぁ!!」
 それを見て小鳥遊の方へ向かおうとした桜が、今度は虚空から現れた花瓶を受け取り損ねて叩き割り、その破片が小鳥遊を襲う!
「おっと!」
 今度は回避した小鳥遊だが、御衣黄の堪忍袋の緒が遂に切れた。
「おい! 反省してるんじゃなかったのかお前は!」
「……残念ながら、あれは彼女の意思じゃない」
「は!?」
 仁科が眉を顰めて頭を振る。
 三日も憑依されていたせいか、彼女の性質を理解してしまったようだ。
「あれは言うなれば、ユーベルコヲドが暴発している状態だ。本人の意思とは関係なく、な」
 つまり。
 彼女のドジっ娘気質が、そのままユーベルコヲド化してしまったということか!
「うぇええええ、この後に及んで余計なご迷惑をお掛けしてごめんなさいぃいいいい……」
 本格的に泣き出してしまった桜だが、彼女の影朧としての魂が鎮まり切らぬ内は、猟兵たちはドジと言う名の無差別ユーベルコヲドの猛攻に見舞われることだろう。
「……皆様」
 仁科が、小鳥遊と御衣黄に護られながらも、猟兵たちへと顔を向ける。
「彼女は恐らく、俺のせいで弱っています。討伐自体は容易いでしょう。けれど俺は、彼女の苦しみが少しも軽くならないまま、逝って欲しくはない」
 自分を攻め続け、苦しみ続ける苦しみは、仁科には痛いほど、解るから。
 だから、戦いは避けられずとも、合間にでもいい、彼女にも、声をかけてあげて欲しいと。
 そして、出来ることなら、救って欲しいと。
「厚かましいことは承知しております。ですが、俺を救ってくれた皆様ならと、希望を抱かずにはいられないのです。……どうか、よろしくお願いいたします」
 仁科は深々と、頭を下げた。
夜鳥・藍(サポート)
生まれも育ちもサクラミラージュ。誰かの願いで転生した元影朧。そのため影朧には同情しがち。
それなりの良家の出で言葉遣いは丁寧。だが両親とは違う種族で生まれたのを悩み高等部(高校短大相当)卒業を機に家を出ている。現在は帝都で占い師。

もふもふ大好き。
実家ではいろいろ我慢してたのもあって、飼えなくとも一人暮らし&猟兵となったことで爆発しがち。
猟兵になっていろいろ経験し悩みを乗り越えた。

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭いません。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動は絶対にしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!




「………………」
 影朧――桜がわんわん泣くのに夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)の表情が翳る。
 はっきりとは思い出せないけれど、かつては自分も|影朧《おなじもの》だったと理解している。だから、誰かを傷つけながらも自ら傷ついてしまった彼女の気持ちが、少しだけ解る気がして。
 けれど今はただ、鎮めなければ。
「貴女の『力』が誰かを傷つけなくなるまで、貴女を攻撃します。辛いでしょうが、あと少しだけ耐えてください……!」
 あと少しだけ。
 耐えることが出来れば、きっと救ってあげられる。だから。
「虎王招来!」
 喚べば、気高き白虎の咆哮ひとつ。
 不意に現れ飛んできた荷物ごと、その轟音と風圧で吹き飛ばす!
「きゃ……!」
 ころん、と桜の身体が地べたに転がった。
 それでも、ううう、と小さく嗚咽を漏らしながらも身を起こす。その姿すら歯痒く思う。
 だが、救える筈の相手だ。藍はそう信じる。
(「過去の私に、何があったのかは解らない。けれど、過去の私も確かに救われて、ここにいる筈だから」)
 きっと、救える。救ってみせる。

成功 🔵​🔵​🔴​

氷咲・雪菜(サポート)
 人間のサイキッカー×文豪、16歳の女です。
 普段の口調は「何となく丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、
 独り言は「何となく元気ない(私、あなた、~さん、ね、よ、なの、かしら?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

氷や雪が好きな女の子で、好きな季節は冬。
性格は明るく、フレンドリーで良く人に話しかける。
困っている人は放ってはおけない。
戦闘は主にブリザード・キャノンを使って戦う。
 あとはお任せ。宜しくお願いします!




