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第二次聖杯戦争⑬〜藍の空が暮れるまで

#シルバーレイン #第二次聖杯戦争 #神将『睡藍』

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#神将『睡藍』


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 そこに在るのは皮肉な現実。非情に配された役割を前に、渇いた笑みが零れる。
「僕は、戦ってきたじゃないか。オブリビオンとして、封神台を操るお前の兵として。骸の海の中で、何度も、何度も。
 それが……この仕打ちか……?」
 応える者はこの場には居ない。義理堅い彼の献身も、報われることはなかったのだろう。彼を縛るしがらみは、死して、また蘇ってなお消えることはないのか。
「おのれ……おのれ『鴻鈞道人』!
 この戦いを生き延び、必ずお前の元に戻ってやる。
 そして叶わぬまでも、生命と時を弄ぶお前に、雪辱の一撃を……!」

 鎖鎌の先で蜻蛉玉が揺れる。怒りに燃えた目で神将は、目の前の敵を、そして彼方で待つ『鴻鈞道人』を睨み付けた。

●尽きぬしがらみ
「奴の名は史・睡藍、かつて大陸妖狐勢力の一員として銀誓館と戦った神将の一人だ」
 手元の資料をめくりながら、高峰・勇人(再発性頭痛・f37719)がそう告げる。シルバーレイン世界で覚醒した猟兵の中にも神将は居るが、成り立ちは同じ。ただし彼の場合は戦争において銀誓館の説得に応じることなく、義理を通して戦い抜き、討たれていた。
「オブリビオンとして蘇った後は傭兵として使われ、支援先のオブリビオンに義理を立て、戦っているようだ」
 どうやらかなり損な性格をしているらしい、と溜息を吐きながら彼は言う。
「奴は戦場のどこかに『小型の疑似封神台』を設置している。それがある限り、睡藍は何度倒れてもその場である程度負傷を回復し、復活してくるだろう」
 動機についてはわからないが、とにかく彼の戦意がそれで衰えることはない。ただし復活時の回復は「ある程度」に留まっているため、何度も何度も倒し続け、負傷を蓄積させればいずれ倒すことも可能だろう。まあ、当然かなりの長期戦を覚悟する必要はあるが……。
「もう一つの方法としては、復活の礎となっている疑似封神台を見つけ出して破壊することだな。それが叶えば、一発で睡藍を殺せるはずだ」
 ただし、疑似封神台の位置は予知されておらず、それの探索も破壊も、睡藍が黙って見過ごしてくれるとは思えない。どちらにせよそう簡単にはいかないだろう。

「オブリビオン化したことで人格にも多少変化が出ているようだが……生前からして説得には応じなかった奴だ。言葉でどうにかなる相手ではないと考えてくれ」
 敵にも何かしら思うところはあるようだが、この戦いは避けられるものではない。
「その頃には俺は引退していたからな、直接会ったことはないんだが……こんな在り方は彼にとっても本意ではないだろう。俺達がこの先に進んでいくためにも、容赦せず、終わらせてやってくれ」
 頼んだぞ、と言い足して、勇人は一同を送り出した。


つじ
 オブリビオンとして蘇った神将『史・睡藍』との戦闘になります。
 立ち塞がる彼を下し、この先へと駒を進めましょう。

●戦場
 長土塀青少年交流センター周辺。絶陣地帯を抜けた先ですので、普通の舗装された市街地になります。
 疑似封神台の位置は不明です。

●プレイングボーナス
 何度でも睡藍と戦い、撃破する/疑似封神台を見つけ出し、破壊する。
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第1章 ボス戦 『神将『史・睡藍』』

POW   :    邪気虎牙紋
攻撃が命中した対象に【白虎の紋様】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【白虎が本物の獣のように肉体を食い破ること】による追加攻撃を与え続ける。
SPD   :    神気絶命旋
【高速で振り回される鎖鎌の分銅】で触れた敵に、【呼気により練り上げられた「気」】による内部破壊ダメージを与える。
WIZ   :    神将従霊群
自身が【詠唱兵器である鎖鎌を振り回して】いる間、レベルm半径内の対象全てに【小妖怪の群れの呪詛】によるダメージか【小妖怪の群れの祝福】による治癒を与え続ける。

イラスト:えの

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ニーニアルーフ・メーベルナッハ
…睡藍さん。
オブリビオンとなって尚、このような…
…いえ、既に理解はしているのでしょうか。
ですが、此処は押し通らせて頂きます…!

