第二次聖杯戦争⑬〜【天藍】ジ・アンサー
|天《そら》には抜けるような青空が広がっていた。
乾いた風が虚しく草木をそよがせる小高い丘からは湾が見渡せる。足元に転がるのは砦や城の残骸そして戦いの末に息絶えた兵の骸。
|古戦場《ゆめのあと》と、人は言う。
鎖鎌を弄びながら、拳法着姿の少年はひとつ、またひとつと仮初の幻想空間へ猟兵を引きずり込むための『絶陣』で長土塀青少年交流センター周辺を満たしていった。
「さあ来い、猟兵。この絶陣で僕と同じ思いを味わわせてやるさ」
ひとりで戦い続けた少年は死してなお、変わらぬ宿命の延長線上にいる。ふと死の間際に問われた言葉が今頃になって脳裏を掠めた。
――貴方の今やりたいことは何?
「昔、神将『史・睡藍』にそう訊いた人たちがいた」
指先で眼鏡を引き抜きながら、仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)はシルバーレインにおけるかつての戦いについて語り始める。
敦賀市攻略戦。
12年前の冬のことだ。
現在は同盟関係にある大陸妖狐とまだ敵対していた頃、両者は福井県敦賀市で激突する。結果は銀誓館の勝利に終わり、妖狐側の戦力として戦った当時の神将は全て封神台の崩壊とともに消え去ったのだ。
「オブリビオンとして甦った睡藍は、その時の問いに対する答えを今こそ明確に持っている。即ち自分を弄び利用した『|鴻鈞道人《こうきんどうじん》』への復讐だ。死に物狂いでこの戦場を生き抜き、たとえ叶わずとも雪辱の一撃を果たすこと」
外した眼鏡を置き、弥鶴は試すように猟兵を見た。
「それでも彼を倒すんだね?」
睡藍の、傭兵としての生きざまの縮図がこの天藍十絶陣。
誰にも頼らず己の力だけで戦い抜いた孤独な生涯の有り様が無常なる古戦場の情景となって取り込んだ者の魂を苦しめる。
戦いの先には荒廃しか残らないのだと、古戦場は物言わぬ風景だけで訴えかける。
転がる骸はこれまでの戦いで倒した者の姿に見えることがあるかもしれない。人によっては大切な者が斃れた姿を取ることもあるだろう。
あるいは他の誰でもない、自分自身であるとか。
「絶陣に送り込まれるのはそれぞれ一人ずつ。誰の助けを得ることも不可能な世界で襲い来る『ガンジャ』の群れを退け、生き延びる。それが絶陣を破り、睡藍自身の妖力を削り落とす為の条件だよ」
……ガンジャは自我が破壊されるほどの怒りと復讐心から憤死した人間の末路なのだという。かつて何がやりたいと訊かれても答えられなかった睡藍が|鴻鈞道人《こうきんどうじん》への怒りによってそれを得たというのは実に皮肉なことだ。
「かわいそうにね」
弥鶴の呟きは誰の何に対する同情であったのか。
それ以上の説明はなく、グリモアが睡藍の待つ金沢市へ直通する道を開いた。
ツヅキ
プレイングを送れる間は常時受付中です。
執筆のタイミングによっては早めに締め切られる場合があります。
●第1章
神将『史・睡藍』の絶陣が創り出す仮想の古戦場にて、『ガンジャ』の集団が迎え撃ちます。猟兵はそれぞれ別個へ戦場へ飛ばされ、自分以外の何者をも頼ることはできません。
誰の助けも借りず、かりそめの戦場を生き延びることがプレイングボーナスです。
第1章 集団戦
『ガンジャ』
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POW : 復讐の炎弾
【復讐の弾丸】が命中した対象を燃やす。放たれた【復讐心の具現化した】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 復讐の嵐
【拳銃】から、戦場全体に「敵味方を識別する【無数の「復讐の弾丸」】」を放ち、ダメージと【狂乱】の状態異常を与える。
WIZ : ガンジャバレット
【銃口】を向けた対象に、【四丁の拳銃からの弾丸】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:青柳アキラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
村崎・ゆかり
天藍十絶陣ね。だけどあたしも、|十絶陣を使える《・・・・・・》のよ。
街中と違って気にする物が無いから、かえって楽だわ。
「全力魔法」風化の「属性攻撃」「範囲攻撃」「仙術」「道術」で紅砂陣!
