第二次聖杯戦争③〜魔狼 炎獄の咆哮
煌々と燃えている。
獣の形をしたそれが、燃えている。
命を許さず影形すら殺すそれが、ただ。
『――――ッッ!』
その咆哮は生命を焼く。
●
「さて、進行してまいりましょう?ふふ、商店街の救助お疲れ様でございました」
まことに良きこと、と朗らかに微笑んで見せる壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)の目は変わらない。
既に配られた魔狼の資料は誰もが閉口する巨体、そしてそれに見合った膂力。だというのに――!
「わたくし、この頸が欲しいのです。ふふ、燃え盛るこれを――そうね、燈の火種にでもしましょうか」
ころころ少女のように笑って、“すてきでしょ?”などと。
そうして、先の闘いで目印を付けた地図を再び広げ、指先で叩くその瞳は据わっていた。
「――皆様が此処に訪れた気配で降臨せし魔狼を、“商店街を守りながら”倒していただきとうございます」
ざわめく。
50m越えの巨獣と張り合え、と平然と言ってのけたのだ。重ねて“街を守れ”とも。
「皆様が現れれば奴は皆様だけを見ましょう。――それを利用するのです」
視線を釘付けにするほどの闘いを。
そうして釘付けにしたまま――……。
「生きて居たこと等、忘れさせてしまえばよろしいでしょう?」
己の存在さえくべさせろ。
燃えろ燃えろと煽れば良い。
恐れた者から、薪になるこの一時を――生き残ってくださいまし。
「だってまだ始まったばかりですもの。わたくし共はこんな“子犬”に構っておれませぬ」
もしかすれば未だ街徘徊する犬退治が待っているかもしれない。
そうして、その退治と悲鳴に誘発された魔狼が、再び降臨する可能性もある。常に、予断は許されないのだから。
パン、と拍手一つ。
「さぁさ、参りましょう?そうですねぇ、お空から打ち据えるのはいかがかしら。あの巨体ですもの、上からの襲撃なぞ思い描いたこともありますまい」
鏡のグリモアが開いた、空が呼んでいる。
皆川皐月
お世話になっております、皆川皐月(みながわ・さつき)です。
焔を討ち取れと、わらう。
●注意:こちら一章のみの『第二次聖杯戦争』の戦争シナリオです。
●プレイングボーナス!:フェンリルの蹂躙から商店街を守る
●『第二次聖杯戦争③〜炎獄の爪』参加者様のみ、ご参加の場合『連戦』の扱いが可能です。
連戦状態での参加OKな方は🔥を冒頭にお願い致します。
怪我、疲労などの状態を引き継いで降臨した魔狼との戦闘となります。
●第一章:炎獄の魔狼『フェンリル』戦
焔が、獣の形をしている。
市街戦となりますが、今回建物の破損は非推奨のため、工夫があると良いかもしれません。無くても心がけ一つで違うはず。
●戦争シナリオの為、🔵達成数で〆切を予定しています。
戦闘描写がっつりご希望の場合、可能ならオーバーロードがお勧めです。
●その他
複数ご参加の場合はお相手の【呼称+ID】または【グループ名】がオススメです。
【★今回のみ、団体は2名組まで★】の受付です!
IDご記載+同日ご参加で確認がしやすいので、フルネーム記載より【呼称+ID】の方が分かりやすく助かります。
マスターページに文字数を省略できるマークについての記載がございますので、良ければご活用ください。
ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。
最後までご閲覧下さりありがとうございます。
どうか、ご武運を。
第1章 ボス戦
『フェンリル』
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POW : 破裂の赫眼
【視線】が命中した部位に【不可視のエネルギー】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : 魔炎光線
【口腔内でのエネルギー】のチャージ時間に応じ、無限に攻撃対象数が増加する【魔炎光線】を放つ。
WIZ : 魔狼の呼び声
【引き裂いた空間の裂け目】から、戦場全体に「敵味方を識別する【血に餓えたゴーストウルフの群れ】」を放ち、ダメージと【出血】の状態異常を与える。
イラスト:田中 健一
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
山立・亨次
🔥
……
罠、通るかこれ?
仕方ねぇな、こういう搦手はあんま得意じゃねぇんだが
ゴーストウルフごと纏めて動き止めちまうか
動けなけりゃ街も壊せねぇだろ!
敵がゴーストウルフを呼び出すと同時にユーベルコード発動
飯の時間だ、全員『待て』!