白燐奏甲を纏い、睡藍さんと対峙。
彼は恐らく、ユーベルコードを維持するべく距離を取りつつ立ち回ると予想されます。
その動きを潰すように【蟲使い】で蟲達を【誘導弾】として飛ばし、足止めを試みます。
後は、此方のユーベルコードが彼の動きを阻害する不運が起これば尚良し。

距離を詰めたらブレンネン・ナーゲルを以て斬りつけ【焼却】する攻撃を以て接近戦を。
敢えて自分の身体に彼の鎖鎌を絡めさせユーベルコードを封じるのも手でしょうか。

その怒りはいつか、私がかの敵の元へ。
貴方はどうか、安らかに…


烏護・ハル
昔の記録通り、義理堅い人ね。
でも、行かせちゃダメだ。
止めなきゃいけないんだ。

式神さんを多数召喚。
継戦能力を高めるため、魔力を充填し続けてもらう。
痛みや呪詛は結界で和らげ、最悪耐性で何とかする。

UCの狐火を目眩しも兼ねて散開、乱舞させる。
狐火の影から誘導弾化した呪殺弾を彼の腕目掛けて放つ。呪詛もマシマシでね。

厄介な技。……でも、貴方のそれ。
自慢の得物を振り回せなきゃ、どう?

攻勢の隙をついて、彼を四方八方から狐火で包囲。
収束させて焼き尽くす。

……銀誓館の皆が気に掛けたのも分かるなぁ。
狭間で揺れて、苦しんで。
こんなに人間味があって。

……この先に進むのは私たち。
でも、貴方の苦悩は一緒に連れていくから。


紫・藍
封神台は皆々様にお任せして、睡藍のおにーさんを惹きつけちゃうのです!
歌っていれば気が立ってらっしゃるようですしおびき寄せれるのではー?
藍ちゃんくんでっすよー!
この街は既に藍ちゃんくんのライブ会場なのでっしてー。
地の利はこちらにあるのでっすよー?
大規模デバフ相手では群体を率いての持久戦も効果を発揮しづらいのではー?
藍ちゃんくん耐久ライブもお手の物ですよ?
勿論、藍ちゃんくんを無視しても良いでっすがー。
藍ちゃんくんが偶然近づけば疑似封神台も弱体化しちゃうかもでっすよー?
事実はどうあれ踊りながら言いくるめと挑発で釘付けにしちゃうのでっす!
鴻鈞道人を任せてもいいと思えるようなライブをお魅せするのでっす!


