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第二次聖杯戦争⑬〜ホワイトアウト

#シルバーレイン #第二次聖杯戦争 #神将『睡藍』

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#神将『睡藍』


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●『絶陣』
 その空間に、音はない。
 その空間に、色はない。
 氷点下を遥かに下回る極寒の世界。
 乾いた吹雪が周囲を真白に染め上げ、全てを掻き消してゆく。

 ——おのれ……おのれ、『鴻鈞道人《こうきんどうじん》』!
   この戦いを生き延び、必ずお前の元に戻ってやる。
   そして叶わぬまでも、生命と時を弄ぶお前に、雪辱の一撃を……!

『絶陣』を創り出した主人の怨嗟の声でさえ、この空間に響くことは、ない。
 雪狼達は、届く筈のない嘆きに応えたかのように、応、と低く唸り声をあげた。

● 神将『睡藍』〜天藍十絶陣
「来てくれてありがとう。早速説明を始めるね」
 簡潔に挨拶を済ませると、鷹野・つくし(鋏角衆のシルフィード・f38792)は集まった猟兵たちへ向き直る。

「敵の大将は、神将『史・睡藍《し・すいらん》』。かつてメガリス「封神台」より開神され、銀誓館の能力者達と遭遇した神将だよ」
 オブリビオン『史・睡藍』は、長土塀青少年交流センター周辺地域に布陣して猟兵の襲来を待ち受けている。かつての戦い——シルバーレインの際には大陸妖狐のもとで戦っていた彼は、現在は「傭兵」として支援先のオブリビオンに義理を立て、戦っているようだ。
「今回みんなに相手をしてもらうのは、『史・睡藍』本人じゃないんだ」
 睡藍の周囲には、小さな仮想世界「絶陣」が複数展開している。猟兵が彼に近付けば、『絶陣』内……つまり、それぞれに別々の独立した「古の戦場を象るかりそめの世界」へと引きずり込んでしまうのだという。仮に仲間同士で戦いへ赴いたとしても、別々の世界へ飛ばされるため、助け合うことはできない。

「私が視えた『絶陣』のなかは……氷点下を遥かに下回る極寒の世界。常人なら——いいや、猟兵でも苦痛に苛まれる過酷な空間で、ひとりぼっちで戦い抜かなきゃいけないの」

 猟兵の一人と目を合わせたつくしは、思い出しただけで凍えそうだと呟き、ふるりと身を震わせた。
「でも、襲い来る全てを退けて生き延びることができれば、絶陣を脱出すると共に、睡藍自身の妖力を削り落とすことができる。この先、第二次聖杯戦争における大きな一歩になる筈」
 信じてるから。
 最後にそう言って、そっと猟兵たちを送り出すのであった。


TEN
 初めまして、TENと申します。
 第二次聖杯戦争の戦争シナリオをお届けいたします。

 今回は、凍えるような白銀の世界にて、オブリビオン・雪狼を倒していただきます。
 一章で完結する戦争シナリオです。
 早期完結を重視して執筆いたしますので、ご承知おき下さい。

 ●プレイングボーナス
  誰の助けも借りず、かりそめの戦場を生き延びる。
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第1章 集団戦 『雪狼』

POW   :    魔氷の牙
噛み付きが命中した部位を捕食し、【魔氷で動きを鈍らせ、イニシアチブ】を得る。
SPD   :    飛翔雪狼
レベル×5km/hで飛翔しながら、【マヒ効果のある冷気の爪】で「🔵取得数+2回」攻撃する。
WIZ   :    狩りの時間
敵1体を指定する。レベル秒後にレベル×1体の【雪狼の増援】が出現し、指定の敵だけを【包囲し、それまでの戦闘を学習した立ち回り】と【魔氷の牙と爪】で攻撃する。

イラスト:白狼印けい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

桐嶋・水之江
独りなのは別に構わないわ
私は元々単独行動が多いし
それより問題なのは寒さよね
寒いのは嫌いだわ
暑いのも嫌いだけれど

なんて言ってたら狼に囲まれちゃったわ
しかも増殖してるし…
一瞬で袋叩きにされてうぎゃーやられたーもうだめー

とでも言うと思った?
いつからそこに私がいると錯覚してたのかしら
残念だったわね、ダミーデコイよ
囮に群がってる所にメルトフレアを照射
散開するようなら旋回照射するまでよ
ついでに見るからに氷属性っぽいし熱に弱いんじゃない?
照射終了後は焼き払った更地の完成…多少は暖かくなったかしら?
こういう派手なユーベルコードを使えるのって独り身の特権よねぇ
巻き込む心配も無いし、壊しすぎて文句も言われないし