人は――生命は、美味いか
精々味わったつもりにでもなってろ、狗ッころ
動き出す前に森人の叡智(片手に包丁、片手にフライパン)で連撃だ
基本的には本体を狙うが、我に返りかけたゴーストウルフがいたら最優先でブッ潰す
カムも手伝え
壊させてたまるか
街だけじゃねぇ、この世界もだ
そっちの事情なんざ、知ったことかよ
これは、ただの縄張り争いだ
『死』にも『過去』にも、渡さねぇ
※基本無表情で寡黙
●焔狩
表情を一切変えず、山立・亨次(人間の猟理師・f37635)は浅い切り傷の止血を終えフェンリルを見上げた。
「……罠通るか?これ」
そっと肩のリスを見れば△印。
出来なくはないが……と、どうにも速攻性に欠けるらしい。
現状、待つことは望ましくはない。「……仕方ねぇな、こういう搦手はあんま得意じゃねぇんだが」
空を仰げば――フェンリルに裂かれた亀裂より落ちる焔が次々獣へと変じてゆく。
「来店は結構だが、予約はしろよ」
礼儀と敬意は必要だと亨次が口にすれど、こたえる者はいない。
「|よっぽどの用事でもなけりゃ、食事中に席を立つな《動けなけりゃ街も壊せねぇだろ》!」
『アォオオン!』
迫る|ゴーストウルフとフェンリル《予約無しの団体客に親玉》に馳走を。
UC―食前方丈・戒―……それは亨次愛用の包丁 森人の叡智振るえば現われる“食事の幻覚”がゴーストウルフを欺き歓待するが――……。
「――待て!」
『グルァ!?』
今まさに料理の幻覚へ飛び掛からんとしたゴーストウルフへ鋭い号令が飛ぶ。
「飯の時間だ。が、待て……人は――生命は、美味いか」
淡々と、問う。
その声に温度は無く、ただ“淡々と”と表現することが最も近いだろう。だが狼達から返事はなく、涎を垂らすのみ。
溜息一つ。
「精々味わったつもりにでもなってろ、狗ッころ!」
そうして向かい合う幻を喰う巨体。
どうするかなど迷う暇はない。ただ、
「壊させてたまるか――街だけじゃねぇ、この世界もだ。そっちの事情なんざ――」
振り上げた包丁を燃え盛る巨体へ打ち込み、
「知ったことかよ!」
フライパンで駄目押しを。
例え邪魔だと払い除けられ地に叩き付けられようと、競り上がった血を吐き捨て亨次は挑む。
「『死』にも『過去』にも、渡さねぇ……」
『グルルル……』
幻覚から醒めたゴーストウルフが吼えた瞬間、亨次が背のリュックに声を掛ける。
「カム、手伝え」
言葉無く寄り添う相棒の小さな視肉が、飛び掛かる一匹を取り込み潰す。
大成功
🔵🔵🔵
フール・アルアリア
◎
空から?それ、最高だね。のった!
商店街を見下ろせる高さに跳んで、目標確認。
見た目もふもふだけど…燃えてるから無し。
頸が欲しい、かー…倒してからかなー…ん?遺体残るっけ?
ま、いっか。それじゃあ、さっくり急降下!
炎すら切る風の勢いで。武器で切りつけてUC。
殺したくなるでしょ?いーよ、殺しあおう?
これで建物の被害はどうにかなるかな?
向こうの注意が僕にのみいくように切りつける度にUCを重ねがけ。
煩わしくなってきたら影縛りで身動きとめて。
高ダメージを狙い暗殺。
殺しきれないのは分かってるから、死ななくても狼狽えない。
僕は致命傷になりそうな攻撃は極力避けるね。
義弟がすっごい心配するの。胃に穴あいちゃう。
●空翔け
「空から?それ、最高だね。のった!」
そう駆けだしたフール・アルアリア(No.0・f35766)は今、巨獣を見下ろしていた。
「見た目もふもふだけど……燃えてるから無し」
きっぱり口にし、目標位置たる商店街上空。降臨の際潰れた建物がいくつかあるが、恐らく避難等は済みだろう。
「うーん。頸が欲しい、かー……倒してからかなー」
“頸”は送り出したグリモア猟兵が飄々と言った怪しい希望。考えたフールは大切なことに気付く。
「遺体、残るっけ?」
「ま、いっか。それじゃあ、さっくり――」
風を切り急降下したフールのエアシューズの踵に陽光照り返す刃が一本、深々とフェンリルへ突き刺さる!
同時に展開されたUC―赤い靴は死ぬまで踊る―がフールのエアシューズの爪先を赤く染めれば、ぐるりと首を巡らせフールに気付いたフェンリルの瞳が怒りに染まる。
『ツガァアァァアア!』
「殺したくなるでしょ?」
咆哮に吹き飛ばされるも空中を蹴り出しダッシュで距離を取ったフールが微笑むのに比例し、フェンリルの瞳がギラギラ燃えた。
『ウ゛ルルルルルル……ガァァァア!』
「いーよ、殺しあおう?」
衝撃波のような咆哮がなんだ。こんなもの、学生時代に散々浴びた――!
ニィッと歯を剥いたフールが、牙剥く鼻先を蹴り上げ空へ。再びギロチン叩き下ろそうとした時、開かれたフェンリルの口には焔 魔炎光線の装填が。
「――っ、撃たせるか!」
空泳ぐように跳ね翔け、無防備な眉間へ踵を振り下ろす!