この戦場全ての無機物を紅い砂に変え、自在に操る。
時にガンジャの銃撃を阻む砂の盾。時にガンジャを飲み込む流砂の渦。時にガンジャを貫く砂の槍。そして時にガンジャ全てを飲み込む紅砂の大津波。
出し惜しみはしないわ。絶陣使いの誇りにかけて、|この程度《・・・・》の術式に負けるわけにはいかない。
攻防一体の紅砂陣が、ちゃちな絶陣を塗りつぶし越えていく。
銃撃の音が鬱陶しいわね。あなたたち、早く紅砂の底へ沈んでよ。さあ、早く。
「ふうん、|十絶陣を使える《・・・・・・》この私の土俵で戦おうっていうのね。なるほど受けて立ちましょう」
村崎・ゆかり(“紫蘭パープリッシュ・オーキッド”/黒鴉遣い・f01658)にとってはむしろこういう場所の方が好都合だ。
なぜなら、街中と違って気にする物が何もないから。
「つまり、遠慮なく全力で、なりふり構わず、めいっぱいの範囲を巻き込んで陰陽師としての力を使えるってわけ!」
――紅砂陣。
それはこの戦場全ての無機物を紅い砂に変え、自在に操るという道術である。この技にかかれば元の場所が何であったか、何があったかなどまるで関係がなくなる。
全ては紅い砂に。
亡骸も、廃墟も、風すらも――。
「ッ!!」
どこからか集結するガンジャの銃弾は砂の盾に阻まれた。
「ほら、ね?」
いつしか足下は流砂に呑まれ、まるで蟻地獄。
「さあ、貫きなさい!」
ゆかりの前では紅砂はあらゆる武具と化して敵を屠るのだ。砂が寄り集まって槍の形になる。貫かれたガンジャが斃れ、紅砂の大津波に呑まれゆく。
天藍十絶陣はゆかりの紅砂陣に塗り替えられ、青から赤へとその色彩を変えてしまった。
「なんて、ちゃち」
|この程度《・・・・》の術式に負けるなんてゆかりの陣使いたる誇りが許すわけにいかないのだ。
しかもこの紅砂陣は攻防一体。
つまり、隙はない。ガンジャが攻めれば守り、守りに入れば攻める。復讐に囚われ、我を忘れた相手にとっては非常にやりづらい戦い方であることは間違いなかった。
「ああ、鬱陶しい」
ゆかりは風に乱された髪を耳にかけ、さらに激しく紅砂を舞わせる。全部、全部、砂の下に埋もれさせてあげるから。
「早く紅砂の底へ沈んでよ。さあ、早く……ね」
大成功
🔵🔵🔵
レモン・セノサキ
連携・アドリブ◎
ああ、ゴロゴロと転がってる
「仕掛鋼糸」の機動練習中に激突死した私
一般人をUDCから庇って死んだ私
偽神細胞液の過剰投与で死んだ私
使い潰した顕現体が山の様だ
|知らない異世界《UDCアース》で独りで戦い抜いてきた過去があるからこそ
仲間と共に、この世界に帰還した|現在《イマ》がある
今更こんなもの見せたって、何の前座にもならないぞ
――神将・史睡藍!
"悔恨と誓い"が篭る、真の姿を解放して戦う
怒りと復讐心に囚われた奴に遅れなんか取るもんか
「仕掛鋼糸」と「ジェットシューズ」の▲ロープワーク&▲推力移動を
最大限に生かした高速機動で接近
「Ein」の鎌形態で斬り付け即座に銃形態へ変形、【指定UC】発動
超マヒで動けなくなれば、銃口を向けるどころの騒ぎじゃないもんな
この武器、元はスコップなんだ
「埋葬」してやるよ、怒りを忘れてゆっくり休め
ガンジャの復讐心を▲切断するように鎌形態でトドメを刺したい
どうかこの道が、|紛い者《わたし》なんかじゃなくて
彼と戦い、最期に彼の名を呼んだ能力者達に繋がりますように
「――ああ」
意図せず、レモン・セノサキ(Gun's Magus魔砲使い・f29870)の口から漏れた言葉は感傷的に過ぎたかもしれない。
ゴロゴロと転がるのは、私。
そこの草むらで仰向けに倒れているのが『仕掛鋼糸』の機動練習中に激突死したときで、岩の上から落ちかかっているのは一般人のUDCから庇って死んだとき。
レモンはぼんやりと歩きながら、古戦場に死んでいる自分の亡骸を数えていった。
「ほんと、何回死んだんだろ……」
とっくの昔に忘れたと思ったのに、いざ目の前にするとその時のことが鮮明に思い出されてゆくのが不思議だ。偽神細胞液の過剰投与で死んだ時なんて全身の身体が腐り落ちて大変な有様だったから、きっと後始末も大変だっただろうに。
使い潰された顕現体の山を眺め渡すレモンの頬を風が撫でていった。
「長かったなあ。うん、いろんなことがあった」
知らない異世界での出来事はレモンの中で過去として息づいている。UDCアース。独りで戦い抜いたあの時代があったからこそ、この世界に帰還した現在があるのだと今なら受け止められる。
どんなに辛い体験があったとしてもレモンはそれを忘れるのではなくそれも自分の一部であると認めることにしたのだ。
――だから。
今更こんなものを見せられたところで心が揺らぐことなどあり得ない。そんな可能性はこれっぽっちもない。
「聞いてるか? 何の前座にもならないって言ってるんだ――神将・睡藍!」
真の姿とはその名の通り、猟兵が内包するありのままの本質をさらけ出したもの。レモンにとってのそれは悔恨、誓い……相反すると思うかもしれない。矛盾の塊だ。だってそれが人間だろう。この姿を取ったということはつまり、|全力で《・・・》いくということだ。
怒り?