猪鹿月・カノ
過去に銀誓館の人たちが倒した相手と戦うことになるって、なんだか不思議なカンジね

神将ってことは絶対強いじゃん
随分と義理堅い性格らしいけど嫌いなヤツのために戦うの疲れそ〜
あたしだったら絶対ヤダ

信念とか、そういうカンジ?
説得しても無駄なんでしょ
じゃあもうやる事は一つしかないじゃん
強い方が勝つ。分かりやすくて良いよね

穿ツ牙「白狼 」を片手に
獣のような聴覚と身のこなし
敵の動きの気配と第六感、戦闘センスによる見切りで攻撃を交わしながら斬り返す

あたしにも信念とか譲れないものがあるから
キミのこと少しだけ分かる気がするの

胸の奥から湧き上がる焔のような熱い想い
それはそのまま灼熱の炎となり
敵を焼き尽くす刃となる



●天藍炎戯
 オブリビオンとは、現世に滲み出した過去であると言われている。それを証明するかのように、ニーニアルーフ・メーベルナッハ(黒き楽園の月・f35280)の前に立ち塞がった彼は、かつてと同じ姿をしていた。
「……睡藍さん」
 敦賀市での決戦にも立った彼女は、この神将の在り様と、その末路も知っていた。だからこそ、やりきれない思いがある。オブリビオンとなって尚、彼は誰かの駒に過ぎないのか。だがその嘆きも、懊悩も、一番強く抱いているのは彼自身だろう、ゆえにニーニアルーフはそれを口に出さず呑み込んだ。
 その様子を横目に見て、猪鹿月・カノ(G.S.FANG・f35770)は「ふぅん」と小さく鼻を鳴らす。目の前の少年は、間違いなくかつて銀誓館の能力者達が倒した相手――史・睡藍であるらしい。そんな相手と時を超えて向かい合うのは、どうも不思議な感じがするが。
「嫌いなヤツのために戦うのって疲れない?」
 彼個人のことは知らないまでも、神将という時点でその実力には予想がつく。油断なく構えながら、彼女は「あたしだったら絶対ヤダ」と続けた。
「好き嫌いとか、そういう話じゃないんだよ」
 まあ、それも今となっては忸怩たる思いしかないのだろうが。鴻鈞道人への怒りを口にしたその表情のまま、睡藍は鎖鎌を手に無造作に前に出る。雇い主が好ましいとか、報われるとか、そういうものは余分でしかない――少なくとも、かつての彼にとってはそうだった。そんな自嘲の混じった感情を滲ませながらも、睡藍は役割を全うしようとしていた。
「昔の記録通り、義理堅い人みたいだね……」
 烏護・ハル(妖狐の陰陽師・f03121)がそう呟く。鴻鈞道人を敵視しているという意味では協力の余地もありそうに見えるが、この神将は標的を猟兵達の先に見ている。ならば止めなければ、倒さなければならないだろう。
「式神さん!」
 ハルは長期戦を覚悟し、魔力充填役として式神達を背後に召し寄せる。そして彼女と同様の決意を込めて、ニーニアルーフは相対する敵に視線を据えた。
「此処は押し通らせて頂きます……!」
「出来ると思ってるの?」
 彼女が白燐蟲をその身に纏わせるのと同時に、睡藍は歩むまま手元の鎖鎌を一振りする。思い風切り音と共に鎖が回転し始めると、その身から妖気が解き放たれ、同時に夥しい数の妖怪の群れが溢れ出した。小型であるがゆえ、一体一体はさせて脅威にならないだろうが、一斉に放たれる呪詛の力は無視できるものではない。
 厄介な技だと唸りながら、襲い来る重圧の中でハルは狐火を展開する。目眩しも兼ねて細かく割り、揺れる炎を無数に散らして。
「でも、貴方のそれ。自慢の得物を振り回せなきゃ、どう?」
「さあね、止めてみなよ」
 妖怪達を呼び出すトリガーがその鎖鎌だと看破し、舞わせた狐火の合間から呪殺弾を見舞う。腕へと誘導していたそれは、狙いを見透かされたのか鎌の一振りに叩き落とされる。同時にニーニアルーフの白燐蟲が敵の退路を絶つように飛ぶが、睡藍は逆に前へと踏み込んできた。虚を突かれた形ではあるが、ニーニアルーフはかろうじて鉤爪を用いて鎌の一撃を受け止める。
「……そうでした、貴方は自ら手を下すタイプでしたね」
 両者の間で一瞬の火花が散る。足を止めることを嫌ったように刃を引いた睡藍は、代わりに旋回させていた分銅を放った。真っ直ぐに飛び来るそれを、今度は抜刀したカノがぎりぎりで逸らす。
「それも信念とか、そういうカンジ?」
 続く鞭のような鎖の一撃を、獣のように姿勢を低くして躱す。どうやら今の問いに答える気はないらしい、説得も相互理解も、どうやら拒まれているようだと溜息が漏れる。そうなると、もうやる事は一つしかない。
 地を這うような姿勢のまま敵の元へと飛び込んだカノは、その腕を、首を、噛み千切るように『牙』を振るった。
「強い方が勝つ。それで良いよね」
 日本刀の刃と鎖が噛み合い、辺りに軋んだ音色を響かせていく。