『ギ――!!』
「(上へ打ち上げさせれば建物への被害は抑えられるはず)」
赤い血のような炎吹き出させるフェンリルを再び蹴り上げフールは空へ。
止まれない戦闘は過酷だが、“繋ぐ闘い”だと承知の上。だが、フールが光線に上着の裾焼かれながら空泳ぎ躱し、再び眉間へ――と見せかけ、フェンリルへ降ったのは上着一枚。
「義弟の胃に穴を開けるわけにはいかないからね」
『――!』
深く、後頭部を抉り込む一蹴に巨獣が呻く。
大成功
🔵🔵🔵
チェルシー・キャタモール
🔥◎
さっきの戦いの疲れは残っているけども
だからといって立ち止まってもいられないわ
さっきの獣と違って姿を隠すのは悪手でしょうね
手当たり次第に破壊されたら困るもの
だから堂々と姿を晒して戦うわ
UCを使い思い描くのはアサルトライフル
この手の武器だって使い方は知ってるわ
悪魔の友達の真似だけれど
悪くないでしょう?
チャージを阻害出来るよう出来るだけ弾は撃ち続ける
【空中浮遊】もしつつ相手の視界には入るように
どうしても光線が放たれそうなら空に撃たせましょうか
あとはひたすら時間いっぱい撃ち込むだけよ
脚や喉、心臓など
炎とはいえ獣は獣
弱点もきっとあるはず
弾に月と水の魔力を乗せた【属性攻撃】よ
獣はさっさと狩られなさい
●月の水よ
幸いソードヴォルフを悪夢へ堕とせたチェルシー・キャタモール(うつつ夢・f36420)は思う。
「立ち止まってはいられないけど、」
『グオォォオオ!』
「……っ、」
巨獣の咆哮が、重い。
「(でも隠れてたらきっと――)」
あの巨獣は、やろうと思えば呼吸するように街を壊すだろう。
「――なら私達を追えばいい」
猟兵を見ればと聞いたからこそ駆け出したチェルシーが空を踏む。地面の延長のように空中浮遊した魔女は、UC―月夢の狩人―の指先で狼狩りのアサルトライフルを織りあげて。
「私、こういうのも使えるのよ?」
現実的な重みのそれは、|兎の悪魔《友達》に教えてもらったオブリビオンへの鉄槌。そのスコープ越しにフェンリルを見た時、その苛烈な焔瞳にチェルシーは背筋の震え、半歩下がる。だが、思いだすのは|嵐の地獄《アポカリプスヘル》で教わった全て。ライフルを強く握り引き金を引く。
「悪くないでしょう?こういうのも――!」
『ァァアアア!』
一発は正しくフェンリルの頭部を穿った瞬間、ほぼチャージ無しの熱線が迸り――かけ、他の猟兵に顎をかち上げられ途中から熱は空へ。
「っぁ、はっ――ぐ、ぅ……ぅう!」
ほんの僅か熱線掠めたチェルシーの肩からは夥しい血が落ちていた。
激痛に震える手を叱責し、無理矢理構え引き金を引こうとしたその時、巨獣の口に焔の兆し。
『―――!』
「チャージ……!」
撃たせまいとする猟兵を熱線で撫で尚――!
チェルシーは考える。オブリビオンストームを止める時と、きっとこれは似ている。討つより逸らす戦闘の形態。
「……――そうよ、なら私は」
こういう時は出来ることを探す。
弾丸に込めるは月仕込みの水の魔力。
「月の水の味はご存じかしら?」
『ガ、ァァァアアア!』
口腔へ全力で撃ち込めば炸裂した一発でチャージの阻止が叶う!
「(口に撃てば阻止できる!――でも、次)」
魔力足りるのか。
延々と痛む腕は保つのか。
「獣はさっさと狩られなさい――!」
迷う暇は、無い。
大成功
🔵🔵🔵
ディル・ウェッジウイッター
ランプにするのならもっと品の良い物があると思いますが
それとは別にフェンリルは止めねばなりませんね
商店街に被害が行かぬようにとなると難しい所ではありますが…やれることはやりましょう
商店街の屋上から様子を伺い、タイミングを見計らってドーマウスを解き放ちます。ほら、起きなさい。うかうかしていると私もあなたもあのフェンリルの胃袋に収まるやもしれませんよ
|ドーマウス《UC》を放つことでフェンリルを眠らせるまではいかなくとも隙は作ることができるでしょう。その隙を突いた攻撃は他の方にお願いしたいところですが…難しい場合はカトラリーを飛ばし攻撃します
●深きへ至上の一杯を
「ランプにするのなら、もっと品の良いものがあると思いますが」
先輩も突飛なことを仰る、と笑わぬ目でフェンリル見上げたディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)が淡々と口にしながら取りだしたのは古めかしいティーポット。
小さなティースプーンで蓋を叩くこと、三度。
「ほら、起きなさい」
言葉で促せば、飛び出したのは一匹の眠そうなヤマネ。
『ちゅい?』
“まったく”と言いながら頭を撫でてやれば嬉しそうに鳴いて。
「さて、あの巨獣が見えますか?あれに暴れられ……て、は――」