復讐心?
もしかしたらレモンは少し笑ったのかもしれない。だって彼らの意識は常に他者へ向いているからだ。
そうじゃない。
本当の姿っていうものに他人は関係ないんだ。
|もっと自分自身と向き合わなくちゃいけない《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
ガンジャは一瞬、何が起こったのかわからなかったに違いない。廃墟の柱にぐるぐると巻き付いたのは鋼糸。ジェット噴射で推進するシューズと併用すれば一気に奴らを迂回しながら接近だって可能になる。
撒き散らされる弾丸はレモンの後塵を拝した。その移動速度にまったくついていくことができないのだ。
「『Ein』、出番だぞ」
お返しとばかりにレモンは銃と大鎌の複合可変武器を振るった。まずは長柄に大刃の鎌形態で纏めて薙ぎ払い、お次は銃形態で放つ必殺の|蒼き魔弾《ブルースフィア》。
「うぐぁ……!!」
これまでガンジャが撃ち放ってきた弾丸の数倍……もっとかもしれない。比べ物にならない程の威力を誇る魔弾が稲妻のように爆ぜた。
動けない。
麻痺――愕然と目を見開いたガンジャにレモンが微笑む。
「これ、元はスコップなんだ」
ほら、本質はいつだって目に見えない。
スコップが鎌や銃になるんだから、人もまた色んな可能性を秘めているのだと思っていいだろう?
「なあ、睡藍」
再び鎌形態に戻した『Ein』で埋葬という名の一刀両断を成したレモンは願うのだ。どうかこの道が、|紛い者《わたし》なんかじゃなくて彼と戦い、最期に彼の名を呼んだ能力者達に繋がりますように。
ガンジャが頽れ、砂に倒れる。
「怒りを忘れて、ゆっくり休め」
大成功
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月隠・望月
オブリビオンが何を、どれだけ強く望もうと、それを遂げさせるわけにはいかない。ましてや、死してから遂げられる復讐など、ありはしない。
単独で戦うのなら、攻撃と防御両方に使えるユーベルコードが望ましい。【百剣写刃】で無銘刀を複製し、念力で操ろう。
敵に動きを読まれないよう【斬撃波】も交えつつ、複製した刃で絶えず攻撃しよう。敵は多数、やられる前にやった方がいいだろう。
敵の攻撃に対しては、複製した刃で自分の周りを囲い、加えて【結界術】で結界を張って防御したい。
戦いの先には荒廃しか残らない……としても、戦わなければ骸の海に餐まれるのみ。であれば、躊躇う理由はない。この世界を守るため、戦い抜いてみせよう。
微かに砂を踏む音は月隠・望月(天稟の環・f04188)が絶陣の地に舞い降りたことを知らしめる先触れのようなものだった。
「本当に、わたしだけなんだな」
他の猟兵は他の猟兵で別の絶陣に取り込まれ、そこで戦っているのだろう。それぞれにたったひとりで敵に立ち向かっているのだと思えば、望月は一人であって一人ではないとも言えた。
オブリビオン。
骸の海より染み出す過去の残滓。
それがどれだけ強く望もうが、望月にそれを許すつもりは心のどこを探してもない。まったくもってそんなのは範疇外の選択であった。
それはもはや死した後の幻のようなものだから。
ただでさえ復讐とは何も生み出さないものだ。ましてや、死んでからそれを遂げたところで何になる。
「……なあ、そうだろう。ガンジャとやら?」
――|百剣写刃《ハンドレッド・ブレイド》。
裕に百を越える銘刀の複製を背に従え、自らを取り囲むオブリビオンの群れを見据えた望月は彼女らに引き金を引く暇を与えなかった。
銃の嵐に先んじて迸る剣の舞。
「おっと」
望月は時折、直接斬りかかるのみならず遠くからの斬撃波を交えて敵にその動きを読ませないよう工夫した。
さすがに相手は数が多い。
先に減らさねばこちらが不利になると望月が判断するまで数秒にも満たなかった。既に何人もの仲間を失ってからようやくガンジャの反撃が始まるも。
「――遅い」
とっくの昔に迎撃態勢を終えたた望月の周囲には、結界を纏う刃の壁があった。
戦いとは、最初が最も肝心なのだと修行の最中に幾度仕込まれたか知れない。強さを尊ぶ忍びの里で生まれ育ったことがおそらく望月の性格形成に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。
だから。
戦いの先には荒廃しか残らないのがたとえ事実であったとしても、望月は戦いそのものを否定しない。
戦わず骸の海に餐まれろ、というのは聞けない相談だ。
この身は忍。
戦いに関する天稟を発揮せし、さまざまな戦闘技能を修めた剣豪ゆえの意見と思ってくれても構わない。
「去れ、オブリビオン。世界に牙むく貴様等を倒すのに躊躇う理由がどこにある?」
ゆえに、もしも望月が戦うことを止める日が来るとすればそれは|望月《・・》のような平和が訪れた時のみ。
戦い続ける望月の剣戟は絶陣の無常を払うかのように清冽で、嘘偽りのない音色をしていた。まるで彼女の心映えに呼応するかのように。
大成功
🔵🔵🔵
花嶌・禰々子
……睡藍と同じ思い
望むところよ
燃える幽炎はバス停へ宿して
心にも闘志を燃やし、立ち塞がる敵に武で応える
全力全開ッ!