 ハルとニーニアルーフが協力し、鋭い人狼騎士の連撃を以てしても、神将を打倒するのは難しい。睡藍が両手で操る鎖鎌は止まることなく、多少の手傷を負わせても、小妖怪達の祝福によって無効化されてしまう。攻略の糸口を探す三人だったが、そこで紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が高らかに宣言した。
「止められないのでしたら、耐え抜けば良いのではー?」
「……は?」
 途端、戦場にパッと藍色の花が咲く。どこからともなく降り注ぐスポットライトに軽妙な音楽、即席の会場となったその区画で、藍のストリートライブが幕を開けた。
「この街は既に藍ちゃんくんのライブ会場なのでっしてー。地の利はこちらにあるのでっすよー?」
「ふざけてるの?」
「いーえ、いたって本気なのでっす!」
 『藍のままに輪が侭に』、彼の歌声はライブに関わる行動を強化し、それ以外の行為を弱体化する。当然藍に向けて放たれる妖怪達の呪詛も、その力を減じていくことになる。
「今までも、音を武器にする連中は居たけどね……」
 この規模のものに触れるのは珍しいのか、睡藍の口から忌々しげな、しかし多少の感嘆を含んだ息が漏れる。
「おやおや、諦めても良いのですか? 藍ちゃんくんが偶然近づけば疑似封神台も弱体化しちゃうかもでっすよー?」
 すぐさま舌打ちして襲い掛かる敵から、藍は踊るように身を躱しながら逃れていく。
「藍ちゃんくん耐久ライブもお手の物なのでっす!」
 危ういところを掠める攻撃を凌ぎつつ、彼は敵の攻撃を引き付ける。とはいえ藍自身にこの場を覆す火力はない、可能であれば、今の内に味方に動いてほしいところだが。
「でもこれ私たちも弱体化されちゃうんじゃ……?」
「藍ちゃんくんを応援してくださればおっけーということでー」
 そういうもの? 首を傾げながらも援護に回るハルの前で、睡藍が苛立ち紛れに分銅を投げ放つ。空を裂くように真っ直ぐ飛んだそれは、しかし身を伏せた藍の上を飛び越え、街路樹を粉砕し、その向こうの建物の外壁に突き刺さるようにして止まった。
 恐らくそれは、睡藍の意図しない結果だろう。白燐蟲の呼ぶ不幸によるものか、一時的に伸び切った鎖を前に、ニーニアルーフが飛び込んだ。
「ユーベルコードを封じます。今の内に……!」
 その咄嗟の瞬間に使えたのは、やはり我が身一つだった。鎖を自ら絡めさせ、鎖鎌の動きを封じる。ユーベルコードのトリガーを封じたことにより、呪詛と祝福を放っていた小妖怪達の気配が薄くなっていった。
「鬱陶しいな……!」
 だが、妖怪達の呪詛を止めたところで終わりではない。神将・睡藍の本領は格闘戦だ。結果的に鎖に絡めとられた形のニーニアルーフを、小柄な体躯に見合わぬ膂力で引き倒すと、睡藍は襲い来るカノの刃を躱して反撃の一撃を入れた。
 掌底と共に撃ち込まれた『気』が、カノの体表で白虎の紋様を描き出す。
「趣味じゃないんだけど?」
「もう遅いよ」
 白虎がその顎を閉じるとともに、彼女の肉体が食い破られ、鮮血の花が咲く。
「――君の言った通りだよ。強い方が勝つ、それだけで良いんだ」
 そう、それだけでよかったはずなのだ、と自らに言い聞かせるような言葉に、ハルはどこか合点がいったように頷く。かつて戦ったという銀誓館の人々が、彼を気に掛けていたというのも分かる気がした。狭間で揺れ、苦しみながらも、自ら課した戦士としての在り方を全うしようとするその様は、どうしようもなく人間らしい。
「でも、この先に進むのは私たちだから……!」
 瞬間、ハルの放った狐火が睡藍を囲む。四方八方から収束した炎は、彼を中心にして激しく燃え上がる。
 対する一手は震脚。殺到する炎の中で、睡藍は練り上げた気を足元に叩きつけた。不可視の衝撃と共に炎は四散していくが、その中に、消えない赤が一つだけ。そこではハルの狐火を目くらましに、カノが燃える刃を掲げていた。
 ――あたしにも信念とか譲れないものがあるから。
 だから、キミのこと少しだけ分かる気がする……などと言えば、彼は「勝手に分かった気になるな」と拒絶するだろう。しかし、矜持を胸に、戦うことで自らを証明するその在り方は、実際のところ良く似ているのかも知れない。
 胸の奥で燃える焔を、熱い想いをその剣に乗せて、灼熱の斬撃が睡藍を斬り裂いた。
「貴方の苦悩は、一緒に連れていくから」
 燃え盛る炎を前にして、ハルが呟く。それに同意するように、ニーニアルーフもまた頷いた。彼の怒りもまた、かの敵の元へ届けて見せると。
「だから、どうか安らかに……」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花嶌・禰々子
いざ尋常に勝負よ、睡藍