「過失とは言え、人を一人死なせてしまったんですね……」
 状況は飲み込めた。その上で、氷咲・雪菜(晴天の吹雪・f23461)はもう一度、ちらと桜を一瞥する。
 既に猟兵たちの攻撃を受けている桜は、それでも本人は敵意なく泣いたままでおり、猟兵たちに文句や恨み言を言うこともない。
(「……何だか可哀想ね」)
 桜自身も言う通り、過失であれ息子を失った親子が、その原因たる彼女を恨むなと言われても難しいことだろう。償おうとして償えるものでもない。命はそれほどまでに、重い。
 だからこそ、今も苦しんでいるのだと、理解出来てしまったから。
「とは言え、まだ力は暴走したままですね。だったら……こうです!」
 雪菜に向けて、何処からともなく現れ傾くカップ。注がれた珈琲とソーサーへと、ブリザード・キャノンを向けて。
「絶対零度の氷柱よ、珈琲ごと撃ち抜きなさい!」
 放たれた氷の弾丸がソーサー打ち砕き、熱々の珈琲すらも凍らせる!
「ごめんなさっ、ごめんなさい……っ!」
「構いませんよ。寧ろ全部、私が撃ち落としてあげますから!」
 だから、その心はもう傷つかなくていい。

成功 🔵​🔵​🔴​

凶月・陸井
【護】

立ち直れてよかったけど
最後まで解決しないとだからな
彼女もわざとしてるわけじゃないんだ
きっちり護って、希望に繋げないとな

「あぁ、勿論だ、シリル」
シリルの言葉に答えながら【護の誓い】を使用
「絶対に、全員を護る」と呟いてから変身
妻や仲間達は勿論、彼女を護る為にも

俺は兎に角皆を攻撃から護る事に集中
シリルと舵輪達、沙羅さんと連携し
近いものは近接で、遠いものは撃ち落とす
「任せてくれ」

こういう時の言葉はシリルと沙羅さんの方が向いている
俺は二人に攻撃が行かないように護りながら
「此処に居る皆、君と話がしたいだけだよ、だから安心してくれ」
「きっとその言葉を聞くことが、君のためになるから…大丈夫だよ」


シリルーン・アーンスランド
【護】

慚愧を呵責を昇華出来ぬ限り
転生叶えど心に澱が残りかねませんね

「攻撃は致しません」
陸井さま沙羅さまにそっとお伝えを
「その分、お話を…」

UC舵輪の加護にて舵輪の皆様にお護り頂きます
學徒兵さま方へ暴発が向かいますなら
割り入り叩き落しましょう
「ご安心あそばされませ」

しかと目を見、手も取りお話を
「わたくし、坊ちゃまはお待ちだと思いますの」
きっと自死も影朧になられた事も哀しまれただろうと
断言出来ますわ

「貴女さまは御自分の罪を己が命で贖われ、最早罪など無いのです」
「桜の精の神臣さまがいらっしゃいます。御手にて転生を」
「坊ちゃまもきっとお喜びになると思いますわ」

落ち着かれますまでゆったりと幾度でもお話を




 救援に駆けつけてくれた猟兵たちのお陰で、桜のドジっ娘乱舞も徐々に収まりつつある。
 だが、まだ御衣黄と小鳥遊が仁科を庇ったままでいる程度には、鎮め切ったとは言い難い。
「仁科さんが立ち直れてよかったけど、最後まで解決しないとだからな」
「ええ。慚愧を呵責を昇華出来ぬ限り、転生叶えど心に澱が残りかねませんね」
 やると決めたからには、最後まで。
 凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)もシリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)も、その決意は固い。
(「彼女もわざとしてるわけじゃないんだ」)
 それを陸井も、仲間たちも解っている。
 これ以上、その心が傷つかないように、皆で護ろう。そして、希望に繋げるのだ。仁科にとっても、桜にとっても。
「攻撃は致しません」
 陸井へ、そして仲間たちへ、シリルーンがそっと伝える。
「その分、お話を……」
「あぁ、勿論だ、シリル」
 その願いを汲み取って、陸井は。
「この字に懸けて――絶対に、全員を護る」
 背にはためく護の一文字。
 能力者・陸井の全盛の姿へ。誓いの言葉と共に変じ。
 妻も、仲間たちも、桜の心すらも護るのだと。
「ご安心あそばされませ。皆さまのことも、必ずお護りいたします」
 シリルーンもまた、メガリス『さまよえる舵輪』の力を解放。舵輪に眠る『彼ら』の加護で仲間たちと共に全てを護り抜く構えを。
 仲間とも連携し、飛んでくるソーサーやビー玉、おはじきを叩き落とし、軌道を逸らし。
 その合間を縫って、声をかける。
「わたくし、坊ちゃまはお待ちだと思いますの」
 まっすぐに、シリルーンは桜の潤んだ目を見つめる。
 やはり、敵意も邪気も感じない。綺麗なものだ。
(「きっと自死も、影朧になられた事も……」)
 心は、目には見えない。帰らぬ人となったのならば、尚更だ。だが、想像することは出来る。その想いが強ければ強いほど。だから断言してもいいとすら、シリルーンには思えた。
 桜の仕えた坊ちゃんは、哀しんだだろうと。自分が置いて逝ってしまったがために、傷つき苦しみ、果ては自ら命を絶った、桜の姿を見て。そして今も、影朧として苦しむその姿を見て。
 桜のその手を取ろうと伸ばしたシリルーンの手を、しかし桜の意思にそぐわずおはじきが打とうとするも。
「任せてくれ」
 妻の美しく清らかな手に、傷はつけさせまいと。
 護手を纏った陸井の掌が、叩き落とす。
(「こういう時の言葉は、シリルと沙羅さんの方が向いているからな」)
 ならば、いや、だからこそ自分は。
 彼女たちを――仲間たちを護る。傷つき、言葉が留め置かれることのないように。
「此処に居る皆、君と話がしたいだけだよ、だから安心してくれ」
「わ、わたし……」
「大丈夫だ。きっとその言葉を聞くことが、君のためになるから……大丈夫だよ」
 ゆっくりと、陸井が諭す。
 そして今度こそ、シリルーンは桜の手を取った。
「貴女さまは御自分の罪を己が命で贖われ、最早罪など無いのです」
 自分を責めて、責め抜いて、苦しみ抜いた。心も身体も傷ついて、それでも後悔し続けた。
 もう、充分だろう。
「桜の精の神臣さまがいらっしゃいます。御手にて転生を」
 癒しを得ても、許される筈だ。
「坊ちゃまもきっとお喜びになると思いますわ」
「……坊ちゃん……」
 俯く桜の手に、シリルーンがもう片方の手も重ねる。安心させるように。癒しを願ってよいのだと、伝わるように。
 陸井は言葉なく、けれど静かに穏やかに、見守っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