ディルが説明し始めたのも束の間、船こぎ始めたヤマネが、今にもポットの中へ落ちてしまいそう。
見慣れた姿だが、今は悠長してられない。
「ほら、起きなさい」
ココン、とティースプーンでポットを叩けば、飛び出したヤマネの大きな瞳が見開かれた。
気付く者はいないがヤマネから香り立つ匂いは常人なら一目で昏倒し優しき安寧へ誘う香り。それこそ|超常の存在《メガリス》たる証明。
「うかうかしていると私もあなたもフェンリルの胃袋に収まるやもしれませんよ。それに――」
魔狼が空へ刻んだ爪痕落ちた焔が獣へ変じディルとドーマウスを囲み始めているのだから。
「もうお客様が列を」
『……ち!?』
なんで!?とヤマネがディルを見上げようと、|ディル《主人》はにっこりと笑うばかり。
「では――リラックスティーの準備を始めましょう」
微笑んだディルが恭しくフェンリルへ向け礼をした瞬間、ゴーストウルフが飛び掛か――ろうとして、ぼたりと道路へ落ち伏せたのを皮切りに次々ゴーストウルフが倒れてゆく。
ただ、ディルがヤマネ入りのティーポットで道路へ茶を注いだだけで。
UC―眠りヤマネは夢を見る―
その注ぎ口からとろりと黄金色の茶のように世界へヤマネが蕩けゆく。
『ガァァアア――ア、ぁ、あ?』
「――本日は誘いの一杯をお楽しみください」
世界を蕩かす一杯が巨獣の意識を乱す。
大成功
🔵🔵🔵
流茶野・影郎
◎
援軍ですよっと
あのB……お姉ちゃん、人こき使うのが上手いなあ
とりあえず子犬一匹持って帰ればナデナデ……あわよくばぱふ……ないな
じゃあ、仕事しようか
「ダブルイグニッション、覆面忍者ルチャ影参上」
とりあえず何をさせても被害がデカいのが厄介だ
なので詠唱風車をまず一本投げて爆発させる
そう爆発するものだと認識させてから
両前肢に投げる
これでフェンリルの意識は俺か風車に向く
後は相手の目を見てタイミングを計ってドカン
念を入れるぞ
コートを脱いでジャンプ、先にコートを投げて視界を阻害してからの
『ルチャキック』
奴は高エネルギー体だ
急所なんて殆どないが目は存在している!
ところで、死んだらこいつ消えるんだけど……?
●“あの日”へ
マスクを整え巨獣を見た。
「あのB……お姉ちゃん、人をこき使うのが上手いなぁ」
行先を知りながら来た自分も大概だと頭を掻きながら、流茶野・影郎(覆面忍者ルチャ影・f35258)は、ふと。
「(とりあえず子犬一匹……そしてあわよくば)」
色々――まで思って新しい仕事を笑顔で紹介される光景が過った。
人のこと言えないんじゃないですかね、と思いながらいつもの言葉を口にする。
「ダブルイグニッション、覆面忍者ルチャ影参上」
「(何させても被害がデカいのが厄介だ)」
今、妙な均衡を保っているお陰で実質フェンリルは一歩も進めていない。
「正しい選択か。動かさず封ず……なら」
一本の詠唱風車を手に、深呼吸一つ。
思い切り空――フェンリルの眼前へ擲てば影郎の想定通りの爆発にフェンリルがほんの一瞬慄いた。
その生物的反応は巨“獣”とされているせいだろうか。
「(次は――)」
巨獣からすれば小さな爆発。
だとしても“それは|発するもの《・・・・・・》だ”と覚えさせること。だが同時にフェンリルが影郎にも気付く危険は伴うわけで
『オォオオオオ!』
「おっと、やはり」
巨獣が伸ばした足は他の猟兵が水弾で撃ち抑え込んだお陰で影郎には当たらない。
ほんの一瞬視線逸らされた隙に前肢へ風車擲てば炸裂し僅かでも炎を吹き飛ばす。驚いたような雄叫びを背にビル駆け上がった影郎は跳び――その目へ風車を擲って。
『……グッ、オォオオオ!』
「そのチャージは隙になるんだよ――!」
風車に苛立ったフェンリルは全てを薙ぎ払おうとする瞬間を待っていた。
無防備なそのチャージを、影郎は待っていた!
「フェンリル!」
叫び、空へ放ったコートに奪われた獣の視線ごと三日月描く一蹴が巨獣を襲う!
UC―ルチャキック―
深々突き刺さった一蹴が“唯一の場所”に罅を刻み込む。
空中からコートを回収し躍るようにビル屋上へ着地して、影郎ははたと気付く。
「ところで、死んだらこいつ消えるんだけど……?」
大成功
🔵🔵🔵
ラップトップ・アイヴァー
🔥◎
もう少し上手な使い方思いつきませんでしたこと?
…まあ、お望みのようですし!
READY TO DIVE――なんてね。
真の姿を維持したまま、まず空から一撃だまし討ち。私しか見なくなるのだから悪目立ちには丁度いいでしょう。
生命を灼いてばかりの子犬さん。
いつまでそんなに可愛く鳴いているつもり?
或いは、私を殺したくて堪らない?
良いでしょう、やってみて?
死体が痛みを感じてどうするの?
子犬が燻っててどうするの?
赤と黒の電子の光が溢れ出して、ダメージすら遮るというのに!