連れている悪霊くんのうちのひとつ
或る魂を、真如の力でバス停に宿して構える
炎狐の焔を燃え上がらせて地を蹴って
睡藍へ全力の攻撃を仕掛け続けていくわ

君とあたしの縁は繋がったばかり
だけどね、このバス停に宿っている魂くんは
君が大好きで、君が心配で、
魂だけでも君に逢いたくて、あたしについてきてくれた

――別に俺を覚えてなくたっていい
ですって
だって睡藍がいて、魂が此処に在ることこそ
運命の糸が繋がった証だから

白虎に牙を向けられようと鎖鎌で身を裂かれようと立ち上がる
何度でも、幾度だって、この炎で
あたし……いえ、あたし達は全力全開で戦うッ!
君を倒すしか道がなくても、辛くても進むの
その意志と心は一緒に連れて行くから
睡藍と戦った証をこの身と魂に刻んで往く
ねぇ、約束させて

必ず鴻鈞道人に一矢報いてやりましょう
睡藍、君の力と思いを抱いて共に前へ進みたい
任せて、未来への道案内が正義の導き手の役目なの!

叶うなら戦いの最中か最期に
魂ごと睡藍を抱きしめたい
その温もりを覚えていたいから

約束は果たすわ、絶対に


仰木・弥鶴
今回の戦場つまり疑似封神台が隠されている可能性のある範囲が全て目に入る高度までディバインデバイスで空中浮遊

ここは俺たちのホームなんだ
街全体が果たしてどちらの味方に付くか、勝負だよ睡藍

眼鏡を外し『World order』
鳥や虫、風や木々、無機物であるビルやアスファルトまで
目に入るあらゆる存在の助力を乞う
シルバーレインにおいてこの要請に抗うモノがいるとは思えない
どこを攻撃すればいい?
ディバインデバイスの避雷針を直接撃ち込んで隠し場所ごと串刺しに

呪詛対策には殲神封神大戦の時に手作りしたお守りの破魔
君と同じく鴻鈞道人に利用されていた妲己を救うために作ったお守りだ
その悲哀、憎しみ、絶望…全て覚えておくよ


ディイ・ディー
よお、睡藍
ひとつ手合わせを願えるか
名前くらい名乗っていいだろ。俺はディイっていうんだ

――六札の録
風の呪札と蒼炎を纏う賽子を展開
分銅は妖刀で弾き、時には傷も覚悟で受け
右腕から炎を、札から風を起こし対抗

本体が無事なら負傷を無視できるのは俺も同じ
この力で覗き見するようで悪いが
……そうか、これが嘗ての戦の記憶
睡藍と能力者達の絆は確かにあった
その蜻蛉玉が証だろ