神塚・沙羅
……これは。
いえ。きっと彼等は「護らなければならないものを結果的に護れなかった事」で共鳴してまったのでしょう。経緯仔細はともかくとして。

であれば……倒す事よりも。
「そうですね……私も、そのように、思います」
シリルさんの言葉に同意して、敢えて戦闘行為という選択を取らずに。
(使ってしまえば、「私」は「私」に転じてしまう。それでは……)
きっと、彼女に届かない。

確かに、その手は届かなかったのかも、しれない。
けれど、死は救いでも責任の手段でもなく、更に私達からすれば、ただ、終わりです。
ですが、今の貴女は、影なる朧な貴女には、まだ道行があるでしょう。
……慕われてた人を心配させては、いけないと思います。




(「……これは」)
 何が出てくるものかと、神塚・沙羅(優しき闇の紡ぎ手・f35281)は身構えていたが。
 こうも悪意も害意もなく、それでも人を傷つける存在が、仁科の中にいたことに少々面食らう。
 しかし、すぐに頭を振って、その理由を理解する。
(「いえ。きっと彼等は『護らなければならないものを結果的に護れなかった事』で共鳴してまったのでしょう」)
 経緯や仔細こそ異なっているが、その共通点が桜を呼び、仁科に呼び寄せられてしまった。お互いに、意図せずして。
(「であれば……倒す事よりも」)
 そう、沙羅が考えると同時。
 同行していた仲間の、攻撃はせず、話をしたいとの言葉。それに沙羅も、頷いて。
「そうですね……私も、そのように、思います」
 彼女と共に、桜へと声を。
 武器も、ユーベルコヲドも今は封じて。
(「使ってしまえば、『私』は『私』に転じてしまう。それでは……」)
 きっと、彼女に届かない。
 だから、言葉だけで。
 否――この、心で。
「確かに、その手は届かなかったのかも、しれない」
 仲間たちからの護りと加護を得て、沙羅もまた言葉を紡ぐ。
「けれど、死は救いでも責任の手段でもなく、更に私達からすれば、ただ、終わりです」
 死んでしまえば、それでおしまい。
 強い想いこそ残りはすれど、それ以上は何もない。
「ですが、今の貴女は、影なる朧な貴女には、まだ道行があるでしょう」
 もしかするとこれは、桜が本当の最後に与えられた、選択の機会なのかも知れない。
 仲間に手を取られ、項垂れた桜の表情は窺い知れないが、きっと言葉は届いていると、そう信じて。
「……慕われてた人を心配させては、いけないと思います」
 それだけは、確かに伝えたくて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
葛城さん(f35294)と