●熱波
「独りなのは別に構わないわ。私は元々単独行動が多いし」
 神将『史・睡藍』の創り出した氷の世界にいち早く辿り着いたのは、桐嶋・水之江(|機巧の魔女《モーラットイーター》・f15226)。
「それより問題なのは寒さよね。寒いのは嫌いだわ、暑いのも嫌いだけれど——」
 柔肌を切り裂く絶対零度の吹雪すら意に介さず、世間話でもするような気安さで、飄々と言ってのける。
 そんな水之江のもとへ、静寂を破る者への罰と言わんばかりに、『雪狼』共が群がっていった。
 次から次へと現れる白い獣に、水之江はあっという間に包囲されてしまう。ある狼は氷の爪を磨ぎ、ある狼は鋭い牙を輝かせ。彼女の影へ一斉に飛びかかって——影は、機械音と共に崩れ落ちた。
「うぎゃーやられたーもうだめー」

「……とでも言うと思った?」
 間の抜けた断末魔に続けて、機巧の魔女はくすくすと嘲った。
「いつからそこに私がいると錯覚してたのかしら? 残念だったわね、ダミーデコイよ」
「グガッ……!?」
 狩った筈のエモノを見失った『雪狼』達が振り向くのと、水之江がユーベルコードを発動し終えるのは、ほぼ同時だった。
「灼熱の波動に焼き尽くされて溶解しなさい、|超極焔溶熱波《メルトフレア》!」
 ——瞬間、膨れ上がった熱波が獣の群れを消し飛ばす。
 なんとか逃れた一部の個体が散り散りになって逃げ惑うのを、水之江は旋回照射で焼き払っていく。
 白銀の世界ならば隠密に役立ったであろう白き毛皮は、焦土の中では格好の的。
 逃げ場など、何処にもなかった。
 
 熱波が総てを焼き払ったのち。獣の唸り声は消え、聴こえるのは土がちりちりと焼ける音のみとなった。
「……多少は暖かくなったかしら?」
 水之江は更地を眺め、自身の戦果に満足げな微笑みを浮かべる。
 他者を巻き込みかねない彼女の大技は、ただ一人で生き抜かねばならない『絶陣』の戦場においては、最適解の一つであったと言えるだろう。
「巻き込む心配も無いし、壊しすぎて文句も言われないし。こういう派手なユーベルコードを使えるのって独り身の特権よねぇ」
 そう独りごちると、『絶陣』から脱出するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●災厄
「此度の戦は単騎での闘争か。ククク、我にとっては都合が良い」
 隔絶された世界の中で、バルザック・グランベルク(嵐帝・f38770)は黒鉄の鎧を低く震わせて笑う。かつて『災厄の王』と畏怖された彼にとって、かの『絶陣』は良き狩場。同胞がいないと成れば被害を気にせず颶風を吹き荒べるというものだ。
 存分に嵐の暴威を振るってやろう——そう目論む黒鉄の巨人は、しかし、吹雪の中を悠然と歩んでいた。彼の選んだ戦略は一網打尽。破壊の力を存分に振るう前に、多くの敵を引きつける必要があった。
 雪狼たちは、突如現れた巨躯がこちらに攻撃を仕掛けてこないと見るや否や、牙に魔氷を纏わせ、次々襲い来る。それらをいなしながら、バルザックはじっと機を待った。一人では捌ききれない数の牙が取り囲み、霜が纏わりつくが、彼に苦痛を与えるにはまるで足りぬ。
 十分な数の雪狼が彼を取り囲み、包囲が完了したその時。それは、嘲笑であったか、これから起こる破壊への悦びであったか——或いはさしたる意味などないのかもしれないが——巨人は再びククと笑うと、|嵐帝暴風圏《デモンズ・ストーム》を発動させた。
 灰色の空に暗雲が混じり、やがて雷雨を伴う黒雲と暴風の嵐が、バルザックを取り囲む軍勢を包み込んだ。
「グガッ……? バウッ!」「ぐるるるるる……」
 雪狼達の視界と機動力は封じられ、轟く雷鳴が獣の唸りさえ覆い隠す。

 ——それからは、あまりに早かった。
 狼狽え動きを止めた狼の首が、一瞬の隙に飛んでいく。
 のろのろと乱れた陣形を戻す集団は、振り回される巨槌に粉砕された。
 潰し、砕き、蹂躙する。たったそれだけの単純な暴虐が、この場の何者にも止められない。
「視界を閉ざされ俊足も奪われた畜生風情に嵐が止められようものか。嵐の暴威と恐怖を知らしめてやろう」