とことんまで戦おうぜ、睡藍
睡藍と本当に逢いたかった奴の分まで

義を貫き矜持を抱く
お前は何処までも真っ直ぐな奴なんだろう
不器用さとも呼べるだろうが、俺は睡藍の在り方が好きだぜ

霊力を消費して体を再構成しながら全力で戦い続けよう
生憎、倒れる事は俺の呪物達が許してくれなくてな

戦場こそがお前の在るべき場所で
いずれ鴻鈞道人に雪辱を果たすのが願いなら
決めたぜ
その意志と力、俺が憶えて連れて往く!
拒否権は無いからな、俺が勝手にやることだ

お前とあいつは、この世界に確かに生きていた
骸の海に尊厳まで踏み躙らせはしねえ
俺がこの先も証明し続けてやる
その強さは本物だった、と



●空の色
 隠された疑似封神台の効果によって、炎に包まれたはずの睡藍の身体が再生する。深く切り裂かれた傷は塞がり切っていないものの、復活した彼は最初に上を仰ぎ見て――空を行く鳥とは違う、雷光を帯びた白い翼を目にした。
 それは、ディバインデバイスを背に上空へと昇る仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)の姿。
「見つかった、みたいだね」
 目が合った、補足されたのを自覚しながらも、相変わらずの調子で弥鶴は呟く。戦場となったこの街を上空から広く見下ろし、疑似封神台を探す心算ではあったが、逆に隠した側である睡藍は『その類の動き』を最も警戒していたということだろう。
 当然、見つけた以上敵はこちらを最優先で落としに来る。ここから先はスピード勝負になるだろうか。
 睡藍が鎖鎌を振るうと同時に、彼の元から生まれた妖怪達が呪詛を展開する。弥鶴を地へと引こうとするその力に、手製の破魔の宝貝で抵抗。奇しくも鴻鈞道人に利用されていた妲己を救うために作ったそれを身代わりに、一定の高度に至る。
 だが弥鶴が眼鏡を外すその合間にも、手事な外壁を蹴り付けた睡藍は付近で最も高い建物の屋上に跳び上がっている。傷付いた身体をものともせずこちらを狙う姿に、感心するような息を吐いたそこで。
「ストーーーップ!」
 横合いから振り下ろされたバス停が、跳躍した睡藍の行く手を阻んだ。