あなたが私を見る度に、私の悪意が増していく。
赤と黒の電子の光と共に、殴りでも蹴りでも入れて逆にあなただけを蹂躙してさしあげる!
生命を燃やすとはそういうこと。
燃やそうとした死体に逆に痛めつけられる覚悟なんてありもしないのでしょうから!
これなら誰も傷付けない、何も壊さない!
美希の優しさをなぞり続けた結果がそれですの!
では忘れなさいね、あなた自身が『か弱く』鳴いていたこと。
骸の海の向こう側ならきっと、誰も知らずにいてくれるでしょうから。
●凶星の煌めきを
巨獣を仰ぎ、|ラップトップ《シエル》・アイヴァー(動く姫君・f37972)は溜息を一つ。
「もう少し上手な使い方思いつきませんでしたの?」
ランプの灯にしたいなどと、あぁ。友ながら突飛なことを言うにしたって……。
あの焔が残らないなど承知の上で、|ラップトップ《シエル》は乗ってやろうとわらい、変ず。優雅に裾を風に躍らせて、“悪”へ。
「……まあ、お望みのようですし!」
頬切る冷たい風は分からない“だって私は死体だもの”と言えば、きっと友は“あらまぁ”なんて笑うかもしれないけれど。
指先で紡ぎあげた|アーク《霊障》を纏い、UC―Trigger /AF―で花咲くことを決めたから。
「READY TO DIVE――なんてね」
霊障纏い上空から舞い降りた悪が間抜けな眉間に形無き剣を刺す!
『ウ゛――……ガ、ァア!?』
たたらを踏もうとした足は月水の弾丸が精密な一発で押し戻し、爆破され、切り刻まれ、空泳ぐ猟兵にも切り込まれ藻掻くばかり。
しかし新たなる猟兵にギリギリと歯噛みした巨獣が怒り散らす様に|ラップトップ《シエル》はわらっていた。
「ふふ……ふふっ、おhつにお目に掛かりますわね――生命を灼てばかりの子犬さん?」
『ォアァアァァァア!!!』
頭を振り眉間で嫌味なほど優雅に裾を摘まんだ|ラップトップ《シエル》を落としたフェンリルの口に魔炎の耀き。
「あら?」
『ッ、オァァァァアア――!!』
ボウッっと吐き出されたその高火力なビーム砲は|ラップトップ《シエル》を狙ったもの。
ほぼチャージ無しで間髪入れず撃たれたその一撃――シエルの背には、街。
「……――そう。あなたの答えはそうですのね」
“知っていましたわ?”と微笑んだ|ラップトップ《シエル》へ誰かが叫ぶ、避けろと。誰かが声を張る、逸らせと。
一緒に――そう聞こえた声の方へにんまり笑った|ラップトップ《シエル》は言った。
「ごめんあそばせ、あの子犬――私と遊びたいようですの!」
迫る炎熱を前に練り上げるのは霊障 アーク。
アークとは円弧であり箱舟であり“トップ”である。
語源には“弓”を持ち、蓋のついた箱であり、支配者でもある。
|二つの電極《シエルと美希》の間で迸る電を箱詰めにした――円弧。つながりの片鱗ゆえに、今シエルが纏っているのは破壊の赤と黒。
「――遊んであげますわ、ねぇ?“子犬”ちゃん」
いっそ甘やかにさえ感じる声で|ラップトップ《シエル》は微笑み――……その炎熱を拳に纏わせた赤と黒の電光と共に殴りあげる!
『オ――ァァアァアアアア!!!』
いたい。
「やりますわ、ねぇ――!」
いたくない。
『アァァァアアァアアァァ!!!』
もえる。
「っ、ぐ ぅう!!」
もえるはずがない!