 災厄の王は、すべての敵を徹底的に破壊し尽くし——
 あらゆる生命がいなくなった空間に、嵐の後とも云うべき静けさだけが残った。
バルザック・グランベルク
此度の戦は単騎での闘争か。ククク、我にとっては都合が良い。
同胞がいないと成れば被害を気にせず颶風を吹き荒べるというもの。存分に嵐の暴威を振るってやろう。

敵は獣の軍勢、この極寒の中真面に相手取るのは多少骨だ。故に一網打尽にさせて貰う。
まずは接敵し、獣共が我を取り囲むまで攻撃を去なしながら【継戦能力】や【激痛耐性】で耐える。
十分に敵を惹きつけたところでUCを発動。我を取り囲む軍勢の視界を封じ、機動力を奪う。
後はただ徹底的に潰し、砕き、蹂躙するのみ。視界を閉ざされ俊足も奪われた畜生風情に嵐が止められようものか。
嵐の暴威と恐怖を知らしめてやろう。



●災厄
「此度の戦は単騎での闘争か。ククク、我にとっては都合が良い」
 隔絶された世界の中で、バルザック・グランベルク(嵐帝・f38770)は黒鉄の鎧を低く震わせて笑う。かつて『災厄の王』と畏怖された彼にとって、かの『絶陣』は良き狩場。同胞がいないと成れば被害を気にせず颶風を吹き荒べるというものだ。
 存分に嵐の暴威を振るってやろう——そう目論む黒鉄の巨人は、しかし、吹雪の中を悠然と歩んでいた。彼の選んだ戦略は一網打尽。破壊の力を存分に振るう前に、多くの敵を引きつける必要があった。
 雪狼たちは、突如現れた巨躯がこちらに攻撃を仕掛けてこないと見るや否や、牙に魔氷を纏わせ、次々襲い来る。それらをいなしながら、バルザックはじっと機を待った。一人では捌ききれない数の牙が取り囲み、霜が纏わりつくが、彼に苦痛を与えるにはまるで足りぬ。
 十分な数の雪狼が彼を取り囲み、包囲が完了したその時。それは、嘲笑であったか、これから起こる破壊への悦びであったか——或いはさしたる意味などないのかもしれないが——巨人は再びククと笑うと、嵐帝暴風圏デモンズ・ストームを発動させた。
 灰色の空に暗雲が混じり、やがて雷雨を伴う黒雲と暴風の嵐が、バルザックを取り囲む軍勢を包み込んだ。
「グガッ……? バウッ!」「ぐるるるるる……」
 雪狼達の視界と機動力は封じられ、轟く雷鳴が獣の唸りさえ覆い隠す。

 ——それからは、あまりに早かった。
 狼狽え動きを止めた狼の首が、一瞬の隙に飛んでいく。
 のろのろと乱れた陣形を戻す集団は、振り回される巨槌に粉砕された。
 潰し、砕き、蹂躙する。たったそれだけの単純な暴虐が、この場の何者にも止められない。
「視界を閉ざされ俊足も奪われた畜生風情に嵐が止められようものか。嵐の暴威と恐怖を知らしめてやろう」

 災厄の王は、すべての敵を徹底的に破壊し尽くし——
 あらゆる生命がいなくなった空間に、嵐の後とも云うべき静けさだけが残った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィトレル・ラムビー
スピリット達の気配も感じない。ひとりきりか
まあ力試しには丁度よかろう、我が身が鈍っていないことを証明してやる

体温維持も兼ねて足は極力止めず、追い詰められないよう立ち回る
大斧を短く持ち、飛び掛かってきた奴から反撃で刻む
敵群からの攻めが途切れるタイミングがあれば、リーチを活かした大振りで一体ずつ潰していこう
正直、こういう崖っぷちのひりついた空気は嫌いじゃない

とはいえこちらも無傷とはいかないだろう
魔氷の蓄積等で追い込まれたらUCで突破を図る
ここに居るのが私ひとりだとしても、この身体には父祖の血が流れている
冷えて鈍った身体を力ずくで動かし、敵を一気に薙ぎ払ってやろう