嗚呼、ここにも自分を許せない人がいる…
…それなら
はい、任されました
こちらも笑顔で応じます

真の姿解放
初手で白燐想送歌を使用
武器封じが解除される
もしくはこちらが負傷した際は
その都度再使用します

桜さんの猛攻は全て受け切る覚悟
大丈夫です
私達は超弩級戦力
そう簡単に倒れはしません
それに私は怪我を治せますからね
気にせずぶつけて来て下さい

治療・武器封じの必要が無い場合は
蟲笛で白燐蟲を呼び出し
桜さんの手足にまとわり付いて
動きを阻害するように指示します
ソーサーや荷物が飛んで来た際も
白燐蟲で軌道を逸らすようにします
前兆等あれば声を上げて
葛城さんと情報共有
仁科さん達にもぶつからないよう注意喚起します

攻撃の合間等
少しでもゆとりがあれば声掛け
貴方が自分を許せない気持ちは
私にも少しだけ分かります
私も大切なひとを失くしたから
貴方が貴方を許せないのなら
私が貴方を許します
桜の精ですから
影朧である貴方に対して
それくらいの傲慢は許されると思いたい
願って下さい
次の生を
次の生での幸せを
私は、それを叶えたい


葛城・時人
神臣(f35429)と

ああ…​ソレは消えるものじゃない
俺にもある
新しく生まれるものもある
今この瞬間に
俺が持つのは輝く戦績だけじゃない

俺達の元の世界では君のような存在は倒すしかなかった
けど此処には救いがある
それが出来る友が居る
その機会を逃すことはない

だから俺の仕事はこっち

UC護の誓い詠唱

「力が剣呑すぎるから抑えさせて貰うよ」
真の姿でユーベルコヲドを叩き落とし
特に御衣黄と小鳥遊を護りながら敢えてのんびりと
「君が仁科を救ってくれたって思うんだよね、俺」
悪い子じゃないから憑りついても仁科を害せなかったし
ドジっ子気質のお陰で跡残りまくった事も大きかったかもと

「だからさ、君はね、逆に仁科の命の恩人なんだよ?」
もっと黒く凝った影朧なら
「仁科はとっくに取り込まれてただろう」
凄惨な殺し合いになったかも。だから
「俺達の仲間を助けてくれてありがとう」
と笑顔で