概ねを上空へ受け流しきった|ラップトップ《シエル》の腕は健在。
本来であれば、ぶら下がって腕が存在していればまだマシで、焼け爛れ跡形も無かったことだろう――滲む疲労感は分かっていたこと。しかし何もかも飲みこんだ悪が、艶やかに微笑んで匂い立つ。
「ふふ……ふふ、あははは!!いつまでも可愛い子犬さんだこと。そんなに可愛く鳴いて、なんのつもりかしら?」
全てのダメージを遮断する――それはいっそ時間を止めているような荒唐無稽を成せる“|アーク《バケモノ》”纏って悪の姫君は弓を引く。
「私を殺したいなら――そうですわね、もっと可愛くやってくださる?」
“吼えるだけでは面白くないじゃない”――そう微笑む悪を、巨獣は知らなかった。
迸る赤と黒の電光は悪魔のようなこころであり、熟れ始めていた悪が徐々に牙を研いでいたなんて。
始まったのは蹂躙だ。
無遠慮にフェンリルを殴り上げ、口腔へ溜めた炎熱のエネルギーを腹へ叩き返し、本来ならば肉体が焼かれ何も残らぬはずの炎熱の光線を空へと咲かせる。
「ふふっ、うふふ!これなら誰も傷つけない、何も壊させない!」
軽やかに家屋駆け上がり跳ね、フェンリルに刃の形をした悪意で血に似た炎吹かせる|ラップトップ《シエル》は至極楽し気に舞う。
まるで“お姫様”のように。
爪先の青は今日の“お出掛け”には丁度良い、あぁまるで差し色のような華やかさで踵慣らすダンスには最適だ。
|死体《シエル》は躍る、面白いという心を隠さずわらいつづけていた。
「私が教えてさしあげましょう、“命の燃やし方”も“死体との戦い方”も!」
ここで一つ。
シエルは己の死を否定したことが無い。
人―一般人―が聞けば、ぎょっとするような事実だろう。寧ろ驚いて動揺する者とているだろうし、疑う者も出るだろう。だが、シエルはその一切を隠さない。むしろ誇ってすらいる。
それと同時に今を“美希と共に“生きていることにも、シエルは胸を張って肯定するだろう。
そんなシエルは、巨獣フェンリルを憐れむ。“知らないことだらけの可哀想なか弱い子犬”――と。
「私が美希の優しさをなぞり続けた結果はこれですの――」
『グ、グルルァッァアアア!!』
巨獣は厄介な物と遭遇したと言わんばかりに唸り、吼える。
「燃えない死体も死体に、痛めつけられる可能性さえ知らないか弱いあなた自身はもう忘れた方が良いでしょう。だって――」
“あんまりにも憐れだもの”
骸の海ならば“か弱い子犬を知る者もすくないでしょうから”と、麗しく|死体《シエル》はわらう。
まるで滑稽な話でもしたように|ラップトップ《シエル》がドレスの裾払えば、勢いを失いつつある炎が揺らいでいた。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
🔥◎
連戦による疲労等があっても退くつもりは無い
むしろ倒すべき敵の方から出て来てくれたのだから都合が良い
燃やせるものなら燃やしてみろ
敵の力は十分警戒、こちらも真の姿による強化で対抗(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように変化、瞳は夜の獣のように鋭く光る)
建物には接近せず遮蔽にも使わず、自分の姿を常に曝して行動する事で狙いを自身へ絞らせる
対人随伴型自編律ビーム兵器「ムーンフェイス」も起動
二十四枚のカード型ドローンを全て放ち、一斉に攻撃を仕掛けて敵の注意を更に引き付けたい
エネルギーチャージを行う素振りを見せたら上へ跳躍
ムーンフェイスを階段状に空中に配置し、これを登って敵の頭上へ駆け上がる
ムーンフェイスの大きさは大人の掌二つを並べた程、足場にするには十分だ
敵の頭まで上がれたなら、チャージ中の口の中へユーベルコードによる攻撃を叩き込む
敵の攻撃も容易に届く間合いではあるが構わず攻撃に集中
空中に居る今なら攻撃されても周囲に被害は及ばないからな
ダメージを与えると同時に、エネルギーチャージの中断を期待
●焔の呼気へ
ふーっと長く吐き出した息が白く棚引く。
「――都合がいい、ってことか」
雪国たるこの地での戦闘は想像以上に冷えも襲い来る。問題は無いが、微妙な体の強張りに首を回し適度に解す。
「(相変わらず冷える……が、さっきので多少温まったってとこか)」
既にフェンリルとの戦闘に入っている猟兵達を見上げながら、遠目に見た最初より炎の弱まりを、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)感じていた。
ソードヴォルフ残党狩りも終え、残るは燃える巨体のみ。
息を吐く。
『オォォオオオオ――……ン!!!』
絶叫にも似た遠吠えに滲む怒りを感じて、シキから零れたのは乾いた笑い。
くつくつ喉を鳴らし、笑うほど可笑しな方向へ向きそうな可笑しさをもう一度深く息を吐きやり過ごしながら、吸った冷たい空気で心を整える。
「ハ―――……燃やせるもんなら燃やしてみろ。まだ、」
“俺は――”そう言い掛け言葉飲みこみシキは地を蹴った。
走りながら|対人随伴型自編律ビーム兵器《ムーンフェイス》を起動させる傍ら、シキは再び自身を紐解き淡い月光の輝きを纏う。
今、咆哮は上げない。
ただ思考しながら走り、陽の当たる道を選び続ける。
ぎらぎらさせた瞳には夜の獣の如き警戒と鮮烈さを宿しながら。
『アォォオオオオオオ―――ン!!』
「(! 気付いたか)」
シキという新手に気付いたフェンリルが咆哮した意味をすぐ察した。
ただただ言いようのない恨みと怒りに塗れた理不尽で場違いな咆哮など、聞くに堪えず寧ろ不快、……いや、いっそ憐れみさえ感じかねず、頭振ったシキがフェンリルを睨み上げながら、背で展開した24のカード型ドローンを放つ。
「あんたの――」
口腔に焔湛えチャージ姿勢のフェンリル眼前、他の猟兵に注意を払いながら居並んだムーンフェイスが、輝く。
「勝手な思いなんて、許すわけないだろうが!」
『ッ、が、グォアッ……――ヴヴァァァァアア!!』
フェンリルの口腔より吼え放たれた炎熱を、シキの言葉に呼応するように間髪入れず束ねたレーザーが撃ち留める!