 もう一度街中へ、道路上に着地した睡藍の前に、「ここで止まれ」とでも言うようにバス停が地に垂直に突き立てられる。先の一撃を加えた花嶌・禰々子(正義の導き手・f28231)と、駆け付けたディイ・ディー(Six Sides・f21861)が、共に敵と相対する。
「ようやく会えたわね、いざ尋常に勝負よ、睡藍」
「こっちもひとつ手合わせを願えるか」
「僕は君らなんて知らないんだけど」
 素早く体勢を整えた彼は、鎖鎌の分銅を旋回させ、ディイの側頭部に叩き付けるように振るう。邪魔をするなと言わんばかりのそれを刀で逸らし、ディイは平然とそれに返した。
「そうか、俺はディイっていうんだ」
 名乗れと言ったわけじゃない。苛立たし気に眉を寄せた睡藍に対し、今度は禰々子が仕掛ける。|真如《あるがまま》にと願うように、そのバス停は燃え上がる焔を纏う。全力で振るわれた赤い軌跡は、しかし睡藍の拳一つで阻まれた。続けて放たれる反撃の刃、鎌の一撃を、禰々子は引き戻したバス停の柱で受け止める。
「君とあたしの縁は繋がったばかりだけどね、このバス停に宿っている魂くんの方はどう?」
 至近距離で視線がぶつかる。一刻も早くここを切り抜け、疑似封神台を狙う弥鶴を落とす――その目的を第一に動いていた睡藍だが、次の言葉で、その瞳が僅かに揺らいだ。
「この魂くんは君が大好きで、君が心配で、魂だけでも君に逢いたくて、あたしについてきてくれたのよ」
「――……知らないな、そんな奴」
 だが、そう切って捨てる前には一拍の間が空いていた。オブリビオンとなった今の彼も、交わした拳の感触を覚えているのだろうか。
 感傷ごと振り払うように、睡藍は禰々子を前蹴りで突き放す。距離の空いたそこには、代わりに蒼炎と風が吹き込んできた。
「そうかよ。だったら構わないよな?」
 ディイの呪札と賽子、一息に展開されたそれが乱舞し、睡藍を襲う。数多に撃ち込まれた内のいくつかが、高速で旋回する鎖の合間を抜けて敵を穿つ。それと同時に、ディイの瞳が滲んだ記憶を読み取った。
 戦いを求め、自ら神将となった彼の歩みは、端的に見ても血と闘争に塗れている。けれど無数の戦場の記憶の中に、色合いの違うものが紛れ込んでいた。
「絆は確かにあった。その蜻蛉玉が証だろ」
 詠唱兵器の鎖鎌に飾られたそれを目にして、ディイの口から呟きが零れる。それと同時に、弾丸のような初速で放たれた分銅が、炎と風を貫いて、真っ直ぐにディイの鳩尾に突き刺さっていた。
「君、いま何をしたの?」
 何、と問われれば『六札の録』の副次効果による記憶の読み取りなのだが、ディイの側は言葉もない。分銅と共に流し込まれた気で臓腑を引っ掻き回され、血を吐きながら抗議の目を向けるくらいは出来ただろうが。
「別に俺を覚えてなくたっていい、ですって」
 ふらつくディイを庇うように立って、禰々子が『魂』の言葉を代弁する。
「知らないって言ってるだろ」
 そう否定する声にも構わず言葉を続ける。盾のように構えられたバス停のうえで、炎は変わらず燃え盛っていた。
「君が居て、魂が此処に在ることこそ、運命の糸が繋がった証だから……そう言ってるわ」
「勝手に納得しないでくれる?」
 呆れたようなその声には、しかしどこか記憶を辿るような響きも混じっている。「以前からそういうところがあった」とでも言うような。それでもなお、彼が足を止める理由にはならないのだろう。
「真っ直ぐと言うか、不器用と言うか……」
 義を貫き矜持を抱く、それがこの神将の在り方なのだろうと納得した様子で、ディイは妖刀を手に立ち上がった。
「……手応えはあったんだけどな」
「生憎、倒れる事は俺の呪物達が許してくれなくてな」
 ヤドリガミである彼は、器物さえ無事ならば死ぬことはない。無論、傷付けば痛みはあるし消耗だってするが――。
「良いよ、すぐに踏み越えてやるから」
 次の一歩は深く重い。睡藍の震脚、地面に叩きつけられた足元で気が炸裂し、不可視の衝撃が二人を襲う。踏みとどまり、吹き消されそうな炎を支えて、禰々子とディイは揃ってその中心へと踏み込んだ。一歩遅れて呪札が風を巻き起こし、二人の背を後押しする。
「剣禅一如!」
 豪快に振るわれたバス停が迫る分銅を撥ね飛ばし、生じた隙をディイの妖刀が駆け抜ける。睡藍の両手の間で張られた鎖が刺突を受け止めると同時に、赤と蒼の焔が同時に睡藍を呑み込んだ。敵の動きが精彩を欠いているのは先の戦闘の傷によるものか、何にせよここで畳みかけるべきだと迫る二人に、炎を裂いて鎌が奔る。
 旋回する刃に深手を負いながらも、ディイがそれを押し留めるが、睡藍はその体を焦がしながらも、身一つで禰々子の元に迫っている。『邪気虎牙紋』、拳と共に刻まれた白虎の紋が、禰々子の身体を食い破り――。
 その場に鮮血の雨を降らせながらも、睡藍の行く手を阻む炎は今だ消えていなかった。
「まだまだ、とことんまで戦おうぜ、睡藍」
 そう、本当に逢いたかったやつの分まで。霊力を消費して自らの身体を再構築するディイと共に、こちらは負傷を押したまま禰々子が立ち上がる。
「あたし……いえ、あたし達は全力全開で戦うッ!」
「しぶといな……!」
 睡藍の側も手傷を負ってはいるが、疑似封神台がある限り彼もまた復活する。両者の衝突はなおも続いた。