「転生、任せたよ」
神臣に笑顔で告げる
幻朧桜の力を享けた優しい力が
彼女を次の時へ導く

自責が解けたら転生に向かう事が出来る
それが望みだよ
「また会えたら良いね」




「……でっ、でもわたし、やっぱりこのドジのせいで……! ……あ、あれ?」
 意を決したように、桜が顔を上げる。
 許されるなんて、やはり意図せずとも他者を傷つける自分には――そんな顔が、驚きで呆ける。
 やはりどこからともなく現れた大荷物が猟兵たちへと飛ぶが、その荷物はまるで羽根のように軽くふわっと虚空に放物線を描き。
 全盛期の姿を取り戻した葛城・時人(光望護花・f35294)によって、容易く叩き落された。
「……歌が」
「力が剣呑すぎるから、抑えさせて貰ったんだ。ね、神臣」
 歌声は神臣・薙人(落花幻夢・f35429)のもの。
 桜色の目をした、あどけない少年の姿へと変じてはいたが、その少年は確かに薙人だと、誰の目にも明らかだった。
「はい、大丈夫です。私達は超弩級戦力、そう簡単に倒れはしません」
 ふわり、薙人は安心させるように微笑む。
「それに私は怪我を治せますからね。気にせずぶつけて来て下さい」
「俺も、皆のことは護るから。もう君が誰かを傷つけることはないよ」
 時人も、御衣黄ら學徒兵三人組の前に、暴発したユーベルコヲドにすぐに対応出来るよう、庇うように立つ。
「少し、失礼しますね」
 同時、薙人が蟲笛ひとつ鳴らせば、彼の身体から白が零れる。
 風花の如き白燐蟲――残花が、桜の手足にぴたぴたと留まる。
「え、と」
「大丈夫、貴方を害するものではありません。ただちょっと、荷物やソーサーが飛んできた際に、押し留めたりはさせていただきますが……」
 あくまで周囲を護るためで、桜に危害を加えるものではないと。
 だから、力に怯えることも、もうないのだと。
「でも、わたし、わたし……」
 それでも震える桜を前にして。
(「嗚呼、ここにも自分を許せない人がいる……」)
 自責の念には薙人も憶えがある。
 仁科も、自分も――つい先程交わしたばかりの言葉。
(「ああ…​…ソレは消えるものじゃない。俺にもある。新しく生まれるものもある」)
 そしてその傷の深さは、時人にも。
 今この瞬間に自身が持つのは、輝く戦績だけではないと、知っている。その裏に隠れた、幾つもの傷。
 救おう。必ず。
 薙人と時人、同時に視線を合わせた。
 互いの役割を。時人が護り、薙人が救う。
「俺達の元の世界では君のような存在は倒すしかなかった。けど此処には救いがある、それが出来る友が居る」
 救える存在がいるなら、手を差し伸べたい。
 二人共――いや、ここに集った仲間たちがそう思っていた。
 助けを願っていいのだ。仁科だけでなく、桜も。
「それに、君が仁科を救ってくれたって思うんだよね、俺」
「えっ」
 時人の思いもよらなかった言葉に、桜が顔を上げる。
 のんびりと、鷹揚に、時人はそのまま言葉を紡ぐ。彼が思うままに。
「憑りついても、仁科を害せなかっただろ」
「あ……」
 後はドジっ子気質のお陰で跡残りまくった事も大きかったかも――なんて。その言葉だけは、そっと胸の奥にしまったけれど。
(「悪い子じゃないっていうのは確かだ」)
 その事実があればいい。
「だからさ、君はね、逆に仁科の命の恩人なんだよ?」
 仁科の自責に呼応して、もっと黒く凝った影朧がいつ彼に憑いてもおかしくなかったと時人は思う。
 長い間、ずっと一人で抱えていたのだから。
「邪な影朧に囚われていたら、仁科はとっくに取り込まれてただろう」
 そうなれば、桜のように暴走する力を抑え込むだけでは済まなかったかも知れない。
 最悪、影朧を手にかけなければならなかったかも知れない。その時は、仁科も諸共に。
 だから。
「俺達の仲間を助けてくれてありがとう」
 笑顔で告げる。惜しみなく。
 飾らない、嘘偽りのない本心からの感謝なのだと、桜に伝わるように。
「う……」
 ぽろり、桜の涙が誇り被った床へと落ちる。
 しかしその涙の理由は恐らく、変わりつつある。
「私からも、よろしいですか」
 薙人が改めて、桜と目線を合わせる。
「貴方が自分を許せない気持ちは、私にも少しだけ分かります」
 私も、大切なひとを失くしたから――と。
 大切で、とても大切で、守れなかった、生き延びてしまった自分を、どうしたって自分では許せなくなるほどに。
 そして、そんな自分を許せるようになったのは――そう。
「貴方が貴方を許せないのなら、私が貴方を許します」
 自責の念すら受け入れて、許してくれる誰かの存在があったから。
 それに、薙人は。
「桜の精ですから」
 影朧を鎮め、許し、癒し、転生の輪へと導く存在。
 唯一、影朧を真の意味で救える存在の一人だから。
「影朧である貴方に対して、それくらいの傲慢は許されると思いたい」
 救われて欲しい、救われて欲しい。
 そう、願うのは我儘だろうか?
 だとしても、構わない。
「願って下さい。次の生を、次の生での幸せを」
 救われたいと、願ってくれるのならば。
「私は、それを叶えたい」
 それが、桜の精としての、薙人の願い。
 後は、答えを待つだけ。
 暫しの沈黙、後に。
「……わたし……」
「はい」
「……もう一度、生きたい。やり直したい……!」
 今度は、もう二度と後悔しないように。
 強く願えば、叶うと信じて。
 ここに、少女は許された。


「転生、任せたよ」
「はい、任されました」
 笑顔には、笑顔を。
 時人は見送り、薙人は今一度向き直る。
 花が舞う。幻朧桜の力を享けた優しい力が、彼女を次の時へと導いていく。
「また会えたら良いね」
「はい……!」
 桜の自責は解け、友の手で転生へ向かう。
 時人は、笑顔で見届けた。
 ――その、少し後ろで。
「お前も少しは救われたか?」
 小鳥遊が、悪戯っぽく口角を上げた。
 勿論、その表情の向かう先は、仁科だ。
「彼女が救われたことと、俺のことは別の話だ。だが、少し安心した」
 桜が最後に涙混じりに見せた笑顔は、本物だったから。
「感謝してもし切れない。……とは言え」
「ま、よくて謹慎処分は確実だろうな」
 仁科が學徒兵の身でありながら、帝都を騒がせたのは事実だ。
「安心しろ。それより酷いことにはならないよう、僕と小鳥遊で何とかしてやる」
「だな。交渉なら得意分野だ、任せろよ」
「……偶には家の力でも使ってやるか」
「何か言ったか御衣黄?」
「いや」

 これは。
 |呵責《かしゃく》に苛まれた男へ与えられた、|仮借《かしゃく》の物語。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年03月02日


挿絵イラスト