銃弾も狂乱も跳ね除けて耐えて、只管にバス停で斬り込む
睡藍の心も思いも忘れたりしない
此処の風景すら覚えて進む為に生き残る
此処に来る前、或る魂が睡藍に抱く心を受け取ったの
あたしが魂の案内人である事と同じバス停使いの由縁かしら
『彼』は最期まで睡藍を思い続けて、天藍の空に焦がれた人
運命の糸は繋がった
戦う理由も、睡藍を懐う理由も、それで充分!
ねぇ、睡藍!
此処から声が届かなくたっていい、あたしは約束する
必ず鴻鈞道人に一撃を。いえ、正義の鉄槌を下すわ!
貴方の思いの全てと共に――往きましょう、未来へ
――睡藍。
たとえ聞こえなくとも、その名を呼び続ける。
繋がった運命の糸の先で『彼』がそれを願っているから。
最期まで天藍の空に焦がれ、睡藍を思い続けた人――魂の案内人たる花嶌・禰々子(正義の導き手・f28231)と同じバス停使いの、明るくて元気でひたむきで……自分の信念をまっすぐに睡藍へぶつけたあの人。
「えいッ……!」
両手でしっかりと握った|バス停《如月》を敵にたたきつける禰々子の横顔には純粋な決意があらわれていた。
弾丸の嵐がなんですって?
無常な風景すらも覚えて進む。
生きる、生き残る。
燃える幽炎がその道標になりますように。
心は燃えていた。
禰々子の身体も真っ赤に激しく。
その名は――闘志。
「ねぇ、睡藍!」
返事がなくても構わなかった。
だって、運命の糸は繋がったのだから。
『彼』の魂がずっと抱いていた願い。
――何処かで出会えたら全力で拳を交わそう。
――だから、友達になろう。睡藍。もう一度、今度はお前のそばで。
「ッ……」
知らず、禰々子の頬を一筋の涙が伝い落ちた。
なのになんで、睡藍は|こんなところ《シルバーレイン》にいるのだろう。
『彼』は、睡藍のそばにいけると思って逝ったのに。
そこに睡藍はいなかったんだ。
“彼”はずっと骸の海で戦っていて、ふたりは死の先においても一緒にはなれなかった。
「|おのれ《・・・》、|鴻鈞道人《こうきんどうじん》……!!」
――睡藍。
貴方の生きざまを再現するこの天藍十絶陣の地で、あたしは約束する。
『彼』の魂が睡藍に抱く心を受け取ったこのあたしが約束した。
「待っていなさい、鴻鈞道人。必ず一撃を……いえ、正義の鉄槌を下すわ!」
貴方の思いの全てと共に――往きましょう、未来へ。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊だけれど、たぶん作用で一人な感じ。
第二『静かなる者』霊力使いの武士
一人称:私 冷静沈着
武器:白雪林
ええ、感覚的にも一人ですね。『絶陣』というものは凄いですね…。
ええまあ…オブリビオンへの復讐戦の末が荒廃。そうなるとは、ありえますが。それでも私は戦い続けるのです。
早業で破魔の結界をはり、防御を。当たらないようにしなければ。
そして、氷雪属性を帯びたUCにて攻撃をしましょう。凍りなさい。怒りも復讐はわかりますが、自我が破壊されれば意味はないのです。
…相手を間違わないように。それが、私が悪霊であり続けられる一つなのですから。間違えたら、他の三人に顔をあわせられませんよ。
いつもなら感じる己以外の存在がこの時、馬県・義透(死天山彷徨う四悪霊・f28057)の中から一切が抜け落ちていた。
否、義透ではなくあくまで『静かなる者』と呼ぶべきだろう。
四人で一人の複合型悪魔である以上、全員が揃わねばその名を名乗るのは相応しくないような気がする。
「これが『絶陣』、聞きしに勝る性能ですね……」
瞬時に『静かなる者』の周囲に結界が紡がれる。半瞬遅れで弾丸の嵐が横合いから叩きつけられた。
白雪林を引き分ける『静かなる者』の背後には荒涼とした無常の世界が広がっている。心のどこかで納得はあった。オブリビオンへの復讐戦、その末に待つのはこのような荒廃なのだと――それでも。
「私は戦い続けます」
放たれし矢がガンジャの眉間を貫いて凍り付かせた。射る、貫く、倒す……自我を失い誰彼構わず襲いかかることの無意味さを説くかのように。
「……相手を間違わないように」
それは自分にも言い聞かせる言葉だった。
矢を放つ弦音が乾いた風に乗って響き渡る。どうやら他の三人に顔向けできなくなるような事態は避けられそうであった。
大成功
🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
復讐はいいね!