●約束
 猟兵二人が直接戦闘を引き受け、足止めを成している合間に、十分な高度へと至った弥鶴は街を見渡す。眼下のそこは戦場と化しているが、区画を出れば世界結界の向こうの人々が『日常』を送っているのだろう。その世界の在り方は奇妙ではあるが、彼にとっては見慣れたものに違いない。
「ここは俺たちのホームなんだ。街全体が果たしてどちらの味方に付くか、勝負だよ睡藍」
 晒した裸眼でこの街をなぞり、彼はそれらに助力を乞う。生命体、無機物、自然現象、|この世界《シルバーレイン》を構成するモノ達へ、世界を守るための一手を。
「さあ、どこを攻撃すればいい?」
 ざわざわと木々が枝葉を揺すり、風がひと所へと集まっていく。導かれるようにそれを追い、犀川の一角の流れが乱れ、渦を巻いているのを目にした彼は、そこへ指を向けた。
 躊躇はない、ただ一瞬だけ、未だ戦いの螺旋の裡にある彼を思い――。
「その悲哀、憎しみ、絶望……全て覚えておくよ」
 ディバインデバイスに仕込まれた避雷針を、真っ直ぐにそちらへ撃ち出した。

 何度倒れようとも立ち上がる、刹那では終わらない戦いの中で、刃は何よりも雄弁に語る。けれど、それで分かり合えたとしても、共に歩む道などもはや存在しないのだろう。炎を宿した得物を一度強く握りしめて、禰々子は息を吐く。傷から伝わる苦痛を吐き出してから、ようやく言葉を紡いだ。
「ねぇ、約束させて」
 必ず鴻鈞道人に一矢報いてやりましょう。その意志と心は一緒に連れて行く。戦った証をこの身と魂に刻んで往くから。
「そんなこと、頼んでないけど」
 突き放しながらも、状況は彼自身が一番よくわかっていた。封神台が崩れたのだ。敗北を知り、刃が止まる。またしても届かなかったのだと、彼がその味を噛みしめる前に、ディイがその視線を奪う。
「決めたぜ。その意志と力、俺達が憶えて連れて往く!」
 戦場こそが在るべき場所で、いずれ鴻鈞道人に雪辱を果たすのが願いなら、それを果たして見せると。
「拒否権は無いからな、俺が勝手にやることだ」
 無意味だ。雪辱は、自ら果たさなくては意味がない。けれど睡藍が口にしたのは別の言葉だった。
「守れない約束なんて、するものじゃないよ」
 愛用の詠唱兵器を飾る、小さな光を一瞥する。それは独り言に近いものだったが。
「任せて、未来への道案内が正義の導き手の役目なの!」
 禰々子は、あの赤い炎と共に在る彼女は、力強く請け負った。
「……」

 戦士にとっては強さこそが全て。負ければ終わり。だが期せずして、終わりの先を目にしてしまった今の彼ならば、別のことを思えるだろうか。
 死してなお、引き継がれていくものがあるのだと。
「――好きにしなよ」
 告げて、天を仰ぐように倒れた睡藍を、禰々子がその手で抱き留める。崩れていく仮初の身体と、消え行く意思。

 そうしてようやく、藍の空が暮れていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年01月09日


挿絵イラスト