なめるなよ狼ども。私が狩る側だ



●血脈
(「スピリット達の気配も感じない。ひとりきりか」)
 雪原へ降り立ったヴィトレル・ラムビー(斧の狩猟者・f38902)は、自身を取り巻く環境が一変したことをすぐに理解した。助太刀は許されない。それは、スピリット達でも例外ではなかった。
「まあ力試しには丁度よかろう、我が身が鈍っていないことを証明してやる——行くぞ」
 異質な獣の匂いを感じ取ってか、真っ直ぐ突進してくる『雪狼』の群れを、ヴィトレルは長柄の大斧を短く持って迎撃した。氷纏う牙を刃先で受け止め、返す刃で肉を裂く。襲い来る群れが一瞬途切れると、するりと大斧の柄を持ち替えては、大きく振るって一体ずつ叩き潰してゆく。
 急速に奪われていく体温を取り戻すべく、ヴィトレルは立ち塞がる獣を切り刻み、薙ぎ払い、走り続けた。足を止めた先に待つのは、永久なる静止の世界。
 ——正直、こういう崖っぷちのひりついた空気は嫌いじゃない。極限状況でさえ楽しむ彼の身体を、しかし、徐々に蓄積する魔氷は着実に蝕んでいく。飛び掛かる狼へ振るう腕が固く強張るのを感じ——防御姿勢に切り替えるが、間に合わず牙が腕に食い込んだ。

 動作も反射速度も明らかに鈍ってきているのを感じたヴィトレルは、自身のユーベルコードを発動させた。先祖より伝わる力が彼の全身に流れ込んでゆく。
「……ここに居るのが私ひとりだとしても、この身体には父祖の血が流れている」
 身体は冷えきって、大斧を握る手の感触はとうに失われた。けれど、受け継がれし血脈の本能が——|狩猟《いくさ》に沸る血潮の熱さが、まだ闘えるのだと教えてくれる。
 生き残った雪狼たちは、今度こそ凍てつき消耗した獲物を仕留めるべく、じりじりとヴィトレルのもとへ躙り寄ってくる。今なお爛々と目を輝かせる獣を、どこか懐かしげに眺め——ヴィトレルはニィ、と口端を上げた。
「なめるなよ狼ども。私が狩る側だ」
 遥かに強化された膂力を以て、冷えた身体ごと力ずくで薙ぎ払う。
 白銀を裂く大斧の一閃が、最後の群れを両断した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天城・潤
一人で戦うのは辛くないです
猟兵に覚醒する前も、ずっと一人でしたしね
今は仲間に恵まれた身ではありますが
心細くはありません