自分の胸に溜まっていた色々が解消されて、すっきりする。
そんな復讐の手伝いを、以前はよくしてたから、今更止めろとは言いにくいね。
でも、悪いけど、今回は邪魔させてもらうよ。
その復讐はここでやられると正直迷惑なんだよね。
それにガンジャもこれだけ引き連れて。
類友なのかね?
ともかく、金沢は返してもらうよ。
……とは言ったものの、さすがに数が多いね。
しかも、ガンガン撃ってくるし。
ここはUC【ライトニングスピリット 】でゲームチェンジしよう。
これで銃弾は素通りするから、あとは雷撃しながらガンジャを倒して押し通っていこう。
待ってろよ。
果てどなく広がる荒涼の大地にシモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)は相棒の得物である黒檀の槍を突き刺した。
「おのれ……おのれ……ッ」
取り囲むのは銃口を突き付けるガンジャの群れ。
「気持ちはわからないでもないよ! 復讐ってのはさ、心に溜まった檻をすすぐにはもってこいだからね。以前のアタシなら、それを手伝ってやりたいと思ったかもしれない――でもさ」
シモーヌの黒いジャケットに包まれた輪郭が静電気みたいに揺らいだ。超高温を発しつつ、稲妻の両翼が広がる。
――スピリットバード。
サンダーバードとしてのの能力がシモーヌを雷鳥へと変え、自らの槍の柄へと羽搏いて止まった。
今回の復讐についてはそれに賭けるものがあまりにも大きすぎる。荒事が大好きで楽しければいいと思っているシモーヌにも、譲れない一線があるということだ。
「アタシはクルースニク、世界を渡り歩く傭兵さ。金沢は返してもらうよ」
言い終えるが早いか、シモーヌは降り注ぐ弾丸の嵐をその稲妻の翼で飛び抜ける。同属性の雷鳴電撃どころか物理攻撃まで無効化する虎の子だ。
「まったく、どこからこれだけの数のガンジャを集めてきたのやら。類友ってやつか?」
シモーヌは青白く放電する翼を広げ、戦場を飛びながら雷撃を落としていった。乾いた風もこの姿なら味方にできる。
「なぜ、当たらぬ!? ――ぐぁッ」
死角へ回り込み、突撃と放電を繰り返すうちにガンジャは倒れる数の方が増えていった。そのうちに青い空に亀裂が入る。それは絶陣が破られる徴候であり、シモーヌはそこ目がけて飛んだ。
「待ってろよ」
そして帰還する、現実の|戦場《シルバーレイン》へ。
大成功
🔵🔵🔵
御形・菘
妾は過去の因縁とやらを詳しく知らんからのう
ならば、誰かが為さねばならんことを、空気を読まずに妾が担うのもよかろう?
此度は生配信はナシだ
だが例えこの戦いが見られずとも、妾には応援してくれている者たちがいる!
妾は今この瞬間、決して孤独ではない!
当たると分かっているなら、もっとも頑丈な部分で受ける!
左腕で銃弾を防ぎつつ、接近して次々とボコっていこう
何発も当てていったら、いつかどうにかなるなどと楽観せんでくれよ
ノッてきたら、オーラですら銃弾を阻むぞ?
…枯れた世界だと否む気などないとも
誰かの心に、記憶は、そして記録が残ったのだ
孤独に戦い続けた戦士に存分の敬意を払い、妾も全力で戦いを捧げようではないか!