幸い気を惹けたお陰で街へ向かなかったその炎熱の余波は他へ滲まない。
ただ炸裂した炎熱を浴びたフェンリルの顎がガクリと外れ、次の攻撃への間が生まれたのも数分。
下を向き、うな垂れたようにも見えた巨獣はただ|シキを睨みつける為に下を向いただけ《・・・・・・・・・・・・・・・・・》……!
眼が、かち合う。
「……っ、」
それだけで感じる凄まじい圧は、強者として|この世界《シルバーレイン》に世界結界修復前から存在した巨獣のそれだった。
唸りに怖気が奔るのは猟兵と言えども生命ゆえか。シキが視線逸らさずいられるのは、それこそ意地のようなものだったかもしれない。
逸らさず居たシキから先に視線外したフェンリルが空仰ぎ嵌め直した顎で呼吸して、
『――アオォォオオオオオオーーン!!』
「っ、の……!」
下がれとフェンリルが叫ぶその圧に、誰もが吹き飛ばされた。塀へ叩きつけられ背の痛みに呻きながら立ち上がったシキには、咆哮の意味が分かる。
「っれが……誰が下がるか!」
もうフェンリルの燈火はそう長くはない。だからより苛烈に命を燃やす。
爛々と燃えるその瞳に、おかしなほど嘘が無いからこそシキには分かってしまう。
「あんたにこの街を壊させねぇために来たんだよ……下がる訳がねえ!」
今生きる人々は今日の続きの明を待っていたはずだった。だが、こうして“当たり前”の毎日が崩されて平気な訳が無い。
平穏を――……“おかえり”と言ってくれる場所を、人を得たからこそ、シキはより強く思う。巨獣の足元で踏み潰された家屋だったもの、もう避難させたと言えど住んでいた人々が突如奪われた安寧を取り戻さなければならないと、強く。
意志に呼応し空中階段の如く空への招くドローンの階を、シキはテンポよく駆け上がる。
『オ――オォォォォオオオ……!』
「来るか……!」
突貫、ではなく再びの炎熱。
阻止戦と水弾、阻害のための爆弾風車、鋭い一蹴や剣閃、全て跳ね除けた巨獣がシキを見た。
「――っ、させるかよ!」
『ゴァァァアアアアアアアア!!!!』
撃つと、獣が言ったから。
その弾倉に籠めたのは人狼が生まれ持つ絶対零度の片鱗。
UC―フルバースト・ショット―!!
弾ける薬莢が雨のように落ちる。狙いすました正確さにムーンフェイスのビーム砲もダメ押しで捻じ込めば――光が、爆ぜた。
「やばい――!」
咄嗟に空中へ身を投げたシキは爆風に背を押されるも追い来たドローンにぶら下がり巨獣を伺う。
凄まじいまでの爆発に襲われたフェンリルの頭部はう、燃えるような目だけを残し揺らいでいた。
『ガ、ゴ――ぎ……ァ、ァァァアアアアアアア!!!!』
幾ら吠えようとも、もう巨獣の体すら失いつつある。
チリヂリになったその身はフェンリルへ戻ること無く、空へと溶ければ世界結界に食われ二度と戻ることはない。
終焉はもうそこまで来ている。
大成功
🔵🔵🔵
唐桃・リコ
◎アドリブ大歓迎
何もかも全部食っちまえば良いだろ
腹減ってんだよ
あぁ、何処見てんだコイツ
オレを見ろよ
脳天からナイフで切りつけて気を引く
なあ似たもん同士だなあ!
燃えてみろよ
お前の炎を見せてみろよ
お前の炎ごと食ってやる
食ってオレの火種にしてやる
【Devour】!
さあオレの中のコイツと勝負してくれよ
吠えたてろ、ぶちかませ!
はは、ははは!
なあ、楽しいよな!
周りのこと何にも考えないで、オレだけを見てろよ!!
オレには炎が必要なんだ
アイツのために全部燃やし尽くす力が欲しい
だからテメエなんかに負けてるわけには行かねえんだよ
どれだけ血が流れても、
牙を向けないわけにいかねえ
オレはオレを賭けてやる
だから黙って食われろ、クソ狼!!
……今日の飯、何だろうな
●焔呑の杯
揺らぐ焔火を、唐桃・リコ(Code:Apricot・f29570)は笑った。
「――――、―――――――だろ?」
必死に猟兵達へ抗いはじめたフェンリルの耳にはリコの言葉が届かない。
ああ、あの時聞いていればよかったのに。
「――あぁ、腹減った」
囁きを吐息の如く溢しリコは開かれた上空より――獣の脳天に着地の勢い殺さず|爪牙《ナイフ》を立てる。
「ォォオォオオオオオオァァァア!!!」
天を劈く巨獣の絶叫に街が震えた。
「何処見てんだよ。オレを見ろよ――なぁ!」
『ッガアァァァァァアア!!!!』
吼えて暴れようとも、その歩みを止める他の猟兵がいる限りその地団太は許されない。
何も上手くいかず唸るばかりの巨獣を見降ろしリコは至極楽し気にナイフを回して抉り抜くと同時、頭を振られて跳ね除けられる。
「なあ、似たもん同士だなあ!」
瞳輝かせリコが楽し気にしていたのはそこまで。
瞳の耀きはフェンリルの全貌を捉えた時、色を変えた。もう丁度良く|熟れている《弱っている》たのだから――!