ただ狩って狩って狩り尽くし勝利するのみ

幸いにして命の埒外となっていますから
何も怖くはありません

凍てつく寒気も寧ろ僕には興味深い
何せ、生まれ育ったダークセイヴァーの
僕が居た辺りには無いものですから

白くなる息を冷たさをどこか楽しみながら
護剣・断罪捕食を起動します

僕が貰った記憶と、僕が憧れたゆるぎない力を育んだ
「この世界の破滅なぞ許しません」

動くものが何一つ無くなるまで止まりません
噛みつかれても技を繰り出されても
断罪の剣が偽りの命を薙ぐ
生命力も補給できますから息切れはない
必ず、勝利を


イスルギ・アイゼン
此処が睡藍の十絶陣
面白いじゃないか、孤独には慣れていた心算だよ

自分の胸に魔鍵を突き刺して守護獣を喚ぶ
そっちが狼なら、僕の心から生まれた狼とどちらが強いか試そう
生憎、これも自分なんだよ

ガンナイフを構えて銃弾と刃で迫りくる獣を撃ち、切り裂く
こう見えて僕も狩猟する者だ。ま、普段はお宝狙いだけどね

元の世界っていう宝を守るために突き進むのみ
ほら、獣達。油断してるとお前の鍵も開けてしまうよ
秘鍵は君達の影も生み出せるのさ

睡藍、か
烈風のような、その生き様……天外の牙
叶うなら共に、鴻鈞道人に立ち向かいたかった
こんな風に望むのは過ぎたことかな

最後は銃弾で打ち貫き、狼の牙で止めを
さて、脱出しようか――本当の世界へ



●記憶
 音もなく、白雪だけが降り注ぐ真っ白な闇の世界。
 永久だと錯覚するような孤独に、常人であれば打ちひしがれるような光景——『絶陣』の中の景色を、天城・潤(未だ御しきれぬ力持て征く・f08073)は見渡す。
(「一人で戦うのは辛くないです。猟兵に覚醒する前も、ずっと一人でしたしね」)
 今は仲間に恵まれた身とはいえ、隔絶された空間に一人放り込まれた程度で心細く感じるようなことはなかった。猟兵である潤は、生命の埒外に在る。何も怖くはない。
 白い地面をそっと踏み締め、歩く。ほう、と小さな息を吐けば、瞬く間に白く凍りついてゆく。凍てつくような寒気の中でもどこか気持ちが弾んでいるのは、このような極寒の環境が、ダークセイヴァーにある、彼の生まれ育った土地には存在しないものだからだろう。
 白銀の世界で起こった出来事——それらすべてを興味深そうに眺めてから。潤は、此方を睨む『雪狼』の大群に向き直った。
 彼の目的は、ひとつ。
「ただ狩って狩って狩り尽くし——勝利するのみ」
 言い放つと、潤はユーベルコードを起動させる。彼の詠唱に呼応して、剣は立ち塞がる凡てを捕食せんと形を変えた。
 |銀の雨降る世界 《シルバーレイン》を見たあの時、潤の人生は再び動き出した。
(「僕が貰った記憶と、僕が憧れたゆるぎない力。それらを育んだ——」)
 受け継いだ記憶と想いを胸に、潤は断罪の剣を構える。
 「この世界の破滅なぞ許しません」
 剣は、過去が模倣した偽りの命を、次々に薙ぎ、食い尽くし、それらの歪な生命力さえ自身のエネルギーに変えてゆく。雪狼たちは剣を止めるため、その主へと必死に飛びかかる。だが、噛みつき、氷の牙で潤の身体を侵食しようとも、動くものが何一つなくなるまで、断罪の剣は止まらない。
「必ず、勝利を」
 それは、この戦場ばかりではなく、第二次聖杯戦争への勝利——或いは、銀の雨降る世界の安寧への願いだったのかもしれない。
 静かな言葉は、彼だけが残る空間に、誓いの如く響き渡った。


●開錠
 孤独と絶望に満ちた仮想世界は、睡藍の心の一片を顕しているのだろうか——。
「此処が睡藍の十絶陣……面白いじゃないか、孤独には慣れていた心算だよ」
 転送先の白銀の世界を見渡して、イスルギ・アイゼン(灰雨・f38910)は微かに笑む。
 相対するは雪の如き毛皮を纏う『雪狼』の群れ。敵は狼、それならば。
「僕の心から生まれた狼と、どちらが強いか試そう」
 誘うように囁いて、イスルギは自らの胸に魔鍵を突き刺した。刹那、真っ白な世界がくるりと廻旋して、やがて狼のかたちをした守護獣が現れる。自らの一部のように連れ歩く相棒さえ等しく拒絶する『絶陣』だが、ユーベルコードで生み出したものであれば話は別。
 彼を護るべく前へ出た守護獣のそばで、イスルギは歯車を携えたガンナイフを構える。それを合図とするかのように、雪狼は吼えて仲間を呼ぶと一斉にイスルギへ襲いかかった。
 迫りくる獣を撃ち、切り裂く。取り囲む獣を刃で両断し、斬撃を恐れた獣が飛び退けば、逃さぬとばかりに弾丸が貫いてゆく。
「こう見えて僕も狩猟する者だ。ま、普段はお宝狙いだけどね」
 トレジャーハンターとして身につけた手腕を、此度は元の世界という宝を守るために振るう。イスルギは銃撃と斬撃を織り交ぜて、手慣れた様子で獣達を追い込んでいった。
「ほら、獣達。油断してるとお前の鍵も開けてしまうよ——秘鍵は君達の影も生み出せるのさ」
 声にほんの少しの悪戯心を乗せながら、飛び掛かってくる獣の喉元へ秘鍵を突き立てる。その傷口から、今度は影の魔狼が生み出され、そのまま雪狼の喉笛を噛みちぎった。
 
「……睡藍、か」
 戦いのさなか。視線は狩る相手から外さぬまま、けれど何処か遠くを見るような目で、イスルギは呟く。雨色の双眸は、すべてを拒絶するような極寒の銀世界を通して——この空間を創り出した主を、そっと見据えていた。神将『史・睡藍』。闘いに生き、かの世界の生徒達と何度も相見え、縁を紡いだ男。烈風のような、その生き様……天外の牙。
「叶うなら共に、鴻鈞道人に立ち向かいたかった。……こんな風に望むのは過ぎたことかな」
 あり得たかもしれない未来のひとつ。骸の海に身を堕とした今では叶わぬ夢だと知りながら、それでも思いを馳せずにはいられない。イスルギはそれらを振り払うようにかぶりを振ると、残り一匹となった狼へ銃口を向けた。
 脚を弾丸に貫かれ、動きを止めた雪狼へ、覆い被さるように守護獣が喰らい付く。耐え切れず、最後の白き獣は消滅した。
「さて、脱出しようか——本当の世界へ」
 イスルギはそう言うと、自らの手で拓いた扉——現実へと繋がる光のなかに、飛び込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月09日


挿絵イラスト