「……例え枯れた世界とて、それが誰かの心に残る記憶であるならば否む気にもならんわな」
御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)、という存在を前にした者はその禍々しさにまず息を呑み、怖じるかそれでも戦うかの二択を迫られることになる。
此度の戦いでは天藍十絶陣によって配信の手段も断たれた状態だ。だが、それがどうしたと菘は普段通りの――いや、それ以上に不敵な笑みを匂わせるのだった。
「なぜならば、既に妾にはたくさんの応援してくれている者たちがいるからだ! 孤独? ――否、この場にいないからといってその存在は消え失せたりはしないのだと心得よ!!」
弾丸などどうってことないと言わんばかりに左腕で受け止め、這うように近付いて拳をぶち当てる。武器ごと吹っ飛んだガンジャを踏み潰し、尾の先をぶん回して背後を取った個体を薙ぎ払った。
「か、怪物か!?」
「ふふふ、数に物を言わせれば勝てるとでも思ったか? それとも弾を当てていればいつか倒せるという希望に縋る気か」
菘は決して無傷なのではない。
銃弾はその身を穿ち、大量の血が流れ出ているにも関わらず……倒れる気配がまるでないのだ。その姿こそが畏怖となってガンジャたちの戦意を挫きにかかる。どれだけ攻撃しても無駄ではないのか、いや、いつかは……しかし……。
「そらッ!!」
「うぐ……」
「ははは、その程度痛くも痒くもないわ!!」
「はぁ、はぁ、くそッ」
無常観の中に取り込もうとする絶陣を菘はむしろ受け入れる。認めよう、敬意を抱こう。孤独な戦士の心に映える記憶の全てを。
ゆえに捧げよう。
どこにも配信されることのない、誰の目にも触れず、今この瞬間にしか存在しない戦いを!
「なッ……」
ゆえに、全力で戦いを挑むと決めた闘気がついに弾丸を触れるより前に跳ね除けた。驚きに立ちすくむガンジャの顔面を砕いて復讐の軛から解き放つ。
大成功
🔵🔵🔵
東・蓮歌
復讐なんて愚行を止める優しさ、ではなく
わたしはわたしのために倒す
恨んでも良いとは、生きる理由になるとは、言わない
孤独な戦場は胸の底が冷える
銀誓館の戦いは、いつも皆が一緒だった
もっと色んな武器を扱えたら、もっと治療が上手ければ、
使役にも戦術にも長けていたらと、一人では及ばぬところに歯噛みする
焼け焦げた自分なんて当たり前なのに
独りで戦い続けられるかは、迷いが迫る
この決意はわたしだけのもの
でも、力を合わせる心強さを、そうして成せたことを知っているから、
仲間と歩むために生き延びるよ
囲まれないよう撃ち払い
うたで押し留め
近接で一体ずつ確実に倒す
…戦場を生き抜こうという、その意志だけで
生きるには充分なのにね
人それぞれに生き方、というものがあって。
それは時に他人とぶつかり合い、泣いたり笑ったり、時には……こうやって命を奪い合ったりすることも、悔しいけれど、ある。
「でもね、あなたに譲れぬ想いがあるようにわたしにも、退けぬ意思があるんだ。だから余計なことは言わないよ。わたしはわたしのために、あなたを倒す。それが、戦うということだと今ならそう思えるから」
東・蓮歌(白焔・f36261)の|うた《・・》にガンジャはそれ以上近寄るのを嫌がる。激しい撃ち合いだった。
荒涼とした世界に響く弾丸の音色はどこまでも苛烈。
ガンジャの炎は哀切なる復讐の炎だ。気を抜けば呑まれそうになる。けれど、蓮歌は大地を踏み締め、不死鳥のそれでもって怯むことなく抗った。
ふとした拍子に、自分が|孤独《ひとり》であることを思い知って胸の一番深いところが冷えゆく感覚に息を呑む。
そういえば、|銀誓館《あの頃》はいつも皆が一緒だった。
今思うと、結構凄いことだと思う。
能力者にしか聞こえない校内放送が事件の発生を教えてくれる。放課後の教室で運命予報士から伝えられる依頼のあらまし。制服姿のまま、詠唱兵器を持って現場へ向かって。
いつも仲間が一緒だった。
数人、時には三十人近い人数で同じ戦場へ向かうこともあったくらいだ。
思い出すと、もっとうまく戦えたらよかったのになと歯噛みするばかり。武器の扱いも、治療の能力も、わたしはまだまだ未熟だったね。
後悔……なんだろうか。
少し違うような気もしている。
そうじゃなくて、もっと前向きな何か。
もっと使役や戦術に長けていたら――そうしたら、届いたものがあったんじゃないかという希望のようなもの。
蓮歌の服を焦がす炎が頬を、指先を、肩を焼いた。
そんなのはどうってことなくて。
焼け焦げた自分は今更当たり前だから、この迷いの原因はそれではなくて。
そうか。
わたしは結構、寂しがり屋だったのかもしれない。
焼かれるのは平気でも、独りで戦い続けることにはこんなに揺れているなんて――そっか。そうだったのか。
「今のわたしは知っている。人と人が力を合わせる力強さ、そうして成せたものたちを。この決意はわたしだけのものだけれど、それは孤独であるわけじゃない。わたしが意思持つことと、皆と一緒にいることは……矛盾しないんだね」
だから、生き延びる。
仲間が待っているから。
この弾丸と炎の嵐を生き抜いてみせる。
ガンジャの囲みが崩れ、次第に後退し始めた。
蓮歌は畳みかける。
一体、また一体と不死鳥で貫いて、確実に。
恨んでも良いとは言えない。
生きる理由になるとも、わたしは言わないから。
「……戦場を生き抜こうという、その意志だけで生きるには充分なのにね」
大成功
🔵🔵🔵
鈴鹿・小春
…センパイが気にしてたなあ、睡藍さん。
未だ戦いに苦しまされてるのは酷すぎる…
まずはこの陣を耐えて、力を証明しないと。
復讐の弾丸の軌道見切り鮫剣で受け流したり一気に走り照準絞らせないようにして直撃を回避。
この空気はどうにも苦手だなあ…一人で戦うのもだけど。
ても負けちゃいられないよ!