わらう。
世界を焼く災厄と詠われた巨獣が今、リコを含めたった8人で討たれようとしていると同時に――リコの皿に乗ろうとしていた。
「燃えてみろよ」
煌々と。
「お前の炎を見せてみろよ」
爛々と。
『グルァァァアアアァアアアアアア!!!』
「そうだ、それでいい――……オレがお前の炎ごと食ってやる」
弱者は強者の糧となる。
ずうっと強者と詠われた|あれ《フェンリル》はどんな味がするのだろうか?どれ程の糧になると言うのか。
もし。
もしも。
“あの焔を食えた俺はどうなるんだ――?”
想像しただけでリコの背に震えが奔った。
言い得ぬ衝動と焔を喰らいたいという焦燥感。
「食って俺の火種にしてやる――Devour!」
食おう。
「さあ、オレの中のコイツと勝負してくれよ――|フェンリル《ご馳走》!!」
『グォォオオオオオオ!!!』
吼えた!ああ吠えている!狼が!!
わらったリコが空へ踏み出し軽やかに空高くを舞う。
見下ろしたフェンリルと視線がぶつかろうが関係ない。わらってやる。目の前に無防備な飯があることを!
振り上げた刃を叩き下ろせばそれまで立っていたふぇんりるが揺らぎぐずりと崩れそうになる。
更にのその身を足場にリコは再び双良枝舞い躍ると陽光にぎらつかせたのはその爪牙。
詰めていた息を吐けば、白い吐息は息吹のよう。それを突っ切り、振り下ろす。
「オレに寄越せ!!」
削るように、貪るように、嬲るように彩の焔を裂き断てばフェンリルが再び絶叫し街を震わせリコたちを吹き飛ばす。
『ァァァアアアアアア!!!』
「っ……!」
未だ健在の膂力は身の丈に合った代物で、何とか受けたリコの腕が裂け血が落ちた。
ぶわりと周囲に立つ血臭に他の猟兵達も余波に痛めつけられていることを知りながらリコは獣染みた瞳を輝かせ翔ける。
飛ぶように、跳ねるように――翼無くとも鳥が如く。
『オァァァアアア――!!』
「はは……っははははは!なあ!なあ楽しいよな!?来いよ――オレだけを見てろよ!!」
『オォォアァァァオアォオオオオ!!!』
狂ったような叫び木霊しリコは急降下で最初にナイフ刺した頭部へ思い切り拳を叩き込み爪を立て――……フェンリルを。フェンリルの目を、見た。
至近距離から、見てしまった。
咄嗟にハッとしたリコが勘で自身の左腕を押さえ込むも、遅い。突如襲い来た不可視の違和感が肉を弾けさせた。
「――っ!!ぎ……あ、ぐ、ぅっ~~~っぁぁぁあああ!!!」
激痛。
絶叫。
頭を振り痛みに身悶えるリコを投げ捨て、いぬがわらう。
叩きつけられたその痛みを、リコは知っている。
投げ捨てられる辛さを、恐怖を、不快感を 知っている。
だからもう二度と“アイツ”にそんな気持ちを抱かせないように。
“アイツ”が恐怖に塗れないように。“アイツ”が守れるように。“アイツ”が――……アイツのために、全部燃やし尽くす力が欲しい。
「っ、ごほっ!っそ……!ふざけんじゃ、ねぇ!!」
吼えろ。
約束をしただろう。
ちゃんと二人で結んだあの日、あの指、あの瞬間――こんなところで止まってはいられない。
こんな程度に負けて良いはずが無い。痛めつけられていいわけがない。
左薬指のその金環の耀きが、狂いそうなリコを握っていた。
「……――だから」
息を吐く。
「オレは、」
一歩進む。
「テメエなんかに負けてるわけには行かねえんだよ!!!」
踏みしめたコンクリートに放射状の亀裂。
今は構っていられない。ただ空を蹴り走り飛んで――焔を見下ろした。見下ろせて、ひゅう――と流れた冷たい風がリコを撫でる。
震える左腕が痛い。だが、手を握って開いてまだ使えるから、大丈夫。
「(何で俺が眼を逸らさなきゃならねぇ)」
“あんな程度に”
ふつふつ沸いたそれは怒りか悔しさか、再びリコを見据えた巨獣をリコは見た。淡々とした瞳揺らがず真っ直ぐに。
「テメェはやっぱ煩い狼だよな――……だからとっとと俺の腹に収まってろ、クロ狼!!!」
『ゴァァァアアアア―――ア、ぉあ』
ぼうっと最後に残った小さな埋火を軽く拾い上げたリコがするりと吞む。
独特の色味をした、まるで人魂のような、種火のようなそれ。
「まっず。あー……今日の飯、何だろうな」
残る筈も無い頸は無く、あったのは巨獣が四つ足付いたせいで潰れた四つの建物だったものだけ。
遠く、遠吠えが聞こえた。
大成功
🔵🔵🔵