できるだけ多くの敵巻き込める位置にダッシュで飛び込みUC起動、生命力吸収しながら纏めて切り裂くよ!
切って癒やし切って癒やし…鮫剣使いの持久力舐めないでよ!
どっかのカースブレイドのTさんみたいに増長はなしで。
僕がやりたい事はこの世界を、大切な人たちを護る事。
その為なら孤独な戦場も乗り越えて見せるよ!
※アドリブ絡み等お任せ
「ままならないことが多すぎるなぁ……」
一度は戦いに敗れ消えていった神将が骸の海で戦い続けていたなんて、その運命の残酷さに鈴鹿・小春(万彩の剣・f36941)も顔をしかめる。
(「……センパイも睡藍さんのこと気にしてたけど、僕だって……」)
天藍十絶陣の内部は取り込んだ者の孤独感を煽り立てることに全ての意味を成している。びゅうびゅうと寂しく吹く風もひび割れた大地に転がる亡骸もあまねくものが語り掛けるのだ。
――お前はひとりだ、と。
ああもう、と小春は振り切るように鮫剣を構え、四方八方から狙う弾丸をその刃で受け流しながら戦場を駆けた。
外れた弾丸が地面を穿つ音、背後を追いかけてくる。
「この空気、苦手な感じだけど……負けちゃいられないからね。勇気を出して、力を証明するよ!」
小春はただ逃げ回っていたわけではなく、できるだけ多くの敵を巻き込める位置を探していたのだ。
「ここだ!」
まず、最初の一体を捕食。
生命力を奪った鮫剣に獰猛な咢が生え、他のガンジャを纏めて屠る範囲攻撃を可能にする。攻撃こそ最大の防御とは言い得て妙だ。
かつて、手に入れたメガリスの強大な力に酔って銀誓館学園の能力者にやられたカースブレイドの“某T”の二の舞いは御免だから。
受けた傷は与えた傷から奪った生命力で埋め合わせ、小春は孤独な戦場を駆け抜ける。世界を守りたい。それが小春のやりたい事だから。敵をひとり倒すごと、大切な人を護ることに繋がるのだという決意を込め、呪剣を振るった。
大成功
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テーオドリヒ・キムラ
土臭い戦い方の方が俺には合ってるんだろうな
ライフルを構えUC発動
魔狼のオーラによる『オーラ防御』によって銃弾の勢いを殺し
防具の守りと雨の回復に頼る
見切りで致命的な場所へのヒットを避ける
弾幕やフェイントで一度には大勢を近寄らせず
弱った敵からスナイプまたはゼロ距離射撃で確実に
だが速射で仕留めていく
倒れてたまるか
これでもラストスタンドの誇りは未だあんだよ!
狂乱への衝動は集中力で
戦場の幻覚は瞬間思考で打ち消して落ち着きを保つ
運命の糸は最後まで会わせちゃくれなかったのが残念だが
テメェの生きた時間を、骸の海の12年の地獄を過去にはしねぇ
この景色と、報告書に書かれてた全てを覚えたまま
鴻鈞道人ぶん殴ってやるよ
ライフルの銀鎖が鳴る。
それは白銀に紺色のラインの入ったテーオドリヒ・キムラ(銀雨の跡を辿りし影狼・f35832)の詠唱ライフル。
呼吸一つで思考を切り替え、眼前の無常に誘う景色を意識から外す。
「いくぜ」
高らかに銃声を打ち鳴らしたのはテーオドリヒの方が僅かに早い。反撃の嵐からその身を守るのは纏うことで防具ともなる魔狼の覇気。勢いを殺された銃弾は表層を掠めど致命傷にはほど遠い。
――それに、この銀色の雨。
発砲と同時に降り注ぐ|銀雨《シルバーレイン》が傷を癒すと同時に乾いた大地を湿らせてゆく。
泥臭い戦いだと本人は言うが、銃口の向きや気配からその軌道を読み急所を外す技術やフェイントはひどく洗練されたものだった。
「く……」
ガンジャは攻めあぐねている。
相手は一人、こちらは多数。
なのにあの弾幕を突破できないとはなんたることか。
「もっと、一度に攻め込まなければ――」
「させるかよ」
すかさず、テーオドリヒは止めの一発をくらわせる。どれが弱っているかは事前に捕捉済。瞬く間に三人を片付けた。
「がッ」
脇腹に突き付ける銃口が弾丸を吐く。
お生憎様、狂い乱れてる暇なんてないんでね。
激しい戦いの最中にあれど、テーオドリヒの思考は常に冴え渡る。倒れてたまるか、と意地でくらいついた。
「ラストスタンドの誇りは未だあんだよ!」
立ち上がれ、何度でも。
ラストスタンド――決して倒れ得ぬ最後の防衛線。
「なぁ、聞こえてんのか? それとも中からだけじゃなくて外からも断絶されちまってるのかこの場所は」
運命の糸、というものはどうして人の思い通りにはいかないものだ。もしもどこかで縁があったならと思い描く未来をかなぐり捨て、テーオドリヒは引き金を引く。
また一体、ガンジャが倒された。
「骸の海の12年。その地獄、その葛藤。長かったか短かったかは知れねえが、俺は忘れないぜ。この景色も――な」
改めて読み返した報告書の一字一句がこの胸に息づいている。
色々な奴らの想いがそこにあった。
友になりたいと願った者、救おうとした者、彼らが伸ばした指先はついに届かなかったが……その先をテーオドリヒはこの拳で受け継ぐと約束しよう。
「|鴻鈞道人《こうきんどうじん》ぶん殴ってやるよ」
大成功
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後月・悠歌
神将――と聞けば懐かしい姿がふと過る
楽しかった、と言いながら消えていった姿を
ただ、眺めるしかなかった
――感傷はあとかな
今はまず、この戦いを乗り切らないとね
奏でるソナタに力を込めて
旋律が織り成すフィールドの効果と
音に乗せた衝撃波と斬撃波で多重の攻撃を
多少の負傷は構わないわ
演奏が高める防御力で耐え抜きましょう
斃れた人々の姿を見るのは心苦しいけれど
それで足を止めはしないわ
私たちはもう知っている
戦いの後に残るものは、ただ荒廃ばかりではないのだと
何度世界が荒れ果てようと
培った絆も、思い出も消えはせず
生命は幾度もその息吹を吹き返すのだと
――だから今も
決して足を止めず、奏でる旋律も止めず
歩み続けるわ
荒廃した世界に鳴り響くフルートの音色は後月・悠歌(月響の奏律・f35338)の奏でるソナタの調べ。
時にゆったりと、時に激しく。
楽章によって異なる表情を見せる旋律はガンジャを吹き飛ばす衝撃波にもなれば、切り裂く斬撃波をともなって敵を翻弄する。連携を乱し、隊列を崩す。
死にゆきながら、――楽しかった。なんて言われてしまったら、どんな顔をすればいいのか分からなくなるじゃない。
銀誓館学園と縁が結ばれた神将は6人。
そのうちの1人だったひとの最後の笑顔はとてもすっきりとしたもので、悠歌は何も言えずにただ見送ることしかできなかったのだけれど。
「……これも感傷、かな。ならいまはそれを忘れて、あなた達に挑みましょうか。ガンジャ、というのね」
頬を掠めた弾丸が一筋の赤い雫を生み落とす。
だが、構わずにフルートを奏で続ける。旋律はいつしか|領域《フィールド》となってガンジャと悠歌を隔てる見えない壁を作りあげた。
ガンジャも容赦なく撃ち込むが、悠歌に深手を負わせることはついに叶わなかった。旋律の守りは幾重にもその身を護り、憤怒と憎悪によって紡がれる弾丸の威力を削ぎ落してしまう。
何も感じないわけではない。
ここには生と死を分かつ戦いの齎すひとつの未来の形があって、その可能性は確かに誰の心にも存在するものだから。
いまも、悠歌の傍には素性の知れない亡骸が物言わぬ姿を晒している。ガンジャの攻撃を躱す際、足下で白骨の砕ける音がした。
だが、悠歌は後ずさることなく、むしろ前へと足を踏み出す。
その先に荒廃以外の結末があることを信じ、いつか生命は必ずその息吹を吹き返すのだと信じて。
「なぜ、止まらぬ……!!」
「答えは簡単よ。私たちはもう知っているから」
「なんだと?」
「知っているの。何度世界が荒れ果てようと、ね」
――絆、だから。
思い出の先に続く今を歩き続ける。
「さあ、そろそろ最終楽章よ。あなた達は眠りにつきなさい。わたし達は歩み続けるわ」
大成功
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